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特開2024-122211密封容器のピンホール検査方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122211
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】密封容器のピンホール検査方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/40 20060101AFI20240902BHJP
   G01N 27/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01M3/40 A
G01N27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029638
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000110952
【氏名又は名称】ニッカ電測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】上村 久仁男
【テーマコード(参考)】
2G060
2G067
【Fターム(参考)】
2G060AA11
2G060AA20
2G060AE02
2G060AE04
2G060AF03
2G060AF07
2G060EA07
2G060EB04
2G060HA02
2G060HC10
2G060HC13
2G060HC15
2G060KA12
2G067AA47
2G067BB25
2G067BB30
2G067CC18
2G067DD23
2G067EE03
2G067EE05
(57)【要約】
【課題】従来よりも小さなピンホールであっても、高い精度で検出をすることのできる密封容器のピンホール検査方法を提供する。
【解決手段】蒸留水を含む導電性流動体が充填された密封容器50に高周波交流電圧を印加して流れる電流を検出して電流電圧変換した受信信号を得る工程と、前記受信信号を増幅器32で増幅する工程と、増幅後に得られた受信信号をフィルタを介さずにダイレクトサンプリングしてAD変換を行い、変換信号を得る工程と、前記変換信号から不要パルスを除去する工程と、前記不要パルス除去後の変換信号をフィルタ処理して得られる出力信号に基づいて、密封容器50の判定処理を行うことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留水を含む導電性流動体が充填された絶縁性密封容器に高周波交流高電圧を印加して流れる電流を検出して電流電圧変換した受信信号を得る工程と、
前記受信信号を増幅器で増幅する工程と、
増幅後に得られた受信信号をフィルタを介さずにダイレクトサンプリングしてAD変換を行い、変換信号を得る工程と、
前記変換信号から不要パルスを除去する工程と、
前記不要パルス除去後の変換信号をフィルタ処理して得られる出力信号に基づいて、前記絶縁性密封容器の判定処理を行うことを特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項2】
請求項1に係る密封容器のピンホール検査方法であって、
前記フィルタ処理は、前記変換信号の半波長分の信号波形であって、マイナス側のものを検出し、
当該マイナス側の信号波形に対して最大値フィルタ処理を施すことを特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項3】
請求項1に係る密封容器のピンホール検査方法であって、
前記フィルタ処理は、前記変換信号の半波長分の信号波形であって、プラス側のものを検出し、
当該プラス側の信号波形に対して最小値フィルタ処理を施すことを特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密封容器のピンホール検査方法であって、
前記判定処理は、前記出力信号の半波長分の信号の波形中心を基準として、線対称な位置関係にある1/4波形毎の差分処理を行い、当該差分処理によって得られた波形が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成される事を特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密封容器のピンホール検査方法であって、
前記判定処理は、前記出力信号の半波長分の信号の波形中心を基準として、線対称な位置関係にある1/4波形毎の積分値を求め、両者の積分値の差が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成されることを特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密封容器のピンホール検査方法であって、
前記判定処理は、
前記高周波交流電圧の印加に起因して前記絶縁性密封容器に流れる電流の前記受信信号のうち、ある位相区間の信号のうちの半波長分を取り出し、
取り出した信号がマイナス側の電圧範囲にある信号である場合には、信号の最小値の位置を、
取り出した信号がプラス側の電圧範囲にある信号である場合には、信号の最大値の位置を、
それぞれ高周波交流電圧の0ボルト位置を基準位相とした位相位置を算出し、
前記位相位置が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成されることを特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密封容器のピンホール検査方法であって、
前記判定処理は、良品密封容器を検査することで得られる良品波形を良品基準波形として学習し、
前記良品基準波形と検査対象とする密封容器の検出波形から得られた出力波形の差分処理を行い、当該差分処理によって得られた波形が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成される事を特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の密封容器のピンホール検査方法であって、
前記フィルタ処理は、前記変換信号を両波整流した信号に対して実施し、
前記判定処理は、前記両波整流によって得られた波形のうち、反転整流して得られた波形と、反転せずに得られた波形とで異なる基準値を定めて判定を行うことを特徴とする密封容器のピンホール検査方法。
【請求項9】
蒸留水を含む導電性流動体が充填された絶縁性密封容器に高周波交流高電圧を印加して、前記絶縁性密封容器を流れる電流値を電圧に変換して出力する測定部と、前記測定部から入力される受信信号に基づいて前記絶縁性密封容器の良否判定を行う信号処理部とを有するピンホール検査装置であって、
前記信号処理部は、前記受信信号を増幅させる増幅器と、
増幅させた受信信号を直接A/D変換して変換信号を得るダイレクトサンプリングADCと、
前記変換信号から不要パルスを除去する不要パルス除去処理部と、
前記不要パルス除去処理部から出力された変換信号をフィルタ処理して出力信号を得るフィルタ処理部と、
前記出力信号に基づいて前記絶縁性密封容器の良否判定を行う判定部と、を有することを特徴とする密封容器のピンホール検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性内容物が充電された密封容器のピンホール、及びリークについて高周波交流高電圧の印加により検査する方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薬品会社のガラスアンプル、プラスチックアンプル、バイアル、ソフトバッグ、シリンジ、目薬などの容器や、食品会社のパック総菜、レトルト食品、プリン、ゼリー、ソーセージなどの容器は、いずれも導電性液体または導電性半固体を含む内容物をガラスや樹脂、あるいは樹脂をフィルム状に加工した絶縁材料で密封している。そして、このような密封容器により包装された製品(以下、封入製品とも言う)は、その出荷を早めるために、なるべく在庫を抱えないことが要求されている。このため、薬品会社や食品会社では、こうした封入製品について、製造ライン上で製品の封入と同時に容器検査も行っている。一例として、アンプルなどの密封容器の検査速度は最高で、毎分600本(毎秒10本、1本あたり100ミリ秒)が要求される。なお、密封容器の検査範囲は、容器全周である。
【0003】
密封容器の検査は従来、被検査物に印加される高電圧の変化を測定する方法や、被検査物に流れる電流を測定し、その値が基準値よりも大きいか否かに基づいて良否の判定を行うようにしていた。しかし、高電圧放電を用いた絶縁容器検査は、低電圧側、及びアース側に大きな放電電流が流れ、これがノイズとなり測定系に影響を与えることがある。例えば、電流や電圧の波形を観測するオシロスコープなどにも放電ノイズが混入して余分なパルスが重畳されることがある。こうした放電ノイズを除去する対策として、特許文献1に開示している技術では、大きな時定数のローパスフィルタ回路を用いて被検査物に流れる電流を取り出してこれを電圧変換し、その波形における振幅の大小に基づいて判定を行うという手段を採るようにしていた。
【0004】
しかしながら、数ミクロンの小さいピンホールに起因して発せられる波形(ピンホール信号)は、ローパスフィルタ回路の大きな時定数によりなまりが生じ、良品の信号と重なってしまったり、良品の信号に埋もれてしまい、正しい判定ができなくなってしまう場合があった。また、高電圧放電を用いた絶縁容器検査では、高電圧により空気が絶縁破壊されることで、数ナノ秒から数十ナノ秒の間隔で波形信号の振幅が良品における波形やピンホール信号の数十倍から数百倍の振幅を生じさせる場合がある。こうした波形は、ローパスフィルタ回路、または積分により波形が丸まり(なまり)、良品であってもピンホール信号が発生しているように見える波形に近付くこともあった。
【0005】
検査対象の密封容器を連続搬送する高速スクリューやバケット上での検査の他、卓上での個別検査など、ピンホール検査の適用は多岐に亙る。こうした検査体形の違いによって生じる問題点の1つとして、密封容器に対する電極の通過位置とピンホールの位置関係がある。両者の位置関係の違いによって波形に大きな違いが生じるからである。例えば、連続搬送で検査が行われる場合、固定電極に沿って密封容器(例えばアンプル)が通過する。そうした場合、電極の入口(アンプルの先端側)では密封容器(アンプル)と電極の対向面積が小さいため、得られる信号波形の振幅も小さい。一方、電極が密封容器(アンプル)の中心付近にある場合は、信号波形の振幅も大きくなる。このため、アンプルの先端側に生じた小さなピンホールに起因した信号波形の振幅は、アンプルの中心に電極が位置している際に生じる通常の信号波形の振幅よりも小さくなる場合がある。さらに、密封容器に対して高電圧電極と低電圧電極とを非接触とした状態で搬送し、検査を行う場合には、電極との距離が数ミリ異なるだけでも波形の振幅に変化が生じることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-66012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、電極と密封容器との配置関係に関わらず、従来よりも小さなピンホールであっても、高い精度で検出をすることのできる密封容器のピンホール検査方法、及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る密封容器のピンホール検査方法は、蒸留水を含む導電性流動体が充填された絶縁性密封容器に高周波交流高電圧を印加して流れる電流を検出して電流電圧変換した受信信号を得る工程と、前記受信信号を増幅器で増幅する工程と、増幅後に得られた受信信号をフィルタを介さずにダイレクトサンプリングしてAD変換を行い、変換信号を得る工程と、前記変換信号から不要パルスを除去する工程と、前記不要パルス除去後の変換信号をフィルタ処理して得られる出力信号に基づいて、前記絶縁性密封容器の判定処理を行うことを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記フィルタ処理は、前記変換信号の半波長分の信号波形であって、マイナス側のものを検出し、当該マイナス側の信号波形に対して最大値フィルタ処理を施すようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、ピンホールに起因した信号波形が明確に表示されるようになる。
【0010】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記フィルタ処理は、前記変換信号の半波長分の信号波形であって、プラス側のものを検出し、当該プラス側の信号波形に対して最小値フィルタ処理を施すようにすると良い。このような特徴を有する事によっても、ピンホールに起因した信号波形が明確に表示されるようになる。
【0011】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記判定処理は、前記出力信号の半波長分の信号の波形中心を基準として、線対称な位置関係にある1/4波形毎の差分処理を行い、当該差分処理によって得られた波形が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成されるようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、半波長分の検出サンプルがあればピンホールの有無を検出する事が可能となる。
【0012】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記判定処理は、前記出力信号の半波長分の信号の波形中心を基準として、線対称な位置関係にある1/4波形毎の積分値を求め、両者の積分値の差が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成されるようにすると良い。このような特徴を有する事によっても、半波長分の検出サンプルによるピンホール検査が可能となる。
【0013】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記判定処理は、前記高周波交流電圧の印加に起因して前記絶縁性密封容器に流れる電流の前記受信信号のうち、ある位相区間の信号のうちの半波長分を取り出し、取り出した信号がマイナス側の電圧範囲にある信号である場合には、信号の最小値の位置を、取り出した信号がプラス側の電圧範囲にある信号である場合には、信号の最大値の位置を、それぞれ高周波交流電圧のマイナス側からプラス側へ変化するゼロボルト位置を基準位相とした位相位置を算出し、前記位相位置が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成されるようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、信号波形のピーク値の検出と、基準位置(基準位相)との位相差を求めれば良いため、判定部における計測処理時の負荷を減らす事ができる。
【0014】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記判定処理は、良品密封容器を検査することで得られる良品波形を良品基準波形として学習し、前記良品基準波形と検査対象とする密封容器の検出波形から得られた出力波形の差分処理を行い、当該差分処理によって得られた波形が予め定めた基準値を超えているか否かに基づいて成されるようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、良品検査時との差が求められるため、より正確な判定が可能となる。
【0015】
さらに、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記フィルタ処理は、前記変換信号を両波整流した信号に対して実施し、前記判定処理は、前記両波整流によって得られた波形のうち、反転整流して得られた波形と、反転せずに得られた波形とで異なる基準値を定めて判定を行うようにすると良い。このような特徴を有する事によれば、フィルタ処理を1回としつつ、精度の高いピンホール検査を実施することが可能となる。
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明に係るピンホール検査装置は、蒸留水を含む導電性流動体が充填された絶縁性密封容器に高周波交流電圧を印加して、前記絶縁性密封容器を流れる電流値を電圧に変換して出力する測定部と、前記測定部から入力される受信信号に基づいて前記絶縁性密封容器の良否判定を行う信号処理部とを有するピンホール検査装置であって、前記信号処理部は、前記受信信号を増幅させる増幅器と、増幅させた受信信号を直接A/D変換して変換信号を得るダイレクトサンプリングADCと、前記変換信号から不要パルスを除去する不要パルス除去処理部と、前記不要パルス除去処理部から出力された変換信号をフィルタ処理して出力信号を得るフィルタ処理部と、前記出力信号に基づいて前記絶縁性密封容器の良否判定を行う判定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記のような特徴を有する密封容器のピンホール検査方法、及び装置によれば、電極と密封容器との配置関係に関わらず、従来よりも小さなピンホールであっても、高い精度で検出をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るピンホール検査装置の構成を示す図である。
図2】フィルタ処理前の変換信号の一例を示す図である。
図3】最大値フィルタによる信号処理の原理を説明するための図である。
図4】最大値フィルタ処理後の変換信号の一例を示す図である。
図5】実施形態に係るピンホール検査方法の流れを説明するためのフロー図である。
図6】不要パルス除去前の変換信号の一例を示す図である。
図7図6に示す不要パルスを含んだ状態で最大値フィルタ処理を施した場合の出力信号の例を示す図である。
図8図7の出力信号に対して波長中心を基準とした差分処理を施した場合に得られる波形の例を示す図である。
図9】基準となる高電圧波形と受信信号の位相差を示す図である。
図10】ピンホール信号を含む受信信号の例を示す図である。
図11】最大値フィルタ処理を施した出力信号の例を示す図である。
図12図11の出力信号に対して波長中心を基準とした差分処理を施した場合に得られる波形の例を示す図である。
図13】最大値フィルタ処理を施した出力信号に対して波長中心を基準として面積の差分を求める場合の例を説明するための図である。
図14】良品基準波形とピンホールを有する密封容器の出力信号を比較した図である。
図15】良品基準波形とピンホールを有する密封容器の出力信号との差分処理により得られる波形の例を示す図である。
図16】ピンホールの無い密封容器における受信信号の積分波形である。
図17図16に示す積分波形をマイナス側に両波整流した状態を示す図である。
図18】プラス側波形に基づく反転整流波形を最大値フィルタにかけた状態の信号波形を示す図である。
図19】マイナス側波形に基づく整流波形を最大値フィルタにかけた状態の信号波形を示す図である。
図20】ピンホールを有する密封容器におけるマイナス側波形に基づく整流波形を最大値フィルタにかけた状態の信号波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の密封容器のピンホール検査方法及び装置に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上で好適な実施形態の一部である。よって、その構成の一部に変更を加えたとしても、その効果を奏する限りにおいて、本発明の一部とみなすことができる。
【0020】
[装置構成]
まず、図1を参照して本発明に係る密封容器のピンホール検査装置(以下、単にピンホール検査装置10と称す)の一例について説明する。本実施形態に係るピンホール検査装置10は、測定部20と、信号処理部30とから構成されている。
【0021】
測定部20は、少なくとも、高周波電源22と、高電圧電極24、低電圧電極26、及び分流器28を有し、高電圧電極24と低電圧電極26との間に被検査物である密封容器50が配置される。高周波電源22は、交流の高周波電流を出力することを可能とする電源である。高電圧電極24と低電圧電極26は、高周波電源22からの出力電流の電圧を密封容器50に印加して密封容器50に電流を流すための要素であり、対を成して配置される。その配置形態は、高電圧電極24と低電圧電極26とが互いに、被検査物である密封容器50が検査位置に配置された際(単品ごとの配置であるか、ライン上での配置であるかを問わない)、検査対象とする密封容器50との間に所定の間隔を持つように配置される。なお、高電圧電極24と低電圧電極26との相対的な配置形態については、両者の間に密封容器50が介在されるような配置関係とすると良い。例えば、密封容器50をアンプルとした場合、図1に示すように、高電圧電極24をアンプルの底面に対向する位置に配置し、低電圧電極26をアンプルの先端に対向する位置に配置するような形態とすれば良い。このような配置形態の高電圧電極24と低電圧電極26間に高電圧を印加することで、高周波電源22から出力された電流は、高電圧電極24側から低電圧電極26側へ流れることとなる。
【0022】
なお、本実施形態における密封容器50とは、少なくとも外装が絶縁素材により構成されるものであり、ガラスアンプルやプラスチックアンプル、バイアル、シリンジ、目薬・プリン・ゼリーなどの容器、パック総菜の容器のように独立して形状維持する事が可能なものの他、ソフトバッグやレトルトバッグ、ソーセージなどの包装もように、単体では形態が変化するものも含む。また、密封容器50に充填される内容物としては、導電性の液体や半固体の素材であれば良く、導電性の素材には、純水に近い導電率の低いものも含まれる。
【0023】
分流器28は、回路に流れる電流の一部を迂回させ、迂回電流を計測するための要素である。分流器28に抵抗(シャント抵抗)を用い、この抵抗を信号処理部30に対して並列に配置することで、回路に流れる電流値を信号として検出することができる。本実施形態では、電流を出力する高周波電源22と、回路の実質的な負荷(高電圧電極24と低電圧電極26)との間に直列に配置すれば良く、図1に示す例では、高周波電源22と低電圧電極26との間に配置し、分流器28の上流側と下流側に迂回経路を構成し、この迂回経路に流れる電流に起因した信号(電流値の変化を電圧変化として示す信号)を信号処理部30で計測・判定する。
【0024】
信号処理部30は、分流器28を介して検出された信号(電流値の変化を電圧の変化として示したもの)を処理することで、検査対象とした密封容器50にピンホールが有るか否かの判定(以下、良否判定とも言う)を行うための要素である。本実施形態に係る信号処理部30は、少なくとも増幅器32と、ダイレクトサンプリングADC(以下、DSADC34と称す)、不要パルス除去処理部36、フィルタ処理部38、及び判定部40とを有する。
【0025】
増幅器32は、測定部20から入力される受信信号を増幅する要素であり、例えばトランジスタなどであれば良い。DSADC34は、増幅器32を介して増幅された受信信号をフィルタを介さずにダイレクトにサンプリングしてアナログデジタル変換(A/D変換)するための要素である。従来のA/D変換器は、サンプリングレートと分解能が低かったため、変換前に通過帯域を限定するフィルタ(例えばローパスフィルタ)回路に受信信号を入力していた。しかし、受信信号をローパスフィルタなどのフィルタにかけた場合、フィルタの時定数が大きいと波形がなまり、デジタル信号に変換した際、小さなピンホールを示す信号が良品信号(良品の密封容器50を検査した際に検出される信号波形)と重なってしまったり、良品信号に埋もれてしまう場合が生じていた。これに対し、DSADC34によるA/D変換では、時定数を持たない増幅器32により増幅されたアナログ信号を直接デジタル信号に変換するため、小さなピンホールを示す信号もデジタル信号に残す事ができる。なお、以下の説明では、信号処理部30に入力されたA/D変換前の信号を受信信号、A/D変換後の信号を変換信号と称し、詳細を後述するフィルタ処理部38から出力された信号を出力信号と称する。
【0026】
不要パルス除去処理部36は、信号波形に含まれるノイズを除去するための要素である。具体的には、密封容器50に高電圧を印加した際、受信部である分流器28やアースに表れる突発性のパルスを不要パルスとして除去する処理である。不要パルスの判定は、交流波形において発生し得ないパルスを検出することで成される。例えば受信信号の波形を半波長分だけ取り出した場合、マイナス側の波形では、検出値が0を超えて立ち上がる事は無く、プラス側の波形では、0よりも低くなる事は無い。このため、検出した特性の波形において、こうしたイレギュラーな検出値を示している値(波形)を不要パルスと判定する。ここで不要パルスについてマイナス側の波形を例に挙げて説明すると、半波長分の波形の中で0を超えてプラス側の値を示す場合や、時系列的に見て1つ前の検出値の半分以下の値となるような場合である。そして、不要パルスの除去処理については、検出値を時系列的に見て1つ前の検出値に置き換えるなどの補正処理を行う事を言う。
【0027】
フィルタ処理部38は、不要パルス除去を行った変換信号をフィルタ処理することで、ピンホール検出時に現れる波形の特徴を明確化する役割を担う要素である。信号処理としては、例えばマイナス側波形を検査対象とした場合、信号に対して最大値フィルタ処理を施す。最大値フィルタ処理とは、特定の検出範囲内における測定信号の最大値を検出し、この値を代表値として配置する処理である。具体的な処理は数式1により示すことができる。なお、数式1では、判定範囲の値を連続する3つの検出値としているが、判定範囲を増減しても良い。
【数1】

【0028】
マイナス側波形を対象とした最大値フィルタ処理を行う際、図2に示すような波形であった場合、図3に示すようにして代表値(最大値)を選定する。すなわち、検出値のナンバーの中で連続する3つの検出値を判定範囲とした場合、No.3(数式1におけるi=3)における代表値は、No.1~No.3の検出値の中で最大の値であるNo.1の検出値となる。さらに、No.4(数式1におけるi=4)の代表値は、No.2~No.4の検出値の中で最大の値、すなわちNo.2の検出値となる。こうしたフィルタ処理を施した信号波形は、図4に示すようなものとなり、瞬時的に表れる信号の立ち上がり(ノイズ)が除去され、ピンホール信号について連続的な信号の立ち上がり(図4には不図示)として明確に示すことが可能となる。
【0029】
判定部40は、フィルタ処理部38を介して変換された信号(出力信号)を基に、検査対象とした密封容器50にピンホールが存在するか否かについての良否判定を行うための要素である。なお、良否判定の手法は多岐に亙るため、詳細は後述する。
【0030】
[ピンホール検査方法]
次に、上記のような基本構成を有するピンホール検査装置10を用いたピンホール検査方法について説明する。まず、図5を参照して、本発明に係るピンホール検査方法に関する基本的な処理の流れを説明する。
【0031】
まず、被検査物となる密封容器50を高電圧電極24と低電圧電極26との間に配置し、密封容器50に高電圧を印加する。ここで、密封容器50の配置とは、完全に静止したもののみならず、自動搬送等による搬送状態のものも含む。また、本実施形態に係る検査に適用する高電圧とは、例えば2kV~35kV程度までの電圧を言い、5kV~10kV程度の電圧であってもピンホール検査を実施する事ができる(ステップ10:密封容器への電圧印加処理)。
【0032】
高電圧電極24から出力された電流は、密封容器50とその内容物を通って低電圧電極26へと流れ、分流器28を介してアナログの信号(電流値の変化を電圧値で示したもの)として信号処理部30へ入力される(ステップ20:信号の検出処理)。
【0033】
信号処理部30に入力されたアナログの受信信号は、増幅器32を介して振幅が増幅され、DSADC34へ入力される(ステップ30:受信信号の増幅処理)。
【0034】
DSADC34では増幅器32を介して増幅されたアナログの受信信号を直接、デジタルの信号へと変換する。フィルタ処理を行わずに直接A/D変換を行う事で、放電電流が小さく幅の狭い信号もデジタル信号として検出することが可能となる。このため、内容物が純水に近い導電率が低い物質であったとしても、封入容器のピンホール検査を実施することができるようになる。
【0035】
また、DSADC34では変換後の信号(変換信号)を一時的にメモリに記録する。メモリに記録する変換信号は、予め定めた数の時系列的に連続する検出値であれば良く、不要パルス除去処理部36での不要パルス除去と、フィルタ処理部38でのフィルタ処理を実施する際に利用される(ステップ40:A/D変換処理)。
【0036】
DSADC34から出力された変換信号は、不要パルス除去処理部36に入力される。不要パルス除去処理部36では、変換信号の波形に含まれるノイズが除去される。本実施形態では、詳細を後述するフィルタ処理部38において変換信号に対するフィルタ処理が施される。施されるフィルタ処理は、最大値フィルタ処理(マイナス側波形に対するもの)、あるいは最小値フィルタ処理(プラス側波形に対するもの)である。ここで、図6に示すような受信信号をA/D変換し、直接フィルタ処理を施した場合、図7に示すような波形が生成される。
【0037】
図7において破線で示す部位に生じているノイズは、図6において破線で示している突発性の不要パルスに起因したものである。このように、不要パルスを除去しない状態で変換信号にフィルタ処理を施した場合、出力信号に対して大きなノイズとして表れる場合がある。そして、図7に示す出力信号について波形中心を基点とした1/4波長毎の差分を求めると、図8のような波形を示すこととなり、良品であるにも関わらず、ピンホールが生じているという誤判定を招く恐れがある。これに対して不要パルスを除去することで、不要パルスに起因したノイズを除去する事ができるため、判定精度の向上を図ることが可能となる(ステップ50:不要パルス除去処理)。
【0038】
不要パルス除去処理部36により不要パルスが除去された変換信号は、フィルタ処理部38に入力されてフィルタ処理される。フィルタ処理は上述したように、分断されたプラス側波形とマイナス側波形に対してそれぞれ、異なる手法で行うようにしている。具体的には、マイナス側波形に対しては最大値フィルタ処理を施し、プラス側波形に対しては最小値フィルタ処理を施すというものである。ここで、本実施形態に係る最小値フィルタ処理とは、上述した最大値フィルタ処理と逆で、特定の検出範囲内における検出値の最小値を検出し、この値を代表値として配置する処理である(ステップ60:フィルタ処理)。
【0039】
フィルタ処理部38から出力された信号(出力信号)は、所定の条件に基づいて比較判定され、良品(ピンホール無し)、あるいは不良品(ピンホール有り)の判定が成される。判定条件の一例としては、上述したように、出力信号について波形中心を基点とした1/4波長毎の差分を求めるというものを挙げることができる。具体的な一例を信号の検出処理(ステップ20)から判定処理(ステップ70)までの流れに沿って説明する。本実施形態では、図9に示すような受信信号の一部(例えば、図9において矩形破線で囲われた部分)について、図10に示すようにマイナス側波形のみを検出し、この信号をA/D変換する。そして、得られた変換信号に対して不要パルス除去を行った上で最大値フィルタ処理を施すことで、図11に示すような出力信号を得る。この出力信号の波形中心を基準として線対称な位置関係にある1/4波長毎の差分を求めると、図12に示すような波形を得ることができる。ピンホールが無い密封容器の場合、波形中心を基準とした線対称な位置関係にある1/4波長の波形は、近似した形態を得ることから、差分として得られる波形は、ほぼ平坦となる。これに対して図12に示す波形では、破線で囲った部分に大きな波形が存在する。この波形(検出値)が、予め定めた基準値を超えている場合には、検査対象とした密封容器50にはピンホールが存在する(不良品)と判定することができ、基準値の範囲内の場合には、ピンホールが存在しない(良品)と判定することができる(ステップ70:判定処理)。
【0040】
[応用例1]
上記実施形態では、判定処理において、出力信号の半波長分の波形に対し、波形中心を基準として線対称な位置関係にある1/4波長毎の差分を求めることで差分波形にピンホールの特徴を見出すようにしていた。しかし、1/4波長毎の差分を求める判定処理としては、次のようなものであっても良い。すなわち、0Vを基点として波形の立ち上がり方向で囲われた面積(積分値)について、半波長の立ち上がり部位(0V)から波形中心までの範囲(図13における実戦斜線領域A)と、波形中心から半波長の立ち下がり部位(0V)までの範囲(図13における破線斜線領域B)で比較するというものである。このような比較処理は、両者(波形中心を基準とした左側(領域A)と右側(領域B))の面積値をカントし、カウント値の差が予め定めた基準値を超えた場合には、ピンホールが存在する、すなわち密封容器50として不良品であると判定するようにすれば良い。なお、カウント値の差が基準値以内の場合には、ピンホールが存在しない、すなわち密封容器50として良品であると判定するようにすれば良い。
【0041】
[応用例2]
また、判定処理は、良品の密封容器50を教師データとして学習し、この教師データに基づく良品基準波形(例えば教師データの平均値から成る波形)との比較により良否を判定するようにしても良い。例えば図14に示すように、良品の密封容器50における受信信号と、不良品(ピンホール有り)の密封容器50における受信波形とでは波形の立ち上がりのピーク位置が異なる。このため、半波長(図14はマイナス側の波長)分の波形について、基準点(基準位相)から波形の立ち上がりのピーク位置までの位相差(時間差)を求め、この位相差が予め定めた基準値を超えた場合には、ピンホールが存在する、すなわち密封容器50として不良品であると判定するようにすれば良い。なお、このような判定方法でも上記判定方法と同様に、基準点からピーク位置までの位相差が基準値以内である場合には、良品であると判定すれば良い。ここで、基準位相とは、高周波交流電圧の波形(図9に示す高電圧波形)が0ボルトを跨ぐ位置の位相をいう。
【0042】
[応用例3]
さらに、良品基準波形との比較を行う場合には、図14において破線矩形領域で囲った部分(半波長分のマイナス側波形)に着目し、良品基準波形と検査対象とする密封容器50の出力波形との差分を求めるようにしても良い。ここで、差分結果をd[i]、良品基準波形の信号値をr[i]、検査対象とする密封容器50の出力波形の信号値をa[i]とした場合、差分結果d[i]は、数式2のように示す事ができる。
【数2】

【0043】
上記のようにして良品基準波形と検査対象とする密封容器50の出力波形の差分を求めると、図15に示すような波形を得ることができる。図15の右側に示すような差分波形が検出され、この差分波形が予め定めた基準値よりも大きい場合には、ピンホールが存在する、すなわち密封容器50として不良品であると判断することができる。
【0044】
[応用例4]
密封容器50が良品である場合、ピンホール検査によって検出される受信信号の積分波形は一般的に、図16に示すように、プラス側の振幅とマイナス側の振幅が同程度となる。このため、図16に示す波形を両波整流することで、図17が得られ、1つのフィルタ処理によりプラス側の振幅とマイナス側の振幅とにおいてピンホールの検出が可能となるように考えられる。
【0045】
しかし実際には、受信信号を両波整流して最大値フィルタにかけると、図18図19に示すように、プラス側波形に基づく反転整流波形を最大値フィルタにかけた波形(図18)と、マイナス側波形に基づく整流波形を最大値フィルタにかけた波形(図19)とでは、良品であっても2倍以上の振幅差が表れる。ここで、図20に示す波形は、ピンホールを有する密封容器(不良品)におけるマイナス側波形に基づく整流波形を最大値フィルタにかけた際に現れるものである。
【0046】
図18の波形と図20の波形を比較すると読み取れるように、プラス側波形に基づく反転整流波形を最大値フィルタにかけた波形は、良品であってもマイナス側波形に基づく整流波形を最大値フィルタにかけた不良品の波形よりも大きな振幅を示している。このため、1つの基準値(コンパレータ)によりピンホールの検出を行おうとした場合、誤検出が生じる場合が想定される。よって、本実施例では、プラス側波形に基づく反転整流波形をフィルタ処理した信号(波形)と、マイナス側波形に基づく整流波形をフィルタ処理した信号(波形)とでそれぞれ別々のコンパレータを設けてピンホールの有無を検出する構成とする。このような手法を採る事により、フィルタ処理を1回としつつ、プラス側波形、マイナス側波形のそれぞれで精度良くピンホールの有無を検出することが可能となる。
【0047】
[効果]
上記のようなピンホール検査装置10により実施されるピンホール検査方法によれば、高電圧電極24及び低電圧電極26と密封容器50との配置関係に大きな影響を受ける事なく、高い精度でピンホールの有無を検出することが可能となる。また、従来よりも小さなピンホールであっても検出することが可能となると共に、内容物が純水に近い導電率が低い物質である場合でも、ピンホールの有無を検出することができる。
【符号の説明】
【0048】
10………ピンホール検査装置、20………測定部、22………高周波電源、24………高電圧電極、26………低電圧電極、28………分流器、30………信号処理部、32………増幅器、34………DSADC、36………不要パルス除去処理部、38………フィルタ処理部、40………判定部、50………密封容器。
図1
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