(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122384
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】壁掛式の水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/02 20060101AFI20240902BHJP
E03D 11/13 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
E03D11/13
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029900
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA02
2D039AD00
2D039AD04
2D039CA01
(57)【要約】
【課題】便器本体全体で外郭形状がばらつき易くなることを抑制することができ、外観への影響を抑制することができる壁掛式の水洗大便器を提供する。
【解決手段】本発明の壁掛式の水洗大便器1は、汚物を受けるボウル部8と、このボウル部の下方に入口部10aが接続されてボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部10と、を備えている陶器製の便器本体2を有し、この陶器製の便器本体は、さらに、ボウル部及び排水トラップ部のそれぞれの外郭を側方から覆うスカート部12と、このスカート部の後方に形成されて壁Wに対して固定される後端部2aと、を備えており、この後端部は、陶器成形工程における焼成工程時に接地される台座として機能する焼成台座部14を備えている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁に固定される壁掛式の水洗大便器であって、
汚物を受けるボウル部と、このボウル部の下方に入口部が接続されて上記ボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部と、を備えている陶器製の便器本体を有し、
上記陶器製の便器本体は、さらに、上記ボウル部及び上記排水トラップ部のそれぞれの外郭を側方から少なくとも部分的に覆うスカート部と、このスカート部の後方に形成されて上記壁に対して固定される後端部と、を備えており、この後端部は、陶器成形工程における焼成工程時に接地される台座として機能する焼成台座部を備えていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
上記焼成台座部は、上記便器本体の平面視において、上記スカート部の左右側方の外郭に対して内側に所定距離以上入り込んだ位置に配置されており、上記陶器成形工程は、成形型に泥漿を流し込んだ後に脱型することにより中空の成形体を成形する工程を含み、上記成形体は、その中空領域の両側に形成された第1壁部及び第2壁部を備えており、上記所定距離は、上記第1壁部の肉厚から上記中空領域の厚みを経て上記第2壁部の肉厚までのそれぞれの厚みを加えた厚みである一重厚みの寸法に設定されている請求項1に記載の壁掛式の水洗大便器。
【請求項3】
上記焼成台座部は、上記便器本体の平面視において、その左右方向の少なくとも一部が上記一重厚みの寸法になるように形成されている請求項2記載の壁掛式の水洗大便器。
【請求項4】
上記焼成台座部は、上記便器本体の平面視において、その前後方向が上記一重厚みの寸法より小さい寸法になるように形成されている請求項2記載の壁掛式の水洗大便器。
【請求項5】
上記焼成台座部は、その後端が平坦な面になるように形成されている請求項1記載の壁掛式の水洗大便器。
【請求項6】
上記焼成台座部は、上記便器本体の後端部の左右方向の左側に設けられる左側焼成台座部と、上記便器本体の後端部の左右方向の右側に設けられる右側焼成台座部と、上記左側焼成台座部と上記右側焼成台座部との間に設けられて両者を接続する接続部と、を備えており、上記接続部は、上記焼成工程時に上記便器本体が接地される際の接地面を備えている請求項1記載の壁掛式の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、壁に固定される壁掛式の水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、壁に固定される水洗大便器(いわゆる、「壁掛式の水洗大便器」)として、例えば、特許文献1に記載されているものが知られている。
このような特許文献1に記載されている従来の壁掛式の水洗大便器においては、その陶器製の便器本体が、汚物を受けるボウル部と、このボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部と、これらのボウル部及び排水トラップのそれぞれの外郭を側方から覆うスカート部とを備えており、便器本体の後端部が後方の壁に固定されるようになっている。
また、上述した従来の壁掛式の水洗大便器では、陶器製の便器本体の製造工程において、成形型に泥漿を流し込んだ後に脱型することにより陶器の成形体を成形し、この成形体を乾燥させる工程(乾燥工程)から成形体に釉薬を施す工程(施釉工程)を経た後、成形体を窯内で加熱処理(焼成)する工程(焼成工程)が行われるようになっている。
さらに、上述した従来の壁掛式の水洗大便器における製造時の焼成工程では、便器本体の成形体を窯内の棚面又は床面に置いた姿勢で焼成が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の壁掛式の水洗大便器においては、便器本体の製品仕様によっては、排水トラップ部の最下端部がスカート部の最下端部よりも下方に突出した形状の仕様等があり、焼成工程時において、このような仕様の便器本体の成形体を窯内の棚面上又は床面上に配置する際には、便器本体の下端が下方に位置する姿勢で安定させることが難しいという問題がある。
一方、このような問題を解消するために、焼成工程時において、便器本体の後端が下方に位置するような姿勢、すなわち、便器本体の前後方向が鉛直方向に延びるような姿勢で便器本体の成形体を窯内の棚面上又は床面上に配置した場合には、便器本体の成形体全体の自重が、便器本体の後端と窯内の棚面又は床面との接地面に集中することになる。
これにより、焼成工程時に接地された便器本体の成形体の部分が収縮等で変形した際に、接地面に引き摺られて変形が大きくなり、便器本体全体で寸法のばらつきも大きくなり、便器本体の外郭形状等もばらつき易くなるという問題がある。
したがって、壁掛式の水洗大便器において、いかに便器本体全体で外郭形状がばらつき易くなることを抑制し、水洗大便器の外観への影響を抑制するかが近年要請されている課題となっている。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題や近年要請されている課題を解決するためになされたものであり、便器本体全体で外郭形状がばらつき易くなることを抑制することができ、外観への影響を抑制することができる壁掛式の水洗大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、壁に固定される壁掛式の水洗大便器であって、汚物を受けるボウル部と、このボウル部の下方に入口部が接続されて上記ボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部と、を備えている陶器製の便器本体を有し、上記陶器製の便器本体は、さらに、上記ボウル部及び上記排水トラップ部のそれぞれの外郭を側方から少なくとも部分的に覆うスカート部と、このスカート部の後方に形成されて上記壁に対して固定される後端部と、を備えており、この後端部は、陶器成形工程における焼成工程時に接地される台座として機能する焼成台座部を備えていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、陶器製の便器本体におけるスカート部の後方に形成された後端部が、陶器成形工程における焼成工程時に接地される台座として機能する焼成台座部を備えていることにより、焼成工程時に接地された焼成台座部が収縮等により変形し、この変形が接地面に引き摺られて大きくなり、寸法のばらつきが生ずる場合であっても、焼成台座部によって便器本体全体の寸法のばらつきを吸収することができる。
したがって、後端部に焼成台座部を備えていない便器本体に比べて、便器本体の変形が生じ易い部分を焼成台座部に制限することができ、この焼成台座部以外の部分の変形を抑制することができる。
よって、便器本体全体で外郭形状がばらつき易くなることを抑制することができ、水洗大便器の外観への影響を抑制することができる。
【0007】
本発明において、好ましくは、上記焼成台座部は、上記便器本体の平面視において、上記スカート部の左右側方の外郭に対して内側に所定距離以上入り込んだ位置に配置されており、上記陶器成形工程は、成形型に泥漿を流し込んだ後に脱型することにより中空の成形体を成形する工程を含み、上記成形体は、その中空領域の両側に形成された第1壁部及び第2壁部を備えており、上記所定距離は、上記第1壁部の肉厚から上記中空領域の厚みを経て上記第2壁部の肉厚までのそれぞれの厚みを加えた厚みである一重厚みの寸法に設定されている。
このように構成された本発明においては、焼成台座部が、便器本体の平面視において、スカート部の左右側方の外郭に対して内側に所定距離(一重厚みの寸法)以上入り込んだ位置に配置されているため、焼成工程時に収縮等により一重厚みの寸法分の変形が生じた場合であっても、焼成台座部で十分に変形を吸収することができる。
したがって、焼成台座部を備えていない便器本体に比べて、便器本体全体で外郭形状がばらつき易くなることを効果的に抑制することができるため、水洗大便器の外観への影響を効果的に抑制することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、上記焼成台座部は、上記便器本体の平面視において、その左右方向の少なくとも一部が上記一重厚みの寸法になるように形成されている。
このように構成された本発明においては、焼成工程時に接地面と接触する焼成台座部の左右方向の少なくとも一部が、便器本体の平面視において、一重厚みの寸法になるように形成されているため、焼成台座部全体で十分な強度を確保することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、上記焼成台座部は、上記便器本体の平面視において、その前後方向が上記一重厚みの寸法より小さい寸法になるように形成されている。
このように構成された本発明においては、便器本体の平面視における焼成台座部の前後方向が一重厚みの寸法より小さい寸法になるように形成されていることにより、焼成工程時に接地面と接触する焼成台座部の変形が大きい部分を比較的小さい寸法にすることができる。
したがって、焼成工程時の焼成台座部における収縮等の変形の影響を抑制することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記焼成台座部は、その後端が平坦な面になるように形成されている。
このように構成された本発明においては、焼成台座部の後端が平坦な面になるように形成されているため、焼成工程時に焼成台座部を接地させた際、焼成台座部の後端の平坦な面を接地させて便器本体全体の重量を安定して支持することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記焼成台座部は、上記便器本体の後端部の左右方向の左側に設けられる左側焼成台座部と、上記便器本体の後端部の左右方向の右側に設けられる右側焼成台座部と、上記左側焼成台座部と上記右側焼成台座部との間に設けられて両者を接続する接続部と、を備えており、上記接続部は、上記焼成工程時に上記便器本体が接地される際の接地面を備えている。
このように構成された本発明においては、焼成台座部における左側焼成台座部と右側焼成台座部とを接続する接続部が焼成工程時に便器本体が接地される際の接地面を備えていることにより、焼成工程時に焼成台座部を接地させた際、焼成台座部の接続部の接地面によって便器本体全体の重量を安定して支持することができ、便器本体の強度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の壁掛式の水洗大便器によれば、便器本体全体で外郭形状がばらつき易くなることを抑制することができ、外観への影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器が壁に固定されている状態を示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器が壁に固定されている状態を示す左側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器が壁に固定されている状態を示す平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器における陶器製の便器本体の背面図である。
【
図6】本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器の焼成工程時における陶器製の便器本体が接地された状態を示す正面図である。
【
図7】
図6に示す本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器の焼成工程時における陶器製の便器本体の焼成台座部を部分的に拡大した部分拡大図である。
【
図8】本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器における陶器製の便器本体が陶器成形工程時に成形(一重成形)される代表的な中空の成形体の例を示した概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1~
図8を参照して、本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器について説明する。
まず、
図1~
図3のそれぞれは、本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器が壁に固定されている状態を示す分解斜視図、左側面図、及び、平面図をそれぞれ示す。また、
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図1~
図4に示すように、本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器1は、その便器本体2の後端部2aが、トイレ室T内の背面側の壁Wに固定されていると共に、便器本体2の下端部2bが床面Fから上方に離間するように配置されたものである。
また、
図1に示すように、本実施形態の壁掛式の水洗大便器1は、より具体的には、壁Wの背面側(壁裏側)に設けられた固定ユニットUによって便器本体2が壁裏側から固定された構造となっている。
さらに、固定ユニットU側には、水洗大便器1の便器本体2に洗浄水を供給する給水源である洗浄水供給装置4や、この洗浄水供給装置4を操作する洗浄操作装置6等が設けられており、これらの装置4,6が壁Wの裏側に隠蔽されている構造となっている。
なお、本実施形態の水洗大便器1においては、その便器本体2に洗浄水を供給する給水源である洗浄水供給装置4として、貯水タンク4a内に貯水された洗浄水を重力作用により便器本体2に供給する、いわゆる、「重力給水式」の貯水タンク4aを採用した形態について説明しているが、他の形態の給水源として、水道から給水圧を利用して洗浄水を直接的に便器本体2に供給する、いわゆる、「水道直圧式」の給水装置を採用してもよい。
その他、「フラッシュバルブ式」の給水装置や、貯水タンク内に貯水された洗浄水をポンプの補圧を利用して洗浄水を供給する「ポンプ式」の給水装置等を採用してもよい。
【0015】
つぎに、
図1~
図4に示すように、本実施形態の水洗大便器1の便器本体2は、陶器で形成された陶器製の便器本体2である。
また、この陶器製の便器本体2は、汚物を受けるボウル部8と、このボウル部8の下方に入口部10aが接続されてボウル部8内の汚物を排出する排水トラップ部10とを備えている。
さらに、陶器製の便器本体2は、ボウル部8及び排水トラップ部10のそれぞれの外郭を側方から覆うスカート部12と、このスカート部12の後方に形成されて壁Wに対して固定される後端部2aとを備えている。
なお、スカート部12については、便器本体2の全周を覆う、いわゆる、「フルスカート式」の形態に限られず、スカート部12の側面の一部に開口部が設けられた、いわゆる、「サイドポケット式」の形態等であってもよい。或いは、スカート部12の一部が便器本体2に対して外側から覆うように取り外し可能に取り付けられたパネル部材等の形態であってもよい。
要するに、スカート部12については、便器本体2のボウル部8及び排水トラップ部10のそれぞれの外郭を側方から少なくとも部分的に覆うものであればよい。
また、便器本体2の後端部2aは、陶器成形工程における焼成工程時に接地される台座として機能する焼成台座部14(詳細は後述する)を備えている。
【0016】
つぎに、
図5は、本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器における陶器製の便器本体の背面図である。
図1~
図5に示すように、陶器製の便器本体2が固定ユニットUにより壁Wに固定された状態の便器本体2においては、そのボウル部8の上流側に形成される主導水路16の上流端(後端)である入口部16aが、洗浄水供給装置4の貯水タンク4aから下流側に延びる給水管18に接続されている。
一方、陶器製の便器本体2が固定ユニットUにより壁Wに固定された状態の便器本体2においては、その排水トラップ部10の下流端(後端)である出口部10bが、壁Wの裏側の床面Fから上方に延びた後に前方に屈曲して延びる排水管20に接続されている。
ここで、本実施形態の壁掛式の水洗大便器1については、その便器本体2内のボウル部8の高さ方向の落差によりボウル部8内の汚物を洗い落す、いわゆる、「洗い落とし式」の水洗大便器であってもよいし、サイホン作用を利用してボウル部8内の汚物を吸い込んで排水トラップ部10から外部に排出する、いわゆる、「サイホン式」の水洗大便器の形態等、他の水洗大便器の形態であってもよい。
【0017】
つぎに、
図3及び
図5~
図8を参照して、本実施形態の水洗大便器1の便器本体2における焼成台座部14の詳細について説明する。
図6は、本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器の焼成工程時における陶器製の便器本体が接地された状態を示す正面図である。また、
図7は、
図6に示す本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器の焼成工程時における陶器製の便器本体の焼成台座部を部分的に拡大した部分拡大図である。さらに、
図8は、本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器における陶器製の便器本体が陶器成形工程時に成形(一重成形)される代表的な中空の成形体の例を示した概略平面図である。
【0018】
まず、本実施形態の水洗大便器1における陶器製の便器本体2の製造工程の概略を簡単に説明する。
陶器製の便器本体2の製造工程においては、石膏又は樹脂等で成形された成形型に泥漿を流し込んで陶器の形を成形する陶器成形工程、この成形工程で成形した陶器を乾燥させる乾燥工程、この乾燥後の陶器に釉薬を塗布する施釉工程、施釉後の陶器を窯内で焼き上げる焼成工程等がある。
また、 陶器製の便器本体2の陶器成形工程では、例えば、石膏型等からなる成形型に泥漿を流し込む工程(流し込み工程)、その成形型に着肉させた後に成形体内部の余った泥漿を排出する工程(排泥工程)、その成形体の水分を減少させて保形性と脱型性を向上させる工程(土締り工程)、その成形体を脱型する工程(脱型工程)等を含む。
【0019】
つぎに、焼成工程時においては、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の後端部2aが、
図6及び
図7に示すように、窯K内の棚面又は床面Sに接地されることにより、使用時の便器本体2の前後方向が鉛直方向になるように配置されるようになっている。
また、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の平面視、並びに、
図6及び
図7に示す焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地された状態Bの便器本体2の正面視において、焼成台座部14は、便器本体2のスカート部12の左右側方の外郭L1に対して内側に所定距離d0以上の距離d1(d1≧d0)だけ入り込んだ位置に配置されている。
ここで、本実施形態の水洗大便器1における陶器製の便器本体2の陶器成形工程においては、例えば、石膏型等からなる成形型に泥漿を流し込む工程(流し込み工程)、その成形型に着肉させた後に成形体内部の余った泥漿を排出する工程(排泥工程)、その成形体の水分を減少させて保形性と脱型性を向上させる工程(土締り工程)、及び、その成形体を脱型する工程(脱型工程)等を含む。
なお、本実施形態では、特に、上述した流し込み工程における成形(流し込み成形)については、中空の成形体を成形する流し込み成形を「一重成形」と定義し、中空領域を有しない成形体(中実の成形体)を成形する流し込み成形を「二重成形」と定義している。
また、本実施形態の水洗大便器1の陶器製の便器本体2における複雑な形状部分については、一重成形と二重成形とを適宜組み合わせた成形がなされている。
【0020】
さらに、
図8に示すように、本実施形態の水洗大便器1における陶器製の便器本体2が陶器成形工程時に成形(一重成形)される代表的な中空成形体22の一例として、その中空領域H1の両側に形成された厚みw1の第1壁部22a及び厚みw2の第2壁部22bと、両壁部22a,22bを接続する厚みw3の接続壁部22cとを備えている。
そして、上述した所定距離d0については、第1壁部の肉厚w1から中空領域H1の厚みw3(接続壁部22cの厚みw3)を経て第2壁部22bの肉厚w3までのそれぞれの厚みを加えた厚み(w1+w2+w3)である厚みt(以下「一重厚みt」と定義する)の長さに設定されている(d0=t=w1+w2+w3)。
ちなみに、一般的な一重厚みtに関する具体的な寸法例としては、w1=w2=9mm、w3=10mm、d0=t=w1+w2+w3=28mmに設定されていることが好ましい。
【0021】
つぎに、
図3及び
図5~
図7に示すように、焼成台座部14は、便器本体2を前方側(使用者側)から見て便器本体2の後端部2aの左右方向の左側及び右側にそれぞれ設けられる左側焼成台座部14a及び右側焼成台座部14bと、左側焼成台座部14aと右側焼成台座部14bとの間に設けられて両者14a,14bを接続する接続部14cとを備えている。
また、
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)は、焼成工程時に便器本体2が焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地される際の接地面Gを形成している。
【0022】
つぎに、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の平面視、並びに、
図6及び
図7に示す焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地された状態Bの便器本体2の正面視において、各焼成台座部14a,14bの左右方向の寸法(距離d2)が一重厚みtの寸法になるように形成されている(d2=t)。
なお、本実施形態では、各焼成台座部14a,14bのそれぞれの左右方向の寸法(距離d2)が一重厚みtの寸法に設定されている形態について説明するが、このような形態に限られず、各焼成台座部14a,14bの少なくとも一方の左右方向の寸法(距離d2)が一重厚みtの寸法以上に設定されていることが望ましい。
【0023】
つぎに、
図3及び
図5~
図7に示すように、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の平面視、並びに、
図6及び
図7に示す焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地された状態Bの便器本体2の正面視において、各焼成台座部14a,14bの前後方向の寸法、すなわち、各焼成台座部14a,14bにおける前端(スカート部12の後端12a)から後端14dまでの前後方向の距離d3が一重厚みtの寸法より小さい寸法になるように形成されている(d3<t)。
また、
図3及び
図5~
図7に示すように、焼成台座部14は、その
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)が平坦な面になるように形成されている。
【0024】
上述した本発明の一実施形態による水洗大便器1によれば、陶器製の便器本体2におけるスカート部12の後方に形成された後端部2aが、陶器成形工程における焼成工程時に接地される台座として機能する焼成台座部14を備えている。
これにより、焼成工程時に接地された焼成台座部14が収縮等により変形し、この変形が窯K内の棚面又は床面Sに接地される接地面Gに引き摺られて大きくなり、寸法のばらつきが生ずる場合であっても、焼成台座部14によって便器本体2の全体の寸法のばらつきを吸収することができる。
したがって、後端部2aに焼成台座部14を備えていない便器本体に比べて、便器本体2の変形が生じ易い部分を焼成台座部14に制限することができ、この焼成台座部14以外の部分の変形を抑制することができる。
よって、便器本体2全体で外郭形状がばらつき易くなることを抑制することができ、水洗大便器1の外観への影響を抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の平面視、並びに、
図6及び
図7に示す焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地された状態Bの便器本体2の正面視において、焼成台座部14が、スカート部12の左右側方の外郭L1に対して内側に所定距離d0(一重厚みtの寸法)以上の距離d1(d1≧d0=t)だけ入り込んだ位置に配置されている。
これにより、焼成工程時に収縮等により一重厚みtの寸法分の変形が生じた場合であっても、焼成台座部14で十分に変形を吸収することができる。
したがって、焼成台座部14を備えていない便器本体に比べて、便器本体2の全体で外郭形状がばらつき易くなることを効果的に抑制することができるため、水洗大便器1の外観への影響を効果的に抑制することができる。
【0026】
さらに、本実施形態による水洗大便器1によれば、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の平面視、並びに、
図6及び
図7に示す焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地された状態Bの便器本体2の正面視において、各焼成台座部14a,14bの左右方向の寸法(距離d2)が一重厚みtの寸法になるように形成されている(d2=t)。
これにより、便器本体2の焼成台座部14の全体で十分な強度を確保することができる。
【0027】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、
図3に示すトイレ室T内の壁Wに固定された状態Aの便器本体2の平面視、並びに、
図6及び
図7に示す焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地された状態Bの便器本体2の正面視において、各焼成台座部14a,14bの前後方向の寸法、すなわち、各焼成台座部14a,14bにおける前端(スカート部12の後端12a)から後端14dまでの前後方向の距離d3が一重厚みtの寸法より小さい寸法になるように形成されている(d3<t)。
これにより、焼成工程時に接地面(窯K内の棚面又は床面S)と接触する焼成台座部14の変形が大きい部分を比較的小さい寸法にすることができる。
したがって、焼成工程時の焼成台座部14におけるの収縮等の変形の影響を抑制することができる。
【0028】
さらに、本実施形態による水洗大便器1によれば、焼成台座部14は、その
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)が平坦な面になるように形成されている。
これにより、焼成工程時に焼成台座部14の
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)を窯K内の棚面又は床面S接地させた際、焼成台座部14の
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)の平坦な面を接地させて便器本体2の全体の重量を安定して支持することができる。
【0029】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、焼成台座部14における左側焼成台座部14aと右側焼成台座部14bとを接続する
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)が、焼成工程時に便器本体2が焼成工程時に窯K内の棚面又は床面Sに接地される際の接地面Gを形成している。
これにより、焼成工程時に焼成台座部14における
図3に示す接続部14cの後端14d(
図7に示す接続部14cの下端14d)を窯K内の棚面又は床面Sに接地させた際、焼成台座部14の接続部14cの接地面Gによって便器本体2の全体の重量を安定して支持することができ、便器本体2の強度をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 本発明の一実施形態による壁掛式の水洗大便器
2 便器本体
2a 便器本体の後端部
2b 便器本体の下端部
4 洗浄水供給装置
4a 貯水タンク
6 洗浄操作装置
8 ボウル部
10 排水トラップ部
10a 排水トラップ部の入口部
10b 排水トラップ部の出口部
12 スカート部
12a スカート部の後端
14 焼成台座部
14a 左側焼成台座部
14b 右側焼成台座部
14c 接続部
14d 焼成台座部の後端、接続部の下端
16 主導水路
16a 主導水路の入口
18 給水管
20 排水管
22 中空成形体
22a 第1壁部
22b 第2壁部
22c 接続壁部
A 便器本体がトイレ室内の壁に固定された状態
B 便器本体が焼成工程時に窯内の棚面又は床面に接地された状態
d0 所定距離
d1 距離
d2 距離
d3 距離
F トイレ室内及び壁裏側の床面
G 焼成工程時の便器本体の接地面
H1 中空領域
K 窯内空間
L1 スカート部の左右側方の外郭
S 窯内の棚面又は床面
T トイレ室
t 一重厚み
U 固定ユニット
W 壁
w1 中空成形体の第1壁部の厚み
w2 中空成形体の第2壁部の厚み
w3 中空成形体の中空領域の厚み