(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122435
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】波浪画像認識利用方法、波浪画像認識利用プログラム、波浪画像認識利用システム、及び波浪画像認識操船シミュレータ
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20240902BHJP
G09B 9/06 20060101ALI20240902BHJP
G01W 1/08 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G09B9/06 A
G01W1/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029969
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岡 正義
(72)【発明者】
【氏名】馬 沖
(72)【発明者】
【氏名】小森山 祐輔
(57)【要約】
【課題】確度の高い波浪情報を導出する波浪画像認識利用方法、プログラム、システム、及びシミュレータを提供する。
【解決手段】波浪数値データを取得し数値シミュレーションにより波浪数値データと紐づけされた波浪シミュレーション画像を生成しビッグデータとして構築する波浪ビッグデータ構築ステップS1と、波浪シミュレーション画像を教師データとしてビッグデータを用いて類似の波浪画像を認識することを学習した推定モデルを構築する推定モデル構築ステップS2と、船舶の船上から波浪実画像を取得する波浪実画像取得ステップS3と、船舶の船速と針路を含む船舶関連情報を取得する船舶関連情報取得ステップS4と、波浪実画像を推定モデルに適用し、船舶関連情報の少なくとも船速と針路を用いて波浪実画像を補正して類似の波浪画像を認識する波浪画像認識ステップS5と、認識した類似の波浪画像に紐づけされた波浪数値データを含む波浪情報を導出する波浪情報導出ステップS6とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波浪画像を認識し利用する方法であって、
波浪数値データを取得し数値シミュレーションにより前記波浪数値データと紐づけされた波浪シミュレーション画像を生成しビッグデータとして構築する波浪ビッグデータ構築ステップと、
前記波浪シミュレーション画像を教師データとして前記ビッグデータを用いて類似の波浪画像を認識することを学習した推定モデルを構築する推定モデル構築ステップと、
船舶の船上から波浪実画像を取得する波浪実画像取得ステップと、
前記船舶の船速と針路を含む船舶関連情報を取得する船舶関連情報取得ステップと、
前記波浪実画像を前記推定モデルに適用し、前記船舶関連情報の少なくとも前記船速と前記針路を用いて前記波浪実画像を補正して前記類似の波浪画像を認識する波浪画像認識ステップと、
認識した前記類似の波浪画像に紐づけされた前記波浪数値データを含む波浪情報を導出する波浪情報導出ステップとを有することを特徴とする波浪画像認識利用方法。
【請求項2】
前記波浪シミュレーション画像及び前記波浪実画像は時系列画像であり、前記波浪数値データを含む前記波浪情報は時系列情報であることを特徴とする請求項1に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項3】
前記波浪シミュレーション画像及び前記波浪実画像は、位置情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項4】
複数の前記類似の波浪画像に紐づけされた複数の前記波浪数値データを補間して、前記波浪情報を導出することを特徴とする請求項1に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項5】
前記波浪数値データを含む前記波浪情報を、取得した波浪データベースのデータベース情報及び波浪予報の少なくとも一方と比較し、検証又は補完することによって、前記波浪数値データ、前記データベース情報、及び前記波浪予報のお互いの精度を向上することを特徴とする請求項1に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項6】
前記船舶関連情報として前記船舶の積載状態を含む船体情報を取得し、前記船体情報と前記波浪情報導出ステップで導出された前記波浪情報を前記船舶の波浪中応答関数に適用して船体応答シミュレーションを行い船体応答を導出する船体応答導出ステップを有することを特徴とする請求項1に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項7】
前記波浪数値データには、有義波高、平均波周期、及び代表波向を含むことを特徴とする請求項6に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項8】
前記船舶関連情報には、前記船舶の周囲の風情報を含み、前記波浪情報には処理された前記船速と前記針路を含むことを特徴とする請求項6に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項9】
前記船体情報として船体の加速度を含む前記船体応答を直接計測して取得し、前記船体応答シミュレーションの前記船体応答と比較した結果を、前記波浪情報導出ステップ、前記波浪中応答関数、及び前記船体情報の少なくともいずれか1つにフィードバックすることを特徴とする請求項6に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項10】
前記船体応答導出ステップで導出した前記船体応答に基づいて、船体から見た視覚情報を導出する視覚情報導出ステップを有することを特徴とする請求項6に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項11】
前記視覚情報を、タブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイ(HMD)を含む表示手段に表示することを特徴とする請求項10に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項12】
前記船体応答導出ステップで導出した前記船体応答に基づいて、船体の揺れ情報を導出する揺れ情報導出ステップを有することを特徴とする請求項6に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項13】
前記揺れ情報を、前記船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム(MP)、前記船舶の操舵輪、及び前記船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つに出力すること、又は前記揺れ情報を前記波浪情報と同時に表示手段に表示することを特徴とする請求項12に記載の波浪画像認識利用方法。
【請求項14】
波浪画像を認識し利用するプログラムであって、
コンピュータに、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の波浪画像認識利用方法における推定モデルを利用した波浪実画像取得ステップ、船舶関連情報取得ステップ、波浪画像認識ステップ、及び波浪情報導出ステップを実行させることを特徴とする波浪画像認識利用プログラム。
【請求項15】
前記コンピュータに、
請求項6に記載の波浪画像認識利用方法における船体応答導出ステップを実行させることを特徴とする請求項14に記載の波浪画像認識利用プログラム。
【請求項16】
前記コンピュータに、
請求項10に記載の波浪画像認識利用方法における視覚情報導出ステップを実行させることを特徴とする請求項15に記載の波浪画像認識利用プログラム。
【請求項17】
前記コンピュータに、
請求項12に記載の波浪画像認識利用方法における揺れ情報導出ステップを実行させることを特徴とする請求項15に記載の波浪画像認識利用プログラム。
【請求項18】
波浪画像を認識し利用するシステムであって、
条件入力手段と、波浪実画像取得手段と、船舶関連情報取得手段と、導出結果を出力する結果出力手段と、コンピュータとを備え、
前記コンピュータを利用して、請求1から請求項13のいずれか1項に記載の波浪画像認識利用方法における推定モデル構築ステップで構築した推定モデルにより、前記波浪実画像取得手段で取得した波浪実画像と前記船舶関連情報取得手段で取得した船舶関連情報を用い、波浪実画像取得ステップ、船舶関連情報取得ステップ、波浪画像認識ステップ、及び波浪情報導出ステップを実行し、導出した波浪情報を前記結果出力手段から出力することを特徴とする波浪画像認識利用システム。
【請求項19】
前記コンピュータを利用して、請求項6に記載の波浪画像認識利用方法における船体応答導出ステップを実行し、導出した船体応答を前記結果出力手段から出力することを特徴とする請求項18に記載の波浪画像認識利用システム。
【請求項20】
視覚情報を表示する表示手段を備え、前記コンピュータを利用して、請求項10に記載の波浪画像認識利用方法における視覚情報導出ステップを実行し、導出した視覚情報を、前記結果出力手段を介して前記表示手段に出力することを特徴とする請求項19に記載の波浪画像認識利用システム。
【請求項21】
船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム、前記船舶の操舵輪、及び前記船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つを備え、前記コンピュータを利用して、請求項12に記載の波浪画像認識利用方法における揺れ情報導出ステップを実行し、導出した揺れ情報を、前記結果出力手段を介して前記モーションプラットモーションプラットフォーム、前記操舵輪、及び前記船速調整器の少なくともいずれか1つに出力することを特徴とする請求項19に記載の波浪画像認識利用システム。
【請求項22】
前記コンピュータは、前記条件入力手段及び前記結果出力手段と情報通信網を利用して接続されていることを特徴とする請求項18に記載の波浪画像認識利用システム。
【請求項23】
前記条件入力手段の入力により、前記結果出力手段の前記導出結果の出力内容が選択可能であることを特徴とする請求項18に記載の波浪画像認識利用システム。
【請求項24】
波浪画像を認識し利用する操船シミュレータであって、
請求項20に記載の波浪画像認識利用システムを操船シミュレータとして利用することを特徴とする波浪画像認識操船シミュレータ。
【請求項25】
波浪画像を認識し利用する操船シミュレータであって、
請求項21に記載の波浪画像認識利用システムを操船シミュレータとして利用することを特徴とする波浪画像認識操船シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波浪画像を認識し利用する波浪画像認識利用方法、波浪画像認識利用プログラム、波浪画像認識利用システム、及び波浪画像認識操船シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
航行中の船舶において、波高等は船員が目視観測することによって取得するのが一般的である。また、操船訓練の一環として、実際の操船環境を再現した操船シミュレータが活用されている。
ここで、特許文献1には、波長や波高などの波浪情報を自動的に観測することを目的として、水面に向けて船体に取り付けた撮像装置と、撮像装置が撮像した映像信号を処理し映像中の波浪画像の形状、寸法を抽出する画像処理装置と、撮像装置から観測する波浪までの距離を推定するためのセンサとを備えた波浪観測装置が開示されている。
特許文献2には、航行中の船舶に対する波浪の状況を監視することを目的として、船舶において海面へ向け配置されたCCDカメラを備えるとともに、船舶の航行中にCCDカメラで撮影された海面における波浪の画像を所要の閾値で2値化して記憶する2値画像メモリを備え、2値画像メモリからの画像情報に基づき波浪の特性を検知するための画像処理を行う画像プロセッサが設けられて、画像プロセッサからの情報と2値画像メモリからの情報とに基づきCPUで処理された波浪頂部の波砕け部分の画像について、画像の経時的変化を合成して表示しうる画像表示器が設けられた舶用波浪監視装置が開示されている。
特許文献3には、任意の地点に関する波浪予測を高精度かつリアルタイムで分かり易くユーザに呈示することを目的として、第一推定値の気象予報値を観測値で修正した大気解析データと、海洋の波浪状態を予測する波浪推算プログラムとを利用して海洋の波の諸量を予測する波浪予測システムであって、所定の時間間隔で得られる大気解析データから風向及び風速データを抽出するデータ受信手段と、大気解析データに含まれる風向及び風速データを基に、N時の所定時間(α)前の時点(N-α)からN時の間をデータ補間することによってN時の波浪データを推算し、推算データ値をN+α時の波浪予測のための初期条件値として波浪推算プログラムに設定して、N+α時の波浪を予測する波浪予測手段とを有し、データ受信手段が、更新後の新たな大気解析データの風データを所定時間間隔(α)で受信するたびに、波浪予測手段は、更新後の風データによるデータ補間に基づき推算した波浪データ値を、次のα時間後の波浪予測の初期条件として波浪推算プログラムに再設定して所定時間(α)経過後の波浪予測を繰り返すことにより、時間経過に伴う波浪状態の変化予測データに誤差拡大がないようにする波浪予測システムが開示されている。
特許文献4には、合理的な波浪応答の推定を目的として、船舶の位置データを含む船舶情報と波浪データを取得し、位置データに最も近い位置の波浪データを探索して船舶の遭遇波浪データを求め、遭遇波浪データを予め求めた船舶の波浪応答関数に適用し、船舶の波浪応答を推定する船舶の波浪応答推定方法が開示されている。
特許文献5には、鉄道車両に乗務する乗務員の第1操作の訓練を、被訓練者に対してシミュレータを用いて行う訓練システムにおいて、被訓練者に対して第1操作の訓練が行われている時の状況を第1パノラマカメラを用いて撮像することにより、被訓練者に対して第1操作の訓練が行われている時の状況が撮像された第1パノラマ画像を作成する第1作成部と、第1作成部により作成された第1パノラマ画像を、第1操作の訓練が行われた後、被訓練者が装着しているヘッドマウントディスプレイを用いて表示することにより、第1パノラマ画像を被訓練者に視聴させる視聴部と、被訓練者が視聴部により第1パノラマ画像を視聴している時の、被訓練者の状態を表す第1状態変数を記録する記録部とを有する訓練システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-254813号公報
【特許文献2】特開2008-232860号公報
【特許文献3】特開2010-54460号公報
【特許文献4】特開2020-83125号公報
【特許文献5】特開2020-201301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
目視による波高等の観測は、観測者によってバラつきが生じる。波浪画像を解析して波スペクトルを得る手法も存在するが、精度検証ができておらず信頼性が不足している。また、特許文献1~5は、AI(人工知能)を利用して波浪情報や波浪応答等の推定精度、又はシミュレータの性能を向上させようとするものではない。
そこで本発明は、確度の高い波浪情報を導出する波浪画像認識利用方法、波浪画像認識利用プログラム、波浪画像認識利用システム、及び波浪画像認識操船シミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に対応した波浪画像認識利用方法においては、波浪画像を認識し利用する方法であって、波浪数値データを取得し数値シミュレーションにより波浪数値データと紐づけされた波浪シミュレーション画像を生成しビッグデータとして構築する波浪ビッグデータ構築ステップと、波浪シミュレーション画像を教師データとしてビッグデータを用いて類似の波浪画像を認識することを学習した推定モデルを構築する推定モデル構築ステップと、船舶の船上から波浪実画像を取得する波浪実画像取得ステップと、船舶の船速と針路を含む船舶関連情報を取得する船舶関連情報取得ステップと、波浪実画像を推定モデルに適用し、船舶関連情報の少なくとも船速と針路を用いて波浪実画像を補正して類似の波浪画像を認識する波浪画像認識ステップと、認識した類似の波浪画像に紐づけされた波浪数値データを含む波浪情報を導出する波浪情報導出ステップとを有することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、数値シミュレーションにより生成した波浪に関する確かな情報が得られる波浪シミュレーション画像を基に機械学習を行い、構築した推定モデルで取得した波浪実画像について類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、波浪シミュレーション画像及び波浪実画像は時系列画像であり、波浪数値データを含む波浪情報は時系列情報であることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、時系列画像に基づいた時系列情報により波浪の時間的な変化を把握することができる。
【0007】
請求項3記載の本発明は、波浪シミュレーション画像及び波浪実画像は、位置情報を含むことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、観測地点や船舶から画像上の波浪までの距離等が分かり、波浪情報をより精度よく導出できる。
【0008】
請求項4記載の本発明は、複数の類似の波浪画像に紐づけされた複数の波浪数値データを補間して、波浪情報を導出することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、波浪実画像から認識される類似の波浪画像が複数ある場合でも、複数の波浪数値データを補間することにより確度の高い波浪情報を導出することができる。
【0009】
請求項5記載の本発明は、波浪数値データを含む波浪情報を、取得した波浪データベースのデータベース情報及び波浪予報の少なくとも一方と比較し、検証又は補完することによって、波浪数値データ、データベース情報、及び波浪予報のお互いの精度を向上することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、波浪数値データの精度向上によって、より確度の高い波浪情報を導出することができるとともに、データベース情報や波浪予報の精度向上等も図れる。
【0010】
請求項6記載の本発明は、船舶関連情報として船舶の積載状態を含む船体情報を取得し、船体情報と波浪情報導出ステップで導出された波浪情報を船舶の波浪中応答関数に適用して船体応答シミュレーションを行い船体応答を導出する船体応答導出ステップを有することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いて船体応答シミュレーションを行い、船体応答を精度よく導出することができる。
【0011】
請求項7記載の本発明は、波浪数値データには、有義波高、平均波周期、及び代表波向を含むことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、波浪情報として必須のパラメータである導出された有義波高、平均波周期、及び代表波向を用いて、船体応答シミュレーションを行うことができる。
【0012】
請求項8記載の本発明は、船舶関連情報には、船舶の周囲の風情報を含み、波浪情報には処理された船速と針路を含むことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、波浪実画像を取得した船舶の周囲の風情報と、波浪情報として導出された船速と針路を用いて船体応答シミュレーションを行うことができる。
【0013】
請求項9記載の本発明は、船体情報として船体の加速度を含む船体応答を直接計測して取得し、船体応答シミュレーションの船体応答と比較した結果を、波浪情報導出ステップ、波浪中応答関数、及び船体情報の少なくともいずれか1つにフィードバックすることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、フィードバックされた比較結果に基づいて、波浪情報の導出過程や、波浪中応答関数、取得した積載状態を含む船体情報の精度等を見直すことが可能となるため、船体応答シミュレーションをより精度よく行うことができる。
【0014】
請求項10記載の本発明は、船体応答導出ステップで導出した船体応答に基づいて、船体から見た視覚情報を導出する視覚情報導出ステップを有することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、船体を含む視覚情報を導出し、船上からの視点で波浪状況を現実感を伴って再現することができる。
【0015】
請求項11記載の本発明は、視覚情報を、タブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイ(HMD)を含む表示手段に表示することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、船上視点での波浪状況や波浪数値データ等をタブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイの画面上に再現することができる。
【0016】
請求項12記載の本発明は、船体応答導出ステップで導出した船体応答に基づいて、船体の揺れ情報を導出する揺れ情報導出ステップを有することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、実波浪によって生じた船体の揺れを再現することができる。
【0017】
請求項13記載の本発明は、揺れ情報を、船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム(MP)、船舶の操舵輪、及び船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つに出力すること、又は揺れ情報を波浪情報と同時に表示手段に表示することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、モーションプラットフォームで実際の揺れを精度よく再現したり、船舶の操舵輪や船速調整器を揺れ情報をもとに自動的に調整したり、揺れ情報を波浪情報と合わせて表示手段に表示し、舵や船速の調整訓練等に役立てたりすることができる。
【0018】
請求項14記載に対応した波浪画像認識利用プログラムにおいては、波浪画像を認識し利用するプログラムであって、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における推定モデルを利用した波浪実画像取得ステップ、船舶関連情報取得ステップ、波浪画像認識ステップ、及び波浪情報導出ステップを実行させることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、コンピュータにより推定モデルに取得した波浪実画像を適用して類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
【0019】
請求項15記載の本発明は、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における船体応答導出ステップを実行させることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いてコンピュータにより船体応答シミュレーションを行い、船体応答を精度よく導出することができる。
【0020】
請求項16記載の本発明は、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における視覚情報導出ステップを実行させることを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、コンピュータにより船体を含む視覚情報を導出し、船上からの視点で波浪状況を現実感を伴って再現することができる。
【0021】
請求項17記載の本発明は、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における揺れ情報導出ステップを実行させることを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、実波浪によって生じた船体の揺れをコンピュータにより再現することができる。
【0022】
請求項18記載に対応した波浪画像認識利用システムにおいては、波浪画像を認識し利用するシステムであって、条件入力手段と、波浪実画像取得手段と、船舶関連情報取得手段と、導出結果を出力する結果出力手段と、コンピュータとを備え、コンピュータを利用して、波浪画像認識利用方法における推定モデル構築ステップで構築した推定モデルにより、波浪実画像取得手段で取得した波浪実画像と船舶関連情報取得手段で取得した船舶関連情報を用い、波浪実画像取得ステップ、船舶関連情報取得ステップ、波浪画像認識ステップ、及び波浪情報導出ステップを実行し、導出した波浪情報を結果出力手段から出力することを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、コンピュータにより推定モデルに取得した波浪実画像を適用して類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
【0023】
請求項19記載の本発明は、コンピュータを利用して、波浪画像認識利用方法における船体応答導出ステップを実行し、導出した船体応答を結果出力手段から出力することを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いてコンピュータにより船体応答を精度よく導出して出力することができる。
【0024】
請求項20記載の本発明は、視覚情報を表示する表示手段を備え、コンピュータを利用して、波浪画像認識利用方法における視覚情報導出ステップを実行し、導出した視覚情報を、結果出力手段を介して表示手段に出力することを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、コンピュータにより船体を含む視覚情報を導出し、船上視点での波浪状況を表示手段の画面上に再現することができる。
【0025】
請求項21記載の本発明は、船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム、船舶の操舵輪、及び船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つを備え、コンピュータを利用して、揺れ情報導出ステップを実行し、導出した揺れ情報を、結果出力手段を介してモーションプラットモーションプラットフォーム、操舵輪、及び船速調整器の少なくともいずれか1つに出力することを特徴とする。
請求項21に記載の本発明によれば、モーションプラットフォームで実際の揺れを精度よく再現したり、船舶の操舵輪や船速調整器を揺れ情報をもとに自動的に調整したり、揺れ情報を波浪情報と合わせて表示手段に表示し、舵や船速の調整訓練等に役立てたりすることができる。
【0026】
請求項22記載の本発明は、コンピュータは、条件入力手段及び結果出力手段と情報通信網を利用して接続されていることを特徴とする。
請求項22に記載の本発明によれば、コンピュータから離れた場所において、船体情報や出力内容を情報通信網を介してコンピュータに入力し、コンピュータが出力した波浪情報等を情報通信網を介して取得することができる。
【0027】
請求項23記載の本発明は、条件入力手段の入力により、結果出力手段の導出結果の出力内容が選択可能であることを特徴とする。
請求項23に記載の本発明によれば、波浪情報に加えて取得情報や導出情報等の必要な情報を選択的に得ることができる。
【0028】
請求項24記載に対応した波浪画像認識操船シミュレータにおいては、波浪画像を認識し利用する操船シミュレータであって、請求項20に記載の波浪画像認識利用システムを操船シミュレータとして利用することを特徴とする。
請求項24に記載の本発明によれば、船体を含む視覚情報を導出し、船上視点での波浪状況を操船シミュレータの画面上に精度よく再現することができる。
【0029】
請求項25記載に対応した波浪画像認識操船シミュレータにおいては、波浪画像を認識し利用する操船シミュレータであって、請求項21に記載の波浪画像認識利用システムを操船シミュレータとして利用することを特徴とする。
請求項25に記載の本発明によれば、実波浪による揺れの影響を操船シミュレータで精度よく再現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の波浪画像認識利用方法によれば、数値シミュレーションにより生成した波浪に関する確かな情報が得られる波浪シミュレーション画像を基に機械学習を行い、構築した推定モデルで取得した波浪実画像について類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
【0031】
また、波浪シミュレーション画像及び波浪実画像は時系列画像であり、波浪数値データを含む波浪情報は時系列情報である場合には、時系列画像に基づいた時系列情報により波浪の時間的な変化を把握することができる。
【0032】
また、波浪シミュレーション画像及び波浪実画像が位置情報を含む場合には、観測地点や船舶から画像上の波浪までの距離等が分かり、波浪情報をより精度よく導出できる。
【0033】
また、複数の類似の波浪画像に紐づけされた複数の波浪数値データを補間して、波浪情報を導出する場合には、波浪実画像から認識される類似の波浪画像が複数ある場合でも、複数の波浪数値データを補間することにより確度の高い波浪情報を導出することができる。
【0034】
また、波浪数値データを含む波浪情報を、取得した波浪データベースのデータベース情報及び波浪予報の少なくとも一方と比較し、検証又は補完することによって、波浪数値データ、データベース情報、及び波浪予報のお互いの精度を向上する場合には、波浪数値データの精度向上によって、より確度の高い波浪情報を導出することができるとともに、データベース情報や波浪予報の精度向上等も図れる。
【0035】
また、船舶関連情報として船舶の積載状態を含む船体情報を取得し、船体情報と波浪情報導出ステップで導出された波浪情報を船舶の波浪中応答関数に適用して船体応答シミュレーションを行い船体応答を導出する船体応答導出ステップを有する場合には、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いて船体応答シミュレーションを行い、船体応答を精度よく導出することができる。
【0036】
また、波浪数値データには、有義波高、平均波周期、及び代表波向を含む場合には、波浪情報として必須のパラメータである導出された有義波高、平均波周期、及び代表波向を用いて、船体応答シミュレーションを行うことができる。
【0037】
また、船舶関連情報には、船舶の周囲の風情報を含み、波浪情報には処理された船速と針路を含む場合には、波浪実画像を取得した船舶の周囲の風情報と、波浪情報として導出された船速と針路を用いて船体応答シミュレーションを行うことができる。
【0038】
また、船体情報として船体の加速度を含む船体応答を直接計測して取得し、船体応答シミュレーションの船体応答と比較した結果を、波浪情報導出ステップ、波浪中応答関数、及び船体情報の少なくともいずれか1つにフィードバックする場合には、フィードバックされた比較結果に基づいて、波浪情報の導出過程や、波浪中応答関数、取得した積載状態を含む船体情報の精度等を見直すことが可能となるため、船体応答シミュレーションをより精度よく行うことができる。
【0039】
また、船体応答導出ステップで導出した船体応答に基づいて、船体から見た視覚情報を導出する視覚情報導出ステップを有する場合には、船体を含む視覚情報を導出し、船上からの視点で波浪状況を現実感を伴って再現することができる。
【0040】
また、視覚情報を、タブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイ(HMD)を含む表示手段に表示する場合には、船上視点での波浪状況や波浪数値データ等をタブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイの画面上に再現することができる。
【0041】
また、船体応答導出ステップで導出した船体応答に基づいて、船体の揺れ情報を導出する揺れ情報導出ステップを有する場合には、実波浪によって生じた船体の揺れを再現することができる。
【0042】
また、揺れ情報を、船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム(MP)、船舶の操舵輪、及び船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つに出力するか、又は揺れ情報を波浪情報と同時に表示手段に表示する場合には、モーションプラットフォームで実際の揺れを精度よく再現したり、船舶の操舵輪や船速調整器を揺れ情報をもとに自動的に調整したり、揺れ情報を波浪情報と合わせて表示手段に表示し、舵や船速の調整訓練等に役立てたりすることができる。
【0043】
また、本発明の波浪画像認識利用プログラムによれば、コンピュータにより推定モデルに取得した波浪実画像を適用して類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
【0044】
また、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における船体応答導出ステップを実行させる場合には、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いてコンピュータにより船体応答シミュレーションを行い、船体応答を精度よく導出することができる。
【0045】
また、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における視覚情報導出ステップを実行させる場合には、コンピュータにより船体を含む視覚情報を導出し、船上からの視点で波浪状況を現実感を伴って再現することができる。
【0046】
また、コンピュータに、波浪画像認識利用方法における揺れ情報導出ステップを実行させる場合には、実波浪によって生じた船体の揺れをコンピュータにより再現することができる。
【0047】
また、本発明の波浪画像認識利用システムによれば、コンピュータにより推定モデルに取得した波浪実画像を適用して類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
【0048】
また、コンピュータを利用して、波浪画像認識利用方法における船体応答導出ステップを実行し、導出した船体応答を結果出力手段から出力する場合には、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いてコンピュータにより船体応答を精度よく導出して出力することができる。
【0049】
また、視覚情報を表示する表示手段を備え、コンピュータを利用して、波浪画像認識利用方法における視覚情報導出ステップを実行し、導出した視覚情報を、結果出力手段を介して表示手段に出力する場合には、コンピュータにより船体を含む視覚情報を導出し、船上視点での波浪状況を表示手段の画面上に再現することができる。
【0050】
また、船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム、船舶の操舵輪、及び船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つを備え、コンピュータを利用して、揺れ情報導出ステップを実行し、導出した揺れ情報を、結果出力手段を介してモーションプラットモーションプラットフォーム、操舵輪、及び船速調整器の少なくともいずれか1つに出力する場合には、モーションプラットフォームで実際の揺れを精度よく再現したり、船舶の操舵輪や船速調整器を揺れ情報をもとに自動的に調整したり、揺れ情報を波浪情報と合わせて表示手段に表示し、舵や船速の調整訓練等に役立てたりすることができる。
【0051】
また、コンピュータが条件入力手段及び結果出力手段と情報通信網を利用して接続されている場合には、コンピュータから離れた場所において、船体情報や出力内容を情報通信網を介してコンピュータに入力し、コンピュータが出力した波浪情報等を情報通信網を介して取得することができる。
【0052】
また、条件入力手段の入力により、結果出力手段の導出結果の出力内容が選択可能である場合には、波浪情報に加えて取得情報や導出情報等の必要な情報を選択的に得ることができる。
【0053】
また、本発明の波浪画像認識操船シミュレータによれば、船体を含む視覚情報を導出し、船上視点での波浪状況を操船シミュレータの画面上に精度よく再現することができる。
【0054】
また、本発明の波浪画像認識操船シミュレータによれば、実波浪による揺れの影響を操船シミュレータで精度よく再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明の実施形態による波浪画像認識利用方法のフロー図
【
図3】本発明の第一の利用形態における波浪画像認識利用システムを示す図
【
図4】同第二の利用形態における波浪画像認識利用システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の実施形態による波浪画像認識利用方法、波浪画像認識利用プログラム、波浪画像認識利用システム、及び波浪画像認識操船シミュレータについて説明する。
図1は波浪画像認識利用方法のフロー図である。
波浪画像を認識し利用する波浪画像認識利用方法は、まず、波浪数値データと紐づけされた波浪シミュレーション画像を生成しビッグデータとして構築し(S1:波浪ビッグデータ構築ステップ)、構築したビッグデータを用いて推定モデルを構築する(S2:推定モデル構築ステップ)。
波浪ビッグデータ構築ステップS1においては、始めに波浪数値データを取得する。波浪数値データは、例えば、有義波高、平均波周期及び代表波向等であり、過去の航行時におけるデータが保存されている記憶装置等から取得する。
次に、取得した波浪数値データを用いて数値シミュレーションを行い、波浪シミュレーション画像を生成する。この波浪シミュレーション画像には、波浪数値データが紐づけられる。また、数値シミュレーションに用いた波浪数値データに船舶から波浪までの距離を示す位置情報が含まれていた場合には、その位置情報も紐づけられる。なお、数値シミュレーションと併せて、造波装置及び送風装置を備えた水槽においてシミュレーションを行い、波浪シミュレーション画像を生成することも可能である。生成した波浪シミュレーション画像は、動画又は静止画であり、データベースに蓄積する。
様々な波浪数値データを取得して数値シミュレーションを実行し波浪シミュレーション画像を生成することにより、データベースに大量の波浪シミュレーション画像が蓄積されビッグデータが構築される。
【0057】
推定モデル構築ステップS2においては、機械(AI)に波浪シミュレーション画像を教師データとしてビッグデータを用いて類似の波浪画像を認識することを学習させ、推定モデルを構築する。
ここで、
図2は不規則波面を構成する成分波のイメージ図である。
機械学習においては、波浪シミュレーション画像から得られる各成分波の波長による進行速度(V
i)を利用して波スペクトルを得る。
海洋の不規則波面は下式(1)で表される。
【数1】
ζ(x,t):不規則波の隆起、x:時間軸、t:時間軸、ζ
Ai:規則成分波iの振幅、k
i:規則成分波iの波数(=2π/λ
i)、λ
i:規則成分波iの波長、ω
i:規則成分波iの周波数(=2π/T
i)、T
i:規則成分波iの波周期、ε
i:規則成分波iの位相角
各成分波iの速度V
iは下式(2)で表される。
【数2】
ζ
A、λ(V)、ε、及びiが、機械学習のパラメータになる。
このように、数値シミュレーションでの確かな波浪情報を持つ波浪シミュレーション画像を基に機械学習を行い、AIをコアとしたアプリケーションプログラムを生成する。
【0058】
次に、生成した推定モデルを用いて波浪情報を導出するまでの各ステップについて説明する。
まず、波浪情報の導出対象とする船上からの波浪実画像を取得する(S3:波浪実画像取得ステップ)。波浪実画像は、船員がスマートフォン等で撮影した画像など実船で実際に取得した画像の他、実船上からの取得を想定した波浪シミュレーション画像とすることもできる。実船上からの取得を想定した波浪シミュレーション画像を用いる場合は、波浪実画像を仮想とした操船シミュレータ等に利用することができる。
波浪実画像は、動画又は静止画である。波浪実画像には、船舶から波浪までの距離を測定して、波浪の位置情報を含ませることが好ましい。波浪までの距離を測定する手段としては、例えば、ステレオカメラ等の画像からの解析、距離計等の距離測定手段、及びレーダ情報利用などが挙げられる。
また、船舶の船速と針路を含む船舶関連情報を取得する(S4:船舶関連情報取得ステップ)。船舶関連情報は、船速、針路、船舶の積載状態を含む船体情報、及び船舶の周囲の風情報等である。船体情報の例としては、船舶の積載状態の他に、船体仕様、建造時の品質、及び経年劣化度合い等が挙げられ、風情報の例としては、風速及び風向等が挙げられる。
【0059】
次に、波浪実画像を推定モデルに適用し、船舶関連情報の少なくとも船速と針路を用いて波浪実画像を補正して類似の波浪画像を認識する(S5:波浪画像認識ステップ)。船速や針路等を用いて波浪実画像を補正するのは、波浪に対する船速や針路等によって波浪の見え方が変わってくるので、その影響を除去するためである。
そして、認識した類似の波浪画像に紐づけされた波浪数値データを含む波浪情報を機械(AI)により導出する(S6:波浪情報導出ステップ)。このように、取得した波浪実画像について類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から現在または未来における確度の高い波浪情報を得ることができる。類似の波浪画像は波浪数値データと紐づけされているため、波浪実画像に基づいて確度の高い波浪数値データを含む波浪情報を導出することができる。また、導出した波浪数値データを含む波浪情報を用いて、実際の船舶の操船に役立てることもできる。
なお、波浪画像認識ステップS5において類似の波浪画像が複数認識された場合は、複数の類似の波浪画像に紐づけされた複数の波浪数値データを補間して波浪情報を導出する。これにより、波浪実画像と一致する波浪シミュレーション画像がないことにより類似の波浪画像が複数抽出された場合でも、複数の波浪数値データを補間して確度の高い波浪情報を導出することができる。
また、船舶の設計において想定された限界波浪と実際の波浪(波浪情報)とを比較することで、船体の耐力を考慮した適切な荒天回避操船や荒天中の適切な操船等、安全運航を図ることができる。また、例えば操船者の持つスマートフォン等へ波浪情報が配信されるようにすることで、ログブックへの記載の負担軽減を図ることが可能である。更に、目視観測する場合よりも波高等の数値にバラつきが少なくなるので、ログブックに記載された波浪情報の信頼度の向上にも寄与する。
また、例えば船舶が高波に遭遇した時、船員がスマートフォン等で波浪映像を録画し、その波浪映像(波浪実画像)を推定モデルに適用して波浪情報を得ておくことにより、船舶に事故や損傷が生じた際の原因究明に役立てることができる。更に、波浪環境の履歴を含む情報は、保険適用の判定の際にも有効に活用できる。
また、実海域の映像等の波浪実画像を別途求めた波浪数値データと紐づけして蓄積し、ビッグデータを構築し利用することで、過去の事例に基づいた海象予測、及び海象を逆解析することによる気象予測の信頼向上に繋げることも可能である。
また、操船者に対して遭遇している波浪環境を有義波高等の数値で与えられることにより、適切な安全支援が行えるとともに、設計上の危険な海象をより確実に避けられるようになることで、余剰な強度を省いた軽量化船の実現にも寄与する。
【0060】
また、上述のように波浪シミュレーション画像及び波浪実画像に波浪の位置情報を含めた場合は、観測地点や船舶から画像上の波浪までの距離等が分かり、波浪情報をより精度よく導出できる。
また、波浪シミュレーション画像及び波浪実画像は時系列画像とし、波浪数値データを含む波浪情報は時系列情報とすることが好ましい。この場合、時系列画像に基づいた時系列情報により波浪の時間的な変化を把握することができる。
【0061】
本実施形態では、上述のように船舶関連情報取得ステップS4において船舶関連情報として船舶の積載状態を含む船体情報と船舶の周囲の風情報も取得している。
波浪情報導出ステップS6の後は、船舶関連情報取得ステップS4で取得した船体情報と波浪情報導出ステップS6で導出された波浪情報を船舶の波浪中応答関数に適用し、船体応答シミュレーションを行い船体の加速度等の船体応答を導出する(S7:船体応答導出ステップ)。これにより、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いて船体応答シミュレーションを行い、船体応答を精度よく導出することができる。導出した船体応答は、ディスプレイ等の表示手段に表示する。
また、波浪情報導出ステップS6で導出する波浪数値データに、有義波高、平均波周期、及び代表波向を含めた場合には、波浪情報として必須のパラメータである導出された有義波高、平均波周期、及び代表波向を用いて、船体応答シミュレーションを行うことができる。
また、波浪情報導出ステップS6で導出する波浪情報に、表示手段への表示を可能とする処理など、処理された船速と針路を含めた場合には、波浪実画像を取得した船舶の周囲の風情報と、波浪情報として導出された船速と針路とを用いて船体応答シミュレーションを行うことができる。
【0062】
また、加速度等の船体応答を船舶に搭載している機器により直接計測し、計測した船体応答と船体応答シミュレーションにより導出した船体応答とを比較した結果を、波浪情報導出ステップS6、波浪中応答関数、及び船体情報の少なくともいずれか1つにフィードバックすることもできる。
計測した船体応答と導出した船体応答との差は、波浪情報導出ステップS6で導出した波浪数値データ、船体応答導出ステップS7で用いた波浪中応答関数、又は船舶関連情報取得ステップS4で取得した船舶関連情報が実際と異なるために生じるので、フィードバックされた比較結果に基づいて、波浪情報の導出過程や、波浪中応答関数、取得した積載状態を含む船体情報の精度等を見直すことで、船体応答シミュレーションをより精度よく行うことができる。見直しにおいては、例えば、船体情報に含まれる船速、針路、積載状態といった各値の重み付けを変更する。また、フィードバックして見直す内容は、単なる入力ミスの修正から推定モデルやプログラムの改良まで広い範囲の要素が含まれる。
【0063】
また、船体応答導出ステップS7で導出した船体応答に基づいて、船体から見た視覚情報を導出する(S8:視覚情報導出ステップ)。これにより、船上からの視点で波浪状況を精度よく再現することができる。
視覚情報は、タブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイ(HMD)等といった表示手段に表示してもよい。それにより、船上視点での波浪状況や波浪数値データ等をタブレット型パソコンやヘッドマウントディスプレイの画面上に再現することができる。また、波浪状況を把握しやすいように、表示手段に例えば、舳先やブリッジから見た船首部を含む船体の一部も表示することもできる。船体の一部を含むことにより船上から見た実波浪状況を現実感を伴って再現できる。
また、船体全体と波浪が組み合わせて表示されるように、表示手段に鳥瞰映像への切り替え機能を持たせることもできる。
【0064】
また、船体応答導出ステップS7で導出した船体応答に基づいて、船体の揺れ情報を導出する(S9:揺れ情報導出ステップ)。これにより、実波浪によって生じた船体の揺れを再現することができる。また、波浪情報導出ステップS6で波浪情報を導出する際に、それまでに導出された船体の揺れ情報を加味することで波浪情報の導出精度を向上させることができる。
揺れ情報は、船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム(MP)、船舶の操舵輪、及び船舶の船速調整器の少なくともいずれか1つに出力するか、又は揺れ情報を波浪情報と同時に表示手段に表示してもよい。それにより、モーションプラットフォームで実際の揺れを精度よく再現したり、船舶の操舵輪や船速調整器を揺れ情報をもとに自動的に調整したり、揺れ情報を波浪情報と合わせて表示手段に表示し、舵や船速の調整訓練等に役立てたりすることができる。
【0065】
また、波浪画像認識利用方法の一部はプログラムを用いて実行可能である。波浪画像を認識し利用する波浪画像認識利用プログラムは、コンピュータに、推定モデル構築ステップS2で構築した推定モデルを用いて、波浪実画像取得ステップS3、船舶関連情報取得ステップS4、波浪画像認識ステップS5、及び波浪情報導出ステップS6を実行させる。これにより、コンピュータにより推定モデルに取得した波浪実画像を適用して類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
また、波浪画像認識利用プログラムは、コンピュータに、船体応答導出ステップS7を実行させることが可能である。これにより、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いてコンピュータにより船体応答シミュレーションを行い、船体応答を精度よく導出することができる。
また、波浪画像認識利用プログラムは、コンピュータに、視覚情報導出ステップS8を実行させることが可能である。これにより、コンピュータにより船体を含む視覚情報を導出し、船上からの視点で波浪状況を現実感を伴って再現することができる。
また、波浪画像認識利用プログラムは、コンピュータに、揺れ情報導出ステップS9を実行させることが可能である。これにより、実波浪によって生じた船体の揺れをコンピュータにより再現することができる。
【0066】
次に、波浪画像認識利用システムについて説明する。
図3は第一の利用形態(インターネット利用)における波浪画像認識利用システムを示す図である。
波浪画像を認識し利用する波浪画像認識利用システムは、条件入力手段10と、結果出力手段20と、コンピュータ30と、表示手段40と、出力部50と、モーションプラットフォーム(MP)60と、船舶の操舵輪70と、船舶の船速調整器80と、波浪実画像取得手段と、船舶関連情報取得手段を備え、波浪画像認識利用プログラムがインストールされている。波浪画像認識利用システムは、船舶1、波浪ビッグデータベース兼波浪データベース2、及びシミュレーション画像生成部兼推定モデル構築部3とインターネット等の情報通信網4を介して接続されている。また、外部から提供される波浪予報100を情報通信網4を介して受信可能である。
船舶1は、AIS搭載船であるとともに、波浪実画像を撮影する波浪実画像取得カメラ5と、加速度計6が設けられている。船舶1は、操舵輪70及び船速調整器80を備える陸上施設と情報通信網4を介してリアルタイムに双方向通信可能としており、当該陸上施設からの操船支援や遠隔操作を受けることが可能である。
波浪ビッグデータベース兼波浪データベース2は、波浪シミュレーション画像のビッグデータがデータベース情報として蓄積されている波浪ビッグデータベースと、過去の波浪データが蓄積されている波浪データベースを兼ねたものである。
シミュレーション画像生成部兼推定モデル構築部3は、波浪ビッグデータ構築ステップS1を実行するシミュレーション画像生成部と、推定モデル構築ステップS2を実行する推定モデル構築部を兼ねたものであり、入力手段7と出力手段8が接続されている。入力手段7は、例えばマウス、タッチパネル、又はキーボード等であり、機械学習のための波浪数値データ等の入力に用いる。出力手段8は、例えば記憶装置等であり、シミュレーション画像や推定モデル等の出力に用いる。
条件入力手段10は、例えばマウス、タッチパネル、又はキーボード等であり、船体情報の一部や、結果出力手段20から出力する導出結果の内容の選択入力等に利用する。条件入力手段10の入力により結果出力手段20の導出結果の出力内容が選択可能であることで、波浪情報に加えて取得情報や導出情報等の必要な情報を選択的に得ることができる。出力部50は、例えばディスプレイやプリンタ等である。
【0067】
コンピュータ30は、その機能として、波浪実画像取得部31と、船舶関連情報取得部32と、波浪画像認識部33と、波浪情報導出部34と、船体応答導出部35と、視覚情報導出部36と、揺れ情報導出部37を有する。また、コンピュータ30には、制御部90、第一記憶部91、及び第二記憶部92が接続されている。制御部90は、波浪画像認識利用プログラムを実行する際の全体的な制御等を行なう。第一記憶部91には、シミュレーション画像生成部兼推定モデル構築部3で構築された推定モデルと、波浪中応答関数が記憶されている。
本利用形態では波浪画像認識利用システムを操船シミュレータとして利用しており、結果出力手段20、コンピュータ30、第一記憶部91、第二記憶部92、及び制御部90で操船シミュレータ本体9を構成している。操船シミュレータの操舵輪70や船速調整器80等に対する操作がなされた場合は、操作量等が操船シミュレータ本体へフィードバックされる。
【0068】
波浪実画像取得部31は、波浪実画像取得手段として機能し、波浪実画像取得ステップS3において、船舶1から送信された波浪実画像を取得して第二記憶部92へ記憶させる。
船舶関連情報取得部32は、船舶関連情報取得手段として機能し、船舶関連情報取得ステップS4において、船舶1から送信された船速、針路、位置、風情報、及び船体仕様等の船舶関連情報や、条件入力手段10から入力された船舶関連情報を取得して第二記憶部92へ記憶させる。
波浪画像認識部33は、波浪画像認識ステップS5を実行するものであり、波浪実画像を推定モデルに適用し、波浪実画像を船速や針路等の船舶関連情報で補正して類似の波浪画像を認識する。
波浪情報導出部34は、波浪情報導出ステップS6を実行するものであり、類似の波浪画像に紐づけされた波浪数値データを含む波浪情報を導出する。導出した波浪情報は、結果出力手段20から出力される。このように、コンピュータ30により推定モデルに取得した波浪実画像を適用して類似の波浪画像を認識し、認識した類似の波浪画像から確度の高い波浪情報を得ることができる。
船体応答導出部35は、船体応答導出ステップS7を実行するものであり、船体情報と波浪情報を船舶の波浪中応答関数に適用して船体応答シミュレーションを行い船体応答を導出する。導出した船体応答は、結果出力手段20から出力される。このように、積載状態等の船体情報と確度の高い波浪情報を用いてコンピュータ30により船体応答を精度よく導出して出力することができる。
視覚情報導出部36は、視覚情報導出ステップS8において、船体応答導出部35が導出した船体応答に基づいて船体から見た視覚情報を導出する。
揺れ情報導出部37は、揺れ情報導出ステップS9において、船体応答導出部35が導出した船体応答に基づいて船体の揺れ情報を導出する。
【0069】
結果出力手段20は、波浪情報導出部34による導出結果としての波浪情報を、情報通信網4を介して船舶1へ出力する。波浪情報を受信した船舶1の船員は、ログブックに波高等を記載する。
また、視覚情報導出部36による導出結果としての視覚情報を、結果出力手段20を介して表示手段40へ出力する。視覚情報を表示する表示手段40は、例えば、タブレット型パソコンや、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)等である。これにより、コンピュータ30により船体を含む視覚情報を導出し、船上視点での波浪状況を表示手段40に精度よく再現することができる。
また、揺れ情報導出部37による導出結果としての揺れ情報を、結果出力手段20から船舶の揺れを体感可能なモーションプラットフォーム60、陸上施設に設けられている船舶の操舵輪70及び船速調整器80、並びに表示手段40へ出力する。それにより、モーションプラットフォーム60で実際の揺れを精度よく再現したり、船舶の操舵輪や船速調整器を揺れ情報をもとに自動的に調整したり、揺れ情報を波浪情報と合わせて表示手段40に表示したりすることができる。
【0070】
また、波浪情報導出部34が導出した波浪数値データを含む波浪情報を、波浪ビッグデータベース兼波浪データベース2から取得したデータベース情報、又は波浪予報100と比較し、検証又は補完することによって、波浪数値データ、データベース情報、及び波浪予報100のお互いの精度を向上させる。これにより、より確度の高い波浪情報を導出することができるとともに、データベース情報や波浪予報100の精度向上等も図れる。
例えば、波浪情報導出部34が導出した波浪情報に含まれる波浪数値データを利用してデータベース情報の精度を上げたり、波浪予報(天気予報)100の精度を上げたりすること等が可能である。また、波浪情報導出部34が導出した波浪情報に含まれる波浪数値データが、波浪データベースに蓄積されている波浪データや、波浪予報値とかけ離れているときは、波浪数値データの導出に使用した推定モデルやAIのアルゴリズム等が誤っている可能性があるため、必要に応じて修正する。
【0071】
また、波浪画像認識利用システムは、コンピュータ30が、条件入力手段10及び結果出力手段20と情報通信網4を利用して接続されていることにより、コンピュータ30から離れた場所において、船体情報や出力内容を情報通信網4を介してコンピュータ30に入力し、コンピュータ30が出力した波浪情報等を情報通信網4を介して取得することができる。
【0072】
図4は第二の利用形態(単独利用)における波浪画像認識利用システムを示す図である。
本利用形態は、情報通信網へ接続せず波浪画像認識利用システム単独で利用する点において上記した第一の利用形態と異なる。
本利用形態における操船シミュレータ本体は、例えば船員の訓練に用いられる。操船シミュレータ本体は、条件入力手段10を用いて入力された波浪実画像や船舶関連情報に基づいて、波浪情報、視覚情報、及び揺れ情報を導出し、結果出力手段20から表示手段40、モーションプラットフォーム60、操舵輪70、及び船速調整器80へ出力する。これにより、実際の波浪状況を正確に模擬した訓練を実施することができる。
【0073】
波浪画像認識利用システムを操船シミュレータとして利用することにより、船体を含む視覚情報を導出し、船上視点での波浪状況を操船シミュレータの画面上に精度よく再現したり、実波浪による船体の揺れを操船シミュレータで精度よく再現したりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、実際の船舶、又は操船シミュレータに利用可能である他、自動運航船としての利用や波浪による船体への影響を考慮した運航、また船舶に損傷等が生じた際の保険適用の判定等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 船舶
4 情報通信網
10 条件入力手段
20 結果出力手段
30 コンピュータ
31 波浪実画像取得手段(波浪実画像取得部)
32 船舶関連情報取得手段(船舶関連情報取得部)
40 表示手段
60 モーションプラットフォーム(MP)
70 操舵輪
80 船速調整器
100 波浪予報
S1 波浪ビッグデータ構築ステップ
S2 推定モデル構築ステップ
S3 波浪実画像取得ステップ
S4 船舶関連情報取得ステップ
S5 波浪画像認識ステップ
S6 波浪情報導出ステップ
S7 船体応答導出ステップ
S8 視覚情報導出ステップ
S9 揺れ情報導出ステップ