(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122360
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】マスコンクリートのひび割れ抑制工法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20240902BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20240902BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
E04G21/02 104
B28B11/24
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029864
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴洋
【テーマコード(参考)】
2E172
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
2E172EA01
2E172EA13
4G055AA01
4G055BA10
4G112RA05
(57)【要約】
【課題】マスコンクリートの水和反応による内外温度差に起因するひび割れの抑制効果が高い工法を提供する。
【解決手段】温度制御マット20-1,20-2内の相変化材料が環境温度に応じて相変化することで、マスコンクリートCの表面及び中心部を保温し、又は温度変化を抑制する。より具体的には、相変化材料の融点よりも高い環境温度へと変化する場合(例えば夜間から日中に移行する場合)、相変化材料が融解することで吸熱効果を発揮して温度上昇を抑制する。例えば
図3のグラフにおいて、環境温度の上昇変化が曲線t1のとき、相変化材料の温度変化は曲線t2となる。よって、マスコンクリートC内の水和熱によってそのマスコンクリートCの表面の全部又は一部において温度上昇が生じたとしても、その温度上昇の変化が抑制される。これにより、表面の温度低下が抑制されることにより、表面と中心部間の急激な温度勾配の発生を抑えることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設されたマスコンクリートの外周面に、相変化材料を密封した温度制御マットを配置し、環境温度に応じて前記相変化材料が相変化することで前記マスコンクリートの表面及び中心部を保温し、又は、その温度変化を抑制する
マスコンクリートのひび割れ抑制工法。
【請求項2】
環境温度に応じた照準温度の前記相変化材料を用いる
請求項1記載のマスコンクリートのひび割れ抑制工法。
【請求項3】
前記マスコンクリートの表面側及び中心部にそれぞれ温度計を設置し、
各々の前記温度計の計測結果に基づく情報を出力する
請求項1又は2に記載のマスコンクリートのひび割れ抑制工法。
【請求項4】
前記計測結果による前記マスコンクリートの前記表面側と前記中心部の温度差が閾値以内であることを確認して、前記温度制御マットを取り外す
請求項3に記載のマスコンクリートのひび割れ抑制工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設されたマスコンクリートのひび割れを抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
打設されたマスコンクリートが硬化する過程において水とセメントが反応して水和熱が発生することで内外温度差が生じ、その温度差によりマスコンクリートにひび割れが発生することが知られている。例えば特許文献1には、コンクリートの床版上面を濡れマット、湿布、濡れムシロ等の養生シートによって養生し、床版の内部に熱電対を、床版と養生シートとの間に温度計及び湿度計を設け、これら熱電対、温度計及び湿度計により計測した温度や湿度によりひび割れ指数を算出して養生期間を決定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術として、打設されたマスコンクリート表面を保温材で覆って内外温度差が所定の温度差(例えば15~20℃)になるまで存置することで、部材内外温度差に起因する内部拘束型温度ひび割れの発生リスクを低減する方法が知られている。
【0005】
しかし、この方法では保温材や型枠の熱伝導率に依存するため、保温のレベルを積極的に上下させるような調整を行うことができず、ひび割れの抑制効果には限界がある。また、マスコンクリートから保温材を取り外す際の急激な温度変化(サーマルショック)によってひび割れのリスクが増大するという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、マスコンクリート内部の水和熱の逸散を緩やかにするとともに、環境温度の影響を抑制し養生解除時の急激なコンクリートからの放熱(サーマルショック)に起因するひび割れの抑制効果が高い工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のマスコンクリートのひび割れ抑制工法は、打設されたマスコンクリートの外周面に、相変化材料を密封した温度制御マットを配置し、環境温度に応じて前記相変化材料が相変化することで前記マスコンクリートの表面及び中心部を保温し、又は、その温度変化を抑制する。
【0008】
環境温度に応じた照準温度の前記相変化材料を用いるようにしてもよい。
【0009】
前記マスコンクリートの表面側及び中心部にそれぞれ温度計を設置し、各々の前記温度計の計測結果に基づく情報を出力するようにしてもよい。
【0010】
前記計測結果による前記マスコンクリートの前記表面側と前記中心部の温度差が閾値以内であることを確認して、前記温度制御マットを取り外すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相変化材料を用いることでマスコンクリート内部の水和熱の逸散を緩やかにするとともに、養生解除時の急激なコンクリートからの放熱(サーマルショック)に起因するひび割れの抑制効果を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るひび割れ抑制工法をマスコンクリートに用いたときの断面図。
【
図2】本発明の実施形態に係るひび割れ抑制工法をマスコンクリートに用いたときの平面図。
【
図3】温度上昇時における相変化材料の温度変化抑制効果を説明する図。
【
図4】温度下降時における相変化材料の温度変化抑制効果を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るひび割れ抑制工法をマスコンクリートに用いたときの断面図であり、
図2は、その平面図である。型枠10によって囲まれた領域に打設されたマスコンクリートCの外周面には、マスコンクリートCの温度を制御するための温度制御マット20-1,20-2が配置される。より具体的には、温度制御マット20-1はマスコンクリートCの上面を覆うように置かれ、温度制御マット20-2は型枠10の外側を覆うように型枠10の外壁面に固定される。
【0014】
打設されたマスコンクリートにおける表面(天端、側面)側は、環境温度や風等により放熱されやすく中心部に比べて温度が低くなり、ひび割れの原因となる内外温度差が生じる。
図1,2において、マスコンクリートCの中心部Cmは、マスコンクリートC内において網掛けが施された部位である。マスコンクリートCの表面側と中心部Cmはその温度によって区分される。具体的には、表面側は中心部Cmの温度に対して20℃以上温度が低い部位である(「マスコンクリートのひび割れ制御指針2016」p97:日本コンクリート工学会による)。
【0015】
図1,2に示すように、マスコンクリートCの表面側及び中心部Cmにはそれぞれ温度計30が設置される。各温度計30には、その温度計の計測結果に基づく情報(例えば計測温度)を出力(例えば表示)する表示装置31が接続されている。なお、
図1,2において各温度計30の設置位置は例示であり、マスコンクリートCの表面側及び中心部Cmにそれぞれ少なくとも1以上の温度計30が設置されていればよい。
【0016】
温度制御マット20-1,20-2は、相変化材料を密封したマット状の部材である。相変化材料とは、特定の温度で融解又は固化する高融点材料であり、このように相変化するときに熱エネルギーを吸収又は放出する。温度制御マット20-1,20-2は、相変化材料を耐久シート等のカバー材で密封した所定サイズのパックをホチキス等の連結具で繋いで作成されたものである。
【0017】
温度制御マット20-1,20-2内の相変化材料が環境温度に応じて相変化することで、マスコンクリートCの表面及び中心部を保温し、又はその温度変化を抑制する。このため、温度制御マット20-1,20-2に密封される相変化材料として、環境温度の変化に応じた照準温度(融点温度)の相変化材料を用いる。例えば相変化材料の融点よりも低い環境温度から高い環境温度へと変化する場合(例えば夜間から日中に移行する場合)、相変化材料が融解することで吸熱効果を発揮して温度上昇を抑制する。例えば
図3のグラフにおいて、環境温度の上昇変化が曲線t1のとき、相変化材料の温度変化は曲線t2となる。よって、マスコンクリートC内の水和熱によってそのマスコンクリートCの表面の全部又は一部において温度上昇が生じたとしても、その温度上昇の変化が温度制御マット20-1,20-2内の相変化材料によって抑制される。これにより、マスコンクリートCの表面の温度低下が抑制されることにより、表面と中心部間の急激な温度勾配の発生を抑えることができる
【0018】
一方、相変化材料の融点よりも高い環境温度から低い環境温度へと変化するとき(例えば日中から夜間に移行する場合)、相変化材料が固化することで放熱効果を発揮して温度下降を抑制する。例えば
図4のグラフにおいて、環境温度の下降変化が曲線T1のとき、相変化材料の温度変化は曲線T2となる。よって、環境温度や風の影響でマスコンクリートCの表面の全部又は一部において温度下降が生じたとしても、その温度下降の変化が温度制御マット20-1,20-2内の相変化材料によって抑制される。つまり、この場合、マスコンクリートCの表面及び中心部が保温される。
【0019】
このように温度制御マット20-1,20-2は、環境温度の変化に応じて相変化を繰り返しながら、マスコンクリートC内の水和熱を徐々に外部に放出する。なお、例えば保温効果を高めたい場合は、相変化材料の厚みが大きい温度制御マット20-1,20-2を用いることが望ましい。
【0020】
本実施形態に係る方法の手順は次のとおりである。まず、作業者は、打設されたマスコンクリートCの表面側及び中心部Cmにそれぞれ温度計30を挿入し、マスコンクリートCの外周面を温度制御マット20-1,20-2で覆う。作業者は、温度計30の計測結果を参照してマスコンクリートCの表面側と中心部Cmの温度差を定期的に監視し、その温度差が閾値以内(例えば20℃以内)になったことを確認すると、温度制御マット20-1,20-2を取り外す。
【0021】
上述した実施形態によれば、打設されたマスコンクリートに温度制御マットを設置することでその内外温度差が抑制される。また、相変化材料の照準温度とその量を環境温度に応じて適切に選択することで、昼夜の気温変化に関わらず、効果的な温度制御を実現することができる。また、例えば冷却装置又は加熱装置のような電力で動作する外部装置を必要としないため、低コストであるとともに、CO2の削減にも寄与することができるほか、相変化物質(PCM)は物質の融解と固化という相変化を繰り返すため、長期間かつ半永久的に転用できる。また、温度制御マット20-1,20-2が相変化を繰り返しながらマスコンクリートC内の水和熱を外部に放出するため、従来の保温マットを用いる工法に比べて、早期に内外温度差を均一にすることができるから温度制御マット20-1,20-2を取り外したとしても、急激な温度変化(サーマルショック)が起こりにくい。
【符号の説明】
【0022】
10:型枠、20-1,20-2:温度制御マット、30:温度計、31:表示装置、C:マスコンクリート、Cm:マスコンクリートの中心部。