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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122504
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240902BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20240902BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20240902BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240902BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240902BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240902BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L29/14
C08K5/11
C08K3/26
C08K3/34
C08L67/04
C08L67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030071
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】509328892
【氏名又は名称】株式会社 ガラステクノシナジー
(71)【出願人】
【識別番号】514082295
【氏名又は名称】マスダ商事株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】國領 一人
(72)【発明者】
【氏名】神澤 岳史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BE06X
4J002CF03W
4J002CF05W
4J002CF18W
4J002DE238
4J002DJ048
4J002EH006
4J002EH016
4J002EH017
4J002EH097
4J002FD010
4J002FD026
4J002FD027
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD180
4J002FD208
4J002GF00
4J002GJ00
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 可塑剤が含まれる中間膜シート素材を他の樹脂にブレンドした場合であっても、耐ブリードアウト性と耐熱性、さらには耐衝撃性に優れた樹脂組成物を与える。
【解決手段】 脂肪族ポリエステル樹脂および脂肪族芳香族ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリエステル樹脂と、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂に含有される可塑剤Aとは異なる可塑剤Bとを含み、可塑剤Bは、コハク酸またはアジピン酸と、ベンジルアルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類とから構成される脂肪族多塩基酸エステル系可塑剤であり、ポリエステル樹脂の含有量と可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリエステル樹脂:可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内にある。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂および脂肪族芳香族ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリエステル樹脂と、
可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂と、
前記ポリビニルアセタール樹脂に含有される可塑剤Aとは異なる可塑剤Bと
を含み、
前記可塑剤Bは、
コハク酸またはアジピン酸と、
ベンジルアルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類とから構成される脂肪族多塩基酸エステル系可塑剤であり、
前記ポリエステル樹脂の含有量と前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリエステル樹脂:可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内にあることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の含有量と前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との合計と、前記可塑剤Bの含有量との重量比が、樹脂合計:可塑剤B=100:5~100:50の範囲内にある、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンアジペートテレフタレートから選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアセタール樹脂が、ポリビニルブチラールである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記グリコールエーテルが、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、結晶核剤を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記結晶核剤が、タルクまたは炭酸カルシウムである、請求項6記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、耐ブリードアウト性と耐熱性、さらには耐衝撃性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や航空機、あるいは建築用等の窓ガラスには、破損時のガラスの破片の飛散を防止すること等を目的として、合わせガラスが広く用いられている。合わせガラスとしては、ガラス板の間に、例えばポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂を含有する中間膜シートを介在させて一体化させたものがある。一般的に、合わせガラス中間膜シート用ポリビニルアセタール樹脂には、柔軟性付与や、粘度調整、吸音性能付与を目的として、液体可塑剤が必須成分として数10%程度含有されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
工程端材や市場に出回っている合わせガラス中間膜シートをマテリアルリサイクルするには、前記可塑剤が含まれた状態で取扱うこととなる。しかしながら、可塑剤が添加されたポリビニルアセタール樹脂は、軟化点が概ね室温程度であり、室温を超えると顕著に変形するなど、マテリアルリサイクルを行うには耐熱性が低く、用途が限られる。そのため、前記中間膜シート素材をポリオレフィン系樹脂等の他の樹脂にブレンドし、樹脂組成物として様々な用途で利用することが検討されている。しかしながら、前記可塑剤が樹脂組成物からブリード(滲み出し)し、製品として用いることは困難であった。そこで、中間膜シート等の可塑剤が多く含まれる素材を含む場合であっても、可塑剤等の組成物からのブリードを制御可能な樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の技術によると、可塑剤のブリードは、柔軟性樹脂の添加により抑制・制御可能であることが見出されたものの、ブリード抑制効果の発現には、中間膜相当成分に対し相当量の柔軟性樹脂(第三成分)の添加が必要となるなどの課題があった。
【0004】
また、柔軟性や力学特性に優れた接着性に優れた樹脂組成物を得ることを目的に、ポリビニルアセタールと複数の熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、当該発明では、中間膜成分に必須である可塑剤の添加が任意であるほか、複数の熱可塑性樹脂を列挙するにとどまるなど、本発明が目指す、耐ブリードアウト性と耐熱性、さらには耐衝撃性に優れた樹脂組成物の提供に関する着想や示唆は開示されていない。
【0005】
熱可塑性樹脂、特に結晶性熱可塑性樹脂に可塑剤を添加する効果として、前記柔軟性付与等に加え、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化を促進し、耐熱性を高める効果があることが知られている。これは、可塑剤が、結晶性樹脂の非晶部に相溶し、ガラス転移温度の低下と非晶分子の運動性を高める働きを行うためであり、その効果は可塑剤添加量に伴って大きくなるとされている。その一方で、同樹脂が結晶化した後であっても可塑剤は非晶部に存在し続けることになるため、過度に結晶化が進行した場合や、添加可塑剤量が過大であった場合は、非晶部の可塑剤量が相対的に増加することになり、結晶化の進行や時間の経過に伴って徐々にブリードが進行し、製品性状の悪化につながる場合がある。加えて、結晶化の進行に伴い、衝撃吸収を担う非晶部が相対的に減少することから、耐衝撃性は低下する傾向となる。すなわち、結晶化の進行(耐熱性の向上)と耐衝撃性との関係は相反する関係になるとされている。このような観点で、これまで、様々な樹脂組成物が提案されてきたが(例えば、特許文献4参照)、耐熱性の向上には一定の効果が見られるものの、耐衝撃性との両立は不充分といわざるを得ず、また、生産性やコストの面でも充分とはいえない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/095749号
【特許文献2】国際公開第2021/181999号
【特許文献3】国際公開第2015/125688号
【特許文献4】特開2011-241347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、可塑剤が含まれる中間膜シート素材を他の樹脂にブレンドした場合であっても、耐ブリードアウト性と耐熱性、さらには耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
脂肪族ポリエステル樹脂および脂肪族芳香族ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリエステル樹脂と、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂と、前記ポリビニルアセタール樹脂に含有される可塑剤Aとは異なる可塑剤Bとを含み、
前記可塑剤Bは、
コハク酸またはアジピン酸と、
ベンジルアルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類とから構成される脂肪族多塩基酸エステル系可塑剤であり、
前記ポリエステル樹脂の含有量と前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリエステル樹脂:可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内にあることを特徴とする。
【0009】
本発明の樹脂組成物において、前記ポリエステル樹脂の含有量と前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との合計と、前記可塑剤Bの含有量との重量比が、樹脂合計:可塑剤B=100:5~100:50の範囲内にあることが好ましい。
【0010】
本発明の樹脂組成物において、前記ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンアジペートテレフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明の樹脂組成物において、前記ポリビニルアセタール樹脂が、ポリビニルブチラールであることが好ましい。
【0012】
本発明の樹脂組成物において、前記グリコールエーテルが、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本発明の樹脂組成物において、さらに、結晶核剤を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の樹脂組成物において、前記結晶核剤が、タルクまたは炭酸カルシウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可塑剤が含まれる中間膜シート素材を他の樹脂にブレンドした場合であっても、耐ブリードアウト性と耐熱性、さらには耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることができる。具体的には、第一に、中間膜シート素材のように可塑剤が相当量含まれる樹脂を他の樹脂にブレンドした場合であっても、第三成分を添加することなく耐ブリードアウト性が達成される。第二に、前記ブレンドに対しさらに可塑剤を添加することで、耐熱性と耐衝撃性の向上が第三成分を添加することなく達成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル樹脂および脂肪族芳香族ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリエステル樹脂と、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂と、前記ポリビニルアセタール樹脂に含有される可塑剤Aとは異なる可塑剤Bとを含む。前記可塑剤Bは、コハク酸またはアジピン酸と、ベンジルアルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類とから構成される脂肪族多塩基酸エステル系可塑剤である。そして、前記ポリエステル樹脂の含有量と前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリエステル樹脂:可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内にある。
【0017】
前記ポリエステル樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンアジペートテレフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂は、熱分解開始温度が概ね200℃程度であり、200℃を超える温度で混練することができないが、これらのポリエステル樹脂は、いずれも融点が100~170℃程度であり、混練温度が200℃未満に設定可能である。加えて、これらのポリエステル樹脂は、分子中に極性成分があることから、ポリビニルアセタール樹脂との親和性が良好であるため、好ましい。前記ポリエステル樹脂としては、1種類を単独で配合してもよく、2種以上のポリエステル樹脂を併用してもよい。
【0018】
前記可塑剤Bは、コハク酸またはアジピン酸と、ベンジルアルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類とから構成される脂肪族多塩基酸エステル系可塑剤である。具体的には、混基二塩基酸エステルであるベンジルメチルジグリコールアジペート、ビス(2-(2-ブトキシエトキシ)エチル)アジペート等を挙げることができる。前記可塑剤としては、1種類を単独で配合してもよく、2種以上の前記可塑剤を併用してもよい。
【0019】
本発明におけるポリビニルアセタール樹脂は、中間膜シート素材等を想定したものである。例えば、自動車のフロントガラス等に用いられる中間膜のPVB樹脂や、端材として余ったPVB樹脂フィルム等が挙げられる。これらの中間膜シート素材は、可塑剤が含まれており、本発明においては、ポリビニルアセタール樹脂(中間膜)に含まれる可塑剤を可塑剤Aとしたとき、前記可塑剤Bは前記可塑剤Aとは異なるものである。中間膜シート素材においては、前記可塑剤Aは、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対し、好ましくは20~90重量部、より好ましくは20~80重量部、さらに好ましくは20~70重量部の範囲で含まれていることが多い。
【0020】
前記ポリエステル樹脂と、前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂のみでは、結晶化速度が不充分であるところ、前記可塑剤Bを添加することにより、樹脂組成物の結晶化速度を向上させることができる。ここで、前記可塑剤Aとしては、トリエチレングリコール-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。そして、前記特定の可塑剤B以外の可塑剤を追加添加するとブリードするが、前記可塑剤Bを追加添加するとブリードは抑制される。前記ポリエステル樹脂の含有量と前記可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂の含有量との合計と、前記可塑剤Bの含有量との重量比は、樹脂合計:可塑剤B=100:5~100:50の範囲内にあることが好ましい。前記可塑剤Bの含有量が少なすぎると充分な結晶化速度が得られない。また、前記可塑剤Bの含有量が多すぎると、結晶化速度とブリードの抑制との両立が困難になることがある。
【0021】
脂肪族多塩基酸エステル系可塑剤である前記可塑剤Bを構成するアルコール類がグリコールエーテルである場合、前記グリコールエーテルは、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらのグリコールエーテルは、分子鎖に極性基が複数存在することから、ポリエステル類との相互作用が増し、ポリエステルとの親和性が高まる。その結果、ポリエステルの可塑化効果と結晶化効果、加えてブリードアウト抑制効果をいずれも達成することが可能になる。
【0022】
前記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアセトアセタールおよびポリビニルブチラール(PVB)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量は、1,000以上であることが好ましく、さらに好ましくは、10,000以上である。前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量は、1.0×10以上の範囲であってもよい。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、さらに、結晶核剤を含むことが好ましい。前記結晶核剤は、タルクまたは炭酸カルシウムであることが好ましい。結晶核剤を含有させることにより、さらに結晶化速度を向上させることができる。前記結晶核剤は、それ以外の成分(樹脂、中間膜、可塑剤)の合計の100重量部に対して、好ましくは1~40重量部、より好ましくは2~30重量部、さらに好ましくは3~25重量部の範囲で含まれているとよい。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、その他、任意の成分として、無機フィラー、有機フィラー、顔料、染料、ラジカル開始剤、難燃剤、酸化防止剤、抗酸化剤、抗菌剤、制菌剤および殺菌剤等の一般的な添加剤等を、本発明における効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。ラジカル開始剤としては、過酸化剤等を好適に用いることができる。抗酸化剤としては、カテキンなどのポリフェノール類を好適に用いることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、例えば、ニーダーに各材料を投入して混練した後、それらを押出成形機で製造することができる。本発明によると、得られる樹脂組成物のブリード特性を制御することができ、リサイクル後にブリードが起こりやすい原料樹脂材料についても、利活用が可能となる。なお、必要に応じて、得られた樹脂組成物をペレット化してもよいし、シート状、フィルム状に加工してもよい。特に、シート、フィルムは表面積が大きいことから、少量のブリードであっても手触りや性能等、製品全体に影響を及ぼし得る。そのため、当該技術の適応製品として好ましく用いることができる。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例および比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0027】
実施例および比較例、参考例で使用した材料は、次のとおりである。
・ポリ乳酸(PLA)
浙江海正生物材料股ふん有限公司製「REVODE290」
・ポリブチレンサクシネート(PBS)
三菱ケミカル株式会社製「FZ91」
・ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)
BASFジャパン株式会社製「ECOFLEX」
・ポリビニルブチラール
積水化学工業株式会社製「エスレックB ・BH-A」分子量11.5×10
・DF101 (可塑剤B) 混基二塩基酸エステル
大八化学工業株式会社製「DAIFATTY101」(ベンジルメチルジグリコールアジペート)
・BXA-N (可塑剤B)
大八化学工業株式会社製「BXA-N」(ビス(2-(2-ブトキシエトキシ)エチル)アジペート)
・DBA (可塑剤Bではない可塑剤)
大八化学工業株式会社製「DBA」(ジブチルアジペート)
・G-260 (可塑剤Bではない可塑剤)
積水化学工業株式会社製「G-260」(トリエチレングリコール-2-エチルヘキサノエート)
・タルク 1μm
日本タルク株式会社製「SG-2000」(超微粉タルク(粒径1μm))
・疑似中間膜(可塑剤A入りポリビニルアセタール樹脂)
分子量が11.5×10のPVB(「エスレックB」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤A(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤A=3:1で配合したもの
・工程内排出中間膜(可塑剤A入りポリビニルアセタール樹脂)
積水化学工業株式会社製 自動車用中間膜(機能膜)
【0028】
[樹脂組成物1-1~1-4](参考例)
樹脂組成物1-1~1-4は、疑似的に作製した中間膜組成の樹脂組成物(本発明における、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)を用いて、ポリエステル樹脂は添加せずに、可塑剤(可塑剤B、比較の可塑剤)を添加した参考例の樹脂組成物である。配合比は、表1に示す。
【0029】
(樹脂組成物の調製)
(1)中間膜(可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)を数ミリ角のペレット状にしてバッチ式ニーダー(ラボプラストミル(登録商標)10S100、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、回転数12.5rpmで5分間混練し、混練サンプルを得た。混練に際しては、加工温度140℃とし、電源投入/温度設定後、1時間以上放置し加工槽の温度ムラをなくしてから行った。
(2)同じ回転数の状態で、前記混練サンプルに追加の可塑剤(可塑剤B、比較の可塑剤)を滴下して添加した。
(3)追加の可塑剤添加後、さらに同じ回転数で5分間混練し、参考例の樹脂組成物を得た。
【0030】
(シート成形)
卓上プレス機(小型プレスG-12型、テクノサプライ株式会社製)にて、得られた樹脂組成物を、加工温度140℃で加熱プレスした後、水道水を内部通水した金属製の板(水冷ヒートシンク)に直ちに挟み込んで冷却して、1mm厚のシート状に加工した。これを5cm×5cmに切り出したものをシート状試験片とした。樹脂組成物1-3(可塑剤DBAの系)では、加工温度と可塑剤の沸点が近く、可塑剤の揮発が激しく、臭気の発生や装置の汚染が起こった。また、経時的な可塑剤の揮発により、安定的な混合割合の実現が困難となった。
【0031】
[樹脂組成物1-5](比較例、追加の可塑剤添加なし)
樹脂組成物1-5は、疑似的に作製した中間膜組成の樹脂組成物(本発明における、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)を用いて、ポリエステル樹脂を添加し、可塑剤(可塑剤B、比較の可塑剤)を添加しなかった、比較例の樹脂組成物である。配合比は、表1に示す。
【0032】
(樹脂組成物の調製)
(1)ポリエステル樹脂(PLA)と数ミリ角のペレット状にした中間膜(可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)とをバッチ式ニーダー(ラボプラストミル(登録商標)10S100、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、回転数12.5rpmで5分間混練し、比較例の樹脂組成物を得た。混練に際しては、加工温度180℃とし、電源投入/温度設定後、1時間以上放置し加工槽の温度ムラをなくしてから行った。
【0033】
(シート成形)
卓上プレス機(小型プレスG-12型、テクノサプライ株式会社製)にて、得られた樹脂組成物を、加工温度180℃で加熱プレスした後、水道水を内部通水した金属製の板(水冷ヒートシンク)に直ちに挟み込んで冷却して、1mm厚のシート状に加工した。これを5cm×5cmに切り出したものをシート状試験片とした。
【0034】
[樹脂組成物1-6~1-13](実施例、比較例)
(樹脂組成物の調製)
(1)ポリエステル樹脂(PLA)と数ミリ角のペレット状にした中間膜(可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)とをバッチ式ニーダー(ラボプラストミル(登録商標)10S100、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、回転数12.5rpmで5分間混練し、混練サンプルを得た。混練に際しては、加工温度180℃とし、電源投入/温度設定後、1時間以上放置し加工槽の温度ムラをなくしてから行った。
(2)同じ回転数の状態で、前記混練サンプルに追加の可塑剤(可塑剤B、比較の可塑剤)を滴下して添加した。
(3)追加の可塑剤添加後、さらに同じ回転数で5分間混練し、実施例および比較例の樹脂組成物を得た。
【0035】
(シート成形)
卓上プレス機(小型プレスG-12型、テクノサプライ株式会社製)にて、得られた樹脂組成物を、加工温度180℃で加熱プレスした後、水道水を内部通水した金属製の板(水冷ヒートシンク)に直ちに挟み込んで冷却して、1mm厚のシート状に加工した。これを5cm×5cmに切り出したものをシート状試験片とした。樹脂組成物1-8および1-12(可塑剤DBAの系)では、加工温度より可塑剤の沸点が低く、可塑剤の揮発が激しく、臭気の発生や装置の汚染が起こった。また、経時的な可塑剤の揮発により、安定的な混合割合の実現が困難となった。
【0036】
<ブリード評価>
得られたシート状試験片の表面に油性ペンで数カ所マーキングした。マーキングしたシート状試験片を、80℃の恒温槽で3分間加熱した。恒温槽から取り出したシート状試験片のマーキング部分をキムワイプ(登録商標)で擦り、インクの付着状態を確認し、次のとおり評価した。
「A」 可塑剤のブリードなし(キムワイプ(登録商標)にインク付着が確認されず、マーキング部分のインク滲み等が無い)
「B」 可塑剤のブリードはほぼなし(キムワイプ(登録商標)に部分的に少量のインク付着があり、マーキング部分のインク滲みがない)
「C」 可塑剤のブリードあり(キムワイプ(登録商標)にインク付着があり、マーキング部分のインク滲みもある)
【0037】
<耐熱性評価>
作製した5cm×5cmの各シートを、2.5cm×5cmのシート2枚に切り分けたものをサンプルとして、以下の評価を二度実施した。
(1)80℃に設定した後に、1時間程度放置し、温度ムラをなくした状態の恒温槽のメッシュ状棚板にサンプルを置く。
(2)恒温槽に入れてから1分後に、サンプルを棚板から持ち上げ、長辺の一端を固定する(指で挟む)。この段階で、固定位置から他端までが曲がってしまうときは、「耐熱性なし」と判定して、サンプルを恒温槽内に戻す。その際には、サンプルは、水平に戻した状態でメッシュ棚板に置く。
(3)上記(2)でサンプルが曲がらなかったときは、一端を固定したままの状態で、他端を指で押し下げ解放する。このとき、他端の押し下げは指で弾くように行う。
(4)上記(3)を4回行った段階で、固定位置から他端までが曲がらず水平な状態を保っていれば、「耐熱性あり」と判定する。曲がってしまったときは、「耐熱性なし」と判定する。「耐熱性なし」と判定されたサンプルは、恒温槽内に戻す。その際には、サンプルは、水平に戻した状態でメッシュ棚板に置く。
(5)さらに1分経過後に(恒温槽内放置合計時間は2分)、上記(2)~(4)と同様に評価を行う。
(6)1分後に「耐熱性あり」と判定されたものはA、2分後に「耐熱性あり」と判定されたものはB、それ以外はCとする。
【0038】
【表1】
【0039】
中間膜(可塑剤が添加されたポリビニルアセタール樹脂)に、さらに可塑剤を添加した参考例の樹脂組成物(1-1~1-4)では、ブリード性能は優れることが確認された。しかしその一方で、軟化点が概ね室温程度であり、室温を超えると顕著に変形するなど、マテリアルリサイクルを行うには耐熱性が著しく悪く、このままでは用途が限定されることが確認された。可塑剤Bを追加添加した実施例である樹脂組成物1-6、樹脂組成物1-7、樹脂組成物1-10、樹脂組成物1-11では、可塑剤のブリードはなし、または、ほぼなしという結果となった。それに対し、可塑剤B以外の可塑剤を追加添加した系では、安定的なブリード抑制効果は得られなかった。すなわち、可塑剤B以外の可塑剤を追加添加すると、ポリビニルアセタール樹脂として疑似中間膜を用いた系(1-12、1-13)では、ブリード評価結果は比較的良好であるが、ポリビニルアセタール樹脂として工程内排出中間膜を用いた系(1-8、1-9)では、ブリードが発生した。また、可塑剤の追加添加を行わなかった比較例1-5では耐熱性がC判定であったが、実施例では、耐熱性はA/AまたはB/Bと良好であることがわかる。
【0040】
以下の樹脂組成物2-1~2-3で、結晶化速度の評価を行った。
【0041】
[樹脂組成物2-1](比較例)
樹脂組成物2-1は、疑似的に作製した中間膜組成の樹脂組成物(本発明における、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)を用いて、ポリエステル樹脂を添加し、可塑剤Bを添加しなかった、比較例の樹脂組成物である。配合比は、表2に示す。
【0042】
(樹脂組成物の調製)
ポリエステル樹脂(PLA)と数ミリ角のペレット状にした中間膜(可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)とをバッチ式ニーダー(ラボプラストミル(登録商標)10S100、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、回転数12.5rpmで5分間混練し、混練サンプルを得た。混練に際しては、加工温度180℃とし、電源投入/温度設定後、1時間以上放置し加工槽の温度ムラをなくしてから行った。
【0043】
[樹脂組成物2-2](実施例)
樹脂組成物2-2は、疑似的に作製した中間膜組成の樹脂組成物(本発明における、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)を用いて、ポリエステル樹脂および可塑剤Bを添加した、実施例の樹脂組成物である。配合比は、表2に示す。
【0044】
(樹脂組成物の調製)
(1)ポリエステル樹脂(PLA)と数ミリ角のペレット状にした中間膜(可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)とをバッチ式ニーダー(ラボプラストミル(登録商標)10S100、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、回転数12.5rpmで5分間混練し、混練サンプルを得た。混練に際しては、加工温度180℃とし、電源投入/温度設定後、1時間以上放置し加工槽の温度ムラをなくしてから行った。
(2)同じ回転数の状態で、前記混練サンプルに可塑剤Bを滴下して添加した。
(3)可塑剤B添加後、さらに同じ回転数で5分間混練した。
【0045】
[樹脂組成物2-3](実施例)
樹脂組成物2-3は、疑似的に作製した中間膜組成の樹脂組成物(本発明における、可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)を用いて、ポリエステル樹脂および可塑剤Bに加えて核剤を添加した、実施例の樹脂組成物である。配合比は、表2に示す。
【0046】
(樹脂組成物の調製)
(1)ポリエステル樹脂(PLA)と数ミリ角のペレット状にした中間膜(可塑剤Aを含有するポリビニルアセタール樹脂)とをバッチ式ニーダー(ラボプラストミル(登録商標)10S100、株式会社東洋精機製作所製)に投入し、回転数12.5rpmで5分間混練し、混練サンプルを得た。混練に際しては、加工温度180℃とし、電源投入/温度設定後、1時間以上放置し加工槽の温度ムラをなくしてから行った。
(2)核剤をバッチ式ニーダーに投入し、回転数35rpmにして5分間混練した。
(3)回転数12.5rpmにして、可塑剤Bを滴下して添加した。
(4)可塑剤B添加後、回転数35rpmにして5分間混練した。
【0047】
<結晶化速度評価>
得られた樹脂組成物をフレーク化し、フレーク化した樹脂を射出成形する際の樹脂の状態から結晶化速度を評価した。まず、得られた樹脂組成物を常温まで自然冷却し、プラスチック粉砕機(SR型粉砕機 SR-360、株式会社ホーライ製)でフレーク化した。フレーク化した樹脂組成物を使用して、小型射出成形機(Thermo Scientific(登録商標) HAAKE(登録商標) MiniJet Proピストン式射出成形機)で試験片を作製した(JIS K 7111)。小型射出成形機の成形パラメータは、次のとおりである。
・シリンダ温度 :180℃
・射出時間 :20秒
・射出圧(成形圧):400Bar
・金型温度 :80℃
・金型の保持圧 :50Bar
成形時に、金型から樹脂(以降、サンプルという)を取り出せるまでの時間を評価した。「金型からサンプルを取り出せる」とは、金型からサンプルを取り出すときに、金型形状と同じ形状で変形せずに取り出せて、サンプルの形状が変形(曲がったり、折れたり、寸法が変化(延び等)など)したり、サンプルが金型にくっついて剥がれない状態ではないことをいう。この時間が短いほど、サンプルの結晶化速度が速いと判定する。結晶化時間の評価としては、1分30秒での取り出し可否、5分での取り出し可否で判定した。結果を表2に示す。表2において、所定時間において金型からサンプルを取り出せた場合を「G」、取り出せなかった場合を「NG」と記載した。
【0048】
【表2】
【0049】
樹脂組成物2-1の結果に示すように、可塑剤Bがないと結晶化速度が不充分だった(取り出せるまでの時間が5分を超えた)が、樹脂組成物2-2の結果に示すように、可塑剤Bを追加添加すると結晶化速度が向上していることがわかる。そして、さらに結晶核剤(タルク)を入れると(樹脂組成物2-3)、さらに結晶化速度が向上していることがわかる。
【0050】
中間膜として工程内排出中間膜を使用した以外は、樹脂組成物2-1~2-3と同様の条件としたものを作製し(樹脂組成物3-1~3-3)、結晶化速度の評価を行った。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
樹脂組成物3-1の結果に示すように、可塑剤Bがないと結晶化速度が不充分だった(取り出せるまでの時間が5分を超えた)が、樹脂組成物3-2の結果に示すように、可塑剤Bを追加添加すると結晶化速度が向上していることがわかる。そして、さらに結晶核剤(タルク)を入れると(樹脂組成物3-3)、さらに結晶化速度が向上していることがわかる。
【0053】
以下の樹脂組成物4-1~4-9で、耐衝撃性(衝撃値)の評価を行った。
作製した射出成形試験片(80mm×10mm×4mm)に、株式会社安田精機製作所製No.189 PNCAノッチ加工機を用いて、2mmのノッチを入れた。その後、株式会社安田精機製作所製No.258-L-PC衝撃試験機を用いて、23℃でシャルピー衝撃試験を行った。ハンマー荷重は4Jとし、サンプル数はN=5で測定を実施し、その平均値を衝撃値とした。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例の試験片(4-1~4-8)は、いずれも、シャルピー衝撃値は2kJ/mを超えており、耐衝撃性に優れたものであった。なお、PLAのみのシャルピー衝撃値は1.6kJ/mである。シャルピー衝撃値が2kJ/mを下回ると、少しの衝撃で破損することがあるため、外力を受ける工業部材として使用することが困難となり、用途が限定されることになる。可塑剤Bを追加していない比較例の試験片(4-9)では、シャルピー衝撃値は1.7kJ/mであり、耐衝撃性は満足する結果が得られなかった。また、ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸(PLA)に加えて、他の脂肪族ポリエステル樹脂(ポリブチレンサクシネート(PBS))を加えると、耐衝撃性がさらに改善していることがわかる。また、PLAに加える樹脂としては、PBSよりもポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を添加したほうが、より耐衝撃性を向上させる効果が高いことがわかる。この傾向は、中間膜(可塑剤A入りポリビニルアセタール樹脂)として、疑似中間膜を用いた場合と工程内排出中間膜を用いた場合とで、共通であった。以上の結果より、本発明の樹脂組成物は、耐ブリードアウト性、耐熱性に加えて、耐衝撃性との両立も可能であることがわかる。
【0056】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、市場に出回っている、液体可塑剤が含有された合わせガラス中間膜シート用ポリビニルアセタールの利活用を図ることができる。本発明により、取扱性の困難さ、性状面での課題からリサイクルすることが難しく、これまで廃棄せざるを得なかった使用済のガラス中間膜等の材料を、有価物として利活用することができるようになり、環境への負荷を低減させる効果を有するのみならず、産業利用上の面においても大きく貢献すると考えられる。