(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122168
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】溶融塩電解装置及び、金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/04 20060101AFI20240902BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20240902BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C25C3/04
C25C7/00 302B
C25C7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029555
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仲原 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】副 浩二
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058BA05
4K058CB03
4K058CB16
4K058FA11
4K058FC27
(57)【要約】
【課題】維持管理の省人化及び効率化を実現しつつ、塩素含有ガスに含まれる粉体によるガス送り配管内の閉塞を抑制することができる溶融塩電解装置及び、金属マグネシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の溶融塩電解装置51は、塩化マグネシウムの電気分解を行う電解槽1を備えるものであって、前記電気分解の間に前記電解槽1の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、前記電解槽1の外部のフィルター101に向けて送るガス送り配管11を備え、前記ガス送り配管11の途中に、前記ガス送り配管11内にて上方側から半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに気体を噴出させて、前記ガス送り配管11内に蓄積する前記粉体をガス送り方向に吹き飛ばす一個以上の気体噴出口12が設けられているものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化マグネシウムの電気分解を行う電解槽を備える溶融塩電解装置であって、
前記電気分解の間に前記電解槽の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、前記電解槽の外部のフィルターに向けて送るガス送り配管を備え、
前記ガス送り配管の途中に、前記ガス送り配管内にて上方側から半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに気体を噴出させて、前記ガス送り配管内に蓄積する前記粉体をガス送り方向に吹き飛ばす一個以上の気体噴出口が設けられている溶融塩電解装置。
【請求項2】
前記気体噴出口が、前記ガス送り配管のガス送り方向に沿って複数個設けられている請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項3】
互いに隣り合う前記気体噴出口のガス送り方向の間隔が、1m以上かつ2m以下の範囲内である請求項2に記載の溶融塩電解装置。
【請求項4】
前記気体噴出口の気体噴出方向が、半径方向に対してガス送り方向に35°~60°の範囲内の角度で傾斜した方向である請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項5】
前記気体噴出口の少なくとも一個が、前記ガス送り配管のガス送り方向に直交する断面で、鉛直方向の上半分のうち、ガス送り配管の中心を通る鉛直線を挟んで両側にそれぞれ60°離れた位置の間の領域内に設けられている請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項6】
前記ガス送り配管が、前記電解槽側に位置し、水平方向に対してガス送り方向に向かって斜め上向きに延びる上向き配管部と、前記フィルター側に位置し、水平方向に対してガス送り方向に向かって斜め下向きに延びる下向き配管部とを有する請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項7】
前記上向き配管部が、水平方向に対して10°以上かつ30°未満の角度で傾斜して延びる請求項6に記載の溶融塩電解装置。
【請求項8】
前記下向き配管部が、水平方向に対して35°以上の角度で傾斜して延びる請求項6に記載の溶融塩電解装置。
【請求項9】
前記気体噴出口が、前記ガス送り配管のうち、少なくとも前記上向き配管部に設けられている請求項6に記載の溶融塩電解装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の溶融塩電解装置を用いて、前記電解槽内で塩化マグネシウムの電気分解を行い、金属マグネシウムを製造する方法であって、
前記電気分解の間に前記電解槽の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、前記ガス送り配管で前記電解槽の外部のフィルターに向けて送るに際し、前記気体噴出口から気体を噴出させて、前記ガス送り配管内に蓄積する前記粉体をガス送り方向に吹き飛ばすことを含む、金属マグネシウムの製造方法。
【請求項11】
前記気体噴出口から気体を定期的に噴出させる、請求項10に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【請求項12】
前記ガス送り配管内の前記電解槽側での圧力及び、前記フィルター側での圧力を測定し、
それらの圧力差に基づいて、前記気体噴出口からの気体の噴出を制御する、請求項10に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩化マグネシウムの電気分解を行う電解槽を備える溶融塩電解装置及び、それを用いる金属マグネシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロール法による金属チタンの製造に際し、副次的に生成される塩化マグネシウムは、溶融塩浴を用いて電気分解により金属マグネシウムと塩素ガスとに分解されることがある。なお、これにより得られる金属マグネシウム及び塩素ガスはそれぞれ、四塩化チタンの還元及びチタン鉱石の塩化に用いることができる。
【0003】
上記の電気分解では、その間に電解槽内で継続して発生する塩素ガスを含む塩素含有ガスを、電解槽に接続されたガス送り配管に通して吸引して電解槽の外部に送り、塩素ガスを回収する。ここで、電解槽内の塩素含有ガスには、溶融塩浴の成分に由来する塩化マグネシウムその他の無機塩等が粉体として含まれる。電解槽の外部に送った塩素含有ガスから粉体を分離させるため、電解槽の外部には、ガス送り配管が接続されるフィルターを設ける場合がある。
【0004】
これに関連する技術として、特許文献1には、「このような金属Mgの電解製造では、電解室21内の溶融浴塩10の浴面から塩素ガスが放出されると同時に、塩化物の飛沫が上方へ飛散する。この飛沫は、塩素ガスと共に吸引配管31に吸い込まれ、塩化物の粉体になって配管内に堆積する。」と記載されている(段落0007、
図4参照)。この特許文献1では、「双極電極を使用する高効率な電解操業の場合にも、吸引配管内への塩化物の堆積を効果的に抑制できるMg電解製造方法及び装置を提供すること」を目的とし、「MgCl
2を含有する溶融浴塩を用いて電解法により金属Mgを製造するMg電解製造方法において、前記電解に伴って発生する塩素ガス主体の副生ガスを系外へ排出して回収する際に、前記副生ガスをその排出経路の入口部分で強制的に冷却することを特徴とするMg電解製造方法」及び、「MgCl
2を含有する溶融浴塩を用いて電解法により金属Mgを製造する電解槽と、電解槽で発生する塩素ガス主体の副生ガスを槽外へ吸引排出する排気系と、排気系の入口部分にあって副生ガスを強制的に冷却するガス冷却器とを具備することを特徴とするMg電解製造装置」が提案されている。
【0005】
特許文献2では、「陰極から溶融金属を得るための溶融塩電解槽において生成するミストに依る配管類の閉塞を防止し、長期に渡って安定に連続的に電解を継続するためのミストセパレータを提供する」との課題の下、「溶融塩電解槽の少なくとも電極部分上方を覆うように取り付けて使用するミストセパレータであって、取り付け部より少なくとも500mmの高さを有し底部開口部が溶融塩電解槽の液面に面して取り付けられる箱状であって、頂部にガス取り出し管を設けると共に、箱状の側壁部にヒータを配し、該ヒータを定時的に入・断を繰り返す様にした溶融塩電解槽用ミストセパレータ」が記載されている。また、特許文献2には、「ただしこのような場合であっても、上部にあるガス取り出し管にまで固化したミスト成分などが微粉となって到達してしまい、配管内で閉塞を起こす可能性があるのでこれらを完全に除去するためのフィルター機構を設けてそれを通過し固体分を除いてからガスをガス取り出し管に送るようにすることが望ましい。」との記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-226684号公報
【特許文献2】実用新案登録第3157399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した塩素含有ガスに含まれる粉体は、塩化マグネシウムの電気分解を継続して行うと、ガス送り配管内に次第に堆積し、ガス送り配管内を閉塞させる。これを防ぐには、ガス送り配管内を定期的に又は不定期に人手で清掃することを要するが、このことは、維持管理の省人化の促進及び効率化を阻害し、ひいては塩化マグネシウムの製造コストを上昇させる。なお、塩化マグネシウムの電気分解は高温で実施されるので、前記人手による清掃は暑熱作業であって作業者への負荷が大きい。作業者の負荷軽減の観点からも、前記維持管理の省人化の促進及び効率化が求められる。
【0008】
この発明の目的は、維持管理の省人化及び効率化を実現しつつ、塩素含有ガスに含まれる粉体によるガス送り配管内の閉塞を抑制することができる溶融塩電解装置及び、金属マグネシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の溶融塩電解装置は、塩化マグネシウムの電気分解を行う電解槽を備えるものであって、前記電気分解の間に前記電解槽の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、前記電解槽の外部のフィルターに向けて送るガス送り配管を備え、前記ガス送り配管の途中に、前記ガス送り配管内にて上方側から半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに気体を噴出させて、前記ガス送り配管内に蓄積する前記粉体をガス送り方向に吹き飛ばす一個以上の気体噴出口が設けられているというものである。
【0010】
前記気体噴出口は、前記ガス送り配管のガス送り方向に沿って複数個設けられていることが好ましい。
【0011】
この場合、互いに隣り合う前記気体噴出口のガス送り方向の間隔は、1m以上かつ2m以下の範囲内であることが好ましい。
【0012】
前記気体噴出口の気体噴出方向は、半径方向に対してガス送り方向に35°~60°の範囲内の角度で傾斜した方向であることが好ましい。
【0013】
前記気体噴出口の少なくとも一個は、前記ガス送り配管のガス送り方向に直交する断面で、鉛直方向の上半分のうち、ガス送り配管の中心を通る鉛直線を挟んで両側にそれぞれ60°離れた位置の間の領域内に設けられていることが好ましい。
【0014】
前記ガス送り配管は、前記電解槽側に位置し、水平方向に対してガス送り方向に向かって斜め上向きに延びる上向き配管部と、前記フィルター側に位置し、水平方向に対してガス送り方向に向かって斜め下向きに延びる下向き配管部とを有することが好ましい。
【0015】
前記上向き配管部は、水平方向に対して10°以上かつ30°未満の角度で傾斜して延びることが好ましい。
【0016】
前記下向き配管部は、水平方向に対して35°以上の角度で傾斜して延びることが好ましい。
【0017】
前記気体噴出口は、前記ガス送り配管のうち、少なくとも前記上向き配管部に設けられていることが好ましい。
【0018】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、上記のいずれかの溶融塩電解装置を用いて、前記電解槽内で塩化マグネシウムの電気分解を行い、金属マグネシウムを製造する方法であって、前記電気分解の間に前記電解槽の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、前記ガス送り配管で前記電解槽の外部のフィルターに向けて送るに際し、前記気体噴出口から気体を噴出させて、前記ガス送り配管内に蓄積する前記粉体をガス送り方向に吹き飛ばすことを含むものである。
【0019】
ここでは、前記気体噴出口から気体を定期的に噴出させることが好ましい。
【0020】
あるいは、前記ガス送り配管内の前記電解槽側での圧力及び、前記フィルター側での圧力を測定し、それらの圧力差に基づいて、前記気体噴出口からの気体の噴出を制御してもよい。
【発明の効果】
【0021】
この発明の溶融塩電解装置によれば、維持管理の省人化及び効率化を実現しつつ、塩素含有ガスに含まれる粉体によるガス送り配管内の閉塞を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の一の実施形態の溶融塩電解装置を示す、鉛直方向に沿う断面図である。
【
図3】他の実施形態の溶融塩電解装置を示す、
図2と同様の断面図である。
【
図4】
図1の溶融塩電解装置が備えるガス送り配管の全体像を示す同様の断面図である。
【
図5】
図4のガス送り配管の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の溶融塩電解装置51は、
図1に例示するように、塩化マグネシウムの電気分解を行う電解槽1と、電気分解の間に電解槽1の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、電解槽1の外部のフィルター101(
図4参照)に向けて送るガス送り配管11とを備えるものである。
【0024】
そして、ガス送り配管11の途中には、ガス送り配管11内にて上方側から半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに気体を噴出させて、ガス送り配管11内に蓄積する粉体をガス送り方向に吹き飛ばす一個以上、たとえば複数個の気体噴出口12が設けられている。これにより、ガス送り配管11内での塩素含有ガス中の粉体の堆積、さらには粉体によるガス送り配管11内の閉塞を抑制することができる。その結果、ガス送り配管11内の清掃の頻度を少なくすることができる等というように、清掃の手間が軽減され、維持管理の省人化及び効率化を実現することができる。
【0025】
(電解槽)
図示の電解槽1は、内部を溶融塩浴Bmとする耐火煉瓦製で容器状の槽本体2と、槽本体2内の溶融塩浴Bm中に部分的に浸漬させる陽極3a及び陰極3bを含む電極3と、槽本体2の上方側の開口部を覆蓋する蓋体5とを備えるものである。
【0026】
ここで、この例では、槽本体2の内部に、実質的に深さ方向(
図1の上下方向)に沿って配置された隔壁4が設けられている。隔壁4により、槽本体2の内部は、
図1の右側に位置して電気分解が行われる電解室2aと、
図1の左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた金属マグネシウムが流れ込んで該金属マグネシウムが溶融塩との密度差により上方側に溜まる回収室2bとに区画されている。なお、蓋体5は、たとえば
図1に示すように、槽本体2における電解室2a側の開口部を覆う部分と回収室2b側の開口部を覆う部分とに分割されたものとすることがある。
【0027】
隔壁4は、図示の例では、蓋体5に近接させて上方側に配置されている。これにより、隔壁4と槽本体2の内部の底面との間に、回収室2bから電解室2aへの溶融塩の移動を可能にする溶融塩循環路4aが形成される。また、隔壁4の溶融塩循環路4aよりも上方側の部分に設けた溶融金属流路4bにより、電解室2aから回収室2bへの金属マグネシウムの流入が可能になる。隔壁4は、
図1では左右二箇所に分かれて設置されているが、溶融塩循環路4a及び溶融金属流路4bを設けることができれば、その形状や個数等の構成を適宜変更することができる。
【0028】
またここで、電極3は、槽本体2の内部の電解室2a側に配置されており、溶融塩浴Bmの深さ方向と平行な向きで並んで配置された部分を有する。電極3には、図示しない電源等に接続される陽極3a及び陰極3bが含まれる。
【0029】
電極3は、少なくとも陽極3a及び陰極3bを有するものであれば、溶融塩浴Bm中の塩化マグネシウムの電気分解を行うことができる。他方、電気分解の金属マグネシウム生成効率向上等の観点からは、
図2に示すところから解かるように、陽極3aと陰極3bとの間に、電源に接続されず陽極3a及び陰極3b間への電圧の印加によって分極する一枚以上、たとえば二枚の複極3cをさらに有することが好ましい。但し、このような複極3cは必ずしも必要ではない。
【0030】
図1及び
図2の電解槽1は、いずれも板状の陽極3a、陰極3b及び複極3cを並べて配置したものであるが、
図3に示す形状及び配置の陽極23a、陰極23b及び複極23cを備える電解槽21としてもよい。この電解槽21は、槽本体22の内部で隔壁24によって回収室と区画された電解室22a内に、溶融塩浴Bmの深さ方向に沿って電解槽21の内外に延びる四角柱等の柱状もしくは板状の陽極23aと、陽極23aの周囲を取り囲んで陽極23aから間隔をおいて配置した四角筒状等の角筒状の陰極23bと、陽極23aと陰極23bとの間に配置した角筒状の複極23cとを有するものである。また、図示は省略するが、電極は、円柱状の陽極並びに、円筒状の陰極及び複極を有するものとすることもできる。角筒状の複極23cや円筒状の複極は省略する場合がある。
図3の電解槽21の陽極23a、陰極23b及び複極23c以外の構成については、
図1及び
図2の電解槽1と実質的に同様とすることができるので、その詳細な説明は省略する。
【0031】
なお、電解槽1はさらに、図示しないが、回収室2b等に配置されて、溶融塩浴Bmの温度調整を行う熱交換器としての温度調整管等を備えることがある。
【0032】
主として溶融塩浴Bmを構成する溶融塩には、塩化マグネシウム(MgCl2)の他、支持塩が含まれ得る。この支持塩は、塩化マグネシウムと混合した際に晶出温度を低下させ、かつ、粘度を低下させる電解質を意味する。例えば、支持塩は具体的には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化カルシウム(CaF2)からなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。晶出温度とは、二種類以上の電解質からなる溶融塩を液体の状態から温度を下げたときに、ある一種類の電解質成分が固体として析出し始める晶出という現象が起きる温度をいう。仮に溶融塩が一種類だけである場合、液体の状態から温度を下げたときに、凝固点で全体が固体となるため、晶出温度は凝固点、すなわち融点に相当する。なお、電気分解で塩化マグネシウムを優先的に分解させるため、支持塩としては、塩化マグネシウムより分解電圧が高い電解質を用いることが一般的である。電気分解の間、溶融塩浴Bmは650℃~670℃の温度に保持することがある。
【0033】
電解槽1を用いて行う電気分解では、電解室2aでの塩化マグネシウムの電気分解により、MgCl2→Mg+Cl2の反応に基づいて、陰極3bの表面で還元反応により溶融金属である金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、陽極3aの表面で酸化反応により塩素(Cl2)ガスが発生する。
【0034】
より詳細には、溶融塩浴Bmの対流により、
図1に示すように、溶融塩が回収室2bから底部側の溶融塩循環路4aを経て電解室2aに流動する。電解室2aでは、溶融塩中の塩化マグネシウムが電気分解され、金属マグネシウムが生成される。そして、この金属マグネシウムは、隔壁4の浴面Sb側の溶融金属流路4bを通って回収室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい金属マグネシウムは、回収室2bの浅い箇所に浮上してそこに溜まる。回収室2bで浮上した金属マグネシウムは、図示しないポンプ等により回収することができる。したがって、このような電気分解によれば、金属マグネシウムを製造することができる。また、それとともに塩素ガスは、後述するように、ガス送り配管を用いて回収される。
【0035】
電気分解で生成された金属マグネシウムは、金属チタンを生産するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。電気分解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0036】
上述した電解槽1では、金属マグネシウムに限らず、金属アルミニウムや金属亜鉛を製造することもできる。また、電解槽1を用いた溶融塩浴Bmで製造された金属は、四塩化チタンに限らず金属塩化物の還元に使用することで、金属チタン以外に金属ジルコニウム、金属ハフニウム又は金属ケイ素の生産に用いることも可能である。
【0037】
(ガス送り配管)
電気分解の間に電解槽1の内部で発生する塩素ガスは、円管状等のガス送り配管11を通して吸引して回収する。この際にガス送り配管11内には、塩素ガスのみならず粉体を含む塩素含有ガスが入り込む。塩素含有ガス中の粉体は、
図4に示すように、塩素含有ガスがガス送り配管11を通過した後、ガス送り配管11に接続されたバグフィルターなどのフィルター101で捕集されて、塩素ガスから分離する。これにより、塩素含有ガスから粉体が除去されて、塩素ガスを回収することができる。
【0038】
電気分解を継続して行うと、塩素含有ガス中の粉体がガス送り配管11内に堆積し、それを放置すれば、粉体でガス送り配管11内が閉塞することもある。これを抑制するには、ガス送り配管11内を、たとえば所定の頻度で定期的に人手により清掃して、ガス送り配管11内に堆積した粉体を除去することも可能であるが、このことは、高温になる電解槽1の近傍での当該清掃は作業負担が大きいとともに、そのような清掃作業に手間がかかる。
【0039】
また粉体には、溶融塩浴Bmの成分に由来する塩化マグネシウムの他、電気分解時に若干の負圧とする電解槽1内に僅かながら侵入した空気中の酸素と、電気分解で生成される金属マグネシウムとの反応等による酸化マグネシウム(MgO)が含まれることがある。かかる粉体は、ガス送り配管11の清掃時に、電解槽1内に落下して溶融塩浴Bm中に混入し得る。溶融塩浴Bm中に粉体が混入した場合、電気分解で生成した溶融状態の微小な金属マグネシウム粒子の凝集を妨げる。そして、そのような微小な金属マグネシウム粒子は、回収室2bで浮上しにくくなり、電解室2aに循環して再反応を生じさせる。このため、酸化マグネシウムを含む粉体が溶融塩浴Bmに混入したときは、電流効率が低下するおそれがある。
【0040】
上述したような問題に対処するため、この実施形態では、
図1及び
図4に示すように、ガス送り配管11の途中に、ガス送り配管11内にて上方側から半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに気体を噴出させる一個以上の気体噴出口12を設ける。
【0041】
このことによれば、気体噴出口12から噴出させる気体により、ガス送り配管11内に蓄積する粉体がガス送り方向に吹き飛ばされるので、ガス送り配管11内での粉体の堆積を抑制することができる。それにより、ガス送り配管11の清掃の手間が軽減され、維持管理の省人化及び効率化に寄与することができる。また、清掃時における粉体のガス送り配管11から電解槽1内への落下の可能性が低くなるので、溶融塩浴Bmへの酸化マグネシウムを含む粉体の混入に起因する電流効率の低下を抑制することもできる。
【0042】
気体噴出口12から気体を噴出させるには、たとえば
図4に示すように、各気体噴出口12に、比較的小型の気体噴出機13を取り付けることにより行うことができる。それらの気体噴出機13は、図示しないコンプレッサー等の気体供給装置に接続され得る。あるいは、図示は省略するが、複数個の気体噴出口に気体を供給する一個の大型の気体噴出機を用いることもできる。気体噴出機13がどのような態様であっても、ガス送り配管11に、上方側から半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに気体を噴出することが可能な気体噴出口12が設けられていれば、ガス送り配管11内での粉体の堆積を抑制することが可能である。
【0043】
気体噴出口12から噴出させる気体は、これに限らないが、たとえば露点が-5°以下の乾燥空気又は、アルゴンもしくはヘリウム等の不活性気体とすることができる。噴出気体として空気を用いたとしても、空気を気体噴出口12から、半径方向に対してガス送り方向に傾斜する向きに噴出させることにより、当該空気及びそこに含まれる酸素が電解槽1内に流入することが抑制される。
【0044】
フィルター101の熱による劣化を抑制するため、ガス送り配管11では、高温の塩素含有ガスがそこを通ってフィルター101に至る前に、比較的低い温度に冷却されることが望ましい。それ故に、ガス送り配管11は、ある程度長い長さを有することが好適である。そのような長いガス送り配管11の場合、ガス送り配管11内でガス送り方向の所定の範囲にわたって堆積する粉体を十分に吹き飛ばすため、気体噴出口12は、ガス送り配管11のガス送り方向に沿って複数個設けることが好ましい場合がある。
【0045】
ガス送り配管11内に複数個の気体噴出口12を設ける場合、互いに隣り合う気体噴出口12のガス送り方向の間隔Ibは、1m以上かつ2m以下の範囲内とすることが好ましい。この間隔Ibをある程度短くするのは、隣り合う気体噴出口12間に堆積する粉体を良好に吹き飛ばすためである。上記の間隔Ibは、隣り合う気体噴出口12のガス送り方向の中心間を、ガス送り配管11が延びる方向に沿って測った距離を意味する。
【0046】
気体噴出口12の気体噴出方向は、
図5に黒塗りの矢印で示すように、半径方向に対してガス送り方向(同図に白抜き矢印で示す方向)に35°~60°の角度θ1で傾斜した方向とすることが好ましい。半径方向に対する気体噴出方向の角度θ1を35°以上とすることにより、気体によって吹き飛ばされた粉体の逆流を抑制できる。半径方向に対する気体噴出方向の角度θ1を60°以下とすることにより、ガス送り配管内に堆積して残留する粉体量を低減できる。
【0047】
また、ガス送り配管11の周方向における気体噴出口12を設ける領域は、
図6に示すように、ガス送り配管11のガス送り方向に直交する断面で、鉛直方向の上半分のうち、ガス送り配管11の中心(外輪郭の図心)を通る鉛直線を挟んで両側にそれぞれ60°離れた位置の間とすることが好ましい。これにより、ガス送り配管11内で気体噴出口12を通じて上方側から噴出される気体により、ガス送り配管11内に蓄積する粉体が良好に吹き飛ばされる。特に好ましくは、図示の実施形態のように、ガス送り方向に直交する断面で、ガス送り配管11内に蓄積する粉体の直上に、気体噴出口12を設ける。
【0048】
ところで、ガス送り配管11は、
図4に示すように、電解槽1側に位置し、水平方向に対してガス送り方向に向かって斜め上向きに延びる上向き配管部14と、フィルター101側に位置し、水平方向に対してガス送り方向に向かって斜め下向きに延びる下向き配管部15とを有することが好適である。上向き配管部14と下向き配管部15を有することでガス送り配管11をある程度長い長さにできるので、塩素含有ガスがフィルター101に至る前に当該ガス送り配管11内で比較的低い温度に冷却される。さらには、このような利点の他、電解槽1の槽本体2とフィルター101とを同じ程度の高さで配置することが可能となるので、これらのメンテナンスの作業負荷を軽減できるという利点もある。また、下向き配管部15を設けることにより、フィルター101側では、ガス送り配管11内に蓄積する粉体がフィルター101に向けて落下しやすくなる。電解槽1とフィルター101との鉛直方向の位置関係にもよるが、フィルター101側にそのような所定の向きの下向き配管部15を配置しやすくするため、電解槽1側には上向き配管部14を設けることができる。
【0049】
この場合において、上向き配管部14は、水平方向に対して10°以上かつ30°未満(一例では25°)の角度θ2で傾斜して延びるものとすることが好ましい。粉体の安息角は30°程度であるところ、上向き配管部14の内部に蓄積する粉体が電解槽1側に落下することを抑制するためである。一方、下向き配管部15は、水平方向に対して35°以上(一例では50°)の角度θ3で傾斜して延びるものとすることが好ましい。これにより、フィルター101側への粉体の落下を促進させることができる。
【0050】
そして、気体噴出口12は、ガス送り配管11のうち、下向き配管部15に設けてもかまわないが、図示の実施形態のように、少なくとも上向き配管部14に設けることが望ましい。この場合、上向き配管部14内に蓄積する粉体の、電解槽1側への落下を抑制しつつ、粉体をガス送り方向により一層良好に送ることができる。なお仮に、下向き配管部15に気体噴出口12を設けなかったとしても、上述したような下向き配管部15の傾斜角度θ3の調整により、フィルター101側への粉体の落下を促進させ、下向き配管部15の内部での粉体の堆積を抑制することが可能である。
【0051】
先述したように、溶融塩電解装置51を用いて金属マグネシウムを製造するときは、電解槽1内で塩化マグネシウムの電気分解を行う間に、電解槽1の内部で発生する塩素ガス及び粉体を含む塩素含有ガスを、ガス送り配管11で電解槽1の外部のフィルター101に向けて送ることができる。この際に、気体噴出口12から気体を噴出させて、ガス送り配管11内に蓄積する粉体をガス送り方向に吹き飛ばすことが好ましい。
【0052】
ここでは、気体噴出口12から気体を定期的に噴出させることができる。気体噴出口12から気体を噴出させる時間間隔は、これまでの塩化マグネシウムの電気分解におけるガス送り配管11内での粉体の堆積状況その他の条件を考慮して、適宜決定することができる。
【0053】
あるいは、気体噴出口12からの気体の噴出を、フィードバック制御により行うこともできる。ガス送り配管11内で粉体が堆積すると、ガス送り配管11内の電解槽1側での内圧が上昇する傾向がある。これを利用し、上記のフィードバック制御を行うには、ガス送り配管11内の電解槽1側での圧力及び、フィルター101側での圧力を、たとえば定期的に測定し、それらの圧力差に基づいて、気体噴出口12からの気体の噴出を制御することができる。これにより、ガス送り配管11内で粉体がある程度堆積する都度、気体噴出口12から気体を噴出させ、当該粉体を吹き飛ばすことができる。
【0054】
なお、ガス送り配管11は、耐熱性及び、塩素ガスに対する耐腐食性を有する材質で形成することができ、たとえば炭素鋼製又はステンレス鋼製とする場合がある。
【実施例0055】
次に、この発明の溶融塩電解装置を試作し、その効果を確認したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0056】
実施例1では、
図1及び
図2に示すような構成を備える溶融塩電解装置を用いて、塩化マグネシウムの電気分解を行い、金属マグネシウムを製造した。この溶融塩電解装置は、
図4~6に示すようなガス送り配管を備えるものであり、ガス送り配管は、図示のように、電解槽及びフィルターにそれぞれ接続されている。ガス送り配管の上向き配管部は水平方向に対して25°の角度で傾斜し、下向き配管部は水平方向に対して50°の角度で傾斜していた。
【0057】
上記の電気分解の間、ガス送り配管の上向き配管部に設けた複数個の気体噴出口から、露点が-30℃以下である圧縮空気を定期的に噴出させた。互いに隣り合う気体噴出口のガス送り方向の間隔は、1.5mとした。気体噴出口の気体噴出方向は、半径方向に対してガス送り方向に45°の角度で傾斜した方向とした。
【0058】
比較例1では、気体噴出口の気体噴出方向は、半径方向に対してガス送り方向に0°の角度の方向(半径方向と平行な方向)としたことを除いて、実施例1と同様にして塩化マグネシウムの電気分解を行った。
【0059】
比較例2では、気体噴出口を有しないガス送り配管を用いたことを除いて、実施例1と同様にして塩化マグネシウムの電気分解を行った。
【0060】
比較例3では、気体噴出口を下方側(実施例1の
図6の気体噴出口と断面中心ないし図心を隔てて反対側)に設けたガス送り配管を用いて、当該ガス送り配管内で気体を下方側から噴出させたことを除いて、実施例1と同様にして塩化マグネシウムの電気分解を行った。
【0061】
比較例1でフィルターに回収された粉体の質量を100とした場合、実施例1では当該粉体の質量は132であり、比較例2では当該粉体の質量は100であり、比較例3では当該粉体の質量は103であった。
【0062】
以上より、この発明によれば、塩素含有ガスに含まれる粉体によるガス送り配管内の閉塞を抑制できる可能性が示唆された。これにより、維持管理の省人化及び効率化を実現することができる。