(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122257
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240902BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240902BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240902BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/139
H01M10/0562
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029703
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 由宇
(72)【発明者】
【氏名】阪口 芳樹
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA04
5H017EE04
5H017HH01
5H017HH06
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL00
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ22
5H029DJ07
5H029EJ01
5H029HJ01
5H029HJ10
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA06
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】固体電解質層と電極層との接触状態を改善し、全固体電池の使用時に圧力を加えなくても、充放電を可能とする全固体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】電極活物質を含む原料を混練してスラリーを得る混練工程(S1)と、スラリーを集電体上に塗布する塗布工程(S2)と、塗布したスラリー上に、固体電解質層を積層する積層工程(S3)と、固体電解質層が積層されたスラリーを、真空乾燥させて電極層を形成する真空乾燥工程(S4)と、を有する、全固体電池の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む原料を混練してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを集電体上に塗布する工程と、
前記塗布した乾燥前のスラリー上に、固体電解質層を積層する工程と、
前記固体電解質層が積層された前記スラリーを、真空乾燥させて電極層を形成する工程と、
を有する、全固体電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池の製造方法において、前記スラリーの25℃における粘度が、5000~50000mPa・sである、全固体電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の全固体電池の製造方法において、前記原料は、さらに導電助剤、バインダーおよび固体電解質を含有し、前記電極活物質、前記導電助剤、前記バインダーおよび前記固体電解質に関し、質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲である、全固体電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の全固体電池の製造方法において、前記電極活物質が、正極活物質である、全固体電池の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の全固体電池の製造方法において、前記電極活物質が、コンバージョン型活物質または合金反応型活物質である、全固体電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体電池の製造方法において、前記電極活物質が、CuCl2、FeF2およびSから選ばれる材料からなる、全固体電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の全固体電池の製造方法において、前記集電体としてステンレス鋼を用いた、全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の製造方法に係り、特に、電極層と固体電解質層との接触状態を改善する全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を駆動源とする車両等に搭載される電源やパソコンおよび携帯端末等の電気製品等に搭載される電源として、リチウムイオン二次電池等の比較的高い出力と高い容量が実現できる二次電池が使用されている。この二次電池のなかでも、特に、リチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度が得られ、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく、今後ますます需要が拡大することが予想される。
【0003】
また、近年、二次電池の一形態として、液状の電解質(電解液)に代えて、粉末状、ペレット形状、焼結により成形されたプレート形状等の固体電解質を使用する形態の電池、いわゆる全固体電池とも呼称される形態の二次電池、が実用化に向けて、種々研究、開発されている。
【0004】
全固体電池は、電極間の接触を確保するために液状の電解質(特に非水電解液)を使用しないため、非水電解液等の有機溶媒を取り扱う場合の煩雑な処理を行うことなく、正極層、負極層および固体電解質層からなる積層構造の積層電極体を容易に構築することができる。
【0005】
また、電解液を使用しないことから電極体の構造がシンプルとなり、電池の単位体積あたりの電池容量の向上にも寄与し得る。さらに、電解液を使用しないことから、安全性が高い。
【0006】
ところで、全固体電池は、上記のように固体電解質層を有するものであり、電池の構成材料が全て固体であることから、その構成材料間の接触や接合が不十分となることがあり、その接触や接合に関する改良技術が鋭意検討されている。例えば、特許文献1には、集電体層とそれに接して形成される活物質層との間での接合強度が不十分になりやすいことから、これを改良しようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、全固体電池の固体電解質層と電極層は、これら部材をそれぞれ別々に作製してから、得られた平板状の固体電解質と電極とを互いに接触させるように積層して製造され、この製造方法は、全固体電池の一般的な製造方法である。
【0009】
ところが、このようにして得られる全固体電池は、その積層状態のままでは充放電を十分に行うことができない場合が多い。したがって、通常、上記のように製造された全固体電池は、固体電解質層と電極層との接触状態を改善するために、使用時に、積層方向に加圧したり、加圧に加えて加熱を行ったりしている。このように加圧や加熱をすることにより、各部材の接触状態は改善するが、この場合、その状態を保持しながら、全固体電池の充放電を行わなければならない。
【0010】
したがって、従来公知の全固体電池は、その使用時の条件によって充放電を十分に行うことができない場合がある。そのため、全固体電池への加圧状態を保持するための特別な構成(例えば、全固体電池を適切に加圧するための部材、そのための加圧手段や充電池を収容するための筐体(パッケージ)等)が必要となる。
【0011】
本発明は、固体電解質層と電極層との接触状態を改善した全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施の形態における全固体電池の製造方法は、電極活物質を含む原料を混練してスラリーを得る工程と、前記スラリーを集電体上に塗布する工程と、前記塗布したスラリー上に、固体電解質層を積層する工程と、前記固体電解質層が積層された前記スラリーを、真空乾燥させて電極層を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本実施の形態の全固体電池の製造方法によれば、固体電解質層と電極層との接触状態を改善し、充放電を効率的に行うことができる全固体電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態の全固体電池の製造方法を説明するフローである。
【
図2】本実施の形態の全固体電池の製造方法を説明するための図である。
【
図3】本実施の形態の全固体電池の概略構成を示した図である。
【
図4】実施例1で得られた全固体電池の試験例の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
[全固体電池の製造方法]
本発明の一実施形態である全固体電池の製造方法は、上記のように、電極活物質を含有する原料を混練してスラリーを得る工程と、このスラリーを集電体上に塗布する工程と、塗布したスラリー上に、固体電解質層を積層する工程と、固体電解質層が積層されたスラリーを、真空乾燥させて電極層を形成する工程と、を含んでなる。以下、各工程について、
図1および
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
〔混練工程(S1)〕
スラリーを得るのに先立って、電極材料として用いる原料を用意する。ここで用意する原料としては、電極活物質を必須成分とし、さらに、導電助剤、バインダー、固体電解質等を含有させることができる。その他、本実施の形態の効果としてもたらされる作用や利点を阻害しない範囲で、別途成分を追加、配合することができる。
【0018】
またこの混練工程(S1)により得られるスラリーの粘度を調整するために、同時に溶媒を用いることもできる。このとき用いる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ピロリドン、N-メチルチオピロリドン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホアミド、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒や純水(イオン交換水をはじめとするH2O)等が挙げられる。
【0019】
用意した各種原料や溶媒を混合、混練し、均一な状態となるようにしてスラリーとする(
図1-混練工程(S1))。ここで得られるスラリーは、十分に脱泡された状態とすることが好ましく、脱泡撹拌処理することが好ましい。
【0020】
この混練工程(S1)においては、例えば、真空減圧処理、超音波処理、遠心分離処理、自転公転式撹拌処理等の公知の脱泡撹拌処理方法を適用することができ、なかでも自転公転式撹拌処理が好ましい。自転公転式撹拌方法を適用する場合の処理条件としては、例えば、自転公転式ミキサーにおける自転速度は100rpm~1000rpmが好ましく、500rpm~750rpmがより好ましい。加えて、公転速度は200rpm~2000rpmが好ましく、1000rpm~1500rpmがより好ましい。
【0021】
このときの温度は150℃未満とすればよく、常温(25℃)で行うこともできる。また、圧力は常圧(1気圧)で行うことができ、減圧する場合には、例えば、1.0kPa~0.50kPa程度とすることもできる。
【0022】
上記のように、脱泡撹拌処理してスラリーを得ることで、原料が均一に混合され、脱泡も十分に行われる。
【0023】
〔塗布工程(S2)〕
続いて、上記混練工程(S1)で得られたスラリーを、板状の電極を得るために集電体上に塗布する(
図1-塗布工程(S2))。この工程を行うことで、
図2に示したように、集電体11の上にスラリー12aが塗布された状態となる。
【0024】
この塗布工程(S2)では、上記得られたスラリーを所望の厚さの塗膜となるように集電体11上に塗布できればよく、公知の塗布方法を、特に制限されずに使用できる。この塗布方法としては、例えば、エクストルージョンコート、グラビアコート、リバースロールコート、ディップコート、アプリケータコート、ドクターコート、スクリーン印刷等が挙げられる。
【0025】
この塗布工程(S2)において、スラリー12aは上記のように集電体11上に塗布できるものであればよく、例えば、その粘度が1000~50000mPa・sが好ましく、5000~25000mPa・sがより好ましく、8000~12000mPa・sがさらに好ましい。なお、本明細書において、粘度は、特に異なる条件での説明をしていない場合、常温(25℃)における粘度を意味する。
【0026】
この塗布におけるスラリー12aの厚さとしては、例えば、10μm~150μmが好ましく、10μm~100μmがより好ましく、10μm~50μmがさらに好ましい。
【0027】
また、スラリーを塗布する集電体11としては、安定した塗膜を形成できる平板状のものとしておけばよく、特に限定されずに用いることができる。この集電体11としては、基板の表面に、金属膜等からなる集電体を設けたものでもよい。
【0028】
集電体11としては、電池において化学変化を起こさない電子伝導体であればよく、公知の材料を特に限定せずに用いることができる。
【0029】
ここで用いる集電体11としては、正極集電体または負極集電体を用いることができ、形成する電極に応じて対応した集電体を用いる。なお、これら正極集電体および負極集電体の材質等のより詳細な構成については、以下の全固体電池の構成において説明する。
【0030】
〔積層工程(S3)〕
次いで、上記塗布工程(S2)で得られた、集電体11に塗布されたスラリー12a上に、固体電解質層13を積層する工程を行う(
図1-積層工程(S3))。この工程を行うことで、
図2に示したように、集電体11の上にスラリー12aが、そしてさらにその上に固体電解質層13が積層された状態となる。
【0031】
ここでは、全固体電池の固体電解質層13を構成する板状の固体電解質を用意する。ここで用いる板状の固体電解質は、全固体電池に用いられる公知の固体電解質層を構成できればよく、何ら限定されるものではない。
【0032】
この固体電解質層13は、正極層と負極層の間に形成され、正極層および負極層とそれぞれ接触してリチウムイオン等の電荷担体が移動できるように構成される部材である。この固体電解質層13は、セパレーターとしての役割も果たし、リチウムイオンは透過しつつ、正極層と負極層との短絡を防止するように機能させる。なお、この固体電解質層13の材質等のより詳細な構成については、後述の全固体電池の構成において説明する。
【0033】
この板状の固体電解質を、集電体11に塗布されたスラリー12a上に、スラリー12aを真空乾燥させる前に、積層して配置する。
【0034】
この積層は、上記塗布工程(S2)で、スラリーを塗布した後に、その塗布したスラリーの粘度が大きく変化しないように行うことが好ましい。なお、スラリーの形状の維持や後述する乾燥時(脱水時)の粗化を防止するため、この積層時のスラリーの粘度は、例えば、5000~50000mPa・sが好ましく、10000~50000mPa・sがより好ましく、30000~50000mPa・sがさらに好ましい。
【0035】
〔真空乾燥工程(S4)〕
そして、上記積層工程(S3)で得られた、固体電解質層13を積層したスラリー12aを真空乾燥して、集電体11、電極層12および固体電解質層13が積層された全固体電池の構成部材を得る(
図1-真空乾燥工程(S4))。
図2に示したように、この工程を行うことで、集電体11の上に電極層12が、そしてさらに電極層12の上に固体電解質層13が積層された状態となる。
【0036】
この真空乾燥工程(S4)は、電極層12を形成するスラリーを真空乾燥する従来公知の条件で行うことができ、例えば、1.0kPa以下に減圧するとともに、120℃以上に加熱することで実施できる。このときの圧力は1.3kPa~0.50kPaが好ましく、温度は120℃~150℃が好ましい。
【0037】
以上、本実施の形態における、全固体電池の製造における特徴的な部分を説明したが、混練工程(S1)~真空乾燥工程(S4)の一連の操作を行った後、得られた構成部材において、さらに、電極層12を形成した固体電解質層13の面(一方の面)の反対側の面(他方の面)に、対となる電極層を形成するようにしてセル化し、全固体電池とできる。
【0038】
このとき、他方の電極層の形成方法は限定されないが、上記のように混練工程(S1)~真空乾燥工程(S4)までの一連の操作を行うことで形成することもできる。この場合、固体電解質層として、すでに一方の面に、電極層12が形成された固体電解質層13を用いることとなる。
【0039】
また、本実施の形態においては、上記説明した固体電解質層と電極層との接触状態を改善する方法は、固体電解質層と正極層との間において適用することが特に好ましい。
【0040】
〔電極材料の原料〕
本実施の形態で用いる電極材料の原料について、以下説明する。この原料としては、例えば、電極活物質を必須成分とし、さらに、導電助剤、バインダー、固体電解質等を用いることができる。
【0041】
ここでは、電極活物質として、正極を形成する際には正極活物質を、負極を形成する際には負極活物質を用い、それら材料には公知の材料を特に限定することなく用いることができる。なお、本実施の形態は、正極層側での接触状態を改善する際に用いることが好ましい。
【0042】
<正極活物質>
ここで用いられる正極活物質としては、例えば、MnO2、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2等が挙げられ、さらに、コンバージョン型(分解再生成反応型とも称される)、あるいは合金反応型の活物質が好ましいものとして挙げられる。この正極活物質としては、例えば、CuCl2、FeF2、S、AgCl、FeCl3、NiCl2、CoCl2、FeCl2、Li2S、LiCl、LiF、AgF、Br2、LiBr、CoF3、CuF2、CuF、BiF3、CuCl2、NiF2、LiI、I2、CoF2、FeF3、MnF3、CrF3、CuS、Li2Se、Se、CuSe、Cu2O、CoS2、Cu2S、NiS、FeS2、Te、Li2Te、VF3、FeS、CoSe2、MnS2、MnCl2、Co3S4、FeSe、TiF3、MnS等が好ましい。なかでも、CuCl2、FeF2、Sが好ましい。
【0043】
なお、コンバージョン型活物質としては、例えば、ハロゲン化遷移金属(CuCl2、FeF2、FeCl3等)やハロゲン化アルカリ金属(LiCl、LiF等)が該当し、リチウムと金属化合物との間で生じる分解・生成をともなう化学反応により、充放電が行われる。一方、合金反応型活物質としては、例えば、Si、SiO、Sn、SnCl2等が該当し、Li合金相の形成に伴う反応によって充放電が行われる。
【0044】
これら正極活物質は粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、0.1μm~20μm程度が好ましく、0.4μm~10μm程度がより好ましい。
【0045】
<負極活物質>
また、ここで用いられる負極活物質としては、例えば、Zn、Li、黒鉛(グラファイト)、Li4Ti5O12等が挙げられ、さらに、Si系、Li系、Sn系、Mg系、Al系等のコンバージョン型、あるいは、合金反応型、溶解析出反応型の活物質が挙げられる。なかでも、重量当たりまたは体積当たりのエネルギー密度の高さの点で、Si系、Li系、Mg系、Al系の活物質が好ましい。
【0046】
なお、溶解析出反応型活物質とは、例えば、金属Liや金属Na等が該当し、これら金属相の溶解・析出に伴って充放電が行われる。
【0047】
Si系の負極活物質としては、Siや、SiとOの構成比が1:a(ここで0.05<a<1.95)で表されるSiとSiO2の混合体、SiとCの構成比が1:b(ここで0<b<1)で表されるSiとSiCの混合体、SiとNの構成比が1:c(ここで0<c<4/3)で表されるSiとSi3N4の混合体、等が挙げられる。
【0048】
また、Si系負極活物質のその他の例として、SiとSi以外の元素とからなる合金材料が挙げられる。ここでいうSi以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
【0049】
Sn系の負極活物質としては、例えば、Sn、Sn酸化物、Sn窒化物、Sn含有合金等、およびこれらの固溶体等が挙げられる。これらに含有されるSn原子の一部が1種または2種以上のSn以外の元素で置換されていてもよい。
【0050】
Sn酸化物としては、酸化スズ(SnOd(0<d<2))、二酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。Sn含有合金としては、Ni-Sn合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金、Cu-Sn合金、Ti-Sn合金等が挙げられる。Sn化合物としては、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等が挙げられる。
【0051】
Li系の負極活物質としては、Li、In-Li合金、Al-Li合金、Mg-Li合金、Zn-Li合金、Sn-Li合金、Sb-Li合金等が挙げられる。
【0052】
Mg系の負極活物質としては、Mg、Ni-Mg合金、Sn-Mg合金、Fe-Mg合金、Cu-Mg合金、Ti-Mg合金等が挙げられる。
【0053】
Al系の負極活物質としては、Al、Ni-Al合金、Sn-Al合金、Fe-Al合金、Cu-Al合金、Ti-Al合等が挙げられる。
【0054】
これら負極活物質は粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば1μm~20μm程度が適当であり、2μm~10μm程度が特に好ましい。
【0055】
<導電助剤>
ここで用いることができる導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト、カーボンナノチューブ等)の炭素材料が好ましいものとして挙げられる。
【0056】
<バインダー>
ここで用いることができるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーを好ましいものとして挙げられる。
【0057】
<固体電解質>
また、ここで用いることができる固体電解質としては、種々の酸化物系固体電解質または硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0058】
酸化物系固体電解質としては、NASICON構造、ガーネット型構造あるいはペロブスカイト型構造等を有する結晶性酸化物が好ましいものとして挙げられる。例えば、一般式LixAOy(ここでAは、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、またはWであり、xおよびyは正の数である。)で表されるものを挙げることができる。具体例として、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、等が挙げられる。また、Li2O-B2O3-P2O5系、Li2O-SiO2系、Li2O-B2O3系、Li2O-B2O3-ZnO系、等の特定の結晶構造を有さないガラスまたはガラスセラミックスにおいても好ましいものが挙げられる。
【0059】
高いイオン伝導性を有するという観点からは特に、硫化物系固体電解質の使用が好ましい。例えば、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S3系、Li2S-P2S5系、Li2S-GeS2系、Li2S-B2S3系、Li3PO4-P2S5系、Li4SiO4-Li2S-SiS2系、等のガラスまたはガラスセラミックスが挙げられる。
【0060】
より高いイオン伝導性を実現するという観点からいえば、Li2Sとハロゲン化リチウム(例えばLiCl、LiBr、LiI)とから構成されるLi2Sベースの固溶体の利用が好ましい。好ましいものとして、LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、等が挙げられる。
【0061】
これら固体電解質は粒子状にて使用され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)としては、例えば0.1μm~10μmが好ましく、0.4μm~5μmがより好ましい。
【0062】
<原料の含有比率>
電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、固体電解質と、を含有させて電極層を形成する場合、これらの質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)を、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲とすることが好ましい。さらに、これら比率は、65≦x≦92.5、2.5≦y≦20、2.5≦z≦15、2.5≦v≦20の範囲とすることがより好ましい。
【0063】
[全固体電池]
次に、上記実施形態における製造方法で得られる全固体電池について説明する。本実施形態の全固体電池としては、例えば、
図3に示したように、正極集電体11Aと、正極層12Aと、固体電解質層13と、負極層12Bと、負極集電体11Bと、がこの順番に積層された全固体電池10を例示できる。
【0064】
なお、以下の説明では、ここで開示される技術の適用対象として全固体リチウムイオン二次電池を例にしているが、これに限られるものではない。ここで開示される全固体電池の種類としては、他の金属イオンを電荷担体とするもの、例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、等を構成する全固体電池であってもよい。
【0065】
<正極集電体>
正極集電体11Aは、この種の電池の正極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の正極集電体が好ましく、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、銅や、これら金属の各々にカーボンコートを施したもの(プライマーコート箔)等の金属材から構成される。特に、幅広い電圧範囲で充放電を行うことで高い容量が得られることから、広い電位窓を有する集電体が好ましい。このような集電体の材料としては、ステンレス鋼(例えば、ステンレス鋼箔)が好ましい。ステンレス鋼にはその組織構造によってフェライト型、マルテンサイト型、オーステナイト型等があるが、特に限定されない。正極集電体11Aの厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0066】
<負極集電体>
負極集電体11Bは、この種の電池の負極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の負極集電体が好ましく、例えば、ステンレス鋼、銅(例えば銅箔)や銅を主体とする合金等を用いることができる。負極集電体11Bの厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0067】
<正極層>
本実施の形態で用いられる正極層12Aは、正極活物質を含有する正極層である。ここで、正極活物質は、正極側において電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0068】
ここで用いられる正極活物質は、粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば0.5μm~20μm程度が好ましく、1μm~10μm程度がより好ましい。
【0069】
正極層12Aには、正極活物質の他に、導電助剤、バインダー、固体電解質等を含有させることができる。さらに、従来のこの種の電池の正極層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。
【0070】
なお、正極層12Aの厚みは特に限定されず、例えば、10μm~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0071】
<負極層>
本実施の形態で用いられる負極層12Bは、負極活物質を含有する負極層である。ここで、負極活物質は、負極側において電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0072】
負極層12Bには、負極活物質の他に、バインダー、固体電解質等を含有させることができる。さらに、従来のこの種の電池の負極層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。
【0073】
なお、負極層12Bの厚みは、特に限定されず、例えば、10μm~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0074】
<固体電解質層>
本実施形態に用いられる固体電解質層13は、全固体電池に用いられる公知の固体電解質層で構成でき、従来と同様、種々の固体電解質を含むことができ、何ら限定されるものではない。
【0075】
この固体電解質層13は、
図3に示したように、正極層12Aと負極層12Bの間に形成され、正極層12Aおよび負極層12Bとそれぞれ接触してリチウムイオン等の電荷担体が移動できるように構成される。この固体電解質層13は、セパレーターとしての役割を果たし、リチウムイオンは透過しつつ、正極層12Aと負極層12Bとの短絡を防止する。
【0076】
ここで、固体電解質層13を形成する材料としては、上記正極層12Aおよび負極層12Bで説明した固体電解質と同種のものを好適に用いることができる。そのため、この成分の詳細な説明は省略する。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態における全固体電池および全固体電池の製造方法は、電極層と固体電解質層との接触状態を改善でき、それによって、充放電を効率的に実施可能とする全固体電池を提供できる。また、固体電解質層と両電極層との間の接触状態を改善することで、加圧等をしなくても充電可能とすることもでき、充放電を簡易な構成、操作で、実施可能とする全固体電池を提供できる。
【実施例0078】
以下、本実施の形態について、実施例を参照しながら、さらに詳細に説明する。
(実施例1)
正極活物質として塩化銅(CuCl2)を65.02質量%、固体電解質としてLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2系固体電解質(商品名:LICGC-PW01、株式会社オハラ製)を12.50質量%、導電助剤としてアセチレンブラックを12.51質量%、バインダーとしてポリアミドイミドを9.97質量%、の配合となるように原料を用意した。これら原料を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として混合し、自転公転式ミキサー(あわとり練太郎(株式会社シンキー製、商品名))により、常圧、自転速度500rpm、公転速度1000rpmで5分間脱泡撹拌して混練し、塗布用のスラリーを得た。
【0079】
ステンレス鋼製の基板上に、このスラリーを150μm厚となるようにバーコーターを用いて塗布し、続けて、板状のLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2系固体電解質(商品名:LICGC-AG01、株式会社オハラ製;厚さ0.150mm)をスラリー上に積層した。ステンレス鋼板-スラリー-固体電解質層の積層体を、1.3kPa以下、150℃で、12時間真空乾燥させて、正極層の厚さが50μmに相当する正極を有する構成部材を得た。
【0080】
さらに、その構成部材の固体電解質層の表面(正極層が形成された面と反対面)に、負極層および負極集電体を積層して、全固体電池1を製造した。
【0081】
ここで用いた負極層は、負極活物質としてグラファイトを49.91質量%、固体電解質としてランタンジルコン酸リチウム(LLZ)を40.06質量%、バインダーとしてポリアミドイミドを10.03質量%、からなる板状部材を、負極集電体としてステンレス鋼製の基板を用いた。
【0082】
(比較例1)
実施例1と同様に、ステンレス鋼板の基板上に、上記スラリーを150μm厚となるようにバーコーターで塗布し、1.3kPa、150℃で、12時間真空乾燥させて、厚さが50μmの正極層を有する正極集電体を得た。
【0083】
次いで、正極層の上に、板状のLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2系固体電解質(商品名:LICGC-AG01、株式会社オハラ製;厚さ0.150mm)を積層して固体電解質層とし、さらに、その固体電解質層の上に、負極層および負極集電体を積層して、全固体電池C1を製造した。
【0084】
(試験例)
実施例1で得られた全固体電池1および比較例1で得られた全固体電池C1について、それらの充放電特性を調べた。
【0085】
充放電特性は、充放電モード:CC、環境温度:50℃、カットオフ電圧:3.6-2.4V、充放電レート:0.01C、の条件で、全固体電池に対する加圧を行わない状態で行った。このとき得られた、実施例1の充放電の結果を
図4に示した。
【0086】
図4によれば、全固体電池1は、充電および放電できることが確認された。一方、全固体電池C1は、上記加圧しない条件では充放電できなかった。
【0087】
この結果から、本実施の形態の全固体電池は、従来のように加圧しながら充放電を行わなくても、その作用を奏することができ、簡易な構成でありながら、充放電特性を示せることがわかった。
【0088】
以上、本発明について、実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。