(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122209
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用硬化物、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240902BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029636
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】増田 優花
(72)【発明者】
【氏名】門田 敦志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友美
(72)【発明者】
【氏名】木戸 亮介
(72)【発明者】
【氏名】笹川 浩
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB11
5H050DA03
5H050EA23
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができるリチウムイオン二次電池用硬化物を提供することを目的とする。
【解決手段】このリチウムイオン二次電池用硬化物は、一部が部分的にイオン交換されたカルボキシ基を有する水溶性高分子が架橋剤で架橋され、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有し、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含む非水溶媒に1mol/LのLiPF
6が添加された電解液に1週間浸漬後の吸液率が、-10%以上5%未満である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部が部分的にイオン交換されたカルボキシ基を有する水溶性高分子が架橋剤で架橋され、
前記架橋剤は、カルボジイミド基を有し、
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含む非水溶媒に1mol/LのLiPF6が添加された電解液に1週間浸漬後の吸液率が、-10%以上5%未満である、リチウムイオン二次電池用硬化物。
【請求項2】
前記水溶性高分子のカルボキシ基のうち50%以上90%未満がイオン交換されている、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用硬化物。
【請求項3】
負極活物質と、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用硬化物と、を有する、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、前記リチウムイオン二次電池用負極と前記正極との間にあるセパレータと、を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用硬化物、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は主に電極の活物質に依存する。負極活物質には、一般に黒鉛が利用されているが、より高容量な負極活物質が求められている。そのため、黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べてはるかに大きな理論容量をもつシリコン(Si)が注目されている。
【0004】
Siを含む負極活物質は充電時に大きな体積膨張を伴う。負極活物質の体積膨張は、電池のサイクル特性の低下の原因となる。負極活物質が体積膨張すると、例えば、負極活物質にクラックが生じたり、負極活物質層と集電体の界面で剥離が生じたり、SEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜にクラックが生じ電解液の分解等が生じる場合がある。これらは、電池のサイクル特性を低下させる。
【0005】
例えば、特許文献1には、カルボキシル基を含む水溶性高分子を水溶性架橋剤で架橋したバインダーが開示されている。このバインダーは、充放電に伴う負極活物質の体積変化に追従し、このバインダーを用いた電池のサイクル特性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サイクル特性の更なる向上が求められている。
【0008】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができるリチウムイオン二次電池用硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用硬化物は、一部が部分的にイオン交換されたカルボキシ基を有する水溶性高分子が架橋剤で架橋され、前記架橋剤は、カルボジイミド基を有し、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含む非水溶媒に1mol/LのLiPF6が添加された電解液に1週間浸漬後の吸液率が、-10%以上5%未満である。
【0011】
(2)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用硬化物は、前記水溶性高分子のカルボキシ基のうち50%以上90%未満がイオン交換されていてもよい。
【0012】
(3)第2の態様にかかるリチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質と、上記態様にかかる二次電池用硬化物と、を有する。
【0013】
(4)第3の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、二次電池用負極と、正極と、上記態様にかかる二次電池用負極と前記正極との間にあるセパレータと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
上記態様に係るリチウムイオン用硬化物は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
【
図2】第1実施形態に係るバインダーの模式図である。
【
図3】第1実施形態に係るバインダーの架橋前の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
「リチウムイオン二次電池」
図1は、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、発電素子40に接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
図1では、外装体50内に発電素子40が一つの場合を例示したが、発電素子40が複数積層されていてもよい。またリチウムイオン二次電池100は、円筒型、角型、ラミネート型、ボタン型等のいずれでもよい。
【0018】
(発電素子)
発電素子40は、セパレータ10と正極20と負極30とを備える。
【0019】
<正極>
正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0020】
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。重量が軽いアルミニウムは、正極集電体22に好適に用いられる。正極集電体22の平均厚みは、例えば、10μm以上30μm以下である。
【0021】
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、正極活物質を含む。正極活物質層24は、必要に応じて、導電助剤、バインダーを含んでもよい。
【0022】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を含む。
【0023】
正極活物質は、例えば、複合金属酸化物である。複合金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2の化合物(一般式中においてx+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)である。正極活物質は、有機物でもよい。例えば、正極活物質は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンでもよい。
【0024】
正極活物質は、リチウム非含有の材料でもよい。リチウム非含有の材料は、例えば、FeF3、有機導電性物質を含む共役系ポリマー、シェブレル相化合物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物、ニオブ酸化物等である。リチウム非含有の材料は、いずれか一つの材料のみを用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。正極活物質がリチウム非含有の材料の場合は、例えば、最初に放電を行う。放電により正極活物質にリチウムが挿入される。このほか、正極活物質がリチウム非含有の材料に対して、化学的又は電気化学的にリチウムをプレドープしてもよい。
【0025】
導電助剤は、正極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤は、例えば、カーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、導電性酸化物である。カーボン粉末は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等である。金属微粉は、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の粉である。
【0026】
正極活物質層24における導電助剤の含有率は特に限定されない。例えば、正極活物質、導電助剤、バインダーの総質量に対して導電助剤の含有率は、0.5質量%以上20質量%以下であり、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0027】
正極活物質層24におけるバインダーは、正極活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。またバインダーは、後述する負極活物質層34に用いられるものと同様のものでもよい。バインダーは、電解液に溶解せず、耐酸化性を有し、接着性を有するものが好ましい。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。バインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体の金属イオン架橋体、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、これらの混合物である。正極活物質層に用いるバインダーは、PVDFが特に好ましい。
【0028】
正極活物質層24におけるバインダーの含有率は特に限定されない。例えば、正極活物質、導電助剤、バインダーの総質量に対してバインダーの含有率は、1質量%以上15質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以上5質量%以下である。バインダーの含有率が少ないと、正極20の接着強度が弱まる。バインダーの含有率が高いと、バインダーは電気化学的に不活性で放電容量に寄与しないため、リチウムイオン二次電池100のエネルギー密度が低くなる。
【0029】
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に形成されている。負極30は、リチウムイオン二次電池用負極の一例である。
【0030】
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0031】
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質とバインダーとを含む。負極活物質層34は、必要に応じて導電助剤を含んでもよい。バインダーは、リチウムイオン二次電池用硬化物の一例である。
【0032】
負極活物質は、シリコン又はシリコン化合物を含む。シリコン化合物は、例えば、シリコン合金、酸化シリコン等である。例えば、シリコン又はシリコン化合物は、結晶質でも、非晶質でも、非晶質中に結晶質が分散したものでもよい。非晶質のシリコン又はシリコン化合物は、メルトスパン法、ガスアトマイズ法等で作製できる。負極活物質は、シリコン又はシリコン化合物以外の公知のものでもよい。
【0033】
シリコン合金は、XnSiで表される。Xは、カチオンである。Xは、例えば、Ba、Mg、Al、Zn、Sn、Ca、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、W、Au、Ti、Na、K等である。nは、0≦n≦0.5を満たす。酸化シリコンは、SiOxで表記される。xは、例えば、0.8≦x≦2を満たす。酸化シリコンは、SiO2のみからなってもよいし、SiOのみからなってもよいし、SiOとSiO2との混合物でもよい。また酸化シリコンは、酸素の一部が欠損していてもよい。
【0034】
負極活物質は、シリコン又はシリコン化合物の複合体でもよい。複合体は、シリコン又はシリコン化合物の粒子の表面の少なくとも一部に、導電性材料が被覆したものである。導電性材料は、例えば、炭素材料、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn等である。例えば、シリコン炭素複合化材料(Si-C)は複合体の一例である。シリコン又はシリコン化合物の粒子に対する導電性材料の被覆量は、例えば、複合体の総質量に対して0.01質量%以上30質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下である。複合体は、例えば、メカニカルアロイング法、化学蒸着法、湿式法、高分子を被覆後に高分子を熱分解して炭素化する方法等で作製できる。
【0035】
負極活物質のBET法で求めた比表面積は、例えば、0.5m2/g以上100m2/g以下であり、好ましくは1.0m2/g以上20m2/g以下である。比表面積が小さいと、Liイオンが負極活物質間に挿入脱離しにくくなる。比表面積が大きいと、電極化に多くのバインダーが必要であり、単位体積当たりの容量が小さくなる。
【0036】
バインダーは、負極活物質同士及び負極活物質と負極集電体とを結合する。
図2は、第1実施形態に係るバインダー1の模式図である。バインダー1は、水溶性高分子2と架橋剤3とを有する。
【0037】
水溶性高分子2は、例えば、一部が部分的にイオン交換されたカルボキシ基を有する高分子である。水溶性高分子2は、例えば、カルボキシ基2Aと、カルボキシ基の一部が置換された基2Bとを有する。カルボキシ基の一部は、例えば、Naで置換されている。
【0038】
水溶性高分子2は、例えば、カルボキシ基のうち50%以上90%未満がイオン交換されている。すなわち、水溶性高分子2におけるカルボキシ基2Aとカルボキシ基の一部が置換された基2Bの合計に対するカルボキシ基の一部が置換された基2Bの割合は、50%以上90%未満である。カルボキシ基の一部がイオン交換されていることで、水溶性高分子2が分子内架橋し、ゲル化することを防ぐことができる。またカルボキシ基2Aは、負極活物質との結合及びカルボジイミド基との架橋を担う。そのため、バインダー1内にイオン交換されていないカルボキシ基2Aがあることで、バインダー1が網目構造となり、かつ、バインダー1と負極活物質の結着性が高まる。水溶性高分子2におけるイオン交換されたカルボキシ基の割合は、共重合単位の加水分解に要するアルカリ消費量や核磁気共鳴(NMR)による組成分析で求めることができる。
【0039】
水溶性高分子2は、例えば、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸とビニルアルコールとの共重合体、アクリル酸ナトリウムとビニルアルコールとの共重合体、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリノルボルネンジカルボン酸、ポリメタクリル酸である。水溶性高分子2は、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
水溶性高分子2の重量平均分子量は、例えば、9000以上200000以下である。水溶性高分子2の分子量が小さいと、バインダー1内に架橋点が少なく、バインダー1の弾性が低下する。水溶性高分子2の分子量が大きいと、バインダー1がゲル化し、均一分散が難しくなる。水溶性高分子2の重量平均分子量は、架橋前の水溶性高分子2を入手可能な場合は、架橋前の水溶性高分子を分析して求められる。架橋前の水溶性高分子2を入手できない場合は、バインダー1の重量平均分子量と、バインダー1内における水溶性高分子2と架橋剤3との存在比から概算できる。
【0041】
ここで、高分子が「水溶性」であるか否かは以下の手順で判断できる。まずイオン交換水100重量部当たり高分子1重量部(固形分相当)を添加し攪拌して得られる混合物を準備する。この混合物を、温度20~95℃、pH3~12(pH調整にはNaOH水溶液及び/又はHCl水溶液を使用する)の範囲内の一条件に調整する。次いで、この混合物を、250メッシュのスクリーンを通過させる。スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の重量が、添加した高分子の固形分に対して50重量%を超えない場合は、高分子が水溶性であると言える。なお、上記高分子と水との混合物が、静置した場合に二相に分離するエマルジョン状態であっても、上記定義を満たせば、その高分子は水溶性である。
【0042】
架橋剤3は、水溶性高分子2の間を架橋する。架橋剤3は、カルボジイミド基3Aを有する。架橋剤3のカルボジイミド基3Aは、水溶性高分子2のカルボキシ基と結合している。
【0043】
図3は、第1実施形態に係るバインダーの架橋前の模式図である。反応前の架橋剤3は、ポリカルボジイミドを有する。反応前の架橋剤3は、例えば、両末端に親水性有機化合物に由来する置換基を有する。置換基は、例えば、アルコキシ基又はフェノキシ基で末端封鎖されたポリアルキレンオキサイド、イソシアネート基と反応する活性水素を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物等である。例えば、日清紡ケミカル株式会社製の水性樹脂用架橋剤は、反応前の架橋剤3として用いることができる。
【0044】
バインダー1の重量平均分子量は、例えば、25000以上640000以下である。バインダー1の分子量が小さいと、バインダー1内の架橋点が少なく、活物質との密着性が低くなる。バインダー1の分子量が大きいと、バインダーがゲル化する。
【0045】
架橋剤3は、水溶性高分子100重量部当たり2重量部以上100重量部未満であることが好ましく、5重量部以上50重量部未満であることがより好ましい。架橋剤3の重量比が当該範囲内であると、負極活物質との結着性を十分確保した上で、バインダーの弾性が高くできる。
【0046】
バインダー1の吸液率は、例えば、-10%以上5%未満である。吸液率は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを含む非水溶媒に1mol/LのLiPF6が添加された電解液に1週間浸漬後の吸液率である。吸液率は、電解液に浸漬前のバインダー1の重量と浸漬後のバインダー1の重量とから以下の関係式で求められる。
吸液率(%)=100-(「電解液に浸漬乾燥後のバインダーの重量」/「電解液に浸漬前のバインダーの重量」×100)
【0047】
まず電解液に浸漬前のバインダー1の重量を測定する。次いで、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を準備する。この電解液に、バインダー1を25℃で1週間浸漬する。25℃1週間電解液にバインダー1を浸漬すると、バインダー1は飽和吸液状態となる。飽和吸液状態は、それ以上の電解液を浸漬しても硬化物の重量がほとんど変化しない状態をいう。そして、浸漬後のバインダー1を乾拭き、メタノールでの洗浄を行った後に、60℃で1時間真空乾燥する。そして、乾燥後のバインダー1の重量を測定する。
【0048】
吸液率は、バインダー1が電解液に溶解するとマイナスの値を示し、バインダー1が電解液を吸収した場合はプラスの値を示す。バインダー1の吸液率が上記範囲であると、バインダー1が電解液中で溶解、膨潤しにくく、安定である。
【0049】
負極活物質層34におけるバインダー1の含有率は特に限定されない。例えば、負極活物質、導電助剤、バインダー1の総質量に対してバインダー1の含有率は、0.5質量%以上20質量%以下であり、好ましくは5質量%以上15質量%以下である。バインダー1の含有率が少ないと、負極30の接着強度が弱まる。バインダー1の含有率が高いと、バインダー1は電気化学的に不活性で放電容量に寄与しないため、リチウムイオン二次電池100のエネルギー密度が低くなる。
【0050】
負極活物質層34における導電助剤は、負極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤は、正極活物質層24と同様のものを用いることができる。
【0051】
負極活物質層34における導電助剤の含有率は特に限定されない。例えば、負極活物質、導電助剤、バインダーの総質量に対して導電助剤の含有率は、5質量%以上20質量%以下であり、好ましくは1質量%以上12質量%以下である。
【0052】
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0053】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリオレフィンフィルムの単層体、積層体である。セパレータ10は、ポリエチレンやポリプロピレン等の混合物の延伸膜でもよい。セパレータ10は、セルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布でもよい。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。セパレータ10は、無機コートセパレータでもよい。無機コートセパレータは、上記のフィルムの表面に、PVDFやCMCなど樹脂とアルミナやシリカなどの無機物の混合物を塗布したものである。無機コートセパレータは、耐熱性に優れ、正極から溶出した遷移金属の負極表面への析出を抑制する。
【0054】
<電解液>
電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解塩とを有する。電解塩は、非水溶媒に溶解している。
【0055】
電解液は、公知の電解液を用いることができる。電解液は、例えば、非水溶媒と電解質塩とを含む。
【0056】
電解塩は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、LiCF3CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(CF3CF2CO)2、LiBOB、LiN(FSO2)2等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。電離度の観点から、電解質はLiPF6を含むことが好ましい。電解塩の濃度は、例えば、0.8mol/L以上5.0mol/L以下である。
【0057】
非水溶媒は、例えば、非プロトン性有機溶媒である。有機溶媒は、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エーテル、これらの混合物等である。また溶媒は、イオン液体でもよい。
【0058】
環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートである。環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートを少なくとも含むことが好ましい。フルオロエチレンカーボネート(FEC)は、酸化還元電位が高く、還元されて分解されやすい。フルオロエチレンカーボネート(FEC)の一部が還元分解されることにより、電解液中の電解質や残りの溶媒が分解されにくくなる。また、フルオロエチレンカーボネート(FEC)は、リチウムイオン二次電池の使用初期に、負極活物質表面全体に薄く安定な被膜(SEI被膜)を形成する。SEI被膜は、負極活物質と電解液との直接接触を防ぎ、電解液の分解を防止する。
【0059】
鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等を有してもよい。
【0060】
また電解液は、SEI(Solid Electrolyte Interface)形成材、界面活性剤等を有してもよい。添加剤は、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、炭酸フェニルエチレン、コハク酸無水物、リチウムビスオキサラート、テトラフルオロホウ酸リチウム、ジニトル化合物、プロパンスルトン、ブタンスルトン、プロペンスルトン、3-スルフォレン、フッ素化アリルエーテル、フッ素化アクリレート等である。
【0061】
<外装体>
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0062】
外装体50は、例えば
図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0063】
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0064】
<端子>
端子60、62は、それぞれ負極30と正極20とに接続されている。正極20に接続された端子62は正極端子であり、負極30に接続された端子60は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0065】
「リチウムイオン二次電池の製造方法」
リチウムイオン二次電池100は、負極30、正極20、セパレータ10、電解液、外装体50をそれぞれ準備し、これらを組み上げて作製される。以下、リチウムイオン二次電池100の製造方法の一例を説明する。
【0066】
まず負極30を作製する。負極30は、例えば、前駆体溶液作製工程、スラリー作製工程、電極塗布工程、硬化工程、圧延工程を順に行って作製される。
【0067】
まず前駆体溶液作製工程を行う。まず水溶性高分子溶液と架橋剤とを準備する。架橋剤は、例えば、日清紡ケミカル株式会社製の水性樹脂用架橋剤を用いることができる。水溶性高分子溶液は、カルボキシ基の一部がイオン交換されたものである。NaOH、Na2CO3、LiOH、Li2CO3、K2CO3などの水溶液を高分子溶液に滴下・攪拌することで、水溶性高分子のカルボキシ基の一部をイオン交換できる。NaOH、Na2CO3、LiOH、Li2CO3、K2CO3などの水溶液に含まれるカチオンは、カルボキシ基を中和し、カルボキシ基のプロトンはカチオンとイオン交換する。ついで、水溶性高分子溶液と架橋剤とを混合し、バインダー前駆体溶液を調整する。水溶性高分子溶液と架橋剤との混合比は、目的のバインダーの構成に応じて調整する。
【0068】
水溶性高分子の種類によって異なるが、水溶性高分子を水に溶解させる際は、室温から100℃以下で1時間以上攪拌を行う。攪拌の際の回転数は550rpm以上1500rpm以下に設定し、完全に溶解させる。その後、架橋剤を水溶性高分子溶液に添加し、室温で5分以上撹拌する。撹拌の際の回転数は、例えば、180rpm以上600rpm以下とする。架橋剤を水溶性高分子溶液に十分分散させることで、偏りなく架橋反応を進行させることができる。
【0069】
次いで、スラリー作製工程を行う。スラリー作製工程では、バインダーの前駆体溶液に、負極活物質(シリコン又はシリコン化合物)と導電助剤を添加する。
【0070】
溶媒は、例えば、水である。負極活物質、導電助剤、バインダー前駆体溶液の構成比率は、例えば、質量比で70wt%~99wt%:0wt%~10wt%:1wt%~20wt%である。これらの質量比は、全体で100wt%となるように調整される。
【0071】
負極活物質は、活物質粒子と導電性材料とをせん断力を加えながら混合し、複合化したものでもよい。活物質粒子が変質しない程度にせん断力を加えて混合すると、活物質粒子の表面が導電性材料で被覆される。また当該混合の程度により負極活物質の粒径を調整できる。また作製後の負極活物質を篩にかけて、粒径をそろえてもよい。
【0072】
次いで、電極塗布工程を行う。電極塗布工程は、負極集電体32の表面に、スラリーを塗布する工程である。スラリーの塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法をスラリーの塗布方法として用いることができる。
【0073】
次いで、硬化工程を行う。硬化工程では、スラリーをアニールする。スラリーをアニールすることで、水溶性高分子2と架橋剤3とが架橋する。また硬化工程で、溶媒が除去される。硬化工程は、例えば、窒素雰囲気中で行う。硬化温度は、例えば、120℃以上150℃以下とする。また硬化温度に至るまでの昇温速度を、例えば、2℃/分以上5℃/分以下とする。また硬化後の降温速度を、例えば、2℃/分以上5℃/分以下とする。バインダーの硬化を上記の条件で行うことで、架橋部位の偏りを抑制し、加えて十分に架橋反応を進行させることができる。
【0074】
圧延工程は、必要に応じて行われる。圧延工程は、負極活物質層34に圧力を加え、負極活物質層34の密度を調整する工程である。圧延工程は、例えば、ロールプレス装置等で行われる。
【0075】
正極20は、負極30と同様の手順で作製できる。セパレータ10及び外装体50は、市販のものを用いることができる。
【0076】
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
【0077】
最後に、発電素子40を外装体50に封入する。非水電解液は外装体50内に注入する。非水電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に非水電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。なお、外装体50に電解液を注入するのではなく、発電素子40を電解液に含浸してもよい。
【0078】
第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、サイクル特性に優れる。これは、負極活物質層34に含まれるバインダーが水溶性高分子と架橋剤とが架橋された大きな網目構造を有することで、高強度で高弾性であるためと考えられる。またバインダーにおける未反応のカルボキシ基は、負極活物質と相互作用し、強く結着する。つまり、第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、高弾性で負極活物質と強く決着するバインダーを有することで、サイクル特性に優れる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0080】
「実施例1」
まずベースポリマーとして、重量平均分子量が25000のポリアクリル酸を準備した。そして、ポリアクリル酸に含まれるカルボキシ基のうち80%をイオン交換することで、ヒドロキシ基のHをNaに置換した。ポリアクリル酸水溶液を500rpmで攪拌しているところに、Na2CO3水溶液を徐々に滴下して、イオン交換を行った。
【0081】
次いで、架橋剤として日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト水性樹脂用架橋剤(品名:V-02)を準備した。
【0082】
次いで、100質量部の水溶性高分子と水とを加えて、室温で2時間以上攪拌を行い、攪拌の際の回転数は550rpm以上1500rpm以下に設定し完全に溶解するまで攪拌した。その後、水溶性高分子水溶液に対し4.4質量部の架橋剤を添加した。
【0083】
バインダーの架橋反応は、窒素雰囲気中で、5℃/分で昇温し、150℃で3時間キープし、5℃/hで降温して行った。また焼結前には、架橋剤が添加された水溶性高分子水溶液を回転数300rpmで30分以上撹拌した。
【0084】
作製したバインダーの吸液率を測定した。実施例1のバインダーの吸液率は-2%であった。
【0085】
吸液率を測定したサンプルと同条件で作製したバインダーを含む溶液に負極活物質と導電助剤とを添加した。負極活物質は、減圧下において1000℃の熱処理で不均化反応させたSiOxとした。導電助剤は、Super-P(登録商標)とした。そして負極活物質25gと導電助剤1.4gとバインダー水溶液13.5g(固形分濃度10%)を混合し、塗工液(スラリー)を調整した。塗工液中の全固形分濃度は35wt%とした。次いでスラリーを負極集電体である銅箔上にドクターブレードで塗工した。
【0086】
次いで、スラリーが塗工された負極集電体を窒素雰囲気中でアニールした。アニールは、5℃/分で昇温し、150℃で2時間キープし、5℃/分で降温するという条件で行った。アニールにより水溶性高分子と架橋剤とが架橋し、スラリーが硬化した。そしてスラリー硬化後の負極集電体を圧延することで、負極活物質層34を形成した。金型を用いて22×32mmの電極サイズに打ち抜き、負極を作成した。
【0087】
正極活物質は、LixCoO2を用いた。導電助剤は、ケッチェンブラックを用いた。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンを用いた。96質量部の正極活物質と、2質量部の導電助剤と、2質量部のバインダーと、70質量部の溶媒を混合して、正極スラリーを作製した。そして、厚さ15μmのアルミニウム箔の一面に、正極スラリーを塗布し、100℃で2時間真空乾燥、圧延することで、正極活物質層24を形成した。そして、金型を用いて22×32mmの電極サイズに打ち抜き、正極を作製した。
【0088】
次いで、電解液を作製した。溶媒は、質量比でエチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=3:7となるように混合したものを用いた。電解塩は、LiPF6を用いた。LiPF6の濃度は1mol/Lとした。
【0089】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
作製した負極と正極とを、正極活物質層と負極活物質層とが互いに対向するように、セパレータ(多孔質ポリエチレンシート)を介して積層して積層体を得た。積層体の負極に、ニッケル製の負極リードを取り付けた。積層体の正極に、アルミニウム製の正極リードを取り付けた。正極リード及び負極リードは、超音波溶接機によって溶接した。この積層体を、アルミラミネートフィルムの外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより閉口部を形成した。そして、最後に、外装体内に上記電解液を注入した後に、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封して、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
(100サイクル後容量維持率の測定)
リチウムイオン二次電池のサイクル特性を測定した。サイクル特性は、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて行った。
【0091】
充電レート0.5C(25℃で定電流充電を行ったときに1時間で充電終了となる電流値)の定電流充電で電池電圧が4.2Vとなるまで充電を行い、放電レート1.0Cの定電流放電で電池電圧が2.5Vとなるまで放電を行った。充放電終了後の放電容量を検出し、サイクル試験前の電池容量Q1を求めた。
【0092】
上記で電池容量Q1を求めた電池を、再び二次電池充放電試験装置を用い、充電レート0.5Cの定電流充電で電池電圧が4.2Vとなるまで充電を行い、放電レート1.0Cの定電流放電で電池電圧が2.5Vとなるまで放電を行った。上記充放電を1サイクルとカウントし、100サイクルの充放電を行った。その後、100サイクル充放電終了後の放電容量を検出し、100サイクル後の電池容量Q2を求めた。
【0093】
上記で求めた容量Q1、Q2から、100サイクル後の容量維持率Eを求めた。容量維持率Eは、E=Q2/Q1×100で求められる。実施例1の容量維持率は、79%であった。
【0094】
「実施例2~15」
実施例2~15は、水溶性高分子のベースポリマーの分子量、水溶性高分子のカルボキシ基のイオン交換率、架橋剤の種類、架橋剤の添加量のいずれかを変えた点が実施例1と異なる。その他の条件は、基本的には実施例1と同様にして、吸液率、及び、容量維持率を求めた。なお、架橋剤及び水溶性高分子の違いによって、製造時の温度条件等を調整した。
【0095】
「比較例1」
比較例1は、水溶性高分子のベースポリマーの分子量を640000とし、水溶性高分子のカルボキシ基のイオン交換率を95%とし、架橋剤の添加量を1.1質量部とした点が実施例1と異なる。その他の条件は、基本的には実施例1と同様にして、吸液率、及び、容量維持率を求めた。
【0096】
「比較例2」
比較例2は、水溶性高分子のベースポリマーの分子量を640000とし、水溶性高分子のカルボキシ基をイオン交換せず、架橋剤の添加量を2.7質量部とした点が実施例1と異なる。その他の条件は、基本的には実施例1と同様にして、吸液率、及び、容量維持率を求めた。
【0097】
実施例1~15及び比較例1、比較例2の条件及び測定結果を表1にまとめた。表1に示す架橋剤は、いずれも日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト水性樹脂用架橋剤の品名である。また表1における架橋剤の添加量は、水溶性高分子100質量部当たりの架橋剤の添加量(質量部)である。
【0098】
【0099】
実施例1~15はいずれもサイクル特性に優れていた。比較例1は、サイクル特性が低かった。これは、水溶性高分子と架橋剤との架橋が十分ではないことで、バインダーが大きな網目構造が形成できなかったことと、活物質とバインダーとの密着が十分確保できなかったこととに起因すると考えられる。また比較例2は、バインダーがゲル化してしまい、バインダーとして機能しなかった。