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特開2024-122582二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法
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  • 特開-二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122582
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/12 20060101AFI20240902BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20240902BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20240902BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20240902BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240902BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
C07C1/12 ZAB
C07B61/00 300
C07C9/04
B01J23/83 Z
C25B3/03
C25B9/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030199
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】関根 泰
(72)【発明者】
【氏名】山野 遼太
(72)【発明者】
【氏名】茂木 暁
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐之輔
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB02
4G169CB62
4G169CC21
4G169CC22
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC27
4G169FA02
4G169FA08
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB44
4H006AA02
4H006BA08
4H006BA21
4H006BA61
4H006BB61
4H006BC10
4H006BC40
4H006BD80
4H006BE20
4H039CB20
4K021AC02
4K021BB01
4K021BB03
4K021DA10
4K021DC11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法であって、二酸化炭素メタン化触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率が向上した方法を提供する。
【解決手段】以下の工程:(a)反応室20と、反応室に設けられた一対の電極3,4と、一対の電極の間に設けられた触媒5とを備える反応器2を準備する工程;(b)二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスG1を反応室に供給し、原料ガスを触媒と接触させる工程;及び(c)150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れるように一対の電極間に電圧を印加する工程;を含む、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法であって、一対の電極がともに触媒に接触しており、触媒が、担体と、担体に担持された触媒活性成分とを含み、担体が、酸化セリウムを含み、触媒活性成分が、ニッケル元素を含む、方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)反応室と、前記反応室に設けられた一対の電極と、前記一対の電極の間に設けられた触媒とを備える反応器を準備する工程;
(b)二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスを前記反応室に供給し、前記原料ガスを前記触媒と接触させる工程;及び
(c)150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が前記触媒に流れるように前記一対の電極間に電圧を印加する工程;
を含む、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法であって、
前記一対の電極がともに前記触媒に接触しており、
前記触媒が、担体と、前記担体に担持された触媒活性成分とを含み、
前記担体が、酸化セリウムを含み、
前記触媒活性成分が、ニッケル元素を含む、前記方法。
【請求項2】
工程(c)が、100℃以下の温度環境下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒活性成分が、金属ニッケル及び酸化ニッケルから選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)の開始後に、工程(c)が開始される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、前記原料ガスを前記反応室に連続して供給する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)において、1mA以上10mA以下の直流電流が連続して前記触媒に流れるように前記一対の電極間に電圧を連続して印加する、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界規模で二酸化炭素等の温室効果ガスの排出削減の動きが強まっている。そこで、二酸化炭素削減のソリューションの一つとして、二酸化炭素のメタン化反応(CO+4H→CH+2HO)を促す触媒が注目されており、様々な二酸化炭素メタン化触媒が開発されている。例えば、特許文献1には、ZrO、CeO、Al-ZrO、CeO-ZrO、SiO等を含む担体上にNi等の金属が担持された二酸化炭素メタン化触媒、及び、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスを二酸化炭素メタン化触媒に接触させてメタンを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-161617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、二酸化炭素メタン化触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率が低かった。
【0005】
そこで、本発明は、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法であって、二酸化炭素メタン化触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率が向上した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]以下の工程:
(a)反応室と、前記反応室に設けられた一対の電極と、前記一対の電極の間に設けられた触媒とを備える反応器を準備する工程;
(b)二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスを前記反応室に供給し、前記原料ガスを前記触媒と接触させる工程;及び
(c)150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が前記触媒に流れるように前記一対の電極間に電圧を印加する工程;
を含む、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法であって、
前記一対の電極がともに前記触媒に接触しており、
前記触媒が、担体と、前記担体に担持された触媒活性成分とを含み、
前記担体が、酸化セリウムを含み、
前記触媒活性成分が、ニッケル元素を含む、前記方法。
[2]工程(c)が、100℃以下の温度環境下で行われる、[1]に記載の方法。
[3]前記触媒活性成分が、金属ニッケル及び酸化ニッケルから選択される1種以上を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]工程(b)の開始後に、工程(c)が開始される、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]工程(b)において、前記原料ガスを前記反応室に連続して供給する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]工程(c)において、1mA以上10mA以下の直流電流が連続して前記触媒に流れるように前記一対の電極間に電圧を連続して印加する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造する方法であって、二酸化炭素メタン化触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率が向上した方法が提供される。
【0008】
本発明において、「低温環境」は、二酸化炭素メタン化触媒が置かれている環境(二酸化炭素メタン化触媒の周囲温度)が低温であることを意味し、「低温」は、例えば150℃以下の温度を意味する。
【0009】
本発明において、メタン生成率(CH生成率)は、二酸化炭素転化率(CO転化率)及びメタン選択率(CH選択率)を使用して、以下の式から求めることができる。
CH生成率=CO転化率×CH選択率
【0010】
「CO転化率」は、総COのうちCO又はCHに変化したCOの割合(%)を表し、「CH選択率」は、CO又はCHに変化したCOのうちCHに変化したCOの割合(%)を表す。CO転化率及びCH選択率は、実施例に記載の方法及び条件に従って求めることができる。
【0011】
本発明において、CH生成率は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、高ければ高いほど好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るメタン製造装置の概略図である。
図2図2は、実施例1~6の触媒粉末を使用して得られたラマンスペクトルを示す図である。
図3図3は、比較例1の触媒粉末を使用して得られたラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<触媒>
以下、本発明の触媒の一実施形態について説明する。
【0014】
本発明の触媒は、二酸化炭素のメタン化反応(CO+4H→CH+2HO)を促す二酸化炭素メタン化触媒である。したがって、本発明の触媒は、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造することができる。
【0015】
本発明の触媒は、担体と、担体に担持された触媒活性成分とを含む。
【0016】
触媒活性成分の担持性を向上させる観点から、担体は、多孔質であることが好ましい。
【0017】
担体の形態は、触媒活性成分が担体の表面に担持され得る限り特に限定されない。担体の形態としては、例えば、粒子、層等が挙げられる。粒子は、一次粒子であってもよいし、二次粒子であってもよい。二次粒子は、一次粒子が凝集して形成された凝集粒子である。
【0018】
触媒活性成分の形態は、触媒活性成分が担体の表面に担持され得る限り特に限定されない。触媒活性成分の形態としては、例えば、粒子、層等が挙げられる。粒子は、一次粒子であってもよいし、二次粒子であってもよい。触媒活性成分は、担体の表面の一部に担持されていてもよいし、担体の表面の全体に担持されていてもよい。
【0019】
担体は、酸化セリウム(IV)(すなわちCeO)を含む。本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、担体中の酸化セリウムの含有率は、担体の質量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、より一層好ましくは75質量%以上である。上限は、理論上は100質量%であるが、不可避的不純物の存在を考慮すると、実際には100質量%未満となり得る。
【0020】
担体中の酸化セリウムの含有率は、式:(担体中のCe元素のCeO換算の質量)/(担体の質量)×100から求められる。担体中のCe元素のCeO換算の質量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定することができる。
【0021】
担体は、1種又は2種以上のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、ランタン、ガドリニウム、サマリウム、プラセオジウム、イットリウム、ユウロピウム、ジルコニウム等が挙げられる。これらの金属元素は、それぞれ、金属、合金、酸化物等の状態で担体に含まれ得る。
【0022】
触媒活性成分は、ニッケル元素を含む。
【0023】
ニッケル元素は、例えば、金属ニッケル、酸化ニッケル等の状態で存在することができる。したがって、触媒活性成分は、金属ニッケル及び酸化ニッケルから選択される1種以上を含むことができる。酸化ニッケルとしては、例えば、酸化ニッケル(II)(すなわちNiO)等が挙げられる。ニッケル元素は、2種以上の状態で存在してもよい。本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、触媒活性成分は、金属ニッケルを含むことが好ましい。
【0024】
本発明の触媒は、還元処理が施されたものであってもよいし、還元処理が施されていないものであってもよいが、本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、還元処理が施されたものであることが好ましい。ニッケル元素は、還元処理前においては、通常、酸化ニッケルの状態で存在し、還元処理後においては、酸化ニッケルが還元された状態、すなわち、金属ニッケルの状態で存在する。
【0025】
本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、本発明の触媒中のニッケル元素の含有率は、好ましくは0.8質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、より一層好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0026】
本発明の触媒中のニッケル元素の含有率は、式:(本発明の触媒中のNi元素の金属換算の質量)/(本発明の触媒の質量)×100から求められる。本発明の触媒中のNi元素の金属換算の質量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定することができる。
【0027】
本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、本発明の触媒中の酸化セリウム及びニッケル元素の合計含有率は、本発明の触媒の質量を基準として、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、より一層好ましくは90質量%以上である。上限は、理論上は100質量%であるが、不可避的不純物の存在を考慮すると、実際には100質量%未満となり得る。
【0028】
本発明の触媒中の酸化セリウム及びニッケル元素の合計含有率は、式:((本発明の触媒中のCe元素のCeO換算の質量)+(本発明の触媒中のNi元素の金属換算の質量))/(本発明の触媒の質量)×100から求められる。本発明の触媒中のCe元素のCeO換算の質量及び本発明の触媒中のNi元素の金属換算の質量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定することができる。
【0029】
本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、本発明の触媒のラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおいて、400cm-1以上500cm-1以下の範囲に存在するピークトップのピーク強度をP1とし、600cm-1の位置におけるピーク強度をP2としたとき、P2/P1は、好ましくは0.15以上0.60以下、より好ましくは0.25以上0.50以下、より一層好ましくは0.30以上0.45以下である。本発明の触媒のラマン分光測定は、実施例に記載の方法及び条件に従って測定することができる。本発明の触媒のラマン分光測定により得られるラマンスペクトルにおいて、400cm-1以上500cm-1以下の範囲には、1つのピークトップが存在する。一方、600cm-1の位置におけるピーク強度に関しては、必ずしもピークトップのピーク強度である必要はない。なお、ピーク強度P1及びP2は、それぞれ、1000cm-1の位置におけるピーク強度をベースラインとして、ピーク強度の実測値から1000cm-1の位置におけるピーク強度を減算して求めるものとする。
【0030】
二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスが、150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が流れる本発明の触媒と接触すると、本発明の触媒の作用により二酸化炭素のメタン化反応(CO+4H→CH+2HO)が進行し、原料ガスからメタンが製造される。そのメカニズムは、次のように考えられる。
150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が本発明の触媒に流れると、本発明の触媒のCeO表面に存在するOH基を介して伝導するプロトン(H)供給が促進される。特に、メタンの生成は本発明の触媒の触媒活性成分中のNi元素と、本発明の触媒の担体中のCeOと、原料ガス中のCOとの3相界面で促進されることとなる。なお、電場を使用しない一般的な熱反応においては、触媒活性成分中のNi元素が金属ニッケルとして存在する場合には、metalicなNiサイトで水素がH解離し、金属ニッケルの表面および3相界面に吸着したCOが水素化されることにより、メタンが生成される。ところが、本発明においては、上述のように電場を利用することにより、触媒活性成分中のNi元素が金属ニッケルの場合だけでなく、酸化ニッケルのいずれの状態で存在する場合にも、本発明の触媒の担体中のCeO表面に存在するOH基を介して伝導するプロトン(H)がCOに付加することになり、メタンが生成されると考えられる。
【0031】
P2/P1が上記範囲であると、本発明の触媒の担体中のCeO表面の酸素の格子欠陥を利用した原料ガス中のCOからCOへの解離が促進され、上記メカニズムによるメタンの生成と併せて促進されるため、本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させることができる。
【0032】
P2/P1は、本発明の触媒の組成を調整すること(例えば、本発明の触媒中のニッケル元素の含有率を上記範囲とすること)や、本発明の触媒の担体中の酸化セリウムの結晶性を調整すること(例えば、本発明の触媒の担体として、酸化セリウムナノ結晶を含む担体を使用すること等)により上記範囲に調整することができる。
【0033】
本発明の触媒の比表面積が大きくなるほど、本発明の触媒が低温環境下にある場合のメタン生成率が向上する。しかしながら、P2/P1が上記範囲にある場合、本発明の触媒は、比表面積が小さくても、低温環境下において十分なメタン生成率を実現することができる。したがって、本発明の触媒の効果は、本発明の触媒の比表面積が小さい場合に顕著である。具体的には、本発明の触媒の効果は、本発明の触媒の比表面積が200m/g以下である場合に顕著であり、150m/g以下である場合により顕著であり、130m/g以下である場合により一層顕著である。本発明の触媒の比表面積の下限は、例えば、10m/g又は50m/gであることが好ましい。これらの下限は、それぞれ、上述の上限のいずれと組み合わせてもよい。上述した本発明の触媒の比表面積は還元処理を施す前の状態における値であり、実施例に記載の方法及び条件に従って測定することができる。
【0034】
本発明の触媒は、担体用材料(例えば、酸化セリウム粉末)及び触媒活性成分用材料(例えば、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル等のニッケル塩)を所定の比率で水溶液中に混合し、必要に応じて乾燥した後、焼成することにより製造することができる。乾燥温度は、例えば60℃以上200℃以下であり、乾燥時間は、例えば0.5時間以上24時間以下である。焼成温度は、例えば250℃以上600℃以下であり、焼成時間は、例えば1時間以上12時間以下である。焼成は、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。
【0035】
<メタン製造装置>
以下、図1に基づいて、本発明の一実施形態に係るメタン製造装置1について説明する。
【0036】
図1に示すように、メタン製造装置1は、反応器2を備える。
【0037】
図1に示すように、反応器2は、反応室20と、反応室20に設けられた一対の電極3,4と、一対の電極3,4の間に設けられた触媒5とを備える。
【0038】
図1に示すように、反応器2は、反応器本体21を有する。反応室20は、反応器本体21内に形成されている。反応器本体21の材料は、二酸化炭素のメタン化反応において化学的に不活性である限り特に限定されない。反応器本体21の材料としては、例えば、石英、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。反応器本体21のサイズは特に限定されない。反応器本体21の内径は、例えば、4mm以上100mm以下である。反応器本体21の長さは、例えば、150mm以上1000mm以下である。
【0039】
図1に示すように、反応器2は、ガス流入口22及びガス流出口23を有する。ガス流入口22及びガス流出口23は、それぞれ、反応器本体21に設けられている。例えば、ガス流入口22は反応器本体21の一端側に、ガス流出口23は反応器本体21の他端側に設けられている。
【0040】
図1に示すように、電極3,4は、反応室20内に、所定の距離で隔てて対向して配置されている。電極3は、電圧印加側の電極であり、電圧印加手段7(後述)に電気的に接続されている。電極4は、接地側の電極であり、接地(アース)されている。
【0041】
電極3,4の材料は、二酸化炭素のメタン化反応において化学的に不活性であり、電場形成が可能な導電性を有する限り特に限定されない。電極3,4の材料としては、例えば、ステンレス鋼、チタニウム合金等が挙げられる。
【0042】
電極3,4の形態は、触媒5と接触可能である限り特に限定されない。電極3,4の形態としては、例えば、棒、平板、メッシュ等が挙げられる。平板の平面視形状は特に限定されず、例えば、円形、四角形等が挙げられる。図1に示すように、電極3,4は、例えば、反応器本体21の長さ方向に延在する棒の形態である。
【0043】
電極3,4はともに触媒5に接触している。これより、反応室20内の空気を介したプラズマ放電の発生を防止することができる。
【0044】
図1に示すように、電極3,4が棒の形態である場合、棒の先端部が触媒5と接触している。
【0045】
電極3と電極4との距離は、電極3,4がともに触媒5に接触し得る限り特に限定されない。電極3と電極4との距離は、触媒5の厚みと等しいか、又は、触媒5の厚みよりも小さい。触媒5の厚みは、反応器本体21の長さ方向(原料ガスが流れる方向)の寸法である。
【0046】
触媒5は、二酸化炭素のメタン化反応(CO+4H→CH+2HO)を促す二酸化炭素メタン化触媒である。したがって、触媒5は、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスからメタンを製造することができる。
【0047】
触媒5としては、本発明の触媒を使用する。本発明の触媒に関する説明は、上記の通りである。
【0048】
触媒5の形態は、電極3,4と接触可能である限り特に限定されない。触媒5の形態としては、例えば、粒子、層等が挙げられる。粒子は、一次粒子であってもよいし、二次粒子であってもよい。層は、粒子が集合することにより形成されていてもよい。
【0049】
図1に示すように、触媒5は、例えば、反応器本体21の長さ方向の略中央に、反応器本体21の長さ方向と略垂直な方向に延在する層として存在する。
【0050】
触媒5の量は、二酸化炭素ガス及び水素ガスを含む原料ガスの供給量等に応じて適宜調整することができる。
【0051】
図1に示すように、メタン製造装置1は、触媒5を支持する支持手段6を備えていてもよい。支持手段6としては、例えば、多孔質の支持板等を使用することができる。支持板の材料としては、例えば、セラミックス等が挙げられる。
【0052】
図1に示すように、メタン製造装置1は、電極3,4間に電圧を印加する電圧印加手段7を備えていてもよい。電圧印加手段7は、例えば、電源である。
【0053】
図1に示すように、メタン製造装置1は、電極3,4間に印加される電圧を制御する電圧制御手段8を備えていてもよい。
【0054】
メタン製造装置1は、電圧印加手段7及び必要に応じて電圧制御手段8を使用して、1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れるように、電極3,4の間に電圧を印加することができる。
【0055】
図1に示すように、メタン製造装置1は、原料ガス供給手段9を備えていてもよい。
【0056】
図1に示すように、原料ガス供給手段9は、反応室20に原料ガスG1を供給する供給管91と、供給管91に二酸化炭素ガスG2を供給する二酸化炭素ガス供給源92と、供給管91に水素ガスG3を供給する水素ガス供給源93とを備える。
【0057】
図1に示すように、供給管91の一端は、反応器2のガス流入口22に接続されている。
【0058】
二酸化炭素ガス供給源92としては、例えば、二酸化炭素ガス含有ボンベ、二酸化炭素ガス発生装置等を使用することができる。
【0059】
水素ガス供給源93としては、例えば、水素ガス含有ボンベ、水素ガス発生装置等を使用することができる。
【0060】
図1に示すように、原料ガス供給手段9は、供給管91に希釈ガスG4を供給する希釈用ガス供給源94を備えていてもよい。希釈用ガスG4としては、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。希釈用ガス供給源94としては、例えば、希釈用ガス含有ボンベ、希釈用ガス発生装置等を使用することができる。
【0061】
二酸化炭素ガス供給源92から供給管91に二酸化炭素ガスが供給され、水素ガス供給源93から供給管91に水素ガスが供給され、場合により希釈用ガス供給源94から希釈用ガスが供給されることにより、二酸化炭素ガス、水素ガス及び場合により希釈用ガスを含む原料ガスG1が調製され、調製された原料ガスG1は、反応器2のガス流入口22を通じて、反応室20に供給される。反応室20に供給された原料ガスG1は、触媒5を通過する際、触媒5と接触する。
【0062】
原料ガス供給手段9は、ポンプを備えていてもよい。原料ガス供給手段9は、例えば、ポンプの吸込力及び吐出力を利用して、原料ガスG1を反応室20に供給することができる。
【0063】
図1に示すように、メタン製造装置1は、触媒5が置かれている環境の温度(触媒5の周囲温度、すなわち反応室20内の雰囲気温度)を制御する温度制御手段10を備えていてもよい。温度制御手段10は、例えば、反応器2の包囲する加熱炉を有する。加熱炉は、例えば、電気炉である。加熱炉は、加熱炉内の反応器2を加熱することにより、触媒5の周囲温度(すなわち反応室20内の雰囲気温度)を上昇させることができる。
【0064】
図1に示すように、メタン製造装置1は、触媒5の作用により原料ガスG1から生成されたメタンMを、場合により未反応の二酸化炭素ガス及び/又は水素ガス、二酸化炭素ガスから生成された一酸化炭素ガス等とともに、反応室20から排出する排出管11を備えていてもよい。
【0065】
図1に示すように、排出管11の一端は、反応器2のガス流出口23に接続されている。
【0066】
<メタンの製造方法>
以下、メタン製造装置1を使用して、二酸化炭素及び水素を含む原料ガスからメタンを製造する方法の実施形態について説明する。
【0067】
本実施形態に係る方法は、以下の工程:
(a)反応室20と、反応室20に設けられた一対の電極3,4と、一対の電極3,4の間に設けられた触媒5とを備える反応器2を準備する工程;
(b)二酸化炭素及び水素を含む原料ガスG1を反応室20に供給し、原料ガスG1を触媒5と接触させる工程;及び
(c)150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れるように一対の電極3,4間に電圧を印加する工程;
を含む。
【0068】
上記の通り、電極3,4はともに触媒5に接触している。
【0069】
上記の通り、触媒5としては、本発明の触媒を使用する。
【0070】
触媒5が、還元処理が施されていないものである場合、工程(b)及び工程(c)の開始前に、触媒5の還元処理を行ってもよい。触媒5の還元処理は、例えば200℃以上500℃以下の温度環境下、水素ガスを含む還元ガスを反応室20に供給し、還元ガスを触媒5と接触させることにより行うことができる。還元ガスを触媒5と接触させる時間は、例えば0.5時間以上12時間以下である。還元ガスは、水素ガスに加えて、希釈用ガスを含んでいてもよい。希釈用ガスとしては、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。還元ガス中の水素ガス及び希釈用ガスの含有率は、適宜調整可能である。還元ガス中の水素ガスの含有率は、還元ガスの体積を基準として、例えば3体積%以上100体積%以下である。還元ガス中の希釈用ガスの含有率は、還元ガスの体積を基準として、例えば0体積%以上97体積%以下である。
【0071】
工程(b)は、原料ガス供給手段9を使用して行うことができる。具体的には、二酸化炭素ガス供給源92から供給管91に二酸化炭素ガスを供給し、水素ガス供給源93から供給管91に水素ガスを供給し、場合により希釈用ガス供給源94から希釈用ガスを供給することにより、二酸化炭素ガス、水素ガス及び場合により希釈用ガスを含む原料ガスG1を調製し、調製された原料ガスG1を、反応器2のガス流入口22を通じて、反応室20に供給することができる。反応室20に供給された原料ガスG1は、触媒5を通過する際、触媒5と接触する。
【0072】
工程(b)において、原料ガスG1を反応室20に連続して供給することが好ましい。反応室20に連続して供給された原料ガスG1は、触媒5を連続して通過し、触媒5と連続して接触する。原料ガスG1を反応室20に連続して供給する時間は、例えば3分以上である。
【0073】
原料ガスG1中の二酸化炭素ガス、水素ガス及び希釈用ガスの含有率は、適宜調整可能である。原料ガスG1中の二酸化炭素ガスの含有率は、原料ガスG1の体積を基準として、例えば10体積%以上80体積%以下である。原料ガスG1中の水素ガスの含有率は、原料ガスG1の体積を基準として、例えば20体積%以上90体積%以下である。原料ガスG1中の希釈用ガスの含有率は、原料ガスG1の体積を基準として、例えば0体積%以上50体積%以下である。
【0074】
反応室20への原料ガスG1の供給量は、反応室20の容量等に応じて適宜調整することができる。反応器本体21の内径が4mm以上100mm以下であり、反応器本体21の長さが150mm以上1000mm以下である場合、反応室20への原料ガスG1の供給量は、例えば20mL/min以上5000mL/minある。
【0075】
原料ガスG1の供給後の反応室20内の圧力は、適宜調整することができる。原料ガスG1の供給後の反応室20内の圧力は、例えば0.1MPa以上10MPa以下である。
【0076】
工程(c)は、温度制御手段10、電圧印加手段7及び必要に応じて電圧制御手段8を使用して行うことができる。具体的には、温度制御手段10を使用して、触媒5が置かれている環境の温度(触媒5の周囲温度、すなわち反応室20内の雰囲気温度)を150℃以下に調整することができる。また、電圧印加手段7及び必要に応じて電圧制御手段8を使用して、1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れるように、電極3,4間に電圧を印加することができる。
【0077】
温度制御手段10の使用に代えて又は温度制御手段10の使用とともに、反応室20に供給される原料ガスG1の温度を調整することにより、触媒5が置かれている環境の温度を調整してもよい。例えば、加熱された原料ガスG1を反応室20に供給することにより、触媒5が置かれている環境の温度を上昇させることができる。
【0078】
1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れ得る限り、電極3,4間に印加される電圧は特に限定されない。電極3,4間に印加される電圧は、触媒5の組成等に応じて適宜調整可能であるが、例えば30V以上1500V以下である。
【0079】
150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れるように電極3,4間に電圧を印加することができる限り、触媒5が置かれている環境の温度の調整及び電極3,4間への電圧の印加の実施順序は特に限定されない。
【0080】
一実施形態において、触媒5が置かれている環境の温度を150℃以下に調整した後、1mA以上10mA以下の直流電流が触媒5に流れるように、電極3,4間に電圧を印加する。
【0081】
原料ガスG1が、150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が流れる触媒5と接触することができる限り、工程(b)及び工程(c)の実施順序は特に限定されない。
【0082】
一実施形態において、工程(c)は、工程(b)の開始前に開始され、別の実施形態において、工程(c)は、工程(b)と同時に開始され、さらに別の実施形態において、工程(c)は、工程(b)の開始後かつ終了前に開始される。これらの実施形態において、工程(c)は、工程(b)の開始後かつ終了前に終了してもよいし、工程(b)の終了後に終了してもよい。
【0083】
さらに別の実施形態において、工程(c)は、工程(b)の終了後に開始される。
【0084】
触媒5が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、工程(c)は、工程(b)の開始後に開始されることが好ましく、原料ガスG1が反応室20に安定して供給される状態となった後(例えば、工程(b)の開始10秒後~180秒後)に行われることがより好ましい。工程(c)が工程(b)の開始後に開始される場合としては、工程(c)が工程(b)の開始後かつ終了前に開始される場合、及び、工程(c)が工程(b)の終了後に開始される場合が挙げられるが、工程(c)が工程(b)の開始後かつ終了前に開始される場合が好ましい。
【0085】
触媒5が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、工程(c)において、150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が連続して触媒5に流れるように電極3,4間に電圧を連続して印加することが好ましい。1mA以上10mA以下の直流電流が連続して触媒5に流れる時間は、例えば3分以上である。
【0086】
一実施形態において、原料ガスG1を反応室20に連続して供給し、原料ガスG1を触媒5と連続して接触させながら、150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が連続して触媒5に流れるように電極3,4間に電圧を連続して印加する。
【0087】
原料ガスG1が、150℃以下の温度環境下、1mA以上10mA以下の直流電流が流れる触媒5と接触すると、触媒5の作用により二酸化炭素のメタン化反応(CO+4H→CH+2HO)が進行し、原料ガスG1からメタンが製造される。そのメカニズムは、上述したメカニズムの通りである。
【0088】
工程(c)において、触媒5が置かれている環境の温度は150℃以下である限り特に限定されない。一般的には、触媒5が置かれている環境の温度が高いほど、メタン生成率が向上する。しかしながら、本発明の方法によれば、触媒5が置かれている環境の温度が低くても、十分なメタン生成率を実現することができる。したがって、本発明の方法の効果は、触媒5が置かれている環境の温度が低い場合に顕著である。具体的には、本発明の方法の効果は、触媒5が置かれている環境の温度が150℃以下であっても、100℃以下であっても、80℃以下であっても、70℃以下であっても、発揮される。触媒5が置かれている環境の温度の下限は、例えば、10℃である。この下限は、上述の上限のいずれと組み合わせてもよい。
【0089】
工程(c)において、触媒5に流れる直流電流は、1mA以上10mA以下である限り特に限定されない。触媒5が低温環境下にある場合のメタン生成率を向上させる観点から、触媒5に流れる直流電流は、好ましくは3mA以上10mA以下、より好ましくは3mA以上7mA以下である。
【0090】
触媒5の作用により原料ガスG1から生成されたメタンMは、場合により未反応の二酸化炭素ガス及び/又は水素ガス、二酸化炭素ガスから生成された一酸化炭素ガス等とともに、反応器2のガス流出口23を通じて、反応室20から排出される。反応室20から排出されたメタンMは、排出管11を通じて、回収することができる。
【実施例0091】
<実施例1~6及び比較例1>
実施例1~6及び比較例1は、それぞれ、以下の通り実施した。
【0092】
(1)触媒の調製
表1に示す量のCeO粉末(CeO含有率:99質量%以上)に純水50mLを加えて撹拌し、CeO粉末懸濁液を得た。
【0093】
Ni塩を純水50mLに溶解し、Ni塩水溶液を得た。実施例1~5及び比較例1では、それぞれ、Ni塩として、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))を使用した。実施例6では、Ni塩として、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO))を使用した。Ni塩水溶液をCeO粉末懸濁液に滴下して混合し、120℃で蒸発乾固し、CeO粉末にNi元素を担持させた。乾固物を回収して乳鉢で粉砕した後、大気雰囲気下、400℃で3時間、焼成し、触媒粉末を得た。
【0094】
触媒粉末0.1gをアルカリ融解後、塩酸で溶解し、純水で希釈して所定の容量の測定用サンプルを得た。測定用サンプル中のNi元素の金属換算の含有量を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(HITACHI社製PS3520UVDD)にて測定し、触媒粉末中のNi含有率を求めた。触媒粉末中のNi含有率は、式:(触媒粉末中のNi元素の金属換算の質量)/(触媒粉末の質量)×100から求められる。結果を表1に示す。
【0095】
(2)比表面積の測定
触媒粉末の比表面積を測定した。結果を表1に示す。
比表面積は、マイクロトラック・ベル社製のBELSORP-mini IIを使用して、窒素ガスによる吸脱着等温線自動測定プログラムにより、BET多点法(JIS Z 8830:2013)により測定した。測定粉末の量は0.05~0.1g程度とし、予備脱気条件は大気圧下、120℃で3時間とした。
【0096】
(3)ラマン分光測定(ラマン分光法の実施)
触媒粉末をガラス板に固定させ、ラマン分光法を実施し、ラマンスペクトルを得た。
ラマン分光法は、以下の条件で実施した。
・装置:日本分光株式会社製NRS-4500
・レーザー波長:532.2nm
・測定時間:15秒
・積算回数:10回
・波長範囲:50cm-1以上4000cm-1以下(解析範囲:50cm-1以上1000cm-1以下)
・分解能:14.4cm-1
・レーザー強度:5%
【0097】
得られたラマンスペクトルにおいて、400cm-1以上500cm-1以下の範囲に存在するピークトップのピーク強度をP1とし、600cm-1の位置におけるピーク強度をP2とし、ピーク強度P1に対するピーク強度P2の比(P2/P1)を求めた。なお、ピーク強度P1及びP2は、それぞれ、1000cm-1の位置におけるピーク強度をベースラインとして、ピーク強度の実測値から1000cm-1の位置におけるピーク強度を減算して求めた。結果を表1に示す。
【0098】
実施例1~6の触媒粉末を使用して得られたラマンスペクトルを図2に示し、比較例1の触媒粉末を使用して得られたラマンスペクトルを図3に示す。なお、図2及び3には、測定された波長範囲(50cm-1以上4000cm-1以下)のうち、50cm-1以上1000cm-1以下の範囲におけるラマンスペクトルを示す。
【0099】
【表1】
【0100】
<試験例1>
実施例1~6及び比較例1の各触媒粉末の活性を評価した。評価は、常圧固定床流通式反応器を使用して行った。使用した反応器の構成は、図1に示す反応器と同様である。反応器本体として、内径6.0mm、外径8.0mmの石英管を使用した。
【0101】
各触媒粉末100mgを反応器本体の長さ方向の略中央に充填して、反応器本体の長さ方向と略垂直な方向に延在する触媒層(厚みは2.5mm程度)を形成した。触媒層の上面は、反応器のガス流入口側を向き、触媒層の下面は、反応器のガス流出口側を向く。電場を印加するために触媒層の上面及び下面に、それぞれ、ステンレス鋼製の電極SUS304(外径2mm)を挿入した。触媒層の上面に挿入された電極を高圧電源装置(松定プレシジョン社製 高圧電源装置HAR-30N40)に電気的に接続し、触媒層の下面に挿入された電極を接地した。
【0102】
反応を行う前に触媒層の還元処理を行った。具体的には、H:Ar=1:3(体積比)のガスを流量100mL/minで触媒層に供給し、500℃で1時間、還元処理を行った。還元処理により、触媒層中のNiOはNi金属に還元される。「Ar」はアルゴンを意味する(以下同様)。
【0103】
触媒層の還元処理後、温度制御手段(70℃又は150℃の加熱炉)を使用して、触媒層が置かれている環境の温度(触媒層の周囲温度、すなわち反応室内の雰囲気温度)を70℃又は150℃に調整した。
【0104】
触媒層の周囲温度の調整後、反応器のガス流入口から、H:CO:Ar=4:1:5(体積比)の原料ガスを流量100mL/minで反応器内の反応室に連続して供給した。使用したガスの純度はいずれも99.99%以上である。
【0105】
原料ガスが反応室に安定して供給される状態となった後(原料ガスの供給開始30秒後)、高圧電源装置をCC(定電流)モードで使用して、触媒層の上面及び下面に挿入された2本の電極に電圧を連続して印加し、5mAの直流電流を連続して触媒層に加えた。応答電圧はオシロスコープ(TDS 2001C,Tektronics Inc.)を使用して測定した。
【0106】
反応室に供給された原料ガスは、触媒層を通過する際、触媒層と接触し、触媒層の作用により原料ガス中のH及びCOからCHが生成される。生成されたメタンは、未反応のCO及び/又はH、COから生成されたCO等とともに、反応器のガス流出口から流出する。
【0107】
反応器のガス流出口から流出したガスを、氷水トラップに通して水を除去した後、サンプリングし、サンプリングした0.1mLのガス中のCH、CO及びCOを分析した。ガスのサンプリングは、触媒層の上面及び下面に挿入された2本の電極への電圧印加開始10分後から、10分ごとに3回行った。3回のサンプリングで得られたガスにおけるCH、CO及びCOの分析データの平均値を、それぞれ、CH、CO及びCOの分析データとして採用した。
【0108】
CH、CO及びCOの分析は、ガスクロマトグラフィ-水素炎イオン化検出器(GC-FID)(島津製作所製 GC-14B)を使用して行った。具体的には、カラムとしてMarkes International製のPorapak Nを使用してガス中のCH、CO及びCOを分離し、次いで、メタナイザー(Ru/Al触媒)を使用してCO及びCOを順次CHに転換し、これらをGC-FID測定することにより、CH、CO及びCOを定量した。
【0109】
CO転化率(%)、CH選択率(%)、CH生成率(%)及びマテリアルバランスを、それぞれ、以下の式を使用して算出した。温度制御手段(70℃の加熱炉)を使用して、触媒層の周囲温度を70℃に調整した場合の結果を表2に、温度制御手段(150℃の加熱炉)を使用して、触媒層の周囲温度を150℃に調整した場合の結果を表3に示す。
【0110】
「CO転化率」は、総COのうちCO又はCHに変化したCOの割合を、「CH選択率」は、CO又はCHに変化したCOのうちCHに変化したCOの割合を表す。「F_CO,in」は、COの供給速度を、「F_CO,out」は、COの生成速度を、「F_CH,out」は、CHの生成速度を表す。
【0111】
CO転化率(%)=(F_CO,out+F_CH,out)/F_CO,in×100
CH選択率(%)=F_CH,out/(F_CH,out+F_CO,out)×100
CH生成率(%)=CO転化率(%)×CH選択率(%)
マテリアルバランス=(出口ガスの各成分(CH,CO,CO)の物質量の総和)/(入口ガスのCOの物質量)×100
【0112】
マテリアルバランスはいずれの試験において100%に近い値が算出され、サンプリングしたガス中の成分としてCH、CO及びCOのみが検出された。したがって、炭素析出はほぼ起こらなかったと考えられる。
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
<試験例2>
反応を行う前に触媒層の還元処理を行わなかった点を除き、試験例1と同様して、実施例3及び6の各触媒粉末の活性を評価した。温度制御手段(70℃の加熱炉)を使用して、触媒層の周囲温度を70℃に調整した場合の結果を表4に、温度制御手段(150℃の加熱炉)を使用して、触媒層の周囲温度を150℃に調整した場合の結果を表5に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【符号の説明】
【0118】
1・・・メタン製造装置
2・・・反応器
20・・・反応室
21・・・反応器本体
22・・・ガス流入口
23・・・ガス流出口
3・・・電極(電圧印加側)
4・・・電極(接地側)
5・・・触媒
6・・・支持手段
7・・・電圧印加手段
8・・・電圧制御手段
9・・・原料ガス供給手段
91・・・供給管
92・・・二酸化炭素ガス供給源
93・・・水素ガス供給源
94・・・希釈用ガス供給源
10・・・温度制御手段
11・・・排出管
G1・・・原料ガス
G2・・・二酸化炭素ガス
G3・・・水素ガス
G4・・・希釈用ガス
図1
図2
図3