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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122378
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】光学薄膜
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240902BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240902BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20240902BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B1/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029894
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 宗男
(72)【発明者】
【氏名】田村 耕一
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA24
2H148GA04
2H148GA09
2H148GA43
2K009AA02
2K009BB02
2K009CC03
(57)【要約】
【課題】基材の変形が十分に抑制され、より高い性能を有し、設計の自由度がより高く、形成がより容易でより低コストである光学薄膜を提供する。
【解決手段】光学薄膜1は、第1の材質を有する1以上の第1膜と、第2の材質を有する1以上の第2膜と、第3の材質を有する1以上の第3膜と、を備えている。第1の材質は、Ti及びLaを含んだ酸化化合物である。第1膜は、引張応力を有している。第1膜の屈折率及び第2膜の屈折率は、第3膜の屈折率より高い。第3膜は、圧縮応力を有している。光学薄膜1において、直径30mmで厚さ3mmの合成石英ガラス製の板状の基材2における片側の成膜対象面Uに対して形成された場合の成膜対象面Uの面精度変化が、λ=632.8nmとして、0.2λ以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材質を有する1以上の第1膜と、
第2の材質を有する1以上の第2膜と、
第3の材質を有する1以上の第3膜と、
を備えており、
前記第1の材質は、Ti及びLaを含んだ酸化化合物であり、
前記第1膜は、引張応力を有しており、
前記第1膜の屈折率及び前記第2膜の屈折率は、前記第3膜の屈折率より高く、
前記第3膜は、圧縮応力を有している
ことを特徴とする光学薄膜。
【請求項2】
基材に対して形成されており、
前記基材の線膨張係数は、2×10-6/℃より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項3】
直径30mmで厚さ3mmの合成石英ガラス製の基板の片面に対して形成された場合の前記片面の面精度変化が、λ=632.8nmとして、0.2λ以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項4】
前記第2の材質は、Tiの酸化物であり、
前記第3の材質は、Siの酸化物である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項5】
前記第1膜又は前記第2膜と、前記第3膜とが交互に配置されており、
前記第2膜及び前記第3膜のペアの数を第1ペア数とし、前記第1膜及び前記第3膜のペアの数を第2ペア数とし、前記第1ペア数及び前記第2ペア数の合計に対する前記第1ペア数の割合を第1ペア数割合とした場合、
前記第1ペア数割合が、0.09以上0.55以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の光学薄膜。
【請求項6】
前記第1膜の物理膜厚の合計である第1小計物理膜厚hと、前記第2膜の物理膜厚の合計である第2小計物理膜厚tと、前記第3膜の物理膜厚の合計である第3小計物理膜厚cと、の比である、物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.12~0.19:0.17~0.28:0.63~0.64である
ことを特徴とする請求項4に記載の光学薄膜。
【請求項7】
基材に対して形成されており、
前記基材の線膨張係数は、2×10-6/℃より小さく、
前記第2の材質は、Tiの酸化物であり、
前記第3の材質は、Siの酸化物であり、
前記第1膜又は前記第2膜と、前記第3膜とが交互に配置されており、
前記第2膜及び前記第3膜のペアの数を第1ペア数とし、前記第1膜及び前記第3膜のペアの数を第2ペア数とし、前記第1ペア数及び前記第2ペア数の合計に対する前記第1ペア数の割合を第1ペア数割合とした場合、
前記第1ペア数割合が、0.09以上0.55以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項8】
前記第2の材質は、Taの酸化物であり、
前記第3の材質は、Siの酸化物である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項9】
前記第1膜又は前記第2膜と、前記第3膜とが交互に配置されており、
前記第2膜及び前記第3膜のペアの数を第3ペア数とし、前記第1膜及び前記第3膜のペアの数を第2ペア数とし、前記第3ペア数及び前記第2ペア数の合計に対する前記第3ペア数の割合を第2ペア数割合とした場合、
前記第2ペア数割合が、0.05以上0.20以下である
ことを特徴とする請求項8に記載の光学薄膜。
【請求項10】
前記第2の材質は、Nbの酸化物であり、
前記第3の材質は、Siの酸化物である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項11】
前記第1膜又は前記第2膜と、前記第3膜とが交互に配置されており、
前記第2膜及び前記第3膜のペアの数を第4ペア数とし、前記第1膜及び前記第3膜のペアの数を第2ペア数とし、前記第4ペア数及び前記第2ペア数の合計に対する前記第4ペア数の割合を第3ペア数割合とした場合、
前記第3ペア数割合が、0.05以上0.20以下である
ことを特徴とする請求項10に記載の光学薄膜。
【請求項12】
基材に対して形成されており、
前記第2膜が、最も前記基材側に配置された前記第1膜より外側に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の膜が積層された光学薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭59-10901号公報(特許文献1)に記載された光学積層物が知られている。この光学積層物では、積層される蒸着膜の内部応力によって変形を生じる基板の上に、TiO蒸着膜とSiO蒸着膜とが交互に積層されている。又、この光学積層物では、TiO蒸着膜の内部応力とSiO蒸着膜の内部応力とが釣り合っている。
この光学積層物では、引張応力を有するTiO蒸着膜の内部応力と、圧縮応力を有するSiO蒸着膜の内部応力とが釣り合うため、基板の変形が抑制される。
【0003】
近時、複数の膜を有する光学薄膜における1以上の膜の膜密度が、光学薄膜の性能を向上する目的で、より高められている。TiO膜の膜密度がより高められると、TiO膜の引張応力はより小さくなり、更にはTiO膜の引張応力は圧縮応力となる。従って、上記光学積層物による基板の変形の抑制は、膜密度がより高められたTiO膜を用いる場合、行われない。
特開2003-277911号公報(特許文献2)に記載された光学薄膜では、Ti及びLaを含んだ酸化化合物が、TiO膜に代わり高屈折率膜の材質として用いられている。この場合、高屈折率膜は、高い膜密度を有しながら、引張応力を有することができる。よって、光学薄膜は、圧縮応力を有するSiO製の低屈折率膜を組み合わせることで、基板の変形を抑制しつつ、高性能に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-10901号公報
【特許文献2】特開2003-277911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の光学薄膜は、高屈折率膜の光学膜厚が、低屈折率膜の圧縮応力に釣り合わせるため、低屈折率膜の膜厚の3倍とされた構造を有している。より詳しくは、膜構造について、低屈折率膜であることが「L」と示され、高屈折率膜であることが「H」と示され、それらの左隣において、設計波長をλとしてλ/4に相当する光学膜厚を1、その2倍の光学膜厚を2、・・・という要領において当該膜の光学膜厚を表す数字が示され、基板側を左側として、光学膜厚を表す数字及び「H」又は「L」が左から右へ順次並べて示される場合、上記の光学薄膜は、(1L3H)の繰り返し構造を有している。
又、上記の光学薄膜は、引張応力の膜及び圧縮応力の膜が必ず隣接する構造を有している。
上記の光学薄膜の設計は、かような構造により制限される。例えば、光学薄膜のうち、反射膜即ちミラーであって、所定の波長域の光を反射するものを上記の光学薄膜で形成すると、十分な反射率を有する波長域が極めて狭くなる。
又、上記の光学薄膜の形成の容易さ及びコストは、特に高屈折率膜の光学薄膜が厚いために、向上の余地がある。
【0006】
そこで、本開示の主な目的は、基材の変形が十分に抑制された光学薄膜を提供することである。
更に、本開示の別の主な目的は、より高い性能を有する光学薄膜を提供することである。
又、本開示の更に別の主な目的は、設計の自由度がより高い光学薄膜を提供することである。
加えて、本開示の更に別の主な目的は、形成がより容易でより低コストである光学薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、光学薄膜を開示する。この光学薄膜は、第1の材質を有する1以上の第1膜を備えていても良い。光学薄膜は、第2の材質を有する1以上の第2膜を備えていても良い。光学薄膜は、第3の材質を有する1以上の第3膜を備えていても良い。第1の材質は、Ti及びLaを含んだ酸化化合物であっても良い。第1膜は、引張応力を有していても良い。第1膜の屈折率及び第2膜の屈折率は、第3膜の屈折率より高くても良い。第3膜は、圧縮応力を有していても良い。
【発明の効果】
【0008】
本開示の主な効果は、基材の変形が十分に抑制された光学薄膜が提供されることである。
更に、本開示の別の主な効果は、より高い性能を有する光学薄膜を提供されることである。
又、本開示の更に別の主な効果は、設計の自由度がより高い光学薄膜が提供されることである。
加えて、本開示の更に別の主な効果は、形成がより容易でより低コストである光学薄膜が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の光学薄膜を含む光学製品の模式図である。
図2】基板の反りδに関する模式図である。
図3】実施例1に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図4】実施例2に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図5】実施例3に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図6】実施例4に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図7】実施例5に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図8】実施例6に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図9】実施例7に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図10】実施例8に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図11】実施例9に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図12】実施例10に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図13】実施例11に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図14】実施例12に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図15】実施例13に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図16】実施例14に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図17】実施例15に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図18】比較例1に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図19】比較例2に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図20】比較例3に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図21】比較例4に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図22】比較例5に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図23】比較例6に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図24】比較例7に係る設計波長を含む波長域におけるS偏光及びP偏光の各反射率分布を示すグラフである。
図25】実施例1に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図26】実施例2に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図27】実施例3に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図28】実施例4に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図29】実施例5に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図30】実施例6に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図31】実施例7に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図32】実施例8に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図33】実施例9に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図34】実施例10に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図35】実施例11に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図36】実施例12に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図37】実施例13に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図38】実施例14に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図39】実施例15に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図40】比較例1に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図41】比較例2に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図42】比較例3に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図43】比較例4に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図44】比較例5に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図45】比較例6に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図46】比較例7に係るGDDrs及びGDDrpを示すグラフである。
図47】実施例1~15及び比較例1~7における、面精度の変化量と、R幅比率と、GDDrp幅比率とを示すグラフ、及び第1ペア数割合p、及び物理膜厚比におけるt,h,cの各値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施の形態の例が、適宜図面に基づいて説明される。本開示の形態は、これらの例に限定されない。
【0011】
図1に示されるように、本開示に係る光学薄膜1は、基材2の表面の外側に形成される。基材2の外側は、反基材側とも言い得る。基材2の外側は、環境側とも言い得る。環境が大気中である場合、基材2の外側は、大気側とも言い得る。
光学薄膜1が配置された基材2の表面は、成膜対象面Uである。尚、1つの基材2に対し、複数の光学薄膜1が形成されても良い。この場合、複数の光学薄膜1は、1つの成膜対象面Uの複数の部分に形成されても良いし、複数の成膜対象面Uに対してそれぞれ形成されても良い。
【0012】
光学薄膜1及び基材2により、光学製品Pが形成される。
光学製品Pは、例えば、ミラーであり、より詳しくはガルバノミラー、低分散ミラーである。
ガルバノミラーは、レーザー加工分野で用いられ得る。ガルバノミラーにおける十分な反射率を有する入射角範囲は、レーザーの光路制御をより容易にするため、十分に広くとられることが好ましい。よって、ガルバノミラーの十分な反射率の波長域は、十分に広くとられる必要がある。
低分散ミラーは、フェムト秒レーザー光学系で用いられ得る。フェムト秒レーザー光学系では、フェムト秒オーダーの超短パルス光、即ちフェムト秒パルス光が用いられる。フェムト秒は、10-15秒である。フェムト秒パルス光のピーク強度は、例えば1012W(ワット)程度以上である。フェムト秒パルス光は、様々な波長の光が、位相を揃えた状態で重畳されて構成される。即ち、フェムト秒パルス光は広い波長域の光を含む。よって、フェムト秒レーザー光学系では、低分散ミラーにおける十分低い群速度遅延分散(GDD)を有する波長域、及び十分高い反射率を有する波長域は、それぞれ十分に広くとられる必要がある。フェムト秒光パルスは、波長毎に光の速度が異なる媒質中、即ち光の群速度に波長依存性がある媒質中を伝搬すると、ある波長の光に対して別の波長の光がその伝搬方向において相対的に速く進むことないしはその重畳により、パルス幅が広がったり、ピーク強度が下がったりする。光の群速度に波長依存性があることで、波長に応じ光の速度にずれが生ずることは、チャープと呼ばれる。フェムト秒パルス光の特性は、チャープによりパルス幅が広がったりピーク強度が下がったりした分だけ損なわれるため、低分散ミラーでのチャープの発生が抑制されることが求められる。よって、低分散ミラーのGDDの絶対値は、十分に小さいことが求められる。
光学製品Pがミラーである場合、基材2の外側は、入射媒質側あるいは反射媒質側とも言い得る。
尚、光学製品Pは、他の構成要素を含んでいても良い。例えば、基材2の成膜対象面Uと光学薄膜1との間に、中間膜が配置されても良い。中間膜は、単層膜であっても良いし、多層膜であっても良い。あるいは、光学薄膜1の外側に、表層膜が配置されても良い。表層膜は、単層膜であっても良いし、多層膜であっても良い。
【0013】
基材2は、板状であっても良いし、ブロック状であっても良い。基材2は、板状である場合、基板となる。
基材2は、例えば、基板、プリズムである。
基材2の材質は、例えば、光学ガラスBK7(以下単に「BK7」と言う)、石英ガラス、ガラスセラミックス、セラミックス、結晶、半導体である。尚、石英ガラスは、合成石英ガラスであっても良い。又、ガラスセラミックスは、クリアセラムであっても良い。
基材2の線膨張係数は、温度変化による自身の変形を抑制する観点から、2×10-6/℃より小さいことが好ましい。
【0014】
光学薄膜1は、複数の膜を含む多層膜である。
光学薄膜1における膜の材質は、少なくとも3種類存在することが好ましい。光学薄膜1における膜の材質として、第1の材質、第2の材質、及び第3の材質が存在することが好ましい。
光学薄膜1における複数の膜の一部は、圧縮応力を有し、他の一部は、引張応力を有することが好ましい。
【0015】
引張応力を有する膜の一部又は全部の材質として、Ti及びLaを含む酸化化合物が用いられることが好ましい。第1の材質は、Ti及びLaを含む酸化化合物であることが好ましい。第1の材質を有する膜は、第1膜である。以下、Ti及びLaを含む酸化化合物は、TiO-Laと記載されることがある。
TiO-La製の膜であるTiO-La膜は、高屈折率膜として用いられる。TiO-Laは、Tiの酸化物及びLaの酸化物の混合物である。TiO-La膜は、膜密度が十分高い状態においても、引張応力を有する。TiO-La膜は、第1膜である。
【0016】
圧縮応力を有する膜の一部又は全部の材質として、Tiの酸化物である、TiOが用いられることが好ましい。第2の材質は、TiOであることが好ましい。第2の材質を有する膜は、第2膜である。TiO製の膜であるTiO膜は、高屈折率膜として用いられる。TiOは、チタン酸化物であり、チタニアである。
あるいは、圧縮応力を有する膜の別の一部又は全部の材質として、Taの酸化物である、Taが用いられることが好ましい。第2の材質は、Taであっても良い。第2膜は、Ta膜であっても良い。Ta製の膜であるTa膜は、高屈折率膜として用いられる。Taは、タンタル酸化物であり、タンタラである。
あるいは、圧縮応力を有する膜の別の一部又は全部の材質として、Nbの酸化物である、Nbが用いられることが好ましい。第2の材質は、Nbであっても良い。第2膜は、Nb膜であっても良い。Nb製の膜であるNb膜は、高屈折率膜として用いられる。Nbは、ニオブ酸化物であり、ニオビアである。
あるいは、圧縮応力を有する膜の別の一部又は全部の材質として、Zrの酸化物である、ZrOが用いられることが好ましい。第2の材質は、ZrOであっても良い。第2膜は、ZrO膜であっても良い。ZrO製の膜であるZrO膜は、高屈折率膜として用いられる。ZrOは、ジルコニウム酸化物であり、ジルコニアである。
あるいは、圧縮応力を有する膜の別の一部又は全部の材質として、Hfの酸化物である、HfOが用いられることが好ましい。第2の材質は、HfOであっても良い。第2膜は、HfO膜であっても良い。HfO製の膜であるHfO膜は、高屈折率膜として用いられる。HfOは、ハフニウム酸化物であり、ハフニアである。
【0017】
又、圧縮応力を有する別の膜の一部又は全部の材質として、Siの酸化物である、SiOが用いられることが好ましい。第3の材質は、SiOであることが好ましい。第3の材質を有する膜は、第3膜である。SiO製の膜であるSiO膜は、低屈折率膜として用いられる。SiOは、ケイ素酸化物であり、シリカである。
【0018】
第1膜の屈折率及び第2膜の屈折率は、第3膜の屈折率より高い。
光学薄膜1において、第1膜又は第2膜と、第3膜とが交互に配置されることが好ましい。光学薄膜1において、第1膜及び第3膜のペア、及び第2膜及び第3膜のペアが用いられることが好ましい。光学薄膜1において、最も基材2側の膜が第1膜又は第2膜である場合、第3膜は基材2側から数えて偶数番目に配置されることが好ましい。光学薄膜1において、最も基材2側の膜が第3膜である場合、第3膜は基材2側から数えて奇数番目に配置されることが好ましい。
尚、光学薄膜1において、TiO膜、Ta膜、Nb膜、ZrO膜、及びHfO膜の少なくとも何れか2つが、組み合わせて用いられても良い。例えば、第2-1膜として、TiO膜が用いられ、且つ第2-2膜として、ZrO膜が用いられても良い。又、中屈折率膜が更に配置されても良い。
【0019】
以下、光学薄膜1の膜構造が、次の要領で記載され得る。
即ち、TiO-La膜が「H」と示される。又、TiO膜が「T」と示される。更に、SiO膜が「L」と示される。又、Ta膜が「A」と示される。更に、Nb膜が「B」と示される。又更に、ZrO膜が「Z」と示される。加えて、HfO膜が「F」と示される。
【0020】
「H」の左隣に数字が配置される。「H」の左隣の数字は、TiO-La膜の光学膜厚をλ/4で割ったものである。λは、設計波長であり、例えば645nm(ナノメートル)である。
「T」の左隣に数字が配置される。「T」の左隣の数字は、TiO膜の光学膜厚をλ/4で割ったものである。
「L」の左隣に数字が配置される。「L」の左隣の数字は、SiO膜の光学膜厚をλ/4で割ったものである。
「A」の左隣に数字が配置される。「A」の左隣の数字は、Ta膜の光学膜厚をλ/4で割ったものである。
「B」の左隣に数字が配置される。「B」の左隣の数字は、Nb膜の光学膜厚をλ/4で割ったものである。
尚、以下では、「Z」の左隣、及び「F」の左隣に、数字は配置されない。
【0021】
数字と「H」の組、数字と「T」の組、及び数字と「L」の組、並びに数字と「A」の組、及び数字と「B」の組は、光学薄膜1における各膜の配置に従い、基材2側を左側として、左から右へ順次並べられる。
光学薄膜1における膜の配置は、所定のパターンの繰り返しを含む場合、所定のパターンを丸括弧で囲ったうえで、その右上に繰り返し数を示すことで記載されることがある。例えば、「(1L2H)」で示される光学薄膜1の膜構造は、基材2側から順に、λ/4の光学膜厚を有するSiO膜、及び2×λ/4の光学膜厚を有するTiO-La膜が配置されるパターンを3回繰り返したものであり、「1L2H1L2H1L2H」と同等である。この場合、光学薄膜1の膜数は、6である。又、「(1L2H)1L」で示される光学薄膜1の膜構造は、「1L2H1L2H1L2H1L」と同等である。この場合、光学薄膜1の膜数は、7である。
【0022】
光学薄膜1において、十分な性能を得ながらコストを低減する観点から、第1ペア数としてのTLペア数をxとし、第2ペア数としてのHLペア数をyとした場合、TLペア数及びHLペア数の合計に対するTLペア数の割合である第1ペア数割合pは、0.09以上0.55以下であることが好ましい。ここで、第1ペア数割合pは、p=x/(x+y)である。TLペア数xは、光学薄膜1の膜構造において、TiO膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアが存在する数である。HLペア数yは、光学薄膜1の膜構造において、TiO-La膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアが存在する数である。
【0023】
更に、光学薄膜1において、十分な性能を得ながらコストを低減する観点から、1以上のTiO膜における物理膜厚の合計をtとし、1以上のTiO-La膜における物理膜厚の合計をhとし、1以上のSiO膜における物理膜厚の合計をcとした場合、これらの比である物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.12~0.19:0.17~0.28:0.63~0.64となることが好ましい。即ち、物理膜厚比t:h:cにおいて、tの数値は0.12以上0.19以下の範囲内となり、hの数値は0.17以上0.28以下の範囲内となり、且つcの数値は0.63以上0.64以下の範囲内となることが好ましい。TiO膜における物理膜厚の合計であるtは、第2小計物理膜厚である。TiO-La膜における物理膜厚の合計であるhは、第1小計物理膜厚である。SiO膜における物理膜厚の合計であるcは、第3小計物理膜厚である。
【0024】
又、光学薄膜1において、十分な性能を得ながらコストを低減する観点から、第3ペア数としてのALペア数をxとした場合、ALペア数及びHLペア数の合計に対するALペア数の割合である第2ペア数割合pは、0.05以上0.20以下であることが好ましい。ここで、第2ペア数割合pは、p=x/(x+y)である。ALペア数xは、光学薄膜1の膜構造において、Ta膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアが存在する数である。
【0025】
更に、光学薄膜1において、十分な性能を得ながらコストを低減する観点から、第4ペア数としてのBLペア数をxとした場合、BLペア数及びHLペア数の合計に対するBLペア数の割合である第3ペア数割合pは、0.05以上0.20以下であることが好ましい。ここで、第3ペア数割合pは、p=x/(x+y)である。BLペア数xは、光学薄膜1の膜構造において、Nb膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアが存在する数である。
【0026】
加えて、光学薄膜1の膜構造において、最も外側の部分に、TLペア、ALペア、BLペア、ZLペア、及びFLペア、の何れかが配置されることが好ましい。
TLペアは、TiO膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアである。
ALペアは、Ta膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアである。
BLペアは、Nb膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアである。
ZLペアは、ZrO膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアである。
FLペアは、HfO膜及びその外側で隣接するSiO膜のペアである。
TLペアにおけるTiO膜の屈折率、ALペアにおけるTa膜の屈折率、BLペアにおけるNb膜の屈折率、ZLペアにおけるZrO膜の屈折率、及びFLペアにおけるHfO膜の屈折率は、何れも、TiO-La膜の屈折率より大きい。よって、光学薄膜1の性能が向上する。又、TLペア、ALペア、BLペア、ZLペア、及びFLペア、の何れかが最も外側に配置される場合、SiO膜が最も外側の膜となる。よって、光学薄膜1の耐久性が向上する。
【実施例0027】
次に、本開示の実施例が示される。
但し、実施例は、本開示の範囲を限定するものではない。
又、本発明の捉え方により、実施例が本開示の範囲外となる実質的な比較例となったり、比較例が本開示の範囲内である実質的な実施例となったりすることがある。
【0028】
実施例として、板状の基材2の片面に各種の光学薄膜1を形成したものが作成され又はシミュレートされた。当該片面は、成膜対象面Uである。他方、比較例として、板状の基材2の片面に対し、光学薄膜1の構造に類似する各種の光学薄膜を形成したものが作成され又はシミュレートされた。実施例及び比較例では、設計波長λを中心波長としてこれを含む波長域の光を反射するミラーが想定されている。
基材2の材質は、光学ガラスBK7、合成石英ガラス、クリアセラムの少なくとも何れかである。基材2は、直径30mm(ミリメートル)の円形板状である。基材2の肉厚は、3mmである。
【0029】
実施例1~6の各光学薄膜1は、TiO-La膜、TiO膜及びSiO膜を含む。実施例1~6の各光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。TiO-La膜、TiO膜及びSiO膜の各膜密度は、イオンアシスト蒸着あるいはスパッタリングといった成膜法により、通常の蒸着膜における膜密度を超える。TiO-La膜、TiO膜及びSiO膜は、高密度膜である。
実施例1の光学薄膜1における膜構造は、(1T1L)(1H1L)1T2Lである。実施例1の光学薄膜1における膜の数は、20である。実施例1の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、p=3/(3+7)=0.30である。実施例1の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.099:0.271:0.631である。実施例1の光学薄膜1は、光学ガラスBK7、合成石英ガラス、クリアセラムの各基材2に対し実際に形成された。以下、光学ガラスBK7の基材2及び実施例1の光学薄膜1の組合せについて、実施例1-Bと言うことがある。又、合成石英ガラスの基材2及び実施例1の光学薄膜1の組合せについて、実施例1-Qと言うことがある。更に、クリアセラムの基材2及び実施例1の光学薄膜1の組合せについて、実施例1-Cと言うことがある。尚、他の実施例及び比較例についても、同様に表記されることがある。
実施例2の光学薄膜1における膜構造は、(1T1L)(1H1L)1T2Lである。実施例2の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例2の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.36である。実施例2の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.120:0.248:0.631である。実施例2は、光学ガラスBK7、合成石英ガラス、クリアセラムの各基材2について、即ち実施例2-B,2-Q,2-Cについて、実際に形成された。
実施例3の光学薄膜1における膜構造は、(1T1L)(1H1L)1T1L1T2Lである。実施例3の光学薄膜1における膜の数は、24である。実施例3の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.42である。実施例3の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.139:0.229:0.632である。実施例3は、実施例3-B,3-Q,3-Cについて、実際に形成された。
【0030】
実施例4の光学薄膜1における膜構造は、(1T1L)(1H1L)(1T1L)1T2Lである。実施例4の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例4の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.55である。実施例4の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.183:0.179:0.638である。実施例4は、実施例4-B,4-Q,4-Cについて、実際に形成された。
実施例5の光学薄膜1における膜構造は、(1T1L)(1H1L)1H2Lである。実施例5の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例5の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.36である。実施例5の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.120:0.248:0.631である。実施例5は、実施例5-B,5-Qについて、シミュレートされた。
実施例6の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)(1T1L)1T2Lである。実施例6の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例6の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.36である。実施例6の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.120:0.248:0.631である。実施例6は、実施例6-B,6-Qについて、シミュレートされた。
【0031】
実施例7,8の各光学薄膜1は、TiO-La膜、Ta膜及びSiO膜を含む。実施例7,8の各光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例7の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)14(1A1L)1A2Lである。実施例7の光学薄膜1における膜の数は、34である。実施例7の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、0.18である。実施例7は、実施例7-B,7-Q,7-Cについて、シミュレートされた。
実施例8の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)161A2Lである。実施例8の光学薄膜1における膜の数は、34である。実施例8の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、0.06である。実施例8は、実施例8-B,8-Q,8-Cについて、シミュレートされた。
【0032】
実施例9の光学薄膜1は、TiO-La膜、TiO膜及びSiO膜を含む。実施例9の光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例9の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)101T2Lである。実施例9の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例9の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.09である。実施例9は、実施例9-B,9-Q,9-Cについて、シミュレートされた。
【0033】
実施例10,11の各光学薄膜1は、TiO-La膜、Nb膜及びSiO膜を含む。実施例10,11の各光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例10の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)14(1B1L)1B2Lである。実施例10の光学薄膜1における膜の数は、34である。実施例10の光学薄膜1における第3ペア数割合pは、0.18である。実施例10は、実施例10-B,10-Q,10-Cについて、シミュレートされた。
実施例11の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)161B2Lである。実施例11の光学薄膜1における膜の数は、34である。実施例11の光学薄膜1における第3ペア数割合pは、0.06である。実施例11は、実施例11-B,11-Q,11-Cについて、シミュレートされた。
【0034】
比較例1の光学薄膜1は、TiO膜及びSiO膜を含む。比較例1の各光学薄膜1における設計波長λは、633nmである。
比較例1の光学薄膜1における膜構造は、(1T1L)1T2Lである。比較例1の光学薄膜1における膜の数は、16である。比較例1の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、p=8/(8+0)=1である。比較例1の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0.337:0:0.663である。比較例1は、比較例1-B,1-Q,1-Cについて、実際に形成された。
【0035】
比較例2~6の各光学薄膜1は、TiO-La膜及びSiO膜を含む。比較例2の光学薄膜1における設計波長λは、633nmである。比較例3~6の各光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
比較例2の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)111H2Lである。比較例2の光学薄膜1における膜の数は、24である。比較例2の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、p=0/(0+12)=0である。比較例2の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0:0.383:0.617である。比較例2は、比較例2-B,2-Qについて、実際に形成された。
比較例3の光学薄膜1における膜構造は、(1.5H0.5L)141.5H1Lである。比較例3の光学薄膜1における膜の数は、30である。比較例3の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0である。比較例3の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0:0.655:0.345である。比較例3は、比較例3-B,3-Q,3-Cについて、シミュレートされた。
【0036】
比較例4の光学薄膜1における膜構造は、(0.5H1.5L)140.5H2Lである。比較例4の光学薄膜1における膜の数は、30である。比較例4の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0である。比較例4の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0:0.180:0.820である。比較例4は、比較例4-B,4-Q,4-Cについて、シミュレートされた。
比較例5の光学薄膜1における膜構造は、(1.5H0.5L)1.5H1L(0.5H1.5L)0.5H2Lである。比較例5の光学薄膜1における膜の数は、30である。比較例5の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0である。比較例5の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0:0.372:0.628である。比較例5は、比較例5-B,5-Q,5-Cについて、シミュレートされた。
比較例6の光学薄膜1における膜構造は、(1.5H0.5L)1.5H1L(0.5H1.5L)0.5H2Lである。比較例6の光学薄膜1における膜の数は、30である。比較例6の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0である。比較例6の光学薄膜1における物理膜厚比t:h:cは、t:h:c=0:0.342:0.658である。比較例6は、比較例6-B,6-Q,6-Cについて、シミュレートされた。
【0037】
比較例7の光学薄膜1は、Ta膜及びSiO膜を含む。比較例7の光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
比較例7の光学薄膜1における膜構造は、(1A1L)161A2Lである。比較例7の光学薄膜1における膜の数は、34である。比較例7の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、1である。比較例7は、比較例7-B,7-Q,7-Cについて、シミュレートされた。
【0038】
実施例12の光学薄膜1は、TiO-La膜、TiO膜及びSiO膜を含む。実施例12の光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例12の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)(1T1L)1T2Lである。実施例12の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例12の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.73である。実施例12は、実施例12-B,12-Q,12-Cについて、シミュレートされた。
【0039】
実施例13の光学薄膜1は、TiO-La膜、Ta膜及びSiO膜を含む。実施例13の光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例13の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)11(1A1L)1A2Lである。実施例13の光学薄膜1における膜の数は、34である。実施例13の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、0.35である。実施例13は、実施例13-B,13-Q,13-Cについて、シミュレートされた。
【0040】
実施例14の光学薄膜1は、TiO-La膜、TiO膜及びSiO膜を含む。実施例14の光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例14の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)(1T1L)1T2Lである。実施例14の光学薄膜1における膜の数は、22である。実施例14の光学薄膜1における第1ペア数割合pは、0.64である。実施例14は、実施例14-B,14-Q,14-Cについて、シミュレートされた。
【0041】
実施例15の各光学薄膜1は、TiO-La膜、Nb膜及びSiO膜を含む。実施例15の各光学薄膜1における設計波長λは、645nmである。
実施例15の光学薄膜1における膜構造は、(1H1L)11(1B1L)1B2Lである。実施例15の光学薄膜1における膜の数は、34である。実施例15の光学薄膜1における第3ペア数割合pは、0.35である。実施例15は、実施例15-B,15-Q,15-Cについて、シミュレートされた。
【0042】
実施例1~15及び比較例2~6の各光学薄膜1におけるTiO-La膜の形成又はシミュレートは、メルク株式会社の「Substance H4」により行われた。以下、TiO-Laについて、単に「H4」と言うことがある。
【0043】
そして、形成され又はシミュレートされた実施例1-Q~15-Q及び比較例1-Q~7-Qについて、面精度変化が測定され又は算出された。
面精度変化は、面精度の変化である。
面精度は、基材2の成膜対象面Uにおける、凹凸の最も高い箇所と最も低い箇所の高さ方向の差である。高さ方向は、凹凸を考慮しない成膜対象面U、あるいは凹凸を平均化した成膜対象面Uに対して垂直な方向である。面精度は、ピークバレー値即ちPV値とも呼ばれ得る。面精度の測定は、He-Neレーザーの干渉計で行われることが多い。He-Neレーザーの波長λは、632.8nmである。面精度は、λ=632.8nmを単位として表記されることが一般的である。即ち、面精度は、λ=632.8nmの何倍であるかによって表記されることが一般的である。例えば、面精度は、63.28nmであれば、0.1λと表記される。面精度の符号は、凸面の場合に負、凹面の場合に正とされることが多く、以下これに従う。
現状の研磨の水準では、面精度が0.25λ以下であれば高精度の研磨となる。実施例1~15及び比較例1~6の基材2の成膜対象面Uは、光学薄膜1の形成前における基材2の単独の状態において、0.25λ以下に研磨されたものである。
【0044】
光学製品Pにおける光学薄膜1の面精度は、応力を有する光学薄膜1を、成膜対象面Uに対して形成することにより、光学薄膜1の形成前における成膜対象面Uの面精度から変化する。応力を有する光学薄膜1の成膜対象面Uへの形成により、板状の基材2が反って、光学薄膜1における外側の面である表面の面精度が、光学薄膜1の形成前における成膜対象面Uの面精度から変化する。
板状の基材2即ち基板における反りδが、図2に示される。
基板の反りδは、次の要領により算出可能である。尚、光学製品の反り予測方法に関する、本願発明者に係る特許第7188754号公報の記載が、参酌可能である。
【0045】
即ち、円形基板上の単層の薄膜の応力に関し、Stoneyの式を曲率半径rについて解き、下記式(1)が得られる。ここで、σは薄膜の内部応力、dは薄膜の物理膜厚、Eは基板のヤング率、vは基板のポアソン比、bは基板の板厚、lは基板の半径、rは基板の曲率半径、δは成膜前の基板の反りである。各種の応力の符号は、引張応力の場合に正であり、圧縮応力の場合に負である。 引張応力の場合、図2で示されるように光学薄膜1側に凸となる。圧縮応力の場合、板状の基材2は、光学薄膜1と反対側に凸となる。
【0046】
【数1】
【0047】
更に、単層の光学薄膜に係る算出を高屈折率膜と低屈折率膜を有する多層の光学薄膜1に拡張するため、内部応力σが、下記式(2)の通り、真応力σと熱応力に分けて把握される。熱応力は、光学製品Pにおける光学薄膜1の線膨張係数αと、基材2の線膨張係数αの差に比例する。真応力σは、膜の材質で決まる。
は多層の光学薄膜1のヤング率、vは多層の光学薄膜1のポアソン比、Tは反りδの測定時の温度、τfitは多層の光学薄膜1に係る形成時の温度、τfitは反りδの算出精度をより高めるために、複数のサンプル値を用いたフィッティングで定められるフィッティングパラメーターの1つである。
【0048】
【数2】
【0049】
そして、真応力σは、近似的な平均真応力として、下記式(3)の通り把握される。afitσは高屈折率膜の材質における真応力、afitは反りδの算出精度をより高めるために、複数のサンプル値を用いたフィッティングで定められるフィッティングパラメーターの1つ、bfitσは低屈折率膜の材質における真応力、bfitは反りδの算出精度をより高めるために、複数のサンプル値を用いたフィッティングで定められるフィッティングパラメーターの1つ、dは多層の光学薄膜1における高屈折率膜の合計膜厚、dは多層の光学薄膜1における低屈折率膜の合計膜厚である。
【0050】
【数3】
【0051】
又、ヤング率Eは、近似的な平均ヤング率として、上記式(4)の通り把握される。Eは高屈折率膜のヤング率、Eは低屈折率膜のヤング率である。
更に、ポアソン比vは、近似的な平均ポアソン比として、上記式(5)の通り把握される。vは高屈折率膜のポアソン比、vは低屈折率膜のポアソン比である。
加えて、線膨張係数αは、近似的な平均線膨張係数として、上記式(6)の通り把握される。αは高屈折率膜の線膨張係数、αは低屈折率膜の線膨張係数である。
【0052】
各種のフィッティングパラメーターafit,bfit,τfitは、次の式(7)のfが最小となるように決定された。Nはサンプルの数、δm,jはj番目のサンプルにおける反りの測定値、δはj番目のサンプルが有すると想定される特性値及び条件値を用いて算出した反りの計算値である。
式(7)のfが最小になるように各種のフィッティングパラメーターafit,bfit,τfitが決定されれば、式(1)~(6)により、十分な精度において基板の反りδが算出される。又、かような反りδの計算は、円形基板以外の基材2にも応用可能である。
【0053】
【数4】
【0054】
基板の反りδが測定されあるいは算出されれば、光学薄膜1の形成後における面精度が把握可能であり、光学薄膜1の形成後における面精度変化が把握可能である。
基板の反りδを用いた面精度変化の算出において使用した各種のデータは、次の通りであり、表1及び表2にまとめられる。
【0055】
TiOの線膨張係数(1/℃,以下同様)は、4.4E-6である。「E-6」は、その左隣の数に10-6を乗算することを意味する。以下、任意の整数aに係る「E-a」は、同様にその左隣の数に10-aを乗算することを意味する。H4の線膨張係数は、4.4E-6である。SiOの線膨張係数は、2.1E-6である。
【0056】
TiOのヤング率(GPa,ギガパスカル,以下同様)は、136である。H4のヤング率は、136である。SiOのヤング率は、87である。
TiOのポアソン比は、0.27である。H4のポアソン比は、0.27である。SiOのポアソン比は、0.11である。
【0057】
クリアセラムの線膨張係数は、0である。合成石英ガラスの線膨張係数は、5.9E-7である。光学ガラスBK7の線膨張係数は、9.4E-6である。
クリアセラムのヤング率は、90.0である。合成石英ガラスのヤング率は、72.0である。光学ガラスBK7のヤング率は、78.6である。
クリアセラムのポアソン比は、0.25である。合成石英ガラスのポアソン比は、0.17である。光学ガラスBK7のポアソン比は、0.21である。
【0058】
【表1】
【0059】
TiO-La膜(ここではH4膜)、TiO膜及びSiO膜を含む光学薄膜1の形成及びシミュレートでは、81.7℃の成膜温度が用いられる。この場合、TiO膜の真応力(MPa,メガパスカル,以下同様)は、-14.7である。真応力の符号は、反りδの符号と同様、引張応力である場合、正となり、圧縮応力である場合、負となる。H4膜の真応力は、277.9である。SiO膜の真応力は、-173.6である。
H4膜、Ta膜及びSiO膜を含む光学薄膜1の形成及びシミュレートでは、190℃の成膜温度が用いられる。この場合、TiO膜の真応力は、-145.4である。H4膜の真応力は、252.8である。SiO膜の真応力は、-207.0である。
H4膜、Nb膜及びSiO膜を含む光学薄膜1の形成及びシミュレートでは、146℃の成膜温度が用いられる。この場合、TiO膜の真応力は、-171.3である。H4膜の真応力は、252.8である。SiO膜の真応力は、-192.2である。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1-Qの面精度変化は、0.036λであった。実施例2-Qの面精度変化は、-0.011λであった。実施例3-Qの面精度変化は、-0.052λであった。実施例4-Qの面精度変化は、-0.104λであった。実施例5-Qの面精度変化は、-0.062λであった。実施例6-Qの面精度変化は、-0.062λであった。
【0062】
実施例7-Qの面精度変化は、-0.075λであった。実施例8-Qの面精度変化は、-0.011λであった。実施例9-Qの面精度変化は、0.047λであった。実施例10-Qの面精度変化は、-0.081λであった。実施例11-Qの面精度変化は、-0.012λであった。
【0063】
実施例12-Qの面精度変化は、-0.170λであった。実施例13-Qの面精度変化は、-0.172λであった。実施例14-Qの面精度変化は、-0.143λであった。実施例15-Qの面精度変化は、-0.185λであった。
【0064】
比較例1-Qの面精度変化は、-0.215λであった。比較例2-Qの面精度変化は、0.127λであった。比較例3-Qの面精度変化は、0.472λであった。比較例4-Qの面精度変化は、-0.308λであった。比較例5-Qの面精度変化は、0.052λであった。比較例6-Qの面精度変化は、-0.002λであった。比較例7-Qの面精度変化は、-0.527λであった。
【0065】
これらの面精度変化が、次の表3の左部に示される。
【0066】
【表3】
【0067】
又、形成され又はシミュレートされた実施例1~15及び比較例1~7について、設計波長λを含む波長域における、S偏光の反射率のR分布及びP偏光の反射率Rの分布が、それぞれ測定され又は算出された。
図3~17に、実施例1~15の各反射率分布が示される。図18~24に、比較例1~7の各反射率分布が示される。尚、図3~24で示される波長域は、540nm以上760nm以下である。
又、光学製品Pに入射する光における高反射帯の反射は、基材2ではなく光学薄膜1によりもたらされる。よって、実施例1~15及び比較例1~7の各光学薄膜1は、基材2の材質にかかわらず、同じ各反射率分布を呈する。
【0068】
更に、実施例1~15及び比較例1~7の各光学薄膜1における、P偏光の反射率Rの分布から、R幅が把握された。R幅は、反射率が50%以上である波長域の大きさである。
又、各R幅を設計波長λで除した商に相当するR幅比率が把握された。R幅比率は、R幅比率=R幅/設計波長λである。
これらのR幅比率が、上記表3の中央部に示される。
【0069】
実施例1のR幅比率は、0.212であった。実施例2のR幅比率は、0.212であった。実施例3のR幅比率は、0.250であった。実施例4のR幅比率は、0.269であった。実施例5のR幅比率は、0.222であった。実施例6のR幅比率は、0.225であった。
【0070】
実施例7のR幅比率は、0.185であった。実施例8のR幅比率は、0.184であった。実施例9のR幅比率は、0.202であった。実施例10のR幅比率は、0.188であった。実施例11のR幅比率は、0.184であった。
【0071】
実施例12のR幅比率は、0.264であった。実施例13のR幅比率は、0.193であった。実施例14のR幅比率は、0.257であった。実施例15のR幅比率は、0.207であった。
【0072】
比較例1のR幅比率は、0.287であった。比較例2のR幅比率は、0.198であった。比較例3のR幅比率は、0.143であった。比較例4のR幅比率は、0.146であった。比較例5のR幅比率は、0.144であった。比較例6のR幅比率は、0.146であった。比較例7のR幅比率は、0.219であった。
【0073】
又、シミュレートされた実施例1~15及び比較例1~7について、設計波長λを含む波長域における、GDDrs及びGDDrpが、それぞれ算出された。上記において光学製品Pが実際に形成されたものにおいても、GDDrs及びGDDrpについては、シミュレーションにより算出された。
GDDは、群速度遅延分散(Group Delay Dispersion)であって、フェムト秒オーダーのパルス光を反射する際の、反射前の位相に対する反射後の位相のずれの指標となる。GDDは、GDD=-∂φ/∂ωである。ここで、ωは角周波数であり、φは反射位相である。φはωの関数である。GDDの単位は、fs即ちフェムト秒の2乗である。GDDの絶対値が小さい程、位相のずれが抑制される。尚、GDDに関する、本願発明者に係る特許第7195022号公報の記載が、参酌可能である。
GDDは、反射するときのGDDである。本出願の実施例及び比較例では、透過するときのGDDは注目されないことから、GDDとGDDとは、同様の意味合いで解釈可能である。
GDDrsは、反射するときのS偏光のGDDである。GDDrpは、反射するときのP偏光のGDDである。
【0074】
図25~39に、実施例1~15のGDDrs及びGDDrpが示される。図40~46に、比較例1~7のGDDrs及びGDDrpが示される。尚、図25~46で示される波長域は、540nm以上760nm以下である。
又、光学製品Pに入射する光における高反射帯の反射は、基材2ではなく光学薄膜1によりもたらされる。よって、実施例1~15及び比較例1~7の各光学薄膜1は、基材2の材質にかかわらず、同じ各GDDrs分布及び各GDDrp分布を呈する。
【0075】
更に、実施例1~15及び比較例1~7の各光学薄膜1における、GDDrpの分布から、GDDrp幅が把握された。GDDrp幅は、GDDrp幅の絶対値が50以下である波長域の大きさである。
又、GDDrp幅を設計波長λで除した商に相当するGDDrp幅比率が把握された。GDDrp幅比率は、GDDrp幅比率=GDDrp幅/設計波長λである。
これらのGDDrp幅比率が、上記表3の中央部に示される。
【0076】
実施例1のGDDrp幅比率は、0.147であった。実施例2のGDDrp幅比率は、0.142であった。実施例3のGDDrp幅比率は、0.146であった。実施例4のGDDrp幅比率は、0.162であった。実施例5のGDDrp幅比率は、0.140であった。実施例6のGDDrp幅比率は、0.177であった。
【0077】
実施例7のGDDrp幅比率は、0.133であった。実施例8のGDDrp幅比率は、0.124であった。実施例9のGDDrp幅比率は、0.143であった。実施例10のGDDrp幅比率は、0.141であった。実施例11のGDDrp幅比率は、0.126であった。
【0078】
実施例12のGDDrp幅比率は、0.204であった。実施例13のGDDrp幅比率は、0.145であった。実施例14のGDDrp幅比率は、0.202であった。実施例15のGDDrp幅比率は、0.163であった。
【0079】
比較例1のGDDrp幅比率は、0.224であった。比較例2のGDDrp幅比率は、0.134であった。比較例3のGDDrp幅比率は、0.078であった。比較例4のGDDrp幅比率は、0.081であった。比較例5のGDDrp幅比率は、0.081であった。比較例6のGDDrp幅比率は、0.081であった。比較例7のGDDrp幅比率は、0.158であった。
【0080】
以下、実施例1~15及び比較例1~7の各特徴が説明される。
図47は、TiO-La膜(H4膜)及びTiO膜の少なくとも一方に関する光学薄膜1である、実施例1~6及び比較例1~6における、面精度変化をλで割った値即ち変化量と、R幅比率と、GDDrp幅比率とを示すグラフである。図47において、石英以外の基材2における面精度の変化量も合わせて示されている。図47における横軸方向の並び順は、概ね面精度の変化量の大きい順に左から並べたものである。正の面精度の変化量は、引張応力に対応し、負の面精度の変化量は、圧縮応力に対応する。図47のグラフにおける右の縦軸では、R幅比率及びGDDrp幅比率の各大きさを総称して、「帯域幅/中心波長」との記載がなされている。帯域幅は波長域の幅に対応し、中心波長は設計波長λに対応する。
又、図47では、合わせて、それぞれの光学薄膜1における、第1ペア数割合p、及び物理膜厚比におけるt,h,cの各値が示される。
【0081】
比較例1の光学薄膜1は、TiO膜及びSiO膜という2種の材料の交互膜である。比較例1の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が共に十分に大きく、入射光を十分に反射する波長域、及びチャープの抑制される波長域が十分に広い。しかし、圧縮応力による面精度変化が大きい。
ここで、好ましい面精度変化の1つの基準として、絶対値が0.125λ以下であることが挙げられる。この面精度変化の絶対値が0.125λ以下であるという基準は、以下第1の面精度変化基準とされる。又、第1の面精度変化基準より緩やかである好ましい面精度変化の1つの基準として、絶対値が0.2λ以下であることが挙げられる。この面精度変化の絶対値が0.2λ以下であるという基準は、以下第2の面精度変化基準とされる。
更に、好ましいR幅比率の1つの基準として、R幅比率が0.15以上であることが挙げられる。又、好ましいGDDrp幅比率の1つの基準として、GDDrp幅比率が0.10以上であることが挙げられる。
尚、第1の面精度変化基準並びにR幅比率及びGDDrp幅比率の各基準を全て満たすことは、必須ではない。実施例1~15及び比較例1~7の特徴の各把握に際し、光学薄膜1が何れかの基準を満たしていなかったとしても、その光学薄膜1がこれらの基準にどの程度近づいているかといった事項も、適宜参酌される。又、これらの基準以外の要素も、適宜参酌される。
比較例1の光学薄膜1では、R幅比率の基準及びGDDrp幅比率の基準を共に十分に満たしている一方、第1の面精度変化基準には大幅に至らない。比較例1の光学薄膜1では、第2の面精度変化基準も満たされない。
【0082】
比較例2~6の光学薄膜1は、H4膜及びSiO膜という2種の材料の交互膜である。
比較例2の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が共に基準を満たしている。これに対し、比較例2の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準を僅かに満たさない。比較例2の光学薄膜1では、第2の面精度変化基準は満たされる。
比較例3の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が基準を満たさず、R及びGDDrpの各波長域が狭い。又、比較例3の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準及び第2の面精度変化基準が大幅に満たされない。
比較例4の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が基準を満たさず、R及びGDDrpの各波長域が狭い。又、比較例4の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準及び第2の面精度変化基準が大幅に満たされない。
比較例5の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準を十分に満たすものの、R幅比率及びGDDrp幅比率が基準を満たさず、R及びGDDrpの各波長域が狭い。
比較例6の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準を極めて十分に満たすものの、R幅比率及びGDDrp幅比率が基準を満たさず、R及びGDDrpの各波長域が狭い。
【0083】
以上に対し、実施例1~6,9,12,14の各光学薄膜1は、TiO膜、H4膜及びSiO膜という3種の材料の交互膜である。
実施例1の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされ、面精度が研磨面程度に保持される。又、実施例1の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たし、R及びGDDrpの各波長域が十分に広い。
実施例2の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例2の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たす。
実施例3の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例3の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たす。
実施例4の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が満たされる。又、実施例4の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たす。実施例4の光学薄膜1では、特に、R幅比率が、実施例1~6のうちで最も大きい。
実施例5の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例5の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たす。
実施例6の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例6の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たす。実施例6の光学薄膜1では、特に、GDDrp幅比率が、実施例1~6のうちで最も大きい。
【0084】
実施例9の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例9の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を十分に満たす。実施例9の第1ペア数割合pは、実施例1~6,9,12,14のうちで最も小さい値であり、0.09である。
【0085】
実施例12の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が基準を十分に満たす。実施例12の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が僅かに満たされない。実施例12の光学薄膜1では、第2の面精度変化基準が満たされる。実施例12の光学薄膜1の面精度変化の絶対値は、比較例2の光学薄膜1の面精度変化と類似しているところ、実施例12の光学薄膜1におけるR幅比率及びGDDrp幅比率は、比較例2の光学薄膜1のR幅比率及びGDDrp幅比率より大きい。
実施例14の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が基準を十分に満たす。実施例14の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が僅かに満たされない。実施例14の光学薄膜1では、第2の面精度変化基準が満たされる。実施例14の光学薄膜1の面精度変化の絶対値は、比較例2の光学薄膜1の面精度変化と類似しているところ、実施例14の光学薄膜1におけるR幅比率及びGDDrp幅比率は、比較例2の光学薄膜1のR幅比率及びGDDrp幅比率より大きい。実施例14の第1ペア数割合pは、0.64である。
【0086】
実施例1~6,9,12,14の各光学薄膜1では、第1ペア数割合pが増加する程、面精度変化の絶対値が増加する傾向にある。
第1ペア数割合pは、面精度変化を抑制する観点から、実施例4における値である0.55を閾値として、0.55以下であることが好ましい。この好ましい第1ペア数割合pの範囲に、実施例1~6,9の各光学薄膜1が入り、実施例12,14の各光学薄膜1は入らない。
他方、第1ペア数割合pが小さ過ぎると、H4膜が入らない比較例1に近づいて面精度変化が大きくなり、又高密度のH4膜による性能向上効果が得難くなるため、第1ペア数割合pは、実施例9における値である0.09を閾値として、0.09以上であることが好ましい。
【0087】
又、面精度変化と、R幅比率及びGDDrp幅比率とのバランスがより一層とれている実施例2~6の光学薄膜1では、物理膜厚比t:h:cが、t:h:c=0.12~0.19:0.17~0.28:0.63~0.64の範囲内に入っている。
よって、光学薄膜1において、物理膜厚比t:h:cが、t:h:c=0.12~0.19:0.17~0.28:0.63~0.64の範囲内に入ることが、より好ましい。
【0088】
実施例7,8,13の各光学薄膜1は、Ta膜、H4膜及びSiO膜という3種の材料の交互膜である。実施例7,8,13の光学薄膜1では、Ta膜を用い得る。
実施例7の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされ、面精度が研磨面程度に保持される。又、実施例7の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を満たし、R及びGDDrpの各波長域が広い。実施例7の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、0.18である。
実施例8の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例8の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を満たす。実施例8の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、0.06である。
実施例13の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が僅かに満たされない。実施例13の光学薄膜1では、第2の面精度変化基準が満たされる。他方、実施例13の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を満たす。実施例13の光学薄膜1における第2ペア数割合pは、0.35である。実施例13の光学薄膜1では、面精度変化、R幅比率及びGDDrp幅比率においては、比較例2と類似しているところ、実施例13では、比較例2と異なり、Taを用いることができる。
【0089】
実施例7,8,13の各光学薄膜1では、第2ペア数割合pが増加する程、面精度変化の絶対値が増加する傾向にある。
第2ペア数割合pは、面精度変化を抑制する観点から、実施例7における値である0.18に0.02を加えた値を閾値として、0.20以下であることが好ましい。この好ましい第2ペア数割合pの範囲に、実施例7,8の各光学薄膜1が入り、実施例13の光学薄膜1は入らない。
他方、第2ペア数割合pが小さ過ぎると、面精度変化が大きくなり、又高密度のH4膜による性能向上効果が得難くなるため、第2ペア数割合pは、実施例8における値である0.06から0.01を引いた値を閾値として、0.05以上であることが好ましい。
尚、上記の各閾値における実施例の値からの調整は、第2ペア数割合pの増加に応じた面精度変化の上昇傾向、及び第2ペア数割合pの減少に応じた性能変化傾向を考慮して行った。
【0090】
実施例10,11,15の各光学薄膜1は、Nb膜、H4膜及びSiO膜という3種の材料の交互膜である。実施例7,8,13の光学薄膜1では、Nb膜を用い得る。
実施例10の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされ、面精度が研磨面程度に保持される。又、実施例10の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を満たし、R及びGDDrpの各波長域が広い。実施例10の光学薄膜1における第3ペア数割合pは、0.18である。
実施例11の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が十分に満たされる。又、実施例11の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を満たす。実施例11の光学薄膜1における第3ペア数割合pは、0.06である。
実施例15の光学薄膜1では、第1の面精度変化基準が僅かに満たされない。実施例15の光学薄膜1では、第2の面精度変化基準が満たされる。他方、実施例15の光学薄膜1では、R幅比率及びGDDrp幅比率が何れも基準を満たす。実施例15の光学薄膜1における第3ペア数割合pは、0.35である。実施例15の光学薄膜1では、面精度変化、R幅比率及びGDDrp幅比率においては、比較例2と類似しているところ、実施例15では、比較例2と異なり、Nbを用いることができる。
【0091】
実施例10,11,15の各光学薄膜1では、第3ペア数割合pが増加する程、面精度変化の絶対値が増加する傾向にある。
第3ペア数割合pは、面精度変化を抑制する観点から、実施例11における値である0.18に0.02を加えた値を閾値として、0.20以下であることが好ましい。この好ましい第3ペア数割合pの範囲に、実施例10,11の各光学薄膜1が入り、実施例15の光学薄膜1は入らない。
他方、第3ペア数割合pが小さ過ぎると、面精度変化が大きくなり、又高密度のH4膜による性能向上効果が得難くなるため、第3ペア数割合pは、実施例11における値である0.06から0.01を引いた値を閾値として、0.05以上であることが好ましい。
尚、上記の各閾値における実施例の値からの調整は、第3ペア数割合pの増加に応じた面精度変化の上昇傾向、及び第3ペア数割合pの減少に応じた性能変化傾向を考慮して行った。
【0092】
更に、実施例1~4,6~15の光学薄膜1では、H4膜より屈折率が高い膜である、TiO膜、Ta膜、又はNb膜が、最も外側のH4膜より外側に配置されている。よって、実施例1~4,6~15の光学薄膜1では、H4膜より手前においてH4膜より屈折率が高い膜で入射光を受けることができ、例えば反射性能といった光学製品Pの性能が向上する。
【符号の説明】
【0093】
1・・光学薄膜、2・・基材、P・・光学製品、U・・成膜対象面。
図1
図2
図3
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