(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122446
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】転がり軸受の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16N 7/32 20060101AFI20240902BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20240902BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240902BHJP
F16N 7/38 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
F16N7/32 C
F16C19/36
F16C33/66 Z
F16N7/38 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029985
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】深田 貴久夫
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701BA78
3J701CA06
3J701CA08
3J701EA67
3J701FA32
3J701GA31
3J701XB03
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】円滑なエアオイルを供給するのに適した転がり軸受の潤滑構造を提供する。
【解決手段】本発明の転がり軸受1のエアオイル潤滑構造は、転がり軸受1の内輪2の外径面2aに内輪転走面2aaに連なって設けられた斜面部2abと、斜面部2abに隙間δを介して沿うように配置されたノズル部材6と、ノズル部材6に設けられて隙間δに開口するエアオイルの吐出孔8とを備えている。ノズル部材6の軸受内部方向への突出量をA、転がり軸受1の転動体4の軸方向中心位置をBとした場合、転動体4の軸方向位置に対するノズル部材6の突出量の比(A/B)が0.5~0.7となるように、ノズル部材6が配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内輪の外径面に、内輪転走面に連なって設けられた斜面部と、
前記斜面部に隙間を介して沿うように配置されたノズル部材と、
前記ノズル部材に設けられて前記隙間に開口するエアオイルの吐出孔とを備えた転がり軸受のエアオイル潤滑構造であって、
前記ノズル部材の軸受内部方向への突出量をA、転がり軸受の転動体の軸方向中心位置をBとした場合、転動体の軸方向位置に対するノズル部材の突出量の比(A/B)が0.5~0.7となるように、前記ノズル部材が配置されている転がり軸受のエアオイル潤滑構造。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、前記転がり軸受は、前記転動体の周方向の位置を規制する保持器を有し、
軸受の一端面から前記保持器の一端面までの距離をCとした場合、前記保持器の一端面の位置に対するノズル部材の突出量の比(A/C)が1.4~3.5となるように、前記ノズル部材が配置されている転がり軸受のエアオイル潤滑構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、前記転がり軸受は玉軸受であり、前記転動体の直径をDとした場合、前記転動体の直径に対するノズル部材の突出量の比(A/D)が0.5~1.0となるように、前記ノズル部材が配置されている転がり軸受のエアオイル潤滑構造。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエアオイル潤滑構造と、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に介在された転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受。
【請求項5】
請求項3に記載のエアオイル潤滑構造と、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に介在された転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、工作機械の主軸の軸受に適用される転がり軸受のエアオイル潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸装置では、加工効率を上げるために高速化が求められている。そのため、軸受の潤滑についても、エアと潤滑油を混合して内輪転走面に吹き付けるエアオイル潤滑が適用されることが多い。また、軸受の高速化に伴うエア流量の増加および騒音の対策として、環境対応型のエアオイル潤滑装置が提案されている(例えば、特許文献1,2)。このような構造とすることで、エアオイルの使用量が少なくなり、騒音を低減できる。環境対応型のエアオイル潤滑装置では、ノズル部材は軸受内部に突出している。ノズル部材は転動体に近い位置に配置され、転動体に近い位置からエアを吹き付けることが好ましい。これにより、転動体が公転することで発生する風圧の影響を受けにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-332755号公報
【特許文献2】特開2007-010017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受内部、すなわち、内輪と外輪に囲まれた空間には、転動体および保持器が配置されていることから、空間の制約があり、以下の不利益が発生する恐れがある。
(1)ノズル部材の軸方向長さが長すぎると、転動体と干渉する。
(2)ノズル部材の軸方向長さが短すぎると、転動体が公転することで発生する風圧の影響を受け、環境対応型のエアオイル潤滑装置の利点を得られない。
【0005】
本発明の目的は、円滑なエアオイルを供給するのに適した転がり軸受の潤滑構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり軸受のエアオイル潤滑構造は、転がり軸受の内輪の外径面に内輪転走面に連なって設けられた斜面部と、前記斜面部に隙間を介して沿うように配置されたノズル部材と、前記ノズル部材に設けられて前記隙間に開口するエアオイルの吐出孔とを備えている。前記ノズル部材の軸受内部方向への突出量をA、転がり軸受の転動体の軸方向中心位置をBとした場合、転動体の軸方向位置に対するノズル部材の突出量の比(A/B)が0.5~0.7となるように、前記ノズル部材が配置されている。
【0007】
ここで、「ノズル部材の軸受内部方向への突出量」とは、転がり軸受の軸方向の一端面からノズル部材の突出端面までの距離をいう。「転がり軸受の転動体の軸方向中心位置」とは、転がり軸受の軸方向の一端面から転動体の軸方向中心までの距離をいう。「転がり軸受の軸方向の一端面」とは、転がり軸受における斜面部が形成される側、つまりノズル部材側の軸方向端面をいう。
【0008】
この構成によれば、軸受の内部に突出したノズル部材の先端の突出量を管理することで、潤滑効率を向上させることができる。これにより、軸受の内部に円滑に潤滑油が供給され、適切な軸受機能を維持できる。潤滑効率が向上することで、潤滑油量を低減できる。その結果、ミスト飛散量も低減できるので、クリーン環境化を実現できる。さらに、ノズル部材の先端の突出量を管理することで、ノズル部材と転動体との干渉を防ぐことができる。
【0009】
本発明において、軸受の一端面から前記転がり軸受の保持器の一端面までの距離をCとした場合、前記保持器の一端面の位置に対するノズル部材の突出量の比(A/C)が1.4~3.5となるように、前記ノズル部材が配置されてもよい。この構成によれば、ノズル部材の先端の突出量と保持器の位置を管理することで、保持器の強度を確保できるうえに、ノズル部材と保持器との干渉を防ぐことができる。
【0010】
本発明において、前記転がり軸受が玉軸受で、前記転動体の直径をDとした場合、前記転動体の直径に対するノズル部材の突出量の比(A/D)が0.5~1.0となるように、前記ノズル部材が配置されていてもよい。この構成によれば、ノズル部材の先端の突出量と転動体の位置を管理することで、転動体公転時の風圧の影響を受けにくくなり、潤滑油量(供給エア量)を低減できる。その結果、省エネと騒音低減の両方を実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転がり軸受のエアオイル潤滑構造によれば、軸受内部に突出したノズル部材の先端の突出量を管理することで潤滑効率を向上させて、軸受の内部に円滑に潤滑油を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受のエアオイル潤滑構造を示す縦断面図である。
【
図2】同エアオイル潤滑構造の要部を拡大して示す断面図である。
【
図3】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/B)が0.5未満の事例を示す断面図である。
【
図4】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/B)が0.7を超える事例を示す断面図である。
【
図5】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/C)が1.4未満の一例を示す断面図である。
【
図6】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/C)が3.5を超える一例を示す断面図である。
【
図7】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/C)が1.4未満の別の例を示す断面図である。
【
図8】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/C)が3.5を超える別の例を示す断面図である。
【
図9】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/D)が0.5未満の例を示す断面図である。
【
図10】転がり軸受のエアオイル潤滑構造において、ノズル部材の突出量の比(A/D)が1.0を超える例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明において、「軸方向」、「径方向」および「周方向」はそれぞれ、軸受の「軸方向」、「径方向」および「周方向」である。また、「上流」および「下流」とは、エアオイルの流れ方向の「上流」および「下流」をいう。
【0014】
図1は本発明の第1実施形態に係る転がり軸受のエアオイル潤滑構造を示す縦断面図で、
図2はその拡大図である。本実施形態の転がり軸受1は、例えば、工作機械の主軸の軸受に適用される。ただし、本発明の転がり軸受1の用途はこれに限定されない。本実施形態の転がり軸受1はアンギュラ玉軸受であり、内輪2と、外輪3と、これら内輪2および外輪3の間に介在された複数の転動体であるボール4とを有している。転がり軸受1は、さらに、ボール4の周方向位置を規制するとともにボール4を保持する保持器5を有している。
【0015】
内輪2の外径面2aに、径方向内側に凹入した内輪転走面2aaが形成されている。外輪3の内径面3aに、径方向外側に凹入した外輪転走面3aaが形成されている。これら内輪転走面2aaと外輪転走面3aaとの間に複数のボール4が介在されている。
【0016】
転がり軸受1の内輪2の外径面2aに、内輪転走面2aaに連なって斜面部2abが設けられている。斜面部2abは、内輪2の軸方向の一端面2b(
図2の左側の端面)から転走面2aaに続いて設けられ、内輪2の軸方向の一端面2bから転走面2aaに向かって径方向外側に傾斜して延びている。
【0017】
このように、斜面部2abは、内輪2の外径面2aにおける転走面2aよりも軸方向の一端面側の部分に形成されている。換言すれば、
図1に示すように、斜面部2abは、内輪2の外径面2aにおける転走面2aaに対して角度θの傾き側と反対側の部分に形成されている。ここで、「角度θの傾き側」とは、内輪2における軸受1の作用線L1が通過する側(
図2の右側)をいう。なお、角度θは、作用線L1と軸受1の中心軸とのなす角である。
【0018】
図2に示すように、内輪斜面部2abに、円周溝7が設けられている。円周溝7は円周方向に延びて環状に形成されており、断面がU字状に形成されている。円周溝7はなくてもよい。
【0019】
転がり軸受1に隣接して、外輪間座10と内輪間座11が配置されている。本実施形態では、外輪間座10および内輪間座11は、転がり軸受1の軸方向一端側(
図2の左側)に配置されている。詳細には、外輪間座10は外輪3の軸方向一端面3bに当接し、内輪間座11は内輪2の軸方向一端面2bに当接している。
【0020】
前記斜面部2abに隙間を介して沿うようにノズル部材6が配置されている。外輪間座10における軸方向他方側(
図2の右側)の内径部に、環状の切欠凹部10aが形成されている。ノズル部材6は、この切欠凹部10aに嵌合状態で取り付けられている。これに代えて、ノズル部材6は、切欠凹部10aに挿入されて、ボルトのような締結部材により取り付けられてもよい。
【0021】
ノズル部材6は、環状の部材であって、転がり軸受1の内部に向かって軸方向に延びる鍔状部6aを有している。鍔状部6aは、保持器5の直下まで延び、その内径面は斜面部2abに隙間δを持って沿う隙間形成面6aaを構成している。つまり、隙間形成面6aaは、斜面部2abと平行に設けられている。
【0022】
ノズル部材6は、隙間δに開口するエアオイルの吐出孔8を有している。詳細には、エアオイルの吐出孔8は、ノズル部材6の隙間形成面6aaに形成され、隙間δに開口している。より詳細には、エアオイルの吐出孔8は、隙間形成面6aaにおける、隙間δを介して内輪斜面部2abの円周溝7に対向する部分に形成されている。エアオイルの吐出孔8は、円周方向の1か所または複数箇所に形成されている。ノズル部材6の転がり軸受1の外側の部分の内径面は、内輪間座11の外径面に接触しない程度に近接している。
【0023】
エアオイルの吐出孔8は、上流側のノズル孔流入側部8aと、このノズル孔流入側部8aよりも下流側で小径のノズル孔吐出側部8bとを有している。ノズル孔流入側部8aは軸受1の中心軸AX(
図1)と平行に延びており、ノズル孔吐出側部8bは中心軸に対して傾斜して延びている。詳細には、ノズル孔吐出側部8bは、軸受1の内部(
図2の右側)に向かって径方向内側に傾斜して延びている。
【0024】
ノズル孔流入側部8aは、先端がテーパ面となったドリル孔である。ノズル孔吐出側部8bも、同じくドリル孔であり、ノズル孔流入側部8aの下流端部から軸受1の内部に向かって延びている。吐出孔8から吐出されるエアオイルは、内輪斜面部2abの円周溝7に直接に吹き付けられる。つまり、吐出孔8の軸心X1は、円周溝7を通過し、軸受1の中心軸AXに対して所定の傾斜角度βを持つ。
【0025】
外輪間座10に、吐出孔8の上流端に連通するエアオイル供給孔9が設けられている。このエアオイル供給孔9は、ハウジングのエアオイル供給孔(図示せず)を介してエアオイルの供給源(図示せず)に接続されている。
【0026】
ノズル部材6における吐出孔8の上流端の周囲に、円周溝12が設けられている。この円周溝12にシール部材13が設けられている。シール部材13は、例えば、Oリングである。シール部材13を設けることにより、エアオイル供給孔9と吐出孔8との連通部からエアオイルが洩れるのが防がれる。
【0027】
図2において、エアオイル供給孔9から供給されたエアオイルは、ノズル部材6の吐出孔8を介して内輪斜面部2abの円周溝7に噴射される。円周溝7に付着した油は、遠心力の作用により内輪斜面部2abに沿って導かれ、転がり軸受1の内部に潤滑油として流入する。供給エア量(潤滑油量)が少なくなって円周上で流れが不均一になった場合でも、内輪斜面部2abとノズル部材6との隙間δで生じる負圧吸引力により、潤滑油は軸受1側に流れ、ボール4または保持器5の内径面に付着し、転がり軸受1の潤滑油として機能する。また、風切音は主に内輪2の幅面2bで発生するが、ノズル部材6が軸受1の内部、詳細には、保持器5の内側、すなわち、保持器5の一端面5aよりも軸受の軸方向の中心側に入り込み、内輪斜面部2abにエアオイルを噴射するので、騒音が低下する。
【0028】
このエアオイル潤滑構造では、吐出孔8が大径のノズル孔流入側部8aと小径のノズル孔吐出側部8bとを有しているので、外輪間座10のエアオイル供給孔9から大径のノズル孔流入側部8aにエアオイルが円滑に導入され、小径のノズル孔吐出側部8bでノズル孔径を適切な径に加工できる。
【0029】
つぎに、ノズル部材6の軸受内部への突出量について説明する。
図2に示すように、ノズル部材6の軸受内部方向への突出量をA、転動体4の軸方向中心位置をBとする。ここで、「ノズル部材6の軸受内部方向への突出量A」とは、転がり軸受1の軸方向の一端面1aからノズル部材6の突出端面6abまでの距離をいう。「転動体4の軸方向中心位置B」とは、転がり軸受1の軸方向の一端面1aから転動体6の軸方向中心Oまでの距離をいう。また、「転がり軸受1の軸方向の一端面1a」とは、転がり軸受1における斜面部2abが形成される側、つまりノズル部材6側の軸方向端面(
図2の左側端面)をいう。
【0030】
この場合、転動体4の軸方向位置Bに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/B)が0.5~0.7の範囲に設定されている。つまり、転動体4の軸方向位置Bに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/B)が0.5~0.7となるように、ノズル部材6が配置されている。
【0031】
また、転がり軸受1の一端面1aから保持器5の一端面5aまでの距離をCとする。ここで、「保持器5の一端面5a」とは、保持器5における斜面部2abが形成される側の軸方向端面(
図2の左側端面)をいう。この場合、保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が1.4~3.5の範囲に設定されている。つまり、保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が1.4~3.5となるように、ノズル部材6が配置されている。
【0032】
さらに、転動体4の直径をDとし、前記転動体の直径に対するノズル部材の突出量の比(A/D)が0.5~1.0の範囲に設定されている。つまり、転動体4の直径Dに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/D)が0.5~1.0となるように、ノズル部材6が配置されている。
【0033】
上記構成によれば、軸受1の内部に突出したノズル部材6の先端の突出量Aを管理することで、潤滑効率を向上させることができる。これにより、軸受1の内部に円滑に潤滑油が供給され、適切な軸受機能を維持できる。また、潤滑効率が向上することで、潤滑油量を低減できる。その結果、ミスト飛散量も低減できるので、クリーン環境化を実現できる。さらに、ノズル部材6の先端の突出量Aを管理することで、ノズル部材6と転動体4との干渉を防ぐことができる。
【0034】
本実施形態では、ノズル部材6の先端の突出量Aの管理として、転動体4の軸方向位置Bに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/B)が0.5~0.7の範囲に設定されている。
図3に比(A/B)が0.5未満の例を示し、
図4に比(A/B)が0.7を超える例を示す。
【0035】
図3に示す転動体4の軸方向位置Bに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/B)が0.5未満の場合、
図3に楕円M1で示すように、ノズル部材6の先端と転動体4との距離が長くなる。そのため、潤滑効率が低下する。一方、
図4に示す転動体4の軸方向位置Bに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/B)が0.7を超える場合、
図4に楕円M2で示すように、ノズル部材6の先端と転動体4が干渉する。
【0036】
さらに、
図2に示すノズル部材6の先端の突出量Aの管理として、保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が1.4~3.5の範囲に設定されている。これにより、保持器5の強度を確保できるうえに、ノズル部材6と保持器5との干渉を防ぐことができる。
【0037】
図5に比(A/C)が1.4未満の例を示し、
図6に比(A/C)が3.5を超える例を示す。また、
図7に比(A/C)が1.4未満の別の例を示し、
図8に比(A/C)が3.5を超える別の例を示す。
図5および
図6は、ノズル部材6の先端の突出量Aを変えた例であり、
図7および
図8は、保持器5の大きさを変えた例である。
【0038】
図5に示す保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が1.4未満の場合、
図5に楕円M3で示すように、ノズル部材6の先端と転動体4との距離が長くなる。そのため、潤滑効率が低下する。一方、
図6に示す保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が3.5を超える場合、
図6に楕円M4で示すように、ノズル部材6の先端と転動体4が干渉する。
【0039】
図7に示す保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が1.4未満の場合、
図7に楕円M5で示すように、保持器5の幅が狭くなり、保持器5の強度を確保できない。一方、
図8に示す保持器5の一端面5aの位置Cに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/C)が3.5を超える場合、
図8に楕円M6で示すように、ノズル部材6の先端と保持器5が干渉する。
【0040】
さらに、ノズル部材6の先端の突出量Aの管理として、
図2に示す転動体4の直径Dに対するノズルの突出量の比(A/D)が0.5~1.0の範囲に設定されている。これにより、転動体4が公転する際の風圧の影響を受けにくくなり、潤滑油量(供給エア量)を低減できる。その結果、省エネと騒音低減の両方を実現できる。
【0041】
図9に転動体4の直径Dに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/D)が0.5未満の例を示し、
図10に比(A/D)が1.0を超える例を示す。
【0042】
図9に示す転動体4の直径Dに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/D)が0.5未満の場合、
図9に楕円M7で示すように、ノズル部材6の先端と転動体4との距離が長くなる。そのため、潤滑効率が低下する。また、
図9に楕円M8で示すように、ノズル部材6の先端が、保持器5の内側、すなわち保持器5の一端面5aよりも軸受の幅方向(軸方向)の中心側にまで到達しない。このため、転動体4が公転する際の風圧の影響を受けやすくなる。風圧の影響を受けにくくするには、供給エア量を増やす必要があり、騒音等の問題が起こる可能性がある。
【0043】
図10に示す転動体4の直径Dに対するノズル部材6の突出量Aの比(A/D)が1.0を超える場合、
図10に楕円M9で示すように、ノズル部材6の先端と転動体4が干渉する。
【0044】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明のエアオイル潤滑構造をアンギュラ玉軸受に適用した例を説明したが、本発明のエアオイル潤滑構造は、アンギュラ玉軸受以外の転がり軸受にも適用できる。また、本発明のエアオイル潤滑構造は、工作機械の主軸の軸受として用いられる転がり軸受以外にも適用できる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 転がり軸受(アンギュラ玉軸受)
2 内輪
2a 内輪の外径面
2aa 内輪転走面
2ab 斜面部
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 ノズル部材
8 吐出孔
A ノズル部材の軸受内部方向への突出量
B 転動体の軸方向中心位置
C 軸受の一端面から保持器の一端面までの距離
D 転動体の直径
A/B 転動体の軸方向位置に対するノズル部材の突出量の比
A/C 保持器の一端面の位置に対するノズル部材の突出量の比
A/D 転動体の直径に対するノズル部材の突出量の比