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特開2024-122365ラジカル発生組成物、ラジカル発生組成物の製造方法及びラジカル発生組成物の安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122365
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ラジカル発生組成物、ラジカル発生組成物の製造方法及びラジカル発生組成物の安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/00 20060101AFI20240902BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20240902BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C08L1/00
B01J31/02 102M
C08K3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029872
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 愛美
【テーマコード(参考)】
4G169
4J002
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA21B
4G169BA29A
4G169BA29B
4G169BA29C
4G169BA44A
4G169BD01B
4G169BD04B
4G169BD06B
4G169BD12B
4G169BE17B
4G169BE37B
4G169CD10
4G169DA02
4G169ED10
4G169FC02
4J002AB031
4J002DE196
4J002DH038
4J002EN137
4J002FD031
4J002HA04
(57)【要約】
【課題】粘性を有し、ラジカル発生源の分解・減少が抑制された安定性の高いラジカル発生組成物を提供すること。
【解決手段】(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有し、グリオキサールを実質的に含まないことを特徴とするラジカル発生組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有し、グリオキサールを実質的に含まないことを特徴とするラジカル発生組成物。
【請求項2】
前記セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載のラジカル発生組成物。
【請求項3】
前記ラジカル発生触媒はルイス酸性度が0.4eV以上のルイス酸であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラジカル発生組成物。
【請求項4】
前記ラジカル発生源は亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラジカル発生組成物。
【請求項5】
前記ラジカル発生組成物は中性またはアルカリ性であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラジカル発生組成物。
【請求項6】
セルロース系高分子化合物を低級アルコールに分散させた後、液体部と沈殿部に分離させ、前記液体部を除去することで精製セルロース系高分子化合物を得る精製工程と、
前記精製セルロース系高分子化合物、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を混合する混合工程
を含むことを特徴とするラジカル発生組成物の製造方法。
【請求項7】
前記精製工程において、グリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を得ることを特徴とする、請求項6に記載のラジカル発生組成物の製造方法。
【請求項8】
(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有するラジカル発生組成物の安定化方法であって、
前記セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を用いることを特徴とするラジカル発生組成物の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル発生組成物、ラジカル発生組成物の製造方法及びラジカル発生組成物の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルは、反応性に富み、強い酸化力を持つことから、広く利用されている重要な化学種である。例えば、細菌やウイルスがラジカルと接触すると、その酸化力により消滅(不活化ともいう)するため、除菌、脱臭等の効果が得られることが知られている。
【0003】
例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)は、非毒性かつ安価なラジカル発生源であり、従来ラジカル二酸化塩素(ClO )の前駆体として使用されてきた(例えば、非特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Dodgen and H. Taube, J. Am. Chem. Soc., 1949, 71, 2501-2504.
【非特許文献2】J. K. Leigh, J. Rajput, and D. E. Richardson, Inorg. Chem., 2014, 53,6715-6727.
【非特許文献3】C. L. Latshaw, Tappi, 1994, 163-166.
【非特許文献4】(a) J. J. Leddy, in Riegel’s Handbook of Industrial Chemistry, 8th edn. Ed., J. A. Kent, Van Nostrand Reinhold Co. Inc, New York, 1983, pp. 212-235; (b) I. Fabian, Coord. Chem. Rev., 2001, 216-217, 449-472.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、亜塩素酸及びその塩は、その強力な酸化力のため様々な成分と容易に反応し、分解・減少するという特性がある。このため、亜塩素酸及びその塩の水溶液に増粘剤などを添加して該水溶液の物性(増粘性・展着性)を自由に改質することは困難であった。亜塩素酸及びその塩の活性を高めることができる触媒等も知られているが、これらを併用すると、さらに増粘剤との反応・分解が促進するため、安定して利用することは難しいと考えられていた。
このため、亜塩素酸及びその塩は非常に有用性の高いラジカル発生源であるにもかかわらず、水溶液としての利用にとどまっており、利用範囲が限定されていた。
【0006】
そこで本発明は、粘性を有し、ラジカル発生源の分解・減少が抑制された安定性の高いラジカル発生組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ラジカル発生組成物中にグリオキサールが実質的に含まれないようにすると、該組成物に増粘性を付与したときにラジカル発生源の分解・減少を抑制でき、安定した増粘組成物として利用できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)によって達成される。
(1)(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有し、グリオキサールを実質的に含まないことを特徴とするラジカル発生組成物。
(2)前記セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を含有することを特徴とする、前記(1)に記載のラジカル発生組成物。
(3)前記ラジカル発生触媒はルイス酸性度が0.4eV以上のルイス酸であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載のラジカル発生組成物。
(4)前記ラジカル発生源は亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載のラジカル発生組成物。
(5)前記ラジカル発生組成物は中性またはアルカリ性であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載のラジカル発生組成物。
(6)セルロース系高分子化合物を低級アルコールに分散させた後、液体部と沈殿部に分離させ、前記液体部を除去することで精製セルロース系高分子化合物を得る精製工程と、
前記精製セルロース系高分子化合物、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を混合する混合工程
を含むことを特徴とするラジカル発生組成物の製造方法。
(7)前記精製工程において、グリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を得ることを特徴とする、前記(6)に記載のラジカル発生組成物の製造方法。
(8)(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有するラジカル発生組成物の安定化方法であって、前記セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を用いることを特徴とするラジカル発生組成物の安定化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラジカル発生源の分解・減少を抑制し、ラジカル発生組成物を安定して増粘できるので、より安定的にラジカル発生組成物を利用することが可能になる。また、ラジカル発生組成物に適切な物性(粘性、展着性)を付与し、さらにラジカル発生源の効果を高める成分を安定して組成物中に配合することができれば、様々な場面でラジカル発生源を低濃度で使用することが可能となり、ラジカル発生組成物の利用範囲が大きく拡大することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、試験例1で作製した検体組成物における亜塩素酸ナトリウム含有量の経時変化を示す図であり、図1の(a)は25℃保存の参考例1~6、図1の(b)は40℃保存の参考例1~6、図1の(c)は25℃保存の参考例7~11、図1の(d)は40℃保存の参考例7~11の結果を示すグラフである。
図2図2は、試験例2で用いたヒドロキシエチルセルロース中のグリオキサールの含有量を示すグラフである。
図3図3は、試験例2で作製した実施例1~2、比較例1~5の検体組成物における安定性試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、試験例3で作製した実施例3~4、比較例6~8の検体組成物における亜塩素酸ナトリウム含有量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について更に詳しく説明する。
【0012】
本発明のラジカル発生組成物は、(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物および(d)水を含有し、グリオキサール(シュウ酸アルデヒド)を実質的に含まないものである。
【0013】
本発明において、「グリオキサールを実質的に含まない」とは、グリオキサールの含有量がラジカル発生組成物に対して、20ppm未満であることを意味し、グリオキサールの含有量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下であり、検出限界以下であるのが最も好ましい。グリオキサールの含有量については、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて測定することができる。GC-MSで分析してグリオキサール溶液と同じ位置に出るピークを測定することでグリオキサールの含有量とする。
以下、各成分について説明する。
【0014】
<(a)ラジカル発生触媒>
本発明のラジカル発生組成物に含まれるラジカル発生触媒(以下、「本発明のラジカル発生触媒」ということがある。)は、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒するものであれば特に限定されず、既知の化合物を用いることができる。ラジカル発生触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明では、ラジカル発生触媒としてルイス酸を用いるのが好ましく、ルイス酸性度が0.4eV以上のルイス酸がより好ましい。
ルイス酸性度の上限値は、特に限定されないが、20eV以下であるのが好ましい。なお、ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができ、具体的には、下記の方法により測定することができる。
【0016】
(ルイス酸性度の測定方法)
下記反応スキーム(A)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン(CoTPP)、飽和Oおよびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記反応スキーム(A)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(kcat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。kcatの値は大きいほど強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位からも、見積もることができる。正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0017】
【数1】
【0018】
なお、上記測定方法により測定(算出)されるルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数の例を以下に示す。下記表1において、「kcat,M-2-1」で表される数値が、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素である。「LUMO,eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。
【0019】
【表1】
【0020】
本発明のラジカル発生触媒は、ルイス酸としての性質を有するアンモニウム又はその塩であるのが好ましい。このようなアンモニウムは、例えば、4級アンモニウムでもよいし、3級、2級、1級または0級のアンモニウムでもよい。
【0021】
アンモニウム及びその塩としては、例えば、陽イオン界面活性剤が挙げられ、中でも、第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤が好ましい。
【0022】
第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、及びコリン類(ベンゾイルコリンクロリド、及びラウロイルコリンクロリド水和物などのコリンクロリド、ホスホコリン、アセチルコリン、コリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び重酒石酸コリンなど)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ただし、本発明において、前記第4級アンモニウムは、界面活性剤のみには限定されない。
【0024】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、下記化学式(I)で表されるアンモニウムであってもよい。
【0025】
【化1】
【0026】
前記化学式(I)中、R、R、RおよびRは、同一又は異なって、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、Xは、アニオンである。
前記アルキル基は、炭素数1~40の直鎖または分枝アルキル基であるのが好ましい。
【0027】
前記化学式(I)で表されるアンモニウムは、下記化学式(II)で表されるアンモニウムであるのが好ましい。
【0028】
【化2】
【0029】
前記化学式(II)中、R11は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、RおよびXは、前記化学式(I)と同じである。
【0030】
前記化学式(II)中、Rは、メチル基またはベンジル基であるのが好ましく、前記ベンジル基は、ベンゼン環の水素原子の1以上が任意の置換基で置換されていても置換されていなくてもよく、前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、アルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)が挙げられる。
【0031】
前記化学式(II)で表されるアンモニウムは、下記化学式(III)で表されるアンモニウムであるのが好ましい。
【0032】
【化3】
【0033】
前記化学式(III)中、R11およびXは、前記化学式(II)と同じである。
【0034】
前記化学式(I)で表されるアンモニウムの具体例としては、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、および塩化テトラブチルアンモニウムが挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。中でも、式(II)で表される塩化ベンゼトニウムであるのが特に好ましい。
【0035】
なお、塩化ベンゼトニウム(BznCl)は、例えば、下記化学式(IV)で表すことができる。式(IV)中、Meはメチル基であり、Buはターシャリーブチル基である。
また、塩化ベンザルコニウムは、例えば、前記化学式(III)中、R11が炭素数8~18のアルキル基であり、Xが塩化物イオンである化合物として表すことができる。
【0036】
【化4】
【0037】
なお、前記化学式(I)、(II)および(III)中、Xは、任意のアニオンであり、特に限定されない。また、Xは、1価のアニオンに限定されるものではなく、2価、3価等の任意の価数のアニオンでもよい。アニオンの電荷が2価、3価等の複数の場合、例えば、前記化学式(I)、(II)および(III)中のアンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数×アニオンの価数(例えば、アニオンが2価の場合、アンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数の2倍)となる。Xとしては、例えば、ハロゲンイオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0038】
また、本発明において、前記アンモニウムは、1分子中にアンモニウム構造(N)を複数含んでいてもよい。さらに、前記アンモニウムは、例えば、π電子相互作用により複数の分子が会合し、二量体または三量体等を形成していてもよい。
【0039】
また、本発明において、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。
【0040】
また、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)が塩を形成し得る場合は、前記塩は、酸付加塩でもよいが、塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等が挙げられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等が挙げられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等が挙げられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が挙げられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0041】
また、本発明において、鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でもよく、その炭素数は、特に限定されないが、以下好ましい順に、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、または1~2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)である。また、本発明において、環状の基(例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、以下好ましい順に、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10である。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でもよく、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でもよい。
【0042】
本発明のラジカル発生組成物において、ラジカル発生触媒の含有量は、0.01~1500質量ppmであるのが好ましい。ラジカル発生組成物中のラジカル発生触媒の濃度が低すぎると、ラジカルの発生が抑制されてしまい殺菌効果等が得られなくなるおそれがある。また、ラジカル発生触媒の含有量が1500質量ppm以下であると、安全性が確保できるので好ましい。
ラジカル発生触媒の含有量は、ラジカル発生組成物中、0.1~1000質量ppmであるのがより好ましく、0.1~500質量ppmがさらに好ましく、1~200質量ppmが特に好ましく、1~100質量ppmが最も好ましい。
なお、ミセル形成により殺菌効果等が得られなくなることを防止する観点からは、ラジカル発生触媒の濃度が、ミセル限界濃度以下であることが好ましい。
【0043】
<(b)ラジカル発生源>
ラジカル発生源は、例えば、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオン等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも一つを含むのが好ましい。
ラジカル発生源は、例えば、オキソ酸またはその塩(例えば、ハロゲンオキソ酸またはその塩)を含んでいてもよい。前記オキソ酸としては、例えば、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ素、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、及び過マンガン酸などが挙げられる。ハロゲンオキソ酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、及び過塩素酸などの塩素オキソ酸;次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、及び過臭素酸などの臭素オキソ酸;及び次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸などのヨウ素オキソ酸が挙げられる。また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0044】
中でも、ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン及び亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましく、ラジカル発生触媒との反応性が穏やかで反応の制御がしやすいという点から、亜塩素酸、亜塩素酸イオン及び亜塩素酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのがさらに好ましい。
具体的には、亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0045】
本発明のラジカル発生組成物において、ラジカル発生源の含有量は、0.01~1500質量ppmであるのが好ましい。ラジカル発生組成物中のラジカル発生源の濃度が低すぎると、ラジカルの発生量が少なくなり過ぎて殺菌効果等が得られなくなるおそれがある。また、ラジカル発生源の濃度が高いほど殺菌効果等は得られるが、安全性の確保の観点から1500質量ppm以下とするのが好ましい。
ラジカル発生源の含有量は、ラジカル発生組成物中、1~1000質量ppmであるのがより好ましく、10~500質量ppmがさらに好ましく、50~250質量ppmが特に好ましい。
【0046】
本発明のラジカル発生組成物において、ラジカル発生源とラジカル発生触媒の組成物中の濃度比(ラジカル発生源/ラジカル発生触媒)は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0047】
<(c)セルロース系高分子化合物>
セルロース系高分子化合物はラジカル発生組成物に粘性を与える。
セルロース系高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、及びそれらの塩が挙げられる。このような塩としては、例えば、有機塩基との塩(アミン塩、アルギニン等の塩基性アンモニウム塩等)、無機塩基との塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩等)等が挙げられる。
セルロース系高分子化合物としては、比較的低温で水に分散・溶解し、増粘させることができるという観点から、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)がより好ましい。
【0048】
セルロース系高分子化合物として、市販されているものを使用することもできる。セルロース系高分子化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子化合物は、その製造においてグリオキサールが用いられ、製造工程上、得られるセルロース系高分子化合物中にグリオキサールが残存する場合がある。本発明者の検討により、ラジカル発生源の分解・減少にはグリオキサールが影響していることがわかった。
ラジカル発生組成物がグリオキサールを実質的に含まないようにするためには、ラジカル発生組成物中に、セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を含有するのが好ましい。
【0050】
ここで、セルロース系高分子化合物が「グリオキサールを実質的に含まない」とは、グリオキサールの含有量がセルロース系高分子化合物に対して、20ppm未満であることを意味し、グリオキサールの含有量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下であり、検出限界以下であるのが最も好ましい。グリオキサールの含有量については、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて測定することができる。例えば、セルロース系高分子化合物1gをメタノール10mLに入れ、15分以上撹拌してメタノール中にグリオキサールを溶出させる。溶出液をGC-MSで分析してグリオキサールのメタノール溶液で検出されるピークと同じ保持時間で検出されるピークを測定することでグリオキサールの含有量とする。
【0051】
本発明のラジカル発生組成物において、セルロース系高分子化合物の含有量は使用するセルロース系高分子化合物の種類や所望する組成物の粘度等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、0.1~20質量%であるのが好ましい。セルロース系高分子化合物の含有量が0.1質量%以上であると、ラジカル発生組成物の粘度の過度な低下を抑制するのでハンドリング性が向上し、また、20質量%以下であると、粘度の過度な増加を抑制するので使用感を向上できる。
【0052】
<(d)水>
本発明のラジカル発生組成物は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及びセルロース系高分子化合物を溶解又は分散させるための溶媒として、水を含む。
【0053】
水としては、例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水等が挙げられる。
【0054】
本発明のラジカル発生組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において、添加剤として上記したラジカル発生触媒、ラジカル発生源、増粘剤及び水以外の他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、例えば、有機溶剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0055】
有機溶媒としては、例えば、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、エタノール、プロピレングリコール等のアルコール溶媒等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
(物性)
本発明のラジカル発生組成物は、該組成物の性状が、中性又はアルカリ性であるのが好ましい。ラジカル発生組成物が酸性であると、ラジカル発生源とラジカル発生触媒が急激に反応し、ラジカルが発生するので、長時間安定的にラジカルを発生させることが困難である。本発明では、ラジカル発生組成物中に生成された水性ラジカル(活性種)が中性又はアルカリ性環境下にてその状態が維持される。そして、反応の対象となる細菌やウイルスなどが存在したときにラジカル発生組成物中に存在する水性ラジカルが作用してこのラジカルは無くなるが、ラジカル発生組成物中から新たなラジカルが生成される。これにより、要時においてラジカルを発生させることができる。
組成物のpHは、7~10であるのがより好ましく、7~9がさらに好ましい。
【0058】
本発明のラジカル発生組成物は、適用する目的に応じて適宜調整すればよいが、例えば、20℃における粘度が0.005~600Pa・sであるのが好ましい。20℃における粘度が0.005Pa・s以上であると、対象に対して均一に処理でき、組成物が処理面にとどまりやすい。また、粘度が600Pa・s以下であると、製剤設計がしやすく製造効率もよい。
【0059】
また、本発明のラジカル発生組成物は、該組成物を40℃で2週間静置したとき、静置前の20℃における粘度と静置後の20℃における粘度の差が50%以下であるのが好ましい。前記試験における粘度の差が50%以下であると、組成物の経時安定性に優れるので製品としての品質を維持できる。
前記試験における粘度の差は、20%以下であるのがより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0060】
(ラジカル発生組成物の製造方法)
本発明のラジカル発生組成物は、(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物、(d)水、及び所望により他の成分を混合し均一に溶解させることにより調製できる。
具体的に、本発明のラジカル発生組成物の製造方法は、
(i)セルロース系高分子化合物を低級アルコールに分散させた後、液体部と沈殿部に分離させ、液体部を除去することで精製セルロース系高分子化合物を得る精製工程と、
(ii)精製セルロース系高分子化合物、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を混合する混合工程
を含む。
【0061】
<精製工程>
セルロース系高分子化合物には、その製造工程上、グリオキサールが残存している場合があるため、まず、使用するセルロース系高分子化合物を精製し、グリオキサールを実質的に含まない精製セルロース系高分子化合物を得る。
精製方法としては、セルロース系高分子化合物を低級アルコールに分散させた後、液体部と沈殿部に分離させ、液体部を除去して沈殿部である精製セルロース系高分子化合物を回収する。
【0062】
低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられ、これらから選択される少なくとも1つを用いることができる。
これらの中でも、より極性が高く、グリオキサールとの親和性が高いという観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0063】
セルロース系高分子化合物に対する低級アルコールの使用量としては、セルロース系高分子化合物1gに対し、低級アルコール2~10000mLで処理するのが好ましい。セルロース系高分子化合物に対する低級アルコールの使用量が少な過ぎると、低級アルコールに溶出できずにセルロース系高分子化合物中にグリオキサールが残存する可能性がある。低級アルコールの使用量が多いほどアルコール中にグリオキサールが溶け込みやすいため好ましいが、低級アルコールの使用量が多過ぎると、より大きな設備が必要となるため作業性が悪く、精製によりコストがかかるおそれがあるため、10000mL以下で処理するのが好ましい。
セルロース系高分子化合物1gに対し、5mL以上の低級アルコールで処理するのがより好ましく、10mL以上使用するのがさらに好ましく、また、1000mL以下の低級アルコールで処理するのがより好ましく、500mL以下使用するのがさらに好ましい。
【0064】
セルロース系高分子化合物の低級アルコールへの分散は、撹拌下で行うことが好ましい。撹拌下で行うことで分散液が均一になるため、低級アルコールにグリオキサールが溶出しやすくなる。
分散時の温度は、低級アルコールの沸点以下とするのが好ましく、例えば、0~65℃であるのが好ましく、15~55℃がより好ましい。前記温度範囲であると低級アルコールが揮発しすぎず、グリオキサールを溶解させることができる。
撹拌は、1~120分の間で行うのが好ましく、10~60分がより好ましい。撹拌時間が前記範囲であるとセルロース系高分子化合物と低級アルコールが充分に接触し、グリオキサールを溶解させることができる。
【0065】
セルロース系高分子化合物を低級アルコールに分散させた後、液体部と沈殿部に分離させ、液体部を除去するが、分離方法としては、分散液を静置させて重力差により分離する方法、遠心分離により分離する方法等が挙げられる。
【0066】
回収した沈殿部は、乾燥して残存したアルコール成分を除去するのが好ましく、乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられ、これらを組み合わせて乾燥させてもよい。
乾燥温度は、0~100℃であるのが好ましく、5~80℃がより好ましく、15~60℃がさらに好ましい。乾燥は均一な温度で行ってもよいし、乾燥温度を連続的に変化させて乾燥させてもよい。
乾燥時間は、15分~48時間であるのが好ましく、30分~24時間がより好ましく、30分~16時間がさらに好ましい。
【0067】
<混合工程>
混合工程では、上記精製工程で得られた精製セルロース系高分子化合物と、ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源と水とを混合する。その他に任意成分を含む場合は、任意成分も混合する。
各成分の混合は、公知の撹拌装置等を用いることができる。
【0068】
(ラジカル発生組成物の安定化方法)
本発明は、(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有するラジカル発生組成物において、セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を用いることで、ラジカル発生組成物を安定化させることができる。本発明により、ラジカル発生組成物を増粘させるとともに、ラジカル発生源を安定的に組成物中に配合できるので、安定したラジカル発生組成物が得られ、該組成物の利用範囲を拡大することができる。
【0069】
好ましいセルロース系高分子化合物は上記したとおりであり、ラジカル発生組成物における好ましい使用量も上記したとおりである。
【0070】
本発明により安定化されたラジカル発生組成物は、25℃で2週間保存したときに、ラジカル発生源の含有量が保存前(初期)と比較して80%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。保存前(初期)と比較してラジカル発生源の減少が少ないのが好ましいため、上限は特に限定されず100%であるのが最も好ましい。
【0071】
(ラジカル発生組成物の使用方法)
本発明のラジカル発生組成物は、例えば、殺菌剤、消臭剤、抗菌剤、口腔ケア剤、人体用清浄剤、消毒剤等として用いることができる。
【0072】
そして、その使用方法としては、従来公知の方法で行えばよい。例えば、本発明のラジカル発生組成物を処理対象に付着させ、手で直接、或いはスプーン、へら、歯ブラシ等の道具を用いて塗り広げればよい。
【0073】
本発明のラジカル発生組成物を適用する素材・材質としては、特に限定されず、金属、プラスチック、ガラス、木材、紙、布、土、石、葉等あらゆるものに適用できる。また、人間や動物に対しても安全に適用できる。
【0074】
本発明のラジカル発生組成物を処理する対象・部位としては、特に限定されないが、例えば、医療器具、人間や動物の皮膚や口腔粘膜、毛髪等、家具や家電、食器等の一般家庭やオフィス等で使用する物品、ドアノブや窓ガラス、配管等の建具等が挙げられる。
【0075】
本発明のラジカル発生組成物の処理量は、処理対象に応じて適宜調整すればよく、例えば、人間の皮膚や口腔に処理する場合は、150μg/cm~0.1g/cm程度となるように使用すればよい。
【0076】
以上のとおり、本明細書には次の構成が開示されている。
〔1〕(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有し、グリオキサールを実質的に含まないことを特徴とするラジカル発生組成物。
〔2〕前記セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を含有することを特徴とする、前記(1)に記載のラジカル発生組成物。
〔3〕前記ラジカル発生触媒はルイス酸性度が0.4eV以上のルイス酸であることを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載のラジカル発生組成物。
〔4〕前記ラジカル発生源は亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のラジカル発生組成物。
〔5)前記ラジカル発生組成物は中性またはアルカリ性であることを特徴とする、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のラジカル発生組成物。
〔6〕セルロース系高分子化合物を低級アルコールに分散させた後、液体部と沈殿部に分離させ、前記液体部を除去することで精製セルロース系高分子化合物を得る精製工程と、
前記精製セルロース系高分子化合物、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を混合する混合工程
を含むことを特徴とするラジカル発生組成物の製造方法。
〔7〕前記精製工程において、グリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を得ることを特徴とする、前記〔6〕に記載のラジカル発生組成物の製造方法。
〔8〕(a)ラジカル発生触媒、(b)ラジカル発生源、(c)セルロース系高分子化合物及び(d)水を含有するラジカル発生組成物の安定化方法であって、前記セルロース系高分子化合物としてグリオキサールを実質的に含まないセルロース系高分子化合物を用いることを特徴とするラジカル発生組成物の安定化方法。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0078】
なお、以下の試験例で使用した成分の製品名は以下のとおりである。
・亜塩素酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製「亜塩素酸ナトリウム,tech.nominally 80%」
・塩化ベンザルコニウム:富士フイルム和光純薬株式会社製「塩化ベンザルコニウム」
・リン酸1Na:米山化学工業株式会社製「リン酸二水素ナトリウム」
・リン酸2Na:米山化学工業株式会社製「リン酸一水素ナトリウム」
・硝酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製「硝酸ナトリウム」
・炭酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製「炭酸ナトリウム」
・グリオキサール:東京化成工業株式会社製「グリオキサール(39%水溶液,約8.8mol/L)」
・ポリソルベート60(TS-10V):日光ケミカルズ株式会社製「NIKKOL TS-10V」
・ポリソルベート60(TF-60):日油株式会社製「ウィルサーフ(登録商標) TF-60」
・ヒドロキシエチルセルロース:株式会社ダイセル製「HECダイセルSE900」
【0079】
<試験例1>
市販されているヒドロキシエチルセルロース(HEC)には、以下のように種々の夾雑物が含有されている。これらの夾雑物のラジカル発生組成物への安定性の影響を確認した。
〔夾雑物の種類〕
・株式会社ダイセル製「HECダイセルSE900」:硝酸ナトリウム、グリオキサールを夾雑物として含む。
・アシュランド社製「Natrosol 250 HHR PC」:ポリソルベート60(モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)を夾雑物として含む。
・住友精化株式会社製「HEC CF-Y」:炭酸ナトリウムを夾雑物として含む。
【0080】
1.検体組成物の作製
下記表2の処方に従い、各成分を混合し、参考例1~11の検体組成物を作製した。
【0081】
【表2】
【0082】
2.試験方法
参考例1~11の検体組成物を25℃及び40℃の条件下でそれぞれ1ヶ月間保存した。
保存前(初期)と1ヶ月後(保存後)に、滴定法により亜塩素酸ナトリウムを定量した。具体的に、検体組成物10gを正確に量り取り、そこに水70mLを加え、よく撹拌した。そこにヨウ化カリウム1gを加え、溶解させた。3%硫酸20mLを加えて、直ちに密栓し、冷暗所に15分静置し、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、以下の式(1)により、亜塩素酸ナトリウムの含有量を定量した。
亜塩素酸ナトリウム含量(ppm)=T×0.22610×f×1000/検体組成物の採取量(g) ・・・(1)
式(1)中、Tは滴定までに要した0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)であり、fは0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液のファクターであり、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mLは亜塩素酸ナトリウム0.22610mgに相当する。
【0083】
初期の亜塩素酸ナトリウムの含有量を100%としたときの、1ヶ月保存後の亜塩素酸ナトリウムの定量値を図1に示す。図1において、(a)は25℃保存の参考例1~6、(b)は40℃保存の参考例1~6、(c)は25℃保存の参考例7~11、(d)は40℃保存の参考例7~11の結果を示すグラフである。
図1の(a)及び(c)より、グリオキサールを配合した参考例4、8は、25℃で保存した際に参考例1~3、5~7、9~11と比較して亜塩素酸ナトリウムが大きく減少する傾向が見られた。40℃で保存したときも同様に、図1の(b)及び(d)より、参考例4、8は他の例と比較して亜塩素酸ナトリウムが大きく減少する傾向が見られた。そして、25℃と40℃の条件ではほとんど定量値に差はなかった。
これらの結果から、グリオキサールを配合した場合に亜塩素酸ナトリウムが大きく減少する傾向が見られ、参考例4と参考例11を比較すると同程度の減少率であったが、ヒドロキシエチルセルロースとグリオキサールを含むと、参考例8では亜塩素酸ナトリウムがさらに減少した。このことから、亜塩素酸ナトリウム減少の原因として、グリオキサールが関与していることが示唆された。
【0084】
<試験例2>
次に、グリオキサールが亜塩素酸ナトリウムの安定性にどのように関係しているのかを確認した。
【0085】
1.ヒドロキシエチルセルロース中のグリオキサールの測定
表3に記載の7種類のヒドロキシエチルセルロースを、それぞれ1gずつ量り取り、メタノール10mLに分散させ、超音波(28kHz)で15分処理した。2,000rpmで3分間遠心し、上澄み液を回収した。
回収した上澄み液に対し、GC-MS分析を行った。分析条件は以下のとおりである。
〔分析条件〕
カラム:InertPureWAX (長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
流量:約40cm/sec
カラム温度:50℃から250℃まで毎分5℃で昇温させる
インジェクション温度(Inj Temp):200℃
検出器温度(Det Temp):250℃
注入量:1μL
スプリット比:1:10
【0086】
【表3】
【0087】
結果を図2に示す。
図2より、品番違いで、ヒドロキシエチルセルロース中のグリオキサール量には違いが見られることが確認された。そして、実施例1、2で使用したヒドロキシエチルセルロース中のグリオキサール量は検出限界以下であった。
【0088】
2.検体組成物の作製
下記表4の処方に従い、各成分を混合し、実施例1~2、比較例1~5の検体組成物を作製した。
【0089】
【表4】
【0090】
3.試験方法
実施例1~2、比較例1~5の検体組成物を25℃の条件下で2週間保存した。
試験例1と同様の方法で、保存前(初期)と2週間後(保存後)に、滴定法により亜塩素酸ナトリウムを定量した。
初期の亜塩素酸ナトリウムの含有量を100%としたときの、2週間保存後の亜塩素酸ナトリウムの定量値を図3に示す。
【0091】
図3の結果より、グリオキサールの含有量によって亜塩素酸ナトリウムの安定性に違いが見られた。グリオキサールの含有量が最も多いヒドロキシエチルセルロースを用いた比較例1は、亜塩素酸ナトリウムの減少率が最も大きく、2週間後にほとんど分解してしまった。これに対し、グリオキサールが検出限界以下であったヒドロキシエチルセルロースを用いた実施例1、2は、亜塩素酸ナトリウムの減少率が最も小さく、2週間後に亜塩素酸ナトリウムが100%近く残っていた。
これらのことから、ヒドロキシエチルセルロース中のグリオキサールが亜塩素酸ナトリウムの減少に寄与している可能性が高く、グリオキサール量が多いほど、亜塩素酸ナトリウムの減少量が大きくなることがわかった。
【0092】
<試験例3>
次に、ラジカル発生組成物の安定化方法の検討を行った。
【0093】
1.精製ヒドロキシエチルセルロースの作製
ヒドロキシエチルセルロース(株式会社ダイセル製「HECダイセルSE900」(試験例2で用いたものとロット番号が異なる))を、エタノール、メタノール及びアセトニトリルの各溶媒で処理し、精製した。処理は、ヒドロキシエチルセルロース1gを各溶媒50mlに分散させ、15分間撹拌した後、適宜溶媒で洗浄しながらろ紙(FILTER PAPER 5A 90mm(ADVANTEC))を用いてろ過し、乾燥させた。
これにより、エタノール処理HEC、メタノール処理HEC及びアセトニトリル処理HECを得た。
【0094】
2.検体組成物の作製
下記表5の処方に従い、各成分を混合し、実施例3~4、比較例6~8の検体組成物を作製した。
【0095】
【表5】
【0096】
3.試験方法
実施例3~4、比較例6~8の検体組成物を常温(15~25℃)の条件下で2週間保存した。
試験例1と同様の方法で、保存前(初期)、1週間経過時(中間)及び2週間後(保存後)に、滴定法により亜塩素酸ナトリウムを定量した。
初期の亜塩素酸ナトリウムの含有量を100%としたときの、1週間経過時と2週間保存後の亜塩素酸ナトリウムの定量値を図4に示す。
【0097】
図4の結果より、亜塩素酸ナトリウムの減少率はメタノール処理したヒドロキシエチルセルロース(メタノール処理HEC)を含有した実施例4が最も小さく、対照とする比較例6(HEC含有無し)と同等であった。次いでエタノール処理したヒドロキシエチルセルロース(エタノール処理HEC)を含有した実施例3が亜塩素酸ナトリウムの減少率が小さかった。アセトニトリルで処理したヒドロキシエチルセルロース(アセトニトリル処理HEC)を含有した比較例8は、ヒドロキシエチルセルロースを処理せずに用いた比較例7と比べてほとんど差はなかった。これらの結果から、グリオキサールはメタノールやエタノールに溶解するため、メタノールやエタノールで処理したものでは、HECからグリオキサールを抽出することができ、これにより亜塩素酸ナトリウムの減少が抑えられたと推察できる。
図1
図2
図3
図4