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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122514
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20240902BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030087
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】古田 大地
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505LL16
5H505LL22
5H505LL60
(57)【要約】
【課題】モータの制御装置において、脱調の判断精度を向上させる。
【解決手段】モータMに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部7と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部11と、γ軸電流値とγ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともにδ軸電流値とδ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を駆動信号に変換してインバータ2に出力する駆動信号出力部と、δ軸電圧指令値、δ軸電流値、及びモータパラメータを用いてδ軸干渉項を推定し、δ軸干渉項が閾値以上である場合、モータMが脱調していると判断する脱調判断部16とを備えて制御装置1を構成する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、
前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換して前記インバータに出力する駆動信号出力部と、
前記δ軸電圧指令値、前記δ軸電流値、及びモータパラメータを用いてδ軸干渉項を推定し、推定した前記δ軸干渉項が閾値以上である場合、前記モータが脱調していると判断する脱調判断部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記δ軸干渉項をVδdec^とし、前記δ軸電圧指令値をVδ*とし、前記δ軸電流値をIδとし、前記モータの抵抗成分をR^とし、前記モータのq軸インダクタンス成分をLq^とし、微分演算子をsとする場合、前記脱調判断部は、下記式1を計算することにより前記δ軸干渉項を推定する
Vδdec^=-Vδ*+(R^+Lq^s)Iδ・・・式1
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制御装置であって、
前記脱調判断部は、
前記δ軸電流値が負の値である場合、前記δ軸干渉項の真値より大きい前記δ軸干渉項の第1の推定値を前記閾値として設定し、
前記δ軸電流値が正の値である場合、前記δ軸干渉項の真値より小さい前記δ軸干渉項の第2の推定値を前記閾値として設定する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の制御装置であって、
前記モータは、非突極性のモータである
ことを特徴とする制御装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの制御装置として、回転数指令値、γ軸電圧値、δ軸電圧値、γ軸電圧指令値、δ軸電圧指令値、γ軸電流値、δ軸電流値、モータの抵抗成分、モータのd軸インダクタンス成分、及びモータのq軸インダクタンス成分を用いて推定されるモータのγ軸磁束及びδ軸磁束の合成磁束が大きく変化する場合、モータの回転子の位置(電気角)の推定値と実際の位置との乖離が比較的大きくモータの制御が困難な状態であると、すなわち、モータが脱調していると判断するものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
ところで、実際にモータが脱調している場合では、回転数指令値と真値との乖離が比較的大きくなるため、γ軸磁束やδ軸磁束に含まれる誤差が比較的大きくなる。
【0004】
そのため、上記制御装置では、脱調しているか否かを判断する際に回転数指令値を使用しているため、実際にモータが脱調している場合、γ軸磁束及びδ軸磁束の推定精度が低下し、モータが脱調していないと誤って判断するおそれがある。
【0005】
また、上記制御装置では、γ軸磁束及びδ軸磁束を推定するためのパラメータが比較的多く、各パラメータに含まれる誤差がγ軸磁束及びδ軸磁束の推定に及ぼす影響が大きくなるため、脱調の判断精度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-092787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面に係る目的は、モータの制御装置において、脱調の判断精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一つの形態である制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換して前記インバータに出力する駆動信号出力部と、前記δ軸電圧指令値、前記δ軸電流値、及びモータパラメータを用いてδ軸干渉項を推定し、推定した前記δ軸干渉項が閾値以上である場合、前記モータが脱調していると判断する脱調判断部とを備える。
【0009】
例えば、モータの回転子の回転数をωとし、モータのq軸インダクタンス成分をLqとし、γ軸電流値をIγとし、誘起電圧定数をKとし、回転子のq軸の位置とδ軸の位置との誤差をΔθとする場合、δ軸干渉項=ω{-LqIγ-Kcos(Δθ)}と表すことができるため、Δθが大きくなるほどδ軸干渉項が大きくなることがわかる。そのため、モータが脱調しているときのΔθに対応するδ軸干渉項を閾値とすることにより、δ軸干渉項が閾値以上である場合、モータが脱調していると判断することができる。また、本発明に係る一つの形態である制御装置によれば、δ軸干渉項を推定するためのパラメータとして回転数指令値が含まれていないため、回転数指令値を用いて脱調しているか否かを判断する構成に比べて、脱調の判断精度を向上させることができる。
【0010】
また、前記δ軸干渉項をVδdec^とし、前記δ軸電圧指令値をVδ*とし、前記δ軸電流値をIδとし、前記モータの抵抗成分をR^とし、前記モータのq軸インダクタンス成分をLq^とし、微分演算子をsとする場合、前記脱調判断部は、下記式1を計算することにより前記δ軸干渉項を推定するように構成してもよい。
【0011】
Vδdec^=-Vδ*+(R^+Lq^s)Iδ・・・式1
【0012】
また、前記脱調判断部は、前記δ軸電流値が負の値である場合、前記δ軸干渉項の真値より大きい前記δ軸干渉項の第1の推定値を前記閾値として設定し、前記δ軸電流値が正の値である場合、前記δ軸干渉項の真値より小さい前記δ軸干渉項の第2の推定値を前記閾値として設定するように構成してもよい。
【0013】
また、前記モータは、非突極性のモータとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータの制御装置において、モータの脱調検出の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態における制御装置の一例を示す図である。
図2】d軸の位置とγ軸の位置との誤差と、δ軸干渉項との関係を示す図である。
図3】δ軸干渉項の推定方法を説明するための図である。
図4】δ軸干渉項の真値と、δ軸干渉項の推定値と、δ軸電流値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0017】
図1は、実施形態における制御装置の一例を示す図である。
【0018】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載されるモータMの動作を制御するものであって、インバータ2と、制御回路3とを備える。なお、モータMは、例えば、表面磁石型同期モータまたは埋め込み磁石型同期モータとする。
【0019】
インバータ2は、電源Pから供給される電力によりモータMを駆動させるものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1~Se3とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端子が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端子が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介してモータMのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介してモータMのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電流センサSe3を介してモータMのW相の入力端子に接続されている。
【0020】
コンデンサCは、電源Pから出力されインバータ2へ入力される電圧を平滑する。
【0021】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧がモータMのU相、V相、及びW相の入力端子に印加されモータMの回転子が回転する。
【0022】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、モータMのU相に流れるU相電流値Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、モータMのV相に流れるV相電流値Ivを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe3は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、モータMのW相に流れるW相電流値Iwを検出して制御回路3に出力する。なお、本実施形態では、電流センサSe1~Se3を3つ備えているが、3つではなく、3つのうちのいずれか2つを備えている構成でもよい。
【0023】
制御回路3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。制御回路3は、インバータ2を制御することによって、モータMを駆動させる。
【0024】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成され、後述する閾値Vδthなどを記憶する。
【0025】
ドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)の電圧値と、演算部6から出力されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0026】
例えば、ドライブ回路5は、U相電圧指令値Vu*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、U相電圧指令値Vu*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路5は、V相電圧指令値Vv*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、V相電圧指令値Vv*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路5は、W相電圧指令値Vw*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、W相電圧指令値Vw*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0027】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、電流値変換部7と、推定部8と、減算部9と、トルク指令値算出部10と、γ-δ電流指令値出力部11と、減算部12と、減算部13と、電圧指令値算出部14と、電圧指令値変換部15と、脱調判断部16とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、電流値変換部7、推定部8、減算部9、トルク指令値算出部10、γ-δ電流指令値出力部11、減算部12、減算部13、電圧指令値算出部14、電圧指令値変換部15、及び脱調判断部16が構成される。
【0028】
電流値変換部7は、推定部8により推定される回転子の推定位置(電気角)θ^を用いて、U相電流値I、V相電流値I、及びW相電流値Iをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。すなわち、電流値変換部7は、モータMに流れる電流をγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。電流値変換部7は、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値Iのうち、二相の電流値を入力し、残りの一相の電流値は、入力した二相の電流値から算出する機能を有していてもよい。
【0029】
なお、γ-δ座標系は、位置センサレス制御における推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。
【0030】
また、推定位置θ^は、モータMの回転子の位置θの推定値である。
【0031】
なお、「θ^」の表記では「^」が「θ」の右上に位置しているが、本明細書において記号「^」は、推定値を意味する。
【0032】
例えば、電流値変換部7は、下記式2に示す変換行列C1を用いて、U相電流値Iu、V相電流値Iv、W相電流値Iwを、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。
【0033】
【数1】
【0034】
推定部8は、推定回転数ω^及び推定位置θ^を算出する機能を備える。推定部8が、推定回転数ω^及び推定位置θ^を算出する方法は、公知の方法であり、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ及び予め推定可能なモータパラメータ(抵抗成分R^、d軸インダクタンス成分Ld^、及びq軸インダクタンス成分Lq^から算出する。抵抗成分R^、d軸インダクタンス成分Ld^、及びq軸インダクタンス成分Lq^は、制御対象のモータMのモータパラメータの推定値であり、モータMを用いた測定などによって予め推定される。モータMのモータパラメータの実値ではなく推定値としているのは、モータMに流れる電流や温度によってモータパラメータは変動するためである。
【0035】
減算部9は、推定部8により推定される推定回転数ω^と外部から入力される回転数指令値ω*との回転数差Δωを算出する。
【0036】
トルク指令値算出部10は、減算部9から出力される回転数差Δωを用いて、トルク指令値T*を算出する。例えば、トルク指令値算出部10は、記憶部4に記憶されている、モータMの回転子の回転数(角速度)とモータMのトルクとが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、回転数差Δωに相当する回転数に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0037】
γ-δ電流指令値出力部11は、トルク指令値T*を用いて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を出力する。例えば、γ-δ電流指令値出力部11は、記憶部4に記憶されている、モータMのトルクとγ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*とが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、トルク指令値T*に対応するγ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を求める。
【0038】
減算部12は、γ-δ電流指令値出力部11から出力されるγ軸電流指令値Iγ*と、電流値変換部7から出力されるγ軸電流値Iγとの差である差分γ軸電流指令値ΔIγを算出する。
【0039】
減算部13は、γ-δ電流指令値出力部11から出力されるδ軸電流指令値Iδ*と、電流値変換部7から出力されるδ軸電流値Iδとの差である差分δ軸電流指令値ΔIδを算出する。
【0040】
電圧指令値算出部14は、減算部12から出力される差分γ軸電流指令値ΔIγ及び減算部13から出力される差分δ軸電流指令値ΔIδをγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*に変換する。例えば、電圧指令値算出部14は、下記式3を計算することによりγ軸電圧指令値Vγ*を算出するとともに、下記式4を計算することによりδ軸電圧指令値Vδ*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、ω^は推定部8により推定される回転数とする。
【0041】
Vγ*=KpΔIγ+∫(KiΔIγ)-ω^Lq^Iq・・・式3
Vδ*=KpΔIδ+∫(KiΔIδ)+ω^Ld^Iδ+ω^K・・・式4
【0042】
すなわち、減算部12、13及び電圧指令値算出部14は、γ軸電流値Iγとγ軸電流指令値Iγ*に基づいてγ軸電圧指令値Vγ*を算出するとともにδ軸電流値Iδとδ軸電流指令値Iδ*に基づいてδ軸電圧指令値Vδ*を算出するγ―δ電圧指令値算出部として機能する。
【0043】
電圧指令値変換部15は、推定部8により推定される推定位置θ^を用いて、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、電圧指令値変換部15は、下記式5に示す変換行列C2を用いて、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*に変換する。そして、電圧指令値変換部15は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*をドライブ回路5に出力する。すなわち、電圧指令値変換部15とドライブ回路5は、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を駆動信号に変換してインバータ2に出力する駆動信号出力部として機能するといえる。
【0044】
【数2】
【0045】
脱調判断部16は、δ軸電圧指令値Vδ*、δ軸電流値Iδ、及び予め推定可能なモータパラメータを用いてδ軸干渉項Vδdecを推定し、推定したδ軸干渉項Vδdec^が閾値Vδth以上である場合、モータMが脱調していると判断する。なお、脱調判断部16における脱調判断は、例えば、モータMの制御周期毎、演算部6の動作クロック毎、またはサンプリング周期毎に行われる。また、演算部6は、脱調判断部16によりモータMが脱調していると判断されると、γ軸電流指令値Iγ*、δ軸電流指令値Iδ*、γ軸電圧指令値Vγ*、及びδ軸電圧指令値Vδ*をそれぞれゼロにすることでモータMを停止させるように構成してもよい。
【0046】
例えば、δ軸干渉項Vδdecは、下記式6により下記式7のように表すことができる。なお、Vddecをd軸干渉項とし、Vqdecをq軸干渉項とし、Δθをγ軸における回転子の位置θを基準とするd軸における回転子の位置θとの誤差またはδ軸における回転子の位置θを基準とするq軸における回転子の位置θとの誤差とする。
【0047】
【数3】
Vδdec=-(-Vddecsin(-Δθ)+Vqdeccos(-Δθ))・・・式7
【0048】
また、d軸干渉項Vddecを下記式8のように定義し、q軸干渉項Vqdecを下記式9のように定義する場合、上記式7を下記式10のように変形することができる。なお、ωを回転子の回転数とする。
【0049】
Vddec=-ωLqIq・・・式8
Vqdec=ω(LdId+K)・・・式9
Vδdec=ω{-LqIqsin(-Δθ)-LdIdcos(-Δθ)-Kcos(-Δθ)}・・・式10
【0050】
また、モータMが表面磁石型同期モータである場合、d軸インダクタンス成分Ldをq軸インダクタンス成分Lqに置き換えることができるため、上記式10を下記式11のように変形することができる。
【0051】
Vδdec=ω{Lq(-Iqsin(-Δθ)-Idcos(-Δθ))-Kcos(-Δθ)}・・・式11
【0052】
また、下記式12を用いて、上記式11を下記式13に変形することができる。
【0053】
【数4】
Vδdec=ω{-LqIγ-Kcos(Δθ)}・・・式13
【0054】
なお、モータMが埋め込み磁石型同期モータである場合、d軸インダクタンス成分Ldをk倍のq軸インダクタンス成分Lqに置き換えることができるため、上記式10を下記式14のように変形することができる。
【0055】
Vδdec=ω{-LqIqsin(-Δθ)-LqIdcos(-Δθ))-(k-1)LqIdcos(-Δθ))-Kcos(-Δθ)}・・・式14
【0056】
また、上記式12を用いて、上記式14を下記式15に変形することができる。
【0057】
Vδdec=ω^{Lq^Iγ+(k-1)Lq^Idcos(Δθ))+Kcos(Δθ)}・・・式15
【0058】
上記式13または上記式15に示すように、δ軸干渉項Vδdecを表す式にcos(Δθ)の項が存在するため、Δθが大きくなるほど、δ軸干渉項Vδdecが大きくなることがわかる。
【0059】
ここで、図2は、Δθとδ軸干渉項Vδdecとの関係を示す図である。なお、図2に示す二次元座標の横軸はΔθ[rad]を示し、縦軸はδ軸干渉項Vδdec[V]を示している。また、図2に示す実線は回転子の回転数ωが回転数ω1であるときのΔθとδ軸干渉項Vδdecとの関係を示し、図2に示す破線は回転子の回転数ωが回転数ω2であるときのΔθとδ軸干渉項Vδdecとの関係を示し、図2に示す一点鎖線は回転子の回転数ωが回転数ω3であるときのΔθとδ軸干渉項Vδdecとの関係を示している。回転数ω1<回転数ω2<回転数ω3とする。また、-V3<-V2<-V1<0<+V1<+V2<+V3とする。
【0060】
回転数ωが回転数ω1である場合、Δθがゼロからπ/2まで増加する間において、δ軸干渉項Vδdecが-V1からゼロまで増加し、Δθがπ/2からπに増加する間において、δ軸干渉項Vδdecがゼロから+V1まで増加する。
【0061】
回転数ωが回転数ω2である場合、Δθがゼロからπ/2まで増加する間において、δ軸干渉項Vδdecが-V2からゼロまで増加し、Δθがπ/2からπに増加する間において、δ軸干渉項Vδdecがゼロから+V2まで増加する。
【0062】
回転数ωが回転数ω3である場合、Δθがゼロからπ/2まで増加する間において、δ軸干渉項Vδdecが-V3からゼロまで増加し、Δθがπ/2からπに増加する間において、δ軸干渉項Vδdecがゼロから+V3まで増加する。
【0063】
すなわち、回転数ωの大きさによらず、Δθが大きくなるほど、δ軸干渉項Vδdecも大きくなる。また、回転数ωが大きくなるほど、δ軸干渉項Vδdecの増加幅が大きくなる。
【0064】
このような特性を有するモータMにおいて、Δθがπ/2以上であるときモータMが脱調していると定義する場合では、上記閾値Vδthをゼロと設定することにより、モータMが脱調しているか否かを判断することができる。すなわち、脱調判断部16は、δ軸干渉項Vδdecがゼロ以上になると、モータMが脱調していると判断する。
【0065】
次に、δ軸干渉項Vδdecの推定方法について説明する。
【0066】
図3(a)は、q軸におけるモータMの一般的なブロック線図である。
【0067】
まず、変換ブロック20において、δ軸電圧指令値Vδ*がΔθによってq軸電圧指令値Vq*に変換される。
【0068】
次に、加算器21において、q軸電圧指令値Vq*にq軸干渉項Vqdecが加算されて補正q軸電圧指令値Vq*´が出力される。
【0069】
次に、モータモデル22において、補正q軸電圧指令値Vq*´に1/(R^+Lq^s)が乗算されてq軸電流値Iqが出力される。
【0070】
そして、変換ブロック23において、q軸電流値IqがΔθによってδ軸電流値Iδに変換される。
【0071】
また、加算器21を変換ブロック20の前に移動させることで、図3(a)に示すブロック線図を図3(b)に示すブロック線図のように変形することができる。
【0072】
まず、加算器21において、δ軸電圧指令値Vδ*にδ軸干渉項Vδdecが加算されて補正δ軸電圧指令値Vδ*´が出力される。
【0073】
次に、変換ブロック20において、補正δ軸電圧指令値Vδ*´がΔθによって補正q軸電圧指令値Vq*´に変換される。
【0074】
次に、モータモデル22において、補正q軸電圧指令値Vq*´に1/(R^+Lq^s)が乗算されてq軸電流値Iqが出力される。
【0075】
そして、変換ブロック23において、q軸電流値IqがΔθによってδ軸電流値Iδに変換される。
【0076】
また、変換ブロック20は、δ軸電圧指令値Vδ*をΔθによってq軸電圧指令値Vq*に変換するのに対し、変換ブロック23は、q軸電流値Iqをθによってδ軸電流値Iδに変換するため、変換ブロック20及び23は、省略することができ、図3(b)に示すブロック線図は、図3(c)に示すブロック線図のように変形することができる。
【0077】
まず、加算器21において、δ軸電圧指令値Vδ*にδ軸干渉項Vδdecが加算されて補正δ軸電圧指令値Vδ*´が出力される。
【0078】
そして、モータモデル22において、補正δ軸電圧指令値Vδ*´に1/(R^+Lq^s)が乗算されてδ軸電流値Iδが出力される。
【0079】
また、図3(c)に示すブロック線図を、δ軸干渉項Vδdecが出力されるように変形することで、図3(d)に示すオブザーバ(δ軸干渉項を推定するための機構)を構築することができる。
【0080】
まず、モータモデル22´において、δ軸電流値Iδに(R^+Lq^s)が乗算されて補正δ軸電圧指令値Vδ*´が出力される。
【0081】
そして、加算器21´において、補正δ軸電圧指令値Vδ*´からδ軸電圧指令値Vδ*を除算することでδ軸干渉項Vδdecが出力される。
【0082】
すなわち、図3(c)に示すブロック線図に相当する下記式16を、図3(d)に示すオブザーバに相当する下記式1のように変形することができる。
【0083】
Iδ=(Vδ*+Vδdec)×1/(R^+Lq^s)・・・式16
Vδdec^=-Vδ*+(R^+Lq^s)Iδ・・・式1
【0084】
このように、δ軸電圧指令値Vδ*、δ軸電流値Iδ、抵抗成分R^、及びq軸インダクタンス成分Lq^を用いて、δ軸干渉項Vδdecを推定することができる。
【0085】
すなわち、脱調判断部16は、上記式1を計算することによりδ軸干渉項Vδdecを推定し、δ軸干渉項Vδdecの推定値であるδ軸干渉項Vδdec^が閾値Vδth以上である場合、モータMが脱調していると判断する。なお、δ軸電圧指令値Vδ*、δ軸電流値Iδ、及びモータパラメータ(抵抗成分R^、q軸インダクタンス成分Lq^)それぞれに含まれる誤差を考慮して閾値Vδthをより小さい値に変更してもよい。
【0086】
このように、実施形態の制御装置1では、δ軸電圧指令値Vδ*、δ軸電流値Iδ、及びモータMのモータパラメータ(抵抗成分R^、q軸インダクタンス成分Lq^)により推定されるδ軸干渉項Vδdec^を用いてモータMが脱調しているか否かを判断する構成であり、δ軸干渉項Vδdec^を推定するためのパラメータとして回転数指令値ω*が含まれていないため、回転数指令値ω*を用いてモータMが脱調しているか否かを判断する構成に比べて、脱調の判断精度を向上させることができる。
【0087】
また、実施形態の制御装置1では、δ軸電圧指令値Vδ*、δ軸電流値Iδ、抵抗成分R、及びq軸インダクタンス成分Lqの4つのパラメータにより推定されるδ軸干渉項Vδdec^を用いてモータMが脱調しているか否かを判断する構成であるため、5つ以上のパラメータを用いてモータMが脱調しているか否かを判断する構成に比べて、各パラメータに含まれる誤差が脱調の判断精度に及ぼす影響を低減することができる。
【0088】
また、位置センサレスの非突極性のモータM(例えば、表面磁石型同期モータまたは突極比が1に近い埋め込み磁石型同期モータ)の場合、低速駆動時の位置推定精度が比較的低くなるため脱調し易くなる。実施形態の制御装置1によれば、モータMの中高速駆動時だけでなく低速駆動時においても、モータMが脱調しているか否かを精度よく判断することができるため、位置センサレスの非突極性のモータMに対して特に有効である。
【0089】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0090】
<変形例>
図4(a)は、時間経過に伴うδ軸電流値Iδの変化を模式的に示し、図4(b)は、時間経過に伴うδ軸干渉項Vδdec^の変化を模式的に示す図である。なお、図4(a)に示す二次元座標の横軸は時間を示し、縦軸は電流を示している。また、図4(a)に示す実線はδ軸電流値Iδを示している。また、図4(b)に示す二次元座標の横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。また、図4(b)に示す実線はδ軸干渉項Vδdec^の真値を示し、図4(b)に示す破線はδ軸干渉項Vδdec^を示している。また、図4(a)における時刻t0、t1、t2は図4(b)における時刻t0、t1、t2と一致している。また、δ軸干渉項Vδdec^の真値とは、例えば、δ軸電圧指令値Vδ*、δ軸電流値Iδ、抵抗成分R、及びq軸インダクタンス成分Lqのそれぞれのパラメータに誤差が含まれていないときに推定されるδ軸干渉項Vδdec^とする。
【0091】
図4(a)及び図4(b)に示すように、δ軸電流値Iδが負の値であるとき、δ軸干渉項Vδdec^はδ軸干渉項Vδdec^の真値より大きい第1の推定値になる。
【0092】
また、δ軸電流値Iδが正の値であるとき、δ軸干渉項Vδdec^はδ軸干渉項Vδdec^の真値より小さい第2の推定値になる。
【0093】
このような特性を有するモータMにおいて、脱調判断部16は、δ軸電流値Iδが負の値である場合、δ軸干渉項Vδdecの真値より大きいδ軸干渉項Vδdec^の第1の推定値を閾値Vδthとして設定し、δ軸電流値Iδが正の値である場合、δ軸干渉項Vδdecの真値より小さいδ軸干渉項Vδdec^の第2の推定値を閾値Vδthとして設定するように構成してもよい。
【0094】
このように、δ軸電流値Iδの符号(正負)の変化に応じてδ軸干渉項Vδdec^が変化する特性を有するモータMにおいて、δ軸電流値Iδの符号の変化に応じて閾値Vδthを変化させることにより、脱調の判断精度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0095】
1 制御装置
2 インバータ
3 制御回路
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 電流値変換部
8 推定部
9 減算部
10 トルク指令値算出部
11 γ-δ電流指令値出力部
12 減算部
13 減算部
14 電圧指令値算出部
15 電圧指令値変換部
16 脱調判断部
P 電源
C コンデンサ
Se1 電流センサ
Se2 電流センサ
Se3 電流センサ
図1
図2
図3
図4