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特開2024-122578環状スルホン含有ポリマー及び光学物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122578
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】環状スルホン含有ポリマー及び光学物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20240902BHJP
【FI】
C08G75/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030186
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】永澤 匠
(72)【発明者】
【氏名】上田 充
(72)【発明者】
【氏名】東原 知哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 萌実
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 啓太
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA04
4J030BA09
4J030BB07
4J030BG25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】屈折率及びアッベ数が高く光学物品用材料として好適な新規ポリマー材料を提供すること。
【解決手段】式1で表される環状スルホンを含む重合性組成物の重合体である環状スルホン含有ポリマー。式中、R、R、R及びRは、独立にH又は置換基;mは0以上の整数;nは1以上の整数;*X、*X、*Y及び*Yは結合位置を表し、*Y及び*Yのうちの一方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合し、*Y及び*Yのうちの他方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される環状スルホンを含む重合性組成物の重合体である環状スルホン含有ポリマー。
【化1】
(式1中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、*X、*X、*Y及び*Yは結合位置を表し、*Y及び*Yのうちの一方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合し、*Y及び*Yのうちの他方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合する。)
【請求項2】
前記重合性組成物はポリチオールを更に含む、請求項1に記載の環状スルホン含有ポリマー。
【請求項3】
前記ポリチオールはジチアン環含有ジチオールである、請求項2に記載の環状スルホン含有ポリマー。
【請求項4】
前記重合性組成物はポリアミンを更に含む、請求項1に記載の環状スルホン含有ポリマー。
【請求項5】
前記ポリアミンはジチアン環含有ジアミンである、請求項4に記載の環状スルホン含有ポリマー。
【請求項6】
式1中、nは1を表す、請求項1に記載の環状スルホン含有ポリマー。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の環状スルホン含有ポリマーを含む光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状スルホン含有ポリマー及び光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料は、シリコン、ガラス等の無機材料と比べて軽量で加工性に優れる等の利点を有する。そのため、近年、光学物品用材料として、各種ポリマー材料が用いられている。そのようなポリマー材料の代表例としては、ポリカーボネートが挙げられる(例えば特許文献1の段落0004及び特許文献2の段落0002~0003参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-73564号公報
【特許文献2】特開2003-90901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学物品に望まれる性能としては、高屈折率及び高アッベ数(即ち低分散性)が挙げられる。しかし、例えば特許文献1の段落0004及び特許文献2の段落0003に記載されているように、ポリカーボネートは、ポリマー材料の中では屈折率は比較的高いもののアッベ数が低い。そのため、ポリカーボネートを適用できる光学物品は限定的であるのが現状である。
【0005】
本発明の一態様は、屈折率及びアッベ数が高く光学物品用材料として好適な新規ポリマー材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]下記式1で表される環状スルホンを含む重合性組成物の重合体である環状スルホン含有ポリマー。
【化1】
(式1中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、*X、*X、*Y及び*Yは結合位置を表し、*Y及び*Yのうちの一方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合し、*Y及び*Yのうちの他方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合する。)
[2]上記重合性組成物はポリチオールを更に含む、[1]に記載の環状スルホン含有ポリマー。
[3]上記ポリチオールはジチアン環含有ジチオールである、[2]に記載の環状スルホン含有ポリマー。
[4]上記重合性組成物はポリアミンを更に含む、[1]に記載の環状スルホン含有ポリマー。
[5]上記ポリアミンはジチアン環含有ジアミンである、[4]に記載の環状スルホン含有ポリマー。
[6]式1中、nは1を表す、[1]~[5]のいずれかに記載の環状スルホン含有ポリマー。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の環状スルホン含有ポリマーを含む光学物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、屈折率及びアッベ数が高く光学物品用材料として好適な新規ポリマー材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】合成例で得られたDT(1,4-ジチイン)のH NMRスペクトルを示す。
図2】合成例で得られたDT(1,4-ジチイン)の13C NMRスペクトルを示す。
図3】合成例で得られたDTDO(1,4-ジチイン-1,1-ジオキシド)のH NMRスペクトルを示す。
図4】合成例で得られたDTDO(1,4-ジチイン-1,1-ジオキシド)の13C NMRスペクトルを示す。
図5】合成例で得られたDTTO(1,4-ジチイン-1,1,4,4-テトラオキシド)のH NMRスペクトルを示す。
図6】合成例で得られたDTTO(1,4-ジチイン-1,1,4,4-テトラオキシド)の13C NMRスペクトルを示す。
図7】実施例1のPoly(BMMD/DTDO)のH NMRスペクトルを示す。
図8】実施例1のPoly(BMMD/DTDO)の13C NMRスペクトルを示す。
図9】実施例2のPoly(BMMD/DTTO)のH NMRスペクトルを示す。
図10】実施例2のPoly(BMMD/DTTO)の13C NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[環状スルホン含有ポリマー]
本発明及び本明細書において、「環状スルホン含有ポリマー」とは、スルホニル基(-SO-)を環構造中に含む環構造を有するポリマーをいうものとする。「重合体」は「ポリマー」と同義であり、「重合体」には、単独重合体及び共重合体が包含される。
【0010】
本発明の一態様は、下記式1で表される環状スルホンを含む重合性組成物の重合体である環状スルホン含有ポリマーに関する。
【0011】
【化2】
(式1中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、*X、*X、*Y及び*Yは結合位置を表し、*Y及び*Yのうちの一方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合し、*Y及び*Yのうちの他方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合する。)
【0012】
<式1で表される環状スルホン>
以下、式1について更に詳細に説明する。
【0013】
式1中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
置換基としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等を挙げることができる。一形態では、R、R、R及びRがすべて水素原子を表すことができる。他の一形態では、R、R、R及びRのうちの1つ~3つが水素原子を表し、残りが同一又は異なる置換基を表すことができる。
【0014】
式1中、mは0以上の整数を表す。mは、0、1又は2を表すことが好ましく、0又は1を表すことがより好ましい。
【0015】
式1中、nは1以上の整数を表す。nは、例えば1~5の範囲の整数を表すことができる。nが2以上の整数を表す場合、式1中に複数存在するRは同じであってもよく異なってもよく、式1中に複数存在するRは同じであってもよく異なってもよく、式1中に複数存在するmは同じであっても異なってもよい。nは、1又は2を表すことが好ましく、1を表すことがより好ましい。
【0016】
式1中、nが1を表す場合、式1で表される環状スルホンは、は、下記式1-Aで表され得る。
【0017】
【化3】
【0018】
式1中、nが2を表す場合、式1で表される環状スルホンは、は、下記式1-Bで表され得る。
【0019】
【化4】
【0020】
式1中、*X、*X、*Y及び*Yは結合位置を表す。*Y及び*Yのうちの一方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合し、*Y及び*Yのうちの他方は*Xと直接結合するか又は連結基を介して結合する。連結基については、L及びLについて後述する。*Y及び*Yのうちの一方が*Xと連結基(以下、「連結基1」と記載する。)を介して結合し、*Y及び*Yのうちの他方が*Xと連結基(以下、「連結基2」と記載する。)を介して結合する場合、連結基1と連結基2が連結してもよい。そのような場合、式1で表される環状スルホンは、縮合環構造若しくは架橋環構造を有するか又は同一若しくは異なる環構造の2つ以上が連結基を介して連結した環集合である。
【0021】
式1-Aにおいて、*Xと*Yとが直接結合するか又は連結基を介して結合し、*Xと*Yとが直接結合するか又は連結基を介して結合する場合、式1-Aで表される環状スルホンは、下記式1-1で表され得る。
【0022】
【化5】
【0023】
式1-Aにおいて、*XとYとが直接結合するか又は連結基を介して結合し、*XとYとが直接結合するか又は連結基を介して結合する場合、式1-Aで表される環状スルホンは、下記式1-2で表され得る。
【0024】
【化6】
【0025】
式1-1及び式1-2において、L及びLは、それぞれ独立に連結基を表し、n1及びn2はそれぞれ独立に0又は1を表し、m、R、R、R及びRは、式1における定義と同義である。
【0026】
連結基L及びLは、それぞれ独立に、単結合、置換又は無置換アルキレン基、スルホニル基(-SO-)、チオエーテル基(-S-)、若しくは-NR10-で表される2価の連結基、又は、上記の基の2つ以上が連結した連結基であることができる。R10は、水素原子又は置換基を表す。置換基の具体例としては、先に記載した置換基を挙げることができる。アルキレン基が置換アルキレン基である場合の置換基についても同様である。アルキレン基としては、炭素数1~10のアルキレン基を挙げることができ、炭素数1~6のアルキレン基が好ましい。アルキレン基が置換アルキレン基である場合、「炭素数」とは、置換基の炭素数を含まない炭素数をいうものとする。先に記載した通り、連結基Lと連結基Lが連結してもよい。
【0027】
式1-Aで表される環状スルホンが単環化合物である場合、具体例としては、以下の環状スルホンを挙げることができる。以下において、Rは、水素原子又は置換基を表す。1つの化合物に含まれる複数のRは同じであってもよく異なってもよい。Rの詳細については、R、R、R及びRに関する先の記載を参照できる。
【0028】
【化7】
【0029】
式1-Aで表される環状スルホンが縮合環構造又は架橋環構造を有する化合物である場合、具体例としては、以下の環状スルホンを挙げることができる。
【0030】
【化8】
【0031】
式1-Aで表される環状スルホンが同一又は異なる環構造の2つ以上が連結基を介して連結した環集合である場合、具体例としては、以下の環状スルホンを挙げることができる。
【0032】
【化9】
【0033】
一形態では、上記環状スルホン含有ポリマーは、下記構造単位S1及び下記構造単位S2からなる群から選ばれる環状スルホン含有構造単位を複数含むことができる。以下において、*は他の部分構造との結合位置を表す。環状スルホンへの他の部分構造の結合位置は、オルト位、メタ位又はパラ位のいずれでもよい。
【0034】
【化10】
【0035】
【化11】
【0036】
式1で表される環状スルホンは、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。合成方法については、実施例の欄に記載の合成例も参照できる。
【0037】
<他の重合性化合物>
上記環状スルホン含有ポリマーは、式1で表される環状スルホンを含む重合性組成物の重合体である。本発明及び本明細書において、「重合性組成物」とは、重合性化合物を1種以上含む組成物をいい、「重合性化合物」とは重合反応し得る化合物をいう。上記環状スルホン含有ポリマーは、式1で表される環状スルホンと1種以上の他の重合性化合物とを重合させてなる重合体であることができる。式1で表される環状スルホンは、重合性化合物であり、例えば、他の重合性化合物の1種以上とマイケル付加反応することによって重合体を形成することができる。マイケル付加反応し得る他の重合性化合物としては、ポリチオール及びポリアミンを挙げることができる。本発明及び本明細書において、「ポリチオール」とは1分子中にチオール基(-SH)を2つ以上有する化合物をいい、「ポリアミン」とは1分子中にアミノ基(-NH)を2つ以上有する化合物をいう。他の重合性化合物としてポリチオールを含む重合性組成物の重合体は、ポリチオエーテルであることができる。本発明及び本明細書において、「ポリチオエーテル」とは、チオエーテル基(-S-)を1分子中に複数有する化合物をいうものとする。他の重合性化合物としてポリアミンを含む重合性組成物の重合体は、「-NH-」で表される二価の基を1分子中に複数有する含窒素ポリマーであることができる。
【0038】
ポリチオールは、ジチオール又はトリチオールであることができ、ポリアミンはジアミン又はトリアミンであることができる。ポリチオール及びポリアミンとしては、1分子中にジチアン環を1つ以上有するものが好ましい。例えば、1分子中に1,4-ジチアン環を1つ有するジチオール又はジアミンは、下記式2で表すことができる。式2中、n3は0又は1を表し、Lは連結基を表す。Lで表される連結基の詳細については、連結基L及びLに関する先の記載を参照できる。1分子中に2つのLが含まれる場合、それらLは同一であっても異なってもよい。ジチオールについてZはチオール基を表し、ジアミンについてZはアミノ基を表す。1,4-ジチアン環への2つの「-(Ln3-Z」の置換位置は、オルト位又はメタ位のいずれでもよい。
【化12】
【0039】
式1で表される環状スルホンと1,4-ジチアン環を有する重合性化合物とを重合させてなる重合体は、以下の構造単位S3を複数含み得る。以下において、*は他の部分構造との結合位置を表す。1,4-ジチアン環への他の部分構造の結合位置は、オルト位又はメタ位のいずれでもよい。
【0040】
【化13】
【0041】
他の重合性化合物は、公知の方法で合成することができ、市販品として入手することもできる。
【0042】
<重合性組成物>
上記環状スルホン含有ポリマーを得るために使用される重合性組成物は、式1で表される環状スルホンを1種以上含み、他の重合性化合物の1種以上を含み得る。例えば、他の重合性化合物としてポリチオール及びポリアミンからなる群から選択される1種以上の重合性化合物が使用される場合、上記環状スルホン含有ポリマーは、式1で表される環状スルホンと他の重合性化合物との等モル反応物であることができる。したがって、上記重合性組成物は、例えば、環状スルホンと他の重合性化合物の合計量を100モル%として、環状スルホンを50モル%、他の重合性化合物を50モル%含むことができる。上記重合性組成物は、溶媒、添加剤等の重合性組成物に通常含まれ得る成分の1種以上を任意の量で含むことができる。上記重合性組成物に含まれる重合性化合物を重合させるための反応条件については、マイケル付加反応等の重合反応に関する公知技術を適用することができる。
【0043】
<対数粘度>
重合体の分子量の指標としては、対数粘度を挙げることができる。上記環状スルホン含有ポリマーの対数粘度は、例えば、0.01dL/g以上又は0.10dL/g以上であることができる。また、上記環状スルホン含有ポリマーの対数粘度は、例えば、3.00dL/g以下又は1.50dL/g以下であることができる。ただし、上記環状スルホン含有ポリマーの対数粘度は上記範囲に限定されない。
対数粘度の測定にはオストワルド粘度計を使用し、測定は恒温槽中で行う。ポリマー50mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)10mLに溶解させ、濃度0.5g/dLのポリマー溶液を調製し、30℃に設定した恒温槽中で溶媒及びポリマー溶液の流下時間をそれぞれ測定し、以下の式によって対数粘度を求める。ここで、ηinhは対数粘度、tはポリマー溶液の流下時間(単位:sec)、tは溶媒の流下時間(単位:sec)、cはポリマー溶液の濃度(単位:g/dL)を表す。
【0044】
【数1】
【0045】
[光学物品]
本発明の一態様は、上記環状スルホン含有ポリマーを含む光学物品に関する。
【0046】
上記環状スルホン含有ポリマーは、必要に応じて1種以上の他の成分と混合した後、公知の方法によって成形することによって、例えば、眼鏡レンズ、CMOSイメージセンサ用マイクロレンズ等の各種レンズのレンズ基材として使用することができる。または、上記環状スルホン含有ポリマーを、必要に応じて1種以上の他の成分と混合した後、公知の方法によって製膜することによって、反射防止膜等の機能性膜を作製することもできる。そのような機能性膜は、例えば、眼鏡レンズ、CMOSイメージセンサ用マイクロレンズ等の各種レンズのレンズ基材上に直接又は1層以上の他の層を介して設けることができる。上記環状スルホン含有ポリマーは、高屈折率及び高アッベ数を有し得るため、各種光学物品の作製に使用する光学物品用材料として好適である。また、上記環状スルホン含有ポリマーは、優れた耐熱性(例えば高いガラス転移温度)を有し得る。更に、上記環状スルホン含有ポリマーは、紫外域~可視域の波長において高い透過率を示し得る。これらの点からも、上記環状スルホン含有ポリマーは、各種光学物品の作製に使用する光学物品用材料として好適である。
【0047】
一形態では、上記環状スルホン含有ポリマーは、熱可塑性を有する重合体であることができる。熱可塑性材料は、成形加工が容易である点等から、光学物品用材料として好適である。例えば、式1中のnが1である場合、上記環状スルホン含有ポリマーは熱可塑性を有し得る。これに対し、式1中のnが2以上の整数を表す場合、上記環状スルホン含有ポリマーは熱硬化性を有し得る。
【実施例0048】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の室温は20~25℃である。
【0049】
各種測定は、以下の方法によって行った。
【0050】
<核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定>
H NMR及び13C NMRスペクトル測定には、日本電子(JEOL)社製JNM-ECX400(400MHz)及びJEOL社製JNM-ECZ600R/M1(600MHz)を使用した。溶媒としては重クロロホルム及び重ジメチルスルホキシドを使用し、測定温度は25℃とした。
【0051】
<粘度測定>
オストワルド粘度計を使用し、恒温槽Kinematic Viscosity Bath TV-5S(Thomas Kagaku Co.,Ltd.)中で粘度測定を行った。ポリマー50mgをDMSO10mLに溶解させ、濃度0.5g/dLのポリマー溶液を調製し、30℃に設定した恒温槽中で溶媒及びポリマー溶液の流下時間をそれぞれ測定し、先に記載した式によって対数粘度を求めた。
【0052】
<熱特性の測定>
熱重量分析(TGA)測定を、TA instrument社製Q50-TG熱分析装置を用い、10℃/minの昇温速度にて行った。示差走査熱量分析(DSC)測定は、日立ハイテックサイエンス社製示差走査熱量計DSC 7200(ベーシックシステム)を用い、10℃/minの昇温及び降温速度にて行った。測定範囲は、実施例1のPoly(BMMD/DTDO)については、最低温度を30℃、最高温度をTGA測定より得られた1%重量減少温度(T 1%)よりも20℃程度低い温度に設定した。実施例2のPoly(BMMD/DTTO)の測定では、最高温度をTGA測定より得られたT 1%値よりも2℃程度高い温度に設定した。
【0053】
<元素分析>
元素分析は燃焼法によって実施した。
【0054】
<光学特性>
屈折率、アッベ数及び膜厚測定には、METRICON社製2010/M PRISM COUPLERを用いた。透過率測定には、島津製作所製紫外・可視・近赤外分光度計UV-3600 Plus 100Vを使用し、200nmから800nmの波長範囲で測定を行った。測定に使用したポリマーフィルムは、実施例1のPoly(BMMD/DTDO)及び実施例2のPoly(BMMD/DTTO)をそれぞれDMSOに溶解させ、濃度1質量%の溶液を調製した後、各溶液をマイクロピペットで250μL量り取り、石英ガラス基板にドロップキャストし、90℃の真空オーブンで19時間乾燥させることで作製した。
【0055】
詳しくは、各ポリマーフィルムの473nm、594nm及び653nmの各波長における面内屈折率(nTE)、面外屈折率(nTM)、及び膜厚の測定を3回行い、平均値(算術平均)を求めた。
アッベ数ν TE、ν TMは、以下の式から求められる。式中、n、n及びnはそれぞれフラウンホーファー線のd線(波長587.6nm)、F線(波長486.1m)及びC線(波長656.3nm)の屈折率を表す。ν TEは、各種屈折率として面内屈折率を用いて算出され、ν TMは、各種屈折率として面外屈折率を用いて算出される。
【0056】
【数2】
【0057】
膜厚測定の結果、Poly(BMMD/DTDO)のポリマーフィルムの膜厚は3.21μm、Poly(BMMD/DTTO)のポリマーフィルムの膜厚は1.37μmであった。
【0058】
透過率については、波長450nm、400nm、350nmの各波長における透過率T450nm(%)、T400nm(%)、T350nm(%)を後掲の表に示す。
【0059】
[合成例]
<環状スルホン前駆体DTの合成>
【化14】
【0060】
500mL二口フラスコに、DT(1,4-ジチアン-2,5-ジオール)(6.90g,45.3mmol)、DMF(ジメチルホルムアミド)250mLを加え、氷浴下で塩化チオニル(18.5g,156mmol)を徐々に添加した。室温で2時間撹拌したのち、共沸蒸留により1,4-ジチインの回収を行った。フラスコ内の反応溶液が半量になった時点でDMF100mLを追添し、黒色の残留物がフラスコ内にわずかに残る程度まで共沸蒸留を行った。蒸留物はジエチルエーテルによる抽出後、蒸留水、炭酸水素ナトリウム水溶液、及び飽和食塩水でそれぞれ洗浄した。得られた有機層は硫酸マグネシウム(MgSO)を加えて脱水し、これをろ過により除去した。ロータリーエバポレータを用いた反応溶液の濃縮後、真空乾燥し、回収した。得られたDT(1,4-ジチイン)は黄色液体であり、収量2.32g、収率44%であった。H NMR及び13C NMRによりその化学構造を同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ ppm, 25°C,図1): 6.21 (s, 4H). 13C NMR (101 MHz, CDCl3, δ ppm, 25°C,図2): 121.4.
【0061】
<環状スルホンDTDOの合成>
【化15】
【0062】
200 mL二口フラスコに、DT(0.896g,8.06mmol)、氷酢酸40mL、過酸化水素水(濃度:35質量%)2.5mLを順次加え、室温で一昼夜反応を行った。反応溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液中に注いで中和した後、酢酸エチルにより目的化合物の抽出を行った。次いで、抽出溶液を蒸留水と飽和食塩水でそれぞれ洗浄し、得られた有機層にMgSOを加えて脱水した後、これをろ過により除去した。ロータリーエバポレータを用いた反応溶液の濃縮後、再結晶(ヘキサン/クロロホルム)により精製した。得られたDTDO(1,4-ジチイン-1,1-ジオキシド)は白色固体であり、収量0.486g、収率41%であった。H NMR、13C NMR、及び元素分析によりその化学構造を同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ ppm, 25°C,図3): 7.13 (d, J = 11.7, 2H), 6.84 (d, J = 11.7, 2H). 13C NMR (101 MHz, CDCl3, δ ppm, 25°C,図4): 130.1, 123.4. Anal. calcd. for C4H4O2S2(%): C, 32.42; H, 2.72; O, 21.59; S, 43.27. Found (%): C, 32.60; H, 2.68; S, 42.96.
【0063】
<環状スルホンDTTOの合成>
【化16】
【0064】
50mL一口フラスコに、DT(1.36g,11.7mmol)、酢酸20mL、及び過酸化水素水(濃度:35質量%)3.0mLを順次加え、室温で1時間撹拌を行った。反応開始1時間後に、過酸化水素水(濃度:35質量%)6.0mLを追添し、1.5時間還流した。次いで反応溶液を徐々に冷却し、析出した白色固体をろ過により回収した。得られたDTTO(1,4-ジチイン-1,1,4,4-テトラオキシド)は白色固体であり、収量0.97g、収率46%であった。H NMR、13C NMR及び元素分析によりその化学構造を同定した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6, δ ppm, 25 °C, 図5): 8.04 (s, 4H). 13C NMR (101 MHz, DMSO-d6, δ ppm, 25 °C, 図6): 136.6. Anal. calcd. for C4H4O4S2 (%): C, 26.66; H, 2.24; O, 35.52; S, 35.58. Found (%): C, 26.87; H, 2.22; S, 35.70.
【0065】
[実施例1]
【化17】
【0066】
<Poly(BMMD/DTDO)の合成>
5mL二口フラスコに、BMMD(2,5-ビス(スルファニルメチル)-1,4-ジチアン)(0.216g,1.01mmol)、N,N-ジイソプロエチルピルアミン(12.5mg,0.0967mmol)、DMSO(1.0mL)、DTDO(0.148g,1.00mmol)を加え、窒素雰囲気下、60℃で一昼夜撹拌を行った。撹拌終了後、反応溶液をメタノールに注ぎ、沈殿物をろ過により回収した。回収後、3時間真空乾燥した。得られた白色粉末の収量は0.337g、収率93%であり、対数粘度(ηinh)=0.12dL/g(DMSO溶液)であった。H NMR及び13C NMRによりその化学構造を同定した。こうして合成されたBMMDとDTDOとの重合体を、「Poly(BMMD/DTDO)」と呼ぶ。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6, δ ppm, 25 °C, 図7): 4.76 (s, 2H ) , 3.76 (d, J = 13.3 Hz, 2H ), 3.61 ( s, 2H ), 3.14-2.78 ( m, 13H ). 13C NMR (101 MHz, DMSO-d6, δ ppm, 25 °C, 図8): 58.2, 45.7, 45.0, 44.9, 44.6, 44.1, 44.0, 39.0, 38.7, 38.6, 38.2, 37.0, 36.2, 32.0, 31.5, 31.3.
【0067】
[実施例2]
【化18】
【0068】
<Poly(BMMD/DTTO)の合成>
5mL二口フラスコに、BMMD(0.133g,0.626mmol)、ピリジン(0.100mL,1.24 mmol)、DMSO(0.3mL)を加え、窒素雰囲気下で溶液を撹拌し均一溶液を得た。別途、DTTO(0.113g,0.627mmol)を0.6mLのDMSOに溶解させDTTO溶液を調製した。この溶液を、シリンジを用いて先の二口フラスコ内に滴下した。窒素雰囲気下、60℃で一昼夜撹拌を行った後、反応溶液をメタノールに注ぎ、終夜撹拌した。その後、NaCl水溶液を加えた。生成した沈殿物を吸引ろ過により回収し、6時間ほど真空乾燥させた。得られた白色粉末の収量は0.242g、収率98%であり、ηinh=0.206dL/g(DMSO溶液)であった。こうして合成されたBMMDとDTTOとの重合体を、「Poly(BMMD/DTTO)」と呼ぶ。粘度測定においては粗生成物のDMSO溶液をそのまま使用した。H NMR、13C NMR、熱特性及び光学特性の評価では、得られたポリマーをDMFに溶解させ、メタノール/NaCl水溶液の混合溶媒に再沈殿し、精製を行ったものを使用した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6, δppm, 25 °C, 図9): 5.28 - 4.96 ( m, 2H ), 4.33-3.77 ( m, 4H ), 3.19-2.78 ( m,12H ). 13C NMR (101 MHz, DMSO-d6, δ ppm, 25 °C, 図10): 63.2, 61.9, 60.8, 59.5, 55.5, 53.6, 53.6, 53.3, 51.5, 38.9, 38.7, 37.8, 37.6, 36.9, 36.2 ,31.3, 30.9, 30.8.
【0069】
図7図10において、ポリマーの構造式中のnは繰り返し単位数である。
【0070】
実施例1、実施例2について、先に記載の方法によって求められた各種物性を以下の表に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
[比較例1]
市販のポリカーボネートを1,1,2,2-テトラクロロエタンに溶解させ、濃度1質量%の溶液を調製した。調製した溶液をマイクロピペットで250μL量り取り、石英ガラス基板にドロップキャストし、窒素気流下、160℃の雰囲気中で一晩乾燥させることでポリマーフィルムを作製した。作製したポリマーフィルムの光学特性を先に記載した方法で測定した。測定結果を以下の表に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
実施例1、実施例2について、先に記載の方法によって求められたガラス転移温度Tを以下の表に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
上記の結果から、実施例1、実施例2の各重合体が、ポリカーボネートと比べて屈折率及びアッベ数が高く、しかも耐熱性(ガラス転移温度)に優れることが確認できる。実施例1、実施例2の各重合体が熱可塑性を有することも確認した。
【0079】
本明細書に記載の各種態様及び各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の一態様は、各種光学物品の技術分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10