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特開2024-122336電気化学デバイス用の触媒層及び膜電極接合体
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  • 特開-電気化学デバイス用の触媒層及び膜電極接合体 図1
  • 特開-電気化学デバイス用の触媒層及び膜電極接合体 図2
  • 特開-電気化学デバイス用の触媒層及び膜電極接合体 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122336
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用の触媒層及び膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240902BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240902BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029825
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】吉村 光生
(72)【発明者】
【氏名】山内 将樹
(72)【発明者】
【氏名】引地 巧
(72)【発明者】
【氏名】西山(小林) 亜貴
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018DD05
5H018HH01
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供する。
【解決手段】本開示の触媒層は、導電性を有するメソポーラス材料12と、メソポーラス材料12の細孔の内部に配置された触媒粒子13と、メソポーラス材料12に接するように配置され、表面にスルホ基16が付与された導電性繊維11と、を備える。本開示の膜電極接合体113は、アノード103と、カソード108と、アノード103とカソード108との間に配置された電解質膜102と、を備える。カソード108が上記本開示の触媒層を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するメソポーラス材料と、
前記メソポーラス材料の細孔の内部に配置された触媒粒子と、
前記メソポーラス材料に接するように配置され、表面にスルホ基が付与された導電性繊維と、
を備えた、電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項2】
プロトン伝導性を有するアイオノマーをさらに備え、
前記アイオノマーが前記導電性繊維に付着している、
請求項1に記載の電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項3】
前記導電性繊維に付着した前記アイオノマーの総質量は、前記メソポーラス材料に付着した前記アイオノマーの総質量よりも大きい、
請求項2に記載の電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項4】
前記導電性繊維に付与された前記スルホ基の総数が前記アイオノマーに含まれたスルホ基の総数よりも多い、
請求項2に記載の電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項5】
前記導電性繊維の平均長さが前記メソポーラス材料の粒子の平均粒径の2倍を超える、
請求項1に記載の電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項6】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが請求項1に記載の触媒層を含む、
膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学デバイス用の触媒層及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池などの電気化学デバイスには、アノード、電解質膜及びカソードを有する膜電極接合体が用いられる。膜電極接合体のアノード及びカソードは、それぞれ、触媒層を有する。触媒層には、電極触媒として、触媒粒子を担持したカーボン粒子が用いられる。触媒層において、電極触媒は、イオン伝導性を有するアイオノマーで覆われている。
【0003】
触媒粒子は、アイオノマーによって被毒されることがある。触媒粒子が被毒されると触媒粒子の活性が低下し、電気化学反応の効率が低下する。特許文献1に記載されているように、メソポーラスカーボン粒子の細孔の内部に触媒粒子を配置することによって、アイオノマーによる触媒粒子の被毒を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6566331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
導電性を有するメソポーラス材料と、
前記メソポーラス材料の細孔の内部に配置された触媒粒子と、
前記メソポーラス材料に接するように配置され、表面にスルホ基が付与された導電性繊維と、
を備えた、電気化学デバイス用の触媒層を提供する。
【0007】
別の側面において、本開示は、
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが上記本開示の触媒層を有する、
膜電極接合体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における固体高分子形燃料電池の概略断面図
図2】カソード触媒層の部分拡大断面図
図3】カソード触媒層の製造方法を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
メソポーラスカーボン粒子のような多孔質材料は、中実のカーボン粒子に比べて大きい寸法を有する傾向にある。そのため、触媒粒子のための担体として多孔質材料を使用すると、触媒層の厚さが増加する傾向にある。触媒層の厚さが増加すると、触媒層における物質の拡散性が低下する。触媒層に導電性繊維を加えると、導電性繊維に付着したアイオノマーがプロトンの輸送を促進し、導電性繊維によって形成される空隙が触媒層におけるガスの輸送を促進する。ただし、電気化学反応の効率を向上させるためにはプロトン伝導性を更に向上させることが望まれる。
【0011】
そうした状況下において、本発明者らは、導電性繊維の改良によってその課題を解決できるのではないかと考え、本開示の技術を想到するに至った。本開示は、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供する。
【0012】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、又は、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0013】
添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0014】
(実施の形態1)
以下、図1から図3を用いて、実施の形態1を説明する。
【0015】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1における固体高分子形燃料電池101の概略断面図である。固体高分子形燃料電池101は、膜電極接合体113、アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111を備えている。アノードセパレータ106とカソードセパレータ111との間に膜電極接合体113が配置されている。
【0016】
膜電極接合体113は、水素の精製を行う水素精製デバイスなどの他の電気化学デバイスにも使用されうる。
【0017】
膜電極接合体113は、アノード103、電解質膜102及びカソード108を有する。電解質膜102の一方の面にアノード103が接合されている。電解質膜102の他方の面にカソード108が接合されている。
【0018】
電解質膜102は、アノード103とカソード108との間に配置されている。電解質膜102は、プロトン伝導性を有する高分子材料で作られている。電解質膜102は、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、又は、炭化水素系の高分子材料でできた膜である。
【0019】
アノード103は、アノード触媒層104及びアノードガス拡散層105を有する。電解質膜102とアノードガス拡散層105との間にアノード触媒層104が配置されている。カソード108は、カソード触媒層109及びカソードガス拡散層110を有する。電解質膜102とカソードガス拡散層110との間にカソード触媒層109が配置されている。
【0020】
アノード触媒層104は、水素をプロトンに解離する電気化学反応を促進する機能を有する。アノード触媒層104は、電極触媒及びアイオノマーを有する。アノード触媒層104は、触媒粒子を担持したカーボン粒子及びアイオノマーを有していてもよい。
【0021】
アノードガス拡散層105は、アノード触媒層104に水素含有ガスを供給する機能、及び、アノード触媒層104から電子を受け取る機能を有する。アノードガス拡散層105は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。アノードガス拡散層105は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0022】
カソード触媒層109は、プロトンと酸素とから水を生成する電気化学反応を促進する機能を有する。カソード触媒層109の詳細な構造は後述する。
【0023】
カソードガス拡散層110は、カソード触媒層109に酸化剤ガスを供給する機能、及び、カソード触媒層109に電子を受け渡す機能を有する。カソードガス拡散層110は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。カソードガス拡散層110は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0024】
アノードセパレータ106には、アノードガスの流路であるアノードガス流路107が設けられている。カソードセパレータ111には、カソードガスの流路であるカソードガス流路112が設けられている。アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111は、それぞれ、カーボン、金属などの導電性材料で作られている。腐食を防止するために、樹脂、めっきなどの耐食性を有する被膜が設けられていてもよい。
【0025】
図2は、カソード触媒層109の部分拡大断面図である。カソード触媒層109は、導電性繊維11、電極触媒14、アイオノマー15を有する。電極触媒14は、メソポーラス材料12及び触媒粒子13を有する。触媒粒子13は、メソポーラス材料12の細孔の内部に配置されている。
【0026】
導電性繊維11は、電極触媒14の粒子間に空隙を作り、カソード触媒層109におけるガスの拡散性を高める。カソード触媒層109において、導電性繊維11は、電極触媒14のメソポーラス材料12に接するように配置されている。電極触媒14の粒子同士が導電性繊維11によって接続される。これにより、カソード触媒層109におけるプロトン伝導が促進される。導電性繊維11は、例えば、炭素繊維である。炭素繊維としては、レゾナック社より入手可能な気相成長炭素繊維(商品名VGCF(登録商標))などが挙げられる。
【0027】
本実施の形態において、導電性繊維11の表面にはスルホ基16が付与されている。導電性繊維11の表面のスルホ基16がプロトンの輸送に寄与する。アイオノマーに依存せず導電性繊維11そのものがプロトン伝導性を向上させるので、カソード触媒層109における電気化学反応の効率の向上を期待できる。
【0028】
本実施の形態において、導電性繊維11は、触媒粒子13を担持していない材料でありうる。このような構成によれば、アイオノマー15及びスルホ基16によって触媒粒子13が被毒されることを回避できる。ただし、電極触媒14から脱落した触媒粒子13が導電性繊維11に付着していてもよい。つまり、「導電性繊維11が触媒粒子13を担持していない」とは、導電性繊維11に触媒粒子13を担持させるための処理が行われていないことを意味する。
【0029】
アイオノマー15は、プロトン伝導性を有する電解質であり、電極触媒14を互いにプロトン伝導可能な状態に連結している。アイオノマー15としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、炭化水素系の高分子材料などが挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料は、優れたプロトン伝導性を有するので、アイオノマー15に適している。
【0030】
アイオノマー15は、導電性繊維11に付着している。親水性の導電性繊維11にアイオノマー15のプロトン伝導基(スルホ基など)が吸着するので、触媒粒子13の被毒を抑制しつつカソード触媒層109のプロトン伝導性を向上させることができる。導電性繊維11の表面の一部のみがアイオノマー15によって被覆されていてもよく、導電性繊維11の表面の全部がアイオノマー15によって被覆されていてもよい。
【0031】
本実施の形態において、導電性繊維11に付着したアイオノマー15の総質量は、メソポーラス材料12に付着したアイオノマー15の総質量よりも大きい。アイオノマー15は、導電性繊維11に選択的に付着している。このような構成によれば、アイオノマー15による触媒粒子13の被毒を抑制することができる。
【0032】
導電性繊維11とメソポーラス材料12との接触部分を除き、メソポーラス材料12にアイオノマー15が実質的に付着していなくてもよい。言い換えると、メソポーラス材料12にアイオノマー15を付着させるための処理が実施されていなくてもよい。ただし、カソード触媒層109を形成するための触媒インクに含まれたアイオノマー15がメソポーラス材料12に不可避的に付着する可能性はある。
【0033】
「導電性繊維11に付着したアイオノマー15の総質量」は、カソード触媒層109の全体に存在するアイオノマー15のうち、導電性繊維11に付着したものの質量を意味する。「メソポーラス材料12に付着したアイオノマー15の総質量」は、カソード触媒層109の全体に存在するアイオノマー15のうち、メソポーラス材料12に付着したものの質量を意味する。
【0034】
一般に、メソポーラス材料を担体として用いた電極触媒において、触媒粒子の大部分はメソポーラス材料の細孔の内部に配置されている。ただし、触媒粒子の一部がメソポーラス材料の外表面に位置することがある。また、メソポーラス材料の細孔の内部にアイオノマーが侵入することもある。このような場合、触媒粒子がアイオノマーに接触して被毒され、触媒活性が低下するおそれがある。
【0035】
触媒層におけるアイオノマーの量を減らすと、アイオノマーによる触媒粒子の被毒を抑制できる可能性がある。しかし、アイオノマーの量を減らすとアイオノマーの連続性が途切れやすく、触媒層のプロトン伝導性が低下する。触媒層におけるアイオノマーの量を増やすと、触媒層のプロトン伝導性は高まる。しかし、アイオノマーの量を増やすと、メソポーラス材料の外表面に位置する触媒粒子が被毒されやすい。また、多孔質材料の細孔がアイオノマーによって塞がれる可能性が高まり、細孔の内部にある触媒粒子へのガスの到達が難しくなる。このように、触媒層には相反する2つの課題がある。
【0036】
本実施の形態の構成によれば、導電性繊維11によってプロトンの輸送経路が形成されるので、カソード触媒層109におけるアイオノマーの量を減らしたとしても、プロトン伝導性の低下を導電性繊維11に付与されたスルホ基16によって補うことができる。プロトン伝導性の低下を回避しながら、メソポーラス材料12の外表面に位置する触媒粒子13の被毒を抑制することができる。メソポーラス材料12の細孔の内部へのアイオノマーの侵入も抑制され、細孔の内部の触媒粒子13の被毒も抑制されうる。結果として、カソード触媒層109における電気化学反応の効率が向上する。
【0037】
また、メソポーラス材料にアイオノマーを付着させる処理を行うと、アイオノマーは柔軟に変形してメソポーラス材料の表面を被覆する。そのため、メソポーラス材料の外表面に位置する触媒粒子が被毒されやすい。これに対し、本実施の形態によれば、導電性繊維11は長尺の形状を有し、メソポーラス材料12の粒子は球形に近い形状を有するので、導電性繊維11とメソポーラス材料12の粒子との接点は限られる。導電性繊維11と触媒粒子13とが接する可能性も下がる。その結果、導電性繊維11の表面のスルホ基16に含まれた硫黄原子が触媒粒子13に吸着することを抑制できる。
【0038】
スルホ基16は、導電性繊維11の全周囲に付与されるので、導電性繊維11の表面の全体がプロトンの輸送経路となる。そのため、導電性繊維11は高いプロトン伝導性を有することができる。そのような導電性繊維11によってメソポーラス材料12の粒子間が接続されることによって、メソポーラス材料12の粒子間のプロトンの輸送経路が確保される。炭素繊維のように導電性を有する材料で導電性繊維11が構成されている場合、カソード触媒層109の導電性も向上しうる。
【0039】
導電性繊維11の表面におけるスルホ基16の存在は、赤外分光分析によって確かめることができる。アイオノマー15が溶解可能な溶媒でカソード触媒層109を処理することによって、導電性繊維11及び電極触媒14からアイオノマー15を取り除くことができる。後述する方法によれば、導電性繊維11にアイオノマー15を選択的に付着させることができるので、導電性繊維11に付着したアイオノマー15の総質量がメソポーラス材料12に付着したアイオノマー15の総質量を上回る。
【0040】
スルホ基16は、導電性繊維11の全体に付与されていることが望ましい。これにより、アイオノマー15の使用量を減らすことが可能となる。一例において、導電性繊維11に付与されたスルホ基16の総数は、アイオノマー15に含まれたスルホ基の総数よりも多い。このような構成によれば、アイオノマー15の量を減らすことができるので、メソポーラス材料12を被覆するアイオノマー15の量が減少する。その結果、触媒粒子13の被毒が抑制されうる。
【0041】
「導電性繊維11に付与されたスルホ基16の総数」は、カソード触媒層109に含まれた全ての導電性繊維11についてのスルホ基16の総数を意味する。「アイオノマー15に含まれたスルホ基の総数」は、カソード触媒層109に含まれたアイオノマー15の全量に含まれたスルホ基の総数を意味する。
【0042】
導電性繊維11に付与されたスルホ基16の総数は、以下の方法によって測定することができる。まず、アイオノマー15が溶解可能な溶媒でカソード触媒層109を処理することによって、導電性繊維11及び電極触媒14からアイオノマー15を分離する。スルホ基16が完全にプロトン化するように導電性繊維11を酸で処理する。これにより、導電性繊維11に付与されたスルホ基16において、SO3 -にはカウンターイオンとしてH+(プロトン)が結合する。その後、NaOH水溶液を用いた中和滴定を実施する。中和滴定の結果から、スルホ基16の総数を算出することができる。
【0043】
アイオノマー15に含まれたスルホ基の総数は、以下の方法によって測定することができる。まず、アイオノマー15が溶解可能な溶媒でカソード触媒層109を処理することによって、導電性繊維11及び電極触媒14からアイオノマー15を分離する。アイオノマー15についても、導電性繊維11と同じように中和滴定法によってスルホ基の総数を算出することができる。アイオノマー15のEW値(equivalent weight value)が既知の場合、EW値からスルホ基の数を算出することも可能である。EW値は、アイオノマーのイオン交換基の量を示す値であって、スルホ基1モル当たりの乾燥状態のアイオノマーのグラム数を表す(単位:g/mol)。イオン交換容量(IEC:ion exchange capacity)は「IEC=1000/EW」で求められる。
【0044】
導電性繊維11の長手方向の長さは、例えば、3μm以上10μm以下である。導電性繊維11の太さは、例えば、100nm以上300nm以下である。導電性繊維11の寸法は、複数(例えば、100個)の導電性繊維11の粒子についての寸法の平均値でありうる。
【0045】
導電性繊維11は、メソポーラス材料12の粒子の平均粒径の2倍を超える平均長さを有していてもよい。このような構成によれば、隣接するメソポーラス材料12の粒子同士を高いプロトン伝導性を有する導電性繊維11で接続することができる。その結果、カソード触媒層109におけるプロトン伝導性が向上する。導電性繊維11の平均長さは、メソポーラス材料12の粒子の平均粒径の10倍以下であってもよい。
【0046】
メソポーラス材料12は、触媒粒子13を担持する担体の役割を担う。メソポーラス材料12は、多数の細孔(メソ孔)を有する導電性材料である。細孔は、独立孔であってもよく、連続孔であってもよい。メソポーラス材料12は、典型的には、メソポーラスカーボン粒子である。メソポーラス材料12の細孔の内部に触媒粒子13が配置されている。これにより、アイオノマー15と触媒粒子13との直接的な接触が抑制されるので、アイオノマー15による触媒粒子13の被毒が抑制される。メソポーラス材料12の細孔の内部は、電気化学反応によって生成した水で満たされる。そのため、触媒粒子13がアイオノマー15に接していなかったとしても、細孔の内部に満たされた水を介して触媒粒子13にプロトンがスムーズに到達できる。ただし、細孔の外部に配置された触媒粒子13が存在していてもよい。
【0047】
メソポーラス材料12は、粒子の形状を有する。メソポーラス材料12の粒子は、例えば、400nm以上1000nm以下の平均粒径を有していてもよい。メソポーラス材料12の粒子の平均粒径は、複数(例えば、100個)のメソポーラス材料12の粒子の直径の平均値である。メソポーラス材料12の粒子の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定されうる。メソポーラス材料12の粒子のSEM像において、メソポーラス材料12の粒子の面積を画像処理によって求める。求めた面積と等しい面積を有する円の直径をメソポーラス材料12の粒子の直径とみなすことができる。
【0048】
メソポーラス材料12の細孔のモード半径は、例えば、3nm以上10nm以下である。モード半径は、以下に説明するガス吸着法によって求めることができる。細孔分布測定装置を用いて、メソポーラス材料12の吸着等温線のデータを得る。吸着ガス種は窒素ガスである。吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法で解析することによって、細孔の体積が特定された細孔分布を得ることができる。細孔分布は、例えば、細孔の直径DとLog微分細孔体積との関係を示すグラフである。細孔分布から、細孔のモード径、すなわち、細孔分布において分布密度が最大値を示す細孔径を求めることができる。得モード径を2で除することにより、細孔のモード半径を得ることができる。
【0049】
触媒粒子13は、白金、白金合金などの貴金属を含む粒子でありうる。白金合金としては、白金と、コバルト、ニッケル、ルテニウム及びパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種との合金が挙げられる。
【0050】
触媒粒子13は、ナノ粒子であってもよい。触媒粒子13は、例えば、1nm以上30nm以下の平均粒径を有していてもよい。触媒粒子13の平均粒径は、複数(例えば、100個)の触媒粒子13の直径の平均値である。触媒粒子13の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定されうる。電極触媒14のTEM像において、触媒粒子13の面積を画像処理によって求める。求めた面積と等しい面積を有する円の直径を触媒粒子13の直径とみなすことができる。
【0051】
次に、図3を参照してカソード触媒層109の製造方法を説明する。図3は、カソード触媒層109の製造方法を示す工程図である。
【0052】
ステップS1において、導電性繊維11を作製する。導電性繊維11は、炭素繊維の表面改質を行うことによって得られる。例えば、F2及びSO2の混合ガスを炭素繊維に接触させることによって、炭素繊維の表面にスルホ基が導入され、導電性繊維11が得られる。
【0053】
あるいは、炭素繊維として、ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を表面に有するものを用いてもよい。ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基にメチルジフェニルジイソシアネートを反応させてこれを炭素繊維に結合させる。その後、反応性アルキルスルホン酸をイソシアネート基に反応させる。これにより、スルホ基が炭素繊維の表面に導入される。ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基のような官能基の数が少ない場合、気相酸化処理又は液相酸化処理を行ってこれらの官能基の量を増やすことも可能である。気相酸化処理は、オゾンガスを用いて炭素繊維の表面を改質する処理である。液相酸化処理は、酸化剤を含む水溶液を用いて炭素繊維の表面を改質する処理である。
【0054】
ステップS2において、導電性繊維11、アイオノマー15及び溶媒を混合して分散液を調製する。溶媒としては、水、イソプロパノール、エタノールなどが挙げられる。導電性繊維11の表面はスルホ基の導入によって親水性を有するので、親水性の官能基が導電性繊維11に向くようにアイオノマー15が導電性繊維11に吸着する。アイオノマー15の量は、導電性繊維11に吸着するのに必要十分な量であることが望ましい。これにより、導電性繊維11に吸着せずに分散液中に残存するアイオノマー15を減らすことができる。
【0055】
ステップS3において、分散液に電極触媒14を混合して触媒インクを調製する。導電性繊維11にアイオノマー15を先に付着させ、その後、電極触媒14を分散液に加えることによって、電極触媒14のメソポーラス材料12へのアイオノマー15の付着量を大幅に減らすことができる。
【0056】
電極触媒14は、メソポーラス材料12に触媒粒子13を担持させることによって得られる。メソポーラス材料12に触媒粒子13を担持させるための方法としては、含浸-還元熱分解法、化学還元法、気相還元法、表面修飾コロイド-還元熱分解法、ナノカプセル法などが挙げられる。
【0057】
ステップS4において、触媒インクを基材に塗布して塗布膜を形成する。塗布膜を乾燥させることによってカソード触媒層109が得られる。基材は、典型的には、電解質膜102である。ただし、PETフィルムなどの転写シートの上にカソード触媒層109を形成し、その後、カソード触媒層109を電解質膜102に転写してもよい。
【0058】
[1-2.動作]
以上のように構成された固体高分子形燃料電池101について、図1を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0059】
アノードガス流路107に水素含有ガスを供給する。カソードガス流路112に酸化剤ガスを供給する。酸化剤ガスは典型的には空気である。アノード103においては下記式(1)で表される電気化学反応にて、水素(H2)がプロトン(H+)と電子(e-)とに分かれる。プロトンは、電解質膜102を伝導してアノード103からカソード108に向かって移動する。電子は、外部回路を通じてアノード103からカソード108に向かって移動する。カソード108においては下記式(2)で表される電気化学反応にて、プロトン、酸素(O2)及び電子による電気化学反応にて水(H2O)が生成する。水は、メソポーラス材料12の細孔及びアイオノマー15に染み込み、プロトンの伝導を助ける。
【0060】
2→2H++2e- (1)
4H++O2+2e-→2H2O(2)
【0061】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、導電性繊維11の表面にスルホ基16が付与されている。導電性繊維11の表面のスルホ基16がプロトンの輸送に寄与する。アイオノマーに依存せず導電性繊維11そのものがプロトン伝導性を向上させるので、カソード触媒層109における電気化学反応の効率の向上を期待できる。
【0062】
また、本実施の形態において、触媒層は、プロトン伝導性を有するアイオノマー15をさらに備えていてもよく、アイオノマー15が導電性繊維11に付着していてもよい。親水性の導電性繊維11にアイオノマー15のプロトン伝導基(スルホ基など)が吸着するので、触媒粒子13の被毒を抑制しつつ触媒層のプロトン伝導性を向上させることができる。
【0063】
また、本実施の形態において、導電性繊維11に付着したアイオノマー15の総質量は、メソポーラス材料12に付着したアイオノマー15の総質量よりも大きい。このような構成によれば、アイオノマー15による触媒粒子13の被毒を抑制することができる。
【0064】
また、本実施の形態において、導電性繊維に付与されたスルホ基の総数がアイオノマーに含まれたスルホ基の総数よりも多くてもよい。このような構成によれば、アイオノマー15の量を減らすことができるので、メソポーラス材料12を被覆するアイオノマー15の量が減少する。その結果、触媒粒子13の被毒が抑制されうる。
【0065】
また、本実施の形態において、導電性繊維の平均長さがメソポーラス材料の粒子の平均粒径の2倍を超えてもよい。このような構成によれば、隣接するメソポーラス材料12の粒子同士を高いプロトン伝導性を有する導電性繊維11で接続することができる。その結果、触媒層におけるプロトン伝導性が向上する。
【0066】
本実施の形態において、膜電極接合体113は、アノード103と、カソード108と、アノード103とカソード108との間に配置された電解質膜102と、を備え、カソード108が上記した触媒層を有する。このような構成によれば、カソード触媒層109における電気化学反応の効率の向上を期待できる。
【0067】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。
【0068】
他の実施の形態において、導電性繊維11がスルホ基16を有するので、カソード触媒層109からアイオノマー15を省略されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示は、燃料電池、水素精製デバイスなどの電気化学デバイスに有用である。
【符号の説明】
【0070】
11 導電性繊維
12 メソポーラス材料
13 触媒粒子
14 電極触媒
15 アイオノマー
16 スルホ基
101 固体高分子形燃料電池
102 電解質膜
103 アノード
104 アノード触媒層
105 アノードガス拡散層
106 アノードセパレータ
107 アノードガス流路
108 カソード
109 カソード触媒層
110 カソードガス拡散層
111 カソードセパレータ
112 カソードガス流路
113 膜電極接合体
図1
図2
図3