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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122125
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】蓄熱体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240902BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20240902BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C09K5/06 L ZAB
C09K5/06 M
C01B33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029490
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】村松 憲志郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 アウン
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
(72)【発明者】
【氏名】小原 公和
(72)【発明者】
【氏名】茶木田 浩
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB07
4G072BB15
4G072CC13
4G072DD04
4G072GG01
4G072HH17
4G072HH30
4G072JJ42
4G072LL06
4G072LL11
4G072LL15
4G072MM36
4G072QQ07
4G072RR12
4G072TT01
4G072TT05
4G072TT08
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】冷却液の絶縁性の低下を抑制する他の技術を提供する。
【解決手段】複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体を有する蓄熱体は、球状シリカ多孔体の複数の細孔の中に含有される相変化材料と、中実なシリカ結晶で形成され、球状シリカ多孔体の複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、球状シリカ多孔体において、複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体を有する蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中に含有される相変化材料と、
中実なシリカ結晶で形成され、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、
前記球状シリカ多孔体において、
前記複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ前記球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている、
蓄熱体。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記外殻部の厚みは、0.055μm以上である、
蓄熱体。
【請求項3】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中心細孔直径が、1nm以上20nm以下である、
蓄熱体。
【請求項4】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の20%以内である、
蓄熱体。
【請求項5】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の直径が、10nm以上3000nm以下である、
蓄熱体。
【請求項6】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下である、
蓄熱体。
【請求項7】
請求項1に記載の蓄熱体であって、
前記相変化材料は、糖アルコールおよびパラフィンの少なくともいずれか一方である、
蓄熱体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記外殻部は、原料の分子サイズが前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の細孔径より小さい、
蓄熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状シリカ多孔体を有する蓄熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質(潜熱蓄熱材)を固体に保持し、蓄熱を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、無孔中空シリカ粒子に相変化物質が内包された硬殻マイクロカプセル化潜熱輸送物質が開示されている。非特許文献1には、メソポーラスシリカの細孔内部に相変化物質を閉じ込める技術が開示されている。非特許文献2には、水蒸気吸着性能を持つメソポーラスシリカの細孔内にLiOHを担持した材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/025529号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中野晃太、外2名,「メソポーラスシリカの細孔内部におけるエリスリトールの凝固融解現象」,日本機械学会熱工学コンファレンス2013 講演論文集G133,一般社団法人日本機械学会,No.13-55,p.219-220
【非特許文献2】窪田光宏,「高密度化学蓄熱を目指した水酸化リチウム・メソポーラスシリカハイブリッド材料の開発],科学研究費助成事業 研究成果報告書,平成27年5月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、カプセル粒子の充填密度や分散性に課題があり、十分な蓄熱安定性が得られなかった。非特許文献1に記載の技術では、蓄熱物質としてのエリスリトールの細孔からの漏洩が確認されている。非特許文献2に記載の技術では、水和反応(=放熱)速度が十分得られなかった。このように、特許文献1、および非特許文献1、2に記載の技術によっても、安定した蓄熱は困難であった。
【0007】
また、上述の技術では、蓄熱体が有機溶媒に接触した場合に、蓄熱を維持することの検討はなされていない。
【0008】
上記課題に鑑みて、シリカ多孔体に相変化材料を保持し蓄熱を行う技術において、蓄熱の安定性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本発明の一形態によれば、複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体を有する蓄熱体が提供される。この蓄熱体は、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中に含有される相変化材料と、中実なシリカ結晶で形成され、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、前記球状シリカ多孔体において、前記複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ前記球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている。
【0011】
この構成によれば、細孔内に相変化材料を有する球状シリカ多孔体の複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部を有し、その外殻部が中実であるため、仮に、蓄熱体がエタノールやトルエン等の有機溶媒に浸かったとしても、複数の細孔の少なくとも一部が塞がれており、有機溶媒が細孔内に浸入するのを抑制することができ、相変化材料の溶出を抑制することができる。また、複数の細孔が球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されているため、例えば、非特許文献1に記載のハニカム状のシリカ多孔体と比較して、細孔の一端が開放されていないため、相変化材料の漏洩をより抑制することができる。細孔の形状が略円柱状であるため、相変化材料は毛管力で保持され、仮に、相変化材料が有機溶媒に溶融しても、外部への漏洩を抑制することができる。その結果、蓄熱の安定性を向上させることができる。
【0012】
(2)上記形態の蓄熱体であって、前記外殻部の厚みは、0.055μm以上であってもよい。このようにすると、蓄熱体が有機溶媒に浸かった際に、相変化材料の溶出をより抑制することができる。
【0013】
(3)上記形態の蓄熱体であって、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中心細孔直径が、1nm以上20nm以下であってもよい。球状シリカ多孔体の細孔の直径が小さすぎると相変化材料の導入が困難な場合がある。また、球状シリカ多孔体の細孔内への相変化材料の導入は、細孔の毛管力を利用して行われるため、球状シリカ多孔体の細孔径が大きすぎても毛管力が有効に働かず、相変化材料が十分に充填されない場合がある。相変化材料の充填量が十分でないと、蓄熱体による蓄熱量が小さくなる。これに対し、この構成の蓄熱体によれば、球状シリカ多孔体の細孔の中心細孔直径が1nm以上20nm以下であるため、十分な量の相変化材料が充填されており、蓄熱体における蓄熱性をさらに向上させることができる。
【0014】
(4)上記形態の蓄熱体であって、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の20%以内であってもよい。このようにすると、球状シリカ多孔体の細孔径の均一性が高いため、毛管力がより均一に働き、相変化材料の充填率を向上させることができ、蓄熱体の蓄熱性をさらに向上させることができる。
【0015】
(5)上記形態の蓄熱体であって、前記球状シリカ多孔体の直径が、10nm以上3000nm以下であってもよい。このようにすると、複数の蓄熱体を容器に充填して使用する際の充填率や、複数の蓄熱体を分散媒に分散させる場合の単分散性を向上させることができる。
【0016】
(6)上記形態の蓄熱体であって、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下であってもよい。このようにすると、潜熱蓄熱材として有効にはたらく相変化材料の割合を増やし、蓄熱密度を増大させることができる。
【0017】
(7)上記形態の蓄熱体であって、前記相変化材料は、糖アルコールおよびパラフィンの少なくともいずれか一方であってもよい。糖アルコールは蓄熱密度が大きいため、良好な蓄熱性を有する蓄熱体を提供することができる。パラフィンは、過冷却度が小さいため、蓄熱効率の低下を抑制することができる。
【0018】
(8)上記形態の蓄熱体であって、前記外殻部は、原料の分子サイズが前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の細孔径より小さくてもよい。このようにすると、原料の分子が球状シリカ多孔体の細孔の内部で架橋して細孔を塞ぎやすいため、外殻部による細孔の閉塞率を向上させることができ、相変化材料の溶出をより抑制することができる。
【0019】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、蓄熱体の製造方法、蓄熱体を用いた熱輸送システム、その熱輸送システムを備えるシステムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態の蓄熱体における蓄熱を概念的に示す説明図である。
図2】球状シリカ多孔体の構成を概念的に示す説明図である。
図3】実施形態の蓄熱体の製造工程の一例を示す工程図である。
図4】球状シリカ多孔体の製造方法を概念的に示す説明図である。
図5】実施例の蓄熱体のSEM像である。
図6】比較例の蓄熱体のSEM像である。
図7】SEM像より得られる各蓄熱体の諸元を示す図である。
図8】熱分析より得られる蓄熱体の諸元を示す図である。
図9】耐久性試験結果を示す図である。
図10】相変化材料のTGA曲線を示す図である。
図11】相変化材料のDSC曲線を示す図である。
図12】実施例の蓄熱体のSEM像である。
図13】実施例および比較例の蓄熱体のSEM像より得られる諸元を示す図である。
図14】実施例および比較例の蓄熱体の熱分析より得られる諸元を示す図である。
図15】耐久性試験結果を示す図である。
図16】シェル源の主な諸元を示す図である。
図17】実施例の蓄熱体のSEM像である。
図18】比較例の蓄熱体のSEM像である。
図19】比較例の蓄熱体のSEM像である。
図20】実施例および比較例の蓄熱体のSEM像より得られる諸元を示す図である。
図21】実施例および比較例の蓄熱体の熱分析より得られる諸元を示す図である。
図22】耐久性試験結果を示す図である。
図23】外殻部の形成を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態の蓄熱体1における蓄熱を概念的に示す説明図である。図1では、蓄熱体1の一部を切欠いて、内部構成を図示している。蓄熱体1は、複数の細孔10を有する球状シリカ多孔体100と、細孔10内に在る相変化材料200と、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10を塞ぐ外殻部300と、を有する。
【0022】
球状シリカ多孔体100の細孔10の形状は略円柱状である。複数の細孔10は、細孔径が均一であり、かつ球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されている。図において、一部の細孔10、および一部の相変化材料200に符号を付し、他の部分の符号の付与を省略している。図1は、蓄熱体1を概念的に示したものであり、細孔の数は図示されたものより多くても少なくてもよい。また、相変化材料200が細孔10の全体に亘り充填されている例を図示しているが、細孔10の一部に相変化材料200が充填されていてもよい。また、外殻部300が球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の全部を塞ぐ例を図示しているが、外殻部300は、複数の細孔10の少なくとも一部を塞いでいればよい。
【0023】
相変化材料200は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる。蓄熱体1は、相変化材料200の相変化(固体、液体)を利用して熱を吸収・放出させる。詳しくは、球状シリカ多孔体100に保持されている相変化材料200が固体の相変化材料200S(図1の上段)から液体の相変化材料200L(図1の下段)へ変化するとき、融解点付近で周囲の熱を吸収し、融解点付近の温度を維持しようとし、逆に液体の相変化材料200L(図1の下段)から固体の相変化材料200S(図1の上段)に変化するときに凝固点付近で周囲に熱を放出し、完全に凝固するまで凝固点付近の温度を維持しようとする。すなわち、蓄熱体1は相変化材料200の凝固、融解に伴う潜熱の吸放出を利用して蓄熱する。図1では、固体の相変化材料200にクロスハッチングを付し、符号200Sを示し、液体の相変化材料200にドットハッチングを付し、符号200Lを示している。
【0024】
(1)球状シリカ多孔体100
図2は、本実施形態の球状シリカ多孔体100の構成を概念的に示す説明図である。図2では、図1と同様に、球状シリカ多孔体100の一部を切欠いて、細孔10の形状および配列を図示している。細孔10は、断面にハッチングを付して示している。図示するように、本実施形態の球状シリカ多孔体100は、複数の略円柱状の細孔10を有し、複数の細孔10は球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されている。複数の細孔10の配列は、蓄熱体1をTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)により観察することにより確認することができる。なお、蓄熱体1の細孔に金属(例えば、白金)を導入してTEMにより観察することにより、より鮮明に複数の細孔の配列を確認することができる。
【0025】
複数の細孔10が球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されており、例えば、非特許文献1に記載のハニカム状のシリカ多孔体と比較して、細孔10の一端が開放されていないため、相変化材料200の漏洩をより抑制することができる。また、細孔10の形状が略円柱状であるため、相変化材料200は毛管力で保持され、仮に、相変化材料が有機溶媒に溶融しても、外部への漏洩を抑制することができ、保持の安定性を維持することができる。
【0026】
複数の細孔10の中心細孔直径は、特に限定されないが、1nm以上20nm以下であることが好ましい。より好ましくは、2nm以上10nm以下である。球状シリカ多孔体100の細孔10の直径が小さすぎると相変化材料200の導入が困難な場合がある。また、球状シリカ多孔体100の細孔10内への相変化材料200の導入は、細孔10の毛管力を利用して行われるため、球状シリカ多孔体100の細孔10の直径が大きすぎても毛管力が有効に働かず、相変化材料200が十分に充填されない場合がある。相変化材料200の充填量が十分でないと、蓄熱体1による蓄熱量が小さくなる。球状シリカ多孔体100の細孔10の中心細孔直径が1nm以上20nm以下であると、十分な量の相変化材料200が充填され、蓄熱体1による蓄熱性を向上させることができる。
【0027】
球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の細孔径は均一である。ここで、細孔径が均一であるとは、細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の35%以内であることを意味する。中心細孔直径とは、細孔径分布曲線において、1nmより大きい範囲で極大ピークを示した細孔直径をいう。球状シリカ多孔体100の複数の細孔10は、細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の25%以内であることが好ましい。より好ましくは20%以内である。このようにすると、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の細孔径の均一性が高いため、毛管力がより均一に働き、相変化材料200の充填率を向上させることができるため、より蓄熱性が高い蓄熱体1にすることができる。
【0028】
球状シリカ多孔体100の直径は特に限定されないが、数百nmオーダーにするのが好ましい。球状シリカ多孔体100の直径は10nm以上30000nm以下がより好ましい。このようにすると、複数の蓄熱体1を容器に充填して使用する際の充填率や、複数の蓄熱体1を分散媒に分散させる場合の単分散性を向上させることができる。本実施形態の球状シリカ多孔体100は、複数の細孔10の細孔径が均一であり、かつ複数の細孔10が球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されているため、「規則性が高い細孔を有する球状シリカ多孔体」ともいえる。
【0029】
球状シリカ多孔体100の複数の細孔の細孔容量および単位細孔容量あたりの比表面積は特に限定されないが、細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下であるのが好ましい。このようにすると、潜熱蓄熱材として有効にはたらく相変化材料200の割合が多くなるため、蓄熱密度が高い蓄熱体1とすることができる。
【0030】
球状シリカ多孔体100は、特許5480461号に記載の方法により合成することができる。合成時において、界面活性剤の種類を変更することにより、細孔10の直径を調整することができる。また、合成後に界面活性剤を別の界面活性剤に置換する、膨潤剤を導入する、酸性条件下で水熱処理する等により、細孔径を拡大することができる。球状シリカ多孔体100の形状(直径、複数の細孔の配列、細孔直径、細孔容量)、その効果の詳細、および製造方法は、例えば、本願出願人による既出願である特願2021-196743、特願2021-196745に記載された通りである。
【0031】
(2)相変化材料200
蓄熱体1において、球状シリカ多孔体100の細孔10内には相変化材料200が保持されている(図1)。相変化材料200は、特に限定されないが、糖アルコールは蓄熱密度が大きく、良好な蓄熱性を有する蓄熱体を提供することができるため、好ましい。また、パラフィンは、過冷却度が小さく、蓄熱効率の低下を抑制することができるため、好ましい。糖アルコールとしては、エリスリトールが好ましく、パラフィンとしては直鎖パラフィンが好ましい。その他、マンニトール、ガラクチトール、キシリトール、ソルビトール、リビトール等の糖アルコール、無機リン酸塩等の無機塩、分岐パラフィン、無機水和物等を相変化材料200として用いることができる。相変化材料の種類とその効果の詳細は、例えば、本願出願人による既出願である特願2021-196743、特願2021-196745に記載された通りである。
【0032】
(3)外殻部300
外殻部300は、中実なシリカ結晶で形成され、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の少なくとも一部を塞ぐ。ここで、「中実なシリカ結晶」とは、緻密性が高く、実質的に孔を有さない、いわゆる無孔質のシリカ結晶をいう。外殻部300が中実であることは、蓄熱体1のTEM像で確認することができる。図1では、外殻部300として、外殻第1層310と、外殻第2層320を有する2層構造を例示したが、外殻部は1層であってもよいし、3層以上であってもよい。
【0033】
外殻部300の原料(以下、「シェル源」とも称する)は、中実なシリカ結晶を形成するものであれば、得に限定されないが、シェル源の分子サイズが球状シリカ多孔体100の細孔10の細孔径より小さいものが好ましい。例えば、外殻部300の原料として、テトラエチルオルソシリケート(以下、「TEOS」とも表示する)を用いると、分子径が小さいため、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の内部で架橋して細孔を塞ぎやすい。外殻部300の原料については、後に詳述する。
【0034】
(4)製造方法
図3は、実施形態の蓄熱体1の製造工程の一例を示す工程図である。
まず、相変化材料を導入した球状シリカ多孔体と、シェル源の液体を準備する(工程P102)。シェル源の液体として、例えば、TEOS100%の液体を準備する。次に、準備した球状シリカ多孔体を、シェル源の液体に添加し、撹拌しながら所定の温度、時間保持する(工程P104)。例えば、室温にて24時間保持する。工程P104により、球状シリカ多孔体100の表面に外殻第1層310が形成される(図1)。
【0035】
工程P104によって生成された液体1をろ過し、外殻第1層310が形成された粒子を取り出し乾燥して粒子1を得る(工程P106)。例えば、45℃にて24時間乾燥する。
【0036】
次に、粒子1を水溶液に浸漬し、水和処理を行い、液体2を得る(工程P108)。例えば、粒子1をエチレングリコール(EG)水溶液に浸漬し、室温にて24時間放置する。エチレングリコール水溶液は、例えば、エチレングリコール:水の重量比は1:1である。水和処理により、粒子1の表面のシラノール基の割合を増大させることができる。
【0037】
工程P108によって生成された液体2をろ過して、粒子を取り出し乾燥して粒子2を得る(工程P110)。例えば、45℃にて24時間乾燥する。なお、工程P108(水和処理)、工程110は、行わなくてもよい。
【0038】
工程P110によって得られた粒子2を、シェル源の液体に添加し、撹拌しながら所定の温度、時間保持する(工程P112)。工程P104と同様に、シェル源の液体として、例えば、TEOS100%の液体を用い、室温にて24時間保持する。工程P112により、外殻第1層310の上に外殻第2層320が形成される(図1)。工程P104、および工程P112を、「外殻層形成工程」とも呼ぶ。
【0039】
工程P112によって生成された液体3をろ過し、外殻第1層310および外殻第2層320が形成された粒子を取り出し乾燥して粒子3を得る(工程P106)。例えば、45℃にて24時間乾燥する。粒子3が実施形態の蓄熱体1に相当する。
【0040】
工程P102において準備する相変化材料を導入した球状シリカ多孔体は、予め作製されてもよいし、工程P102において作製されてもよい。相変化材料を導入した球状シリカ多孔体は、所定量の球状シリカ多孔体100に対して、融点以上に加熱することで融解させた所定量の液状の相変化材料200Lを混合することで合成することができる。液状の相変化材料200Lは、毛管力により球状シリカ多孔体100の細孔10内へ導入され、保持される。また、相変化材料が導入される球状シリカ多孔体100は、例えば、ベースとなる球状シリカ多孔体に対して処理を行うことにより、細孔径を拡大することができる。
【0041】
本実施形態の蓄熱体1は、細孔10内に相変化材料200を有する球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の少なくとも一部を塞ぐ外殻部300を有し、その外殻部300が中実である。そのため、仮に、蓄熱体1がエタノールやトルエン等の有機溶媒に浸かったとしても、複数の細孔の少なくとも一部が塞がれているため、有機溶媒が細孔内に浸入するのを抑制することができ、相変化材料の溶出を抑制することができる。その結果、蓄熱の安定性を向上させることができる。
【0042】
複数の細孔が球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されているため、例えば、非特許文献1に記載のハニカム状のシリカ多孔体と比較して、細孔の一端が開放されていないため、相変化材料の漏洩をより抑制することができる。細孔の形状が略円柱状であるため、相変化材料は毛管力で保持され、仮に、相変化材料が有機溶媒に溶融しても、外部への漏洩を抑制することができ、保持の安定性を向上させることができる。また、細孔の形状が略円柱状であるため、相変化材料は毛管力で保持されるため、例えば、上述の特許文献1に記載の技術と比較して、外殻部の形成時の相変化材料の溶出を抑制することができる。
【0043】
本実施形態の蓄熱体1は規則性が高い細孔10を有する球状シリカ多孔体100を有する。シリカは相変化材料より熱伝導率が良く、球状シリカ多孔体100多孔体から相変化材料に熱が伝わりやすい。球状シリカ多孔体100は、規則性が高い細孔10を有するため、均一に相変化材料を導入することができ、シリカから相変化材料への熱伝導性を向上させることができる。その結果、相変化材料の過冷却度を減少させることができ、蓄熱量の減少を抑制することができる。
【0044】
本実施形態の蓄熱体1は、例えば、衣服や建材、自動車用部材の温度調節に利用できる。例えば、電動化車両において、電池パックの周囲に蓄熱体1を充填することにより、電池冷却などに利用できる。このように蓄熱体1を利用する場合には、例えば、車両に使用されているオイルの漏洩により、蓄熱体1が有機溶媒に接触する可能性がある。このような場合でも、上述の通り、相変化材料の溶出を抑制することができるため、蓄熱の安定性を維持することができる。
【実施例0045】
実施例1~3と比較例1~3により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例と比較例は、いずれも、略同一形状(粒子径、細孔径、細孔容量等)の球状シリカ多孔体の細孔に同種の相変化材料を充填した蓄熱体である。実施例と比較例は、それぞれ、外殻部の有無、外殻部の層数、外殻部の厚み、外殻部の原料(シェル源)が異なる。実施例1~3および比較例1~3は、相変化材料として直鎖パラフィン(RT90HC, Rubitherm社)を用いた。
【0046】
<サンプルの製造方法>
図4は、実施例1~3と比較例1~3に用いられる球状シリカ多孔体100の製造方法を概念的に示す説明図である。図4は、図1と同様に、球状シリカ多孔体の一部を切欠いて、内部構成を図示している。
【0047】
実施例1~3と比較例1~3に用いられる球状シリカ多孔体は、特開2011-111332、特開2007-45701を参照して、ベースとなる球状シリカ多孔体100A(以下、ベース球状シリカ多孔体とも称する)に対して処理を行うことにより、細孔径を拡大したものである。
【0048】
ベースとなる球状シリカ多孔体100A(図4上段)は、特許5480461号に記載の方法における、界面活性剤をヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C16Cl)からオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C18Cl)に変更し、同方法により合成した。球状シリカ多孔体100Aの細孔10A内に残留した界面活性剤12AはC18Clである。球状シリカ多孔体100Aの細孔の中心細孔直径は2.0nmである。
【0049】
球状シリカ多孔体100A 1.0gに対して、膨潤剤14(トリメチルベンゼン,TMB)を2.26g、エタノールを30cc、純水を30cc、混合/分散し、100℃で三日間保持した。膨潤剤14が界面活性剤12Aの疎水性部分に侵入することにより細孔径が5.5nmに拡大した球状シリカ多孔体100Bが得られた。合成された球状シリカ多孔体100Bを、550℃で8時間焼成することにより界面活性剤12Aおよび膨潤剤14を除去し、球状シリカ多孔体100を得た。
【0050】
所定量の球状シリカ多孔体100に対して、融点以上に加熱することで融解させた所定量の液状の相変化材料(直鎖パラフィン)を混合することにより、球状シリカ多孔体100の細孔10内に相変化材料を導入した。
【0051】
まず、実施例2の蓄熱体の製造方法について、図3に基づいて説明する。
相変化材料としての直鎖パラフィンを導入した球状シリカ多孔体と、シェル源(TEOS100%)の液体を準備し(工程P102)、準備した球状シリカ多孔体を、シェル源の液体に添加し、撹拌しながら室温にて24時間保持した(工程P104)。これにより、球状シリカ多孔体の表面に外殻第1層が形成された(図1)。
【0052】
工程P104によって生成された液体1をろ過し、外殻第1層が形成された粒子を取り出し45℃にて24時間乾燥し、粒子1を得た(工程P106)。
【0053】
次に、粒子1をエチレングリコール(EG)水溶液に浸漬し、室温にて24時間放置し(水和処理)、液体2を得た(工程P108)。エチレングリコール水溶液のエチレングリコール:水の重量比は1:1である。工程P108によって生成された液体2をろ過して、粒子を取り出し、45℃にて24時間乾燥して粒子2を得た(工程P110)。粒子2は、外殻第1層の表面のシラノール基の割合を増大させたものである。
【0054】
工程P110によって得られた粒子2を、シェル源(TEOS100%)の液体に添加し、撹拌しながら室温にて24時間保持した(工程P112)。これにより、外殻第1層の上に外殻第2層が形成された(図1)。工程P112によって生成された液体3をろ過し、外殻第1層および外殻第2層が形成された粒子を取り出し、45℃にて24時間乾燥して実施例2の蓄熱体を得た(工程P106)。
【0055】
実施例3の蓄熱体は、実施例1の蓄熱体の製造工程のうち、工程P108、110を除くすべての工程を順に行うことにより得られた。すなわち、実施例3の蓄熱体も、実施例2の蓄熱体と同様に、2層構造(外殻第1層と外殻第2層)の外殻部を有する。
【0056】
実施例1、および比較例2、3の蓄熱体は、図3に示す蓄熱体の製造工程のうち、工程P102、P104、P106を順に行うことにより得られた。すなわち、実施例1、および比較例2、3の蓄熱体は、球状シリカ多孔体の表面に1層の外殻部が形成された蓄熱体である。すなわち、これらの蓄熱体は、外殻部として、外殻第1層のみを有する。実施例1、および比較例2、3は、互いに外殻部の原料(シェル源)が異なり、順に、TEOS100%、TEOS/エタノール、パーヒドロポリシラザン(以下、PHPSとも称する)である。比較例1の蓄熱体は、外殻部を有さない蓄熱体である。
【0057】
<外殻部の厚さの比較>
上述の実施例1、2、および比較例1を用いて、外殻部の厚さの違いによる蓄熱体の耐久性の違いについて説明する。ここで、耐久性は、有機溶媒に浸漬した場合の相変化材料の充填率の変化および有効蓄熱材の割合の変化を用いて評価している。
【0058】
図5は、実施例1、2の蓄熱体のSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)像である。図6は、比較例1の蓄熱体のSEM像である。図7は、SEM像より得られる各蓄熱体の諸元を示す図である。図7では、蓄熱体の平均粒子径と外殻部の厚みを示している。平均粒子径は、SEM像を用いて、それぞれ、200個の粒子の直径を実測し、その算術平均を用いている。実施例1、2の蓄熱体の外殻部が均一な厚みであると仮定して、各蓄熱体の平均粒子径を用いて、外殻部の厚みを以下の通り算出した。比較例1は、外殻部が形成されていない球状シリカ多孔体であるため、実施例1、2それぞれの平均粒子径から比較例1の平均粒子径を減じて、2で除した値を、実施例1、2それぞれの外殻部の厚みとした。
【0059】
図7に示すように、実施例1の蓄熱体は外殻部の厚みが0.55μmである。実施例2の蓄熱体は外殻部の厚みが0.11μmであり、実施例1の蓄熱体より外殻部が厚い。比較例1の蓄熱体は、外殻部を有さない。
【0060】
図8は、熱分析より得られる蓄熱体の諸元を示す図である。図8では、蓄熱体の耐久性評価として、有機溶媒への浸漬前後の相変化材料の充填率、蓄熱密度、有効蓄熱材の割合の変化を示している。球状シリカ多孔体の細孔内に在る相変化材料は、有効蓄熱材と無効蓄熱材とに分けられ、有効蓄熱材は融解/凝固によって潜熱を生み出せるものである(後に詳述する)。すなわち、蓄熱体としては、有効蓄熱材が多いことが好ましいため、耐久性試験では有効蓄熱材に割合の変化に注目している。耐久性試験では、有機溶媒としてのトルエン(液体)10mlに、蓄熱体0.1gを添加し、攪拌しながら60℃で3時間保持した。その後、ろ過し、45℃にて24時間乾燥した粒子を用いて評価を行った。
【0061】
図9は、耐久性試験結果を示す図である。図8図9に示すように、比較例1の蓄熱体では、トルエン浸漬後、有効蓄熱材はほとんど残っていない。これに対し、実施例1の蓄熱体は、トルエン浸漬後、有効蓄熱材が減少しているものの、半分以上残っている。さらに、実施例2の蓄熱材では、浸漬後も有効蓄熱材の充填率に変化がない。すなわち、蓄熱体において、外殻部が形成されていることにより、有効蓄熱材の溶出が抑制されたといえる。さらに、外殻部を厚くすることにより、有効蓄熱材の溶出を、さらに抑制することができた。実施例2の蓄熱体では、上述の通り、外殻層形成工程を2回行っているため(図3:工程P104、P112)、外殻部の緻密性が向上したと考えられる。実施例1、2の蓄熱体によれば、有機溶媒に浸漬した際の有効蓄熱材の溶出を、抑制することができた。
【0062】
充填率は、全細孔容量のうち、導入した相変化材料(以下、「PCM」とも呼ぶ)が占める割合を表し、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA:Thermogravimetry―Differential Theremal Analysis)から推定できる。この例では、熱重量・示差熱同時測定装置Thermoplus TG-8120 (RIGAKU製)を用いて測定した。
【0063】
図10は、相変化材料のTGA(Thermogravimetric analysis:熱重量分析)曲線を示す図である。150~700℃における重量減少分をPCM由来の有機分率として、細孔内におけるPCMの充填率を算出した。具体的には、下記の(式1)により算出した。
【0064】
充填率[vol%]=有機分率/PCM密度/細孔容量×100 … (式1)
【0065】
蓄熱体において、シリカ多孔体に保持されているPCMのPCM密度は、例えば、以下の方法で測定することができる。蓄熱体を加熱して蒸発したPCMのガスを、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により分析した質量情報を用いて算出することができる。
【0066】
実施例、比較例において、略同一形状の球状シリカ多孔体を用いており、細孔容量は、1.30~1.80[ml/g]である。細孔容量[ml/g]は、測定した窒素吸着等温線から、BET(Brunauer、Emmett、およびTeller)プロットより推定した。
【0067】
図11は、相変化材料のDSC曲線を示す図である。図11(a)はエリスリトール、図11(b)は直鎖パラフィンの代表的な示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)曲線である。図示するように、吸熱ピークと放熱ピークの差が過冷却度である。また、図示するように、吸熱曲線のピーク面積(図においてハッチングを付して示す)が蓄熱量に相当する。
【0068】
有効蓄熱材割合は、細孔内を占める全PCMのうち、融解/凝固によって潜熱を生み出せるPCMの割合を表し、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により推定できる(潜熱蓄熱密度[J/g])。本実施例では、-20℃~150℃の条件で、10℃/minの昇温/降温速度により、示差走査熱量計DSC Q1000(TA Instruments製)を用いて示差走査熱量測定を実施した。一方、無効蓄熱材は、全PCMから有効蓄熱材を差し引いたものである。
【0069】
有効蓄熱材は、下記(式2)、(式3)を用いて算出することができる。
有効蓄熱材[vol%]=みかけ潜熱/PCM潜熱×100 … (式2)
みかけ潜熱=蓄熱量/PCM密度/細孔容量 … (式3)
【0070】
<水和処理の効果>
ここでは、2層構造の外殻部を有する蓄熱体の製造方法において、水和処理(図3:工程P108)を行うことの効果について、図12図15を用いて説明する。
【0071】
図12は、実施例2、3の蓄熱体のSEM像である。図13は、実施例2、3および比較例1の蓄熱体のSEM像より得られる諸元を示す図である。図13では、図7と同様に、蓄熱体の平均粒子径と外殻部の厚みを示しており、平均粒子径、および外殻部の厚みの算出方法は、図7と同じである。
【0072】
上述の通り、実施例2の蓄熱体は、図3に記載の全ての工程を行って蓄熱体を製造しており、水和処理を行っている。実施例3の蓄熱体は、実施例2の蓄熱体の製造工程のうち、工程P108、110を除くすべての工程を順に行って蓄熱体を製造しており、水和処理を行っていない。
【0073】
図13に示すように、実施例2の蓄熱体の外殻部の厚みは0.11μmであり、実施例3の蓄熱体の外殻部の厚みは0.08μmであり、水和処理を行うことにより外殻部の厚みを厚くすることができた。蓄熱体の製造方法において、外殻第1層を形成した後に水和処理を行うと、外殻第1層の表面のシラノール基の割合が増大するため、外殻第2層が形成されやすくなり、外殻部の厚みを厚くすることができる。なお、実施例3の蓄熱体の外殻部の厚みは、実施例1の蓄熱体の外殻厚み(図7:0.055μm)より厚く、外殻第2層が形成されているといえる。すなわち、水和処理を行わなくても、外殻第2層を形成することができるものの、水和処理を行うことにより、外殻部の厚みを厚くすることができる。
【0074】
図14は、実施例2、3および比較例1の蓄熱体の熱分析より得られる諸元を示す図である。図14では、図8と同じ耐久性評価(トルエン浸漬)を行った結果を示している。
【0075】
図15は、耐久性試験結果を示す図である。図14図15に示すように、比較例1の蓄熱体では、トルエン浸漬後、有効蓄熱材はほとんど残っていない。これに対し、実施例3の蓄熱体では、トルエン浸漬後、有効蓄熱材が減少しているものの、半分以上残っている。さらに、実施例2の蓄熱体では、トルエン浸漬後も有効蓄熱材の充填率に変化がない。すなわち、複数層の外殻部を有する蓄熱体の製造方法において、外殻部の層を形成する間に水和処理を行うことにより、外殻部の厚みを厚くすることができ、有機溶媒への浸漬後の蓄熱材の溶出をより抑制することができる。また、実施例3の蓄熱体は、2層構造の外殻部で、外殻部の厚みは0.08μmであって、実施例1の蓄熱体(図7:1層構造の外殻部、厚み0.055μm)より外殻部の厚みが厚いものの、有機溶媒浸漬後の有効蓄熱材割合は、第1実施例の蓄熱体と同じである。この結果から、実施例3の蓄熱体は外殻部の緻密性が低かったと考えられる。すなわち、複数層構造の外殻部を有する蓄熱体の製造方法において、水和処理を行うことにより、外殻部の緻密性を向上させることができる。
【0076】
<シェル源の比較>
ここでは、外殻部の原料(シェル源)としてTEOSとPHPSを用い、シェル源の違いによる蓄熱体の耐久性の違いについて、図16図23を用いて説明する。
図16は、シェル源の主な諸元を示す図である。図示するように、実施例1~3の蓄熱体では、シェル源としてTEOS100%の液体が用いられている。比較例2の蓄熱体では、溶媒としてエタノールを用い、TEOSとエタノールの重量比が1:1のTEOS溶液が、シェル源として用いられている。比較例3の蓄熱体では、シェル源としてPHPS溶液が用いられている。ここでは、PHPSとして、Durazane2200(Merck製)とDurazane2800(Merck製)を、重量比1:1で混合した。Durazane2200とDurazane2800の溶媒はジブチルエーテル(以下、DBEとも称する)である。Durazane2200のPHPS濃度は20%であり、Durazane2800のPHPS濃度は15%である。Durazane2200は触媒を含有せず、硬化スピードが遅く、一方、Durazane2800は、アミン系の触媒を含有し、硬化スピードが非常に早い。図16では、PHPSの溶媒として、キシレンも記載している。他の例において、PHPSとして、例えば、Durazane2600(Merck製)等の他のPHPSを用いてもよい。Durazane2600は、溶媒はキシレンであり、PHPS濃度が15%、アミン系触媒を含有し、硬化スピードが早い。
【0077】
図17は、実施例1の蓄熱体のSEM像である。図18は、比較例1、2の蓄熱体のSEM像である。図19は、比較例3の蓄熱体のSEM像である。図20は、実施例1、および比較例1~3の蓄熱体のSEM像より得られる諸元を示す図である。図20では、図7と同様に、蓄熱体の平均粒子径と外殻部の厚みを示しており、平均粒子径、および外殻部の厚みの算出方法は、図7と同じである。
【0078】
実施例1、および比較例2、3は、上述の通り、図3に示す製造工程の工程P102~工程P106を順に行うことにより製造されており、外殻部は1層構造である。図20に示す通り、実施例1の蓄熱体の外殻部のシェル源は、TEOS100%であり、比較例2の蓄熱体の外殻部のシェル源はTEOS/エタノール(重量比が1:1)、比較例3の蓄熱体の外殻部のシェル源はPHPSである。比較例2、3の蓄熱体は、実施例1の蓄熱体と比較して外殻部の厚みが薄い。
【0079】
図21は、実施例1および比較例1~3の蓄熱体の熱分析より得られる諸元を示す図である。図21では、図8と同じ耐久性評価(トルエン浸漬)を行った結果を示している。
【0080】
図22は、耐久性試験結果を示す図である。図21図22に示すように、比較例1の蓄熱体(外殻部なし)では、トルエン浸漬後(耐久性試験後)、有効蓄熱材はほとんど残っていない。比較例2の蓄熱体では、トルエン浸漬前であっても、有効蓄熱材の充填率が比較例1の半分程度になっており、有効蓄熱材の充填率が低い。比較例2の蓄熱体はシェル源がエタノールを含むため、外殻部を形成する際に、エタノールと相変化材料との間の相互作用により有効蓄熱材割合が減少したと考えられる。そして、比較例2の蓄熱体では、トルエン浸漬後、比較例1の蓄熱体と同様に、有効蓄熱材はほとんど残っていない。
【0081】
比較例3の蓄熱体は、トルエン浸漬前において、比較例1の蓄熱体(外殻部なし)より相変化材料の充填率が減少しているものの、有効蓄熱材の充填率は比較例2の蓄熱体ほど減少していないため、外殻形成時の相変化材料とPHPS/DBEとの相互作用の影響はほとんどないと考えられる。比較例3の蓄熱体では、トルエン浸漬後、比較例1、2の蓄熱体と比較すると有効蓄熱材が残っているものの、実施例1と比較すると、有効蓄熱材の充填率が低く、トルエン浸漬により、有効蓄熱材が溶出し、また、有効蓄熱材の一部が無効化したと考えられる。すなわち、TEOS100%をシェル源として用いた場合には、PHPSをシェル源として用いるよりも、外殻部の緻密性を向上させることができ、有効蓄熱材の溶出をより抑制することができると考えられる。外殻部の緻密性が不完全な場合(欠陥が多い)には、有機溶媒が球状シリカ多孔体の細孔内に浸入し相変化材料を溶解させ、溶解された相変化材料が外部に流れ出すと考えられる。
【0082】
図23は、外殻部の形成を概念的に示す説明図である。図23(a)はシェル源がTEOSの例を示し、図23(b)はシェル源がPHPSの例を示す。図23において、シェル源TEOSに符号300tを付し、シェル源PHPSに300pを付している。図23(a)と図23(b)に示す球状シリカ多孔体100の細孔10の細孔径は同一である。TEOSは分子径が小さいため、図示するように、細孔10内で架橋して細孔を塞ぐことができる。PHPSは、分子径が大きいため、細孔10上部を架橋して細孔を塞ぐことができる。図23(a)に示すように、シェル源TEOSが細孔内で架橋して細孔を塞ぐことができると、架橋距離が短くなるため、緻密性が高い外殻部を形成することができるため、有機溶媒の浸入を抑制することができ、相変化材料の溶出をより抑制することができる。そのため、外殻部のシェル源の分子径が球状シリカ多孔体の細孔径より小さいことが好ましい。一方、分子径が球状シリカ多孔体の細孔径以上であるシェル源PHPSが、図23(b)に示すように細孔10の上部を架橋して細孔を塞ぐ場合、架橋距離が長くなり、緻密性が低くなると考えられる。なお、蓄熱体の外殻部の元素分析を行い、例えば、外殻部に窒素原子(N)が残っていたら、シェル源がPHPSであると推測でき、分子径を推測することができる。
【0083】
以上説明したように、実施例の蓄熱体によれば、比較例1の蓄熱体と比較して、中実なシリカ結晶で形成された外殻部を有するため、有機溶媒に浸漬された際の有効蓄熱材の溶出を抑制することができ、蓄熱体の耐久性を向上させることができる。
【0084】
また、実施例の蓄熱体によれば、比較例2、3の蓄熱体と比較して、外殻部の厚みが0.55μm以上であり、十分な厚みを有するため、より有効蓄熱材の溶出を抑制することができた。細孔の規則性が高く、かつ細孔の中心細孔直径が1nm以上20nm以下であるため、十分な蓄熱密度を得ることができ、十分な蓄熱性を得ることができた。
【0085】
以上、実施形態、実施例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0086】
本発明は、以下の適用例としても実現することが可能である。
[適用例1]
複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体を有する蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中に含有される相変化材料と、
中実なシリカ結晶で形成され、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、
前記球状シリカ多孔体において、
前記複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ前記球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている、
蓄熱体。
[適用例2]
適用例1に記載の蓄熱体であって、
前記外殻部の厚みは、0.055μm以上である、
蓄熱体。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中心細孔直径が、1nm以上20nm以下である、
蓄熱体。
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の20%以内である、
蓄熱体。
[適用例5]
適用例1から適用例4のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の直径が、10nm以上3000nm以下である、
蓄熱体。
[適用例6]
適用例1から適用例5のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下である、
蓄熱体。
[適用例7]
適用例1から適用例6のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記相変化材料は、糖アルコールおよびパラフィンの少なくともいずれか一方である、
蓄熱体。
[適用例8]
適用例1から適用例6のいずれか一項に記載の蓄熱体であって、
前記外殻部は、原料の分子サイズが前記球状シリカ多孔体の細孔径より小さい、
蓄熱体。
【符号の説明】
【0087】
1…蓄熱体
10、10A、10B…細孔
12、12A…界面活性剤
100、100A、100B…球状シリカ多孔体
200、200L、200S…相変化材料
300…外殻部
310…外殻第1層
320…外殻第2層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23