(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122124
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】熱疲労寿命予測装置、熱疲労寿命予測システム、熱疲労寿命予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 360A
F02D45/00 364A
F02D45/00 362
F02D45/00 372
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029489
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平澤 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】戸室 港
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 将司
(72)【発明者】
【氏名】長坂 昇平
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384DA44
3G384DA61
3G384DA62
3G384ED04
3G384ED08
3G384EE40
3G384FA28
3G384FA45
3G384FA48
3G384FA54
3G384FA57
(57)【要約】
【課題】熱疲労の度合いを正確に予測して、精度の高い寿命の予測を行う熱疲労寿命予測装置、熱疲労寿命予測システム、熱疲労寿命予測方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】熱疲労が生じる部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを取得する温度履歴データ取得部と、前記温度履歴データから前記熱疲労の蓄積に関与する温度サイクルを検出するサイクル検出部と、前記熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値を検出する熱疲労蓄積進行尺度検出部と、前記温度サイクルごとの最高温度と、最低温度とを用いて、前記温度サイクルごとの塑性ひずみ振幅値を検出する塑性ひずみ振幅検出部と、前記蓄積進行尺度検出部が検出する前記熱疲労蓄積進行尺度値と、前記塑性ひずみ振幅検出部が検出する前記塑性ひずみ振幅値とを用いて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報を算出する予測部と、を備える熱疲労寿命予測装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱疲労が生じる部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを取得する温度履歴データ取得部と、
前記温度履歴データから前記熱疲労の蓄積に関与する温度サイクルを検出するサイクル検出部と、
前記熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値を検出する熱疲労蓄積進行尺度検出部(稼働時間検出部15)と、
前記温度サイクルごとの最高温度と、最低温度とを用いて、前記温度サイクルごとの塑性ひずみ振幅値を検出する塑性ひずみ振幅検出部と、
前記蓄積進行尺度検出部が検出する前記熱疲労蓄積進行尺度値と、前記塑性ひずみ振幅検出部が検出する前記塑性ひずみ振幅値とを用いて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報を算出する予測部と、
を備える熱疲労寿命予測装置。
【請求項2】
前記温度履歴データ取得部は、
前記熱疲労が生じる部分を備える建設機械の稼働データを取得し、取得した稼働データから前記温度履歴データを生成して取得する、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項3】
前記温度履歴データ取得部は、
前記稼働データから前記建設機械が備える内燃機関の回転数及びトルクを取得し、取得した前記回転数及び前記トルクと、予め生成される前記回転数、前記トルク、及び前記熱疲労が生じる部分の温度の関係を示す温度履歴生成テーブルとを用いて、前記温度履歴データを生成して取得する、
請求項2に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項4】
前記温度履歴データ取得部は、
前記稼働データから前記内燃機関に関する温度を示すデータを取得し、取得した前記内燃機関に関する温度を示すデータに基づいてフィルタを生成し、生成した前記フィルタを前記温度履歴データに適用する、
請求項3に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項5】
前記内燃機関に関する温度を示すデータとは、前記内燃機関の排気ガス温度を示すデータ、及び、前記内燃機関の冷却水の水温を示すデータのいずれか一方、または、両方である、
請求項4に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項6】
前記温度履歴データ取得部は、
予め準備される教師データであって、ある測定時刻における前記建設機械が備える内燃機関の回転数、トルク、冷却水の水温、排気ガス温度、及び前記熱疲労が生じる部分の温度を訓練データとし、前記訓練データが示す条件が適用された場合の1測定時刻後の前記熱疲労が生じる部分の温度を正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより、温度履歴予測モデルを生成し、生成した前記温度履歴予測モデルに、取得する前記稼働データであって前記内燃機関の回転数、トルク、冷却水の水温、及び排気ガス温度を含む稼働データを時系列順に与えると共に、1測定時刻前の前記温度履歴予測モデルの出力値とを与えることにより、前記温度履歴データを生成して取得する、
請求項2に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項7】
前記温度履歴データ取得部は、
前記熱疲労が生じる部分の温度を示すデータを取得し、取得した前記熱疲労が生じる部分の温度を示すデータを時系列順に並べたデータを前記温度履歴データとする、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項8】
前記サイクル検出部は、
前記温度履歴データにP/V差法を適用して前記温度サイクルを検出する、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項9】
前記塑性ひずみ振幅検出部は、
前記温度サイクルごとの前記最高温度及び前記最低温度と、予め生成される前記最高温度と、前記最低温度と、前記塑性ひずみ振幅値との関係を示す塑性ひずみ振幅テーブルとを用いて、前記温度サイクルごとの前記塑性ひずみ振幅値を検出する、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項10】
前記塑性ひずみ振幅検出部は、
前記温度サイクルごとに、前記最高温度及び前記最低温度の各々における全ひずみ量と、前記最高温度における0.2%耐力時の弾性ひずみ量とを検出し、検出した前記最高温度及び前記最低温度の各々における全ひずみ量と、前記最高温度における0.2%耐力時の弾性ひずみ量とに基づいて、前記温度サイクルごとの前記塑性ひずみ振幅値を検出する、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項11】
前記塑性ひずみ振幅検出部は、
前記温度サイクルごとに、更に、前記最低温度における0.2%耐力時の弾性ひずみ量を検出し、検出した前記最高温度及び前記最低温度の各々における全ひずみ量と、前記最高温度及び前記最低温度の各々における0.2%耐力時の弾性ひずみ量とに基づいて、前記温度サイクルごとの前記塑性ひずみ振幅値を検出する、
請求項10に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項12】
前記熱疲労蓄積進行尺度検出部である稼働時間検出部は、
前記熱疲労蓄積進行尺度値として、前記温度履歴データ取得部が取得する前記温度履歴データから前記熱疲労が生じる部分の稼働時間を検出し、
前記予測部は、
前記稼働時間検出部が検出する前記稼働時間と、前記塑性ひずみ振幅検出部が検出する前記塑性ひずみ振幅値とに基づいて、前記熱疲労が生じる部分の単位時間当たりの熱被害量を算出し、算出した前記熱疲労が生じる部分の単位時間当たりの熱被害量と、予め定められる前記熱疲労が生じる部分が破損に至るまでの熱被害量とに基づいて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報として、残稼働時間を算出する、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項13】
前記予測部は、
算出した前記残稼働時間と、前記稼働時間検出部が検出する前記稼働時間とに基づいて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報として、残消耗度を算出する、
請求項12に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項14】
前記熱疲労蓄積進行尺度検出部であるサイクルカウント部は、
前記熱疲労蓄積進行尺度値として、前記サイクル検出部が検出する前記温度サイクルの個数を検出し、
前記予測部は、
前記サイクルカウント部が検出する前記温度サイクルの個数と、前記塑性ひずみ振幅検出部が検出する前記塑性ひずみ振幅値とに基づいて、前記熱疲労が生じる部分の1サイクル当たりの熱被害量を算出し、算出した前記熱疲労が生じる部分の1サイクル当たりの熱被害量と、予め定められる前記熱疲労が生じる部分が破損に至るまでの熱被害量とに基づいて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報として、残サイクル数を算出する、
請求項1に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項15】
前記予測部は、
算出した前記残サイクル数と、前記サイクルカウント部が検出する前記温度サイクルの個数とに基づいて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報として、残消耗度を算出する、
請求項14に記載の熱疲労寿命予測装置。
【請求項16】
熱疲労が生じる部分を有する建設機械と、熱疲労寿命予測装置とを備える熱疲労寿命予測システムであって、
前記熱疲労寿命予測装置は、
前記建設機械の稼働データから前記熱疲労が生じる部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを取得する温度履歴データ取得部と、
前記温度履歴データから前記熱疲労の蓄積に関与する温度サイクルを検出するサイクル検出部と、
前記熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値を検出する熱疲労蓄積進行尺度検出部と、
前記温度サイクルごとの最高温度と、最低温度とを用いて、前記温度サイクルごとの塑性ひずみ振幅値を検出する塑性ひずみ振幅検出部と、
前記蓄積進行尺度検出部が検出する前記熱疲労蓄積進行尺度値と、前記塑性ひずみ振幅検出部が検出する前記塑性ひずみ振幅値とを用いて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報を算出する予測部と、
を備える熱疲労寿命予測システム。
【請求項17】
熱疲労が生じる部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを取得する温度履歴データ取得ステップと、
前記温度履歴データから前記熱疲労の蓄積に関与する温度サイクルを検出するサイクル検出ステップと、
前記熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値を検出する熱疲労蓄積進行尺度検出ステップと、
前記温度サイクルごとの最高温度と、最低温度とを用いて、前記温度サイクルごとの塑性ひずみ振幅値を検出する塑性ひずみ振幅検出ステップと、
前記蓄積進行尺度検出ステップによって検出された前記熱疲労蓄積進行尺度値と、前記塑性ひずみ振幅検出ステップによって検出された前記塑性ひずみ振幅値とを用いて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報を算出する予測ステップと、
を含む熱疲労寿命予測方法。
【請求項18】
コンピュータを、
熱疲労が生じる部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを取得する温度履歴データ取得手段、
前記温度履歴データから前記熱疲労の蓄積に関与する温度サイクルを検出するサイクル検出手段、
前記熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値を検出する熱疲労蓄積進行尺度検出手段、
前記温度サイクルごとの最高温度と、最低温度とを用いて、前記温度サイクルごとの塑性ひずみ振幅値を検出する塑性ひずみ振幅検出手段、
前記蓄積進行尺度検出手段が検出する前記熱疲労蓄積進行尺度値と、前記塑性ひずみ振幅検出手段が検出する前記塑性ひずみ振幅値とを用いて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報を算出する予測手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱疲労寿命予測装置、熱疲労寿命予測システム、熱疲労寿命予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、EGR(Exhaust Gas Recirculation:排ガス循環)というシステムが採用されている。このシステムを採用する内燃機関では、例えば、
図18に示すように、エンジン本体100に、EGRクーラ101が装着される。EGRクーラ101は、エンジン本体100が排出する排気ガスの一部を取り込み、取り込んだ排気ガスを冷却して、エンジン本体100の吸気側に戻す。これにより、エンジン本体100における燃焼温度が低下して、例えば、NOxを低減することが可能になる。
【0003】
EGRクーラ101は、エンジン本体100の排気ガスの循環の役割を担っていることから、EGRクーラ101が故障すると、エンジン本体100や、後処理装置102に冷却水が侵入することになる。そのため、エンジン本体100、及びエンジン本体100が排出する排気ガスの後処理を行う後処理装置102において、被害が生じる恐れがある。
【0004】
図19は、EGRクーラ101を排気ガスが流れる方向に沿って断面した断面図の一例である。EGRクーラ101において、ケース110には、排気ガスが流入する排気ガス流入口301と、排気ガスが流出する排気ガス流出口302と、エンジン冷却水が流入する冷却水流入口311と、エンジン冷却水が流出する冷却水流出口312とが設けられている。
図20は、排気ガス流入口301からケース110の内部を観察した図である。ケース110の内部には、
図20に示す複数のチューブ200-1~200-9と、
図19に示すヘッダプレート111,112とが収容されている。ヘッダプレート111は、
図20に示す形態で、チューブ200-1~200-9の一方の端部に接合されており、ヘッダプレート112は、ヘッダプレート111と同様の形態で、チューブ200-1~200-9の他方の端部に接合されている。
【0005】
ヘッダプレート111,112と、チューブ200-1~200-9とは、溶接されている。そのため、ケース110の内部の空間は、ヘッダプレート111,112によって、空間400-1,400-2,400-3の3つの空間に仕切られる。エンジン冷却水が、冷却水流入口311から供給されることにより、ケース110の空間400-2に冷却水が蓄積され、蓄積された冷却水は、冷却水流出口312から排出される。
【0006】
図19では、一例として、チューブ200-1~200-9のうち、チューブ200-1の断面のみが示されている。チューブ200-1内の空間は、複数の薄板210-1-1~210-1-6によって仕切られている。複数の薄板210-1-1~210-1-6によって仕切られたチューブ200-1内の空間の各々において、排気ガスが破線の矢印で示す方向に通過する。なお、
図19に示す薄板210-1-1~210-1-6の枚数である7枚は、一例であり、7枚以外の枚数であってもよい。チューブ200-2~チューブ200-9の内部構成は、チューブ200-1と同一であり、チューブ200-1~200-9の個数の9個は、一例であり、9個以外の個数であってもよい。
【0007】
エンジン本体100から排出される高温の排気ガスが、EGRクーラ101の排気ガス流入口301から供給されると、排気ガスは、ケース110の空間400-1を経由してチューブ200-1~200-9内の空間を通過する。チューブ200-1~200-9内の空間を通過していく途中で、600℃程度の高温の排気ガスと、EGRクーラ101のケース110の空間400-2に蓄積された80℃程度の冷却水との間で熱交換が行われ、排気ガスが冷却される。その結果、100℃程度に冷却された排気ガスが、ケース110の空間400-3を経由して排気ガス流出口302から排出され、エンジン本体100の吸気側に戻される。
【0008】
ヘッダプレート111の空間400-1側の面と、チューブ200-1~200-9の空間400-1に突出している先端部分とは、排気ガス流入口301から供給される高温の排気ガスに曝されることになる。
図21は、
図20において符号290で示す矩形部分の構造の拡大図である。
図21に示すように、チューブ200-1の先端部分220-1R,220-1L、及びチューブ200-2の先端部分220-2R,220-2Lは、空間400-1に突出しており、これらの部分が、直接、高温の排気ガスによって曝されることになる。
【0009】
チューブ200-1,200-2において、冷却水が蓄積される空間400-2に存在する部分、及びヘッダプレート111に挟まれている部分(以下、この2つの部分を非先端部分という)は、その一部が冷却水によって冷却されることから、先端部分220-1R,220-1L,220-2R,220-2Lに比べると、温度が低くなる。そのため、排気ガス流入口301から高温の排気ガスが供給されると、先端部分220-1R,220-1L,220-2R,220-2Lの温度は、非先端部分の温度に比べると非常に高くなり、大きな温度勾配が生じる。逆に、排気ガス流入口301から供給される排気ガスの温度が低下すると、先端部分220-1R,220-1L,220-2R,220-2Lの温度は、高温の排気ガスが供給されている場合の温度に比べると低くなる。
【0010】
先端部分220-1R,220-1L,220-2R,220-2Lは、温度が上昇すると熱膨張しようとする。その一方で、チューブ200-1,200-2は、ヘッダプレート111と溶接されており、固定された状態になっているので熱膨張が阻害される。そのため、先端部分220-1R,220-1L,220-2R,220-2Lに圧縮応力が生じる。この圧縮応力は、高温の排気ガスに曝される全てのチューブ200-1~200-9の先端部分(以下、単に「チューブ先端部分」ともいう)において同様に生じる。温度の上昇によってチューブ先端部分の長手方向に生じる大きな温度勾配も、圧縮応力が生じる要因である。この温度勾配により、チューブ先端部分の高温の部分は熱膨張が大きくなり、チューブ先端部分の低温の部分は、熱膨張が小さくなる。この熱膨張量の差から、チューブ先端部分の高温の部分の熱伸びは、チューブ先端部分の低温の部分に拘束されて、熱膨張が阻害され、圧縮応力が生じることになる。
【0011】
図22は、チューブ先端部分において生じる熱サイクルのヒステリシスループの一例を示す図である。
図22において、縦軸は、応力であり、単位は、例えば、「MPa(Mega Pascal)」である。横軸は、ひずみであり、単位は、例えば、パーセントである。以下、応力に関する説明において、単位は、全て「MPa」であり、ひずみに関する説明において、単位は、全てパーセントであるものとする。
図23は、チューブ先端部分において生じる熱疲労プロセスの流れの概要を示す図である。
【0012】
図22に示すように、初期状態では、チューブ先端部分の状態は、ひずみがなく、応力も生じていない「α」で示す状態になる。「α」の状態において、排気ガス流入口301から高温の排気ガスが供給されると、チューブ先端部分の温度が上昇する。これにより、チューブ先端部分に温度勾配が生じ、それにより、圧縮応力が生じる。そのため、チューブ先端部分の状態は、経路501に沿って「α」の状態から「β」の状態に遷移する。ある一定以上の圧縮応力が加わると、チューブ先端部分は、塑性変形し、塑性ひずみが生じる。
【0013】
排気ガス流入口301から供給される排気ガスの温度が低下すると、チューブ先端部分の温度が低下する。チューブ先端部分が塑性変形している場合、この塑性変形のために、「α」の状態には戻らず、引張応力が加わる状態になる。そのため、チューブ先端部分の状態は、「β」の状態から、経路502に沿って「δ」の状態に向かうように遷移する。「δ」の状態に至る途上の「γ」の状態において、再び、排気ガス流入口301から高温の排気ガスが供給されると、既に生じている塑性変形のために、温度低下時に生じる応力及びひずみとは、異なる応力及びひずみが生じるため、チューブ先端部分の状態は、経路502とは異なる経路503に沿って「β」の状態に遷移する。
【0014】
なお、
図22において、「δ」の状態は、ひずみが「0」になるまで、チューブ先端部分の温度が低下した場合の状態であり、「δ」の状態において、再び、排気ガス流入口301から高温の排気ガスが供給されると、破線の経路504に沿って「β」の状態に遷移する。また、「γ」及び「δ」の状態の後、「β」の状態に遷移するか否かは、上昇後の温度の大きさ等の外的要因に影響し、外的要因の影響度合いにより、「β」の状態とは異なる「β」の周辺の状態に遷移する場合もある。
【0015】
図23に示すように、上記したような温度上昇と、温度低下とが繰り返し行われると、チューブ先端部分に塑性ひずみが蓄積して熱疲労が生じ、その結果として、チューブ先端部分において、亀裂が生じて破損し、EGRクーラ101が故障することになる。
【0016】
このように、EGRクーラ101は、長期間、使用され続けることによって、熱疲労が蓄積して故障することになる。そのため、EGRクーラ101が故障する時期、すなわちEGRクーラ101の寿命を予測して、故障する前に、EGRクーラ101を交換するなどの対策を講じることが必要になる。このような、内燃機関において熱疲労が生じる部分の寿命を予測する技術として、例えば、特許文献1に開示される技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に開示されている技術では、高温の排気ガスに曝される部分が破損しそうな状態になることを予測する指標として、圧縮塑性ひずみを用いている。特許文献1における圧縮塑性ひずみとは、高温の排気ガスに曝される部分の温度が上昇した際に、当該部分が膨張することに起因して生じるひずみであるとされている。
【0019】
しかしながら、熱疲労の度合いを厳密に予測するためには、温度が上昇する際に生じる圧縮応力と、温度が低下する際に生じる引張応力とが交互に発生する状態における塑性ひずみを考慮する必要がある。これに対して、特許文献1に開示されている技術では、温度が上昇する際に生じる圧縮塑性ひずみのみを指標としていることから、熱疲労に関与しないひずみ、すなわち、蓄積しないひずみを含む場合があり、正確な熱疲労の度合いを予測することができない場合があるという課題がある。
【0020】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱疲労の度合いを正確に予測して、精度の高い寿命の予測を行う熱疲労寿命予測装置、熱疲労寿命予測システム、熱疲労寿命予測方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記問題を解決するために、本開示の一態様は、熱疲労が生じる部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを取得する温度履歴データ取得部と、前記温度履歴データから前記熱疲労の蓄積に関与する温度サイクルを検出するサイクル検出部と、前記熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値を検出する熱疲労蓄積進行尺度検出部と、前記温度サイクルごとの最高温度と、最低温度とを用いて、前記温度サイクルごとの塑性ひずみ振幅値を検出する塑性ひずみ振幅検出部と、前記蓄積進行尺度検出部が検出する前記熱疲労蓄積進行尺度値と、前記塑性ひずみ振幅検出部が検出する前記塑性ひずみ振幅値とを用いて、前記熱疲労が生じる部分の寿命に関する情報を算出する予測部と、を備える熱疲労寿命予測装置である。
【発明の効果】
【0022】
本開示の各態様によれば、熱疲労の度合いを正確に予測して、精度の高い寿命の予測を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施形態に係る熱疲労寿命予測システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る温度履歴生成テーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る塑性ひずみ振幅テーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る熱サイクルのヒステリシスループの一例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係るひずみの時間変化と熱サイクルのヒステリシスループの関係の一例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る熱疲労寿命予測装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】第1の実施形態に係る温度履歴データの一例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る温度履歴データに含まれる温度サイクルの一例を示す図である。
【
図9】第1の実施形態に係る熱疲労被害量と稼働時間の関係の一例を示すグラフである。
【
図10】第2の実施形態に係る熱疲労寿命予測システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図11】第2の実施形態に係る熱疲労寿命予測装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】第3の実施形態に係る熱疲労寿命予測システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図13】第3の実施形態に係る温度履歴データ取得部の内部構成を示すブロック図である。
【
図14】第3の実施形態に係る温度履歴データ取得部の学習処理部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】第4の実施形態に係る熱疲労寿命予測システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図16】第4の実施形態に係る全ひずみテーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図17】第4の実施形態に係る0.2%耐力時弾性ひずみテーブルのデータ形式の一例を示す図である。
【
図18】一般的なEGRクーラを備える内燃機関の概要を示すブロック図である。
【
図19】
図18のEGRクーラを排気ガスが流れる方向に沿って断面した断面図である。
【
図20】
図18のEGRクーラにおいて排気ガス流入口からケースの内部を観察した図である。
【
図21】
図18のEGRクーラのチューブ先端部分の付近の構造の拡大図である。
【
図22】
図18のEGRクーラのチューブ先端部分において生じる熱サイクルのヒステリシスループの一例を示す図である。
【
図23】
図18のEGRクーラのチューブ先端部分において生じる熱疲労プロセスの流れの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0025】
図1は、第1の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1の構成を示す概略ブロック図である。
図2、
図3は、それぞれ第1の実施形態に係る温度履歴生成テーブル21、塑性ひずみ振幅テーブル22のデータ形式の一例を示す図である。
図4は、第1の実施形態に係る熱サイクルのヒステリシスループの一例を示す図である。
図5は、第1の実施形態に係るひずみの時間変化と熱サイクルのヒステリシスループの関係の一例を示す図である。
図6は、第1の実施形態に係る熱疲労寿命予測装置10による処理の流れを示すフローチャートである。
図7は、第1の実施形態に係る温度履歴データ35の一例を示す図である。
図8は、第1の実施形態に係る温度履歴データ35に含まれる温度サイクル40~49の一例を示す図である。
図9は、第1の実施形態に係る熱疲労被害量と稼働時間の関係の一例を示すグラフである。
図10は、第2の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1aの構成を示す概略ブロック図である。
図11は、第2の実施形態に係る熱疲労寿命予測装置10aによる処理の流れを示すフローチャートである。
図12は、第3の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1bの構成を示す概略ブロック図である。
図13は、第3の実施形態に係る温度履歴データ取得部13aの内部構成を示すブロック図である。
図14は、第3の実施形態に係る温度履歴データ取得部13aの学習処理部71による処理の流れを示すフローチャートである。
図15は、第4の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1cの構成を示す概略ブロック図である。
図16、
図17は、それぞれ第4の実施形態に係る全ひずみテーブル23、0.2%耐力時弾性ひずみテーブル25のデータ形式の一例を示す図である。
【0026】
<第1の実施形態>
(第1の実施形態の全体構成)
図1に示すように、第1の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1は、建設機械の一例であるダンプトラック4と、サーバ装置7と、通信ネットワーク8と、熱疲労寿命予測装置10とを備える。通信ネットワーク8は、例えば、通信事業者によって運営される移動体通信の通信網である。ダンプトラック4は、例えば、ディーゼルエンジンなどの内燃機関5と、無線通信機能を備えた制御装置6とを備える。内燃機関5は、例えば、
図18~
図23を参照して説明したEGRクーラ101がエンジン本体100に装着された内燃機関である。制御装置6は、内燃機関5に関する稼働データを、一定の間隔、または、ランダムな間隔で取得し、取得した稼働データを、通信ネットワーク8を経由してサーバ装置7に送信する。ここで、制御装置6が取得する稼働データには、例えば、稼働データが取得された時刻、内燃機関5の回転数、トルク、冷却水の水温(以下、単に「水温」という)、排気ガス温度などを示すデータが含まれる。
【0027】
サーバ装置7は、通信ネットワーク8を経由して、ダンプトラック4の制御装置6が送信する稼働データを受信し、受信した稼働データを内部の記憶領域に記録する。サーバ装置7は、稼働データの取得を要求する稼働データ取得要求信号を受信すると、内部の記憶領域から全ての稼働データを時系列順に読み出し、読み出した全ての稼働データを時系列順に含む稼働データ取得応答信号を稼働データ取得要求信号の送信元に送信する。ここで、時系列順とは、最先に取得された稼働データを先頭とし、取得された時刻が後の稼働データが後ろになる順番である。
【0028】
(第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置の構成)
熱疲労寿命予測装置10は、記憶部11、通信部12、温度履歴データ取得部13、サイクル検出部14、稼働時間検出部15、塑性ひずみ振幅検出部16、予測部17、及び出力部18を備える。
【0029】
記憶部11は、
図2に示す温度履歴生成テーブル21と、
図3に示す塑性ひずみ振幅テーブル22とを予め記憶する。温度履歴生成テーブル21は、
図2に示すように、縦方向に「回転数」の数値が書き込まれる複数の項目と、横方向に「トルク」の数値が書き込まれる複数の項目とを有する行列のデータ形式のテーブルである。「回転数」の数値の単位は、例えば、rpm(revolutions per minute)であり、「トルク」の数値は、例えば、Nm(Newton Meter)である。以下、回転数に関する説明において、単位は、全て「rpm」であり、トルクに関する説明において、単位は、全てNmであるものとする。
【0030】
温度履歴生成テーブル21において、何れか1つの「回転数」の数値と、何れか1つの「トルク」の数値とによって特定される行列の要素の位置に、内燃機関5のEGRクーラ101のチューブ先端部分の温度を示す数値が書き込まれる。なお、温度を示す数値の単位は、例えば、摂氏(℃)であり、以下、温度に関する説明において、単位は、全て摂氏であるものとする。
【0031】
すなわち、温度履歴生成テーブル21は、内燃機関5のトルクと、回転数と、EGRクーラ101のチューブ先端部分の温度との関係を示すテーブルである。温度履歴生成テーブル21は、予め生成されるテーブルであり、当該テーブルに記録されるデータは、例えば、エンジンベンチ試験装置などを用いて、事前に測定することにより得られるデータである。
【0032】
塑性ひずみ振幅テーブル22は、
図3に示すように、縦方向に「高温」の際の温度を示す数値が書き込まれる複数の項目と、横方向に「低温」の際の温度を示す数値が書き込まれる複数の項目とを有する行列のデータ形式のテーブルである。塑性ひずみ振幅テーブル22において、何れか1つの「高温」の数値と、何れか1つの「低温」の数値とによって特定される行列の要素の位置に、塑性ひずみ振幅の値(以下、塑性ひずみ振幅値という)が書き込まれる。塑性ひずみ振幅値の単位は、例えば、パーセントである。
【0033】
ここで、塑性ひずみ振幅について説明する。
図4は、
図22に示した熱サイクルのヒステリシスループを再掲した図である。塑性ひずみ振幅とは、
図4において、符号31の矢印の範囲で示される大きさであり、「β」の状態から経路502に沿って「γ」の状態に遷移する途上の応力が0になる位置のひずみの量と、チューブ先端部分が「γ」の状態から経路503に沿って「β」の状態に遷移する途上の応力が0になる位置のひずみの量との差である。チューブ先端部分に蓄積される塑性ひずみや、熱サイクルの最高温度及び最低温度の条件によってヒステリシスループの形状が変わることから、塑性ひずみ振幅は、熱サイクルごとに変動する。なお、状態「β」と状態「γ」とを含む熱サイクルの最高温度とは、
図4の例の場合、「β」の状態における温度であり、熱サイクルの最低温度とは、「γ」の状態における温度である。塑性ひずみ振幅には、次式(1)に示す関係がある。
【0034】
【0035】
式(1)は、いわゆるマンソン則と呼ばれる式である。式(1)において、Δεinは、塑性ひずみ振幅値であり、Nfは、熱疲労による寿命(以下、熱疲労寿命という)である。m,Cは、それぞれ材料定数であり、材料によって予め定められる値であり、使用される材料が特定されると、mとCの値は、一定値になる。そのため、塑性ひずみ振幅値Δεinを特定することができれば、材料の熱疲労寿命Nfを特定することができることになる。なお、mの一般的な値は、1未満の値であり、例えば、0.5程度の値である。
【0036】
内燃機関5のEGRクーラ101のチューブ200-1~200-9に用いられる材料は、既知である。そのため、例えば、当該材料に対して、コンピュータシミュレーションにより、様々なパターンの熱サイクルの温度条件を与えることにより、熱サイクルの各々の最高温度と、最低温度とにおける塑性ひずみ振幅値を事前に算出することができる。事前に算出した最高温度と、最低温度と、塑性ひずみ振幅値との組み合わせが、塑性ひずみ振幅テーブル22に書き込まれる。すなわち、1つの組み合わせの最高温度に一致する「高温」の項目の数値と、当該組み合わせの最低温度に一致する「低温」の項目の数値とによって特定される塑性ひずみ振幅テーブル22の行列の要素の位置に、当該組み合わせの塑性ひずみ振幅値が書き込まれる。
【0037】
図1に戻り、通信部12は、サーバ装置7に通信回線を経由して接続する。この通信回線は、例えば、無線LAN(Local Area Network)、または、有線LANである。なお、熱疲労寿命予測装置10と、サーバ装置7とが遠隔地に設置される場合、当該通信回線は、通信ネットワーク8を経由する無線通信回線であってもよい。
【0038】
温度履歴データ取得部13は、通信部12を介してサーバ装置7に稼働データ取得要求信号を送信する。温度履歴データ取得部13は、通信部12を介してサーバ装置7が送信する稼働データ取得応答信号を受信する。温度履歴データ取得部13は、受信した稼働データ取得応答信号に含まれている時系列順に並んだ稼働データの各々に含まれている回転数とトルクの組み合わせに対応するチューブ先端部分の温度を、記憶部11に記憶されている温度履歴生成テーブル21から検出する。温度履歴データ取得部13は、検出したチューブ先端部分の温度を、時系列順に並べて、チューブ先端部分の温度の時間変化を示す過渡データ、すなわちチューブ先端部分の温度の履歴データ(以下、温度履歴データという)を生成する。
【0039】
チューブ先端部分は、ある程度の熱容量を有していることから、排気ガスに曝されても、すぐに温度が変化するわけではない。これに対して、温度履歴データ取得部13が、生成する温度履歴データは、チューブ先端部分の熱容量を考慮していない温度変化を示すデータである。そのため、温度履歴データ取得部13は、例えば、受信した稼働データ取得応答信号に含まれている排気ガス温度を用いて、過渡温度推測フィルタを生成する。過渡温度推測フィルタとして、例えば、KZ(Kolmogrov-Zurbenko)フィルタなどが適用される。温度履歴データ取得部13は、生成した過渡温度推測フィルタを、生成した温度履歴データに適用する。これにより、過渡温度推測フィルタ適用後の温度履歴データは、温度変化を高い精度で捉えたデータになる。
【0040】
サイクル検出部14は、温度履歴データ取得部13が生成した温度履歴データに対して、例えば、レインフロー法の一種であるP/V差法を適用して、温度サイクルを検出する。ここで、P/V差法について説明する。
図5(a)は、ひずみの時間変化の一例を示すグラフである。
図5(b)は、
図5(a)のグラフに示すひずみの時間変化が生じている場合の熱サイクルのヒステリシスループを示す図である。
図5(a)に示す英文字「A」~「J」の位置のひずみの量の各々は、
図5(b)において同一の英文字で示す位置におけるひずみの量に一致する。
【0041】
ひずみが、
図5(a)に示す時間変化をしている場合、熱サイクルには、
図5(b)の「E」と「H」を経由する大きなループ(以下、大ループという)のほかに、「C」と「D」を経由するループ、「G」と「F」を経由するループ、「I」と「J」を経由するループである小さいループ(以下、小ループという)や、「A」と「B」を経由する片側のループ(以下、片ループという)が含まれている。熱疲労には、大ループのみならず、小ループ、及び片ループも関与する。そのため、熱疲労の度合いを高い精度で推定するためには、大ループのみを熱疲労に関与する熱サイクルとするのではなく、小ループや片ループも熱疲労に関与する熱サイクルとして検出する必要がある。
【0042】
P/V差法は、
図5(a)に示すような変化を示すグラフから、
図5(b)に示すヒステリシスループを検出する疲労計数法の一手法である。ところで、ある材料において、温度を上昇させた場合、一切の拘束条件がなければ、温度の上昇と共に、材料は膨張する。そのため、ひずみの時間変化と、温度の時間変化とは、類似した変化を示すことになる。この類似性があることを踏まえて、サイクル検出部14は、温度履歴データに対してP/V差法を適用して、温度サイクルを検出し、検出した温度サイクルを、熱サイクルと同様の変化を示すものとみなすようにしている。サイクル検出部14が検出する温度サイクルの各々は、1組の最高温度と最低温度によって表される。
【0043】
稼働時間検出部15は、温度履歴データ取得部13が生成する温度履歴データからダンプトラック4の稼働時間を検出する。温度履歴データは、サーバ装置7に蓄積されている全ての稼働データから生成されているため、温度履歴データの最初の時刻と、最後の時刻との差の時間が、稼働時間になる。
【0044】
塑性ひずみ振幅検出部16は、サイクル検出部14が検出した温度サイクルの各々を示す最高温度と最低温度の組み合わせの各々と、記憶部11に記憶されている塑性ひずみ振幅テーブル22とに基づいて、温度サイクルの各々に対応する塑性ひずみ振幅値を検出する。
【0045】
予測部17は、塑性ひずみ振幅検出部16が検出する温度サイクルの各々の塑性ひずみ振幅値と、稼働時間検出部15が検出する稼働時間とに基づいて、チューブ先端部分の寿命に関する情報を算出する。出力部18は、予測部17が算出したチューブ先端部分の寿命に関する情報を、通信部12を介してサーバ装置7に送信する。
【0046】
(第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置による処理)
図6に示すフローチャートを参照しつつ、熱疲労寿命予測装置10による処理について説明する。
図6に示すフローチャートが開始される前に、サーバ装置7の内部の記憶領域には、ダンプトラック4の稼働データが時系列順に複数記憶されているものとする。熱疲労寿命予測装置10の温度履歴データ取得部13は、通信部12を介して稼働データ取得要求信号をサーバ装置7に送信する。サーバ装置7は、稼働データ取得要求信号を受信すると、内部の記憶領域から全ての稼働データを時系列順に読み出し、読み出した全ての稼働データを時系列順に含む稼働データ取得応答信号を稼働データ取得要求信号の送信元に送信する。温度履歴データ取得部13は、通信部12を介してサーバ装置7が送信する稼働データ取得応答信号を受信する(S1)。
【0047】
温度履歴データ取得部13は、受信した稼働データ取得応答信号に含まれている時系列順に並んだ稼働データの各々に含まれている回転数とトルクの組み合わせに対応するチューブ先端部分の温度を、記憶部11に記憶されている温度履歴生成テーブル21から検出する。温度履歴データ取得部13は、検出したチューブ先端部分の温度を、時系列順に並べて、温度履歴データを生成する。温度履歴データ取得部13は、例えば、受信した稼働データ取得応答信号に含まれている排気ガス温度を用いて、過渡温度推測フィルタを生成する。温度履歴データ取得部13は、生成した過渡温度推測フィルタを、生成した温度履歴データに適用する。これにより、温度履歴データ取得部13は、例えば、
図7に示す温度変化の温度履歴データ35を生成して取得する。
図7において、横軸は、時間であり、例えば、単位は、「second」、すなわち「秒」である。縦軸は、温度である。温度履歴データ取得部13は、過渡温度推測フィルタ適用後の温度履歴データ35をサイクル検出部14と、稼働時間検出部15とに出力する(S2)。
【0048】
サイクル検出部14は、温度履歴データ取得部13が出力する温度履歴データ35を取り込む。サイクル検出部14は、取り込んだ温度履歴データ35にP/V差法を適用して温度サイクルを検出する。サイクル検出部14は、例えば、
図8に示す符号40~49で示す10個の温度サイクルを温度履歴データ35から検出する。サイクル検出部14は、検出した温度サイクル40~49を塑性ひずみ振幅検出部16に出力する(S3)。
【0049】
塑性ひずみ振幅検出部16は、サイクル検出部14が出力する温度サイクル40~49を取り込む。塑性ひずみ振幅検出部16は、取り込んだ温度サイクル40~49の各々の最高温度と最低温度の組み合わせと、記憶部11に記憶されている塑性ひずみ振幅テーブル22とに基づいて、温度サイクル40~49の各々に対応する塑性ひずみ振幅値を検出する。塑性ひずみ振幅検出部16は、検出した温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値を予測部17に出力する(S4)。
【0050】
稼働時間検出部15は、温度履歴データ取得部13が出力する温度履歴データ35を取り込む。稼働時間検出部15は、取り込んだ温度履歴データ35からダンプトラック4の稼働時間を検出する。稼働時間検出部15は、検出した稼働時間を予測部17に出力する(S5)。なお、S5の処理は、S3,S4の処理と並列に行われてもよいし、S3,S4の処理の後に行われてもよいし、S3,S4の処理より前に行われてもよい。
【0051】
予測部17は、塑性ひずみ振幅検出部16が出力する温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値と、稼働時間検出部15が出力する稼働時間とを取り込む。予測部17は、チューブ先端部分の寿命に関する情報の一例として、チューブ先端部分の残稼働時間を算出する。そのため、予測部17は、温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値と、稼働時間とに基づいて、単位時間当たりの熱疲労被害量を算出する。単位時間当たりの熱疲労被害量を算出する式は、次式(2)として表される。
【0052】
【0053】
式(2)において、Dは、単位時間当たりの熱疲労被害量である。Tは、稼働時間である。Σは、温度履歴データ取得部13が取得した稼働データの全期間、すなわち、稼働時間T内の総和を算出する演算記号である。Δεinは、式(1)と同一の塑性ひずみ振幅値である。mは、式(1)と同一の材料定数である。
【0054】
式(2)は、線形累積損傷則、すなわち、いわゆるマイナ則と呼ばれる次式(3)に対して、式(1)で示されるマンソン則を代入することに得られる式である。
【0055】
【0056】
式(3)において、D´は、材料が破損する際の熱疲労被害量である。niは、複数種類存在するひずみ振幅のうちi番目の種類のひずみ振幅が生じる回数である。ここで、iは、1以上の整数である。Niは、i番目の種類のひずみ振幅によって材料が破損する回数である。Σは、生じたひずみ振幅の種類の総和、言い換えると、取り得る全てのiについての総和を算出する演算記号である。
【0057】
チューブ先端部分の材料は、既知であるため、mの値は、予め特定される。予め特定されるmの値は、予測部17の内部の記憶領域に予め記憶される。予測部17は、式(2)のTに、取り込んだ稼働時間を代入し、式(2)のΔεinに、取り込んだ温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値の各々を代入し、式(2)のmに、内部の記憶領域に記憶されているmの値を代入して、単位時間当たりの熱疲労被害量Dを算出する(S6)。
【0058】
図9は、稼働時間と、熱疲労被害量との関係を示すグラフである。
図9において、横軸は、時間であり、単位は、例えば、「hour」、すなわち「時」である。符号61で示すグラフは、実際の熱疲労被害量の変化を示すグラフであり、稼働時間「0」から稼働時間検出部15が検出した稼働時間Tまでの範囲のグラフになる。符号62で示すグラフは、予測部17が算出した単位時間当たりの熱疲労被害量Dの傾きで単調増加するグラフである。符号63で示す横軸に平行なグラフは、熱疲労被害量の寿命判定閾値を示すグラフである。熱疲労被害量が、寿命判定閾値になると、チューブ先端部分に亀裂が生じて破損することになる。したがって、符号64の矢印の範囲で示される時間の長さが、残稼働時間を示すことなる。そのため、残稼働時間は、次式(4)によって算出することができる。
【0059】
【0060】
式(4)において、Trestは、残稼働時間であり、C´は、破損に至るまでの熱疲労被害量、すなわち、符号63のグラフが示す寿命判定閾値である。寿命判定閾値C´は、予め定められる値であり、予測部17の内部の記憶領域に予め記憶される。寿命判定閾値C´の値は、例えば、コンピュータシミュレーションにより算出した値を適用してもよいし、単体試験やシステム試験や現実の使用の際に実際に破損したEGRクーラ101の熱疲労被害量を適用してもよい。また、稼働時間が様々である複数のダンプトラック4を対象として、EGRクーラ101が破損するまでの状況を示すデータを収集し、収集したデータから、どれぐらいの熱疲労が蓄積すると、どれぐらいで破損するかを推測して寿命判定閾値C´を定めるようにしてもよい。
【0061】
予測部17は、式(4)に、取り込んだ稼働時間Tと、算出した単位時間当たりの熱疲労被害量Dと、内部の記憶領域に記憶されている寿命判定閾値C´とを代入して、残稼働時間Trestを算出する。予測部17は、算出した残稼働時間Trestを出力部18に出力する(S7)。
【0062】
出力部18は、予測部17が出力する残稼働時間Trestを取り込むと、取り込んだ残稼働時間Trestを、通信部12を介してサーバ装置7に送信する(S8)。これにより、熱疲労寿命予測装置10による処理が終了する。サーバ装置7は、残稼働時間Trestを受信すると、受信した残稼働時間Trestを内部の記憶領域に記録する。サーバ装置7は、例えば、通信ネットワーク8を経由して、図示しない端末装置から残稼働時間Trestの参照を要求する信号を受けると、当該端末装置に対して、残稼働時間Trestを送信する。これにより、端末装置を利用するユーザは、ダンプトラック4の残稼働時間Trest、すなわちダンプトラック4が備える内燃機関5のEGRクーラ101を交換する時期を確認したりすることが可能になる。
【0063】
(第1の実施形態の作用・効果)
上記の第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10において、温度履歴データ取得部13は、熱疲労が生じるチューブ先端部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを生成して取得する。サイクル検出部14は、温度履歴データから熱疲労の蓄積に関与する温度サイクル40~49を検出する。稼働時間検出部15(熱疲労蓄積進行尺度検出部)は、式(2)において、熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値として、ダンプトラック4の稼働時間Tを検出する。塑性ひずみ振幅検出部16は、温度サイクル40~49ごとの最高温度と、最低温度とを用いて、温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値Δεinを検出する。予測部17は、稼働時間検出部15が検出する稼働時間Tと、塑性ひずみ振幅検出部16が検出する塑性ひずみ振幅値Δεinとを用いて、チューブ先端部分の寿命に関する情報として、残稼働時間Trestを算出する。
【0064】
すなわち、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10は、チューブ先端部分に対して交互に発生する圧縮応力と、引張応力とによる影響が示される塑性ひずみ振幅値Δεinを用いて、チューブ先端部分の残稼働時間Trestを算出するようにしている。したがって、特許文献1に開示されている技術よりも、熱疲労の度合いを正確に予測して、精度の高い寿命の予測を行うことが可能になる。この精度の高い残稼働時間Trestに基づいて、ダンプトラック4において、EGRクーラ101を交換する適切な時期を判断することができる。
【0065】
これにより、例えば、ある期間において、ダンプトラック4が想定を超える稼働状態で利用されて、EGRクーラ101の熱疲労が急激に進行し、数日で破損しそうな状態になっていたとしても、残稼働時間Trestを1日ごと、または、数日ごとに参照するようにしておけば、早期にEGRクーラ101の熱疲労の度合いを把握することができ、破損する前に、EGRクーラ101を交換することが可能になる。また、定期的なメンテナンスを行っている際に、残稼働時間Trestが、次回のメンテナンスの時期までの時間よりも短くなっている場合に、EGRクーラ101を事前に交換しておくといった対応をして、EGRクーラ101が、ダンプトラック4の稼働中に破損する事態を回避することが可能になる。
【0066】
すなわち、熱疲労寿命予測装置10を用いることで、ダンプトラック4の内燃機関5に要するLCC(Life Cycle Cost)を低減することが可能になる。また、このようなEGRクーラ101を交換するという予防保全のみならず、開発時において有限寿命設計や信頼性の向上を考慮した設計を行う際にも、熱疲労寿命予測装置10によって算出する残稼働時間Trestを利用することにより、精度の高い設計を行うことが可能になる。
【0067】
特許文献1に開示されている技術では、排気ガス温度が、下限温度から上限温度以上に上昇した後に、再び下限温度以下まで下降する場合に、温度サイクルを1増加させるようにしている。そのため、例えば、上限温度を500℃とし、下限温度を300℃とした場合、排気ガス温度が300℃から500℃に上昇した後に、300℃まで下降した場合、温度サイクルを1増加させることになる。これに対して、500℃に上昇した後に、400℃までしか下降しなかった場合、300℃まで下降していないことから、温度サイクルとしてカウントしないことになる。また、300℃から400℃に上昇して、300℃に下降した場合も、温度の最大値が500℃未満であるため、温度サイクルとしてカウントしないことになる。温度サイクルとしてカウントしない、300℃から500℃を経て400℃に至る場合や、300℃から400℃を経て300℃に至る場合であっても、塑性ひずみが蓄積する場合がある。そのため、特許文献1に開示されている技術の手法では、蓄積する塑性ひずみを取りこぼす可能性がある。
【0068】
また、特許文献1に開示している技術では、200℃から500℃を経て200℃に至る場合であっても、300℃から600℃を経て300℃に至る場合であっても、同一の処理、すなわち、温度サイクルを1増加させるだけである。熱疲労被害量の観点でみると、最高温度と最低温度の温度差が重要ではなく、塑性ひずみが生じる温度まで上昇した後に、どこまで温度が上昇して、その後、どこまで温度が下降したかが重要である。そのため、最高温度と最低温度の差が同一であったとしても、500℃までしか上昇していない場合に比べると、600℃まで上昇している場合の方が、熱疲労被害量は大きくなるが、特許文献1に開示されている技術では、この点を考慮できてないと推測される。
【0069】
これに対して、熱疲労寿命予測装置10では、
図3に示す塑性ひずみ振幅テーブル22を用いて、塑性ひずみ振幅値Δε
inを検出するようにしている。
図3に示すように、塑性ひずみ振幅テーブル22では、最高温度と最低温度の複数の組み合わせが示されており、更に、最高温度と最低温度の複数の組み合わせの各々によって表される様々な温度変化に対応する塑性ひずみ振幅値Δε
inが示されている。塑性ひずみ振幅テーブル22に示されている塑性ひずみ振幅値Δε
inは、チューブ先端部分の材料が、温度が高くなると軟らかくなって、ひずみが生じやすくなり、温度が低くなると固くなって、ひずみが生じ難くなるという、温度によってチューブ先端部分の材料の物性が変わることを考慮した値になっている。また、特許文献1に開示されている技術では、熱疲労が生じて破損する部分である排気管の温度ではなく、排気ガスの温度に基づく予測処理を行っているのに対して、熱疲労寿命予測装置10では、熱疲労が生じて破損する部分であるチューブ先端部分の温度に基づく予測処理を行っている。そのため、特許文献1に開示されている技術に比べると、熱疲労寿命予測装置10は、より詳細な精度で、蓄積する塑性ひずみ振幅値を検出することが可能になり、それに伴い、精度の高い熱疲労被害量を算出することを可能としている。
【0070】
<第2の実施形態>
(第2の実施形態の全体構成)
図10に示すように、第2の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1aは、ダンプトラック4と、サーバ装置7と、通信ネットワーク8と、熱疲労寿命予測装置10aとを備える。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。
【0071】
(第2の実施形態の熱疲労寿命予測装置の構成)
熱疲労寿命予測装置10aは、記憶部11、通信部12、温度履歴データ取得部13、サイクル検出部14、サイクルカウント部15a、塑性ひずみ振幅検出部16、予測部17a、及び出力部18を備える。
【0072】
サイクルカウント部15aは、サイクル検出部14が検出する温度サイクルの数をカウントして、温度サイクルの個数を検出する。予測部17aは、塑性ひずみ振幅検出部16が検出する温度サイクルの各々の塑性ひずみ振幅値と、サイクルカウント部15aが検出する温度サイクルの個数とに基づいて、チューブ先端部分の寿命に関する情報を算出する。ただし、第2の実施形態の予測部17aは、チューブ先端部分の寿命に関する情報として、残サイクル数を算出する。
【0073】
(第2の実施形態の熱疲労寿命予測装置による処理)
図11に示すフローチャートを参照しつつ、熱疲労寿命予測装置10aによる処理について説明する。
図11に示すフローチャートが開始される前に、サーバ装置7の内部の記憶領域には、ダンプトラック4の稼働データが時系列順に複数記憶されているものとする。Sa1~Sa3の処理については、第1の実施形態のS1~S3と同一の処理が行われる。ただし、Sa2の処理の場合、温度履歴データ取得部13は、温度履歴データ35をサイクル検出部14のみに出力する。また、Sa3の処理の場合、サイクル検出部14は、検出した温度サイクル40~49を、塑性ひずみ振幅検出部16と、サイクルカウント部15aとに出力する。
【0074】
Sa4の処理は、第1の実施形態のS4と同一の処理が行われる。サイクルカウント部15aは、サイクル検出部14が出力する温度サイクル40~49を取り込む。サイクルカウント部15aは、取り込んだ温度サイクル40~49の個数を検出する。サイクルカウント部15aは、検出した温度サイクル40~49の個数を予測部17aに出力する(Sa5)。なお、Sa5の処理は、Sa4の処理と並列に行われてもよいし、Sa4の処理の後に行われてもよいし、Sa4の処理の前に行われてもよい。
【0075】
予測部17aは、塑性ひずみ振幅検出部16が出力する温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値と、サイクルカウント部15aが出力する温度サイクル40~49の個数とを取り込む。予測部17aは、チューブ先端部分の寿命として、チューブ先端部分の残サイクルを算出する。そのため、予測部17aは、温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値と、温度サイクル40~49の個数とに基づいて、ある使われ方の1サイクル当たりの熱疲労被害量を算出する。ここで、「ある使われ方」とは、温度履歴データ取得部13が取得した稼働データが得られるような状態での内燃機関5の使われ方である。ある使われ方の1サイクル当たりの熱疲労被害量を算出する式は、次式(5)として表される。
【0076】
【0077】
式(5)において、dは、ある使われ方の1サイクル当たりの熱疲労被害量である。ndは、サイクルカウント部15aが検出した温度サイクル40~49の個数、すなわち既に実施したサイクル数である。Σは、温度履歴データ取得部13が取得した稼働データの全期間の総和を算出する演算記号である。Δεinは、式(1)と同一の塑性ひずみ振幅値である。mは、式(1)と同一の材料定数である。式(5)は、式(2)と同様に、線形累積損傷則、すなわち、式(3)に対して、式(1)を代入することに得られる式である。
【0078】
チューブ先端部分の材料は、既知であるため、mの値は、予め特定される。予め特定されるmの値は、予測部17aの内部の記憶領域に予め記憶される。予測部17aは、式(5)のndに、取り込んだ温度サイクル40~49の個数を代入し、式(5)のΔεinに、取り込んだ温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値を代入し、式(5)のmに、内部の記憶領域に記憶されているmの値を代入して、ある使われ方の1サイクル当たりの熱疲労被害量dを算出する(Sa6)。残サイクル数は、次式(6)によって算出することができる。
【0079】
【0080】
式(6)において、nrestは、残サイクル数であり、C´は、式(4)のC´と同一の破損に至るまでの熱疲労被害量である。C´の値は、予測部17aの内部の記憶領域に予め記憶される。したがって、予測部17aは、式(6)に、取り込んだ温度サイクル40~49の個数ndと、算出したある使われ方の1サイクル当たりの熱疲労被害量dと、内部の記憶領域に記憶されている寿命判定閾値C´とを代入して、残サイクル数nrestを算出する。予測部17aは、算出した残サイクル数nrestを出力部18に出力する(Sa7)。
【0081】
出力部18は、予測部17aが出力する残サイクル数nrestを取り込むと、取り込んだ残サイクル数nrestを、通信部12を介してサーバ装置7に送信する(Sa8)。これにより、熱疲労寿命予測装置10aによる処理が終了する。サーバ装置7は、残サイクル数nrestを受信すると、受信した残サイクル数nrestを内部の記憶領域に記録する。サーバ装置7は、例えば、通信ネットワーク8を経由して、図示しない端末装置から残サイクル数nrestの参照を要求する信号を受けると、当該端末装置に対して、残サイクル数nrestを送信する。これにより、端末装置を利用するユーザは、ダンプトラック4の残サイクル数nrestから、ダンプトラック4が備える内燃機関5のEGRクーラ101を交換する時期を確認したりすることが可能になる。
【0082】
(第2の実施形態の作用・効果)
上記の第2の実施形態の熱疲労寿命予測装置10aにおいて、温度履歴データ取得部13は、熱疲労が生じるチューブ先端部分の温度の時間変化を示す温度履歴データを生成して取得する。サイクル検出部14は、温度履歴データから熱疲労の蓄積に関与する温度サイクル40~49を検出する。サイクルカウント部15a(熱疲労蓄積進行尺度検出部)は、式(5)において、熱疲労の蓄積の進行を示す尺度となる熱疲労蓄積進行尺度値として、温度サイクル40~49の個数ndを検出する。塑性ひずみ振幅検出部16は、温度サイクル40~49ごとの最高温度と、最低温度とを用いて、温度サイクル40~49ごとの塑性ひずみ振幅値Δεinを検出する。予測部17aは、サイクルカウント部15aが検出する温度サイクル40~49の個数ndと、塑性ひずみ振幅検出部16が検出する塑性ひずみ振幅値Δεinとを用いて、チューブ先端部分の寿命に関する情報として、残サイクル数nrestを算出する。
【0083】
これにより、第2の実施形態の熱疲労寿命予測装置10aは、最終的に算出するチューブ先端部分の寿命に関する情報が、残稼働時間Trestではなく、残サイクル数nrestという点で、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10とは異なる構成を有するものの、当該構成以外の構成については、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10と同様の作用及び効果を有することになる。残サイクル数nrestが得られることにより、残稼働時間Trestが得られる場合と異なり、以下のようなことが可能になる。例えば、ダンプトラック4が、荷物を積載して山を上り、山の頂上で荷物を降ろして、山を下るという一連の作業を繰り返すような利用形態で利用されている場合、温度サイクルは、同様の変化を示すことになる。したがって、残サイクル数nrestが得られることにより、ダンプトラック4が一連の作業を、残り何回行うことができるかを把握することが可能になる。
【0084】
<第3の実施形態>
(第3の実施形態の全体構成)
図12に示すように、第3の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1bは、ダンプトラック4と、サーバ装置7と、通信ネットワーク8と、熱疲労寿命予測装置10bとを備える。なお、第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。
【0085】
(第3の実施形態の熱疲労寿命予測装置の構成)
熱疲労寿命予測装置10bは、記憶部11a、通信部12、温度履歴データ取得部13a、サイクル検出部14、稼働時間検出部15、塑性ひずみ振幅検出部16、予測部17、及び出力部18を備える。記憶部11aは、
図2に示す温度履歴生成テーブル21を記憶せず、
図3に示す塑性ひずみ振幅テーブル22を予め記憶する。
【0086】
温度履歴データ取得部13aは、
図13に示すように、学習処理部71、教師データ記憶部72、温度履歴予測モデルデータ記憶部73、温度履歴データ生成部74、及びニューラルネットワーク80を備える。
【0087】
ニューラルネットワーク80は、入力層81、中間層82、及び出力層83を備える。入力層81は、5個のニューロン81-1~81-5を備える。ニューロン81-1~81-5は、それぞれ回転数、トルク、水温、排気ガス温度、チューブ先端部分の温度を取り込む。ニューロン81-1~81-5は、取り込んだ数値を、接続先となる中間層82のニューロンに出力する。
【0088】
中間層82は、例えば、60個のニューロンが2層に配置された構造である。中間層82の1層目のニューロンは、入力側において、入力層81のニューロン81-1~81-5の何れか、または、全てと接続する。中間層82の2層目のニューロンは、入力側において中間層82の1層目のニューロンの何れか、または、全てに接続する。
【0089】
出力層83は、1つのニューロン83-1を備える。ニューロン83-1は、入力側において、中間層82の2層目の全てのニューロンに接続する。ニューロン83-1は、算出する出力値を、学習処理部71に出力する。なお、中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1に適用される活性化関数として、例えば、ReLU(Rectified Linear Unit)関数が適用される。
【0090】
教師データ記憶部72は、予め準備される教師データを記憶する。教師データには、入力側データと出力側データの組み合わせが複数含まれる。ここで、入力側データは、機械学習の技術分野において、訓練データともいわれるデータであり、出力側データは、正解ラベルともいわれるデータである。1つの入力側データには、ある測定時刻における内燃機関5の回転数、トルク、水温、排気ガス温度、及びチューブ先端部分の温度を示すデータの組み合わせが含まれる。当該入力側データに対応する出力側データには、対応する入力側データの条件が内燃機関5に適用された場合の1測定時刻後のチューブ先端部分の温度を示すデータが含まれる。ここで、測定時刻とは、内燃機関5のチューブ先端部分の温度が一定の間隔で測定される場合の個々の測定が行われる時刻のことである。なお、第3の実施形態では、サーバ装置7の内部の記憶領域に記憶される稼働データは、一定の間隔で取得されたデータであり、例えば、稼働データの取得間隔が1秒であれば、1測定時刻も1秒になる。入力側データと出力側データとは、コンピュータシミュレーションによって生成されたデータであってもよいし、稼働中の内燃機関5を測定時刻ごとに実測することによって取得されたデータであってもよい。
【0091】
温度履歴予測モデルデータ記憶部73は、中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1とに適用される係数、すなわち重み及びバイアスの値を記憶する。初期状態では、温度履歴予測モデルデータ記憶部73は、係数の初期値を記憶する。
【0092】
学習処理部71は、学習モードと推定モードの2つのモードの何れか一方のモードで動作する。学習処理部71は、学習モードの場合、教師データ記憶部72に記憶されている教師データを用いて学習処理を行い、中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1に適用する最適な係数を算出する。学習モードが終了すると、温度履歴予測モデルデータ記憶部73には、最適な係数が記憶され、この最適な係数が、温度履歴予測モデルデータになる。
【0093】
学習処理部71は、推定モードの場合、温度履歴予測モデルデータ記憶部73に記憶されている学習処理済みの温度履歴予測モデルデータを、中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1に適用して、ニューラルネットワーク80を温度履歴予測モデルとして構築する。学習処理部71は、通信部12を介してサーバ装置7に稼働データ取得要求信号を送信して時系列順に並んだ稼働データを取得する。学習処理部71は、時系列順において先頭の稼働データに含まれる回転数、トルク、水温、排ガス温度を、それぞれ入力層81のニューロン81-1~81-4に与えると共に、予め定められるチューブ先端部分の温度の初期値を、ニューロン81-5に与える。なお、予め定められるチューブ先端部分の温度の初期値として、例えば、ニューロン81-3に最初に与える水温が適用される。
【0094】
学習処理部71は、時系列順において先頭の稼働データを入力層81のニューロン81-1~81-5に与えた場合に、出力層83のニューロン83-1が出力する出力値を取得する。学習処理部71は、取得した出力値を、温度履歴データ生成部74に出力する。学習処理部71は、時系列順において先頭から2番目以降の稼働データの場合、稼働データに含まれる回転数、トルク、水温、排ガス温度を、それぞれ入力層81のニューロン81-1~81-4に与えると共に、直前に取得した出力値を、ニューロン81-5に与える。学習処理部71が稼働データの全てに対して推論モードの処理を行うと、温度履歴データ生成部74は、測定時刻の間隔で、時系列順にチューブ先端部分の温度を取得することになる。温度履歴データ生成部74は、取得した時系列順に並んだチューブ先端部分の温度を、温度履歴データとしてサイクル検出部14と、稼働時間検出部15とに出力する。
【0095】
(第3の実施形態の温度履歴データ取得部による学習処理)
図14のフローチャートを参照しつつ、温度履歴データ取得部13aの学習処理部71が行う学習処理について説明する。学習処理部71は、学習モードの場合、温度履歴予測モデルデータ記憶部73に記憶されている係数の初期値を、中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1とに適用する(Sc1)。学習処理部71は、教師データ記憶部72に記憶されている教師データから1組の入力側データと、出力側データとを読み出す。
【0096】
学習処理部71は、読み出した入力側データを、入力層81のニューロン81-1~81-5に与えて、出力層83のニューロン83-1が出力する出力値を取得する(Sc2)。学習処理部71は、当該入力側データに対応する出力側データと、取得した出力値と、温度履歴予測モデルデータ記憶部73に記憶されている係数とに基づいて、例えば、確率的勾配降下法(SGD:Stochastic Gradient Descent)を利用して、中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1に適用する新たな係数を算出する(Sc3)。学習処理部71は、温度履歴予測モデルデータ記憶部73に記憶されている係数を、算出した新たな係数に書き換えると共に、算出した新たな係数を中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1とに適用する(Sc4)。
【0097】
学習処理部71は、教師データ記憶部72に記憶されている教師データから学習処理の処理対象としていない何れかの1組の入力側データと、出力側データとを読み出し、再び、Sc2~Sc4の処理を行う(ループLc1s~Lc1e)。教師データに含まれる入力側データと出力側データの組み合わせの全てに対する学習処理が終了すると、最適な係数が、温度履歴予測モデルデータ記憶部73に記憶され、この最適な係数が、温度履歴予測モデルデータになる。
【0098】
なお、学習処理部71が、全ての入力側データと出力側データの組み合わせを学習処理の処理対象とした場合であっても、最適な係数が得られていないと判断される場合は、学習処理部71は、再び、教師データ記憶部72に記憶されている教師データを用いて、学習処理を継続するようにしてもよい。
【0099】
図14の処理は、第1の実施形態において示した
図6の処理が行われる前に行われる処理である。第3の実施形態の熱疲労寿命予測装置10bが行う
図6に対応する処理は、
図6のS2の処理が、温度履歴データ取得部13aの学習処理部71が、推定モードにおいて、温度履歴データを生成する処理に置き換えられる他は、第1の実施形態と同一の処理になる。
【0100】
(第3の実施形態の作用・効果)
第3の実施形態の熱疲労寿命予測装置10bの構成は、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10の構成において、温度履歴データ取得部13を、温度履歴データ取得部13aに置き換えた構成である。そのため、温度履歴データが得られた後の熱疲労寿命予測装置10bによる処理は、熱疲労寿命予測装置10と同一の処理である。したがって、第3の実施形態の熱疲労寿命予測装置10bは、温度履歴データを生成する処理以外については、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10と同様の作用及び効果を有することになる。
【0101】
第3の実施形態の熱疲労寿命予測装置10bでは、機械学習の技術を用いて、温度履歴データを生成する。そのため、第3の実施形態の熱疲労寿命予測装置10bは、事前に学習処理を必要とするものの、
図6に示すチューブ先端部分の寿命に関する情報を得る処理を行う際に、温度履歴生成テーブル21を用いることなく、かつ過渡温度推測フィルタを生成してフィルタリング処理を行うことなく、稼働データのみから温度履歴データを生成することができる点において、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10よりも利点がある。
【0102】
なお、上記した第3の実施形態では、中間層82は、2層構造であるとして説明しているが、2層以上の構造であってもよい。中間層82のニューロンの個数は、例えば、60個としているが、教師データに含まれる入力側データと出力側データの組み合わせの数などに応じて、適宜変更するようにしてもよい。中間層82のニューロンと、出力層83のニューロン83-1に適用される活性化関数として、ReLU(Rectified Linear Unit)関数を示しているが、ReLU関数以外の活性化関数を適用するようにしてもよい。学習処理部71が推定モードの処理を行う際、最初にニューロン81-5に与える初期値として、最初にニューロン81-3に与える水温を一例として示しているが、予め定める別の値としてもよい。この場合、予め定める別の値は、例えば、学習処理部71の内部の記憶領域に予め記憶させておくことになる。熱疲労寿命予測装置10bにおいて、温度履歴データ取得部13aが備える教師データ記憶部72が記憶する教師データと、温度履歴予測モデルデータ記憶部73が記憶する温度履歴予測モデルデータとは、記憶部11aに記憶されていてもよい。
【0103】
図14に示す処理では、学習処理部71は、1組の入力側データと出力側データに対して、新たな係数を更新する処理、いわゆるオンライン学習処理を行うようにしているが、予め定められる組み合わせ数ごとに、新たな係数を算出して更新するバッチ処理を行うようにしてもよい。
図14のSc3の処理において、学習処理部71は、確率的勾配降下法により、新たな係数を算出するようにしているが、確率的勾配降下法以外の手法によって、新たな係数を算出するようにしてもよい。学習処理部71が行う学習処理は、ニューラルネットワーク80を利用する機械学習の処理に限られず、例えば、ニューラルネットワーク80と同様の機能を有する関数近似器を用いる教師ありの機械学習の処理であってもよい。
【0104】
<第4の実施形態>
(第4の実施形態の全体構成)
図15に示すように、第4の実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1cは、ダンプトラック4と、サーバ装置7と、通信ネットワーク8と、熱疲労寿命予測装置10cとを備える。なお、第4の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。
【0105】
(第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置の構成)
熱疲労寿命予測装置10cは、記憶部11b、通信部12、温度履歴データ取得部13、サイクル検出部14、稼働時間検出部15、塑性ひずみ振幅検出部16a、予測部17、及び出力部18を備える。
【0106】
記憶部11bは、
図2に示す温度履歴生成テーブル21と、
図16に示す全ひずみテーブル23と、
図17に示す0.2%耐力値弾性ひずみテーブル24とを予め記憶する。
図16に示す全ひずみテーブル23は、「温度」の項目と、「全ひずみ」の項目とを有するデータ形式のテーブルである。「温度」の項目には、温度の数値が書き込まれる。「全ひずみ」の項目には、対応する「温度」の項目に示されている温度における全ひずみ量が書き込まれる。「全ひずみ」の項目に書き込まれる全ひずみ量は、例えば、複数の温度の各々において実測されたチューブ先端部分の材料の全ひずみ量である。なお、
図16において、「P」,「Q」,「R」の部分は、具体的には、全ひずみ量を示す数値である。例えば、
図4に示すヒステリシスループにおいて、「β」の状態の温度における全ひずみ量は、符号32の矢印の範囲で示される大きさであり、全ひずみ量は、塑性ひずみ量と弾性ひずみ量の和である。
【0107】
図17に示す0.2%耐力時弾性ひずみテーブル24は、「温度」の項目と、「0.2%耐力時弾性ひずみ」の項目とを有するデータ形式のテーブルである。「温度」の項目には、温度の数値が書き込まれる。「0.2%耐力時弾性ひずみ」の項目には、対応する「温度」の項目に示されている温度における0.2%耐力時弾性ひずみ量が書き込まれる。「0.2%耐力時弾性ひずみ」の項目に書き込まれる0.2%耐力時弾性ひずみ量は、例えば、複数の温度の各々において実測されたチューブ先端部分の材料の0.2%耐力時弾性ひずみ量である。なお、
図17において、「p」,「q」,「r」の部分は、具体的には、0.2%耐力時弾性ひずみ量を示す数値である。
【0108】
(第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置による処理)
第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置10cによる処理は、
図6のS4の処理が、以下に示す塑性ひずみ振幅値の検出処理(その1)、及び塑性ひずみ振幅値の検出処理(その2)の何れか一方の処理に置き換えられる他は、第1の実施形態と同一の処理になる。
【0109】
(塑性ひずみ振幅値の検出処理(その1))
塑性ひずみ振幅検出部16aは、サイクル検出部14が出力する温度サイクル40~49を取り込むと、温度サイクル40~49の各々に対して以下の処理を行う。塑性ひずみ振幅検出部16aは、例えば、最初に、温度サイクル40を選択したとする。塑性ひずみ振幅検出部16aは、選択した温度サイクル40の最高温度に対応する全ひずみ量と、温度サイクル40の最低温度に対応する全ひずみ量とを全ひずみテーブル23から検出する。塑性ひずみ振幅検出部16aは、温度サイクル40の最高温度に対応する0.2%耐力時弾性ひずみ量と、温度サイクル40の最低温度に対応する0.2%耐力時弾性ひずみ量とを0.2%耐力時弾性ひずみテーブル24から検出する。
【0110】
塑性ひずみ振幅検出部16aは、検出した温度サイクル40に対応する最高温度及び最低温度に対応する全ひずみ量と、最高温度及び最低温度に対応する0.2%耐力時弾性ひずみ量とを、次式(7)に適用して、塑性ひずみ振幅値を算出する。
【0111】
【0112】
塑性ひずみ振幅検出部16aは、他の温度サイクル41~49に対しても、温度サイクル40の場合と同様の演算を行って、温度サイクル41~49の各々に対応する塑性ひずみ振幅値を算出する。塑性ひずみ振幅検出部16aは、検出した温度サイクル40~49の各々に対応する塑性ひずみ振幅値を、予測部17に出力する。
【0113】
(塑性ひずみ振幅値の検出処理(その2))
塑性ひずみ振幅検出部16aは、サイクル検出部14が出力する温度サイクル40~49を取り込むと、温度サイクル40~49の各々に対して以下の処理を行う。塑性ひずみ振幅検出部16aは、例えば、最初に、温度サイクル40を選択したとする。塑性ひずみ振幅検出部16aは、選択した温度サイクル40の最高温度に対応する全ひずみ量と、温度サイクル40の最低温度に対応する全ひずみ量とを全ひずみテーブル23から検出する。塑性ひずみ振幅検出部16aは、温度サイクル40の最高温度に対応する0.2%耐力時弾性ひずみ量を0.2%耐力時弾性ひずみテーブル24から検出する。
【0114】
塑性ひずみ振幅検出部16aは、検出した温度サイクル40に対応する最高温度及び最低温度に対応する全ひずみ量と、最高温度に対応する0.2%耐力時弾性ひずみ量とを、次式(8)に適用して、塑性ひずみ振幅値を算出する。
【0115】
【0116】
塑性ひずみ振幅検出部16aは、他の温度サイクル41~49に対しても、温度サイクル40の場合と同様の演算を行って、温度サイクル41~49の各々に対応する塑性ひずみ振幅値を算出する。塑性ひずみ振幅検出部16aは、検出した温度サイクル40~49の各々に対応する塑性ひずみ振幅値を、予測部17に出力する。
【0117】
(第4の実施形態の作用・効果)
第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置10cの構成は、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10の構成において、塑性ひずみ振幅検出部16を、塑性ひずみ振幅検出部16aに置き換えた構成である。そのため、塑性ひずみ振幅値を検出する処理以外の熱疲労寿命予測装置10cによる処理は、熱疲労寿命予測装置10と同一の処理である。したがって、第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置10cは、塑性ひずみ振幅値を検出する処理以外については、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10と同様の作用及び効果を有することになる。
【0118】
第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置10cでは、
図3に示す塑性ひずみ振幅テーブル22に替えて、
図16に示す全ひずみテーブル23と、
図17に示す0.2%耐力時弾性ひずみテーブル24とを用いて、塑性ひずみ振幅値を検出する。塑性ひずみ振幅テーブル22を生成するためには、最高温度と最低温度の様々な組み合わせにおけるチューブ先端部分の塑性ひずみ振幅値を特定しておく必要がある。これに対して、全ひずみテーブル23と、0.2%耐力時弾性ひずみテーブル24とは、チューブ先端部分の温度を、段階的に上昇させつつ、チューブ先端部分の全ひずみ量と、0.2%耐力時弾性ひずみ量とを測定することにより生成することができる。そのため、全ひずみテーブル23と、0.2%耐力時弾性ひずみテーブル24とは、塑性ひずみ振幅テーブル22を生成するよりも容易に生成することができるテーブルであるという点で、第4の実施形態の熱疲労寿命予測装置10cは、第1の実施形態の熱疲労寿命予測装置10よりも利点がある。
【0119】
<残消耗度を算出する構成例>
上記した第1及び第2の実施形態では、チューブ先端部分の寿命として、それぞれ残稼働時間T
restと、残サイクル数n
restとを算出するようにしている。これに対して、更に、残消耗度を算出するようにしてもよい。残消耗度は、
図9に示すグラフにおいて、符号65の矢印の範囲で示される大きさである。そのため、第1及び第2の実施形態の各々において、稼働時間Tと、既に実施したサイクル数n
dと、予測部17,17aが算出する残稼働時間T
restと、残サイクル数n
restとを用いて、次式(9)によって消耗度wを算出することができる。
【0120】
【0121】
残消耗度Lは、1-消耗度wによって算出することができるため、第1及び第2の実施形態の各々において、次式(10)によって残消耗度Lを算出することができる。
【0122】
【0123】
したがって、第1の実施形態の場合、予測部17は、残稼働時間Trestを算出した上で、算出した残稼働時間Trestと、稼働時間Tとを、式(10)の中央の式に代入して、残消耗度Lを算出することができる。第2の実施形態の場合、予測部17aは、残サイクル数nrestを算出した上で、算出した残サイクル数nrestと、既に実施したサイクル数ndとを、式(10)の右端の式に代入して、残消耗度Lを算出することができる。
【0124】
予測部17,17aは、算出した残消耗度Lを、出力部18に出力し、出力部18が、残消耗度Lをサーバ装置7に送信して、サーバ装置7において残消耗度Lを参照可能な状態にする。これにより、残稼働時間Trestや残サイクル数nrestに加えて残消耗度Lを提供することができるので、ダンプトラック4が備える内燃機関5のEGRクーラ101を交換する時期の判断材料が増えることになり、より適切な時期で交換を行うことが可能になる。
【0125】
<稼働データを取得する手順に関する他の構成例>
上記の第1から第4の実施形態では、温度履歴データ取得部13,13aが、稼働データ取得要求信号を送信すると、サーバ装置7は、内部の記憶領域に記憶されている全ての稼働データを時系列順に読み出し、読み出した全ての稼働データを時系列順に含む稼働データ取得応答信号を温度履歴データ取得部13,13aに送信するようにしている。これに対して、温度履歴データ取得部13,13aは、サーバ装置7に対して指定する範囲の稼働データの送信を要求するようにしてもよい。
【0126】
例えば、温度履歴データ取得部13,13aは、既に取得した稼働データの中で時系列順に並べた場合に、順番が最後になる稼働データが取得された時刻を稼働データ取得要求信号に含めて送信する。サーバ装置7は、稼働データ取得要求信号を受信すると、稼働データ取得要求信号に含まれている時刻を参照し、参照した時刻よりも後の時刻に取得された全ての稼働データを時系列順に読み出す。サーバ装置7は、読み出した全ての稼働データを時系列順に含む稼働データ取得応答信号を温度履歴データ取得部13,13aに送信する。温度履歴データ取得部13,13aは、新たに稼働データ取得応答信号を受信すると、受信した稼働データ取得応答信号に含まれる稼働データを用いて新たに温度履歴データを生成する。温度履歴データ取得部13,13aは、新たに生成した温度履歴データを、サイクル検出部14に出力する。サイクル検出部14、稼働時間検出部15、サイクルカウント部15a、塑性ひずみ振幅検出部16,16aは、新たに生成された温度履歴データに基づく処理を行う。
【0127】
第1,第3及び第4の実施形態の場合、予測部17は、過去に残稼働時間Trestを算出した際に用いた塑性ひずみ振幅値、及び稼働時間を内部の記憶領域に記憶しており、新たに塑性ひずみ振幅値、及び稼働時間が得られた場合、過去の塑性ひずみ振幅値、及び稼働時間と、新たに得られた塑性ひずみ振幅値、及び稼働時間とに基づいて、新たな残稼働時間Trestを算出する。第2の実施形態の場合、予測部17aは、過去に残サイクル数nrestを算出した際に用いた塑性ひずみ振幅値、及び温度サイクルの個数を内部の記憶領域に記憶しており、新たに塑性ひずみ振幅値、及び温度サイクルの個数が得られた場合、過去の塑性ひずみ振幅値、及び温度サイクルの個数と、新たに得られた塑性ひずみ振幅値、及び温度サイクルの個数とに基づいて、新たな残サイクル数nrestを算出する。このようにすることで、熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cにおいて、サーバ装置7の内部の記憶領域に順次追加される稼働データのうち、過去にチューブ先端部分の寿命に関する情報を算出するのに用いた稼働データを除いた新たな稼働データのみに対して処理を行えばよくなり、処理負荷が軽減されることになる。
【0128】
<各実施形態の他の構成例>
上記した第2の実施形態の熱疲労寿命予測装置10aに対して、第3及び第4の実施形態の構成を適用するようにしてもよい。
【0129】
第1,第3,第4の実施形態において、出力部18は、
図9に示す符号61,62,63のグラフを画面に表示する際に必要となる全てのデータをサーバ装置7に送信するようにしてもよい。また、第2の実施形態において、出力部18は、
図9に示す符号61,62,63に示すグラフに対応するグラフであって、横軸が、サイクル数になっており、符号64で示す残稼働時間T
restに替えて、残サイクル数n
restが表されるグラフを画面に表示する際に必要となる全てのデータをサーバ装置7に送信するようにしてもよい。このようにすることで、通信ネットワーク8を経由して、サーバ装置7に接続する図示しない端末装置から残稼働時間T
restの参照の要求や残サイクル数n
restの参照を受けた際に、当該端末装置に、グラフを表示するデータを送信して、当該端末装置の画面にグラフを表示させることができる。これにより、より視覚に訴える形式で、残稼働時間T
restや残サイクル数n
restや残消耗度Lを示すことが可能になる。
【0130】
上記した第1、第2及び第4の実施形態において、内燃機関5のチューブ先端部分の温度を直接測定できる温度センサを、内燃機関5に備えることができる場合、制御装置6は、当該温度センサから得られるチューブ先端部分の温度と、当該温度が取得された時刻とを含む稼働データをサーバ装置7に送信するようにしてもよい。この場合、稼働データを取得することで、チューブ先端部分の温度が直接得られるため、第1、第2及び第4の実施形態では、温度履歴データ取得部13は、
図2に示す温度履歴生成テーブル21を用いることなく、取得した稼働データに含まれるチューブ先端部分の温度を時系列順に並べるだけで、温度履歴データを生成することが可能になる。この場合において、温度履歴データ取得部13は、サーバ装置7を経由することなく、制御装置6から内燃機関5のチューブ先端部分の温度を取得し、取得した内燃機関5のチューブ先端部分の温度を時系列に並べたデータを温度履歴データとしてもよい。
【0131】
上記した第1、第2及び第4の実施形態において、温度履歴データ取得部13は、過渡温度推測フィルタを生成する際に、排気ガス温度ではなく、稼働データに含まれる水温を用いて過渡温度推測フィルタを生成してもよく、稼働データに含まれる排気ガス温度と水温の両方を用いて過渡温度推測フィルタを生成するようにしてもよい。
【0132】
上記した各実施形態では、内燃機関5のEGRクーラ101のチューブ先端部分の寿命に関する情報を算出している。ただし、チューブ先端部分というのは、一例であり、排気ガスによって熱疲労が生じる部分であれば、どのような部分であってもよい。例えば、内燃機関5において、塑性ひずみが生じるのは、少なくとも300℃以上の温度になる部分であり、例えば、排気マニホールド、ターボのハウジング、燃焼室、DPF(Diesel Particulate Filter)などの部分が該当する。
【0133】
上記の各実施形態では、排気ガスが吹き付けられることにより、材料において高温状態と、低温状態とが発生して、材料に塑性ひずみが蓄積して熱疲労が生じる現象を対象としている。これに対して、材料において高温状態と、低温状態とが発生し、塑性ひずみが蓄積して熱疲労が生じる現象であれば、排気ガスが吹き付けられる場面に限られず、また、内燃機関5を対象とした場面に限られず、どのような場面で生じる現象を対象としていてもよい。例えば、電気回路や電子回路に用いられている材料において、電気回路や電子回路に電気が導通したり、導通しなかったりすることにより、高温状態と、低温状態とが発生して、塑性ひずみが蓄積して熱疲労が生じる現象などを対象としてもよい。
【0134】
上記した各実施形態では、サイクル検出部14は、温度履歴データからP/V差法により温度サイクルを検出するようにしている。これに対して、サイクル検出部14は、P/V差法以外のレインフロー法や「ASTM E1049-85」にて規定されている他の疲労計数法によって温度サイクルを検出するようにしてもよい。
【0135】
上記した各実施形態では、制御装置6は、稼働データにトルクを含めるようにしているが、トルクに替えて、内燃機関5から得られる燃料噴射量を稼働データに含めるようにしてもよい。この場合、温度履歴データ取得部13,13aは、例えば、予めコンピュータシミュレーションなどによって生成するテーブルであって、回転数、燃料噴射量、及び当該回転数と当該燃料噴射量の条件下で得られる理論上のトルクの関係を示すトルク検出用テーブルを内部の記憶領域に記憶させておく。温度履歴データ取得部13,13aは、稼働データを取得すると、取得した稼働データに含まれる回転数と、燃料噴射量とに対応する理論上のトルクを、トルク検出用テーブルから検出する。温度履歴データ取得部13,13aは、検出した理論上のトルクの値から、回転数から算出する摩擦量を減算した減算値をトルクとして、自らの処理に用いるようにしてもよい。
【0136】
上記した各実施形態に係る熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cは、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)等のコンピュータと、コンピュータの周辺回路や周辺装置等のハードウェアを用いて構成することができる。そして、熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cは、ハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、記憶部11,11a,11b、通信部12、温度履歴データ取得部13,13a、サイクル検出部14、稼働時間検出部15、サイクルカウント部15a、塑性ひずみ振幅検出部16,16a、予測部17,17a、及び出力部18を備える。
【0137】
なお、熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cは、PLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて構成されていてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0138】
上記した各実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【0139】
上記の各実施形態に係る熱疲労寿命予測システム1,1a,1b,1cにおいて、サーバ装置7が、熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cを備えるように構成されていてもよい。また、熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cが、サーバ装置7を経由せずに、通信ネットワーク8を経由して、または、無線LANや有線LANを経由してダンプトラック4の制御装置6に接続し、制御装置6から直接、稼働データを取得するようにしてもよい。また、ダンプトラック4の制御装置6が、熱疲労寿命予測装置10,10a,10b,10cを備えるように構成されていてもよい。また、ダンプトラック4の制御装置6が、通信ネットワーク8を経由してサーバ装置7に稼働データを送信するのではなく、制御装置6が、取得した稼働データを自らの内部の記憶領域に稼働データを蓄積するようにする。その上で、稼働データ取得用の端末装置を、無線LANや有線LANによって制御装置6に接続して、制御装置6から稼働データを取得し、取得した稼働データを、通信ネットワーク8を経由して、または、無線LANや有線LANを経由してサーバ装置7にアップロードするようにしてもよい。
【0140】
上記した各実施形態では、建設機械の一例として、ダンプトラック4を対象として説明したが、これに限らない。例えば、ショベルやブルドーザ、ホイールローダ等の他の建設機械を対象としてもよい。
【0141】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0142】
1…熱疲労寿命予測システム 4…ダンプトラック 5…内燃機関 6…制御装置 7…サーバ装置 8…通信ネットワーク 10…熱疲労寿命予測装置 11…記憶部 12…通信部 13…温度履歴データ取得部 14…サイクル検出部 15…稼働時間検出部 16…塑性ひずみ振幅検出部 17…予測部 18…出力部