(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122270
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】搬送車
(51)【国際特許分類】
B60V 3/02 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
B60V3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029721
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】松原 正光
(57)【要約】
【課題】積載する積荷の質量の差異に対応させて駆動輪にかかる輪重を変化させることができる搬送車を提供することを目的とする。
【解決手段】搬送車1は、駆動輪33及びエアキャスタ40と車体10との間に介設され、駆動輪33及びエアキャスタ40を車体10に対して揺動可能に支持する揺動機構60を備えるので、車体10に積載する積荷の質量の差異に対応させて駆動輪33にかかる輪重を変化させることができる。その結果、重量物を搬送する場合であっても、駆動輪33の輪重抜けによるスリップを抑制し、軽量物を搬送する場合であっても、駆動輪33を駆動させる駆動モータ34の負荷を小さくでき、さらに駆動輪33のタイヤ部分の摩耗を進行し難くできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積荷が積載される車体と、その車体に配設され駆動可能に構成される駆動輪と、前記車体に配設され搬送路に向かって圧縮空気が噴射されるエアキャスタとを備えた搬送車において、
前記駆動輪および前記エアキャスタと前記車体との間に介設され、前記駆動輪および前記エアキャスタを前記車体に対して揺動可能に支持する揺動機構を備えることを特徴とする搬送車。
【請求項2】
前記エアキャスタを前記揺動機構に対して揺動可能に軸支する支持軸を備え、
前記揺動機構は、
前記駆動輪および前記エアキャスタを支持する支持体と、
その支持体の前記駆動輪および前記エアキャスタの間に配設され前記支持体を前記車体に対して揺動可能に軸支する揺動軸とを備え、
前記支持軸の軸方向と前記揺動軸の軸方向とが略平行とされることを特徴とする請求項1記載の搬送車。
【請求項3】
前記揺動機構は、
前記駆動輪および前記エアキャスタを支持する支持体と、
その支持体の前記駆動輪および前記エアキャスタの間に配設され前記支持体を前記車体に対して揺動可能に軸支する揺動軸と、
前記支持体が前記揺動軸に軸支される支持位置から前記エアキャスタが前記支持体に支持される第1位置までの第1距離と、前記支持位置から前記駆動輪が前記支持体に支持される第2位置までの第2距離との比を調整可能に構成される調整機構とを備えることを特徴とする請求項1記載の搬送車。
【請求項4】
前記調整機構は、前記第1位置から前記第2位置までの距離を前記第2距離と略同一の距離とすることが可能に構成されることを特徴とする請求項3記載の搬送車。
【請求項5】
前記揺動機構とその揺動機構に支持される前記駆動輪および前記エアキャスタとによって構成される駆動ユニットを備え、
前記駆動ユニットが前記車体の左右方向に並設されることを特徴とする請求項1記載の搬送車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送車に関し、特に、積載する積荷の質量の差異に対応させて駆動輪にかかる輪重を変化させることができる搬送車に関する。
【背景技術】
【0002】
車体と、その車体の左右方向に並設される駆動輪と、搬送路に向かって圧縮空気を噴射して車体を搬送路から浮上させるフロート(エアキャスタ)とを備え、駆動輪がばねによって搬送路に向かって付勢される搬送車が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、車体がエアキャスタにより浮上する量(浮上量)によってばねの付勢力が決定され、駆動輪にかかる輪重は、ばねの付勢力と等しくなる。そのため、積載される積荷の質量の差異によって車体の浮上量が変化する場合、駆動輪にかかる輪重(ばねの付勢力)も変化する。
【0005】
車体を駆動輪によって走行させるためには、重量物を積載する場合に駆動輪にかかる輪重を大きくさせ、軽量物を積載する場合に駆動輪にかかる輪重を小さくさせるように、積荷の質量の差異に対応させて駆動輪にかかる輪重を変化させる必要がある。積載される積荷の質量の差異によって車体の浮上量が変化する場合、上述した従来の技術では、重量物を積載する際に、車体の浮上量が大きくなることによりばねが伸長するので、ばねの付勢力が不足して駆動輪がスリップし易くなる。これに対して、重量物を積載しても駆動輪がスリップしない程度の付勢力となるばねを使用すると、軽量物を積載する際および圧縮空気が無供給の際に浮上量が小さいので、重量物を積載したときよりもばねの付勢力が大きくなる。その結果、ばね及び駆動輪が搬送路に押圧されて必要以上にばね及び駆動輪に負荷がかかり、駆動輪を駆動させるモータの負荷が大きくなったり、駆動輪のタイヤ部分の摩耗が進行し易くなったりする。そのため、積荷の質量に合わせて、ばねを変更しなければならなかった。即ち、積載する積荷の質量の差異に対応させて駆動輪にかかる輪重を変化させることができないという問題点があった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、積載する積荷の質量の差異に対応させて駆動輪にかかる輪重を変化させることができる搬送車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の搬送車は、積荷が積載される車体と、その車体に配設され駆動可能に構成される駆動輪と、前記車体に配設され搬送路に向かって圧縮空気が噴射されるエアキャスタとを備えたものであって、前記駆動輪および前記エアキャスタと前記車体との間に介設され、前記駆動輪および前記エアキャスタを前記車体に対して揺動可能に支持する揺動機構を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の搬送車によれば、駆動輪およびエアキャスタと車体との間に介設され、駆動輪およびエアキャスタを車体に対して揺動可能に支持する揺動機構を備えるので、積荷の質量が大きいときに駆動輪にかかる輪重を大きくし、積荷の質量が小さいときに駆動輪にかかる輪重を小さくする。よって、積載する積荷の質量の差異に対応させて駆動輪にかかる輪重を変化させることができる。重量物を搬送する場合、駆動輪の輪重抜けによるスリップを抑制し、軽量物を搬送する場合、駆動輪を駆動させるモータの負荷を小さくでき、さらに駆動輪のタイヤ部分の摩耗を進行し難くできる。
【0009】
請求項2記載の搬送車によれば、請求項1記載の搬送車の奏する効果に加え、エアキャスタを揺動機構に対して揺動可能に軸支する支持軸を備え、揺動機構は、駆動輪およびエアキャスタを支持する支持体と、その支持体の駆動輪およびエアキャスタの間に配設され支持体を車体に対して揺動可能に軸支する揺動軸とを備え、支持軸の軸方向と揺動軸の軸方向とが略平行とされるので、搬送路に対する支持体の姿勢(角度)によらずに、搬送路に対してエアキャスタの姿勢(角度)を平行にできる。
【0010】
請求項3記載の搬送車によれば、請求項1記載の搬送車の奏する効果に加え、揺動機構は、駆動輪およびエアキャスタを支持する支持体と、その支持体の駆動輪およびエアキャスタの間に配設され支持体を車体に対して揺動可能に軸支する揺動軸と、支持体が揺動軸に軸支される支持位置からエアキャスタが支持体に支持される第1位置までの第1距離と、支持位置から駆動輪が支持体に支持される第2位置までの第2距離との比を調整可能に構成される調整機構とを備えるので、エアキャスタにかかる荷重と駆動輪にかかる輪重との比を調整することができる。調整機構によって、駆動輪にかかる輪重を大きくなるように調整して、スリップしやすい雨天時の搬送路や摩擦係数の小さい搬送路をグリップさせて、駆動輪がスリップするのを抑制できる。反対に、駆動輪にかかる輪重を小さくなるように調整して、駆動輪を駆動させるモータへの負荷を小さくでき、さらに駆動輪のタイヤ部分の摩耗を進行し難くできる。
【0011】
請求項4記載の搬送車によれば、請求項3記載の搬送車の奏する効果に加え、調整機構は、第1位置から第2位置までの距離を第2距離と略同一の距離とすることが可能に構成されるので、支持体に支持される駆動輪およびエアキャスタのうち、駆動輪にかかる輪重を無くして、エアキャスタのみによって車体を支持する状態に切替えることができる。よって、1の搬送車において、駆動輪によって走行する状態と、駆動輪によって走行せずエアキャスタにより支持する状態とを利用する目的によって切り換えることができる。
【0012】
請求項5記載の搬送車によれば、請求項1記載の搬送車の奏する効果に加え、揺動機構とその揺動機構に支持される駆動輪およびエアキャスタとによって構成される駆動ユニットを備え、駆動ユニットが車体の左右方向に並設されるので、搬送路の左右方向の起伏がある場合であっても、左右方向に並設される駆動ユニットを搬送路に追従させることができる。よって、搬送路の左右方向の起伏により駆動輪が輪重抜けしてスリップすることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態における搬送車1の側面図であり、
図2は、搬送車1の底面図である。なお、
図1及び
図2では、図面を簡素化して、理解を容易とするために、搬送車1が模式的に図示される。図中の矢印F-B、矢印U-D及び矢印L-Rは、搬送車1の前後方向(進行方向)、上下方向および左右方向(幅方向)をそれぞれ示す。
【0015】
図1及び
図2に示すように、搬送車1は、搬送路G上を移動して車体10に積載された積荷を搬送するためのものであり、車体10に積載された積荷の質量の差異に対応させて駆動輪33にかかる輪重を変化させることで、駆動輪33のスリップを抑制したり、駆動輪33を駆動させる駆動モータ34の負荷を小さくしたり、さらに駆動輪33のタイヤ部分の摩耗を進行し難くしたりすることができる。
【0016】
搬送車1は、積荷が積載される車体10と、エアキャスタ40と走行装置30と揺動機構60とで構成される左右の駆動ユニット20と、エアキャスタ50と、走行装置30の駆動モータ34を制御する制御装置(図示せず)とを備え、左右の駆動輪33の回転数と回転方向とを制御することで、前進、後進および旋回が可能な搬送車として構成される。
【0017】
搬送車1は、エアキャスタ40,50及び走行装置30によって、搬送車1全体の質量(車体10に積載された積荷の質量を含む)を支持する。
【0018】
車体10は、積荷を搬送する際に積荷が載置される載置面11と、載置面11の上下方向(矢印U-D方向)の反対側の面であって搬送路Gと面する底面12と、底面12の前後方向(矢印F-B方向)の前方側(矢印F方向側)、且つ、左右方向(矢印L-R方向)の中央に配置され、下側(矢印D方向側)に延びる筒状の脚13とを備える。
【0019】
駆動ユニット20が車体10の後方側(矢印B方向側)の左右方向(矢印L-R方向)に並設される。一方の駆動ユニット20は、車体10の左右方向の中央から左側(矢印L方向側)の領域である左領域に配置され、他方の駆動ユニット20は、車体10の左右方向の中央から右側(矢印R方向側)の領域である右領域に配置される。駆動ユニット20が車体10の底面12において、左右方向に並設される位置は、車体10の左右方向の中央を結ぶ仮想線を対称線として線対称となる位置である(
図2参照)。即ち、駆動ユニット20を構成するエアキャスタ40、走行装置30及び揺動機構60も、それぞれ左右方向に並設され、これらが左右方向に並設される位置は、車体10の左右方向の中央を結ぶ仮想線を対称線として線対称となる位置である。
【0020】
走行装置30は、揺動機構60(支持体61)の底面に配設される座31と、その座31に配設されると共に回転可能に軸支される駆動輪33と、その駆動輪33に回転駆動力を付与する駆動モータ34とを備える。本実施形態では駆動輪33は、水平方向への旋回ができないように座31に対して固定される。走行装置30は、左右方向(矢印L-R方向)に並設されるので、平面視において、それぞれの駆動輪33の車軸が左右方向に一直線上になる位置に配設される。
【0021】
エアキャスタ40は、揺動機構60(支持体61)に支持軸44を介して軸支される。支持軸44は、エアキャスタ40を揺動機構60に対して揺動可能に軸支する。左右方向(矢印L-R方向)に並設されるエアキャスタ40の支持軸44の軸方向が左右方向に一直線上に配設される。エアキャスタ40は、圧縮空気が供給される噴射面45を備える。本実施形態におけるエアキャスタ40の噴射面45には、圧縮空気が自身の内部に供給されて膨らむ略円環状の浮き(図示せず)と、圧縮空気が浮きに供給されていない状態である非供給状態で搬送路Gに接地される接地部(図示せず)とが設けられる。
【0022】
エアキャスタ50は、車体10の脚13にボルトで固定される。エアキャスタ50は、圧縮空気が供給される噴射面55を備える。本実施形態におけるエアキャスタ50の噴射面55には、圧縮空気が自身の内部に供給されて膨らむ略円環状の浮き(図示せず)と、圧縮空気が浮きに供給されていない状態である非供給状態で搬送路Gに接地される接地部(図示せず)とが設けられる。
【0023】
エアキャスタ40,50には、搬送車1の外部または搬送車1自身に備えた供給装置(図示せず)から圧縮空気が供給される。
【0024】
エアキャスタ40,50は、圧縮空気を噴射する構造において同様の構造をしており、噴射面45,55は円形状に形成される。
【0025】
本実施形態では、エアキャスタ40,50により車体10を浮上させる際に、噴射面45,55に配設される浮きに圧縮空気が供給され、浮きが膨らむ。本実施形態では、浮きが略円環状をしているため、膨らんだ浮きの下面が搬送路Gと接触することにより、噴射面45,55は、膨らんだ浮きに囲まれる内側の部分に密閉された空間である内室を形成する。さらに浮きに圧縮空気が供給されると、浮きは膨らみつつ、車体10を一定程度上方(矢印U方向)に持ち上げる。浮きに供給された圧縮空気は浮きを通り内室に供給される。上記の通り内室は密閉されているため、浮きの圧力の上昇(浮きが膨らむことによる車体10の持ち上がり)と共に内室の圧力も上昇する。内室の圧力により車体10を上方に押す力の大きさが積荷を積載した車体10の質量による荷重の大きさを超えたときに、内室から外部に放出されようとする圧縮空気により浮きと搬送路Gとの間に圧縮空気の膜が形成される。その膜によって浮き(エアキャスタ40,50)自体が搬送路Gから離れ、車体10が浮上する。
【0026】
即ち、エアキャスタ40,50の噴射面45,55(詳細には、噴射面45,55の浮きから内室)へ圧縮空気が供給され、内室から搬送路Gに向けて圧縮空気が噴射(放出)されることにより、車体10が搬送路Gから浮上する。本実施形態では、浮きが搬送路Gから離れた浮上状態とされた後は、噴射面45,55(浮き)のそれぞれに供給される圧縮空気の単位時間当たりの供給量がそれぞれ略一定の値に設定される。
【0027】
積荷を積載した車体10の質量による荷重が大きい(車体10に積載される積荷の質量が大きい)場合、車体10を浮上させるために必要な内室の圧力が大きくなり、浮きの膨らむ量(車体10を持ち上げる量)も大きくなる。そのため、搬送路Gに対する車体10の浮上量(車体10を持ち上げる量と、搬送路Gから離れる量とを合わせた量)が大きくなる。反対に、積荷を積載した車体10の質量による荷重が小さい場合、荷重が大きい場合と比較して、車体10を浮上させるために必要な内室の圧力が小さくなり、浮きの膨らむ量も小さくなる。そのため、搬送路Gに対する車体10の浮上量が小さくなる。このとき、積荷の質量の差異により浮きが搬送路Gから離れる量(圧縮空気の膜の厚さ)は、エアキャスタ40,50の高さ寸法と比較して、無視できる程度しか変化しないので、積載される積荷の質量によらずに略一定とみなすことができる。
【0028】
揺動機構60は、走行装置30の座31が前後方向(矢印F-B方向)一端側(本実施形態では車体10の前方側(矢印F方向側))に、エアキャスタ40の支持軸44が前後方向他端側(本実施形態では車体10の後方側(矢印B方向側))に、それぞれ配設される支持体61と、その支持体61の前後方向のうち、走行装置30及びエアキャスタ40の間に配設される揺動軸62と、その揺動軸62を揺動可能に軸支すると共に車体10の底面12に配設されるステー63と、揺動軸62と支持体61との間に配設される調整機構64とを備え、車体10に対して揺動可能に構成される。支持体61は、車体10の前後方向に延びる平面視長方形の部材である。
【0029】
ステー63は、底面12の車体幅方向(左右方向(矢印L-R方向))端部から車体幅の略1/4且つ車体後端部から車体長さの略1/4までの領域に設置される。エアキャスタ50は、底面12の車体幅方向端部から車体幅の略1/2かつ車体前端部から車体長さの略1/8までの領域に設置される。なお、これらの設置位置は適宜変更可能である。ただし、ステー63どうしは、車体幅方向において車体幅の中心線から等距離に設置されることが望ましい。
【0030】
また、ステー63,63及びエアキャスタ50の三点により車体10(載置面11)を略水平に支持しているため、各ステー63とエアキャスタ50とを近づけすぎると車体10(載置面11)を略水平に維持するのが容易ではなくなる。そのため、ステー63は、車体幅方向に車体幅の1/2程度の距離を離隔して配置されることが望ましく、ステー63とエアキャスタ50とは車体前後方向(前後方向(矢印F-B方向))において車体長さの1/2以上の距離を離隔して配置されることが望ましい。
【0031】
調整機構64は、支持体61の長手方向(前後方向(矢印F-B方向))に延びて支持体61の上部に配設されるガイド部64aと、そのガイド部64aの長手方向を摺動する可動部64bとを備えるリニアガイドとして構成される。可動部64bは、揺動軸62によってステー63に軸支される。なお、調整機構64は、可動部64bの摺動動作後に可動部64bの摺動動作を規制するロック機構を備える。ロック機構は、可動部64bに摺動方向への荷重がかかったとしても、可動部64bのガイド部64aに対する位置を維持し、後述する第1距離L1及び第2距離L2を維持する。
【0032】
可動部64bがガイド部64a上を摺動することによって、支持体61が揺動軸62に軸支される支持位置Aからエアキャスタ40が支持体61に支持される第1位置B1までの第1距離L1と、支持位置Aから走行装置30が支持体61に支持される第2位置B2までの第2距離L2との比を調整可能に構成される。ここで、支持位置A、第1位置B1及び第2位置B2は、側面視(
図1参照)において支持軸44の軸心と直交すると共に支持体61の長手方向(前後方向(矢印F-B方向))に平行に延ばした仮想線と、揺動軸62、支持軸44及び駆動輪33のそれぞれの軸心から支持体61に向かって延ばした垂線とに交差するそれぞれの点であり、底面視(
図2参照)において支持体61の幅方向(左右方向(矢印L-R方向))の中心を通る仮想線と、揺動軸62、支持軸44及び駆動輪33のそれぞれの軸心とに交差するそれぞれの点である。
【0033】
揺動機構60の揺動軸62は、車体10の左右方向(矢印L-R方向)に沿う向きで配設され、エアキャスタ40の支持軸44の軸方向と揺動軸62の軸方向とが略平行とされる。支持軸44は、揺動軸62が支持体61に軸支される位置(支持位置A)から車体10の後方側(支持体61の他端側)に配置される。左右の駆動ユニット20のそれぞれの揺動軸62の軸方向が左右方向に一直線上に配設される。
【0034】
本実施形態における搬送車1によれば、揺動機構60の揺動軸62が走行装置30とエアキャスタ40との間に配設されるので、揺動軸62を支点とし、走行装置30及びエアキャスタ40のそれぞれを両端の作用点とするてこの原理によって、駆動輪33にかかる輪重と第2距離L2との積は、エアキャスタ40にかかる荷重と第1距離L1との積と等しくなる値に決まる。
【0035】
この場合、積荷が軽量物または重量物のどちらであっても、第1距離L1と第2距離L2との比が変わらなければ、駆動輪33にかかる輪重と、エアキャスタ40にかかる荷重との比は変わらないので、エアキャスタ40にかかる荷重および駆動輪33にかかる輪重は、重量物を搬送する際にはそれぞれ大きくなり、軽量物を搬送する際にはそれぞれ小さくなる。即ち、積荷の質量の差異に対応させて駆動輪33にかかる輪重を適切にすることができる。
【0036】
その結果、重量物を搬送する際には、駆動輪33の輪重抜けによるスリップを発生し難くし、軽量物を搬送する際には、駆動輪33を駆動させる駆動モータ34の負荷を小さくでき、さらに駆動輪33のタイヤ部分の摩耗を進行し難くできる。
【0037】
本実施形態では、調整機構64が第1距離L1と第2距離L2との比を調整可能に構成されるので、駆動輪33にかかる輪重と、エアキャスタ40にかかる荷重との比を調整することができる。雨天時で搬送路Gがスリップしやすい場合や損耗により駆動輪33がスリップしやすくなった場合には、可動部64bを第2位置B2に近づく方向に摺動させて第2距離L2に対する第1距離L1をより大きくする。てこの原理により、駆動ユニット20にかかる荷重がより多く第2位置B2側に負担され、駆動輪33にかかる輪重が大きくなり、駆動輪33のスリップを抑制できる。
【0038】
反対に、駆動輪33が搬送路Gに対して駆動力を発揮できる輪重以上に輪重がかかっている場合には、可動部64bを第1位置B1に近づく方向に摺動させて第1距離L1に対する第2距離L2をより大きくする。てこの原理により、駆動ユニット20にかかる荷重がより多く第1位置B1側に負担され、駆動輪33にかかる輪重が小さくなり、駆動モータ34への必要以上の負荷を減らして、駆動輪33のタイヤ部分の摩耗を進行し難くできる。
【0039】
本実施形態では、支持軸44の軸方向と揺動軸62の軸方向とが略平行とされるので、車体10に積荷を積載した状態において、エアキャスタ40の浮上量により支持体61が搬送路Gに対して傾斜するような設計である場合や、車体10の進行方向に進むにつれ高くなるような傾斜を有する搬送路Gを走行する場合であっても、エアキャスタ40の噴射面45を搬送路Gに対して略平行にできる。
【0040】
噴射面45が搬送路Gに対して略平行になることをより詳しく説明する。支持体61が搬送路Gに対して傾斜して、又は、エアキャスタ40の噴射面45が対向する部分の搬送路Gが駆動輪33が接地する部分の搬送路Gに対して傾斜して、その結果、エアキャスタ40の噴射面45が一時に搬送路Gに対して傾斜した場合、傾斜により噴射面45には、搬送路Gに近づく部分と搬送路Gから離れる部分とが生じる。搬送路Gから離れる部分は、搬送路Gから離れようとする噴射面45から噴射される圧縮空気の反力が小さくなり、搬送路Gに近づく部分は、搬送路Gから離れる部分と比較して、反力が大きくなる。
【0041】
揺動軸62と支持軸44とは軸方向が略平行とされるので、その搬送路Gに近づく部分と搬送路Gから離れる部分との反力の差によって、搬送路Gに対するエアキャスタ40の傾斜を補正するようにエアキャスタ40が支持軸44を中心に揺動する。エアキャスタ40が揺動することにより噴射面45から搬送路Gまでの距離が等しくなるように調整され、噴射面45を搬送路Gに対して略平行にすることができる。
【0042】
その結果、エアキャスタ40の噴射面45が搬送路Gに対して傾斜して搬送路Gに接することによる破損を少なくできる。さらに、噴射面45を搬送路Gに対して略水平に維持することができ、エアキャスタ40の圧縮空気による反力を上方向(矢印U方向)以外に発生させないので、搬送車1が意図しない方向に動作することを防止できる。
【0043】
本実施形態では、車体10の底面12において、車体10の左右方向(矢印L-R方向)の中央を結ぶ仮想線を対称線として線対称となる位置に駆動ユニット20が配置され、エアキャスタ40,50が底面12の外縁近くに位置されるので、車体10及び積荷の荷重をバランスよく支持し、車体10の姿勢を安定とすることができる。
【0044】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0045】
本実施形態では、2つの駆動ユニット20が車体10に配設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。車体10に配設される駆動ユニット20の数は1つでも、3つ以上でも良い。駆動ユニット20が1つである場合は、走行装置30は、座31に対して水平方向に旋回可能に構成されると共にその旋回が制御装置によって制御されるハウジングを備える。ハウジングが旋回することにより搬送車1の旋回を可能とする。
【0046】
また、駆動ユニット20が3つ以上である場合は、2つの駆動ユニット20以外の駆動ユニット20は、走行装置30の駆動輪を自身が駆動しない従動輪に替えても良い。従動輪を備える走行装置30は、座31に対して水平方向に旋回可能なハウジングを備える。なお、従動輪は、オムニホイール(登録商標)やボールキャスタのように、従動輪自身が水平方向のどの方向にも転動可能に構成されるものであっても良い。この場合、ハウジングを省略しても良い。
【0047】
本実施形態では、エアキャスタ50が車体10の脚13に配設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。車体10の脚13を省略し、且つ、エアキャスタ50を駆動ユニット20に替えても良い。即ち、エアキャスタ50を省略し、駆動ユニット20のみとしても良い。
【0048】
この場合、調整機構64によって、すべての駆動ユニット20の支持位置Aを第2位置B2に一致させて、駆動輪33が搬送路Gに接地されて搬送車1の操舵が可能となる駆動輪走行状態と、反対に、調整機構64によって、すべての駆動ユニット20の支持位置Aを第1位置B1に一致させて、駆動輪33が搬送路Gに接地されず、エアキャスタ40によって搬送車1が支持されるエアキャスタ支持状態とに切り替えることができる。よって、搬送車1は、予め決められた搬送経路を無人で移動するパターン搬送と、予め決められていない搬送経路を有人でけん引して移動させる非パターン搬送との両方に対応させることができる。
【0049】
走行装置30は、エアキャスタ支持状態において、走行装置30が搬送路Gから離隔するように構成される。この場合、底面12には、エアキャスタ支持状態のときに走行装置30の上方(矢印U方向)に位置する電磁石が設けられ、ガイド部64aには、支持位置Aが第1位置B1に一致した状態における可動部64bによって反応する近接スイッチが設けられる。さらに、電磁石と近接スイッチとの間には、可動部64bにより反応した近接スイッチの信号を受信し、その信号によって電磁石の磁力を有効にする制御部が設けられる。制御部が電磁石の磁力を有効にすると、走行装置30が電磁石に向かって上昇するように構成される。よって、エアキャスタ支持状態では、走行装置30を車体10に設けた電磁石に向けて上昇させて、駆動輪33が引きずられて損耗することを防止できる。
【0050】
エアキャスタ40,50は、噴射面45,55のうち圧縮空気の噴射に影響のない部分に従動輪を備えるものでも良い。
【0051】
本実施形態では、エアキャスタ40,50の噴射面45,55が浮きを備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。エアキャスタ40,50の噴射面45,55は、浮きを備えなくても良い。この場合、噴射面45,55には、上方(矢印U方向)に凹む凹部が形成される。圧縮空気が噴射面45,55に供給されていない非供給状態において、噴射面45,55の下面のうちの搬送路Gと接する部分が接地部とされる。噴射面45の凹部と搬送路Gとの間と、噴射面55の凹部と搬送路Gとの間とのそれぞれに密閉した空間である内室を形成する。それぞれの内室には、噴射面45,55のうちの凹部を形成する噴射面45,55から搬送路Gに向けて圧縮空気が噴射される。よって、噴射面45,55に浮きを備える場合と同様に、内室の圧力により車体10を上方(矢印U方向)に押す力の大きさが積荷を積載した車体10の質量による荷重の大きさを超えたときに、内室から放出されようとする圧縮空気の膜によりエアキャスタ40,50自体が搬送路Gから離れ、車体10が浮上する。この場合であっても、揺動機構60の揺動軸62が走行装置30とエアキャスタ40との間に配設されるので、てこの原理によって、積荷の質量の差異に対応させて駆動輪33にかかる輪重を変化させることができる。
【0052】
この場合、車体10の浮上量は、搬送路Gと噴射面45,55の接地部との間に形成される圧縮空気の膜の厚さ分とされる。圧縮空気の膜の厚さは、車体10に積載される積荷の質量によらず略一定とみなすことができるので、車体10に積載される積荷の質量によらず浮上量を略一定とすることができる。
【0053】
本実施形態では、エアキャスタ40,50の噴射面45,55に内室を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。エアキャスタ40,50は、噴射面45,55の平面状の下面に設けられた複数の噴射口から搬送路Gに向けて直接圧縮空気を噴射するものでも良い。この場合であっても、揺動機構60の揺動軸62が走行装置30とエアキャスタ40との間に配設されるので、てこの原理によって、積荷の質量の差異に対応させて駆動輪33にかかる輪重を変化させることができる。
【0054】
本実施形態では、調整機構64を介して支持体61の支持位置Aが変更される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。走行装置30とエアキャスタ40とのそれぞれが調整機構を介して支持体61に支持され、第1位置B1と第2位置B2とが変更されるものでも良い。また、走行装置30とエアキャスタ40とのどちらか一方を調整機構を介して支持体61に支持させるものであっても良い。この場合、支持体61は、ステー63に軸支される。いずれの場合であっても、本実施形態の搬送車1の奏する効果と同様に、駆動輪33にかかる輪重と、エアキャスタ40にかかる荷重との比を調整することができる。
【0055】
本実施形態では、車体10は、底面視(
図2参照)矩形の場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。車体10は、底面視円形、楕円形、左右方向(矢印L-R方向)に非対称な形状でも良い。
【0056】
本実施形態では、支持体61は、一端側(走行装置30が配設される側)が車体10の前後方向(矢印F-B方向)の前方側(矢印F方向側)を向き、他端側(エアキャスタ40が配置される側)が車体10の前後方向の後方側(矢印B方向側)を向く場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。支持体61は、他端側が車体10の前方側を向き、一端側が車体10の後方側を向くものでも良い。
【0057】
さらに、支持体61は、一端側が車体10の左右方向(矢印L-R方向)の外側を向き、他端側が車体10の左右方向の中央側を向くものでも良い。この場合、支持軸44及び揺動軸62の軸方向は、車体10の前後方向(矢印F-B方向)に沿って配設され、駆動輪33の車軸は、車体10の左右方向に沿って配設される。揺動軸62は、一端側から他端側に向かう支持体61の長手方向のうち、走行装置30及びエアキャスタ40の間に配設される。一端側にエアキャスタ40が配設され、他端側に走行装置30が配設されても良い。
【0058】
本実施形態では、支持軸44及び揺動軸62によりエアキャスタ40及び支持体61を軸支することによって、エアキャスタ40及び支持体61を揺動させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。支持軸44及び揺動軸62に替えて、ゴム又はばねによって、エアキャスタ40及び支持体61を揺動させるものでも良い。
【0059】
本実施形態では、噴射面45,55に供給される圧縮空気の単位時間当たりの供給量が略一定とされる場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。噴射面45,55に供給される圧縮空気の単位時間当たりの供給量を変更するものでも良い。
【0060】
この場合、車体10の搬送路Gに対する傾斜(水平)を測定するセンサと、エアキャスタ40,50の圧縮空気の供給量を制御する制御部と、を備える。センサによって検出されたデータが制御部に送られ、そのデータをもとに車体10が略水平となるように、各エアキャスタ40,50の圧縮空気の供給量が制御部によって調整される。よって、積載される積荷の重心の位置が車体10における中心になく、各エアキャスタ40,50にかかる荷重が異なる場合であっても、エアキャスタ40,50の圧縮空気の供給量を調整して、車体10を略水平に維持することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 搬送車
10 車体
20 駆動ユニット
33 駆動輪
40 エアキャスタ
44 支持軸
60 揺動機構
61 支持体
62 揺動軸
64 調整機構
A 支持位置
B1 第1位置
B2 第2位置
G 搬送路
L1 第1距離
L2 第2距離
矢印L-R 左右方向