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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122505
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20240902BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20240902BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/323
H01L21/78 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030073
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】大河原 悟
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】長倉 建人
(72)【発明者】
【氏名】古岡 啓太
【テーマコード(参考)】
5F063
5F173
【Fターム(参考)】
5F063AA05
5F063AA36
5F063BA33
5F063BA43
5F063CB02
5F063CB03
5F063CB10
5F063CB28
5F063DD34
5F063DD81
5F173AD10
5F173AH03
5F173AP05
5F173AP83
5F173AP93
5F173AR96
(57)【要約】
【課題】得られた半導体レーザ素子にラテラルクラックが残存するのを抑制することができる半導体レーザ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板と、活性層を含み、半導体基板上に形成された半導体積層体と、を備える半導体レーザ素子の製造方法は、それぞれが半導体レーザ素子となる複数の素子部分10であって、半導体積層体の光導波方向に垂直なX軸方向に並んだ複数の素子部分10を含むウェハ100を用意する第1工程と、第1工程の後に、X軸方向に並んだ複数の素子部分10を仕切る複数の第1境界線B1のそれぞれ上に位置するように、ウェハ100の第1主面100aに、連続的な複数の押圧痕を含む押圧痕群7を形成する第2工程と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、活性層を含み、前記半導体基板上に形成された半導体積層体と、を備える半導体レーザ素子の製造方法であって、
それぞれが前記半導体レーザ素子となる複数の素子部分であって、前記半導体積層体の光導波方向に垂直な第1方向に並んだ前記複数の素子部分を含むウェハを用意する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1方向に並んだ前記複数の素子部分を仕切る複数の第1境界線のそれぞれ上に位置するように、前記ウェハの第1主面又は前記第1主面とは反対側の第2主面に、連続的な複数の押圧痕を含む押圧痕群を形成する第2工程と、を備える、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程の後に、前記第1方向及び前記光導波方向に平行な第2方向にマトリクス状に並んだ前記複数の素子部分を含む前記ウェハにおいて、前記第2方向に並んだ前記複数の素子部分を仕切る複数の第2境界線を含む複数の劈開ラインのそれぞれ上に位置するように、前記第1主面又は前記第2主面に、劈開起点を形成する第3工程を備え、
前記第2工程及び前記第3工程の後に、前記複数の劈開ラインのそれぞれに沿って前記ウェハを劈開し、それぞれが前記第1方向に並んだ前記複数の素子部分を含む複数のレーザバーを得る第4工程と、
前記第4工程の後に、前記複数の第1境界線のそれぞれに沿って前記複数のレーザバーのそれぞれを劈開する第5工程と、を更に備える、請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程は、前記第2工程の後に実施される、請求項2に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項4】
前記押圧痕群及び前記劈開起点は、前記第1主面又は前記第2主面のうちの同一の主面に形成される、請求項2に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程では、前記複数の劈開ラインのそれぞれのうち前記複数の第2境界線を除く部分上に位置するように、前記劈開起点が形成される、請求項2に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程では、前記押圧痕群が前記複数の劈開ラインのそれぞれ上に位置しないように、前記押圧痕群が形成される、請求項2に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項7】
前記複数の第1境界線のそれぞれにおいて前記押圧痕群が形成される部分の長さは、前記複数の第1境界線のそれぞれの長さの1/2以下である、請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項8】
前記複数の第1境界線のそれぞれにおいて前記押圧痕群が形成される部分の長さは、前記複数の第1境界線のそれぞれの長さの1/7以下である、請求項7に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程では、前記複数の第1境界線のそれぞれに沿って、前記第1主面又は前記第2主面上において歯車状のホイールが転動させられることにより、前記押圧痕群が形成される、請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程の後であって前記第2工程の前に、前記複数の第1境界線のそれぞれのうち、前記押圧痕群が形成される部分を除く部分に沿って、前記第1主面又は前記第2主面にマスクを形成する第6工程を更に備える、請求項9に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程では、前記複数の第1境界線のそれぞれの全体に沿って、前記第1主面又は前記第2主面上において前記ホイールが転動させられる、請求項10に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2工程では、前記複数の第1境界線のそれぞれの両端部分において、前記第1主面又は前記第2主面から前記ホイールが離間させられ、前記複数の第1境界線のそれぞれの中間部分に沿って、前記第1主面又は前記第2主面上において前記ホイールが転動させられる、請求項9に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項13】
前記ウェハのうち、それぞれが前記半導体基板となる複数の基板部分を含む基板層の厚さ方向は、[100]方向であり、
前記複数の第1境界線のそれぞれが延在する方向は、[01-1]方向である、請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項14】
前記ウェハのうち、それぞれが前記半導体基板となる複数の基板部分を含む基板層は、GaAs単結晶層である、請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項15】
前記第2工程では、前記連続的な複数の押圧痕のそれぞれの押圧痕の長さが、前記押圧痕群を形成するための工具の歯の長さの2倍以下となるように、前記押圧痕群が形成される、請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項16】
前記第2工程では、前記連続的な複数の押圧痕のそれぞれの押圧痕の長さが、前記押圧痕群を形成するための工具の歯の長さに対応するように、前記押圧痕群が形成される、請求項15に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子の製造方法として、一次劈開(一次スクライブ及び一次ブレーク)によってウェハを複数のレーザバーに分割した後に、二次劈開(二次スクライブ及び二次ブレーク)によって各レーザバーを複数の半導体レーザ素子に分割する方法が知られている(例えば、特許文献1)。このような半導体レーザ素子の製造方法では、各レーザバーに対する二次スクライブとして、複数の半導体レーザ素子に分割するための罫書がダイヤモンドツールによって入れられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-17791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような半導体レーザ素子の製造方法では、各レーザバーに対する二次スクライブにおいてダイヤモンドツールを精密にコントロールしないと、ラテラルクラック(圧痕直下から、ウェハの主面に相当するレーザバーの主面に平行な方向で生じるクラック)が罫書に沿って発生し、得られた半導体レーザ素子にラテラルクラックが残存するおそれがある。半導体レーザ素子に残存したラテラルクラックは、大規模な脆性破壊を引き起こすため、半導体レーザ素子における剥離、欠け等の発生原因となる。
【0005】
本発明は、得られた半導体レーザ素子にラテラルクラックが残存するのを抑制することができる半導体レーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[1]「半導体基板と、活性層を含み、前記半導体基板上に形成された半導体積層体と、を備える半導体レーザ素子の製造方法であって、それぞれが前記半導体レーザ素子となる複数の素子部分であって、前記半導体積層体の光導波方向に垂直な第1方向に並んだ前記複数の素子部分を含むウェハを用意する第1工程と、前記第1工程の後に、前記第1方向に並んだ前記複数の素子部分を仕切る複数の第1境界線のそれぞれ上に位置するように、前記ウェハの第1主面又は前記第1主面とは反対側の第2主面に、連続的な複数の押圧痕を含む押圧痕群を形成する第2工程と、を備える、半導体レーザ素子の製造方法」である。
【0007】
上記[1]に記載の半導体レーザ素子の製造方法では、半導体積層体の光導波方向に垂直な第1方向に並んだ複数の素子部分を仕切る複数の第1境界線のそれぞれ上に位置するように、ウェハの第1主面又は第1主面とは反対側の第2主面に、押圧痕群が形成される。これにより、複数の第1境界線のそれぞれに沿ってラテラルクラックが発生するのを抑制することができる。よって、上記[1]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、得られた半導体レーザ素子にラテラルクラックが残存するのを抑制することができる。
【0008】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[2]「前記第1工程の後に、前記第1方向及び前記光導波方向に平行な第2方向にマトリクス状に並んだ前記複数の素子部分を含む前記ウェハにおいて、前記第2方向に並んだ前記複数の素子部分を仕切る複数の第2境界線を含む複数の劈開ラインのそれぞれ上に位置するように、前記第1主面又は前記第2主面に、劈開起点を形成する第3工程を備え、前記第2工程及び前記第3工程の後に、前記複数の劈開ラインのそれぞれに沿って前記ウェハを劈開し、それぞれが前記第1方向に並んだ前記複数の素子部分を含む複数のレーザバーを得る第4工程と、前記第4工程の後に、前記複数の第1境界線のそれぞれに沿って前記複数のレーザバーのそれぞれを劈開する第5工程と、を更に備える、上記[1]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[2]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、マトリクス状に並んだ複数の素子部分を含むウェハの状態で押圧痕群の形成が実施されるため、一列に並んだ複数の素子部分を含む複数のレーザバーのそれぞれに対して押圧痕群の形成が実施される場合に比べ、複数の半導体レーザ素子を得るのに要する時間を短縮することができる。
【0009】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[3]「前記第3工程は、前記第2工程の後に実施される、上記[2]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[3]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、マトリクス状に並んだ複数の素子部分を含むウェハの状態で、劈開起点の形成が実施される前に押圧痕群の形成が実施されるため、劈開ラインに沿ったウェハの劈開が防止された状態で、複数の押圧痕群の形成を実施することができる。
【0010】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[4]「前記押圧痕群及び前記劈開起点は、前記第1主面又は前記第2主面のうちの同一の主面に形成される、上記[2]又は[3]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[4]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、例えば、直交する二方向において劈開するような場合に、各方向における劈開性の違いを利用することができるため、ウェハの剛性を高く保つことができる。
【0011】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[5]「前記第3工程では、前記複数の劈開ラインのそれぞれのうち前記複数の第2境界線を除く部分上に位置するように、前記劈開起点が形成される、上記[2]~[4]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[5]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、複数の素子部分に劈開起点の影響が及びにくくなるため、光導波方向に垂直な一対の端面が精度良く形成された半導体レーザ素子を得ることができる。
【0012】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[6]「前記第2工程では、前記押圧痕群が前記複数の劈開ラインのそれぞれ上に位置しないように、前記押圧痕群が形成される、上記[2]~[5]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[6]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、劈開ラインに沿ったウェハの劈開に押圧痕群の影響が及びにくくなるため、光導波方向に垂直な一対の端面が精度良く形成された半導体レーザ素子を得ることができる。
【0013】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[7]「前記複数の第1境界線のそれぞれにおいて前記押圧痕群が形成される部分の長さは、前記複数の第1境界線のそれぞれの長さの1/2以下である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[7]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、押圧痕群に起因する半導体レーザ素子への影響が抑制されるため、半導体レーザ素子の歩留まりを向上させることができる。
【0014】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[8]「前記複数の第1境界線のそれぞれにおいて前記押圧痕群が形成される部分の長さは、前記複数の第1境界線のそれぞれの長さの1/7以下である、上記[7]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[8]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、押圧痕群に起因する半導体レーザ素子への影響がより確実に抑制されるため、半導体レーザ素子の歩留まりをより一層向上させることができる。
【0015】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[9]「前記第2工程では、前記複数の第1境界線のそれぞれに沿って、前記第1主面又は前記第2主面上において歯車状のホイールが転動させられることにより、前記押圧痕群が形成される、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[9]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、押圧痕群を効率良く且つ精度良く形成することができる。
【0016】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[10]「前記第1工程の後であって前記第2工程の前に、前記複数の第1境界線のそれぞれのうち、前記押圧痕群が形成される部分を除く部分に沿って、前記第1主面又は前記第2主面にマスクを形成する第6工程を更に備える、上記[9]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[10]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、押圧痕群が形成される部分を除く部分において、歯車状のホイールをウェハから離間させる必要がなくなるため、押圧痕群をより効率良く形成することができる。
【0017】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[11]「前記第2工程では、前記複数の第1境界線のそれぞれの全体に沿って、前記第1主面又は前記第2主面上において前記ホイールが転動させられる、上記[10]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[11]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、押圧痕群が形成される部分を除く部分において、歯車状のホイールをウェハから離間させる場合に比べ、押圧痕群をより効率良く形成することができる。
【0018】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[12]「前記第2工程では、前記複数の第1境界線のそれぞれの両端部分において、前記第1主面又は前記第2主面から前記ホイールが離間させられ、前記複数の第1境界線のそれぞれの中間部分に沿って、前記第1主面又は前記第2主面上において前記ホイールが転動させられる、上記[9]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[12]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、劈開ラインに沿ったウェハの劈開に押圧痕群の影響が及びにくくなるため、光導波方向に垂直な一対の端面が精度良く形成された半導体レーザ素子を得ることができる。
【0019】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[13]「前記ウェハのうち、それぞれが前記半導体基板となる複数の基板部分を含む基板層の厚さ方向は、[100]方向であり、前記複数の第1境界線のそれぞれが延在する方向は、[01-1]方向である、上記[1]~[12]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。複数の第1境界線のそれぞれが延在する方向が[0-1-1]方向である場合よりも、複数の第1境界線のそれぞれが延在する方向が[01-1]方向である場合のほうが、複数の第1境界線のそれぞれに沿って押圧痕群が形成されたウェハの機械的強度が維持される。よって、当該[13]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、押圧痕群が形成されたウェハに対して更なる処理が実施される際にウェハが破損するのを抑制することができる。
【0020】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[14]「前記ウェハのうち、それぞれが前記半導体基板となる複数の基板部分を含む基板層は、GaAs単結晶層である、上記[1]~[13]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[14]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、ウェハの基板層が、ラテラルクラックが発生しやすいGaAs単結晶層である場合にも、得られた半導体レーザ素子にラテラルクラックが残存するのを効果的に抑制することができる。
【0021】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[15]「前記第2工程では、前記連続的な複数の押圧痕のそれぞれの押圧痕の長さが、前記押圧痕群を形成するための工具の歯の長さの2倍以下となるように、前記押圧痕群が形成される、上記[1]~[14]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[15]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、工具の歯の引きずられに起因するラテラルクラックの発生を抑制することができる。
【0022】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[16]「前記第2工程では、前記連続的な複数の押圧痕のそれぞれの押圧痕の長さが、前記押圧痕群を形成するための工具の歯の長さに対応するように、前記押圧痕群が形成される、上記[15]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。当該[16]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、工具の歯の引きずられに起因するラテラルクラックの発生をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、得られた半導体レーザ素子にラテラルクラックが残存するのを抑制することができる半導体レーザ素子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法によって製造される半導体レーザ素子の平面図である。
図2図1に示されるII-II線に沿っての半導体レーザ素子の断面図である。
図3】一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法の第1工程を説明するためのウェハの平面図である。
図4図3に示されるウェハの一部分の断面図である。
図5】一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法の第2工程を説明するためのウェハの平面図、及び一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法の第3工程を説明するためのウェハの平面図である。
図6】一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法の第4工程を説明するためのレーザバーの平面図、及び一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法の第5工程を説明するための複数の半導体レーザ素子の平面図である。
図7】一実施形態の半導体レーザ素子の製造方法において形成される押圧痕群の平面図である。
図8図7に示される押圧痕群が形成されたウェハの一部分の平面図である。
図9図7に示される押圧痕群の形成に用いられる歯車状のホイールの側面図である。
図10】比較例の半導体レーザ素子の製造方法によって得られた半導体レーザ素子の側面の一部分の写真、及び実施例の半導体レーザ素子の製造方法によって得られた半導体レーザ素子の側面の一部分の写真を示す図である。
図11】変形例の半導体レーザ素子の製造方法の第2工程を説明するためのウェハの一部分の平面図である。
図12】変形例の半導体レーザ素子の製造方法の第2工程を説明するためのウェハの一部分の平面図である。
図13】変形例の半導体レーザ素子の製造方法の第2工程を説明するためのウェハの一部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[半導体レーザ素子の構成]
【0026】
図1及び図2に示されるように、半導体レーザ素子1は、半導体基板2と、半導体積層体3と、を備えている。半導体積層体3は、光導波方向Dにおいて互いに対向している一対の端面3aを有している。半導体レーザ素子1は、一対の端面3aの間でレーザ光Lを共振させ、一方の端面3aから光導波方向Dに沿ってレーザ光Lを出射させる。つまり、半導体レーザ素子1は、端面出射型のレーザダイオードとして構成されている。以下、半導体基板2の厚さ方向をZ軸方向といい、半導体基板2の厚さ方向から見た場合に光導波方向Dに垂直な第1方向をX軸方向といい、半導体基板2の厚さ方向から見た場合に光導波方向Dに平行な第2方向をY軸方向という。なお、第1方向は、光導波路方向と交差する一対の端面が互いに対向する方向に垂直な方向であってもよい。また、第1方向は、レーザ光の出射端面に沿った方向であってもよい。
【0027】
半導体基板2は、GaAs単結晶基板である。半導体基板2は、Z軸方向において互いに対向している表面2a及び裏面2b、Y軸方向において互いに対向している一対の側面2c、並びに、X軸方向において互いに対向している一対の側面2dを有している。半導体基板2では、Z軸方向が[100]方向であり、Y軸方向が[01-1]方向であり、X軸方向が[0-1-1]方向である。Z軸方向から見た場合における半導体基板2の形状は、例えば、Y軸方向を長辺方向とする長方形状である。一例として、Z軸方向における半導体基板2の厚さは100~200μmであり、X軸方向における半導体基板2の幅は300~600μmであり、Y軸方向における半導体基板2の長さは600~1000μmである。
【0028】
半導体積層体3は、半導体基板2の表面2aに形成されている。つまり、半導体積層体3は、半導体基板2上に形成されている。X軸方向における半導体積層体3の幅は、X軸方向における半導体基板2の幅よりも小さい。つまり、半導体積層体3は、メサ状に形成されている。半導体積層体3では、X軸方向において互いに対向している一対の側面のそれぞれが、半導体基板2から離れるほど互いに近付くように傾斜している。半導体積層体3の一方の端面3aは、半導体基板2の一方の側面2cと同一平面上に位置している。半導体積層体3の他方の端面3aは、半導体基板2の他方の側面2cと同一平面上に位置している。一例として、Z軸方向における半導体積層体3の厚さは10~15μmであり、X軸方向における半導体積層体3の幅(最大幅)は100~300μmであり、Y軸方向における半導体積層体3の長さは600~1000μmである。
【0029】
半導体基板2の表面2aのうち半導体積層体3形成されていない領域上、及び半導体積層体3の一対の側面上には、絶縁膜4が形成されている。絶縁膜4は、例えば、SiN膜又はSiO膜である。半導体積層体3における半導体基板2とは反対側の表面上には、第1電極5が形成されている。第1電極5は、半導体積層体3と電気的に接続されている。半導体基板2の裏面2b上には、第2電極6が形成されている。第2電極6は、半導体基板2と電気的に接続されている。
【0030】
一例として、半導体積層体3は、下部第1クラッド層301、下部活性層(活性層)302、下部第2クラッド層303、下部トンネル障壁層304、中間第1クラッド層305、中間活性層(活性層)306、中間第2クラッド層307、中間トンネル障壁層308、上部第1クラッド層309、上部活性層(活性層)310、上部第2クラッド層311及びコンタクト層312がこの順序で半導体基板2の表面2aに積層されることにより構成されている。半導体積層体3は、例えば、MOCVD(有機金属気相成長)法によって半導体基板2の表面2a上に各層が成膜されることにより形成される。
【0031】
この例では、上部第1クラッド層309、上部活性層310及び上部第2クラッド層311を含む第1レーザダイオードと、中間第1クラッド層305、中間活性層306及び中間第2クラッド層307を含む第2レーザダイオードと、下部第1クラッド層301、下部活性層302及び下部第2クラッド層303を含む第3レーザダイオードとが直列に接続されている。半導体レーザ素子1は、P型半導体側の第1電極5からN型半導体側の第2電極6に順方向の電流が流されることにより、第1レーザダイオード、第2レーザダイオード及び第3レーザダイオードのそれぞれが発光し、一方の端面3aから光導波方向Dに沿ってレーザ光Lが出射する。
【0032】
半導体積層体3を構成する各層の厚さ、厚さの好適範囲及び導電型の組み合わせの一例は、表1に示されるとおりである。半導体積層体3を構成する各層の材料及び不純物濃度の組み合わせの一例は、表2に示されるとおりである。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】

[半導体レーザ素子の製造方法]
【0035】
まず、図3に示されるように、ウェハ100が用意される(第1工程)。ウェハ100は、第1主面100a、及び第1主面100aとは反対側の第2主面100bを有している。ウェハ100は、それぞれが半導体レーザ素子1となる複数の素子部分10を含んでいる。複数の素子部分10は、X軸方向及びY軸方向にマトリクス状に並んでいる。ウェハ100の厚さ方向をZ軸方向とした場合に、X軸方向は、光導波方向Dに垂直な方向であり、Y軸方向は、光導波方向Dに平行な方向である(図1参照)。
【0036】
図4に示されるように、ウェハ100は、基板層200と、積層体層300と、備えている。基板層200は、第1主面200a、及び第1主面200aとは反対側の第2主面200bを有している。基板層200は、それぞれが半導体基板2となる複数の基板部分20を含んでいる。基板層200は、GaAs単結晶層である。基板層200では、基板層200の厚さ方向であるZ軸方向が[100]方向であり、Y軸方向が[01-1]方向であり、X軸方向が[0-1-1]方向である。積層体層300は、基板層200の第1主面200a上に形成されている。積層体層300は、それぞれが半導体積層体3となる複数の積層体部分30を含んでいる。本実施形態では、基板層200の第1主面200aのうち複数の積層体部分30が形成されていない領域がウェハ100の第1主面100aの一部分に相当し、基板層200の第2主面200bがウェハ100の第2主面100bに相当する。
【0037】
図3に示されるように、X軸方向に並んだ複数の素子部分10は、Z軸方向から見た場合に複数の第1境界線B1によって仕切られている。各第1境界線B1は、Y軸方向に延在している。つまり、各第1境界線B1が延在する方向は、[01-1]方向である。Y軸方向に並んだ複数の素子部分10は、Z軸方向から見た場合に複数の第2境界線B2によって仕切られている。ウェハ100には、複数の劈開ラインCLが設定されている。各劈開ラインCLは、X軸方向に連続している複数の第2境界線B2を含んでいる。各第2境界線B2及び各劈開ラインCLは、X軸方向に延在している。つまり、各第2境界線B2及び各劈開ラインCLが延在する方向は、[0-1-1]方向である。なお、ウェハ100には、基板層200の結晶方位を示すオリエンテーションフラット100cが設けられている。
【0038】
続いて、図5の(a)に示されるように、Z軸方向から見た場合に各第1境界線B1上に位置するように、ウェハ100の第1主面100aに押圧痕群7が形成される(第2工程)。つまり、X軸方向において隣り合っている素子部分10を仕切る一つの第1境界線B1ごとに押圧痕群7が形成される。本実施形態では、X軸方向において隣り合っている積層体部分30の間に露出している基板層200の第1主面200aに押圧痕群7が形成される。押圧痕群7の詳細については後述する。
【0039】
続いて、ウェハ100の第1主面100aに、各素子部分10において絶縁膜4となる絶縁層、及び各素子部分10において第1電極5となる第1電極層が形成される。これにより、押圧痕群7が絶縁層によって覆われる。また、ウェハ100の第2主面100bに、各素子部分10において第2電極6となる第2電極層が形成される。第2電極層が形成される前に、基板層200の第2主面200bが研磨されることにより、基板層200が薄化される場合もある。
【0040】
続いて、図5の(b)に示されるように、Z軸方向から見た場合に各劈開ラインCL上に位置するように、ウェハ100の第1主面100aに劈開起点8が形成される(第3工程)。より具体的には、各劈開ラインCLのうち複数の第2境界線B2を除く部分上(すなわち、X軸方向に連続している複数の第2境界線B2の延長線上)に位置するように、劈開起点8が形成される。本実施形態では、押圧痕群7及び劈開起点8は、同一の主面である第1主面100aに形成される。なお、劈開起点8は、ダイヤモンドツール等を利用した公知のポイントスクライブによって形成される。
【0041】
続いて、劈開起点8を起点として各劈開ラインCLに沿ってウェハ100が劈開され、図6の(a)に示されるように、複数のレーザバー110が得られる(第4工程)。レーザバー110は、X軸方向に一列に並んだ複数の素子部分10を含んでいる。なお、各劈開ラインCLに沿ってウェハ100が劈開される際には、上述した絶縁層及び第2電極層が同時に切断される。続いて、Y軸方向に垂直なレーザバー110の一方の端面に、低反射膜又は高反射膜が形成される。当該一方の端面は、各素子部分10の一方の端面3a又は他方の端面3aを含む面である。続いて、押圧痕群7を起点として各第1境界線B1に沿ってレーザバー110が劈開され、図6の(b)に示されるように、複数の半導体レーザ素子1が得られる(第5工程)。なお、各第1境界線B1に沿ってレーザバー110が劈開される際には、上述した絶縁層、第2電極層及び反射膜(低反射膜又は高反射膜)が同時に切断される。
【0042】
ここで、押圧痕群7について詳細に説明する。図7に示されるように、押圧痕群7は、連続的な複数の押圧痕71を含んでいる。連続的な複数の押圧痕71は、互いに離間しており、Z軸方向から見た場合に第1境界線B1上において一列に並んでいる。
【0043】
「連続的な複数の押圧痕71」は、次のように定義される。すなわち、第1境界線B1に平行な方向における各押圧痕71の長さをaとし、第1境界線B1に平行な方向において隣り合っている押圧痕71の間隔をbとすると、「a:b=1:X」且つ「0.1<X<10」且つ「a<100μm」を満たすように形成された複数の押圧痕71が「連続的な複数の押圧痕71」である。或いは、「連続的な複数の押圧痕71」は、次のように定義される。すなわち、押圧痕71の数をnとし、第1境界線B1の長さをB1aとし(図8参照)、第1境界線B1に平行な方向における押圧痕群7の長さをAとすると、「n≧3」且つ「A<B1a/2」且つ「a<100μm」を満たすように形成された複数の押圧痕71が「連続的な複数の押圧痕71」である。一例として、第1境界線B1の長さは700μm程度であり、第1境界線B1に平行な方向における押圧痕群7の長さは100μm程度である。一例として、第1境界線B1に平行な方向における押圧痕71の長さは10μm程度であり、第1境界線B1に平行な方向において隣り合っている押圧痕71の間隔は2μm程度である。また、押圧痕71を形成する工具のウェハに対する接触角度の違い等によって、押圧痕71の長さa及び/又は間隔bが完全に均一にはならない場合がある。例えば、「連続的な複数の押圧痕71」の両端部の押圧痕71の長さaが他の押圧痕71に比べて短くなるような場合がある。このように押圧痕71の長さa及び/又は間隔bが完全に均一にならない場合でも、「連続的な複数の押圧痕71」内の押圧痕71の長さaの平均値及び間隔bの平均値が、上記定義を満たしていればよい。
【0044】
図8に示されるように、押圧痕群7は、各劈開ラインCL上に位置しないように(すなわち、押圧痕群7が各劈開ラインCLを跨がないように)、各第1境界線B1に沿って形成される。各第1境界線B1において押圧痕群7が形成される部分の長さB1bは、各第1境界線B1の長さB1aの1/2以下である。より好ましくは、各第1境界線B1において押圧痕群7が形成される部分の長さB1bは、各第1境界線B1の長さB1aの1/7以下である。図8に示される例では、一つの第1境界線B1に沿って一つの押圧痕群7が形成されており、当該一つの押圧痕群7が当該一つの第1境界線B1の一方の端部に沿って形成されている。ただし、一つの第1境界線B1に沿って複数の押圧痕群7が形成されてもよい。その場合、各第1境界線B1において押圧痕群7が形成される部分の長さB1bは、一つの第1境界線B1に沿って形成された複数の押圧痕群7のそれぞれの長さの総和である。
【0045】
本実施形態では、図9の(a)に示されるような歯車状のホイール9によって押圧痕群7が形成される。ホイール9は、軸部91と、本体部92と、複数の歯93と、を含んでいる。本体部92は、円板状に形成されている。軸部91は、本体部92の中心部を貫通した状態で本体部92に固定されている。複数の歯93は、本体部92の外縁に沿って一定のピッチで並んでいる。ホイール9は、軸部91が回転させられて本体部92及び複数の歯93が一体で回転させられることにより、対象物の表面上において転動させられる。本実施形態では、各第1境界線B1に沿って、ウェハ100の第1主面100a上においてホイール9が転動させられることにより、押圧痕群7が形成される。
【0046】
図9の(b)に示されるように、周方向における各歯93の長さをαとし、図7に示されるように、第1境界線B1に平行な方向における各押圧痕71の長さをaとすると、各押圧痕71の長さaが各歯93の長さαに対応するように押圧痕群7が形成される。「各押圧痕71の長さaが各歯93の長さαに対応する」とは、「α≦a≦1.5α」を満たすことを意味する。押圧痕群7の形成に歯車状のホイール9が用いられると、各押圧痕71の長さaが各歯93の長さαの2倍以下となるように押圧痕群7が形成される。また、先述のように、押圧痕71を形成する工具のウェハに対する接触角度の違い等によって、「連続的な複数の押圧痕71」の両端部の押圧痕71の長さaが他の押圧痕71に比べて短くなるような場合もある。このような場合であっても、「連続的な複数の押圧痕71」内の押圧痕71の長さaの平均値が、各歯93の長さαに対して上記定義を満たしていればよい。
[作用及び効果]
【0047】
半導体レーザ素子1の製造方法では、半導体積層体3の光導波方向Dに垂直なX軸方向に並んだ複数の素子部分10を仕切る複数の第1境界線B1のそれぞれ上に位置するように、ウェハ100の第1主面100aに押圧痕群7が形成される。これにより、各第1境界線B1に沿ってラテラルクラックが発生するのを抑制することができる。また、例えば、ダイヤモンドツールによって各第1境界線B1に沿ってレーザバーに罫書を入れるような場合に比べ、ラテラルクラックに起因する大規模な脆性破壊が生じにくく、デブリが発生するのを抑制することができる。よって、半導体レーザ素子1の製造方法によれば、得られた半導体レーザ素子1にラテラルクラックが残存するのを抑制することができる。
【0048】
半導体レーザ素子1の製造方法では、光導波方向Dに垂直なX軸方向及び光導波方向Dに平行なY軸方向にマトリクス状に並んだ複数の素子部分10を含むウェハ100において、Y軸方向に並んだ複数の素子部分10を仕切る複数の第2境界線B2を含む複数の劈開ラインCLのそれぞれ上に位置するように、ウェハ100の第1主面100aに劈開起点8が形成される。そして、押圧痕群7の形成及び劈開起点8の形成が実施された後に、各劈開ラインCLに沿ってウェハ100が劈開され、更に、各第1境界線B1に沿ってレーザバー110が劈開される。これにより、マトリクス状に並んだ複数の素子部分10を含むウェハ100の状態で押圧痕群7の形成が実施されるため、一列に並んだ複数の素子部分10を含む複数のレーザバー110のそれぞれに対して押圧痕群7の形成が実施される場合に比べ、複数の半導体レーザ素子1を得るのに要する時間を短縮することができる。
【0049】
半導体レーザ素子1の製造方法では、劈開起点8の形成が押圧痕群7の形成の後に実施される。これにより、劈開ラインCLに沿ったウェハ100の劈開が防止された状態で、複数の押圧痕群7の形成を実施することができる。
【0050】
半導体レーザ素子1の製造方法では、押圧痕群7及び劈開起点8が、同一の主面である第1主面100aに形成される。これにより、例えば、直交する二方向(たとえばX軸方向及びY軸方向)において劈開するような場合に、各方向における劈開性の違いを利用することができるため、ウェハ100の剛性を高く保つことができる。具体的には、次のとおりである。(100)面である第1主面100aが加工面とされた場合には、結晶の物理的性質に起因して、[01-1]方向(本実施形態では、Y軸方向)は、劈開に必要な初期クラック(加工面から対向する面へと向かうクラック)が形成されにくい方向となり、[0-1-1]方向(本実施形態では、X軸方向)は、劈開に必要な初期クラックが形成されやすい方向となる。(-100)面である第2主面100bが加工面とされた場合には、その関係が逆になる。いずれの場合にも、初期クラックが深く形成されているほど劈開がなされやすくなる。半導体レーザ素子1の製造方法では、押圧痕群7を[01-1]方向に沿って第1主面100aに形成し、劈開起点8を[0-1-1]方向に沿って第1主面100aに形成することにより、押圧痕群7及び劈開起点8が形成された状態にあるウェハ100について、その剛性を高く保つことができる。また、劈開起点8に沿ってウェハ100が劈開されることにより得られたレーザバー110(すなわち、押圧痕群7が形成された状態にあるレーザバー110)についても、その剛性も高く保つことができる。なお、押圧痕群7及び劈開起点8を第2主面100bに形成する場合には、押圧痕群7を[0-1-1]方向に沿って第2主面100bに形成し、劈開起点8を[01-1]方向に沿って第2主面100bに形成することにより、同様の効果を得ることができる。
【0051】
半導体レーザ素子1の製造方法では、各劈開ラインCLのうち複数の第2境界線B2を除く部分上に位置するように劈開起点8が形成される。これにより、複数の素子部分10に劈開起点8の影響が及びにくくなるため、光導波方向Dに垂直な一対の端面3aが精度良く形成された半導体レーザ素子1を得ることができる。
【0052】
半導体レーザ素子1の製造方法では、各劈開ラインCL上に位置しないように押圧痕群7が形成される。これにより、劈開ラインCLに沿ったウェハ100の劈開に押圧痕群7の影響が及びにくくなるため、光導波方向Dに垂直な一対の端面3aが精度良く形成された半導体レーザ素子1を得ることができる。
【0053】
半導体レーザ素子1の製造方法では、各第1境界線B1において押圧痕群7が形成される部分の長さB1bが、各第1境界線B1の長さB1aの1/2以下である。これにより、押圧痕群7に起因する半導体レーザ素子1への影響が抑制されるため、半導体レーザ素子1の歩留まりを向上させることができる。
【0054】
半導体レーザ素子1の製造方法では、各第1境界線B1において押圧痕群7が形成される部分の長さB1bが、各第1境界線B1の長さB1aの1/7以下である。これにより、押圧痕群7に起因する半導体レーザ素子1への影響がより確実に抑制されるため、半導体レーザ素子1の歩留まりをより一層向上させることができる。
【0055】
半導体レーザ素子1の製造方法では、各第1境界線B1に沿って、ウェハ100の第1主面100a上において歯車状のホイール9が転動させられることにより、押圧痕群7が形成される。これにより、押圧痕群7を効率良く且つ精度良く形成することができる。
【0056】
半導体レーザ素子1の製造方法では、ウェハ100において、基板層200の厚さ方向が[100]方向であり、各第1境界線B1が延在する方向が[01-1]方向である。各第1境界線B1が延在する方向が[0-1-1]方向である場合よりも、各第1境界線B1が延在する方向が[01-1]方向である場合のほうが、各第1境界線B1に沿って押圧痕群7が形成されたウェハ100の機械的強度が維持される。よって、押圧痕群7が形成されたウェハ100に対して更なる処理(例えば、上述した絶縁層の形成、第1電極層の形成、基板層200の第2主面200bの研磨、第2電極層の形成等)が実施される際にウェハ100が破損するのを抑制することができる。
【0057】
半導体レーザ素子1の製造方法では、ウェハ100の基板層200がGaAs単結晶層である。このように、ウェハ100の基板層200が、ラテラルクラックが発生しやすいGaAs単結晶層である場合にも、得られた半導体レーザ素子1にラテラルクラックが残存するのを効果的に抑制することができる。
【0058】
半導体レーザ素子1の製造方法では、連続的な複数の押圧痕71のそれぞれの押圧痕71の長さaが、押圧痕群7を形成するためのホイール9の歯93の長さαの2倍以下となるように、押圧痕群7が形成される。これにより、ホイール9の歯93の引きずられに起因するラテラルクラックの発生を抑制することができる。
【0059】
半導体レーザ素子1の製造方法では、連続的な複数の押圧痕71のそれぞれの押圧痕71の長さaが、押圧痕群7を形成するためのホイール9の歯93の長さαに対応するように、押圧痕群7が形成される。これにより、ホイール9の歯93の引きずられに起因するラテラルクラックの発生をより確実に抑制することができる。
【0060】
図10の(a)は、比較例の半導体レーザ素子の製造方法によって得られた半導体レーザ素子の側面の一部分の写真を示す図であり、図10の(b)は、実施例の半導体レーザ素子の製造方法によって得られた半導体レーザ素子の側面の一部分の写真を示す図である。比較例の半導体レーザ素子の製造方法では、ダイヤモンドツールによって第1境界線に沿ってレーザバーに罫書を入れ、第1境界線に沿ってレーザバーを劈開することにより、複数の半導体レーザ素子を得た。比較例の半導体レーザ素子の製造方法によって得られた半導体レーザ素子では、図10の(a)に示されるように、第1境界線に沿った半導体レーザ素子の側面にラテラルクラック(図10の(a)において水平に伸びる黒筋)が発生した。それに対し、実施例の半導体レーザ素子の製造方法では、第1境界線に沿ってレーザバーに押圧痕群を形成し、第1境界線に沿ってレーザバーを劈開することにより、複数の半導体レーザ素子を得た。実施例の半導体レーザ素子の製造方法によって得られた半導体レーザ素子では、図10の(b)に示されるように、第1境界線に沿った半導体レーザ素子の側面にラテラルクラックが殆ど発生しなかった。また、実施例の半導体レーザ素子の製造方法では、比較例の半導体レーザ素子の製造方法に比べ、デブリの発生も抑制された。
[変形例]
【0061】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、一つの第1境界線B1に対して押圧痕群7が形成される位置及び数は、特に限定されない。一例として、図11に示されるように、押圧痕群7は、各第1境界線B1の中間部分IPの一部に沿って形成されてもよい。この場合、各第1境界線B1の両端部分EPにおいて、第1主面100aからホイール9が離間させられ、各第1境界線B1の中間部分IPに沿って、第1主面100aにおいてホイール9が転動させられてもよい。押圧痕群7が各第1境界線B1の中間部分IP上に形成されると、劈開ラインCLに沿ったウェハ100の劈開に押圧痕群7の影響が及びにくくなるため、光導波方向Dに垂直な一対の端面3aが精度良く形成された半導体レーザ素子1を得ることができる。
【0062】
また、ウェハ100の用意の後であって押圧痕群7の形成の前に、図12に示されるように、各第1境界線B1のうち、押圧痕群7が形成される部分FPを除く部分に沿って、第1主面100aにマスク11が形成されてもよい(第6工程)。この場合、各第1境界線B1の全体に沿って、第1主面100a上においてホイール9が転動させられてもよい。このようにマスク11を利用することにより、押圧痕群7が形成される部分FPを除く部分において、歯車状のホイール9をウェハ100から離間させる必要がなくなるため、押圧痕群7をより効率良く形成することができる。
【0063】
図12に示される例は、各第1境界線B1の両端部分が、各第1境界線B1と各劈開ラインCLとの交点を含め、マスク11によって覆われない例である。図12に示される例でも、各第1境界線B1と各劈開ラインCLとの交点上に押圧痕71が形成されなければ、劈開ラインCLに沿ったウェハ100の劈開に押圧痕群7の影響が及びにくくなるため、光導波方向Dに垂直な一対の端面3aが精度良く形成された半導体レーザ素子1を得ることができる。
【0064】
図13の(a)に示される例は、各第1境界線B1の両端部分がマスク11によって覆われず、各第1境界線B1の中間部分、及び各第1境界線B1と各劈開ラインCLとの交点がマスク11によって覆われる例である。図13の(b)に示される例は、各第1境界線B1の一端部分がマスク11によって覆われず、各第1境界線B1の他端部分、各第1境界線B1の中間部分、及び各第1境界線B1と各劈開ラインCLとの交点が一続きのマスク11によって覆われる例である。図13の(a)及び(b)に示される例によれば、各第1境界線B1と各劈開ラインCLとの交点上に押圧痕71が形成されるのを確実に防止することができる。
【0065】
なお、マスク11は、各劈開ラインCLに沿ったウェハ100の劈開前に除去されることが好ましい。マスク11は、各第1境界線B1に沿ったレーザバー110の劈開前に除去されてもよい。或いは、マスク11は、劈開に実質的な影響を及ぼさない程度に薄化されている場合には、除去されなくてもよい。マスク11は、例えば、メタル膜、絶縁膜(SiN膜、SiO膜等)又はレジスト膜である。
【0066】
また、半導体レーザ素子1は、第1境界線B1に沿った劈開によって得られるものであれば、他の構成を有するものであってもよい。一例として、半導体基板2は、GaAs単結晶基板以外の半導体基板であってもよい。その場合、ウェハ100の基板層200も、GaAs単結晶層以外の半導体層であってもよい。また、半導体基板2は、上述した方位以外の方位を有する半導体基板であってもよい。その場合、ウェハ100の基板層200も、上述した方位以外の方位を有する半導体層であってもよい。また、半導体積層体3は、少なくとも一つの活性層を含むものであればよい。
【0067】
また、ウェハ100として、半導体積層体3の光導波方向Dに垂直なX軸方向に一列に並んだ複数の素子部分10を含むウェハ(レーザバー110に相当するウェハ)が用いられてもよい。その場合、劈開起点8の形成、及び劈開ラインCLに沿ったウェハ100の劈開が省略されてもよい。また、押圧痕群7は、ウェハ100の第2主面100bに形成されてもよい。また、劈開起点8は、ウェハ100の第2主面100bに形成されてもよい。また、ウェハ100の第1主面100a及び第2主面100bの一方に対して押圧痕群7の形成が実施され、ウェハ100の第1主面100a及び第2主面100bの他方に対して劈開起点8の形成が実施されてもよい。また、各第1境界線B1が延在する方向が[0-1-1]方向であり、各第2境界線B2及び各劈開ラインCLが延在する方向が[01-1]方向であってもよい。
【0068】
また、上述した実施形態では、ウェハ100の第1主面100aへの押圧痕群7の形成が、絶縁膜4となる絶縁層の形成、及び第1電極5となる第1電極層の形成の前に実施されたが、ウェハ100の第1主面100aへの押圧痕群7の形成は、絶縁層の形成及び第1電極層の形成の後に実施されてもよいし、或いは、絶縁層の形成の後であって第1電極層の形成の前に実施されてもよい。それらの場合、押圧痕群7の形成の前に、押圧痕群7が形成される箇所において絶縁層の除去が実施されてもよい。また、上述した実施形態では、ウェハ100の第1主面100aへの押圧痕群7の形成が、基板層200の薄化、及び第2電極6となる第2電極層の形成の前に実施されたが、ウェハ100の第1主面100aへの押圧痕群7の形成は、基板層200の薄化及び第2電極層の形成の後に実施されてもよいし、或いは、基板層200の薄化の後であって第2電極層の形成の前に実施されてもよい。
【0069】
また、劈開起点8の形成は、押圧痕群7の形成の前に実施されてもよい。また、各第1境界線B1において押圧痕群7が形成される部分の長さB1bは、各第1境界線B1の長さB1aの1/2を超えてもよい。また、押圧痕群7は、歯車状のホイール9以外の工具によって形成されてもよい。
【0070】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、SLD(スーパールミネッセントダイオード)の製造方法について適用されてもよい。すなわち、SLDの製造に用いられるウェハに対して、本発明と同様の工程が実施されてもよい。これにより、本発明の半導体レーザ素子の製造方法と同様の効果が奏される。すなわち、得られたSLDにラテラルクラックが残存するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…半導体レーザ素子、2…半導体基板、3…半導体積層体、7…押圧痕群、8…劈開起点、9…ホイール(工具)、10…素子部分、11…マスク、71…押圧痕、93…歯、100…ウェハ、100a…第1主面、100b…第2主面、110…レーザバー、200…基板層、302…下部活性層(活性層)、306…中間活性層(活性層)、310…上部活性層(活性層)、B1…第1境界線、B2…第2境界線、CL…劈開ライン、D…光導波方向。
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