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特開2024-122253強潮流対応型海底観測情報伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122253
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】強潮流対応型海底観測情報伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 11/00 20060101AFI20240902BHJP
   G08C 17/00 20060101ALI20240902BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20240902BHJP
   B63B 22/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H04B11/00 D
H04B11/00 A
H04B11/00 B
G08C17/00 Z
B63B35/00 N
B63B22/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029698
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】505323493
【氏名又は名称】株式会社マリン・ワーク・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】福田 達也
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】越智 寛
(72)【発明者】
【氏名】石原 靖久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 成実
(72)【発明者】
【氏名】木戸 元之
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄策
(72)【発明者】
【氏名】田口 正樹
【テーマコード(参考)】
2F073
【Fターム(参考)】
2F073AA02
2F073AA03
2F073AA11
2F073AA19
2F073AA40
2F073AB01
2F073AB04
2F073AB05
2F073BB01
2F073BB04
2F073BB11
2F073BC02
2F073BC05
2F073CC03
2F073CC12
2F073CC14
2F073CD11
2F073DD02
2F073DE02
2F073DE13
2F073EE01
2F073EF09
2F073FF01
2F073FG01
2F073FG02
2F073GG01
2F073GG05
2F073GG07
(57)【要約】
【課題】音響通信により海底局と洋上ブイとの間のデータ伝送を行う際に生じる問題を解消した強潮流対応型海底観測情報伝送システムを提供する。
【解決手段】海中通信システムが、1以上の海底局11~13及び洋上ブイ6にそれぞれ設けられた音響通信機と、係留ロープ8に添って設けられて海底局11~13の音響通信機と洋上ブイ6に設けられた音響通信機との間の音響通信を中継する電池を電源とする複数の音響中継器51,52とを備える。係留ロープ8の長さを、水深1000m以上で且つ3ノット以上の潮流下において、設置場所の水深とロープ長の比が1.0以上1.3以下となるように定める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に敷設された通信機能を有する1以上の海底局と、
洋上に浮かぶ通信機能を有する洋上ブイと、
前記海底に敷設されたアンカーと、
前記アンカーと前記洋上ブイとの間に設けられて前記洋上ブイの流失を防ぐ係留ロープと、
前記1以上の海底局と前記洋上ブイとの間の通信を実行する海中通信システムを備え、
前記1以上の海底局で観測した情報を、前記海中通信システムを介して前記洋上ブイに伝送する強潮流対応型海底観測情報伝送システムであって、
前記海中通信システムは、前記1以上の海底局及び前記洋上ブイにそれぞれ設けられた音響通信機と、前記係留ロープに添って設けられて前記1以上の海底局の前記音響通信機と前記洋上ブイに設けられた前記音響通信機との間の音響通信を中継する電池を電源とする複数の音響中継器とからなり、
最も海底に近い前記音響中継器は前記アンカーの周囲にある前記1以上の海底局の音響通信機と直接音響通信可能な位置に設置され、
その他の前記音響中継器の数及び設置位置は前記洋上ブイに設けられた前記音響通信機まで前記1以上の海底局が観測して得たデータを伝送するように定められ、
水深1000m以上で且つ3ノット以上の潮流下において、前記係留ロープの長さは、設置場所の水深とロープ長の比が1.0以上1.3以下となるように定められている強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項2】
前記洋上ブイは、上から見た平面形状の輪郭及び下から見た底面形状の輪郭が、それぞれ卵形を呈している請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項3】
前記洋上ブイは、それぞれ独立して浮力を発生する複数のブイ・ユニットが上下方向に重ねられて結合されて構成されている請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項4】
前記複数のブイ・ユニットの最下部のブイ・ユニットの底面側の表面形状は中央部に向かって凸となるように湾曲した形状を有している請求項3に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項5】
前記音響中継器の前記数及び設置間隔は、キャリア周波数が30kHz以上の高周波で音響通信を実施できるよう定められている請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項6】
前記音響通信によるデータの伝送では伝送するデータをパルス間の時間間隔に変調するパルス間隔変調によりデータ処理して伝送する請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項7】
前記パルス間隔変調による前記音響通信によるデータの伝送では、前記海底局に設けた音響通信機においては、送信するデータの数値を複数の桁数の数値に分割し、分割した数値をそれぞれ送信する2つのパルスの時間間隔に変調して複数の分割送信データとして次の前記音響中継器に送信し、前記次の音響中継器では受信した前記分割送信データの下位の値の丸め処理を行って更に次の音響中継器または前記洋上ブイの音響通信機に送信し、更に次の前記音響中継器または前記洋上ブイの前記音響通信機においても受信したデータの丸め処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項8】
前記海底局に設ける音響通信機及び前記音響中継器は、それぞれ送信専用の演算装置と受信専用の演算装置を備えている請求項6または7に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項9】
前記1以上の海底局は複数あり、複数の前記海底局毎に個別のコードセットが割り当てられており、
前記複数の海底局から前記個別のコードセットを用いて、データが送信される請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項10】
前記アンカーと前記1以上の海底局が施設される領域の外側の海底上に、通信範囲拡張用の音響中継器が追加アンカーと一緒に設置されている請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項11】
前記音響中継器には、海中から情報を取得するセンサが取り付けられている請求項1または10に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【請求項12】
前記海底局の音響通信機及び音響中継器は半球無指向性である請求項1に記載の強潮流対応型海底観測情報伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強潮流の海域に付設される強潮流対応型海底観測情報伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、地震発生帯の実態把握に資する海底地殻変動観測及び津波観測の広域展開を効率的に行うために、強潮流場のブイ係留技術と音響通信と水圧変動観測、海底地殻変動観測技術、GNSSによる高精度単独測位技術を高度に融合して、津波と地殻変動をリアルタイムで高精度に観測・監視する観測システムが開示されている。この観測システムは、海底地殻変動観測を行うための音響トランスポンダ、水圧観測を行うための海底局、海底局と音響データ通信するための吊下局(海面下1,000m)、音響トランスポンダ及び吊下局とワイヤで電気通信接続された洋上ブイで構成される。
【0003】
洋上ブイ係留系については、その係留索はスコープ比(水深とロープ長の比)1.6程度、水深1,000mまでをインライン通信に併用できるワイヤロープを使用し、その先端に吊下局がある。津波検知を行うための海底局には水圧計を搭載し,吊下局との間で音響通信を行う。吊下局で受信した水圧信号はワイヤロープ内の導線を経由して洋上ブイに伝送される。海底地殻変動観測用の音響トランスポンダにはミラー応答方式を採用し、洋上ブイにはGNSS-Aによる音響測距を実施するための装置が搭載されており、必要に応じてリアルタイムで海底地殻変動測距が可能である。以上の海底水圧観測、海底地殻変動観測、そして洋上ブイに搭載されている気象・海象観測のデータは衛星通信を使用して陸上局にデータ伝送される。
【0004】
非特許文献2には、強潮流に使用可能な洋上ブイの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takahashi, N., Ishihara, Y., Ochi, H., Fukuda, T., Tahara, J., Maeda, Y., Kaneda, Y., New buoy observation system for tsunami and crustal deformation. Mar Geophys Res. 35(3):243-53. 2014. doi: 10.1007/s11001-014-9235-7
【非特許文献2】Imai, K., T. Fukuda, Y. Ishihara, and N. Takahashi, An Experimental Study of Surface Buoy Profiles to Improve the Accuracy of Seafloor Crustal Deformation and Tsunami Signal Observations of the On-Demand Buoy System, Marine Technology Society Journal, 52, 3, 91-99, 2018. doi: 10.4031/MTSJ.52.3.15
【非特許文献3】今野美冴,係留ブイを用いたGNSS-音響結合方式による海底地殻変動観測の測位精度に関する研究,東北大学博士論文,2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでの海域試験の結果(非特許文献3)から、リアルタイムで高精度かつ安定的な長期観測を実現するために解決すべき課題は以下となる。まず強潮流域では係留系にかかる張力が増えるため、小型のブイを使用する従来の観測ブイシステムではスコープ比を1.5~1.6程度に大きくすることで張力を低く抑えていた。しかしながら海底地殻変動の観測精度を1m以内にすることはできなかった。そして、従来は、強潮流域での振れ回り距離を低減するための洋上ブイ形状への改良が必要であった。洋上ブイから深度1000mにある吊下局までは導線を内蔵したワイヤロープを用いて、有線通信を実施している。そのため洋上ブイから吊下局までの間にスイベルを用いることができない。スイベルを用いないことで、ワイヤロープに洋上ブイのねじれがたまりワイヤロープ内の導線が切れる問題があった。そこで洋上ブイとワイヤロープ間にスリップリングを用いたが、洋上ブイとスリップリングを接続するケーブルが係留中に断線する不具合が発生した。さらには、漁網の絡みなどによるワイヤロープの損傷も生じ得るため、導線を内蔵したワイヤロープを用いない音響通信方法の確立が必要となった。
【0007】
本発明の目的は、音響通信により海底局と洋上ブイとの間のデータ伝送を行う際に生じる問題を解決した強潮流対応型海底観測情報伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、海底に敷設された通信機能を有する1以上の海底局と、洋上に浮かぶ通信機能を有する洋上ブイと、海底に敷設されたアンカーと、アンカーと洋上ブイとの間に設けられて洋上ブイの流失を防ぐ係留ロープと、1以上の海底局と洋上ブイとの間の通信を実行する海中通信システムを備え、1以上の海底局で観測した情報を、海中通信システムを介して洋上ブイに伝送する強潮流対応型海底観測情報伝送システムを対象とする。本発明においては、海中通信システムが、1以上の海底局及び洋上ブイにそれぞれ設けられた音響通信機と、係留ロープに添って設けられて1以上の海底局の音響通信機と洋上ブイに設けられた音響通信機との間の音響通信を中継する電池を電源とする複数の音響中継器とを備えている。そして最も海底に近い音響中継器はアンカーの周囲にある1以上の海底局の音響通信機と直接音響通信可能な位置に設置される。またその他の音響中継器の数及び設置位置は洋上ブイに設けられた音響通信機まで1以上の海底局が観測して得たデータを中断無く伝送するように定められる。特に、本発明では、係留ロープの長さを、水深1000m以上で且つ3ノット以上の潮流下において、設置場所の水深とロープ長の比が1.0以上1.3以下となるように定める。
【0009】
このようにするとアンカーの周囲にある1以上の海底局が観測したデータを洋上ブイまで音響通信で伝送するので、洋上ブイが回転したとしても、その影響で観測情報の伝送が切られることがない。また係留ロープの途中にスイベルを配置することも可能になるので、洋上ブイの回転による係留ロープの捻れで、係留ロープが破断する事態の発生を防止できる。また音響中継器は電池を電源として、洋上ブイと海底局間を音響通信でデータを中継する音響通信装置であり、音響中継器に電力を供給する線路が捻れて電力供給が中断されることもない。
【0010】
また海底局から洋上ブイまでのデータ通信に音響中継器を使用することで、インラインワイヤ部分を排除することが可能であり、ブイの回転に対し音響通信の問題を回避することが可能となる。また、スリップリングも使用する必要がないため、通常使用される安価なスイベルを使用でき、曝露される有線部分(ケーブル)がなくなることで漁網の絡みなどに起因する物理損傷を排除できる。さらに本発明では、音響中継器によりデータを中継する方式としたので、長距離の音響伝送が不要となり、使用する周波数を高周波側に変更することができるようになった。
【0011】
上記の効果に加えて、特に、係留ロープの長さを、水深1000m以上で且つ3ノット以上の潮流下において、設置場所の水深とロープ長の比が1.0以上1.3以下となるように定めると、海底地殻変動の観測精度を1.0m以内にすることができる。
【0012】
洋上ブイは、上から見た平面形状の輪郭及び下から見た底面形状の輪郭が、それぞれ卵形を呈しているのが好ましい。このようにすると音響中継器の垂直方向の速度変動を抑制して音響通信によるデータの伝送精度をより高いものとすることができる。
【0013】
また洋上ブイは、それぞれ独立して浮力を発生する複数のブイ・ユニットが上下方向に重ねられて結合されて構成されているのが好ましい。このようにすると洋上ブイの製造が容易である上、一部のブイ・ユニットが損傷しても、洋上ブイが直ちに沈降してしまうことを防止できる。
【0014】
そして複数のブイ・ユニットの最下部のブイ・ユニットの底面側の表面形状は中央部に向かって凸となるように湾曲した形状を有しているのが好ましい。洋上ブイをこのような形にすると、強潮流域でも洋上ブイの振れ回り距離が長くなることを抑制できる。
【0015】
音響中継器の数及び設置間隔は、キャリア周波数が30kHz以上の高周波で音響通信を実施できるよう定められているのが好ましい。このようにすると30kHz以上の高周波で音響通信を実施するのに必要な電力は、45mW程度でよく、海底局に設ける音響通信機及び音響中継器に搭載する電池の数も少なくても済む。その結果、海底局の重量及び寸法も小さくすることができ、システムの設置作業が容易である上、設置費用を大幅に低減できる。
【0016】
音響通信によるデータの伝送では伝送するデータをパルスの間隔(時間長さ)で変調するパルス間隔変調によりデータ処理して伝送するのが好ましい。送信する2つのパルスの間隔を変更することでその長さに対応したデータに置き換える「パルス間隔変調方式」を用いると、データはデジタル信号からアナログ信号(パルス間隔)に変換され、受信側で再度デジタル信号に変換される。送受信部が固定点同士であれば距離が一定となるため、パルス間隔も変動せず、データの劣化無く精度の良い通信が可能である。しかし、片側もしくは両側が移動点の場合、相対距離が変動することにより変動した距離の伝搬時間分だけ、パルス間隔(時間)が増減する。これによりデータが劣化する(誤差が増大する)。しかし本発明では、データ劣化をある程度補償することができ、80%以上で音響通信を受信できる。
【0017】
パルス間隔変調による音響通信によるデータの伝送では、海底局に設けた音響通信機においては、送信するデータの数値を複数の桁数の数値に分割する。次に分割した数値をそれぞれ送信する2つのパルスの時間間隔に変調して複数の分割送信データとして次の音響中継器に送信し、次の音響中継器では受信した分割送信データの下位の値の丸め処理を行って更に次の音響中継器または洋上ブイの音響通信機に送信し、更に次の音響中継器または洋上ブイの音響通信機においても受信したデータにデータ丸め処理を行う。丸め処理とは、数値の四捨五入、切り上げ、または切り下げを行う処理である。丸め処理を行うと、劣化したデータから劣化分を除去して、データの劣化を補正することができる。
【0018】
海底局に設ける音響通信機及び音響中継器は、それぞれ送信専用の演算装置と受信専用の演算装置を備えているのが好ましい。海底局に設ける音響通信機及び音響中継器において、シングルタスクで動作するマイクロコンピュータ(演算装置)を用いた場合には、送信動作中であっても受信処理を実行するため、パルス送信には割り込みイベントを使用することになる。受信処理が長くなった場合には割り込みイベント処理の開始がずれることがあり、これもデータ劣化の要因となる。そこで海底局に設ける音響通信機及び音響中継器には、それぞれ送信専用の演算装置と受信専用の演算装置を設けると、受信信専用の演算装置で独立して演算処理をすることができるので、データ劣化を低減させることができる。また省電力のために、送信していない時には送信専用の演算装置の電源を切ることが可能となる。
【0019】
1以上の海底局が複数ある場合には、複数の海底局毎に個別のコードセットを割り当てる。そして複数の海底局からそれぞれの個別のコードセットと一緒に、データを送信する。このようにすると1つの海中通信システムで、複数の海底局からのデータの伝送が可能である。
【0020】
アンカーと1以上の海底局が施設される領域の外側の海底上に、通信範囲拡張用の音響中継器が追加アンカーと一緒に設置されていてもよい。このようにすると広い範囲に海底局のネットワークを広げて、情報を収集できる。
【0021】
音響中継器には、海中から情報を取得するセンサが取り付けられていてもよい。例えば海中の音速推定には、海中の水温情報が必要になる。したがって音響中継器に接続するセンサとして温度センサを用いることにより音速推定ができ、より正確な海底地殻変動の観測が可能になる。
【0022】
海底局の音響通信機及び音響中継器は半球無指向性であるのが好ましい。このようにすると、洋上ブイの位置によらずデータ中継が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の強潮流対応型海底観測情報伝送システムを津波及び海底地殻変動観測用に適用した第1の実施の形態の概念図である。
図2】(A)乃至(D)は、本実施の形態で用いる洋上ブイの斜視図、平面図、左側面図及び正面図である。
図3】洋上ブイの波浪応答解析の結果を示す図である。
図4】本発明の強潮流対応型海底観測情報伝送システムを津波及び海底地殻変動観測用に適用した第2の実施の形態の概念図である。
図5】丸め処理を実行する通信システムの構成のブロック図である。
図6】送信器における処理手順の例を示す図である。
図7】丸め処理を行って、送信されたデータを復元する流れを示す図である。
図8】海底局が2つの場合で、それぞれ送信するコードを変更する場合の一例を示す図である。
図9】データ処理部において行う劣化したデータを復元するためのデータ処理(丸め処理)の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の強潮流対応型海底観測情報伝送システムを津波及び海底地殻変動観測用に適用した第1の実施の形態の概念図である。このシステムでは、海底に設置したアンカー(重り)31の周囲に通信機能を有する3台の海底局11~13が敷設されている。またアンカー31から離れた位置に追加アンカー32が設置されており、この追加アンカー32よりも先に更に海底局14が敷設されている。海底局11乃至14には、それぞれ津波検知のための水圧計、温度センサ、振動センサ等の各種のセンサと、各種のセンサの信号処理を行う信号処理部と、信号処理部で処理したデータを送受信するための送信器41と受信器42とを備えた音響通信機4と、電源としての電池を備えている。そして洋上には通信機能を有する洋上ブイ6がある。洋上ブイ6には送信器71と受信器72とを備えた音響通信機7が設けられている。また洋上ブイ6には、送信されてきたデータを処理するデータ処理部と、処理したデータを記憶する記憶部と、電源としての電池が収納されている。なお洋上ブイ6の構成については、後に説明する。アンカー31と洋上ブイ6との間には、洋上ブイ6の流失を防ぐ係留ロープ8が配置されている。係留ロープ8としては、鋼製のワイヤロープ、ナイロン繊維やポリプロピレン繊維等の繊維ロープ、及びワイヤロープと繊維ロープが組み合わされてなる複合ロープ等を用いることができる。なお伸縮性を有する係留ロープを使用する場合には、伸びていない状態において、後述するスコープ比を満たすものとする。
【0026】
この例では、係留ロープ8に添って2台の音響中継器51及び52が所定の位置に取り付けられている。2台の音響中継器51及び52は、海底局11乃至13の音響通信機4と洋上ブイ6に設けられた音響通信機7との間の音響通信を中継する。また追加アンカー32にもロープ9を介して通信範囲拡張用の音響中継器53が設けられている。音響中継器51乃至53は、それぞれ電池を電源として動作する送信部と受信部とを備えている。また本実施の形態では、係留ロープ8に設けられた音響中継器51及び52には、温度センサ10が設置されている。本実施の形態では、音響通信機4及び7と音響中継器51乃至53とにより、海底局11乃至13と洋上ブイ6との間の通信を実行する海中通信システムが構成されている。
【0027】
本実施の形態では、海底局11乃至13の設置領域の外側の海底上に、通信範囲拡張用の音響中継器53が追加アンカー32と一緒に設置されている。このようにすると海底局11乃至13の設置領域の外側に海底局14の水平ネットワークを広げて、情報を収集できる。
【0028】
本実施の形態では、最も下の音響中継器51がアンカー31の周囲にある海底局11乃至13の音響通信機4と直接音響通信可能な位置に設置されている。またその他の音響中継器52の数及び設置位置は洋上ブイ6に設けられた音響通信機7まで海底局11乃至13が観測して得たデータを中断無く伝送するように定められている。特に、本実施の形態では、水深1000m以上で且つ3ノット以上の潮流下において、係留ロープ8の長さは、設置場所の水深とロープ長の比(スコープ比)が1.0以上1.3以下となるように定められている。本実施の形態では、音響通信を用いることにより、係留ロープ8にスイベルを使用でき、洋上ブイ6の回転による係留ロープ8のねじれが発生しない係留構成になる。本実施の形態によれば、海底局11乃至13から洋上ブイ6までのデータ通信に音響中継器51及び52を使用することで、インラインワイヤ部分を排除することができ、洋上ブイ6の回転に対して音響通信の問題を回避することが可能となる。また、スリップリングも使用する必要がないため、通常使用される安価なスイベルを使用でき、曝露される有線部分(ケーブル)がなくなることで漁網の絡みなどに起因する物理損傷を排除できる。音響による長距離通信をするためには音響装置の送波電力を上げる必要がある。本実施の形態では、通信距離は短くなるが送波電力を下げた音響中継器51及び52によりデータを中継する音響通信方式を採用した。こうすることで音響通信システム内で使用する電池数を減らす(これまでの約2/5)ことが可能となった。また長距離の音響伝送が不要となったことで、使用するキャリア周波数を高周波側に変更(約10kHz→約30kHz)することができ、音響装置の小型化が可能となった(体積比で約1/27)。そのため海底局11~14全体の小型化が可能となり、小型化により可搬性が向上し、小型船舶での運用も可能になった。また通信機器関連経費(水圧計、処理部、音響送信器、電池)やアンカー31をコンパクトにできるため、経済負荷も従来と比べて低くなる。
【0029】
従来は、強潮流域では係留ロープにかかる張力が増えるため、小型のブイを使用していた従来の観測ブイシステムではスコープ比を1.5~1.6程度に大きくすることで張力を低く抑えていた。しかし、発明者の研究から、海底地殻変動観測ではこれまでの観測結果からスコープ比が1.0以上1.3以下でないと、観測精度1.0m以内を満たすことができないことが判明した。強潮流域での振れ回り距離を低減するための好ましい洋上ブイ6の形状の一例を図2に示す。図2(A)乃至(D)は、本実施の形態で用いる洋上ブイ6の斜視図、平面図、左側面図及び正面図である。この洋上ブイ6は、それぞれ独立して浮力を発生する3つのブイ・ユニット6A乃至6Cが上下方向に重ねられて結合されて構成されている。このようにすると洋上ブイ6の製造が容易である上、一部のブイ・ユニットが損傷しても、洋上ブイが直ちに沈降してしまうことを防止できる。この洋上ブイ6は、上から見た平面形状の輪郭及び下から見た底面形状の輪郭が、それぞれ卵形を呈している。そして最下部のブイ・ユニット6Cの底面側の表面形状は中央部に向かって凸となるように湾曲した形状を有している。この洋上ブイ6の形状であれば、潮流に対する抵抗が小さくなり、係留ロープにかかる張力を小さくでき、同時に洋上ブイ6の投影面積も小さくすることでスコープ比1.0以上、1.3以下を実現することが可能である。また洋上ブイの形状をこのようにすると、3ノット以上の強潮流域でも洋上ブイの振れ回り距離が長くなることを抑制でき、場合によって、洋上ブイの鉛直方向速度の絶対値を0.75m/s以下にすることが可能である。
【0030】
洋上ブイの鉛直方向速度の絶対値が0.75m/s以下になることが好ましいことの意義について説明する。後に詳しく説明するように、本実施の形態で使用する海底局11乃至14と音響中継器51乃至53は、送信する2つのパルスの間隔を変更することでその長さに対応したデータに置き換える「パルス間隔変調方式」を用いている。そのため、データはデジタル信号からアナログ信号(パルス間隔)に変換され、受信側で再度デジタル信号に変換される。送受信部が固定点同士であれば距離が一定となるため、パルス間隔も変動せず、データの劣化が無く精度の良い通信が可能である。しかし、片側もしくは両側が移動点の場合、相対距離が変動することにより変動した距離の伝搬時間分だけ、パルス間隔(時間)が増減する。それによりデータが劣化する(誤差が増大する)。本実施の形態では、海底局11乃至13(固定点)から係留ロープ8の下側の音響中継器51(移動点)及び係留ロープ上側の音響中継器52(移動点)を中継し、洋上ブイ6(移動点)までデータを中継することになる。固定点と移動点、移動点と移動点の距離は一定ではなく常に変動するため、受信されるデータはある範囲で変動することになる。その変動がデータの劣化原因となり、中継する回数が多くなればなるほどデータの誤差(初期の送信値と受信値の差)が大きくなる。
【0031】
そこで本実施の形態では、データ劣化を補償するために、80%以上で音響通信を受信できる条件として、洋上ブイ6の移動速度及び動揺による音響中継器51,52の移動速度を0.75m/s以内とすることを好ましい条件とした。洋上ブイ6の移動速度及び動揺による音響中継器51,52の移動速度を0.75m/s以内とすることが好ましい根拠の一例を説明する。実海域試験から洋上ブイの波浪応答の卓越エネルギーの周期は5~10秒であったため、平均周期6秒の不規則波を入力条件として、洋上ブイの波浪応答解析を実施した。図3は解析結果を示している。洋上ブイ6は係留ロープ8からの拘束が無いとした場合、不規則波10波(約60秒間)のうち、浮体の鉛直方向速度の絶対値が0.75m/sを越える場合は18.4%であった。以上より、移動速度が0.75m/s以下であれば80%は音響通信を受信できる条件となる。
【0032】
次に洋上ブイ6の動揺による音響装置の移動速度を理論的に検討すると以下の通りになる。使用する洋上ブイは、全長5m程度で、浮体は円筒型(直径1.8m)を想定する。この洋上ブイにおいて、揺れの卓越周期は約2秒、動揺の角度は約15度と想定する。受信機の取り付け位置を動揺中心(メタセンター:M)から1.5mと仮定する。
【0033】
その際の角速度ωは、1/4周期で1.5m変動するため、ω = 15 * (π/180)/(2/4) = π/6 [rad/s]で、受信機の速度vは、以下となる。
【0034】
v = rω = 1.5 × π/6 ≒ 0.785 [m/s]
ちなみに、
距離1.5m、10度の場合、v ≒ 0.524 [m/s]
距離1.0m、15度の場合、v ≒ 0.524 [m/s]
距離1.2m、15度の場合、v ≒ 0.628 [m/s]
となる。
【0035】
受信機の取り付け位置を重心に近づけるなどすることにより、受信機の速度は低下する。距離1.0m、動揺角15度、周期2秒とした場合、受信機の移動速度は0.75m/s未満となる。これにより相対速度:0.75m/s(1.5ノット)未満で精度±0.05ミリ秒が確保される。
【0036】
[海底局の設置位置、音響中継器の配置及び指向特性について]
単に音響中継器を使用すれば、通信が簡単に中継できるというものではない。送信器41,71、音響中継器51,52、受信機42,72にはそれぞれ指向特性があるため、海底局11乃至13と音響中継器51,52の位置関係が重要となる。音響中継器51,52の伝送距離は約2000mである。そのため、海底局11乃至13の送信器41は係留ロープ8のアンカー31設置点(正確には音響中継器51)から2000m以内に設置する必要がある。音響中継器の取付位置が係留系の上層の場合、洋上ブイはスコープ比1.3で振れ回ると、音響中継器51,52も深度に比例して水平方向に移動する。その場合、設置する海域の水深が深くなるにつれて振れ回り半径が大きくなるため、海底局11乃至13はアンカー31の位置に近づける必要がある。運用上、海底局11乃至13は表層から自由落下させて着底させる方法をとるため、アンカー31の近傍に配置させることは難しく、また、係留ロープ8と絡まる恐れがあるため、海底局11乃至13の係留ロープの長さによっては、近傍に配置させることはできない。
【0037】
そこで本実施の形態では、音響中継器51,52を2台(以上)使用し、海底局の信号を受信する係留系下側の音響中継器51と、そのデータを洋上ブイに中継する係留系上側の音響中継器52を用いる。係留ロープ8の設置水深は3000m以上を想定すると、下側の音響中継器51を係留ロープ8のアンカー31側から1200m以内に取り付けることで、アンカーから約1km以内に海底局11乃至13を設置すれば、データを中継できることが計算により分かっている。よりアンカー31に近い位置に音響中継器51を取り付けることで、海底局11乃至13の設置位置範囲を広げることが可能である。例えば、音響中継器51の位置をアンカー31側から200m以内とした場合は、海底局11乃至13は1海里(約1.8km)以内への設置が可能である。
【0038】
係留ロープ8の上側の音響中継器52については、下側の音響中継器51の音波が届き、洋上ブイ6から2000m以内であれば、通信が可能であるが、洋上のノイズや海面反射による誤検出を考慮すると、なるべく洋上ブイ6の直下に位置し、ある程度の受信レベルを確保できる距離が望ましい。好ましくは洋上ブイ6の直下500m等の位置である。洋上ブイ6の直下とするためには、係留ロープ8にインラインバラスト(中間錘)を入れることで、潮流が小さい時はある程度効果が期待できる。
【0039】
また、海底局11乃至13、音響中継器51,52は半球無指向性とすることで、洋上ブイ6の位置によらずデータ中継が可能となる。音響中継器51,52は、上下に長い形状(1m以内)とし、片方向通信の場合には、下側を海底局方向の受波器、上側を洋上ブイ6(または上側の音響中継器52)方向の送波器とすることで、鉛直方向の中継について、それぞれの干渉を低減できる。双方向通信の場合は、送波、受波を切り替えることで対応可能である。なお海底局14、音響中継器53も半球無指向性とするのが好ましい。
【0040】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明の強潮流対応型海底観測情報伝送システムを津波及び海底地殻変動観測用に適用した第2の実施の形態の概念図である。図4において、図1に示した第1の実施の形態の構成要素と同様の構成要素には、図1に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。本実施の形態では、海底地殻変動観測用の音響トランスポンダ15にはミラー応答方式を採用しており、洋上ブイ6にはGNSS-Aによる音響測距を実施するための装置が搭載されており、必要に応じてリアルタイムで海底地殻変動観測が可能である。本実施例によれば、海底局11,13,14による海底水圧観測データ、音響トランスポンダ15との音響測距による海底地殻変動観測のデータ、そして洋上ブイ6に搭載されている気象・海象観測のデータは衛星通信を使用して陸上局にデータ伝送される。そして本実施の形態では、係留ロープ8に添って4個の音響中継器51,52,54,55が設けられており、また係留ロープ8の途中には中間ブイ61が設けられている。中間ブイ61を用いれば、係留ロープが長い場合でも、第1の実施の形態と同様の条件で対応が可能である。
【0041】
[中継によるデータの劣化の回避]
前述したように、本実施の形態で使用する音響中継器51乃至55では、送信する2つのパルスの間隔を変更することでその長さに対応したデータに置き換える「パルス間隔変調方式」を用いている。また本実施の形態では、「パルス間隔変調方式」において、データに誤差を蓄積させない「丸め処理」をする。そこでまず「丸め処理」について説明する。
【0042】
データX(0~999)を送信する場合、誤差をA(X)とすると、1段目の受信側Yでは、
Y = X + A(X)
A(X) = 0.0005 * X (1/2000とした場合[1.5kt]相当)となる。1段目の送信はYを送信するため、2段目の受信側Zでは
Z = Y + A(Y)
A(Y) = 0.0005 * Y = 0.0005 * (X+A(X))
= 0.0005 * X + 0.0005 * A(X) = A(X)*(1+0.0005)
= 1.0005 * A(X)
よって
Z = X + A(X) + 1.0005*A(X)
= X + 2.0005*A(X)
となり、中継するごとに誤差が蓄積されることになる。そこで丸め処理(例えば四捨五入)の対応をした場合、1段目の送信Yrは、
Yr = round(Y*1000)/1000 = X
となり、誤差がA(X)成分は無くなるため、2段目の受信側Zでは、
Z = Yr + A(Yr)
A(Yr) = 0.0005 * Yr = 0.0005 * X = A(X)
となる。よって
Z = Yr + A(X) = X + A(X)
となり、誤差は蓄積されない。
【0043】
図5は、丸め処理を実行する通信システムの構成のブロック図である。図5において、送信器41は海底局11側にあり、受信器72は洋上ブイ6側にあるものとし、音響中継器5は音響中継器51,52,54,55の代表例である。音響中継器5では、送信器41から送信された音響データを水中音響トランスデューサからなる受波素子5Aで受信し、受信した送信データをデータ処理部5Bにおいて、デジタル信号からアナログ信号(パルス間隔)に変換し、再度デジタル信号に変換して、水中音響トランスデューサからなる送波素子5Cから音響中継器に送信される。図5の例では、送信データはCode1乃至Code3の3パルスでデータ1とデータ2が送信されている。図6には、送信器41における処理手順の例が図示されている。この例では、圧力計で測定した6桁の観測値301,234cmを、上位3桁の送信データ301と下位3桁の送信データ234に分け、さらにデータ処理により5桁のデータ1(30.100msec)とデータ2(23.400msec)として送信する。図5の例では、図6の処理と同様の処理をして、観測値を4桁のデータ1(123.5msec)とデータ2(156.7msec)として送信している。データ処理部5Bでは、このデータ1とデータ2を受信して相関処理をして、コード(Code)と相対時刻と相関レベルに変換する。相対時刻はCode1のデータをN1とし、この値N1に受信したデータ(123.456msec)を加算してCode2の相対時刻N2とする。そしてCode2の相関時刻N2に受信したデータ2の値(156.719)を加算してCode3として相関時刻N3を得ている。ここで変換したパルスの振幅が相関レベルである。データ処理部5Bでは、この変換したデータをデータ復調(パルス間隔)して、四捨五入のデータ処理(丸め処理)を行う。四捨五入のデータ処理(丸め処理)では、データ復調されたデータの下二桁を四捨五入してデータ1(123.5)及びデータ2(156.7)とする。この処理により、送信中に劣化したデータが復元される。
【0044】
図7には、音響中継器5において四捨五入のデータ処理(丸め処理)を行った後、洋上ブイ6のデータ処理部で四捨五入のデータ処理(丸め処理)を行って、送信されたデータを復元する流れを示している。この例では、送信器から送信された送信データ1(30.100msec)及び送信データ2(23.400msec)が、最初の音響中継器で受信したときに劣化してデータ1(30.045msec)及びデータ2(23.432msec)となり、この劣化したデータが四捨五入のデータ処理(丸め処理)がなされて、データ1(30.100msec)及び送信データ2(23.400msec)となること、そしてこのデータが劣化して洋上ブイ6の受信器に受信されたときにデータ1(30.135msec)及び送信データ2(23.421msec)となること、最後に洋上ブイ6の受信器において、劣化したデータの四捨五入のデータ処理(丸め処理)がなされて、データ1(30.100msec)及び送信データ2(23.400msec)となり、最後のデータとデータ2に基づいて観測値301.234が復元される。
【0045】
本実施の形態では、使用するパルス間隔の範囲を設定し、その範囲における最少桁(下1桁)を四捨五入することにより、距離の変動によるデータの変動幅を最少桁以内に留めることで、その桁で四捨五入することで、上位の桁の精度を保っている。これにより、多段の中継に対してもデータ劣化が無く中継が可能となる。但し、上記に説明したパルス間隔変調方式では、データ伝送可能な上限の範囲が決まっているため、6桁のデータを送信する際には、データの精度が保たれる3桁を2回送信する必要がある。その際、パルスを3つ使用し、1つ目と2つ目のパルスの間隔をデータ1(下3桁)、2つ目と3つ目の間隔をデータ2(上3桁)とすることで対応可能である。なお使用するパルスのコード(32種類のゴールドコード)の変更や送信時刻を分割することで多種のセンサデータ(水圧値、温度等)を送信することも可能である。
【0046】
1回のタイムスロットで送信するデータ量は送信するパルスを増やすことで対応可能である。送信するパルス数が増えると消費電力も増えるため、係留期間を考慮し、送信回数を設定する必要がある。
【0047】
応用として、音響中継器は32種類のゴールドコードがあるため、海底局は複数設置可能で多点展開が可能である。それぞれの海底局が送信するコードセット(送信する3個等のパルスコードの組み合わせ)を変更することで、受信するデータが識別可能となる。音響中継器はそれぞれのコードセットに応じた中継用コードセットを送信することで、受信側でデータを識別可能である。図8は、海底局が2つの場合で、それぞれ送信するコードを変更する場合の一例を示している。
【0048】
図9は、データ処理部において行う劣化したデータを復元するためのデータ処理(丸め処理)の他の例を示している。図9の例では、観測値の圧力値(3012.35m)を3桁×2のデータ(301と235)に分割し、上位桁の値を2倍にして丸め処理を行い、下位桁の値を偶数にする処理(丸め処理)を行う。2倍にするのは、送信データの値が小さい場合の丸め処理の精度を高めるためである。これは上位桁の最大値が500以下未満(0~499)であれば、2倍にしても桁が変わらないために可能な処理である。また下位桁の値を偶数にするのは、最下位桁を丸めて精度を落とすことで0~999(3桁)のデータ範囲を確保するためである。この例でも音響中継器で丸め処理を行って、洋上ブイ6でもデータ1及び2の丸め処理を行う。そして受信した洋上ブイの受信器では、丸め処理されたデータ1を1/2にした値を上位の3桁の値とし、丸め処理されたデータ2の値を下位の3桁の値として、受信データの劣化分を低減したデータにしている。このようにデータの丸め処理の方法は、任意である。
【0049】
[データのその他の劣化原因]
データ劣化のもう一つの原因として、音響中継器内部のデータ処理の問題がある。音響中継器の内部で、受波信号の相関処理等を実施するASICから出力されたデジタル化されたデータをマイクロコンピュータ(MCU)が受信し、その受信したデータからコードセットごとに送信データを生成する。そして送信する際にマイクロコンピュータの内部クロックを使用してパルス間隔を計測している。シングルタスクで動作するマイクロコンピュータは、送信動作中であっても受信処理を実行するため、パルス送信には割り込みイベントを使用する。受信処理が長くなった場合には、割り込みイベント処理の開始がずれることがありデータ劣化の要因となる。そこで本実施の形態では、送信専用のマイクロコンピュータを用意し、受信側のマイクロコンピュータと切り離すことで送信部が独立して処理できるように変更している。これによりデータ劣化を低減させている。また、省電力のため、送信していない時には送信部の電源を切ることが可能となっている。
【0050】
[相対速度の下限値計算]
音響中継器の精度を確保できる相対速度の下限値の計算例を説明する。水中の音速をv=1500m/sと仮定する。なお音速は、温度、圧力、塩分により変動する。本実施の形態が使用するパルス間隔変調方式では、1パルス目t1と2パルス目t2の時間差Δt=t2-t1が送信側と受信側で同じである必要がある。簡素化のため、1次元(直線上)で考える。送信点Aを固定点、受信点Bを移動点とした場合、A点とB点の距離をd[m]、B点がvb[m/s]で移動した時のΔt[sec]後のB点の移動距離をΔd[m]とすると、Δt = Δd/vbとなる。
【0051】
ここで、B点の移動距離Δdを音波が伝搬する時間Δtsは、Δts = Δd/vとなる。
【0052】
そのため、受信点Bの2つのパルスの時間差は、Δt+Δts [sec]となり、送信データに比べΔtsのずれが発生する。また、上記2つの式より、次式がなり立つ。
【0053】
Δt/Δts = v/vb
仮に、B点の移動速度vbを1.5m/s(約3ノット=1852/3600*3)とした場合、
Δts = vb/v ×Δt = 1.5/1500 ×Δt = 1/1000 ×Δt
となる。
【0054】
パルス間隔が1秒の場合、1msecの時間差が発生することになる。移動速度がマイナスの場合は、-1ミリ秒となる。つまり、相対速度1.5m/s未満(正確に言えば、水中の音速の1000分の1)であれば、最大1000倍=3digit(3桁)の伝送が可能となる。1から1000(000~999)で±1の精度となる。これは、3次元においても適用される。したがって最大値100msecとした場合、相対速度:1.50m/s(3.0ノット)未満で精度±0.10msec、相対速度:0.75m/s(1.5ノット)未満で精度±0.05msecが確保される。
【0055】
[その他]
1以上の海底局が複数ある場合には、複数の海底局毎に個別のコードセットを割り当てる。そして複数の海底局からそれぞれのコードセットを使用して、識別コードと一緒に、データを送信すればよい。このようにすると1つの海中通信システムで、複数の海底局からのデータの伝送が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、アンカーの周囲にある1以上の海底局が観測したデータを洋上ブイまで音響通信で伝送するので、洋上ブイが回転したとしても、その影響で観測情報の伝送が切られることがない。また係留ロープの途中にスイベルを配置することも可能になるので、洋上ブイの回転による係留ロープの捻れで、係留ロープが破断する事態の発生を防止できる。また音響中継器は電池を電源として、洋上ブイと海底局間を音響通信でデータを中継する音響通信装置であり、音響中継器に電力を供給する線路が捻れて電力供給が中断されることもない。さらに水深1000m以上で且つ3ノット以上の潮流下において、係留ロープの長さを、水深とロープ長の比が1.0以上1.3以下となるように定めるので、海底地殻変動の観測精度を1m以内にすることができる。
【符号の説明】
【0057】
11~14 海底局
31 アンカー
32 追加アンカー
4 音響通信機
41 送信器
42 受信器
5,51乃至55 音響中継器
6 洋上ブイ
7 音響通信機
71 送信器
72 受信器
8 係留ロープ
9 ロープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9