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特開2024-122482電磁波遮蔽部材及び電磁波遮蔽成形体、並びに車両用モータカバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122482
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽部材及び電磁波遮蔽成形体、並びに車両用モータカバー
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240902BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240902BHJP
   H02K 5/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
H02K5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030044
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504108772
【氏名又は名称】メディカル・エイド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 英樹
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5H605
【Fターム(参考)】
4F100AB10A
4F100AB10C
4F100AB17A
4F100AB17C
4F100AB31A
4F100AB31C
4F100AB33A
4F100AB33C
4F100AK01D
4F100AK53
4F100AR00B
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CB00
4F100DC11
4F100GB41
4F100GB51
4F100JG01A
4F100JG01C
4F100JG06B
5E321AA23
5E321AA41
5E321BB21
5E321BB25
5E321BB33
5E321BB60
5E321CC16
5E321GG11
5H605AA11
5H605BB05
5H605FF00
5H605FF03
5H605FF06
5H605FF13
(57)【要約】
【課題】軽量でありながらも、低周波数から高周波数にわたる広い周波数の電磁波の遮蔽に適した電磁波遮蔽部材及び電磁波遮蔽成形体を提供する。
【解決手段】本発明の電磁波遮蔽部材は、導電素材と磁性素材とを、導電素材が表層となるように交互に積層した積層体からなり、かつ、積層体を貫通する複数の貫通孔を有する。また、本発明の電磁波遮蔽部材は、導電素材と磁性素材とを、導電素材が表層となるように交互に積層した積層体とすることもできる。更には、繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材との電磁波遮蔽成形体とすることもできる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波の発生源からの電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽部材であって、
導電素材と磁性素材とを、前記導電素材が表層となるように交互に積層した積層体からなり、かつ、前記積層体を貫通する複数の貫通孔を有することを特徴とする電磁波遮蔽部材。
【請求項2】
前記導電素材が銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記磁性素材がナノ結晶軟磁性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項3】
銅箔からなる2枚の前記導電素材と、前記2枚の導電素材間の前記磁性素材とで、合計厚さが150μm~200μmである、請求項2に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項4】
前記導電素材の前記貫通孔がない場合の表面積をS、前記表面積S内の前記貫通孔の開口の全面積をHとするとき、(H/S)=5~30%であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項5】
前記表層の前記導電部材の表面には、熱融着フィルムが接着されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項6】
請求項1に記載の電磁波遮蔽部材と、
繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材と、
を備えることを特徴とする電磁波遮蔽成形体。
【請求項7】
電磁波の発生源からの電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽部材であって、
導電素材と磁性素材とを、前記導電素材が表層となるように交互に積層した積層体からなることを特徴とする電磁波遮蔽部材。
【請求項8】
前記導電素材が銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記磁性素材がナノ結晶軟磁性材料からなることを特徴とする請求項7に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項9】
銅箔からなる2枚の前記導電素材と、前記2枚の導電素材間の前記磁性素材とで、合計厚さが150μm~200μmである、請求項8に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項10】
前記表層の前記導電部材の表面には、熱融着フィルムが接着されていることを特徴とする請求項7に記載の電磁波遮蔽部材。
【請求項11】
請求項7に記載の電磁波遮蔽部材と、
繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材と、
を備えることを特徴とする電磁波遮蔽成形体。
【請求項12】
駆動用のモータを搭載した車両のモータカバーであって、
請求項1または7に記載の電磁波遮蔽部材を有し、かつ、前記導電素材が前記車両の金属部材に接続されることを特徴とする車両用モータカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静磁界からミリ波に及ぶ広帯域(0Hz~数十GHz)の電磁波遮蔽性能を有した、電磁波の発生源からの電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽部材及び電磁波遮蔽成形体、並びに電気自動車やハイブリッド自動車、リニアモータカー等のように、駆動用のモータを搭載した車両のモータから発せられる電磁波を遮蔽するためのモータカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、地球環境保全を目的として電気自動車やハイブリッド自動車といった二次電池を搭載した自動車の普及が進んでいる。これらの自動車においては、搭載した二次電池から発生する直流電流を、インバータを介して交流電流に変換した後に電力を交流モータに供給して駆動力を得る方式を採用するものが多い。そして、インバータのスイッチング動作等に起因して電磁波が発生する。電磁波は車載の電気・電子機器、あるいは搭乗者が持つ電気・電子機器の動作に障害となることがあり、更には搭乗者にも悪影響を与えることから、インバータやモータを、電磁波遮蔽性能を持つ車両用モータカバー内に収容して、電磁波を遮蔽することが行われている。
【0003】
また、近年の携帯電話、Wi-Fi、RFID、電源ノイズ、モーターノイズなどから発生する広帯域の電磁波が室内の通信機能を持った機器や医療機器等の各種測定機器に電磁干渉するケースが増えており、室内に電磁波遮蔽性能を持った壁・天井・床材などを配置する必要性が高まっている。
【0004】
車両用モータカバーには金属の成形品が多く用いられているが、燃費の向上のためにケースの軽量化も提案されており、例えば特許文献1では金属板をインサート加工してなる、車両用モータカバーが開示されている。特許文献1のような車両用モータカバーは、全体が金属のみを材料とするよりは軽量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-115231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動車は加速と減速を繰り返すため、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されるモータからは、低周波数から高周波数にわたる広い周波数の電磁波が発生する。車両用モータカバーに使用されている金属は、固有の周波数帯域には遮蔽効果があるものの、広い周波数には対応しきれない。
【0007】
また、電磁波遮蔽ケースに使用される金属を厚くすることにより電磁波の遮蔽効果は高まるものの、軽量化には逆行する。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてされたものであり、軽量でありながらも、低周波数から高周波数にわたる広い周波数の電磁波の遮蔽に適した電磁波遮蔽部材及び電磁波遮蔽成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、下記(1)の第1の電磁波遮蔽部材を提供する。
【0010】
(1) 電磁波の発生源からの電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽部材であって、
導電素材と磁性素材とを、前記導電素材が表層となるように交互に積層した積層体からなり、かつ、前記積層体を貫通する複数の貫通孔を有することを特徴とする第1の電磁波遮蔽部材。
【0011】
また、第1の電磁波遮蔽部材における好ましい実施形態は、下記(2)~(5)に関する。
【0012】
(2) 前記導電素材が銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記磁性素材がナノ結晶軟磁性材料からなることを特徴とする(1)に記載の第1の電磁波遮蔽部材。
(3) 銅箔からなる2枚の前記導電素材と、前記2枚の導電素材間の前記磁性素材とで、合計厚さが150μm~200μmである、(2)に記載の電磁波遮蔽部材。
(4) 前記導電素材の前記貫通孔がない場合の表面積をS、前記表面積S内の前記貫通孔の開口の全面積をHとするとき、(H/S)=5~30%であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の第1の電磁波遮蔽部材。
(5) 前記表層の前記導電部材の表面には、熱融着フィルムが接着されていることを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載の第1の電磁波遮蔽部材。
【0013】
上記課題を解決するために本発明は、下記の(6)の電磁波遮蔽成形体を提供する。
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の第1の電磁波遮蔽部材と、
繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材と、
を備えることを特徴とする電磁波遮蔽成形体。
【0014】
上記課題を解決するために本発明は、下記(7)の第2の電磁波遮蔽部材を提供する。
【0015】
(7) 電磁波の発生源からの電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽部材であって、
導電素材と磁性素材とを、前記導電素材が表層となるように交互に積層した積層体からなることを特徴とする第2の電磁波遮蔽部材。
【0016】
また、第2の電磁波遮蔽部材における好ましい実施形態は、下記(8)~(10)に関する。
【0017】
(8) 前記導電素材が銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、前記磁性素材がナノ結晶軟磁性材料からなることを特徴とする(7)に記載の第2の電磁波遮蔽部材。
(9) 銅箔からなる2枚の前記導電素材と、前記2枚の導電素材間の前記磁性素材とで、合計厚さが150μm~200μmである、(8)に記載の第2の電磁波遮蔽部材。
(10) 前記表層の前記導電部材の表面には、熱融着フィルムが接着されていることを特徴とする(7)~(9)のいずれかに記載の第2の電磁波遮蔽部材。
【0018】
上記課題を解決するために本発明は、下記の(11)の電磁波遮蔽成形体を提供する。
【0019】
(11) (7)~(10)のいずれか1つに記載の第2の電磁波遮蔽部材と、
繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材と、
を備えることを特徴とする電磁波遮蔽成形体。
【0020】
上記課題を解決するために本発明は、下記の(12)の車両用モータカバーを提供する。
【0021】
(12) 駆動用のモータを搭載した車両のモータカバーであって、
(1)~(5)の何れか1つに記載の第1の電磁波遮蔽部材または(7)~(10)の何れか1つに記載の第2の電磁波遮蔽部材を有し、かつ、前記導電素材が前記車両の金属部材に接続されることを特徴とする車両用モータカバー。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軽量でありながらも、低周波数から高周波数にわたる広い周波数の電磁波の遮蔽に適した電磁波遮蔽部材及び電磁波遮蔽成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の第1の電磁波遮蔽部材の一部を、導電素材から見た図である。
図2図2は、図1のII-II断面図である。
図3図3は、第1の電磁波遮蔽部材を模式的に示す分解図である。
図4図4の(a)は、第1の電磁波遮蔽部材と、繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材とのインサート成形品を模式的に示す断面図であり、図4の(b)は、他のインサート成形品を模式的に示す断面図である。
図5図5は、第1の電磁波遮蔽部材における貫通孔の他の例を、導電素材から見た図である。
図6図6は、第1の電磁波遮蔽部材における貫通孔の更に他の例を、導電素材から見た図である。
図7図7は、第1の電磁波遮蔽部材における貫通孔の更に他の例を、導電素材から見た図である。
図8図8は、第1の電磁波遮蔽部材における貫通孔の更に他の例を、導電素材から見た図である。
図9図9は、第1の電磁波遮蔽部材における貫通孔の更に他の例を、導電素材から見た図である。
図10図10は、第2の電磁波遮蔽部材と、繊維強化樹脂またはスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材とのインサート成形品を示す断面図である。
図11図11は、電磁波遮蔽性能の試験装置を示す模式図である。
図12図12は、試験1の結果を示すグラフである。
図13図13は、試験2の結果を示すグラフである。
図14図14は、試験3のKEC法(電界)の結果を示すグラフである。
図15図15は、試験3のKEC法(磁界)の結果を示すグラフである。
図16図16は、本発明の電磁波遮蔽部材をモータに適用した状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0025】
[第1の電磁波遮蔽部材]
図1は本発明の第1の電磁波遮蔽部材の一部を、導電素材から見た図であり、図2図1のII-II断面図であり、図3は第1の電磁波遮蔽部材を模式的に示す分解図である。
【0026】
図3に示すように、第1の電磁波遮蔽部材1は、導電素材10と磁性素材20とを、導電素材10が表層となるように、交互に積層した積層体であり、導電素材10と磁性素材20とは接着剤30で接合されている。導電素材10が電磁波を反射し、磁性素材20が電磁波を吸収し、これらが交互に積層することで反射と吸収とを繰り返すことにより、電磁波を減衰させる効果に優れるようになる。
【0027】
また、導電素材10と磁性素材20とを交互に積層することにより、導電素材10及び磁性素材20を共に薄くすることができ、結果として電磁波遮蔽部材1を薄くすることができ、大幅な軽量化を実現することができる。具体的には、導電素材10及び磁性素材20の1層当たりの厚さが、薄板やフィルム、箔のように、共に10~50μmにすることができる。
【0028】
導電素材10は金属製にすることができるが、金属種としては安価であること、軽量であること、曲げや絞りなどの加工性に優れること、入手の容易性などからアルミニウムや銅、鉄またはこれらの合金が好ましく、中でも、銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金がより好ましい。
【0029】
磁性素材20の材料としては、鉄、または鉄を含むことが好ましい。また更に、透磁率μは、材料の物質構造に影響を受けることが知られている。これらを考慮すると、パーマロイ(PCパーマロイ)、方向性ケイ素鋼板、日立金属(株)製の「ファインメット」(登録商標)を好適に用いることができる。なお、「ファインメット」は、鉄を主成分とし、結晶粒径を10nm程度まで小さくしたナノ結晶軟磁性材料である。
【0030】
接着剤30としては金属を接着できるものであれば制限はなく、例えばエポキシ系接着剤を用いることができる。
【0031】
図1及び図2に示すように、貫通孔40は、積層体の全体を貫通、即ち一方の導電素材10から他方の導電素材10まで貫通しており、導電素材10の全面にわたり複数形成される。貫通孔40を形成することにより、第1の電磁波遮蔽部材1を軽量化できることに加えて、後述するように他部材50(図4参照)を熱融着し易くなる。
【0032】
上記したように、第1の電磁波遮蔽部材1は、導電素材10が電磁波を反射し、磁性素材20が電磁波を吸収し、これらが交互に積層することで反射と吸収とを繰り返すことにより遮蔽効果に優れるようになる。そのため、貫通孔40が無いと、導電素材10による電磁波の反射や輻射の影響が強すぎて、磁性素材20による電磁波の吸収が弱くなる。一方、貫通孔40があると、導電素材10による電磁波の反射や輻射の影響が弱まり、磁性素材20による電磁波の吸収が起こりやすくなり、電磁波の反射と吸収がバランスよく発現するようになる。
【0033】
また、貫通孔40の開口の大きさやピッチによって電磁波の遮蔽性能が変化する。これは、周波数によって電磁波の振幅の巾が違い、300kHz以下の周波数帯域では、電磁波の振幅の巾は大きくなるので、貫通孔40が空いていてもシールド性能の低下は小さいが、周波数が高くなると、貫通孔40の大きさによってシールド性能は変化し、開口率が同じ場合、貫通孔40の開口が大きいほど、電磁波のシールド性能が低下する。
【0034】
具体的には、導電素材10の貫通孔40がない場合の表面積をS、表面積S内の貫通孔40の開口の全面積をHとするとき、貫通孔40の占める割合(開口率:H/S)は5~30%、好ましくは10~20%とすることが好ましい。例えば、図1の例では、一辺が100mmの正方形の導電素材10に対して、開口直径2mmの円形の貫通孔40を互いに直交する二方向にそれぞれ5mmのピッチで設け、合計441個形成している。即ち、S=10000mmで、H=1385mmであり、(H/S)は13.85%である。
このような第1の電磁波遮蔽部材1は、後述の試験からも明らかなように、0Hz~数十GHzの周波数帯域で良好な電磁波の遮蔽性能を得ることができる。
【0035】
第1の電磁波遮蔽部材1を製造するには、導電素材10と磁性素材20とを、接着剤30を介して積層した状態でプレス成形し、その後に貫通孔40を穴あけ加工すればよい。
【0036】
特に、第1の電磁波遮蔽部材1は、2枚の導電素材10を10~30μm、より好ましくは10~20μmの厚さの銅箔とし、磁性素材20を約120μmの厚さの「ファインメット」(登録商標)として、接着剤30を含めて、3層の合計厚さを150~200μmと薄く形成することで、後述する熱融着フィルム60の有無に関わらず、シート状の第1の電磁波遮蔽部材1をロール状に巻回して保管することができ、取り扱い性が良好となる。このようなロール状に巻回された電磁波遮蔽部材1は、シールドルームやシールドボックスに貼り付ける際に好適に用いられ、また、曲面状に形成された部品への貼り付けも容易に行うことができる。
なお、約50μmの厚さの2枚のアルミ箔と、約120μmの厚さの「ファインメット」とで、3層の合計厚さを250~350μmとした第1の電磁波遮蔽部材1においてもロール状に巻回して保管することができる。
【0037】
上記した第1の電磁波遮蔽部材1は、両面テープを用いて適用箇所に貼り付けて使用することができる。
【0038】
あるいは、図4に示すように、第1の電磁波遮蔽部材1と、第1の電磁波遮蔽部材1の表層を両側から挟む一対の他部材50とを一体化する電磁波遮蔽成形体とすることもできる。他部材50として、繊維強化樹脂やスーパーエンプラ系樹脂が適用される。繊維強化樹脂としては、CRFP(炭素繊維強化プラスチック)等を挙げることができる。また、スーパーエンプラ系樹脂としては、PEEK(ピーク)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリサルフォン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PAR(ポリアリレート)、PI(ポリイミド)、PES(ポリエーテルサルフォン)、PFA(ネオフロン)、ETFE(フルオン、ネオフロン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等を挙げることができる。繊維強化樹脂やスーパーエンプラ系樹脂の成形体と一体化することにより、強度や耐熱性、耐薬品性等の各種機能を付加することができる。
【0039】
第1の電磁波遮蔽部材1と、繊維強化樹脂やスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材50とを備える電磁波遮蔽成形体は、図4の(a)に示すように、ホットプレスによる熱融着によって、繊維強化樹脂やスーパーエンプラ系樹脂の樹脂が溶解し、複数の貫通孔40を介して、一対の他部材50同士を結合して、一体化してもよい。ただし、他部材50の樹脂によっては、図4の(a)に示すように、第1の電磁波遮蔽部材1の表層の導電素材10に熱融着フィルム60を予め接着し、第1の電磁波遮蔽部材1と他部材50とを、熱融着フィルム60を介在してホットプレスしてインサート成形品としてもよい。熱融着フィルム60としては、熱可塑性接着フィルムが好ましく、例えば、株式会社アイセロ製「フィクセロン(登録商標)」を好適に用いることができる。その際の加工条件は、温度130~150℃、加熱時間10~30秒、圧力1トン程度である。第1の電磁波遮蔽部材1は貫通孔40を備えるため、成形する際に熱融着フィルム60が溶融し、貫通孔40の開口に流入して溶着するため、強固に接合したインサート成形品が得られる。熱融着フィルム60の厚さは、0.1mm~0.2mm程度の薄いものが好ましい。
【0040】
なお、図4では、他部材50を第1の電磁波遮蔽部材1の上下両面に接合しているが、上面または下面の何れか一方の面でもよい。
【0041】
第1の電磁波遮蔽部材1の貫通孔40は、種々変更可能である。例えば、図5では、開口の直径を4mmとし、互いに直交する二方向にそれぞれピッチを10mmとした貫通孔40を121個形成している。この場合、S=10000mmで、H=1520mmであり、(H/S)は15.20%である。
【0042】
また、貫通孔40の開口の形状は、図1図5に示すような円形に限らず、図6に示すように正六角形、図7に示すように正方形とすることができる。
【0043】
更に、貫通孔40の配列を変えることもできる。図1図5図7では、貫通孔40を正方形の格子の各交点に形成しているが、図8及び図9に示すように、所定の方向において、奇数列と偶数列の複数の貫通孔40を、半ピッチずらして市松模様状に形成してもよい。
【0044】
また、本実施形態において、貫通孔40の直径や対角線の長さは、1mm~10mm、好ましくは、2mm~5mmであればよい。また、ピッチは、4mm~15mm、好ましくは、5mm~10mmであればよく、開口率H/Sを満足するように設計されればよい。
また、本実施形態のように、3層の電磁波遮蔽部材1の場合、後述する試験結果からもわかるように、貫通孔40の直径や対角線の長さは、2mm~3mmがより好ましく、ピッチも、5mm~8mmであればより好ましい。
【0045】
[第2の電磁波遮蔽部材]
図10に示すように、第2の電磁波遮蔽部材1Aは、第1の電磁波遮蔽部材1において、貫通孔40が形成されていないものであり、その他の構成は同じである。また、同様に、繊維強化樹脂やスーパーエンプラ系樹脂からなる他部材50とのインサート成形品とすることもできる。この場合、貫通孔40が形成されていないので、第2の電磁波遮蔽部材1Aと他部材50とは、熱融着フィルム60によって接合されている。
【0046】
上記した第1の電磁波遮蔽部材1及び第2の電磁波遮蔽部材1Aは、一対の導電素材10で磁性素材20を挟んだ積層体を単層で構成したものであるが、積層体を複数層で構成することもできる。複数層の場合も、導電素材10と磁性素材20とを、導電素材10が表層となるように、交互に積層する。
【0047】
導電素材10と磁性素材20との積層数により電磁波の遮蔽性能が異なり、積層数が増えるほど電磁波の遮蔽性能に優れようになる。但し、導電素材10と磁性素材20とを接着剤30を介してプレス成形されるため、積層数が増すほどこのプレス成形回数が増すことになる。また、高周波領域では積層数が増しても電磁波の遮蔽性能に差が少なくなり、電磁波の遮蔽性能が飽和するようになるため、積層数としては、導電素材10と磁性素材20とを合計で3~9層にすることが好ましく、それ以上多層にしても重量やコストの増加を招くだけである。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明をより明確にする。
【0049】
(試験1)
導電素材10として厚さ50μmのアルミニウム箔、磁性素材20として厚さ120μmの「ファインメット」、接着剤30としてエポキシ系接着剤を用い、アルミニウム箔を3層、「ファインメット」を2層、交互に積層した厚さが約685μmの5層構造の試験片1を用意した。また、アルミニウム箔と「ファインメット」とを積層した厚さが約310μmの3層構造の試験片2を用意した。
【0050】
比較のために、一般的に使用されている電磁波遮蔽部材として、厚さ120μmの「ファインメット」からなる試験片3、厚さ50μmのアルミニウム箔からなる試験片4、厚さ125μmの新日本電波吸収体社製「MS-PYフィルム(ニッケル+銅コーティング布帛)」からなる試験片5を用意した。
なお、試験片1~5は、いずれも貫通孔40が形成されていないものが用いられた。
【0051】
そして、図11に示す試験装置100を用いて遮蔽性能の試験を行った。図示されるように、直径10mmの60ターン・ループ・コイルを一対、一方を送信アンテナ110とし、他方を受信アンテナ120として対向配置し、その間に、上記で作製した試験片130を樹脂製の固定板135で挟んで設置した。試験片130と受信アンテナ120との距離を2.2cmとした。そして、送信アンテナ110に、スペクトル・アナライザ80に附属するトラッキング・ジェネレータ(図示せず)から100Hz~300kHzの正弦波電流を供給し、受信アンテナ120に生じる電圧をスペクトル・アナライザ140で測定した。この時、供給電流の最大値は約1.2Aであり、受信アンテナ120の中心に生じた磁界の最大値は1mTであった。
【0052】
試験結果を図12に示すが、本発明に従う試験片1、2は、試験片3~5に比べて、100Hz~300kHzまでの周波数全域にわたり、大幅に電磁波の遮蔽性能が高まっている。また、試験片1と試験片2とを比較すると、導電素材10や磁性素材20の積層数が多くなると、低周波数の電磁波に対する遮蔽性能が高まることがわかる。
【0053】
(試験2)
導電素材10として厚さ約20μmの銅箔、磁性素材20として厚さ120μmの「ファインメット」、接着剤30としてエポキシ系接着剤を用い、銅箔2枚と「ファインメット」1枚とを積層した厚さが約180μmの3層構造の積層体を用意した。そして、図5に示すように表面積10000mm内に、正方形の格子の各交点に、直径4mmの貫通孔40をピッチ10mmで121個形成した電磁波遮蔽部材Aと、図2に示すように表面積10000mm内に、正方形の格子の各交点に、直径2mmの貫通孔40をピッチ5mmで441個形成した電磁波遮蔽部材Bと、貫通孔40の無い電磁波遮蔽部材Cを作製した。
【0054】
そして、まず、図11に示す試験装置100を用いて100Hz~300kHzの低周波での遮蔽性能の試験を行った。
【0055】
試験結果を図13に示す。なお、同図には、電磁波遮蔽部材Aの測定結果を「□」、電磁波遮蔽部材Bの測定結果を「△」、電磁波遮蔽部材Cの測定結果を「×」で示す。この結果、貫通孔40の無い電磁波遮蔽部材Cも、直径4mm以下、ピッチ10mm以下の貫通孔40をそれぞれ有する電磁遮蔽部材A及びBも、100Hz~300kHzの周波数帯域で、一定のシールド性能が得られていることがわかる。特に、貫通孔40の無い電磁波遮蔽部材Cが、貫通孔40を有する電磁波遮蔽部材A及びBよりも高い電磁波の遮蔽性能を有している。
【0056】
さらに、直径4mm以下、ピッチ10mm以下の貫通孔40を有する電磁遮蔽部材A及びBは、互いの開口率はそれほど大きく変わらないが、貫通孔の開口径を小さくして、ピッチを均等に小さくした電磁波遮蔽部材Bは、電磁波遮蔽部材Aと比べて良好なシールド性能が得られていることがわかる。即ち、開口率が同じ場合、貫通孔の直径が大きいほどシールド性能が低下することがわかる。
したがって、電磁遮蔽部材A~Cは、インバータから発生する10kHz~300kHz程度のノイズを遮蔽するのに好適に使用される。
【0057】
(試験3)
次に、試験2の電磁遮蔽部材A~Cを用いて、KEC法で、300kHz~1GHzでの遮蔽性能の試験を行った。
ここで、KEC法は、(財)関西電子工業振興センターが定める測定方法で、近傍界で発生する電磁波のシールド効果を電界と磁界に分けて評価する方法である。この方法を用いた測定は、送信アンテナ(送信用の治具)から送信された電磁波を、電磁波シールドフィルム(測定試料)を介して、受信アンテナ(受信用の治具)で受信することで実施することができる。かかるKEC法では、受信アンテナにおいて、電磁波シールドフィルムを通過(透過)した電磁波が測定される。すなわち、送信された電磁波(信号)が電磁波シールドフィルムにより受信アンテナ側でどれだけ減衰したかが測定されることから、電磁波を遮断(シールド)する電磁波シールド性は、電磁波を反射する反射成分と電磁波を吸収する吸収成分との双方を合算した状態で求められる。
【0058】
図14は、KEC法(電界)での遮蔽性能を表し、図15は、KEC法(磁界)での遮蔽性能を表す。図14及び図15では、電磁波遮蔽部材Aの測定結果を点線、電磁波遮蔽部材Bの測定結果を一点鎖線、電磁波遮蔽部材Cの測定結果を実線で示す。
この結果、貫通孔40の無い電磁波遮蔽部材Cも、直径4mm以下、ピッチ10mm以下の貫通孔40をそれぞれ有する電磁遮蔽部材A及びBも、300kHz~1GHzの周波数帯域で、一定のシールド性能が得られていることがわかる。特に、貫通孔40の無い電磁波遮蔽部材Cが、貫通孔40を有する電磁波遮蔽部材A及びBよりも高い電磁波の遮蔽性能を有している。
【0059】
また、300kHz~1GHzの周波数帯域でも、貫通孔の開口径を小さくして、ピッチを均等に小さくした電磁波遮蔽部材Bは、電磁波遮蔽部材Aと比べて良好なシールド性能が得られていることがわかる。
【0060】
一方、貫通孔40の無い電磁波遮蔽部材Cは、100MHz~1GHzにおいて、80dB以上の遮蔽性能を有しているが、却って反射や輻射の影響が大きくなり、機器への電磁干渉が増幅する可能性がある。一方、貫通孔40を有する電磁波遮蔽部材A及びBは、100MHz~1GHzにおいても、28~48dB程度の遮蔽性能を有しており、1MHz~100MHzまでも均一な遮蔽性能を有しているので、反射や輻射の影響が少なく、機器への電磁干渉低減に適した素材であることがわかる。
したがって、貫通孔40を有する電磁波遮蔽部材A及びBは、様々な電磁波が行き交うような、シールドルーム以外での用途に特に好適に用いられる。
【0061】
[車両用モータカバー]
図14は、電気自動車の車両のモータ200の電磁波遮蔽に用いる車両用モータカバー200の一例を模式的に示している。車両用モータカバー200は、第1の電磁波遮蔽部材または第2の電磁波遮蔽部材を、モータ210の上面及び側面を覆うように箱型に成形したものであり、モータ210に被せるように設置される。
【0062】
電磁波遮蔽部材の表層が導電素材10であるため、電磁波が入射すると、少なくとも表層の導電素材10に電流が発生する。そこで、この発生した電流を外部に逃がすために、表層の導電素材10の周縁の適所にリード線220を接続し、リード線220の他端を車両の金属製フレーム250に接続する。
【0063】
なお、車両としては、自動車の他に、今後発展すると思われるリニアモータカー等にも対応可能である。また、電磁波遮蔽部材は、車両の他に、電子部品や筐体に貼り付けて使用でき、例えば、建材(壁紙、床材、天井材など)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 電磁波遮蔽部材
10 導電素材
20 磁性素材
30 接着剤
40 貫通孔
50 他部材
60 熱融着フィルム
200 車両用モータカバー
210 モータ
220 リード線
250 金属製フレーム
図1
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