(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122412
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20240902BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240902BHJP
B01J 35/50 20240101ALI20240902BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B01J37/02 301D
B01J37/08 ZAB
B01J35/02 G
B01D53/94 222
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029938
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】平林 武史
(72)【発明者】
【氏名】村脇 啓介
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AB02
4D148BA01Y
4D148BA03Y
4D148BA06Y
4D148BA07Y
4D148BA08Y
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4D148BA19Y
4D148BA33X
4D148BA41Y
4D148BA42Y
4D148BB01
4D148BB02
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4G169AA03
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4G169BA21C
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4G169BC71A
4G169BC71B
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4G169CA15
4G169DA06
4G169EA18
4G169EE03
4G169FA06
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】低コストで安全にEHCを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、溶媒と、担体と、Rh前駆体とを混合して混合物を調製する工程であって、混合物中、Rh前駆体の濃度がRh金属として混合物の総重量に対して0.4重量%であり、有機化合物の含有量が混合物の総重量に対して4重量%以下である工程、前記混合物を基材上に塗布し、その後乾燥及び焼成して該基材上に触媒コート層を形成する工程、並びに電極を設置する工程を含む、通電加熱式触媒を製造する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、担体と、Rh前駆体とを混合して混合物を調製する工程であって、混合物中、Rh前駆体の濃度がRh金属として混合物の総重量に対して0.4重量%であり、有機化合物の含有量が混合物の総重量に対して4重量%以下である工程、
前記混合物を基材上に塗布し、その後乾燥及び焼成して該基材上に触媒コート層を形成する工程、並びに
電極を設置する工程
を含む、通電加熱式触媒を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒、特に通電加熱式触媒(EHC)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などのための内燃機関、例えば、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガス中には、有害成分、例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NOx)などが含まれている。
【0003】
このため、一般的には、これらの有害成分を分解除去するための排ガス浄化装置が内燃機関に設けられており、この排ガス浄化装置内に取り付けられた排ガス浄化用触媒によってこれらの有害成分がほとんど無害化されている。このような排ガス浄化用触媒としては、例えば、三元触媒やNOx吸蔵還元触媒が知られている。
【0004】
排ガス浄化用触媒は、担体上に、触媒活性を有する貴金属が微粒子として担持された担持触媒の形態で使用されることが多い。このような担持触媒では、高価な貴金属の有効利用を図る観点からは、貴金属粒子の粒径を小さくして、表面積を大きくすることが望まれる。一方で、貴金属粒子の粒径が過度に微細であると、触媒反応中に粒子の凝集が生じ易くなり、触媒活性及び触媒寿命を損なうことがある。したがって、担持触媒では、担持されている貴金属粒子の粒径を所望の範囲に制御することが重要である。
【0005】
例えば、特許文献1では、酸化物担体粒子、及び前記酸化物担体粒子上に担持されている貴金属粒子を有し、前記貴金属粒子の質量が、前記酸化物担体粒子の質量を基準として5質量%以下であり、透過型電子顕微鏡観察により測定された前記貴金属粒子の平均粒径が1.0nm以上2.0nm以下であり、かつ標準偏差σが0.8nm以下である、担持触媒粒子が開示されている。このような担持触媒粒子を製造するためには、担持されている貴金属粒子の粒径を制御し、さらにその分散性を改良(貴金属粒子同士の焼結を防止)するために、通常分散剤として有機化合物を多量に含む溶液、例えば有機塩基溶液を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、自動車などのエンジンから排出される排ガスを浄化する触媒として注目されている通電加熱式触媒(EHC)では、基材上に積層する触媒コート層中に分散させる貴金属、特にロジウム(Rh)を含む触媒コート層におけるRhの担持密度を高くすることで、NOx浄化率を向上させる。
【0008】
EHC製造時においても、前述したように、Rhの粒径及び分散性を向上させるため、Rh前駆体として、Rhと共に有機化合物を多量に含む溶液を使用することが好ましいと考えられる。
【0009】
しかしながら、EHC製造時では、Rhの担持密度が高いため、有機化合物を多量に含むRh前駆体を多量に使用する必要があり、この場合、高価な前駆体を多量に使用することによるコスト増加、製造時に揮発する有機化合物特有の臭い、ひいては製造を行う者の健康に関する問題、さらには製造時の当該有機化合物による発火の問題など、様々な問題が存在する。
【0010】
したがって、本発明は、低コストで安全にEHCを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。その結果、本発明者らは、基材と該基材上にコートされている触媒コート層とを有する通電加熱式触媒を製造する方法において、Rhを含む触媒コート層をコートする際に、溶媒と、担体と、Rh前駆体とを混合して調製した混合物を使用し、当該混合物中におけるRh前駆体の濃度及び有機化合物の含有量を調整することによって、有害物質になり得る有機化合物を多量に含む溶液を使用しなくとも、低コストで安全にEHCを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
溶媒と、担体と、Rh前駆体とを混合して混合物を調製する工程であって、混合物中、Rh前駆体の濃度がRh金属として混合物の総重量に対して0.4重量%であり、有機化合物の含有量が混合物の総重量に対して4重量%以下である工程、前記混合物を基材上に塗布し、その後乾燥及び焼成して該基材上に触媒コート層を形成する工程、並びに電極を設置する工程を含む、通電加熱式触媒を製造する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、低コストで安全にEHCを製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0015】
本発明では、まず、溶媒と、担体と、Rh前駆体とを混合して混合物(触媒スラリー)を調製する。
【0016】
本発明において、溶媒は、通常水である。
【0017】
本発明において、担体は、当該技術分野において公知の担体を使用することができ、限定されない。担体としては、OSC材、例えばセリア、アルミナ-セリア-ジルコニア系複合酸化物(ACZ)、セリア-ジルコニア系複合酸化物(CZ)、及びそれらの二種以上の組み合わせなど、金属酸化物、例えばシリカ、酸化マグネシウム、ジルコニア、アルミナ、チタニア、イットリア、酸化ネオジム、酸化ランタン及びそれらの複合酸化物や固溶体、例えばアルミナ-ジルコニア系複合酸化物(AZ)、並びにそれらの二種以上の組み合わせなどが挙げられる。
【0018】
担体の各種特性、例えば粒径などは、当該技術分野において公知の担体の特性であればよく、限定されない。
【0019】
担体の量は、当該技術分野において公知の担体の量であればよく、限定されない。例えば、担体の量は、混合物の総重量に対して、通常30重量%~60重量%になるよう調整される。例えば、担体の量は、触媒コート層の量が、触媒コート層を塗布した基材1Lに対して、通常50g~100gになるように調整される。
【0020】
本発明において、Rh前駆体は、通常され得る分散剤としての有機化合物を多量に含む溶液ではなく、有機化合物の含有量が少なく、ロジウムイオンが水中に溶解している水溶液であればよく、例えば硝酸ロジウム水溶液などを挙げることができる。
【0021】
混合物中のRh前駆体の濃度は、Rh金属として、溶媒と、担体と、Rh前駆体とを混合して調製される混合物の総重量に対して、通常0.5重量%~1重量%、例えば0.4重量%になるよう調整される。
【0022】
本発明では、混合物中の有機化合物の含有量は、混合物の総重量に対して、4重量%以下、好ましくは2重量%以下であり、より好ましくは、混合物中に有機化合物は含まれない。
【0023】
混合物中における有機化合物の含有量が少ないことにより、混合物を基材上に塗布した後の乾燥及び焼成工程において、当該有機化合物の揮発に伴う臭い、ひいては人体への健康被害及び発火の危険性を低減することができる。また、通常高コストになり得る分散剤としての有機化合物(例えば、有機塩基)を使用しないことで、コストを下げることができる。
【0024】
混合物中には、当該技術分野において公知の添加剤(バインダー含む)をさらに添加してもよい。添加剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アルミナゾル、シリカゾルなどが挙げられる。
【0025】
本発明において、各種材料の添加方法、混合方法は当該技術分野において公知の方法を使用することができ、限定されず、各種材料は、均一に混合される。
【0026】
続いて、調製された混合物を基材上に塗布し、その後乾燥及び焼成して該基材上に触媒コート層を形成する。
【0027】
基材は、当該技術分野において公知の基材を使用することができ、限定されない。基材としては、導電性を有するセラミックスであるSiC(炭化ケイ素)を含むもの、SiCよりも低抵抗であるとして、SiCにSiを結合させたSi-SiC(ケイ素-炭化ケイ素)複合材料を含むものが挙げられる。
【0028】
基材の形状は、当該技術分野において公知の排ガス浄化用触媒と同様であってよい。例えば、基材は、排ガス浄化用触媒において一般的に使用されている、ストレートフロー型またはウォールフロー型のハニカム基材であってよい。
【0029】
塗布される混合物の量は、例えば、触媒コート層中のRh量が、金属として、触媒コート層を塗布した基材1Lに対して、通常0.4g~1gになるように調整される。
【0030】
通常、分散剤としての有機化合物の分散性の利益は、溶液中のRh前駆体の濃度が低い(低密度又は低濃度)場合に得ることができる。本発明の通電加熱式触媒の製造方法では、触媒コート層中のRh濃度は前記範囲であり高い(高密度又は高濃度)ため、分散剤としての有機化合物の分散性の利益を受けることが難しい。したがって、本発明の通電加熱式触媒の製造方法では、分散剤としての有機化合物を用いなくとも、有機化合物を用いた場合とほぼ変わらない排ガス浄化性能を有する触媒を製造することができる。
【0031】
混合物の基材への塗布方法は、当該技術分野において公知の方法を使用することができ、限定されない。混合物の基材への塗布方法としては、例えば基材を触媒スラリーに浸漬させて塗布する方法(浸漬法)、ウォッシュコート法、混合物を圧入手段により圧入する方法などが挙げられる。
【0032】
混合物の基材への塗布範囲は、当該技術分野において公知の範囲であればよく、限定されない。混合物の基材への塗布範囲は、例えば、基材全長に対して、通常65%~100%である。
【0033】
混合物を塗布した基材の乾燥は、例えば通常80℃~120℃の温度で、通常1時間~3時間行われる(乾燥工程)。さらに、乾燥させた混合物を塗布した基材の焼成は、例えば通常400℃~600℃の温度で、通常1時間~3時間行われる(焼成工程)。乾燥工程及び焼成工程の結果、基材上に触媒コート層が形成される。
【0034】
混合物中における有機化合物の含有量が少ないため、当該乾燥工程及び焼成工程では、当該有機化合物の揮発に伴う臭い、ひいては人体への健康被害及び発火の危険性を低減することができる。
【0035】
本発明の方法は、さらに、触媒コート層を備えた基材に電気を流すための電極を設置する工程を含む。電極は、当該技術分野において公知の通電加熱式触媒が備える電極と同様であってよく、電極としては、例えば金属電極、カーボン電極などが挙げられる。電極は、基材の外表面上に設けられた電極層と、電極端子とを備えている。電極層は、電流を拡散する機能を有している。しかしながら、電極の構成は、基材に通電可能な限り、当該態様に限られない。
【実施例0036】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0037】
1.EHCの製造
実施例1
溶媒としての水と、担体と、Rh前駆体としての硝酸ロジウムとを混合して混合物を調製した。混合物中、Rh前駆体の濃度は、Rh金属として混合物の総重量に対して0.4重量%であり、有機化合物の含有量は、混合物の総重量に対して4重量%以下であった。続いて、当該混合物を、Si-SiC複合材料を含む基材上にRh量が金属として触媒コート層を塗布した基材1Lに対して0.5gになるように塗布し、その後120℃での2時間の乾燥及び500℃での2時間の焼成を経て、該基材上に触媒コート層を形成させた。最後に、触媒コート層を形成させた基材に電極を設置した。
【0038】
比較例1
溶媒としての水と、担体と、Rh前駆体としてのロジウム薬液(粒径制御のための有機塩基を含む)とを混合して混合物を調製した。混合物中、Rh前駆体の濃度は、Rh金属として混合物の総重量に対して0.4重量%であり、有機化合物の含有量は、混合物の総重量に対して4重量%であった。続いて、当該混合物を、Si-SiC複合材料を含む基材上にRh量が金属として触媒コート層を塗布した基材1Lに対して0.5gになるように塗布し、その後120℃での2時間の乾燥及び500℃での2時間の焼成を経て、該基材上に触媒コート層を形成させた。最後に、触媒コート層を形成させた基材に電極を設置した。
【0039】
実施例1及び比較例1において、得られたEHCの基本性能に違いはなかったものの、各EHCの製造において、実施例1では、焼成中に発火することはなかったが、比較例1では、焼成中に有機化合物特有の臭いを発し、さらに発火した。
【0040】
したがって、EHCの製造では、触媒スラリーとしての混合物中のRh前駆体及び有機化合物の含有量を制御することで、焼成中の有機化合物の臭い及び発火を抑制し、さらに、混合物中に分散剤として作用し得る有機化合物を添加しなくても、得られるEHCにおける排ガス浄化特性は、混合物中に有機化合物を添加して製造したEHCと同様であることがわかった。