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  • 特開-制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122501
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/34 20160101AFI20240902BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02P21/34
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030066
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 蓉佼
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505FF01
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ22
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505LL16
5H505LL22
5H505LL24
(57)【要約】
【課題】従来の位置推定方法よりも高い位置推定精度を高くすることができる制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置3は、モータMにおいて生じる拡張誘起電圧の推定値である推定拡張誘起電圧e^を算出し、推定拡張誘起電圧e^に基づいてモータMの位置の推定値である推定位置θ^re1を算出し、インバータ回路2に駆動信号が出力されなくなってからモータMが惰性回転中にモータMを再起動する際に、インバータ回路2に駆動信号が出力されなくなる前に得られたモータに関する情報、又は、インバータ回路2に駆動信号が出力されなくなった後に得られるモータに関する情報に基づいて得られる推定角速度ω^re0に基づいて、推定拡張誘起電圧e^を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、
前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ―δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ―δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換して前記インバータに出力する駆動信号出力部と、
前記γ軸電流値、前記δ軸電流値、前記γ軸電圧指令値、前記δ軸電圧指令値及び前記モータの角速度の推定値である推定角速度に基づいて、前記モータにおいて生じる拡張誘起電圧の推定値である推定拡張誘起電圧を算出し、前記推定拡張誘起電圧に基づいて前記モータの位置の推定値である推定位置を算出する推定部と、
を備え、
前記推定部は、前記インバータに前記駆動信号が出力されなくなってから前記モータが惰性回転中に前記モータを再起動する際に、前記インバータに前記駆動信号が出力されなくなる前に得られた前記モータに関する情報、又は、前記インバータに前記駆動信号が出力されなくなった後に得られる前記モータに関する情報に基づいて得られる前記推定角速度に基づいて、前記推定拡張誘起電圧を算出する、制御装置。
【請求項2】
前記インバータに前記駆動信号が出力されなくなった後に得られる前記モータに関する情報は、前記モータの端子間電圧である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記推定拡張誘起電圧に基づいて前記推定角速度を算出し、
前記インバータに前記駆動信号が出力されなくなる前に得られた前記モータに関する情報は、前記モータに前記駆動信号が出力されなくなる直前に算出された前記推定角速度である、請求項1に記載の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張誘起電圧を用いたモータの位置センサレス制御が知られている。例えば、非特許文献1には、フリーラン状態からの再起動直後に、電流指令値を一定時間0に設定することで、励起される拡張誘起電圧を推定し、当該拡張誘起電圧が不足する停止低速域では位置推定及び極性判定を行い、当該拡張誘起電圧が十分な中高速域では信号重畳を行わずに位置推定を行う再起動アルゴリズムが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】小櫻崇雅,道木慎二,“拡張誘起電圧を用いた永久磁石同期モータの位置センサレス制御におけるフリーラン状態からの再起動の検討”,電気学会研究会資料(モータドライブ/回転機/自動車合同研究会),日本,電気学会,2021年5月30日,p.63-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の位置推定方法では、全ての条件において精度の高い位置推定ができる訳ではなく、異なる位置推定方法の提案が望まれている。
【0005】
本開示は、位置推定の精度を向上可能な制御装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ―δ電流指令値出力部と、γ軸電流値とγ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともにδ軸電流値とδ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ―δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を駆動信号に変換してインバータに出力する駆動信号出力部と、γ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値、δ軸電圧指令値及びモータの角速度の推定値である推定角速度に基づいて、モータにおいて生じる拡張誘起電圧の推定値である推定拡張誘起電圧を算出し、推定拡張誘起電圧に基づいてモータの位置の推定値である推定位置を算出する推定部と、を備え、推定部は、インバータに駆動信号が出力されなくなってからモータが惰性回転中にモータを再起動する際に、インバータに駆動信号が出力されなくなる前に得られたモータに関する情報、又は、インバータに駆動信号が出力されなくなった後に得られるモータに関する情報に基づいて得られる推定角速度に基づいて、推定拡張誘起電圧を算出する。
【0007】
この制御装置においては、モータが惰性回転中にモータが再起動されて最初に推定拡張誘起電圧を暗出する際、モータに関する情報を基に得られるモータの推定角速度を用いて推定拡張誘起電圧が算出される。このため、実際の角速度に近い推定角速度を用いて推定拡張誘起電圧を算出でき、位置推定の精度を向上させることが可能となる。
【0008】
いくつかの実施形態において、インバータに駆動信号が出力されなくなった後に得られるモータに関する情報は、モータの端子間電圧であってもよい。この場合、実際の角速度に近い推定角速度を用いて推定拡張誘起電圧を算出でき、位置推定の精度を向上させることが可能となる。
【0009】
いくつかの実施形態において、推定部は、推定拡張誘起電圧に基づいて推定角速度を算出し、インバータに駆動信号が出力されなくなる前に得られたモータに関する情報は、モータに駆動信号が出力されなくなる直前に算出された推定角速度であってもよい。この場合、実際の角速度に近い推定角速度を用いて推定拡張誘起電圧を算出でき、位置推定の精度を向上させることが可能となる。。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、位置推定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
図2図2は、図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、図1の制御装置が行う再起動前処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態に係る制御装置を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0013】
図1を参照しながら、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成を説明する。図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。図1に示される制御システム1は、モータ(電動機)Mの位置センサレス制御を行うシステムである。モータMは、位置センサレスのモータであり、例えば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータMは、例えば、電動フォークリフト及びプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される。制御システム1は、インバータ回路2と、制御装置3と、電流センサSe1,Se2,Se3と、電圧センサSe4と、を含む。
【0014】
インバータ回路2は、直流電源PSから供給される直流電力によりモータMを駆動する。インバータ回路2は、コンデンサCと、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6と、を含む。
【0015】
コンデンサCは、直流電源PSから出力され、インバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0016】
スイッチング素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子SW1は、U相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW2は、U相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW3は、V相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW4は、V相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW5は、W相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW6は、W相の下アームのスイッチング素子である。コンデンサCの一方の端子は、直流電源PSの正極端子及びスイッチング素子SW1,SW3,SW5のそれぞれのコレクタ端子に接続されている。コンデンサCの他方の端子は、直流電源PSの負極端子及びスイッチング素子SW2,SW4,SW6のそれぞれのエミッタ端子に接続されている。
【0017】
スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe1を介してモータMのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe2を介してモータMのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe3を介してモータMのW相の入力端子に接続されている。
【0018】
スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲートには、制御装置3から駆動信号が供給される。スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれは、ゲートに供給される駆動信号に基づいて、オン又はオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオン又はオフすることで、直流電源PSから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それらの交流電力がモータMの3つの相(U相、V相、及びW相)の入力端子に入力されてモータMの回転子が回転する。
【0019】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子又はシャント抵抗などによって構成される。電流センサSe1は、モータMのU相に流れる交流電流の電流値であるU相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe2は、モータMのV相に流れる交流電流の電流値であるV相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe3は、モータMのW相に流れる交流電流の電流値であるW相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。なお、本実施形態では、電流センサSe1~Se3の3つ備えているが、3つではなく、2つでもよい。
【0020】
電圧センサSe4は、ホール素子又はシャント抵抗などによって構成される。電圧センサSe4は、モータMのU層の入力端子とモータMのV層入力端子との間に接続され、モータMのU層とV層との間の端子間電圧である線間電圧Vuvを検出して制御装置3に出力する。
【0021】
制御装置3は、モータMの位置センサレス制御を行う装置である。制御装置3は、インバータ回路2を制御することによって、モータMを駆動させる。制御装置3は、ドライブ回路4と、演算器5と、を含む。
【0022】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などによって構成さる。ドライブ回路4は、演算器5から出力されるU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V と搬送波(三角波、ノコギリ波、又は逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0023】
演算器5は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(メモリ、Random Access Memory)などから構成される電子制御ユニットである。例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されることにより、演算器5の各種機能が実現される。演算器5は、機能的な構成要素として、指令値生成部50と、位置推定部55と、を含む。
【0024】
図2は、図1に示される演算器の機能構成を詳細に示すブロック図である。図2に示されるように、演算器5は、指令値生成部50として、座標変換部51と、γ-δ電流指令値出力部52と、γ-δ電圧指令値算出部53と、座標変換部54と、を含む。
【0025】
指令値生成部50は、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値I、γ軸電流指令値Iγ 及びδ軸電流指令値Iδ に基づいてU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V を生成する。なお、指令値生成部50は、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値Iのうち、二相の電流値を入力し、残りの一相の電流値は、入力した二相の電流値から算出する機能を有していてもよい。
【0026】
指令値生成部50に含まれる座標変換部51は、位置推定部55から出力される推定位置θ^re1に基づいて、U相電流値I、V相電流値I及びW相電流値Iをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。すなわち、座標変換部51は、モータMに流れる電流をγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する電流値変換部として機能する。推定位置θ^re1は、モータMの回転子の位置θre1の推定値である。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部51は、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを位置推定部55及びγ-δ電圧指令値算出部53に出力する。
【0027】
なお、「θ^re1」の表記では「^」が「θ」の右上に位置しているが、「θ^re1」と図1の位置推定部55から指令値生成部50に向かう矢印のうちの上の矢印に記載されている記号とは同じ意味である。他の「^」の表記についても同様とする。本明細書において記号「^」は、推定値を意味する。
【0028】
γ-δ座標系は、位置センサレス制御における推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。
【0029】
指令値生成部50に含まれるγ-δ電流指令値出力部52は、外部から入力される角速度指令値ωと、位置推定部55から出力される推定角速度ω^reとの角速度差Δωを算出し、角速度差Δωを用いてトルク指令値Tを算出する。推定角速度ω^reは、モータMの回転子の角速度ωreの推定値である。
【0030】
γ-δ電流指令値出力部52は、トルク指令値Tを用いてγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δを算出する。なお、γ軸電流指令値I γ、及びδ軸電流指令値I δの生成方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0031】
指令値生成部50に含まれるγ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電流指令値I γとγ軸電流値Iγとの差である差分γ軸電流指令値ΔI γを算出するとともに、δ軸電流指令値I δとδ軸電流値Iδとの差である差分δ軸電流指令値ΔI δを算出し、差分γ軸電流指令値ΔI γ及び差分δ軸電流指令値ΔI δをγ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δに変換する。すなわち、γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電流指令値I γとγ軸電流値Iγに基づいてγ軸電圧指令値V γを算出するとともに、δ軸電流指令値I δ及びδ軸電流値Iδに基づいてδ軸電圧指令値V δを算出する。
【0032】
なお、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δの生成方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを位置推定部55及び座標変換部54に出力する。
【0033】
指令値生成部50に含まれる座標変換部54は、位置推定部55から出力される推定位置θ^re1に基づいて、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δをU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V に変換する。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部54は、U相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V をドライブ回路4に出力する。すなわち、座標変換部54とドライブ回路4は、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを駆動信号に変換し、インバータ回路2に出力する駆動信号出力部として機能するといえる。
【0034】
位置推定部55は、推定角速度ω^re及び推定位置θ^re1を算出する機能を備える。位置推定部55は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V γ、δ軸電圧指令値V δ、不図示のメモリに記憶された推定角速度ω^re及び予め推定可能な推定モータパラメータに基づいて、モータMにおいて生じる拡張誘起電圧(EEMF:Extended ElectroMotive Force)eの推定値である推定拡張誘起電圧e^を算出する。すなわち、位置推定部55は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V γ、δ軸電圧指令値V δ及び推定角速度ω^reに基づいて、モータMにおいて生じる拡張誘起電圧の推定値である推定拡張誘起電圧e^を算出するといえる。具体的には、位置推定部55は、式(1)に示されるオブザーバ(モータモデル)を用いて、推定拡張誘起電圧e^を算出する。推定拡張誘起電圧e^は、γ軸推定拡張誘起電圧e^γと、δ軸推定拡張誘起電圧e^δと、をベクトル成分として含む。
【数1】

【0035】
なお、pは、時間微分演算子d/dtを表す。推定巻線抵抗R^、d軸推定インダクタンスL^、及びq軸推定インダクタンスL^は、制御対象のモータMのモータパラメータの推定値であり、モータMを用いた測定などによって予め推定される。モータMのモータパラメータの実値ではなく推定値としているのは、モータMに流れる電流や温度によってモータパラメータは変動するためである。
【0036】
そして、位置推定部55は、推定拡張誘起電圧e^に基づいて位置誤差Δθ^reを算出する。具体的には、位置推定部55は、式(2)により、推定拡張誘起電圧e^から位置誤差Δθ^reを算出する。
【数2】

【0037】
次に、位置推定部55は、位置誤差Δθ^reに基づいて推定角速度ω^reを算出する。具体的には、位置推定部55は、例えば、位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算することで推定角速度ω^reを算出する。
【0038】
そして、位置推定部55は、推定角速度ω^reと位置誤差Δθ^reとに基づいて推定位置θ^re1を算出する。具体的には、位置推定部55は、例えば、推定角速度ω^reを積分することによって得られる仮の推定位置θ^と、位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算することで得られる補正位置誤差Δθとを、加算することで推定位置θ^re1を算出する。なお、位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算しているが、必ずしも所定の伝達関数を乗算する必要はない。その後、位置推定部55は、算出した推定角速度ω^re及び推定位置θ^re1をメモリに記憶するとともに、推定角速度ω^reをγ-δ電流指令値出力部52に出力し、推定位置θ^re1を座標変換部51及び座標変換部54に出力する。
【0039】
ここで、制御装置3は、モータMの停止要求を上位装置から受信した場合に、モータMを強制的に停止させることなく、U相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V の出力を停止する。したがって、モータMは、惰性で回転しているフリーラン状態となる。その後、制御装置3は、上位装置からモータMの再起動要求を受信すると、モータMの再起動を実施する。
【0040】
以下、図3を更に参照しながら、制御装置3が行う再起動要求を受信して再起動する前までに行う処理である再起動前処理を詳細に説明する。図3は、図1の制御装置が行う再起動前処理の一例を示すフローチャートである。
【0041】
制御装置3は、モータMの停止要求を上位装置から受信した場合、制御装置3の指令値生成部50は、ドライブ回路4に対するU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V の出力を停止するとともに、メモリに記憶された推定角速度ω^re及び推定位置θ^re1をゼロにリセットするものとする。(ステップS1)。これにより、モータMが惰性回転するフリーラン状態となる。
【0042】
その後、モータMの惰性回転中に、制御装置3において上位装置からモータMの再起動要求が受信されたか否かが定期的にチェックされる(ステップS2)。制御装置3が再起動要求を受信したと判断した場合(ステップS2;Yes)、位置推定部55は、指令値生成部50からインバータ回路2に駆動信号が出力されなくなった後におけるモータMに関する情報を取得する。すなわち、位置推定部55は、モータMに関する情報として、電圧センサSe4から、モータMの線間電圧(U-V線間電圧Vuv、または、U-W線間電圧Vuw、または、V-W線間電圧Vvw)を取得する(ステップS3)。
【0043】
次に、位置推定部55は、取得した線間電圧を基に、モータMの再起動要求の受信時におけるモータMの角速度の推定値である推定角速度ω^re0を算出し、算出した推定角速度ω^re0をメモリに記憶させる(ステップS4)。一例としては、位置推定部55は、線間電圧に、予め制御装置3内に記憶された所定の係数を乗ずることによって推定角速度ω^re0を算出する。所定の係数は、モータMを対象に予め測定された線間電圧とモータMの角速度との間の関係を基に設定及び記憶される。以上により、再起動前処理が終了する。
【0044】
以上説明した制御装置3においては、モータMが惰性回転中に再起動要求を受信して最初に推定拡張誘起電圧e^を算出する際、モータMに関する情報を基に得られるモータの推定角速度ω^re0を用いて、推定拡張誘起電圧e^を算出する。本実施形態によれば、推定角速度ω^reをゼロとして推定拡張誘起電圧e^を算出する場合と比較して、実際の角速度に近い推定角速度ω^reを用いて推定拡張誘起電圧e^を算出でき、位置推定の精度を向上させることが可能となる。
【0045】
また、本実施形態では、指令値生成部50からモータMに駆動信号が出力されなくなった後に得られるモータMに関する情報は、モータMの線間電圧とされている。この場合、モータの推定角速度ω^reを実際の角速度に近い値に設定することができる。
【0046】
上記実施形態では、再起動要求を受信した後に最初に推定拡張誘起電圧e^を算出する際、モータMの線間電圧から算出されるモータの推定角速度ω^re0を用いているが、それ以外の情報を利用してもよい。例えば、従来、制御装置3が停止要求を受信した場合に、メモリに記憶された推定角速度ω^reをゼロにリセットするが、ゼロにリセットせずに保持してもよい。この場合、メモリに記憶された推定角速度ω^reは、インバータ回路2に駆動信号が出力されなくなる直前に算出された推定角速度ω^reであり、インバータ回路2に駆動信号が出力されなくなる前に得られたモータMに関する情報であるといえる。モータMに駆動信号が出力されなくなってから、直ぐに再起動する場合、推定角速度ω^reをゼロとして推定拡張誘起電圧e^を算出する場合と比較して、実際の角速度に近い推定角速度ω^reを用いて推定拡張誘起電圧e^を算出でき、位置推定の精度を向上させることが可能となる。
【0047】
また、制御装置3が停止要求を受信した場合に、メモリに記憶された推定角速度ω^reをゼロにリセットするが、ゼロにリセットせずに保持するとともに、メモリに記憶された推定角速度ω^re及びフリーラン状態になった時間とから推定角速度ω^reを算出し、メモリに記憶してもよい。
【0048】
以上、本開示の一実施形態について詳細に説明されたが、本開示に係る制御装置は上記実施形態に限定されない。
【0049】
本実施形態における再起動前処理においては、モータMの停止要求が受信されたことを契機に実行されているが、このような契機には限定されない。例えば、制御システム1内のインバータ回路2に対して何らかの原因によって駆動信号が出力されなくなってインバータ回路2によるモータMの駆動が停止されたことを契機に、再起動前処理が開始されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…制御システム、2…インバータ回路、3…制御装置、4…ドライブ回路(駆動信号出力部)、50…指令値生成部、51…座標変換部(電流値変換部)、52…γ-δ電流指令値出力部、53…γ-δ電圧指令値算出部、54…座標変換部(駆動信号出力部)、55…位置推定部、M…モータ、SW1~SW6…スイッチング素子。
図1
図2
図3