(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122139
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20240902BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029510
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】古田 大地
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505LL16
5H505LL22
5H505LL60
(57)【要約】
【課題】位置センサレス制御において、d-q座標系の電流位相を推定可能な制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置は、モータに流れる電流をγ軸電流値I
γ及びδ軸電流値I
δに変換する座標変換部51と、γ軸電流値I
γとγ軸電流指令値I
*
γとに基づいてγ軸電圧指令値V
*
γを算出するとともにδ軸電流値I
δとδ軸電流指令値I
*
δとに基づいてδ軸電圧指令値V
*
δを算出するγ-δ電圧指令値算出部53と、γ軸電圧指令値V
*
γ及びδ軸電圧指令値V
*
δを駆動信号に変換する駆動信号出力部と、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルを用いて表される瞬時有効電力の導出式及び瞬時無効電力の導出式に、γ軸電流値I
γ、δ軸電流値I
δ、γ軸電圧指令値V
*
γ及びδ軸電圧指令値V
*
δを導入することによって、推定dq電流位相θ^
iを算出する電流位相推定部56を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、
前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値とに基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値とに基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換する駆動信号出力部と、
γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルを用いて表される瞬時有効電力の導出式及び瞬時無効電力の導出式に、前記γ軸電流値、前記δ軸電流値、前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を導入することによって、d-q座標系の電流位相の推定値である推定dq電流位相を算出する推定部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記γ軸電流値及び前記δ軸電流値に基づいて、γ-δ座標系の電流位相であるγδ電流位相を算出する算出部と、
前記推定dq電流位相及び前記γδ電流位相に基づいて、前記モータの脱調を検出する検出部と、を更に備える、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位置センサを用いないでモータを制御する位置センサレス制御が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
d-q座標系の電流位相を用いてモータの制御を行うことが考えられる。しかしながら、位置センサレス制御では、d軸電流値及びq軸電流値が得られないので、d-q座標系の電流位相を直接計算することができない。位置センサレス制御においては、d-q座標系の電流位相を推定する手法は知られていない。
【0005】
本開示では、位置センサレス制御において、d-q座標系の電流位相を推定可能な制御装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する装置である。この制御装置は、モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、γ軸電流値とγ軸電流指令値とに基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともにδ軸電流値とδ軸電流指令値とに基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を駆動信号に変換する駆動信号出力部と、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルを用いて表される瞬時有効電力の導出式及び瞬時無効電力の導出式に、γ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を導入することによって、d-q座標系の電流位相の推定値である推定dq電流位相を算出する推定部と、を備える。
【0007】
上記制御装置においては、推定dq電流位相は、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルを用いて表される瞬時有効電力の導出式及び瞬時無効電力の導出式に、γ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を導入することによって算出される。瞬時有効電力をγ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値、及びδ軸電圧指令値で表した上で、拡張誘起電圧モデルを用いて整理すると、瞬時有効電力の導出式には、拡張誘起電圧とq軸電流値との積の項が含まれる。同様に、瞬時無効電力をγ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値、及びδ軸電圧指令値で表した上で、拡張誘起電圧モデルを用いて整理すると、瞬時無効電力の導出式には、拡張誘起電圧とd軸電流値との積の項が含まれる。例えば、瞬時有効電力の導出式を拡張誘起電圧とq軸電流値との積の項について解き、瞬時無効電力の導出式を拡張誘起電圧とd軸電流値との積の項について解き、逆正接演算を行うことにより、推定dq電流位相を得ることができる。以上のように、位置センサレス制御において、推定dq電流位相を算出することが可能となる。すなわち、位置センサレス制御において、d-q座標系の電流位相を推定することが可能となる。
【0008】
上記制御装置は、γ軸電流値及びδ軸電流値に基づいて、γ-δ座標系の電流位相であるγδ電流位相を算出する算出部と、推定dq電流位相及びγδ電流位相に基づいて、モータの脱調を検出する検出部と、を更に備えてもよい。dq電流位相とγδ電流位相との誤差が大きいと、モータの脱調が生じる。上記構成によれば、モータの脱調を検出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、位置センサレス制御において、d-q座標系の電流位相を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。
【
図4】
図4は、推定dq電流位相θ^
iの精度を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態に係る制御装置を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0012】
図1を参照しながら、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成を説明する。
図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
図1に示される制御システム1は、モータ(電動機)Mの位置センサレス制御を行うシステムである。モータMは、位置センサレスのモータであり、例えば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータMは、例えば、電動フォークリフト及びプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される。制御システム1は、インバータ回路2と、制御装置3と、電流センサSe1,Se2,Se3と、を含む。
【0013】
インバータ回路2は、直流電源PSから供給される直流電力によりモータMを駆動する。インバータ回路2は、コンデンサCと、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6と、を含む。
【0014】
コンデンサCは、直流電源PSから出力され、インバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0015】
スイッチング素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子SW1は、U相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW2は、U相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW3は、V相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW4は、V相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW5は、W相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW6は、W相の下アームのスイッチング素子である。コンデンサCの一方の端子は、直流電源PSの正極端子及びスイッチング素子SW1,SW3,SW5のそれぞれのコレクタ端子に接続されている。コンデンサCの他方の端子は、直流電源PSの負極端子及びスイッチング素子SW2,SW4,SW6のそれぞれのエミッタ端子に接続されている。
【0016】
スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe1を介してモータMのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe2を介してモータMのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe3を介してモータMのW相の入力端子に接続されている。
【0017】
スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲートには、制御装置3から駆動信号が供給される。スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれは、ゲートに供給される駆動信号に基づいて、オン又はオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオン又はオフすることで、直流電源PSから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それらの交流電力がモータMの3つの相(U相、V相、及びW相)の入力端子に入力されてモータMの回転子が回転する。
【0018】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子又はシャント抵抗などによって構成される。電流センサSe1は、モータMのU相に流れる交流電流の電流値であるU相電流値Iuを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe2は、モータMのV相に流れる交流電流の電流値であるV相電流値Ivを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe3は、モータMのW相に流れる交流電流の電流値であるW相電流値Iwを検出して制御装置3に出力する。なお、本実施形態では、制御システム1は、3つの電流センサ(電流センサSe1~Se3)を備えているが、2つの電流センサを備えてもよい。
【0019】
制御装置3は、モータMの位置センサレス制御を行う装置である。制御装置3は、インバータ回路2を制御することによって、モータMを駆動させる。制御装置3は、ドライブ回路4と、演算器5と、を含む。
【0020】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などによって構成さる。ドライブ回路4は、演算器5から出力されるU相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wと搬送波(三角波、ノコギリ波、又は逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0021】
演算器5は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などから構成される電子制御ユニットである。例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されることにより、
図2に示される演算器5の各種機能が実現される。
【0022】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、演算器5の機能構成を説明する。
図2は、
図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。
図2に示されるように、演算器5は、機能的な構成要素として、座標変換部51と、γ-δ電流指令値出力部52と、γ-δ電圧指令値算出部53と、座標変換部54と、位置推定部55と、電流位相推定部56(推定部)と、電流位相算出部57(算出部)と、算出部58と、検出部59と、を含む。
【0023】
座標変換部51は、U相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。座標変換部51は、位置推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、U相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。すなわち、座標変換部51は、モータMに流れる電流をγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する電流値変換部として機能する。推定位置θ^reは、モータMの回転子の位置θreの推定値である。位置θreは、電気角とも称される。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部51は、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδをγ-δ電圧指令値算出部53、位置推定部55、電流位相推定部56及び電流位相算出部57に出力する。座標変換部51には、U相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwのうち、二相の電流値が入力され、残りの一相の電流値は、入力された二相の電流値から算出されてもよい。
【0024】
なお、「θ^
re」の表記では「^」が「θ」の右上に位置しているが、「θ^
re」と
図2の位置推定部55から座標変換部51に向かう矢印に記載されている記号とは同じ意味である。他の「^」の表記についても同様とする。本明細書において記号「^」は、推定値を意味する。
【0025】
図3に示されるように、位置θ
reは、α-β座標系のα軸とd-q座標系のd軸とが成す角度である。推定位置θ^
reは、α-β座標系のα軸とγ-δ座標系のγ軸とが成す角度である。α-β座標系は、固定座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。γ-δ座標系は、位置センサレス制御における推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とは、位置誤差Δθ
reだけずれている。
【0026】
γ-δ電流指令値出力部52は、トルク指令値T*を用いてγ軸電流指令値I*
γ及びδ軸電流指令値I*
δを算出する。γ-δ電流指令値出力部52は、γ軸電流指令値I*
γ及びδ軸電流指令値I*
δをγ-δ電圧指令値算出部53に出力する。
【0027】
γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを生成する。γ-δ電圧指令値算出部53は、例えば、γ軸電流指令値I*
γとγ軸電流値Iγとの差である差分γ軸電流指令値ΔI*
γを算出するとともに、δ軸電流指令値I*
δとδ軸電流値Iδとの差である差分δ軸電流指令値ΔI*
δを算出し、差分γ軸電流指令値ΔI*
γ及び差分δ軸電流指令値ΔI*
δをγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δに変換する。すなわち、γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電流指令値I*
γとγ軸電流値Iγとに基づいてγ軸電圧指令値V*
γを算出するとともに、δ軸電流指令値I*
δとδ軸電流値Iδとに基づいてδ軸電圧指令値V*
δを算出する。γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δの生成方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを座標変換部54及び電流位相推定部56に出力する。
【0028】
座標変換部54は、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δをU相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wに変換する機能部である。座標変換部54は、位置推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δをU相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wに変換する。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部54は、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wをドライブ回路4に出力する。すなわち、座標変換部54とドライブ回路4とは、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを駆動信号に変換する駆動信号出力部として機能するといえる。
【0029】
位置推定部55は、推定角速度ω^re及び推定位置θ^reを算出する。位置推定部55は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ及び予め推定可能な推定モータパラメータに基づいて、モータMにおいて生じる拡張誘起電圧(EEMF:Extended ElectroMotive Force)eの推定値である推定拡張誘起電圧e^を算出し、推定拡張誘起電圧e^に基づいてモータMの位置の推定値である推定位置θ^reを算出する。具体的には、例えば、位置推定部55は、推定拡張誘起電圧e^から位置誤差Δθ^reを算出し、位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算して推定角速度ω^reを求める。そして、位置推定部55は、推定角速度ω^reと位置誤差Δθ^reとに基づいて推定位置θ^reを算出する。位置推定部55は、推定位置θ^reを座標変換部51及び座標変換部54に出力し、推定角速度ω^reを電流位相推定部56に出力する。
【0030】
電流位相推定部56は、推定dq電流位相θ^iを算出する機能部である。推定dq電流位相θ^iは、d-q座標系の電流位相であるdq電流位相θiの推定値である。d軸電流値Id及びq軸電流値Iqは未知であるので、電流位相推定部56は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δに基づいて、推定dq電流位相θ^iを算出する。推定dq電流位相θ^iの算出には、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデル、瞬時有効電力Pの導出式、及び瞬時無効電力Qの導出式が用いられる。具体的には、推定dq電流位相θ^iは、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルを用いて表される瞬時有効電力Pの導出式及び瞬時無効電力Qの導出式に、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを導入することによって算出される。
【0031】
γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデル(γ軸電圧値V
γ及びδ軸電圧値V
δ)は、式(1)及び式(2)で表される。なお、pは、時間微分演算子d/dtを表す。巻線抵抗R^、d軸インダクタンスL^
d、及びq軸インダクタンスL^
qは、制御対象のモータMのモータパラメータの推定値であり、モータMを用いた測定などによって予め推定される。モータMのモータパラメータの実値ではなく推定値としているのは、モータMに流れる電流及び温度によってモータパラメータは変動するためである。位置誤差Δθ
reは、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とが成す角度(又はγ-δ座標系のδ軸とd-q座標系のq軸とが成す角度)の真値である。位置誤差Δθ
reがゼロである場合、γ軸はd軸と一致し、δ軸はq軸に一致する。式(1)の右辺第2項の1番目の要素は、位置誤差Δθ
reの微分値を表す。拡張誘起電圧eは、q軸にのみ発生する成分である。
【数1】
【数2】
【0032】
式(1)及び式(2)を用いて瞬時有効電力Pの導出式及び瞬時無効電力Qの導出式を変形することにより、式(3)及び式(4)がそれぞれ得られる。
【数3】
【数4】
【0033】
電流振幅Iは、γ軸電流値I
γ及びδ軸電流値I
δを用いて、式(5)で表される。
【数5】
【0034】
式(3)には、拡張誘起電圧eとq軸電流値I
qとの積の項が含まれており、式(4)には、拡張誘起電圧eとd軸電流値I
dとの積の項が含まれている。したがって、推定dq電流位相θ^
iは、式(6)によって算出される。
【数6】
【0035】
ここで、位置誤差Δθ
reの微分値は、未知の値であるが、無視できるほどに小さい。したがって、式(6)において位置誤差Δθ
reの微分値をゼロとすることによって、式(7)が得られる。
【数7】
【0036】
式(8)に示されるように、位置誤差Δθ
reの微分値の項と電流微分項とが打ち消し合うと仮定すると、式(6)から式(9)が得られる。
【数8】
【数9】
【0037】
電流位相推定部56は、式(7)又は式(9)を用いて推定dq電流位相θ^iを算出する。γ軸電圧値Vγとしてγ軸電圧指令値V*
γが用いられ、δ軸電圧値Vδとしてδ軸電圧指令値V*
δが用いられる。電流位相推定部56は、推定dq電流位相θ^iを算出部58に出力する。
【0038】
電流位相算出部57は、γδ電流位相θ
γδを算出する機能部である。γδ電流位相θ
γδは、γ-δ座標系の電流位相である。電流位相算出部57は、γ軸電流値I
γ及びδ軸電流値I
δに基づいて、γδ電流位相θ
γδを算出する。具体的には、電流位相算出部57は、式(10)により、γδ電流位相θ
γδを算出する。電流位相算出部57は、γδ電流位相θ
γδを算出部58に出力する。
【数10】
【0039】
算出部58は、推定位置誤差Δθ^
reを算出する機能部である。推定位置誤差Δθ^
reは、位置誤差Δθ
reの推定値である。算出部58は、推定dq電流位相θ^
i及びγδ電流位相θ
γδに基づいて、推定位置誤差Δθ^
reを算出する。具体的には、算出部58は、式(11)に示されるように、推定dq電流位相θ^
iからγδ電流位相θ
γδを減算することによって推定位置誤差Δθ^
reを算出する。算出部58は、推定位置誤差Δθ^
reを検出部59に出力する。
【数11】
【0040】
検出部59は、モータMの脱調を検出する機能部である。検出部59は、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出する。したがって、検出部59は、推定dq電流位相θ^i及びγδ電流位相θγδに基づいて、モータMの脱調を検出しているともいえる。具体的には、検出部59は、推定位置誤差Δθ^reと予め定められた閾値とを比較し、推定位置誤差Δθ^reが閾値よりも大きい場合にモータMの脱調が生じたと判定し、推定位置誤差Δθ^reが閾値以下である場合にモータMの脱調が生じていないと判定する。閾値としては、例えば、π/2(rad)が用いられる。なお、モータMの脱調が生じたと判定された場合、モータMが停止されてもよい。
【0041】
次に、
図4を参照しながら、推定dq電流位相θ^
iの精度を説明する。
図4は、推定dq電流位相θ^
iの精度を説明するための図である。
図4の横軸は時間(単位:秒)を示し、
図4の縦軸は電流位相(単位:ラジアン)を示す。dq電流位相θ
iは、制御対象のモータMにセンサを取り付けることによって得られた真値である。推定dq電流位相θ^
iは、式(9)によって算出された推定値である。
【0042】
図4に示されるように、モータMの脱調が発生していない期間においては、推定dq電流位相θ^
iはdq電流位相θ
iと実質的に一致している。モータMの脱調が発生している期間においては、推定dq電流位相θ^
iはdq電流位相θ
iとはわずかに異なるものの、概ね一致しているといえる。したがって、モータMの脱調が発生しているか否かに関わらず、推定dq電流位相θ^
iは精度良く算出されているといえる。
【0043】
以上説明した制御装置3においては、推定dq電流位相θ^iは、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルを用いて表される瞬時有効電力Pの導出式及び瞬時無効電力Qの導出式に、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを導入することによって算出される。瞬時有効電力Pをγ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ、及びδ軸電圧指令値V*
δで表した上で、拡張誘起電圧モデルを用いて整理すると、瞬時有効電力Pの導出式には、拡張誘起電圧eとq軸電流値Iqとの積の項が含まれる。同様に、瞬時無効電力Qをγ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ、及びδ軸電圧指令値V*
δで表した上で、拡張誘起電圧モデルを用いて整理すると、瞬時無効電力Qの導出式には、拡張誘起電圧eとd軸電流値Idとの積の項が含まれる。瞬時有効電力Pの導出式を拡張誘起電圧eとq軸電流値Iqとの積の項について解き、瞬時無効電力Qの導出式を拡張誘起電圧eとd軸電流値Idとの積の項について解き、逆正接演算を行うことにより、推定dq電流位相θ^iを得ることができる。以上のように、位置センサレス制御において、推定dq電流位相θ^iを算出することが可能となる。すなわち、位置センサレス制御において、d-q座標系の電流位相を推定することが可能となる。
【0044】
dq電流位相θiとγδ電流位相θγδとの誤差が大きいと、モータMの脱調が生じる。制御装置3においては、電流位相算出部57は、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに基づいて、γδ電流位相θγδを算出する。検出部59は、推定dq電流位相θ^i及びγδ電流位相θγδに基づいて算出された推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出する。したがって、モータMの脱調を検出することができる。
【0045】
以上、本開示の一実施形態について詳細に説明されたが、本開示に係る制御装置は上記実施形態に限定されない。
【0046】
上記実施形態では、推定dq電流位相θ^iは、モータMの脱調の検出に用いられているが、モータMの脱調の検出以外にも用いられ得る。例えば、推定dq電流位相θ^iは、PWM(Pulse Width Modulation)制御へのフィードバックに用いられてもよい。この場合、推定dq電流位相θ^iの算出には、γ軸電流値Iγとしてγ軸電流指令値I*
γが用いられてもよく、δ軸電流値Iδとしてδ軸電流指令値I*
δが用いられてもよい。演算器5は、電流位相算出部57、算出部58、及び検出部59を含まなくてもよい。
【符号の説明】
【0047】
3…制御装置、4…ドライブ回路(駆動信号出力部)、51…座標変換部(電流値変換部)、52…γ-δ電流指令値出力部、53…γ-δ電圧指令値算出部、54…座標変換部(駆動信号出力部)、55…位置推定部、56…電流位相推定部(推定部)、57…電流位相算出部(算出部)、58…算出部、59…検出部、M…モータ。