(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122527
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ステータ、回転電機およびステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/00 20060101AFI20240902BHJP
H02K 5/08 20060101ALI20240902BHJP
H02K 5/10 20060101ALI20240902BHJP
H02K 3/44 20060101ALI20240902BHJP
H02K 1/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02K1/00 D
H02K5/08 A
H02K5/10
H02K3/44 B
H02K1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030107
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋也
(72)【発明者】
【氏名】小坂 弥
(72)【発明者】
【氏名】西川 敦准
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋史
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆博
【テーマコード(参考)】
5H601
5H604
5H605
【Fターム(参考)】
5H601AA15
5H601AA16
5H601BB16
5H601CC01
5H601CC11
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD30
5H601DD33
5H601DD34
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB13
5H601GB32
5H601GE02
5H601GE12
5H601HH12
5H601HH18
5H601HH23
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604DA15
5H604DA18
5H604DB02
5H604DB15
5H604PB03
5H605AA02
5H605AA08
5H605BB05
5H605BB10
5H605CC01
5H605CC02
5H605DD11
5H605GG18
(57)【要約】
【課題】モータ等の回転電機の軽量化を実現しつつ、十分な防錆および防塵機能を実現する技術を提供する。
【解決手段】複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部4と前記ヨーク部4から延出する複数のティース部7と、前記ティース部7の間の空間であってコイル9(コイル本体9a)が収容されるスロット部8とを有するステータ6であって、前記コイル9が収容された前記スロット部8内に設けられた第1の樹脂組成物の硬化物からなる第1の樹脂部31と、ステータ周面(ステータ外周面6b)の全体を覆う第2の樹脂組成物の硬化物からなる第2の樹脂部32と、を有するステータ6が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部と前記ヨーク部から延出する複数のティース部と、前記ティース部の間の空間であってコイルが収容されるスロット部とを有するステータであって、
前記コイルが収容された前記スロット部内に設けられた第1の樹脂組成物の硬化物からなる第1の樹脂部と、
ステータ周面の全体を覆う第2の樹脂組成物の硬化物からなる第2の樹脂部と、
を有するステータ。
【請求項2】
前記第1の樹脂部は、さらに前記コイルにおける前記スロット部から外部に露出しているコイルエンド部を覆っている、請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記第1の樹脂部は、さらにステータ端面を覆っている、請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
前記第2の樹脂組成物は、前記ヨーク部の周面から前記電磁鋼板間の空間内に侵入している、請求項1から3までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項5】
前記第1の樹脂部と前記第2の樹脂部とは同一の樹脂組成物により一体で設けられている、請求項1から3までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項6】
前記第1の樹脂部の樹脂組成物と前記第2の樹脂部の樹脂組成物は異なっている、請求項1から3までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項7】
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物と前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物は、それぞれ、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および絶縁ワニスからなる群より選択される少なくとも1種の材料を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項8】
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物はエポキシ樹脂であり、
前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物はフェノール樹脂である、請求項7に記載のステータ。
【請求項9】
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物及び前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物はエポキシ樹脂である、請求項7に記載のステータ。
【請求項10】
前記第2の樹脂部は前記ステータ周面上に薄皮状に設けられている、請求項9に記載のステータ。
【請求項11】
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物及び前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物は絶縁ワニスである、請求項7に記載のステータ。
【請求項12】
前記スロット部において、前記スロット部の壁面と前記コイルとの間に設けられた絶縁紙をさら有する請求項11に記載のステータ。
【請求項13】
前記スロット部内に、冷却路が設けられている、請求項1から3までのいずれか1項に記載のステータ。
【請求項14】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のステータと、ロータとを有する回転電機。
【請求項15】
前記ステータと前記ロータとを収容するハウジングを有し、
前記第2の樹脂部は、前記ハウジングのうち前記ステータの周面を覆うハウジング周面部を構成する、請求項14に記載の回転電機。
【請求項16】
請求項3に記載のステータと、ロータと、前記ステータと前記ロータとを収容するハウジングを有し、
前記ハウジングは、前記ステータの周面を覆うハウジング周面部と、前記ステータの端面側を覆うハウジング端面部とを有し、
前記第1の樹脂部は、前記ハウジング端面部を構成し、
前記第2の樹脂部は、前記ハウジング周面部を構成する、回転電機。
【請求項17】
複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部と前記ヨーク部から延出する複数のティース部と、前記ティース部の間の空間であってコイルが収容されるスロット部とを有するステータの製造方法であって、
前記コイルが収容された前記スロット部内に第1の樹脂組成物を充填し硬化させて第1の樹脂部を形成する第1樹脂部形成工程と、
ステータ周面の全体に第2の樹脂組成物を覆って硬化させて第2の樹脂部を形成する第2樹脂部形成工程と、
を有する、ステータの製造方法。
【請求項18】
前記第1樹脂部形成工程は、前記コイルにおける前記スロット部から外部に露出しているコイルエンド部を覆って第1の樹脂部を形成する、請求項17に記載のステータの製造方法。
【請求項19】
前記第1樹脂部形成工程は、さらにステータ端面を覆って前記第1の樹脂部を形成する、請求項18に記載のステータの製造方法。
【請求項20】
前記第1樹脂部形成工程と前記第2樹脂部形成工程とは、前記第1の樹脂部と前記第2の樹脂部を一括成形する、請求項17から19までのいずれか1項に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、回転電機およびステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の回転電機では、それが搭載される装置、例えばドローンなどの浮遊式移動体や車両では、製品重量が航続距離や運動性能に大きく影響することからの軽量化の要請が大きい。それに伴い、構成部品である回転電機に対しても軽量化の要請が強くなっている。
例えば回転電機のハウジングに、放熱性の優れた材料であり且つ軽量にすることが比較的容易なアルミダイキャストを用いた技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転電機に対しては、一層の軽量化が求められている。例えばケース自体を省くことで軽量化を実現できるが、外部に露出していると錆等による影響が大きくなるという課題があった。回転電機を搭載した車両等の装置は、屋外使用が想定されることが多く、防錆性能に対して十分に配慮することが求められていた。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであって、モータ等の回転電機の軽量化を実現しつつ、十分な防錆性能を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の技術が提供される。
<1>
複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部と前記ヨーク部から延出する複数のティース部と、前記ティース部の間の空間であってコイルが収容されるスロット部とを有するステータであって、
前記コイルが収容された前記スロット部内に設けられた第1の樹脂組成物の硬化物からなる第1の樹脂部と、
ステータ周面の全体を覆う第2の樹脂組成物の硬化物からなる第2の樹脂部と、
を有するステータ。
<2>
前記第1の樹脂部は、さらに前記コイルにおける前記スロット部から外部に露出しているコイルエンド部を覆っている、<1>に記載のステータ。
<3>
前記第1の樹脂部は、さらにステータ端面を覆っている、<2>に記載のステータ。
<4>
前記第2の樹脂組成物は、前記ヨーク部の周面から前記電磁鋼板間の空間内に侵入している、<1>から<3>までのいずれか1項に記載のステータ。
<5>
前記第1の樹脂部と前記第2の樹脂部とは同一の樹脂組成物により一体で設けられている、<1>から<4>までのいずれか1項に記載のステータ。
<6>
前記第1の樹脂部の樹脂組成物と前記第2の樹脂部の樹脂組成物は異なっている、<1>から<4>までのいずれか1項に記載のステータ。
<7>
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物と前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物は、それぞれ、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および絶縁ワニスからなる群より選択される少なくとも1種の材料を含む、<1>から<6>までのいずれか1に記載のステータ。
<8>
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物はエポキシ樹脂であり、
前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物はフェノール樹脂である、<7>に記載のステータ。
<9>
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物及び前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物はエポキシ樹脂である、<7>に記載のステータ。
<10>
前記第2の樹脂部は前記ステータ周面上に薄皮状に設けられている、<9>に記載のステータ。
<11>
前記第1の樹脂部の前記樹脂組成物及び前記第2の樹脂部の前記樹脂組成物は絶縁ワニスである、<7>に記載のステータ。
<12>
前記スロット部において、前記スロット部の壁面と前記コイルとの間に設けられた絶縁紙をさら有する、<11>に記載のステータ。
<13>
前記スロット部内に、冷却路が設けられている、<1>から<12>までのいずれか1に記載のステータ。
<14>
<1>から<13>までのいずれか1項に記載のステータと、ロータとを有する回転電機。
<15>
前記ステータと前記ロータとを収容するハウジングを有し、
前記第2の樹脂部は、前記ハウジングのうち前記ステータの周面を覆うハウジング周面部を構成する、<14>に記載の回転電機。
<16>
<3>に記載のステータと、ロータと、前記ステータと前記ロータとを収容するハウジングを有し、
前記ハウジングは、前記ステータの周面を覆うハウジング周面部と、前記ステータの端面側を覆うハウジング端面部とを有し、
前記第1の樹脂部は、前記ハウジング端面部を構成し、
前記第2の樹脂部は、前記ハウジング周面部を構成する、回転電機。
<17>
複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部と前記ヨーク部から延出する複数のティース部と、前記ティース部の間の空間であってコイルが収容されるスロット部とを有するステータの製造方法であって、
前記コイルが収容された前記スロット部内に第1の樹脂組成物を充填し硬化させて第1の樹脂部を形成する第1樹脂部形成工程と、
ステータ周面の全体に第2の樹脂組成物を覆って硬化させて第2の樹脂部を形成する第2樹脂部形成工程と、
を有する、ステータの製造方法。
<18>
前記第1樹脂部形成工程前は、前記コイルにおける前記スロット部から外部に露出しているコイルエンド部を覆って第1の樹脂部を形成する、<17>に記載のステータの製造方法。
<19>
前記第1樹脂部形成工程前は、さらにステータ端面を覆って前記第1の樹脂部を形成する、<<18>に記載のステータの製造方法。
<20>
前記第1樹脂部形成工程と前記第2樹脂部形成工程とは、前記第1の樹脂部と前記第2の樹脂部を一括成形する、<17>から<19>までのいずれか1に記載のステータの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータ等の回転電機の軽量化を実現しつつ、十分な防錆性能を実現する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係るモータの断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係るモータの断面図である。
【
図3】第2の実施形態に係るモータの断面図である。
【
図4】第3の実施形態に係るモータの断面図である。
【
図5】第4の実施形態に係るモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1の実施形態≫
<モータ100の基本構造>
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1はモータ100の回転軸方向の断面図を模式的に示した図である。
図2はモータ100の回転軸3と垂直方向の断面図を模式的に示した図である。
【0010】
本実施形態のモータ100では、ステータ6のスロット部8に設けられる第1の樹脂部31が、ステータ6の軸方向の端面とコイルエンド部9bをあわせて覆う。また、ステータ6の外周面(以下、「ステータ外周面6b」という)を第2の樹脂部32で直接覆う。このとき、第2の樹脂部32をハウジング円筒部1aとして機能させ、さらに第1の樹脂部31をハウジング側板部1b、1cの少なくとも一部として機能させる。これによって、従来であればステータ6とハウジングとが別体に設けられた構成と比較して、ステータ6とハウジング1とを一体として設けたモータ100の軽量化を実現する。以下、詳細に説明する。
【0011】
モータ100は、ハウジング1と、ハウジング1の内部に収容されたロータ2及びステータ6を備える。ハウジング1は、円筒形状のハウジング円筒部1aと、このハウジング円筒部1aの軸方向両端を閉塞するハウジング側板部1b、1cとを有して構成される。
【0012】
ハウジング側板部1b、1cには、スロット部8内を軸方向に延びるように設けられるコイル内側冷却用流路10と外部の冷却流路(図示せず)とを連結する外部接続流路17が設けられている。外部接続流路17は、ハウジング側板部1b、1cの内側面と、コイルエンド部9bおよびステータ端面6cとをあわせて覆う端部被覆樹脂部31bとの間に設けられている。
【0013】
詳細は後述するが、ステータ6の外周面6bを覆う第2の樹脂部32がハウジング円筒部1aとしての機能を担う。また、スロット部8内に設けられる第1の樹脂部31(より具体的にはスロット内樹脂部31aと一体に形成された端部被覆部31b)がステータ6の軸方向の端部(ステータ端面6c)を含めて覆う。このとき第1の樹脂部31(すなわち端部被覆部31b)は、スロット部8から軸方向外側に突出したコイルエンド部9bを覆っており、この端部被覆部31bをハウジング側板部1b、ハウジング側板部1cが収容するように嵌め込む。
【0014】
ロータ2の中心には出力軸として回転軸3が取り付けられている。回転軸3の両端が、それぞれベアリング3aを介してハウジング側板部1b、1cに支持されている。これによって、ロータ2は回転軸3を中心に回転自在となっている。
【0015】
ロータ2には永久磁石5が内装されている。具体的には、
図1に示すように、複数(ここでは8個)の永久磁石5が同一円周上に等間隔で配置されている。このとき、隣合う永久磁石5の磁極は互いに異なるように設置されている。
【0016】
ハウジング円筒部1aとしての機能を担う第2の樹脂部32の内周には円筒型のステータ6が、ロータ2の外周を取り囲むように配置され固定されている。ステータ6の内周面6aとロータ2の外周面2aとの間には微少な間隙(エアギャップ)が設けられている。
【0017】
<ステータ6>
ステータ6は、電磁鋼板を所定形状に打抜いた後に、打ち抜いた電磁鋼板を軸方向に複数積層し、固着させることで形成される。ステータ6のステータ外周面6b(すなわちヨーク部4の外周面)は、第2の樹脂組成物の硬化物である第2の樹脂部32に覆われている。
【0018】
ステータ6は、環状のヨーク部4と、ヨーク部4から延出する複数のティース部7と、ティース部7の間の空間であってコイル9が収容されるスロット部8とを有する。さらに、ステータ6は、軸方向に延びる冷却用流路10を有する。
【0019】
ティース部7は、ステータ6の内周面6aに向いて周方向に所定間隔で配列されている。ここでは、
図1に示すように、24個のティース部7が設けられている。
【0020】
各ティース部7の間にスロット部8が設けられている。スロット部8には、コイル9が配置されるとともに、それらの間を埋めるように第1の樹脂組成物の硬化物である第1の樹脂部31が設けられている。第1の樹脂部31は、スロット部8内に設けられる部分をスロット内樹脂部31aと、ステータ6の端部を覆う端部被覆部31bとを有して構成されている。
【0021】
<コイル9>
スロット部8にはコイル9が収容されている。より具体的には、コイル9は、平角線により設けられており、スロット部8の内部に収容されるコイル本体9aと、スロット部8から軸方向外側に突出したコイルエンド部9bとを有する。
【0022】
コイル9は複数のスロット部8をまたいで巻装されており、コイルエンド部9bにより異なるスロット部8に収容されているコイル本体9aを連結している。
【0023】
ティース部7は上述の永久磁石5と対応して設けられ、各コイル9を順次励磁していくことにより、これに対応した永久磁石5との吸引、反発によりロータ2が回転する。
【0024】
<コイル内側冷却用流路10>
スロット部8の内部空間でステータ6の内周6a側で且つコイル9と隣接する位置に、軸方向に延びるコイル内側冷却用流路10が設けられている。コイル内側冷却用流路10には冷却液、例えば冷却水が循環する。
【0025】
コイル内側冷却用流路10は筒状の部品をスロット部8に挿入することで形成可能である他、ステータ6に樹脂材料を直接成形する方法によっても得ることができる。この場合、コイル内側冷却用流路10の内壁10aは、ステータ6に注入された第1の樹脂材料の硬化物(すなわち第1の樹脂部31)の一部として構成される。
【0026】
コイル内側冷却用流路10が筒状の部品として設けられる場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金のような高熱伝導性の非磁性金属や、高熱伝導性の無機材料を用いることができる。さらに、上述したスロット部8に充填される樹脂材料(すなわち第1の樹脂部31)とは別に設けた樹脂製の筒状の部品が用いられてもよい。
以下では、ステータ6に樹脂材料(第1の樹脂部31)を直接成形する方法を適用した例として説明する。
【0027】
一つのスロット部8に配置するコイル内側冷却用流路10の数は1本または複数本のいずれでも良いが、スロット部8の空間幅が狭い状況に於いては冷却液が通過する際の流路抵抗を考慮して流路の断面積が大きくなるように本数は少ない方が好ましい。コイル内側冷却用流路10の断面形状は本実施形態の様な円形の他、四角やスロット部8の形状に合わせることもできる。
【0028】
また、本実施形態では、コイル9は複数のスロット部8をまたいで巻装された分布巻きの構成が採用されている。そこで、コイル内側冷却用流路10は、一つの分布巻きを構成するスロット部8の組毎に少なくとも一つ設けられるようにしてもよい。例えば、あるコイル9が2つのスロット部8をまたいで巻装される場合に、一方のスロット部8にはコイル内側冷却用流路10を設け、他方のスロット部8にはコイル内側冷却用流路10を設けないようにする。一つの分布巻きを構成する複数のスロット部8の組において、少なくとも一つのスロット部8にコイル内側冷却用流路10が設けられていれば、コイル9を介してコイル内側冷却用流路10が設けられていない他のスロット部8(すなわちティース部7)も冷却することができる。
【0029】
<第1の樹脂部31>
第1の樹脂部31は、スロット部8内に設けられる部分をスロット内樹脂部31aと、ステータ6の端部を覆う端部被覆部31bとを有する。スロット部8とコイル9の間には絶縁層が設けられる。絶縁層は、第1の樹脂部31(すなわちスロット内樹脂部31a)によって形成することができるが、そのときスロット部8の内壁面8a、8bと第1の樹脂部31(スロット内樹脂部31a)の間に絶縁紙13を配置してもよい。
端部被覆部31bは、スロット内樹脂部31aと一体に形成されてり、コイルエンド部9bを覆うと共にステータ6の軸方向の両端部(ステータ端面6c)を覆う。端部被覆部31bは、軸方向から見たときに、第2の樹脂部32で覆われたステータ6の外径と同じく、第2の樹脂部32に連続するように円柱状に形成される。
【0030】
スロット部8にコイル内側冷却用流路10、絶縁層11、コイル9を配置した後に各部材間の隙間に第1の樹脂材料を充填し固定する。この樹脂材料はコイル9の発熱に耐えられるものとする。
【0031】
<第2の樹脂部32>
ステータ6の外周面6bを覆う第2の樹脂部32の厚みは、例えば0.3mm~10mmとすることができる。上記範囲内とすることで(特に下限値に近いような薄皮状にすることで)、第2の樹脂部32の成形時の樹脂流動性を確保しつつ、ハウジングとして機能させる場合に防錆性や防塵性を十分に確保しつつ軽量化を実現できる。なお、下限値未満となる場合には、成形時の樹脂流動性が悪化しやすくなる。また、上限値を超える場合、第2の樹脂部32の重量が増加し、また、外形が大きくなってしまう。
【0032】
また、第2の樹脂部32は、ステータ6の外周面6bから電磁鋼板間の空間内に侵入している。すなわち、電磁鋼板を積層したときにできる積層境界部分の凹部に、周方向に円環形状に、第2の樹脂部32が侵入して硬化している。このため、電磁鋼板の積層状態に空隙を少なくし、伝熱特性を良好にでき、さらに防錆性や防塵性を向上させることができる。
【0033】
<第1の樹脂組成物および第2の樹脂組成物>
第1の樹脂部31は、第1の樹脂組成物の硬化物である。第2の樹脂部32は、第2の樹脂組成物の硬化物である。第1および第2の樹脂組成物は、熱伝導性の良い樹脂材料であることが望ましく、1種類の樹脂または部材毎に複数種の樹脂の組み合わせとすることができる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および絶縁ワニスからなる群より選択される少なくとも1種の材料を含む熱硬化性樹脂を用いることができる。第1および第2の樹脂組成物は、同一材料としてもよいし、異なる材料としてもよい。
コイル9との接着性や伝熱特性を重視した場合には、第1の樹脂組成物としてエポキシ樹脂を好ましく選択できる。機械的強度、電気絶縁性、耐水性、耐熱性を重視した場合、フェノール樹脂を好ましく選択できる。本実施形態では、第1の樹脂部31および第2の樹脂部32としてエポキシ樹脂を用いる。なお、ハウジング側板部1b、1cとしてフェノール樹脂を用いる。
【0034】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0035】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に分子量や構造は限定されるものではない。
【0036】
エポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンのような芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂;アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂;ナフトール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂;フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、またはビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイド等の脂環式エポキシ等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用しても良い。
エポキシ樹脂を含む場合、芳香族環にグリシジルエーテル構造あるいはグリシジルアミン構造が結合した構造を含むものが、耐熱性、機械特性、および耐湿性の観点から好ましい。
【0037】
硬化剤は、熱硬化性樹脂に好ましい態様として含まれるエポキシ樹脂が選択される場合に、三次元架橋させるために用いられるものである。硬化剤としては、特に限定されないが、例えばフェノール樹脂を用いることができる。このようなフェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではない。
【0038】
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物、ナフテン酸コバルト等のナフテン酸金属塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0039】
無機充填剤としては、ケース材に用いられる樹脂組成物の技術分野で一般的に用いられる無機充填剤(フィラーや強化繊維)を使用することができる。無機充填剤としては、例えば溶融破砕シリカ及び溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、木材、フェノール樹脂成形材料やエポキシ樹脂成形材料の硬化物を粉砕した粉砕粉等が挙げられる。この中でも、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカが好ましく、溶融球状シリカがより好ましい。また、この中でも、炭酸カルシウムがコストの面で好ましい。無機充填剤としては、一種で使用しても良いし、または二種以上を併用してもよい。
【0040】
<絶縁ワニス(含浸樹脂)>
樹脂組成物を溶剤に溶かした電気絶縁性塗料である絶縁ワニス(絶縁ワニス組成物)を、ステータ外周面6bやステータ端面6c、コイルエンド部9bに塗布して、またスロット部8内に充填した後に加熱して硬化させることにより、それぞれの領域において絶縁ワニス硬化物が作製される。第1および第2の樹脂組成物として、絶縁ワニスを用いることで成形性を向上させれることができる。また、スロット部8に絶縁紙を配置する場合に、その含浸性により、絶縁ワニスが好適に選択できる。
【0041】
絶縁ワニス組成物は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびビニルエステル樹脂のうち少なくとも1つの樹脂を含む熱硬化性樹脂を備える。
【0042】
不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂およびビニルエステル樹脂は、硬化前においてコイル9間の間隙への絶縁ワニス組成物の含浸性を高める機能を発揮するとともに、硬化後において絶縁ワニス硬化物の耐熱性、電気絶縁性およびステータ6(スロット部8の内壁面8a、8b)への固着力を高める機能を発揮する。
【0043】
不飽和ポリエステル樹脂は、分子中に2つ以上の不飽和結合部位を有する不飽和ポリエステル成分を主成分とする主剤と、任意の割合で添加される反応性希釈剤とを混合することで得られる。
【0044】
不飽和ポリエステル成分は、不飽和多塩基酸またはその無水物と、多価アルコールと、任意成分である飽和多塩基酸またはその無水物とを重合させて得られることができればその種類は特に限定されることなく、公知の不飽和ポリエステル成分の中から適宜選択して用いればよい。
【0045】
不飽和多塩基酸またはその無水物としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、メチルシクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物が挙げられる。これらの不飽和多塩基酸は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0046】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ビスフェノールAが挙げられる。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0047】
飽和多塩基酸またはその無水物としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物が挙げられる。これらの飽和多塩基酸は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0048】
反応性希釈剤は、絶縁ワニス組成物の含浸性の向上と架橋構造形成とを目的に配合するため、不飽和ポリエステル成分よりも低粘度で、かつ、分子中に1つのラジカル重合性基を有するものであればその種類は特に限定されることなく、公知の反応性希釈剤の中から適宜選択して用いればよい。反応性希釈剤としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシエチルメタクリル酸、ジエチレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの反応性希釈剤は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。反応性希釈剤の配合量は、特に限定されないが、絶縁ワニス組成物の接着性と低粘度化とのバランスの観点から、100質量部の不飽和ポリエステル成分に対して、40質量部~250質量部の範囲内であることが好ましく、60質量部~200質量部の範囲であることがより好ましい。反応性希釈剤が250質量部を超えると、絶縁ワニス組成物の接着性が著しく低下する場合がある。一方、反応性希釈剤が40質量部未満であると、反応性希釈剤の添加による絶縁ワニス組成物の低粘度化の効果が十分に得られない場合がある。
【0049】
不飽和ポリエステル樹脂には、重合開始剤が添加されてもよい。重合開始剤は、加熱などによってラジカルを発生し、架橋反応を促進する作用を有する化合物であれば、その種類は特に限定されることなく、公知の重合開始剤の中から適宜選択して用いればよい。
【0050】
エポキシ樹脂は、主剤であるエポキシ樹脂と、硬化剤とを混合することで得られる。エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を有すればその種類は特に限定されることなく、上述のような公知のエポキシ樹脂の中から適宜選択して用いればよく、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0051】
硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化できればその種類は特に限定されることなく、上述したような公知の硬化剤の中から適宜選択して用いればよい。
【0052】
エポキシ樹脂には、硬化促進剤が添加されてもよい。硬化促進剤は、エポキシ化合物と硬化剤との架橋反応を早める作用を有する化合物である。硬化促進剤としては、エポキシ樹脂用の硬化促進剤として一般的に使用されるものであればその種類は特に制限されることなく、公知の硬化促進剤の中から適宜選択して用いればよい。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系硬化促進剤、第三級アミン系硬化促進剤が好ましい。これらの硬化促進剤は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0053】
ビニルエステル樹脂は、分子の両末端に不飽和結合部位を有する平均分子量が2000以上のビニルエステル成分を主成分とする主剤と、反応性希釈剤とを混合することで得られる。ビニルエステル成分は、任意のエポキシ樹脂と不飽和カルボン酸との付加反応によって得られるものであれば、その種類は特に限定されることなく、公知のビニルエステル樹脂の中から適宜選択して用いればよい。
【0054】
ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ樹脂は、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有すれば、その構造は特に限定されない。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、前記のエポキシ樹脂の項で記載した、ビスフェノールA、ビスフェノールF、クレゾールノボラック、フェノールノボラック等の骨格を有するエポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0055】
不飽和カルボン酸は、分子中に1つの不飽和結合部位とカルボキシル基とを同時に有すれば、その構造は特に限定されない。このような不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。特に、高い硬化物特性と耐熱寿命とに加え、高い反応性により絶縁ワニス組成物の硬化時間を短縮できるという観点から、アクリル酸をエポキシ化合物と付加反応させた不飽和カルボン酸を使用することが好ましい。
【0056】
反応性希釈剤には、前記の不飽和ポリエステル樹脂の項で記載した化合物を、同様の組成で使用することができる。また、ビニルエステル樹脂には、重合開始剤が添加されてもよい。重合開始剤には、前記の不飽和ポリエステル樹脂の項で記載した化合物を、同様の組成で使用することができる。
【0057】
絶縁ワニス組成物には、本開示の効果を損なわない範囲で、難燃剤、難燃助剤、強化剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、気泡化剤、気泡化核剤、消泡剤、界面活性剤、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維、安定剤、着色剤といった公知の添加剤が配合されてもよい。これらの添加剤を添加した場合、絶縁ワニス組成物の耐熱性、機械的強度などを向上させる効果を得ることができる。前記の添加剤は、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0058】
<第1および第2の樹脂硬化物の物性>
第1および第2の樹脂硬化物のガラス転移温度Tgは、例えば150℃以上とすることができる。第1および第2の樹脂硬化物のガラス転移温度Tgは同一であってもよいし異なってもよいが、上記範囲とすることでモータ100の耐熱性能を向上させ、高い出力を実現できる。
【0059】
また、耐熱性の指標としてガラス転移温度Tgの代わりに耐熱区分(JIS C4003:2010)が用いられてもよい。第1および第2の樹脂硬化物の耐熱区分として、F種(許容最高温度155℃)、H種(許容最高温度180℃)、200(許容最高温度200℃)、220(許容最高温度220℃)、250(許容最高温度250℃)とすることが好ましい。これによって、モータ100の駆動に伴いスロット部8内の温度やステータ6の温度が高温になった場合であっても、第1の樹脂部31や第2の樹脂部32が軟化することなく、所望の強度を維持することができる。その結果、モータ100の耐熱性能を向上させ、高い出力を実現できる。
【0060】
第1および第2の樹脂硬化物として絶縁ワニスが選択される場合、次の物性の材料が選択されることが好ましい。
体積抵抗率が1015Ω・cm以上である。これにより十分が絶縁性を確保できる。
粘度(常態)が30mPa・s以上1000mPa・s以下である。これにより、成形時の良好な流動性を確保しつつ、乾燥時間が大幅に長くなってしまうことを抑制できる。すなわち、良好な製造効率を実現できる。
【0061】
<ステータ6の製造方法>
以上の構成のステータ6の製造方法について説明する。
この製造方法は、樹脂インサート成形によるものであって、第1樹脂部形成工程と第2樹脂部形成工程とを有する。
【0062】
第1樹脂部形成工程は、金型内にステータ6を配置するとともに、スロット部8内にコイル本体が収容されるようにコイル9を配置し、つづいてコイル本体9aが収容されたスロット部8内に第1の樹脂組成物を充填し硬化させて第1の樹脂部31を形成する。
このとき、スロット部8から外部に露出しているコイルエンド部9bを含めてコイル9全体を一括封止するように第1の樹脂部31が形成される。また、コイルエンド部9bだけでなく、ステータ6の軸方向の端面6c(すなわちヨーク部8の軸方向端面およびティース部7の軸方向端面)も合わせて一括封止するように第1の樹脂部31が形成される。
【0063】
第2樹脂部形成工程は、ステータ6の外周面6bの全体を第2の樹脂組成物で覆って硬化させて第2の樹脂部32を形成する。このとき、上述したように、ステータ6を個性する電磁鋼板の積層境界部分に第2の樹脂組成物が侵入することで、ステータ外周面6bは空隙が無く密閉される。
【0064】
第2の樹脂部32を成形するときに、第1の樹脂部31と隙間無く重なるように成形することで、ハウジングとして封密性能を良好にすることができる。なお、第1の樹脂部31と第2の樹脂部32とを一括成形してもよい。その場合、封密性能を一層良好にすることができる。
【0065】
以上、本実施形態のモータ100によると、第1の樹脂部31と第2の樹脂部32とを一体で成形することが可能であり、部品点数の削減および製造時の工数削減を実現できる。また、一体成形時にステータ6の外面(ステータ外周面6b)を薄肉の第2の樹脂部32としてハウジングとして機能させることができ、アッセンブリ品の軽量化に貢献できる。
【0066】
≪第2の実施形態≫
図3を参照して、本実施形態のモータ100を説明する。本実施形態のモータ100は、第1の実施形態のモータ100の構成から、冷却用流路10(外部接続流路17を含む)を取り除いた構成である。本実施形態によると、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0067】
≪第3の実施形態≫
図4を参照して、本実施形態のモータ100を説明する。本実施形態のモータ100は、第2の実施形態で示した構成の変形例であり、第1の樹脂部31と第2の樹脂部32の材料をワニスとしている。また、それに伴い、スロット部8に絶縁紙31cをスロット壁面8aに沿って配置し、スロット部8とコイル9との絶縁を確保している。これによって、第1の樹脂部31と第2の樹脂部32とを一層薄くでき、一層の軽量化を実現できる。
【0068】
≪第4の実施形態≫
図5を参照して、本実施形態のモータ100を説明する。本実施形態のモータ100は、第1の実施形態で示した構成の変形例であり、第2の樹脂部32の材料をワニスとしている。これによって、第2の樹脂部32とを一層薄くでき、一層の軽量化を実現できる。
【0069】
<実施形態の効果のまとめ>
本実施形態のモータ100(実施例1~4)の効果を比較対象のモータ(比較例1~3)と対比しつつ主に第1の樹脂部31および第2の樹脂部32に着目して説明する。表1にモータ100の構造の違いと評価結果の一覧を示す。実施例1~実施例4は、上述の第1~第4の実施形態に対応している。
【0070】
構造の相違:
構造の違いとして、ステータ6のステータ外周面6bのハウジング構造(封止構造)、コイルエンド9bの封止構造、スロット部8内部の絶縁構造(封止構造)、冷却方式を例示する。
従来技術に対応する例として比較例1~3を示す。本実施形態に対応する例として実施例1~3を示す。
実施例1(第1の実施形態に対応)では、ステータ外周面6bを覆う第2の樹脂部32をエポキシ樹脂(EME樹脂)による薄皮とした構成、コイルエンド部9bの封止樹脂をエポキシ樹脂(EME樹脂)、スロット部8内の樹脂(第1の樹脂部31)をエポキシ樹脂(EME樹脂)、冷却方式を
図1、2等に示したようにスロット部8内に冷却用流路10を設けた構成で評価した。
実施例2(第2の実施形態に対応)では、冷却方式を実施例1の水冷の方式から、
図3に示したような構成により冷却水を用いず空冷方式としてた構成で評価した。
実施例3(第3の実施形態に対応)では、
図4に示したように、ステータ外周面6bを覆う第2の樹脂部32をECR(ワニス)とした構成、コイルエンド部9bの封止樹脂をECR(ワニス)、スロット部8内を絶縁紙を配置して第1の樹脂部31としてECR(ワニス)を用いた構成、冷却方式として特に設けない構成で評価した。
実施例4(第4の実施形態に対応)では、
図5に示したように、実施例1(第1の実施形態に相当)の構成の第2の樹脂部32をECR(ワニス)を用いた構成で、水冷の方式の冷却方式として評価した。
比較例1では、ステータ外周面6bをアルミダイキャストのハウジング構造、コイルエンド部9bをワニス封止、スロット部8内部を絶縁紙およびワニスによる封止構造、冷却方式として、冷却水路をステータ6の外周部分に設けた構成として評価した。
比較例2では、比較例1の冷却方式を油冷散布方式に変更した構成として評価した。油冷散布方式は、コイルエンドに冷却油を散布する方式である。
比較例3では、実施例1の第2の樹脂部32のエポキシ樹脂の薄皮構造をフェノール樹脂(PM樹脂)の成形品とした構造に変更した構造で評価した。
【0071】
評価項目:
評価項目として、重量(軽量化)、防錆、耐衝撃性、放熱性(冷却)を例示する。
評価基準は次の様にA~Dの4段階で評価した。
A…非常に良好
B…良好
C…可
D…不可
【0072】
【0073】
実施例1~4では、ハウジング1のハウジング円筒部1aに対応する構造を樹脂製(第2の樹脂部32)とすることで、重量を低減できる。また、ステータ6の外形領域およびスロット部8内を第1の樹脂部31や第2の樹脂部32で覆うことで、高い防錆性能を実現できる。また、スロット部8内を樹脂封止する構成では、スロット部8内に冷却水を用いた冷却構造を設けることが容易であり、高い冷却性能を実現できる。
【0074】
本実施形態の特徴を纏めると次の通りである。
<1>
複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部4と前記ヨーク部4から延出する複数のティース部7と、前記ティース部7の間の空間であってコイル9(コイル本体9a)が収容されるスロット部8とを有するステータ6であって、
前記コイル9が収容された前記スロット部8内に設けられた第1の樹脂組成物の硬化物からなる第1の樹脂部31と、
ステータ周面(ステータ外周面6b)の全体を覆う第2の樹脂組成物の硬化物からなる第2の樹脂部32と、
を有するステータ6。
ステータ6を樹脂一括封止することで、コイル9の封止と併せてステータ6の外径部分(外周面と軸方向の端面)を樹脂(第1の樹脂部31、第2の樹脂部32)で保護できる。これによって、封止樹脂(ここでは第1の樹脂部31、第2の樹脂部32)をハウジングとして機能させることができ、従来のように専用に設けられていたハウジング(またはケース)を有する構成のモータと比較して、錆による腐食等の発生を抑制できる。その結果、腐食により電気的特性低下あるいは破損が生じることを防止できる。また、アルミニウム合金等の金属のハウジングを有する場合と比較して、大幅に軽量化を実現できる。
<2>
前記第1の樹脂部31は、さらに前記コイル9における前記スロット部8から外部に露出しているコイルエンド部9bを覆っている、<1>に記載のステータ6。
スロット部8に収容されているコイル本体9aとコイル本体9aから突出しているコイルエンド部9bとを第1の樹脂部31で一括封止することで、コイル9を確実に密封でき、コイル9の電気絶縁性および防水性を良好に確保できる。また、コイル9が第1の樹脂部31と隙間無く密着するため、コイル9の熱を第1の樹脂部31に伝えることができる。
<3>
前記第1の樹脂部31は、さらにステータ端面6cを覆っている、<2>に記載のステータ6。
これによって、ステータ6の熱を、第1の樹脂部31を介して、第2の樹脂部32に伝えことができ、モータ100としての放熱性を向上させることができる。
<4>
前記第2の樹脂組成物(すなわち第2の樹脂部32)は、前記ヨーク部4の周面(すなわちステータ外周面6b)から前記電磁鋼板間の空間内に侵入している、<1>から<3>までのいずれか1項に記載のステータ6。
これによって、第2の樹脂部32がステータ6のステータ外周面6bと密着し、当該部分において空隙が無く、良好な伝熱特性および防錆性を実現できる。
<5>
前記第1の樹脂部31と前記第2の樹脂部32とは同一の樹脂組成物により一体で設けられている、<1>から<4>までのいずれか1項に記載のステータ6。
これによって、伝熱特性が急激に変化することを防止でき、良好な熱伝導を実現でき、また、局所的な温度変化を防止できる。その結果、長期使用した場合であっても、一部のみの強度が低下してしまうとうの不具合を防止できる。
<6>
前記第1の樹脂部31の樹脂組成物と前記第2の樹脂部32の樹脂組成物は異なっている、<1>から<4>までのいずれか1項に記載のステータ6。
これによって、ハウジング円筒部1aとして機能する第1の樹脂部31とハウジング側板部1b、1cとして機能する第2の樹脂部32とで、それぞれに適切な物性を付与することができる。
<7>
前記第1の樹脂部31の前記樹脂組成物と前記第2の樹脂部32の前記樹脂組成物は、それぞれ、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および絶縁ワニスからなる群より選択される少なくとも1種の材料を含む、<1>から<6>までのいずれか1に記載のステータ6。
これらの材料を選択することで、所望の強度、耐熱性、電気絶縁性、防水性、防錆性をバランス良く実現できる。
<8>
前記第1の樹脂部31の前記樹脂組成物はエポキシ樹脂であり、
前記第2の樹脂部32の前記樹脂組成物はフェノール樹脂である、<7>に記載のステータ6。
<9>
前記第1の樹脂部31の前記樹脂組成物及び前記第2の樹脂部32の前記樹脂組成物はエポキシ樹脂である、<7>に記載のステータ6。
<10>
前記第2の樹脂部32は前記ステータ周面(ステータ外周面6b)上に薄皮状に設けられている、<9>に記載のステータ6。
これにより、電気絶縁性と防水性を確保しつつ大幅に軽量化が可能となる。
<11>
前記第1の樹脂部31の前記第1の樹脂組成物及び前記第2の樹脂部32の前記第2の樹脂組成物は絶縁ワニスである、<4>に記載のステータ6。
これにより、電気絶縁性と防水性を確保しつつ大幅に軽量化が可能となる。さらに、樹脂組成物を対象物の表面等に設けるときの作業性を向上させることができる。
<12>
前記スロット部8において、前記スロット部8の壁面(スロット壁面8a、8b)と前記コイル9との間に設けられた絶縁紙をさら有する、<12>に記載のステータ6。
第1の樹脂部31に絶縁ワニスを用いるときに、スロット部8内に絶縁紙を配置することで、絶縁紙にワニスを含浸させることができ、電気絶縁性を確実にすることができる。
<13>
前記スロット部8内に、冷却路(冷却用流路10)が設けられている、<1>から<12>までのいずれか1に記載のステータ6。
これにより、ステータ6の冷却、換言するとコイル9の冷却を向上させることができる。その結果、モータ100として高出力を実現できる。
<14>
<1>から<13>までのいずれか1に記載のステータ6と、ロータ2とを有する回転電機(モータ100)。
<15>
前記ステータ6と前記ロータ2とを収容するハウジング1を有し、
前記第2の樹脂部32は、前記ハウジング1のうち前記ステータ6の外周面(ステータ外周面6b)を覆うハウジング周面部(ハウジング円筒部1a)を構成する、<14>に記載の回転電機(モータ100)。
<16>
<3>に記載のステータ6と、ロータ2と、前記ステータ6と前記ロータ2とを収容するハウジング1を有し、
前記ハウジング1は、前記ステータ6のステータ内周面6aを覆うハウジング周面部(ハウジング円筒部1a)と、前記ステータ6の端面側(ステータ端面6c)を覆うハウジング端面部(ハウジング側板部1b、1c)とを有し、
前記第1の樹脂部31は、前記ハウジング端面部(ハウジング側板部1b、1c)を構成し、
前記第2の樹脂部32は、前記ハウジング周面部(ハウジング円筒部1a)を構成する、回転電機(モータ100)。
<17>
複数の電磁鋼板を積層してなり、かつ環状のヨーク部4と前記ヨーク部4から延出する複数のティース部7と、前記ティース部7の間の空間であってコイル9が収容されるスロット部8とを有するステータ6の製造方法であって、
前記コイル9が収容された前記スロット部8内に第1の樹脂組成物を充填し硬化させて第1の樹脂部31を形成する第1樹脂部形成工程と、
ステータ周面(ステータ外周面6b)の全体に第2の樹脂組成物を覆って硬化させて第2の樹脂部32を形成する第2樹脂部形成工程と、
を有する、ステータ6の製造方法。
<18>
前記第1樹脂部形成工程前は、前記コイル9における前記スロット部8から外部に露出しているコイルエンド部9bを覆って第1の樹脂部31を形成する、<17>に記載のステータ6の製造方法。
<19>
前記第1樹脂部形成工程前は、さらにステータ端面6cを覆って前記第1の樹脂部31を形成する、<18>に記載のステータ6の製造方法。
<20>
前記第1樹脂部形成工程と前記第2樹脂部形成工程とは、前記第1の樹脂部31と前記第2の樹脂部32を一括成形する、<17>から<19>までのいずれか1に記載のステータ6の製造方法。
【0075】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 ハウジング
1a ハウジング円筒部
1b ハウジング側板部
2 ロータ
3 回転軸
4 ヨーク部
5 永久磁石
6 ステータ
7 ティース部
8 スロット部
9 コイル
9a コイル本体9
9b コイルエンド部
10 冷却用流路
31 第1の樹脂部
32 第2の樹脂部
100 モータ