(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122126
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】冷却液
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240902BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20240902BHJP
F28F 23/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C09K5/06
C09K5/06 M ZAB
C09K5/06 L
F28D20/02 Z
F28F23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029491
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】村松 憲志郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 アウン
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
(72)【発明者】
【氏名】小原 公和
(72)【発明者】
【氏名】茶木田 浩
(57)【要約】
【課題】冷却液の熱交換能力を向上させる他の技術を提供する。
【解決手段】ベース液体と、ベース液体中に含有される単分散性の微粒子と、を含む冷却液において、微粒子は、複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体と、球状シリカ多孔体の複数の細孔の中に含有される相変化材料と、中実なシリカ結晶で形成され、球状シリカ多孔体の複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、球状シリカ多孔体において、複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース液体と、前記ベース液体中に含有される単分散性の微粒子と、を含む冷却液であって、
前記微粒子は、
複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体と、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中に含有される相変化材料と、
中実なシリカ結晶で形成され、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、
前記球状シリカ多孔体において、
前記複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ前記球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている、
冷却液。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記外殻部の厚みは、0.055μm以上である、
冷却液。
【請求項3】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記ベース液体中に前記微粒子が分散されたときの前記微粒子の表面のゼータ電位の絶対値が16.2mV以上である、
冷却液。
【請求項4】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子の濃度は、30重量%以下である、
冷却液。
【請求項5】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中心細孔直径が、1nm以上20nm以下である、
冷却液。
【請求項6】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の20%以内である、
冷却液。
【請求項7】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の直径が、10nm以上3000nm以下である、
冷却液。
【請求項8】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下である、
冷却液。
【請求項9】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記相変化材料は、糖アルコールおよびパラフィンの少なくともいずれか一方である、
冷却液。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記外殻部は、原料の分子サイズが前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の細孔径より小さい、
冷却液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質(潜熱蓄熱材)を固体に保持し、蓄熱を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、有孔中空シリカ粒子に相変化物質が内包され、その表面に硬殻が形成された硬殻マイクロカプセル化潜熱輸送物質が開示されている。
【0003】
ところで、自動車、電動航空機、スーパーコンピュータ等の冷却系では、従来、液体の熱輸送流体(以下、「冷却液」と称する)を用いた熱輸送システムが採用されている。このような熱輸送システムにおいて、潜熱蓄熱材(以下、単に「蓄熱材」とも称する)を用いることにより温度制御性能を向上させる技術が検討されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0004】
特許文献2には、冷却液としてのオイルと、別容器に貯留する蓄熱材とを切り替えて用いる電動モータの冷却装置が開示されている。この構成により、電動モータの温度上昇の抑制効果を向上させると共に冷却液の温度低下を抑制することが可能であると記載されている。
【0005】
特許文献3には、潜熱蓄熱材が封入されたマイクロカプセル、そのマイクロカプセルが分散された基剤及び防錆剤を含有する冷却液組成物が開示されている。マイクロカプセルの形状を凹状にすることにより、潜熱蓄熱材の融解、凝固時の熱伝導性が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/025529号
【特許文献2】特開2018-182854号公報
【特許文献3】特許第2013-112687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、硬殻を形成する際に有孔中空シリカ粒子から相変化材料が流出し、マイクロカプセルにおける相変化材料の充填率が低下する可能性がある。また、特許文献2に記載の技術では、蓄熱材を貯留する別容器が必要であるため、システムが複雑化し、コストが増加する。また、特許文献3の技術では、マイクロカプセルの形状が球状でないため、冷却液の流路内の縮流部などで閉塞の虞がある。
【0008】
本発明は、冷却液の熱交換能力を向上させる他の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本発明の一形態によれば、ベース液体と、前記ベース液体中に含有される単分散性の微粒子と、を含む冷却液が提供される。この冷却液に含まれる前記微粒子は、複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体と、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中に含有される相変化材料と、中実なシリカ結晶で形成され、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、前記球状シリカ多孔体において、前記複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ前記球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている。
【0011】
この構成によれば、冷却液において、相変化材料を内包する単分散性の微粒子を、ベース液体中に含有する。微粒子が潜熱蓄熱体として機能するため、例えば、電動化車両において、電池やモータの冷却液としてこの構成の冷却液を利用すると、相変化材料が融解/凝固している間は熱を吸収/放出し続けるため、その融点付近で温度が維持される。このため、電池やモータなどの高温物体や、ラジエータ内における低温の外部空気と、冷却液との温度差が大きくなり、熱交換能力を向上させることができる。ここで、熱交換能力=冷却液密度×体積流量×比熱×温度差である。
【0012】
また、微粒子が外殻部を備えるため、仮に、微粒子が有機溶媒に接触したとしても、微粒子に内包される相変化材料の溶出を抑制することができる。そのため、仮に冷却液に有機溶媒が混入したとしても相変化材料の溶出を抑制することができ、冷却液の熱交換性能の低下を抑制することができる。また、ベース液体として、有機溶媒を含む水系の熱媒体(いわゆる、エマルション系クーラント)や、有機系の熱媒体を用いることができる。
【0013】
また、微粒子が単分散性であるため、ベース液体の中で単分散され、微粒子が凝集することによる熱交換能力の低下を抑制することができる。ここで、単分散性とは、粒子の大きさが略均一であって凝集せずに散らばりやすい状態のことをいう。例えば、平均粒子径に対する粒子径分布の幅の割合(%)が±15%以下であると「単分散性」であるといえる。
【0014】
また、微粒子が有する球状シリカ多孔体は、複数の細孔が球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されており、細孔の一端が開放されていないため、相変化材料の漏洩をより抑制することができる。さらに、細孔の形状が略円柱状であるため、相変化材料は毛管力で保持され、仮に、相変化材料が有機溶媒に溶融しても、外部への漏洩を抑制することができる。その結果、微粒子の蓄熱の安定性を向上させることができ、冷却液の熱交換能力の低下を抑制することができる。
【0015】
(2)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記外殻部の厚みは、0.055μm以上であってもよい。このようにすると、冷却液に有機溶媒が混入した場合や、ベース液体として有機系の熱媒体を用いる場合にも、相変化材料の溶出をより抑制することができる。そのため、冷却液の熱交換能力の低下を抑制することができる。
【0016】
(3)上記形態の冷却液であって、前記ベース液体中に前記微粒子が分散されたときの前記微粒子の表面のゼータ電位の絶対値が16.2mV以上であってもよい。このようにすると、ベース液体中の多孔質微粒子の単分散性を、より良好にすることができる。
【0017】
(4)上記形態の冷却液であって、前記微粒子の濃度は、30重量%以下であってもよい。このようにすると、冷却液の粘性の増大を抑制し、冷却液の流動時に流路のオリフィス部などで閉塞が生じることを抑制することができる。
【0018】
(5)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中心細孔直径が、1nm以上20nm以下であってもよい。このようにすると、球状シリカ多孔体の細孔に十分な量の相変化材料が充填された微粒子を含む冷却液となるため、微粒子による蓄熱性をさらに向上させることができ、より冷却液の熱交換能力を向上させることができる。
【0019】
(6)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の20%以内であってもよい。このようにすると、球状シリカ多孔体の細孔径の均一性が高いため、毛管力がより均一に働き、相変化材料の充填率を向上させることができ、微粒子の蓄熱性をさらに向上させることができる。そのため、冷却液の熱交換能力を向上させることができる。
【0020】
(7)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の直径が、10nm以上3000nm以下であってもよい。このようにすると、冷却液における微粒子の単分散性を向上させることができ、冷却液の熱交換能力の低下をより抑制することができる。
【0021】
(8)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下であってもよい。このようにすると、潜熱蓄熱材として有効にはたらく相変化材料の割合を増やし、蓄熱密度を増大させることができるため、冷却液の熱交換能力をさらに向上させることができる。
【0022】
(9)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記相変化材料は、糖アルコールおよびパラフィンの少なくともいずれか一方であってもよい。糖アルコールは蓄熱密度が大きいため、良好な蓄熱性を有する微粒子を提供することができる。パラフィンは、過冷却度が小さいため、蓄熱効率の低下を抑制することができる。そのため、冷却液の熱交換能力を良好にすることができる。
【0023】
(10)上記形態の冷却液であって、前記微粒子が有する前記外殻部は、原料の分子サイズが前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の細孔径より小さくてもよい。このようにすると、微粒子の外殻部の原料の分子が球状シリカ多孔体の細孔の内部で架橋して細孔を塞ぎやすいため、外殻部の緻密性を向上させることができ、相変化材料の溶出をより抑制することができる。そのため、冷却液の熱交換能力の低下をより抑制することができる。
【0024】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、冷却液を用いる熱輸送システム、その熱輸送システムを備えるシステム、冷却液の製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】実施形態の冷却液を説明するための説明図である。
【
図3】微粒子の概略構成と微粒子における蓄熱を概念的に示す説明図である。
【
図4】球状シリカ多孔体の構成を概念的に示す説明図である。
【
図5】実施形態の冷却液の放熱力向上の概念を示す説明図である。
【
図6】冷却液中の微粒子の濃度が10wt%の場合の冷却液温度の試算結果を示す図である。
【
図7】冷却液中の微粒子の濃度が20wt%の場合の冷却液温度の試算結果を示す図である。
【
図8】冷却液中の微粒子濃度と伝熱向上比率との関係を示す図である。
【
図9】冷却液中の各微粒子濃度における伝熱向上比率を示す図である。
【
図10】微粒子の製造工程の一例を示す工程図である。
【
図11】実施例1~3と比較例1~3に用いられる球状シリカ多孔体の製造方法を概念的に示す説明図である。
【
図14】SEM像より得られる各微粒子の諸元を示す図である。
【
図15】熱分析より得られる微粒子の諸元を示す図である。
【
図20】実施例2、3および比較例1の微粒子のSEM像より得られる諸元を示す図である。
【
図21】実施例2、3および比較例1の微粒子の熱分析より得られる諸元を示す図である。
【
図27】実施例1、および比較例1~3の微粒子のSEM像より得られる諸元を示す図である。
【
図28】実施例1および比較例1~3の微粒子の熱分析より得られる諸元を示す図である。
【
図30】外殻部の形成を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<実施形態>
図1は、実施形態における熱輸送システム1100の概略構成を示す説明図である。熱輸送システム1100は、冷却液CL(液体の熱媒体)を用いて、熱源を放熱させるシステムである。本実施形態の冷却液CLは、ベース液体と、単分散性の微粒子とを含む。
【0027】
熱輸送システム1100は、第1熱交換器110と、第2熱交換器120と、冷却液タンク130と、バルブ140と、冷却液CLを送液するポンプ150と、を備える。第1熱交換器110と、第2熱交換器120と、冷却液タンク130と、ポンプ150とは、配管62、63、64、65を介して環状に接続されている。冷却液CLは、ポンプ150によって、配管62、63、64、65を介して、第1熱交換器110、第2熱交換器120、冷却液タンク130の順に循環している。
【0028】
第1熱交換器110は、冷却液CLを用いて熱源を放熱させる。本実施形態では、熱源として、電気自動車に搭載された電池CEを例示する。
【0029】
第2熱交換器120は、第1熱交換器110の下流に配置されており、第1熱交換器110を通過した冷却液CLを放熱させる。本実施形態では、第2熱交換器120としてラジエータを例示する。
【0030】
冷却液タンク130は、内部に冷却液CLを有する。冷却液CLは、上述の通り、ベース液体と、単分散性の微粒子と、を含んでいる。
図1では、冷却液CLに含まれる微粒子を拡大して図示している。
【0031】
配管64上にはバルブ140が設けられており、例えば、電気自動車の運転中に開弁される。
【0032】
図2は、本実施形態の冷却液CLを説明するための説明図である。本実施形態の冷却液CLは、ベース液体Lと、ベース液体L中に含まれる単分散性の微粒子Pを含む。ここで、単分散性とは、粒子の大きさが略均一であって凝集せずに散らばりやすい状態のことをいう。例えば、平均粒子径に対する粒子径分布の幅の割合(%)が±15%以下であると「単分散性」であるといえる。微粒子Pは単分散性であるため、冷却液CLが静置されている場合に微粒子Pが沈殿していても、熱輸送システム1100が駆動され、冷却液CLが受放熱部を循環すると、微粒子Pはベース液体L中に単分散される。
図2では、微粒子Pに斜線ハッチングを付して示し、一部の微粒子Pに符号を付して、残余の微粒子Pの符号の図示を省略している。
【0033】
冷却液CLにおいて、ベース液体L中に微粒子Pが分散されたときの微粒子Pの表面のゼータ電位の絶対値は、特に限定されないが、16.2mV以上が好ましい。このようにすると、例えば、本願出願人の特許第7194129号に記載されたように、ベース液体L中の微粒子Pの単分散性を、より良好にすることができる。なお、特許第7194129号に記載されているように、微粒子Pの外殻部300の厚みを制御することで、微粒子P表面のゼータ電位を制御することが可能である。ゼータ電位は、Dynamic Light Scattering(DLS)により測定することができる。
【0034】
冷却液CLにおける微粒子Pの濃度は、30wt%以下が好ましく、より好ましくは20wt%以下である。冷却液CLにおける微粒子Pの濃度は、30wt%以下にすると、冷却液CLの粘性の増加を抑制することができ、冷却液CLの流動時に、流路のオリフィス部などで閉塞が生じるのを抑制することができる。
【0035】
図1、
図2に示すように、冷却液CLは、第1熱交換器110内を流通する際に、電池CEと熱交換を行い電池CEを冷却し、第2熱交換器120内を流通する際に、外部の空気と熱交換を行い放熱する。
【0036】
・ベース液体:
ベース液体Lは、液体の熱媒体であり、その組成は特に限定されるものではなく、目的に応じて組成を選択することができる。ベース液体Lは、例えば、水、アルコール水溶液等種々の液体を用いることができる。ベース液体Lは、水系クーラント、非水系クーラント、エマルション系クーラントの何れであってもよい。水系クーラントとしては、水と、水と互溶する凝固点降下剤とを混合した、水系クーラント(いわゆる、不凍液:例えば、凝固点≦-20℃)である。水の割合は任意だが、30~50wt%が好ましい。凝固点降下剤としては、アルコール系が好ましい。粘性低減の観点からは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールなどのアルコール類が好ましく、低蒸気圧や実績の観点からは、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類が好ましい。また、凝固点降下剤としてポリアルキレングリコール、グリコールエーテル等の他のグリコール類を用いてもよい。さらに、防錆剤を添加してもよい。水による金属腐食を抑制し、金属イオン溶出も抑制される。防錆剤は、絶縁性の観点から、非イオン系防錆剤が好ましい。また、対Cu防錆の観点からは、トリアゾール系防錆剤などが好ましく、対Al防錆の観点からは、シリコン系防錆剤などが好ましい。非水系クーラントとしては、例えばオイルやフッ素系媒体など高電気絶縁性のクーラントがある。高電気絶縁性のクーラントは電気部品である電池やインバータ、モータ、ECU、CPUなどの冷却に好適であり、さらに高電気絶縁性であることから液浸型の高性能冷却も可能である。
【0037】
・微粒子:
図3は、微粒子Pの概略構成と微粒子Pにおける蓄熱を概念的に示す説明図である。
図3では、微粒子Pの一部を切欠いて、内部構成を図示している。微粒子Pは、複数の細孔10を有する球状シリカ多孔体100と、細孔10内に在る相変化材料200と、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10を塞ぐ外殻部300と、を有する。
【0038】
球状シリカ多孔体100の細孔10の形状は略円柱状である。複数の細孔10は、細孔径が均一であり、かつ球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されている。図において、一部の細孔10、および一部の相変化材料200に符号を付し、他の部分の符号の付与を省略している。
図3は、微粒子Pを概念的に示したものであり、細孔の数は図示されたものより多くても少なくてもよい。また、相変化材料200が細孔10の全体に亘り充填されている例を図示しているが、細孔10の一部に相変化材料200が充填されていてもよい。また、外殻部300が球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の全部を塞ぐ例を図示しているが、外殻部300は、複数の細孔10の少なくとも一部を塞いでいればよい。
【0039】
相変化材料200は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる。微粒子Pは、相変化材料200の相変化(固体、液体)を利用して熱を吸収・放出させる。詳しくは、球状シリカ多孔体100に保持されている相変化材料200が固体の相変化材料200S(
図3の上段)から液体の相変化材料200L(
図3の下段)へ変化するとき、融解点付近で周囲の熱を吸収し、融解点付近の温度を維持しようとし、逆に液体の相変化材料200L(
図3の下段)から固体の相変化材料200S(
図1の上段)に変化するときに凝固点付近で周囲に熱を放出し、完全に凝固するまで凝固点付近の温度を維持しようとする。すなわち、微粒子Pは相変化材料200の凝固、融解に伴う潜熱の吸放出を利用して蓄熱する。
図3では、固体の相変化材料200にクロスハッチングを付し、符号200Sを示し、液体の相変化材料200にドットハッチングを付し、符号200Lを示している。
【0040】
(1)球状シリカ多孔体100
図4は、球状シリカ多孔体100の構成を概念的に示す説明図である。
図4では、
図3と同様に、球状シリカ多孔体100の一部を切欠いて、細孔10の形状および配列を図示している。細孔10は、断面にハッチングを付して示している。図示するように、球状シリカ多孔体100は、複数の略円柱状の細孔10を有し、複数の細孔10は球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されている。複数の細孔10の配列は、微粒子PをTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)により観察することにより確認することができる。なお、微粒子Pの細孔に金属(例えば、白金)を導入してTEMにより観察することにより、より鮮明に複数の細孔の配列を確認することができる。
【0041】
複数の細孔10が球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されており、細孔10の一端が開放されていないため、相変化材料200の漏洩をより抑制することができる。また、細孔10の形状が略円柱状であるため、相変化材料200は毛管力で保持され、仮に、相変化材料が有機溶媒に溶融しても、外部への漏洩を抑制することができ、保持の安定性を維持することができる。
【0042】
複数の細孔10の中心細孔直径は、特に限定されないが、1nm以上20nm以下であることが好ましい。より好ましくは、2nm以上10nm以下である。球状シリカ多孔体100の細孔10の直径が小さすぎると相変化材料200の導入が困難な場合がある。また、球状シリカ多孔体100の細孔10内への相変化材料200の導入は、細孔10の毛管力を利用して行われるため、球状シリカ多孔体100の細孔10の直径が大きすぎても毛管力が有効に働かず、相変化材料200が十分に充填されない場合がある。相変化材料200の充填量が十分でないと、微粒子Pによる蓄熱量が小さくなる。球状シリカ多孔体100の細孔10の中心細孔直径が1nm以上20nm以下であると、十分な量の相変化材料200が充填され、微粒子Pによる蓄熱性を向上させることができる。
【0043】
球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の細孔径は均一である。ここで、細孔径が均一であるとは、細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の35%以内であることを意味する。中心細孔直径とは、細孔径分布曲線において、1nmより大きい範囲で極大ピークを示した細孔直径をいう。球状シリカ多孔体100の複数の細孔10は、細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の25%以内であることが好ましい。より好ましくは20%以内である。このようにすると、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の細孔径の均一性が高いため、毛管力がより均一に働き、相変化材料200の充填率を向上させることができるため、より蓄熱性が高い微粒子Pにすることができる。
【0044】
球状シリカ多孔体100の直径は特に限定されないが、数百nmオーダーにするのが好ましい。球状シリカ多孔体100の直径は10nm以上30000nm以下がより好ましい。このようにすると、複数の微粒子Pをベース液体Lに分散させる場合の単分散性を向上させることができる。球状シリカ多孔体100は、複数の細孔10の細孔径が均一であり、かつ複数の細孔10が球状シリカ多孔体100の中心から表面に向かって放射状に配列されているため、「規則性が高い細孔を有する球状シリカ多孔体」ともいえる。
【0045】
球状シリカ多孔体100の複数の細孔の細孔容量および単位細孔容量あたりの比表面積は特に限定されないが、細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下であるのが好ましい。このようにすると、潜熱蓄熱材として有効にはたらく相変化材料200の割合が多くなるため、蓄熱密度が高い微粒子Pとすることができる。
【0046】
球状シリカ多孔体100は、特許5480461号に記載の方法により合成することができる。合成時において、界面活性剤の種類を変更することにより、細孔10の直径を調整することができる。また、合成後に界面活性剤を別の界面活性剤に置換する、膨潤剤を導入する、酸性条件下で水熱処理する等により、細孔径を拡大することができる。球状シリカ多孔体100の形状(直径、複数の細孔の配列、細孔直径、細孔容量)、その効果の詳細、および製造方法は、例えば、本願出願人による既出願である特願2021-196743、特願2021-196745に記載された通りである。
【0047】
(2)相変化材料200
微粒子Pにおいて、球状シリカ多孔体100の細孔10内には相変化材料200が保持されている(
図3)。相変化材料200は、特に限定されないが、糖アルコールは蓄熱密度が大きく、良好な蓄熱性を有する蓄熱体を提供することができるため、好ましい。また、パラフィンは、過冷却度が小さく、蓄熱効率の低下を抑制することができるため、好ましい。糖アルコールとしては、エリスリトールが好ましく、パラフィンとしては直鎖パラフィンが好ましい。その他、マンニトール、ガラクチトール、キシリトール、ソルビトール、リビトール等の糖アルコール、無機リン酸塩等の無機塩、分岐パラフィン、無機水和物等を相変化材料200として用いることができる。相変化材料の種類とその効果の詳細は、例えば、本願出願人による既出願である特願2021-196743、特願2021-196745に記載された通りである。
【0048】
(3)外殻部300
外殻部300は、中実なシリカ結晶で形成され、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の少なくとも一部を塞ぐ。ここで、「中実なシリカ結晶」とは、緻密性が高く、実質的に孔を有さない、いわゆる無孔質のシリカ結晶をいう。外殻部300が中実であることは、微粒子PのTEM像で確認することができる。
図3では、外殻部300として、外殻第1層310と、外殻第2層320を有する2層構造を例示したが、外殻部は1層であってもよいし、3層以上であってもよい。
【0049】
外殻部300の原料(以下、「シェル源」とも称する)は、中実なシリカ結晶を形成するものであれば、得に限定されないが、シェル源の分子サイズが球状シリカ多孔体100の細孔10の細孔径より小さいものが好ましい。例えば、外殻部300の原料として、テトラエチルオルソシリケート(以下、「TEOS」とも表示する)を用いると、分子径が小さいため、球状シリカ多孔体100の複数の細孔10の内部で架橋して細孔を塞ぎやすく、緻密性が高い外殻部300が形成される。微粒子Pの製造方法については、後述する。
【0050】
<冷却液温度の試算>
図5は、本実施形態の冷却液の放熱力向上の概念を示す説明図である。
図5(A)は、第2熱交換器120としてのラジエータにおける冷却液の出口温度の試算条件を示し、
図5(B)は、その試算結果を概念的に示す。
図5(B)において、本実施形態の一例の冷却液を実線で示し、比較例の冷却液を破線で示す。
【0051】
ここでは、下記の試算条件で、冷却液温度の試算を行った。
[実施形態の冷却液]
ベース液体:濃度50wt%のエチレングリコール水溶液
微粒子の蓄熱密度:70J/g(充填率:37vol%)
相変化材料(蓄熱材):直鎖パラフィン(Rubitherm, RT90HC)
[比較例の冷却液]
濃度50wt%のエチレングリコール水溶液
[ラジエータ]
空気側放熱面積:20.353m2
冷却水側放熱面積:3.347m2
風速:4m/s
基準放熱能力:68.7kW (比較例の冷却液を用いた場合)
ラジエータサイズ(mm):873(高さ),334(幅),48(奥行き)
本明細書中では、重量%濃度をwt%とも示し、体積%濃度をvol%とも示す。
【0052】
図5(B)に示すとおり、冷却液がラジエータに導入され、ラジエータ内を流通する間に、冷却液と空気との間で熱交換がなされ冷却液が放熱し、冷却液の温度が低下する。本実施形態の冷却液を用いた場合、ラジエータに導入された後、暫くは、相変化材料が液体から固体へ相変化しており(凝固)、熱を放出し続けているため、相変化材料の融点付近で温度が維持される。そのため、図示するように、ラジエータの冷却液入口から、ある距離までの間は、冷却液の温度が低下しない。そのため、本実施形態の冷却液と空気の温度との温度差が大きく、比較例の冷却液と比較して、放熱能力を向上させることができる。
【0053】
図6は、冷却液中の微粒子の濃度が10wt%の場合の冷却液温度の試算結果を示す図である。
図6に示す試算結果は、上記の試算条件で、冷却液中の微粒子の濃度を10wt%として、Excel上の1Dシミュレーションにより試算した結果である。図示の通り、本実施形態の冷却液は、ラジエータ出口において、冷却液温度が、比較例の冷却液より低くなっている。すなわち、本実施形態の冷却液は、比較例の冷却液と比較して、熱交換能力が向上される。
【0054】
図7は、冷却液中の微粒子の濃度が20wt%の場合の冷却液温度の試算結果を示す図である。
図7に示す試算結果も上記と同じ試算方法により試算したものである。図示の通り、本実施形態の冷却液は、ラジエータ出口において、冷却液温度が、比較例の冷却液より低くなっている。そして、この例の冷却液は、
図6に示す例よりも、ラジエータ出口における冷却液温度を低下させることができる。すなわち、冷却液中の微粒子の濃度を高めることにより、冷却液の熱交換能力を向上させることができる。
【0055】
図8は、冷却液中の微粒子濃度と伝熱向上比率との関係を示す図である。ここでは、上記の試算条件に示す冷却液において微粒子の濃度を変更して、放熱出力Q[kW]を下記(式1)により算出した。そして、微粒子を含まない(すなわち、微粒子濃度0wt%)場合(上記の比較例)に対する伝熱量の比を、伝熱向上比率として示している。すなわち、微粒子を含まない(微粒子濃度0wt%)場合の伝熱向上比率を1としている。
Q=ρCpF(T
1-T
2)・・・(式1)
ここで、ρ:密度[kg/m
3]、Cp:比熱[kJ/kgK]、
F:体積流量[m
3/s]、T
1:ラジエータ入口温度[℃]、
T
2:ラジエーター出口温度[℃]
【0056】
図9は、冷却液中の各微粒子濃度における伝熱向上比率を示す図である。
図9は、
図8に示したのと同じ試算結果を示している。
図8、
図9に示す微粒子濃度の冷却液は、微粒子を含まない冷却液(比較例)と圧力損失が同等である。
【0057】
図8、
図9に示すように、本実施形態の冷却液(微粒子を含む)において、微粒子濃度を高くするほど伝熱向上比率を向上させることができる。また、本実施形態の冷却液における微粒子濃度が少なくとも30wt%までの範囲では、微粒子を含まない冷却液(比較例)と圧力損失が同等であり、圧力損失の低下を抑制しつつ、冷却液の熱交換能力を向上させることができる。
【0058】
なお、冷却液温度の試算、伝熱の試算において設定した試算条件(ベース液体の組成、微粒子の蓄熱密度、相変化材料の種類)と異なる条件の冷却液であっても、実施形態の冷却液であれば、
図5~
図9に示したのと同様の傾向になる。例えば、ベース液体として、水や、グリコール水溶液等を用いた場合にも、冷却液が蓄熱体としての微粒子を含むことにより、ベース液体のみを冷却液として用いる場合(比較例)と比較して、冷却液の温度上昇および温度低下を遅らせることができる。そのため、発熱体や、低温の外部空気等と、冷却液との温度差が比較例より大きくなり、熱交換能力を向上させることができる。また、微粒子の蓄熱密度、相変化材料の種類が異なっても、同様の理由により、ベース液体のみを冷却液として用いる場合と比較して、熱交換能力を向上させることができる。
【0059】
<微粒子の詳細>
以下に、本実施形態の冷却液CLに含まれる蓄熱体としての微粒子Pの製造方法、性能について、実施例と共に説明する。
[製造方法]
図10は、実施形態の微粒子Pの製造工程の一例を示す工程図である。
まず、相変化材料を導入した球状シリカ多孔体と、シェル源の液体を準備する(工程P102)。シェル源の液体として、例えば、TEOS100%の液体を準備する。次に、準備した球状シリカ多孔体を、シェル源の液体に添加し、撹拌しながら所定の温度、時間保持する(工程P104)。例えば、室温にて24時間保持する。工程P104により、球状シリカ多孔体100の表面に外殻第1層310が形成される(
図1)。
【0060】
工程P104によって生成された液体1をろ過し、外殻第1層310が形成された粒子を取り出し乾燥して粒子1を得る(工程P106)。例えば、45℃にて24時間乾燥する。
【0061】
次に、粒子1を水溶液に浸漬し、水和処理を行い、液体2を得る(工程P108)。例えば、粒子1をエチレングリコール(EG)水溶液に浸漬し、室温にて24時間放置する。エチレングリコール水溶液は、例えば、エチレングリコール:水の重量比は1:1である。水和処理により、粒子1の表面のシラノール基の割合を増大させることができる。
【0062】
工程P108によって生成された液体2をろ過して、粒子を取り出し乾燥して粒子2を得る(工程P110)。例えば、45℃にて24時間乾燥する。なお、工程P108(水和処理)、工程110は、行わなくてもよい。
【0063】
工程P110によって得られた粒子2を、シェル源の液体に添加し、撹拌しながら所定の温度、時間保持する(工程P112)。工程P104と同様に、シェル源の液体として、例えば、TEOS100%の液体を用い、室温にて24時間保持する。工程P112により、外殻第1層310の上に外殻第2層320が形成される(
図1)。工程P104、および工程P112を、「外殻層形成工程」とも呼ぶ。
【0064】
工程P112によって生成された液体3をろ過し、外殻第1層310および外殻第2層320が形成された粒子を取り出し乾燥して粒子3を得る(工程P106)。例えば、45℃にて24時間乾燥する。粒子3が実施形態の微粒子Pに相当する。
【0065】
工程P102において準備する相変化材料を導入した球状シリカ多孔体は、予め作製されてもよいし、工程P102において作製されてもよい。相変化材料を導入した球状シリカ多孔体は、所定量の球状シリカ多孔体100に対して、融点以上に加熱することで融解させた所定量の液状の相変化材料200Lを混合することで合成することができる。液状の相変化材料200Lは、毛管力により球状シリカ多孔体100の細孔10内へ導入され、保持される。また、相変化材料が導入される球状シリカ多孔体100は、例えば、ベースとなる球状シリカ多孔体に対して処理を行うことにより、細孔径を拡大することができる。
【0066】
なお、
図10に示した微粒子Pの製造方法は、一例であり、工程の一部を省略することができる。製造方法の他の例は、以下の微粒子の実施例において説明する。
[微粒子の実施例]
【0067】
実施例1~3と比較例1~3により本実施形態の冷却液に含まれる微粒子を更に具体的に説明するが、本発明の冷却液に含まれる微粒子は以下の実施例に限定されるものではない。実施例と比較例は、いずれも、略同一形状(粒子径、細孔径、細孔容量等)の球状シリカ多孔体の細孔に同種の相変化材料を充填した微粒子である。実施例と比較例は、それぞれ、外殻部の有無、外殻部の層数、外殻部の厚み、外殻部の原料(シェル源)が異なる。実施例1~3および比較例1~3は、相変化材料として直鎖パラフィン(RT90HC, Rubitherm社)を用いた。
【0068】
<サンプルの製造方法>
図11は、実施例1~3と比較例1~3に用いられる球状シリカ多孔体100の製造方法を概念的に示す説明図である。
図11は、
図1と同様に、球状シリカ多孔体の一部を切欠いて、内部構成を図示している。
【0069】
実施例1~3と比較例1~3に用いられる球状シリカ多孔体は、特開2011-111332、特開2007-45701を参照して、ベースとなる球状シリカ多孔体100A(以下、ベース球状シリカ多孔体とも称する)に対して処理を行うことにより、細孔径を拡大したものである。
【0070】
ベースとなる球状シリカ多孔体100A(
図11上段)は、特許5480461号に記載の方法における、界面活性剤をヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C16Cl)からオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C18Cl)に変更し、同方法により合成した。球状シリカ多孔体100Aの細孔10A内に残留した界面活性剤12AはC18Clである。球状シリカ多孔体100Aの細孔の中心細孔直径は2.0nmである。
【0071】
球状シリカ多孔体100A 1.0gに対して、膨潤剤14(トリメチルベンゼン,TMB)を2.26g、エタノールを30cc、純水を30cc、混合/分散し、100℃で三日間保持した。膨潤剤14が界面活性剤12Aの疎水性部分に侵入することにより細孔径が5.5nmに拡大した球状シリカ多孔体100Bが得られた。合成された球状シリカ多孔体100Bを、550℃で8時間焼成することにより界面活性剤12Aおよび膨潤剤14を除去し、球状シリカ多孔体100を得た。
【0072】
所定量の球状シリカ多孔体100に対して、融点以上に加熱することで融解させた所定量の液状の相変化材料(直鎖パラフィン)を混合することにより、球状シリカ多孔体100の細孔10内に相変化材料を導入した。
【0073】
まず、実施例2の微粒子の製造方法について、
図10に基づいて説明する。
相変化材料としての直鎖パラフィンを導入した球状シリカ多孔体と、シェル源(TEOS100%)の液体を準備し(工程P102)、準備した球状シリカ多孔体を、シェル源の液体に添加し、撹拌しながら室温にて24時間保持した(工程P104)。これにより、球状シリカ多孔体の表面に外殻第1層が形成された(
図1)。
【0074】
工程P104によって生成された液体1をろ過し、外殻第1層が形成された粒子を取り出し45℃にて24時間乾燥し、粒子1を得た(工程P106)。
【0075】
次に、粒子1をエチレングリコール(EG)水溶液に浸漬し、室温にて24時間放置し(水和処理)、液体2を得た(工程P108)。エチレングリコール水溶液のエチレングリコール:水の重量比は1:1である。工程P108によって生成された液体2をろ過して、粒子を取り出し、45℃にて24時間乾燥して粒子2を得た(工程P110)。粒子2は、外殻第1層の表面のシラノール基の割合を増大させたものである。
【0076】
工程P110によって得られた粒子2を、シェル源(TEOS100%)の液体に添加し、撹拌しながら室温にて24時間保持した(工程P112)。これにより、外殻第1層の上に外殻第2層が形成された(
図1)。工程P112によって生成された液体3をろ過し、外殻第1層および外殻第2層が形成された粒子を取り出し、45℃にて24時間乾燥して実施例2の微粒子を得た(工程P106)。
【0077】
実施例3の微粒子は、実施例1の微粒子の製造工程のうち、工程P108、110を除くすべての工程を順に行うことにより得られた。すなわち、実施例3の微粒子も、実施例2の微粒子と同様に、2層構造(外殻第1層と外殻第2層)の外殻部を有する。
【0078】
実施例1、および比較例2、3の微粒子は、
図10に示す微粒子の製造工程のうち、工程P102、P104、P106を順に行うことにより得られた。すなわち、実施例1、および比較例2、3の微粒子は、球状シリカ多孔体の表面に1層の外殻部が形成された微粒子である。すなわち、これらの微粒子は、外殻部として、外殻第1層のみを有する。実施例1、および比較例2、3は、互いに外殻部の原料(シェル源)が異なり、順に、TEOS100%、TEOS/エタノール、パーヒドロポリシラザン(以下、PHPSとも称する)である。比較例1の微粒子は、外殻部を有さない微粒子である。
【0079】
<外殻部の厚さの比較>
上述の実施例1、2、および比較例1を用いて、外殻部の厚さの違いによる微粒子の耐久性の違いについて説明する。ここで、耐久性は、有機溶媒に浸漬した場合の相変化材料の充填率の変化および有効蓄熱材の割合の変化を用いて評価している。
【0080】
図12は、実施例1、2の微粒子のSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)像である。
図13は、比較例1の微粒子のSEM像である。
図14は、SEM像より得られる各微粒子の諸元を示す図である。
図14では、微粒子の平均粒子径と外殻部の厚みを示している。平均粒子径は、SEM像を用いて、それぞれ、200個の微粒子の直径を実測し、その算術平均を用いている。実施例1、2の微粒子の外殻部が均一な厚みであると仮定して、各微粒子の平均粒子径を用いて、外殻部の厚みを以下の通り算出した。比較例1は、外殻部が形成されていない球状シリカ多孔体であるため、実施例1、2それぞれの平均粒子径から比較例1の平均粒子径を減じて、2で除した値を、実施例1、2それぞれの外殻部の厚みとした。
【0081】
図14に示すように、実施例1の微粒子は外殻部の厚みが0.55μmである。実施例2の微粒子は外殻部の厚みが0.11μmであり、実施例1の微粒子より外殻部が厚い。比較例1の微粒子は、外殻部を有さない。
【0082】
図15は、熱分析より得られる微粒子の諸元を示す図である。
図15では、微粒子の耐久性評価として、有機溶媒への浸漬前後の相変化材料の充填率、蓄熱密度、有効蓄熱材の割合の変化を示している。球状シリカ多孔体の細孔内に在る相変化材料は、有効蓄熱材と無効蓄熱材とに分けられ、有効蓄熱材は融解/凝固によって潜熱を生み出せるものである(後に詳述する)。すなわち、微粒子としては、有効蓄熱材が多いことが好ましいため、耐久性試験では有効蓄熱材に割合の変化に注目している。耐久性試験では、有機溶媒としてのトルエン(液体)10mlに、微粒子0.1gを添加し、攪拌しながら60℃で3時間保持した。その後、ろ過し、45℃にて24時間乾燥した粒子を用いて評価を行った。
【0083】
図16は、耐久性試験結果を示す図である。
図15、
図16に示すように、比較例1の微粒子では、トルエン浸漬後、有効蓄熱材はほとんど残っていない。これに対し、実施例1の微粒子は、トルエン浸漬後、有効蓄熱材が減少しているものの、半分以上残っている。さらに、実施例2の蓄熱材では、浸漬後も有効蓄熱材の充填率に変化がない。すなわち、微粒子において、外殻部が形成されていることにより、有効蓄熱材の溶出が抑制されたといえる。さらに、外殻部を厚くすることにより、有効蓄熱材の溶出を、さらに抑制することができた。実施例2の微粒子では、上述の通り、外殻層形成工程を2回行っているため(
図3:工程P104、P112)、外殻部の緻密性が向上したと考えられる。実施例1、2の微粒子によれば、有機溶媒に浸漬した際の有効蓄熱材の溶出を、抑制することができた。
【0084】
充填率は、全細孔容量のうち、導入した相変化材料(以下、「PCM」とも呼ぶ)が占める割合を表し、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA:Thermogravimetry―Differential Theremal Analysis)から推定できる。この例では、熱重量・示差熱同時測定装置Thermoplus TG-8120 (RIGAKU製)を用いて測定した。
【0085】
図17は、相変化材料のTGA(Thermogravimetric analysis:熱重量分析)曲線を示す図である。150~700℃における重量減少分をPCM由来の有機分率として、細孔内におけるPCMの充填率を算出した。具体的には、下記の(式1)により算出した。
【0086】
充填率[vol%]=有機分率/PCM密度/細孔容量×100 … (式1)
【0087】
微粒子において、シリカ多孔体に保持されているPCMのPCM密度は、例えば、以下の方法で測定することができる。微粒子を加熱して蒸発したPCMのガスを、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により分析した質量情報を用いて算出することができる。
【0088】
実施例、比較例において、略同一形状の球状シリカ多孔体を用いており、細孔容量は、1.30~1.80[ml/g]である。細孔容量[ml/g]は、測定した窒素吸着等温線から、BET(Brunauer、Emmett、およびTeller)プロットより推定した。
【0089】
図18は、相変化材料のDSC曲線を示す図である。
図18(a)はエリスリトール、
図18(b)は直鎖パラフィンの代表的な示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)曲線である。図示するように、吸熱ピークと放熱ピークの差が過冷却度である。また、図示するように、吸熱曲線のピーク面積(図においてハッチングを付して示す)が蓄熱量に相当する。
【0090】
有効蓄熱材割合は、細孔内を占める全PCMのうち、融解/凝固によって潜熱を生み出せるPCMの割合を表し、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により推定できる(潜熱蓄熱密度[J/g])。本実施例では、-20℃~150℃の条件で、10℃/minの昇温/降温速度により、示差走査熱量計DSC Q1000(TA Instruments製)を用いて示差走査熱量測定を実施した。一方、無効蓄熱材は、全PCMから有効蓄熱材を差し引いたものである。
【0091】
有効蓄熱材は、下記(式2)、(式3)を用いて算出することができる。
有効蓄熱材[vol%]=みかけ潜熱/PCM潜熱×100 … (式2)
みかけ潜熱=蓄熱量/PCM密度/細孔容量 … (式3)
【0092】
<水和処理の効果>
ここでは、2層構造の外殻部を有する微粒子の製造方法において、水和処理(
図10:工程P108)を行うことの効果について、
図19~
図22を用いて説明する。
【0093】
図19は、実施例2、3の微粒子のSEM像である。
図20は、実施例2、3および比較例1の微粒子のSEM像より得られる諸元を示す図である。
図20では、
図14と同様に、微粒子の平均粒子径と外殻部の厚みを示しており、平均粒子径、および外殻部の厚みの算出方法は、
図14と同じである。
【0094】
上述の通り、実施例2の微粒子は、
図10に記載の全ての工程を行って微粒子を製造しており、水和処理を行っている。実施例3の微粒子は、実施例2の微粒子の製造工程のうち、工程P108、110を除くすべての工程を順に行って微粒子を製造しており、水和処理を行っていない。
【0095】
図20に示すように、実施例2の微粒子の外殻部の厚みは0.11μmであり、実施例3の微粒子の外殻部の厚みは0.08μmであり、水和処理を行うことにより外殻部の厚みを厚くすることができた。微粒子の製造方法において、外殻第1層を形成した後に水和処理を行うと、外殻第1層の表面のシラノール基の割合が増大するため、外殻第2層が形成されやすくなり、外殻部の厚みを厚くすることができる。なお、実施例3の微粒子の外殻部の厚みは、実施例1の微粒子の外殻厚み(
図14:0.055μm)より厚く、外殻第2層が形成されているといえる。すなわち、水和処理を行わなくても、外殻第2層を形成することができるものの、水和処理を行うことにより、外殻部の厚みを厚くすることができる。
【0096】
図21は、実施例2、3および比較例1の微粒子の熱分析より得られる諸元を示す図である。
図21では、
図15と同じ耐久性評価(トルエン浸漬)を行った結果を示している。
【0097】
図22は、耐久性試験結果を示す図である。
図21、
図22に示すように、比較例1の微粒子では、トルエン浸漬後、有効蓄熱材はほとんど残っていない。これに対し、実施例3の微粒子では、トルエン浸漬後、有効蓄熱材が減少しているものの、半分以上残っている。さらに、実施例2の微粒子では、トルエン浸漬後も有効蓄熱材の充填率に変化がない。すなわち、複数層の外殻部を有する微粒子の製造方法において、外殻部の層を形成する間に水和処理を行うことにより、外殻部の厚みを厚くすることができ、有機溶媒への浸漬後の蓄熱材の溶出をより抑制することができる。また、実施例3の微粒子は、2層構造の外殻部で、外殻部の厚みは0.08μmであって、実施例1の微粒子(
図14:1層構造の外殻部、厚み0.055μm)より外殻部の厚みが厚いものの、有機溶媒浸漬後の有効蓄熱材割合は、第1実施例の微粒子と同じである。この結果から、実施例3の微粒子は外殻部の緻密性が低かったと考えられる。すなわち、複数層構造の外殻部を有する微粒子の製造方法において、水和処理を行うことにより、外殻部の緻密性を向上させることができる。
【0098】
<シェル源の比較>
ここでは、外殻部の原料(シェル源)としてTEOSとPHPSを用い、シェル源の違いによる微粒子の耐久性の違いについて、
図23~
図30を用いて説明する。
図23は、シェル源の主な諸元を示す図である。図示するように、実施例1~3の微粒子では、シェル源としてTEOS100%の液体が用いられている。比較例2の微粒子では、溶媒としてエタノールを用い、TEOSとエタノールの重量比が1:1のTEOS溶液が、シェル源として用いられている。比較例3の微粒子では、シェル源としてPHPS溶液が用いられている。ここでは、PHPSとして、Durazane2200(Merck製)とDurazane2800(Merck製)を、重量比1:1で混合した。Durazane2200とDurazane2800の溶媒はジブチルエーテル(以下、DBEとも称する)である。Durazane2200のPHPS濃度は20%であり、Durazane2800のPHPS濃度は15%である。Durazane2200は触媒を含有せず、硬化スピードが遅く、一方、Durazane2800は、アミン系の触媒を含有し、硬化スピードが非常に早い。
図23では、PHPSの溶媒として、キシレンも記載している。他の例において、PHPSとして、例えば、Durazane2600(Merck製)等の他のPHPSを用いてもよい。Durazane2600は、溶媒はキシレンであり、PHPS濃度が15%、アミン系触媒を含有し、硬化スピードが早い。
【0099】
図24は、実施例1の微粒子のSEM像である。
図25は、比較例1、2の微粒子のSEM像である。
図26は、比較例3の微粒子のSEM像である。
図27は、実施例1、および比較例1~3の微粒子のSEM像より得られる諸元を示す図である。
図27では、
図14と同様に、微粒子の平均粒子径と外殻部の厚みを示しており、平均粒子径、および外殻部の厚みの算出方法は、
図14と同じである。
【0100】
実施例1、および比較例2、3は、上述の通り、
図10に示す製造工程の工程P102~工程P106を順に行うことにより製造されており、外殻部は1層構造である。
図27に示す通り、実施例1の微粒子の外殻部のシェル源は、TEOS100%であり、比較例2の微粒子の外殻部のシェル源はTEOS/エタノール(重量比が1:1)、比較例3の微粒子の外殻部のシェル源はPHPSである。比較例2、3の微粒子は、実施例1の微粒子と比較して外殻部の厚みが薄い。
【0101】
図28は、実施例1および比較例1~3の微粒子の熱分析より得られる諸元を示す図である。
図28では、
図15と同じ耐久性評価(トルエン浸漬)を行った結果を示している。
【0102】
図29は、耐久性試験結果を示す図である。
図28、
図29に示すように、比較例1の微粒子(外殻部なし)では、トルエン浸漬後(耐久性試験後)、有効蓄熱材はほとんど残っていない。比較例2の微粒子では、トルエン浸漬前であっても、有効蓄熱材の充填率が比較例1の半分程度になっており、有効蓄熱材の充填率が低い。比較例2の微粒子はシェル源がエタノールを含むため、外殻部を形成する際に、エタノールと相変化材料との間の相互作用により有効蓄熱材割合が減少したと考えられる。そして、比較例2の微粒子では、トルエン浸漬後、比較例1の微粒子と同様に、有効蓄熱材はほとんど残っていない。
【0103】
比較例3の微粒子は、トルエン浸漬前において、比較例1の微粒子(外殻部なし)より相変化材料の充填率が減少しているものの、有効蓄熱材の充填率は比較例2の微粒子ほど減少していないため、外殻形成時の相変化材料とPHPS/DBEとの相互作用の影響はほとんどないと考えられる。比較例3の微粒子では、トルエン浸漬後、比較例1、2の微粒子と比較すると有効蓄熱材が残っているものの、実施例1と比較すると、有効蓄熱材の充填率が低く、トルエン浸漬により、有効蓄熱材が溶出し、また、有効蓄熱材の一部が無効化したと考えられる。すなわち、TEOS100%をシェル源として用いた場合には、PHPSをシェル源として用いるよりも、外殻部の緻密性を向上させることができ、有効蓄熱材の溶出をより抑制することができると考えられる。外殻部の緻密性が不完全な場合(欠陥が多い)には、有機溶媒が球状シリカ多孔体の細孔内に浸入し相変化材料を溶解させ、溶解された相変化材料が外部に流れ出すと考えられる。
【0104】
図30は、外殻部の形成を概念的に示す説明図である。
図30(a)はシェル源がTEOSの例を示し、
図30(b)はシェル源がPHPSの例を示す。
図30において、シェル源TEOSに符号300tを付し、シェル源PHPSに300pを付している。
図30(a)と
図30(b)に示す球状シリカ多孔体100の細孔10の細孔径は同一である。TEOSは分子径が小さいため、図示するように、細孔10内で架橋して細孔を塞ぐことができる。PHPSは、分子径が大きいため、細孔10上部を架橋して細孔を塞ぐことができる。
図30(a)に示すように、シェル源TEOSが細孔内で架橋して細孔を塞ぐことができると、架橋距離が短くなるため、緻密性が高い外殻部を形成することができるため、有機溶媒の浸入を抑制することができ、相変化材料の溶出をより抑制することができる。そのため、外殻部のシェル源の分子径が球状シリカ多孔体の細孔径より小さいことが好ましい。一方、分子径が球状シリカ多孔体の細孔径以上であるシェル源PHPSが、
図30(b)に示すように細孔10の上部を架橋して細孔を塞ぐ場合、架橋距離が長くなり、緻密性が低くなると考えられる。なお、微粒子の外殻部の元素分析を行い、例えば、外殻部に窒素原子(N)が残っていたら、シェル源がPHPSであると推測でき、分子径を推測することができる。
【0105】
以上説明したように、実施例の微粒子によれば、比較例1の微粒子と比較して、中実なシリカ結晶で形成された外殻部を有するため、有機溶媒に浸漬された際の有効蓄熱材の溶出を抑制することができ、微粒子の耐久性を向上させることができる。
【0106】
また、実施例の微粒子によれば、比較例2、3の微粒子と比較して、外殻部の厚みが0.55μm以上であり、十分な厚みを有するため、より有効蓄熱材の溶出を抑制することができた。細孔の規則性が高く、かつ細孔の中心細孔直径が1nm以上20nm以下であるため、十分な蓄熱密度を得ることができ、十分な蓄熱性を得ることができた。
【0107】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0108】
・上記実施形態において、電気自動車に搭載された電池CEの熱を放熱させる熱輸送システム1100を例示したが、熱源として、例えば、燃料電池、インバータ、モータジェネレータ等を用いてもよい。また、冷却液は、空調設備、プラント等種々の物の冷却に用いることができる。
【0109】
・上記実施形態において、第2熱交換器120としてラジエータを例示したが、冷凍サイクル低圧側のチラー等を用いてもよい。すなわち、第2熱交換器120は、冷媒、空気を用いて、放熱することができる。
【0110】
以上、実施形態、実施例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0111】
本発明は、以下の適用例としても実現することが可能である。
[適用例1]
ベース液体と、前記ベース液体中に含有される単分散性の微粒子と、を含む冷却液であって、
前記微粒子は、
複数の略円柱状の細孔が形成された球状シリカ多孔体と、
前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中に含有される相変化材料と、
中実なシリカ結晶で形成され、前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の少なくとも一部を塞ぐ外殻部と、を有し、
前記球状シリカ多孔体において、
前記複数の細孔は、細孔径が均一であり、かつ前記球状シリカ多孔体の中心から表面に向かって放射状に配列されている、
冷却液。
[適用例2]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記外殻部の厚みは、0.055μm以上である、
冷却液。
[適用例3]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記ベース液体中に前記微粒子が分散されたときの前記微粒子の表面のゼータ電位の絶対値が16.2mV以上である、
冷却液。
[適用例4]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子の濃度は、30重量%以下である、
冷却液。
[適用例5]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の中心細孔直径が、1nm以上20nm以下である、
冷却液。
[適用例6]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔径分布曲線の細孔径が1nmより大きい範囲における標準偏差が中心細孔直径の20%以内である、
冷却液。
[適用例7]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の直径が、10nm以上3000nm以下である、
冷却液。
[適用例8]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔は、
細孔容量が0.9[ml/g]以上であって、単位細孔容量あたりの比表面積が1.4×109[m2/m3]以下である、
冷却液。
[適用例9]
適用例1に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記相変化材料は、糖アルコールおよびパラフィンの少なくともいずれか一方である、
冷却液。
[適用例10]
適用例1から適用例9のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記微粒子が有する前記外殻部は、原料の分子サイズが前記球状シリカ多孔体の前記複数の細孔の細孔径より小さい、
冷却液。
【符号の説明】
【0112】
10…細孔
12A…界面活性剤
14…膨潤剤
62…配管
100、100A、100B…球状シリカ多孔体
110…第1熱交換器
120…第2熱交換器
130…冷却液タンク
140…バルブ
150…ポンプ
200、200L、200S…相変化材料
300…外殻部
310…外殻第1層
320…外殻第2層
1100…熱輸送システム
CE…電池
CL…冷却液
L…ベース液体
P…微粒子