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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012213
(43)【公開日】2024-01-26
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240119BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20240119BHJP
   C10M 105/04 20060101ALI20240119BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20240119BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
C10M169/04 ZAB
C10M101/02 ZHV
C10M105/04
C10M107/02
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N30:12
C10N40:04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049026
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 建吾
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CD04
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104LA01
4H104LA06
4H104LA20
4H104PA02
(57)【要約】
【課題】 銅腐食性の低減、引火点の向上及び低温流動性の向上が可能であり、電気自動車又はハイブリッド車の減速機や変速機に適した潤滑油組成物の提供。
【解決手段】 電気自動車又はハイブリッド車の減速機又は変速機に使用される潤滑油組成物であって、潤滑油組成物は基油を含み、基油の質量を基準とした基油に含まれる芳香環の含有量が3500~15000ppmである、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車又はハイブリッド車の減速機又は変速機に使用される潤滑油組成物であって、
前記潤滑油組成物は基油を含み、
前記基油の質量を基準とした前記基油に含まれる芳香環の含有量が3500~15000ppmであることを特徴とする、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油は、グループ1基油である第1基油と、GTL基油及び/又はPAOである第2基油と、を含み、
前記潤滑油組成物全体の質量を基準とした前記第1基油の含有量が8~25質量%であり、
前記潤滑油組成物全体の質量を基準とした前記第2基油の含有量が60~90質量%である、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
JIS K 2513に準じて測定される銅溶出量(150℃、48時間)が10ppm未満である、請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
JIS K 2269に準じて測定される流動点が-40℃未満である、請求項1~3のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
JIS K 2265-4に準じて測定される引火点が208℃超である、請求項1~4のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、環境保護の観点から、走行時の環境負荷の低い電気自動車又はハイブリッド車が普及している。例えば、電気自動車として、電動モーターと、電動モーターの駆動力を増大させるための減速機や変速機と、を組み合わせて走行する電気自動車が多く普及している。またエンジンとモータを組み合わせたハイブリッド車も多く普及している。
【0002】
減速機や変速機には駆動力の伝達を円滑にするための潤滑油の適用が必要であるが、一般的な電動モーターにおいてはコイルや配線等の材料として銅が使用されている。そのため、電気自動車又はハイブリッド車の減速機に使用される潤滑油には、銅腐食性を低減させることが求められる。特に、通常の潤滑油組成物は、硫黄系の化合物等が含まれること等により、銅の腐食を引き起こすという問題があった。
【0003】
特許文献1では、銅腐食性の低い潤滑油組成物として、基油と、特定の硫黄含有化合物と、特定のチアジアゾール化合物とを含有する潤滑油組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-119059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電動モーターは、従来の自動車の動力源であったエンジンに比べて回転速度が大きく、その変速機に使用される潤滑油の攪拌抵抗はエネルギー消費に一層大きな影響を与える。そのため、省燃費性の観点から、使用される潤滑油は低粘度、かつ、低温流動性を有していることが重要となる。
さらに、電気自動車又はハイブリッド車の減速機には、減速機の各部位の摺動により発生する熱に加え、モーターから発生する熱を吸収、冷却する用途も担うため、一層の油温上昇が予想される。
【0006】
特許文献1に係る潤滑油組成物は、銅腐食性は考慮されているが、引火点や低温流動性については考慮されておらず、電気自動車又はハイブリッド車用の減速機に適用される潤滑油組成物として十分な性能が得られない場合があった。
【0007】
そこで本発明は、銅腐食性の低減、引火点の向上及び低温流動性の向上が可能であり、電気自動車又はハイブリッド車の減速機や変速機に適した潤滑油組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、基油が特定の性状を充足することで前記課題を解消可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明は、電気自動車又はハイブリッド車の減速機又は変速機に使用される潤滑油組成物であって、
前記潤滑油組成物は基油を含み、
前記基油の質量を基準とした前記基油に含まれる芳香環の含有量が3500~15000ppmであることを特徴とする、潤滑油組成物である。
前記基油は、グループ1基油である第1基油と、GTL基油及び/又はPAOである第2基油と、を含み、
前記潤滑油組成物全体の質量を基準とした前記第1基油の含有量が8~25質量%であり、
前記潤滑油組成物全体の質量を基準とした前記第2基油の含有量が60~90質量%であることが好ましい。
前記潤滑油組成物は、JIS K 2513に準じて測定される銅溶出量が10ppm未満であることが好ましい。
前記潤滑油組成物は、JIS K 2269に準じて測定される流動点が-40℃未満であることが好ましい。
前記潤滑油組成物は、JIS K 2265-4に準じて測定される引火点が208℃超であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
銅腐食性の低減、引火点の向上及び低温流動性の向上が可能であり、電気自動車又はハイブリッド車の減速機又は変速機に適した潤滑油組成物を提供することができる。
【0011】
以下、本発明に係る潤滑油組成物の、成分、物性/性質、製造方法、用途等について説明する。
【0012】
<<<潤滑油組成物の成分>>>
潤滑油組成物は、基油と、所望の性質に応じて添加されるその他の成分と、を含む。
【0013】
<<基油>>
基油に含まれる芳香環の含有量は、基油の質量を基準として、3500~15000ppmであり、4000~14000ppmであることが好ましく、5000~13000ppmであることが特に好ましい。なお、芳香環の含有量は、ASTM D3238に基づき測定することができる。
【0014】
基油がこのような性状であることで、銅腐食性の低減、引火点の向上及び低温流動性の向上が奏される。
【0015】
基油は、上記性状を満たす限りにおいて特に限定されず、鉱油、合成油、動植物油、これらの混合油を適宜使用することができる。具体例としては、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4等に属する基油を、単独又は混合物として使用してもよい。
【0016】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろう等の精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。
【0017】
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろう等の精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法等の水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全硫黄分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、好適に用いることができる。
【0018】
グループ3基油及びグループ2プラス基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、好適に用いることができる。
【0019】
合成油としては、例えば、ポリオレフィン、二塩基酸のジエステル、トリメリット酸のトリエステル、ポリオールエステル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン等が挙げられる。上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα-オレフィン等が挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にポリ-α-オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適であり、これはグループ4基油である。
【0020】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)により得られた油(GTL基油)は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、好適に用いることができる。
【0021】
基油としては、グループ1基油である第1基油と、GTL基油及び/又はPAOである第2基油と、を含むことが好ましい。また、この場合、潤滑油組成物全体の質量を基準として、第1基油の含有量が8~25質量%であり、第2基油の含有量(GTL基油及びPAOの合計の含有量)が60~90質量%であることが好ましい。このような基油を混合して使用することで、潤滑油組成物中の芳香環の含有量の調整が容易となり、また本発明の効果をより高めることができる。
【0022】
<<その他の成分>>
その他の成分としては金属系清浄剤、耐摩耗剤、分散剤、消泡剤、流動点降下剤、金属不活性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0023】
潤滑油組成物中のその他の成分の含有量は、特に限定されないが、潤滑油組成物全体を基準として、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上又は5質量%以上等とすることができ、また、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下又は10質量%以下等とすることができる。
【0024】
なお、本発明の効果をより高めるために、その他の成分に含まれる芳香環の含有量は、潤滑油組成物全体を基準として、500ppm以下、100ppm以下、10ppm以下又は1ppm以下とすることが好ましい。
【0025】
<<<潤滑油組成物の物性/性質>>>
<<銅溶出量>>
潤滑油組成物は、JIS K 2513に準じて測定される銅溶出量(150℃、48時間)が、10ppm未満であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましく、6ppm以下であることが特に好ましい。潤滑油組成物は、銅溶出量がこのような範囲を満たすことで、電気自動車又はハイブリッド車の減速機や変速機に好ましく適用可能となる。なお、銅溶出量は、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)で測定することができる。
【0026】
<<流動点>>
潤滑油組成物は、JIS K 2269に準じて測定される流動点が、-40℃未満であることが好ましく、-45℃以下であることがより好ましく、-50℃以下であることが特に好ましい。潤滑油組成物は、流動点がこのような範囲を満たすことで、電気自動車又はハイブリッド車の減速機や変速機に好ましく適用可能となる。
【0027】
<<引火点>>
潤滑油組成物は、JIS K 2265-4に準じて測定される引火点が、208℃超であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。潤滑油組成物は、引火点がこのような範囲を満たすことで、電気自動車又はハイブリッド車の減速機や変速機に好ましく適用可能となる。
【0028】
<<40℃動粘度>>
潤滑油組成物の、JIS K 2283に準じて測定される40℃における動粘度は、好ましくは5~100mm/sであり、より好ましくは10~80mm/sであり、さらに好ましくは15~50mm/sである。
【0029】
<<100℃動粘度>>
潤滑油組成物の、JIS K 2283に準じて測定される100℃における動粘度は、好ましくは1~30mm/sであり、より好ましくは2~20mm/sであり、さらに好ましくは3~10mm/sである。
【0030】
<<粘度指数>>
潤滑油組成物の粘度指数(Viscosity Index;VI)は、好ましくは50以上であり、より好ましくは100以上であり、さらに好ましくは125以上である。
【0031】
<<<潤滑油組成物の製造方法>>>
潤滑油組成物は、公知の方法に従って製造することができ、各成分を適宜混合すればよく、その混合順序は特に限定されるものではない。添加剤は、複数種が混合されたパッケージ品として添加されてもよい。
【0032】
<<<潤滑油組成物の用途>>>
本発明に係る潤滑油組成物は、電気自動車又はハイブリッド車の減速機や変速機に使用される。
【実施例0033】
<<<潤滑油組成物>>>
以下の原料を、表に示す配合量(質量%)となるように配合し、各実施例及び各比較例に係る潤滑油組成物を製造した。
【0034】
<<基油>>
(基油A-1)
40℃動粘度が12.4m/s、100℃動粘度が3.1mm/sであるAPI基油カテゴリーのグループIIに分類される鉱物油
(基油A-2)
40℃動粘度が19.6m/s、100℃動粘度が4.2mm/sであるAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱物油
(基油A-3)
40℃動粘度が47.2m/s、100℃動粘度が7.7mm/sであるAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱物油
【0035】
(基油B-1)
40℃動粘度が9.9m/s、100℃動粘度が2.7mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(GTL)
(基油B-2)
40℃動粘度が18.2m/s、100℃動粘度が4.1mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(GTL)
(基油B-3)
40℃動粘度が43.7m/s、100℃動粘度が7.6mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(GTL)
【0036】
(基油C-1)
40℃動粘度が18.6m/s、100℃動粘度が4.1mm/sであるポリアルファオレフィン基油(PAO)
(基油C-2)
40℃動粘度が48.0m/s、100℃動粘度が8.0mm/sであるポリアルファオレフィン基油(PAO)
【0037】
(基油D-1)
40℃動粘度が53.1m/s、100℃動粘度が7.6mm/sであるAPI基油カテゴリーのグループIに分類される鉱物油
(基油D-2)
40℃動粘度が96.1m/s、100℃動粘度が11.2mm/sであるAPI基油カテゴリーのグループIに分類される鉱物油
(基油D-3)
40℃動粘度が492.3m/s、100℃動粘度が32.7mm/sであるAPI基油カテゴリーのグループIに分類される鉱物油
【0038】
<<添加剤>>
<流動点降下剤>
・結晶化ピーク温度が-29℃であるポリメタクリレート系流動点降下剤
<添加剤パッケージ>
・電気自動車又はハイブリッド車の電動モーターの冷却用途も兼ねる減速機や変速機油向けの添加剤パッケージ
【0039】
<<<測定/評価>>>
前述の方法に従って、潤滑油組成物の、40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数、流動点、引火点、銅溶出量を測定した。測定結果を表に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】