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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122535
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】熱処理システム
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/64 20060101AFI20240902BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240902BHJP
   C21D 1/773 20060101ALI20240902BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20240902BHJP
   C21D 11/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/18 T
C21D1/773 D
C21D1/18 J
C21D1/74 K
C21D11/00 104
C21D1/18 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030124
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 剛士
(72)【発明者】
【氏名】石井 久貴
【テーマコード(参考)】
4K038
【Fターム(参考)】
4K038AA05
4K038BA02
4K038CA01
4K038CA03
4K038DA02
4K038DA04
4K038EA02
4K038EA04
4K038FA02
(57)【要約】
【課題】焼入れ後の鋼部材の硬さを均一にすることができる熱処理システムを提供する。
【解決手段】熱処理油が貯留される貯油タンク13と、貯油タンク13と第一経路(管路C10,C11,C15)によって連通する油槽であって、鋼部材Wが設置された状態において、貯油タンク13から熱処理油が供給され、鋼部材Wの全体が熱処理油に浸漬されることで焼入れを行う焼入れ室と、焼入れ室14と第二経路(管路C11,C15)によって連通し、焼入れ室14の熱処理油を加圧する第一ポンプ15と、を備えることで、鋼部材Wの硬さを均一にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油が貯留される貯油タンクと、
前記貯油タンクと第一経路によって連通する油槽であって、鋼部材が設置された状態において、前記貯油タンクから前記油が供給され、前記鋼部材の全体が前記油に浸漬されることで焼入れを行う焼入れ室と、
前記焼入れ室と第二経路によって連通し、前記焼入れ室の前記油を加圧する第一ポンプと、
を備えることを特徴とする熱処理システム。
【請求項2】
前記焼入れ室と第三経路によって連通し、前記焼入れ室を減圧する第二ポンプを更に備え、
前記焼入れ室は、前記第二ポンプによって減圧された状態、かつ、前記鋼部材が設置された状態において、前記貯油タンクとの差圧によって前記貯油タンクから前記油が供給されることを特徴とする請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
前記焼入れ室に対して前記鋼部材が出し入れされる焼入れ扉を有する搬送室と、
前記搬送室の圧力が前記焼入れ室の圧力以上となるように前記搬送室を加圧する圧力調整機構と、
を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の熱処理システム。
【請求項4】
前記貯油タンクと前記第一ポンプとを連通させる第四経路に設けられた第一制御弁と、
前記第二経路に設けられた第二制御弁と、
前記第一制御弁、及び、前記第二制御弁を開状態とし、前記第一ポンプを起動する制御を行うことで、前記焼入れ室の前記油を加圧する圧力制御装置と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項5】
前記焼入れ室と連通する、前記貯油タンクとは異なる他のタンクと、
前記焼入れ室と前記他のタンクとを連通させる第五経路に設けられた第三制御弁と、
を更に備え、
前記圧力制御装置は、前記焼入れ室の前記油を加圧する際に、前記焼入れ室の圧力が予め設定された値又は範囲内となるように、前記第三制御弁の開度を制御し、前記焼入れ室内の圧力を前記他のタンクに逃がすことを特徴とする請求項4に記載の熱処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも鋼部材に対して加熱処理後に焼入れを行う熱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼部材を加熱しオーステナイトに変化させた後、急速冷却することで鋼部材にマルテンサイトが形成されるようにする焼入れ処理が知られている。例えば、下記特許文献1には、加熱処理後の赤熱状態の鋼部材を、焼入れ室に予め溜められた常温の油に没入させ急速に冷却を行うことで硬くする、すなわち焼入れを行う装置が開示されている。
【0003】
ところで、焼入れ中における鋼部材の表面には、油の蒸気膜が発生し付着する。蒸気膜は鋼部材の冷却効果を低減してしまうものであるが、鋼部材の冷却が進むにつれて崩壊し、膜沸騰状態から核沸騰状態へと推移する。
【0004】
ただし、蒸気膜の崩壊は鋼部材の表面全体で一斉に発生するのではなく、油の流れ方向上流側から徐々に進行してゆくため、冷却速度にバラツキができ鋼部材の硬さが不均一になってしまう。
【0005】
これを防ぐために、焼入れ室の圧力を制御し油の沸点を制御することで、鋼部材全体を覆っている蒸気膜を一斉に消し核沸騰状態に推移させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3069748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された装置では、焼入れ室の下方に溜められた油が外に漏れないようにするために、鋼部材を出し入れする焼入れ扉を、油から離隔した位置、すなわち焼入れ室の上方に設ける必要がある。よって、上記特許文献1に開示された装置では、自ずと焼入れ室が大きくなってしまう。
【0008】
そして焼入れ室は、大きくなるほど加圧制御に対する応答性が低下する。したがって、上記特許文献1に開示された装置では、鋼部材の硬さを均一にすることが困難であった。
【0009】
上述の問題に鑑み、本発明は、焼入れ後の鋼部材の硬さを均一にすることができる熱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱処理システムは、油が貯留される貯油タンクと、前記貯油タンクと第一経路によって連通する油槽であって、鋼部材が設置された状態において、前記貯油タンクから前記油が供給され、前記鋼部材の全体が前記油に浸漬されることで焼入れを行う焼入れ室と、前記焼入れ室と第二経路によって連通し、前記焼入れ室の前記油を加圧する第一ポンプと、を備える。
【0011】
また、前記焼入れ室と第三経路によって連通し、前記焼入れ室を減圧する第二ポンプを更に備え、前記焼入れ室は、前記第二ポンプによって減圧された状態、かつ、前記鋼部材が設置された状態において、前記貯油タンクとの差圧によって前記貯油タンクから前記油が供給される。
【0012】
また、前記焼入れ室に対して前記鋼部材が出し入れされる焼入れ扉を有する搬送室と、前記搬送室の圧力が前記焼入れ室の圧力以上となるように前記搬送室を加圧する圧力調整機構と、を更に備える。
【0013】
また、前記貯油タンクと前記第一ポンプとを連通させる第四経路に設けられた第一制御弁と、前記第二経路に設けられた第二制御弁と、前記第一制御弁、及び、前記第二制御弁を開状態とし、前記第一ポンプを起動する制御を行うことで、前記焼入れ室の前記油を加圧する圧力制御装置と、を更に備える。
【0014】
また、前記焼入れ室と連通する、前記貯油タンクとは異なる他のタンクと、前記焼入れ室と前記他のタンクとを連通させる第五経路に設けられた第三制御弁と、を更に備え、前記圧力制御装置は、前記焼入れ室の前記油を加圧する際に、前記焼入れ室の圧力が予め設定された値又は範囲内となるように、前記第三制御弁の開度を制御し、前記焼入れ室内の圧力を前記他のタンクに逃がす。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る熱処理システムによれば、焼入れ後の鋼部材の硬さを均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る熱処理システムの全体の概略構成を示す回路図である。
図2図1に示す圧力制御装置のハードウェア構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図3図1に示す圧力制御装置の機能的構成の一例を、油循環ポンプ、真空ポンプ、圧力計、制御弁とともに概略的に示すブロック図である。
図4図1に示す圧力制御装置の動作制御の一例を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては極力同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0018】
===実施形態===
≪構成≫
図1は、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と呼称)に係る熱処理システム1の全体の概略構成を示す回路図である。
【0019】
図1に示す熱処理システム1は、鋼部材Wに対して熱処理を行うシステムである。この熱処理には、鋼部材を加熱しオーステナイトに変化させる加熱処理、及び、加熱処理後の鋼部材Wにマルテンサイトが形成されるようにする焼入れ処理等が含まれる。
【0020】
また、熱処理システム1は、圧力制御装置10と、加熱室11(浸炭室)と、搬送室12と、焼入れ室14(共通油槽)と、貯油タンク13(貯留油槽)と、油循環ポンプ15(第一ポンプ)と、第一真空ポンプ16と、第二真空ポンプ17(第二ポンプ)と、膨張タンク18と、窒素タンク19と、を主要部として備えている。
【0021】
なお、加熱室11、搬送室12、貯油タンク13、及び、焼入れ室14は、その材質が鋼材からなるものとする。また、加熱室11については、鋼材の内側にさらに断熱材が設けられているものとする(後述する中扉12Bの加熱室11側の面にも断熱材が設けられている)。
【0022】
加熱室11は、鋼部材Wを昇温するヒータ11Aと、ヒータ11Aの電源であるヒータ電源11Bと、を備えている。
【0023】
そして加熱室11は、後述する第一真空ポンプ16によって減圧(真空排気)された状態で、(焼入れ処理前に)鋼部材Wをヒータ11Aによって約850°程度まで加熱するとともに浸炭ガスが装入されることで浸炭処理を行う。なお、加熱処理の際に加熱室11を減圧する理由は、鋼部材Wの酸化防止と加熱室からの熱損失を低減するためである。
【0024】
搬送室12は、内部において鋼部材Wを搬送する室であって、加熱室11と焼入れ室14との間に設けられていることで、後述する焼入れ室14内の熱処理油が加熱室11に浸入することを防ぐことができるものである。
【0025】
搬送室12は、熱処理システム1の外部との出入口において開閉制御される前扉12Aと、加熱室11との間において開閉制御される中扉12Bと、焼入れ室14との間において開閉制御される焼入れ扉12Cと、鋼部材Wを搬送する搬送機構12Dと、を備えている。なお、図1には、前扉12A、中扉12B、焼入れ扉12Cの開閉方向を両矢印で示している。
【0026】
なお、中扉12B、焼入れ扉12Cは、図1に示すとおり、それぞれ対応する開口部分の周縁に対して内側から当接するように取り付けられている。この構造によって、搬送室12の内部の圧力が、加熱室11の内部の圧力や焼入れ室14の内部の圧力以上であれば、各室の気密性が確保される。
【0027】
搬送機構12Dは、図1に破線両矢印で示すように、鋼部材Wを上下方向(鉛直方向)、及び、左右方向(垂直方向)に移動することで鋼部材Wを搬送することができる。また、前扉12Aが開状態であるとき、外部との間で鋼部材Wを出し入れすることができる。さらに、中扉12Bが開状態であるとき、加熱室11との間で鋼部材Wを出し入れすることができる。さらに、焼入れ扉12Cが開状態であるとき、焼入れ室14との間で鋼部材Wを出し入れすることができる。
【0028】
第一真空ポンプ16は、開閉制御可能な制御弁V1が設けられた管路C1、及び、管路C13によって搬送室12と連通している。また第一真空ポンプ16は、開閉制御可能な制御弁V2が設けられた管路C2、及び、管路C13によって搬送室12と連通している。これにより、第一真空ポンプ16は、加熱室11及び搬送室12をそれぞれ独立して減圧(真空排気)することができる。
【0029】
また、窒素タンク19は、窒素が封入されたタンクであり、制御弁V1が設けられた管路C3、及び、管路C14によって搬送室12と接続している。なお、管路C3は管路C14から分岐したものである。これにより、窒素タンク19は、搬送室12を窒素によって加圧することができる。
【0030】
また、本実施形態においては、第一真空ポンプ16及び窒素タンク19を纏めて第一圧力調整機構20と呼称するものとする。すなわち、第一圧力調整機構20は、加熱室11の圧力、及び、搬送室12の圧力をそれぞれ独立して制御することができるものである。
【0031】
貯油タンク13は、熱処理油が貯留されるタンクである。
【0032】
焼入れ室14は、開閉制御可能な制御弁V10が設けられた管路C10、管路C11、及び、管路C15(以下では、管路C10,C11,C15を纏めて「第一経路」とも呼称する。)によって、貯油タンク13と連通する油槽である。
【0033】
焼入れ室14は、後述する第二真空ポンプ17によって減圧された状態、かつ、搬送機構12Dによって搬送室12から搬送された加熱処理後の鋼部材Wが設置された状態において、貯油タンク13との差圧によって貯油タンク13から熱処理油が供給され、鋼部材Wの全体を熱処理油に浸漬させることで焼入れを行うものである。なお、熱処理油は焼入れ室14の下部側から供給される。
【0034】
油循環ポンプ15(第一ポンプ)は、開閉制御可能な制御弁V4(第一制御弁)が設けられた管路C4(以下では、管路C4を「第四経路」とも呼称する。)によって油循環ポンプ15と連通するとともに、開閉制御可能な制御弁V11(第二制御弁)が設けられた管路C11、及び、管路C15(以下では、管路C11,C15を纏めて「第二経路」とも呼称する。)によって焼入れ室14と連通している。これにより、油循環ポンプ15は、焼入れ室14に供給された熱処理油を循環させ、熱処理油の温度ムラを小さくできる。また、制御弁V7で下流の流量を絞り加圧することで、沸騰状態を制御することができる。
【0035】
第二真空ポンプ17(第二ポンプ)は、開閉制御可能な制御弁V6が設けられた管路C6、及び、開閉制御可能な制御弁V7が設けられた管路C7(以下では、管路C6,C7を纏めて「第三経路」とも呼称する。)によって焼入れ室14と連通している。これにより、第二真空ポンプ17は、焼入れ室14を減圧(真空排気)することができる。
【0036】
膨張タンク18は、オーバーフロータンクとも呼称されるタンクであり、開閉制御可能な制御弁V9が設けられた管路C9、管路C16、及び、管路C7(以下では、管路C9,C16,C7を纏めて「第五経路」とも呼称する。)によって焼入れ室14と連通している。これにより、膨張タンク18に焼入れ室14の窒素及び熱処理油の蒸気を逃がすことができ、焼入れ室14の圧力を抑えることができる。なお、膨張タンク18は、制御弁V12が設けられた管路C12、管路C6、及び、管路8によって貯油タンク13と連通している。
【0037】
また、本実施形態では、油循環ポンプ15、第二真空ポンプ17、及び、膨張タンク18を纏めて第二圧力調整機構21と呼称するものとする。すなわち、第二圧力調整機構21は、焼入れ室14の圧力を制御することができるものである。
【0038】
なお、窒素タンク19と膨張タンク18とは、開閉制御可能な制御弁V5が設けられる管路C5、管路C14、及び、管路C9によって連通している。
【0039】
また、焼入れ扉12Cが内側から設置された搬送室12は、焼入れ室14の急激な加圧による油の浸入を防ぐため、焼入れ室14の圧力以上の圧力に設定しておく。これにより、焼入れ扉12Cが少なくとも焼入れ室14側から押圧されることがなくなり、気密性を確保することができる。すなわち、搬送室12は、加熱室11と焼入れ室14との間で圧力隔壁の役割を担っている。
【0040】
また、熱処理システム1には、加熱室11内の圧力を測定する圧力計P1、搬送室12内の圧力を測定する圧力計P2、焼入れ室14内の圧力を測定する圧力計P3、貯油タンク13内の圧力を測定する圧力計P4、膨張タンク18内の圧力を測定する圧力計P5、管路C6における制御弁V6よりも焼入れ室14側の圧力を測定する圧力計P6が設けられている。
【0041】
圧力制御装置10は、加熱室11、搬送室12、貯油タンク13、焼入れ室14、膨張タンク18、管路C6等の圧力が、それぞれ予め定められた値又は範囲内となるように、各制御弁V1~V12の開閉制御、油循環ポンプ15、第一真空ポンプ16、及び、第二真空ポンプ17の動作制御を行う。
【0042】
図2は、図1の圧力制御装置10のハードウェア構成の一例を概略的に示すブロック図である。図2に示すように、圧力制御装置10は、記憶装置2と、制御装置3と、通信装置4と、を主に備えて主要部が構成されている。
【0043】
記憶装置2は、圧力制御装置10の内部に配置されたハードディスク等によって構成される補助記憶装置である。この記憶装置2は、制御装置3における処理の実行に必要な各種プログラム、各種の情報、及び、処理結果の情報を記憶する。
【0044】
制御装置3は、CPU5(Central Processing Unit)、及び、メモリ6(主記憶装置)を主に備えて主要部が構成される。CPU5は、圧力制御装置10の各種構成を動作制御する。メモリ6は、例えば圧力制御装置10における処理の実行に必要な各種プログラム等を記憶する。
【0045】
また、制御装置3は、CPU5が記憶装置2あるいはメモリ6等に格納された所定のプログラムを実行することにより、各種の機能構成として機能する。この機能構成の詳細については後述する。当該プログラムは、記憶装置2に記憶されてもよく、圧力制御装置10の外部の記憶装置等に記憶されてもよい。また、当該プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよく、インターネット等のネットワーク経由でインストールする形式で提供してもよい。
【0046】
通信装置4は、外部の装置と通信するための通信インターフェース等で構成される。通信装置4は、例えば、圧力計P1~P6、油循環ポンプ15、第一真空ポンプ16、第二真空ポンプ17、各制御弁V1~V12、その他各種センサとの間で通信を行う。
【0047】
なお、圧力制御装置10は、専用又は汎用のコンピュータ等を用いて実現することができる。また、図2は圧力制御装置10が有する主要なハードウェア構成の一部を示しているに過ぎず、圧力制御装置10は、コンピュータが一般的に備える他の構成を備えることができる。
【0048】
図3は、図1に示す圧力制御装置10の機能的構成の一例を、油循環ポンプ15、第一真空ポンプ16、第二真空ポンプ17、圧力計P1~P6、制御弁V1~V12とともに概略的に示すブロック図である。
【0049】
図3に示すように、圧力制御装置10は、取得部31と、記憶部32と、制御部33と、を主要部として備えている。
【0050】
取得部31は、各圧力計P1~P6の測定結果を取得する。記憶部32は、圧力計P1~P6毎に対応して予め定められた圧力の値又は範囲が記憶される。制御部33は、測定結果が当該値又は当該範囲内となるように、各制御弁V1~V12の開閉制御、油循環ポンプ15、第一真空ポンプ16、及び、第二真空ポンプ17の動作制御を行う。
【0051】
なお、加熱室11及び焼入れ室14には、熱電対等の温度計が設けられており、貯油タンク13及び焼入れ室14には熱処理油の液量を測定するレベルセンサが設けられているが、図示を省略している。また、圧力制御装置10はこれらの温度計及びレベルセンサの測定結果も取得するが、本実施形態においては説明を省略する。
【0052】
また、制御弁V1~V12は、例えばエアオペレート弁(空圧駆動弁)である。さらに、圧力計P1~P6は、例えばピラニ真空計である。なお、圧力計P3は、焼入れ室14の蒸気圧を測定するものである。
【0053】
≪動作制御≫
図4の表を参照して、圧力制御装置10による各動作制御の一例について説明する。なお、図4は熱処理における焼入れ処理について説明する表であり、加熱処理等については省略している。
【0054】
図4中のV1~V12は、制御弁V1~V12の開閉状態を示している。また、図4中のP1~P6は、圧力計P1~P6の計測結果であり、各数値の単位は[kPaG](ゲージ圧)としている。
【0055】
なお、以下では、図4における「焼入れ準備」工程から「搬送室搬出工程」までの各工程の詳細については省略し、「焼入れ室装入」工程以降について詳述する。ただし、図4における「膨張タンク液抜き」工程においては、管路C12に設けられた制御弁V12を開状態(全開)とすることで、膨張タンク18内に残留した熱処理油を貯油タンク13に戻しておく。また、「膨張タンク排気工程」においては、管路C9に設けられた制御弁V9を開状態(全開)とすることで、膨張タンク18内に残留した窒素を第二真空ポンプ17によって真空排気しておく。
【0056】
(焼入れ室装入)
鋼部材Wが未だ焼入れ室14に設置されていない状態において、圧力制御装置10が、制御弁V1,V2,V7を開状態(全開)とし、それ以外の制御弁を閉状態とし、前扉12A、及び、中扉12Bを閉状態とし、焼入れ扉12Cを開状態とし、第一真空ポンプ16、及び、第二真空ポンプ17を運転状態とし、油循環ポンプ15を停止状態とする。これにより、搬送室12の圧力(圧力計P2の測定結果。図4中のP2)が-100kPaG、焼入れ室14の圧力(圧力計P3の測定結果。図4中のP3)が-100kPaG、貯油タンク13の圧力(圧力計P4の測定結果。図4中のP4)が-5kPaGに減圧された状態となる。
【0057】
この状態において、搬送機構12Dが、鋼部材Wを搬送室12から焼入れ室14に搬送及び装入する。
【0058】
(搬送室復圧)
圧力制御装置10が、制御弁V2,V3,V6,V7,V9を開状態(全開)とし、それ以外の制御弁を閉状態とし、前扉12A、中扉12B、及び、焼入れ扉12Cを閉状態とし、第一真空ポンプ16、及び、第二真空ポンプ17を運転状態とし、油循環ポンプ15を停止状態とする。これにより、搬送室12の圧力(図4中のP2)が100kPaGに復圧される。
【0059】
なお、この状態においては、搬送室12の圧力(図4中のP2)は焼入れ室14の圧力(図4中のP3)よりも200(=100-(-100))kPaG高くなるが、既に説明したとおり、焼入れ扉12Cが搬送室12の内側から設けられていることで、気密性が確保されている。
【0060】
(焼入れ開始)
圧力制御装置10が、制御弁V2,V7,V9,V10を開状態(全開)とし、それ以外の制御弁を閉状態とし、前扉12A、中扉12B、及び、焼入れ扉12Cを閉状態とし、第一真空ポンプ16を運転状態とし、第二真空ポンプ17を停止状態とし、油循環ポンプ15を停止状態とする。これにより、焼入れ室14の圧力(図4中のP3)が-90kPaG、貯油タンク13の圧力(図4中のP4)が-90kPaGとなる。
【0061】
すなわち、焼入れ室14の圧力(図4中のP3)が-100kPaG、貯油タンク13の圧力(図4中のP4)が-5kPaGの状態で、貯油タンク13と焼入れ室14とを連通させる管路C10に設けられた制御弁V10等を開状態とすることで、両者の差圧によって、貯油タンク13から焼入れ室14に熱処理油が供給される。これによって、焼入れ室14に設置された鋼部材Wが熱処理油に浸漬する。
【0062】
(焼入れ圧力制御)
圧力制御装置10が、制御弁V2,V4,V8,V11を開状態(全開)とし、制御弁V7の開度を調整し、それ以外の制御弁を閉状態とし、前扉12A、中扉12B、及び、焼入れ扉12Cを閉状態とし、第一真空ポンプ16を運転状態とし、第二真空ポンプ17を停止状態とし、油循環ポンプ15を起動して運転状態とする。
【0063】
すなわち、貯油タンク13と油循環ポンプ15とを連通させる管路C4(第四経路)に設けられた制御弁V4(第一制御弁)、及び、油循環ポンプ15と焼入れ室14とを連通させる管路C11,C15(第二経路)に設けられた制御弁V11(第二制御弁)を開状態(全開)として、油循環ポンプ15を起動して運転状態とし、油循環ポンプ15によって、焼入れ室14の熱処理油を加圧することで膜沸騰状態から核沸騰状態に即座に移行させる。
【0064】
また、焼入れ室14内の圧力が熱処理油の沸騰によって急激に高くなることを防ぐため、圧力制御装置10は、管路C7に設けられた制御弁V7、及び、管路C9に設けられた制御弁V9に対して、開度が大きくなるように動作制御を行う。これにより、焼入れ室14内の圧力を、管路C7,C16,C9(第五経路)によって連通する膨張タンク18へ逃がすことができ、焼入れ室14の圧力(図4中のP3)が-10kPaG、貯油タンク13の圧力(図4中のP4)が-10kPaGとなる。
【0065】
(焼入れ保持)
圧力制御装置10が、制御弁V2,V4,V8,V11を開状態(全開)とし、制御弁V7,V9(第三制御弁)の開度を調整し、それ以外の制御弁を閉状態とし、前扉12A、中扉12B、及び、焼入れ扉12Cを閉状態とし、第一真空ポンプ16を運転状態とし、第二真空ポンプ17を停止状態とし、油循環ポンプ15を運転状態とする。
【0066】
すなわち、管路C7に設けられた制御弁V7(第三制御弁)の開度を絞るように制御するとともに、管路C9に設けられた制御弁V9(第三制御弁)の開度を絞るように制御することで、膨張タンク18が、焼入れ室14の熱処理油の蒸気による貯油タンク13、焼入れ室14、及び、管路C6,C7,C16等の余剰な圧力上昇を抑える。
【0067】
これにより、焼入れ室14の圧力(図4中のP3)が30kPaG、貯油タンク13の圧力(図4中のP4)が30kPaG、管路C6,C7,C8,C16等の圧力(圧力計P6の測定結果。図4中のP6)が30kPaGとなる。
【0068】
なお、図4の表における各値は、予め設定された圧力の値の一例であるが、当該値は変更してもよい。あるいは、当該値に代えて範囲を設け、圧力制御装置10の各制御によって、圧力計P1~P6の測定結果が当該範囲内となるようにしてもよい。
【0069】
≪作用効果≫
本実施形態では、焼入れ室14に鋼部材Wが設置された状態で熱処理油が供給されるので、焼入れ扉12Cの位置を上方にする必要がなくなり、従来の装置に比べて焼入れ室14を小型化することができる。そして、小型化した焼入れ室14に供給された熱処理油を加圧することで、容易に沸騰させることができる。これによって、焼入れ中に鋼部材Wの周囲に発生する熱処理油の蒸気膜を一斉に除去することができるので、鋼部材Wの硬さを均一にすることができる。
【0070】
また、本実施形態では、貯油タンク13と焼入れ室14との差圧によって焼入れ室14に熱処理油を迅速に供給することができる。
【0071】
また、本実施形態では、焼入れ開始前に第一圧力調整機構20によって搬送室12の圧力を加圧しておくことで、焼入れ室14の圧力上昇によって焼入れ扉12Cから熱処理油が漏れ出ることを防ぐことができる。
【0072】
また、本実施形態では、圧力制御装置10が、焼入れ室14の熱処理油を加圧し、蒸発させる際に、焼入れ室14の圧力が予め設定された値又は範囲内となるように、焼入れ室14と膨張タンク18とを連通させる管路C7、管路C16、管路C9(第五経路)に設けられた制御弁V7と制御弁V9(第三制御弁)の開度を制御し、焼入れ室14内の圧力を膨張タンク18に逃がすことで、余剰な圧力上昇を抑えることができる。
【0073】
===変形例===
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0074】
例えば、上記実施形態では、第一経路(管路C10,C11,C15)と第二経路(管路C11,C15)とが、互いに共通する管路C11,C15を有するものとしているが、第一経路と第二経路とは、互いに共通する管路を有さず、全く別の経路としてもよい。また、上記実施形態では、第三経路(管路C6,C7)と第五経路(管路C7,C16,C9)とが、互いに共通する管路C6,C7を有するものとしているが、第三経路と第五経路とは、互いに共通する管路を有さず、全く別の経路としてもよい。
【0075】
さらに、上記実施形態では、熱処理システム1が、加熱処理及び焼入れ処理を行うものとしたが、焼き戻し処理を更に含むようにしてもよい。また、熱処理システム1が洗浄室、降温均熱室を更に備えるものとし、洗浄処理、均熱処理を更に含むようにしてもよい。
【0076】
さらに、熱処理システム1は、熱処理油の温度を制御する熱交換器、及び、熱処理油を蒸留する蒸留器等を備えるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1:熱処理システム、10:圧力制御装置、12:搬送室、13:貯油タンク、14:焼入れ室、15:油循環ポンプ(第一ポンプ)、16:第一真空ポンプ、17:第二真空ポンプ(第二ポンプ)、18:膨張タンク、19:窒素タンク、20:第一圧力制御機構、21:第二圧力制御機構、C1~C16:管路、V1~V13:制御弁
図1
図2
図3
図4