(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122258
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】モータシャフト疲労度診断装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240902BHJP
G01M 13/02 20190101ALI20240902BHJP
B21B 35/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01M13/02
B21B35/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029704
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD03
2G024AD25
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA12
2G024CA18
2G024CA30
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】長期間の使用によるモータシャフトの劣化を簡易的に判断できるデータを生成するモータシャフト疲労度診断装置を提供する。
【解決手段】実施形態は、モータを駆動するドライブ装置から、トルク値の第1時系列データにもとづいて算出されたせん断応力の第2時系列データを取得し、前記第2時系列データから周期ごとの最大せん断応力を抽出し、前記周期ごとの最大せん断応力を複数の範囲に分類し、前記複数の範囲のそれぞれごとに、前記周期ごとの最大せん断応力を抽出した第1回数を積算し、前記複数の範囲のそれぞれごとに、前記モータのシャフトを形成する材料のS-N曲線の繰り返しの第2回数と前記第1回数とを比較し、前記複数の範囲のすべてにわたる前記第2回数と前記第1回数との差の最小値を抽出して、前記最小値にもとづいて、前記シャフトの疲労度を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクの瞬時的な最大値を周期的に出力するモータを駆動するドライブ装置から、トルク値の第1時系列データにもとづいて算出されたせん断応力の第2時系列データを取得し、
前記第2時系列データから周期ごとの最大せん断応力を抽出し、
前記周期ごとの最大せん断応力を最大せん断応力の複数の範囲に分類し、
前記複数の範囲のそれぞれごとに、前記周期ごとの最大せん断応力を抽出した第1回数を積算し、
前記複数の範囲のそれぞれごとに、あらかじめ設定された前記モータのシャフトを形成する材料のS-N曲線の繰り返しの第2回数と前記第1回数とを比較し、
前記複数の範囲のすべてにわたる前記第2回数と前記第1回数との差の最小値を抽出して、前記最小値にもとづいて、前記シャフトの疲労度を判定するモータシャフト疲労度診断装置。
【請求項2】
前記周期ごとの最大せん断応力を抽出した後に、抽出した周期の最大せん断応力以外のデータを廃棄する請求項1記載のモータシャフト疲労度診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モータシャフト疲労度診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼プラントの圧延機等で利用されるモータでは、運転中の負荷変動が激しく、これにともない、ミル等の機械を介してモータのシャフトに衝撃荷重がかかる。このようなモータは、20~30年程度運用されることも多く、長期間にわたってモータのシャフトに衝撃荷重が与えられる。そのため、モータのシャフトが耐え得る繰り返し数を超えてしまうと、最悪の場合はシャフトの破断に至る恐れがある。
【0003】
このような事態を防ぐため、モータの仕様検討段階で、過負荷耐量以上の耐荷重強度をモータに要求することも多い。一方で、実際の運用では、シャフトに加わる荷重やその回数を監視・管理することは困難な場合も多く、シャフト荷重によるモータの突発故障を防ぐために、定期的な操業休止日に保全員が目視で点検作業を実施している。
【0004】
このような状況を踏まえ、モータの突発故障を防ぐために、モータシャフトの疲労度を容易かつ定量的に診断する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータのシャフトの目視点検は、工場の操業が止まっている期間に行わざるを得ず、容易に実施できない。また、目視点検による劣化の検出感度は、検査技術者の経験度合に左右されることもある。
【0007】
目視点検以外の超音波探傷試験等による非破壊検査は有資格者による試験が好ましく、検査時間が長くなるとの問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、長期間の使用によるモータシャフトの劣化を簡易的に判断できるデータを生成するモータシャフト疲労度診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態は、トルクの瞬時的な最大値を周期的に出力するモータを駆動するドライブ装置から、トルク値の第1時系列データにもとづいて算出されたせん断応力の第2時系列データを取得し、前記第2時系列データから周期ごとの最大せん断応力を抽出し、前記周期ごとの最大せん断応力を最大せん断応力の複数の範囲に分類し、前記複数の範囲のそれぞれごとに、前記周期ごとの最大せん断応力を抽出した第1回数を積算し、前記複数の範囲のそれぞれごとに、あらかじめ設定された前記モータのシャフトを形成する材料のS-N曲線の繰り返しの第2回数と前記第1回数とを比較し、前記複数の範囲のすべてにわたる前記第2回数と前記第1回数との差の最小値を抽出して、前記最小値にもとづいて、前記シャフトの疲労度を判定する。
【発明の効果】
【0010】
実施形態によれば、長期間の使用によるモータシャフトの劣化を簡易的に判断できるデータを生成するモータシャフト疲労度診断装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置が適用されたモータドライブシステムを例示する模式的なブロック図である。
【
図2】実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置の動作を説明するための模式的な動作波形図の例である。
【
図3】
図3(a)は、実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置が生成するせん断応力のヒストグラムの例である。
図3(b)は、
図3(a)のA部の拡大図である。
【
図4】実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置が生成する疲労度スコアの経時データの例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置が適用されたモータドライブシステムを例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、モータドライブシステム100は、モータシャフト疲労度診断装置10とドライブ装置20とを有する。モータドライブシステム100は、モータ30を駆動する。モータドライブシステム100において、モータ30は、設定された速度パターンに応じて駆動される。なお、以下では、モータ30は、鉄鋼プラントの圧延機等を駆動する用途等に用いられ、材の噛み込みおよび排出により周期的に大きなトルクが発生し、モータシャフトに周期的に大きなトルクがかかるものとする。また、モータシャフトに印加される周期的なトルクは、十分に短い時間幅を有するパルス状またはインパルス状であるものとする。
【0014】
モータシャフト疲労度診断装置10は、たとえば、プログラマブルコントローラ(PLC)機能を有するコンピュータ装置であり、設定されたプログラムにしたがって、速度指令値を生成して、ドライブ装置20に速度指令値を出力する。
【0015】
ドライブ装置20は、制御ネットワーク101を介して、モータシャフト疲労度診断装置10に通信可能に接続されている。ドライブ装置20は、モータシャフト疲労度診断装置10から供給される速度指令値にしたがって、モータ30を駆動するための駆動電圧および駆動電流を生成して、モータ30に出力する。モータ30は、ドライブ装置20が出力する駆動電圧および駆動電流にしたがって動作する。
【0016】
ドライブ装置20は、速度指令値にもとづいて、駆動電流指令値を生成し、モータ30に出力する駆動電流のフィードバック値が駆動電流指令値に追従するように、モータ30を制御する。駆動電流のフィードバック値は、モータ30のトルクフィードバック値に比例するので、ドライブ装置20は、トルクフィードバック値を出力することもできる。また、モータ30のモータシャフトにかかるせん断応力は、シャフトの極断面係数を用いることにより、算出することができる。以下では、ドライブ装置20は、ドライブ装置20で算出されたトルクのフィードバック値にもとづいて、モータシャフトにかかるせん断応力を算出し、モータシャフト疲労度診断装置10に出力するものとする。ただし、これに限らず、モータシャフト疲労度診断装置10は、ドライブ装置20から駆動電流のフィードバック値を取得して、駆動電流のフィードバック値にもとづいて、モータシャフトに印加されるせん断応力を算出してももちろんよい。
【0017】
モータシャフト疲労度診断装置10は、ドライブ装置20から制御ネットワーク101を介して、モータシャフトにかかるせん断応力のデータを受信し、1周期のせん断応力の値から最大値を抽出する。モータシャフト疲労度診断装置10は、1周期内のせん断応力の最大値を各周期で抽出し、ヒストグラムを生成する。
【0018】
せん断応力のヒストグラムには、モータシャフトを形成する材料のS-N曲線にもとづいて、あらかじめせん断応力ごとに、せん断応力が印加された最大回数が設定されている。モータシャフト疲労度診断装置10は、1周期のせん断応力の最大値の抽出回数にもとづいて、疲労度スコアを算出する。
【0019】
たとえば、モータシャフト疲労度診断装置10は、生成したヒストグラムからS-N曲線で設定された最大回数との差がもっとも小さいせん断応力の印加回数を抽出し、最大回数と抽出した印加回数にもとづいて、疲労度スコアを算出する。
【0020】
モータシャフト疲労度診断装置10は、あらかじめ設定したタイミングおよび周期で、算出した疲労度スコアを出力する。好ましくは、モータシャフト疲労度診断装置10には、あらかじめ設定された疲労度スコアのしきい値を有しており、算出した疲労度スコアがしきい値に達した場合に、所定の警報信号を生成する。警報信号は、たとえば、モータシャフト疲労度診断装置10に通信ネットワーク経由で通信可能に接続されるHMI端末等の画面に所定の警報や警告等を出力させる。
【0021】
実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置10の動作について詳細に説明する。
図2は、実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置の動作を説明するための模式的な動作波形図の例である。
図2は、鉄鋼の圧延機のローラを駆動するモータの制御に関するパラメータについて、時間tで同期された3つの動作波形図を示している。
図2の最上段の図は、モータ30の速度の実測値のデータであり、モータ30に設けられた速度検出器によって検出される速度フィードバック値V[rpm]の時間変化を表している。
図2の2段目の図は、ドライブ装置20が算出するトルクフィードバック値T[Nm]の時間変化を表している。
図2の最下段の図は、圧延機の圧下装置に設けられたロードリレーが出力する信号の時間変化を表している。
【0022】
図2に示すように、時刻t1において、材が圧延機のローラに噛み込まれ、ロードリレーがONの信号を出力する。時刻t1では、材が噛み込まれるので、速度フィードバック値Vが瞬時的に低下する。トルクフィードバック値Tは、材のインパクトにより最大値となる。
【0023】
その後、ローラは材を噛み込んで圧延し、時刻t2において材を排出する。時刻t2でロードリレーがOFFとなり、速度フィードバック値Vが瞬時的に上昇し、トルクフィードバック値Tは、低下してローラ駆動のためのほぼ一定値となる。
【0024】
時刻t1から時刻t2までが材の圧延を実行している期間であり、1周期である。時刻t(i)以降についても同様であり、時刻t(i)から時刻t(i+1)が材の圧延の1周期である。なお、後述するように、モータシャフト疲労度診断装置10では、周期ごとにせん断応力が最大値となるタイミングが1回あり、その回数がモータシャフトの疲労度の尺度とされる。そのため、周期の長さは一定である必要はなく、周期ごとに異なっていてもかまわない。なお、上述では、1周期を、ロードリレーがONからOFFまでの期間としたが、通常のように、ロードリレーがONした後にOFFして、再度ONする場合に、ロードリレーがONから次のONまでの期間としてももちろんよい。材の圧延工程の場合には、ロードリレーがOFFの期間では、トルクフィードバック値のが低く、値の変化も小さいので、1周期をロードリレーがONからOFFまでの期間とすることで、収集する時系列データの数を少なくすることができる。
【0025】
ドライブ装置20は、トルクフィードバック値T[Nm]を用いてせん断応力τ[Pa]を算出し、算出したせん断応力τの時系列のデータをモータシャフト疲労度診断装置10に出力する。せん断応力の計算式(1)は、たとえば、以下のように設定することができる。
【0026】
τ=T/Zp (1)
ここで、Zp[m3]は、モータ30のシャフトの極断面係数であり、以下の換算式(2)で算出することができる。d[mm]は、シャフトの直径であり、設計値あるいは実測値を用いることができる。
Zp=πd3/16 (2)
【0027】
ドライブ装置20は、式(1)、(2)を用いて、トルクフィードバック値Tからせん断応力τを逐次算出し、算出したせん断応力τのデータをモータシャフト疲労度診断装置10に逐次出力する。
【0028】
モータシャフト疲労度診断装置10は、ドライブ装置20からせん断応力τの時系列のデータを受信する。モータシャフト疲労度診断装置10は、ドライブ装置20から受信したせん断応力τの時系列データから周期ごとの最大値を抽出する。
【0029】
図2の例では、時刻t1から時刻t2の周期では、トルクフィードバック値Tの最大値は、時刻t1においてT1である。また、時刻t(i)から時刻t(i+1)の周期では、トルクフィードバック値Tの最大値は、時刻t(i)においてTiである。したがって、せん断応力τの周期ごとの最大値は、時刻t1、t(i)のときのトルクフィードバック値Tの最大値T1、Tiから算出されたデータである。
【0030】
モータシャフト疲労度診断装置10は、たとえば、圧下装置からロードリレーの出力信号の時系列のデータを受信する。モータシャフト疲労度診断装置10は、ロードリレーの出力信号の時系列のデータからせん断応力τの1周期の開始時刻および終了時刻を判断することができる。せん断応力τの時系列データとロードリレーの出力信号の時系列データとは、時刻同期している。モータシャフト疲労度診断装置10は、せん断応力τの時系列データの周期を決定し、決定した周期ごとにせん断応力τの最大値を検索して、抽出する。
【0031】
モータシャフト疲労度診断装置10は、周期ごとのせん断応力τの最大値を抽出するごとに、抽出した最大値をヒストグラムにプロットする。なお、せん断応力の時系列データについては、最大値を抽出後またはヒストグラムへのプロット後に、最大値以外のデータを廃棄してもよい。また、最大値のデータについても後述する疲労度スコアの算出後には、廃棄してもよい。
【0032】
なお、上述では、モータシャフト疲労度診断装置10は、周期ごとのせん断応力の最大値を、せん断応力の時系列データから検索して抽出することとした。モータ30の負荷が
図2の具体例で示したような圧延機のローラ等である場合には、材のインパクトの時刻がトルクの最大値であり、せん断応力の最大値であることが多い。そのような場合には、簡易的に、せん断応力の最大値は、ロードリレーの出力信号がONとなった時刻のデータとしてもよい。このように設定することによって、モータシャフト疲労度診断装置10の演算能力負担を軽減することができる。
【0033】
せん断応力の最大値のヒストグラムの生成について説明する。
図3(a)は、実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置が生成するせん断応力のヒストグラムの例である。
図3(b)は、
図3(a)のA部の拡大図である。
図3(a)および
図3(b)に示すように、せん断応力の最大値は、縦軸がせん断応力τ[Pa]、横軸が繰り返し回数であり、対数軸となっている。
図3(a)および
図3(b)には、モータシャフトを形成する材料のS-N曲線も描かれている。
【0034】
ヒストグラムでは、縦軸において、せん断応力の最大値の範囲が設定されており、モータシャフト疲労度診断装置10は、抽出したせん断応力の最大値にもとづいて、範囲の値に関連付ける。せん断応力の最大値の関連付けを行うごとに、同一の範囲のデータ数は、1ずつ増加する。つまり、インパクトの繰り返し回数が1ずつ増加する。
【0035】
モータシャフト疲労度診断装置10は、せん断応力の最大値の範囲ごとに、その範囲で積算されたデータ数10n(第1回数)を取得する。モータシャフト疲労度診断装置10は、設定されたS-N曲線のせん断応力の最大値の範囲ごとの繰り返し回数10N(第2回数)を取得する。モータシャフト疲労度診断装置10は、せん断応力の最大値の範囲ごとにデータ数10nおよび繰り返し回数10Nを用いて、疲労度スコアを算出する。範囲ごとの疲労度スコアは、たとえば、以下の算出式(3)で算出される。
【0036】
範囲ごとの疲労度スコア=10n/10N (3)
つまり、疲労度スコアとは、S-N曲線上の回数に対する実際に印加された周期ごとのせん断応力の最大値の印加回数の比として表されている。
【0037】
モータシャフト疲労度診断装置10は、たとえば、定期的に範囲ごとの疲労度スコアから、全範囲にわたる疲労度スコアの最大値を抽出する。抽出した疲労度スコアの最大値は、抽出日ごとにモータシャフト疲労度診断装置10の表示ディスプレイに出力される。全範囲にわたる疲労度スコアの最大値を抽出する頻度は任意に設定され、たとえば、1週間に1回、3か月に1回等とすることができる。
【0038】
図4は、実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置が生成する疲労度スコアの経時データの例である。
図4に示すように、モータシャフト疲労度診断装置10は、疲労度スコアの最大値の経時変化のデータを表示ディスプレイに出力する。モータシャフト疲労度診断装置10に疲労度スコアの最大値についてのしきい値を設定し、疲労度スコアの最大値がしきい値に達した場合に、モータシャフト疲労度診断装置10は、警報信号を出力するようにしてもよい。
【0039】
なお、上述では、しきい値を設定するに際して、S-N曲線の回数10
Nを用いることとしている。S-N曲線は、周知のように、所定の条件での測定にもとづいており、正弦波状のせん断応力を試料に印加することによって測定される。一方で、
図2に示したように、モータシャフトに印加されるせん断応力は、パルス状やインパルス状であって非線形であり、必ずしもS-N曲線を取得するための条件とは一致しない。つまり、S-N曲線にもとづく繰り返し回数の最大値10
Nは、モータシャフトに繰り返し印加されるせん断応力の回数10
nに対する目安を与えるものである。そのため、しきい値等を設定する場合には、十分な余裕をもってその値が設定され、適用される。
【0040】
また、上述では、モータシャフト疲労度診断装置10は、周期ごとのせん断応力の最大値を抽出等した後には、せん断応力の時系列データを廃棄してもよいとしたが、たとえば、モータシャフト疲労度診断装置10は、時系列データを上位計算機等に送信するようにしてもよい。このようにすることによって、モータシャフト疲労度診断装置10の記憶容量を増大させずに、せん断応力のデータを有効に活用することができる。
【0041】
実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置10の効果について説明する。
実施形態に係るモータシャフト疲労度診断装置10は、ドライブ装置20から周期ごとにせん断応力の時系列データを取得して、せん断応力の最大値を抽出する。モータシャフト疲労度診断装置10はせん断応力の最大値のデータの個数を積算して、モータシャフトの疲労度を算出するので、少ない記憶容量で容易に、長期間にわたるモータシャフトの劣化状況の目安を得ることができる。また、せん断応力の算出をドライブ装置20側で行ったり、せん断応力の最大値の抽出をロードリレーのONのタイミングとしたりすることによって、モータシャフト疲労度診断装置10の演算能力に対する負荷を軽減することができる。このように演算能力や記憶容量の増大を要することなく、モータシャフト疲労度診断装置10を構成することができるので、既設のPLC等にも容易に実装することができる。
【0042】
モータシャフト疲労度診断装置10は、疲労度スコアについてのしきい値を設定し、疲労度スコアがしきい値に達した場合に警報信号を生成して出力することができる。警報信号を受信したHMI端末等を経由して、監視員は、モータシャフトの劣化が進んでいる可能性を確実に認識することができ、もっとも近い操業休止日に検査を行うように計画を立てることができる。他の操業休止日には、モータシャフトの検査等を行う必要がないため、検査作業を短縮することも可能になる。
【0043】
このようにして、長期間の使用によるモータシャフトの劣化を簡易的に判断できるデータを生成するモータシャフト疲労度診断装置を実現することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10…モータシャフト疲労度診断装置、20…ドライブ装置、30…モータ、100…モータドライブシステム、101…制御ネットワーク、