(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122264
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】メタン生成用の触媒、およびメタン生成方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/78 20060101AFI20240902BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20240902BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20240902BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20240902BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
B01J23/78 M
B01J37/18
C07C9/04
C07C1/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029710
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】村上 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼地 春菜
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC03B
4G169BC09B
4G169BC10B
4G169BC57A
4G169BC65A
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4G169BC66B
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4G169FB65
4G169FB77
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA02
4H006BA06
4H006BA19
4H006BA30
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006BE41
4H039CA10
(57)【要約】
【課題】メタネーション反応の効率を向上させることを目的とする。
【解決手段】メタン生成用の触媒は、多孔質炭化物と、多孔質炭化物に担持された触媒成分と、を備え、触媒成分が、周期表の第6族または第8族に属する金属であって、還元作用を備える。メタン生成用の触媒は、600℃以上の耐熱性を有してもよい。多孔質炭化物、周期表の第6族または第8族に属する金属元素の金属粉末、およびその他の成分の合計質量を100質量%としたとき、多孔質炭化物の含有率は、50質量%以上90質量%以下の範囲で含まれ、金属元素を含む金属粉末の含有率は、4.5質量%以上25質量%以下の範囲で含まことができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭化物と、
前記多孔質炭化物に担持された触媒成分と、を備え、
前記触媒成分が、周期表の第6族または第8族に属する金属であって、還元作用を有する、
メタン生成用の触媒。
【請求項2】
600℃以上の耐熱性を有する、請求項1に記載のメタン生成用の触媒。
【請求項3】
前記多孔質炭化物、前記周期表の第6族または第8族に属する金属元素の金属粉末、およびその他の成分の合計質量を100質量%としたとき、
前記多孔質炭化物の含有率は、50質量%以上90質量%以下の範囲で含まれ、
前記金属元素を含む金属粉末の含有率は、4.5質量%以上25質量%以下の範囲で含まれる、請求項1に記載のメタン生成用の触媒。
【請求項4】
前記周期表の第8族に属する金属元素は還元鉄である、請求項1に記載のメタン生成用の触媒。
【請求項5】
前記多孔質炭化物は、バイオマスを炭化して調製される多孔質炭化物である、請求項1に記載のメタン生成用の触媒。
【請求項6】
多孔質炭化物および前記多孔質炭化物に担持された触媒成分を含むメタン生成用の触媒が充填された反応器に、二酸化炭素及び水素を供給し、
前記反応器を750℃以上850℃に加熱し、
前記反応器から排出されるメタンを含むガスを回収することを含み、
前記触媒成分が、周期表の第6族または第8族に属する金属元素の金属粉末である、
メタン生成方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素および水素の供給後、前記反応器内の圧力を0.2MPaG以上3.0MPaG未満に昇圧する、
請求項6に記載のメタン生成方法。
【請求項8】
前記反応器に二酸化炭素及び水素を供給する前に、前記反応器に充填された前記触媒に還元処理を行う、
請求項6に記載のメタン生成方法。
【請求項9】
回収される前記ガスは、エタンを含む、
請求項6に記載のメタン生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、メタン生成用の触媒に関する。あるいは、本発明の実施形態の一つは、このメタン生成用の触媒を用いるメタン生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料として用いるガスの脱炭素化技術のうち、二酸化炭素と水素から触媒を用いて熱化学的に反応させ、メタンを生成する技術が注目されている。メタンを生成させるメタネーション反応には、Ni系やRu系の還元性貴金属類が用いられ、その担体には安定な酸化アルミニウムなどの金属酸化物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、メタネーション反応の効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、メタン生成用の触媒である。このメタン生成用の触媒は、多孔質炭化物と、多孔質炭化物に担持された触媒成分と、を備え、触媒成分が、周期表の第6族または第8族に属する金属であって、還元作用を有する。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、メタン生成方法である。このメタン生成方法は、多孔質炭化物および多孔質炭化物に担持された触媒成分を含むメタン生成用の触媒が充填された反応器に、二酸化炭素及び水素を供給し、反応器を750℃以上850℃に加熱し、反応器から排出されるメタンを含むガスを回収し、触媒成分が、周期表の第6族または第8族に属する金属元素の金属粉末である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態に係るメタン生成用の触媒は、多孔質炭化物に、メタネーション反応を起こす第6族または第8族の金属元素を担持させることにより、600℃以上の高温でメタネーション反応を起こすことができ、同時に多孔質炭化物がメタネーション反応の二酸化炭素又は一酸化炭素の供給源となり、メタンの生成量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るメタン生成用の触媒の製造方法を示すフローチャート。
【
図2】本発明の実施形態に係るメタン生成方法を示すフローチャート。
【
図3】本発明の実施形態に係るメタン生成用の触媒の試験装置の概略図。
【
図4】本発明の実施形態に係るメタン生成用の触媒の熱電対温度測定位置の概略図。
【
図6】実施例のGC-FID分析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
以下、本発明の実施形態の一つに係るメタン生成用の触媒と、メタン生成方法について説明する。本発明は、下記で示す化学反応式(1)のメタネーション反応、および式(2)のCO転換反応を用いたメタン生成方法に関する。
CO2+4H2 → CH4+2H2O (1)
CO+3H2 → CH4+H2O (2)
式(2)で示すCOは、式(3)で示す逆シフト反応により生成される。
CO2+H2→CO+H2O (3)
【0011】
1.メタン生成用の触媒の構成
メタン生成用の触媒は、多孔質炭化物を基本骨格として備え、さらに触媒成分である第6族または第8族に属する金属元素を含む金属粉末、およびバインダを含む。さらに、メタン生成用の触媒は、アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の化合物を含んでもよい。以下、メタン生成用の触媒を構成する各成分について説明する。
【0012】
1-1.多孔質炭化物
多孔質炭化物は、有機物を低酸素濃度の条件下、加熱・炭化することで製造される炭化物である。有機物としては、バイオマスが例示される。バイオマスとは有機物の一種である、生体由来の物質とその代謝物を指す。例えば木に由来する材料がバイオマスとして挙げられる。具体的には、板状や柱状の木材、間伐材、剪定廃材、建築廃木材、粉末状のおがくず、パーティクルボートなどの木製成形品が挙げられる。木の種類に制約はなく、スギやヒノキ、竹でもよい。あるいは籾殻、バガス、トウモロコシの軸や葉などの農業廃棄物、藁や麦わら、乾草などの農業副産物もバイオマスの一例として挙げられる。あるいは麻や亜麻、綿、サイザル麻、アバカ、ヤシ毛などの繊維の原料となる植物が挙げられる。あるいは海藻などの藻類でもよい。あるいは、食品残渣、動物の糞尿が挙げられる。つまり、本発明の多孔質炭化物は主に廃棄物から製造される炭化物であって、活性炭とは区別される。
【0013】
多孔質炭化物の大きさや形状は特に限定されないが、好ましくは、多孔質炭化物の平均粒径は1μm以上50mm以下または1μm以上1mm以下である。この範囲に平均粒径を有することで、後述する混合、混練工程において、多孔質炭化物や金属粉末を均一に混合することができる。
【0014】
本発明の多孔質炭化物の比表面積は、活性炭の比表面積と比べると1/10または1/100ほど小さいが、多孔質炭化物の比表面積は内部に形成される細孔に起因し、具体的には、多孔質炭化物の比表面積は、100m2/g以上900m2/g以下、100m2/g以上800m2/g以下、または150m2/g以上400m2/g以下である。比表面積は、水銀圧入法やBJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)またはHK法(Horvath-Kawazoe法)に例示されるガス吸着法などを用いて測定される。
【0015】
1-2.金属粉末
金属粉末は、周期表の第6族または第8族に属する還元された金属が主であり、多孔質炭化物に添加される。そのため、本発明の金属元素は還元作用を備える。本発明のメタン生成用の触媒は、還元性の高い周期表の第6族または第8族に属する金属元素を含むことを特徴とする。周期表の第6族または第8族に属し、還元作用を備える金属元素として、例えば、クロム、鉄などをあげることができる。特に、周期表の第8族に属する金属元素は、鉄であることが好ましい。以下、周期表の第6族または第8族に属する金属元素として、鉄を中心に記載するが、その他の第6族または第8族に属する金属元素に置き換えて解釈することができる。
【0016】
鉄の還元力としては、0価の鉄が最も大きく、次に2価の鉄が大きく、次に3価の鉄が大きいという順である。したがって、本発明のメタン生成用の触媒は、鉄としては還元性の高い0価の鉄(金属鉄)を主成分として含む。このようにすることで、メタネーション反応に加えて、COからメタンを生成するCO転換反応が促進される。CO2からメタンを生成するメタネーション反応も、COからメタンを生成するCO転換反応も、還元反応であるからと考えられる。鉄粉の形状に制約はなく、例えば平均円形度が50以上100以下、70以上95以下または80以上90以下の鉄粉を用いてもよい。ここで平均円形度とは、還元鉄粉に含まれる各鉄粒子の形状を表すパラメータの一つであり、還元鉄粉を顕微鏡観察して得られる画像を解析し、複数の鉄粒子について円形度を求め、それを平均した値である。円形度としては、例えば顕微鏡像中の各鉄粒子の投影面の周囲長で投影面の面積と等しい面積の円の周囲長を除した値を用いることができる。あるいは、投影面を内接する円の面積で投影面の面積を除した値を円形度として採用してもよい。
【0017】
還元鉄粉の平均粒径は比較的大きく、20μm以上500μm以下または50μm以上200μm以下である。さらに、還元鉄粉に含まれる全鉄粒子のうち、1)1μm以上150μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が3質量%以上70質量%、2)1μm以上75μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が0質量%以上25質量%以下、3)1μm以上45μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合粉が0質量%以上15質量%以下、4)150μm以上2000μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が30質量%以上99質量%以下、かつ、5)600μm以上2000μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が0質量%以上15質量%以下であって、同時に、少なくとも1)から3)のいずれか一の鉄粒子の割合と4)または5)の鉄粒子の割合との合計が100質量%である粒径分布を有する還元鉄粉を用いてもよい。上記のパラメータを満たす還元鉄粉を用いることで、着火性を抑制することができる。ここで、還元鉄粉の平均粒径とは、鉄粉を顕微鏡観察して得られる画像を解析し、複数の鉄粒子について粒径を求め、それを平均した値である。各鉄粒子の粒径としては、例えば顕微鏡像中の各鉄粒子の投影面を内接する円の直径または正方形の一辺の長さを採用することができる。
【0018】
還元鉄粉には微量の他の元素が含まれていてもよい。他の元素としては、炭素や酸素、硫黄、リン、マンガン、ケイ素、バナジウム、銅、チタンなどが挙げられる。したがって、鉄粉の純度は、90.0%以上99.9%以下または95.0%以上99.0%以下でもよい。
【0019】
なお、還元鉄粉の一部は酸化された状態、すなわち鉄化合物として触媒に含まれていてもよい。鉄化合物としては、酸化鉄や水酸化鉄が挙げられる。鉄化合物に含まれる鉄は、2価、3価、あるいは2価と3価の原子価が混合した混合原子価の状態で存在してもよい。ただし、本発明のメタン生成用の触媒は、還元性の高い鉄を含む。したがって、2価あるいは3価の鉄化合物を含んでも良いが、メタン生成用の触媒に含有される鉄の総質量に対して2割未満が2価および3価の鉄化合物となるような比率とする。換言すれば、メタン生成用の触媒に含有される鉄の総質量に対して8割以上を0価の鉄となるようにする。このように還元鉄を含むことで、メタネーション反応、COからメタンを生成するCO転換反応、および逆シフト反応が促進される。
【0020】
メタン生成用の触媒に含まれる金属化合物は、還元鉄粉の一部が酸化することで生成する酸化鉄や水酸化鉄のほか、酸化鉄粉として多孔質炭化物に添加されてもよい。酸化鉄粉としては、2価、3価、またはこれらの混合原子価の酸化鉄の粉を用いることができる。酸化鉄粉には、2価、3価、またはこれらの混合原子価の水酸化鉄が含まれてもよい。酸化鉄粉の粒径や粒径分布、円形度は、鉄粉のそれらと同様でもよい。ただし、2価および3価の酸化鉄粉の比率は、鉄総質量の2割未満とする。
【0021】
1-3.バインダ
バインダは、後述するメタン生成用の触媒の製造工程において多孔質炭化物や還元鉄粉を効率よく分散させ、鉄を多孔質炭化物と一体化させるために用いられる。バインダの種類に制約はないが、有機系バインダおよび/または無機系バインダを用いることができる。有機系バインダとしては、例えば糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルとエチレンの共重合体若しくはそのケン化体、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、およびタールピッチなどから選択される一つまたは複数が挙げられる。中でも糖蜜は安価で有害成分が少なく、固形成分が多いため、糖蜜を用いることで触媒の成形が容易となる。無機系バインダとしては、例えばセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、石膏(硫酸カルシウム)や石膏を加熱・脱水して得られる焼石膏、ケイ酸ナトリウム、貝殻灰、卵殻石灰等が例示される。
【0022】
1-4.アルカリ金属とアルカリ土類金属の化合物
アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、マグネシウム、およびカルシウムのハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩が挙げられる。これらの化合物は、メタン生成用の触媒の製造時に添加してもよいが、多孔質炭化物の原料としてバイオマスを用いる場合、バイオマスに含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物であってもよい。
【0023】
1-5.組成比
上述した構成の組成比は適宜調整することができる。例えば、多孔質炭化物、周期表の第6族または第8族に属する金属元素の金属粉末、およびその他の成分の合計質量を100質量%としたとき、メタン生成用の触媒における多孔質炭化物の含有率は、50質量%以上90質量%以下、または60質量%以上80質量%以下の範囲で調整すればよい。周期表の第6族または第8族に属する金属元素の金属粉末、例えば、鉄粉(還元鉄粉および酸化鉄粉を含む)の含有率は、4.5質量%以上25質量%以下、または4.5質量%以上20質量%以下の範囲で調整すればよい。また、その他の成分として、バインダ、アルカリ金属とアルカリ土類金属の化合物などが含まれ、バインダの含有率は、4.5質量%以上24質量%以下、または4.5質量%以上20質量%以下の範囲で調整すればよい。アルカリ金属とアルカリ土類金属の化合物含有率の和は、1質量%以上15質量%以下、または1質量%以上10質量%以下の範囲で調整すればよい。
【0024】
あるいは、メタン生成用の触媒における炭素の含有率は、10質量%以上90質量%以下の範囲から調整してもよい。メタン生成用の触媒における鉄の含有率(すなわち、0価の鉄と鉄イオンを含む鉄元素の含有率)は、5質量%以上35質量%以下の範囲から調整してもよい。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属の含有率の和は、1質量%以上30質量%以下の範囲から調整してもよい。
【0025】
メタン生成用の触媒中の多孔質炭化物の含有率の測定では、まず、原料段階にある多孔質炭化物の炭素含有率を測定する。例えば燃焼・赤外線吸収法を利用し、JIS H1617、JIS Z2615、およびASTM E1941に準拠した方法を採用すればよい。具体的には、原料段階にある多孔質炭化物を燃焼炉において酸素気流下で燃焼させて二酸化炭素を生成する。生成した二酸化炭素を、酸素ガスを用いて赤外線分析計に導入し、その吸収を検出器で測定することで二酸化炭素の濃度を決定する。この二酸化炭素の濃度から原料段階にある多孔質炭化物の炭素の質量が多孔質炭化物の質量として定量される。その後、原料段階にある多孔質炭化物、この多孔質炭化物と混合されるバインダ、鉄粉、酸化鉄粉、水などの他の原料の質量から多孔質炭化物の含有率を決定すればよい。鉄粉、酸化鉄粉、およびバインダの含有率も、触媒の製造工程で使用される鉄粉、酸化鉄粉、バインダ、多孔質炭化物、水などの質量から算出すればよい。
【0026】
アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の含有率の和は、例えば触媒に対して誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を適用することで測定することができる。ICP-OESでは、アルゴンプラズマを発光光源として使用し、霧状にした溶液試料をプラズマに導入することで、アルカリ金属とアルカリ土類金属固有のスペクトルを分光し、測定波長および発光強度から、アルカリ金属とアルカリ土類金属を定量することができる。ICP-MSは、アルゴンプラズマをイオン源として用い、試料に含まれる元素をイオン化し、イオンを質量電荷比に基づいて分離し検出する方法である。検出されたイオンの質量電荷比から元素を特定することができるとともに、検出されたイオンをカウントすることによりアルカリ金属とアルカリ土類金属を定量することができる。
【0027】
一方、メタン生成用の触媒における炭素の含有率は、触媒に対して上記燃焼・赤外線吸収法を適用することで求めることができる。なお、メタン生成用の触媒における炭素の含有率は、多孔質炭化物中とバインダに主に由来する炭素の含有率である。鉄元素の含有率もICP-OESまたはICP-MSをメタン生成用の触媒に適用することで測定可能である。
【0028】
2.メタン生成用の触媒の製造方法
2-1.多孔質炭化物の調製
メタン生成用の触媒の製造方法の一例を
図1のフローチャートに示す。まず、多孔質炭化物を調製する。多孔質炭化物は、バイオマスなどの有機物を原料として用い、窒素ガス若しくはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、無酸素雰囲気下、低酸素雰囲気下、還元雰囲気下、または減圧雰囲気下、有機物を加熱することによって得ることができる。炭化を減圧雰囲気下で行う場合、10
2Pa以上10
5Pa以下の低真空状態、10
-1Pa以上10
2Pa以下の中真空状態、10
-5Pa以上10
-1Pa以下の高真空状態、または10
-5Pa以下の超高真空状態で行うことができる。炭化を低酸素雰囲気下で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下または0.1%以上2%以下で行うことができる。炭化における加熱温度は、400℃以上1200℃以下、500℃以上1100℃以下、600℃以上1000℃以下、または600℃以上900℃以下とすればよい。加熱時間は10分以上10日以下、または10分以上5時間以下とすればよい。
【0029】
炭化は、内燃式または外熱式の炭化炉を用いて行われる。炭化炉としては、バッチ式の密閉型の炭窯炉や連続式のロータリーキルン、揺動式炭化炉、スクリュー炉などが挙げられる。バイオマスの炭化によって乾留ガスが発生するとともに、バイオマスの構造に起因する孔と、乾留ガスの脱離によって形成される細孔が複雑に混ざり合った、様々な形状と大きさを有する細孔が形成された多孔質炭化物が生成する。後述するように、メタン生成用の触媒の製造では、多孔質炭化物に鉄粉が混合される。上述したように、鉄粉は、還元鉄粉または鉄化合物、またはその両方を含む。還元鉄粉の一部は酸化され、酸化鉄粉として混合されてもよい。混合された還元鉄粉の一部が多孔質炭化物の細孔に取り込まれることで、多孔質炭化物の表面と内部に還元鉄が取り込まれ、これがメタネーション反応およびCO転換反応に寄与するものと考えられる。
【0030】
2-2.還元作用を備える金属とバインダとの混合
次に、多孔質炭化物に対し、還元作用を備える金属として、還元鉄粉、およびバインダを混合してメタン生成用の触媒を製造する。還元鉄粉に加えて、還元鉄粉の一部が酸化した酸化鉄粉を混合してもよい。本明細書では、還元鉄粉と酸化鉄粉をまとめて鉄粉という。多孔質炭化物は、予め破砕や分級を行ってその粒径を調整してもよい。多孔質炭化物の粒径は鉄粉の粒径よりも大きい場合が多いため、鉄粉の粒径と略同じになるように多孔質炭化物を破砕してもよい。多孔質炭化物、バインダ、鉄粉の量は、上述した範囲の組成比が得られるように適宜調整される。
【0031】
多孔質炭化物、鉄粉、およびバインダを混合した後、この混合物を練り込む(混練)。混練機としては、単軸スクリュー混練機、二軸スクリュー混練機、ミキシングロール、ニーダ、またはバンバリーミキサなどを用いればよい。例えば、混練機に多孔質炭化物および鉄粉を投入して混合し、引き続き、混練機にバインダを投入して混練する。バインダは一度に加えてもよく、断続的に加えてもよく、連続的に加えてもよい。多孔質炭化物および鉄粉を混合した後にバインダを加えて混練することで、多孔質炭化物と鉄粉の凝集を防ぎ、発泡を抑制することができる。混練温度は任意に設定することができ、例えば0℃以上50℃以下、または10℃以上40℃以下とすればよい。混練時間も原料の混合比や量、バインダの種類、混練機の容量などを考慮して適宜設定すればよく、例えば1秒以上1時間以下、1分以上30分以下、または1分以上15分以下の範囲から設定すればよい。
【0032】
混合・混練を行う際、必要に応じて水が加えられる。水を添加することで、粉塵の発生を防止することができるとともに、多孔質炭化物と鉄粉をより均一に混合することができる。さらに混合・混練の際、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の化合物を添加してもよい。
【0033】
以上の操作により、多孔質炭化物、バインダ、および鉄粉が混合された粉体混合物をメタン生成用の触媒として得ることができる。なお、上述したように、鉄粉は一部が酸化されて鉄化合物を含む場合がある。また、この工程において、鉄粉の一部が酸化されることがあり、その結果、酸化鉄粉を用いない場合でもメタン生成用の触媒は鉄化合物を含むことになる。鉄化合物としては、上述したように、水酸化鉄や酸化鉄が例示される。ただしその割合としては、鉄化合物の質量は、メタン生成用の触媒の鉄総質量に対して2割未満とする。
【0034】
2-3.造粒
各材料が混合された粉体混合物であるメタン生成用の触媒を造粒して、一定の形状に成形する。メタン生成用の触媒の成形は造粒機を用いて行うことができる。造粒機としては、圧縮型造粒機、押出型造粒機、ロール型造粒機、ブレード型造粒機、溶融型造粒機、または噴霧型造粒機などが例示される。
【0035】
押出型造粒機を用いる場合には、造粒機に装着されたダイスから所定の形状に成形されたペースト状のメタン生成用の触媒が押し出される。押し出されたメタン生成用の触媒は、所定の長さで切断され、押出方向が高さ方向となるペレット形状へ成形される。押出型造粒機におけるメタン生成用の触媒の押出速度と切断速度(回転切断方式であれば、カッターの回転速度)を調整することで、メタン生成用の触媒の長さ(ペレット形状の高さ)を調整することができる。また、ダイスの開口径を調整することで、メタン生成用の触媒の径(断面形状が円形の場合は直径)を調整することができる。このため、押出型造粒機を用いることにより、大きさが制御されたペレット形状(例えば、略円柱状)を有するメタン生成用の触媒を得ることができる。
【0036】
ペレット形状の大きさは任意に設定すればよく、例えば各ペレットの長さは、1mm以上20mm以下、3mm以上15mm以下、6mm以上12mm以下とすればよい。断面形状が円形の場合、ペレットの直径は、1mm以上20mm以下、1mm以上10mm以下、または3mm以上8mm以下とすればよい。
【0037】
成形後のメタン生成用の触媒の断面形状(長手方向に垂直な断面)は、円形に限られない。メタン生成用の触媒の断面形状は、例えば、楕円形または多角形などであってもよい。すなわち、成形後のメタン生成用の触媒は、円柱だけでなく、楕円柱または多角柱のペレット形状であってもよい。メタン生成用の触媒の断面形状は、ダイスの開口形状を変えることで変更することができる。この造粒工程は、後述する乾燥工程の後に行ってもよい。
【0038】
2-4.乾燥(養生)
任意の工程として、メタン生成用の触媒に対して乾燥(養生)工程を施してもよい。乾燥温度と時間も、触媒の量や含まれる水の量に応じて適宜選択される。例えば30℃以上400℃未満、50℃以上300℃以下、100℃以上300℃以下の範囲から乾燥温度を選択すればよい。乾燥時の湿度は、20%以上95%以下、または50%以上90%以下でもよい。乾燥時間も1分以上1週間以下、1時間以上3日以下、または3時間以上1日以下の範囲から適宜選択される。乾燥の際の雰囲気も、例えば空気、窒素、アルゴンなどの希ガス、あるいはこれらの混合でもよい。
【0039】
3.メタン生成方法
メタン生成方法の一例を
図2のフローチャートに示す。まず、メタン生成用の触媒を反応器に充填し、メタン生成用の触媒の還元処理を行う(S101)。例えば、メタン生成用の触媒が充填された反応器を水素(H
2)などの還元性ガスと窒素(N
2)などの不活性ガスの混合ガス雰囲気下、メタン生成用の触媒を350℃~450℃の温度で電気炉等を用いて1時間~2時間程度加熱し、メタン生成用の触媒を還元処理することができる。混合ガスには、10%水素ガスと90%窒素ガスを用いればよい。なお、この還元処理(S101)は、省略してもよい。
【0040】
次に、ガス流量調整として、メタン生成用の触媒が充填された反応器に二酸化炭素(CO2)ガスを流通させ、反応器の入口出口ガス流量を一致させる(S102)。このとき、二酸化炭素ガスを用い、常温、常圧で流通させる。
【0041】
反応器の入口出口ガス流量が一致することが確認できたら次に、反応器内の圧力を常温で昇圧させる(S103)。反応器内の圧力は、0.2MPaG以上3.0MPaG未満、好ましくは0.5MPaG以上2.0MPaG以下、さらに好ましくは、0.8MPaG以上1.0MPaG以下に昇圧させる。
【0042】
続いて、反応器を上記高圧下、メタネーションの反応温度に昇温する(S104)。反応器は、600℃以上1000℃以内、好ましくは750℃以上850℃以内になるまで電気炉等で昇温される。このように、反応器を高温に加熱することで、メタン生成用の触媒も上記温度に加熱される。メタン生成用の触媒は、600℃以上の耐熱性を有し、また、高温での反応により反応効率を向上させることができる。
【0043】
メタネーション反応温度まで昇温後、さらに、反応器に供給するガスを水素ガスと二酸化炭素ガスに切り替える(S105)。CO転換反応のため、反応器に供給するガスとして、一酸化炭素ガスを加えてもよい。水素ガスと二酸化炭素ガスは、流量比混合法などを用いて反応器へ供給されてもよく、両者の混合ガスを用いてもよい。水素ガスと二酸化炭素ガスの成分比は、例えば、メタネーション反応の化学量論比と同等な80%水素ガスと20%二酸化炭素ガスを用いることができる。このように、二酸化炭素と水素を出発材料としてメタン生成用の触媒を用いたメタネーション反応を開始することができる。ここで、反応器内を通過するガス量は、メタン生成に用いる装置の構造、加熱温度に合わせて設定すればよく、SV=1000~3000h-1となるようにSV値を設定すればよい。例えば、800℃に加熱温度を設定する場合、SV=1250h-1に設定することができる。または、設定温度まで多段階加熱を行う場合、反応器またはメタン生成用の触媒の温度を600℃未満の温度まで加熱するときはSV=2500h-1に設定し、その後600℃以上の温度まで加熱するときはSV値を1250[h-1]に設定することもできる。
【0044】
最後に、反応器から排出されるガスを回収する(S106)。反応器から排出されたガスは、チラー等で冷却された気液分離機に通過させ、メタンと同時に生成される水を除去し、メタンを回収する。排出されたガスには、メタンと水の他に副生成物として、エタンも含まれてもよく、メタンと同様に回収することができる。
【0045】
エタンは、メタンと同様に気体燃料として活用することができ、生成されたエタンがメタンと同物質量である場合、エタンのエネルギー量はメタンのエネルギー量のおよそ2倍高いため、より熱効率の高い燃料を得ることができる。
【0046】
本実施形態では、メタン生成用の触媒は、多孔質炭化物と多孔質炭化物に担持された触媒成分とを備え、触媒成分が周期表の第6族または第8族に属し、還元作用を備える金属元素であるため、耐熱性を有し、メタネーション反応を高温下で行うことができる。これにより、メタネーション反応に必要な炭素が、二酸化炭素および一酸化炭素(CO)からだけでなくメタン生成用の触媒、特に多孔質炭化物からも供給されることにより、メタンの生成量が増大するため、メタネーション反応の効率を向上させることが可能なメタン生成用の触媒およびそれを用いたメタン生成方法を提供することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、メタン生成用の触媒に含まれる多孔質炭化物がバイオマス由来であるため、カーボンマイナスを可能とするメタン生成用の触媒およびそれを用いたメタン生成方法を提供することができる。
【0048】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0049】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【実施例0050】
以下、本発明の実施形態の一つに係るメタン生成用の触媒の製造、およびメタン生成用の触媒を用いたメタン生成を評価した結果について述べる。
【0051】
[実施例1]
1.メタン生成用の触媒の製造
原料となる多孔性炭化物として、不定形状の木炭(木質バイオマスガス化発電廃炭)を用いた。この木炭に、300μm以上2000μm以下の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が45質量%、75μm以上300μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が45質量%、1μm以上75μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が10質量%の還元鉄粉、バインダである高炉スラグ微粉末、および水を加え、室温で30分間混練して粉体混合物を得た。得られた粉体混合物を造粒機に投入し、直径4mm、高さ10mmのペレット形状に成形した。その後、成形した粉体混合物を20℃において24時間乾燥(養生)して実施例1のメタン生成用の触媒を得た。
【0052】
得られたメタン生成用の触媒の特性を表1に纏める。メタン生成用の触媒の元素組成については、炭素の組成は燃焼・赤外線吸収法を用いて決定し、他の金属元素の組成はICP-MSを用いて決定した。水の量は、乾燥減量法を用いて測定した。
【0053】
【0054】
[実施例2]
1.メタン生成
以下、本発明の実施形態の一つに係るメタン生成用の触媒を評価した結果について述べる。
1-1.触媒
メタン生成用の触媒20mlを、メスシリンダー(50ml容積)を用い、秤量した。触媒への水分吸着を考慮し、乾燥機を用いて120℃、18時間で事前に触媒を乾燥させた後、重量を測定し、反応器に充填した。表2は、触媒の組成を示し、表3は、触媒の重量測定結果を示す。
【0055】
【0056】
1-2.試験手順
以下に示す手順にて、メタン生成用の触媒の試験を実施した。表2に示すように、触媒には、カルシウム(Ca)等が含まれるためカルシウムが二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムとして触媒に付着している可能性がある。そのため、触媒への二酸化炭素(CO2)吸着を考慮し、手順6として、手順7のメタネーション反応の評価開始前にCO2を吸着させた状態で300℃に昇温し、触媒からCO2の脱離を行った。
1.触媒充填、還元処理(10%-H2/90%-N2,400℃,1時間)
2.窒素雰囲気下で降温し、室温にて静置
3.常温、常圧にてCO2ガスを反応器に流通させ、反応器の入口および出口においてガスが一致することを確認
4.CO2ガスを常温、0.8MPaGにて反応器に流通させ、反応器の入口および出口においてガス流量が一致することを確認
5.昇温開始
6.CO2ガスを300℃、0.8MPaGにて反応器に流通させ、反応器の入口および出口においてガス流量が一致することを確認
7.H2/CO2=80%/20%ガスに切り替え、メタネーション反応を開始
8.所定のSVの条件にて、各温度の試験を実施
【0057】
1-3.試験条件
試験は、SV=2500h-1にて反応管の入口温度および触媒の温度を300℃から600℃まで100℃刻みで昇温した。各温度での安定化時間は、1時間程度とした。600℃に昇温後、SV=2500h-1の試験を実施後に、SVを2500h-1の半分の1250h-1に切り替え、試験を実施した。最後に、SV=1250h-1にて800℃に昇温し、試験を実施した。表4に、試験条件を示す。
【0058】
【0059】
1-4.試験装置
図3は、メタン生成用の触媒の試験装置10の概略図を示す。
図4は、メタン生成用の触媒の熱電対108温度測定位置を示す。
【0060】
試験装置10は、マスフロー100、圧力ゲージ102、反応器104、電気炉106、熱電対108、記録計110、チラー112、気液分離機114、背圧弁116、マイクロGC118、ガスメーター120、ガスバッグ122を備え、それらは複数の管124で接続されている。
【0061】
メタン生成用の触媒に供給するガスには、H
2ガス、CO
2ガス、N
2ガスを用い、それぞれマスフロー100-1、マスフロー100-2、およびマスフロー100-3によりメタン生成用の触媒(試料126)に供給する。反応器104内の圧力は、マスフロー100と反応器104の間に配置される圧力ゲージ102を用いて測定する。
図4に示すように、試料126をSUS製の反応器104に長さD1(70mm)となるように充填し、アルミナ128を試料126と圧力ゲージ102との間に長さD2(100mm)となるように充填した。
【0062】
反応器104は電気炉106を用いて加熱される。試料126およびアルミナ128の温度は熱電対108により測定され、温度履歴を記録計110(ロガー)により記録される。
図4に示すように、熱電対108は熱電対挿入用さや管108Tを介して挿入され、熱電対108による温度測定点108Pを、試料126の入口108P-1(アルミナ128)、試料126の上部108P-2、中心部108P-3、および下部108P-4に設定した。試料のガス入口108P-1は、アルミナ128の中間の位置となるように試料から長さD3(50mm)の位置にあり、試料126の上部108P-2、中心部108P-3、および下部108P-4は、それぞれ長さD4(17.5mm)の等間隔で互いに配置される。
【0063】
気液分離機114は、試料126から排出されたガスを通して、ガスに含まれる水(H2O)をトラップし、水と分離させる。気液分離機114により水と分離された排出ガスは、マイクロマイクロGC118を用いてガス濃度の分析が行われる。また、空間速度(SV)は、ガスメーター120を用い測定される。ガスメーター120には、乾式ガスメーターを用いる。上記表4の試験条件の各設定温度にて、水と分離した後の排出されたガスはガスバッグ122に捕集される。ガスバッグ122には、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS分析)用にアルミ製を用い、捕集したガスはGC-MS分析が行われる。
【0064】
1-5.ガス濃度分析
水と分離した後の排出されたガスの成分について、分析を行った。試料126の設定温度およびSVが安定したことを確認した後、管124-2から上記ガスを直接捕集し、マイクロマイクロGC118を用い、ガス成分について測定を行った。表5は、ガス成分の分析方法および分析条件を示す。
【0065】
【0066】
1-6.GC-MS分析方法
ガスバッグ122に捕集したガスのGC-MS分析を行った。炭素数が2(C2)以上であるガス成分について、上述したメタネーション反応での生成物の有無を確認した。表6は、GC-MS分析の分析条件を示す。
【0067】
【0068】
2.試験結果
【0069】
2-1.反応試験結果と炭素収支
メタネーション反応の設定温度を300℃から800℃まで昇温させ、各温度におけるメタン(CH4)の検出量を確認した。表7は、試験条件と試験結果、および炭素収支を示す。表中のガス濃度は、反応器出口のガス濃度である。
【0070】
CH4のガス濃度を参照すると、SV=2500h-1において、設定温度300℃ではCH4は検出されず、設定温度500℃までCH4はほとんど検出されなかった。SV=2500h-1において、設定温度600℃では、検出されたCH4は0.15vol%であった。ここで、表7のCOのガス濃度を参照すると、設定温度の上昇とともに検出されたCOのガス濃度も増加している。SV=2500h-1において設定温度300℃では、COのガス濃度は0.1vol%であったのに対し、設定温度600℃では14.7vol%であった。また、設定温度600℃においてCOのガス濃度が、設定温度500℃のCOのガス濃度と比較して2倍以上になったのは、600℃から700℃程度の温度で進行する反応として知られている逆シフト反応(CO2+H2→CO+H2O)によるものと考えられる。
【0071】
設定温度600℃にて、SVを2500h-1からその半分の1250h-1に変更した。検出されたCH4のガス濃度は、0.15vol%から0.25vol%に増加したものの、1.0vol%にも満たなかった。設定温度を800℃に昇温すると、検出されたCH4のガス濃度は増加し、4.1vol%まで増加した。ここで、SV=1250h-1、設定温度800℃において検出されたCOのガス濃度は17vol%であり、試験結果では最も高い濃度であった。なお、試験時における温度および圧力は、安定して推移していた。
【0072】
表7に示す試験結果より、反応器の入口と出口におけるガスの含炭素量について、CO2とH2ガスの含炭素成分のモル数をガス流量と濃度から算出し、反応器に流通させる前と後の炭素量の収支を算出した。反応器入口の炭素量[mol/min]は、反応器入口ガス流量[NL/min]と反応器の容量から、SV=2500h-1時に0.00748mol/minであり、SV=1250h-1時には0.00374mol/minと算出した。各設定温度およびSVにおける反応器出口の炭素量[mol/min]は、表7に記載の炭素量[mol/min]であった。炭素収支は、上記反応器入口の炭素量[mol/min]と反応器出口の炭素量[mol/min]より算出した。
【0073】
設定温度300℃、SV=2500h-1では、炭素収支が1.0より大きい1.19であった。ここで、排出されたガスのガス濃度を参照すると、COおよびCH4がほとんど検出されず、CO2が多く検出され、さらに反応器出口におけるガス流量が反応器入口におけるガス流量とほぼ同量である。これより、設定温度300℃、SV=2500h-1では、触媒に吸着していたCO2が300℃に昇温したことにより脱離し、反応器出口のCO2のガス濃度が多く検出され、炭素収支が1.0を上回ったと推測される。
【0074】
設定温度400~600℃、SV=2500h-1では、炭素収支がおおよそ1.0で推移し、試料に吸着していたCO2は概ね脱離したと推測される。設定温度600℃、SV=1250h-1では、炭素収支がおおよそ1.0であり、CH4のガス濃度がSV=2500h-1の時より高くなっている。ガス流量(SV)を少なくすることでメタネーション反応の効率が高くなったと考えられる。
【0075】
設定温度800℃、SV=1250h-1では、炭素収支が1.07と1.0をやや上回る結果となり、メタネーション反応の炭素源となる炭素量が7%増加したことが分かる。通常、メタネーション反応の炭素源は、触媒に供給されるCO2および逆シフト反応により生成されるCOである。しかしながら、本触媒は多孔質炭化物を含む。よって、本発明のメタン生成用の触媒に含まれる多孔質炭化物がメタン化反応の炭素源となっていると考えられる。つまり、本発明のメタン生成用の触媒を用いることで、メタネーション反応に必要な炭素が、二酸化炭素および一酸化炭素(CO)からだけでなくメタン生成用の触媒の多孔質炭化物からも供給されることにより、メタン生成量を増大することができた。
【0076】
【0077】
2-2.GC-MS分析結果
設定温度600℃、SV=1250h
-1における反応器出口のガスのGC-MS分析を行った。
図5は、GC-MS分析結果を示す。
図5に示すように、ピークとして検出された成分は、ピーク1およびピーク2の2成分であった。
【0078】
2-3.GC-FID分析
設定温度600℃、SV=1250h
-1における反応器出口のガスのGC-FID(Flame Ionization Detector)を用いた分析を行った。カラムは、GC-MS分析と同じものを使用した。表8は、GC-FID分析条件を示す。
図6は、GC-FID分析結果を示す。
【0079】
【0080】
反応器出口のガスを測定する前に、メタンおよびエタンの標準ガスを測定し、メタンおよびエタン保持時間を確認した。次に、反応器出口のガスを測定した結果、検出されたピークの保持時間は、標準ガスのメタンおよびエタンの保持時間と一致した。したがって、検出されたピークは、メタンとエタンであることが確認でき、GC-MS分析によって推定した化合物と一致することが確認できた。
【0081】
2-4.試験後の触媒
試験前後の性状変化を確認するため、触媒の重量測定を行った。表9は、触媒の重量測定結果を示す。触媒の重量は、試験前10.1354gであり、試験後8.6569gであり、約15%減少した。試験後の触媒の外観はやや白味を帯び、空隙部が増えたように観察された。この減少は、触媒に含まれる多孔質炭化物の炭素がメタン生成の炭素源となり、触媒の重量が減少したものと考えられる。つまり、本発明のメタン生成用の触媒を用いることで、メタネーション反応に必要な炭素が、二酸化炭素および一酸化炭素(CO)からだけでなくメタン生成用の触媒の多孔質炭化物からも供給されることにより、メタン生成量を増大することができた。
【0082】
10:試験装置、100:マスフロー、100-1:マスフロー、100-2:マスフロー、100-3:マスフロー、102:圧力ゲージ、104:反応器、105Pa:以上、106:電気炉、108:熱電対、108P:温度測定点、108P-1:入口、108P-2:上部、108P-3:中心部、108P-4:下部、108T:管、110:記録計、112:チラー、114:気液分離機、116:背圧弁、120:ガスメーター、122:ガスバッグ、124:管、124-1:管、124-2:管、126:試料、128:アルミナ