(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122245
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C25B 9/23 20210101AFI20240902BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20240902BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240902BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20240902BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240902BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240902BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/037 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240902BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240902BHJP
【FI】
C25B9/23
H01M8/1213
H01M4/86 U
H01M8/1226
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/60
C25B11/037
C25B11/032
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029686
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑衣
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA48
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA01
4K021DB36
4K021DB53
4K021DC03
5H018AA06
5H018HH05
5H126AA02
5H126AA15
5H126BB06
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】面積抵抗の抑制と電解率の向上を両立可能な電解セルを提供する。
【解決手段】電解セル1は、セル本体部20を備える。セル本体部20は、水素極層5と、還元雰囲気においてイオン伝導性及び電子伝導性を有する中間層6と、イオン伝導性を有する電解質層7とを有する。水素極層5の緻密度は、35%以上65%以下である。中間層6の緻密度は、86%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層と、
前記第1電極層上に形成され、還元雰囲気においてイオン伝導性及び電子伝導性を有する中間層と、
前記中間層上に形成され、イオン伝導性を有する電解質層と、
前記電解質層を基準として前記中間層の反対側に配置される第2電極層と、
を有するセル本体部を備え、
前記第1電極層の緻密度は、35%以上65%以下であり、
前記中間層の緻密度は、86%以上である、
電解セル。
【請求項2】
前記第1電極層の緻密度は、40%以上62%以下であり、
前記中間層の緻密度は、88%以上である、
請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記セル本体部を支持する金属支持体をさらに備え、
前記金属支持体は、前記第1電極層が配置される主面と、前記主面に形成される複数の供給孔とを有する、
請求項1又は2に記載の電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素極層と酸素極層の間に配置された電解質層を有するセル本体部を備える電解セルが知られている(例えば、特許文献1参照)。水素極には水を含む原料ガスが供給され、酸素極ではO2(酸素)が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、電解セルにおいて、水素極層と電解質層の間の熱膨張係数差に起因して電解質層に生じる応力の抑制を目的として、水素極層と電解質層の間に中間層を介挿させることを検討した。
【0005】
本発明らが鋭意検討した結果、イオン伝導性を有し、かつ、還元雰囲気において電子伝導性を発揮する混合導電性材料によって中間層を構成した場合、水素極層及び中間層それぞれの緻密度が面積抵抗と電解率に大きな影響を及ぼしているという新たな知見が得られた。
【0006】
本発明は、上述した新たな知見に基づいてなされたものであり、電解セルにおいて面積抵抗の抑制と電解率の向上を両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面に係る電解セルは、セル本体部を備える。セル本体部は、第1電極層と、中間層と、電解質層と、第2電極層とを有する。中間層は、第1電極層上に形成され、還元雰囲気においてイオン伝導性及び電子伝導性を有する。電解質層は、中間層上に形成され、イオン伝導性を有する。第2電極層は、電解質層を基準として中間層の反対側に配置される。第1電極層の緻密度は、35%以上65%以下である。中間層の緻密度は、86%以上である。
【0008】
本発明の第2の側面に係る電解セルは、上記第1の側面に係り、第1電極層の緻密度は、40%以上62%以下であり、中間層の緻密度は、88%以上である。
【0009】
本発明の第3の側面に係る電解セルは、上記第1又は第2の側面に係り、セル本体部を支持する金属支持体をさらに備える。金属支持体は、第1電極層が配置される主面と、主面に形成される複数の供給孔とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、面積抵抗の抑制と電解率の向上を両立可能な電解セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電解セルの平面図である。
【
図3】
図3は、サンプルNo.1~46の面積抵抗の評価を示すグラフである。
【
図4】
図4は、サンプルNo.1~46の電解率の評価を示すグラフである。
【
図5】
図5は、サンプルNo.1~46の総合評価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の平面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。
【0013】
電解セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。電解セル1は、いわゆるメタルサポート型の電解セルである。
【0014】
電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向から平面視した場合、Y軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0015】
図2に示すように、電解セル1は、金属支持体10、セル本体部20、及び流路部材30を備える。
【0016】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部20を支持する。金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0017】
金属支持体10はセル本体部20を支持できればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0018】
図2に示すように、金属支持体10は、複数の供給孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0019】
各供給孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各供給孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。本実施形態において、各供給孔11の第1主面12側の開口は、後述する水素極層5によって覆われている。各供給孔11の第2主面13側の開口は、後述する流路30aに繋がっている。
【0020】
各供給孔11は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0021】
本実施形態において、各供給孔11は、Z軸方向に沿って直線状に形成される。ただし、各供給孔11は、Z軸方向に対して傾斜していてもよいし、直線状でなくてもよい。また、供給孔11どうしが互いに連なっていてもよい。
【0022】
第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部20が配置される。第2主面13には、流路部材30が接合される。
【0023】
金属支持体10は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0024】
金属支持体10は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO2(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO2(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0025】
金属支持体10は、金属支持体10の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体10の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各供給孔11の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0026】
[セル本体部20]
セル本体部20は、金属支持体10上に配置される。セル本体部20は、金属支持体10によって支持される。セル本体部20は、水素極層5(カソード)、中間層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。
【0027】
水素極層5、中間層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、Z軸方向において、この順で金属支持体10側から積層されている。水素極層5、中間層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0028】
[水素極層5]
水素極層5は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。水素極層5は、金属支持体10の第1主面12上に配置される。
【0029】
水素極層5には、金属支持体10の各供給孔11から原料ガスが供給される。原料ガスは、少なくとも水分(H2O)を含む。
【0030】
原料ガスがH2Oのみを含む場合、水素極層5は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2を生成する。
【0031】
・水素極層5:H2O+2e-→H2+O2-・・・(1)
【0032】
原料ガスがH2Oに加えてCO2を含む場合、水素極層5は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2、CO及びO2-を生成する。
【0033】
・水素極層5:CO2+H2O+4e-→CO+H2+2O2-・・・(2)
・H2Oの電気化学反応:H2O+2e-→H2+O2-・・・(3)
・CO2の電気化学反応:CO2+2e-→CO+O2-・・・(4)
【0034】
水素極層5は、電子伝導性を有する多孔質体である。水素極層5は、ニッケル(Ni)を含有する。共電解の場合、Niは、電子伝導物質として機能するとともに、生成されるH2と原料ガスに含まれるCO2との熱的反応を促進してメタネーションやFT(Fischer-Tropsch)合成などに適切なガス組成を維持する熱触媒としても機能する。水素極層6が含有するNiは、電解セル1の作動中、基本的には金属Niの状態で存在しているが、一部は酸化ニッケル(NiO)の状態で存在していてもよい。
【0035】
水素極層5は、イオン伝導性材料を含有していてもよい。イオン伝導性材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O3、(La,Sr)TiO3、Sr2(Fe,Mo)2O6、(La,Sr)VO3、(La,Sr)FeO3、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0036】
水素極層5の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。水素極層5の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば12×10―6/℃以上20×10-6/℃以下とすることができる。
【0037】
水素極層5の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0038】
[中間層6]
中間層6は、水素極層5上に形成される。中間層6は、水素極層5及び電解質層7の間に配置される。中間層6は、水素極層5及び電解質層7に挟まれており、両者に接続されている。
【0039】
中間層6は、還元雰囲気においてイオン伝導性及び電子伝導性(いわゆる、混合導電性)を有する。中間層6は、酸化雰囲気ではイオン伝導性及び電子伝導性の少なくとも一方を実質的に示さなくてもよい。中間層6は、還元雰囲気において混合導電性を発揮することのできる材料によって構成される。中間層6は、GDC、SDC、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)などによって構成することができ、特にGDCが好適である。
【0040】
中間層6の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0041】
中間層6の熱膨張係数の値は、水素極層5の熱膨張係数の値より小さく、電解質層7の熱膨張係数の値より大きい。これによって、水素極層5と電解質層7の間の熱膨張係数差に起因して電解質層7に生じる応力を抑制することができる。よって、電解質層7に割れやクラックが生じることを抑制できる。
【0042】
中間層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0043】
[電解質層7]
電解質層7は、中間層6上に形成される。電解質層7は、中間層6に接続される。電解質層7は、中間層6及び酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7は、中間層6及び反応防止層8に挟まれており、両者に接続されている。
【0044】
電解質層7は、中間層6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうち水素極層5から露出する領域を覆う。
【0045】
電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密体である。電解質層7は、水素極層5において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ、GDC、ScSZ、SDC、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができ、特にYSZが好適である。
【0046】
電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。電解質層7の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上12×10―6/℃以下とすることができる。
【0047】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0048】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として中間層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0049】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0050】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0051】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0052】
[酸素極層9]
酸素極層9は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。酸素極層9は、電解質層7を基準として中間層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。
【0053】
酸素極層9は、下記(5)式の化学反応に従って、水素極層5から電解質層7を介して伝達されるO2-からO2を生成する。
【0054】
・酸素極層9:2O2-→O2+4e-・・・(5)
【0055】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔体である。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O3、(La,Sr)FeO3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)CoO3、及び(Sm,Sr)CoO3のうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0056】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0057】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0058】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体10の第2主面13に接合される。流路部材30は、金属支持体10との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体10の各供給孔11を介して、セル本体部20の水素極層5に供給される。
【0059】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体10と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体10と実質的に一体であってもよい。
【0060】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体10の第2主面13に接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0061】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【0062】
[水素極層5、中間層6及び電解質層7の緻密度]
水素極層5の緻密度は、35%以上65%以下であり、かつ、中間層6の緻密度は、86%以上である。このように、水素極層5及び中間層6それぞれの緻密度を好適化することによって、電解セル1の面積抵抗を抑制できるとともに、電解セル1における電解率を向上させることができる。
【0063】
電解セル1の面積抵抗を顕著に抑制できるのは、水素極層5の緻密度を35%以上とすることで水素極層5の抵抗値を小さくすることができるとともに、中間層6の緻密度を86%以上とすることで中間層6の抵抗値を小さくすることができるからである。
【0064】
また、電解セル1における電解率を顕著に向上させることができるのは、水素極層5の緻密度を65%以下とすることで水素極層5における原料ガスの拡散性を向上させることができるからである。
【0065】
水素極層5の緻密度が40%以上62%以下であり、かつ、中間層6の緻密度が88%以上であることが好ましい。これによって、電解セル1の面積抵抗を顕著に抑制できるとともに、電解セル1における電解率を顕著に向上させることができる。
【0066】
なお、電解質層7の緻密度は、ガスシール性を確保するために96%以上とする必要がある。また、中間層6の緻密度の上限値は特に限られず、例えば、99%とすることができる。
【0067】
本明細書において、緻密度とは、各層の断面における固相の占有面積割合である。具体的には、次のように緻密度を取得することができる。気孔率の測定手法は各層に共通するため、以下、中間層6の気孔率を取得する場合を例に挙げて説明する。
【0068】
まず、電解セル1を750℃まで昇温した状態で水素極層5に水素を供給することによって、水素極層5が含有するNiOをNiに還元する。
【0069】
次に、還元雰囲気のまま電解セル1を降温させ、電解セル1を厚み方向(Z軸方向)に沿って切断することによって、水素極層5、中間層6及び電解質層7の断面を露出させる。
【0070】
次に、断面を精密機械研磨した後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工処理を施す。
【0071】
次に、インレンズ二次電子検出器を用いたFE-SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)を用いて、中間層6の構成材料と気孔の境界を確認できる程度の倍率(例えば、5000~30000倍)で中間層6の断面を拡大したSEM画像を取得する。
【0072】
次に、SEM画像の輝度を256階調に分類することによって、構成材料と気孔の明暗差を2値化する。例えば、構成材料を灰色、気孔を黒色に表示させる。
【0073】
次に、MVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONを用いて、SEM画像を画像解析することによって、構成材料が強調表示された解析画像を取得する。
【0074】
次に、解析画像から構成材料の合計面積を取得し、構成材料の合計面積を解析画像全体の面積で除すことによって、1つの解析画像における緻密度を算出する。
【0075】
そして、以上の解析を中間層6の同一断面において無作為に選択した5箇所で行い、5箇所で算出された緻密度の算術平均値を中間層6の緻密度とする。
【0076】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0077】
[変形例1]
上記実施形態において、水素極層5はカソードとして機能し、酸素極層9はアノードとして機能することとしたが、水素極層5がアノードとして機能し、酸素極層9がカソードとして機能してもよい。この場合、水素極層5と酸素極層9の構成材料を入れ替えるとともに、水素極層5の外表面に原料ガスを流す。
【0078】
[変形例2]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル1について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【0079】
[変形例3]
上記実施形態では、電解セルの一例として、メタルサポート型の電解セル1について説明したが、本発明に係る電解セルは、金属支持体10を備えていない平板型にも適用可能である。
【実施例0080】
以下において本発明に係る電解セルの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0081】
(サンプルNo.1~46)
サンプルNo.1~46に係る電解セルを次の通り作製した。
【0082】
まず、Fe-Cr-Mn系合金鋼製の金属板(長さ7cm×幅7cm×厚み0.5mm)の中央領域(長さ5cm×幅5cm)に複数の供給孔(孔径1mm、ピッチ2.5mm、開口率12.56%)が形成された金属支持体を準備した。
【0083】
次に、GDC粉末、NiO粉末、ブチラール樹脂、造孔材としてのポリメタクリル酸メチル製ビーズ、可塑剤、分散剤、及び溶剤を混合することによって水素極層用スラリーを調製した。この際、造孔材の添加量を調整することによって、水素極層の緻密度を表1に示すようにサンプルごとに変更した。そして、ドクターブレード法により水素極層用スラリーを金属支持体の第1主面上に印刷することによって水素極層の成形体を形成した。
【0084】
次に、GDC粉末、ブチラール樹脂、造孔材としてのポリメタクリル酸メチル製ビーズ、可塑剤、分散剤、及び溶剤を混合することによって中間層用スラリーを調製した。この際、造孔材の添加量を調整することによって、中間層の緻密度を表1に示すようにサンプルごとに変更した。そして、ドクターブレード法により中間層用スラリーを水素極層の成形体上に印刷することによって中間層の成形体を形成した。
【0085】
次に、YSZ粉末、ブチラール樹脂、可塑剤、分散剤、及び溶剤を混合することによって電解質層用スラリーを調製した。そして、ドクターブレード法により中間層の成形体を覆うように電解質用スラリーを印刷することによって電解質層の成形体を形成した。
【0086】
次に、GDC粉末、ポリビニルアルコール、及び溶媒を混合することによって反応防止層用スラリーを調製した。そして、ドクターブレード法により電解質層の成形体上に反応防止層用スラリーを印刷することによって反応防止層の成形体を形成した。
【0087】
次に、金属支持体上に順次配置された水素極層、中間層、電解質層及び反応防止層それぞれの成形体を大気中で焼成(1050℃、1時間)することによって、水素極層(長さ5cm×幅5cm×厚み20μm)、中間層(長さ5cm×幅5cm×厚み10μm)、電解質層(長さ5.4cm×幅5.4cm×厚み10μm)及び反応防止層(長さ5.2cm×幅5.2cm×厚み10μm)を形成した。
【0088】
次に、(La,Sr)(Co,Fe)O3粉末、ポリビニルアルコール、及び溶媒を混合することによって酸素極層用スラリーを調製した。そして、ドクターブレード法により反応防止層上に酸素極層用スラリーを印刷することによって酸素極層の成形体を形成した。
【0089】
次に、酸素極層の成形体を大気中で焼成(1000℃、1時間)することによって酸素極(長さ5cm×幅5cm×厚み15μm)を形成した。
【0090】
以上により、サンプルNo.1~46に係る電解セルが完成した。なお、サンプルNo.1~46に係る電解セルには、
図2に示した流路部材30を設けなかった。
【0091】
(面積抵抗の測定)
まず、各サンプルの電解セルを750℃まで昇温した状態で水素極層に水素を供給することによって、水素極層が含有するNiOをNiに還元した。
【0092】
次に、電解セルを750℃に保持した状態で、水素極層にH2Oを含む原料ガスを供給しながら、酸素極層に空気を供給した。
【0093】
次に、電解セルに0.1Hz以上1MHz以下の範囲で交流電圧(1.3V)を印加してインピーダンスを測定し、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を得た。
【0094】
次に、コールコールプロットの高周波側の実軸切片から抵抗値を読み取り、読み取った抵抗値から面積抵抗を決定した。
【0095】
表1では、面積抵抗が0.32Ωcm2以下であった場合を「◎」と評価し、0.32Ωcm2超0.35Ωcm2以下であった場合を「〇」と評価し、0.35Ωcm2超であった場合を「×」と評価した。
【0096】
(電解率の測定)
まず、各サンプルの電解セルを750℃まで昇温した状態で水素極層に水素を供給することによって、水素極層が含有するNiOをNiに還元した。
【0097】
次に、電解セルを750℃に保持した状態で、水素極層にH2Oを含む原料ガスを供給しながら、酸素極層に空気を供給した。この際、電圧1.3V、電解率60%になる条件で電流密度を固定した。
【0098】
次に、原料ガスの流量を絞って、電圧が1.35Vになるときの電解率を測定した。
【0099】
表1では、電解率が75%以上であった場合を「◎」と評価し、65%以上75%未満であった場合を「〇」と評価し、65%未満であった場合を「×」と評価した。
【0100】
【0101】
図3は、横軸を中間層の緻密度、縦軸を水素極層の緻密度とするグラフ上にサンプルNo.1~46の面積抵抗の評価(◎、〇、×)を示した図である。
【0102】
図4は、横軸を中間層の緻密度、縦軸を水素極層の緻密度とするグラフ上にサンプルNo.1~46の電解率の評価(◎、〇、×)を示した図である。
【0103】
図5は、横軸を中間層の緻密度、縦軸を水素極層の緻密度とするグラフ上にサンプルNo.1~46の総合評価(◎、〇、×)を示した図である。
図5では、面積抵抗及び電解率の両方の評価が「◎」であったものを「◎」とし、一方の評価が「◎」かつ他方の評価が「〇」であったものを「〇」とし、少なくとも一方の評価が「×」であったものを「×」とした。
【0104】
図3に示すように、水素極層の緻密度を35%以上とし、かつ、中間層の緻密度を86%以上としたサンプルでは、電解セルの面積抵抗を抑制することができた。このような結果が得られたのは、水素極層の緻密度を35%以上とすることで水素極層の抵抗値を小さくすることができるとともに、中間層の緻密度を86%以上とすることで中間層の抵抗値を小さくすることができたためである。
【0105】
そして、
図3に示すように、水素極層の緻密度を40%以上とし、かつ、中間層の緻密度を88%以上としたサンプルでは、電解セルの面積抵抗を更に抑制することができた。
【0106】
図4に示すように、水素極層の緻密度を65%以下としたサンプルでは、電解セルにおける電解率を向上させることができた。このような結果が得られたのは、水素極層の緻密度を65%以下とすることで水素極層における原料ガスの拡散性を向上させることができたためである。
【0107】
そして、
図4に示すように、水素極層の緻密度を62%以下としたサンプルでは、電解セルにおける電解率を更に向上させることができた。
【0108】
以上の結果、
図5に示すように、水素極層の緻密度を35%以上65%以下とし、かつ、中間層の緻密度を86%以上とすることによって、電解セルの面積抵抗を抑制できるとともに電解セルにおける電解率を向上できることが分かった。
【0109】
さらに、
図5に示すように、水素極層の緻密度を40%以上62%以下とし、かつ、中間層の緻密度を88%以上とすることによって、電解セルの面積抵抗を顕著に抑制できるとともに電解セルにおける電解率を顕著に向上できることが分かった。