(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122199
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】カルボン酸又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/68 20060101AFI20240902BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C07D307/68
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029622
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 岳史
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA65
(57)【要約】
【課題】生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができる、カルボン酸又はその塩の製造方法を提供する。
【解決手段】Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)の存在下で、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成する、カルボン酸又はその塩の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)の存在下で、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成する、カルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項2】
前記フラン骨格を有する化合物(A)が、フラン骨格に直接結合した、カルボキシ基、アルキル基、アルデヒド基、及びエステル基から選ばれる少なくとも1種を有する、請求項1に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項3】
前記フラン骨格を有する化合物(A)が、2-フランカルボン酸又はその塩である、請求項1又は2に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項4】
前記反応における二酸化炭素の分圧がゲージ圧で0.01MPa以上10MPa以下である、請求項1~3のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項5】
反応温度が150℃以上380℃以下である、請求項1~4のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項6】
前記反応が、更に、反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)(但し、前記固体触媒(X)を除く)の存在下で行われる、請求項1~5のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項7】
前記反応が、更に、反応温度以下で融解しない塩基(B2)(但し、前記固体触媒(X)を除く)の存在下で行われる、請求項1~6のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項8】
前記固体触媒(X)に含まれる金属成分(x)が、担体に担持されている、請求項1~7のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項9】
前記担体が、活性炭、及びシリカから選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【請求項10】
前記反応における固体触媒(X)に含まれる金属成分(x)の使用量が、前記フラン骨格を有する化合物(A)100モル部に対して、1モル部以上20モル部以下である、請求項1~9のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸又はその塩は、医薬品、ポリエステル等の化成品、界面活性剤、高級アルコール等の原料又は中間原料として広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の触媒の存在下で、芳香族化合物と二酸化炭素とを反応させて、芳香族化合物のベンゼン環に、カルボキシル基が直接結合した芳香族カルボン酸を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定の触媒の存在下で、ベンゼン環にヒドロキシ基が2個置換したフェノール類と、二酸化炭素とを反応させて、フェノール類のベンゼン環に、カルボキシル基が直接結合した芳香族カルボン酸を製造する方法が開示されている。
【0005】
更に、非特許文献1には、無触媒下で、複素環式化合物と二酸化炭素とを反応させて、複素環式化合物に、カルボキシル基が直接結合した複素環式カルボン酸を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003-521480号公報
【特許文献2】CN101508642
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature 2016,531,215-219.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~2では、ベンゼン環を有する化合物を原料として芳香族カルボン酸を製造する方法についての検討はなされているが、フラン骨格を有する化合物を原料とする検討はなされておらず、更なる検討の余地があった。また、非特許文献1では、複素環式カルボン酸の製造における生産性、及び経済性の観点から、更なる検討の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができる、カルボン酸又はその塩の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、特定の固体触媒の存在下で、特定のフラン骨格を有する化合物と二酸化炭素とを反応させることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕を提供する。
〔1〕Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)の存在下で、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成する、カルボン酸又はその塩の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができる、カルボン酸又はその塩の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法は、Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)の存在下で、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成する。
前記フラン骨格を有する化合物(A)において、そのフラン骨格を形成する炭素は炭素又は水素と結合しており、反応性の低い芳香族性の炭素であり、前記フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成することは困難であった。しかしながら、本発明によれば、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成させ、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
フラン骨格を有する化合物(A)のフラン環に存在する酸素の電子求引作用により、フラン環の5位の炭素が電子求引基となり、二酸化炭素への求核付加反応が進行すると考えられる。この二酸化炭素への求核付加反応が、特に、Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)により促進されると考えられる。
なお、本発明で奏される効果の理由は、これらの考えに限られるものではない。
【0013】
[フラン骨格を有する化合物(A)]
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法では、原料として、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)を使用する。
フラン骨格を有する化合物(A)は、無置換のフランでもよいが、生成物の有用性の観点から、フラン骨格に直接結合する置換基を少なくとも1つ有することが好ましく、フラン骨格に直接結合する置換基を1つ有することがより好ましく、フラン骨格に直接結合する置換基は、反応性を向上させる観点(以下、「反応性の観点」ともいう)から、好ましくはカルボキシ基、アルキル基、アルデヒド基、及びエステル基から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはカルボキシ基である。但し、目的以外の反応を抑制する観点から、フラン骨格に直接結合する置換基として、水酸基、エーテル基、又はハロゲノ基を有さないことが好ましい。
フラン骨格を有する化合物(A)が、フラン骨格に直接結合する置換基を1つ有する場合、置換位置として、2-置換体、3-置換体が挙げられるが、反応性の観点から、2-置換体が好ましい。
フラン骨格を有する化合物(A)としては、具体的には、反応性の観点から、好ましくは2-フランカルボン酸又はその塩、より好ましくは2-フランカルボン酸カリウムである。
【0014】
[固体触媒(X)]
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法では、Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)を使用する。
【0015】
金属成分(x)に含まれるPdは、Pdそのもの、又はPdを含有する化合物に由来するものであってよい。
Pdを含有する化合物は、酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、又は錯体であってよい。
金属成分(x)に含まれるPdは、反応性の観点から、好ましくはPdそのもの、Pdの酸化物、又はPdの水酸化物、より好ましくはPdそのもの、又はPdの水酸化物である。
【0016】
金属成分(x)に含まれるAgは、Agそのもの、又はAgを含有する化合物に由来するものであってよい。
Agを含有する化合物は、酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、又は錯体であってよい。
金属成分(x)に含まれるAgは、反応性の観点から、好ましくはAgそのもの、又はAgの酸化物、より好ましくはAgそのものである。
【0017】
固体触媒(X)は、Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)が含有されてなる触媒であり、反応性の観点から、Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)が担体に担持されていることが好ましい。
【0018】
固体触媒(X)の担体としては、例えば、活性炭、シリカ、ゼオライト、マグネシア、ジルコニア、セリア、アルミナ、チタニア、珪藻土、及びそれらの複合酸化物等が挙げられる。
これらの中でも、固体触媒(X)の担体は、反応性の観点から、好ましくは活性炭、シリカ、ゼオライト、マグネシア、ジルコニア、及びセリアから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは活性炭、及びシリカから選ばれる少なくとも1種である。
担体の形状は特に限定されず、通常粉末であり、そのメジアン径(d50)は通常1~300μmであり、また、粉末由来の他の形状であってよい。
【0019】
固体触媒(X)が担体を有する場合、固体触媒(X)中に含まれるPd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)の含有率は、反応性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、更により好ましくは5.0質量%以上、更により好ましくは8.0質量%以上であり、そして、反応性及び経済性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0020】
固体触媒(X)は、担体を有さずにPd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有してなるものであってよい。
固体触媒(X)が担体を有しない場合、固体触媒(X)中に含まれるPd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)の含有率は、反応性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。
【0021】
なお、固体触媒(X)中に含まれるPd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)の含有率は、ICP発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、品名:iCAP6500Duo)を用いて、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法:ICP-AES、ICP-OES)により求めることができる。
【0022】
本発明で使用する固体触媒(X)中に含まれる金属成分(x)は、本発明の効果を損なわない範囲で、Pd、Ag以外の他の金属成分(x’)を含有してもよい。他の金属成分(x’)としては、例えば、Na、K、Mg、Ca、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Zn、Al、及びSnが挙げられる。
【0023】
金属成分(x)に含まれる他の金属成分(x’)の含有率は、例えば、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、0質量%であってよい。
なお、金属成分(x)に含まれる他の金属成分(x’)の含有率は、上述したPd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)と同様の方法で測定により求めることができる。
【0024】
固体触媒(X)の形状としては、例えば、粉末、顆粒、ヌードル、及びペレット等が挙げられる。なお、顆粒、ヌードル、及びペレット等の形状は、粉末の固体触媒を、公知の方法で、造粒、成形することにより製造することができる。
【0025】
フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素との反応系において、固体触媒(X)に含まれる金属成分(x)の使用量は、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率の観点から、フラン骨格を有する化合物(A)100モル部に対して、好ましくは1モル部以上、より好ましくは3モル部以上、更に好ましくは5モル部以上であり、そして、好ましくは30モル部以下、より好ましくは20モル部以下、更に好ましくは15モル部以下、更により好ましくは10モル部以下である。
【0026】
(固体触媒(X)の調製)
本発明に使用する固体触媒(X)は、共沈殿法、含浸担持法、及び物理混合法等の公知の方法によって調製することができる。固体触媒(X)の調製工程において、必要に応じて、公知の乾燥処理、焼成処理、及び還元処理等を行ってもよい。
【0027】
[添加物]
<反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)>
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法では、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素との反応が、更に、反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)(但し、前記固体触媒(X)を除く、以下、金属塩等(B1)ともいう)の存在下で行われてもよい。
「反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)」とは、カルボキシル化反応における反応温度(好ましくは150℃以上380℃以下)で融解して液体状態で存在することができる金属塩、及び/又は、カルボキシル化反応における反応温度(好ましくは150℃以上380℃以下)で融解して液体状態で存在することができる塩基のことをいう。なお、複数の金属塩及び/又は塩基(B1)を用いる場合は、その混合物の融解する温度が反応温度以下であればよい。
金属塩等(B1)を使用することで、反応時間を短縮し、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率をより向上させることができる。その理由は定かではないが、金属塩等(B1)によって、反応系の媒体として作用することで反応系の均一性を増加させ、カルボキシル化反応を促進すると考えられる。
金属塩等(B1)としては、例えば、カルボン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、及びアルコキシド化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
金属塩等(B1)としては、反応性の観点から、好ましくはアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、及びアルカリ金属アルコキシド化合物から選ばれる少なくとも1種であり、汎用性及び経済性の観点から、より好ましくはアルカリ金属カルボン酸塩である。
アルカリ金属カルボン酸塩としては、好ましくはアルカリ金属ギ酸塩、アルカリ金属酢酸塩、及びアルカリ金属プロピオン酸塩から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはギ酸カリウム、及び酢酸カリウムと酢酸ナトリウムの混合物から選ばれる少なくとも1種である。
酢酸カリウムと酢酸ナトリウムの混合物において、酢酸ナトリウムに対する酢酸カリウムのモル比又は質量比[酢酸カリウム/酢酸ナトリウム]は、反応時の融解性の観点から、好ましくは8/2~2/8、より好ましくは7/3~3/7、更に好ましくは6/4~4/6である。
【0028】
金属塩等(B1)の融点は、例えば、50℃以上、100℃以上、150℃以上であってよく、そして、反応性の観点から、好ましくは380℃以下、より好ましくは350℃以下、更に好ましくは340℃以下、更により好ましくは330℃以下である。
なお、金属塩等(B1)の融点は、化学便覧(日本化学会編)等により開示されている。
【0029】
フラン骨格を有する化合物(A)に対する金属塩等(B1)の質量比[(B1)/(A)]は、反応性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、更により好ましくは4以上、更により好ましくは5以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下、更により好ましくは8以下である。
【0030】
<反応温度以下で融解しない塩基(B2)>
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法では、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素との反応が、更に、反応温度以下で融解しない塩基(B2)(但し、固体触媒(X)を除く、以下、特定の塩基(B2)ともいう)の存在下で行われてもよい。
「反応温度以下で融解しない塩基(B2)」とは、カルボキシル化反応における反応温度(好ましくは150℃以上380℃以下)で融解せずに固体状態で存在することができる塩基のことをいう。
特定の塩基(B2)を使用することで、反応時間を短縮し、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率をより向上させることができる。その理由は定かではないが、特定の塩基(B2)によって、無触媒反応が別途進行することや、固体触媒(X)による触媒反応を促進する効果があると考えられる。
特定の塩基(B2)としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩、及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種の塩基が挙げられる。
特定の塩基(B2)としては、反応性の観点から、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属水酸化物、及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の塩基であり、汎用性及び経済性の観点から、より好ましくはアルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種の塩基であり、更に好ましくはアルカリ金属炭酸塩であり、更により好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸セシウムから選ばれる少なくとも1種の塩基である。
【0031】
フラン骨格を有する化合物(A)に対する特定の塩基(B2)の質量比[(B2)/(A)]は、反応性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは2以下である。
【0032】
[カルボキシル化反応]
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法では、Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)の存在下で、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応(カルボキシル化反応)させカルボキシ基を形成して、カルボン酸又はその塩を生成する。
【0033】
カルボキシル化反応の固体触媒(X)の使用形態は、懸濁床反応でも固定床反応でもよく、触媒活性、反応スケール等に応じて適宜選択することができる。
【0034】
本発明のカルボン酸又はその塩の製造方法の反応形式は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。
【0035】
カルボキシル化反応が懸濁床反応の場合、操作性の観点から、回分式又は半回分式が好ましく、固体触媒(X)の使用量は、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率の観点から、フラン骨格を有する化合物(A)100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、そして、好ましくは130質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。
【0036】
カルボキシル化反応における二酸化炭素の分圧は、反応系内に導入する二酸化炭素の量により適宜決定され、反応性の観点から、ゲージ圧で、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、更に好ましくは0.3MPa以上であり、そして、安全性及び経済性の観点から、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは7MPa以下である。
【0037】
カルボキシル化反応における反応温度は、反応性の観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは220℃以上であり、そして、選択性の観点から、好ましくは380℃以下、より好ましくは350℃以下、更に好ましくは300℃以下である。
【0038】
また、カルボキシル化反応における反応時間は、原料となるフラン骨格を有する化合物(A)の種類、及び反応温度に応じて適宜決定される。
回分式の場合、カルボキシル化反応における反応時間は、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率の観点から通常1時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0039】
連続式の場合、LHSV(液空間速度)は、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率の観点から、好ましくは10/hr以下、より好ましくは8/hr以下、更に好ましくは5/hr以下であり、そして、生産性の観点から、好ましくは0.1/hr以上、より好ましくは0.3/hr以上、更に好ましくは0.5/hr以上である。
【0040】
カルボキシル化反応では、反応系内に二酸化炭素を導入させる。二酸化炭素の導入量は、反応系100体積%中、反応性の観点から、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上、更に好ましくは90体積%以上、更により好ましくは100体積%である。
反応系における二酸化炭素の接触方法は、反応系内に二酸化炭素を導入し、反応系を撹拌することにより気液接触面積を広げてもよいし、反応液中にバブリングさせてもよい。
【0041】
また、カルボキシル化反応では、反応系内に不活性ガスを導入し、不活性ガスをキャリアとして流通させてもよい。不活性ガスとしては、特に限定されないが、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法で生成されるカルボン酸又はその塩は、原料となるフラン骨格を有する化合物(A)の種類に応じて決まる。
生成されるカルボン酸又はその塩は、フラン骨格を1環有することが好ましく、2環以上有していてもよく、また、好ましくはフラン骨格に直接結合する置換基を2つ以上有し、より好ましくは2,5-置換体であり、更に好ましくは2,5-フランジカルボン酸である。
2,5-フランジカルボン酸は、医薬品、ポリエステル等の化成品、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多価アルコール等の原料又は中間原料として有用であり、特に、ポリエステル、又は脂肪族ジカルボン酸の原料又は中間原料として有用である。
【0043】
上述した実施の形態に加え、本発明は以下のカルボン酸又はその塩の製造方法を開示する。
<1>
Pd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)を含有する固体触媒(X)の存在下で、フラン骨格を形成する炭素が炭素又は水素と結合する、フラン骨格を有する化合物(A)と二酸化炭素とを反応させカルボキシ基を形成する、カルボン酸又はその塩の製造方法。
<2>
前記フラン骨格を有する化合物(A)が、好ましくはフラン骨格に直接結合する置換基を少なくとも1つ有する、<1>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<3>
前記置換基が、好ましくはカルボキシ基、アルキル基、アルデヒド基、及びエステル基から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはカルボキシ基である、<2>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<4>
前記フラン骨格を有する化合物(A)が、フラン骨格に直接結合する置換基として、好ましくは水酸基、エーテル基、又はハロゲノ基を有さない、<1>~<3>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<5>
前記フラン骨格を有する化合物(A)が、好ましくは2-フランカルボン酸又はその塩であり、より好ましくは2-フランカルボン酸カリウムである、<1>~<4>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<6>
前記金属成分(x)に含まれるPdが、好ましくはPdそのもの、Pdの酸化物、又はPdの水酸化物、より好ましくはPdそのもの、又はPdの水酸化物である、<1>~<5>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<7>
前記金属成分(x)に含まれるAgが、好ましくはAgそのもの、又はAgの酸化物、より好ましくはAgそのものである、<1>~<5>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<8>
前記金属成分(x)が担体に担持されていることが好ましい、<1>~<7>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<9>
前記担体が、好ましくは活性炭、シリカ、ゼオライト、マグネシア、ジルコニア、及びセリアから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは活性炭、及びシリカから選ばれる少なくとも1種である、<8>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<10>
前記固体触媒(X)が担体を有する場合、固体触媒(X)中に含まれるPd、及びAgから選ばれる少なくとも1種の金属成分(x)の含有率が、好ましくは8.0質量%以上30質量%以下である、<1>~<9>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<11>
前記反応における固体触媒(X)に含まれる金属成分(x)の使用量が、フラン骨格を有する化合物(A)100モル部に対して、好ましくは5モル部以上20モル部以下である、<1>~<10>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<12>
前記反応における二酸化炭素の分圧がゲージ圧で0.01MPa以上10MPa以下であり、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、更に好ましくは0.3MPa以上であり、そして、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは7MPa以下である、<1>~<11>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<13>
反応温度が150℃以上380℃以下であり、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは220℃以上であり、そして、好ましくは380℃以下、より好ましくは350℃以下、更に好ましくは300℃以下である、<1>~<12>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<14>
前記反応が、更に、反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)(但し、前記固体触媒(X)を除く)の存在下で行われる、<1>~<13>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<15>
前記反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)が、好ましくはアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、及びアルカリ金属アルコキシド化合物から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはアルカリ金属カルボン酸塩である、<14>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<16>
前記アルカリ金属カルボン酸塩が、好ましくはアルカリ金属ギ酸塩、アルカリ金属酢酸塩、及びアルカリ金属プロピオン酸塩から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはギ酸カリウム、及び酢酸カリウムと酢酸ナトリウムの混合物から選ばれる少なくとも1種である、<15>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<17>
前記反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)の融点が、好ましくは150℃以上330℃以下である、<14>~<16>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<18>
前記フラン骨格を有する化合物(A)に対する反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)の質量比[(B1)/(A)]が、好ましくは3以上10以下である、<14>~<17>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<19>
前記反応が、更に、反応温度以下で融解しない塩基(B2)(但し、前記固体触媒(X)を除く)の存在下で行われる、<1>~<18>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<20>
前記反応温度以下で融解しない塩基(B2)が、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属水酸化物、及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の塩基であり、より好ましくはアルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種の塩基であり、更に好ましくはアルカリ金属炭酸塩であり、更により好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸セシウムから選ばれる少なくとも1種の塩基である、<19>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<21>
前記フラン骨格を有する化合物(A)に対する反応温度以下で融解しない塩基(B2)の質量比[(B2)/(A)]は、好ましくは0.2以上2以下である、<19>又は<20>に記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<22>
前記反応における固体触媒(X)に含まれる金属成分(x)の使用量が、前記フラン骨格を有する化合物(A)100モル部に対して、1モル部以上20モル部以下であり、フラン骨格を有する化合物(A)100モル部に対して、好ましくは1モル部以上、より好ましくは3モル部以上、更に好ましくは5モル部以上であり、そして、好ましくは30モル部以下、より好ましくは20モル部以下、更に好ましくは15モル部以下、更により好ましくは10モル部以下である、<1>~<21>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<23>
前記カルボキシル化反応が懸濁床反応の場合、固体触媒(X)の量が、フラン骨格を有する化合物(A)100質量部に対して、好ましくは20質量部以上100質量部以下である、<1>~<22>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<24>
前記生成されるカルボン酸又はその塩は、フラン骨格を1環有することが好ましい、<1>~<23>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
<25>
前記生成されるカルボン酸又はその塩が、2,5-フランジカルボン酸である、<1>~<24>のいずれかに記載のカルボン酸又はその塩の製造方法。
【実施例0044】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0045】
<ICP発光分光分析法による測定>
固体触媒中に含まれる金属成分の定量は、ICP発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、品名:iCAP6500Duo)を用いて、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法:ICP-AES、ICP-OES)により行った。
【0046】
<生成する2,5-フランジカルボン酸の収率>
実施例及び比較例において、反応終了後の溶液をヘキサンにより希釈した後、1H-NMRにて以下の条件にて分析を行い、生成物を定量した。
・Agilent社製 MR-400(400MHz)
・Pulse Sequence:PROTON(s2pul)
・測定条件:待ち時間→10秒、積算回数→64または128回、測定温度→室温(20℃)
・測定溶媒:重水(D2O)
・帰属→Nature 2016, 531, 215-219.などの文献を参照した。
・定量方法 1H-NMRのプロトン比より算出
生成する2,5-フランジカルボン酸の収率は、1H-NMR分析の結果からそれぞれ以下の式より算出した。その結果を表1、表2又は表3に示した。
生成する2,5-フランジカルボン酸の収率(%)=[(生成するフランジカルボン酸の量(モル)/原料となる2-フランカルボン酸カリウムの仕込み量(モル)]×100
【0047】
<固体触媒>
実施例1~6又は比較例2~4において、それぞれ、以下の触媒を用いた。
・Pd/C 東京化成工業株式会社製
・Ag/SiO2 下記調製方法にて調製
・Pd(OH)2/C 富士フイルム和光純薬株式会社製
・Ru/C Sigma-Aldrich社製
・Rh/C 富士フイルム和光純薬株式会社製
・Pt/C Sigma-Aldrich社製
【0048】
Ag/SiO2の調製方法
硝酸銀(3.15g、0.0185mol、富士フイルム和光純薬株式会社製)を水(93g)に溶解し(0.2M)、SiO2(20g、富士シリシア化学社製 CARiACT Q-10)と混合し、室温(20℃)で21時間攪拌した後、水を留去し、110℃で一晩(10時間)空気下において乾燥させた。その後、コーヒーミルで粉砕し、焼成炉で300℃(昇温1.5h)、4h、Air下(3L/min)の条件で焼成した。
【0049】
(実施例1)
耐圧容器に、固体触媒としてPd/Cを40mg、フラン骨格を有する化合物(A)として2-フランカルボン酸カリウムを56mg、反応温度以下で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)としてギ酸カリウムを320mg、及び反応温度以下で融解しない塩基(B2)として炭酸カリウムを46mg、それぞれ仕込んだのち、反応圧力が500kPaとなるように二酸化炭素を封入し、270℃まで昇温したのち5時間保持し、2,5-フランジカルボン酸を製造した。
【0050】
(実施例2~7、比較例1~6)
固体触媒(X)の種類や量、反応温度で融解する金属塩及び/又は塩基(B1)の種類、反応温度以下で融解しない塩基(B2)の量、及び反応温度を、それぞれ、表1、表2又は表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、2,5-フランジカルボン酸を製造した。
【0051】
【0052】
実施例1~2と比較例1~4との対比により、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができることが確認された。
【0053】
【0054】
実施例3~5と比較例5との対比により、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができることが確認された。
【0055】
【0056】
実施例6~7と比較例6との対比により、生成するフラン骨格を有するカルボン酸又はその塩の収率を向上させることができることが確認された。