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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122134
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】スリーブ組付け用治具
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/02 20060101AFI20240902BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20240902BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
F16C43/02
F16C35/063
F16C17/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029501
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】松本 和城
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕也
【テーマコード(参考)】
3J011
3J117
【Fターム(参考)】
3J011AA01
3J011AA20
3J011BA02
3J011DA02
3J011KA02
3J117AA02
3J117AA03
3J117DA01
3J117HA01
3J117HA04
(57)【要約】
【課題】取付け箇所の如何に関わらず、またスリーブの円周方向の位置決め部材を伴う場合であっても、容易にスリーブを組付け可能とする。
【解決手段】このスリーブ組付け用治具1は、スリーブ2と、スリーブ2の円周方向の位置決めを行う位置決め部材3とを組付け対象5に組付けるための治具であって、スリーブ2が外周に嵌合する筒状の嵌合部20と、嵌合部20に対して径方向に可動しスリーブ2の軸方向の抜止めを可能とする抜止め部30と、位置決め部材3を吸着により保持可能な吸着保持部40とを備える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブと、前記スリーブの円周方向の位置決めを行う位置決め部材とを組付け対象に組付けるための治具であって、
前記スリーブが外周に嵌合する筒状の嵌合部と、
前記嵌合部に対して径方向に可動し前記スリーブの軸方向の抜止めを可能とする抜止め部と、
前記位置決め部材を吸着により保持可能な吸着保持部とを備える、スリーブ組付け用治具。
【請求項2】
前記抜止め部は、前記嵌合部の内周を貫通し軸方向に延びる一対の本体部と、各本体部の先端から径方向外側に延びる径方向延在部とを一体的に有し、
前記径方向延在部の先端は、前記本体部が径方向の最も中央側に移動した状態で、前記嵌合部の外周面よりも径方向内側に位置し、径方向の最も外側に移動した状態で、前記嵌合部の外周面よりも径方向外側に位置する、請求項1に記載のスリーブ組付け用治具。
【請求項3】
前記一対の本体部を相互に遠ざかる向きに付勢する付勢部材と、前記一対の本体部を相互に接近する向きに移動操作可能な移動操作部とをさらに備え、
前記移動操作部は、前記スリーブ組付け用治具の治具本体を把持した状態で操作可能に構成されている、請求項2に記載のスリーブ組付け用治具。
【請求項4】
前記嵌合部の外周に前記スリーブが嵌合し、かつ前記吸着保持部により前記位置決め部材が吸着保持された状態で、前記スリーブに前記位置決め部材が取付けられるように、前記嵌合部に対する前記吸着保持部の位置が設定されている、請求項1に記載のスリーブ組付け用治具。
【請求項5】
前記位置決め部材を固定部材で前記組付け対象に固定するための工具を保持可能な工具保持部をさらに備え、
前記工具保持部は、前記位置決め部材に対して前記工具を位置決め可能に構成されている、請求項1に記載のスリーブ組付け用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリーブ組付け用治具に関し、特に円周方向の位置決めを伴ってスリーブを組付けるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のエンジンから車輪に動力を伝達する動力伝達装置においては、トランスミッションケースの所定位置に配設されたスリーブにより入力軸が回転自在に支持されている(例えば、特許文献1を参照)。そのため、トランスミッションの組立てラインにおいては、トランスミッションケースの所定位置に入力軸の軸受となるスリーブを組付ける工程が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-65926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のスリーブには、入力軸との間に潤滑油を供給するための貫通孔が設けられていることが多い。そのため、スリーブをトランスミッションケースに組付ける際には、貫通孔の円周方向位置を合わせてトランスミッションケースに固定するために、スリーブロックと呼ばれる位置決め部材が必要となる。この場合、位置決め部材をスリーブの所定位置に取付けた後、スリーブを位置決め部材と共に作業者がトランスミッションケースの取付け箇所まで導入することになる。そのため、例えばトランスミッションケースの奥まった箇所など両手を入れられるだけの十分なスペースがない場所にスリーブを組付けることが非常に困難であった。
【0005】
以上の事情に鑑み、本明細書では、取付け箇所の如何に関わらず、またスリーブの円周方向の位置決め部材を伴う場合であっても、容易にスリーブを組付け可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題の解決は、本発明に係るスリーブ組付け用治具によって達成される。すなわち、この組付け用治具は、スリーブと、スリーブの円周方向の位置決めを行う位置決め部材とを組付け対象に組付けるための治具であって、スリーブが外周に嵌合する筒状の嵌合部と、嵌合部に対して径方向に移動しスリーブの軸方向の抜止めを可能とする抜止め部と、位置決め部材を吸着により保持可能な吸着保持部とを備える点をもって特徴付けられる。
【0007】
このように、本発明に係るスリーブ組付け用治具によれば、スリーブを嵌合部に嵌合した状態で抜止め部を嵌合部に対して移動することにより、嵌合部に嵌合した状態のスリーブを軸方向の抜止め可能に保持することが可能となる。一方で、位置決め部材は吸着保持部により吸着保持することができるので、作業者が手で支えることなく一つの治具にスリーブと位置決め部材とを取付けた状態で組付け対象まで移動させることが可能となる。従って、組付け箇所が狭い場所や奥まった場所であっても、治具を把持して組付け箇所まで持っていくだけで、容易にスリーブと位置決め部材とを組付けることが可能となる。
【0008】
また、本発明に係るスリーブ組付け用治具において、抜止め部は、嵌合部の内周を貫通し軸方向に延びる一対の本体部と、各本体部の先端から径方向外側に延びる径方向延在部とを一体的に有し、径方向延在部の先端は、本体部が径方向の最も中央側に移動した状態で、嵌合部の外周面よりも径方向内側に位置し、径方向の最も外側に移動した状態で、嵌合部の外周面よりも径方向外側に位置してもよい。
【0009】
このように抜止め部を構成することにより、抜止め部の大部分を嵌合部の内側に収容することができる。よって、抜止め部の可動により周囲と干渉する事態を回避して安全に組付け作業を行うことができる。また、抜止め部の本体部を筒状の嵌合部内周に収容することで、スリーブ組付け用治具をよりコンパクトにできる。これにより、作業性をさらに高めることが可能となる。
【0010】
また、抜止め部が上記構成をとる場合、本発明に係るスリーブ組付け用治具は、一対の本体部を相互に遠ざかる向きに付勢する付勢部材と、一対の本体部を相互に接近する向きに移動操作可能な移動操作部とをさらに備えてもよい。また、この場合、移動操作部は、スリーブ組付け用治具の治具本体を把持した状態で操作可能に構成されてもよい。
【0011】
このように抜止め部の移動操作部及び駆動部(付勢部材)を設けることにより、スリーブを取付ける際、スリーブ組付け用治具の治具本体を把持した状態で、一対の本体部を相互に接近する向きに移動させることができる。よって、治具本体を把持した手で操作するだけで抜止め部との干渉を確実に回避してスリーブを嵌合部に嵌合させることができる。また、スリーブを嵌合させた後、治具本体の操作を切り替える(例えば押圧状態を解消するなど操作前の状態に戻す)ことで、一対の本体部が付勢部材の付勢力で相互に遠ざかる向きに移動する。これにより、抜止め部の径方向延在部が嵌合部の外周面よりも径方向外側に突出した状態となるので、径方向延在部により嵌合状態にあるスリーブの軸方向の抜止めを図ることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係るスリーブ組付け用治具において、嵌合部の外周にスリーブが嵌合し、かつ吸着保持部により位置決め部材が吸着保持された状態で、スリーブに位置決め部材が取付けられるように、嵌合部に対する吸着保持部の位置が設定されてもよい。
【0013】
このように嵌合部に対する吸着保持部の位置を設定することによって、吸着保持部に位置決め部材を吸着保持し、嵌合部の外周にスリーブを嵌合することで、自動的に位置決め部材をスリーブの円周方向所定位置に取り付けることができる。よって、円周方向の位置合わせを別途行う手間を省いて迅速に取付け作業から組付け作業に移ることが可能となる。また、スリーブに対して位置決め部材が位置決め固定された状態で位置決め部材を組付け対象に固定できるので、スリーブから位置決め部材が外れた状態で締付けてしまうミスを防ぐこともできる。
【0014】
また、本発明に係るスリーブ組付け用治具において、位置決め部材を固定部材で組付け対象に固定するための工具を保持可能な工具保持部をさらに備えてもよい。また、この場合、工具保持部は、位置決め部材に対して工具を位置決め可能に構成されてもよい。
【0015】
このように工具保持部を設けることで、スリーブ組付け用治具に対する工具の位置決めと、位置決め部材に対する工具の位置決めを一度に行うことができる。よって、スリーブ組付け用治具にスリーブと位置決め部材とを取付けた状態で上記治具ごと組付け対象の所定箇所に導入することによって、組付け対象に対するスリーブ及び位置決め部材の位置決めと、組付け対象に対する工具の位置決めを同時に行うことができ、作業性の更なる向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、取付け箇所の如何に関わらず、またスリーブの円周方向の位置決め部材を伴う場合であっても、容易にスリーブを組付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るスリーブ組付け用治具の斜視図である。
図2図1に示すスリーブ組付け用治具のA-A断面図で、(a)抜止部を径方向外側に移動させた状態を示す図、(b)抜止め部を径方向内側に移動させた状態を示す図である。
図3図1に示すスリーブ組付け用治具の要部B-B断面図である。
図4】スリーブの斜視図である。
図5】位置決め部材の斜視図である。
図6】スリーブの組付け対象となるトランスミッションケースの要部平面図である。
図7図1に示すスリーブ組付け用治具に位置決め部材を取付けた状態を示す斜視図である。
図8図1に示すスリーブ組付け用治具にスリーブを取付けた状態を示す斜視図である。
図9図8に示すトランスミッションケースの所定箇所にスリーブ組付け用治具ごとスリーブと位置決め部材を導入した状態を示す要部拡大断面図である。
図10図9に示す状態から位置決め部材をボルト締めでトランスミッションケースに固定した状態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るスリーブ組付け用治具、及びこの治具を用いたスリーブの組付け方法の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るスリーブ組付け用治具1の正面図、図2は、スリーブ組付け用治具1のA-A断面図、図3は、スリーブ組付け用治具1の要部B-B断面図をそれぞれ示している。図1に示すように、このスリーブ組付け用治具1は、主に治具本体10と、嵌合部20と、抜止め部30と、吸着保持部40とを備える。本実施形態では、スリーブ組付け用治具1は、付勢部材50と、移動操作部60と、工具保持部70とをさらに備える(図2を参照)。以下、各要素の詳細を説明する。
【0020】
治具本体10は、例えば筒状をなし、軸方向一端側に嵌合部20を一体に有する。嵌合部20は円筒形状をなし、スリーブ2(図4を参照)が所定のはめあいで嵌合可能なように、外周面20aの外径寸法が所定の大きさに設定される。
【0021】
抜止め部30は、嵌合部20に対して径方向に可動しスリーブ2の軸方向の抜止めを可能とするもので、本実施形態では、一対の本体部31と、各本体部31の先端から径方向外側に延びる径方向延在部32とを一体的に有する(図1及び図2を参照)。
【0022】
ここで、一対の本体部31は、図2に示すように、嵌合部20を外周に設けた治具本体10の内周を貫通して軸方向に延びており、各本体部31の大部分が治具本体10に収容されると共に、各本体部31の先端が治具本体10の嵌合部20側の開口部10aから露出している。よって、各本体部31の先端に設けられた径方向延在部32はともに露出しており、各径方向延在部32の先端部32aは、一対の本体部31が径方向の最も外側に移動した状態では、嵌合部20の外周面20aよりも径方向外側に位置する(図2(a)を参照)。また、一対の本体部31が径方向の最も中央側に移動した状態では、径方向延在部32の先端部32aは、嵌合部20の外周面20aよりも径方向内側に位置する(図2(b)を参照)。
【0023】
付勢部材50は、本実施形態では、抜止め部30の駆動部として治具本体10の内部に配設される。詳述すると、付勢部材50は、ばね等の弾性部材であって、図2に示すように、一対の本体部31間に配設されている。付勢部材50は、一対の本体部31を互いに遠ざかる向きに付勢可能とされている。そのため、本実施形態のように移動操作部60を介して人力で一対の本体部31を互いに接近可能な構成とした場合、移動操作部60を作業者が操作しない(押圧しない)状態では、一対の本体部31は付勢部材50により互いに遠ざかる向きに移動し、治具本体10によって径方向外側への移動を規制された位置で停止した状態となる(図2(a)を参照)。
【0024】
移動操作部60は、作業者(スリーブ組付け用治具1の使用者)の手で操作可能とされるもので、当該操作により一対の本体部31を相互に接近する向きに移動操作可能とされる。本実施形態では、移動操作部60は、各本体部31に取付けられ治具本体10に設けた穴10bから外側に突出することで、押圧可能な一対の押圧部61で構成される。これにより、移動操作部60(一対の押圧部61)は、治具本体10を作業者が把持した状態で例えば把持した手の一部の指を動かすことで、操作可能とされている。そのため、作業者が治具本体10を把持して一対の押圧部61を互いに接近させる向きに押圧することで、一対の本体部31が付勢部材50の付勢力に抗して互いに接近する向きに移動する。また、これら一対の本体部31は、互いに当接した位置で径方向中央側への移動を規制され、停止した状態となる(図2(b)を参照)。
【0025】
吸着保持部40は、いわゆるスリーブロックと呼ばれる位置決め部材3を吸着保持可能とするもので、嵌合部20と軸方向で隣接した位置に配設される。本実施形態では、吸着保持部40は、1又は複数(図1では2個)の磁石41と、磁石41が収容される収容部42とを有する。収容部42は、治具本体10の外周に設けた嵌合穴に嵌合されることで、治具本体10の円周方向所定位置に固定される。これにより、収容部42の所定位置に収容された磁石41が治具本体10の円周方向所定位置に位置決めされた状態となる(図1を参照)。図1に示す例では、磁石41の表面のみが収容部42の側端面から露出した状態となっている。
【0026】
また、本実施形態では、治具本体10の外周面のうち磁石41に近接する箇所に位置決め部材3の側端面3aを受ける受け面10cが設けられている(図1を参照)。この受け面10cは、位置決め部材3の側端面3a(図5を参照)に準じた形状をなしている。これにより、位置決め部材3の側端面3aを受け面10cに当てることで位置決め部材3の姿勢が安定するので、位置決め部材3の吸着保持部40(磁石41)に対する位置決めと吸着保持とが同時にし易くなる。
【0027】
上記構成の吸着保持部40は、嵌合部20に対して所定の円周方向位置に配設される。本実施形態に係るスリーブ2は、図4に示すように、軸方向一端部の円周方向所定位置に切欠き部2aを有している。この切欠き部2aに位置決め部材3の側端部(側端面3aを有する部分)が嵌り合うようになっている。よって、本実施形態では、先に位置決め部材3を吸着保持部40によって吸着保持し、然る後、位置決め部材3の側端部が切欠き部2aに嵌り合うように位相を合わせてスリーブ2を嵌合部20に嵌合することで、スリーブ2が位置決め部材3に取付けられると共に、スリーブ2の位置決め部材3に対する位相合わせ(円周方向の位置決め)がなされた状態で、スリーブ2が位置決め部材3及びスリーブ組付け用治具1に取付けられる(後述する図8を参照)。
【0028】
なお、上述のように吸着保持部40を磁石41で構成する場合、位置決め部材3は磁性体であることが前提となる。また、この場合、スリーブ組付け用治具1のうち磁石41の周辺部分の材質は非磁性体であることが望ましい。
【0029】
工具保持部70は、本実施形態では、工具としてのソケット4(後述する図10を参照)を保持するためのもので、ソケット4の先端部4aを保持する第一保持部71と、ソケット4の基端部4bを保持する第二保持部72とを有する。この際、第一保持部71は、吸着保持部40(の収容部42)の外周に設けるのがよい。このように構成することで、ソケット4の先端部4aを吸着保持部40と円周方向で同じ位置で保持することができるので、位置決め部材3に対するソケット4の位置決めを容易に行うことができる。また、この場合、第二保持部72は、第一保持部71に保持されたソケット4をスリーブ組付け用治具1の治具本体10と平行に保持できるように、第一保持部71と同じ円周方向位置に配設するのがよい。さらにいえば、スリーブ組付け用治具1との干渉なくソケット4を抜き差しできるように、各保持部71,72は治具本体10から径方向外側に少し離れた位置に設けることが望ましい。
【0030】
次に、上記構成のスリーブ組付け用治具1を用いたスリーブ2の組付け方法の一例を手順に沿って説明する。
【0031】
図6は、スリーブ2の組付け対象となるトランスミッションケース5の要部平面図を示している。本実施形態では、このトランスミッションケース5に設けられたスリーブ穴6にスリーブ2を嵌め合わせると共に、スリーブ穴6の側方に設けたボルト穴7に位置決め部材3を介してボルト8(本発明に係る固定部材に相当)を締付け固定することで、トランスミッションケース5に対するスリーブ2及び位置決め部材3の組付けが行われる。以下、組付け作業の手順を説明する。
【0032】
まず、図7及び図8に示すように、所定の手順でスリーブ2と位置決め部材3をスリーブ組付け用治具1に取り付ける。具体的には、図7に示すように、位置決め部材3の側端面3aを治具本体10に設けた受け面10cに当てた状態で磁石41に位置決め部材3の主表面3bを吸着させる。これにより、位置決め部材3が立設した状態で治具本体10の円周方向所定位置に吸着保持される。
【0033】
次に、作業者は治具本体10を把持した手で移動操作部60としての一対の押圧部61を押圧し、一対の本体部31及び径方向延在部32を径方向中央側に移動させる(図2(b)に示す状態)。然る後、スリーブ2を治具本体10の軸方向一端側から挿入し、嵌合部20にスリーブ2を嵌め合わせる。この際、スリーブ2の切欠き部2aが位置決め部材3の側端部と嵌り合うように位相を合わせてスリーブ2を嵌め合わせることで、位置決め部材3によるスリーブ2の円周方向の位置決めがなされた状態で、スリーブ2がスリーブ組付け用治具1に保持される(図8を参照)。このようにしてスリーブ2を保持したことを確認してから、一対の押圧部61の押圧状態を解除する。これにより、一対の本体部31が付勢部材50により互いに遠ざかる向きの付勢力を受けて径方向外側に移動するので(図2(a)に示す状態)、一対の径方向延在部32によりスリーブ2の軸方向の抜止めが図られる。
【0034】
次に、スリーブ2を保持した状態のスリーブ組付け用治具1を作業者が把持してトランスミッションケース5の組付け箇所まで移動させる。そして、スリーブ2を組付け箇所(スリーブ穴6)に向けた状態で下降させて、スリーブ2をスリーブ穴6に導入する(図9を参照)。この際、位置決め部材3はスリーブ2に対して所定の円周方向位置に配設されているので、位置決め部材3に設けられた貫通穴3cが、締付け対象となるボルト穴7と一致するように、位相を合わせた状態でスリーブ2をスリーブ穴6に導入する。これにより、スリーブ2の油穴2bがトランスミッションケース5の油路5aと連通した状態でスリーブ2が組付けられる(図9を参照)
【0035】
この状態から、位置決め部材3を介してボルト穴7にボルト8を差込み、次いでボルト8の締付け工具であるソケット4を上方から導入する。そして、ソケット4の回転操作によりボルト8をボルト穴7に締付けて(例えば仮締め程度の締付けにして)、位置決め部材3を固定する(図10を参照)。このように位置決め部材3を仮締めした状態で、移動操作部60を操作して一対の本体部31及び径方向延在部32を径方向中央側に移動させた状態でスリーブ組付け用治具1を上昇させることで、スリーブ2及び位置決め部材3からスリーブ組付け用治具1を離脱させる。然る後、ソケット4でボルト8を本締めして、位置決め部材3を完全にトランスミッションケース5に固定することで、トランスミッションケース5に対するスリーブ2の組付けが完了する。
【0036】
以上述べたように、本実施形態に係るスリーブ組付け用治具1によれば、スリーブ2を嵌合部20に嵌合した状態で抜止め部30を嵌合部20に対して移動させることにより、嵌合部20に嵌合した状態のスリーブ2を軸方向の抜止め可能に保持することが可能となる。一方で、位置決め部材3は吸着保持部40により吸着保持することができるので、作業者が手で支えることなく一つの治具(スリーブ組付け用治具1)にスリーブ2と位置決め部材3とを取付けた状態でトランスミッションケース5まで移動させることが可能となる。従って、組付け箇所が狭い場所や奥まった場所であっても、治具本体10を把持して組付け箇所(ここではスリーブ穴6)まで持っていくだけで、容易にスリーブ2と位置決め部材3とをトランスミッションケース5に組付けることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、移動操作部60を、治具本体10から径方向外側に突出した一対の押圧部61で構成して、径方向内側への押圧操作により、抜止め部30をなす一対の本体部31及び径方向延在部32を径方向中央側に移動させ、かつ付勢部材50により押圧解除時には、一対の本体部31及び径方向延在部32を径方向外側に移動可能とした。このように抜止め部30を構成することで、簡易な構成でありながら極めて操作性よくスリーブ2の挿入及び保持を行うことができる。従って、組付け用治具1の操作性ひいては作業性をさらに向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態では、工具保持部70を設けることで、スリーブ組付け用治具1に対する工具(ここではソケット4)の位置決めと、位置決め部材3に対するソケット4の位置決めを一度に行うことができる。よって、スリーブ組付け用治具1にスリーブ2と位置決め部材3とを取付けた状態でスリーブ組付け用治具1ごとトランスミッションケース5の所定箇所(スリーブ穴6及びボルト穴7)に導入することによって、トランスミッションケース5に対するスリーブ2及び位置決め部材3の位置決めと、トランスミッションケース5に対するソケット4の位置決めを同時に行うことができ、作業性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0039】
また、この際、工具保持部70の第一保持部71を吸着保持部40(の収容部42)の外周に設けることで、ソケット4を上方から導入する際、第一保持部71がボルト8の締め付け位置へのガイドとして機能する。よって、ソケット4によるボルト8の締付け動作を簡易にかつ精度よく実施することが可能となる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係るスリーブ組付け用治具は、上記例示の構成に限られることなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能なことはもちろんである。
【0041】
例えば、上記実施形態では、抜止め部30をなす一対の本体部31及び径方向延在部32を、付勢部材50と移動操作部60とで構成した場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、各径方向延在部32の外周にガイド面を設けて、スリーブ2を嵌合部20に導入する際の力を利用して一対の本体部31及び径方向延在部32が径方向外側に移動する構造にすれば、移動操作部60を省略でき、更なる作業性の向上とスリーブ組付け用治具1の簡素化を図ることが可能となる。
【0042】
また、上記実施形態では、吸着保持部40を磁石41で構成した場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えばエア吸引等による真空吸着構造など、公知の吸着構造を吸着保持部40に採用することが可能である。
【0043】
また、上記実施形態では、工具保持部70として、ソケット4の長手方向一端側を嵌合保持する第一保持部71と、ソケット4の長手方向他端側を案内保持する第二保持部72とで構成した場合を説明したが(図1を参照)、もちろんこれ以外の構成をとることも可能である。すなわち、図1に示す構成の工具保持部70であれば、スリーブ組付け用治具1ごとスリーブ2と位置決め部材3を組付け対象の取付け箇所に導入した後、ソケット4を上方から導入してボルト8の締付けが可能になるのに対し、例えば図示は省略するが、第二保持部72をソケット4の長手方向他端側を操作により挟持可能な構造とすれば、予めソケット4の先端部4aを第一保持部71で嵌合保持し、ソケット4の基端部4bを挟持固定により保持した状態で、ソケット4ごとスリーブ2と位置決め部材3をトランスミッションケース5の組付け箇所に導入することが可能となる。
【0044】
また、以上の説明では、油路5aと油穴2bとで位相(円周方向位置)を合わせた状態でスリーブ2をトランスミッションケース5のスリーブ穴6に組み付ける場合を例示したが、もちろん本発明はこれ以外の組付け態様に対しても適用することが可能である。要は、油路5aと油穴2bとの位置合わせに限らず、スリーブ2の位相合わせを伴って任意の部材のスリーブ穴に組付ける場合に、本発明を好適に適用し得る。
【符号の説明】
【0045】
1 スリーブ組付け用治具
2 スリーブ
2a 切欠き部
2b 油穴
3 位置決め部材
3a 側端面
3b 主表面
3c 貫通穴
4 ソケット
4a 先端部
4b 基端部
5 トランスミッションケース
5a 油路
6 スリーブ穴
7 ボルト穴
8 ボルト
10 治具本体
10a 開口部
10b 穴
10c 受け面
20 嵌合部
20a 外周面
30 抜止め部
31 本体部
32 径方向延在部
32a 先端部
40 吸着保持部
41 磁石
42 収容部
50 付勢部材
60 移動操作部
61 押圧部
70 工具保持部
71 第一保持部
72 第二保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10