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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012243
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】藻体の陸上養殖装置及び陸上養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
A01G33/02 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114439
(22)【出願日】2022-07-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月21日TV放送 令和4年6月21日ウェブサイト 令和4年3月7日ウェブサイト 令和4年4月28日ウェブサイト 令和3年7月19日性能比較試験
(71)【出願人】
【識別番号】518339412
【氏名又は名称】合同会社シーベジタブル
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 潤
(57)【要約】
【課題】
養殖槽内での藻体の配置分布の偏りが抑制され海藻などの大型の藻体の一層効率的な陸上での養殖が可能となる。
【解決手段】
本発明の陸上養殖装置は、養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えており、前記養殖槽の直径が5m以上であり、前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは1以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする陸上養殖装置。
【選択図】図28

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えた藻体の陸上養殖装置において、
前記養殖槽の直径が5m以上であり、
前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、
前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは1以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、
前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする藻体の陸上養殖装置。
【請求項2】
前記水掻き羽根の回転速度が1回転あたり10秒~150秒であることを特長とする請求項1に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項3】
前記養殖槽の水深が100mm以上600mm以下であることを特長とする請求項2に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項4】
前記養殖槽の直径が11m以上であることを特長とする請求項3に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項5】
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上200mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項6】
前記養殖槽の形状が略円形、多角形又は楕円形状であることを特徴とする請求項1に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項7】
前記水掻き羽根の回転中心が前記養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置されていて、前記所定距離が前記養殖槽の直径の7%以上25%以下の距離であることを特長とする請求項1に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項8】
養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えた藻体の陸上養殖方法において、
前記養殖槽の直径が5m以上であり、
前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、
前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは1以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、
前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする藻体の陸上養殖方法。
【請求項9】
前記水掻き羽根の回転中心が前記養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置されていて、前記所定距離が前記養殖槽の直径の7%以上25%以下の距離であることを特長とする請求項8に記載の藻体の陸上養殖方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陸上で海藻を養殖する海藻類の陸上養殖装置及び陸上養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上で海藻を養殖する技術として、例えば特許文献1は、海藻の胞子又は胞子が発芽した発芽体を集塊化させた種苗を用意し、これを水槽養殖することを開示している(特許文献1の段落[0007]~[0009]参照)。
【0003】
海藻の陸上養殖に際しては、海藻に対する光照射が重要である。光照射を効率よく行うために特許文献1に記載の発明では水槽内で撹拌を行うことが記載されている(特許文献1の段落[0010]参照)。撹拌により流水を生じさせて種苗(藻体集塊)を流動させ、これによって種苗に光照射を行っている。
【0004】
特許文献2は、海藻類の陸上養殖装置を開示している。この装置は、横断面形状がU字状又は半円状をした底部に湾曲壁面を有する養殖槽を用意し、この養殖槽に溜めた養殖用海水に対して、上方から新たな養殖用海水を噴流状に流下させるようにしている。これによって養殖槽内の養殖用海水は湾曲壁面に沿うように旋回し、養殖槽に溜められた養殖用海水を撹拌することができる(特許文献2の段落[0009]参照)。
【0005】
特許文献2はさらに、養殖用海水として地下海水、海洋深層水を利用することを紹介している(文献2の段落[0001]参照)。
【0006】
特許文献3はさらに、円形状の養殖槽と水掻き羽根の回転によって藻体を効率よく撹拌する海藻類の陸上養殖方法が記載されている。さらに特許文献4ではサイズの大きい藻体をさらに効率よく撹拌する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-176866号公報
【特許文献2】特開2012-213351号公報
【特許文献3】特開2020-048414号公報
【特許文献4】特願2021-001162号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
長さ数cm以上もある海藻などの大型の藻体をポンド型の養殖槽等で撹拌する場合、長さ数μm~数10 μmの微細藻類を撹拌する場合には見られなかった様々な課題を克服する必要がある。本発明は藻体を撹拌する際に養殖槽内での藻体の分布に偏りが生じる問題を改善することを目的する。
微細藻類はあまりに小さいので養殖槽内では溶液又はコロイド溶液のように振る舞う。例えば、水の入った容器に墨汁を垂らした場合、墨汁が容器全体に行き渡るように、微細藻類も養殖槽内で溶液のように全体に広がり養殖槽内での分布に大きな偏りが生じることがない。少なくとも撹拌機で水を適宜撹拌しておけば十分である。
一方、本発明の対象となる海藻などの大型の藻体はその大きさや重さのために単に養殖槽内の水を撹拌機で撹拌しただけではうまく撹拌することができない。例えば、図29a、図29dでは藻体が養殖槽内の撹拌機の中心付近に集まっており養殖槽内での分布に大きな偏りが生じている。分布に偏りが生じると他の藻体の影に配置される藻体が増加し藻体全体の光の照射が均等にならず養殖効率が悪化する。
本発明者による特許文献3,4に記載の海藻類の陸上養殖装置はこれまでにない画期的なものであったが、海藻類のより一層効率のよい陸上での養殖が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の藻体の陸上養殖装置は、養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えており
前記養殖槽の直径が5m以上であり、
前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、
前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは3以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、
前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、
養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下である。
また、本発明の藻体の陸上養殖方法は、養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えており
前記養殖槽の直径が5m以上であり、
前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、
前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは3以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、
前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下である。
【発明の効果】
【0010】
養殖槽内での藻体の配置分布の偏りが抑制され海藻などの大型の藻体の一層効率的な陸上での養殖が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】養殖施設の一例(イラスト)
図2】養殖施設の一例(写真)
図3】直径20mの養殖槽(写真)
図4】養殖槽の平面形状及び内接円と直径の関係
図5】海藻類の陸上養殖方法の手順の一例を示す模式図。
図6】海藻類の陸上養殖方法の手順の別の一例を示す模式図。
図7】種苗を生産する工程を示す模式図。
図8】(a)は直径1メートルの養殖槽を用いた第1段階の養殖工程、(b)は直径2メートルの養殖槽を用いた第2段階の養殖工程、(c)は直径5メートルの養殖槽を用いた第3段階の養殖工程、(d)は直径10メートルの養殖槽を用いた第4段階の養殖工程をそれぞれ示す模式図。
図9】種々の長さに成長した実際の藻体の写真
図10】攪拌機を示す平面図。
図11図10の撹拌機の側面図。
図12】攪拌機を示す平面図
図13図11の撹拌機の側面図
図14図10の撹拌機においてアームにパドルがない例
図15図12の撹拌機においてアームにパドルがない例
図16】直径20mの養殖槽の写真
図17】直径20mの養殖槽の写真
図18】直径20mの養殖槽の撹拌アームの補強
図19a】水掻き羽根の回転中心と養殖槽との関係
図19b】水掻き羽根の回転中心と養殖槽との関係
図20a】水掻き羽根の回転中心と養殖槽との関係(水流付)
図20b】水掻き羽根の回転中心と養殖槽との関係(水流付)
図21】水掻き羽根のパドル先端の軌跡と養殖槽との関係
図22】水掻き羽根のパドル先端の軌跡と養殖槽との関係
図23】本発明の好適状況
図24】撹拌機を2点で固定するイラスト
図25】撹拌機を3点で固定するイラスト
図26】アームが1本の撹拌機の例
図27】アームが2本の撹拌機の例
図28a】本発明の概略図
図28b】本発明の概略図
図29a】本発明の比較例の写真
図29b】本発明の実施例の写真
図29c】本発明の実施例の写真
図29d】本発明の比較例の写真(写真中央の養殖槽)
図29e】本発明の実施例の写真(写真中央の養殖槽)
図29f】本発明の実施例の写真(写真中央の養殖槽)
図29g】本発明の実施例の写真(写真中央の養殖槽)
図29h】本発明の実施例の写真(写真中央の養殖槽)
図29i】本発明の実施例の写真(写真中央の養殖槽)
図29j】本発明の実施例の写真(写真中央の養殖槽)
図30a】本発明の概略図
図30b】本発明の概略図
図31】本発明の概略図
図32a】本発明の概略図
図32b】本発明の概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は養殖槽の藻体を効率よく撹拌するためには、養殖槽底面とパドル底部との間隔を適切な距離に保つことが重要であることを新たに見出した。本発明の特徴を説明する前に、まずは本発明の背景(バリエーション)となる養殖施設、養殖槽、養殖システム、陸上養殖方法の説明を行う。その後に本発明の特徴を説明する。
<1.本発明の背景(バリエーション)>
[養殖施設]
[養殖槽]
[養殖システム]
[陸上養殖方法]
<1.種苗の生産>
<2.種苗の放出>
<3.種苗の育成>
(各段階の養殖槽)
(藻体の長さ)
<4.攪拌機の設置>
(1)攪拌機の構造
(第1の撹拌機)
(第2の撹拌機)
(第3の撹拌機/第4の撹拌機)
(2)撹拌機の設置位置1
(3)撹拌機の設置位置2
(4)攪拌機の投入と位置固定
<2.本発明の特徴>
【0013】
<1.本発明の背景(バリエーション)>
[養殖施設]
図1に示すように、本実施の形態の養殖施設11は、海12に隣接する沿岸13に設置され、複数個の陸上養殖装置101を備えている。個々の陸上養殖装置101は、海藻の種苗31(藻体)の培養に用いる養殖用海水51(養殖用水)を収容する養殖槽111を主体としており、大きさの異なる複数の養殖槽111を備えている。太陽光による陸上養殖の例である。
養殖施設11中、図1中に示す左側の九つが直径10メートル、これに隣接する一列分と右側の一つが直径5メートル、右側に一列七個並んでいるのが直径2メートル、そしてその向こうで二列八個並んでいるのが直径1メートルの養殖槽111である。説明の便宜上、直径1メートルの養殖槽111を養殖槽111a、直径2メートルの養殖槽111を養殖槽111b、直径5メートルの養殖槽111を養殖槽111c、直径10メートルの養殖槽111を養殖槽111dと呼ぶ。
図2は実際の養殖施設の写真である。手前の一番大きい養殖槽は直径10メートルである。本発明はさらに図3のような直径20メートル以上の養殖槽を備えてもよい。
【0014】
また、養殖槽の大きさは、直径1,2,5,10及び20メートルに限らず任意の大きさを選択することができる。
例えば、直径1メートル、2メートル、5メートル、8メートル、10メートル、12メートル、13メートル、14メートル、15メートル、16メートル、18メートル、20メートル、22メートル、24メートル、25メートル、26メートル、28メートル、30メートル、35メートル、40メートルなど様々なタイプの養殖槽から適宜複数タイプ(例:4~6タイプ)の養殖槽を選択することができる。
【0015】
[養殖槽]
養殖槽の内壁の形状は撹拌機の水掻き羽根が水平面内で水面に沿って回転することや、藻体の撹拌効率、制作容易性、強度、コストを考えると平面視(上からみた形状)で円形状であることが望ましいが、円形状に近い形状であれば円形状でなくても構わない。
例えば、多角形でもかまわない。10角形以上であればほぼ円形状とみなせるが5角形以上でも構わない。例えば、楕円でも構わない。楕円の場合は扁平率0.4以下が望ましい。より望ましくは扁平率0.2以下、より望ましくは扁平率0.1以下である。
本発明で略円形状の養殖槽とはこれらの円形状、多角形、楕円形状だけでなく、円形状、多角形、楕円形状から多少のゆがみや凹凸を設けた形状を含む。養殖槽の製造プロセスや野外での経年劣化を鑑みれば多少のゆがみや凹凸が想定される。
本発明の養殖槽の直径とは養殖槽の内壁の平面視の形状に内接する最大の内接円の直径と定義する。図4に円形状、楕円形状、五角形状、十角形状の養殖槽の平面形状及び内接円と直径との関係を示す。
また本発明で養殖槽の中心とは養殖槽の内壁の平面形状の幾何中心と定義する。
【0016】
[養殖システム]
図5に示すように、本実施の形態の陸上養殖装置101を用いた養殖システムは、海12に隣接する沿岸13に設置されているという地の利を生かし、清浄な地下海水を養殖用海水51として利用する。つまり地下20メートル程度の地下海水を取水し、養殖用海水51として養殖槽111に注入する。養殖用海水51の注入は、給水口112から行う。
【0017】
地下海水は気温に対する依存性が少なく、年間を通じて20℃前後の水温に保たれる。この温度は、海藻の養殖に適した温度である。これに加えて地下海水は、種苗31の生育に必要な栄養を豊富に含んでいることがある。
【0018】
養殖槽111内に満たされた養殖用海水の水深は600mm以下であることが望ましい。より好ましくは500mm以下又は400mm以下である。水深が深すぎると水中の藻体(種苗)に効率的に光照射ができなくなる。また、養殖槽の底面とパドル底部の距離を本発明で規定する所定の範囲にするのが困難になる。一方、浅すぎると養殖効率が悪くなるので最低でも50mm以上は必要である。
【0019】
水深の設定は、排水口113の高さによって行われる。例えば水深500~600mmの位置に排水口113を設けておくことで、さらに供給される養殖用海水51は排水口113から外部に流され、養殖槽111内の水深は500~600mmに保たれる。また潅水のため養殖槽は傾斜させて設置してもよい。
【0020】
別の実施の形態としては、図6に示すように、清浄な地下海水(又は水)を一旦魚介類や甲殻類などの陸上養殖に利用し、その排水を養殖用海水51(養殖用水)として用いるようにしてもよい。これによって栄養豊富な養殖用海水51を得ることができる。
【0021】
[陸上養殖方法]
本実施の形態の陸上養殖方法は、次の各工程によって実行される。
<1.種苗の生産>
図7に示すように、種苗31を生産するには、まず海12から母藻32を採取し、母藻32から胞子33を放出させる。そして胞子33又は胞子33が発芽した発芽体(図示せず)を集塊化させ、これを種苗31(藻体)とする。胞子33又は胞子33が発芽した発芽体の集塊化は、例えば特許文献1に開示されている方法によって実施可能である。この方法は、海藻の胞子を1cm2あたり104個以上の高密度で平板上に播種して培養し、複数の胞子が連結した胞子集塊、もしくはそれら胞子が発芽した発芽体が絡み合った発芽体集塊を形成し、その後胞子集塊又は発芽体集塊を平板からはがして種苗とする。
【0022】
<2.種苗の放出>
そこで本実施の形態の養殖システムは、こうして得た種苗31を養殖槽111に収容された養殖用海水51に放つ。種苗31は、養殖用海水51内で生育する。
【0023】
このとき種苗31の生育に必要なことは、種苗31に対する均等な光照射及び酸素供給である。本実施の形態は、これらを攪拌機201によって実現している。これについては後述する。
【0024】
<3.種苗の育成>
(各段階の養殖槽)
種苗31は、4~5日程度の期間で5倍ぐらいの大きさに成長する。そこで図8(a)~(d)に示すように、種苗31の成長に合わせて養殖槽111の大きさを段階的に大きくしていく。図8では直径10メートルの養殖槽までしか記載がないが、さらに、11メートル、12メートル、14メートル、15メートル、16メートル、18メートル、20メートルなどの養殖槽を使用してもよい。例えば図3は直径20メートルの養殖槽の実際の写真である。さらには直径25メートルの養殖槽又は直径30メートルの養殖槽を使用してもよい。所定の藻体の育成が完了したところで藻体を養殖槽から運び出す。
【0025】
ある段階からつぎの段階に移行するタイミングは、一週間程度である。つまりある段階の養殖工程を実施し、一週間経過したら次の段階の養殖工程に進む。
【0026】
図8(a)に示すように、第1段階の養殖工程では、直径1メートル、0.8m2の養殖槽111aを使用してもよい。このときには攪拌機201は用いず、例えばエアポンプ(図示せず)によって養殖用海水51を撹拌する。
【0027】
図8(b)に示すように、第2段階の養殖工程では、直径2メートル、3.1m2の養殖槽111bを使用してもよい。このときには攪拌機201は用いず、例えばエアポンプ(図示せず)によって養殖用海水51を撹拌する。
【0028】
図8(c)に示すように、第3段階の養殖工程では、直径5メートル、19.6m2の養殖槽111cを使用してもよい。養殖用海水51の撹拌は、攪拌機201によって行う。
【0029】
図8(d)に示すように、第4段階の養殖工程では、直径10メートル、78.5m2の養殖槽111dを使用してもよい。養殖用海水51の撹拌は、攪拌機201によって行う。
【0030】
図3に示すように、第5段階の養殖工程では、直径20メートル、314.2m2の養殖槽111dを使用してもよい。養殖用海水51の撹拌は、攪拌機201によって行う。直径20メートルの養殖槽は直径10メートルの養殖槽の4倍の面積を有し、より一層効率的な藻体の陸上養殖が可能となる。
【0031】
(藻体の長さ)
図9に本発明で養殖されている藻体の実際の写真を示す。上から長さ約5mmの藻体、長さ約13mmの藻体、長さ約60mmの藻体、長さ約150mmの藻体、長さ約320mmの藻体、長さ約680mmの藻体である。
この約5mmの藻体は室内ビーカーで養殖されていた。この約13mmの藻体は直径1mの養殖槽で養殖されていた。この約60mmの藻体は直径2mの養殖槽で養殖されていた。この約150mmの藻体は直径5mの養殖槽で養殖されていた。この約320mmの藻体は直径10mの養殖槽で養殖されていた。この約680mmの藻体は直径20mの養殖槽で養殖されていた。
【0032】
本発明のような略円形状の養殖槽と撹拌機を用いた藻体の陸上養殖では養殖槽の大きさに応じて養殖に適した藻体の長さがある。室内ビーカーでは長さ約10mm~20mmの藻体の養殖に適している。例えば、直径2m未満の養殖槽では長さ約30mm以下の藻体の養殖に適している。直径5m未満の養殖槽では長さ約50mm以下の藻体の養殖に適している。直径5m以上の養殖槽では長さ約50mm以上の藻体の養殖に適している。直径20m以上の養殖槽では長さ約200mm以上の藻体の養殖に適している。直径30m以上の養殖槽では長さ約500mm以上の藻体の養殖に適している。
【0033】
<4.攪拌機の設置>
前述したとおり、第3段階から先の養殖工程では、養殖用海水51の撹拌を攪拌機201によって行う(図8(c)(d)及び図3参照)。そこで第3段階から先の養殖工程では、養殖槽111に収容されている養殖用海水51内に攪拌機201を設置する。なお、養殖槽に配置する撹拌機は養殖槽の大きさなどに応じて異なるものを用いてもよい。
【0034】
本発明の撹拌機は、水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機であって、水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは1以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられている。このような撹拌機の基本構造は本発明の発明者によってなされた既存の技術を利用できる(例えば、特願2018-177782号、特願2021-001162)。以下に一例を示す。
【0035】
(第1の撹拌機)
例えば、図10及び図11は、攪拌機201の一例である。この攪拌機201は、円筒形状をした下部ハウジング211と上部ハウジング212との間にバランサ231を回転自在に取り付け、バランサ231に水掻き羽根251を取り付けた構造のものである。
下部ハウジング211は、水掻き羽根251の駆動源となるモータ(図示せず)を内蔵している。上部ハウジング212は、モータの駆動回路を内蔵している。モータは、回転軸を垂直方向に向けて下部ハウジング211内に収容され、回転軸をバランサ231に連結している。モータの回転は、減速機構によって減速されてバランサ231に伝えられ、バランサ231を介して水掻き羽根251に伝達される。
なお、本発明の水掻き羽根251は、1回転当たり10秒~150秒程度の回転速度で回転させることが適当である。なおこの回転速度はこれに限らず本発明の目的や意義の範囲において適宜選択することができる。例えば、1回転当たり10秒~20秒、15秒~25秒、20秒~30秒、25秒~35秒、30秒~40秒、35秒~45秒、40秒~50秒、45秒~55秒、50秒~60秒、60秒~70秒、70秒~80秒、80秒~100秒、100秒~120秒又は120秒~150秒などである。さらには、連続する範囲でなくても構わない。例えばこれらの数値範囲を任意に組み合わせてもよい。
【0036】
各部は図示しないシールで密封されている。シールは、下部ハウジング211に収納されたモータと、上部ハウジング212に収納された駆動回路とを水密状態に保つ。バランサ231には、120度の角度で三又に分岐した分岐管232が連結している。水掻き羽根251は、三つの分岐管232のそれぞれの先端部分から放射方向に延びるアーム252を備え、アーム252の下端から下方に向けてパドル253を延ばしている。したがって水掻き羽根251はバランサ231の回転と共に回転し、流体(養殖用水)を撹拌する。図8(c)、図8(d)、図3に示すように水掻き羽根は水平面内において水面に沿って回転する。
【0037】
アーム252は水掻き羽根251が水中に沈み込まないようその浮力により水掻き羽全体を水面に維持している(図2図3参照)。アームの素材は軽さと丈夫さを備えるものであれば特に限定はないが塩ビ管が適当である。
【0038】
バランサ231はまた、水に対して浮力を生ずる。バランサ231の浮力によって、攪拌機201は水上で浮遊することができる。なお、以下の実施例では水上に浮遊する撹拌機の例を示すが、本発明の撹拌機はその水掻き羽根が水面にそって回転するものであれば足り、水面に浮遊していなくても構わない。例えば、養殖槽内の設置台に設置されていてもよい。この場合、撹拌機をフロートなどで水面に浮かせる必要がなくなるため、フロート下面などの清掃が不要になり好適である。
また、以下の実施例では撹拌機のアームは主に3本のものを示すが特に明記しない限り3本に限定されない。撹拌機を水面に浮かばせる場合、アームは3本以上の方がバランスを取りやすく好適であるが、撹拌機を養殖槽内の設置台などにしっかり固定できる場合などはその限りではない。例えば、図26図27のようにアームは1本でも2本でも構わない。なお、図26図27は水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心に位置するが、水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心に位置していなくても構わない。
【0039】
攪拌機201は、上部ハウジング212から水平方向に二本の連結ロッド271を延ばしている。これらの連結ロッド271は、攪拌機201を位置固定するためのロープ301を結び付けるためのもので、先端部にリング272を有している。ロープ301は、リング272に結び付けることができる。
【0040】
このような、水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機による養殖槽の撹拌は、直径が5メートル以上の養殖槽を用いる場合に好適である。
【0041】
例えば、図12及び図13も、攪拌機201の例である。この攪拌機201は、基本的には上述の攪拌機201と同じ構造を有している。相違するのは、パドル253の角度と数である。
【0042】
パドル253は、放射方向に対して傾斜した角度で、個々のアーム252に二つずつ取り付けられている。放射方向に対して傾斜した角度は、例えば45度である。もっとも45度でなければならないわけではなく、他の角度であってもよい。
【0043】
上述のいずれの攪拌機201でも、駆動回路によってモータを起動させれば水掻き羽根251が回転する。水掻き羽根251は、パドル253の作用によって水面に沿って回転し縦方向と横方向とに水流を作り出すように養殖用海水51を撹拌する。
【0044】
(第2の撹拌機)
1つのアームに設置されているパドルの幅(養殖槽の径方向)は養殖槽の半径の20%以上90%以下であることが望ましい。
図31ように1つのアームに複数のパドルが設置されていてもよい。その場合、パドルの幅とは各パドルの幅の合計とする。
パドルが図32a、図32bようにアームの経方向に対して斜めに配置されている場合、パドルの幅とはアームの回転平面においてアームの径方向と垂直な方向からパドルを見た場合の幅と定義する。
【0045】
(第3の撹拌機/第4の撹拌機):パドルなし
図14は、攪拌機201の3つ目の実施の形態(第3の撹拌機)を示している。図10図11の第1の撹拌機の改良であり同一の符号は同一の構成要素である。図15は、攪拌機201の4つ目の実施の形態(第4の撹拌機)を示している。図12図13の第2の撹拌機の改良であり同一の符号は同一の構成要素である。
第1の撹拌機及び第2の撹拌機では、水掻き羽根251の3つのアーム252のそれぞれにパドル253が備え付けられているが、第3の撹拌機及び第4の撹拌機では1つのアームにのみパドル253が備え付けられている。
【0046】
図16は第3の撹拌機の実際の写真である。手前のアーム(材質:塩ビ管)はアームに沿ってパドルが設けられている。奥のアーム(図14の左側のアーム)は手前のアームのようにはパドルが設けられていないが、養殖槽の水を抜いた場合に自立できるようにアームの下側2箇所に自立用の板が設けられている。その拡大図が図17である。
【0047】
第3の撹拌機及び第4の撹拌機は、直径11メートル以上の養殖槽に、より好ましくは直径12メートル以上の養殖槽に、より好ましくは直径16メートル以上の養殖槽に、さらに好ましくは直径20メートル以上の養殖槽に特に好適である。図3図16図17は直径20メートルの養殖槽が用いられている。
【0048】
養殖槽が大きくなるにつれて撹拌機の水掻き羽根251やアームも大きくする必要がある。従来のようにすべてのアームにパドルが設けられていると撹拌抵抗がとても大きくなる。大きな撹拌抵抗でも水掻き羽根251を回転させるためには駆動力の大きなモータを用いる必要がある。しかし、駆動力の大きなモータはサイズも大きいので養殖槽内に設置した場合、養殖に使える空間が減少し非効率になる。
【0049】
そこで第3の撹拌機及び第4の撹拌機のようにすべてのアームにパドルを設けるのではなく、一部のアームにのみパドルを設けることで撹拌抵抗を抑制し、小型のモータでも十分に水掻き羽根251を回転できるようにしてもよい。図14図15は1つのアームのみにパドルを設けた例である。この場合、パドルが設けられない他の2つのアームは水掻き羽根(撹拌機)のバランスを確保する役割となる。パドルを設けないアームは1つだけにして2つのアームにパドルを設けることでも撹拌抵抗の抑制に効果がある。
より一般的に表現すると、N個以上のアームを有する撹拌機において、1以上N―1個以下のアームにのみ養殖用水を攪拌するパドルが設けられていることが望ましい。例えば、3本のアームを有する撹拌機においては、1又は2個のアームにパドルが設けられている。4本のアームを有する撹拌機においては、1,2又は3個のアームにパドルが設けられている。
【0050】
撹拌抵抗が大きくなるとアームの負荷も大きくなるため折れやすくなる。折れないようにアームの厚さを大きくすると水掻き羽根全体が重くなり水面に維持できなくなる。そのため大型な養殖槽(直径15メートル以上の養殖槽)に用いる撹拌機のアームは一層軽くて強度の高いものが求められている。例えば、HIVP管(肉厚耐衝撃性塩ビ管)やVU管 (肉薄塩ビ管)が適当である。軽量だが強度の少ない塩ビ管を使用する場合は、強度不足を補うため、アーム基部にステンレス素材でハシゴ状の補強を用いる事により破損を防止し、軽量で浮力の大きい強靭な撹拌アームを作成することが可能となる。図18はアーム基部にステンレス素材でハシゴ状の補強を行っている実例である。
【0051】
(2)撹拌機の設置位置1
撹拌機は図19aのように水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心になるように配置することができるが、図19bのように水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心から所定距離離れたところに配置することもできる。その理由を以下に説明する。ここで所定距離とは養殖槽の直径の7%から25%の範囲である。
【0052】
海藻は光合成をおこない生長する。光合成の際に排出される酸素が藻体の表面に付着し、これが浮力となる。自然界では仮根部が石などに付着することで、藻体自体が水面に浮き上がることはほとんどないが、胞子集塊化技術による浮遊培養など養殖槽による陸上養殖を行う場合は藻体が浮き上がるため、藻体にダメージを与えない範囲で、強い撹拌力等で物理的に表面に付着している酸素を落とし浮力を落とす必要がある。表層に浮き上がったままの生育を続けることで、水槽内のアオノリに均等に光を与えることができないだけでなく、強い光が当たり続け温度が上がり、藻体の成長の阻害や成熟の現象へとつながる。
【0053】
撹拌機(水掻き羽根)の回転中心を養殖槽の中心に設定した場合、水槽の中心と水掻き羽根の中心が重なり水槽中心の水流が安定し撹拌できない。そのため、藻体が均一に分散されず、撹拌・混合されていない状態になることが多い。それに対し、撹拌機(水掻き羽根)を直径に対して7%~25%の範囲で養殖槽の中心からずらすことが望ましい。水槽の中心と攪拌機の中心がずれることにより、養殖槽内で乱流が発生し、海藻(藻体)を上下左右全体に撹拌・混合することができる。
【0054】
図20は養殖槽の中心に撹拌機(水掻き羽根)の回転中心を配置した場合(図20a)と配置しなかった場合(図20b)の養殖槽内の水流をイラストで表したものである。図20aでは水掻き羽根の回転により主に規則正しい水流が形成される。図20bでは回転流だけでなく撹拌機(水掻き羽根)の回転中心を養殖槽の中心からずらしたことにより乱流が発生する。この乱流により海藻(藻体)をさらに上下左右全体に撹拌・混合することができる。
【0055】
撹拌機の水掻き羽根の回転中心を養殖槽の中心からずらして攪拌する場合、水槽の設置勾配を設けるとさらに好適である。例えば、養殖槽の底部をすり鉢状に水槽中心が最も深い水深となるようにした場合、中心部に海藻が集まりやすく藻体の攪拌に不適当である。一方、養殖槽の底面を水平面に対して少し傾けることでより一層養殖槽内で乱流が発生し、海藻(藻体)を上下左右全体に撹拌・混合することができる。
傾ける角度は好ましくは0.5度以上でありさらに好ましくは1度以上である。角度が大きすぎるとかえって藻体の撹拌が不均一になり撹拌機の設置も難易度が上がるためせいぜい3度以下が望ましい。より好ましくは2度以下である。
【0056】
(3)撹拌機の設置位置2
撹拌機の水掻き羽根のパドルの先端(水掻き羽根の回転中心から一番遠い箇所)は、養殖槽の内壁から4m以内であることが望ましい。すなわち、水掻き羽根の回転時にパドルの先端は養殖槽の内壁から4m以内の場所を通過するよう配置されていることが望ましい。より好ましくは3m以内である。さらに好ましくは2m以内である。パドルの先端が養殖槽の内壁から離れすぎているとパドル先端と養殖槽内壁の間に藻体が滞留しがちになるが、4m以内(より好ましくは3m以内)であれば藻体の滞留を大幅に抑制することができる。
【0057】
図21は水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心になるように撹拌機が配置されている。図中の中心から3つの方向に延びる3つのアームにはパドルが設けられている。ここでアームの先端にパドルがアームの長さ方向に設けられている。この図では養殖槽の内側に水掻き羽根が回転した際のパドル先端の軌跡が描かれている。養殖槽内壁から4mの場所を示す点線と養殖槽内壁とで囲まれる領域に、パドルの先端の軌跡が配置されている。このように配置することでパドルと殖槽内壁の間に藻体が滞留することを抑制することができる。
【0058】
図22は水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心からずれて配置されている。この場合は、パドル先端の軌跡のすべての部分が養殖槽内壁から4mの場所を示す点線と養殖槽内壁とで囲まれる領域に存在するとは限らない。例えば、図22のパドル先端の軌跡のうち実線部分は養殖槽内壁から4mを超えた場所に位置する。パドルの先端部が回転する際に描く軌跡の50%以上が養殖槽内壁から4mの場所に位置すれば殖槽内壁の間に藻体が滞留することを抑制することができる。より好ましくは60%以上である。
図3の写真の一番手前の養殖槽はパドルの先端部が回転する際に描く軌跡の少なくとも50%以上は養殖槽の内壁から4m以内の場所に位置している。
【0059】
また、上記のとおり水掻き羽根の回転中心は養殖槽の中心からずれている方が望ましいため、パドル先端の軌跡のすべての部分が養殖槽内壁から4m以内であることが望ましいとは限らない。水掻き羽根の回転中心は養殖槽の中心からずれている方が是とする場合、パドルの先端部が回転する際に描く軌跡の95%以下が養殖槽内壁から4mの場所に位置することが望ましい。そうすると、パドルの先端部が回転する際に描く軌跡の50%以上95%以下が養殖槽内壁から4mの場所に位置することが望ましい。
【0060】
(4)攪拌機の投入と位置固定
攪拌機201は、養殖槽111に収容した養殖用海水51内に投入される。養殖槽の大きさが直径20m以上になると水面に浮遊する撹拌機の水掻き羽根がその分大型になるため水面で流されやすくなるため工夫が必要である。
例えば、直径が15m以下の養殖槽では図2図24のように2点の杭からロープを伸ばすことで攪拌機の位置固定をすることができたが直径20m以上の養殖槽となると、杭への抵抗が強いため図25のように3点の杭からロープを固定する必要がある。
また、直径20m以上の養殖槽に用いる攪拌機は、強い水流を発生させる必要があるためロープに与える負荷も大きい。そのため、強度が強く、伸び縮みしないダイニーマロープを用いている。
【0061】
<2.本発明の特徴>
本発明は養殖槽の底面とパドル底部の距離というこれまで特に考慮されていなかった概念(距離)に着目し、当該距離を適切に設定することでより効率よく種苗を撹拌することを特徴としている。養殖槽の底面とパドル底部の距離は50mm以上250mm以下が望ましい、より好ましくは50mm以上200mm以下である。
【0062】
図28aは本発明の概略図である。養殖槽に水掻き羽根が浮遊している。養殖槽の概ね中央に水掻き羽根制御部及びそこから伸びるアームが養殖槽の水面に浮遊している。アームには養殖槽を撹拌するためのパドルがアームの延伸方向に沿って設けられている。パドルは図28bのようにアームの延伸方向の長さである「バドル横幅」と水深方向の長さである「バドル縦幅」で定義される。パドルの養殖槽底面に一番近い側の片をパドル底部と定義する。図28a、図28bではパドルが長方形の形状としておりその底辺がパドル底部に相当する。本発明は養殖槽底面とパドル底部との間隔(距離)を50mm以上250mm以下であることを特徴とする。このように養殖槽底面とパドル底部との間隔を狭く設定することで養殖槽底面とパドル底部の間にある藻体がパドルの推進方向から養殖槽の内壁の方向に強く撹拌される。微細藻類などの撹拌と異なり大型の藻体の撹拌において養殖槽底面とパドル底部の間が広すぎるとパドルで海水を撹拌できても藻体を十分に撹拌することができない。養殖槽底面とパドル底部の間の距離を50mm以上250mm以下と設定することで、養殖水槽中の藻体を養殖槽内において薄く延ばすように攪拌することが可能になり養殖槽内での攪拌ムラ(養殖槽内での藻体の偏り)が抑制される。
【0063】
実際の測定データを用いて本発明の特徴を説明する。図29a、図29b、図29cはいずれも直径24mの円形の養殖槽で長さ200mm程度の藻体の撹拌の様子を示すものである。パドルの横幅はいずれも10mである。すなわち、パドルの横幅は養殖槽の半径の83%である。パドル縦幅は20cmである。養殖槽底面とパドル底部の間の距離は、図29aが350mmであり、図29bが200mmであり、図29cが50mmである。それ以外の条件は図29a、図29b、図29cはいずれも同じである。例えば、いずれも同じ藻体を用いて撹拌している。サイズの大きい養殖槽で海藻を撹拌する場合、養殖槽の水深だけでなく養殖槽底面とパドル底部との間隔を適切に設定することが重要である。
【0064】
図29aでは養殖槽底面とパドル底部との間隔が広すぎるために、養殖槽を上からみた場合の平面視において、養殖槽内で藻体の位置に偏りが生じており効率的に攪拌できていないことがわかる。一方で、図29b、図29cでは養殖槽底面とパドル底部との間隔がそれぞれ、200mm、50mmと適当であるため養殖槽内での藻体の配置分布が図29aのようには偏っていない。平面視において海藻の配置の偏りが大きくなると海藻が他の海藻の下に回り込む不都合が増加する。海藻が他の海藻の下に回り込んでしまうと光の照射量が減少してしまい海藻の育成速度が遅くなる。その結果、養殖槽内の海藻の育成速度のばらつきが増加して効率的な養殖が困難となってしまう。図29b、図29cのように養殖槽内での海藻の配置の偏りが抑制されていると、各海藻への光の照射量のばらつきが小さくなるので、養殖槽内の海藻の育成速度のばらつきが抑制され効率的な養殖が可能となる。
【0065】
図29d、図29e、図29fはいずれも直径5mの円形の養殖槽で長さ50mm程度の藻体の撹拌の様子を示すものである。パドルの横幅はいずれも1mである。すなわち、パドルの横幅は養殖槽の半径の40%である。養殖槽底面とパドル底部の間の距離は、図29dが300mmであり、図29eが200mmであり、図29fが100mmである。それ以外の条件は図29d、図29e、図29fはいずれも同じである。例えば、いずれも同じ藻体を用いて撹拌している。
図29dでは養殖槽底面とパドル底部との間隔が広いために、養殖槽を上からみた場合の平面視において、養殖槽内で藻体の位置に偏りが生じており効率的に攪拌できていないことがわかる。一方で、図29e、図29fでは養殖槽底面とパドル底部との間隔がそれぞれ、200mm、100mmであるため養殖槽内での藻体の配置分布が図29dより大きく改善されている。
【0066】
本発明はさまざまな大きさの養殖槽に適用できる。図29b、図29cの測定データのように直径11メートル以上の大型の養殖槽では特に顕著な効果を奏するが、図29e、図29fのように直径5メートル以上11メートル未満の養殖槽においても顕著な効果を奏する。
【0067】
水掻き羽根の回転中心を前記養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置するとさらに養殖槽内での藻体の平面視における配置分布の偏りが抑制される。具体的にはこの所定距離を養殖槽の直径の7%以上25%以下の距離することで効果が顕著となる。図29g~図29jは水掻き羽根の回転中心を養殖槽の中心から所定距離離れた状態で養殖槽中も藻体を撹拌している際の実測の写真である。
【0068】
図29g、図29hはいずれも養殖槽の直径が12mで、養殖槽の底面とパドル底部の距離は200mmである。そして、養殖槽中の藻体の長さは概ね10~15cmであり、パドルの横幅は養殖槽の半径の53%である。そして、水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置されて、図29gではこの所定距離が養殖槽の直径の7%であり、図29hではこの所定距離が養殖槽の直径の15%である。
図29i、図29jはいずれも養殖槽の直径が12mで、養殖槽の底面とパドル底部の距離は250mmである。そして、養殖槽中の藻体の長さは概ね20~25cmであり、パドルの横幅は養殖槽の半径の53%である。そして、水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置されて、図29iではこの所定距離が養殖槽の直径の7%であり、図29jではこの所定距離が養殖槽の直径の15%である。
図29g~図29iの実施例はいずれも図29a、図29dなどの比較例と比較して養殖槽内での藻体の配置分布の偏りがより一層抑制されている。
養殖槽の底面とパドル底部の距離を本発明のとおり従来例と比較して狭くすることで水掻き羽根のバドルによる撹拌力を高め、その上で水掻き羽根の回転中心を養殖槽の中心から所定距離ずらすことで相乗的に撹拌力が高められる。そうすることで図29g~図29iのとおり養殖槽内での藻体の配置分布の偏りがより一層抑制されるのである。
【0069】
本発明は様々な大きさの藻体に適用できるが、特にサイズの大きい藻体、具体的には長さが50mm以上の藻体の養殖において効果が顕著である。さらに好ましくは長さが100mm以上の藻体の養殖において効果が顕著である。サイズの大きい藻体はその重さのために単に養殖槽中の水をかき混ぜただけでは配置に偏りが生じやすく、養殖槽での攪拌に偏りがあると育成速度にばらつきが生じ生産効率が悪化するからである。
本発明において「養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み」とは養殖槽内の一定数の藻体の長さが50mm以上であれば足り、すべての藻体の長さが50mm以上である必要はない。好ましくは、養殖槽内の藻体の30%以上が50mm以上の長さの藻体であることが望ましい。さらに望ましくは養殖槽内の藻体の40%以上であり、さらに望ましくは50%以上である。
【0070】
本発明のパドル横幅(パドルの横幅)は任意であるが所定の大きさであればより効果的である。本発明のパドル横幅は養殖槽の半径に対して20%以上90%以下であることが望ましい。より好ましくは30%以上90%以下であり、より好ましくは30%以上85%以下である。例えば養殖槽の半径が10mであればパドル横幅は2m以上9m以下であることが望ましい。あまりパドル横幅が小さすぎると本発明の特徴である養殖槽底面とパドル底部との間隔を狭くした部分が相対的に小さくなり本発明の効果が限定的となる。一方でパドル横幅が大きすぎると水掻き羽根を回転させるために大きな駆動力が必要になるのでパドル横幅は必要以上に長くすることは避けたい。
【0071】
本発明のパドル縦幅は本発明で規定される養殖槽底面とパドル底部との間隔の数値範囲を満たすことを前提に任意に設定されるが所定の大きさであればより効果的である。具体的にはパドル縦幅は少なくとも50mm以上200mm以下が好ましい。より好ましくは50mm以上150mm以下である。あまりパドル縦幅が小さすぎると本発明の特徴である養殖槽底面とパドル底部との間隔を狭くした部分が相対的に小さくなり本発明の効果が限定的となる。一方でパドル縦幅が大きすぎると水掻き羽根を回転させるために大きな駆動力が必要になる問題がある。
具体的にはさらに水深に応じて決定する必要がある。例えば養殖槽の水深が400mmで養殖槽底面とパドル底部との間隔を50mm以上250mm以下とするためにはパドル縦幅は150mm以上250mm以下とする必要がある。より好ましくは150mm以上200mm以下である。
なおこの見積もりは水掻き羽根のアームが養殖槽の水面に浮いていてパドルがちょうど水面から下方に配置されている場合の計算である。アームが水面から少し下側に潜り込んでいるなどパドルが水面から下方に配置されていない場合はパドルと水面との距離に応じて調整される。例えば、パドルが水面から3cm潜り込んだ位置に配置されている場合、パドル縦幅は147mm以上247mm以下とする必要がある。
【0072】
水掻き羽根の回転速度は、養殖槽底面とパドル底部との間隔、養殖槽の大きさ及び養殖する藻体の大きさなどに応じて適宜選択される。養殖槽底面とパドル底部の間の距離が適切に設定されていない場合では、水掻き羽根の回転速度をうまく設定することで養殖槽内での藻体の分布の偏りをある程度抑制することが可能である。しかし、本発明のように養殖槽底面とパドル底部の間の距離が適切に設定されていると、水掻き羽根の回転速度は概ね幅広く設定することができる。
水掻き羽根の回転速度は1回転当たり10秒~150秒程度の回転速度で回転させることが望ましい。特に大きな藻体を攪拌する場合はあまり早すぎると藻体の千切れが発生し一方であまり遅すぎると光合成した藻体の表面に付着した気泡を落とすことができず、藻体が浮き上がってしまい、攪拌効率や養殖効率が悪くなる。
【0073】
ここで、これまでに説明した本発明の好適状況を図23に示す。
さらに藻体の長さが50mm以上の藻体の養殖において効果が顕著である。さらにパドル横幅は養殖槽の半径に対して20%以上90%以下であることが望ましい。
【0074】
さらに本発明のバリエーションの例を示す。
パドルの表面形状は養殖槽を撹拌できるものであればどのような形状でも構わない。ここで表面形状とはアームの回転方向(及び水面)に対して垂直の面における形状を意味する。図28a,図28bでは表面形状が長方形であったが他の形状でも構わない。例えば図30a、図30bのように大きさが異なる長方形が組み合わされた形状や長方形と三角形が組み合わされた形状でも構わない。
本発明では「平均パドル縦幅=パドルの表面形状の面積/パドル横幅」
で定義される平均パドル線幅を定義する。
図30a、図30bのようにパドル形状が長方形ではない場合、図30a、図30bの右側図のようにパドル横幅と平均パドル縦幅で定義される仮想的な長方形(又は正方形)を定義し、その長方形の底部と養殖槽底面との距離を「養殖槽の底面とパドル底部の距離」と規定する。
【0075】
各アームに設けられるパドルは複数枚でも構わない。図31では1つのアームに3つのパドルが設けられている例を示す。この場合、各パドル横幅の合計をアームのパドル横幅とする。
【0076】
また、パドルは図12のようにアームの延伸方向に対して傾斜して設けられていてもよい。その場合、図33a、図33bに示すように、パドル表面をアームを含む鉛直平面に射影した形状においてパドル横幅を規定する。図33bのようにパドルが複数の場合は各パドル横幅の合計を各アームのパドル横幅を規定する。
【0077】
また、本発明は上記「1.本発明の背景(バリエーション)」で示したさまざまなバリエーションを適用することができる。
例えば、水掻き羽根は、1回転当たり例えば10秒~150秒程度の回転速度で回転させることができる。
例えば、撹拌機は図19aのように水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心になるように配置することができるが、図19b、図29g~図29jのように水掻き羽根の回転中心が養殖槽の中心から所定距離離れたところに配置することもできる。
例えば、水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びる1個以上のアームがあれば足りるが水掻きバネを水面に浮遊させる場合は3個又は4個以上のアームが好適である。
例えば、すべてのアームにパドルを設けるのではなく、一部のアームにのみパドルを設けることで撹拌抵抗を抑制し、小型のモータでも十分に水掻き羽根を回転できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
11 養殖施設
12 海
13 沿岸
31 種苗
32 母藻
51 養殖用海水
101 陸上養殖装置
111 養殖槽
111a 養殖槽(直径1メートルの養殖槽)
111b 養殖槽(直径2メートルの養殖槽)
111c 養殖槽(直径5メートルの養殖槽)
111d 養殖槽(直径10メートルの養殖槽)
112 給水口
113 排水口
201 攪拌機
211 下部ハウジング
212 上部ハウジング
231 バランサ
232 分岐管
251 水掻き羽根
252 アーム
253 パドル
271 連結ロッド
272 リング
301 ロープ
302 杭
G 地面


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19a
図19b
図20a
図20b
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28a
図28b
図29a
図29b
図29c
図29d
図29e
図29f
図29g
図29h
図29i
図29j
図30a
図30b
図31
図32a
図32b
【手続補正書】
【提出日】2023-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えた藻体の陸上養殖装置において、
前記養殖槽の直径が5m以上であり、
前記養殖槽の水深が100mm以上600mm以下であり
前記水掻き羽根の回転速度が1回転あたり10秒~150秒であり
前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、
前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは1以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、
前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする藻体の陸上養殖装置。
【請求項2】
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上200mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項3】
前記養殖槽の直径が11m以上であることを特長とする請求項1乃至2に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項4】
前記養殖槽の形状が略円形、多角形又は楕円形状であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項5】
前記水掻き羽根の回転中心が前記養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置されていて、前記所定距離が前記養殖槽の直径の7%以上25%以下の距離であることを特長とする請求項1乃至4に記載の藻体の陸上養殖装置。
【請求項6】
養殖用水を収容する養殖槽及び水面に沿って回転する水掻き羽根を有する撹拌機を備えた藻体の陸上養殖方法において、
前記養殖槽の直径が5m以上であり、
前記養殖槽の水深が100mm以上600mm以下であり
前記水掻き羽根の回転速度が1回転あたり10秒~150秒であり
前記養殖槽内に長さが50mm以上の藻体を含み、
前記水掻き羽根は回転中心から放射方向に延びるN個以上のアームを有し(ここで、Nは1以上の自然数)、前記アームには養殖用水を攪拌するパドルが設けられており、
前記パドルの横幅は養殖槽の半径の20%以上90%以下であり、
前記養殖槽の底面とパドル底部の距離が50mm以上250mm以下であることを特徴とする藻体の陸上養殖方法。
【請求項7】
前記水掻き羽根の回転中心が前記養殖槽の中心から所定距離離れている位置に配置されていて、前記所定距離が前記養殖槽の直径の7%以上25%以下の距離であることを特長とする請求項6に記載の藻体の陸上養殖方法。