(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122552
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20240902BHJP
C10M 135/10 20060101ALI20240902BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240902BHJP
F16C 33/44 20060101ALI20240902BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240902BHJP
C10M 159/12 20060101ALN20240902BHJP
C10M 129/42 20060101ALN20240902BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20240902BHJP
C10M 133/04 20060101ALN20240902BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20240902BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240902BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240902BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240902BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240902BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M135/10
F16C19/06
F16C33/44
F16C33/66 Z
C10M159/12
C10M129/42
C10M115/08
C10M133/04
C10N10:02
C10N30:08
C10N30:06
C10N50:10
C10N40:02
C10N40:00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030148
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 佑介
(72)【発明者】
【氏名】北島 啄也
(72)【発明者】
【氏名】滝本 達也
【テーマコード(参考)】
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA50
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA63
3J701EA70
3J701XE03
3J701XE33
3J701XE44
3J701XE50
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB32A
4H104BB34A
4H104BE02R
4H104BE13B
4H104BG06R
4H104CA04A
4H104DB01C
4H104FA01
4H104LA03
4H104LA04
4H104PA01
4H104PA39
4H104QA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特定のグリース組成物を封入し、かつ、特定の保持器を有する転がり軸受であり、高温環境下においても寿命特性に優れる転がり軸受、並びに該軸受を内蔵するモータを提供すること。
【解決手段】内輪11と、内輪の外周側に内輪と同軸に配置された外輪12と、内輪と外輪との間に配置される複数の転動体13と、転動体を保持する保持器14と、内輪と外輪との間に保持されるグリース組成物を含み、グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、イオン液体と、セバシン酸2ナトリウム塩を含み、グリース組成物は、膜厚0.5mmでせん断歪み1%、周波数1Hzの条件で測定した25℃における貯蔵弾性率が2,400Pa以上であり、保持器は、特定の樹脂から構成される樹脂製冠形保持器である転がり軸受、転がり軸受を備えているモータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
前記内輪の外周側に前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、
前記転動体を保持する保持器と、
前記内輪と前記外輪との間に保持されるグリース組成物を含み、
前記グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、イオン液体と、セバシン酸2ナトリウム塩を含み、
前記グリース組成物は、回転式レオメータによる動的粘弾性測定において、膜厚0.5mmでせん断歪み1%、周波数1Hzの条件で測定した25℃における貯蔵弾性率が2,400Pa以上であり、
前記保持器は、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)、ポリアミド46(PA46)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる群から選択される樹脂から構成される樹脂製冠形保持器である、
転がり軸受。
【請求項2】
前記イオン液体が、
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([THTDP][TFSI])である、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記増ちょう剤がウレア系増ちょう剤であって、該ウレア系増ちょう剤が、下記一般式(1)で表されるジウレア化合物を含む、
請求項1に記載の転がり軸受。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3・・・(1)
(式中、R1及びR3は、夫々独立して、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基、又は一価の芳香族炭化水素基を表し、且つ、R1及びR3のうち少なくとも一方は、一価の脂肪族炭化水素基又は一価の脂環式炭化水素基を表し、
R2は、二価の芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち何れか一項に記載の転がり軸受を備えているモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物が封入されている転がり軸受及び該転がり軸受を備えたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
サーバー用のファン等に使用される小型モータは、近年、内蔵される軸受周辺の温度が100℃超になるような状況で長時間安定した使用に耐え得る特性が求められている。これらモータに内蔵される軸受や、これら部品の動作や装置の駆動を円滑にするための潤滑を担うグリースにおいても、こうした高温環境下における長時間の耐久性、そして信頼性が求められる。
例えば低摩擦、低粘化を測り、高温耐久性の向上を図ったグリース組成物として、イオン液体を含む基油と、フッ素系の増ちょう剤と腐食添加剤を含むグリース組成物及びこれを封入した転がり軸受が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
産業の発達に伴い、モータに内蔵され、100℃を超える高温下で使用される転がり軸受及びグリースには、回転不良の抑制だけでなく、低トルクで低消費電力実現への要望がある。またファンモータ等では、性能の向上のためモータの回転数がさらに上昇し、高温・高速回転環境での使用が想定されるだけでなく、要求寿命も極めて長くなっている。
【0005】
本発明は、弾性的な挙動を示し、また樹脂及び金属に対して優れた潤滑特性を発揮する特定のグリース組成物を封入し、かつ、特定の保持器を有する転がり軸受を提供すること、100℃を超えるような高温下においても寿命特性に優れる転がり軸受並びに該軸受を内蔵するモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、転がり軸受であって、内輪と、
前記内輪の外周側に前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、
前記転動体を保持する保持器と、
前記内輪と前記外輪との間に保持されるグリース組成物を含み、
前記グリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、イオン液体と、セバシン酸2ナトリウム塩を含み、
前記グリース組成物は、回転式レオメータによる動的粘弾性測定において、膜厚0.5mmでせん断歪み1%、周波数1Hzの条件で測定した25℃における貯蔵弾性率が2,400Pa以上であり、
前記保持器は、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)、ポリアミド46(PA46)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる群から選択される樹脂から構成される樹脂製冠形保持器である、
転がり軸受に関する。
また本発明は、前記転がり軸受を備えたモータに関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の転がり軸受の構造の一例を説明する模式図である。
【
図2】本発明のモータの構造の一例を説明する模式図である。
【
図3】潤滑特性評価(金属-金属)における実施例1及び比較例3の摩耗痕(ボール及びディスク)の写真である。
【
図4】潤滑特性評価(金属-金属)における実施例1及び比較例3のディスク側摩耗痕における、白色干渉計計測データを示す図である。
【
図5】粘弾性評価における実施例1及び比較例3の貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の測定結果を示す図である。
【
図6】潤滑特性評価(金属-樹脂)における実施例A乃至Cと比較例Aの摩擦係数及び試験温度の測定結果を示す図である。
【
図7】潤滑特性評価(金属-樹脂)における実施例Aと比較例Aの摩耗痕(試験片)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前述したように、サーバー用のファン等に使用されるファンモータは高温・高速化が進んでおり、該モータに組み込まれる軸受にもこうした厳しい環境下での高い信頼性が求められる。さらに該軸受には低トルク性能も求められ、トルク上昇につながるグリースの撹拌抵抗を低減するべく、グリースの適用量を微小とし、少量の離油による油膜形成・潤滑の実現を図っている。しかし、高温環境下での使用や、摩擦発熱によって著しい離油が発生すると、たちまち潤滑不良に陥ることとなる。
また一般的なグリースには、金属表面に潤滑性を有する吸着膜(トライボロジー被膜)を形成し摩擦発熱の低減と摩耗の抑制に寄与する極圧剤が添加される。しかし上記のサーバー用ファンモータの要求寿命は今や10,000時間以上に達し、極圧剤による吸着膜形成、摩擦低減・摩耗抑制作用(膜消失)、吸着膜再形成を繰り返す中で、極圧剤の消失が起こり、摩擦摩耗特性の悪化、ひいては潤滑不良が発生する。
【0009】
本発明者らは、こうした潤滑不良の発生という問題に対して、転がり軸受に封入されたグリースの形状に着目した。そして上記の厳しい環境下においてもグリース形状が維持されるための構成として、後述するイオン液体とセバシン酸2ナトリウム塩の採用に至った。本構成により弾性的な挙動を示すグリースを実現し、それにより、グリースの撹拌抵抗を抑制し、高速回転での撹拌に伴うせん断発熱を抑制し、また少量のグリースに長時間油分を保持して、潤滑の長寿命化が期待できることを見出した。またこれら成分の採用は、潤滑特性が向上して摩擦発熱の低減による潤滑寿命の延長にも寄与できることを見出した。
さらに本発明者らは、転がり軸受の構成にも着目し、上記イオン液体との吸着性に優れる樹脂製の保持器の採用に至り、特に、樹脂成分としてポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)、ポリアミド46(PA46)、又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂をから構成される樹脂製冠形保持器が、優れた耐摩擦摩耗特性を実現することを見出した。
以下具体的に説明する。
【0010】
[転がり軸受]
まず以下に添付図面を参照して、本発明に係る転がり軸受の好ましい実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の好ましい実施形態の転がり軸受10の径方向の断面図である。転がり軸受10は、従来技術の転がり軸受と同様の基本構造を有するものであって、環状の内輪11と外輪12と複数の転動体13と保持器14とシール部材15とを具備する。
内輪11は、図示を省略するシャフトの外周側に、その中心軸と同軸に設置される円筒
形の構造体である。外輪12は、内輪11の外周側で、内輪11と同軸に配置される円筒形の構造体である。複数の転動体13の各々は、内輪11と外輪12との間に形成される環状の軸受空間16内の軌道に配置された玉である。すなわち、本実施形態における転がり軸受10は玉軸受である。
保持器14は、軌道内に配置されて複数の転動体13を保持する。保持器14は、シャフトの中心軸と同軸に設置される環状体であり、中心軸の方向における一方の側に、転動体13を保持するための複数のポケット部を備え、各ポケット部内に転動体13が収容された構造を有する。転動体13は、保持器14により、内輪11及び外輪12の周方向に所定の間隔で保持され、転動体13の脱落や隣接する転動体13間の接触が抑制される。
シール部材15は、外輪12の内周面に固定されて内輪11側に延在し、軸受空間16を密封する。シール部材15により密封された軸受空間16には、グリース組成物Gが封入されている。すなわちグリース組成物Gは、内輪11と外輪12との間に保持される。該グリース組成物Gは、後述するグリース組成物が用いられる。なお、軸受空間16内部へのグリースGの封入量は、例えばその容積の5~50%とすることができる。
シール部材15は、例えば鋼板又はゴムにより形成され、内輪11の外周と非接触である鋼板シールド、内輪11の外周と非接触である非接触式ゴムシールが挙げられる。本発明にあっては前記鋼板シールド又は非接触式ゴムシールの何れのシール部材でも使用することができる。アウトガス抑制の観点では、鋼板シールドを使用することが好ましい。なお本図はシール部材15を具備する態様であるが、本発明の転がり軸受はシール部材を具備しない転がり軸受の態様も対象とする。
以上の構成を有する転がり軸受10において、グリース組成物Gは、転動体13と保持器14との間、および、転動体13と内輪11ないし外輪12との間における摩擦を低減するように作用する。摩擦の低減により摩擦トルクが軽減されると共に摩擦熱の発生も抑制され、内輪11及び外輪12の円滑な回転が促進される。
図1に示される構成から解るように、転がり軸受10に封入されたグリース組成物Gは、転がり軸受10が回転する際に、転動体13と内輪11ないし外輪12との間を潤滑する。
【0012】
本発明の転がり軸受において、保持器は、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)、ポリアミド46(PA46)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる群から選択される樹脂から構成される樹脂製冠形保持器を用いる。上記保持器は、上記樹脂を必須として含む材料から形成されればよく、ガラスファイバーやカーボンファイバー等の強化剤を含む複合材料からなるものであってもよい。
【0013】
本発明における転がり軸受は、特に大きさや使用条件等は限定されないが、中でも外径10mm以下の転がり軸受であって、温度100℃以上、例えば温度130℃、または回転数50,000rpm以上、例えば100,000rpm以上あるいは130,000rpm以上の高温および/または高速条件下での使用に適する。
本発明の転がり軸受は、自動車、家電機器、情報機器等に用いられる小型モータ(例えば、ファンモータ、クリーナーモータ)の転がり軸受として使用することができる。
【0014】
[モータ]
一例として、
図2に、本実施形態の転がり軸受を備えているモータの実施形態について詳細に説明するが、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態のモータにおけるシャフト方向の断面図である。モータ20は、従来技術のモータと同様の基本構造を有するものであって、ハウジング21、ステータ22、コイル23、ロータマグネット24、シャフト25、及びシャフト25を支持する転がり軸受26から構成される。
モータ20は、駆動回路を介して電源(以上図示せず)より供給された電流をステータ22に巻回されたコイル23に流すことで磁力が発生し、それによりロータマグネット2
4が回転し、シャフト25を通じて外部の回転体に回転が伝えられる。
本発明では、送風機に使用するモータの軸受として本発明の転がり軸受を好適に用いることができ、この場合、上記外部の回転体は送風機のインペラ(図示せず)が該当することとなる。
【0016】
[グリース組成物]
本発明者らは、上述したように軸受に封入されたグリースの形状に着目し、弾性的でグリースの形状が変形しにくく維持されることで、撹拌抵抗の抑制、せん断発熱の抑制、そして高温・高速耐久性の実現、さらには低トルクや消費電力削減にもつながることが期待できるための構成として、イオン液体とセバシン酸2ナトリウムを採用し、これにより、グリース組成物の貯蔵弾性率の適正化に至った。
以下、本発明の転がり軸受に封入されるグリース組成物について説明する。
【0017】
<基油>
本実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物において、基油として、一般的にグリース基油として使用される、合成炭化水素油、エーテル系合成油、エステル系合成油等の合成油を単独または混合して使用できる。
【0018】
前記合成炭化水素油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリアルファオレフィン(PAO)が挙げられる。
前記エステル系合成油としては、例えばジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルフタレート、メチル・アセチルシノレートなど のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ-2-エチルヘキシルピロメリテートなどの芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル油、炭酸エステル油などが挙げられる。
また前記エーテル系合成油としては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキルジフェニルエーテルなどのアルキルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油などを挙げることができる。
【0019】
上記基油は、本発明で用いるグリース組成物の総質量に基づいて例えば70質量%以上の割合で含むことができ、例えばグリース組成物の総質量に基づいて70質量%乃至90質量%の割合にて上記基油を含むものとすることができる。
【0020】
<増ちょう剤>
本発明で使用するグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア系増ちょう剤を好ましく使用することができる。
ウレア化合物は、耐熱性、耐水性ともに優れ、特に高温での安定性が良好なため、高温環境下での適用箇所において増ちょう剤として好適に用いられている。
ウレア系増ちょう剤としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物を使用できる。耐熱性及び音響特性(静音性)の点から、ジウレア化合物を使用することが好ましい。また、ウレア化合物の種類としては、脂肪-芳香族ウレア、脂環-脂肪族ウレア及び脂肪族ウレアのうち少なくとも一種を含むことが好ましい。
これらウレア系増ちょう剤として、従来公知のウレア化合物を用いることができる。
【0021】
ウレア系増ちょう剤に使用するジウレア化合物の一例として、下記式(1)で表される
ジウレア化合物を挙げることができる。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3・・・式(1)
上記式(1)中、R1及びR3は、夫々独立して、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基、又は一価の芳香族炭化水素基を表し、且つ、R1及びR3のうち少なくとも一方が、一価の脂肪族炭化水素基又は一価の脂環式炭化水素基を表す。
またR2は、二価の芳香族炭化水素基を表す。
【0022】
上記一価の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素原子数6乃至26の直鎖状又は分枝鎖状の飽和又は不飽和のアルキル基が挙げられる。
上記一価の脂環式炭化水素基としては、例えば炭素原子数5乃至12のシクロアルキル基が挙げられる。
また上記芳香族炭化水素基としては、例えば炭素原子数6乃至20の一価又は二価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0023】
ウレア系増ちょう剤として用いるウレア化合物は、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いて合成可能である。
前記アミン化合物としては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、ベヘニルアミン、オレイルアミンなどに代表される脂肪族アミン、並びに、シクロヘキシルアミンなどに代表される脂環式アミン、またアニリン、p-トルイジン、エトキシフェニルアミンなどに代表される芳香族アミンが挙げられる。
またイソシアネート化合物として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジメチルビフェニルジイソシアネート(TODI)等の芳香族ジイソシアネートや、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートなどが用いられる。
なお、アミン原料として芳香族モノアミンと芳香族ジイソシアネートとを用いて得られる芳香族ジウレア化合物をウレア系増ちょう剤として用いた場合は、異音が発生するおそれがあるため、使用を検討する必要がある。
【0024】
上記ウレア系増ちょう剤(ウレア化合物)は、本発明で用いるグリース組成物の全量に対して例えば10~20質量%となるように配合することができる。
【0025】
<イオン液体>
本実施形態に係る転がり軸受に適用されるグリース組成物は、イオン液体を必須として含む。
従来より潤滑剤には、回転摩擦により部品間で発生する静電気を逃すべく、必要に応じて導電性の付与がなされるが、その一つの方法としてイオン液体の添加が検討される。
本発明にあっては、イオン液体と後述するセバシン酸2ナトリウム塩と併用することにより、グリース組成物の貯蔵弾性率を適正な範囲とし、弾性的で変形しにくいグリースを実現することで高速回転での撹拌に伴うせん断発熱を抑制し、さらには強固なトライボロジー被膜の形成によって摩擦発熱の低減を実現し、潤滑性能の長寿命化の役割を担うと考えられる。
【0026】
上記イオン液体としては、フッ素系のイオン液体が使用され、後述するセバシン酸2ナトリウム塩との併用により所望の貯蔵弾性率を実現できるものであれば特に限定されない。
例えば、下記に示すトリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([THTDP][TFSI])を使用できる。
【化1】
【0027】
上記イオン液体は、本発明で用いるグリース組成物の全量に対して、例えば0.1~10質量%となるように配合することができる。
【0028】
<分散剤:セバシン酸2ナトリウム塩>
本実施形態に係る転がり軸受に適用されるグリース組成物は、分散剤としてセバシン酸2ナトリウム塩を含む。
セバシン酸2ナトリウム塩は、本発明で用いるグリース組成物の全量に対して例えば0.1~10質量%となるように配合することができる。
【0029】
<その他添加剤>
本発明で使用するグリース組成物には、必要に応じてグリース組成物に通常使用される添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
このような添加剤の例としては、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性剤、摩擦防止剤(耐摩耗剤)、錆止め剤、油性向上剤、粘度指数向上剤、増粘剤などが挙げられる。
これらその他の添加剤を含む場合、その添加量(合計量)は、通常、グリースの全量に対して0.1~10質量%である。
【0030】
例えば上記酸化防止剤としては、例えばオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、および4,4-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジフェニルアミン、ジアリールアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0031】
また極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の硫黄系化合物の金属塩等が挙げられる。
【0032】
金属不活性剤としては、例えばベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキ
シル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール等のチアジアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物、亜硝酸ソーダ等が挙げられる。
【0033】
また摩擦防止剤(耐摩耗剤)はトリクレジルホスフェートや高分子エステルを挙げることができる。
上記高分子エステルとしては、例えば脂肪族1価カルボン酸及び2価カルボン酸と、多価アルコールとのエステルが挙げられる。上記高分子エステルの具体例としては、例えばクローダジャパン社製のPRIOLUBE(登録商標)シリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明で用いるグリース組成物は、前述した基油と、ウレア系増ちょう剤、イオン液体、セバシン酸2ナトリウム塩、そして所望によりその他添加剤を配合して得ることができる。
また、例えば前記基油と前記ウレア系増ちょう剤からなるウレア系グリース(ベースグリース)に対して、イオン液体、セバシン酸2ナトリウム塩、そして所望によりその他添加剤とを配合し、グリース組成物を得ることもできる。
通常、ベースグリースに対する増ちょう剤の含有量は10~30質量%程度であり、例えば上記のウレア系グリースに対するジウレア化合物(ウレア系増ちょう剤)の含有量は例えば10~25質量%程度、また10~20質量%程度とすることができる。
【0035】
<貯蔵弾性率について>
本発明で用いるグリース組成物は、貯蔵弾性率が適正な範囲にあることで、弾性的で変形されにくいグリース挙動を示すものとすることができる。
貯蔵弾性率はグリースの形状安定性を示す値であり、転がり軸受へのグリース封入直後や、転がり軸受の回転時における、グリースの形状安定性を把握するために、有効なパラメータである。
特に高温・高速下にて使用する、転がり軸受では、グリースの形状が封入時の形状から変化すると、グリースがボール(転動体)等に絡み、転がり軸受のトルク上昇やトルク荒れにつながるだけでなく、せん断に伴い増ちょう剤の繊維構造が破壊されることによりグリースが劣化し、潤滑不良の要因になり得る。そのため、初期及び長期的なトルク安定性や潤滑不良を抑制するには、グリースの形状維持能力(形状安定性)が重要な要素である。
こうしたグリースの形状安定性の観点から、本発明で用いるグリース組成物においては、上記測定条件(回転式レオメータによる動的粘弾性測定:膜厚0.5mm、せん断ひずみ1%、周波数1Hz)における25℃の貯蔵弾性率が2400Pa以上であることが重要である。ただし、貯蔵弾性率が高くなり過ぎると、グリースが転動体の公転軌道上に位置するためにボールがグリースを超える際の抵抗が上がり、トルク上昇が懸念される。そのため、貯蔵弾性率は4,500Pa以下、より好ましくは3,500Paを超えない値とするのが望ましい。
【0036】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
下記表1に示す配合量にて実施例1及び比較例1乃至比較例6に使用するグリース組成物を調製した。
なおグリース組成物の調製に使用した各成分の詳細及びその略称は以下のとおりである。
<基油>
・エステル油:トリオクチルトリメリテート(TOTM)とテトラオクチルピロメリテート(TOPM)の混合油[40℃における動粘度:100mm
2/s]
<増ちょう剤>
・ジウレア化合物:脂肪-芳香族ジウレア化合物
<添加剤>
・イオン液体:(下記化学式に示す構造参照)
(1)[TFSI][THTDP]
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(2)[TFSI][EMI]
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3)[TFSI][BMP]
1-ブチル-1-メチルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(4)[ES][EMI]
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・エチルスルファート
【化2】
・分散剤:セバシン酸2ナトリウム塩
・その他添加剤:
極圧添加剤:リン酸エステル系極圧添加剤
トリフェニルホスホロチオネート、製品名「Irgalube TPPT」、BASFジャパン(株))
金属不活性剤:ベンゾトリアゾール化合物(1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、製品名「BT-LX」、城北化学工業(株))
酸化防止剤:ジアリールアミン系酸化防止剤(オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン、製品名「Irganox L57」、BASFジャパン(株))
その他添加剤は、実施例及び比較例の各グリース組成物(全質量)に対して、上記極圧添加剤、金属不活性剤、酸化防止剤をあわせて3質量%となるように添加した。
【0039】
また以下の試験評価に用いた転がり軸受は以下のとおりである。
・転がり軸受:鋼シールド付き玉軸受(内径3mm、外径8mm、幅3mm)
・保持器:樹脂製冠形保持器
〈保持器材質〉
保持器A:PEEK[カーボンファイバー(CF)20%配合]
保持器B:PA9T[カーボンファイバー(CF)20%配合]
保持器C:PA46[ガラスファイバー(GF)30%配合]
保持器D:PA66[ガラスファイバー(GF)30%配合]
【0040】
以下の手順にて、潤滑特性評価、粘弾性評価、耐熱性評価を行った。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0041】
<(1)潤滑特性評価(金属-金属:摩擦摩耗試験)>
Optimol社製の振動摩擦試験機(商品名:SRV)を用いて、金属-金属間の摩擦摩耗試験を行った。試験はボールオンディスク式で実施し、ボール(材質:SUJ2、φ10mm)及びディスク(材質:SUJ2、φ24mm)を用いた。試験条件は、荷重100N、測定温度80℃、摺動距離1mm、振動数50Hz、試験時間20分間とした。試験開始時に各グリース組成物を5mg供給した。
試験終了後、ボール側の摩耗痕径の大きさを計測した(N=3の平均値)。また、実施例1および比較例3について、ZYGO社製の白色干渉計(商品名:NewView200)により、ディスク側の摩耗痕における摺動方向に交差する方向の最大高低差P-V値を計測した(各N=1)。摩耗痕径および最大高低差を、それぞれ下記判定基準にて評価した。
なお
図3に、摩擦摩耗痕試験後の実施例1及び比較例3のボール及びディスクの摩耗痕写真を示す。
図3(A)はボール摩耗痕[(a)実施例1、(b)比較例3]を、
図3(B)はディスク摩耗痕[(a)実施例1、(b)比較例3]をそれぞれ示す。
また
図4に、摩擦摩耗痕試験後の実施例1及び比較例3のディスクについて実施した、白色干渉計計測データを示す[(a)実施例1、(b)比較例3]。
<摩耗痕径の判定基準>
A:ボールの摩耗痕径が330μm以下
N:ボールの摩耗痕径が330μm超
<最大高低差の判定基準>
A:ディスクの摩耗痕の最大高低差P-V値が0.5μm以下
N:ディスクの摩耗痕の最大高低差P-V値が0.5μm超
【0042】
<(2)離油量(単位:mm2/mg)測定 及び 評価>
薬包紙の薬をのせる側の面上に調製した各グリース組成物9mgをφ3mm円柱状に静置し、80℃環境下にて24時間放置した。24時間経過後、薬包紙に生じた油にじみ部分の面積を計測した。グリース組成物の質量当たりの油にじみ部分の面積を離油量(mm2/mg)として算出し、以下の判定基準にて離油量(N=3の平均値)を評価した。
なお本試験において、薬包紙は(株)博愛社の「純白模造(中)」(サイズ:105mm×105mm、厚さ:42μm、目付:30g/m2)を用い、上述のように、薬をのせる側の面(光沢面)上にグリース組成物を静置させた。
<判定基準>
N:離油量が180mm2/mg未満
A:離油量が180mm2/mg以上 270mm2/mg以下
N:離油量が270mm2/mg超
【0043】
<(3)粘弾性評価(レオメータによる弾性率(単位:Pa)測定)>
アントンパール社製の回転式粘度計(レオメータ、商品名 MCR302)により、各グリース組成物の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を測定した。測定モードはひずみ分散法(ひずみを100%から0.01%に可変)にて、治具はパラレルプレートφ25m
m(PP25)、プレートギャップ0.5mm、周波数1Hz、温度25℃にて測定を行った。ひずみが1%であるときの測定値を貯蔵弾性率G’(Pa)とし、以下の判定基準にて貯蔵弾性率(N=3の平均値)を評価した。
なお
図5に、実施例1及び比較例3に関するせん断ひずみに対する貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の測定結果を示す[(a)実施例1、(b)比較例3]。
<判定基準>
A:貯蔵弾性率が2,400Pa以上4,500Pa以下
N:貯蔵弾性率が2,400Pa未満または4,500Pa超
【0044】
<(4)耐熱性評価(耐久試験)(1)>
鋼付き玉軸受(内径3mm、外径8mm、幅3mm、保持器B(PA9T[カーボンファイバー(CF)20%配合])に、各グリース組成物を、軸受容積の25%~35%で封入した。この玉軸受をハウジングにセットして、外輪に対してアキシアル方向より2Nの予圧をかけた後、軸受内径にシャフトを挿入して、試験用モータの回転軸にシャフトを結合し、玉軸受が内輪回転するようにした。
ついで、前記ハウジングを130℃に加熱し、試験温度130℃、回転速度120,000rpmで回転させ、玉軸受が停止するまでの時間を計測した。
停止条件は、トルクが上昇して、規定よりも10%低下した回転速度となった時点を停止とし、停止するまでの試験時間を経過時間(hr)とした。各グリース組成物につき、それぞれ3回ずつ試験を行い、平均値を求め、以下の判定基準にて評価した。
<判定基準>
A:経過時間が10,000hr以上
N:経過時間が10,000hr未満
【0045】
【0046】
<(5)潤滑特性評価(金属-樹脂:摩擦摩耗試験)>
BRUKER社製の多機能摩擦摩耗試験機(商品名:UMT TriboLab)を用い、金属-樹脂間の摩擦摩耗試験を行った。試験はボールオンディスク式で実施し、ボール(材質:SUJ2、φ10mm)及び表2に示す材質のディスク(長さ30mm、幅10mm、厚さ4mm)を用いた。試験条件は、荷重49N、室温、摺動距離12.5mm、振動数20Hz、試験時間2分間とした。試験開始時に実施例1のグリース組成物をボールに5mg塗布した。
試験中、摩擦係数並びに上部球の温度を経時で測定し、2分(120秒)経過時点の摩擦係数の値(N=3の平均値)より、下記判定基準にて評価した。
なお
図6に、実施例A~C及び比較例Aにおける、試験時間(秒)に対する摩擦係数及び温度(℃)(上部球)に関する測定結果を示す[(A)摩擦係数、(B)温度(上部球)]。
また
図7に、摩擦摩耗痕試験後の実施例A及び比較例Cのディスクの摩耗痕写真を示す[(a)実施例A、(b)比較例A]。
<判定基準>
A:摩擦係数 0.1以下
N:摩擦係数 0.1超
【0047】
<(6)耐熱性評価(耐久試験)(2)>
鋼付き玉軸受に使用した保持器を表2に示す保持器に変え、グリース組成物として実施例1のグリース組成物を使用した以外は、前記<(4)耐熱性評価(耐久試験)(1)>と同様の手順にて、耐熱性評価を実施した。
【0048】
【0049】
表1に示すように、実施例1のグリース組成物は、貯蔵弾性率が2,400Paを超え、実際のグリース組成物は寒天のようなコシのある形状となった。なお
図3~
図5に示すように、比較例3と比べ(
図3(A)(b)、
図3(B)(b)、
図4(b)、
図5(b))、実施例1ではボール・ディスクともに摩耗痕が小さく(薄く)(
図3(A)(a)、
図3(B)(a))、表面粗さが小さい(
図4(a))ことが確認でき、またひずみ1%時の弾性率G’が大きい(
図5(a))ことが確認できる。このように、本グリース組成物を用いた摩擦摩耗試験(金属-金属)では、ボールの摩擦摩耗痕が330μm以下であり、ディスクの摩擦摩耗痕の最大高低差P-V値は約0.4μmであったことから、摩擦摩耗が発生しにくく潤滑性に優れることが確認された。また実施例1では、保持器としてPA9Tを樹脂成分とする樹脂製冠形保持器を用いた転がり軸受を高温・高速回転させた試験において、10,000時間後においても異音等が発生せず、高温高速下での耐久性に優れる転がり軸受であることが確認された。
一方、実施例で使用したイオン液体(1)に代え、イオン液体(2)~(4)を用いた比較例1~3、セバシン酸2ナトリウム塩を不使用とした比較例4、イオン液体を不使用とした比較例5、そしてセバシン酸2ナトリウム塩及びイオン液体を不使用とした比較例6では、いずれも、貯蔵弾性率が2,400Pa未満となり、これらグリース組成物は実施例1と比べると柔らかく形状を保ちにくい感触となった。これらグリース組成物を用いた摩擦摩耗試験(金属-金属)では、ボールの摩擦摩耗痕が330μm以下であり、比較例1こそ330μm以下の摩擦摩耗痕となったものの、比較例2~6では330μmを超え、潤滑性に難ありとの結果となった。比較例3については、ディスクの摩擦摩耗痕の最大高低差P-V値は約0.9μmであり、実施例1の2倍以上の最大高低差であった。
図3(B)(b)及び
図4(b)に示すように、比較例3の摩擦摩耗試験(金属-金属)のディスク試験片には摺動方向に沿って深い摩擦傷が確認された。さらに保持器としてPA9Tを樹脂成分とする樹脂製冠形保持器を用いた転がり軸受を高温・高速回転させた試験
では、これら比較例にあっては、試験開始10,000時間より前にトルクが上昇することで規定よりも10%低下した回転速度となり試験が停止する結果となった。
【0050】
また表2に示すように、保持器としてPEEK(実施例A)、PA9T(実施例B)、PA46(実施例C)を樹脂成分とする樹脂製冠形保持器を用いた転がり軸受では、摩擦係数が0.1以下と低く[
図6(A)参照]、摩擦摩耗試験の時間の経過を経ても、後述の比較例と比べ、上部球の温度の上昇は低く抑えられた[
図6(B)参照]。また
図7(A)にも示すように試験後のディスクの摩耗痕(実施例A)も薄いものとなった。そして、高温・高速回転させた試験において10,000時間後においても異音等が発生せず、耐久性に優れる結果となった。
一方実施例1のグリース組成物を使用した場合にあっても、保持器としてPA66を樹脂成分とする樹脂製冠形保持器を用いた比較例Aの転がり軸受にあっては、摩擦係数が0.224と大きく上昇し[
図6(A)参照]、摩擦摩耗試験の時間の経過とともに上部球の温度が大きく上昇した[
図6(B)参照]。また
図7(B)に示すように、試験後のディスクの摩耗痕は
図7(A)に示す実施例Aの摩耗痕と比べて明確であり、高温・高速回転試験においても試験開始から3,500時間で異音が発生し、回転不良を起こす結果となった。
【0051】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。