(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122517
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ポリアミド酸溶液と、ポリイミド、積層体およびフレキシブルデバイスの製造方法。
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240902BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240902BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240902BHJP
B32B 17/10 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C08G73/10
B05D7/24 302X
B32B27/34
B32B17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030090
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 萌子
(72)【発明者】
【氏名】中山 博文
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4D075BB21Z
4D075CA03
4D075CA17
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4J043TA71
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4J043UA092
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4J043UB152
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4J043VA021
4J043VA022
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4J043VA062
4J043ZA12
4J043ZA33
4J043ZA52
4J043ZB21
4J043ZB23
4J043ZB25
4J043ZB47
4J043ZB50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全性の高い溶剤を用いて合成した場合においても、そのポリアミド酸溶液から得られるポリイミドの耐熱性が、従来のポリイミドと同等の耐熱性を示すポリアミド酸溶液、そのポリアミド酸溶液を用いて得られるポリイミド、積層体、フレキシブルデバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリアミド酸と、下記一般式(1)で表される有機溶媒と、下記一般式(2)で表される含窒素化合物とを含むポリアミド酸溶液であり、含窒素化合物が溶媒に対して1000ppm以下であるポリアミド酸溶液。(式(1)のR
1、R
2、R
3は独立にHまたは炭素数1以上の有機基。式(2)の、R
4、R
5、R
7は独立に炭素数1以上の有機基、R
6はH又はメチル基、R
8はH又は炭素数が1以上の有機基である。)
R
1-C(=O)-N(R
2)R
3・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるポリアミド酸と有機溶媒と含窒素化合物を含むポリアミド酸溶液であって、
前記有機溶媒が、下記一般式(1)で示される有機溶剤を1種以上含み、
前記含窒素化合物が、下記一般式(2)で示される化合物であり、
前記含窒素化合物が溶媒に対して1000ppm以下であることを特徴とするポリアミド酸溶液。(下記一般式(1)の中のR
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上の有機基であり、R
1、R
2、R
3の少なくとも1つ以上は炭素数が2以上である。また、下記一般式(2)の中の、R
4、R
5、R
7はそれぞれ独立に炭素数1以上の有機基で互いに同一であっても異なっていてもよく、R
6は水素原子又はメチル基、R
8は水素原子又は炭素数が1以上の有機基である。)
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記有機溶媒が、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3―ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルホルムアミドから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド酸溶液。
【請求項3】
前記ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸二無水物のうち50%以上が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸である、請求項1に記載のポリアミド酸溶液。
【請求項4】
前記ポリアミド酸を構成するジアミンの50%以上が、1,4-フェニレンジアミンである、請求項1に記載のポリアミド酸溶液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド酸溶液をイミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項6】
1%の重量減少温度が500℃以上であることを特徴とする請求項5に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項7】
熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする請求項5に記載のポリイミドの製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド酸溶液を支持体に流延し、加熱しイミド化することを特徴とするポリイミドと支持体との積層体の製造方法。
【請求項9】
積層体を構成するポリイミドの熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド酸溶液をイミド化して得たポリイミドと該ポリイミド上に電子素子を形成することを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸組成物、ポリイミド、その積層体、フレキシブルデバイス、および積層体の製造方法に関する。本発明は、さらに、ポリイミドを用いた電子デバイス材料、TFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、カラーフィルター、印刷物、光学材料、液晶表示装置、有機EL及び電子ペーパー等の画像表示装置、3-Dディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、透明導電膜基板、現在ガラスが使用されている部分の代替材料に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶、有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、フレキシブル化が進んでいる。これらのデバイスではガラス基板に代えてポリイミドが基板として用いられている。
【0003】
これらのデバイスでは、基板上に様々な電子素子、例えば、薄膜トランジスタや透明電極等が形成されており、これらの電子素子の形成には高温プロセスが必要である。一般的な芳香族ポリイミドは高温プロセスに適応できるだけの十分な耐熱性を有しており、熱膨張係数(CTE)もガラス基板や電子素子とも近く、内部応力が生じにくいため、フレキシブルディスプレイなどの基板材料に好適である。
【0004】
上記のような基板材料は、ポリアミド酸を溶解させた溶液を支持体に塗布し、イミド化することでポリイミド膜を形成し、更にその上に電子素子が積層されることにより製造されている。
【0005】
一般的なポリアミド酸を溶解させる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)やN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶剤が用いられているが、環境や人体への影響の観点から、安全性の高い溶剤へ代替することが求められるようになってきた。
【0006】
安全性の高い溶剤を用いたポリイミドならびのその前駆体のポリアミド酸の合成例としては、ポリアミド酸塩を利用することで水を溶剤として用いる場合や(特許文献1)、催奇形性の懸念が低い溶剤として、N-ブチルピロリドンやアルコキシーN-置換プロパンアミドを用いた系が報告されている(特許文献2,3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-36382号公報(2012年2月23日公開)
【特許文献2】特開2017-517582号公報(2017年6月29日公開)
【特許文献3】WO2022-054850(2022年3月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らが検証したところ、特許文献1から3に記載のポリアミド酸溶液は重合中に析出物が生じたり、その溶液を支持体上に塗布し、イミド化したところ、熱膨張係数が高いために内部応力が高く、耐熱性が要求されるフレキシブルディスプレイ向け基板等としては不十分であることが明らかになった。
【0009】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、安全性の高い溶剤を用いて合成した場合においても、そのポリアミド酸溶液から得られるポリイミドの耐熱性が、従来のポリイミドと同等の耐熱性示す、ポリアミド酸溶液を提供することを目的とする。また、そのポリアミド酸溶液を用いて得られるポリイミド、積層体、フレキシブルデバイスの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らが鋭意検討した結果、ポリアミド酸と特定の有機溶媒と含窒素化合物を含む樹脂組成物であって、前記含窒素化合物が有機溶媒に対して1000ppm以下であることを特徴とするポリアミド酸溶液から得られるポリイミドは、ポリイミド本来の耐熱性を損なわず、高温プロセスに耐えうることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の構成をなす。
【0011】
1).テトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるポリアミド酸と有機溶媒と含窒素化合物を含むポリアミド酸溶液であって、
前記有機溶媒が、下記一般式(1)で示される有機溶剤を1種以上含み、
前記含窒素化合物が、下記一般式(2)で示される化合物であり、
前記含窒素化合物が溶媒に対して1000ppm以下であることを特徴とするポリアミド酸溶液。(下記一般式(1)の中のR
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上の有機基であり、R
1、R
2、R
3の少なくとも1つ以上は炭素数が2以上である。また、下記一般式(2)の中の、R
4、R
5、R
7はそれぞれ独立に炭素数1以上の有機基で互いに同一であっても異なっていてもよく、R
6は水素原子又はメチル基、R
8は水素原子又は炭素数が1以上の有機基である。)
【化1】
【化2】
【0012】
2).前記有機溶媒が、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3―ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルホルムアミドから選ばれることを特徴とする1)に記載のポリアミド酸溶液。
【0013】
3).前記ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸二無水物のうち50%以上が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸である、1)または2)に記載のポリアミド酸溶液。
【0014】
4).前記ポリアミド酸を構成するジアミンの50%以上が、1,4-フェニレンジアミンである、1)~3)のいずれかに記載のポリアミド酸溶液。
【0015】
5).1)~4)のいずれかに記載のポリアミド酸溶液をイミド化することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0016】
6).1%の重量減少温度が500℃以上であることを特徴とする5)に記載のポリイミドの製造方法。
【0017】
7).熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする5)または6)に記載のポリイミドの製造方法。
【0018】
8).1)~4)のいずれかに記載のポリアミド酸溶液を支持体に流延し、加熱しイミド化することを特徴とするポリイミドと支持体との積層体の製造方法。
【0019】
9).積層体を構成するポリイミドの熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする8)に記載の積層体の製造方法。
【0020】
10).1)~4)のいずれかに記載のポリアミド酸溶液をイミド化して得たポリイミドと該ポリイミド上に電子素子を形成することを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明に係るポリアミド酸溶液は、安全性の高い溶剤を用いて合成した場合においても、そのポリアミド酸溶液から得られるポリイミドの耐熱性が、従来のポリイミドと同等の耐熱性を示す。そのポリアミド酸溶液を用いて得られるポリイミド、積層体、フレキシブルデバイスの製造方法においても、安全性が確保でき、得られる物品の耐熱性が高く有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明で製造されるポリアミド酸溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとからなるポリアミド酸と、有機溶剤と含窒素化合物を含む。前記有機溶媒としては、下記一般式(1)から選ばれる有機溶剤を1種以上含み、前記含窒素化合物が、下記一般式(2)で示される化合物であり、
前記含窒素化合物が溶媒に対して1000ppm以下であることを特徴とする。(下記一般式(1)の中のR
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上の有機基であり、R
1、R
2、R
3の少なくとも1つ以上は炭素数が2以上である。また、下記一般式(2)の中の、R
4、R
5、R
7はそれぞれ独立に炭素数1以上の有機基で互いに同一であっても異なっていてもよく、R
6は水素原子又はメチル基、R
8は水素原子又は炭素数が1以上の有機基である。)
【化3】
【化4】
【0024】
従来のポリアミド酸溶液には、溶解性や特性面の観点から、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称することもある)、N-メチルピロリドン(以下、NMPと称することもある)、ジメチルアセトアミド(以下、DEAcと称することもある)などのアミド系溶媒が使用されている。しかしこれらの溶剤は、健康への被害が問題視されるようになってきた。そこで、本発明のポリアミド酸溶液には、上記アミド系溶媒の含有量が、全溶媒量に対して、1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、全く含有していなくてもよい。
【0025】
安全性、溶解性に優れた溶剤として、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(以下、MPAと称することもある)、3―ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(以下、BPAと称することもある)、N,N-ジメチルプロピオンアミド(以下、DMPAと称することもある)、N,N-ジエチルホルムアミド(以下、DEFと称することもある)等が挙げられるが、中でも安全性が高いMPAがより好ましい。
【0026】
一般式(1)で表される溶媒は、例えば、MPAやBPA、DMPA、DEF等を例示することができ、この中でも安全性の観点で、MPAが好ましい。
【0027】
本発明において、ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、使用するテトラカルボン酸二無水物、およびジアミン類を溶解することが可能なものが好ましく、更に生成されるポリアミド酸を溶解することが可能なものが好ましい。上記ポリアミド酸の合成反応に使用する有機溶媒は、例えばテトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレアのようなウレア系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォンのようなスルホキシドあるいはスルホン系溶媒、DMAC、DMF、NMP、MPA、3-ブトキシ-N,N‘-ジメチルプロパンアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、ジメチルプロピオンアミド、キサメチルリン酸トリアミド、N-ブチルピロリドン等のアミド系溶媒、γ―ブチロラクトン等のエステル系溶媒、ヘクロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化アルキル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、フェノール、クレゾールなどのフェノール系溶媒、シクロペンタノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組合わせて用いて良いが、安全性の観点から、一般式(1)で表される溶媒が全体の70wt%以上であることが好ましく、90wt%以上であることがさらに好ましく、100wt%であることがより好ましい。特にMPA、BPAなどのアミド系溶媒が好ましい。また反応時は、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気であることが好ましい。
【0028】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アミド結合(-NHCO-)以外に3級アミノ基を有する下記一般式(2)で示される含窒素化合物を含む場合、後述に示す、不具合があることを見出した。(下記一般式(2)の中の、R
4、R
5、R
7はそれぞれ独立に炭素数1以上の有機基で互いに同一であっても異なっていてもよく、R
6は水素原子又はメチル基、R
8は水素原子又は炭素数が1以上の有機基である。)
【化5】
【0029】
有機溶媒中に含まれる一般式(2)の含窒素化合物は、ポリアミド酸と反応または塩形成により難溶性の析出物を形成したり、ポリアミド酸溶液を用いて製造されるポリイミドの分子鎖パッキングを阻害し、CTEの増大を引き起こしたりするため、有機溶媒全体の1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、0ppmであってもかまわない。上記範囲にすることで、ポリアミド酸との反応不純物の析出を軽減し、熱膨張係数の増大を抑制することができる。
【0030】
本発明で製造されるポリアミド酸は、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸(以下、s-BPDAと称することもある)と1,4-フェニレンジアミン(以下、p-PDAと称することもある)を含む単位構造を有する。s-BPDAとp-PDAからなるユニットは、剛直な構造を有しており、高Tg、低CTE、低内部応力および優れた機械強度を発現する。しかしながら、特にこのような剛直なユニットを有する場合、一般式(2)で示される含窒素化合物を含むことにより、熱膨張係数が大きくなる傾向にある。
【0031】
本実施の形態に係るポリアミド酸は、その性能を損なわない範囲で、s-BPDA以外の酸二無水物成分を含んでもよい。例えば、ピロメリット酸二無水物、1,4-フェニレンビス(トリメリテート酸二無水物)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシフタル酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、スピロ[11H‐ジフルオロ[3,4-b:3’,4’‐i]キサンテン-11,9‘‐[9H]フルオレン]1,3,7,9テトロン、9,9-ビス(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2’-オキソジスピロ[2.2.1]ヘプタン-2,1‘’-シクロヘプタン-3,2’’-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,5’-6,6’-テトラカルボン酸二無水物及びそれらの類似物が挙げられ、これらを単独または2種類以上用いてもよい。
【0032】
耐熱性ならびに低内部応力の観点から、ポリアミド酸を構成する酸二無水物のうち、s-BPDAを50mol%以上含むことが好ましく、60mol%がより好ましく、70mol%以上がさらに好ましく、100mol%でも構わない。
【0033】
本実施の形態に係るポリアミド酸は、その性能を損なわない範囲で、p-PDA以外のジアミン成分を含んでもよい。例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-フェニレンジアミン、4,4’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、4-(アミノフェニル)4-アミノベンゾエート、m-トリジン、o-トリジン、4,4’-ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、2-(4-アミノフェニル)-6-アミノベンゾオキサゾール、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノ-3,3’ジヒドロキシビフェニル、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサンアミン)、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン及びそれらの類似物が挙げられ、これらを単独または2種類以上用いてもよい。中でも1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが密着性向上の観点で望ましい。
【0034】
耐熱性ならびに低内部応力の観点から、ポリアミド酸を構成するジアミンのうち、p-PDAを50mol%以上含むことが好ましく、60mol%がより好ましく、70mol%以上がさらに好ましく、100mol%でも構わない。
【0035】
本発明のポリアミド酸は、公知の一般的な方法にて合成することができ、有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより得ることができる。具体的には、例えば、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中において、ジアミンを有機溶媒中に溶解、またはスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とする。一方、テトラカルボン酸二無水物は、有機溶媒に溶解、又はスラリー状に分散させた状態とした後、あるいは固体の状態で、上記ジアミン溶液中に添加すればよい。
【0036】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを用いてポリアミド酸を合成する場合、単数または複数のジアミン成分全量のmol数と、単数または複数のテトラカルボン酸二無水物成分全量のmol数とを調整することで、ポリアミド酸共重合体を任意に得ることができる。また、2種のポリアミド酸をブレンドすることによって複数のテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含有するポリアミド酸を得ることもできる。上記ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応即ち、ポリアミド酸の合成反応の温度条件は、特に限定されないが、必要に応じて25℃~150℃の範囲としてもよく、反応時間は10分~30時間の範囲で任意に設定すればよい。
【0037】
本明細書ではポリアミド酸と有機溶媒とを含む溶液をポリアミド酸溶液とする。ここで、ポリアミド酸溶液に含まれる当該有機溶媒としては、上記ポリアミド酸の合成反応に使用する有機溶媒と同様の有機溶媒を用いることができ、上述した方法でポリアミド酸を得た場合、合成した反応溶液自体をポリアミド酸溶液と表現することもある。
【0038】
本発明に係るポリアミド酸の重量平均分子量は、その用途にもよるが、イミド化速度の観点からは、例えば熱イミド化によりポリイミドを調製する場合、重量平均分子量が大きいほど溶媒に対する溶解性が低いため、イミド化の進行に伴って溶解性が低下しやすく分子運動が抑制されやすい。その結果、イミド化速度が遅くなり分解による着色等が懸念されることから重量平均分子量は10,000以上1,000,000以下の範囲であることが好ましく、20,000~500,000の範囲であることがさらに好ましく、30,000~200,000の範囲であることがさらに好ましい。またポリアミド酸溶液をスリットコーターなどで基板上に塗工してフィルム化する場合などは、ポリアミド酸溶液の粘度と固形分濃度が最適な範囲にあることが生産性の観点から重要であり、上記範囲にすることで最適な粘度と固形分濃度のポリアミド酸溶液あるいはポリイミド溶液が得られる。重量平均分子量が10,000以上であれば、ポリアミド酸およびポリイミドを塗膜又はフィルムとすることが可能となる。一方、重量平均分子量が1,000,000以下であると、溶媒に対して十分な溶解性を示すため、後述するポリアミド酸溶液およびポリイミド溶液から表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られる。ここで用いている分子量とは、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算の値のことをいう。
【0039】
本発明のポリイミドは、公知の方法にて得ることができ、その製造方法は、特に制限されない。モノマーの入手性および重合の簡便さから、本発明のポリイミドはその前駆体であるポリアミド酸から得ることが好ましい。ポリアミド酸を用いて、ポリイミドを得るために、上記ポリアミド酸をイミド化する方法について説明する。イミド化は、ポリアミド酸を脱水閉環することによって行われる。この脱水閉環は、共沸溶媒を用いた共沸法、熱的手法または化学的手法によって行うことができる。また、ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化は、1~100%の任意の割合をとることができる。つまり、一部がイミド化されたポリアミド酸を合成してもよい。特に加熱昇温によりイミド化する場合は、ポリアミド酸からポリイミドへの閉環反応とポリアミド酸の加水分解が同時に進行しており、ポリイミドにした時の分子量がポリアミド酸の分子量よりも低くなったり、加水分解により生成した末端のジアミン類の酸化等により着色したりする可能性もあるため、あらかじめ一部がイミド化されたポリアミド酸溶液であることが透明性や機械特性の観点から好ましい。
【0040】
脱水閉環は、ポリアミド酸を加熱して行えばよい。ポリアミド酸を加熱する方法は特に制限されないが、例えば、ガラス板、金属板、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の支持体に、ポリアミド酸溶液を流延または塗布した後、80℃~500℃の範囲内で熱処理を行えばよい。このような手法によるポリアミド酸の脱水閉環により、ポリイミドを得ることができる。なお、上記各処理の加熱時間は、脱水閉環を行うポリアミド酸溶液の処理量や加熱温度により異なるが、一般的には、処理温度が最高温度に達してから1分~5時間の範囲で行うことが好ましい。また、加熱時間の短縮や特性発現のために、イミダゾール類を添加することができる。
【0041】
本明細書中でのイミダゾール類とは、1,3-ジアゾール環構造を含有する化合物を示す。本発明のポリアミド酸に添加するイミダゾール類は、特に限定されないが、例えば、1H-イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル2-フェニルイミダゾールなどが挙げられる。1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル2-フェニルイミダゾールが好ましく、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールがより好ましい。
【0042】
イミダゾール類の含有量は、ポリアミド酸のアミド基1molに対して0.005mol以上0.1mol以下が好ましく、0.01mol以上0.08mol以下が好ましく、0.015mol以上0.050mol以下がより好ましい。0.005mol以上含有させることでポリイミドの膜強度の向上や透明性の向上に対して効果を発揮し、0.1mol以下とすることで、ポリアミド酸の保存安定性を維持し、Tgや耐熱性も向上させることができる。透明性の向上について説明すると、NMPのような重合溶媒はポリアミド酸のカルボン酸と水素結合による錯体を形成することが知られており、イミド化速度が遅い場合、NMP等がフィルム中に残存し、酸化や分解することで着色の原因となる可能性がある。イミダゾール類を添加すると、ポリアミド酸のカルボン酸に配位し、イミド化を促進させるため、NMP等がフィルム中に残存しにくくなると同時に熱イミド化過程のポリアミド酸の分解も抑制されるため透明性が向上すると考えられる。本明細書中での、「ポリアミド酸のアミド基」とは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応によって生成したアミド基を示す。
【0043】
ポリアミド酸へのイミダゾール類の添加方法は特に制限されない。ポリアミド酸の分子量制御の観点から、ポリアミド酸に混合する方法が好ましい。このとき、イミダゾール類をそのままポリアミド酸に添加してもよいし、あらかじめイミダゾール類を溶媒に溶解しておき、この溶液を添加してもよく、その方法は特に制限されない。
【0044】
上述したように、本実施の形態に係るポリアミド酸から製造されたポリイミド膜は揮発する溶剤の安全性が高く、支持体との界面に生じる内部応力が小さく、TFT作製工程に耐えうる耐熱性を有していることから、フレキシブルディスプレイの基板における使用に適している。
【0045】
フレキシブルディスプレイを製造する場合、ガラスなどの無機膜を支持体としてその上に本発明のポリアミド酸溶液を用いてフレキシブル基板を形成し、その上にTFTなどの電子素子を形成する(フレキシブルデバイス)。TFTを形成する工程は一般的に150℃~650℃の広い温度領域で実施されるが、実際に所望する性能を達成するためには300℃以上で酸化物半導体やa-Siを形成し、場合によってはさらにレーザー等でa―Si等を結晶化させLTPS(Low Temperature Polysilicone)を形成する。
【0046】
この際、ポリイミド膜の熱分解温度が低い場合、素子形成中にアウトガスが発生し、昇華物としてオーブン内に付着し、炉内汚染の原因となったり、ポリイミド膜上に形成した無機膜や素子が剥離したりする可能性があるためポリイミド膜の1%重量減少温度は500℃以上であることが好ましく、高ければ高いほどよい。
【0047】
さらに詳細に説明すると、TFT作成前にバリア膜としてポリイミド膜上にシリコン酸化膜(SiOx)やシリコン窒化膜(SiNx)などを形成する。ポリイミドの耐熱性が低い場合、無機膜積層後の高温プロセス、例えばLTPSの脱水素工程などでポリイミドの分解ガス等の揮発成分に由来してポリイミドと無機膜の界面に浮きが生じることがある。
【0048】
そのためデバイス作製のプロセスにもよるが1%重量減少温度が500℃以上であることに加え400℃~500℃で等温保持した際のアウトガスが少ないことが求められ、本発明のポリアミド酸溶液から得られるポリイミドの1%の重量減少温度は500℃以上である。具体的にはポリイミド膜上にSiOxなどの無機膜を形成後、470℃で10分間保持した際にポリイミド膜と無機膜の間に浮きがないことが望ましい。上記条件に適したポリイミド膜であればTFT性能が高いフレキシブルデバイスを得ることができる。
【0049】
またTgがプロセス温度よりも著しく低い場合は、素子形成中に位置ずれ等が生じる可能性があるためフレキシブル基板として用いられるポリイミド膜のTgは300℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましく、400℃以上がより好ましい。さらに支持体として用いたガラス基板の熱膨張係数との差が大きければ、高温のTFT工程で膨張した後、常温冷却時に収縮する際、ガラス基板の反りや破損、フレキシブル基板のガラス基板からの剥離などの問題が生じる。そのため、ガラス基板と同程度の熱膨張係数を有する必要があり、ポリイミド膜の熱膨張係数は、30ppm/K以下であることが好ましく、20ppm/K以下がより好ましく、15ppm/K以下が更に好ましい。
【0050】
本発明のポリイミドは、TFT基板やタッチパネル基板等のディスプレイ基板材料として好適に用いることができる。上記用途に用いる際、支持体とポリイミドとの積層体を製造し、その上に電子素子を形成し、最後にポリイミド層を剥離する製造方法が用いられるケースが多い。また、支持体としては、無アルカリガラスやa-Siを積層した犠牲層付きガラスが好適に用いられる。以下、ポリイミドと支持体との積層体の製造方法および積層体を経由するポリイミドの製造方法について具体的に述べる。これらはポリイミドの製造方法の一例であり、以下に限定されるものではない。
【0051】
先ず、支持体に含有ポリアミド酸溶液を流延し、この支持体とポリアミド酸の積層体を40~200℃の温度で3~120分加熱することが好ましい。また、例えば50℃にて30分、続いて100℃にて30分のように2段階の温度で乾燥してもよい。次に、イミド化を進めるため、この支持体とポリアミド酸の積層体を温度200~470℃で3分~300分加熱することで、支持体とポリイミドとの積層体を得ることができる。このとき低温から徐々に高温にし、最高温度まで昇温することが好ましい。昇温速度は2℃/分~10℃/分であることが好ましく、4℃/分~10℃/分であることがより好ましい。また、最高温度は250~470℃の温度範囲であることが好ましい。最高温度が250℃以上であれば、十分にイミド化が進行し、最高温度が500℃以下であれば、ポリイミドの熱劣化や着色を抑制できる。また、最高温度に到達するまでに任意の温度で任意の時間保持してもよい。加熱雰囲気は空気下、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中で行うことができるが、より高い透明性を発現させるためには、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中で行うことが好ましい。また、加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、イナートオーブン、ホットプレート等の公知の装置を用いることができる。また、加熱時間の短縮や特性発現のために、イミド化剤や脱水触媒をポリアミド酸溶液に添加し、この溶液を上記のような方法で加熱してイミド化してもよい。つまり、一部または全てがイミド化したポリアミド酸も同様の方法で支持体との積層体を得ることができる。
【0052】
得られた支持体とポリイミドとの積層体からポリイミド層を剥離する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、手で引き剥がしても良いし、駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いて引き剥がしても良い。更には、基板とポリイミド層の間に剥離層を設ける方法や多数の溝を有する基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることによって剥離する方法を用いることもできる。また、レーザー光の照射よって分離させる方法をとることもできる。この時、ポリイミドと支持基板(たとえばガラス)の界面に浮きがあると、プロセス中に積層体が剥がれたり、剥離時の歩留まり低下を引き起こす恐れがある。
【0053】
ポリイミドの透明性は、JIS K7361およびJIS K7163に従った全光線透過率(TT)およびヘイズで評価することができる。本発明の用途でポリイミド膜を用いる場合、ポリイミドの全光線透過率は、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、ヘイズは、1.5%以下であることが好ましいく、1.2%以下であることがより好ましく、1.0%未満であることがさらに好ましい。
【0054】
また、フレキシブルディスプレイの光取り出し方式には、TFT素子側から光を取り出すトップエミッション方式とTFT素子の裏面側から光を取り出すボトムエミッション方式の2種類がある。トップエミッション方式では、TFT素子に光が遮られないため開口率を上げやすく、高精細な画質を得られるという特徴があり、ボトムエミッション方式は位置合わせが容易で製造しやすいといった特徴がある。TFT素子が透明であればボトムエミッション方式においても、開口率を向上することが可能となるため、大型ディスプレイには製造が容易なボトムエミッション方式が採用される傾向がある。本発明により得られる材料は上記どちらの用途でも使用することができる。
【0055】
また、ガラス等の支持体上にポリアミド酸溶液を塗布し、加熱してイミド化し、電子素子等を形成して基板形成した後、剥がすという、バッチタイプのデバイス作製プロセスにおいては、支持体とポリイミドとの間の密着性が良いことがより好ましい。ここでいう密着性とは、密着強度という意味である。支持体上のポリイミド膜に電子素子等を形成して基板形成した後に、支持体から、電子素子等が形成されたポリイミド基板を剥がすという作製プロセスにおいて、支持体との密着性に優れるということは、電子素子等をより正確に形成または実装することができる。支持体上に電子素子等を積層させる製造プロセスの観点ではピール強度は高ければ高いほど良い。具体的には0.05N/cm以上が好ましく、0.1N/cm以上がさらに好ましい。
【0056】
上述したような製造プロセスにおいて、支持体とポリイミドとの積層体からポリイミド層を剥離する際、レーザー照射によって支持体から剥離される場合が多い。この剥離の加工性の観点から、ポリイミドにレーザーの波長の光を吸収させる必要がある。レーザー剥離にはエキシマーレーザーが用いられることが多く、そのレーザーの波長の光を吸収する必要があることから、Cut off波長は312nm以上が好ましく、330nm以上がより好ましい。また、Cut Off波長が400nm以下であると、十分な透明性を発現できることから、Cut Off波長は320nm以上400nm以下であることが好ましく、330nm以上390nm以下であることがより好ましい。なお、本明細書中におけるCut off波長とは、紫外-可視分光光度計によって測定される、透過率が0.1%以下になる波長のことを意味する。
【0057】
本発明に係るポリアミド酸およびポリイミドは、そのまま製品や部材を作製するためのコーティングや成形プロセスに供してもよいが、フィルム状に成形された成形物にさらにコーティング等の処理を行うための積層物として用いることも出来る。コーティングあるいは成形プロセスに供するために、該ポリアミド酸およびポリイミドを必要に応じて有機溶媒に溶解又は分散させ、さらに、光又は熱硬化性成分、本発明に係るポリアミド酸およびポリイミド以外の非重合性バインダー樹脂、その他の成分を配合して、ポリアミド酸およびポリイミド樹脂組成物を調製してもよい。
【0058】
本発明に係るポリアミド酸およびポリイミドに加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、酸化防止剤、可塑剤、染料、界面活性剤、レベリング剤、シリコーン、微粒子、増感剤等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0059】
本発明のポリアミド酸には、上述した機能性付与のための添加剤として酸化防止剤を添加することができる。本発明のポリアミド酸に添加する酸化防止類は、特に限定されないが、フェノール系の一次酸化防止剤やホスファイト系や硫黄系の二次酸化防止剤などが挙げられる。上記酸化防止剤は1種類または2種類以上使用することができる。これらの酸化防止剤を用いることで、ポリアミド酸からポリイミドへ熱イミド化する際の解重合で生じる末端基の酸化を抑制し、酸化による着色や、分子量低下による機械強度の低下を抑制することができる。
【0060】
また、本発明にかかるポリアミド酸は、支持体との適切な密着性を発現させるために、シランカップリング剤を含有させることができる。シランカップリング剤の種類は、公知のものを特に制限なく使用できるが、ポリアミド酸との反応性の観点からアミノ基を含有する化合物が特に好ましい。これらのシランカップリング剤のポリアミド酸100重量部に対する配合割合は、0.01~0.50重量部であることが好ましく、0.01~0.10重量部であることがより好ましく、0.01~0.05重量部であることがさらに好ましい。シランカップリング剤の配合割合を0.01重量部以上とすることで、支持体に対する剥離抑制効果は十分に発揮され、0.50重量部以下とすることで、ポリアミド酸の分子量が十分に保たれるため、脆化などの問題が生じない。
【0061】
本発明に係るポリアミド酸は、支持体との適切な濡れ性や、ポリイミド膜にした際の表面性を良くするためにレベリング剤を含有させることができる。レベリング剤の種類は、公知のものを制限なく使用できる。例えばシリコーン系、フッ素系、アクリル系、ビニル系のものが挙げられる。熱イミド化時の凝集や白化を抑制する観点から、これらのレベリング剤の配合量はポリアミド酸100重量部に対して0.001~0.5重量部であることが好ましく、0.005~0.1重量部であることがより好ましく、0.01~0.05重量部であることが更に好ましい。上記の範囲にすることで、ポリイミド膜の物性を悪化させることなく、基板に対する良好な濡れ性と表面性を得ることができる。
【0062】
本発明に係るポリイミド膜は、その表面に金属酸化物や透明電極等の各種無機薄膜を形成していても良い。これら無機薄膜の製膜方法は特に限定されるものではなく、例えばCVD法、スパッタリング法や真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法等が挙げられる。
【0063】
本発明に係るポリイミドは、耐熱性、高透明性に加えて、ガラス基板との内部応力が小さいため、これらの特性が有効とされる分野および製品、例えば、電子デバイス材料、TFT基板、フレキシブルディスプレイ基板、カラーフィルター、印刷物、光学材料、液晶表示装置、有機EL及び電子ペーパー等の画像表示装置、3-Dディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、透明導電膜基板、現在ガラスが使用されている部分の代替材料とすることがさらに好ましい。
【0064】
また、本発明に係るポリアミド酸、ポリイミドおよびポリアミド酸溶液は、支持体上にポリアミド酸溶液を塗布し、加熱してイミド化し、電子素子等を形成して基板形成した後、剥がすという、バッチタイプのデバイス作製プロセスに好適に用いることができる。したがって、本発明には、支持体上にポリアミド酸溶液を塗布し、加熱してイミド化し、支持体上に形成されたポリイミド膜に電子素子等を形成する基板形成工程を含む電子デバイスの製造方法も含まれる。また、かかる電子デバイスの製造方法は、さらに、基板形成工程の後に、支持体から、電子素子等が形成されたポリイミド基板を剥がす工程を含んでいてもよい。
【0065】
以下、実施例を示し具体的に説明するが、これらは説明のために記述されるものであり、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例0066】
(評価方法)
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法のよって得られたものである。
【0067】
(1)内部応力の測定
あらかじめ反り量を計測していたコーニング社製の無アルカリガラス(商標名:Eagle XG、厚み0.7mm、100mm×100mm)上に実施例ならびに比較例で調製したポリアミド酸溶液をスピンコーターで塗布し、空気中、80℃で30分、窒素雰囲気下、460℃で20分焼成し、膜厚10μmのガラス基板とポリイミドの積層体を得た。このガラス基板とポリイミドの積層体の反り量をテンコール社製薄膜応力測定装置FLX-2320-Sを用いて測定し、窒素雰囲気下、25℃におけるガラス基板とポリイミド膜の間に生じた内部応力を評価した。なお、ポリイミド膜の吸水を避けるために、ガラス基板とポリイミドの積層体は焼成直後あるいは120℃で10分乾燥させてから測定を行った。
【0068】
(2)熱膨張係数(CTE)
日立ハイテクサイエンス(株)製TMA/SS7100を用い、引張荷重法による熱機械分析で評価した。ポリイミド積層体からポリイミド層を剥がして、10mm×3mmの試料を作製し、長辺に29.4mNの荷重を加え、10℃/minで20℃から470℃まで一旦昇温させた後、20℃まで冷却したときの、冷却時の100℃から450℃の範囲における単位温度あたりの試料の歪の変化量を熱膨張係数とした。
【0069】
(3)1%重量減少温度(TD1)
日立ハイテクサイエンス(株)製TG/DTA/7200を用いてN2雰囲気下、20℃/minで25℃から650℃まで昇温し、水分の影響を考慮し、150℃での重量を基準にそこから重量が1%減少した際の温度をポリイミド膜のTD1とした。
【0070】
(4)溶剤中の含窒素化合物(a)の含有率
(株)島津製作所製GC装置を用いて、各実施例および比較例に用いた溶剤を、カラム温度:40~280℃、キャリアガス:ヘリウム(2.19mL/min)の条件でGC分析を実施した。得られたピーク面積値から、3-メトキシ-N,N’-ジメチルプロパンアミドに対する含窒素化合物(a)の含有率を算出した。
【0071】
(5)重合時の析出物
各実施例および比較例のポリアミド酸溶液を重合した際、APDEを添加後の様子を目視で確認し、析出がない場合を◎、薄く析出が確認できる場合を〇、少量析出した場合を△、大量に析出した場合を×とした。
【0072】
用いた試薬の略称と含窒素化合物(a)は以下の通りである。
MPA:3-メトキシ-N,N’-ジメチルプロパンアミド
SFDA:スピロ[11H‐ジフルオロ[3,4-b:3’,4’‐i]キサンテン-11,9‘‐[9H]フルオレン]1,3,7,9テトロン
BPDA:3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PDA:1,4-フェニレンジアミン
PAM-E:1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン
APDE:3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン
【0073】
【0074】
精製度の違いによって、MPA1(0ppm)、MPA2(100ppm)、MPA3(500ppm)、MPA4(1000ppm)、MPA5(3000ppm)の5種類のMPAを準備した。
【0075】
(実施例1)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機、窒素導入管を備えた300mLのガラス製セパラブルフラスコに重合用の有機溶媒としてMPA1を56.6g仕込み撹拌した。そこに、SFDA0.117gを入れ、溶解させた。この溶液に、PDA2.695g、BPDA7.188gを加え、85℃で4時間攪拌後、APDEを0.015g添加して40℃で4時間攪拌し、均一で透明なポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液をスピンコーターでガラス板上(Corning製 Eagle XG 0.7mm厚)にて塗布し、空気中80℃で30分、窒素雰囲気下460℃で20分間焼成して、膜厚10μmのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の特性を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機、窒素導入管を備えた300mLのガラス製セパラブルフラスコに重合用の有機溶媒としてMPA1を56.6g仕込み撹拌した。そこに、SFDA0.154gを入れ、溶解させた。この溶液に、PDA2.589g、PAM-E0.031g、BPDA7.226gを加え、85℃で7時間攪拌し、均一で透明なポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液をスピンコーターでガラス板上(Corning製 Eagle XG 0.7mm厚)にて塗布し、空気中80℃で30分、窒素雰囲気下460℃で20分間焼成して、膜厚10μmのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の特性を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
使用溶媒をMPA2に変更した以外は実施例2と同様の方法でポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の特性を表1に示す。
【0078】
(実施例4、5)
使用溶媒を表1記載のMPAに、モノマー、添加剤の仕込み量を表1記載の値に変更した以外は実施例1と同様の方法でポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の特性を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機、窒素導入管を備えた300mLのガラス製セパラブルフラスコに重合用の有機溶媒としてMPA5を56.6g仕込み撹拌した。そこに、SFDA0.152gを入れ、溶解させた。この溶液に、PDA2.687g、BPDA7.161gを加え、85℃で4時間攪拌し、冷却後APDE0.02gを添加して攪拌することで、均一で透明なポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液をスピンコーターでガラス板上(Corning製 Eagle XG 0.7mm厚)にて塗布し、空気中80℃で30分、窒素雰囲気下460℃で20分間焼成して、膜厚10μmのポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜の特性を表1に示す。
【表1】
【0080】
上記に示すように、テトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるポリアミド酸と安全性の高い有機溶媒と含窒素化合物を含む樹脂組成物であって、前記含窒素化合物が溶媒に対して1000ppm以下であることを特徴とするポリアミド酸溶液から得られるポリイミドは、
・ 熱膨張係数が15ppm/K以下
・ 熱分解温度が500℃以上
【0081】
比較例1は、製膜したポリイミドの熱分解温度は優れているが、耐熱性が低いためにCTEが高い。
【0082】
この結果から、テトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるポリアミド酸と安全性の高い有機溶媒と含窒素化合物を含む樹脂組成物であって、前記含窒素化合物が溶媒に対して1000ppm以下であることを特徴とするポリアミド酸溶液をイミド化して得られたポリイミド膜は、ポリイミド製造時の健康への安全性が高く、支持基板との界面に生じる残留応力が小さくさらに耐熱性が高いことが確認された。なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。