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特開2024-122292マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤
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  • 特開-マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤 図1
  • 特開-マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤 図2
  • 特開-マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122292
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20240902BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240902BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240902BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240902BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240902BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20240902BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240902BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61K31/047
A61Q19/00
A61Q5/00
A61K8/34
A61P31/10
A61P17/08
A61P17/00
A61P17/00 101
A61P27/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029753
(22)【出願日】2023-02-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月23日、https://www.sccj-ifscc.com/event/detail/1090 〔刊行物等〕 第89回SCCJ研究討論会、令和4年12月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】保坂 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】牧田 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】門田 吉弘
【テーマコード(参考)】
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC131
4C083AC132
4C083CC02
4C083CC31
4C083EE12
4C083EE14
4C083EE23
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA05
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZA90
4C206ZB35
(57)【要約】
【課題】 マラセチア属菌の菌数を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とするマラセチア属菌の菌数抑制剤;(ア)エリスリトール、(イ)キシリトール、(ウ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、(エ)デキストロース当量が30以上50以下の水飴を還元してなる、還元水飴。本発明によれば、皮膚への刺激性や安全性を全く懸念することなく、マラセチア属菌の増殖を抑制することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする、マラセチア属菌の菌数抑制剤;
(ア)エリスリトール、
(イ)キシリトール、
(ウ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(エ)デキストロース当量が30以上50以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項2】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする、癜風、脂漏性皮膚炎、ふけ症、マラセチア毛包炎、アトピー性皮膚炎およびマラセチア性外耳炎から選択される1以上の疾患を予防または改善する剤;
(ア)エリスリトール、
(イ)キシリトール、
(ウ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(エ)デキストロース当量が30以上50以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項3】
外用剤として用いられることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスリトール、キシリトールまたは中糖化還元水飴を有効成分とする、マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マラセチア属菌(Malassezia)は、ヒトや動物の皮膚に常在する酵母様真菌であり、現在、22種が知られている(非特許文献1)。本菌は増殖に脂質を必要とするが、自身で脂肪酸を生合成できないため、生体では、皮脂の多い部位に多く存在する。本菌は健康な皮膚にも存在するが、過剰増殖した場合やバリア機能が低下した肌では、様々な疾患ないし不健康状態を引き起こす、あるいはその憎悪因子となることが報告されている。本菌が発症ないし悪化に関与する疾患・不健康状態としては、例えば、癜風(非特許文献1、2、3、5、6)、マラセチア毛包炎(非特許文献3、5、6、7)、脂漏性皮膚炎(非特許文献1、3、5、6、7)、フケ症(非特許文献1、6)、アトピー性皮膚炎(非特許文献3、4、5)、これら疾患等の症状である皮膚の痒み(非特許文献4ほか)、マラセチア性外耳炎(非特許文献7)、マラセチア敗血症(非特許文献5)などが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】WIKIPEDIA The Free Encyclopedia、Malassezia、[令和5年1月31日検索]、インターネット<URL: https://en.wikipedia.org/wiki/Malassezia>
【非特許文献2】Merck & Co., Inc., Kenilworth, NJ, USA、MSDマニュアル 家庭版、17.皮膚の病気、皮膚真菌感染症、癜風、執筆者:Danise M. Aaron、医学的にレビューされた2020年2月、[令和5年1月31日検索]、インターネット<URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/17-%E7%9A%AE%E8%86%9A%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%9C%9F%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E7%99%9C%E9%A2%A8?query=%E7%99%9C%E9%A2%A8>
【非特許文献3】坪井良治、マラセチア、アレルギー用語解説シリーズ、アレルギー 65(10)、第1282-1283頁、2016年
【非特許文献4】広島大学、広報・報道、プレスリリース、平成25年度、アトピー性皮膚炎患者における汗アレルギーの原因物質を同定、平成25年6月6日、[令和5年1月31日検索]、インターネット<URL:https://www.hiroshima-u.ac.jp/koho_press/press/2013/2013_024>
【非特許文献5】清 佳浩, Malassezia関連疾患、Jpn. J. Med. Mycol., Vol.47, pp. 75-80, 2006
【非特許文献6】Gupta et al, CLINICAL REVIEW Skin diseases associated with Malassezia species, J AM ACAD DERMATOL, VOLUME 51, NUMBER 5, NOVEMBER 2004, pp. 785-798
【非特許文献7】H. Ruth Ashbee and E. Glyn V. Evans, Immunology of Diseases Associated with Malassezia Species, CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS, Vol. 15, No. 1, Jan. 2002, p. 21?57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、生体におけるマラセチア属菌の菌数を抑制することにより、本菌が起因ないし悪化に関与する疾患や不健康状態の発生ないし悪化を抑制し、皮膚をはじめ生体を健やかに保つことができると考えられる。そこで、本発明は、マラセチア属菌の菌数を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、エリスリトール、キシリトールおよび中糖化還元水飴が、マラセチア属菌の増殖を抑制できることを見出した。そこで、係る知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0006】
(1)本発明に係るマラセチア属菌の菌数抑制剤は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする;
(ア)エリスリトール、
(イ)キシリトール、
(ウ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(エ)デキストロース当量が30以上50以下の水飴を還元してなる、還元水飴(中糖化還元水飴)。
【0007】
(2)本発明に係る癜風、脂漏性皮膚炎、ふけ症、マラセチア毛包炎、アトピー性皮膚炎およびマラセチア性外耳炎から選択される1以上の疾患を予防または改善する剤は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする;
(ア)エリスリトール、
(イ)キシリトール、
(ウ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(エ)デキストロース当量が30以上50以下の水飴を還元してなる、還元水飴(中糖化還元水飴)。
【0008】
(3)本発明に係る剤は、外用剤として用いられるものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マラセチア属菌の増殖を抑制することができる。よって、本発明によれば、マラセチア属菌が発症や悪化に関与する疾患や不健康状態、例えば、癜風、マラセチア毛包炎、脂漏性皮膚炎、フケ症、アトピー性皮膚炎、皮膚の痒み、マラセチア性外耳炎、マラセチア敗血症、脂漏性角化症などの予防または改善に寄与することができる。
【0010】
また、本発明が有効成分とするエリスリトール、キシリトールおよび中糖化還元水飴は、食品あるいは食品添加物としても用いられることから明らかであるように、ヒトや動物にとって極めて安全な物質である。従って、本発明によれば、皮膚など生体への刺激性や安全性を全く懸念することなく、マラセチア属菌の増殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】10(w/v)%の被験物質(エリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトール)を含む培地でM. furfurを培養して、得られた培養液の濁度を示す棒グラフである。
図2】5(w/v)%の被験物質(エリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトール)を含む培地でM. restricta を培養して、得られた培養液の濁度を示す棒グラフである。
図3】2.5(w/v)%の被験物質(グリセロール、中糖化還元水飴、中糖化水飴および低糖化還元水飴)を含む培地でM. furfurを培養して、得られた培養液の濁度を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、マラセチア属菌の菌数抑制剤および所定の疾患ないし不健康状態を予防または改善する剤を提供する。本明細書では、これらの剤をまとめて、あるいはいずれかの剤を指して「本発明の剤」あるいは「本剤」という場合がある。
【0013】
「マラセチア属菌」は、マラセチア属(Malassezia)に属する微生物をいう。マラセチア属菌として、具体的には、Malassezia arunalokei(例えばNCCPF127130株), Malassezia brasiliensis, Malassezia caprae(例えばJCM14561株), Malassezia cuniculi(例えばCBS11721株), Malassezia dermatis(例えばJCM11348株), Malassezia equi, Malassezia equina(例えばJCM14562株), Malassezia furfur(例えばJCM9199株、NBRC0656?株), Malassezia globosa(例えばNBRC101597株), Malassezia japonica(例えばNBRC 101603株、JCM11963株), Malassezia muris, Malassezia nana(例えばJCM12085株), Malassezia obtusa(例えばCBS7876株), Malassezia ochoterenai, Malassezia pachydermatis(例えばNBRC0995株、JCM10131株), Malassezia psittaci, Malassezia restricta(例えばNBRC103918株), Malassezia slooffiae(例えばCBS7956株), Malassezia sympodialis(例えばJCM8503株、NBRC 113671株), Malassezia tropica, Malassezia vespertilionis(例えばCBS15041株), Malassezia yamatoensis(例えばJCM12262株)などを例示することができる。
【0014】
本発明において、「菌数」とは、微生物の個体数を意味する。
【0015】
マラセチア属菌の菌数が抑制されたか否かは、後述する実施例に示すように、培養試験により判断することができる。すなわち、一方は本剤を添加して、他方はこれを添加せずに、同種の培地を調製する。この両培地に本菌を植菌して所定の期間培養した後、培地の菌量を測定する。菌量の測定は、簡便には濁度法により行うことができるが、培地や培養条件、測定対象の菌種などに応じて、乾燥菌体重量法や湿重量法、リアルタイムPCR法などの公知の手法を適宜選択することができる。その結果、本剤を添加したものの方が、これを添加しないものよりも菌量が小さければ、本剤によりマラセチア属菌の菌数が抑制されたと判断することができる。
【0016】
エリスリトール(エリトリトール)は、ブドウやナシなどの果実、味噌や醤油、清酒などの発酵食品にも元来含まれている糖アルコールである。化学名は1,2,3,4-Butaneterolで四炭糖の単糖アルコールである。エリスロース(エリトロース)の還元体であるが、工業的には発酵により得られる。
【0017】
キシリトールは、プラムやイチゴ、カリフラワーなど多くの果実や野菜にも元来含まれている、五炭糖の単糖アルコールであり、キシロースの還元体である。
【0018】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種である。ここで、原料となる水飴は、デンプンを酸や酵素などで加水分解(糖化)して得られるものであり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0019】
還元水飴は、一般に、糖化の程度により、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。本発明者らは、還元水飴のうちでも特に、糖化の程度が中位である「中糖化還元水飴」が、マラセチア属菌の菌数を抑制できることを見出した。中糖化還元水飴の糖組成は、例えば、(イ)単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満、より詳細には、(エ)単糖が2~10質量%、二糖が15~55質量%、三糖が15~65質量%、四糖が1~15質量%かつ五糖以上が1~38質量%を例示することができる。
【0020】
なお、「糖組成」は、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0021】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴や水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0022】
還元水飴は、原料となる水飴のデキストロース当量で規定することもできる。「デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)」は、水飴の分解度の指標として用いられる値であり、試料中の還元糖をグルコースとして測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0023】
本発明において、中糖化還元水飴の原料水飴のDEは、例えば、30以上、31以上、32以上、40以下、42以下、44以下、46以下、48以下、50以下を例示することができる。
【0024】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
【0025】
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0026】
エリスリトール、キシリトールおよび中糖化還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。これら糖アルコールは、液体、粉末状、顆粒状などいずれの形態のものも用いることができる。中糖化還元水飴に係る市販品としては、例えば、「アクアオール♯1」、「エスイー57」(以上、物産フードサイエンス)などを例示することができる。
【0027】
中糖化還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる中糖化水飴に水素を添加する還元反応を挙げることができる。水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の中糖化還元水飴を作ることができる。
【0028】
本剤はマラセチア属菌の菌数を抑制するものであって、マラセチア属菌は、上述のとおり、生体においては、ヒトや動物の体表に生息する。したがって、本剤は、一実施態様として、体表に作用する使用態様の製剤、すなわち外用剤として用いることができる。
【0029】
本発明の外用剤としては、皮膚に直接塗布や貼付、噴霧等するもの(化粧品、医薬部外品、医薬品)の他、皮膚洗浄料や毛髪洗浄料、入浴料などの衛生用品を例示することができる。製品の剤型としては、液剤、エアゾール剤、ロールオン、スティック、クリーム、シート剤、ローション、乳液、ジェル、粉剤、錠剤等の形態を例示することができる。本剤が配合された製品は、当該製品に通常用いられる原料(例えば、溶媒、分散媒、賦形剤、油、界面活性剤、アルコール、防腐剤、キレート剤、酸化防止剤、増粘剤、pH調整剤、香料、殺菌剤等の成分)にエリスリトール、キシリトールおよび/または中糖化還元水飴を添加して、製造することができる。
【0030】
エリスリトール、キシリトールおよび/または中糖化還元水飴の使用量(含有量)は、製品の用途、所望の使用感、製品の剤型や種別、他の原料成分の種類や配合量などに応じて適宜設定することができる。前記糖アルコールを含む製品の総質量を100質量%として、前記糖アルコールの固形分濃度の下限は、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上または0.05質量%以上を例示することができる。また、上限は、35質量%以下、34質量%以下、33質量%以下、32質量%以下、31質量%以下、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下または20質量%以下を例示することができる。
【0031】
癜風(でんぷう)は、表皮に発生する軽度の真菌感染症で、鱗屑を伴う変色した斑が出現する。若い成人に多く見られ、通常、その他の症状は無い(非特許文献2)。Malassezia furfur(非特許文献2)やMalassezia globasa(非特許文献5)などのマラセチア属菌が原因菌とされる(非特許文献1、3、6)ことから、生体のマラセチア属菌の菌数を抑制できれば、癜風の予防または改善に寄与できると考えられる。したがって、本剤は、癜風を予防または改善する用途に用いることができる。
【0032】
脂漏性皮膚炎(脂漏性湿疹)は、頭皮や顔面、髪の生え際、耳の周囲、ときにその他の部位に慢性の炎症が起き、痒みや脂ぎった黄色い鱗屑(うろこ状のくず)、フケが生じる病気である(非特許文献8:Merck & Co., Inc., Kenilworth, NJ, USA、MSDマニュアル 家庭版、17.皮膚の病気、かゆみと皮膚炎、脂漏性皮膚炎、執筆者:Mercedes E. Gonzalez、医学的にレビューされた2018年3月、[令和5年1月31日検索]、インターネット<URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/17-%E7%9A%AE%E8%86%9A%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E3%81%8B%E3%82%86%E3%81%BF%E3%81%A8%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%82%8E/%E8%84%82%E6%BC%8F%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%82%8E?query=%E8%84%82%E6%BC%8F%E6%80%A7%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%82%8E>)。フケは脂漏性皮膚炎の緩和な病態であるとされる(非特許文献6)。マラセチア属菌は、脂漏性皮膚炎およびフケ症の原因菌(非特許文献1,5,6)あるいは悪化因子(非特許文献3,7,8)とされ、マラセチア属菌に有効な硝酸ミコナゾール配合のシャンプーやケトコナゾール外用剤(抗真菌薬)が治療に用いられる(非特許文献5,8)。よって、生体のマラセチア属菌の菌数を抑制できれば、脂漏性皮膚炎およびフケ症の予防または改善に寄与できると考えられる。したがって、本剤は、脂漏性皮膚炎およびフケ症を予防または改善する用途に用いることができる。
【0033】
マラセチア毛包炎は、マラセチア属菌が毛穴で増殖して炎症を起こすことで丘疹や吹き出物、痒みが発生する感染症であり、体幹や上腕に多く見られる(非特許文献7)。マラセチア属菌が原因菌とされる(非特許文献3、5、6)ことから、生体のマラセチア属菌の菌数を抑制できれば、マラセチア毛包炎の予防または改善に寄与できると考えられる。したがって、本剤は、マラセチア毛包炎を予防または改善する用途に用いることができる。
【0034】
アトピー性皮膚炎(AD)は、遺伝的感受性、免疫および表皮バリアの機能障害、ならびに環境因子が複雑に関与して発生する皮膚の慢性炎症性疾患である。そう痒が主たる症状であり,皮膚病変は軽度の紅斑から重度の苔癬化まで様々である。成人型ADではマラセチア特異的IgE高地価の検出率が高くプリックテストの陽性率も高い、ADの病変部では菌量が多く皮疹の程度と特異的IgE抗体価が比例する、イトラコナゾールなどの抗菌療法により皮疹が改善する症例があるといったことが報告されている(非特許文献3)。また、マラセチア属菌の分泌タンパク質がAD患者において汗アレルギーを起こすことが報告されている(非特許文献4)。これらのことから、マラセチア属菌はADの憎悪因子とされており(非特許文献3、4、5)、生体のマラセチア属菌の菌数を抑制できれば、ADの改善に寄与できると考えられる。したがって、本剤は、アトピー性皮膚炎を改善する用途に用いることができる。
【0035】
マラセチア性外耳炎は、マラセチア属菌が外耳道で増殖して痒みを伴う炎症を起こす感染症であり、イヌなどの動物に多く発生する。治療は耳洗浄や抗真菌薬(点耳薬・内服薬)の投与が行われる。マラセチア属菌が原因菌とされる(非特許文献7)ことから、生体のマラセチア属菌の菌数を抑制できれば、マラセチア性外耳炎の予防または改善に寄与できると考えられる。したがって、本剤は、マラセチア性外耳炎を予防または改善する用途に用いることができる。
【0036】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0037】
<試験方法>
(1)被験物質
被験物質は、表1に示すものを用いた。
【表1】
【0038】
(2)菌株
菌株は、マラセチア属菌の以下に示す2種を用いた。
Malassezia furfur JCM9199(=ATCC?14521 =CBS?1878 =DBVPG?6825 =IFO?0656 =NBRC?0656)(以下、「M. furfur」)
Malassezia restricta NBRC103918(=ATCC 96801=CBS 7877=IFM 55992)(以下、「M. restricta」)
【0039】
(3)培地
培地は以下のものを用いた。
Leening&Notman(LN) 寒天培地;ペプトン 1(w/v)%、グルコース 0.5(w/v)%、酵母エキス 0.01(w/v)%、ウシ胆汁 0.8(w/v)%、グリセロール 0.01(w/v)%、モノステアリン酸グリセロール 0.05(w/v)%、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween60)0.05(w/v)%、牛乳 1.0(w/v)%、アガー 1.2(w/v)%、
LN液体培地;LN寒天培地の組成からアガーを除いたもの。
被験物質含有培地;LN液体培地に、終濃度が2.5(w/v)%、5(w/v)%または10(w/v)%となるよう被験物質を添加したもの。
【0040】
培地に含有される各試薬の入手元は、下記のとおりである。
ペプトン、酵母エキス:ベクトン・ディッキンソン。
グルコース、ウシ胆汁、グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、アガー:富士フイルム和光純薬社。
Tween60:東京化成工業。
牛乳:「明治美味しい牛乳」明治。
【0041】
(4)培養
M. furfurおよびM. restrictaをLN寒天培地に塗布し、32℃で3日間静止培養した。培養後の菌体を3mLのLN液体培地に懸濁し、32℃、210回転/分(rpm)で24時間振とう培養し、これを前培養液とした。被験物質含有培地0.6mLを96穴深型プレートに分注した。また、コントロールとして、被験物質を含まないLN液体培地0.6mLも同様に96穴深型プレートに分注した。各穴に前培養液20μLを植菌し、32℃、1000rpmで48時間振とう培養し、これを本培養液とした。
【0042】
(5)菌体濃度の測定
本培養液について、濁度法により菌体濃度を測定した。具体的には、96穴平底プレートに水180μLを分注し、本培養液20μLを加えることにより10倍希釈液を作製した。この希釈液について、マイクロプレートリーダー (SpectraMax(登録商標)M2、モレキュラーデバイス)を用いて660nmでの透過光強度を検出することにより濁度(OD660)を測定した。同様の試験を4回行って平均値および標準偏差を算出した。
【0043】
<実施例1>有効成分の検討1
被験物質としてエリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトール(白色粉末)を用いて、試験方法(2)~(5)に記載の方法により試験を行った。菌株はM. furfurおよびM. restrictaを用いた。被験物質含有培地における被験物質の濃度は、M. furfurの場合は10.0(w/v)%、M. restrictaの場合は5.0(w/v)%とした。M. furfurの濁度を図1に、M. restricta の濁度を図2に、それぞれ示す。
【0044】
図1に示すように、M. furfurは、エリスリトールを被験物質とする場合およびキシリトールを被験物質とする場合において、被験物質を含有しない場合と比較して濁度が顕著に小さかった。これに対して、マンニトールおよびソルビトールを被験物質とする場合はいずれも、被験物質を含有しない場合と比較して濁度がやや小さい程度であった。
【0045】
また、図2に示すように、M. restrictaは、エリスリトールを被験物質とする場合およびキシリトールを被験物質とする場合において、被験物質を含有しない場合と比較して濁度が顕著に小さかった。これに対して、マンニトールおよびソルビトールを被験物質とする場合は、被験物質を含有しない場合と濁度が同等であった。
【0046】
これらの結果から、エリスリトールおよびキシリトールは、マラセチア属菌の増殖を抑制できることが明らかになった。
【0047】
<実施例2>有効成分の検討2
被験物質としてグリセロール、中糖化還元水飴、中糖化水飴および低糖化還元水飴を用いて、試験方法(2)~(5)に記載の方法により試験を行った。菌株はM. furfurを用いた。被験物質含有培地における被験物質の濃度は2.5(w/v)%とした。濁度の測定結果を図3に示す。
【0048】
図3に示すように、M. furfurは、中糖化還元水飴を被験物質とする場合のみ、被験物質を含有しない場合と比較して、濁度が顕著に小さくなった。この結果から、中糖化還元水飴は、マラセチア属菌の増殖を抑制できることが明らかになった。
図1
図2
図3