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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122524
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】不織布及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/54 20120101AFI20240902BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20240902BHJP
   D04H 1/64 20120101ALI20240902BHJP
   D04H 1/587 20120101ALI20240902BHJP
【FI】
D04H1/54
A61F13/511 300
A61F13/511 100
D04H1/64
D04H1/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030102
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖史
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200BA01
3B200BA02
3B200BA08
3B200BB03
3B200DC01
3B200DC02
3B200DC04
3B200EA07
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA08
4L047BA17
4L047BB01
4L047BB06
4L047BB09
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA12
4L047CB01
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】滑らかな肌触りと高い厚み回復性とを両立する吸収性物品用不織布を提供すること。
【解決手段】シロキサン骨格を有する被膜形成性ポリマーを繊維の表面に有し、凹凸構造を有する吸収性物品用不織布である。前記被膜形成性ポリマーの25℃における弾性率が10Pa以上10Pa以下である。前記吸収性物品用不織布は、該不織布を構成する繊維どうしが融着した融着点を複数有する。前記被膜形成性ポリマー中のシロキサン骨格の比率が40質量%以上98質量%以下であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン骨格を有する被膜形成性ポリマーを繊維の表面に有し、凹凸構造を有する吸収性物品用不織布であって、
前記被膜形成性ポリマーの25℃における弾性率が10Pa以上10Pa以下であり、
前記吸収性物品用不織布は、該不織布を構成する繊維どうしが融着した融着点を複数有する、吸収性物品用不織布。
【請求項2】
前記被膜形成性ポリマー中のシロキサン骨格の比率が40質量%以上98質量%以下である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記被膜形成性ポリマーの含有量が0.005質量%以上15質量%以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
複数の前記融着点のうちの少なくとも一部が前記被膜形成性ポリマーで覆われている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の不織布を備えた、吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に好適に用いられる不織布及び吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキンやおむつ等の吸収性物品を製品として出荷する際には、複数個の該製品がその厚み方向に圧縮されるようにパッキングされるのが一般的である。このようなパッキングをした際には、製品を構成する不織布の嵩がつぶれてしまうため、製品の使用時には不織布の風合いが損なわれてしまうという問題が生じることがある。斯かる問題を解決するための技術として、不織布に高弾性な樹脂バインダーを配合することで、不織布の圧縮後の厚み回復性を向上させることが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、繊維同士の融着点を有し、バインダーが繊維交点に存在する不織布が提案されている。同文献に記載の不織布は、バインダーが繊維交点に存在することによって、圧縮後の厚み回復性が高くなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-166596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、不織布に樹脂バインダーを配合すると、バインダーに由来するざらつき及びべたつきを生じてしまい、不織布の肌触りが低下することがあった。したがって、高い厚み回復性を有しつつ、肌触りがより向上した吸収性物品用不織布に対する要求がある。
【0006】
したがって本発明の課題は、滑らかな肌触りと高い厚み回復性とを両立する吸収性物品用不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シロキサン骨格を有する被膜形成性ポリマーを繊維の表面に有し、凹凸構造を有する吸収性物品用不織布に関する。
一実施形態において、前記被膜形成性ポリマーの25℃における弾性率が10Pa以上10Pa以下であることが好ましい。
一実施形態において、前記吸収性物品用不織布は、該不織布を構成する繊維どうしが融着した融着点を複数有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、肌触りが滑らかであり、且つ厚み回復性に優れる不織布が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の不織布の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、本発明の不織布の別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、本発明の不織布の別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図4図4(a)及び図4(b)は、本発明の不織布の別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、本発明の不織布の別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図6図6は、本発明の不織布の更に別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明の吸収性物品用不織布(以下、「本発明の不織布」ともいう。)は、被膜形成性ポリマーを繊維の表面に有するシート状物である。被膜形成性とは、不織布に浸透し、該不織布を構成する繊維の表面を膜状に覆うことができる性質である。被膜形成性ポリマーが不織布を構成する繊維の表面で被膜を形成すると、該被膜が優れた弾性を有するため、該不織布の厚み回復性が向上することを本発明者は見出した。
【0011】
前記被膜形成性ポリマーはシロキサン骨格を有する。シロキサン骨格とは-O-Si-O-Si-結合からなる構造であり、典型的にはシリコーンが挙げられる。シロキサン骨格を有するポリマーは滑らかな肌触りを有するため、本発明の不織布が被膜形成性ポリマーを繊維の表面に有することによって、不織布の肌触りがより滑らかになる。またシロキサン骨格を有するポリマーはべたつきが少ないため、従来用いられてきたバインダー樹脂用いた場合と比較して、本発明の不織布がつぶされた際に繊維どうしの接着が起こりにくくなり、不織布の厚み回復性が向上する。
【0012】
被膜形成性ポリマーによる上述の効果をより高める観点から、被膜形成性ポリマー中のシロキサン骨格の比率は好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。被膜形成性ポリマー中のシロキサン骨格の比率とは、被膜形成性ポリマーを構成する原子の総質量に対する、該被膜形成性ポリマーのシロキサン骨格を構成する酸素原子及びケイ素原子、並びに該酸素原子及び該ケイ素原子に直接結合する炭化水素基を構成する水素原子及び炭素原子の総質量の比である。被膜形成性ポリマー中のシロキサン骨格の比率は、例えば被膜形成性ポリマーを重クロロホルム中に溶解させ、核磁気共鳴装置「Mercury 400」(Varian社製)を用いてH-NMRスペクトルを測定することによって算出することができる。
【0013】
不織布の肌触り及び厚み回復性をバランス良く高める観点から、被膜形成性ポリマーの含有量は、該ポリマーが付着した不織布の質量に対して好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
被膜形成性ポリマーの付着量は、該ポリマーが付着した不織布の質量から、該ポリマーを取り除いた不織布の質量を差し引いた値とする。被膜形成性ポリマーの含有量は、該ポリマーが付着した不織布の質量に対する該ポリマーの付着量の割合(質量%)を算出することで求めることができる。
【0014】
不織布の厚み回復性をより高める観点から、被膜形成性ポリマーの25℃における弾性率は、好ましくは10Pa以上、より好ましくは5×10Pa以上、更に好ましくは10Pa以上である。また不織布の柔軟性を維持する観点から、被膜形成性ポリマーの25℃における弾性率は、好ましくは10Pa以下、より好ましくは5×10Pa以下、更に好ましくは10Pa以下である。
被膜形成性ポリマーの弾性率は、該ポリマー溶液をシャーレにキャスト・乾燥して得られるポリマー被膜を、粘弾性測定装置(RSA-G2:TA instruments製)を用い、25℃にて測定する。
【0015】
被膜形成性ポリマーは会合性部位を有することが好ましい。会合性部位とは、被膜形成性ポリマー分子どうしに引力を生じさせ、分子間の会合を促す原子又は原子団である。被膜形成性ポリマーが会合性部位を有することによって、該ポリマーはその弾性率及び被膜形成性が向上する。斯かる会合性部位の例としては、カルボニル基等の極性官能基やアンモニウム等のイオン化した部位を挙げることができる。なお、被膜形成性ポリマーは、会合性部位を被膜形成性ポリマーの主骨格又は側鎖に有し得るが、不織布の肌触り及び厚み回復性をバランス良く高める観点から、会合性部位を側鎖に有することが好ましい。
【0016】
会合性部位を有する被膜形成性ポリマーの例としては、シリコーングラフト共重合体を挙げることができる。シリコーングラフト共重合体は、シロキサン骨格を主骨格(基材)に有しても良いし、側鎖(グラフト鎖)に有しても良い。主骨格にシロキサン骨格を有する場合、側鎖にN-アシルアルキレンイミン、アクリル酸、アクリル酸の塩、アクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリル酸、メタクリル酸の塩、メタクリル酸エステル及びメタクリルアミドのうち少なくとも一種の共重合成分を含み、側鎖にシロキサン骨格を有する場合、主骨格に前記共重合成分を含むことができる。
【0017】
シリコーングラフト共重合体の例として、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーンを挙げることができる。ポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーンは、下記一般式(I)で表される側鎖を1つ又は複数有するシリコーンである。該側鎖はカルボニル基に加えてカチオン性の窒素原子を有しているため、被膜形成性ポリマーの弾性率及び被膜形成性を高めることができる。
【0018】
【化1】
【0019】
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上5以下の飽和炭化水素基又は炭素原子数2以上5以下の不飽和炭化水素基を表し、
は対イオンを表し、
lは0以上5以下の整数を表し、
mは1以上5以下の整数を表し、
nは1以上1000以下の整数を表し、
*はシロキサン骨格を構成するケイ素原子への結合手を表す。
【0020】
一般式(I)中、R及びRで表される炭素原子数1以上5以下の飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基等が挙げられる。
【0021】
一般式(I)中、R及びRで表される炭素原子数2以上5以下の不飽和炭化水素基としては、上述したアルキル基の例のうち、炭素原子数が2以上5以下であるものから2つ又は4つの水素原子を取り除いてできる不飽和炭化水素基を挙げることができる。このような不飽和炭化水素基として、ビニル基、エチニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、プレニル基、プロパルギル基、2,4-ペンタジエニル基等が挙げられる。
【0022】
被膜形成性ポリマーの弾性率の観点から、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1以上5以下の飽和炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1以上3以下の飽和炭化水素基であることがより好ましく、エチル基であることが一層好ましい。
【0023】
被膜形成性ポリマーの弾性率の観点から、一般式(I)中、Aで表される対イオンとしては、炭素原子数1以上5以下のアルキルサルフェート、塩化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン等を挙げることができる。なかでも、Aは炭素原子数1以上5以下のアルキルサルフェートであることが好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキルサルフェートであることがより好ましく、エチルサルフェートであることが一層好ましい。
【0024】
被膜形成性ポリマーの弾性率の観点から、一般式(I)中、lは1以上4以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましく、3であることが一層好ましい。
【0025】
被膜形成性ポリマーの弾性率の観点から、一般式(I)中、mは1以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましく、2であることが一層好ましい。なお、mが2の場合の一般式(I)で表される側鎖を、本明細書では「ポリオキサゾリン構造」ともいう。
【0026】
被膜形成性ポリマーの弾性率の観点から、一般式(I)中、nは1以上500以下であることが好ましく、2以上300以下であることがより好ましく、3以上100以下であることが一層好ましい。
一般式(I)で示される側鎖の重量平均分子量は800以上が好ましく、900以上1000以下であることがより好ましく、1000以上5200以下であることが更に好ましい。側鎖の重量平均分子量は、被膜形成性ポリマーを加水分解して、主鎖のシロキサン骨格部位を側鎖から除去した後、例えば株式会社東ソー製のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(DP-8020)により、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0027】
被膜形成性ポリマーの弾性率の観点から、被膜形成性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは5千以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、そして、好ましくは50万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは20万以下である。
【0028】
シリコーングラフト共重合体の別の例として、主骨格にアクリル酸又はメタクリル酸を有し、側鎖にシロキサン骨格を有する共重合体(以下、「共重合体P」という。)を挙げることができる。共重合体Pは、下記一般式(II)で表されるユニットA、下記一般式(III)で表されるユニットB、下記一般式(IV)で表されるユニットC及び下記一般式(V)で表されるユニットDを構成ユニットとして含有する共重合体である。共重合体Pはその主骨格にカルボニル基を複数有するポリアクリレート構造を含むため、弾性率及び被膜形成性が高い。
共重合体Pはブロックポリマーであってもよいし、ランダムポリマーであってもよい。
【0029】
【化2】
【0030】
一般式(II)ないし(V)中、Rは水素原子又はメチル基であり、共重合体P中に複数含まれるRは、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
一般式(II)中、Rは炭素原子数5以上10以下の飽和炭化水素基であり、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。斯かる飽和炭化水素基としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、メチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルヘプチル基等を挙げることができる。
は炭素原子数6以上9以下の飽和炭化水素基であることが好ましく、エチルヘキシル基であることがより好ましい。
【0032】
一般式(III)中、Rは炭素原子数3以上5以下の飽和炭化水素基であり、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。斯かる飽和炭化水素基の例としては、R及びRで表される炭素原子数1以上5以下の飽和炭化水素基として例示したもののうち、炭素原子数が3以上5以下であるものを挙げることができる。
は炭素原子数3以上4以下の飽和炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数4の飽和炭化水素基であることがより好ましく、ブチル基であることが更に好ましい。
【0033】
一般式(IV)中、Rはメチル基又はエチル基である。
はメチル基であることが好ましい。
【0034】
一般式(V)中、eは1以上10以下の整数を表す。eは2以上8以下であることが好ましく、3以上5以下であることがより好ましい。
一般式(V)中、*は下記一般式(VI)で表されるシロキサン骨格を構成するケイ素原子への結合手を表す。
【化3】
【0035】
一般式(VI)中、*は結合手を表す。
一般式(VI)中、nは50以上62以下の整数を表す。nは52以上60以下であることが好ましく、54以上58以下であることがより好ましく、56であることが更に好ましい。
【0036】
共重合体Pに含まれるユニットA、B、C及びDの相対モル比(A:B:C:D)をa:b:c:dとし、a+b+c+d=100としたとき、a+bは好ましくは15以上35以下、より好ましくは18以上32以下、更に好ましくは20以上28以下、特に好ましくは25である。
またcは好ましくは50以上90以下であり、より好ましくは60以上80以下であり、更に好ましくは65以上75以下であり、特に好ましくは70である。
またdは好ましくは1以上10以下、より好ましくは2以上9以下、更に好ましくは3以上8以下、特に好ましくは5である。
相対モル比を示すaないしdを上述の範囲内に設定することによって、被膜形成性ポリマーの弾性率を好ましい値に制御しやすくなる。
【0037】
共重合体PにはユニットA、B、C及びD以外の構成ユニットを含んでいてもよいが、被膜形成性ポリマーの弾性率を適切に制御する観点から、共重合体PはユニットA、B、C及びD以外の構成ユニットを含んでいないことが好ましい。
共重合体Pの重量平均分子量は5千以上であることが好ましく、1万以上10万以下であることがより好ましく、2万以上7万以下であることが更に好ましい。重量平均分子量は、例えば株式会社東ソー製のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(DP-8020)により、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0038】
被膜形成性ポリマーとしては、ポリアクリレート構造又はポリオキサゾリン構造を有しているものを特に好ましく用いることができる。
【0039】
シリコーングラフト共重合体は、シロキサン骨格からなるソフトセグメントと、共重合成分からなるハードセグメントを有する。ソフトセグメントはゴム弾性を示す柔軟性部位、ハードセグメントは塑性変形を防止する架橋点の役割を担う分子拘束部位であり、両部位を備えたシリコーングラフト共重合体は、硬度と柔軟性とが両立したエラストマーである。不織布がこのようなエストラマーを含むことによって、不織布のクッション性を損なうことなく厚み回復性を効果的に高めることができる。斯かる観点からも、被膜形成性ポリマーとしてはシリコーングラフト共重合体を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の不織布の構成繊維どうしは、融着によって繊維シートの形態を維持している。具体的には、風合いや通気性を更に向上させる観点から、本発明の不織布は、該不織布を構成する繊維どうしが融着した融着点を複数有する。
融着とは、複数の繊維に熱のみ又は熱及び圧力を付与して、繊維が溶融する等して、繊維間の境界が不明瞭となった態様である。本発明の不織布としては、例えばエアスルー不織布、スパンボンド不織布及びメルトブローン不織布を挙げることができる。以上の各種不織布のうち、エアスルー不織布は、その製造方法に起因して風合いが良好であることから、吸収性物品に特に好適に用いられる。
【0041】
繊維どうしの融着点は、不織布が圧縮された際に歪みの起点となる部位である。したがって、該融着点の弾性を高めることによって、不織布の厚み回復性を効果的に高めることができる。この観点から、本発明の不織布を構成する繊維どうしが有する複数の前記融着点のうちの少なくとも一部が被膜形成性ポリマーで覆われていることが好ましい。尤も、被膜形成性ポリマーによる不織布の厚み回復性を最大限高める観点から、不織布の繊維どうしの融着点以外の部位にも被膜形成性ポリマーが存在していることがより好ましい。
【0042】
被膜形成性ポリマーが付与された繊維は、厚み方向において不織布の内部のみに存在してもよいし、不織布の表面のみに存在してもよい。また被膜形成性ポリマーが付与された繊維は、不織布の内部及び表面の両方に存在してもよい。従来用いられていたバインダー樹脂とは対照的に、シロキサン骨格を有する被膜形成性ポリマーは良好な肌触りを有するため、該ポリマーが付与された繊維が不織布の表面、すなわち使用者の肌に直接触れる面上に存在していても、不織布の滑らかな肌触りが損なわれない。
また被膜形成性ポリマーが付与された繊維は、平面方向において不織布のいずれの位置に存在していてもよい。
【0043】
被膜形成性ポリマーを、不織布を構成する繊維に付与する方法に制限はなく、従来用いられている方法を用いることができる。例えば、不織布とする前の繊維に予め被膜形成性ポリマーを付与してから、該繊維を不織布としてもよいし、不織布を形成した後に被膜形成性ポリマーを付与してもよい。不織布を形成した後に被膜形成性ポリマーを付与する方法としては、例えば不織布の一面に対して、スプレー等によって被膜形成性ポリマーを吹き付けることによって付与する方法が挙げられる。
【0044】
不織布を構成する繊維の種類に特に制限はなく、繊維形成能を有する各種の熱可塑性樹脂からなる繊維を用いることができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン-α-オレフィン共重合体などのポリオレフィン系樹脂からなる繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂からなる繊維、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのポリアクリル系樹脂からなる繊維などを用いることができる。
不織布の構成繊維として、上述の樹脂を含む芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維などの多成分系繊維を用いることもできる。
以上の繊維は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。特に芯鞘型複合繊維を含む不織布は風合いが良好であることから、吸収性物品の構成材料として特に好適に用いられる。
不織布の構成繊維として芯鞘型複合繊維を用いる場合、芯部がPETからなることが好ましい。芯部がPETからなる芯鞘型複合繊維は高弾性であり、不織布の厚み回復性を高めることができる。
また不織布の風合いを一層向上させる観点から、鞘部はポリエチレンからなることが好ましい。
【0045】
不織布の肌触り及び厚み回復性の観点から、不織布の構成繊維の繊維径は好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上、更に好ましくは14μm以上、そして、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
【0046】
本発明の不織布の厚みは、吸収性物品用の用途に適した厚みとする観点から、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上、更に好ましくは1.0mm以上、そして、好ましくは3mm以下、より好ましくは2.8mm以下、更に好ましくは2.5mm以下である。
不織布の厚みは、次のとおりに測定する。まず12.5g(直径55mm)のプレートのみをレーザー変位計(LK-080:株式会社キーエンス製)に載置して、測定された厚みをゼロとしてゼロ点調整を行う。その後、測定サンプルの上に前記プレートを載置して、4.9mN/cm荷重下における厚みを、レーザー変位計を用いて測定し、これを測定サンプルの厚みB(cm)とする。
【0047】
不織布は単層構造のものであってもよく、あるいは2層以上の積層構造のものであってもよい。不織布が2層以上の積層構造のものである場合、不織布は、相対的に密度が低い低密度層と、相対的に密度が高い高密度層とを厚み方向に沿って有していてもよい。この場合、不織布の厚み回復性を高める観点から、被膜形成性ポリマーが少なくとも低密度層に存在することが好ましい。
【0048】
不織布の表面は平坦であってもよく、凹凸形状を有していてもよく、あるいは起毛していてもよいが、凹凸形状を有していることが、不織布の肌触りを滑らかにする観点から好ましい。図1ないし図6には、表面の少なくとも一面が凹凸形状を有する不織布が模式的に示されている。
【0049】
図1に示す不織布10は、第1面10A及びそれと反対側に位置する第2面10Bを有し、少なくとも第1面10Aが、該第1面10A側に突出する複数の凸部13と該凸部13間に位置する凹部14とを有する凹凸構造を有している。第2面10Bは実質的に平坦である。
不織布10は、第1面10A側の上層11Aと第2面10B側の下層11Bの2層からなる。上層11Aと下層11Bとは、厚み方向にエンボス加工が施されて接合されている。エンボス加工が施された部分が凹部14に相当する。下層11Bは、熱収縮性繊維の熱収縮が発現した層である。上層11Aは、非熱収縮性繊維を含む層である。熱の付与による不織布化を首尾良く行う観点から、非熱収縮性繊維は非熱収縮性熱融着繊維であることが好ましい。
不織布10は、例えば特開2002-187228号公報に記載の素材と方法とによって製造できる。この製造方法において、例えば上層11Aと下層11Bの積層体に対し、上層11A側からエンボス加工等した後、熱を付与して下層11Bに含まれる熱収縮性繊維を熱収縮させる。その繊維の収縮によって、隣接するエンボス部どうしが引っ張られ互いの間隔が縮まる変形が生じる。この変形によって、上層11Aに含まれる繊維は、エンボス部を基点として第1面10A側に隆起し、凸部13を形成する。したがって下層11Bは高密度層となり、上層11Aは下層1Bよりも密度が低い低密度層となる、
【0050】
図2に示す形態の不織布20は、中空部21を有する2層構造である。不織布20を構成する2つの層はいずれも熱可塑性繊維を含む。不織布20においては、第1不織布20Aと第2不織布20Bとが部分的に熱融着された接合部22を有する。複数(図2では4個)の接合部22に囲まれた非接合部において、第1不織布20Aが、第2不織布20Bから離れる方向に突出して、内部に中空部21を有する凸部23が形成されている。接合部22は、隣り合う凸部23,23間に位置する凹部であり、凸部23とともに第1不織布20A側に凹凸構造を形成している。
不織布20は、例えば特開2004-174234号公報に記載の素材と方法とによって製造できる。この方法においては、一対の凹凸ロールの噛み合わせによって第1不織布20Aを凹凸賦形した後、第1不織布20Aと第2不織布20Bとを貼り合わせる。一対の凹凸ロールの噛み合わせによって第1不織布20Aを賦形する観点から、第1不織布20A及び第2不織布20Bはいずれも、非熱伸長性で非熱収縮性の熱融着繊維を含むことが好ましい。
【0051】
図3に示す形態の不織布30はその各面に凹凸構造を有する単層構造のものである。不織布30は、第1面30A側に突出する第1突出部31と第2面30B側に突出する第2突出部32とが、不織布30を平面視したときに交差する異なる2方向において交互に連続して配されている。
第1突出部31及び第2突出部32は、それぞれの反対面側に解放された内部空間を有しており、この部分がその面における凹部33,34をなす。これにより、第1面30Aは、第1突出部31と凹部34とを有する凹凸構造となっている。第2面30Bは、第2突出部32と凹部33とを有する凹凸構造となっている。
不織布30は、第1突出部31と第2突出部32とを繋ぐ壁部35を有する。壁部35は、第1突出部31及び第2突出部32それぞれの内部空間の壁面を形成しており、平面方向に環状構造を有する。
不織布30は、例えば特開2012-136790号公報に記載の素材と方法とによって製造できる。この方法においては、繊維ウエブを支持体に支持させた状態下に該繊維ウエブに対して、熱風温度及び風速を制御しながら多段階の熱風処理を行うエアスルー加工を行い、該繊維ウエブを凹凸賦形する。繊維ウエブを凹凸賦形させる支持体としては、中実の突起部と開口部とを有するものを用いることが好ましい。例えば、特開2012-149370号公報に記載の支持体を用いることができる。
【0052】
図4(a)に示す形態の不織布40は、熱可塑性繊維を含む単層構造からなる。不織布40は、第1面40A側において、半円筒状の凸部41と該凸部41の側縁に沿って配された凹部42とが複数交互に配置された形状を有する。凹部42の下側には、不織布の繊維からなる凹部底部43が配されている。凹部底部43は、凸部41よりも繊維密度が低くなっている。不織布40においては、図4(b)に示すとおり、凸部41上に別の繊維層45を部分的に積層してもよい。
不織布40は、繊維ウエブに対して、凹部42とする部分に熱風等の流体を吹き付けて繊維を移動させることにより形成することができる。これにより凹部底部43の繊維密度をその周辺よりも低くすることができる。
【0053】
図5に示す形態の不織布50は単層構造のものである。不織布50には、一方向に延びる筋状の凸条部51と凹条部52とが交互に配されている。不織布50は、その両面に凹凸構造を有する。一方の面の凹凸構造と、他方の面の凹凸構造とは、互いに相補形状になっている。
不織布50は、これを単独で用いてもよく、平坦な繊維層と接合されて積層不織布としてもよく、あるいは凹凸構造を有する繊維層と積層し、該凹凸構造に沿って一体化した積層不織布としてもよい。
【0054】
図6に示す形態の不織布60は単層構造のものである。不織布60は熱伸長性繊維を原料とするものであり、伸長した後の熱伸長性繊維を含んでいる。不織布60の第1面60Aは凹凸構造になっている。第1面60Aと反対側に位置する第2面60Bは実質的に平坦面になっているか、又は第1面60Aよりも凹凸の程度が小さくなっている。
不織布60の第1面60Aは、複数の凸部61とこれを囲む線状の凹部62とを有する。凹部62は、不織布60の構成繊維が圧着又は接着された圧接着部を有する。この状態において、不織布に含まれる熱伸長性繊維は伸長された状態になっている。凸部61は、熱伸長性繊維が熱伸長して第1面60A側に隆起した部分である。したがって、凸部61は、凹部62よりも繊維密度が疎であり嵩高い部分となっている。
線状の凹部62は格子状に配置されており、格子で区画される一つの領域内に一つの凸部61が配置されている。なお、不織布60は、上述のとおり単層構造であってもよいが、2層以上の複数の積層構造であってもよい。
不織布60は例えば特開2010-168715号公報に記載の素材と方法とによって製造できる。この方法においては、まず、繊維ウエブに対して、ヒートエンボス加工によって線状の凹部62を形成する。このとき、凹部62では、熱伸長性繊維は圧着又は融着されて熱伸長されない状態で固定される。次いで、エアスルー加工により熱風を吹き付けて、凹部62以外の部分に存する熱伸長性繊維を伸長させて凸部61を形成する。
【0055】
本発明の不織布は、肌触りが滑らかであり、高い厚み回復性を有するものであるため、様々な吸収性物品の構成材料として用いられる。本発明の不織布を備えた吸収性物品としては、例えば使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、おりものシート等が挙げられる。
【0056】
前記の吸収性物品は一般に、着用者の腹側から股間部を介して背側に延びる方向に相当する縦方向とこれに直交する横方向とを有する縦長の形状をしている。そして吸収性物品は、着用者の股間部に配される股下部並びにその前後に延在する腹側部及び背側部を有する。股下部は、吸収性物品の着用時に着用者の排泄部に対向配置される排泄部対向部を有しており、該排泄部対向部は通常、吸収性物品の縦方向の中央部又はその近傍に位置している。
【0057】
吸収性物品は一般に、着用者の肌対向面側に位置する表面シートと、非肌対向面側に位置する裏面シートと、両シート間に介在配置された吸収体とを備える。表面シートとしては、液透過性を有するシート、例えば不織布や穿孔フィルムなどを用いることができる。表面シートは、その肌対向面側が凹凸形状になっていてもよい。例えば表面シートの肌対向面側に、散点状に複数の凸部を形成することができる。あるいは、表面シートの肌対向面側に、一方向に延びる畝部と溝部とを交互に形成することができる。そのような目的のために、2枚以上の不織布を用いて表面シートを形成することもできる。
【0058】
一方、裏面シートとしては、例えば液難透過性のフィルムやスパンボンド・メルトブローン・スパンボンド積層不織布などを用いることができる。液難透過性のフィルムに、複数の微細孔を設け、該フィルムに水蒸気透過性を付与してもよい。吸収性物品の肌触り等を一層良好にする目的で、裏面シートの外面に不織布等の風合いの良好なシートを積層してもよい。
【0059】
吸収体は、吸収性コアを備えている。吸収性コアは例えばパルプを初めとするセルロース等の親水性繊維の積繊体、該親水性繊維と吸収性ポリマーとの混合積繊体、吸収性ポリマーの堆積体、2枚の吸収性シート間に吸収性ポリマーが担持された積層構造体などから構成される。吸収性コアは、少なくともその肌対向面が液透過性のコアラップシートで覆われていてもよく、肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域がコアラップシートで覆われていてもよい。コアラップシートとしては、例えば親水性繊維からなる薄葉紙や、液透過性を有する不織布などを用いることができる。
【0060】
上述の表面シート、裏面シート及び吸収体に加え、吸収性物品の具体的な用途に応じ、肌対向面側の縦方向に沿う両側部に、縦方向に沿って延びる防漏カフが配される場合がある。防漏カフは一般に、基端部と自由端とを備えている。防漏カフは、吸収性物品の肌対向面側に基端部を有し、肌対向面側から起立している。防漏カフは、液抵抗性ないし撥水性で且つ通気性の素材から構成されている。防漏カフの自由端又はその近傍には、糸ゴム等からなる弾性部材を伸長状態で配してもよい。吸収性物品の着用状態においてこの弾性部材が収縮することによって、防漏カフが着用者の身体に向けて起立するようになり、表面シート上に排泄された液が、表面シート上を伝い吸収性物品の横方向外方へ漏れ出すことが効果的に阻止される。
【0061】
吸収性物品は更に、非肌対向面の表面に粘着剤層を有していてもよい。粘着剤層は、吸収性物品の着用状態において、該吸収性物品を、下着や別の吸収性物品に固定するために用いられる。
【0062】
本発明の不織布を吸収性物品に適用する場合、該不織布は、吸収性物品において肌触りの滑らかさが必要とされる部位に用いられることが好ましい。そのような部位としては、例えば、吸収性物品の表面シート及び裏面シート等が挙げられる。
【0063】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば本発明の不織布がその表面に凹凸構造を有する場合、該凹凸構造の形態は上述した図1ないし図6に示すものに限られない。
また、本発明の効果が損なわれない程度において、不織布は被膜形成性ポリマー以外の添加剤を含んでもよい。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、斯かる実施例に制限されない。
【0065】
〔実施例1〕
被膜形成性ポリマーとして、シロキサン骨格及びポリオキサゾリン構造を有するポリマー(以下、「ポリマーCP1」という。)を用いた。ポリマーCP1は、特開2008-143820号公報に記載の合成例2に従って合成した。ポリマーCP1はポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーンであり、対イオンはエチルサルフェート、シロキサン骨格の比率は51質量%である。不織布としては図1に示す、表面に凹凸構造を有するものを用いた。この不織布は、厚みが1.3mmであり、坪量が74g/mのエアスルー不織布であった。該不織布の上層は17μmの繊維径を有するPET/PE芯鞘型複合繊維からなり、下層は17μmの繊維径を有するPP/PE芯鞘型複合繊維からなっていた。更に、該不織布の下層は密度が0.41g/cmの高密度層であり、上層は密度が0.02g/cmの低密度層であった。
なお、被膜形成性ポリマーのシロキサン骨格の比率は、核磁気共鳴装置「Mercury 400」(Varian社製)を用いて被-膜形成性ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって算出した。
前記エアスルー不織布の低密度層側に、ポリマーCP1をスプレーで吹き付けた後に、60℃で2時間乾燥させることによって、ポリマーCP1を繊維表面に有する不織布を得た。ポリマーCP1の付着量は、ポリマーCP1が付着したエアスルー不織布の質量に対して0.7質量%であった。
【0066】
〔実施例2〕
ポリマーCP1の付着量を、ポリマーCP1が付着したエアスルー不織布の質量に対して5.8質量%とした以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
【0067】
〔実施例3及び4〕
被膜形成性ポリマーとして、ポリマーCP1に代えて、シロキサン骨格及びポリオキサゾリン構造を有するポリマー(以下、「ポリマーCP2」という。)を用いた以外は実施例1と同様にして不織布を得た。ポリマーCP2は、特開2008-143820号公報に記載の合成例1に従って合成した。ポリマーCP2はポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーンであり、対イオンはエチルサルフェート、シロキサン骨格の比率は88質量%である。
【0068】
〔実施例5及び6〕
被膜形成性ポリマーとして、ポリマーCP1に代えて、シロキサン骨格及びポリアクリレート構造を有するポリマー(以下、「ポリマーCP3」という。)を用いた以外は実施例1と同様にして不織布を得た。ポリマーCP3は、特開平3-91509号公報に記載の方法と同様の方法によって合成した。ポリマーCP3はアクリル酸エステルとジメチルポリシロキサンとの共重合体であり、シロキサン骨格の比率は63質量%である。
【0069】
〔比較例1〕
被膜形成性ポリマーを用いなかった点以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
【0070】
〔比較例2及び3〕
被膜形成性ポリマーとして、ポリマーCP1に代えてポリアクリレート構造を有するが、シロキサン骨格を有しないAB-886(DIC株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして不織布を得た。AB-886はアクリルエマルションであり、シロキサン骨格の比率は0質量%である。
【0071】
〔比較例4及び5〕
ポリマーCP1に代えて、シロキサン骨格を有するが、被膜形成性を有しないポリマーであるKF-96-100cs(信越化学工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
KF-96-100csは会合性部位を有しないシリコーンであり、シロキサン骨格の比率は100質量%である。
【0072】
〔評価〕
各実施例及び各比較例について、被膜形成性ポリマーの25℃における弾性率、並びに不織布の厚み回復率、KES摩擦及び滑らかさ官能評価を以下の方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0073】
〔被膜形成性ポリマーの弾性率〕
被膜形成性ポリマーの弾性率は、以下の手順で測定した。まず、濃度30質量%の各ポリマー溶液をシャーレにキャストし、50℃で13時間加温して乾燥させた。次に、得られた被膜の弾性率を粘弾性測定装置(RSA-G2:TA instruments製)を用い、室温(25℃)にて測定した。
なお、比較例4及び5においては被膜形成性を有しないポリマーを用いたため、被膜の弾性率を測定することができなかった。
【0074】
〔厚み回復率〕
各実施例及び比較例の不織布を切断して8cm×12.5cmの試験片を準備し、アクリル板の上に静置した。更に、もう一枚のアクリル板を不織布の上に置き、不織布を2枚のアクリル板で挟み込んだ。次いで、上側のアクリル板の上に重りを置き、不織布を20kPaの圧力で圧縮した。重りを載せたまま室温で13時間静置した後、不織布の厚み(厚みT1)を測定した。次いで、不織布に重りを載せずに、室温(25℃)で2時間静置した。2時間静置後、不織布を取り出し、その厚み(厚みT2)を測定した。厚みの比T2/T1に100を乗じることで厚み回復率(%)を算出した。
【0075】
〔平均摩擦係数MIU及び摩擦係数の平均偏差MMD〕
不織布の低密度層側の平均摩擦係数MIU及び摩擦係数の平均偏差MMDは、カトーテック株式会社製のKES-FB4-AUTO-A(商品名)を用いて、以下の方法で測定した。
まず、各実施例及び比較例の不織布を切断して20cm×20cmの試験片を準備した。次いで、試験片を平滑な金属平面の試験台に取りつけた。接触子を49cNの力で接触面を試験片の繊維集合体の面に圧着し、試験片を0.1cm/secの一定速度で水平に3cm移動させた。試験片には7.4cN/cmの一軸張力が与えられた。接触子は、0.5mm径のピアノ線を20本並べ幅10mmでU字状に曲げたものであった。接触子は、重錘によって49cNの力で接触面を試験片に圧着させた。本測定から、平均摩擦係数MIU及び摩擦係数の平均偏差MMDを算出した。
MIUが小さい程、不織布はその表面が滑りやすいことを示す。またMMDが小さい程、不織布はその表面が滑らかであることを示す。
【0076】
〔滑らかさ官能評価〕
比較例1の不織布の肌触りを基準として、実施例及び比較例の不織布の肌触りの滑らかさを、以下の基準に従って評価した。
5:比較例1の不織布よりも滑らかである。
4:比較例1の不織布よりもやや滑らかである。
3:比較例1の不織布と同程度である。
2:比較例1の不織布よりもやや滑らかさが低い。
1:比較例1の不織布よりも滑らかさが低い。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果から明らかなとおり、シロキサン骨格を有する被膜形成性ポリマーを繊維の表面に有する各実施例の不織布は、ポリマーを有しない比較例1の不織布と比較して厚み回復率が高く、また肌触りが滑らかであった。一方、シロキサン骨格を有しないAB-886を用いた比較例2及び3の不織布は比較例1の不織布と比較して肌触りが悪化した。また、被膜形成性を有しないポリマーを用いた比較例4及び5の不織布では、比較例1の不織布と比較して厚み回復率の向上が見られなかった。
【符号の説明】
【0079】
10、20、30、40、50、60 不織布
13、23、41、61 凸部
14、33、34、42、62 凹部
31 第1突出部
32 第2突出部
51 凸条部
52 凹条部
図1
図2
図3
図4
図5
図6