(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122159
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/08 20060101AFI20240902BHJP
E03D 11/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
E03D11/08
E03D11/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029540
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100224672
【弁理士】
【氏名又は名称】深田 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】岡部 大輝
(72)【発明者】
【氏名】戸次 允
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥子
(72)【発明者】
【氏名】黄 翔輝
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA02
2D039AC02
2D039AC03
2D039AD00
2D039AD01
2D039DB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、吐水口を縦長に形成しても、ボウル部の洗浄性能を向上させることができると共に、洗浄水の便器外への飛び出しを抑制することができる水洗大便器を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、第1吐水口24が縦長に形成され、第1吐水口24の下流側のリム部18の内周面18aに、ボウル部6の内側に向かって突出する凸部40が設けられているので、この凸部40によりリム部18の内周面18aを旋回する洗浄水の一部を流下させて汚物受け面16を洗浄することができる。これにより、ボウル部6の洗浄性能を向上させることができると共に、洗浄水の便器外への飛び出しを抑制することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
ボウル形状の汚物受け面と、この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に設けられ、上記リム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記吐水口は、縦長に形成され、
上記吐水口の下流側の上記リム部の内周面には、上記ボウル部の内側に向かって突出する凸部が設けられていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
上記吐水口は、上記ボウル部の前後方向の中心軸よりも前方側に設けられ、上記凸部は、上記リム部の内周面の前端に設けられている、請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
上記凸部は、上記ボウル部の平面視で、上記ボウル部の前後方向の中心軸よりも前方側であって上記リム部の内周面が最小の曲率半径で形成されている部分に少なくとも設けられている、請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項4】
上記凸部は、その下端が上記リム部の内周面を旋回する洗浄水の流れ方向に向かって下方へ傾斜している、請求項1~3の何れか1項に記載の水洗大便器。
【請求項5】
上記凸部は、上記ボウル部の内側に突出している度合いが下流にいくにつれて大きくなるように形成されている、請求項4に記載の水洗大便器。
【請求項6】
上記凸部は、その下面が上記ボウル部の内側に向かって上方へ傾斜している、請求項5に記載の水洗大便器。
【請求項7】
上記吐水口と上記凸部との間の上記リム部の内周面には、その上方に水平面が設けられている、請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項8】
上記吐水口は、縦長の矩形形状に形成された下方開口と、この下方開口よりも横幅が小さく形成され上記下方開口から上方へ延びる上方開口とを有している、請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項9】
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路とを有している、請求項8に記載の水洗大便器。
【請求項10】
上記通水路の下流側では、上記下方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって下方へ傾斜し、上記上方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって水平方向に延びている、請求項9に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に記載されているように、洗浄水がリム吐水口からリム部の内周面に沿って吐水され、ボウル部に旋回流を形成することによって洗浄する水洗大便器が知られている。この水洗大便器は、リム吐水口から吐水される洗浄水の瞬間流量を増加させるために、リム吐水口を縦長にして拡大している。縦長のリム吐水口は、横幅を変えずに縦幅を大きくするため、リム吐水口と隣接している汚物受け面が小さくなるのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、縦長のリム吐水口は、横幅が小さいため、洗浄水がリム吐水口を通過する時に圧力損失を受ける。これにより、リム吐水口から吐水される洗浄水の勢いが弱くなり、ボウル部を十分に洗浄することができない可能性がある。また、縦長のリム吐水口は、リム吐水口から吐水された洗浄水が上方向に広がるため、洗浄水がリム部に沿って流れる時に便器外へ飛び出す可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、吐水口を縦長に形成しても、ボウル部の洗浄性能を向上させることができると共に、洗浄水の便器外への飛び出しを抑制することができる水洗大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、ボウル形状の汚物受け面と、この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、を備えたボウル部と、リム部に設けられ、リム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、洗浄水を吐水口へ導く通水路と、ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、吐水口は、縦長に形成され、吐水口の下流側のリム部の内周面には、ボウル部の内側に向かって突出する凸部が設けられている。
このように構成された本発明においては、吐水口が縦長に形成され、吐水口の下流側のリム部の内周面に、ボウル部の内側に向かって突出する凸部が設けられているので、この凸部によりリム部の内周面を旋回する洗浄水の一部を流下させて汚物受け面を洗浄することができる。これにより、ボウル部の洗浄性能を向上させることができる。また、洗浄水の便器外への飛び出しも抑制することができる。
【0007】
また、本発明において、好ましくは、吐水口は、ボウル部の前後方向の中心軸よりも前方側に設けられ、凸部は、リム部の内周面の前端に設けられている。
このように構成された本発明においては、吐水口が、ボウル部の前後方向の中心軸よりも前方側に設けられ、凸部が、リム部の内周面の前端に設けられているので、洗浄水が吐水直後に前端を流れても、凸部により洗浄水を流下させて汚物受け面を洗浄することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、凸部は、ボウル部の平面視で、ボウル部の前後方向の中心軸よりも前方側であってリム部の内周面が最小の曲率半径で形成されている部分に少なくとも設けられている。
このように構成された本発明においては、凸部は、ボウル部の平面視で、ボウル部の前後方向の中心軸よりも前方側であってリム部の内周面が最小の曲率半径で形成されている部分に少なくとも設けられているので、最小の曲率半径で形成されている部分を流れる時に、凸部により洗浄水を流下させて汚物受け面を洗浄することができる。また、洗浄水が飛び出す可能性が高い最小の曲率半径で形成されている部分において、凸部により洗浄水を流下させるため、洗浄水の便器外への飛び出しを抑制することができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、凸部は、その下端がリム部の内周面を旋回する洗浄水の流れ方向に向かって下方へ傾斜している。
このように構成された本発明においては、凸部は、その下端がリム部の内周面を旋回する洗浄水の流れ方向に向かって下方へ傾斜しているので、旋回する洗浄水の一部を流下させて汚物受け面を洗浄することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、凸部は、ボウル部の内側に突出している度合いが下流にいくにつれて大きくなるように形成されている。
このように構成された本発明においては、凸部は、ボウル部の内側に突出している度合いが下流にいくにつれて大きくなるように形成されているので、洗浄水が下流へ旋回するほど流下して汚物受け面を洗浄することができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、凸部は、その下面がボウル部の内側に向かって上方へ傾斜している。
このように構成された本発明においては、凸部は、その下面がボウル部の内側に向かって上方へ傾斜しているので、上方から凸部の下面を掃除し易くなっている。
【0012】
本発明において、好ましくは、吐水口と凸部との間のリム部の内周面には、その上方に水平面が設けられている。
このように構成された本発明においては、吐水口と凸部との間のリム部の内周面には、その上方に水平面が設けられているので、吐水直後の洗浄水を水平面により整流させ、その整流された洗浄水を凸部へ流すことができる。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、吐水口は、縦長の矩形形状に形成された下方開口と、この下方開口よりも横幅が小さく形成され下方開口から上方へ延びる上方開口とを有している。
このように構成された本発明においては、吐水口は、縦長の矩形形状に形成された下方開口と、この下方開口よりも横幅が小さく形成され下方開口から上方へ延びる上方開口とを有しているので、上方開口から空気を排出しながら、下方開口から洗浄水を吐水することができる。これにより、吐水口における空気の巻き込みを抑制し、吐水口からの洗浄水により主流を形成して汚物受け面を洗浄することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され下方通水路から上方へ延びる上方通水路とを有している。
このように構成された本発明においては、通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され下方通水路から上方へ延びる上方通水路とを有しているので、空気が上方通水路を流れて上方開口から排出され、洗浄水が下方通水路を流れて下方開口から吐水される。これにより、通水路内における空気の巻き込みを抑制し、吐水口からの洗浄水により主流を形成して汚物受け面を洗浄することができる。
【0015】
また、本発明において、好ましくは、通水路の下流側では、下方通水路の上面が上流から吐水口に向かって下方へ傾斜し、上方通水路の上面が上流から吐水口に向かって水平方向に延びている。
このように構成された本発明においては、通水路の下流側では、下方通水路の上面が上流から吐水口に向かって下方へ傾斜しているので、下方通水路により下方に向かう流れを形成して、吐水口から下方に向かう主流を吐水することができる。一方、上方通水路の上面が上流から吐水口に向かって水平方向に延びているので、上方通水路に空気を収容することができる大きな空間を形成して、空気を洗浄水と確実に分離させて吐水口から排出させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水洗大便器によれば、吐水口を縦長に形成しても、ボウル部の洗浄性能を向上させることができると共に、洗浄水の便器外への飛び出しを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による水洗大便器の側面断面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って見た断面図である。
【
図3】本発明の実施形態による水洗大便器の第1吐水口を正面から見た図である。
【
図4】
図2に示す第1通水路の洗浄水の流れ方向に対して垂直なA~E断面の流路断面図である。
【
図5】
図2に示す第1通水路のV-V断面の断面図である。
【
図6】
図2のVI-VI線に沿って見た断面図である。
【
図7】
図2に示すリム部の洗浄水の流れ方向に対して垂直なF~J断面の流路断面図である。
【
図8】本発明の実施形態による水洗大便器における第1吐水口及び第2吐水口から吐水された洗浄水の溜水面への流入の様子を示すボウル部の平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態による水洗大便器について説明する。先ず、
図1及び
図2により、水洗大便器の基本構造を説明する。
図1は本発明の実施形態による水洗大便器の側面断面図であり、
図2は
図1のII-II線に沿って見た断面図である。
【0019】
図1及び
図2に示すように、水洗大便器1は、ボウル部内の水の落差による流水作用で汚物を押し流す洗い落し式便器である。水洗大便器1は、陶器製の便器本体2と、この便器本体2を洗浄する洗浄水を貯水する貯水タンク4とを備えている。便器本体2は、前方側にボウル部6を備え、後方上部には、その上流端に設けられた開口部7が貯水タンク4に連通する共通通水路8が形成されている。さらに、ボウル部6の後方下部に汚物を排出するための排水管路10が形成されている。
なお、本発明の実施形態においては、洗い落とし式便器について説明するが、これに限定されるものではなく、本発明の水洗大便器には、サイホン作用により汚物を排出するサイホン式便器が含まれる。
【0020】
ここで、本明細書において、使用者が水洗大便器1を前方から見て、水洗大便器1の手前を前方、奥側を後方、右側を右方、左側を左方、として説明する。
【0021】
上述した貯水タンク4は、排水弁12を備え、使用者が操作レバー(図示せず)を開操作することにより、排水弁12が開き、貯水タンク4内の洗浄水が便器本体2に供給されるようになっている。
なお、本発明の水洗大便器においては、貯水タンク4以外に、洗浄水の供給源として、水道水直圧式のものや、フラッシュバルブを用いたものでもよく、さらに、ポンプを使用して洗浄水を供給するものであってもよい。
【0022】
ボウル部6は、ボウル形状の汚物受け面16と、汚物受け面16の上方に形成されて外部に露出した内周面18aを有するリム部18と、汚物受け面16の下方に形成されその内部に溜水面20を形成するツボ部22を備えている。ここで、ツボ部22の溜水面20は、略三角形であり、上面視で前後方向が160mm~180mm、幅方向が125mm~145mmであり、従来の洗い落とし式便器の溜水面よりも大きく(拡大されて)形成されている。また、ツボ部22は、上面視で前後方向が200mm~240mmであり、幅方向が150mm~190mmの大きさで溜水面20よりも卵型(前側が先細の楕円形状)の略三角形を形成している。
【0023】
ボウル部6のリム部18には、左側の前方の位置に、洗浄水を吐水する第1吐水口24(吐水口)が、さらに、右側の後方の位置に、洗浄水を吐水する第2吐水口26が形成されている。上述した共通通水路8は、下流側に向けて、第1通水路28と第2通水路30とに分岐し、第1通水路28は第1吐水口24まで延び、第2通水路30は第2吐水口26まで延び、貯水タンク4から洗浄水を第1吐水口24と第2吐水口26に供給するようになっている。ここで、第1吐水口24はボウル部6の前方に向けて吐水を行い、第1吐水口24と第2吐水口26は、同一の方向に旋回する旋回流を形成する向きに洗浄水を吐水するようになっている。本発明の実施形態の場合は、反時計回りの旋回流を形成している。
なお、本発明の水洗大便器において、吐水口は、1つでも良く、さらに、2つ以上(例えば3つ)であってもよい。
【0024】
次に、
図2~
図5により、本発明の実施形態による水洗大便器の第1吐水口及び第1通水路の詳細を説明する。
図3は、本発明の実施形態による水洗大便器1の第1吐水口24を正面から見た図であり、
図4は、
図2に示す第1通水路28の洗浄水の流れ方向に対して垂直なA~E断面の流路断面図であり、
図5は、
図2に示す第1通水路28のV-V断面の断面図である。
図5において、点線は、第1通水路28の上方通水路38の上面38aを示している。
【0025】
まず、
図3に示すように、第1吐水口24は、開口断面がL字形状に形成されており、縦長の矩形形状に形成された下方開口32(
図3の点線で囲った部分)と、この下方開口32よりも横幅が小さく形成され下方開口32の上端32aの左側(外側)から上方へ延びる縦長の矩形形状に形成された上方開口34(
図3の点線で囲った部分)とを有している。下方開口32の上端32a及び下端32bは略水平になっている。上方開口34は、下方開口32の上端32aの左端(外端)から鉛直方向上方へ延びて形成されている。上方開口34の上端34aは略水平になっている。上方開口34及び下方開口32は連続しており、一つの開口を形成している。
【0026】
上方開口34の開口断面積は、下方開口32の開口断面積の約6分の1の大きさに設定されている。下方開口32及び上方開口34の両方は、横幅(W1及びw1)よりも縦幅(H1及びh1)が長い矩形形状に形成されている。また、上方開口34の横幅(w1)は、下方開口32の横幅(W1)の約3分の1の長さに設定され、上方開口34の縦幅(h1)は、下方開口32の縦幅(H1)の約1/2の長さに設定されている。
これにより、下方開口32から洗浄水の大半が吐水され、ボウル部6を旋回する前方主流F1を形成する(
図8を参照)。一方、上方開口34から空気が排出されると共に洗浄水の一部が吐水されてリム部18の内周面18aに沿って流れるようになっている。
したがって、ボウル部6を旋回する前方主流F1を形成することができる共に、第1通水路28内の空気を第1吐水口24から排出することができるようになっている。
【0027】
また、
図4(A)~
図4(E)に示すように、第1通水路28は、通水路断面がL字形状に形成され、第1吐水口24と連続して繋がっている。第1通水路28は、開口断面において、縦長の矩形形状に形成された下方通水路36(
図4の点線で囲った部分)と、この下方通水路36よりも横幅が小さく形成され下方通水路36から上方へ延びる縦長の矩形形状に形成された上方通水路38(
図4の点線で囲った部分)とを有している。上方通水路38及び下方通水路36は連続しており、一つの通水路を形成している。
【0028】
第1通水路28の上流側(
図4(A)及び
図4(B))では、上方通水路38が下方通水路36の上面36aの左端(外端)から左側(外側)上方へ斜めに延びている。第1通水路28の下流側(
図4(C)~
図4(E))では、上方通水路38が下方通水路36の上面36aの左端(外端)から鉛直方向上方へ延びている。
これらにより、第1通水路28の上流側(
図4(A)及び
図4(B))では、溜水面20の拡大に伴って曲率が大きくなり、比較的大きな遠心力が洗浄水に作用するが、上方通水路38が上方斜めに延びているため、洗浄水が上方通水路38の内壁に勢いよく衝突するのを抑制することができる。このため、洗浄水が勢いよく衝突して乱され、空気を巻き込むことを抑制することができる。さらに、第1通水路28の下流側(
図4(C)~
図4(E))では、上方通水路38が鉛直方向上方へ延びているため、洗浄水が下方通水路36へ誘導され、第1吐水口24の下方開口32から洗浄水の大半が吐水され、ボウル部6を旋回する前方主流F1を形成することができるようになっている。
【0029】
第1通水路28の下流側(
図4(C)~
図4(E))では、上方通水路38の流路断面積は、下方通水路36の流路断面積の約6分の1の大きさに設定されている。下方通水路36及び上方通水路38の両方は、横幅(W2~W4及びw2~w4)よりも縦幅(H2~H4及びh2~h4)が長い矩形形状に形成されている。また、上方通水路38の横幅(w2~w4)は、下方通水路36の横幅(W2~W4)の約3分の1の長さに設定され、上方通水路38の縦幅(h2~h4)は、下方通水路36の縦幅(H2~H4)の約2分の1の長さに設定されている。
【0030】
第1通水路28の下流側(
図4(C)~
図4(E))では、下方通水路36の横幅(W2~W4)が上流から第1吐水口24に向かって徐々に小さくなっている。また、
図5に示すように、第1通水路28の下流側では、下方通水路36の上面36aが上流から第1吐水口24に向かって徐々に下方へ傾斜している。具体的に、下方通水路36の上面36aは、水平方向に対して約5°の傾斜角度で傾斜している。また、下方通水路36の底面36bは、上流から第1吐水口24に向かって水平方向に延びている。すなわち、下方通水路36の流路断面積は、上流から第1吐水口24に向かって徐々に縮小している。
これらにより、下方通水路36により下方へ向かう流れを形成し、第1吐水口24から下方に向かう前方主流F1を吐水することができるようになっている(
図8を参照)。
【0031】
第1通水路28の下流側(
図4(C)~
図4(E))では、上方通水路38の横幅(w2~w4)が上流から第1吐水口24に向かって略一定で形成されている。また、
図5に示すように、第1通水路28の下流側では、上方通水路38の上面38aが上流から第1吐水口24に向かって水平方向に延びている。すなわち、上方通水路38の流路断面積は、上流から第1吐水口24に向かって徐々に拡大している。
これらにより、上方通水路38に空気を収容することができる大きな空間を形成することができ、空気を洗浄水と確実に分離することができるようになっている。
【0032】
図2に示すように、第1吐水口24は、ボウル部6の前後方向の中心線よりも前方側に配置され、第1通水路28が第1吐水口24まで延びている。
これにより、通水路の距離を長くすることができ、空気を洗浄水と確実に分離させて第1吐水口24から排出させることができるようになっている。
【0033】
次に、
図2、
図6、及び
図7により、本発明の実施形態による水洗大便器のリム部の内周面について詳細に説明する。
図6は、
図2のVI-VI線に沿って見た断面図であり、
図7は、
図2に示すリム部の洗浄水の流れ方向に対して垂直なF~J断面の流路断面図である。
【0034】
先ず、
図2に示すように、ボウル部6の前後方向の中心軸よりも前方側は、平面視で、リム部18の内周面18aが、その前端18bでは最小の第1の曲率半径R1で形成され、この第1の曲率半径R1の後方側では上記第1の曲率半径R1より大きな第2の曲率半径R2で形成され、この第2の曲率半径R2の更に後方側では最大の第3の曲率半径R3で形成されている。
第1吐水口24は、ボウル部6の左側の前方位置であって、リム部18の内周面18aが第3の曲率半径R3から第2の曲率半径R2に変わる位置に設けられている。
また、リム部18の内周面18aが最小の第1の曲率半径R1で形成されている領域P1には、リム部18の内周面18aに、ボウル部6の内側(ボウル部6の中央)に向かって横方向に突出する凸部40が設けられている。換言すると、リム部18の内周面18aにおいて、少なくとも曲率半径が最小となる部分に凸部40が形成されている。より具体的に、凸部40は、第1吐水口24よりも下流側の第1吐水口24の近傍に設けられ、領域P1の全域(洗浄水が旋回する方向の全長)にわたって設けられている。これにより、第1吐水口24から吐水され、リム部18の内周面18aを旋回しようとする洗浄水の一部を凸部40によって汚物受け面16へ流下させるようになっている。
【0035】
次に、
図6及び
図7に示すように、リム部18は、その下端から上方に向かって立ち上がり、その上端からボウル部6の内側に張り出すように形成された内周面18aをボウル部6の全周に備えている。
図6に示すように、凸部40は、領域P1において、リム部18の内周面18aの上下方向の中心軸よりも上方の領域に設けられている。凸部40は、領域P1において、リム部18の内周面18aの上方の領域の略全域に設けられている。
また、凸部40は、陶器によりリム部18と一体的に形成され、リム部18の内周面18aと滑らかな曲線により連続して形成されている。
【0036】
図6に示すように、凸部40の上下方向の幅は、リム部18の内周面18aを旋回する洗浄水の流れ方向に向かって徐々に拡大するように形成されている。すなわち、凸部40の上下方向の幅は、第1吐水口24に近いほど小さく、第1吐水口24から遠いほど大きくなっている。
また、凸部40の上下方向の幅は、リム部18の前端18bにおいて、リム部18の内周面18aの上下方向の長さの約半分の長さになっている。これにより、最も遠心力の影響を受けるリム部18の前端18bにおいて、旋回しようとする洗浄水の一部を凸部40によって汚物受け面16へ流下させるようになっている。
【0037】
凸部40の下端40aは、リム部18の内周面18aを旋回する洗浄水の流れ方向に向かって徐々に下方へ傾斜している。凸部40の下端40aは、水平方向に対して約30°の傾斜角度で下方へ傾斜している。これにより、リム部18の内周面18aを旋回する洗浄水が凸部40の下端40aにより下方へ案内され、汚物受け面16へ流下するようになっている。
また、凸部40の下端40aは、第1吐水口24の近傍からリム部18の前端18bまで傾斜し、リム部18の前端18bよりも下流側が略水平になっている。これにより、第1吐水口24から最も遠心力の影響を受けるリム部18の前端18bまでを旋回する洗浄水は、凸部40により下方へ案内され、前端18bを通過した洗浄水は、後方へ旋回するように案内されるようになっている。
【0038】
次に、
図7(F)に示すように、第1吐水口24と凸部40との間のF断面の位置において、リム部18の内周面18aは、その下端から鉛直方向上方に向かって延びる鉛直面18cと、この鉛直面18cの上端からボウル部6の内側に向かって水平方向に延びる水平面18dとを備えている。鉛直面18c及び水平面18dは、約90°の傾斜角度で直交して連結されている。鉛直面18cと水平面18dとの間は、外側に向かって凹状の小さな曲面にて連結されている。すなわち、第1吐水口24と凸部40との間のF断面の位置では、凸部40が形成されていない。
また、鉛直面18c及び水平面18dは、平坦な面で形成されている。これにより、第1吐水口24から吐水された洗浄水が鉛直面18c又は水平面18dの上を流れることによって整流されるようになっている。
【0039】
図7(G)に示すように、リム部18の前端18bよりも上流側の領域P1のG断面の位置において、リム部18の内周面18aは、その下端から鉛直方向上方に向かって延びる鉛直面18cと、この鉛直面18cの上端からボウル部6の内側に向かって水平方向に延びる水平面18dと、鉛直面18cと水平面18dとの間に設けられ、ボウル部6の内側に向かって突出している凸部40とを備えている。凸部40は、リム部18の鉛直面18cと水平面18dとの間とを連結する曲面がボウル部6の内側に向かって盛り上がって形成されている。また、凸部40の下面40bは、ボウル部6の内側に向かって上方へ傾斜している。
【0040】
図7(H)に示すように、リム部18の前端18bよりも上流側の領域P1のH断面の位置において、凸部40がボウル部6の内側に突出する度合いがG断面の位置と比べて大きくなっている。また、凸部40の上下方向の幅及び下面40bの上下方向の幅は、G断面の位置と比べて大きくなっている。
【0041】
図7(I)に示すように、リム部18の前端18bのI断面の位置において、凸部40がボウル部6の内側に突出する度合いがH断面の位置と比べて更に大きくなっている。また、凸部40の上下方向の幅及び下面40bの上下方向の幅は、H断面の位置と比べて更に大きくなっている。
【0042】
図7(J)に示すように、リム部18の前端18bよりも下流側の領域P1のJ断面の位置において、凸部40がボウル部6の内側に突出する度合いは、I断面の位置と略同一になっている。また、凸部40の上下方向の幅及び下面40bの上下方向の幅は、I断面の位置と比べて略同一の長さになっている。
【0043】
上述したように、凸部40がボウル部6の内側に突出する度合いは、下流にいくにつれて大きくなるように形成されている(
図7(G)~(I))を参照)。また、凸部40の上下方向の幅は、下流にいくにつれて大きくなるようになっている(
図6を参照)。これらにより、洗浄水が下流へ旋回するほど流下し易くなっている。
また、凸部40の下面40bは、ボウル部6の内側に向かって上方へ傾斜している(
図7(G)~(J)を参照)。これにより、凸部40の下面40bが水平である場合と比べて、上方から下面40bを掃除し易くなっている。また、凸部40の下面40bの上下方向の幅は、下流にいくにつれて大きくなり(
図6を参照)、更に掃除がし易くなっている。
【0044】
図7(G)~(J)に示すように、リム部18の内周縁18eから鉛直方向下方に下ろした直線よりも外側の汚物受け面16の外周面16aは、ボウル部の内側に向かって下方へ傾斜するように形成されている。汚物受け面16の外周面16aの傾斜角度は、リム部18の前端18bにおいて最も大きくなっている(
図7(I)を参照)。これにより、最も遠心力の影響を受けるリム部18の前端18bにおいて、洗浄水を流下させ易くなっている。
【0045】
次に、
図8により、本発明の実施形態による水洗大便器1における洗浄水の溜水面への流入の様子を説明する。
図8は本発明の実施形態による水洗大便器における第1吐水口及び第2吐水口から吐水された洗浄水の溜水面への流入の様子を示すボウル部6の平面断面図である。
図8に示すように、説明の便宜上、ツボ部22の内部に形成された溜水面20は、前後方向に延びる左右方向の中心線と、左右方向に延びる前後方向の中心線により、左後側の第1領域S1、右後側の第2領域S2、右前側の第3領域S3、及び、左前側の第4領域S4の4つの領域に分割されている。
【0046】
図8に示されているように、まず、第1吐水口24から吐水された洗浄水は、一部がリム部18の内周面18aを旋回すると共に、大半が汚物受け面16に流下して前方主流F1を形成する。前方主流F1は、ボウル部6の汚物受け面16の前方領域を流れた後に、汚物受け面16の後方領域に到達し、溜水面20の領域S2及び領域S1に流入する。これにより、汚物受け面16の右側の前方領域及び後方領域が洗浄される。
【0047】
次に、第2吐水口26から吐水された洗浄水は、一部がリム部18の内周面18aを旋回すると共に、大半が汚物受け面16に流下して後方主流F2を形成する。後方主流F2は、ボウル部6の汚物受け面16の後方領域を流れた後に、汚物受け面16の前方領域に到達し、溜水面20の領域S4及び領域S3に流入する。これにより、汚物受け面16の左側の後方領域及び前方領域が洗浄される。
この
図8からも明らかなように、本発明の実施形態の水洗大便器1においては、洗浄水の前方主流F1と後方主流F2が合流することなく、汚物受け面16の全体を万遍なく洗浄して、溜水面20に流入するようになっている。これにより、ボウル部6の洗浄性能を向上させることができるようになっている。
さらに、洗浄水の前方主流F1及び後方主流F2は、それぞれ、4つの領域S1、S2、S3、S4に区分された境域の異なる領域に流入するようになっている。これにより、洗浄初期に、溜水面の4つの領域S1、S2、S3、S4に区分された領域のうちの3領域以上に洗浄水が流入するので、浮遊系汚物の排出タイミングを早くすることができ、さらに、溜水面20全面に押圧力を加えることにより、溜水面20が乱れることがないので、浮遊系汚物の排出力を向上させることができるようになっている。
【0048】
以下、上述した実施形態による作用効果を説明する。
本発明の実施形態による水洗大便器1においては、第1吐水口24が縦長に形成され、第1吐水口24の下流側のリム部18の内周面18aに、ボウル部6の内側に向かって突出する凸部40が設けられているので、この凸部40によりリム部18の内周面18aを旋回する洗浄水の一部を流下させて汚物受け面16を洗浄することができる。これにより、ボウル部6の洗浄性能を向上させることができる。また、洗浄水の便器外への飛び出しも抑制することができる。
【0049】
また、本発明の実施形態による水洗大便器1においては、第1吐水口24が、ボウル部6の前後方向の中心軸よりも前方側に設けられ、凸部40が、リム部18の内周面18aの前端18bに設けられているので、洗浄水が吐水直後に、最も遠心力の影響を受ける前端18bを流れても、凸部40により洗浄水を流下させて汚物受け面16を洗浄することができる。
【0050】
本発明の実施形態による水洗大便器1においては、凸部40は、ボウル部6の平面視で、ボウル部6の前後方向の中心軸よりも前方側であってリム部18の内周面18aが最小の曲率半径R1で形成されている部分に少なくとも設けられているので、最小の曲率半径R1で形成されている部分を流れる時に、凸部40により洗浄水を流下させて汚物受け面16を洗浄することができる。また、洗浄水が飛び出す可能性が高い最小の曲率半径R1で形成されている部分において、凸部40により洗浄水を流下させるため、洗浄水の便器外への飛び出しを抑制することができる。
【0051】
また、本発明の実施形態による水洗大便器1においては、凸部40は、その下端40aがリム部18の内周面18aを旋回する洗浄水の流れ方向に向かって下方へ傾斜しているので、旋回する洗浄水の一部を流下させて汚物受け面16を洗浄することができる。
【0052】
本発明の実施形態による水洗大便器1においては、凸部40は、ボウル部6の内側に突出している度合いが下流にいくにつれて大きくなるように形成されているので、洗浄水が下流へ旋回するほど流下して汚物受け面16を洗浄することができる。
【0053】
また、本発明の実施形態による水洗大便器1においては、凸部40は、その下面40bがボウル部の内側に向かって上方へ傾斜しているので、上方から凸部40の下面40bを掃除し易くなっている。
【0054】
本発明の実施形態による水洗大便器1においては、第1吐水口24と凸部40との間のリム部18の内周面18aには、その上方に水平面18dが設けられているので、吐水直後の洗浄水を水平面18dにより整流させ、その整流された洗浄水を凸部40へ流すことができる。
【0055】
また、本発明の実施形態による水洗大便器1においては、第1吐水口24は、縦長の矩形形状に形成された下方開口32と、この下方開口32よりも横幅が小さく形成され下方開口32から上方へ延びる上方開口34とを有しているので、上方開口34から空気を排出しながら、下方開口32から洗浄水を吐水することができる。これにより、第1吐水口24における空気の巻き込みを抑制し、第1吐水口24からの洗浄水により主流F1を形成して汚物受け面16を洗浄することができる。
【0056】
本発明の実施形態による水洗大便器1においては、第1通水路28は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路36と、この下方通水路36よりも横幅が小さく形成され下方通水路36から上方へ延びる上方通水路38とを有しているので、空気が上方通水路38を流れて上方開口34から排出され、洗浄水が下方通水路36を流れて下方開口32から吐水される。これにより、第1通水路28内の空気の巻き込みを抑制して、第1吐水口24からの洗浄水により主流F1を形成して汚物受け面16を洗浄することができる。
【0057】
また、本発明の実施形態による水洗大便器1においては、第1通水路28の下流側では、下方通水路36の上面36aが上流から第1吐水口24に向かって下方へ傾斜しているので、下方通水路36により下方に向かう流れを形成して、第1吐水口24から下方に向かう主流F1を吐水することができる。一方、上方通水路38の上面38aが上流から第1吐水口24に向かって水平方向に延びているので、上方通水路38に空気を収容することができる大きな空間を形成して、空気を洗浄水と確実に分離させて第1吐水口24から排出させることができる。
【0058】
本発明の上述した実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 水洗大便器
6 ボウル部
8 共通通水路
10 排水管路
16 汚物受け面
16a 汚物受け面の外周面
18 リム部
18a リム部の内周面
18b リム部の前端
18c リム部の鉛直面
18d リム部の水平面
18e リム部の内周縁
22 ツボ部
24 第1吐水口
28 第1通水路
32 第1吐水口の下方開口
32a 下方開口の上端
32b 下方開口の下端
34 第1吐水口の上方開口
34a 上方開口の上端
36 第1通水路の下方通水路
36a 下方通水路の上面
36b 下方通水路の下面
38 第1通水路の上方通水路
38a 上方通水路の上面
40 凸部
40a 凸部の下端
40b 凸部の下面
R1 第1の曲率半径
R2 第2の曲率半径
R3 第3の曲率半径
P1 第1の曲率半径で形成されている領域
F1 第1吐水口から吐水される主流