(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122406
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】酸素吸収性積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240902BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B32B27/18 G
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029930
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳織
(72)【発明者】
【氏名】駒形 大樹
(72)【発明者】
【氏名】赤羽根 敬弘
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AD01
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(57)【要約】
【課題】酸素吸収性能を担う有機系酸素吸収材を含む酸素吸収層を有する酸素吸収性積層体において、印刷層による酸素吸収性能の初期性能の低下を抑制する。
【解決手段】外層側から、基材層、印刷層、抑制層、有機系酸素吸収材を含む酸素吸収層、シーラント層を少なくとも有する積層体であり、印刷層と酸素吸収層との間に抑制層を介在させる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層側から、基材層、印刷層、抑制層、有機系酸素吸収材を含む酸素吸収層、シーラント層を少なくとも有することを特徴とする酸素吸収性積層体。
【請求項2】
前記抑制層は、酸素吸吸収層に隣接して積層される請求項1に記載の酸素吸収性積層体。
【請求項3】
前記抑制層は、共重合ポリエステル、ポリエステルウレタン、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体から選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成される請求項1に記載の酸素吸収性積層体。
【請求項4】
前記樹脂組成物の酸価は、3mgKOH/g未満である請求項3記載の酸素吸収性積層体。
【請求項5】
前記抑制層は、無機酸化物、無機フィラー、金属粒子を含む請求項3記載の酸素吸収性積層体。
【請求項6】
前記抑制層は、前記印刷層との間にアンダーコート層を介して積層される請求項1に記載の酸素吸収性積層体。
【請求項7】
前記有機系酸素吸収材は、酸素吸収性樹脂を用いて酸素吸収性接着剤として調製される請求項1~6のいずれか一項に記載の酸素吸収性積層体。
【請求項8】
前記酸素吸収性接着剤は、不飽和ポリエステル系樹脂からなる主剤と、イソシアネート硬化剤とを含む請求項7に記載の酸素吸収性積層体。
【請求項9】
前記酸素吸収層は、遷移金属触媒を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の酸素吸収性積層体。
【請求項10】
前記抑制層の厚みが、0.01~10μmである請求項1~6のいずれか一項に記載の酸素吸収性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容物の変質などを防止するために、包装体内の空気を窒素などの不活性ガスに置き換えながら内容物を充填密封する、いわゆる、ガス置換包装が知られている。ガス置換に際しては、内容物の充填時に包装体内から空気を吸引排気したり、不活性ガスで強制的に包装体内の空気を置換したりしているが、ガス置換包装によっても包装体内の酸素を完全に除去するのは困難である。このため、本出願人は、例えば、特許文献1において、酸素吸収機能を有する包装用フィルムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような酸素吸収機能を有する包装用フィルムを用いて、充填後の包装体内に残存する酸素を除去できるようにすることで、包装対象の酸化による変質などを防止して、長期保存を可能にすることができる。
【0005】
ところで、本発明者らの検討によれば、上記背景技術において、酸素吸収性能を担う有機系酸素吸収材を含む層に隣接させて印刷層を積層した場合には、酸素吸収性能の初期性能が低下してしまうことがあるという知見を得るに至った。
【0006】
そこで、本発明者らは、そのような不具合を解消するべく、さらなる検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る酸素吸収性積層体は、外層側から、基材層、印刷層、抑制層、有機系酸素吸収材を含む酸素吸収層、シーラント層を少なくとも有する構成としてある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印刷層と酸素吸収層との間に抑制層を介在させることによって、酸素吸収性能の初期性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る酸素吸収性積層体について、その実施形態を示しつつ説明する。
【0010】
本実施形態に係る酸素吸収性積層体は、その外層側から、基材層、印刷層、抑制層、有機系酸素吸収材を含む酸素吸収層、シーラント層を少なくとも有する積層体である。かかる酸素吸収性積層体において、抑制層は、酸素吸収層の酸素吸収性能の初期性能の低下を抑制するために積層される層であり、印刷層と酸素吸収層との間に抑制層を介在させることによって、印刷層による影響が酸素吸収層に及ばないようにしている。
【0011】
本実施形態において、酸素吸収性積層体は、酸素吸収機能を有する包装用フィルムとしての用途に好適に適用され、そのような用途により好適となるように、その層構成を適宜変更できる。酸素吸収性積層体の一例として、その層構成が外層側から順に、基材層/印刷層/抑制層/酸素吸収層/シーラント層とされたものを、好ましい実施形態として以下に説明する。
【0012】
[基材層]
最外層に位置する基材層には、耐擦傷性、耐薬品性などの観点から、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂などからなる二軸延伸フィルムなどを用いるのが好ましいが、これに限定されない。また、上記二軸延伸フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の酸素バリア性樹脂を主剤とするコーティング層、シリカ、アルミナ等の金属酸化物又は金属の蒸着薄膜などを含む酸素バリア性の積層フィルムや、上記二軸延伸フィルムに、ウレタン系接着剤等を介してアルミニウム箔等の金属箔をドライラミネートしてなる積層フィルムなどを用いるのが好ましいが、これに限定されない。
【0013】
[シーラント層]
最内層に位置するシーラント層には、包装用フィルムとしての用途に適用した際に、ヒートシールによって任意の形態(例えば、合掌パウチ、ガゼットパウチ、平パウチ、ピロー包装など)に製袋することができるように、ヒートシール性を有する低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリエチレン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)やグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)等のポリエステル系樹脂フィルムを用いるのが好ましいが、ヒートシール性を有するものであれば、これに限定されない。シーラント層は、単層のフィルムを用いて形成してもよく、多層構成とされたフィルムを用いて形成してもよい。
【0014】
また、シーラント層には、酸素吸収層の酸素吸収性能を阻害しない高い酸素透過度が求められるところ、結晶性熱可塑性樹脂であるポリエチレン系樹脂は、結晶度の低下に伴って密度が低くなるほどガス透過性が高くなる。このため、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、長鎖分岐を導入した直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン又はこれらを適宜ブレンドした組成物を基材樹脂に用いて、好ましくは密度が915kg/m3未満となるように適宜調整することで、このような高い酸素透過度を容易に実現できることからもポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0015】
[酸素吸収層]
酸素吸収層は、酸素吸収性能を担う有機系酸素吸収材を含む層であり、有機系酸素吸収材としては、酸素との反応性を有する官能基又は結合基を構造中に含む化合物や樹脂などが挙げられる。酸素との反応性を有する官能基又は結合基としては、例えば、炭素-炭素二重結合基、アルデヒド基、フェノール性水酸基等が挙げられる。特に、炭素-炭素二重結合基を有する化合物や樹脂は、自動酸化反応により酸素を吸収することができることから好ましい。
【0016】
炭素-炭素二重結合基を有する化合物としては、例えば、不飽和脂肪酸やこれらのグリセリド、共役ジエン系化合物を環化させたテルペン類、ジシクロペンタジエン、ノルボルネンなどの環状化合物又はこれらの誘導体などが挙げられる。主鎖或いは側鎖に炭素-炭素二重結合基を有する樹脂としては、鎖状又は環状構造を有する不飽和ジカルボン酸やジオールから得られるポリエステル系樹脂、ポリ-1,2-ブタジエン、ポリ-1,4-ブタジエン、ポリ-1,2-イソプレン、ポリ-1,4-イソプレン等の共役ジエン重合体、共役ジエン共重合体の環化物、又はポリイソプレン環化物等の共役ジエン重合体の環化物などが挙げられる。さらに、このような炭素-炭素二重結合基を有する化合物が、エポキシ基、アミド基、エステル基、イソシアネート基などを介して、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂の末端や側鎖に結合されたものが挙げられる。
【0017】
これらの中でも、主鎖或いは側鎖に炭素-炭素二重結合基を有する不飽和のポリエステル系樹脂は、重縮合により比較的容易に得られ、また有機溶剤への溶解性も高いことからが好ましく、特に、主鎖に不飽和脂環構造を有するポリエステル系樹脂がより好ましい。このような有機系酸素吸収材は、その自動酸化反応により酸素吸収性能を発揮するが、不飽和脂環構造を有するポリエステル系樹脂は、当該樹脂の自動酸化反応における副生成物である低分子量の分解成分の発生量が抑制されるため有利である。
【0018】
不飽和脂環構造を有する酸素吸収性ポリエステル系樹脂としては、例えば、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を酸成分に用いて、ジオール成分と重合させたポリエステルが挙げられる。テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を酸成分とするにあたり、これらはメチルエステル等にエステル化されていてもよい。
【0019】
テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体としては、4-メチル-Δ3-テトラヒドロフタル酸若しくは4-メチル-Δ3-テトラヒドロ無水フタル酸、cis-3-メチル-Δ4-テトラヒドロフタル酸若しくはcis-3-メチル-Δ4-テトラヒドロ無水フタル酸が特に好ましい。これらのテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、酸素との反応性が非常に高いため、酸成分として好適に使用できる。
【0020】
なお、これらのテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、イソプレンおよびトランス-ピペリレンを主成分とするナフサのC5留分を無水マレイン酸と反応させた4-メチル-Δ4-テトラヒドロ無水フタル酸を含む異性体混合物を、構造異性化することにより得ることができ、工業的に製造されている。
【0021】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-フェニルプロパンジオール、2-(4―ヒドロキシフェニル)エチルアルコール、α,α―ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン、o-キシレングリコール、m-キシレングリコール、p-キシレングリコール、α,α―ジヒドロキシ-1,4-ジイソプロピルベンゼン、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ナフタレンジオール、又はこれらの誘導体等が挙げられる。好ましくは、脂肪族ジオール、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオールであり、さらに好ましくは、1,4-ブタンジオールである。1,4-ブタンジオールを用いた場合は、酸素吸収性能が高く、酸化の過程で生じる分解物の量も少ない酸素吸収性ポリエステル系樹脂が得られる。これらのジオール成分は、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂は、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体の他に、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸など、他の酸成分又はその誘導体を原料モノマー中に含んで共重合させたものであってもよい。
【0023】
芳香族ジカルボン酸及びその誘導体としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、スルホイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でもフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3-ジメチルペンタン二酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でもコハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、特に、コハク酸が好ましい。脂環構造を有するヘキサヒドロフタル酸や、ダイマー酸及びその誘導体も挙げられる。
【0025】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘキサン酸、又はこれらの誘導体が挙げられる。
【0026】
これらの他の酸成分は、例えば、テレフタル酸ジメチルやビス-2-ヒドロキシジエチルテレフタレートのようにエステル化されていてもよく、無水フタル酸や無水コハク酸のように酸無水物であってもよい。これらの他の酸成分は、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
他の酸成分を共重合させることによって、得られる酸素吸収性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度を容易に制御することができ、酸素吸収性能を向上させることがきる。さらに、酸素吸収性ポリエステル系樹脂の結晶性を制御することにより有機溶剤への溶解性を向上させることもできる。
【0028】
また、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、重合中の熱によりラジカル架橋反応を起こしやすいため、他の酸成分を配合して、原料モノマー中に含まれるテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体の組成比を減少させることにより、重合中のゲル化が抑制され、高分子量の酸素吸収性ポリエステル系樹脂を安定的に得ることができる。
【0029】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂は、さらに多価アルコール、多価カルボン酸、又はそれらの誘導体等に由来する構造単位を含んでもよい。多価アルコール及び多価カルボン酸を導入し分岐構造を制御することにより、溶融粘度特性や溶媒に溶解したポリエステルの溶液粘度特性を調整できる。
【0030】
多価アルコール及びその誘導体としては、1,2,3-プロパントリオール、ソルビトール、1,3,5-ペンタントリオール、1,5,8-ヘプタントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、3,5-ジヒドロキシベンジルアルコール、グリセリン又はこれらの誘導体が挙げられる。
多価カルボン酸及びその誘導体としては、1,2,3-プロパントリカルボン酸、メソ-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、又はこれらの誘導体が挙げられる。
また、多価アルコールや多価カルボン酸等の3官能以上の官能基を有する成分を共重合させる場合は、全酸成分に対し5モル%以内にすることが好ましい。
【0031】
本実施形態において、酸素吸収層に用いる有機系酸素吸収材としては、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を酸成分とし、1,4-ブタンジオールをジオール成分とし、コハク酸又は無水コハク酸を他の酸成分として、これらを共重合することによって得られた酸素吸収性ポリエステル系樹脂を使用するのが好ましい。
【0032】
この場合、酸素吸収性ポリエステル系樹脂中に含まれるテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体に由来する構造単位は、全酸成分に対する割合の70~95モル%であるのが好ましく、より好ましくは75~95モル%であり、さらに好ましくは80~95モル%である。
また、コハク酸又は無水コハク酸に由来する構造単位は、全酸成分に対する割合の1~15モル%であるのが好ましく、より好ましくは1~12.5モル%であり、さらに好ましくは1~10モル%である。
このような組成比にすることにより、酸素吸収性能及び接着性に優れ、かつ、有機溶剤への溶解性に優れた酸素吸収性ポリエステル系樹脂を得ることができる。
【0033】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂は、例えば、界面重縮合、溶液重縮合、溶融重縮合又は固相重縮合などによって合成することができる。その際、重合触媒は必ずしも必要としないが、例えば、チタン系、ゲルマニウム系、アンチモン系、スズ系、アルミニウム系等の通常のポリエステル重合触媒が使用可能である。含窒素塩基性化合物、ホウ酸及びホウ酸エステル、有機スルホン酸系化合物等の公知の重合触媒を使用することもできる。さらに、重合の際には、リン化合物等の着色防止剤や酸化防止剤等の各種添加剤を添加することもできる。酸化防止剤を添加することにより、重合中やその後の加工中の酸素吸収を抑制できるため、酸素吸収性ポリエステル系樹脂の性能低下やゲル化を抑えることができる。
【0034】
また、重合に際しては、温度220℃の条件下において剪断速度100s-1のときの溶融粘度が90Pa・s未満、好ましくは60Pa・s未満、より好ましくは30Pa・s未満となるように、原料モノマーの組成比、分子量などの重合条件を適宜調整するのが好ましい。溶融粘度を低く抑えることで、良好な塗工性を発揮させることができ、また、硬化剤を配合することで任意の材料強度にすることができるため、溶剤可溶型のドライラミネート接着剤として好適に使用することができる。
【0035】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂の数平均分子量は、好ましくは500~100000であり、より好ましくは2000~10000である。また、重量平均分子量は、好ましくは5000~200000、より好ましくは10000~100000であり、さらに好ましくは20000~70000である。分子量が上記の範囲より低い場合は樹脂の凝集力すなわち耐クリープ性が低下し、高い場合は有機溶剤への溶解性の低下や溶液粘度の上昇による塗工性の低下が生じるため好ましくない。
酸素吸収性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-20℃~10℃であり、より好ましくは-15℃~6℃であり、さらに好ましくは-12℃~2℃である。ガラス転移温度をこのような範囲とすることで、十分な酸素吸収性能を得ることができる。
【0036】
また、酸素吸収性ポリエステル系樹脂は、酸素吸収反応(酸化硬化反応)に伴って発生する内部応力によってラミネート強度が低下する場合がある。これを抑制するために、飽和ポリエステル樹脂を主成分とするガラス転移温度の低い成分を配合することが好ましい。このような成分は酸化硬化反応に伴って発生する内部応力を、その柔軟性により緩和することができる。
【0037】
飽和ポリエステル樹脂は、実質的に炭素-炭素二重結合基を含まないポリエステル系樹脂であって、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分、ヒドロキシカルボン酸成分との重縮合によって得ることができる。飽和ポリエステル樹脂は、好ましくはヨウ素価が3g/100g以下のポリエステル、特に1g/100g以下のポリエステルであるのが好ましい。飽和ポリエステル樹脂のヨウ素価が3g/100gを超える場合には、酸素吸収性ポリエステル系樹脂の酸素吸収反応に伴い低分子量の分解成分が生じ易くなるため好ましくない。
なお、ヨウ素価の測定方法はJIS K 0070に準ずる。
【0038】
ジカルボン酸成分としては、前述した酸素吸収性ポリエステル系樹脂の成分として例示した芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
ジオール成分としては、前述した酸素吸収性ポリエステル系樹脂の成分として例示したジオールが挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
ヒドロキシカルボン酸成分としては、前述した酸素吸収性ポリエステル系樹脂の成分として例示した脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0039】
飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度は-10℃以下であるのが好ましく、より好ましくは-70℃~-15℃であり、さらに好ましくは-60℃~-20℃である。ガラス転移温度をこのような範囲とすることで、酸素吸収に伴う酸化硬化反応によって生ずる内部応力を効果的に緩和することができる。
【0040】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)と飽和ポリエステル樹脂(B)の比率A/Bは、好ましくは0.6~9であり、より好ましくは1~9であり、さらに好ましくは2~9である。比率A/Bをこのような範囲とすることにより、優れた酸素吸収性能を発現しつつ、酸素吸収前後にわたって強いラミネート強度を維持することができる。
【0041】
本実施形態において、酸素吸収層に用いる有機系酸素吸収材は、酸素吸収性樹脂を有機溶剤に溶解させて酸素吸収性接着剤として調製されたものであるのが好ましく、特に、ドライラミネート接着剤として調製されたものであるのが好ましい。酸素吸収性接着剤として調製するにあたり、酸素吸収性樹脂を有機溶剤に溶解させるが、有機溶剤としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、イソプロパノール等が挙げられる。特に、酢酸エチルは残留溶剤を原因とする異臭トラブルが比較的少ないことから、軟包装のドライラミネート接着剤の溶剤として一般的であり、産業応用を考慮するとトルエンやキシレン等を含有しない酢酸エチル単一溶剤を用いるのが好ましい。
【0042】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂を主剤として酸素吸収性接着剤を調製する場合には、イソシアネート系硬化剤を配合して2液硬化型接着剤として使用することができる。イソシアネート系硬化剤を配合した場合、接着強度及び凝集力が高くなり、また、室温付近の低温でキュアが可能となる。
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート系硬化剤、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート系硬化剤が挙げられる。これらの中でも、脂肪族イソシアネート系硬化剤としては、XDI及びHDIが好ましく、脂環族イソシアネート系硬化剤としては、IPDIが好ましい。特に好ましくはXDIである。XDIを使用することにより、最も優れた酸素吸収性能を発揮する。
これらの脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート系硬化剤は、アダクトやイソシアヌレート、ビュレット体等、分子量を増大させたポリイソシアネート化合物として使用されることが好ましい。
また、これらの脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート系硬化剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
イソシアネート系硬化剤は、主剤である酸素吸収性ポリエステル系樹脂に対して、固形分重量部で3phr~30phr添加することが好ましく、より好ましくは3phr~20phr、さらに好ましくは3phr~15phrである。添加量が少なすぎると、接着性及び凝集力が不十分となり、多すぎると、樹脂組成物単位重量中に含まれる酸素吸収成分の配合量が少なくなり、酸素吸収性能が不十分となる。また、硬化により樹脂の運動性が著しく低下した場合、酸素吸収反応が進行しにくくなり、酸素吸収性能は低下する。
【0044】
また、酸素吸収層には、酸素吸収層に含まれる有機系酸素吸収材の酸素吸収反応を促進させるために、遷移金属触媒をさらに含めることができる。
【0045】
遷移金属触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、錫、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の遷移金属、特に好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等の遷移金属の無機塩、有機塩、又は錯塩が挙げられる。より具体的には、遷移金属触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅から選択される遷移金属と有機酸とからなる遷移金属塩が挙げられる。特に、有機系酸素吸収材の酸素吸収反応を促進させ、酸素吸収性を高めるという観点から、遷移金属触媒は、マンガン、鉄、コバルトの有機酸塩が好ましく、特に、コバルトの有機酸塩が好ましい。酸素吸収層中における遷移金属触媒の含有量は、金属換算量で、好ましくは1ppm~1000ppmであり、より好ましくは10ppm~500ppmであり、さらに好ましくは20ppm~300ppmである。
【0046】
[印刷層]
印刷層は、フィルムへの印刷に適した公知の印刷インキを用いて、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などによって、基材層の裏面側(積層体の内層側)に、図柄や文字などを印刷することによって形成することができる。印刷インキのバインダー樹脂としては、一般に、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、アクリル変性ウレタン樹脂、アクリル変性ウレタンウレア樹脂等のポリウレタン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のロジン系樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂等の塩素化オレフィン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合系樹脂、塩化ビニル-アクリル系共重合樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂などが用いられ、顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、イソインドリノン系などの有機顔料や、二酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウムなどの無機顔料が用いられる。
【0047】
前述したような有機系酸素吸収材を含む酸素吸収層に、このような印刷層を隣接させて積層した場合に、酸素吸収性能の初期性能が低下してしまうことがあるという知見が、本発明者らの検討によって得られているが、そのような不具合が生じる場合の多くにあっては、印刷層の形成に用いた印刷インキが高い酸価を示していることが判明した。そして、その理由について検討したところ、印刷層から移行してきたプロトン(H+)が、有機系酸素吸収材の自動酸化による酸素吸収反応を阻害していると考えるに至った。
【0048】
有機系酸素吸収材の自動酸化による酸素吸収反応のメカニズムを考えると、まず、水素引き抜き反応によりラジカル(R・)が生成し、この開始反応の段階で生成したラジカルが、速やかに酸素分子(O=O)と反応してパーオキシラジカル(ROO・)となる。次いで、パーオキシラジカルが、水素引き抜き反応や、二重結合への付加反応により、新しく別のラジカルを生成して連鎖を伝搬させるラジカル連鎖反応が進行する。このようなラジカル連鎖反応において、パーオキシラジカルは、水素引き抜き反応によってハイドロパーオキシド(RO-OH)となる。そして、そのラジカル開裂(RO-OH→RO・+・OH)によって、酸素吸収反応が加速度的に進行するところ、プロトンが存在すると、ハイドロパーオキシドのイオン開裂(RO-OH+H+→RO++H2O)が引き起こされてしまい、これによってラジカル連鎖反応が阻害され、酸素吸収性能の初期性能が低下してしまうと考えられる。
【0049】
本実施形態にあっては、このような考えに基づいて、印刷層と酸素吸収層との間に抑制層を介在させることによって、印刷層による影響が酸素吸収層に及ばないようにしている。
【0050】
[抑制層]
抑制層は、印刷層から酸素吸収層へのプロトンの移行を妨げて、酸素吸収層の酸素吸収性能の初期性能の低下を抑制するために、印刷層と酸素吸収層との間に介在させられる。そのような機能が発揮できれば、特に限定されることなく、各種の無機材料又は有機材料を用いて、抑制層を形成することができる。
【0051】
無機材料を用いて抑制層を形成する場合には、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物又は金属の蒸着薄膜層などとして形成することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、酸素バリア性を有する透明な蒸着薄膜層であるのが好ましい。蒸着層薄膜層は、真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することができる。
【0052】
また、有機材料を用いて抑制層を形成する場合には、例えば、ポリエチレン、環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、MXD6等のポリアミド、ポリエステルウレタン、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。好ましくは、共重合ポリエステル、ポリエステルウレタン、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体であり、これらから選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂組成物を用いて形成することができる。特に、塗工液として印刷層の表面に抑制層を塗布することができることから、水性溶媒や有機溶媒への溶解性又は分散性が良好な樹脂であるのが好ましい。
【0053】
これらの樹脂には、必要に応じて、無機酸化物、無機フィラー、金属粒子を含めることができる。
無機酸化物や無機フィラーとしては、球状シリカや多孔質シリカ、メソポーラスシリカなどのシリカ、ゼオライト、アルミナ、タルク、カオリナイト族粘土鉱物(ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等)、アンチゴライト族粘土鉱物(アンチゴライト、クリソタイル等)、スメクタイト族粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等)、バーミキュライト族粘土鉱物(バーミキュライト等)、雲母又はマイカ族粘土鉱物(白雲母、金雲母等の雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
抑制層に好適に用いられる共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分、ヒドロキシカルボン酸成分との重縮合によって得ることができる。ジカルボン酸成分としては、前述した酸素吸収性ポリエステル系樹脂の成分として例示した、芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。ジオール成分としては、前述した酸素吸収性ポリエステル系樹脂の成分として例示した、ジオールが挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。ヒドロキシカルボン酸成分としては、前述した酸素吸収性ポリエステル系樹脂の成分として例示した、脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0055】
このような共重合ポリエステルを用いて抑制層を形成するにあたり、当該共重合ポリエステルのガラス転移温度は、-30℃~100℃であるのが好ましく、より好ましくは5℃~85℃であり、さらに好ましくは15℃~70℃である。
なお、ガラス転移温度の測定方法はJIS K 7121に準じ、DSC測定により昇温速度10℃/minで測定される。
【0056】
抑制層に好適に用いられるポリエステルウレタンは、前述した共重合ポリエステル樹脂やポリエステル樹脂と、前述した脂肪族及び脂環族イソシアネート系硬化剤又はポリイソシアネート化合物と反応させることにより得ることができる。
【0057】
このようなポリエステルウレタンを用いて抑制層を形成するにあたり、当該ポリエステルウレタンのガラス転移温度は、-30℃~100℃であるのが好ましく、より好ましくは5℃~85℃であり、さらに好ましくは15℃~70℃である。
【0058】
抑制層に好適に用いられるエポキシ系樹脂は、分子中にエポキシ基を有するエポキシ樹脂を硬化剤により硬化させたものが挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型或いはビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。硬化剤としては、例えば、アミン系、酸無水物、ポリアミドなどが挙げられる。エポキシ樹脂と硬化剤との量比は、エポキシ樹脂が有するエポキシ当量に応じて適宜設定することができる。これらの中でも、エポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせとして、グリシジルアミン型エポキシ樹脂とメタフェニレンジアミン硬化剤で硬化させたものを好適に使用することができる。
【0059】
抑制層に好適に用いられるポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの単独重合体であってもよく、炭素数が4以下のα-オレフィン単位を1~15モル%未満の割合で共重合した共重合体であってもよい。また、シラノール変性などの変性物であってもよい。ポリビニルアルコールのけん化度は、90%以上、好ましくは94%以上、さらに好ましくは99%以上である。例えば、塗工液として用いる場合には、重合度は2500以下が好ましく、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1000以下である。
なお、ポリビニルアルコールは高い結晶性を有する樹脂であり、分子間の隙間が小さく、吸着性や拡散性及び脱着性の作用の大きい極性基を有していることから良好なバリア性を有している。
【0060】
このようなポリビニルアルコールを用いて抑制層を形成するにあたり、当該ポリビニルアルコールのガラス転移温度は、50℃~85℃であるのが好ましく、より好ましくは65℃~85℃である。
【0061】
抑制層に好適に用いられるエチレン―ビニルアルコール共重合体は、溶媒可溶型の共重合体であれば特に制限されないが、エチレン含有量が15~65モル%、好ましくは25~45モル%の共重合体である。エチレン―ビニルアルコール共重合体の分子量は、例えば、1×104~1×105程度である。また、シラノール変性などの変性物であってもよい。けん化度は、90%以上、好ましくは94%以上、さらに好ましくは99%以上である。このようなエチレン―ビニルアルコール共重合体は、例えば、水とアルコールとの混合溶媒に可溶である。
【0062】
このようなエチレン―ビニルアルコール共重合体を用いて抑制層を形成するにあたり、当該エチレン―ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度は、50℃~65℃であるのが好ましく、より好ましくは55℃~62℃である。
【0063】
抑制層に好適に用いられるポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体には、さらに架橋剤や添加剤を添加して用いてもよく、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物の外、シリカ化合物、アルミ化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、コロイダルシリカ、金属アルコキシド又はその加水分解物、シランカップリング剤が好ましい。金属アルコキシドを含有する組成物をゾルゲル法によって重縮合して得られる塗膜として抑制層を形成してもよい。
【0064】
金属アルコキシドとしては、例えば、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(OC3H7)4、Si(OC4H9)4等のアルコキシシラン、Zr(OCH3)4、Zr(OC2H5)4、Zr(OC3H7)4、Zr(OC4H9)4等のジルコニウムアルコキシド、Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(OC3H7)4、Ti(OC4H9)4等のチタンアルコキシド、Al2(OCH3)3、Al2(OC2H5)3、Al2(OC3H7)3、Al2(OC4H9)3等のアルミニウムアルコキシドのモノマー、加水分解縮合物のオリゴマーなどが挙げられる。
シランカップリング剤としては、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、エポキシシランが挙げられ、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが挙げられる。
なお、これら架橋剤や添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本実施形態において、このような抑制層を印刷層と酸素吸収層との間に介在させるにあたり、抑制層からプロトンが放出されて、抑制層自体が、酸素吸収層の酸素吸収性能の初期性能を低下させてしまうことがないように、抑制層を形成する樹脂組成物の酸価は、3mgKOH/g未満であるのが好ましく、より好ましくは2mgKOH/g未満であり、さらに好ましくは1mgKOH/g未満である。
なお、酸価の測定方法はJIS K 0070に準ずる。
【0066】
また、抑制層は、外層側からの酸素の透過を妨げて、内層側から透過してきた酸素に対する酸素吸収層の酸素吸収性能が良好に発揮されるように、23℃-50%RHの環境下における酸素透過度が100cc/(m2・day・atm)以下であるのが好ましく、より好ましくは50cc/(m2・day・atm)以下であり、さらに好ましくは20cc/(m2・day・atm)以下であり、最も好ましくは10cc/(m2・day・atm)以下である。
抑制層の酸素透過度が低いような場合には、基材層側に酸素バリア層を省略することができるため、積層体の層構成の簡略化が可能となり経済面でも好ましい。また、酸素バリア性の高い基材層と併用することにより、より高い酸素バリア性を持たせることも可能となるため好ましい。
【0067】
また、抑制層を印刷層と酸素吸収層との間に介在させるにあたり、抑制層を印刷層と隣接して積層させてもよいが、抑制層の機能がより有効に発揮されるために、抑制層は、酸素吸吸収層に隣接して積層されるのが好ましい。抑制層の厚みは、0.01~10μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1~8μmであり、さらに好ましくは0.2~7μmであり、最も好ましくは0.5~5μmである。
【0068】
また、抑制層は、印刷層との接着性を考慮して、必要に応じて、印刷層との間にアンダーコート層を介して積層されるのが好ましい。アンダーコート層に用いられるアンダーコート剤としては、チタン系アンダーコート剤、ポリエチレンイミン系アンダーコート剤、ポリエステル系アンダーコート剤、ウレタン系アンダーコート剤などが挙げられる。アンダーコート層の厚みは、0.01~10μmであるのが好ましく、より好ましくは0.05~8μmであり、さらに好ましくは0.1~5μmである。
【0069】
このような抑制層を形成するには、例えば、上述した以外にも、抑制層を形成する無機材料又は有機材料を溶媒に溶解又は分散させて塗工液とし、調製した塗工液をグラビア塗工して形成することができる。溶媒としては水、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、これらを2種類以上用いてもよい。また、予めフィルム状に形成しておいて、これを積層するようにしてもよい。
【0070】
また、酸素吸収層に用いる有機系酸素吸収材が、酸素吸収性樹脂を用いてドライラミネート接着剤として調製され、当該ドライラミネート接着剤を抑制層に塗布して酸素吸収層を形成する場合には、抑制層の表面のぬれ指数が36以上であることが好ましく、より好ましくは38以上、さらに好ましくは40以上である。
なお、ぬれ張力の測定方法はJIS K 6768に準ずる。
【0071】
また、抑制層の表面に、酸素吸収性樹脂を用いて調製されたドライラミネート接着剤を塗布し、シーラント層とドライラミネートすることによって、酸素吸収層に抑制層が隣接して積層された酸素吸収性積層体を得ることができる。その際、公知のドライラミネーターを使用することができ、例えば、酸素吸収性樹脂を用いて調製されたドライラミネート接着剤を抑制層の表面に塗布し、乾燥オーブンを通過させて有機溶剤を揮散させ、50~120℃に加温したニップロールにより、シーラント層を形成するフィルムを貼り合わせる一連のラミネート工程を経ることによって、酸素吸収性積層体を得ることができる。
酸素吸収性樹脂を用いて調製されたドライラミネート接着剤を抑制層の表面に塗布するに際し、その塗布量は、固形分で0.1~30g/m2であるのが好ましく、より好ましくは1~15g/m2、さらに好ましくは2~10g/m2である。
【0072】
このようにして、酸素吸収層に抑制層が隣接して積層された酸素吸収性積層体を得るにあたり、抑制層と酸素吸収層とが十分に接着されている状態であれば特に限定されないが、例えば、隣接層と酸素吸収層のラミネート強度の下限値として0.5N/15mm以上であるのが好ましく、より好ましくは1.0N/15mm以上であり、さらに好ましくは1.5N/15mm以上である。
また、酸素吸収性積層体を包装用フィルムとして用いる場合において、ヒートシール強度は、ヒートシール界面同士が溶融されて十分にシールされている状態であれば特に限定されないが、例えば、下限値として1N/15mm以上であるのが好ましく、より好ましくは2N/15mm以上である。このとき、ヒートシール強度が高いほど一般的には好ましいが、包装対象として、比較的、軽量の食品や医薬品である場合にも好適に使用できる。
【0073】
以上のような本実施形態にあっては、印刷層と酸素吸収層との間に抑制層を介在させることによって、印刷層から酸素吸収層へのプロトンの移行を妨げて、酸素吸収性能の初期性能の低下を抑制できるようにしているが、次のような副次的な効果も期待できる。
【0074】
例えば、有機系酸素吸収材の酸素吸収反応を促進させるために、遷移金属触媒を利用する場合に、印刷インキのバインダー樹脂が有するカルボキシル基などの酸性基や、有機顔料が有するポルフィリン骨格などに、配位結合などによって遷移金属触媒が捕捉されてしまうのを避けて、その触媒活性の低下を抑制することができる。
また、例えば、残留溶剤臭、印刷インキ本来の臭気、有機系酸素吸収材の自動酸化反応で生成したラジカルが作用して生じ得る含酸素化合物などの印刷インキ由来の臭気成分による影響を抑制することもできる。
【実施例0075】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0076】
[実施例1]
酸成分としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸異性体混合物(レゾナック社製;HN-2200)をモル比0.9、その他の酸成分として無水コハク酸をモル比0.1、ジオール成分として1,4-ブタンジオールをモル比1.3、重合触媒としてイソプロピルチタナートを300ppmの組成比で反応釜に仕込み、窒素雰囲気中150℃~200℃で生成する水を除きながら約6時間反応させた。引き続いて0.1kPaの減圧下、200~220℃で約3時間重合を行い、酸素吸収性ポリエステル樹脂(A)を得た。酸素吸収性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は4800であり、重量平均分子量(Mw)は57200であり、ガラス転移点(Tg)は-5.0℃であった。
【0077】
得られた酸素吸収性ポリエステル樹脂(A)に、Tg-26℃の飽和ポリエステル樹脂(B)(DIC社製;ポリサイザーW4010/Mn:3600、Mw:9500)を固形分重量比A/Bが4.0となるように混合し、その混合物の固形分に対してイソシアネート系硬化剤として、固形分換算で7phr(parts per hundred resin)となるように、HDI/IPDI系硬化剤(DICグラフィックス社製;KL-75)を混合した。さらに、触媒として、ネオデカン酸コバルトを全固形分に対する金属換算量で80ppmになるように添加し、酢酸エチルに溶解して、固形分濃度20wt%の酸素吸収性接着剤溶液を調製した。
【0078】
透明蒸着ナイロンフィルム(凸版印刷社製;GL-EY/膜厚15μm)のバリアコーティング面に、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、アジピン酸、イソホロンジイソシアネートを共重合してなるポリウレタン樹脂を含み、酸価5.3mgKOH/gに調製された印刷インキを用いてバーコーターで塗布し、厚さ1μmの印刷層を形成した。
【0079】
次いで、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、テレフタル酸、イソフタル酸を含む原料成分を共重合してなる共重合ポリエステル樹脂(酸価2.0mgKOH/g未満、Tg20℃)をメチルエチルケトンで希釈して調製された樹脂組成物を、バーコーターで印刷層に重ねて塗布し、ヘアドライヤーの温風にて溶剤を揮発させ、厚さ4μmの抑制層を形成した。
【0080】
次に、抑制層に重ねて、酸素吸収性接着剤溶液をバーコーターで塗布し、ヘアドライヤーの温風にて溶剤を揮発させた後、酸素吸収性接着剤の塗布面と、LDPEフィルム(膜厚50μm)のコロナ処理面とを対向させて50℃の熱ロールに通し、得られた積層体を35℃窒素雰囲気下で5日間キュアすることで、基材層(透明蒸着ナイロンフィルム:膜厚15μm)/印刷層(膜厚1μm)/抑制層(膜厚4μm)/酸素吸収層(膜厚4μm)/シーラント層(LDPEフィルム:膜厚50μm)からなる酸素吸収性積層体を得た。
【0081】
このようにして得られた酸素吸収性積層体について、23℃、50%RHの雰囲気下において、T型剥離試験により試験片幅15mm、剥離速度300mm/minの測定条件で、抑制層と酸素吸収層との間のラミネート強度(単位:N/15mm)を測定したところ、2N以上であった。
【0082】
また、得られた酸素吸収性積層体の酸素吸収性能を評価した。その結果を表1に示す。
なお、酸素吸収性能は以下のように評価した。
<酸素吸収性能>
2cm×15cmに切り出した酸素吸収性積層体の試験片を、内容積85cm3の酸素不透過性のスチール箔積層カップに仕込んで、アルミニウム箔積層フィルム蓋でヒートシール密封し、22℃雰囲気下にて保存した。その後、6時間経過後(6時間区)のカップ内の酸素濃度をマイクロガスクロマトグラフ装置(島津製作所社製:GC-2014AT)にて測定し、酸素吸収性積層体1cm2当たりの酸素吸収量を算出した。
<評価基準>
印刷層と抑制層を有しない以外は、上記と同様の層構成の酸素吸収性積層体を用意して、その1cm2当たりの酸素吸収量を上記と同様にして算出し、これを100%として、本実施例の酸素吸収性積層体における6時間区の酸素吸収量の割合を求めた。80%以上の場合を、酸素吸収性能の低下抑制機能を良好に発揮できているとして表1に「〇」で示し、80%未満を酸素吸収性能の低下抑制機能が発揮されないとして表1に「×」で示した。
【0083】
【0084】
[実施例2]
エチレングリコール、プロピレングリコール、テレフタル酸、セバシン酸を共重合してなる共重合ポリエステル(酸価2.0mgKOH/g未満、Tg16℃)を酢酸エチルで希釈し、バーコーターで印刷層に重ねて塗布し、ヘアドライヤーの温風にて溶剤を揮発させ、厚さ4μmのアンダーコート層を形成した。次いで、完全けん化型のポリビニルアルコール(富士フィルム和光純薬社製;ポリビニルアルコール1000,完全けん化型)を水に溶解して調製された樹脂組成物をバーコーターでアンダーコート層に重ねて塗布し、オーブンにて140℃-1分間乾燥して厚さ2μmの抑制層(23℃-50%RHの環境下における酸素透過度が8cc/(m2・day・atm))を形成した。これらの点以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性積層体を得た。得られた酸素吸収性積層体について、実施例1と同様にして抑制層-酸素吸収層間のラミネート強度を測定したころ、2N以上であった。また、実施例1と同様にして酸素吸収性能を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0085】
[実施例3]
透明蒸着PETフィルム(凸版印刷社製;GL-ARH-F/膜厚12μm)のバリアコーティング面に、実施例1と同様にして印刷層を形成した。ポリエステル樹脂(三井化学社製;A-315)にイソシアネート系硬化剤(三井化学社製;A-50)を混合して、酢酸エチルに溶解して、固形分濃度24wt%のポリウレタン系接着剤を、バーコーターで印刷層に重ねて塗布し、ヘアドライヤーの温風にて溶剤を揮発させ、厚さ4μmのアンダーコート層を形成した。
次いで、アンダーコート層に対向するように、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなるフィルム(クラレ社製;エバールL171B/膜厚10μm)を重ね合わせて、50℃の熱ロールに通して抑制層(23℃-50%RHの環境下における酸素透過度が0.2cc/(m2・day・atm))を形成した。これらの点以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性積層体を得た。得られた酸素吸収性積層体について、実施例1と同様にして抑制層-酸素吸収層間のラミネート強度を測定したころ、2N以上であった。また、実施例1と同様にして酸素吸収性能を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0086】
[比較例1]
抑制層を有しない以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性積層体を得た。得られた酸素吸収性積層体について、実施例1と同様にして酸素吸収性能を評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0087】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。