(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012221
(43)【公開日】2024-01-26
(54)【発明の名称】歯列矯正装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114416
(22)【出願日】2022-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】522286584
【氏名又は名称】三林 栄吾
(74)【代理人】
【識別番号】100119792
【弁理士】
【氏名又は名称】熊崎 陽一
(72)【発明者】
【氏名】三林 栄吾
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA04
4C052AA06
4C052JJ06
(57)【要約】
【課題】剛性が低下し難く、かつ、顎間ゴムまたは顎内ゴムの弾性力が不足し難く、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供すること。また、顎間ゴムまたは顎内ゴムによって歯牙を牽引する方向の自由度が高くなり、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供すること。さらに、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂によって成形された本体20と、顎間ゴムまたは顎内ゴムを係止するための係止体30とを備えており、係止体30は本体20の一部が前方へ突出することにより形成されている。また、係止体30の内部には、熱可塑性樹脂により当該歯列矯正装置を成形するときに当該係止体30を成形するための係止体成形用部材40が設けられており、係止体30は係止体成形用部材40の外形に対応した形状に形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列を矯正するためのマウスピース型の歯列矯正装置であって、
熱可塑性樹脂によって成形されており、歯列の少なくとも一部に装着される本体と、
矯正用の接続部材を係止するための係止体と、を備えており、
前記係止体は、前記本体の一部が前方へ突出することにより形成されていることを特徴とする歯列矯正装置。
【請求項2】
前記係止体の内部には、
熱可塑性樹脂により当該歯列矯正装置を成形するときに当該係止体を成形するための係止体成形用部材が設けられており、
前記係止体は、
前記係止体成形用部材の外形に対応した形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項3】
前記係止体成形用部材のうち、前記本体の側に位置する底面が、前記係止体の突出方向と反対方向に膨らんでおり、
前記本体を形成している熱可塑性樹脂が、前記底面に入り込んでいることを特徴とする請求項2に記載の歯列矯正装置。
【請求項4】
前記係止体は、
前記本体の側に形成された鍔状の基部と、
前記基部から前方へ突出しており、前記接続部材を係止するための係止部と、
前記係止部の先端に形成されており、当該係止部の径よりも大径に形成された頭部と、を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の歯列矯正装置。
【請求項5】
前記係止部は、
前記基部との境界から前記頭部との境界にかけて次第に径が大きくなる形状であることを特徴とする請求項4に記載の歯列矯正装置。
【請求項6】
前記接続部材は、
当該歯列矯正装置を装着する使用者の口腔の所定部位に固定された固定部材と前記係止部とを接続するものであり、
前記基部から前記係止部までの長さは、矯正対象となる歯牙を牽引する方向に応じて決定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の歯列矯正装置。
【請求項7】
前記係止体は、
前記接続部材を係止するための切欠部が形成された係止部と、
前記係止部に形成されており、当該係止部を前記本体から前方に突出させるための基部と、を備えており、
前記係止部は、前記係止体の前記本体からの突出方向と交差する方向に延びており、
前記切欠部の位置は、矯正対象となる歯牙を牽引する方向に応じて決定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の歯列矯正装置。
【請求項8】
前記接続部材は、顎間ゴムまたは顎内ゴムであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の歯列矯正装置。
【請求項9】
歯型を用いたマウスピース型の歯列矯正装置の製造方法であって、
前記歯列矯正装置を装着する使用者の歯列に基づいて成形した歯型と、
顎間ゴムまたは顎内ゴムを係止するための係止体を形成するための係止体成形用部材と、
熱可塑性樹脂により形成された板状部材と、
前記歯型を収容するための密閉容器と、を用意し、
前記係止体成形用部材を前記歯型に取付ける工程と、
前記板状部材を加熱して軟化させる工程と、
前記係止体成形用部材が取り付けられた前記歯型が、前記密閉容器の内部において前記軟化した前記板状部材によって覆われた状態にする工程と、
前記密閉容器の内部を減圧する工程と、を実行し、
前記板状部材を形成している熱可塑性樹脂により、
前記歯型に対応した形状に成形された本体と、
前記本体の一部が前方へ突出することにより形成されており、前記係止体成形用部材に対応した形状に形成された前記係止体と、を備えた歯列矯正装置を製造することを特徴とする歯列矯正装置の製造方法。
【請求項10】
前記係止体成形用部材が前記係止体の内部に設けられていることを特徴とする請求項9に記載の歯列矯正装置の製造方法。
【請求項11】
前記係止体成形用部材のうち、前記本体の側に位置する底面が、前記係止体の突出方向とは反対方向に膨らんでおり、
前記本体を形成している熱可塑性樹脂が、前記底面に入り込んでいることを特徴とする請求項10に記載の歯列矯正装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列を矯正するためのマウスピース型の歯列矯正装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤー矯正に比べて装置が目立たないという利点があることから、マウスピース型の歯列矯正装置(アライナーともいう)が普及している。
図21(A)は、従来のマウスピース型の歯列矯正装置の使用状態の一例を示す説明図であり、同図(B)は、(A)のA-A矢視断面図である。歯列矯正装置を装着する使用者の上顎の歯列には、歯列矯正装置100が装着されており、下顎の歯列には、歯列矯正装置200が装着されている。各歯列矯正装置100,200は、それぞれ透明の熱可塑性樹脂により形成されており、弾性を有する。同図(B)に示すように、歯列矯正装置100のうち、右の側切歯300に被せる部分120には、突部121が形成されている。この突部121は、断面凹形状に形成されており、歯列矯正装置100を装着したときに、右の側切歯300の歯面に取り付けられた凸状のアタッチメント301に嵌合する部分である。アタッチメント301の形状と突部121の形状とが少し異なるため、アタッチメント301と突部121との間に応力が発生し、これによって右の側切歯300が目標の方向に動く。
【0003】
また、同図(A)に示すように、歯列矯正装置100のうち、右の犬歯に被せる部分110の上端112には、切欠部111が形成されている。また、歯列矯正装置200のうち、右の第2小臼歯400に被せる部分210には、切欠部211が形成されている。切欠部211からは、第2小臼歯400が露出しており、その第2小臼歯400の歯面には、係止部材60が固着されている。係止部材60は、第2小臼歯400に固着された基部61と、この基部61から突出したフック62とを備えている。歯列矯正装置100の切欠部111とフック62との間には、輪ゴム状の顎間ゴムRが掛け渡されている。顎間ゴムRの弾性力によって切欠部111とフック62とが相互に引っ張られ、矯正対象の歯牙が目的の位置に牽引され、歯列が矯正される。なお、係止部材60および切欠部111が同じ顎内に存在する場合、つまり、係止部材60などの固定源と、移動対象の歯牙とが同じ顎内に存在する場合は、顎間ゴムは顎内ゴムと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-083926号公報
【特許文献2】特表2020-521577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、マウスピース型の歯列矯正装置は、一定期間(例えば、2週間)毎に新しい歯列矯正装置に交換しながら、少しずつ歯牙を動かし、数年(例えば、1~2年)かけて歯列を矯正するものである。歯列矯正装置を1回装着したときの歯牙の移動距離は極めて短い(例えば、約0.25mm)。このため、長期に亘る高精度の治療計画が必要になるので、歯牙を動かす距離および方向に僅かな誤差が生じるだけで、治療計画が大きく狂ってしまう。
しかし、前述した従来の歯列矯正装置100は、歯列矯正装置100の一部の上端を切り欠くことによって切欠部111を形成するため、歯列矯正装置100の剛性が低下してしまう。このため、アタッチメント301と突部121との間に発生する応力が不足して歯牙の移動距離が目標値よりも小さくなるし、応力が作用する方向に誤差が生じるため、歯牙の移動を正確に行うことができなくなり、治療計画が狂うおそれがある。
また、切欠部111が形成されている上端112の剛性が低下して弾性変形するため、顎間ゴムRまたは顎内ゴムの弾性力が不足して歯牙の移動距離が目標値よりも小さくなり、治療計画が狂うおそれがある。
さらに、顎間ゴムRまたは顎内ゴムを係止する位置が歯列矯正装置100の上端に限定されるため、顎間ゴムRまたは顎内ゴムによって引っ張る方向の選択範囲が狭い、つまり、歯牙の牽引方向の自由度が低いので、治療の範囲が狭くなる。
さらに、上端112の先端が尖った形状になるため、歯列矯正装置100を装着しているときに上端112が歯肉に当たり、痛みや違和感が生じることがある。
【0006】
そこで、本願発明は、上述した諸問題を解決するために鋭意研究の結果創出されたものであり、目的の1つは、剛性が低下し難く、かつ、顎間ゴムまたは顎内ゴムの弾性力が不足し難く、歯牙の移動を正確に行うことができ、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することである。また、本願発明の目的の1つは、顎間ゴムまたは顎内ゴムによって歯牙を牽引する方向の自由度が高くなり、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することである。さらに、本願発明の目的の1つは、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(第1の発明)
前述した目的を達成するため、本願の第1の発明に係る歯列矯正装置は、
歯列を矯正するためのマウスピース型の歯列矯正装置(10:
図1,2,6)であって、
熱可塑性樹脂によって成形されており、歯列の少なくとも一部に装着される本体(20)と、
矯正用の接続部材(R:
図6)を係止するための係止体(30)と、を備えており、
係止体(30)は、本体(20)の一部が前方へ突出することにより形成されていることを特徴とする。
なお、「前方」とは、歯列矯正装置を装着したときの歯列を構成する歯牙の内側(裏面側)から外側(表面側)に向かう方向を示す。
【0008】
(第1の発明の効果)
本願の第1の発明によれば、矯正用の接続部材を係止するための係止体は、本体の一部が前方へ突出することにより形成されているため、歯列矯正装置の剛性が低下し難く、歯牙の移動を正確に行うことができるため、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することができる。
しかも、矯正用の接続部材の係止位置を歯列矯正装置の上端以外の部位にも設定することができるため、接続部材によって歯牙を牽引する方向の自由度が広くなるので、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することができる。
さらに、歯列矯正装置の上端や下端には尖った部分が形成されないため、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供することができる。
【0009】
(第2の発明)
本願の第2の発明は、前述した第1の発明に係る歯列矯正装置(10)において、
係止体(30)の内部には、
熱可塑性樹脂により当該歯列矯正装置(10)を成形するときに当該係止体(30)を成形するための係止体成形用部材(40:
図3~
図5)が設けられており、
係止体(30)は、
係止体成形用部材(40)の外形に対応した形状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
(第2の発明の効果)
本願の第2の発明によれば、係止体の内部には、熱可塑性樹脂により歯列矯正装置を成形するときに係止体を成形するための係止体成形用部材が設けられており、係止体は、係止体成形用部材の外形に対応した形状に形成されているため、係止体の内部に係止体成形用部材が設けられていない構造よりも係止体の剛性を高めることができる。
【0011】
(第3の発明)
本願の第3の発明は、前述した第2の発明に係る歯列矯正装置(10)において、
係止体成形用部材(40)のうち、本体(20)の側に位置する底面(42:
図3,
図4(A))が、係止体(30)の突出方向と反対方向に膨らんでおり、
本体(20)を形成している熱可塑性樹脂が、底面(42)に入り込んでいることを特徴とする。
【0012】
(第3の発明の効果)
本願の第3の発明によれば、本体を形成している熱可塑性樹脂が係止体成形用部材の底面に入り込んでいるため、係止体の内部から係止体成形用部材が外れ難くなるようにすることができる。
【0013】
(第4の発明)
本願の第4の発明は、前述した第1ないし第3のいずれか1つの発明に係る歯列矯正装置(10)において、
係止体(30)は、
本体(20)の側に形成された鍔状の基部(31:
図3(B))と、
基部(31)から前方へ突出しており、接続部材(R)を係止するための係止部(34)と、
係止部(34)の先端に形成されており、係止部(34)の径よりも大径に形成された頭部(33)と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
(第4の発明の効果)
本願の第4の発明によれば、基部から前方へ突出した部分に係止部を備えているため、係止部の長さ、または、基部の厚さを調節することにより、接続部材の係止位置を調節することができるので、係止部に係止する接続部材によって牽引する歯牙の牽引方向を調節することができる。
しかも、本願の第4の発明によれば、係止体のうち、本体の側には鍔状の基部が形成されているため、本体に対する係止体の剛性を高めることができる。
さらに、本願の第4の発明によれば、矯正用の接続部材を係止するための係止部の先端には、係止部の径よりも大径に形成された頭部が形成されているため、係止部に係止した接続部材が外れ難いようにすることができる。
【0015】
(第5の発明)
本願の第5の発明は、前述した第4の発明に係る歯列矯正装置(10)において、
係止部(34)は、
基部(31)との境界から頭部(33)との境界にかけて次第に径が大きくなる形状であることを特徴とする。
【0016】
(第5の発明の効果)
本願の第5の発明によれば、係止部は、基部との境界から頭部との境界にかけて次第に径が大きくなる形状であるため、係止部と基部との境界に係止した接続部材の係止位置が頭部方向にずれないようにすることができるので、歯牙の牽引方向がずれ難い。
【0017】
(第6の発明)
本願の第6の発明は、前述した第1ないし第3のいずれか1つの発明に係る歯列矯正装置(10)において、
接続部材(R)は、
歯列矯正装置(10)を装着する使用者の口腔の所定部位に固定された固定部材(60:
図6(A))と係止部(34)とを接続するものであり、
基部(31)から係止部(34)までの長さ(t1:
図3(B))は、矯正対象となる歯牙を牽引する方向に応じて決定されていることを特徴とする。
【0018】
(第6の発明の効果)
本願の第6の発明によれば、基部から係止部までの長さは、矯正対象となる歯牙を牽引する方向に応じて決定されているため、矯正対象となる歯牙を目的の方向に正確に動かすことができる。
【0019】
(第7の発明)
本願の第7の発明に係る歯列矯正装置は、前述した第1ないし第3のいずれか1つの発明に係る歯列矯正装置(10)において、
係止体(1:
図13,
図14,
図18(B),
図20(B))は、
接続部材(R)を係止するための切欠部(4)が形成された係止部(3)と、
係止部(3)に形成されており、当該係止部(3)を本体(20)から前方に突出させるための基部(2)と、を備えており、
係止部(3)は、係止体(1)の本体(20)からの突出方向と交差する方向に延びており、
切欠部(4)の位置は、矯正対象となる歯牙を牽引する方向に応じて決定されていることを特徴とする。
【0020】
(第7の発明の効果)
本願の第7の発明によれば、切欠部の位置を変更することにより、切欠部に係止する接続部材の方向を調節することができるため、歯牙を正確に牽引することができる。
【0021】
(第8の発明)
本願の第8の発明は、前述した第1ないし第3のいずれか1つの発明に係る歯列矯正装置(10)において、
接続部材(R)は、顎間ゴムまたは顎内ゴムであることを特徴とする。
【0022】
(第8の発明の効果)
本願の第8の発明によれば、歯列矯正装置の剛性が低下し難く、かつ、顎間ゴムまたは顎内ゴムの弾性力が不足し難く、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することができる。
しかも、顎間ゴムまたは顎内ゴムによって歯牙を牽引する方向の自由度が高くなり、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することができる。
【0023】
(第9の発明)
本願の第9の発明は、
歯型を用いたマウスピース型の歯列矯正装置の製造方法であって、
歯列矯正装置(10)を装着する使用者の歯列に基づいて成形した歯型(70:
図7)と、
顎間ゴム(R)または顎内ゴムを係止するための係止体(30)を形成するための係止体成形用部材(40)と、
熱可塑性樹脂により形成された板状部材(84:
図8)と、
歯型を収容するための密閉容器(81,83:
図8)と、を用意し、
係止体成形用部材(40)を歯型(70)に取付ける工程(
図9の工程3)と、
板状部材(84)を加熱して軟化させる工程(工程5)と、
係止体成形用部材(40)が取り付けられた歯型(70)が、密閉容器(81,83)の内部において軟化した板状部材(84)によって覆われた状態にする工程(工程6)と、
密閉容器(81,82)の内部を減圧する工程(工程7)と、を実行し、
板状部材(84)を形成している熱可塑性樹脂により、
歯型(70)に対応した形状に成形された本体(20)と、
本体(20)の一部が前方へ突出することにより形成されており、係止体成形用部材(40)に対応した形状に形成された係止体(30)と、を備えた歯列矯正装置(10)を製造することを特徴とする。
【0024】
(第9の発明の効果)
本願の第9の発明によれば、矯正用の接続部材を係止するための係止体は、本体の一部が前方へ突出することにより形成されているため、歯列矯正装置の剛性が低下し難く、歯牙の移動を正確に行うことができるため、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することができる。
しかも、矯正用の接続部材の係止位置を歯列矯正装置の上端以外の部位にも設定することができるため、接続部材によって歯牙を牽引する方向の自由度が広くなるので、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することができる。
さらに、歯列矯正装置の上端や下端には尖った部分が形成されないため、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供することができる。
【0025】
(第10の発明)
本願の第10の発明は、前述した第9の発明に係る歯列矯正装置の製造方法において、
係止体成形用部材(40)が係止体(30)の内部に設けられていることを特徴とする。
【0026】
(第10の発明の効果)
本願の第10の発明によれば、係止体の内部には、熱可塑性樹脂により歯列矯正装置を成形するときに係止体を成形するための係止体成形用部材が設けられており、係止体は、係止体成形用部材の外形に対応した形状に形成されているため、係止体の内部に係止体成形用部材が設けられていない構造よりも係止体の剛性を高めることができる。
【0027】
(第11の発明)
本願の第11の発明は、前述した第10の発明に係る歯列矯正装置の製造方法において、
係止体成形用部材(40)のうち、本体(20)の側に位置する底面(42:
図3,
図4(A))が、係止体(30)の突出方向とは反対方向に膨らんでおり、
本体(20)を形成している熱可塑性樹脂が、底面(42)に入り込んでいることを特徴とする。
【0028】
(第11の発明の効果)
本願の第11の発明によれば、本体を形成している熱可塑性樹脂が係止体成形用部材の底面に入り込んでいるため、係止体の内部から係止体成形用部材が外れ難くなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本願発明によれば、剛性が低下し難く、かつ、顎間ゴムまたは顎内ゴムの弾性力が不足し難く、歯牙の移動を正確に行うことができ、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することができる。また、本願発明によれば、顎間ゴムまたは顎内ゴムによって歯牙を牽引する方向の自由度が高くなり、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することができる。さらに、本願発明によれば、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本願発明の実施形態に係る歯列矯正装置の底面説明図である。
【
図2】
図1に示す歯列矯正装置を矢印Fにて示す方向から見た斜視図である。
【
図3】(A)は歯型の表面に貼着された係止体成形用部材の縦断面拡大図であり、(B)は
図2のA-A矢視断面拡大図である。
【
図4】(A)は係止体成形用部材の正面拡大図であり、(B)は底面拡大図である。
【
図5】
図4に示す係止体成形用部材の斜視図である。
【
図6】(A)は
図1に示す歯列矯正装置の使用状態の一例を模式的に示す説明図であり、(B)は顎間ゴムの平面図、(C)は係止部材の平面図である。
【
図7】歯型に係止体成形用部材を貼着する工程を表した説明図である。
【
図8】歯列矯正装置の成形装置を模式的に示す説明図である。
【
図9】本願発明の実施形態に係る歯列矯正装置の製造方法の工程図である。
【
図10】係止体成形用部材の変更例の説明図であり、(A)は正面拡大図、(B)は係止体成形用部材を歯面に貼着した状態を示す正面拡大図である。
【
図11】係止体成形用部材の変更例の説明図であり、(A)は正面拡大図、(B)は平面拡大図である。
【
図12】本願発明の実施形態に係る歯列矯正装置を歯科矯正用アンカースクリューと組み合わせるときの説明図である。
【
図13】(A)は第1実施形態に係る歯列矯正装置の使用状態の一例を模式的に示す説明図であり、(B)は第2実施形態に係る歯列矯正装置の使用状態の一例を模式的に示す説明図である。
【
図14】(A)および(B)は
図13(B)に示す歯列矯正装置の変更例を示す説明図である。
【
図15】
図13(B)に示す係止体の内部に設けられた係止体成形用部材の拡大斜視図である。
【
図16】
図15に示す係止体成形用部材の六面図であり、(A)は正面図、(B)は背面図、(C)は右側面図、(D)は左側面図、(E)は平面図、(F)は底面図である。
【
図17】第2実施形態に係る歯列矯正装置を製造するときに用いる係止体成形用部材の拡大斜視図である。
【
図18】(A)は歯型面に貼着された係止体成形用部材の縦断面説明図であり、(B)は(A)に示す係止体成形用部材が熱可塑性樹脂によって覆われた状態を示す縦断面説明図である。
【
図19】
図17に示す係止体成形用部材の変更例を示す拡大斜視図である。
【
図20】(A)は
図18に示す係止体成形用部材の縦断面説明図であり、(B)は歯列に装着された歯列矯正装置の縦断面説明図である。
【
図21】(A)は従来のマウスピース型の歯列矯正装置の使用状態の一例を模式的に示す説明図であり、(B)は(A)のA-A矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〈第1実施形態〉
本願発明の第1実施形態の歯列矯正装置について説明する。
[歯列矯正装置の構造]
本実施形態の歯列矯正装置の構造について図を参照しつつ説明する。
本実施形態では、使用者の上顎の歯列に装着する歯列矯正装置を例に挙げて説明する。以下、歯列矯正装置10を装着する者を使用者という。
図1および
図2に示すように、本実施形態の歯列矯正装置10は、本体20と、係止体30とを備えている。本体20は、熱可塑性樹脂によって透明に成形されており、上顎の歯列の少なくとも一部に装着される。係止体30は、顎間ゴム(
図6(A),(B)において符号Rで示す)または顎内ゴムを係止するためのものであり、本体20の一部が前方へ突出することにより形成されている。係止体30は、治療計画に応じて任意の箇所に設けることができ、
図1および
図2に示す例では、本体20のうち、右側の第2小臼歯に被せる部分23の表面23aから突出形成されている。本実施形態では、本体20および係止体30は、ポリカーボネートにより形成されている。このポリカーボネートは、医療機器の国際分類においてクラスIに属する材料である。
【0032】
また、本体20には、歯牙の表面に取り付けられたアタッチメント(例えば、
図21に示すアタッチメント301)に嵌合するための凸部21a,22aが突出形成されている。本実施形態では、凸部21aは、本体20のうち、右側の犬歯を覆う部分21の表面から突出形成されており、凸部22aは、第1小臼歯を覆う部分22表面から突出形成されている。凸部21aの形状は、犬歯の表面に取り付けられたアタッチメントの形状と僅かに異なり、その形状の違いにより、凸部21aとアタッチメントとの間に応力が発生し、犬歯が目的の位置に向けて動く。また、凸部22aの形状は、第1小臼歯の表面に取り付けられたアタッチメントの形状と僅かに異なり、その形状の違いにより、凸部22aとアタッチメントとの間に応力が発生し、第1小臼歯が目的の位置に向けて動く。
【0033】
[係止体成形用部材の構造]
次に、係止体30を成形するための係止体成形用部材40の構造について図を参照しつつ説明する。
図3(B)に示すように、係止体30の内部には、熱可塑性樹脂により歯列矯正装置10を成形するときに係止体30を成形するための係止体成形用部材40が設けられており、係止体30は、係止体成形用部材40の外形に対応した形状に形成されている。
図4および
図5に示すように、係止体成形用部材40は、基部41と、基部41から前方に突出した括れ部44と、括れ部44の先端に形成された頭部43とを備えている。基部41および頭部43は、それぞれ鍔状に形成されている。本実施形態では、基部41および頭部43は、それぞれ円板状に形成されている。詳しくは、基部41を自身の中心軸に直交する方向に切断した形状は円形であり、頭部43を自身の中心軸に直交する方向に切断した形状も円形である。なお、基部41および頭部43は、それぞれ鍔状であれば良く、形状は限定されない。
【0034】
括れ部44は、自身の基部から先端にかけて次第に径が大きくなる形状に形成されている。本実施形態では、括れ部44は、径の大きい方を前方に向けた円錐台形状に形成されている。括れ部44は、基部41の表面41aの中心から前方に突出形成されている。また、括れ部44の前面の中心から頭部43が前方に突出形成されている。本実施形態では、頭部43の径は、括れ部44の最大径よりも大きい。
【0035】
図3(B)に示すように、基部41の底面42は、後方(使用者の口腔の奥方)、つまり、本体20(
図3)の方向(
図4(A))の図面上では下方)に円弧状に膨らんでいる。底面42の中心には、本体20と接触する接触部42aが形成されており、その接触部42aの周囲には非接触部42bが形成されている。
図3(A)に示すように、歯列矯正装置10を製造する際に、係止体成形用部材40を歯型70の表面に貼着する(
図7参照)。図示の例では、係止体成形用部材40を犬歯の歯型73の歯型面73aに貼着している。このとき、基部41の接触部42aは歯型面73aに貼着されるが、その接触部42aの周囲の非接触部42bは、貼着されずに歯型面73aから浮いた状態になり、歯型面73aと非接触部42bとの間には、長さdの隙間Gが形成される(
図4(A))。これにより、歯列矯正装置10を製造するときに、製造原料となる熱可塑性樹脂が隙間Gから入り込み、
図3(b)に示すように、係止体成形用部材40の基部41の周縁が熱可塑性樹脂によって挟まれた状態になり、係止体成形用部材40が係止体30と一体化され、係止体30から離脱し難くなる。なお、係止体成形用部材40は、3Dプリンタまたは樹脂成形装置などによって製造することができる。
【0036】
[係止体の構造]
次に、係止体30の構造について図を参照しつつ説明する。
図3(b)に示すように、係止体成形用部材40の外面には、熱可塑性樹脂が密着しており、これにより、係止体成形用部材40の外形に対応した形状の係止体30が形成されている。言い換えると、係止体30は、自身の内部に設けられた係止体成形用部材40の外形に対応した形状に形成されている。係止体30は、基部31と、基部31から前方に突出した係止部34と、係止部34の先端に形成された頭部33とを備えている。基部31および頭部33は、それぞれ鍔状に形成されている。本実施形態では、基部31および頭部33は、それぞれ円板状に形成されている。詳しくは、基部31を自身の中心軸に直交する方向に切断した形状は円形であり、頭部33を自身の中心軸に直交する方向に切断した形状も円形である。なお、基部31および頭部33は、係止体成形用部材40の基部41および頭部43に対応した形状であれば良く、形状は限定されない。
【0037】
また、基部31の後ろ側、つまり、本体20の側には、係止体成形用部材40の基部41の周縁を挟むことにより形成された挟持部20aが形成されている。この挟持部20aのうち、係止体成形用部材40の底面42の非接触部42bと密着している部分は、前述したように、製造時に非接触部42bに流入した熱可塑性樹脂によって形成された部分である。係止部34は、顎間ゴムR(
図6(A))または顎内ゴムを係止するためのものであり、自身の基部から先端にかけて次第に径が大きくなる形状に形成されている。これにより、係止部34に係止された顎間ゴムRまたは顎内ゴムは、係止部34と基部32との境界に近い位置に保持され、頭部33の方に移動し難くなるため、顎間ゴムRまたは顎内ゴムによる牽引方向を正確に維持することができる。本実施形態では、係止部34は、径の大きい方を前方に向けた円錐台形状に形成されている。
【0038】
係止部34に係止された顎間ゴムRまたは顎内ゴムが外れ難い状態であれば、頭部33の径および形状は任意に設計することができる。また、係止部34の基部31から頭部33までの長さL1(
図3(B))は、顎間ゴムRまたは顎内ゴムによる牽引方向に応じて変更することができる。この場合、係止体成形用部材40の括れ部44の長さを変更すれば良い。また、基部31の厚さt1(
図3(B))も、顎間ゴムRまたは顎内ゴムによる牽引方向に応じて変更することができる。この場合、係止体成形用部材40の基部41の厚さを変更すれば良い。顎間ゴムRおよび顎内ゴムは、本発明の接続部材の一例である。
【0039】
[歯列矯正装置の製造方法]
次に、歯列矯正装置10の製造方法について図を参照しつつ説明する。
歯列矯正装置10は、
図8に示す成形装置80を用いて製造する。成形装置80としては、例えば、ドイツ国のScheu-Dental GmbH社製のバイオスターを用いることができる。成形装置80は、チャンバー81と、基台83と、ヒータ(図示省略)と、真空ポンプ(図示省略)とを備えている。チャンバー81は、熱可塑性樹脂のプレート84を内部に配置可能に構成されており、一端を回動軸にして基台83に蓋をするように回動可能に構成されている。また、チャンバー81には、自身の内部の空気を排気するための排気管82が接続されており、その排気管82は真空ポンプに接続されている。チャンバー81を基台83に被せると、チャンバー81の内部が密閉される。そして、真空ポンプを作動させると、チャンバー81の内部の空気が、排気管82から排気され、チャンバー81の内部が減圧され、真空状態になる。プレート84は本発明の板状部材の一例であり、チャンバー81および基台83は本発明の密閉容器の一例である。
【0040】
先ず、公知の口腔内スキャナーを使用し、使用者の口腔内の3次元デジタルデータを作成する(工程1:
図9)。
次に、工程1により作成した3次元デジタルデータに基づいて、公知の手法により、使用者の歯型70(
図7)を作成する(工程2)。
図7に示す歯型70は、使用者の上顎の歯列に対応する歯型であり、台座71と、この台座71の上(図では下側)に形成された歯型本体72とを有する。図示の例では、歯型本体72のうち、犬歯の歯型73の歯型面73aには、犬歯の表面に取付けられているアタッチメント(図示省略)に対応する形状の凸部73bが形成されており、第1小臼歯の歯型74の歯型面74aには、第1小臼歯の表面に取付けられているアタッチメント(図示省略)に対応する形状の凸部74bが形成されている。
【0041】
次に、係止体成形用部材40を歯型70に貼着する(工程3)。例えば、医療用の光重合レジンを用いて貼着する。
図7に示す例では、第2小臼歯の歯型75の歯型面75aに係止体成形用部材40を貼着している。
次に、成形装置80の基台83(
図8)に歯型70をセットする(工程4)。詳しくは、台座71を基台83の上面に配置し、歯型本体72が上を向くようにセットする。また、チャンバー81が水平に開いた状態にし、係止体成形用部材40を成形するための熱可塑性樹脂製のプレート84をチャンバー81の内部にセットする(工程4)。
次に、ヒータ(図示省略)をチャンバー81の開口面と対向させ、ヒータを駆動し、プレート84を加熱して軟化させる(工程5)。なお、プレート84を加熱する時間は、プレート84の材質および板厚によって調節することができる。
【0042】
次に、チャンバー81を回動させて基台83に被せ、チャンバー81の内部を密閉する(工程6)。これにより、歯型70は軟化したプレート84によって覆われた状態になる。
次に、真空ポンプを作動させ、チャンバー81の内部の空気を真空吸引し、チャンバー81の内部を減圧する(工程7)。例えば、-6気圧に減圧する。これにより、軟化したプレート84の熱可塑性樹脂が歯型70に密着し、歯型本体72の形状に対応した形状に成形される。
次に、歯型に密着した熱可塑性樹脂を所定時間自然冷却し、真空ポンプを停止させ、チャンバー81の内部の圧力を減圧前の圧力に戻す(工程8)。
次に、チャンバー81を回動し、歯型70を取り出す(工程9)。次に、歯型70から熱可塑性樹脂を外し(工程10)、熱可塑性樹脂から余分な部分を除去するなどの調整を行い(工程11)、歯列矯正装置が完成する。
【0043】
[歯列矯正装置の使用方法]
次に、歯列矯正装置10の使用方法について
図6を参照しつつ説明する。
図示の例では、
図1および
図2に示した歯列矯正装置10が使用者の上顎の歯列に装着されている。また、下顎の右の第1大臼歯24の歯面には、係止部材60が固着されている。係止部材60は、第1大臼歯24の歯面に固着された基部61と、この基部61から突出したフック62とを備えている。使用者は、自身の上顎の歯列に歯列矯正装置10を装着し、歯列矯正装置10の係止体30とフック62との間に顎間ゴムRを掛け渡す。そして、使用者は、食事をしているとき、および歯磨きをしているとき以外は、歯列矯正装置10を装着した状態で過ごす。また、顎間ゴムRは、その弾性力を維持するため、1日に1回新しいものに取り替える。これにより、顎間ゴムRの弾性力によって係止体30とフック62とが相互に引っ張られ、矯正対象の歯牙が目的の位置に向けて少しずつ動く。また、歯列矯正装置10は、矯正対象の歯牙を目的の位置に向けてさらに動かすために、定期的(例えば、1~2週間毎)に製造し、取り替える。また、歯牙に取り付けるアタッチメントも定期的に新しいものに取り替え、それに対応して係止体30の形成位置なども変更される。このように、歯列矯正装置10を定期的に取り替え、矯正対象となる歯牙を少しずつ動かして行くことにより、歯列を矯正する。
【0044】
[第1実施形態の効果]
(1)本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、顎間ゴムRまたは顎内ゴムを係止するための係止体30は、本体20の一部が前方へ突出することにより形成されているため、歯列矯正装置10の剛性が低下し難く、歯牙の移動を正確に行うことができるため、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することができる。
(2)しかも、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、顎間ゴムRまたは顎内ゴムの係止位置を歯列矯正装置10の上端以外の部位にも設定することができるため、顎間ゴムRまたは顎内ゴムによって歯牙を牽引する方向の自由度が広くなるので、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することができる。
(3)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、歯列矯正装置10の上端や下端には尖った部分が形成されないため、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供することができる。
【0045】
(4)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、係止体30の内部には、係止体30を成形するための係止体成形用部材40が設けられており、係止体30は、係止体成形用部材40の外形に対応した形状に形成されているため、係止体30の内部に係止体成形用部材40が設けられていない構造よりも係止体30の剛性を高めることができる。
(5)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、本体20を形成している熱可塑性樹脂が係止体成形用部材40の底面42に入り込んでいるため、係止体30の内部から係止体成形用部材40が外れ難くなるようにすることができる。
【0046】
(6)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、基部31から前方へ突出した部分に係止部34を備えているため、係止部の長さL1、または、基部31の厚さt1を調節することにより、顎間ゴムRまたは顎内ゴムの係止位置を調節することができるので、係止部34に係止する顎間ゴムRまたは顎内ゴムによって牽引する歯牙の牽引方向を調節することができる。
(7)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、係止体30のうち、本体20の側には鍔状の基部31が形成されているため、本体20に対する係止体30の剛性を高めることができる。
(8)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、係止部34の先端には、係止部34の径よりも大径に形成された頭部33が形成されているため、係止部34に係止した顎間ゴムRまたは顎内ゴムが外れ難いようにすることができる。
【0047】
(9)さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、係止部34は、基部31との境界から頭部33との境界にかけて次第に径が大きくなる形状であるため、係止部34と基部31との境界に係止した顎間ゴムRまたは顎内ゴムの係止位置が頭部33の方向にずれないようにすることができるので、歯牙の牽引方向がずれ難い。
(10)上述したように、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、剛性が低下し難く、かつ、顎間ゴムRまたは顎内ゴムの弾性力が不足し難く、歯牙の移動を正確に行うことができ、治療計画が狂い難い歯列矯正装置を提供することができる。また、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、顎間ゴムRまたは顎内ゴムによって歯牙を牽引する方向の自由度が高くなり、治療の適応範囲が広くなる歯列矯正装置を提供することができる。さらに、本実施形態に係る歯列矯正装置10によれば、痛みや違和感が生じ難い歯列矯正装置を提供することができる。
【0048】
[係止体成形用部材の第1変更例]
次に、係止体成形用部材40の第1変更例について
図10を参照しつつ説明する。
図10に示す係止体成形用部材40は、前述した係止体成形用部材40(
図4,
図5)と同じ形状の括れ部44と頭部43とを備えており、基部41の底面42は、歯型面77に対応した形状に形成されている。図示の例では、歯型面77は前方に向けて膨らんだ形状に形成されており、基部41の底面42も前方に向けて膨らんだ形状に形成されている。言い換えると、基部41の底面42の全体が、歯型面77と接触する接触部42aに形成されている。この係止体成形用部材40を有する歯列矯正装置も前述した製造方法によって製造することができ、係止体成形用部材40と対応した形状の係止体を備えた歯列矯正装置を提供することができる。
本第1変更例の係止体成形用部材40を備えた歯列矯正装置を用いれば、歯列矯正装置を歯列に装着したときに、基部41の底面42と歯牙の歯面との接触面積を増やすことができるため、顎間ゴムRまたは顎内ゴムを係止したときに係止体30の姿勢がより一段と安定する。また、係止体成形用部材40を歯型面77に貼着するときに、貼着面積を増やすことができるため、歯列矯正装置10を成形する際に、係止体成形用部材40の姿勢が変化し難い。そして、本第1変更例の係止体成形用部材40を備えた歯列矯正装置によれば、前述した実施形態の歯列矯正装置と同じ効果を奏することができる。
【0049】
[係止体成形用部材の第2変更例]
次に、係止体成形用部材40の第2変更例について
図11を参照しつつ説明する。
図11に示す係止体成形用部材40は、前述した係止体成形用部材40(
図4,
図5)の基部41と同じ形状の基部41と、この基部41の表面41aの中心から前方へ突出した突出部46と、この突出部46の前端から上方へ突出した頭部45とを備えている。突出部46および頭部45からなる部分を側方から見るとL字状を呈している。この係止体成形用部材40を有する歯列矯正装置も前述した製造方法によって製造することができ、係止体成形用部材40と対応した形状の係止体を備えた歯列矯正装置を提供することができる。そして、本第2変更例の係止体成形用部材40を備えた歯列矯正装置によれば、前述した実施形態の歯列矯正装置と同じ効果を奏することができる。
【0050】
〈第2実施形態〉
次に、本願発明の第2実施形態の歯列矯正装置について説明する。
前述した第1実施形態と同じ構造については同じ符号を用い、説明を簡略化または省略する。
図20では、歯牙の歯面に係止部材60を固定し、その係止部材60のフック62に顎間ゴムを係止する従来例を示したが、チタン合金製の歯科矯正用アンカースクリュー(TAD(Temporary Anchorage Device)ともいう)を歯槽骨または顎骨に植立し、その歯科矯正用アンカースクリューに顎内ゴムを係止する手法を採る場合がある。この手法によれば、従来の手法では難しかった、3次元的な歯牙移動のコントロールが可能となり、アライナー矯正の治療期間の短縮も可能となる。
しかし、かかる手法では、生体の諸条件より、物理的な計画通りの部位に歯科矯正用アンカースクリューを植立できないことも多い。そのため、歯牙の牽引引方向などが不適切となり、治療計画が大幅に狂う可能性がある。
【0051】
図12は、歯科矯正用アンカースクリューを用いた手法を示す説明図である。上顎の右側には、歯科矯正用アンカースクリュー90Aが、左側には歯科矯正用アンカースクリュー90Bがそれぞれ植立されている。また、下顎の右側には、歯科矯正用アンカースクリュー90Cが、左側には歯科矯正用アンカースクリュー90Dがそれぞれ植立されている。また、上顎の歯列には歯列矯正装置11が装着されており、その歯列矯正装置11の右側には係止体30Aが、左側には係止体30Bがそれぞれ前方に突出している。また、下顎の歯列には歯列矯正装置12が装着されており、その歯列矯正装置12の右側には係止体30Cが、左側には係止体30Dがそれぞれ前方に突出している。係止体30A~30Dは、前述した第1実施形態の係止体30と同じものである。
係止体30Aと歯科矯正用アンカースクリュー90Aとの間、係止体30Bと歯科矯正用アンカースクリュー90Bとの間には、それぞれ顎内ゴムが掛け渡され、各顎内ゴムの牽引力を利用して上顎の歯列が矯正される。また、係止体30Cと歯科矯正用アンカースクリュー90Cとの間、係止体30Dと歯科矯正用アンカースクリュー90Dとの間にも、それぞれ顎内ゴムが掛け渡され、各顎内ゴムの牽引力を利用して下顎の歯列が矯正される。
しかし、左側の歯科矯正用アンカースクリュー90Dと左側の係止体30Dとの間に掛け渡した顎内ゴムは、下顎の歯列を左斜め上方に牽引しようとするのに対し、右側の歯科矯正用アンカースクリュー90Cと右側の係止体30Cとの間に掛け渡した顎内ゴムは、下顎の歯列を右斜め下方に牽引しようとするため、下顎の咬合平面が右下がりになってしまう。言い換えると、歯列を左右で牽引する場合に牽引方向(角度)を左右で揃えることができない。
つまり、歯科矯正用アンカースクリューを使用する場合は、その植立位置が制限されるため、歯列の矯正を正確に行うことができないおそれがある。
【0052】
そこで、本願発明者は、かかる課題を解決するため、前述の実施形態の歯列矯正装置とは構造の異なる歯列矯正装置を開発した。
図13(B)に示すように、本実施形態の歯列矯正装置10は、係止体1を備えている。係止体1は、顎間ゴムRまたは顎内ゴムを係止するための切欠部4が形成された係止部3と、この係止部3を本体20から前方に突出させるための基部2(
図18(B))とを備えている。
図18(B)に示すように、基部2は、係止部3の一端(図示の例では上端)の後面(本体20側の面)に一体形成されている。言い換えると、係止部3の後面の一端には、係止部3を肉厚にするための基部2が形成されており、その基部2により、係止部3が本体20から前方に突出している。
【0053】
また、係止部3は、自身の突出方向と交差する方向に延びている。
図18(B)に示す例では、係止部3は本体20から前方に突出しており、係止部3は下方に延びている。
図13(B)に示すように、係止部3は、前方から見て略矩形の板状に形成されており、その左側面から右側面に向けて切欠部4が切欠き形成されている。
図18(B)に示すように、係止体1の内部には、係止部3を成形するための係止体成形用部材50が設けられている。
図15および
図16に示すように、係止体成形用部材50は、平面状の正面部52aを有し、その正面部52aの反対側の背面部52bから基部51が突出形成されている。また、係止部52は、平面状の右側面部52cと、切欠部53の開口部が形成された左側面部52dとを有する。また、係止部52は、平面状の上面部52eと、平面状の下面部52fとを有する。言い換えると、係止部52は、矩形に形成された板状部材の左側面部52dから右側面部52cに向けて切欠部53が形成された形状に形成されている。
基部51は、背面から見て矩形(図示の例では台形)に形成されており、平面状の背面部51aと、平面状の右側面部51cと、平面状の左側面部51dと、平面状の上面部51eと、平面状の下面部51fと、を有する。また、
図15および
図16(C)に示すように、係止部52の下面部52fと、基部51の下面部51fとの間には、段差Sが形成されている。
【0054】
次に、本実施形態の歯列矯正装置10の製造方法について説明する。
図17に示すように、係止体成形用部材50を構成する係止部52の背面部52bのうち、切欠部53の下(図面上では上)には、2個のスペーサ54が左右方向に配置されている。各スペーサ54は、係止体成形用部材50を製造するときに係止部52と一体的に形成される。図示の例では、スペーサ54は球形である。
図18(A)に示すように、各スペーサ54は、係止体成形用部材50を歯型76の歯型面76aに貼着したときに、係止体成形用部材50の係止部52の背面と歯型面76aとの間隔を保持するためのものであり、歯列矯正装置10を製造した後に除去する。なお、各スペーサ54を設けなくても係止体成形用部材50の係止部52の背面と歯型面76aとの間隔を保持することができれば、特に各スペーサ54を設ける必要はない。
【0055】
図18(A)に示すように、係止体成形用部材50の歯型面76aへの取り付けは、基部51の背面部51aを歯型面76aに貼着することによって行う。そして、前述した成形装置80(
図8)を使用し、同図(B)に示すように、熱可塑性樹脂によって歯型70および係止体成形用部材50を成形する。チャンバー81(
図8)の内部が減圧されて真空になるため、熱可塑性樹脂が切欠部53の内壁を覆うとともに段差Sに入り込む。これにより、係止体成形用部材50の本体20からの離脱が防止される。
【0056】
次に、本実施形態の歯列矯正装置10の使用例について説明する。
図13(A)は第1実施形態に係る歯列矯正装置の使用状態の一例を模式的に示す説明図であり、(B)は本実施形態に係る歯列矯正装置の使用状態の一例を模式的に示す説明図である。
同図(A)に示すように、係止体30Cは、下顎の歯列の装着された歯列矯正装置10の本体20の下部に設けられている。係止体30Cと、歯科矯正用アンカースクリュー90C(
図12)との間には顎内ゴムR1が、角度θ1にて係止されており、牽引方向が右斜め下方になっている。
同図(B)に示すように、係止体成形用部材50は、下顎の歯列の装着された歯列矯正装置10の本体20の下部にて上下を逆向きにし、切欠部53が左を向くように設けられている。係止体成形用部材50と、歯科矯正用アンカースクリュー90C(
図12)との間には顎内ゴムR1が角度0度にて係止されている。
【0057】
顎内ゴムR1の係止位置を比較すると、係止体1における係止位置は、係止体30Cにおける係止位置よりも下方に位置しており、係止体1と歯科矯正用アンカースクリュー90Cとの間に顎内ゴムR1を水平に掛け渡すことができる。
従って、下顎の歯列の右側を水平に牽引することができるため、下顎の咬合平面が右下がりになってしまうおそれがない。
切欠部4の位置を変更することにより、顎内ゴムR1による牽引角度を変更することができる。
図13(B)に示す例では、係止体1の上端から切欠部4までの長さL2を変更することにより、顎内ゴムR1による牽引角度を変更することができる。言い換えると、切欠部4の位置は、矯正対象となる歯牙を牽引する方向に応じて決定する。
【0058】
例えば、
図14(A)に示すように、係止体1の上端から切欠部4までの長さを
図13(B)に示した長さL2よりも長いL3に変更すると、顎内ゴムR1を角度θ2にて掛け渡すことができ、牽引方向を右斜め上方に変更することができる。水平姿勢の顎内ゴムR1の角度を0度とし、
図13(A)に示すように、顎内ゴムR1が斜め下方の姿勢となる場合の角度θ1をマイナスの角度とした場合、
図14(A)に示す角度θ2はプラスの角度ということができる。つまり、係止部4の位置を調節することにより、顎内ゴムR1による歯牙の牽引角度をプラスの角度およびマイナスの角度のどちらにも調節することができる。
【0059】
また、
図14(B)は、歯列矯正装置10を上顎の歯列に装着した場合の説明図であるが、係止体1は、同図(A)に示す係止体1を左右反転させた形状であり、係止部4を左方に向けて本体20の上部に設けられている。図示の例においても、係止部4の形成位置を変更することにより、歯牙の牽引方向を変更することができる。
また、
図14(C),(D)に示すように、本体20に対する係止体1の姿勢は、歯牙の牽引方向および歯科矯正用アンカースクリューの位置などに応じて変更することができる。歯科矯正用アンカースクリュー90A~90Dは、本発明の固定部材の一例である。
【0060】
図19は係止体成形用部材50の変更例を示す。係止体成形用部材50に形成された基部51の下面部51fの前後間の幅が、上面部51eの前後間の幅よりも狭くなっており、背面部51aが上面部51eとの境界から下面部51fの境界に向けてテーパ面を呈している。言い換えると、基部51は台錐形状に形成されている。背面部51aのテーパ角度はαである。本例の歯列矯正装置10は、上記の構造の係止体成形用部材50を有するため、
図20(B)に示すように、下顎の歯列に装着すると、係止部4の位置を前方に距離t2移動させることができる。このように構成された歯列矯正装置10を使用すれば、歯牙の牽引方向を変更することができる。また、係止体1の直下に障害物が存在する場合は、その障害物を避けるように係止体1を前方に傾斜させて配置することができる。さらに、歯面401にアタッチメントが設けられている場合に、同じ歯面401に係止体1を設ける必要がある場合であっても、係止体1の背面側にアタッチメントが位置するように係止体1を配置することもできる。
【0061】
[第2実施形態の効果]
本実施形態の係る歯列矯正装置10によれば、切欠部の位置を変更することにより、切欠部に係止する接続部材の方向を調節することができるため、歯牙を正確に牽引することができる。例えば、歯列を左右で牽引する場合に牽引方向(角度)を左右で揃えることができるため、
図12に示した従来例のように、咬合平面が一方に傾くおそれがない。
また、言うまでも無く、本実施形態の係る歯列矯正装置10によれば、前述した第1実施形態の歯列矯正装置10と同じ効果を奏することができる。
【0062】
〈他の実施形態〉
(1)本発明の歯列矯正装置は、顎内ゴムを使用する歯列矯正装置にも適用することができる。
(2)係止部34は、顎間ゴムRまたは顎内ゴムを嵌合する形状に形成することもできる。この形状の場合、係止部34の突出長さは、顎間ゴムRまたは顎内ゴムを嵌合することができる長さであれば良く、無用に長くする必要は無い。
(3)係止部34は、基部31との境界から頭部33との境界にかけて次第に径が小さく形状でも良い。この係止部34を有する歯列矯正装置によれば、顎間ゴムRまたは顎内ゴムの係止位置を頭部33寄りに維持することができる。
【0063】
(4)係止体1に複数の切欠部4を形成し、歯牙の牽引方向に応じて切欠部4を使い分けるようにすることもできる。例えば、係止体1が延びる方向に沿って複数の切欠部4を形成することもできる。
(5)基部51を係止部52の正面部52aおよび背面部52bのそれぞれに形成し、製造時に歯型76の歯型面76a(
図18(A))に基部51を貼着する際に、正面部52aおよび背面部52bのどちらを貼着するかを、用途に応じて選択できるように構成することもできる。この構成の歯列矯正装置によれば、基部51が正面部52aに形成された係止体成形用部材50と、基部51が背面部52bに形成された係止体成形用部材50の2種類を製造する必要がないため、係止体成形用部材50の製造効率を高めることができる。
【0064】
(6)本発明の歯列矯正装置10は、係止体(30,1)の内部に係止体成形用部材(40,50)を設けることにより、係止体成形用部材(40,50)を設けない構造よりも係止体(30,1)の剛性をより一段と高めることができるが、本体20から係止体成形用部材(40,50)を外した構造でも、治療計画に影響がでない程度に係止体(30,1)の剛性を十分確保することができるので、本体20から係止体成形用部材(40,50)を外した構造でも良い。
(7)歯列矯正装置10は、ポリカーボネートの他、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニルコポリマーなどの熱可塑性樹脂によって成形することもできる。
【符号の説明】
【0065】
10・・歯列矯正装置
20・・本体
30・・係止体
31・・基部
33・・頭部
34・・係止部
40・・係止体成形用部材
42・・底面
43・・頭部
44・・括れ部
60・・係止部材
61・・ベース
62・・フック
70・・歯型
80・・成形装置
81・・チャンバー
82・・基台
83・・排気管
84・・プレート
G・・隙間
R・・顎間ゴム