(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122271
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】自動墨出しシステム及び自動墨出し方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
G01C15/00 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029723
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599085633
【氏名又は名称】株式会社タマディック
(71)【出願人】
【識別番号】520190388
【氏名又は名称】株式会社ROBOSHIN
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】三谷 哲史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義秀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】大森 永
(72)【発明者】
【氏名】押田 健一
(72)【発明者】
【氏名】栗城 秀春
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎也
(57)【要約】
【課題】墨出し面に自動的に墨出しを行う。
【解決手段】自動墨出しシステム100は、墨出し面に墨出しを行う墨出し部20を有する墨出し装置10と、墨出し装置10の墨出し部20の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、三次元計測装置50により計測された墨出し部20の三次元空間位置に基づいて墨出し装置10による墨出しを制御する制御装置30と、を備え、墨出し装置10は、床面を走行可能な走行部12と、走行部12から墨出し面に向かって延びる多関節アーム部14と、多関節アーム部14の先端部に設けられる墨出し部20と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動墨出しシステムであって、
墨出し面に墨出しを行う墨出し部を有する墨出し装置と、
前記墨出し装置の前記墨出し部の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、
前記三次元計測装置により計測された前記墨出し部の三次元空間位置に基づいて前記墨出し装置による墨出しを制御する制御装置と、を備え、
前記墨出し装置は、
床面を走行可能な走行部と、
前記走行部から前記墨出し面に向かって延びる多関節アーム部と、
前記多関節アーム部の先端部に設けられる前記墨出し部と、を有する、
自動墨出しシステム。
【請求項2】
前記墨出し装置は、前記多関節アーム部に設けられ前記三次元計測装置により捕捉されるターゲット部をさらに有し、
前記制御装置は、前記墨出し装置が移動しながら前記墨出し面に墨出しを行うように、前記三次元計測装置により検出される前記ターゲット部の位置に基づいて、前記走行部及び前記墨出し部を制御する、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項3】
前記墨出し装置は、前記多関節アーム部に設けられ前記三次元計測装置により捕捉されるターゲット部をさらに有し、
前記制御装置は、前記墨出し装置が停止した状態で前記墨出し面に墨出しを行うように、前記三次元計測装置によって予め検出された前記ターゲット部の位置及び姿勢に基づいて、前記多関節アーム部及び前記墨出し部を制御する、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項4】
前記墨出し装置は、1台の前記三次元計測装置に対して複数台設けられる、
請求項3に記載の自動墨出しシステム。
【請求項5】
前記墨出し装置は、前記墨出し部から前記墨出し面までの距離を検出可能な距離検出器をさらに有し、
前記制御装置は、前記墨出し面への前記墨出し部の接触を防止するために、前記距離検出器の検出値に基づいて前記多関節アーム部を制御する、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項6】
前記墨出し装置は、前記走行部の傾きを検出可能な傾斜検出器をさらに有し、
前記制御装置は、前記墨出し面に対する前記墨出し部の角度を補正するために、前記傾斜検出器の検出値に基づいて前記多関節アーム部を制御する、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項7】
前記三次元計測装置は、
前記床面を移動可能な台車部と、
前記台車部に載置される計測部と、を有し、
前記制御装置は、前記墨出し装置に対して前記三次元計測装置が所定の範囲内に位置するように、前記台車部を制御する、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項8】
自動墨出し方法であって、
墨出し面に墨出しを行う墨出し部と、前記墨出し部が先端部に設けられた多関節アーム部と、前記多関節アーム部が設けられた走行部と、を有する墨出し装置の前記墨出し部の三次元空間位置を計測する計測工程と、
前記計測工程において計測される前記墨出し部の前記三次元空間位置に基づいて、前記多関節アーム部及び前記走行部の少なくとも何れかを制御し、予め設定された目標墨出し位置に墨出しを行う墨出し工程と、を含む、
自動墨出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動墨出しシステム及び自動墨出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、墨出し面にマーキングを行う墨出しロボットを備えた自動墨出しシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された自動墨出しシステムは、墨出しロボットを指定された目標点へと移動させて、目標点にスタンプを押してマーキングを作成するものである。このため、マーキング同士を結ぶ墨出し線については、別途、墨出し作業を作業員が行う必要があり、作業員の作業負担を十分に軽減するには至っていない。
【0005】
本発明は、墨出し線を自動的に墨出し面に描き出すことが可能な自動墨出しシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自動墨出しシステムであって、墨出し面に墨出しを行う墨出し部を有する墨出し装置と、墨出し装置の墨出し部の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、三次元計測装置により計測された墨出し部の三次元空間位置に基づいて墨出し装置による墨出しを制御する制御装置と、を備え、墨出し装置は、床面を走行可能な走行部と、走行部から墨出し面に向かって延びる多関節アーム部と、多関節アーム部の先端部に設けられる墨出し部と、を有する。
【0007】
また、本発明は、自動墨出し方法であって、墨出し面に墨出しを行う墨出し部と、墨出し部が先端部に設けられた多関節アーム部と、多関節アーム部が設けられた走行部と、を有する墨出し装置の墨出し部の三次元空間位置を計測する計測工程と、計測工程において計測される墨出し部の三次元空間位置に基づいて、多関節アーム部及び走行部の少なくとも何れかを制御し、予め設定された目標墨出し位置に墨出しを行う墨出し工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動墨出しシステムによって、墨出し面に自動的に墨出しを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムによって行われる墨出し作業のイメージを示したイメージ図である。
【
図2】
図1の矢印Aで示される方向から見た墨出し装置を示した図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムによって行われる墨出し作業の手順を示したフローチャートである。
【
図5】墨出し装置を停止させた状態で行われる墨出し作業について説明するための図である。
【
図6】墨出し装置を移動させながら行われる墨出し作業について説明するための図である。
【
図7】墨出し装置が傾斜した場合の目標墨出し位置の補正について説明するための図である。
【
図8】墨出し装置が傾斜した場合のアーム部の制御について説明するための図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムのキャリブレーションの手順を示したフローチャートである。
【
図10】プローブの位置のキャリブレーション方法について説明するための図である。
【
図11】墨出し部の位置のキャリブレーション方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る自動墨出しシステム及び自動墨出し方法について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る自動墨出しシステム100は、建築物の床面や壁面に工事の基準となる墨出し線等を自動的に描画するシステムである。まず、
図1から
図3を参照して、自動墨出しシステム100の構成について説明する。
【0012】
自動墨出しシステム100は、
図1に示すように、墨出し面に墨出しを行う墨出し部20を有する墨出し装置10と、墨出し装置10の墨出し部20の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、三次元計測装置50により計測された墨出し部20の三次元空間位置に基づいて墨出し装置10による墨出しを制御する制御装置30と、を備える。以下では、制御装置30が墨出し装置10に内蔵されている場合について説明するが、制御装置30は、三次元計測装置50に内蔵されていてもよいし、墨出し装置10及び三次元計測装置50とは別に設けられていてもよい。
【0013】
墨出し装置10は、外部からの操作を必要としない自律走行型ロボットであり、
図1及び
図2に示されるように、床面1を走行可能な走行部12と、走行部12から墨出し面に向かって延びる多関節アーム部14と、多関節アーム部14の先端部に設けられる墨出し部20と、墨出し部20とともに多関節アーム部14の先端部に設けられ、三次元計測装置50によってその位置及び姿勢が検出されるプローブ24(ターゲット部)と、を有する。
図2は、
図1の矢印Aで示される方向から見た墨出し装置10を示した図である。なお、
図2には、プローブ24、墨出し部20及びその周辺部のみが示されており、走行部12及び多関節アーム部14については図示が省略されている。
【0014】
走行部12は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される4つのメカナムホイール13(全方向移動車輪)を有する。各メカナムホイール13は、車軸を介して図示しない電動モータにより回転駆動される。なお、車軸と電動モータとは、図示しない減速機を介して連結されていてもよい。4つのメカナムホイール13は、車軸が互いに平行な状態において、走行部12の本体部の前方側及び後方側にそれぞれ一対取り付けられる。
【0015】
なお、走行部12は、上述のように、全方向へと自由に移動することが可能であり、特に「前方」という概念はないが、説明の便宜上、
図1に示されるように、走行部12に対して墨出し部20が位置する方向を走行部12及び墨出し装置10の「前方」とする。なお、墨出し装置10の「前方」の定義はこれに限定されるものではない。
【0016】
走行部12の全方向移動車輪は、メカナムホイール13に限定されず、墨出し装置10を全方向に移動可能とする車輪であればどのような構成のものであってもよく、例えば、オムニホイールやメビウスホイールが用いられてもよい。
【0017】
また、走行部12の車輪が4つである場合、床面1が平らではなく凹凸があると、何れかの車輪が接地せず、走行安定性が低下するおそれがあることから、走行部12の全方向移動車輪を3つのオムニホイールとすることで走行性を安定させるようにしてもよい。
【0018】
このように走行部12を複数の全方向移動車輪を有する構成とすることによって、墨出し装置10は、旋回することなく、床面1上を全方向へと円滑に移動することができる。
【0019】
多関節アーム部14は、エンドエフェクタとして先端に取り付けられた墨出し部20の姿勢を三次元空間において任意の姿勢とすることが可能な、いわゆる垂直多関節型のロボットアームである。
【0020】
具体的には、多関節アーム部14は、走行部12に固定される基部16aと、第1回動部15aを介して連結方向軸線を中心に回動可能に基部16aと連結される第1リンク部16bと、第2回動部15bを介して水平方向軸線を中心に回動可能に第1リンク部16bと連結される第2リンク部16cと、第3回動部15cを介して水平方向軸線を中心に回動可能に第2リンク部16cと連結される第3リンク部16dと、第4回動部15dを介して連結方向軸線を中心に回動可能に第3リンク部16dと連結される第4リンク部16eと、第5回動部15eを介して第4回動部15dの回動軸に対して垂直な方向の軸線を中心に回動可能に第4リンク部16eと連結される第5リンク部16fと、第6回動部15fを介して連結方向軸線を中心に回動可能に第5リンク部16fと連結される第6リンク部16gと、を有する。
【0021】
各回動部15a~15fには、各回動部15a~15fを回動させる図示しないサーボモータ及び減速機がそれぞれ設けられる。
【0022】
なお、多関節アーム部14は、上述のように軸数が6軸のものに限定されず、軸数が7軸以上のものであってもよいし、5軸のものであってもよい。
【0023】
墨出し部20は、
図2に示されるように、所定の墨出し可能幅W1の吐出面20aを有するインクジェット式の印字装置であり、ブラケット18を介して多関節アーム部14の先端部である第6リンク部16gに取り付けられている。
【0024】
墨出し部20は、墨出し面に対してインクを吐出可能なノズルが所定の微小な間隔で複数設けられた図示しないノズルヘッドと、ノズルヘッドにインクを供給する図示しないインク供給部と、を有する。ノズルヘッドは、墨出し可能幅W1方向に沿って複数のノズルが並ぶように配置されている。
【0025】
したがって、墨出し可能幅W1方向に直交する方向に墨出し部20を移動させた場合、墨出し可能幅W1内に文字や線を自由に描き出すことが可能である。なお、墨出し可能幅W1方向と同じ方向に墨出し部20を移動させた場合であっても、比較的早い速度でノズルからインクを吐出することにより墨出し部20の移動方向に沿って線を描き出すことができる。また、墨出し可能幅W1方向に沿って配置されるノズルヘッドの数を変更することによって、墨出し可能幅W1を必要に応じて拡大したり縮小したりすることも可能である。
【0026】
また、墨出し部20は、多関節アーム部14の先端部に設けられていることから、
図1に示すように、走行部12が停止した状態であっても多関節アーム部14の可動範囲内であれば、墨出し部20による墨出しを自由に行うことが可能である。また、多関節アーム部14が届く範囲内であれば、床面1だけではなく、壁面や天井面、段差部の上面及び側面に対して墨出しを行うことも可能である。
【0027】
プローブ24は、
図2に示されるように、三次元計測装置50から照射されたレーザ光を反射可能な指向性プリズム等のリフレクタ25と、リフレクタ25を囲むように配置された複数の発光体26a,26b,26cと、を有する位置姿勢検出用部材であり、プローブ24とともにブラケット18に取り付けられる墨出し部20の位置及び姿勢を検出するために設けられる。
【0028】
発光体26a,26b,26cは、発光ダイオード等の光源であり、同一平面に配置された複数の第1発光体26aと、第1発光体26aが配置された平面と平行な別の平面に配置された複数の第2発光体26bと、第1発光体26a及び第2発光体26bが配置された平面と平行な別の平面に配置された複数の第3発光体26cと、で構成される。これら発光体26a,26b,26cは、発光方向が同じ方向を向くようにプローブ24の本体部に取り付けられている。
【0029】
墨出し装置10は、上述の走行部12、多関節アーム部14、墨出し部20及びプローブ24以外に、墨出し部20から墨出し面までの距離を検出可能な距離センサ22(距離検出器)と、走行部12の傾きを検知可能な傾斜検出器28と、三次元計測装置50や外部のサーバ120とデータの送受信を行うための通信部29と、走行部12やその他の電装品に電力を供給する図示しないバッテリと、を有する。また、走行部12には、制御装置30が設置されている。
【0030】
距離センサ22は、比較的測定精度が高いポイント式レーザ距離センサであって、検出方向が墨出し部20のインク吐出方向、すなわち、墨出し面を向くように、墨出し部20が取り付けられるブラケット18に固定される。なお、距離センサ22が固定される場所は、ブラケット18に限定されず、墨出し部20から墨出し面までの距離を検出することができれば他の場所であってもよく、例えば、多関節アーム部14の何れかのリンク部16であってもよい。また、距離センサ22は、ポイント式レーザ距離センサに限定されず、墨出し部20から墨出し面までの距離を検出することができればどのような形式の距離センサであってもよい。
【0031】
傾斜検出器28は、加速度センサ、ジャイロセンサ及び地磁気センサがユニット化された、いわゆる、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であり、走行部12に取り付けられることにより、走行部12の傾斜度合を検知する。なお、傾斜検出器28は、走行部12に固定される多関節アーム部14の基部16aに取り付けられていてもよい。
【0032】
通信部29は、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)やWi-Fi(登録商標)といった近距離無線通信機器であり、主に三次元計測装置50とデータを送受信する際に用いられる。なお、通信部29は、インターネット回線を介してデータを送受信可能な一般的な無線通信機器を備えていてもよい。
【0033】
三次元計測装置50は、
図1に示すように、床面1を移動可能な台車部60と、台車部60に載置され、計測対象物に照射されたレーザ光の反射光に基づいて計測対象物の三次元空間位置を計測可能な計測部55と、を備える。
【0034】
台車部60は、3つのオムニホイール61と、オムニホイール61毎に設けられた図示しないモータと、モータに電力を供給する図示しないバッテリと、を有する。これにより三次元計測装置50は、墨出し装置10と同様に、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することが可能である。
【0035】
台車部60の構成は、上記構成に限定されず、4つのオムニホイール61を有するものであってもよいし、墨出し装置10の走行部12と同様に、4つのメカナムホイールを有するものであってもよい。なお、台車部60の移動は、墨出し装置10ほど頻繁ではないことから、台車部60は、前後左右に自走可能であって所定の位置へと移動することが可能な一般的な走行装置であってもよい。
【0036】
また、台車部60には、計測部55を台車部60に設置するための設置台62が設けられる。なお、
図1に示される設置台62は、単なる柱状構造であるが、上下方向に伸縮自在な構造となっていてもよい。
【0037】
計測部55は、いわゆるレーザートラッカや追尾式トータルステーションといった三次元座標測量器であり、レーザ光を照射する発光部と反射されたレーザ光を受光する受光部とで構成される光学計測部56と、光学計測部56から照射されるレーザ光の方向を広範に撮像可能なカメラ57と、を有する。
【0038】
光学計測部56及びカメラ57は、鉛直方向軸C1を中心に水平方向に回転可能であるとともに、水平方向軸C2を中心に鉛直方向に回動可能な構成となっている。このため、計測部55は、計測対象物が移動する場合であってもカメラ57によって計測対象物を捕捉し追尾することができる。
【0039】
計測部55は、プローブ24のリフレクタ25といったレーザ光を反射可能な計測対象物に向けて、光学計測部56の発光部からレーザ光が照射されてから、計測対象物で反射したレーザ光が受光部で受光されるまでの時間に基づいて計測対象物までの距離を測定し、測定された距離、計測部55の自己位置、及び、レーザ光の照射角度に基づいて、計測対象物の三次元空間位置座標を計測することが可能である。
【0040】
なお、計測部55は、墨出しが行われる空間内に設置された複数の基準プリズム70までの距離及び角度を計測することにより、空間内における自己位置を予め自動的に特定している。また、計測部55は、三次元計測装置50が移動して停止する度に、自己位置を自動的に更新する。このように計測部55は、墨出しが行われる空間内における自己位置座標を常に把握していることから、墨出しが行われる空間内において、プローブ24のリフレクタ25等の計測対象物の三次元空間位置座標を常時、正確に計測することができる。
【0041】
また、計測部55は、上述のプローブ24のようにリフレクタ25と複数の発光体26a,26b,26cとを備えた位置姿勢検出用部材に対して光学計測部56からレーザ光を照射しつつカメラ57によって位置姿勢検出用部材を撮像することにより、リフレクタ25の三次元空間位置を位置姿勢検出用部材の三次元空間位置として求めるとともに、カメラ57によって撮像された複数の発光体26a,26b,26cの位置に基づいて、リフレクタ25を中心とした位置姿勢検出用部材の姿勢、すなわち、位置姿勢検出用部材の傾斜角及び傾斜方向を公知の演算手法により求めることが可能である。
【0042】
また、三次元計測装置50は、
図3のブロック図に示されるように、制御部51としてのCPU(Central Processing Unit)や、記憶部52としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータと、墨出し装置10や外部のサーバ120とデータの送受信を行うための通信部53と、を有する。
【0043】
制御部51は、制御装置30からの指令に基づいて、台車部60や計測部55の作動を制御し、計測部55によって計測された計測値を墨出し装置10や外部のサーバ120へと通信部53を介して送信する。
【0044】
記憶部52には、制御部51で実行される制御プログラム等が予め記憶されているとともに、計測部55で計測された計測値や通信部53を通じて外部のサーバ120等から取得されたデータが記憶される。
【0045】
通信部53は、墨出し装置10の通信部29と同様の近距離無線通信機器であり、主に墨出し装置10とデータを送受信する際に用いられる。なお、通信部53は、インターネット回線を介してデータを送受信可能な一般的な無線通信機器を備えていてもよい。
【0046】
このように三次元計測装置50は、複数の基準プリズム70の位置から把握される自己位置に基づいて所定の座標系におけるプローブ24の三次元空間位置(位置座標)及びプローブ24の姿勢を計測することが可能な構成となっている。
【0047】
なお、プローブ24の三次元空間位置及びプローブ24の姿勢は、制御装置30において算出されてもよく、この場合、三次元計測装置50から制御装置30へは、プローブ24の三次元空間位置及びプローブ24の姿勢を算出するために必要とされる距離及び角度等の各種データが送信される。
【0048】
制御装置30は、三次元計測装置50により計測された墨出し装置10のプローブ24の三次元空間位置及び姿勢と、予め読み込まれた設計データと、に基づいて、墨出し装置10の走行部12や墨出し部20、多関節アーム部14の作動を制御する。制御装置30が行う具体的な制御については、墨出し面に自動的に墨出しを行う後述の自動墨出し方法の説明において詳述する。
【0049】
制御装置30は、
図3に示されるように、制御部31としてのCPU(Central Processing Unit)や、記憶部32としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータである。
【0050】
制御部31は、墨出し装置10の走行部12の傾斜状況を認識する傾斜認識部33と、プローブ24の三次元空間位置及び姿勢を認識するプローブ認識部34と、設計データから描画データを生成する描画データ生成部35と、描画データに基づいて目標墨出し位置を設定する墨出し位置設定部36と、を有する。なお、これら傾斜認識部33等は、制御部31の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。また、上記機能は、制御部31が実行する制御の一部であり、制御部31では、これら以外の機能に関連する制御も随時実行される。
【0051】
傾斜認識部33は、墨出し装置10の走行部12に設けられた傾斜検出器28の検出値に基づいて、走行部12及び走行部12に固定された多関節アーム部14の傾斜状況を認識する。傾斜認識部33によって認識された走行部12の傾きに伴う多関節アーム部14の傾斜状況は、後述のように、多関節アーム部14の作動を補正制御する際に用いられる。
【0052】
ここで、上記構成の墨出し装置10の墨出し部20から墨出し面に精度よく墨出しを行うためには、墨出し面に対して墨出し部20の吐出面20aを正対させる必要がある。つまり、墨出し部20の姿勢が墨出しに最適な姿勢となるように多関節アーム部14を制御する必要がある。
【0053】
墨出し部20の姿勢は、墨出し部20とともにブラケット18に取り付けられたプローブ24の姿勢に相関し、プローブ24の姿勢は、上述のように三次元計測装置50によって検出されることから、制御部31は、墨出し部20の姿勢、すなわち、墨出し部20の吐出面20aの傾斜を制御するために、三次元計測装置50によって検出されたプローブ24の姿勢をプローブ認識部34において認識している。
【0054】
また、互いにブラケット18に固定される墨出し部20とプローブ24との位置関係は所定の関係にあることから、制御部31は、墨出し部20の三次元空間位置を制御するために、三次元計測装置50によって検出されたプローブ24の三次元空間位置をプローブ認識部34において認識している。
【0055】
また、外部のサーバ120等から制御装置30に予め送信され、記憶部32に記憶された設計データには、墨出しを行うべき箇所に関するデータが含まれているが、これらのデータは、墨出し装置10による墨出し作業の効率等を考慮して作成されたものではないため、設計データに忠実に墨出しを行おうとすると、作業時間が長くなってしまう場合がある。
【0056】
そこで、描画データ生成部35は、設計データを墨出し装置10による墨出しに適した描画データに変換している。
【0057】
具体的には、折れ点を有する折れ線を一度で描き出すよりも折れ線を構成する2本の線分をそれぞれ描き出す方が比較的容易であることから、例えば、設計データに折れ点を有する折れ線が含まれている場合は、折れ線を構成する2本の線分を折れ点においてそれぞれ延長して、折れ点を2本の線分が交差する交点へと変換する。
【0058】
このように描画データ生成部35により生成される描画データに、折れ線が含まれないようにすることによって、墨出しの作業効率を向上させることができるとともに、設計上の折れ点の位置に対して墨出しによって描き出された交点の位置をほぼ一致させることが可能となる。描画データ生成部35によって設計データから生成された描画データは、記憶部32に記憶される。
【0059】
描画データ生成部35によって生成された描画データに基づいて、墨出し装置10の墨出し部20が墨出しを行う目標墨出し位置(目標位置座標)が、墨出し位置設定部36により設定される。
【0060】
墨出し装置10は、墨出し位置設定部36によって設定された目標墨出し位置をなぞって墨出し部20が移動するように、制御装置30により多関節アーム部14または走行部12が制御される。換言すれば、制御装置30は、墨出し位置設定部36によって設定された目標墨出し位置(目標位置座標)と、プローブ認識部34において認識された墨出し部20の三次元空間位置座標と、が常に一致するように、墨出し装置10の多関節アーム部14または走行部12を制御する。
【0061】
続いて、
図4~6を参照し、上記構成の自動墨出しシステム100によって、床面1や壁面に自動的に墨出しを行う自動墨出し方法について説明する。
図4は、自動墨出しシステム100が自動的に墨出し作業を行う際の手順を示したフロー図であり、
図5は、墨出し装置10の走行部12を停止させた状態で墨出しを行う場合について説明するための図であり、
図6は、墨出し装置10を移動させながら墨出しを行う場合について説明するための図である。
【0062】
まず、ステップS11において、制御装置30は、BIM(Building Information Modeling)等の墨出し作業が行われる空間の設計データを外部のサーバ120等から読み込む。ここで読み込まれる設計データには、墨出しを行うべき箇所に関するデータが含まれている。なお、設計データは、予め制御装置30の記憶部32に記憶されていてもよい。
【0063】
次に、ステップS12において、制御装置30は、ステップS11で読み込まれた設計データから描画データを描画データ生成部35により生成する。そして、生成された描画データに基づいて、墨出し装置10の墨出し部20により墨出しが行われる目標墨出し位置(目標位置座標)が墨出し位置設定部36によって設定される。
【0064】
ステップS12において目標墨出し位置が設定されると、続くステップS13において、三次元計測装置50により既知点の計測が行われる。具体的には、複数の既知点、例えば3か所の既知点にそれぞれ設置された基準プリズム70(リフレクタ)までの距離及び角度が三次元計測装置50によって計測される。
【0065】
このように計測された複数の既知点の位置とステップS11において取得された設計データの既知点の位置とを照合することにより、三次元計測装置50は、ステップS11において取得された設計データの座標系における自己位置座標(三次元空間位置)を認識するとともに、墨出しが行われる墨出し面を認識する。
【0066】
続いて、ステップS14において、三次元計測装置50により墨出し装置10のプローブ24(ターゲット部)の位置及び姿勢の計測が行われる(計測工程)。具体的には、上述のように、プローブ24に対して光学計測部56からレーザ光が照射されるとともに、カメラ57によってプローブ24が撮像される。
【0067】
そして、プローブ24のリフレクタ25までの距離が計測されることでリフレクタ25の三次元空間位置がプローブ24の三次元空間位置として求められ、カメラ57によって撮像されたプローブ24の複数の発光体26a,26b,26cの位置に基づいて、リフレクタ25を中心としたプローブ24の姿勢、すなわち、プローブ24の傾斜角及び傾斜方向が求められる。墨出し装置10が複数台ある場合は、各墨出し装置10のプローブ24の位置及び姿勢が求められる。
【0068】
このようにして求められたプローブ24の位置及び姿勢に基づいて、墨出し装置10の墨出し部20の吐出面20aの傾き及び三次元空間位置が算出される。
【0069】
墨出し部20の吐出面20aの傾き及び三次元空間位置が把握されると、ステップS15に進み、墨出し装置10による墨出しが開始される(墨出し工程)。
【0070】
ここで、上記構成の墨出し装置10による墨出しは、
図5に示されるように、墨出し装置10の走行部12を停止させた状態で行うことが可能であるとともに、
図6に示されるように、墨出し装置10を移動させながら行うことが可能である。
【0071】
まず、
図5を参照し、墨出し装置10の走行部12を停止させた状態で墨出しを行う場合について説明する。
【0072】
ステップS15において墨出し装置10は、
図5に示されるように、予め設定された所定の位置において停止し、多関節アーム部14の可動範囲内に設定された墨出し範囲に対して墨出しを行う。なお、
図5には、1台の三次元計測装置50に対して2台の墨出し装置10A,10Bが配置された例が示されている。
【0073】
墨出し部20の吐出面20aの傾き及び三次元空間位置は、ステップS14において把握されていることから、制御装置30は、吐出面20aが墨出し面に対して正対し、且つ、ステップS12で設定された目標墨出し位置に沿って墨出し部20が移動するように多関節アーム部14の各部の動作を制御する。
【0074】
設定された墨出し範囲への墨出しが完了すると、ステップS16に進み、計画された墨出し作業がすべて完了したか否かが確認される。
【0075】
計画されていた墨出し作業がすべて完了した場合、処理を終了し、次の作業の指示をサーバ120から受信するまで墨出し装置10及び三次元計測装置50は待機状態となる。
【0076】
一方、予定されていた墨出し作業がまだ完了していない場合、次に墨出しが行われる墨出し範囲へと墨出し装置10A,10Bを移動させる。この際、墨出し装置10A,10Bとともに三次元計測装置50を移動させる必要があるか否かが、ステップS17で判定される。
【0077】
図5に示されるように、墨出しが終わった墨出し範囲に隣接する墨出し範囲へと墨出し装置10A,10Bを移動させる場合のように、三次元計測装置50によるプローブ24の位置及び姿勢の計測が可能な範囲内において各墨出し装置10A,10Bが移動する場合には、三次元計測装置50の移動は不要であるとして、ステップS14に進む。
【0078】
これ以降は、新たな墨出し範囲に対して停止した墨出し装置10A,10Bのプローブ24の位置及び姿勢の計測が行われ、上述の工程を経て、計画された墨出し作業がすべて完了するまで墨出し作業が継続される。
【0079】
一方、三次元計測装置50によるプローブ24の位置及び姿勢の計測が可能な範囲外に墨出し装置10A,10Bを移動させる場合には、三次元計測装置50を移動させる必要があるとして、三次元計測装置50を移動させた後、ステップS13に進む。
【0080】
これ以降は、三次元計測装置50により新たな既知点の計測が行われ、上述の工程を経て、計画された墨出し作業がすべて完了するまで墨出し作業が継続される。
【0081】
このように墨出し装置10の走行部12を停止させた状態で墨出しを行う場合、多関節アーム部14だけを動かすことによって墨出しが行われるため、精度良く墨出しを行うことが可能であり、特に図面が複雑であり目標墨出し位置が入り組んでいるような場合であっても容易に墨出し作業を行うことができる。
【0082】
また、所定の墨出し範囲内、すなわち、多関節アーム部14の可動範囲内において墨出しが行われている間は、プローブ24の位置に基づいて自己位置を認識した各墨出し装置10A,10Bは、完全に自律して墨出しを行うことが可能である。つまり、三次元計測装置50は、各墨出し装置10A,10Bを常時追尾する必要がないことから、1台の三次元計測装置50によって2台以上の複数台の墨出し装置10の墨出し作業を制御することが可能となり、結果として、複数台の墨出し装置10により効率よく墨出し作業を行うことができる。なお、
図5には、1台の三次元計測装置50に対して2台の墨出し装置10A,10Bが配置された例が示されているが、墨出し装置10は、1台の三次元計測装置50に対して3台以上配置されていてもよい。
【0083】
次に、
図6を参照し、墨出し装置10を移動させながら墨出しを行う場合について説明する。
【0084】
ステップS15において墨出し装置10は、
図6に矢印で示されるように、ステップS12で設定された目標墨出し位置に沿って墨出し部20が移動するように走行部12の走行方向が制御装置30によって制御される。具体的には、三次元計測装置50により墨出し装置10のプローブ24を追尾することによって、墨出し部20の三次元空間位置を常時計測し、計測された墨出し部20の位置が目標墨出し位置と一致するように走行部12が制御される。
【0085】
また、上述のように走行部12は全方向に移動可能であることから、墨出し装置10は前方、すなわち、プローブ24を三次元計測装置50に向けたままで目標墨出し位置に沿って移動する。
【0086】
このように墨出し装置10は、その姿勢(向き)が変わることなく、設定された目標墨出し位置に沿って墨出し部20が移動するように、走行部12のメカナムホイール13の回転が制御装置30によってそれぞれ制御される。つまり、墨出し作業を行う間、墨出し装置10は、旋回して向きを変えたり、切り返しを行って向きを変えたりすることがないことから、移動に要する時間が短縮され、結果として、墨出し面へと効率よく墨出しを行うことができる。
【0087】
また、墨出しを行うにあたっては、墨出し部20の吐出面20aの傾き及び三次元空間位置がステップS14において把握されていることから、制御装置30は、吐出面20aが墨出し面に対して正対するように多関節アーム部14の各部の動作を予め制御する。
【0088】
設定された墨出し範囲への墨出しが完了すると、ステップS16に進み、計画された墨出し作業がすべて完了したか否かが確認される。
【0089】
計画されていた墨出し作業がすべて完了した場合、処理を終了し、次の作業の指示をサーバ120から受信するまで墨出し装置10及び三次元計測装置50は待機状態となる。
【0090】
一方、予定されていた墨出し作業がまだ完了していない場合、次に墨出しが行われる墨出し範囲へと墨出し装置10を移動させる。この際、墨出し装置10とともに三次元計測装置50を移動させる必要があるか否かが、ステップS17で判定される。
【0091】
三次元計測装置50によるプローブ24の位置及び姿勢の計測が可能な範囲内において墨出し装置10が移動する場合には、三次元計測装置50の移動は不要であるとして、ステップS14に進み、これ以降は、新たな墨出し範囲へと移動した墨出し装置10のプローブ24の位置及び姿勢の計測が行われ、上述の工程を経て、計画された墨出し作業がすべて完了するまで墨出し作業が継続される。
【0092】
一方、三次元計測装置50によるプローブ24の位置及び姿勢の計測が可能な範囲外に墨出し装置10を移動させる場合には、三次元計測装置50を移動させる必要があるとして、三次元計測装置50を移動させた後、ステップS13に進む。
【0093】
これ以降は、三次元計測装置50により新たな既知点の計測が行われ、上述の工程を経て、計画された墨出し作業がすべて完了するまで墨出し作業が継続される。
【0094】
このように墨出し装置10を移動させながら墨出しを行う場合、比較的広い範囲にわたって墨出し作業を迅速に行うことができる。
【0095】
なお、
図6に示される例では、1台の三次元計測装置50により1台の墨出し装置10の墨出し作業が制御されているが、1台の三次元計測装置50によって2台以上の複数台の墨出し装置10の墨出し作業を制御するようにしてもよい。
【0096】
複数台の墨出し装置10の墨出し作業を1台の三次元計測装置50によって制御する場合、何れか1つの墨出し装置10が三次元計測装置50によって追尾される間は、他の墨出し装置10の三次元空間位置が一時的に計測されないことになるが、墨出し装置10は、慣性計測装置(IMU)を傾斜検出器28として備えていることから、三次元空間位置が計測されない間は、傾斜検出器28で検出された検出値に基づき公知の自律航法(DR:Dead Reckoning)によって、目標墨出し位置に沿って自律走行し、墨出しを行うことが可能である。
【0097】
また、墨出し装置10を移動させながら墨出しを行う場合は、多関節アーム部14が固定された状態となるため、プローブ24の姿勢が大きく変化することがない。このため、ステップS14において、一度、プローブ24の姿勢が計測されれば、それ以降は、ステップS14の工程が省略されてもよい。
【0098】
以上のような工程を経て、自動墨出しシステム100によって、床面1や壁面に自動的に墨出しが行われる。なお、墨出し装置10による墨出しは、墨出しが行われる墨出し面の状況に応じて墨出し装置10を移動させながら行う方法と墨出し装置10の走行部12を停止させた状態で行う方法とが墨出し面の状況に応じて適宜切り替えられてもよく、例えば、墨出し面に壁面や段差面が含まれているエリアでは、墨出し装置10を移動させながら行う方法から墨出し装置10の走行部12を停止させた状態で行う方法に切り替えるようにしてもよい。
【0099】
続いて、
図7を参照し、墨出し装置10の墨出し位置の補正について説明する。
【0100】
床面1は、基本的には平坦であるものの、少なからず凹凸があるため、例えば、
図7の(a)に示されるように、墨出し装置10が傾斜した状態で墨出しを行うことになる場合がある。
【0101】
通常、墨出し部20による墨出しは、リフレクタ25の位置を基準として求められるプローブ24の取付位置と、墨出し部20の墨出し位置(ノズル位置)と、を結ぶ線が延びる方向を墨出し方向とし、墨出し面に対して墨出し部20の吐出面20aを正対させた状態で行われる。つまり、プローブ24の取付位置がリフレクタ25の位置と墨出し部20の墨出し位置との間にあるとすれば、リフレクタ25の位置と墨出し部20の墨出し位置とを結んだ線の延長線上に墨出しが行われることになる。
【0102】
したがって、
図7の(a)に示されるように、走行部12が傾斜し、これに伴って多関節アーム部14が傾斜すると、リフレクタ25と墨出し部20とを結ぶ線も
図7の(b)に破線で示されるように走行部12の傾斜角度θに応じて傾斜することから、墨出し装置10が傾斜した場合、墨出し部20が墨出しを行おうとする予定位置DP1に対して実際に墨出しが行われる位置DP2が所定の誤差e分だけずれてしまうおそれがある。なお、
図7の(b)は、
図7の(a)に示される傾斜した墨出し装置10の墨出し方向と床面1(墨出し面)との関係を幾何学的に示した図である。
【0103】
そこで、本実施形態では、走行部12の傾斜角度θに応じた誤差eを推定し、実際の墨出し位置が予定位置DP1となるように、誤差eの大きさに応じて多関節アーム部14の作動を制御している。
【0104】
誤差eの大きさは、走行部12に設けられた上述の傾斜検出器28によって計測される走行部12の傾斜角度θと、三次元計測装置50によって計測される床面1(墨出し面)からのリフレクタ25の高さである第1高さH1と、に基づいて推定される。
【0105】
なお、誤差eの大きさは、走行部12の傾斜角度θと、墨出し装置10が傾斜した状態で距離センサ22によって計測される床面1(墨出し面)からリフレクタ25までの距離である第1距離L1と、に基づいて推定されてもよい。
【0106】
このように走行部12の傾斜角度θに応じて、多関節アーム部14の作動を制御することにより、墨出し装置10が傾斜した場合であっても、墨出し部20から墨出し面に精度よく墨出しを行うことができる。
【0107】
また、墨出し装置10が傾斜した場合には、上述のように墨出し位置がずれてしまうおそれがあるだけではなく、例えば、
図8に示されるように墨出し装置10が傾斜した状態において、矢印Bで示される方向に墨出し部20を移動させるために、多関節アーム部14の基部16aに対して第1リンク部16bを回動させると、墨出し部20が床面1(墨出し面)に接触してしまうおそれがある。
【0108】
そこで、本実施形態では、距離センサ22により床面1(墨出し面)と墨出し部20の吐出面20aとの間の間隔を計測し、計測された間隔が所定値を下回らないように多関節アーム部14の作動を補正制御している。
【0109】
これにより、墨出し装置10が傾斜した場合であっても、墨出し部20を床面1(墨出し面)に接触させることなく、墨出し部20から墨出し面に効率よく墨出しを行うことができる。なお、床面1(墨出し面)に墨出し部20が接触することを確実に回避するためには、距離センサ22を墨出し部20の周囲に複数設けることが好ましい。
【0110】
次に
図9から
図11を参照し、自動墨出しシステム100のキャリブレーションについて説明する。
図9は、キャリブレーションの手順を示したフローチャートであり、
図10は、プローブ24の位置のキャリブレーション方法について説明するための図であり、
図11は、墨出し部20の位置のキャリブレーション方法について説明するための図である。
【0111】
自動墨出しシステム100において、墨出し部20による墨出しは、墨出し部20及びプローブ24が多関節アーム部14の第6リンク部16gに対して設計上の所定の位置に取り付けられていることを前提として、多関節アーム部14の作動を制御することにより行われる。
【0112】
しかしながら、ブラケット18への取付誤差や機器の寸法誤差、例えば、プローブ24のリフレクタ25の位置誤差、墨出し部20のノズル位置(墨出し中心位置)誤差といった種々誤差が存在することにより、墨出し部20及びプローブ24を共に設計上の所定の位置に設置することは難しく、また、誤差が積み重なることによって墨出し精度が著しく低下してしまうおそれもある。
【0113】
そこで、本実施形態では、プローブ24の取付位置及び墨出し部20の墨出し位置をそれぞれ三次元計測装置50によって計測し、計測された取付位置と墨出し位置との位置関係を墨出し制御における基準として設定するためのキャリブレーションを行っている。
【0114】
図9に示されるように自動墨出しシステム100のキャリブレーションでは、まず、ステップS21において、三次元計測装置50によりプローブ24の取付位置の計測が行われる。
【0115】
具体的には、
図10に示されるように、第4リンク部16eに対して第5回動部15eの回動軸を中心に第5リンク部16fを回動させたときに三次元計測装置50によって計測されたリフレクタ25の第1軌跡TL1(図中の一点鎖線)と、第5リンク部16fに対して第6回動部15fの回動軸を中心に第6リンク部16gを回動させたときに三次元計測装置50によって計測されたリフレクタ25の第2軌跡TL2(図中の二点鎖線)と、がそれぞれ求められる。そして、これら2つの軌跡の交点CPが、多関節アーム部14に対するプローブ24の取付位置として求められる。
【0116】
続く、ステップS22において、三次元計測装置50により墨出し部20の墨出し位置の計測が行われる。
【0117】
具体的には、
図11に示されるように、任意の墨出し点DPに墨出し部20により墨出しを行った後、その周囲にリフレクタを3回以上設置し、リフレクタを設置する度にその位置(例えば、
図11のPP1,PP2,PP3)を三次元計測装置50によって計測することにより、任意の墨出し点DPが描画された描画基準平面PL1が求められる。
【0118】
続いて、任意の墨出し点DPにリフレクタを設置し、その位置を三次元計測装置50によって計測することにより任意の墨出し点DPの三次元位置が得られる。
【0119】
そして、このようにして得られた任意の墨出し点DPの三次元位置と、任意の墨出し点DPに墨出し部20により墨出しを行った際に三次元計測装置50によって計測されたプローブ24のリフレクタ25の三次元位置とに基づいて、墨出し部20墨出し位置とプローブ24の取付位置との位置関係が求められる。
【0120】
ステップS21で求められた多関節アーム部14に対するプローブ24の取付位置と、ステップS22で求められた墨出し部20の墨出し位置とプローブ24の取付位置との位置関係と、が制御装置30の記憶部32にステップS23において記憶されることにより自動墨出しシステム100のキャリブレーションが終了し、これ以降の墨出し制御は、記憶部32に記憶されたキャリブレーション結果に基づいて行われることになる。なお、上述のキャリブレーションは、墨出し部20またはプローブ24が交換された際に行われてもよいし、墨出し作業が開始される前に毎回行われてもよい。
【0121】
このように多関節アーム部14に対するプローブ24の取付位置と、墨出し部20の墨出し位置とプローブ24の取付位置との位置関係と、を予め求めておくことにより、上述の誤差の影響が排除されるため、結果として、墨出し精度を向上させることができる。
【0122】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0123】
上記構成の自動墨出しシステム100において、墨出し装置10は、床面を走行可能な走行部12と、走行部12から墨出し面に向かって延びる多関節アーム部14と、多関節アーム部14の先端部に設けられる墨出し部20と、を有する。
【0124】
このように墨出し部20が多関節アーム部14の先端部に設けられた構成とすることにより、上記構成の自動墨出しシステム100では、墨出し装置10を停止させた状態で多関節アーム部14の可動範囲内に墨出し線を描き出すことが可能であるとともに、墨出し装置10を走行させながら墨出し線を墨出し面に描き出すことが可能である。これにより墨出し面に段差面や壁面が含まれる場合であっても、墨出し面に墨出し線を効率的に描き出すことができる。
【0125】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0126】
上記実施形態では、墨出し部20の姿勢を把握するために複数の発光体26a,26b,26cを有するプローブ24が用いられている。これに代えて、プローブ(ターゲット部)は、リフレクタのみを有するものであってもよい。この場合、墨出し部20により墨出しを行う際の姿勢として記憶部32に記憶された基準平面に沿ってプローブを多関節アーム部14により3か所以上に移動させ、プローブが停止する度にリフレクタの位置を三次元計測装置50によって計測することによって、墨出し部20の姿勢に相関する平面が求められる。そして、このように求められた平面から推定される墨出し部20の姿勢が、墨出し面に墨出しを行う際の姿勢として適切な姿勢となるように多関節アーム部14が制御される。これによりこの変形例においても、墨出し面に墨出しを行う際の墨出し部20の姿勢が適切に制御され、結果として墨出しの精度を向上させることができる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0128】
100・・・自動墨出しシステム
10,10A,10B・・・墨出し装置
12・・・走行部
14・・・多関節アーム部
20・・・墨出し部
22・・・距離センサ(距離検出器)
24・・・プローブ(ターゲット部)
28・・・傾斜検出器
30・・・制御装置
50・・・三次元計測装置