(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122263
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】全固体電池および全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240902BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240902BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240902BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240902BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240902BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240902BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240902BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029709
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 由宇
(72)【発明者】
【氏名】阪口 芳樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AK11
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029CJ23
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA04
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA17
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA01
5H050GA23
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】固体電解質層と電極層との接触状態を改善し、全固体電池の使用時に圧力を加えなくても、充放電を可能とする全固体電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】集電体11と、集電体上に設けられた電極層12と、電極層12と接触するように積層された固体電解質層13と、を有し、電極層12と固体電解質層13との接触界面に複数の間隙が形成されており、間隙に電解液を有する、全固体電池10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に設けられた電極層と、
前記電極層と接触するように積層された固体電解質層と、を有し、
前記電極層と前記固体電解質層との接触界面に複数の間隙が形成されており、前記間隙に電解液を有する、全固体電池。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池において、前記電解液を有する前記接触界面が、少なくとも負極層と前記固体電解質層との接触界面を含む、全固体電池。
【請求項3】
請求項1に記載の全固体電池において、前記電解液が、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびプロピレンカーボネートのいずれかを含む溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム ビスオキサレートボラート(LiBOB)、リチウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiFAP)、およびLiC(SO2CF3)3、から選ばれる少なくとも1種の電解質を含有する、全固体電池。
【請求項4】
請求項1に記載の全固体電池において、前記電極層は、その原料として、電極活物質、導電助剤、バインダーおよび固体電解質を含み、前記電極活物質、前記導電助剤、前記バインダーおよび前記固体電解質に関し、質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲である、全固体電池。
【請求項5】
電極板を電解液に浸漬させる工程と、
前記電解液に浸漬した電極板を、板状の固体電解質および集電体と積層する工程と、
を有する、全固体電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体電池の製造方法において、前記全固体電池は、前記電極板と前記板状の固体電解質との接触界面に複数の間隙が形成されており、前記間隙に電解液を有する、全固体電池の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の全固体電池の製造方法において、前記電解液に浸漬して形成される前記電極板が負極板を含む、全固体電池の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の全固体電池の製造方法において、前記電解液が、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびプロピレンカーボネートのいずれかを含む溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム ビスオキサレートボラート(LiBOB)、リチウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiFAP)、およびLiC(SO2CF3)3、から選ばれる少なくとも1種の電解質を含有する、全固体電池の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の全固体電池の製造方法において、前記電極板は、その原料として、電極活物質、導電助剤、バインダーおよび固体電解質を含有し、前記電極活物質、前記導電助剤、前記バインダーおよび前記固体電解質に関し、質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲である、全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池および全固体電池の製造方法に係り、特に、電極層と固体電解質層との接触状態を改善した全固体電池および全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を駆動源とする車両等に搭載される電源やパソコンおよび携帯端末等の電気製品等に搭載される電源として、リチウムイオン二次電池等の比較的高い出力と高い容量が実現できる二次電池が使用されている。この二次電池のなかでも、特に、リチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度が得られ、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく、今後ますます需要が拡大することが予想される。
【0003】
また、近年、二次電池の一形態として、液状の電解質(電解液)に代えて、粉末状、ペレット形状、焼結により成形されたプレート形状等の固体電解質を使用する形態の電池、いわゆる全固体電池とも呼称される形態の二次電池、が実用化に向けて、種々研究、開発されている。
【0004】
全固体電池は、電極間の接触を確保するために液状の電解質(特に非水電解液)を使用しないため、非水電解液等の有機溶媒を取り扱う場合の煩雑な処理を行うことなく、正極層、負極層および固体電解質層からなる積層構造の積層電極体を容易に構築することができる。
【0005】
また、電解液を使用しないことから電極体の構造がシンプルとなり、電池の単位体積あたりの電池容量の向上にも寄与し得る。さらに、電解液を使用しないことから、安全性が高い。
【0006】
ところで、全固体電池は、上記のように固体電解質層を有するものであり、電池の構成材料が全て固体であることから、その構成材料間の接触や接合が不十分となることがあり、その接触や接合に関する改良技術が鋭意検討されている。例えば、特許文献1には、集電体層とそれに接して形成される活物質層との間での接合強度が不十分になりやすいことから、これを改良しようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、全固体電池の固体電解質層と電極層は、これら部材をそれぞれ別々に作製してから、得られた平板状の固体電解質と電極とを互いに接触させるように積層して製造され、この製造方法は、全固体電池の一般的な製造方法である。
【0009】
ところが、このようにして得られる全固体電池は、その積層状態のままでは充放電を十分に行うことができない場合が多い。したがって、通常、上記のように製造された全固体電池は、固体電解質層と電極層との接触状態を改善するために、使用時に、積層方向に加圧したり、加圧に加えて加熱を行ったりしている。このように加圧や加熱をすることにより、各部材の接触状態は改善するが、この場合、その状態を保持しながら、全固体電池の充放電を行わなければならない。
【0010】
したがって、従来公知の全固体電池は、その使用時の条件によって充放電を十分に行うことができない場合がある。そのため、全固体電池への加圧状態を保持するための特別な構成(例えば、全固体電池を適切に加圧するための部材、そのための加圧手段や充電池を収容するための筐体(パッケージ)等)が必要となる。
【0011】
本発明は、固体電解質層と電極層との接触状態を改善した全固体電池および全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施の形態における全固体電池は、集電体と、前記集電体上に設けられた電極層と、前記電極層と接触するように積層された固体電解質層と、を有し、前記電極層と前記固体電解質層との接触界面に複数の間隙が形成されており、前記間隙に電解液を有する。
【0013】
本実施の形態における全固体電池の製造方法は、電極板を電解液に浸漬させる工程と、前記電解液に浸漬した電極板を、板状の固体電解質および集電体と積層する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本実施の形態の全固体電池および全固体電池の製造方法によれば、固体電解質層と電極層との接触状態を改善し、充放電を効率的に行うことができる全固体電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態の全固体電池の概略構成を示した図である。
【
図2】
図1の全固体電池の負極層と固体電解質層との接触界面を拡大して示した概略説明図である。
【
図3】合成抵抗を説明するための模式的な構成と回路図を示した図である。
【
図4】実施例1で得られた全固体電池の試験例の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
[全固体電池]
本発明の一実施形態における全固体電池は、上記のように電極層と固体電解質層との接触界面に間隙が形成されており、その間隙に電解液を有する点に特徴を有する。以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本実施形態の全固体電池としては、例えば、
図1に示したように、集電体11(正極集電体11A、負極集電体11B)と、集電体上に設けられた電極層12(正極層12A、負極層12B)と、電極層12と接触するように積層された固体電解質層13と、を有し、正極集電体11Aと、正極層12Aと、固体電解質層13と、負極層12Bと、負極集電体11Bと、がこの順番に積層された全固体電池10を例示できる。
【0019】
なお、以下の説明では、ここで開示される技術の適用対象として全固体リチウムイオン二次電池を例にしているが、これに限られるものではない。ここで開示される全固体電池の種類としては、他の金属イオンを電荷担体とするもの、例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、等を構成する全固体電池であってもよい。
【0020】
<正極集電体>
正極集電体11Aは、この種の電池の正極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の正極集電体が好ましく、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、銅や、これら金属の各々にカーボンコートを施したもの(プライマーコート箔)等の金属材から構成される。特に、幅広い電圧範囲で充放電を行うことで高い容量が得られることから、広い電位窓を有する集電体が好ましい。このような集電体の材料としては、ステンレス鋼(例えば、ステンレス鋼箔)が好ましい。ステンレス鋼にはその組織構造によってフェライト型、マルテンサイト型、オーステナイト型等があるが、特に限定されない。正極集電体11Aの厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0021】
<負極集電体>
負極集電体11Bは、この種の電池の負極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の負極集電体が好ましく、例えば、銅(例えば銅箔)や銅を主体とする合金を用いることができる。負極集電体11Bの厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0022】
<正極層>
本実施の形態で用いられる正極層12Aは、正極活物質を含有する正極層である。ここで、正極活物質は、正極側において電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0023】
ここで用いられる正極活物質は、粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば0.5μm~20μm程度が好ましく、1μm~10μm程度がより好ましい。
【0024】
正極層12Aには、正極活物質の他に、導電助剤、バインダー、固体電解質等を含有させることができる。さらに、従来のこの種の電池の正極層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。
【0025】
なお、正極層12Aの厚みは特に限定されず、例えば、10μm~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0026】
<負極層>
本実施の形態で用いられる負極層12Bは、負極活物質を含有する負極層である。ここで、負極活物質は、負極側において電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0027】
負極層12Bには、負極活物質の他に、バインダー、固体電解質等を含有させることができる。さらに、従来のこの種の電池の負極層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。
【0028】
なお、負極層12Bの厚みは特に限定されず、例えば、10μm~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0029】
<固体電解質層>
本実施形態に用いられる固体電解質層13は、全固体電池に用いられる公知の固体電解質層で構成でき、従来と同様、種々の固体電解質を含むことができ、何ら限定されるものではない。
【0030】
この固体電解質層13は、
図1に示したように、正極層12Aと負極層12Bの間に形成され、正極層12Aおよび負極層12Bとそれぞれ接触してリチウムイオン等の電荷担体が移動できるように構成される。この固体電解質層13は、セパレーターとしての役割を果たし、リチウムイオンは透過しつつ、正極層12Aと負極層12Bとの短絡を防止する。
【0031】
ここで、固体電解質層13を形成する材料としては、上記正極層12Aおよび負極層12Bの固体電解質と同種のものを好適に用いることができる。これら固体電解質の材料については、後述する。
【0032】
そして、本実施の形態では、固体電解質層と電極層との間に間隙が形成されている。例えば、
図2には、正極層12A、固体電解質層13および負極層12Bの積層した構造を示しているが、固体電界質層13と負極層12Bとの接触界面において、複数の間隙が形成されている場合を例示している。
【0033】
これは、全て固体材料として形成する全固体電池では、一般に、各部材を形成した後、これら部材を積層して形成するため、各部材の接触面がそれぞれ平滑になっていない場合があるためである。特に、電極層の表面は電極活物質が粒子として用いられ焼結されるため、平滑になっていない場合が多い。この場合、積層しただけでは部材間の接触状態が不十分なものとなり、単に積層しただけでは、充放電を十分に行うことができるだけの接触状態を確保できない。
【0034】
そして、この
図2では、固体電解質層13と負極層12Bとの間に形成される複数の間隙に、電解液21を有するようにした構成を示している。このような構成とすることにより、その部材間の接触状態を改善でき、使用時(充放電時)に加圧等しなくても充放電が可能となることを確認した。この間隙には電解液21を満たすことが好ましい。
【0035】
なお、上記では、固体電解質層13と負極層12Bとの接触界面を例に説明したが、固体電解質層13と正極層12Aとの接触界面において、同様に複数の間隙を有する場合、その間隙に電解液を有するようにしてもよい。すなわち、負極層側だけでも、正極層側だけでも、負極層側と正極層側の両方に、その存在する間隙に上記電解液を有するようにしてもよい。
【0036】
<電解液>
ここで用いる電解液21は、充電池において用いられる電解液であればよく、特に限定されるものではない。この電解液としては、溶媒(単一溶媒または混合溶媒)に電解質を溶解させたものであり、このとき電解質は0.1M~5M程度(好ましくは、1M~3.3M程度)の濃度となるように調整すればよい。
【0037】
ここで用いられる溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)等が挙げられ、好ましい混合溶媒としては、上記溶媒を用いた、EC:DEC(1:1v/v%)、EC:DEC(1:1wt/wt%)、EC:DEC(1:2v/v%)、EC:DEC(3:7v/v%)、EC:DMC(1:1v/v%)、EC:DMC(1:1wt/wt%)、EC:DMC(1:2v/v%)、EC:DMC(3:7v/v%)、EC:EMC(1:1v/v%)、EC:EMC(1:2v/v%)、EC:EMC(1:2wt/wt%)、EC:EMC(3:7v/v%)、EC:PC(1:1v/v%)、PC:DMC(1:1v/v%)、PC:EMC(1:1v/v%)、EC:DEC:DMC(1:1:1v/v%)、EC:DMC:EMC(1:1:1v/v%)、PC:EC:EMC(1:1:1v/v%)等が挙げられる。
【0038】
ここで用いられる電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム ビスオキサレートボラート(LiBOB)、リチウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiFAP)、LiC(SO2CF3)3等が挙げられる。
【0039】
〔電解液の作用〕
本実施の形態における構成を上記説明したが、このような構成としたときの作用について、以下詳細に説明する。
【0040】
図3は、全固体電池および半固体電池において、負極層12Bと固体電解質層13との接触状態に応じた合成抵抗の相違を説明するための、模式的な構成と回路図を示した図である。
【0041】
この
図3には、正極層12A、固体電解質層13および負極層12Bが積層し、固体電解質層13と負極層12Bとの接触界面に間隙を有する場合の例を
図3(a)および
図3(b)に示している。そして、
図3(a)は間隙に電解液21を有する例を、
図3(b)は間隙に電解液21を有しておらず、空隙51となっている例を、それぞれ示している。
【0042】
また、
図3(c)は、固体電解質層13と負極層12Bとが、直接接触しておらず、間に電解液21を有する半固体電池の構成を示した例である。
図3には、これらの構成の右側に、各構成となった場合の合成抵抗に関する回路図を記載しており、以下その内容について併せて説明する。
【0043】
図3(a)は、本実施の形態の構成である全固体電池の合成抵抗を説明するための図である。ここで、R
Aは負極層12Bの内部抵抗、R
Lは電解液21の内部抵抗、R
Sは固体電解質13の内部抵抗、nは距離による補正倍率(任意)、R
Cは正極層12Aの内部抵抗、を表している。ここで、R
Sは、間隙が形成されている負極層12Bと固体電解質層13との接触界面付近の抵抗(1-1/n)R
Sと、固体電解質層13本体の抵抗(1/n)R
Sとに分けて記載できる。
【0044】
ここで、RLと(1-1/n)RSの合成抵抗は並列のため、この並列部分では必ず2つの値よりも小さい値をとる。
【0045】
図3(b)は、固体電解質層13と負極層12Bとの接触界面に存在する間隙に、電解液が存在せず、空隙51となっている構成である全固体電池の合成抵抗を説明する図である。
【0046】
この
図3(b)では、
図3(a)の間隙部分に電解液21が存在せず、空隙51となっている。そのため、この構成における合成抵抗は、
図3(a)のR
Lが、R
AGとなっている点のみが異なり、その他は
図3(a)と同一である。
【0047】
この場合、空隙51の抵抗RAGは、∞(無限大)となりその抵抗は無視できるが、負極層12Bと固体電解質層13との接触面積が非常に小さくなるため、接触界面付近の抵抗(1-1/n)RSは、(1-1/n+m)RSと変換され、合成抵抗は非常に大きくなってしまう(なお、mは補正項である)。なお、この場合、この合成抵抗の増大により、充放電が十分に行うことができないことを、後述する比較例において確認している。
【0048】
図3(c)は、全固体電池ではなく、半固体電池の構成での合成抵抗を説明する図である。この構成の場合は、各抵抗が直列に接続されており、その合成抵抗はこれら抵抗の和により算出できる。このとき、合成抵抗は、
図3(a)に示した本実施の形態の全固体電池の構成と比べて大きくなる。
【0049】
以上より、本実施の形態における全固体電池が、充放電をこれまでよりも効率的に行うことができることが理解できる。なお、
図3では、負極層12Bと固体電解質層13との接触界面における説明をしたが、これは正極層12Aと固体電解質層13との接触界面においても同様に考えることができる。
【0050】
すなわち、本実施の形態では、電極層と固体電解質層との接触界面において、それら部材の間隙に電解液を存在させるようにできる。この構成は、負極層側と正極層側のいずれに対して適用してもよく、両電極層に共に適用することもできる。また、少なくとも負極層側に適用することが好ましい。
【0051】
〔電極材料の原料〕
次いで、本実施の形態で用いる電極材料の原料について、以下説明する。この原料としては、例えば、電極活物質を必須成分とし、さらに、導電助剤、バインダー、固体電解質等を用いることができる。
【0052】
ここでは、電極活物質として、正極を形成する際には正極活物質を、負極を形成する際には負極活物質を用い、それら材料には公知の材料を特に限定することなく用いることができる。なお、本実施の形態は、負極層側での接触状態を改善する際に用いることが好ましい。
【0053】
(正極活物質)
ここで用いられる正極活物質としては、例えば、MnO2、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2等が挙げられ、さらに、コンバージョン型(分解再生成反応型とも称される)、あるいは合金反応型の活物質が好ましいものとして挙げられる。この正極活物質としては、例えば、CuCl2、FeF2、S、AgCl、FeCl3、NiCl2、CoCl2、FeCl2、Li2S、LiCl、LiF、AgF、Br2、LiBr、CoF3、CuF2、CuF、BiF3、CuCl2、NiF2、LiI、I2、CoF2、FeF3、MnF3、CrF3、CuS、Li2Se、Se、CuSe、Cu2O、CoS2、Cu2S、NiS、FeS2、Te、Li2Te、VF3、FeS、CoSe2、MnS2、MnCl2、Co3S4、FeSe、TiF3、MnS等が好ましい。なかでも、CuCl2、FeF2、Sが好ましい。
【0054】
なお、コンバージョン型活物質としては、例えば、ハロゲン化遷移金属(CuCl2、FeF2、FeCl3等)やハロゲン化アルカリ金属(LiCl、LiF等)が該当し、リチウムと金属化合物との間で生じる分解・生成をともなう化学反応により、充放電が行われる。一方、合金反応型活物質としては、例えば、Si、SiO、Sn、SnCl2等が該当し、Li合金相の形成に伴う反応によって充放電が行われる。
【0055】
これら正極活物質は粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、0.1μm~20μm程度が好ましく、0.4μm~10μm程度がより好ましい。
【0056】
(負極活物質)
また、ここで用いられる負極活物質としては、例えば、Zn、Li、黒鉛(グラファイト)、Li4Ti5O12等が挙げられ、さらに、Si系、Li系、Sn系、Mg系、Al系等のコンバージョン型、あるいは、合金反応型、溶解析出反応型の活物質が挙げられる。なかでも、重量当たりまたは体積当たりのエネルギー密度の高さの点で、Si系、Li系、Mg系、Al系の活物質が好ましい。
【0057】
なお、溶解析出反応型活物質とは、例えば、金属Liや金属Na等が該当し、これら金属相の溶解・析出に伴って充放電が行われる。
【0058】
Si系の負極活物質としては、Siや、SiとOの構成比が1:a(ここで0.05<a<1.95)で表されるSiとSiO2の混合体、SiとCの構成比が1:b(ここで0<b<1)で表されるSiとSiCの混合体、SiとNの構成比が1:c(ここで0<c<4/3)で表されるSiとSi3N4の混合体、等が挙げられる。
【0059】
また、Si系負極活物質のその他の例として、SiとSi以外の元素とからなる合金材料が挙げられる。ここでいうSi以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
【0060】
Sn系の負極活物質としては、例えば、Sn、Sn酸化物、Sn窒化物、Sn含有合金等、およびこれらの固溶体等が挙げられる。これらに含有されるSn原子の一部が1種または2種以上のSn以外の元素で置換されていてもよい。
【0061】
Sn酸化物としては、酸化スズ(SnOd(0<d<2))、二酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。Sn含有合金としては、Ni-Sn合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金、Cu-Sn合金、Ti-Sn合金等が挙げられる。Sn化合物としては、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等が挙げられる。
【0062】
Li系の負極活物質としては、Li、In-Li合金、Al-Li合金、Mg-Li合金、Zn-Li合金、Sn-Li合金、Sb-Li合金等が挙げられる。
【0063】
Mg系の負極活物質としては、Mg、Ni-Mg合金、Sn-Mg合金、Fe-Mg合金、Cu-Mg合金、Ti-Mg合金等が挙げられる。
【0064】
Al系の負極活物質としては、Al、Ni-Al合金、Sn-Al合金、Fe-Al合金、Cu-Al合金、Ti-Al合等が挙げられる。
【0065】
これら負極活物質は粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば1μm~20μm程度が適当であり、2μm~10μm程度が特に好ましい。
【0066】
(導電助剤)
ここで用いることができる導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト、カーボンナノチューブ等)の炭素材料が好ましいものとして挙げられる。
【0067】
(バインダー)
ここで用いることができるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーを好ましいものとして挙げられる。
【0068】
(固体電解質)
また、ここで用いることができる固体電解質としては、種々の酸化物系固体電解質または硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0069】
酸化物系固体電解質としては、NASICON構造、ガーネット型構造あるいはペロブスカイト型構造等を有する結晶性酸化物が好ましいものとして挙げられる。例えば、一般式LixAOy(ここでAは、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、またはWであり、xおよびyは正の数である。)で表されるものを挙げることができる。具体例として、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、等が挙げられる。また、Li2O-B2O3-P2O5系、Li2O-SiO2系、Li2O-B2O3系、Li2O-B2O3-ZnO系、等の特定の結晶構造を有さないガラスまたはガラスセラミックスにおいても好ましいものが挙げられる。
【0070】
高いイオン伝導性を有するという観点からは特に、硫化物系固体電解質の使用が好ましい。例えば、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S3系、Li2S-P2S5系、Li2S-GeS2系、Li2S-B2S3系、Li3PO4-P2S5系、Li4SiO4-Li2S-SiS2系、等のガラスまたはガラスセラミックスが挙げられる。
【0071】
より高いイオン伝導性を実現するという観点からいえば、Li2Sとハロゲン化リチウム(例えばLiCl、LiBr、LiI)とから構成されるLi2Sベースの固溶体の利用が好ましい。好ましいものとして、LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、等が挙げられる。
【0072】
これら固体電解質は粒子状にて使用され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)としては、例えば0.1μm~10μmが好ましく、0.4μm~5μmがより好ましい。
【0073】
(原料の含有比率)
電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、固体電解質と、を含有させて電極層を形成する場合、これらの質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)を、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲とすることが好ましい。さらに、これら比率は、65≦x≦92.5、2.5≦y≦20、2.5≦z≦15、2.5≦v≦20の範囲とすることがより好ましい。
【0074】
[全固体電池の製造方法]
本発明の一実施形態である全固体電池の製造方法は、上記のように、集電体、電極層および固体電解質層を有する全固体電池を製造する方法であって、電極板を電解液に浸漬させる工程と、電解液に浸漬した電極板を、板状の固体電解質および集電体と積層する工程と、を含んでなる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0075】
〔浸漬工程(S1)〕
本実施の形態において、全固体電池を構成する部材のうち、電極板を、他の部材と積層する前に、電解液に浸漬させる(浸漬工程(S1))。
【0076】
ここで、電解液に浸漬させる電極板は、正極層用でも負極層用でもいずれの電極板でもよく、少なくともいずれか一方を浸漬させればよい。このとき、少なくとも負極層用の電極板を浸漬させることが好ましく、両電極層を形成するための電極板を共に電解液に浸漬させてもよい。ここで用いる電解液としては、上記全固体電池の説明で記載した電解液と同一である。
【0077】
このように電解液に浸漬することで、浸漬した電極板表面や内部の隙間に電解液が浸み込んで、該電極板中に電解液を保持できる。このように電解液を保持させておくことで、次に説明する板状の固体電解質と積層した際に、固体電解質層13と電極層12との接触界面に形成される間隙に、電解液を染み出させるようにできる。
【0078】
なお、負極層を形成するための電極板がリチウムを含有しない材料からなる場合、この電極板をプレドープすることもできる。プレドープは、この電極板にリチウム金属を貼り付けた状態で、電解液に浸漬することで行うことができる。
【0079】
〔積層工程(S2)〕
次いで、上記浸漬工程(S1)で得られた電極層用の電極板を、その他の全固体電池を構成する部材(集電体、板状の固体電解質等)を積層する工程を行う(積層工程(S2))。このとき、各部材は、
図1に示した全固体電池10の積層構造、すなわち、正極集電体11A、正極層12A、固体電解質層13、負極層12B、負極集電体11B、の順番となるようにして積層すればよい。ここで用いる各部材の材料としては、上記全固体電池の構成で説明した材料が挙げられる。
【0080】
このようにすることで、
図1および
図2に示した本実施の形態の全固体電池を製造することができる。このとき、例えば、負極層用の電極板を浸漬工程(S1)に付した場合、
図2に示したように、負極層12Bと固体電解質13との接触界面に形成されている複数の微小な間隙に、負極層用の電極板が含有、保持する電解液が染み出し、間隙の内部に電解液21を有する状態となる、この間隙には、電解液が満たされるようになっていることが好ましい。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態における全固体電池および全固体電池の製造方法は、電極層と固体電解質層との接触状態を改善でき、それによって、充放電を効率的に実施可能とする全固体電池を提供できる。また、固体電解質層と両電極層との間の接触状態を改善することで、加圧等をしなくても充電可能とすることもでき、充放電を簡易な構成、操作で、実施可能とする全固体電池を提供できる。
【実施例0082】
以下、本実施の形態について、実施例を参照しながら、さらに詳細に説明する。
(実施例1)
負極活物質としてグラファイトを49.91質量%、固体電解質としてランタンジルコン酸リチウム(LLZ)を40.06質量%、バインダーとしてポリアミドイミドを10.03質量%、からなる負極層用の電極板を、負極集電体としてステンレス鋼製の基板を用意した。
【0083】
また、正極活物質として塩化銅(CuCl2)を65.02質量%、固体電解質としてLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2系固体電解質(商品名:LICGC-PW01、株式会社オハラ製)を12.50質量%、導電助剤としてアセチレンブラックを12.51質量%、バインダーとしてポリアミドイミドを9.97質量%、からなる正極層用の電極板としては、正極集電体となるステンレス鋼製の基板の上に積層したものを用意した。
【0084】
さらに、固体電解質層として、板状のLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2系固体電解質(商品名:LICGC-AG01、株式会社オハラ製;厚さ0.150mm)を用意した。
【0085】
次いで、負極層用の電極板にリチウム金属を貼り付け、これを電解液中に一晩放置して浸漬し、プレドープを行った。ここで用いた電解液は、1M濃度となるように電解質を溶解したもので、溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とからなる混合溶媒〔EC:DMC(1:1v/v%)〕を、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用いた。
【0086】
このようにして用意した各部材を、
図1に示した構成となるように積層して全固体電池1を製造した。
【0087】
(比較例1)
実施例1とは、負極層用の電極板を電解液に浸漬するプレドープを行わなかった点のみが異なり、その他は同一の操作により、全固体電池C1を作製した。
【0088】
(試験例)
実施例1で得られた全固体電池1および比較例1で得られた全固体電池C1について、それらの充放電特性を調べた。
【0089】
充放電特性は、充放電モード:CC、環境温度:50℃、カットオフ電圧:3.6-2.4V、充放電レート:0.01C、の条件で、全固体電池に対する加圧を行わない状態で行った。このとき得られた、実施例1の充放電の結果を
図4に示した。
【0090】
図4によれば、全固体電池1は、充電および放電できることが確認された。一方、全固体電池C1は、上記加圧しない条件では充放電できなかった。
【0091】
この結果から、本実施の形態の全固体電池は、従来のように加圧しながら充放電を行わなくても、その作用を奏することができ、簡易な構成でありながら、充放電特性を示せることがわかった。
【0092】
以上、本発明について、実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。