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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122123
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】防振支持装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/084 20060101AFI20240902BHJP
   F16F 13/12 20060101ALI20240902BHJP
   F16F 13/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
F16F9/084
F16F13/12
F16F13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029487
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 崇博
(72)【発明者】
【氏名】葛川 光雄
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宇朗
(72)【発明者】
【氏名】宮本 修吏
【テーマコード(参考)】
3J047
3J069
【Fターム(参考)】
3J047CA17
3J047CB05
3J047FA01
3J047GA01
3J069AA24
3J069AA28
3J069AA34
(57)【要約】
【課題】空気バネ及び減衰機構の調整範囲を大きく確保することができるとともに、生産性を向上することができる防振支持装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】防振支持装置(1)は、減衰機構(4)が、液室(32)及び挿通孔(22a)を有するケーシング(22)と、ケーシング(22)内に収容されるスタッド(24)と、ケーシング(22)の内周面(22c)に固定されるとともにスタッド(24)が挿通されるブッシュ(26)と、ケーシング(22)内において減衰液(F)に浸され、ケーシング(22)の内周面(22c)との間に環状のオリフィス(30a)を形成する減衰板(30)と、ケーシング(22)の開口(22d)を閉塞する閉塞部材(12)とを備え、空気バネ(6)が、スタッド(24)の一端が固定される支持部材(10)と、ケーシング(22)の外周面(22f)との間の空間に空気を充填した空気室(44)を形成するベローズ(8)とを備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被防振体とベース部との間に設置され、減衰機構と空気バネとを備えた防振支持装置であって、
前記減衰機構は、
減衰液が封入された液室を形成し、筒高方向の一端に挿通孔を有する筒状のケーシングと、
前記ケーシング内に収容され、軸方向の一端が前記挿通孔から突出するスタッドと、
前記ケーシングの内周面に固定されるとともに、前記スタッドが挿通され、前記スタッドを前記軸方向に移動自在に支持する弾性体からなるブッシュと、
前記スタッドの前記軸方向の他端側に固定され、前記ケーシング内において前記減衰液に浸され、前記ケーシングの内周面との間に環状のオリフィスを形成する減衰板と、
前記ケーシングの前記筒高方向の他端に形成された開口を閉塞する閉塞部材と
を備え、
前記空気バネは、
前記スタッドの前記一端が固定される支持部材と、
一端が前記支持部材に気密に固定されるとともに、他端が前記ケーシングの外周面に気密に固定され、前記ケーシングの前記外周面との間の空間に空気を充填した空気室を形成するベローズと
を備える、防振支持装置。
【請求項2】
前記ケーシングの前記内周面は、前記筒高方向においてテーパ状をなしている、請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項3】
前記ケーシングの前記内周面は、前記筒高方向の前記挿通孔に向けて縮径されたテーパ状をなしている、請求項2に記載の防振支持装置。
【請求項4】
前記閉塞部材は、前記ケーシングの内方に向けて膨出する弾性膜を有し、
前記弾性膜は、前記閉塞部材との間の空間に、前記液室の圧力に応じて湾曲変形することにより前記液室の圧力を調整する液圧調整室を形成する、請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項5】
前記ベローズは、
その前記一端及び前記他端において、前記支持部材及び前記ケーシングの前記外周面にそれぞれ取り付けられる環状の固定端部と、
前記各固定端部からそれぞれ拡径して形成される環状の接続部と、
前記各接続部の間に形成される環状の胴部と
を有し、
前記胴部は、前記各接続部よりも肉厚が大きい、請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項6】
前記減衰機構は、前記ケーシングの前記内周面に装着されるとともに前記減衰板の外周縁との間に前記オリフィスを存して離間するアダプタを備える、請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項7】
前記減衰板は、多角形又は非真円の平面形状を有し、
前記アダプタの内周面は、径方向断面が前記減衰板の前記平面形状の相似形状をなす、請求項6に記載の防振支持装置。
【請求項8】
前記ケーシングの前記内周面には、前記軸方向に沿うとともに前記ケーシングの内方に延設される板状の減衰片が取り付けられ、
前記減衰板は、前記軸方向に沿うとともに前記減衰片と対向する縦減衰板を有する、請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項9】
前記減衰板は、第1減衰板と、前記第1減衰板よりも小径に形成された第2減衰板と、前記第1減衰板及び前記第2減衰板の間に挟持されるスプリングとからなり、
前記第1減衰板及び前記第2減衰板のいずれか一方は、前記スタッドに固定され、前記第1減衰板及び前記第2減衰板のいずれか他方は、前記スプリングを介し前記スタッドに対して軸方向に移動自在に保持される、請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項10】
前記第2減衰板は、前記スタッドに固定され、
前記第1減衰板は、前記第2減衰板よりも前記閉塞部材側に配置される、請求項9に記載の防振支持装置。
【請求項11】
請求項1に記載の防振支持装置の製造方法であって、
前記ケーシングの前記開口から前記ブッシュを挿入し、前記ケーシングの前記内周面に前記ブッシュを固定するブッシュ固定工程と、
前記減衰板を固定した前記スタッドを前記ケーシングの前記開口から挿入し、前記ブッシュに前記スタッドの前記一端側を挿通して前記挿通孔から突出させるスタッド挿通工程と、
前記ケーシング内に前記減衰液を充填する液充填工程と、
前記ケーシングの前記開口を前記閉塞部材で閉塞し、前記減衰液が封入された前記液室を形成する液室形成工程と、
前記ベローズの前記一端及び前記支持部材を前記スタッドの前記一端に固定する一端側固定工程と、
前記ベローズの前記他端を前記ケーシングの前記外周面に固定することにより前記空気室を形成する空気室形成工程と、
前記空気室に前記空気を充填する空気充填工程と
を含む、防振支持装置の製造方法。
【請求項12】
前記ケーシングは、前記ブッシュを固定する側の端部に、前記ブッシュが当接する端壁部を有し、
前記ブッシュ固定工程では、前記ケーシングの前記開口から前記ブッシュを挿入し、前記ケーシングの前記内周面に前記ブッシュを固定するととともに、前記端壁部に前記ブッシュを当接させる、請求項11に記載の防振支持装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被防振部材とベース部材との間に設置され、被防振部材の荷重を支持するとともに部材間の振動伝達を防止する防振支持装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーショベル、ブルドーザーなどの建設機械やトラクターなどの乗用農業機械といった産業用機械のオペレータ用シート(座席)に組み込まれる防振支持装置が知られている。この種の防振支持装置は、産業用機械の走行時や作業時に車体側に生じる振動がシートへ伝達することを防止し、作業に従事するオペレータの乗り心地を改善して疲労を軽減しようとするものである。当該防振支持装置は、オペレータ用シートに直接組み込めることから、特に小型の建設機械や農作業用機械に適している。
【0003】
特許文献1には、ベースフレームと、ベースフレームの上方に配置された座部フレームと、座部フレームをベースフレームに対して昇降可能に連結するXリンクと、座部フレームを弾性的に支持するエアスプリングと、座席フレームの中立高さを調整する高さ調整機構とを備えた車両用座席のエアサスペンション装置が開示されている。この車両用座席のエアサスペンション装置は、ベースフレームと座部フレームとを連結するXリンクに設けられたエアスプリングが、Xリンクを介して座部フレームを弾性的に支持するとともに、エアスプリングへの圧縮エアの導入及び排気を行うことにより座席フレームの中立高さを調整する。
【0004】
特許文献2には、一端が閉塞された筒状のケース(ケーシング)と、ケース内に配置されるスタッドと、ケース内に収容される減衰液と、スタッドに固定され減衰液に浸される減衰部材とを備えた防振支持装置が開示されている。この防振支持装置は、ケースに装着されてスタッドを軸方向に移動自在に支持するとともにスタッドのケースに対する横方向の相対変位を抑制する弾性体と、一端がスタッドに直接または他の部材を介して支持されるとともに他端がケースに支持される空気バネとを有する。
【0005】
上記防振支持装置は、部材間(被防振体とベース部との間)に設置され、振動の減衰に適する減衰機構と、この減衰機構の上部にセットされ、振動の吸収に適する空気バネ及び横方向の相対変位を抑制する弾性体とを備える。空気バネは、部材間の振動伝達を防止するとともに部材間の荷重を支持する。また、上記防振支持装置を建設機械のキャブ(運転室)と車体との間に取り付け、空気バネの空気室の圧力を調整することにより、キャブの高さ調整が可能となるとともに、空気バネのバネ力の設定を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-1573号公報
【特許文献2】国際公開第2006/46306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の車両用座席のエアサスクッション装置は、ベースフレームから車両用座席に入力される振動がXリンクのスライド変位に変換され、Xリンクに接続されたエアスプリングにより吸収される。従って、エアスプリングにより上下方向の振動は吸収できるが、振動減衰機構を持たないため吸収した振動が減衰せず、振動収束に時間がかかり乗り心地が悪い。また、振動がXリンクのスライド変位に変換されるため、建設機械のように粉塵や雨水の侵入が懸念される環境下で使用する場合、粉塵や雨などからXリンクのスライド機構を保護するためXリンク全体を覆うダストカバーが必要となる。
【0008】
特許文献2の防振支持装置は、空気バネと減衰機構とが上下に分割して配置されている。従って、キャブ等の比較的重量物の防振支持に適するが、空気バネの空気容量が少なく、高さ調整範囲が小さくなり、また、スタッドに付与される荷重に応じた減衰性能の調整範囲が小さい。また、装置の組み立てが複雑となり、生産コストが増大する。
【0009】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたもので、空気バネ及び減衰機構の調整範囲を大きく確保することができるとともに、生産性を向上することができる、防振支持装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するべく、本発明の防振支持装置は、被防振体とベース部との間に設置され、減衰機構と空気バネとを備えた防振支持装置であって、減衰機構は、減衰液が封入された液室を形成し、筒高方向の一端に挿通孔を有する筒状のケーシングと、ケーシング内に収容され、軸方向の一端が挿通孔から突出するスタッドと、ケーシングの内周面に固定されるとともに、スタッドが挿通され、スタッドを軸方向に移動自在に支持する弾性体からなるブッシュと、スタッドの軸方向の他端側に固定され、ケーシング内において減衰液に浸され、ケーシングの内周面との間に環状のオリフィスを形成する減衰板と、ケーシングの筒高方向の他端に形成された開口を閉塞する閉塞部材とを備え、空気バネは、スタッドの一端が固定される支持部材と、一端が支持部材に気密に固定されるとともに、他端がケーシングの外周面に気密に固定され、ケーシングの外周面との間の空間に空気を充填した空気室を形成するベローズとを備える。
【0011】
また、本発明の防振支持装置の製造方法は、ケーシングの開口からブッシュを挿入し、ケーシングの内周面にブッシュを固定するブッシュ固定工程と、減衰板を固定したスタッドをケーシングの開口から挿入し、ブッシュにスタッドの一端側を挿通して挿通孔から突出させるスタッド挿通工程と、ケーシング内に減衰液を充填する液充填工程と、ケーシングの開口を閉塞部材で閉塞し、減衰液が封入された液室を形成する液室形成工程と、ベローズの一端及び支持部材をスタッドの一端に固定する一端側固定工程と、ベローズの他端を支持部材とケーシングの外周面に固定することにより空気室を形成する空気室形成工程と、空気室に空気を充填する空気充填工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
従って、本発明の防振支持装置及びその製造方法によれば、空気バネ及び減衰機構の調整範囲を大きく確保することができるとともに、生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】防振支持装置をシートに組付けた状態を斜め下方から見た斜視図である。
図2】第1実施形態に係る防振支持装置の側面図である。
図3図2の防振支持装置の上面図である。
図4図2の防振支持装置の下面図である。
図5図2の防振支持装置の縦断面図である。
図6図2の防振支持装置の組み立て手順を示すフローチャートである。
図7】第2実施形態に係る防振支持装置の縦断面図である。
図8】第3実施形態に係る防振支持装置の側面図である。
図9図8の防振支持装置の縦断面図である。
図10】第4実施形態に係る防振支持装置の縦断面図である。
図11図10のスタッド、減衰板、及びアダプタの分解斜視図である。
図12】第5実施形態に係る防振支持装置の縦断面図である。
図13図12の減衰板の斜視図である。
図14図13とは別形態となる減衰板の斜視図である。
図15図13及び図14とは別形態となる減衰板の斜視図である。
図16】第6実施形態に係る防振支持装置の縦断面図である。
図17図16において静止状態、すなわち振動入力がないときの減衰板の縦断面図である。
図18図16においてスタッドが高周波微振動を受けたときの減衰板の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態に係る防振支持装置及びその製造方法について図面を参照して説明する。図1は、防振支持装置(以下、単に装置ともいう)1をシート2に組付けた状態を斜め下方から見た斜視図を示す。装置1は、全体として略円柱状をなしている。シート2は、例えば建設機械の運転台に設置され、シート2の座面2aと対向するシート2の下面2bに設けられたフレーム2cに、装置1の上部がボルトなどで固定される。装置1の下部は、運転台の図示しないフロアにボルトなどで固定される。すなわち、装置1は、被防振体としてのシート2と、装置1が設置されるベース部としてのフロアとの間に設置される。なお、後述する実施形態の説明において、上方とは、装置1に対してシート2側を指し、下方とは、装置1に対してベース部(フロア)側を指す。
【0015】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態に係る装置1の側面図、図3は、図2の装置1の上面図、図4は、図2の装置1の下面図をそれぞれ示す。装置1は、減衰機構4と空気バネ6とを備え、装置1の側面は空気バネ6を構成するベローズ8で覆われている。装置1の上下は、空気バネ6を構成する上側支持部材(支持部材)10と、減衰機構4を構成する下側閉塞部材(閉塞部材)12とでそれぞれ覆われている。
【0016】
ベローズ8は、ゴムなどの弾性体からなる筒状の弾性膜であり、上側支持部材10には、空気バネ6の後述する空気室44の圧力を調整するためのエアバルブ14が配置されている。また、上側支持部材10には、ベローズ8と減衰機構4を構成する後述のスタッド24とを上側支持部材10に固定するためのビス16が配置されている。また、上側支持部材10には、スタッド24にシート2をボルトで固定する際にボルトを挿通するためのボルト挿通孔17が形成されている。下側閉塞部材12は、減衰機構4を構成する後述のケーシング22のフランジ部22eにビス18で取り付けられる。また、下側閉塞部材12には、運転台のフロアに装置1をボルトで固定するためのボルト孔20が形成されている。
【0017】
図5は、図2の装置1の縦断面図を示す。装置1の減衰機構4は、ケーシング22、スタッド24、ブッシュ26、ベアリング28、減衰板30、及び下側閉塞部材12を備えている。ケーシング22は、筒状をなし、減衰液Fが封入された液室32を形成する。減衰液Fは、10000~100000mm/s(cSt)程度の高い粘性を有する液体が好ましく、また、液室32の容積に対して90%以上の充填率で封入することが好ましいが、入力される振動や被防振体の重量により適当な充填率で適当な粘度の減衰液Fが選択される。減衰液Fとしては、例えばシリコーンオイルが好ましい。また、ケーシング22は、筒高方向(各図において上下方向)の上端に挿通孔22aを有する。
【0018】
挿通孔22aは、ケーシング22の上側端壁部(端壁部)22bに形成される。ケーシング22の内周面22cは、筒高方向の挿通孔22aに向けて、すなわち上方に向けて縮径されたテーパ状をなしている。スタッド24は、上側支持部材10を介してシート2からの荷重を受ける円柱状の部材であり、ケーシング22内に収容され、軸方向の上端(一端)が挿通孔22aから突出して配置される。スタッド24の上部には、スタッド24にシート2をボルトで固定する際にボルトが螺合されるボルト孔25が形成されている。
【0019】
ブッシュ26は、ゴムなどからなる筒状の弾性体26aと金属製の内筒部材26b及び外筒部材26cとで構成されており、この外筒部材26cがケーシング22の内周面22cに嵌合され、内筒部材26bがその内周面に装着されたベアリング28を介して挿通されたスタッド24をブッシュ26に対して摺動自在に支持する。内筒部材26bの上部には、スタッド24の外周面の摺動を許容するとともに、この外周面を液密にシールする環状の摺動シール34が装着される。ブッシュ26はスタッド24を軸方向に移動自在に支持するとともに、スタッド24の軸直角方向(スタッド24の軸線における直角方向)及びこじり方向(スタッド24の軸線に対する倒れ方向)の変位を弾性的に支持する。
【0020】
また、ブッシュ26は、ケーシング22への組付け前状態において、ブッシュ26の外筒部材26cの外径がケーシング22の内周面22cの内径よりも若干大きく形成されている。また、ブッシュ26は、上方に向けて縮径されたテーパ状をなしているケーシング22の内周面22cの上端部位に強固に嵌合固定されている。なお、ケーシング22の内周面22cをテーパ状とせず、当該内周面22cとブッシュ26の外筒部材26cとの篏合による締結を利用しない場合、内周面22cに係止部を形成したり、別途係止部材を下方より差し込んでブッシュ26を位置決めし固定しても良い。
【0021】
また、ブッシュ26は、予め外筒部材26cを絞り加工して縮径することにより筒状の弾性体26aに予圧縮を付与することができる。しかし、これに限らず、外筒部材26cの絞り加工を採用せずに、軸方向に分割された外筒部材26cを用いて外筒部材26cの外径を変化可能にし、ケーシング22への組付け時に内周面22cの縮径によりブッシュ26の外径が絞り込まれて筒状の弾性体26aに予圧縮が付与されるようにしても良い。
【0022】
減衰板30は、スタッド24の軸方向の下端側(他端側)にボルト31で固定され、ケーシング22内において減衰液Fに浸される。減衰板30の外周縁とケーシング22の内周面22cとの間には、環状の隙間であるオリフィス30aが減衰液Fの狭小流路として形成される。シート2の動き、すなわち、シート2に固定されるスタッド24の動きに追従して減衰板30が液室32において上下して減衰液Fを撹拌し、この際にオリフィス30aにおいて減衰液Fの流動が規制されて流動抵抗を生じせしめる。
【0023】
減衰機構4は、上記の流動抵抗により主として低周波領域の大振幅振動を効果的に減衰することができ、シート2の座り心地を向上させる。なお、本説明において、スタッド24の動き或いは振動とは、被防振体であるシート2からの荷重入力による動き或いは振動のみならず、ベース部からの荷重入力によってケーシング22とスタッド24の間に生じる相対的な動き或いは振動も含む。
【0024】
下側閉塞部材12は、ケーシング22の筒高方向の下端(他端)に形成された開口22dを閉塞する。詳しくは、ケーシング22には、その筒高方向の下端を拡径することにより環状のフランジ部22eが形成され、下側閉塞部材12は、フランジ部22eに図4に示したビス18で固定される。また、下側閉塞部材12は、ケーシング22の内方に向けて膨出する弾性膜36を有する。
【0025】
弾性膜36は、ゴムなどの弾性体からなり、弾性膜36の外周縁を下側閉塞部材12とフランジ部22eとの間に気密に挟持し、空気を封入して下側閉塞部材12の上面に配置される。弾性膜36は、液室32の圧力に応じて湾曲変形することにより液室32の圧力を調整する液圧調整室38を形成する。
【0026】
空気バネ6は、上側支持部材10及びベローズ8を備える。図3に示す本実施形態においては、上側支持部材10は、ベローズ8の上端部と一体に加硫接着されることで、上側支持部材10とベローズ8の間の気密を確保する。さらにベローズ8の一部が上側支持部材10の下面に延出し、スタッド24の上端と上側支持部材10とで挟持され、ビス16で固定されることでスタッド24とベローズ8(上側支持部材10)との間の気密を確保している。
【0027】
上側支持部材10とベローズ8との気密に関して、加硫接着とせずに、別に用意した円環金具等で挟持して気密を確保しても良い。或いは、スタッド24と上側支持部材10との気密に関して、ベローズ8の一部を利用せずに、別に用意したパッキンを使用しても良い。なお、上側支持部材10の下面に弾性体からなるクッション部40をケーシング22の上側端壁部22bと当接可能に設けることで、過大変位時の衝撃的な当接を緩和している。
【0028】
ベローズ8は、固定端部8a、接続部8b、及び胴部8cを備える。固定端部8aは、環状をなし、ベローズ8の上端(一端)及び下端(他端)において、上側支持部材10及びケーシング22の外周面22fにそれぞれ取り付けられる。接続部8bは、環状をなし、各固定端部8aからそれぞれ拡径して形成される。胴部8cは、環状をなし、各接続部8bの間に形成される。本実施形態の場合、各固定端部8a、各接続部8b、及び胴部8cは、略同一の肉厚であり、胴部8cは円筒状をなしている。
【0029】
詳しくは、ベローズ8の上端に形成される固定端部8aは、加硫接着により上側支持部材10に気密に固定される。ベローズ8の下端に形成される固定端部8aは、ケーシング22の下端側の外周面22fにバンド状の取付金具42で固定される。ベローズ8の下端に形成される固定端部8aのケーシング22の外周面22fの固定部に篏合用溝を形成し、この篏合用溝にケーシング22の下端側の外周面22fを嵌め込んでケーシング22を固定しても良い。
【0030】
これにより、ベローズ8の内周面8dとケーシング22の外周面22fとの間の空間に空気室44が形成される。空気室44にエアバルブ14を介して空気を充填することにより空気バネ6が形成される。エアバルブ14を操作して空気室44の圧力を調整することにより、ベローズ8を上下方向に伸長又は縮短することができ、ひいては装置1の上下方向の長さを調整することができる。これにより、シート2の座面2aの高さが調整可能となる。
【0031】
また、ベローズ8の伸長又は縮短に伴い、スタッド24の上下方向の位置が調整可能となり、ひいてはケーシング22内における減衰板30の上下方向の位置が調整可能となる。ケーシング22の内周面22cを上方に向けて縮径するテーパ状に形成し、減衰板30の上下方向の相対位置を調整することで、内周面22cと減衰板30との間に形成される環状のオリフィス30aの幅を調整でき、これにより、装置1の減衰性能の調整が可能となる。従って、要求されるシート2の座り心地などに応じて、装置1の減衰性能を好適に調整することができる。
【0032】
以上のように、本実施形態の装置1は、空気バネ6の内部に減衰機構4を組み込んで構成され、空気バネ6と減衰機構4とが装置1の径方向において重複して配置される。これにより、大きな容量を有する空気バネ6と調整可能な減衰機構4とを備えながらコンパクトな防振支持装置1とすることができる。空気室44の容量が大きくベローズ8の変形量を大きくとれるため、シート2の座面2aの高さ調整を行う際の調整範囲を大きく確保することができる。
【0033】
また、ケーシング22内におけるスタッド24ひいては減衰板30の高さ位置を調整することでオリフィス30aの幅を適切に調整でき、スタッド24に付与される荷重に応じた減衰性能の調整範囲を大きく確保することができる。例えば、建設機械の平坦地における走行振動、荒地における走行振動、掘削など作業時の振動等、それぞれに適する振動吸収性、振動減衰性に応じて減衰板30の高さ位置を調整することができる。従って、種々のシート2、或いはシート2以外の種々の被防振体の振動吸収に装置1を適用することができる。
【0034】
特に、ケーシング22の内周面22cを上方に向けて縮径したテーパ状にすることにより、減衰板30とケーシング22の内周面22cとの間に形成されるオリフィス30aの幅を減衰板30の高さ位置に応じて連続的に変化させることができる。すなわち、減衰板30が下方へ変位するときには減衰性が小さくなり、減衰板30が上方に変位するときは減衰性が大きくなる。
【0035】
例えば、フロアに衝撃的な突き上げ荷重が入力されたとき、シート2の座面2a、ひいてはスタッド24及び減衰板30が下方に速い速度で大きく変位する。このとき、減衰板30の下方変位に伴ってオリフィス30aの幅が増大することにより、減衰板30に生じる減衰性が小さくなる。つまり、変位量に応じて減衰液Fの流動抵抗が緩和され、シート2に座するオペレータへの突き上げるような衝撃が抑制される。そして、減衰板30が下がり切り、上方へ変位するときは、減衰板30の変位量に応じて減衰性が大きく(減衰液Fの流動抵抗が大きく)なるため、入力された振動エネルギーを消散させて振動を収束させる。従って、装置1の減衰性能を従来に比して大幅に向上することができる。
【0036】
また、例えば、作業時にエンジン出力を得るためにエンジン回転数を高回転で維持することにより、高粘性である減衰液Fの流動が追い付かないほどの高周波微振動が入力されたとき、減衰板30の下方に備えた液圧調整室38の容量が変化して高周波微振動によるスタッド24及び減衰板30の変位を吸収するので、液圧調整室38は、装置1の動ばね定数の上昇を抑制する。従って、装置1は、低周波領域から高周波領域に亘る入力振動に対して安定した振動吸収及び減衰性能を実現することができる。
【0037】
また、装置1は、空気バネ6の内部に減衰機構4を組み込んで構成され、空気バネ6のベローズ8が、減衰機構4のスタッド24とブッシュ26のベアリング28との摺動部を覆うように配置される。これにより、ベローズ8は、スタッド24とベアリング28との摺動部に雨水や埃などのダストが入り込むことを防止し、ダストカバーとしても機能する。従って、ダストカバーを別途用意して組み付ける必要がないため、装置1の部品点数を削減することができ、装置1の製造コストを低減することができるとともに、装置1の軽量化を図ることができる。
【0038】
図6は、図2の装置1の組み立て手順のフローチャートを示す。装置1の組み立てが開始されると、先ず、ケーシング22の開口22dから別途用意したブッシュ26を挿入し、ブッシュ26の外周面(外筒部材)をケーシング22の内周面22cに固定する(S1:ブッシュ固定工程)。併せて、ブッシュ固定工程では、ケーシング22の上側端壁部22bの下面にブッシュ26の上端を当接させることが好ましい。
【0039】
次に、予めボルト31で減衰板30を固定したスタッド24をケーシング22の開口22dから挿入し、ブッシュ26の内筒部材28に装着したベアリング28の内周面にスタッド24の上端側を挿通して、ケーシング22に設けた挿通孔22aから突出させる(S2:スタッド挿通工程)。次に、ケーシング22内に減衰液Fを充填する(S3:液充填工程)。次に、ケーシング22の開口22dを下側閉塞部材12で閉塞し、減衰液Fが封入された液室32を形成する(S4:液室形成工程)。
【0040】
次に、ベローズ8の上側の固定端部8aが気密に固定された上側支持部材10をスタッド24の上端にビス16で固定する(S5:上側固定工程(一端側固定工程))。この際、ベローズ8の上側の固定端部8aから上側支持部材10の内面に沿って延出されたゴムなどの弾性材をスタッド24と上側支持部材10との間に挟み込み、スタッド24と上側支持部材10との間の気密性を確保することが好ましい。
【0041】
さらに、ベローズ8の下端、すなわち下側の固定端部8aを取付金具42でケーシング22の外周面22fに固定することにより空気室44を形成する(S6:空気室形成工程)。次に、空気室44にエアバルブ14から空気を充填して(S7:空気充填工程)、装置1の組み立てが終了する。製造された装置1は、被防振体であるシート2のフレーム2cとベース部である運転台のフロアとの間に設置されて固定される。
【0042】
以上のように、本実施形態の装置1の製造方法は、ケーシング22の開口22dからブッシュ26を挿入して固定し、減衰板30を有するスタッド24を挿入し、下側閉塞部材12及び上側支持部材10をそれぞれケーシング22、スタッド24に固定し、上側支持部材10とケーシング22の外周面22fとにベローズ8を固定する。これにより、容易且つ簡素化された手順で、軸直角方向及びこじり方向に対して弾性を有する減衰機構4を空気バネ6の内部に組み込むことができる。従って、装置1の生産性を向上することができる。
【0043】
特に、ケーシング22の内周面22cが上方に向けて縮径したテーパ状とすることにより、ブッシュ固定工程において、固定前のブッシュ26の外径を内周面22cにおける固定部位の内径よりも若干大径にしておくことで、内周面22cにブッシュ26固定用の係止部を形成する必要も、また、別途、ブッシュ26の位置決め用の位置決め部材を用意する必要もなく、ケーシング22の内周面22cにブッシュ26を嵌合によって確実に固定することができる。
【0044】
また、当該ブッシュ固定工程において、ブッシュ26の外筒部材26cを径方向において予め絞り加工して弾性体26aに予圧縮を付与すること、また、外筒部材26cとして、軸方向に分割し軸直角断面視で略円弧状の分割外筒部材を採用することで、ケーシング22にセットする際に、上方に向けて縮径したテーパ状の内周面22cの縮径に応じて予圧縮が付与されるものとしても良い。
【0045】
上記予圧縮により、いわゆるヘタリによるブッシュ26の防振性能の低下を抑制することができるため、減衰機構4ひいては装置1の耐久性を向上することができる。また、ブッシュ26をケーシング22の内周面22cに下方から挿入し固定すれば良いので、組み立てが容易であり、別途、ブッシュ固定用の部品を用意する必要が無い。また、ブッシュ26を固定するための部材が不要となるため、装置1の部品点数を削減することができる。従って、装置1の製造コストを低減することができるとともに、装置1の軽量化を図ることができる。
【0046】
また、ブッシュ固定工程において、ケーシング22の上側端壁部22bにブッシュ26を当接させることにより、ブッシュ26の位置決めが容易である。また、上側端壁部22bにブッシュ26の上端部の押し圧が付与されるため、液室32の減衰液Fの漏れを抑えることができる。この場合、上側端壁部22bの下面とブッシュ26の外筒部材側の上端部との間に図示せぬシール部材を挟持することがより好ましい。当該シール部材をブッシュ26の弾性体と一体に形成しても良い。
【0047】
また、液室形成工程において、ケーシング22の開口22dを閉塞する下側閉塞部材12の上面で、減衰板30の直下に大気圧の空気(組み立て時)を封入した液圧調整室38を形成することができる。液圧調整室38を減衰板30の直下に形成することで、スタッド24に振動が印加され減衰板30が高周波微振動するとき、減衰液Fを介して液圧調整室38が変形して変位吸収するので、スタッド24の振動が下側閉塞部材12に振動が伝播されない。従って、装置1の防振性能をさらに高めることができる。当該液圧調整室38には、必要に応じて圧縮空気を封入しても良い。
【0048】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態に係る装置1の縦断面図を示す。なお、以降の各実施形態の説明においては、主として第1実施形態と異なる構成を説明し、第1実施形態と同様の構成については説明を省略することがある。本実施形態の場合、ベローズ8の胴部8cは、ベローズ8の各接続部8bよりも肉厚が大きく形成されている。
【0049】
これにより、エアバルブ14から空気室44に空気を充填したとき、胴部8cの径方向における膨出が抑制され、主としてベローズ8の各接続部8bが伸長する。すなわち、胴部8cの膨出による圧力損失が抑えられ、空気室44の圧力に比例して、スタッド24ひいてはシート2の座面2aを昇降させることができる。従って、空気室44の圧力調整が容易となるとともに、空気バネ6をより一層効果的に作用させることができる。
【0050】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態に係る装置1の側面図を示し、図9は、図8の装置1の縦断面図を示す。本実施形態の場合、ベローズ8の胴部8cは蛇腹状に形成されている。胴部8cには、径方向の外方に突出した複数の、例えば2つの山部46が形成される。胴部8cの各山部46の間には谷部48が形成され、谷部48には金属製のリング50が嵌め込まれている。リング50は、空気室44の圧力が上昇した際に谷部48の径方向における膨出を抑制する。
【0051】
胴部8cを蛇腹状に形成したことにより、スタッド24の上下方向における伸長しろをさらに大きく確保することができる。従って、シート2の座面2aの高さ調整を行う際の調整範囲をさらに大きく確保することができる。また、ケーシング22内におけるスタッド24ひいては減衰板30の高さ位置をさらに広範囲に亘って調整可能となる。これにより、スタッド24に付与される荷重の変化に応じた減衰性能の調整範囲をさらに大きく確保することができる。
【0052】
<第4実施形態>
図10は、第4実施形態に係る装置1の縦断面図を示す。本実施形態の場合、減衰機構4は、筒状のアダプタ52を備え、アダプタ52は、ケーシング22の内周面22cに装着されるとともに減衰板30の外周縁との間にオリフィス30aを存して離間している。アダプタ52は、例えば、樹脂又はゴムなどから形成され、ケーシング22の内周面22cに嵌め込んで固定する。このアダプタ52は、減衰板30がスタッド24の過大変位により接触する場合を考慮して弾性を有することがより好ましい。
【0053】
また、アダプタ52は、減衰板30の可動範囲に亘る筒高方向の長さを有するのが好ましい。減衰機構4がアダプタ52を備えることにより、ケーシング22を変えなくとも、アダプタ52の減衰板30に対する相対位置を変更したり、アダプタ52そのものを変更したりすることで、オリフィス30aの幅を自由に調整可能となる。従って、スタッド24に付与される荷重の変化に応じた減衰性能の調整範囲をさらに大きく確保することができる。
【0054】
図11は、図10のスタッド24、減衰板30、及びアダプタ52の分解斜視図を示す。減衰板30は、多角形又は非真円の平面形状を有し、図11に示すように、例えば六角形の平面形状を有する。アダプタ52の内周面52aは、径方向断面が減衰板30の平面形状の相似形状をなし、図11の場合には例えば六角形をなす。これにより、ケーシング22内において、スタッド24の軸周方向における回動が減衰板30において規制される。従って、スタッド24が受けたねじり方向の回転変位をアダプタ52と減衰板30との当接にて規制することができる。
【0055】
<第5実施形態>
図12は、第5実施形態に係る装置1の縦断面図を示し、図13は、図12の減衰板30の斜視図を示す。本実施形態の場合、ケーシング22の内周面22cには、例えば2つの板状の減衰片54が取り付けられている。各減衰片54は、軸方向に沿うとともにケーシング22の内方に延設される。
【0056】
また、本実施形態の減衰板30は、軸方向に沿うとともに各減衰片54とそれぞれ対向する縦減衰板30bを有する。各縦減衰板30bは、減衰板30の外周縁と径方向において対向して位置付けられる。また、減衰板30には、その周方向に縦減衰板30bと隣接して減衰片54が挿通可能な切欠部30cが例えば2つ形成されている。本実施形態において、シート2にスタッド24の軸周方向に回転する荷重が加わった場合、スタッド24がその軸周方向に回動するのに伴い減衰板30が回動する。その際、減衰片54と縦減衰板30bとの間のクリアランスに存在する減衰液Fの流動抵抗により減衰板30の回動速度が抑制されるとともに、減衰板30の過大な回転変位が規制される。
【0057】
図14は、図13とは別形態となる減衰板30の斜視図を示し、当該減衰板30の縦減衰板30bは、ケーシング22の内周面22cに設けられた減衰片54に対して平行に設けられ、図13に示す減衰板30と同様に減衰片54が挿通可能な切欠部30cが縦減衰板30bと隣接して設けられている。本実施形態において、シート2にスタッド24の軸直角方向の荷重が加わった場合、スタッド24の変位に伴い減衰板30が軸直角方向に変位する。減衰板30の変位方向と対向するように減衰片54及び縦減衰板30bを配置することで、減衰片54と縦減衰板30bとの間のクリアランスに存在する減衰液Fの流動抵抗により、減衰板30の変位速度が抑制されるとともに、減衰板30の過大な変位が規制される。
【0058】
図15は、図13及び図14とは別形態となる減衰板30の斜視図を示し、当該減衰板30の縦減衰板30bは、図14に示す減衰板30において、縦減衰板30bが立設されていない切欠部30cの辺部に新たな縦減衰板30bを追加したものである。これにより、切欠き部30cの両辺の縦減衰板30bが切欠部30cに挿通される減衰片54を挟んで対向して配置されることになる。従って、減衰片54を挟み、減衰板30がどちら側へ変位した場合でも、減衰板30の変位速度が抑制されるとともに、減衰板30の過大な変位が規制される。
【0059】
図14又は図15に示す減衰板30を採用する本実施形態に関し、例えば、小型油圧ショベルのオペレータ用シートに本実施形態の防振支持装置1を採用する場合、ブーム及び運転台を備えた上部旋回部の旋回中心と運転台のシート位置とがオフセットして位置付けられることがある。上部旋回部の旋回停止時、シートには水平方向荷重が入力されるため、当該旋回方向と対向するように上記縦減衰板30b及び減衰片54が配置された防振支持装置1を組み付けることが好ましい。
【0060】
図13乃至図15に示す縦減衰板30bは、これらに限定されず、形状及び数、これに対応する切欠部30cの形状及び数は、想定される振動(変位)に合わせて種々の形態が想定され得る。例えば、縦減衰板30bを減衰板30の上下面に設けても良いし、1枚の縦減衰板30bを2枚の減衰片54で挟むようにして対向配置することもできる。さらに、縦減衰板30b及び対応する減衰片54を周方向に90°ずらして4組配置することもできる。
【0061】
<第6実施形態>
図16は、第6実施形態に係る装置1の縦断面図を示す。本実施形態の減衰板30は、第1減衰板56と、第1減衰板56よりも小径に形成された第2減衰板58と、第1減衰板56及び第2減衰板58の間に挟持されるスプリング60とから構成されている。本実施形態の場合、第2減衰板58はスタッド24に固定され、第1減衰板56はスプリング60を介しスタッド24に対して軸方向に移動自在に保持される。
【0062】
第1減衰板56は、第2減衰板58よりも下側閉塞部材12側、すなわち下方に配置され、ボルト31により第2減衰板58との間に挟持されたスプリング60に押圧付勢するようにスタッド24に係止されている。つまり、第1減衰板56は、第2減衰板58に対して、スプリング60に付勢された押圧付勢力を上回る上方圧力が付与されれば、上方に変位可能である。また、ケーシング22の内周面22cには、筒状のアダプタ52が装着されている。アダプタ52の内周面52aは、径方向断面が減衰板30の平面形状の相似形状、すなわち円形状であるとともに、上方に向けて縮径されたテーパ状をなしている。
【0063】
図17は、図16において静止状態、すなわち振動入力がないときの減衰板30の縦断面図を示す。図18は、図16においてスタッド24が高周波微振動を受けて、スタッド24に速い下方変位が生じたときの減衰板30の縦断面図を示す。
【0064】
詳細には、スタッド24の速い下方変位に伴って、第2減衰板58も下方へ変位する。このとき、第1減衰板56と下側閉塞部材12との間に存在する高粘度の減衰液Fの流動が追い付かず、第1減衰板56とその径方向で対向するケーシング22の内壁面(図16においては内周面52a)との間に形成されるオリフィス30aから上方に減衰液Fがほとんど排出できない場合、減衰液Fは、スプリング60のばね力に抗して第1減衰板56を押し上げることで、第1減衰板56と下方閉塞部材12との間の容積をほぼ維持した状態であっても、スタッド24及び第2減衰板58の下方への変位を許容する。これにより、減衰液Fの流動速度を超える高周波微振動が入力された場合であっても、スプリング60の許容変位以下であればスタッド24の変位を阻害せず振動を吸収することができる。従って、シート2に着座するオペレータが、所謂突き上げ感を感じることがない。
【0065】
他方、スタッド24に速い上方変位に伴って、第2減衰板58及び第1減衰板56の上方へ変位し、第2減衰板58及び第1減衰板56の上方に存在する減衰液Fがオリフィス30aから下方へほとんど排出できない場合、振動はブッシュ26の弾性体26aにより吸収可能であり、また、シート2に着座するオペレータも上方への荷重を受けて抜重状態にあるため、オペレータの不快感は緩和される。
【0066】
なお、上述の通り、減衰板30に入力される振動が速く、減衰液Fが第1減衰板56のオリフィス30aを流動しないときは、第1減衰板56による減衰は期待できない。しかし、第2減衰板58を第1減衰板56よりも小径に形成し、第1減衰板56の縁部に形成されるオリフィス30aの幅よりも第2減衰板58の縁部に形成されるオリフィス30aの幅を大きくすることにより、第2減衰板58に起因する流動抵抗(減衰性)を一定程度付与することができる。
【0067】
従って、本実施形態においては、減衰板30を1枚で構成したときよりも、適当な減衰性を付与することができる。例えば、速い高周波振動を吸収しながら、振動収束を早めることができる。つまり、本実施形態の減衰板30において、スタッド24に減衰液Fの流動が間に合わない程度の高周波微振動が入力された場合、第1減衰板56がスプリング60の付勢力に抗して変位することにより振動の伝播を抑制する一方、第2減衰板58が小減衰を生じせしめて振動の収束を迅速に行うことができるのである。
【0068】
また、本実施形態の場合には、第1及び第2減衰板56、58の径寸法やスプリング60のばね力を調整することにより、スタッド24に付与される荷重、振動の大きさ、速さに応じた減衰性能の調整範囲をさらに大きく確保することができる。なお、スタッド24に固定する第2減衰板58は、第1減衰板56よりも大径であっても良く、この場合、アダプタ52の内周面52aは、下方に向けて縮径されたテーパ状に形成するのが好ましい。
【0069】
また、アダプタ52の内周面52aは、テーパ状に限らず、第1及び第2減衰板56、58の径寸法に合わせた段形状であっても良い。また、アダプタ52を設けない形態としても良い。また、第1減衰板56をスタッド24に固定し、第2減衰板58をスプリング60を介しスタッド24に対して軸方向に移動自在に保持しても良い。
【0070】
以上で本発明の各実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。例えば、減衰板30は、スタッド24にボルト31で固定されるが、かしめなどの固定手段であっても良い。これにより、装置1の生産性をさらに向上可能である。
【0071】
また、ケーシング22の内周面22cは、挿通孔22aに向けて、すなわち上方に向けて縮径されたテーパ状に形成されるが、下側閉塞部材12に向けて、すなわち下方に向けて縮径されたテーパ状に形成しても良い。この場合であっても、減衰板30とケーシング22の内周面22cとの間に形成されるオリフィス30aの幅を減衰板30の高さ位置に応じて変化させることができる。従って、装置1の減衰性能を従来に比して向上可能である。
【0072】
また、本発明の装置1は、特に小型の建設機械や農作業用機械のシートに組み込むのに適しているが、戦闘用車両のシート等、走行時や作業時に相当の振動が入力されるシートにも適用することができる。また、車両のシートに限らず建設機械のキャブ等、種々の被防振体の防振に適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 防振支持装置
2 シート(被防振体)
4 減衰機構
6 空気バネ
8 ベローズ
8a 固定端部
8b 接続部
8c 胴部
10 上側支持部材(支持部材)
12 下側閉塞部材(閉塞部材)
22 ケーシング
22a 挿通孔
22b 上側端壁部(端壁部)
22c 内周面
22d 開口
22f 外周面
24 スタッド
26 ブッシュ
30 減衰板
30a オリフィス
30b 縦減衰板
32 液室
36 弾性膜
38 液圧調整室
44 空気室
52 アダプタ
52a 内周面
54 減衰片
56 第1減衰板
58 第2減衰板
60 スプリング
F 減衰液
S1 ブッシュ固定工程
S2 スタッド挿通工程
S3 液充填工程
S4 液室形成工程
S5 上側固定工程(一端側固定工程)
S6 空気室形成工程
S7 空気充填工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18