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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122548
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】積層体、包装材料及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240902BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030144
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】合田 陽香
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮太
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AD01
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB01
3E086BB51
3E086BB85
4F100AK01D
4F100AK04A
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100AK51E
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100CB00E
4F100EH66E
4F100EJ38A
4F100EJ91D
4F100GB15
4F100GB16
4F100JB13D
4F100JD02
4F100JD02E
4F100JJ03
4F100JK01
4F100JK06
4F100JK07
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100JK10
4F100JL10B
4F100JL11
4F100JL12B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】リサイクル適性に優れ、且つ、耐衝撃性に優れた積層体を提供すること。
【解決手段】基材層と、シーラント層と、がこの順で積層された構造を有し、基材層及びシーラント層がポリエチレンを含み、基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800~2000MPaである、積層体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、シーラント層と、がこの順で積層された構造を有し、
前記基材層及び前記シーラント層がポリエチレンを含み、
前記基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800~2000MPaである、積層体。
【請求項2】
前記基材層と前記シーラント層との間に中間層を備え、前記中間層がポリエチレンを含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800MPa未満である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記基材層の前記シーラント層とは反対側に保護層を備える、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記保護層が熱硬化性樹脂を含む、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材層が二軸延伸フィルムである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
前記基材層と前記シーラント層との間に、蒸着層を備える、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
前記基材層と前記シーラント層とが第一の接着剤層を介して積層され、前記第一の接着剤層がウレタン系接着剤を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率と前記シーラント層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差が、23℃において300~1400MPaである、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記基材層と前記中間層とが第一の接着剤層を介して積層され、前記中間層と前記シーラント層とが第二の接着剤層を介して積層され、前記第二の接着剤層がガスバリア性接着剤を含む、請求項2又は3に記載の積層体。
【請求項11】
前記基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率と前記中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差が、23℃において300~1400MPaである、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記シーラント層が白色である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項13】
積層体に占めるポリエチレンの割合が90質量%以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の積層体を含む包装材料。
【請求項15】
スタンディングパウチである、請求項14に記載の包装材料。
【請求項16】
請求項14に記載の包装材料と、前記包装材料に収容された内容物とを備える包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、それを用いた包装材料、及び包装体に関する。より詳しくは、本発明は、材料のリサイクル適性に優れる環境負荷の小さな積層体、それを用いた包装材料及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
包装袋は、包装する内容物の性質、内容物の量、内容物の変質を防ぐための後処理、包装袋を運搬する形態、包装袋を開封する方法、廃棄する方法などによって、さまざまな素材が組み合わせて用いられている。
【0003】
たとえば、積層したフィルムを用いるフレキシブルパッケージの包装袋においては、包装袋の機械的強度を得るためにポリプロピレンやポリエステルなどの二軸延伸フィルムと、包装袋として内容物を封止するためにポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体などのシーラントフィルムとを組み合わせて用いられている。また、内容物の劣化を抑制するため、それらのフィルムにアルミ箔や、エチレンビニルアルコール共重合体を積層することなども行われている。
【0004】
上記の機能分離した各種素材を用いた積層体は、内容物の包装から、輸送、保管、開封などの各過程での適性に重点をおいて設計されたものである。しかしながら、近年の環境問題への意識の高まりから、各種製品の省資源、リサイクル適性などの機能に重点がおかれるようになり、包装袋に用いられる積層体にも同様の機能が求められてきている。一般に、包装材料に含まれる主要な樹脂の割合が90質量%以上であるとリサイクル性が高いと考えられているが、従来の包装材料の多くは複数の樹脂材料や場合により紙、金属材料を含んで構成されており、かつこの基準を満たしていないため、リサイクルされていないのが現状である。
【0005】
そこで、特許文献1には、基材と、接着層と、ヒートシール層とを備えた積層体において、基材及びヒートシール層をポリエチレンから構成することが記載されている。基材及びヒートシール層を同一材料で構成することにより、上記リサイクル性の基準をクリアし易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-55157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の積層体から製袋された包装袋は、例えば輸送時にて外箱や他の包装袋とぶつかった場合、衝撃により破袋して内容物が漏れ出す虞がある。リサイクル適性に優れる従来の包装袋は、このように耐衝撃性の観点において改善の余地があり、実際のところは軽包装の用途に留まるといった課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、リサイクル適性に優れ、且つ、耐衝撃性に優れた積層体、それを用いた包装材料及び包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば以下の[1]~[14]である。
[1]
基材層と、シーラント層と、がこの順で積層された構造を有し、
前記基材層及び前記シーラント層がポリエチレンを含み、
前記基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800~2000MPaである、積層体。
[2]
前記基材層と前記シーラント層との間に中間層を備え、前記中間層がポリエチレンを含む、[1]に記載の積層体。
[3]
前記中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800MPa未満である、[2]に記載の積層体。
[4]
前記基材層の前記シーラント層とは反対側に保護層を備える、[1]~[3]のいずれか一に記載の積層体。
[5]
前記保護層が熱硬化性樹脂を含む、[4]に記載の積層体。
[6]
前記基材層が二軸延伸フィルムである、[1]~[5]のいずれか一に記載の積層体。
[7]
前記基材層と前記シーラント層との間に、蒸着層を備える、[1]~[6]のいずれか一に記載の積層体。
[8]
前記基材層と前記シーラント層とが第一の接着剤層を介して積層され、前記第一の接着剤層がウレタン系接着剤を含む、[1]に記載の積層体。
[9]
前記基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率と前記シーラント層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差が、23℃において300~1400MPaである、[8]に記載の積層体。
[10]
前記基材層と前記中間層とが第一の接着剤層を介して積層され、前記中間層と前記シーラント層とが第二の接着剤層を介して積層され、前記第二の接着剤層がガスバリア性接着剤を含む、[2]又は[3]に記載の積層体。
[11]
前記基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率と前記中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差が、23℃において300~1400MPaである、[10]に記載の積層体。
[12]
前記シーラント層が白色である、[1]~[11]のいずれか一に記載の積層体。
[13]
積層体に占めるポリエチレンの割合が90質量%以上である、[1]~[12]のいずれか一に記載の積層体。
[14]
[1]~[13]のいずれか一に記載の積層体を含む包装材料。
[15]
スタンディングパウチである、[14]に記載の包装材料。
[16]
[14]又は[15]に記載の包装材料と、前記包装材料に収容された内容物とを備える包装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リサイクル適性に優れ、且つ、耐衝撃性に優れた積層体、それを用いた包装材料及び包装体を提供することができる。
すなわち本発明による積層体を製袋してなる包装袋は、輸送時における外箱や他の包装袋とのぶつかりによって発生する屈曲や、揉みや折れ曲がり等によって生じる屈曲に対して優れた耐性(特にピンホール耐性)を有しており、内容物の漏れ出しを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の積層体の一実施形態を示す断面模式図である。
図2】本発明の積層体の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<積層体>
図1は、本発明の積層体の一実施形態を示す断面模式図である。図1に示す積層体1は、基材層10と、第一の接着剤層40と、中間層20と、第二の接着剤層50と、シーラント層30とを備える。
基材層10はその外面10a側に保護層11を有し、中間層20はその一方の面に蒸着層14を有する。
基材層10はその内面10b側に印刷層12を有し、中間層20はその蒸着層14上にガスバリア性被覆層15を備える。以下、各層について説明する。
【0014】
(基材層)
基材層10はポリエチレンを含む層であり、ポリエチレンフィルムから構成される層であってよい。ポリエチレンフィルムは、ポリエチレンを70質量%以上、或いは85質量%以上含むフィルムであってよく、ポリエチレンを100質量%含むフィルムであってもよい。
【0015】
基材層10は、積層体1を用いて包装材料を形成する際に外面となる部分である。但し、図1に示されるように、基材層10の外面は保護層11により保護されていてよい。基材層10の表面には、コロナ処理、大気圧プラズマ処理などの乾式の表面処理により易接着処理を施すことができる。
【0016】
基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率(基材層の引張弾性率)は、23℃において800~2000MPaである。
基材層に用いられるポリエチレンフィルムは、延伸の有無や延伸度合い(延伸倍率)、あるいは樹脂密度によって柔軟性や硬さを調整することができる。硬いポリエチレンフィルムは突刺強度物性に優れるものの、外部からの衝撃による応力が分散されにくく破袋し易い(ピンホールが生じ易い)。また、フィルム内での凝集破壊が起こり易く隣接する層との密着性が低下し易い。一方、柔らかいポリエチレンフィルムはある程度の耐衝撃性を有するものの、衝撃による応力によりフィルムが伸び易く、部分的にフィルム厚みが薄くなることにより破袋が生じる(ピンホールが生じる)場合がある。
一方、上記引張弾性率を有する基材層(ポリエチレンフィルム)であれば、硬すぎず柔らかすぎない適度な柔軟性があり、耐衝撃性に優れる。なお、本技術分野において従来使用されてきたポリエチレンフィルムは、無延伸又は一軸延伸フィルムが一般的である。無延伸フィルムは柔軟で、熱と張力がかかることでフィルムが伸びやすい。一軸延伸フィルムは流れ方向(MD方向)又は幅方向(TD方向)の一方向に延伸されるためポリエチレンの分子配向が揃い、延伸方向は硬いフィルムとなるため、熱と張力がかかることで伸び難い。なお、適度な硬さと柔軟性を有するポリエチレンフィルムは、例えば高密度ポリエチレン樹脂を用いた二軸延伸製膜により製造できるが、製膜性に課題がある。このように、本技術分野において従来使用されてきたポリエチレンフィルムが上記引張弾性率を有することは難しい。
【0017】
フィルムの引張弾性率は以下のとおり測定される。
JIS K7161に準拠して、15mm幅×5cmの長さのサイズを有するフィルム(長さ方向がMD方向)に対し、例えばオリエンテック社テンシロン万能試験機RTC-1250を用いて、チャック間距離5cm、引張速度200mm/minとして23℃にて引張試験を行った際の、引張伸度が0.05%から0.25%のひずみ2点間に対応する応力/ひずみ曲線の傾きを、当該フィルムの引張弾性率とする。
【0018】
基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800MPa以上であることにより、基材層が適度な硬さを有することで伸び難くなり、同引張弾性率が2000MPa以下であることにより、基材層が適度な柔らかさを有することで外部からの衝撃による応力が分散され易くなる。この観点から、同引張弾性率は900MPa以上1800MPa以下であることが好ましく、1000MPa以上1500MPa以下であることがより好ましい。
【0019】
基材層とシーラント層とが第一の接着剤層を介して積層されている場合、基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率とシーラント層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差(基材層の引張弾性率-シーラント層の引張弾性率)が、23℃において300~1400MPaであることが好ましい。
差が300MPa以上であることにより、積層体に荷重がかかった時に両層共に伸びることを抑制し易く、差が1400MPa以下であることにより、両層の密着性が良好となり易く、これらにより積層体の耐衝撃性がより向上する。この観点から、引張弾性率の差は500MPa以上1200MPa以下であることが好ましく、600MPa以上900MPa以下であることがより好ましい。
【0020】
基材層と中間層とが第一の接着剤層を介して積層されている場合、基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率と中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差(基材層の引張弾性率-中間層の引張弾性率)が、23℃において300~1400MPaであることが好ましい。
差が300MPa以上であることにより、積層体に荷重がかかった時に両層共に伸びることを抑制し易く、差が1400MPa以下であることにより、両層の密着性が良好となり易く、これらにより積層体の耐衝撃性がより向上する。この観点から、引張弾性率の差は500MPa以上1200MPa以下であることが好ましく、600MPa以上900MPa以下であることがより好ましい。
【0021】
基材層の引張弾性率は例えば、ポリエチレンフィルムのフィルム製膜方法や延伸方法を調整する、ポリエチレンフィルムに含まれるポリエチレンの種類(分子量や密度)を調整する、多層構造を有するポリエチレンフィルムを用いる等の方法により調整することができるが、引張弾性率の調整方法はそれらに限定されない。
【0022】
基材層10としては、高密度ポリエチレン(密度0.94g/cm以上)からなるフィルムを用いることができる。高密度ポリエチレンフィルムを用いることで、上記引張弾性率を満たし易い。高密度ポリエチレンフィルムは、石油由来からなるものでも、植物由来からなるものでもよく、これらの混合物であってもよい。基材層10の密度は、マイクロトラック・ベル株式会社製の密度測定装置BELPYCNOにより測定される。
【0023】
密度が異なるポリエチレンを共押出法により押出した多層構造のポリエチレンフィルム(例えば高密度ポリエチレン以外のポリエチレン/高密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン以外のポリエチレン構造)や、ポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィンとを共押出法により押出した多層構造のポリエチレンフィルム(例えばポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン構造)を基材層10として用いることも可能である。コア層の表面に特性の異なる(柔軟性のある)スキン層を有するこのような多層構造のポリエチレンフィルムを用いることで、上記引張弾性率を満たし易い。例えば、上記引張弾性率を満たし易い観点から、多層構造を有するポリエチレンフィルムにおけるコア層の割合は70質量%以上であってよく、95質量%以下であってよい。或いは、多層構造を有するポリエチレンフィルムの厚さに対するコア層の厚さの割合は70%以上であってよく、95%以下であってよい。
【0024】
基材層10の厚さは、10μm以上50μm以下であることが好ましく、12μm以上35μm以下であることがより好ましく、20μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
基材層10の厚さを10μm以上とすることにより、積層体1の強度を向上できる。
基材層10の厚さを50μm以下とすることにより、積層体1の加工適性を向上できる。
【0025】
基材層10は、ポリエチレンをTダイ法又はインフレーション法などにより製膜することで作製できる。
Tダイ法により基材層10を作製する場合、ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、3g/10分以上、20g/10分以下であることが好ましい。MFRを3g/10分以上とすることにより、積層体の加工適性を向上することができる。また、MFRを20g/10分以下とすることにより、作製された基材層10が破断してしまうことを防止できる。
【0026】
インフレーション法により基材層10を作製する場合、ポリエチレンのMFRは、0.5g/10分以上、5g/10分以下であることが好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることにより、積層体の加工適性を向上することができる。また、MFRを5g/10分以下とすることにより、製膜性を向上することができる。
【0027】
基材層10を構成するポリエチレンフィルムは、上記引張弾性率を満たし易い観点から、延伸フィルムであってよく、二軸延伸フィルムであってよい。二軸延伸フィルムである場合の延伸方法としては、例えば、逐次二軸延伸法、チューブラー二軸延伸法、同時二軸延伸法等が挙げられる。二軸延伸フィルムは、上記引張弾性率を満たし易い観点から、同時二軸延伸法により延伸されたものであることが好ましい。
【0028】
基材層10を構成するポリエチレンフィルムのヘイズは、配向度が高いとヘイズは低くなり、弾性率は高くなる観点から3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。同ヘイズは、配向が低くなるとヘイズは高くなり、弾性率は低くなる観点から、また視認性を確保する観点から30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。ヘイズはJIS K7136に準拠して日本電色工業株式会社製のヘイズメーターNDH7000により測定される。
【0029】
基材層10として用いられるポリエチレン(例えば高密度ポリエチレン)の融点は、概ね120℃から140℃である。一方、後述するシーラント層30として用いられるポリエチレン(例えば低密度ポリエチレン)の融点は、概ね90℃から120℃である。これら基材層10及びシーラント層30の積層体をヒートシールするために、ヒートシール機の治具であるヒートシールバーは130℃から140℃程度に加熱され、基材層10や後述する中間層20を通してシーラント層30に熱が伝えられ、熱溶着される。
【0030】
(保護層)
保護層11は、製袋や充填密封時にヒートシールする際の不具合を防止し、ヒートシール適性を確保するために設けられる。具体的には、基材層10とヒートシールバーとが接した場合の、シワなどの外観上の不具合や、基材層10の熱溶着によるヒートシールバーへの付着(とられ)の発生を抑制することができる。このような役割から、保護層11は、積層体の最外層として設けられてよい。
【0031】
積層体は、包装する内容物の重量に応じて、厚さが変更される。軽量の内容物を包装する場合には、コストを考慮して薄くし、重量物を充填する場合には、強度を考慮して厚くするのが一般的である。積層体の厚さが増すにつれて、シーラント層のヒートシール面が熱溶融するのに必要な熱量が増加する。このため、保護層11の厚さは、積層体の総厚に比例して変化させることが好ましい。積層体の総厚に対する保護層11の厚さの割合は、0.4%以上、2.0%以下であることが好ましい。この割合が0.4%以上であると、所望の耐熱性が得られやすく、より優れたヒートシール性を得ることができ、2.0%以下であると、保護層11の材料の無駄を抑制できると共に、ヒートシールに必要な熱量の増加を抑制できる。
【0032】
保護層11の厚さは、上述の通り積層体の総厚に応じて調整されるが、耐熱性の向上及びヒートシールに必要な熱量の低減の観点から、例えば、0.1~5.0μmであってよく、0.2~4.0μmであってよく、0.3~2.0μmであってよい。
【0033】
基材層10の外面に設けられた保護層11には、ヒートシール時に例えば140℃に加熱されても軟化、融解、分解などが生じない耐熱性が必要である。そのため、保護層11は、熱硬化性樹脂又は融点160℃以上の樹脂を含むことが好ましい。当該樹脂は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド及びエポキシからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。保護層11は、上述した樹脂又は硬化して上述した樹脂を生成する原料を含むコーティング剤を用いて形成することができる。
【0034】
融点160℃以上の樹脂を用いて保護層11を形成する場合、樹脂の融点は160℃以上であればよいが、より高い耐熱性を得る観点から、融点は180℃以上であってもよく、200℃以上であってもよい。融点が160℃以上の樹脂としては、例えば、EVOH、ポリプロピレン、ナイロン等を挙げることができる。
【0035】
保護層11を形成する手段としては、上述した樹脂又はその原料が水に分散したディスパージョンや、上述した樹脂又はその原料が有機溶剤に溶解した塗液を基材層10に塗布し、乾燥(硬化)させて形成する方法、基材層10を製膜する際に、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどの接着性樹脂を介して共押出し、製膜して形成する方法などが挙げられる。
【0036】
ポリウレタンの例としては、三井化学社製のタケラックW、及びWSシリーズ、宇部興産社製のETERNACOLLシリーズ、DIC社製のハイドランシリーズ、ADEKA社製のアデカボンタイターHUXシリーズなどのディスパージョン、並びに、三井化学社製のタケラックEシリーズ、DIC社製のバーノックシリーズなどの溶剤型の塗液が挙げられる。
【0037】
ポリエステルの例としては、東洋紡社製のバイロナール、東亜合成社製のアロンメルト、ユニチカ社製のエリーテルなどのディスパージョン、並びに、DIC社製のバーノックシリーズなどの溶剤型の塗液が挙げられる。
【0038】
ポリアミドの例としては、ωアミノ酸の組み合わせで合成されるナイロン6やナイロン12、ジアミンとジカルボン酸の組み合わせで合成されるナイロン66などが挙げられる。
【0039】
ポリアミドイミドの例としては、東洋紡社製のバイロマックスシリーズなどが挙げられる。
【0040】
エポキシの例としては、ADEKA社製のアデカニューコートシリーズ、ナガセケムテック社製のデナコールシリーズ、三菱ケミカル社製のjERシリーズなどが挙げられる。
【0041】
コーティング剤を塗布、乾燥(硬化)して保護層11を設ける場合、基材層10と保護層11との密着性を向上させる目的で、リサイクル性を損なわない範囲で、基材層10上に密着付与層を設けてもよい。
【0042】
また、基材層10を製膜する際に、基材層10を形成するポリエチレンと共に接着性樹脂を介して共押出して保護層11を形成する場合、保護層11の材料としては、ポリアミド(ナイロン)を例示できる。この場合、インフレーション法、又はTダイ法などにより、ポリエチレン、マレイン酸変性ポリエチレン、ポリアミドのそれぞれを加熱溶融し、共押出して製膜することができる。
【0043】
(印刷層)
印刷層12は、基材層10において、保護層11が形成される側である外面10a、もしくは、中間層20と積層される側である内面10bに形成することができる。印刷層12(画像)の形成方法は、特に限定されることなく通常のグラビア印刷やフレキソ印刷などにより、それぞれに応じたインキにより形成することができる。インキとしては、溶剤系インキと、水系インキとがあるが、環境面から水系インキを用いることが好ましい。また、基材層10の外面10a若しくは内面10bには、印刷層12の密着性を向上させるために、コロナ処理やプラズマ処理などの表面処理を行ってもよい。
【0044】
(中間層)
中間層20はポリエチレンを含む層であり、例えば、ポリエチレンにより構成された無延伸フィルム又は延伸フィルム(二軸延伸フィルム)であってよい。中間層20の表面には、コロナ処理、大気圧プラズマ処理などの乾式の表面処理により易接着処理を施すことができる。
【0045】
ここで、無延伸ポリエチレンフィルムとは、成膜時に延伸処理が行われず、ランダムに折りたたまれたポリエチレン分子鎖により構成された10~100μm程度の球状の結晶(球晶)が、非結晶性分子で繋ぎあった構造となっているポリエチレンフィルムをいう。無延伸ポリエチレンフィルムは、強い衝撃を受けた場合、球晶が破壊されて、分子鎖が配向して延伸することにより、フィルム自体が破れることを防止できるという性質を有する。そのため、中間層20及びシーラント層30として無延伸ポリエチレンフィルムを積層した積層体で作製された包装体(包装袋を作製し、内容物を充填して密封したもの)は、落袋強度に優れるという特徴がある。
【0046】
中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率は、23℃において800MPa未満であってよい。
【0047】
中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800MPa未満であることにより、中間層が適度な柔らかさを有することで外部からの衝撃による応力が分散され易くなる。この観点から、同引張弾性率は700MPa以下であることが好ましく、650MPa以下であることがより好ましい。同引張弾性率の下限は、中間層が適度な硬さを有する観点から、300MPa以上とすることができる。
【0048】
一方、中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率は、23℃において800~2000MPaであってもよい。
【0049】
中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率が、23℃において800MPa以上であることにより、中間層が適度な硬さを有することで伸び難くなり、同引張弾性率が2000MPa以下であることにより、中間層が適度な柔らかさを有することで外部からの衝撃による応力が分散され易くなる。この観点から、同引張弾性率は900MPa以上1800MPa以下であることが好ましく、1000MPa以上1500MPa以下であることがより好ましい。
【0050】
中間層20の引張弾性率は、上記基材層10と同様にして種々の方法により調整することができる。
【0051】
中間層20としては、高密度ポリエチレン(密度0.94g/cm以上)からなるフィルムを用いることができる。高密度ポリエチレンフィルムを用いることで、上記引張弾性率を満たし易い(例えば延伸方法等によりいずれの引張弾性率範囲とするか調整することができる)。高密度ポリエチレンフィルムは、石油由来からなるものでも、植物由来からなるものでもよく、これらの混合物であってもよい。中間層20としては、基材層10と同様に、密度が異なるポリエチレンを共押出法により押出した多層構造の無延伸ポリエチレンフィルム等を用いることも可能である。
【0052】
中間層20の厚さは、9μm以上50μm以下であることが好ましく、12μm以上35μm以下であることが好ましく、12μm以上30μm以下であることがより好ましい。中間層20の厚さを9μm以上とすることにより、積層体の強度及び耐熱性を向上できる。中間層20の厚さを50μm以下とすることにより、積層体の加工適性を向上できる。
【0053】
中間層20は、ポリエチレンをTダイ法又はインフレーション法などにより製膜することで作製できる。Tダイ法により中間層20を作製する場合、ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、3g/10分以上、20g/10分以下であることが好ましい。MFRを3g/10分以上とすることにより、積層体の加工適性を向上することができる。また、MFRを20g/10分以下とすることにより、作製されたフィルムが破断してしまうことを防止できる。
【0054】
インフレーション法により中間層20を作製する場合、ポリエチレンのMFRは、0.5g/10分以上、5g/10分以下であることが好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることにより、積層体の加工適性を向上することができる。また、MFRを5g/10分以下とすることにより、製膜性を向上することができる。
【0055】
中間層20を構成するポリエチレンフィルムのヘイズは、配向度が高いとヘイズは低くなり、弾性率は高くなる観点から3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。同ヘイズは、配向が低くなるとヘイズは高くなり、弾性率は低くなる観点から、また視認性を確保する観点から30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0056】
(蒸着層)
積層体1において、中間層20の少なくとも一方の面には、蒸着層14が形成されていてよい。本実施形態において、蒸着層14は、中間層20の第二の接着剤層50に対向する面に形成されているが、反対面に形成してもよい。蒸着層14は、積層体1に酸素バリア性及び水蒸気バリア性を付与する。
【0057】
蒸着層14の構成としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化錫等の金属酸化物からなる蒸着層が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択されてよい。さらに、コストを考慮すると、酸化アルミニウム、酸化珪素から選択される。さらに、加工時に引っ張り延伸性に優れる観点から、酸化珪素を用いた層とすることがより好ましい。蒸着層14を金属酸化物からなるバリア膜とすることにより、積層体1のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0058】
金属酸化物からなる蒸着層は、透明性を有するため、金属からなる蒸着層と比べて、積層体からなる包装材料を手にする使用者に、金属箔が使用されているとの誤認を生じさせにくいという利点がある。
【0059】
酸化アルミニウムからなる蒸着層の膜厚は、5nm以上30nm以下であることが好ましい。膜厚が5nm以上であると、十分なガスバリア性を得ることができる。また、膜厚が30nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、ガスバリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が30nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、蒸着層の膜厚は、7nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0060】
酸化珪素からなる蒸着層の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm以上であると、十分なガスバリア性を得ることができる。また、膜厚が50nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、ガスバリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が50nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、蒸着層の膜厚は、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0061】
蒸着層14は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。ただし、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0063】
中間層20の蒸着層14が形成される側の面に、公知のアンカーコート剤を用いて、アンカーコート層を形成してもよい。これにより、金属酸化物からなる蒸着層の密着性を向上させることができる。アンカーコート剤としては、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂等を例示できる。耐熱性及び層間接着強度の観点からは、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0064】
さらに、第一の接着剤層40、第二の接着剤層50、蒸着層14、及び上述のアンカーコート層などとの密着性を向上する目的で、中間層20の対応する面にコロナ処理やプラズマ処理などの表面処理が施されてもよい。
【0065】
アンカーコート剤として、ポリビニルアルコール系樹脂を用いてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。
【0066】
アンカーコート剤としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、アンカーコート層の形成方法としては、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いた塗布や、多層押出等が挙げられる。多層押出の場合は、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン等の接着性樹脂を介して積層してよい。
【0067】
(ガスバリア性被覆層)
ガスバリア性の向上及び蒸着層14の保護を目的として、蒸着層14上に、ガスバリア性被覆層15を設けてもよい。特に限定されるものではないが、ガスバリア性被覆層15は、水酸基含有高分子化合物を含んでよく、具体的には、水酸基含有高分子化合物及びその加水分解物の少なくともいずれかと、金属アルコキシド、シランカップリング剤及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する組成物の加熱乾燥物であってよい。
【0068】
ガスバリア性被覆層15は、例えば、水酸基含有高分子化合物と、金属アルコキシド及び/又はシランカップリング剤とを、水或いは水/アルコール混合液に添加して得られる組成物(以下、オーバーコート剤という)を用いて形成することができる。オーバーコート剤は、例えば、水溶性高分子である水酸基含有高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液と、金属アルコキシド及び/又はシランカップリング剤とを直接、或いは予めこれらを加水分解させるなどの処理を行ったものとを混合して調製することができる。
【0069】
水酸基含有高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール(PVA)をガスバリア性被覆層のオーバーコート剤に用いた場合、ガスバリア性が特に優れるので好ましい。
【0070】
金属アルコキシドとしては、下記一般式(I)で表わされる化合物が挙げられる。
M(OR(Rn-m …(I)
上記一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~8の1価の有機基であり、メチル基、エチル基等のアルキル基であることが好ましい。MはSi、Ti、Al、Zr等のn価の金属原子を示す。mは1~nの整数である。なお、R又はRが複数存在する場合、R同士又はR同士は同一でも異なっていてもよい。
【0071】
金属アルコキシドとしては、具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン及びトリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0072】
シランカップリング剤としては、下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
Si(OR11(R123-p13 …(II)
上記一般式(II)中、R11はメチル基、エチル基等のアルキル基を示し、R12はアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アクリロキシ基で置換されたアルキル基、又は、メタクリロキシ基で置換されたアルキル基等の1価の有機基を示し、R13は1価の有機官能基を示し、pは1~3の整数を示す。なお、R11又はR12が複数存在する場合、R11同士又はR12同士は同一でも異なっていてもよい。R13で示される1価の有機官能基としては、グリシジルオキシ基、エポキシ基、メルカプト基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、又は、イソシアネート基を含有する1価の有機官能基が挙げられる。
【0073】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0074】
また、シランカップリング剤は、上記一般式(II)で表される化合物が重合した多量体であってもよい。多量体としては三量体が好ましく、より好ましくは1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートである。これは、3-イソシアネートアルキルアルコキシシランの縮重合体である。この1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、イソシア部には化学的反応性はなくなるが、ヌレート部の極性により反応性は確保されることが知られている。一般的には、3-イソシアネートアルキルアルコキシランと同様に接着剤などに添加され、接着性向上剤として知られている。よって1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートを、水酸基含有高分子化合物に添加することにより、水素結合によりガスバリア性被覆層の耐水性を向上させることができる。3-イソシアネートアルキルアルコキシランは反応性が高く、液安定性が低いのに対し、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、ヌレート部はその極性により水溶性ではないが、水系溶液中に分散しやすく、液粘度を安定に保つことができる。また、耐水性能は3-イソシアネートアルキルアルコキシランと1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートとは同等である。
【0075】
1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランの熱縮合により製造されるものもあり、原料の3-イソシアネートプロピルアルコキシシランが含まれる場合もあるが、特に問題はない。より好ましくは、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートであり、さらに好ましくは1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである。このメトキシ基は加水分解速度が速く、またプロピル基を含むものは比較的安価に入手し得ることから1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートは実用上有利である。
【0076】
オーバーコート剤における金属アルコキシドの量は、蒸着層との密着性及びガスバリア性維持の観点から、水酸基含有高分子化合物1質量部に対して1~4質量部とすることができ、2~3質量部であってよい。同様に、シランカップリング剤の量は、水酸基含有高分子化合物1質量部に対して0.01~1質量部とすることができ、0.1~0.5質量部であってよい。金属アルコキシドとしてシラン化合物(アルコキシシラン)を用いる場合、オーバーコート剤におけるシラン化合物(金属アルコキシドとシランカップリング剤)の量は、水酸基含有高分子化合物1質量部に対して1~4質量部とすることができ、2~3質量部であってよい。
【0077】
オーバーコート剤には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、あるいは、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。
【0078】
オーバーコート剤は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により塗布することができる。オーバーコート剤を塗布してなる塗膜は、例えば、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、高周波照射法、赤外線照射法、UV照射法、又はそれらの組み合わせにより乾燥させることができる。
【0079】
上記塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば、温度50~150℃とすることができ、温度70~100℃とすることが好ましい。乾燥時の温度を上記範囲内とすることで、蒸着層やガスバリア性被覆層にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたバリア性を発現することができる。
【0080】
ガスバリア性被覆層は、水酸基含有高分子化合物(例えばポリビニルアルコール系樹脂)及びシラン化合物を含むオーバーコート剤を用いて形成されてよい。オーバーコート剤には、必要に応じて酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を加えてよい。
【0081】
シラン化合物としては、シランカップリング剤、ポリシラザン、シロキサン等が挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0082】
ガスバリア性被覆層の厚さは、50~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましい。ガスバリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分な柔軟性を保持できる傾向がある。
【0083】
(シーラント層)
シーラント層30は、ポリエチレンにより構成されており、積層体1を用いて包装袋等の包装材料を形成する際に熱融着(ヒートシール)により接合される。シーラント層30を構成するポリエチレンは、ヒートシール性という観点からは、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)及び超低密度ポリエチレン(VLDPE)が好ましい。また、環境負荷の観点から、バイオマス由来のポリエチレン又はリサイクルされたポリエチレンがシーラント層30に使用されることが好ましい。シーラント層30は、無延伸ポリエチレンフィルムで構成されていてよい。
【0084】
低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm以上0.925g/cm未満のポリエチレンを使用することができる。直鎖状低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm以上0.925g/cm未満のポリエチレンを使用することができる。超低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm未満のポリエチレンを使用することができる。シーラント層30には、積層体1の特性を損なわない範囲において、エチレンとその他のモノマーとの共重合体を使用することができる。
【0085】
シーラント層30の厚さは、作製される包装材料に充填する内容物の重量等に応じて適宜変更できる。例えば、1g以上、200g以下の内容物を充填する包装袋を作製する場合、シーラント層30の厚さは、20μm以上、60μm以下であることが好ましい。厚さを20μm以上とすることにより、充填された内容物が、シーラント層30の破損により漏れてしまうことを防止できる。厚さを60μm以下とすることにより、積層体1の加工適性を向上できる。
【0086】
他の例として、50g以上、2000g以下の内容物を充填するスタンディングパウチを作製する場合、シーラント層30の厚さは、50μm以上、200μm以下であることが好ましい。厚さを50μm以上とすることにより、充填された内容物が、シーラント層30の破損により漏れてしまうことを防止することができる。また、厚さを200μm以下、好ましくは150μm以下とすることにより、積層体1の加工適性を向上できる。
【0087】
シーラント層30の引張弾性率は、上記基材層10と同様にして種々の方法により調整することができる。
【0088】
上記基材層10、上記中間層20、上記シーラント層30に用いるポリエチレンには、酸化防止剤、帯電防止剤、造核剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
【0089】
シーラント層30は、透明であってもよく、不透明であってもよい。後者の場合、シーラント層30は白色であることが好ましい。シーラント層30が透明である積層体は、包装材料として使用した時に内容物を視認し易い。シーラント層30が不透明である積層体は、包装材料として使用した時に、印刷層が表示する画像の視認性が向上し易い。
【0090】
(接着剤層)
第一の接着剤層40は、少なくとも1種類の接着剤を含有した層であり、基材層10と中間層20との間に設けられて両者を接合する。中間層20を用いない場合は、第一の接着剤層40は、基材層10とシーラント層30との間に設けられて両者を接合してもよい。第二の接着剤層50は、少なくとも1種類の接着剤を含有した層であり、中間層20とシーラント層30との間に設けられて両者を接合する。例えば、1液硬化型、もしくは2液硬化型ウレタン系接着剤等のいずれの接着剤も第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50に使用できる。また、溶剤型接着剤及び無溶剤型接着剤のいずれも、第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50に使用できる。これらの接着剤は、バリア性をさらに高める目的で、層状無機化合物を含んでもよい。
【0091】
第一の接着剤層40は、基材層に印刷層を設ける場合にラミネート時の印刷画像の寸法変化を抑制する観点から、無溶剤型接着剤を用いて形成されてよい。無溶剤型接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられるが、耐衝撃性の観点から、ウレタン系接着剤が好ましく、2液硬化型のウレタン系接着剤が特に好ましい。
【0092】
2液硬化型のウレタン系無溶剤型接着剤は、主剤であるポリオール成分と、硬化剤であるポリイソシアネート成分とを含む。
【0093】
ポリオール成分は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリウレタンポリオールからなる群から選択される1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0094】
ポリエステルポリオールは、例えば、多価カルボン酸、多価カルボン酸のジアルキルエステル及びこれらの混合物と、グリコール系溶媒とのエステル反応生成物であってよい。多価カルボン酸は、例えば、コハク酸、グルタール酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸であってよい。グリコール系溶媒は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールであってよい。
【0095】
ポリエーテルポリオールは、例えば、オキシラン化合物と、低分子ポリオールとの重合体であってよい。オキシラン化合物は、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランであってよい。低分子ポリオールは、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンであってよい。
【0096】
ポリエーテルエステルポリオールは、例えば、多価カルボン酸、多価カルボン酸のジアルキルエステル及びこれらの混合物と、ポリエーテルポリオールとの反応によって得られたものであってよい。
【0097】
ポリウレタンポリオールは、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールと、ポリイソシアネート単量体との反応生成物であってよい。
【0098】
ポリイソシアネート成分は、脂肪族系ポリイソシアネート、芳香族系ポリイソシアネート、及び、それらの混合物であってよい。
【0099】
脂肪族系ポリイソシアネートは、例えば、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体、ポリイソシアネート末端プレポリマーであってよい。ポリイソシアネート単量体は、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートであってよい。ポリイソシアネート誘導体は、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートであってよい。
【0100】
芳香族系ポリイソシアネートは、例えば、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体、ポリイソシアネート末端プレポリマーであってよい。ポリイソシアネート単量体は、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートであってよい。ポリイソシアネート誘導体は、例えば、ポリイソシアネート単量体から誘導されたイソシアヌレート体であってよい。ポリイソシアネート末端プレポリマーは、ポリイソシアネート単量体と、ポリプロピレングリコールなどの2官能ポリオール化合物との反応で得られる末端イソシアネート基含有の2官能ポリイシシアネートであってよい。また、ポリイソシアネート末端プレポリマーは、ポリイソシアネート単量体と、トリメチロールプロパンなどの3官能以上のポリオール化合物との反応により得られる末端イソシアネート基含有の多官能ポリイソシアネートであってよい。
【0101】
第二の接着剤層50は、内容物への耐性の観点から、溶剤型接着剤を用いて形成されてよい。溶剤型接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられるが、耐衝撃性の観点から、ウレタン系接着剤が好ましく、2液硬化型のウレタン系接着剤が特に好ましい。溶剤型接着剤に用いられる溶剤としては特に制限されないが、例えば酢酸エチル、メタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、エタノール等が挙げられる。
【0102】
各接着剤層の塗工量(単位面積当たりの重量)は、0.5g/m以上3.0g/m以下が好ましく、1.0g/m以上2.0g/m以下がより好ましい。接着剤層の塗工量が0.5g/m以上であれば、層間でのデラミネーションの抑制効果を高められる。接着剤層の塗工量が3.0g/m以下であれば、積層体の加工時において巻きズレが生じることを抑制できると共に、積層体の外観品質を良好なものとすることが可能であり、加えて、適正なラミネート強度が得られる。
【0103】
接着剤は、硬化後にガスバリア性を発現し得る接着剤(ガスバリア性接着剤)であってもよい。すなわち、接着剤層はガスバリア性接着剤を含んでよく、ガスバリア性接着剤の硬化物であると言ってもよい。特に、ガスバリア性を発現する接着剤で蒸着層に接触する接着剤層を形成すると、蒸着層のクラック発生によるガスバリア性の低下をさらに抑制することが可能である。これにより、積層体1のガスバリア性能をさらに向上できる。ガスバリア性接着剤としては、エポキシ系接着剤、ポリエステル・ポリウレタン系接着剤、ポリアミン系接着剤等が挙げられる。具体例としては、三菱ガス化学社製の「マクシーブ」、DIC社製の「Paslim」等が挙げられる。
【0104】
例えば、積層体が2層(基材層及びシーラント層)である場合、両層の接着には無溶剤型及び溶剤型のいずれの接着剤を使用してもよい。内容物への耐性やバリア性が必要な場合は、溶剤型の接着剤やガスバリア接着剤を使用することができる。
例えば、積層体が3層(基材層、中間層及びシーラント層)であるの場合、第一の接着剤層(基材層と中間層の間)には無溶剤型接着剤を、第二の接着剤層(中間層とシーラント層の間)には溶剤型接着剤を使用することができる。
【0105】
第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50の厚さは、0.5μm以上6μm以下であることが好ましく、0.8μm以上5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上4.5μm以下であることがさらに好ましい。第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50の厚さを0.5μm以上とすることにより、第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50の接着性を向上することができる。第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50の厚さを6μm以下とすることにより、積層体1の加工適性を向上することができる。
【0106】
第一の接着剤層40及び第二の接着剤層50は、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法及びトランスファーロールコート法などの公知の各種方法により形成できる。
【0107】
上記のように構成された本実施形態の積層体1は、基材層10、中間層20、及びシーラント層30がポリエチレンで構成されていることにより、積層体1に占めるポリエチレンの割合が90質量%以上となっている。これにより、積層体1は、高いリサイクル性を有する。基材層10、中間層20、及びシーラント層30がいずれもポリエチレンのみからなる場合、積層体1に占めるポリエチレンの割合(質量%)は、下記式(1)により算出できる。
(基材層10の質量+中間層20の質量+シーラント層30の質量)/積層体1全体の質量×100 …(1)
【0108】
<包装材料>
シーラント層30を対向させつつ1枚の積層体1を折り曲げたり、シーラント層30を対向させつつ2枚の積層体1を重ねたりした状態で、内容物の充填部を残して周縁部のシーラント層30をヒートシールにより接合すると、積層体1からなる包装材料(包装袋)を形成できる。折り曲げた底フィルムを挟みつつ上記の様な接合を行うことにより、包装材料としてスタンディングパウチを形成できる。その他、ピロー包装、四方シール、三方シール、ガゼット袋など、各種包装袋として用いることができる。このように、積層体1は、各種包装材料に適用できる。
【0109】
<包装体>
包装体は、上記の包装材料と、包装材料に収容された内容物とを備える。上記の積層体から包装袋を作製し、内容物を充填して密封したものは、外部からの衝撃に強く内容物が漏出し難い。内容物としては、例えば食品系では液体調味料、飲料、ゼリー等が挙げられ、非食品系では洗剤、シャンプー、コンディショナー、化粧水、乳液、除菌液等が挙げられる。
【0110】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、積層体は、印刷層、中間層、蒸着層及びガスバリア性被覆層のうちの一層以上を備えていなくてもよい。積層体が中間層を備えない場合、第二の接着剤層は不要であり、蒸着層は基材層上に設けられてよい。また、積層体がガスバリア性被覆層を備えない場合、積層体は図2に示すものであってもよい。
【0111】
図2に示す積層体2は、積層体1からガスバリア性被覆層15を除いたものである。積層体2では、ガスバリア性被覆層15を除く代わりに、硬化後にガスバリア性を発現し得る接着剤(上述したガスバリア性接着剤)を用いて形成された第二の接着剤層60を備える。これにより、蒸着層14のクラック発生によるガスバリア性の低下を抑制することが可能である。
【実施例0112】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0113】
(基材層の準備)
各例で使用した基材層の物性については、表1にまとめて示す。なお、各層の層構成(積層順)は表1に示すとおりである。
【0114】
(アンカーコート剤の調製)
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することでアンカーコート剤を調製した。
【0115】
(オーバーコート剤の調製)
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ70/20/10の質量比で混合することで、オーバーコート剤を調製した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC)17.9gとメタノール10gに0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌して加水分解させた固形分5質量%(SiO換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水/メタノール溶液(水:メタノールの質量比は95:5)。
C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0116】
(中間フィルムAの作製)
中間層として両面にコロナ処理を施した厚さ32μmの無延伸ポリエチレンフィルム(インフレーション法で製膜された5層からなるフィルム、平均密度0.950g/cm)を準備した。各例で使用した中間フィルムの物性については、表1にまとめて示す。
【0117】
(中間フィルムBの作製)
中間フィルムAの一方の面に上述したアンカーコート剤をグラビアコート法により塗布、乾燥し、厚さ0.1μmのアンカーコート層を設けた。次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、酸化珪素からなる厚さ50nmの透明な蒸着層をアンカーコート層上に形成した。蒸着層のO/Si比は、蒸着材料種を調整することにより1.8とした。蒸着層の上に上述したオーバーコート剤をグラビアコート法により塗布して乾燥し、ガスバリア機能を有する厚さ0.3μmのガスバリア性被覆層(オーバーコート層)を形成した。以上により、酸化珪素からなる蒸着層が形成された中間フィルムBを得た。
【0118】
(中間フィルムCの作製)
ガスバリア性被覆層を形成しなかったこと以外は、中間フィルムBと同様にして中間フィルムCを得た。
【0119】
(保護層形成用塗布液の調製)
ポリウレタンからなる保護層を形成するための塗布液として、タケラックW-5030(三井化学社製)と、硬化剤としてタケネートWD-725(三井化学社製)とを質量比9:1で混合し、不揮発成分が5質量%となるように溶媒(水/2-プロパノール(IPA)=9:1(質量比))で希釈した塗布液を用意した。
【0120】
(無溶剤型接着剤の調製)
DICグラフィックス社製のディックドライ2K-SF-220A 100質量部に対し、DICグラフィックス社製のディックドライHA-233B 85質量部を40℃で加温しながら混合して、無溶剤型接着剤を調製した。
【0121】
(溶剤型接着剤Aの調製)
三井化学社製のタケラックA525を100質量部に対し、三井化学社製のタケネートA52を11質量部及び酢酸エチル84質量部を混合して、ウレタン系接着剤である溶剤型接着剤Aを調製した。
【0122】
(溶剤型接着剤B(ガスバリア性接着剤)の調製)
酢酸エチルとメタノールとを質量比1:1で混合した溶媒23質量部に、三菱ガス化学社製のマクシーブC93T 16質量部と、三菱ガス化学社製のマクシーブM-100 5質量部とを混合して、ガスバリア性接着剤である溶剤型接着剤Bを調製した。
【0123】
(実施例1)
基材層として、片面がコロナ処理された厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンフィルム(両表面にPP層を備えるHDPEフィルムであって、PEの含有割合が88質量%かつPE層の厚さの割合が88%)を準備した。基材層の内面側のコロナ処理面に、ウレタン系インキを使用してグラビア印刷法により印刷層(厚さ1μm)を形成した。
【0124】
次に、無溶剤型接着剤を用いたドライラミネート法により、基材層の印刷層が形成された面と、シーラント層とを接着した。該接着剤層を第一の接着剤層とした。第一の接着剤層の厚さは1.8μmであった。
シーラント層としては、厚さ120μmの片面コロナ処理済無延伸ポリエチレンフィルム(LLDPE)を準備した。以上により積層体を得た。
【0125】
(実施例2)
基材層として、片面がコロナ処理された厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンフィルム(両表面にPP層を備えるHDPEフィルムであって、PEの含有割合が88質量%かつPE層の厚さの割合が88%)を準備した。基材層の内面側のコロナ処理面に、ウレタン系インキを使用してグラビア印刷法により印刷層(厚さ1μm)を形成した。
【0126】
次に、無溶剤型接着剤を用いたドライラミネート法により、基材層の印刷層が形成された面と、中間フィルムAとを接着した。該接着剤層を第一の接着剤層とした。第一の接着剤層の厚さは1.8μmであった。
【0127】
シーラント層として、厚さ120μmの片面コロナ処理済無延伸ポリエチレンフィルム(LLDPE)を準備した。第二の接着剤層として溶剤型接着剤Aを用いたドライラミネート法により、中間フィルムAと、シーラント層のコロナ処理面とを接合した。第二の接着剤層の厚さは2.1μmであった。以上により積層体を得た。
【0128】
(実施例3)
中間フィルムAに代えて中間フィルムBを用いたこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0129】
(実施例4)
中間フィルムBに代えて中間フィルムCを用いたこと、溶剤型接着剤Aに代えてガスバリア性接着剤である溶剤型接着剤Bを用いたこと以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0130】
(実施例5)
基材層の外面側のコロナ処理面に、上述した保護層形成用塗布液をグラビアコート法により塗布して乾燥・硬化し、厚さ0.5μmの保護層を形成した。このこと以外は、実施例4と同様にして積層体を得た。
【0131】
(比較例1)
基材層として、片面がコロナ処理された厚さ25μmの一軸延伸ポリエチレンフィルム(東京インキ社製SMKUQ,厚さ25μm、密度0.950g/cm)を準備した。このこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0132】
(比較例2)
基材層として、片面がコロナ処理された厚さ30μmの無延伸ポリエチレンフィルム(タマポリ社製HS31、厚さ30μm、密度0.94g/cm)を準備した。このこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0133】
(比較例3)
基材層として、片面がコロナ処理された厚さ25μmの一軸延伸ポリエチレンフィルム(東京インキ社製SMKUQ,厚さ25μm、密度0.950g/cm)を準備した。このこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0134】
(比較例4)
基材層として、片面がコロナ処理された厚さ30μmの無延伸ポリエチレンフィルム(タマポリ社製HS31、厚さ30μm、密度0.94g/cm)を準備した。このこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0135】
<評価>
各例の積層体に対し、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0136】
(リサイクル性)
上記式(1)に基づき、各例の積層体に占めるポリエチレンの割合(質量%)を算出した。いずれの例もポリエチレンの含有割合が90質量%以上であった。
【0137】
(引張弾性率の差)
基材層とシーラント層とが第一の接着剤層を介して積層されている場合は、基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率とシーラント層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差(基材層の引張弾性率-シーラント層の引張弾性率)を、基材層と中間層とが第一の接着剤層を介して積層されている場合は、基材層の流れ(MD)方向における引張弾性率と中間層の流れ(MD)方向における引張弾性率との差(基材層の引張弾性率-中間層の引張弾性率)を、それぞれ算出した。
【0138】
(耐熱性の評価)
積層体を10cm角に切り出してなる試料を、シーラント層が内側になるように二つ折りした。次に、ヒートシールテスターの下面シール温度を30℃に設定するとともに、上面シール温度を170℃に設定して、二つ折りした試料へ0.2MPaの圧力を1秒間加えた。そして、ヒートシールバーを当てた領域において二つ折りした試料の上面の成分がヒートシールバーに付着しているか観察し、下記基準により耐熱性を評価した。
A:試料上面の成分がヒートシールバーへ付着しなかった。
B:試料上面の成分がヒートシールバーへ付着した。
【0139】
(視認性の評価)
印刷層が表示するパターンを基材層側から目視により観察し、下記基準により視認性を評価した。
A:印刷層が表示するパターンを鮮明に確認できた。
B:印刷層が表示するパターンがぼやけて不鮮明であった。
【0140】
(ガスバリア性の評価)
積層体を、30℃、相対湿度70%における酸素透過速度(Oxygen Transmission Rate、OTR)を測定した。この測定は、JIS K-7126、B法に準拠して行った。そして、酸素透過速度を下記基準へ参照して、ガスバリア性を評価した。
A:OTRが10cc/m・day・atm未満であった。
B:OTRが10cc/m・day・atm以上であった。
【0141】
(密着性)
各例の積層体から15mm巾短冊状試験片を切り出し、JIS Z1707に準拠してオリエンテック社製のテンシロン万能試験機RTC-1250を用いて、基材層と、中間層又はシーラント層との剥離強度を測定した。測定は、T型剥離で、常態(Dry)で行った。
A:剥離強度が2N/15mm以上であった。
B:剥離強度が2N/15mm未満であった。
【0142】
(突き刺し強度の評価)
各例の積層体を適度なサイズに切り出し、JIS Z1707に準拠してオリエンテック社製のテンシロン万能試験機RTC-1250を用いて、積層体の突き刺し強度を測定した。
【0143】
(ダートインパクト試験)
各例の積層体を200mm×300mmサイズに切り出し、JIS K7124-1 A法に準拠してテスター産業株式会社製のダートインパクトテスター IM-302を用いて、階段法に則って試験を実施し、衝撃破壊質量(g)を測定・算出した。
【0144】
(ゲルボフレックステスト(GFテスト))
テスター産業株式会社製のゲルボフレックステスター(プラスチックフィルムの耐ピンホール性を評価する、繰り返し局部屈曲疲労試験装置。)を使用し、各例の積層体に対し室温(23℃)で1500回屈曲を行なった。屈曲後の積層体を台紙に貼って液状のピンホールチェッカーを塗布し、台紙へのチェッカーの染み出しを確認することでピンホールの個数を数えた。
A:ピンホールが10個以下であった。
B:ピンホールが11個以上であった。
【0145】
(落下試験)
各例の積層体を用いて高さ240mm、幅160mm、底折込40mmの自立性包装袋を作製した。包装袋に水を800mL封入して、高さ120cmの位置から10回落下させ、破袋の有無を確認した。そして以下の基準で評価した。
〇:10回落下させても破袋しなかった。
×:10回落下させるまでに破袋した(括弧内は破袋時の落下回数)。
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示されるように、実施例及び比較例の全てが高いリサイクル性を有しているものの、基材層が所定の引張弾性率を有する実施例では耐衝撃性が十分であり、基材層が所定の引張弾性率を有しない比較例では耐衝撃性が不十分であった。
【符号の説明】
【0148】
1,2…積層体、10…基材層、10a…基材層外面、10b…基材層内面、11…保護層、12…印刷層、14…蒸着層、15…ガスバリア性被覆層、20…中間層、30…シーラント層、40…第一の接着剤層、50,60…第二の接着剤層。
図1
図2