(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122591
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】積層電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/12 20060101AFI20240902BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240902BHJP
H01G 4/10 20060101ALI20240902BHJP
H01F 17/02 20060101ALI20240902BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20240902BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20240902BHJP
H01C 7/105 20060101ALI20240902BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20240902BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240902BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01G4/12 540
H01G4/30 515
H01G4/10
H01G4/30 201N
H01F17/02
H01C7/02
H01C7/04
H01C7/105
H10N30/50
H10N30/853
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030213
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼太
【テーマコード(参考)】
5E001
5E034
5E070
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE01
5E001AE02
5E034DA07
5E034DB11
5E070BA01
5E082BC31
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG27
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】曲げ強度が高く、耐熱衝撃性が良好であり、しかも比抵抗値が高い積層電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】内側セラミックス層と内部電極層とが交互に積層された内装領域を有する素子本体を具備する積層電子部品であって、内側セラミックス層は第1粒子および第2粒子を有し、元素GをSiおよび/またはGeと定義し、元素Gの酸化物をGO
2と定義したとき、第1粒子はGO
2、BaO、SrOおよびTa
2O
5を有し、第2粒子はBaO、SrOおよびTa
2O
5を有する積層電子部品。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側セラミックス層と内部電極層とが交互に積層された内装領域を有する素子本体を具備する積層電子部品であって、
前記内側セラミックス層は第1粒子および第2粒子を有し、
元素GをSiおよび/またはGeと定義し、元素Gの酸化物をGO2と定義したとき、
前記第1粒子はGO2、BaO、SrOおよびTa2O5を有し、
前記第2粒子はBaO、SrOおよびTa2O5を有する積層電子部品。
【請求項2】
前記内装領域の積層方向の端部には外装領域が設けられ、前記外装領域は前記第1粒子および前記第2粒子を有する請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項3】
前記内装領域の側方にはマージン領域が設けられ、前記マージン領域は前記第1粒子および前記第2粒子を有する請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項4】
前記内装領域の側方にはマージン領域が設けられ、前記マージン領域は前記第1粒子および前記第2粒子を有する請求項2に記載の積層電子部品。
【請求項5】
前記積層電子部品の断面において前記内側セラミックス層における前記第1粒子が占める面積比をAI(1)とし、前記第2粒子が占める面積比をAI(2)としたとき、
0.05<AI(1)/AI(2)<0.25を満足する請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項6】
前記第1粒子におけるGO2の酸化物換算での含有比率をC(G)とし、
前記第1粒子におけるBaOの酸化物換算での含有比率をC(Ba)としたとき、
0.5<C(G)/C(Ba)<3.0を満足する請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項7】
前記第2粒子の主成分が化学式{BaxSr(1-x)}mTa4O12で表されるタングステンブロンズ型構造である請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項8】
前記外装領域または前記マージン領域における前記第1粒子の占める面積比をAO(1)、前記内側セラミックス層における前記第1粒子の占める面積比をAI(1)としたとき、
AO(1)> AI(1)を満足する請求項4に記載の積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、その信頼性の高さやコストの安さから多くの電子機器に搭載されている。具体的な電子機器としては、携帯電話等の情報端末、家電、自動車電装品が挙げられる。この中でも自動車電装品などの車載用として使用される積層セラミックコンデンサは、家電や情報端末などに使用されている積層セラミックコンデンサに比べて、曲げ強度が高く、耐熱衝撃性が良好であることが求められている。
【0003】
たとえば特許文献1では、Ba、SrおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも1つである元素αと、Taまたは、TaおよびNbからなる元素βとが、それぞれ所定の範囲内の量で内部セラミックス層に含まれることなどにより、曲げ強度および耐熱衝撃性を向上させることができる積層電子部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、曲げ強度が高く、耐熱衝撃性が良好であり、しかも比抵抗値が高い積層電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る積層電子部品は、内側セラミックス層と内部電極層とが交互に積層された内装領域を有する素子本体を具備する積層電子部品であって、
前記内側セラミックス層は第1粒子および第2粒子を有し、
元素GをSiおよび/またはGeと定義し、元素Gの酸化物をGO2と定義したとき、
前記第1粒子はGO2、BaO、SrOおよびTa2O5を有し、
前記第2粒子はBaO、SrOおよびTa2O5を有する。
【0007】
本発明に係る積層電子部品によれば、ガラス成分であるGO2を含む第1粒子により、母材である第2粒子の結合力を高めることができ、その結果、曲げ強度を向上させることができると考えられる。また、GO2は高抵抗であることから、GO2を含む第1粒子が内側セラミックス層に存在することにより、比抵抗値が向上すると考えられる。
【0008】
好ましくは、前記内装領域の積層方向の端部には外装領域が設けられ、前記外装領域は前記第1粒子および前記第2粒子を有する。
【0009】
好ましくは、前記内装領域の側方にはマージン領域が設けられ、前記マージン領域は前記第1粒子および前記第2粒子を有する。
【0010】
以下では、「内側セラミックス層」、「外装領域」および「マージン領域」をまとめて「誘電体組成物」と記載することがある。
【0011】
前記積層電子部品の断面において前記内側セラミックス層における前記第1粒子が占める面積比をAI(1)とし、前記第2粒子が占める面積比をAI(2)としたとき、
好ましくは0.05<AI(1)/AI(2)<0.25を満足する。
【0012】
内側セラミックス層において、第1粒子が第2粒子に対して所定の範囲内の比率で存在することにより、ガラス成分であるGO2を含む第1粒子が、母材である第2粒子の結合力をより高め、その結果、曲げ強度をより向上させることができると共に耐熱衝撃性を向上させることができると考えられる。また、GO2は高抵抗であることから、「AI(1)/AI(2)」が0.05以下の場合に比べて「AI(1)/AI(2)」が「0.05<AI(1)/AI(2)<0.25」を満たす場合は、比抵抗値がより向上すると考えられる。
【0013】
前記第1粒子におけるGO2の酸化物換算でのモル含有比率をC(G)とし、
前記第1粒子におけるBaOの酸化物換算でのモル含有比率をC(Ba)としたとき、
好ましくは0.5<C(G)/C(Ba)<3.0を満足する。
【0014】
ガラス成分である元素G(Siおよび/またはGe)がBaに対して所定の範囲内の比率で存在することにより、ガラス成分であるGO2を含む第1粒子が、母材である第2粒子の結合力をさらに高め、その結果、曲げ強度をさらに向上させることができると共に、耐熱衝撃性を向上させることができると考えられる。また、GO2は高抵抗であることから、所定量のGO2を含む第1粒子が誘電体組成物内に存在することで比抵抗値がさらに向上すると考えられる。
【0015】
好ましくは、前記第2粒子の主成分が化学式{BaxSr(1-x)}mTa4O12で表されるタングステンブロンズ型構造である。
【0016】
母材である第2粒子がタングステンブロンズ型構造であることにより、耐熱衝撃性および曲げ強度がより向上する。
【0017】
前記外装領域または前記マージン領域における前記第1粒子の占める面積比をAO(1)、前記内側セラミックス層における前記第1粒子の占める面積比をAI(1)としたとき、
好ましくは、AO(1)> AI(1)を満足する。
【0018】
第1粒子が内側セラミックス層より外装領域またはマージン領域に多く存在することで、曲げ強度をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1AのIB-IB線に沿う積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.積層セラミックコンデンサ
1.1.積層セラミックコンデンサの全体構成
本実施形態に係る積層電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ2が
図1Aおよび
図1Bに示される。積層セラミックコンデンサ2は、素子本体4を有し、素子本体4は内装領域13と、外装領域15と、マージン領域17とを有する。
【0021】
内装領域13は、X軸およびY軸を含む平面に実質的に平行な内側誘電体層(内側セラミックス層)10と内部電極層12とを有し、内側誘電体層10と、内部電極層12と、がZ軸方向に交互に積層された構成である。
【0022】
外装領域15は内装領域13の積層方向(Z軸方向)の外側に位置する。
【0023】
マージン領域17は内装領域13の側方に設けられている。具体的には、
図1Bに示すように、素子本体4の幅方向(Y軸方向)に沿って、内部電極層12のY軸方向の端部を含むZ-X平面に平行な面から、素子本体4のY軸方向の端面(Z-X平面に平行な面)までの区間をマージン領域17としている。
【0024】
ここで、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
【0025】
また、「内側」は、積層セラミックコンデンサ2の中心により近い側を意味し、「外側」は、積層セラミックコンデンサ2の中心からより離れた側を意味する。
【0026】
さらに、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行ではない部分を有していてもよいことを意味し、内側誘電体層10と内部電極層12とは、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよい。
【0027】
また、
図1Aによれば、素子本体4のX軸方向の端面は、平面であり、言い換えると、内側誘電体層10と内部電極層12とが面一となるように積層されている。しかし、素子本体4のX軸方向の端面は、平面ではない部分を有していてもよい。また、内側誘電体層10と内部電極層12とが面一とはならずに、たとえば内側誘電体層10の一部が削れていたり、内部電極層12の一部が突き出た状態で積層されていてもよい。
【0028】
外装領域15は外側誘電体層(外側セラミックス層)11により構成されている。外装領域15は一層の外側誘電体層11のみによる単層構造であってもよいし、複数の外側誘電体層11が積層された積層構造であってもよい。
【0029】
素子本体4の両端部には、素子本体4の内部で交互に配置された内部電極層12と各々導通する一対の外部電極6が形成してある。素子本体4の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体4の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0030】
本実施形態では、素子本体4の縦寸法L0(
図1A参照)は、7.5~0.4mmであってもよい。素子本体4の幅寸法W0(
図1B参照)は、6.3~0.2mmであってもよい。素子本体4の高さ寸法H0(
図1B参照)は、6.3~0.2mmであってもよい。
【0031】
なお、素子本体4の縦寸法L0は、
図1Aおよび
図1Bに示す内側誘電体層10のX軸方向に沿う幅に一致する。素子本体4の幅寸法W0は、
図1Aおよび
図1Bに示す内側誘電体層10のY軸方向に沿う幅に一致する。素子本体4の高さ寸法は
図1Aおよび
図1Bに示す内側誘電体層10と内部電極層12との積層方向であるZ軸方向に一致する。
【0032】
素子本体4の具体的なサイズとしては、L0×W0が(7.5±0.4)mm×(6.3±0.4)mm、(5.7±0.4)mm×(5.0±0.4)mm、(4.5±0.4)mm×(3.2±0.4)mm、(3.2±0.3)mm×(2.5±0.2)mm、(3.2±0.3)mm×(1.6±0.2)mm、(2.0±0.2)mm×(1.2±0.1)mm、(1.6±0.2)mm×(0.8±0.1)mm、(1.0±0.1)mm×(0.5±0.05)mm、(0.6±0.06)mm×(0.3±0.03)mm、(0.4±0.04)mm×(0.2±0.02)mmの場合等が挙げられる。また、H0は特に限定されず、たとえばW0と同等以下程度である。
【0033】
内側誘電体層10の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。また、内側誘電体層10の積層数は10層以上であることが望ましく、たとえば50層以上であってもよく、100層以上であってもよく、200層以上であってもよい。
【0034】
外装領域15のZ軸方向の厚みTdeは特に限定されず、たとえば0.5~30μmmとすることができる。外側誘電体層11の1層あたりの厚みは特に限定されず、たとえば内側誘電体層10の層間厚みと同等とすることができる。
【0035】
マージン領域17のY軸方向の幅Wmは、Z軸方向に沿って均一である必要はなく、多少変動していても良い。幅Wmは、好ましくは、0.5~30μmである。
【0036】
1.2.内部電極層
本実施形態では、内部電極層12は、各端部が素子本体4の対向する2端面の表面に交互に露出するように積層してある。
【0037】
内部電極層12に含有される導電材としては特に限定されない。導電材として用いられる金属としては、たとえばパラジウム、白金、銀-パラジウム合金、ニッケル、ニッケル系合金、銅、銅系合金等が挙げられる。なお、ニッケル、ニッケル系合金、銅または銅系合金中には、リンおよび/または硫黄等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層12は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層12の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
1.3.外部電極
外部電極6に含有される導電材は特に限定されない。たとえばニッケル、銅、スズ、銀、パラジウム、白金、金あるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。外部電極6の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
1.4.誘電体組成物
本実施形態では、「内側誘電体層10」、「外装領域15」および「マージン領域17」をまとめて「誘電体組成物」と記載することがある。
【0040】
図2は
図1Aおよび
図1Bに示す内側誘電体層10の概略断面図である。
図2に示すように、内側誘電体層10は、第1粒子22および第2粒子24により構成されている。また、
図2には内側誘電体層10の概略断面図のみ示すが、内側誘電体層10以外の誘電体組成物、すなわち外装領域15およびマージン領域17も、
図2に示す内側誘電体層10のように第1粒子22および第2粒子24により構成されていることが好ましい。
【0041】
ケイ素(Si)および/またはゲルマニウム(Ge)を元素Gと定義し、ケイ素および/またはゲルマニウムの酸化物をGO2と定義する。
【0042】
第1粒子22はGO2、BaO、SrOおよびTa2O5から構成されている。言い換えると、第1粒子22はBaO、SrOおよびTa2O5と、SiO2および/またはGeO2と、から構成されている。
【0043】
第1粒子22にはGO2として、SiO2およびGeO2のうち、実質的にいずれか一方のみが含まれることが好ましい。具体的には、GO2に占めるSiO2の含有率が90.0mol%以上であるか、またはGeO2の含有率が90.0mol%以上であることが好ましい。
【0044】
第1粒子22におけるGO2の酸化物換算でのモル含有比率をC(G)と定義する。また、第1粒子22におけるBaOの酸化物換算でのモル含有比率をC(Ba)と定義する。C(G)およびC(Ba)は0.5<C(G)/C(Ba)<3.0の関係を満たすことが好ましく、1.0 <C(G)/C(Ba)<2.0の関係を満たすことがより好ましい。
【0045】
第1粒子22におけるGO2の酸化物換算でのモル含有比率(CG)は、好ましくは28.0~35.0mol%である。
【0046】
第1粒子22におけるBaOの酸化物換算でのモル含有比率(CBa)は、好ましくは16.5~23.0mol%である。
【0047】
第1粒子22におけるSrOの酸化物換算でのモル含有比率は、好ましくは16.0~20.0mol%である。
【0048】
第1粒子22におけるTa2O5の酸化物換算でのモル含有比率は、好ましくは30.0~35.0mol%である。
【0049】
第1粒子22にはMnOが含まれていてもよい。第1粒子22におけるMnOの酸化物換算でのモル含有比率は、好ましくは0~1.0mol%、より好ましくは0.1~1.0mol%である。
【0050】
第2粒子24はBaO、SrOおよびTa2O5から構成されている。第2粒子24の主成分は化学式{BaxSr(1-x)}mTa4O12で表されるタングステンブロンズ型構造であることが好ましい。ここで、「第2粒子24の主成分」とは、第2粒子24の85.0~99.0質量%を占める成分である。
【0051】
mは1.70~2.40であることが好ましく、1.90~2.10であることがより好ましい。
【0052】
xは0.75以下であることが好ましく、0.1~0.75であることがより好ましい。
【0053】
第2粒子24は実質的に元素Gを含まないことが好ましい。第2粒子24におけるGO2の酸化物換算でのモル含有比率は、好ましくは1.0mol%以下である。
【0054】
積層セラミックコンデンサ2の断面において内側誘電体層10における第1粒子22が占める面積比をAI(1)と定義する。また、積層セラミックコンデンサ2の断面において内側誘電体層10における第2粒子24が占める面積比をAI(2)と定義する。AI(1)およびAI(2)は、0.05<AI(1)/AI(2)<0.25の関係を満たすことが好ましく、0.10<AI(1)/AI(2)<0.20の関係を満たすことがより好ましい。
【0055】
AI(1)は、5.0~20.0%であることが好ましく、10.0~15.0%であることがより好ましい。
【0056】
AI(2)は、80.0~95.0%であることが好ましく、75.0~90.0%であることがより好ましい。
【0057】
なお、外装領域15およびマージン領域17においても、第1粒子22の面積比がAI(1)と同程度であることが好ましい。
【0058】
また、外装領域15およびマージン領域17においても、第2粒子24の面積比がAI(2)と同程度であることが好ましい。
【0059】
外装領域15またはマージン領域17における第1粒子22の占める面積比をAO(1)と定義する。また、内側誘電体層10における第1粒子22の占める面積比をAI(1)と定義する。AO(1)およびAI(1)は、AO(1)> AI(1)の関係を満たすことが好ましく、1.5<AO(1)/ AI(1)<2.0の関係を満たすことがより好ましい。
【0060】
第1粒子22の平均粒径は、好ましくは0.2~0.5μmである。また、第2粒子24の平均粒径は、好ましくは0.2~0.5μmである。
【0061】
誘電体組成物には、上記の他アルミニウム、バナジウム、チタン、マグネシウム、ジルコニウム、タングステンおよび希土類元素などが合計で0.1質量%未満含まれていてもよい。
【0062】
本実施形態に係る誘電体組成物は、実質的にニオブ、アルカリ金属および鉛を含まないことが好ましい。「ニオブ、アルカリ金属および鉛を実質的に含まない」とは、誘電体組成物に含まれる酸素以外の元素を100mol部としたとき、「ニオブ、アルカリ金属および鉛」の合計が10mol部以下であることであり、好ましくは5mol部以下であることを言う。
【0063】
本実施形態に係る誘電体組成物は、ニオブを実質的に含まないことにより、酸素欠陥が生じ難い。言い換えると、価数の変化が抑制されている。このため、還元焼成しても価数が変わり難く、比抵抗値の低下が抑えられており、広い温度範囲において高い比抵抗値を示すことができると考えられる。また、同様の理由から、低誘電損失を示すことができると考えられる。
【0064】
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、アルカリ金属を実質的に含まないため、アルカリ金属の蒸発による、誘電体組成物の組成ずれや、炉の汚染を防ぐことができる。
【0065】
さらに、危険物質に関する制限令(Restriction of Hazardous Substances Directive(RoHS))などで鉛の使用が規制されているが、本実施形態に係る誘電体組成物は鉛を実質的に含まない。
【0066】
誘電体組成物における第1粒子22と第2粒子24の分布は、走査型電子顕微鏡(SEM)または走査透過型電子顕微鏡(STEM)などによる断面観察により把握することができる。具体的には、SEMの反射電子像やSTEMのHAADF像などで誘電体組成物の断面を観察した場合、第1粒子22より密度が高いことが多い第2粒子24は、コントラストの明るい部分として認識できることが多い。これに対して、第1粒子22はコントラストの暗い部分として認識できることが多い。
【0067】
誘電体組成物における第1粒子22と第2粒子24の分布は、上記の他、断面の元素マッピングを解析することによっても把握することができる。具体的には、同じ位置に元素G、バリウム、ストロンチウムおよびタンタルが存在している箇所を第1粒子22と判断することができる。また、同じ位置にバリウム、ストロンチウムおよびタンタルが存在しており、なおかつ元素Gが存在していない箇所を第2粒子24と判断することができる。
【0068】
また、誘電体組成物の組成は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による成分分析を行うことで測定できる。成分分析は少なくとも3箇所以上で実施し、測定結果の平均値により第1粒子22および第2粒子24の組成を算出することが好ましい。本実施形態において、EPMAで成分分析を行う場合、X線分光器として、エネルギー分散型分光器(EDS)または波長分散型分光器(WDS)を使用できる。
【0069】
2.積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例について説明する。
【0070】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、従来の積層セラミックコンデンサと同様の公知の方法で製造することができる。公知の方法としては、たとえば、誘電体組成物の原料を含むペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成して積層セラミックコンデンサ2を製造する方法が例示される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0071】
まず、誘電体組成物の出発原料を準備する。本実施形態では、当該出発原料は粉末であることが好ましい。誘電体組成物の出発原料として、第1粒子22となる仮焼き粉末と、第2粒子24となる仮焼き粉末と、を準備する。
【0072】
第1粒子22となる出発原料としては、元素G、バリウム、ストロンチウムおよび/もしくはタンタルの酸化物、または焼成により元素G、バリウム、ストロンチウムおよび/もしくはタンタルの酸化物となる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。
【0073】
準備した出発原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において800~1200℃で熱処理を行い、第1粒子22となる仮焼き粉末を得る。
【0074】
次に、第1粒子22となる仮焼き粉末をボールミル等を用いて粉砕する。
【0075】
続いて、第2粒子24となる仮焼き粉末を準備する。第2粒子24となる仮焼き粉末の出発原料としては、Ba、Srおよび/もしくはTaの酸化物、または焼成によりBa、Srおよび/もしくはTaの酸化物となる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。
【0076】
続いて、準備した出発原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉末を乾燥後、大気中において800~1200℃で熱処理を行い、第2粒子24となる仮焼き粉末を得る。
【0077】
その後、得られた第1粒子22となる仮焼き粉末と、第2粒子となる仮焼き粉末と、を混合および解砕し、誘電体組成物の原料粉末を得る。誘電体組成物原料粉末の平均粒子径は、たとえば、0.5~2.0μmである。
【0078】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られた誘電体組成物原料粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。また、誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0079】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0080】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0081】
上記した各ペースト中のバインダおよび溶剤の含有量は特に制限はされず、通常の含有量であればよい。たとえば、バインダは1~5質量%程度、溶剤は10~50質量%程度であればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体材料、絶縁体材料等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は10質量%以下とすることが好ましい。
【0082】
分散剤の種類は任意である。たとえば、界面活性剤型分散剤、高分子型分散剤を用いることができる。可塑剤の種類は任意である。たとえば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルを用いることができる。誘電体材料および絶縁体材料の種類は任意である。
【0083】
PET等の基板上に誘電体層用ペーストを用いて外側グリーンシート311を形成し、基板から剥離した外側グリーンシート311を複数枚積層して、積層方向に加圧して焼成後に外装領域15を構成する
図3Aおよび
図3Bに記載の外装領域グリーン積層体315を得る。外装領域グリーン積層体315を構成する外側グリーンシート311は一層のみでもよいし、複数層であってもよい。
【0084】
次いで、
図3Aおよび
図3Bに示すように、外装領域グリーン積層体315の上に内装領域グリーン積層体313を形成する。内装領域グリーン積層体313は、内部電極パターン層を有する内側グリーンシート310を複数枚積層し、必要に応じて加圧接着することにより得られる。
【0085】
具体的には、まず、基板上に誘電体層用ペーストを用いて内側グリーンシート310を形成し、この上に内部電極層用ペーストにより内部電極パターン層312を形成して、基板から内側グリーンシート310を剥離することで内部電極パターン層312を有する内側グリーンシート310を作製する。
【0086】
内部電極パターン層312の形成方法としては、特に限定されず、印刷法、転写法の他、蒸着、スパッタリングなどの薄膜形成方法により形成されていてもよい。
【0087】
図3Aに示すように、内側グリーンシート310の表面には、内部電極パターン層312が形成され、内部電極パターン層312のX軸方向の相互間には、内部電極パターン層312のX軸方向に沿う第1隙間317aが形成されている。また、
図3Bに示すように、内側グリーンシート310の表面には、内部電極パターン層312が形成され、内部電極パターン層312のY軸方向の相互間には、内部電極パターン層312のY軸方向に沿う第2隙間317bが形成されている。
【0088】
第1隙間317aおよび第2隙間317bは段差吸収層316により形成してもよい。第1隙間317aおよび第2隙間317bを段差吸収層316により形成することで、内側グリーンシート310の表面で内部電極パターン層312による段差がなくなり、素体本体4の変形防止に寄与する。
【0089】
段差吸収層316は、たとえば内部電極パターン層312と同様にして、印刷法などで形成される。段差吸収層316は、内側グリーンシート310と同様の成分を含むが、印刷法により形成される場合には、印刷し易いように多少成分調整がされている。印刷法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷などが例示され、特に限定されないが、好ましくはスクリーン印刷である。
【0090】
図3Aに示すように、Z-X断面では、Z軸方向に隣接する内側グリーンシート310の内部電極パターン層312の第1隙間317aは、Z軸方向において重ならないように形成されている。
【0091】
これに対して、
図3Bに示すように、Z-Y断面ではZ軸方向に隣接する内側グリーンシート310の内部電極パターン層312の第2隙間317bは、Z軸方向において重なるように形成されている。
【0092】
Z-Y断面の第2隙間317bおよび第2隙間317bとZ軸方向に隣接する内側グリーンシート310および外側グリーンシート311は、焼成後にマージン領域17となるマージン領域グリーン積層体317を構成する。
【0093】
次いで、
図3Aおよび
図3Bに示すように、内装領域グリーン積層体313の上に、さらに外装領域グリーン積層体315を形成して素子本体4のグリーン積層体304を得る。外装領域グリーン積層体315は上記と同様に、誘電体層用ペーストを用いて外側グリーンシート311を形成し、基板から剥離した外側グリーンシート311を一層以上積層することにより得られる。
【0094】
図3Aおよび
図3Bに示すように、得られたグリーン積層体304を、たとえば切断面C1および切断面C2に沿って所定の寸法に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0095】
ここで、
図3Aに示すように、Z-X断面では内部電極パターン層312と第1隙間317aとがZ軸方向に沿って交互に切断されるように切断面C1を決定する。
【0096】
また、
図3Bに示すように、Y-Z断面では第2隙間317bのみがZ軸方向に沿って切断されるように切断面C2を決定する。
【0097】
このような切断方法によりグリーンチップを得ることで、グリーンチップの内部電極パターン層312は、一方の切断面C1では露出し、他方の切断面C1では露出しない構成となる。
【0098】
また、グリーンチップの切断面C2によりマージン領域グリーン積層体317を形成することができる。
【0099】
なお、
図3Aおよび
図3Bは、あくまでも概略断面図であり、積層数や寸法関係などは、実際のものとは異なる。
【0100】
グリーンチップは、固化乾燥により可塑剤が除去され固化される。固化乾燥後のグリーンチップは、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入され、水平遠心バレル機などにより、バレル研磨される。バレル研磨後のグリーンチップは、水で洗浄され、乾燥される。乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、
図1に示す素体本体4が得られる。
【0101】
脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは400~800℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間とする。雰囲気は、空気もしくは還元雰囲気とする。脱バインダ処理の雰囲気は加湿してもよい。加湿する方法は任意である。たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5℃~75℃程度が好ましい。
【0102】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体4を得る。焼成条件としては、以下のような条件が例示される。焼成温度は、1250~1400℃であることが好ましい。焼成温度が1250~1400℃の場合は、焼成温度が1250~1400℃を下回る場合に比べて素子本体4をより緻密にすることができる。焼成温度が1250~1400℃の場合は、焼成温度が1250~1400℃を上回る場合に比べて下記の3つの効果を得ることができる。1つ目は、内部電極層12の異常焼結を抑えることができることから電極の途切れを防ぎ易い。2つ目は、内部電極層12を構成する材料の拡散を抑えることができることから容量変化率を良好に維持することができる。3つ目は、第2粒子24の粗大化を抑制することができることから、高温負荷寿命を向上させることができる。
【0103】
また、焼成の昇温速度は好ましくは6000~30000℃/時間である。昇温速度を上記の範囲内のように比較的高速化することにより、内側誘電体層10、外装領域15およびマージン領域17において、焼成の進行度合いに差が生じる。その結果、内側誘電体層10、外装領域15およびマージン領域17において、第1粒子22の面積比率に差が生じ易くなり、AO(1)> AI(1)を満たし易くすることができる。
【0104】
また、焼成雰囲気としては、特に限定されないが、加湿したN2とH2との混合ガスを用い、酸素分圧が10-2~10-6Paであることが好ましい。内部電極層12がニッケルを含む場合、酸素分圧が低い状態で焼成を行うことにより、ニッケルの酸化を抑制することができ、導電性を向上させることができる。さらに、ニッケルを主成分とする導電材に対し、アルミニウム、ケイ素、リチウム、クロム、鉄から選択された1種類以上の内部電極用副成分を含有させることで、ニッケルの耐酸化性をより向上させることができ、酸素分圧が高い雰囲気で焼成する場合でも、内部電極層12の導電性を確保することが容易となる。
【0105】
焼成後、得られた素子本体4に対し、必要に応じてアニール処理を行う。アニール処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール処理時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1100℃以下とすることが好ましい。
【0106】
また、上記の脱バインダ処理、焼成およびアニール処理は、独立して行ってもよく、連続して行ってもよい。
【0107】
上記のようにして得られた素子本体4の誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体4に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0108】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2が製造される。
【0109】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2では、ガラス成分であるGO2を含む第1粒子22により、母材である第2粒子24の結合力を高めることができ、その結果、曲げ強度を向上させることができると考えられる。また、GO2は高抵抗であることから、GO2を含む第1粒子22が内側誘電体層10に存在することにより、比抵抗値が向上すると考えられる。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0111】
たとえば、マージン領域17は、第1粒子22および第2粒子24を含んでいなくてもよい。この場合、マージン領域17は、ガラス成分で構成された絶縁層であってもよい。ただし、曲げ強度および耐熱衝撃性を向上させる観点からは、マージン領域17は第1粒子22および第2粒子24を含んでいることが好ましい。
【0112】
上述の実施形態では、第2隙間317bがZ軸方向において重なるようにグリーン積層体304を形成し、切断面C2により、第2隙間317bを切断するように切断することにより、マージン領域17を形成したが、マージン領域17を形成する方法はこれに限られない。たとえば、下記の方法によって得てもよい。
【0113】
まず、
図3Cに示すように内部電極パターン層312がY軸方向に沿って連続しているグリーン積層体304を形成する。当該グリーン積層体304をZ-X平面に平行な切断面C3により切断して、グリーンチップを得る。C3切断面により露出した面(Z-X平面)に、焼成後にマージン領域17となる成分を塗布して、当該グリーンチップを焼成等することにより、マージン領域17を形成してもよい。
【0114】
上述した実施形態では、AO(1)> AI(1)を満たし易くするために、焼成時の昇温速度を高速化する旨を示したが、AO(1)> AI(1)を満たし易くする方法はこれに限られない。たとえば外側グリーンシート311、内側グリーンシート310および段差吸収層316に含まれる第1粒子22および第2粒子24の含有量を調整することにより、AO(1)> AI(1)を満たし易くしてもよい。
【0115】
本発明の積層電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、その他の積層電子部品に適用することが可能である。その他の積層電子部品としては、誘電体層が内部電極を介して積層される全ての電子部品であり、たとえばバンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどが例示される。
【実施例0116】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
まず、第1粒子22の出発原料としてSiO2、GeO2、BaCO3、SrCO3およびTa2O5の各粉末を準備した。
【0118】
準備した第1粒子22の出発原料の各粉末を表1に示す「第1粒子 酸化物換算 含有比」となるように秤量した。秤量した粉末を、分散媒としてエタノールを用いてボールミルにより24時間湿式混合して混合物を得た。得られた混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。混合原料粉末に対して、大気中において800~1200℃の条件で熱処理を行い、第1粒子22となる仮焼き粉末を得た。
【0119】
次に、第2粒子24の出発原料としてBaCO3、SrCO3およびTa2O5の各粉末を準備した。
【0120】
準備した第2粒子24の出発原料の粉末を表1に記載の第2粒子の想定組成となるように秤量した。秤量した粉末を、分散媒としてエタノールを用いてボールミルにより24時間湿式混合して混合物を得た。得られた混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。混合原料粉末に対して、大気中において800~1200℃の条件で熱処理を行い、第2粒子24の仮焼き粉末を得た。
【0121】
上記の方法で得られた第1粒子22の仮焼き粉末および第2粒子24の仮焼き粉末を混合および解砕し、誘電体組成物原料粉末を得た。第1粒子22の仮焼き粉末の量に対する第2粒子24の仮焼き粉末の量を変えることで、AI(1)およびAI(2)を調整した。
【0122】
次に、誘電体組成物原料粉末1000質量部に対して、トルエン+エタノール溶液(トルエン:エタノール=50:50(質量比))、可塑剤(フタル酸ジオクチル(DOP)(ジェイ・プラス製))および分散剤(マリアリムAKM-0531(日油製))を90:6:4(質量比)で混合した溶剤を700質量部添加し、混合物を得た。
【0123】
次に、得られた混合物を、バスケットミルを用いて2時間分散させ、誘電体層用ペーストを作製した。なお、全ての試料において、誘電体層用ペーストの粘性が約200cpsになるように調整した。具体的には、トルエン+エタノール溶液を微量添加することで粘度の調整を行った。
【0124】
内部電極層の原料として、平均粒径が0.2μmのニッケル粉末、平均粒径が0.1μm以下のアルミニウムの酸化物粉末、および、平均粒径が0.1μm以下のケイ素の酸化物粉末を準備した。アルミニウムおよびケイ素の合計がニッケルに対して5質量%となるように、これらの粉末を秤量し、混合した。その後、加湿したN2とH2との混合ガス中において1200℃以上で熱処理した。熱処理後の粉末をボールミル等により解砕することで、平均粒径0.20μmの内部電極層の原料粉末を準備した。
【0125】
準備した内部電極層の原料粉末100質量部、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8質量部をブチルカルビトール92質量部に溶解したもの)30質量部、およびブチルカルビトール8質量部を、3本ロールにより混練、ペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0126】
そして、作製した誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを用いて、
図3Aおよび
図3Bに記載のグリーン積層体304を得た。得られたグリーン積層体304を
図3Aの切断面C1および
図3Bの切断面C2に沿って、所定の形状に切断することによりグリーンチップを得た。
【0127】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニール処理を行うことで素子本体4を得た。脱バインダ処理、焼成およびアニールの条件は以下に示す通りである。また、脱バインダ処理、焼成およびアニール処理において、雰囲気ガスの加湿にはウェッターを用いた。
【0128】
(脱バインダ処理)
昇温速度:100℃/時間
保持温度:400℃
温度保持時間:8.0時間
雰囲気ガス:加湿したN2とH2との混合ガス
【0129】
(焼成)
昇温速度:6000~30000℃/時間
焼成温度:1250℃~1400℃
温度保持時間:0.5時間
冷却速度:100℃/時間
雰囲気ガス:加湿したN2とH2との混合ガス
酸素分圧:10-5~10-9Pa
【0130】
(アニール処理)
保持温度:800℃~1000℃
温度保持時間:2.0時間
昇温、降温速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したN2ガス
【0131】
得られた素子本体4の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極6としてIn-Ga共晶合金を塗布し、
図1Aおよび
図1Bに示す積層セラミックコンデンサ2と同形状の各積層セラミックコンデンサ試料を得た。以下では、「積層セラミックコンデンサ試料」を「試料」と記載することがある。得られた積層セラミックコンデンサ試料のサイズは、いずれも3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、内側誘電体層10の厚み10μm、内部電極層12の厚み2μm、外装領域15の厚み(Tde)300μm、マージン領域の幅(Wm)200μm、内部電極層12に挟まれた内側誘電体層の数は50層とした。
【0132】
(第1粒子および第2粒子の観察)
試料の切断面において、内側誘電体層10、外装領域15およびマージン領域17が観察されるように、得られた試料をY-Z平面に平行に切断した。得られた切断面のSTEMによる反射電子像を基に、第1粒子22および第2粒子24を把握した。
【0133】
内側誘電体層10の3か所の第1粒子22を走査透過型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分析(STEM-EDS)で測定し、各元素の平均値を求めて「第1粒子の酸化物換算での含有比」および「第1粒子の元素G含有比率」を算出した。結果を表1に示す。なお、表1の「第1粒子の酸化物換算での含有比」および「第1粒子の元素G含有比率」において、「0」と表記している箇所は、正確には、検出器の検出下限以下であるため、数値化できないことを示している。
【0134】
また、内側誘電体層10の3か所の第2粒子24をSTEM-EDSで測定し、各元素の平均値を求めて「第2粒子の組成」を算出した。「第2粒子の組成」は表1に記載の第2粒子の想定組成となっていることを確認した。
【0135】
上記の第1粒子22および第2粒子24の観察の結果を基に、「内側誘電体層内面積比率(AI(1)/AI(2))」および「断面内面積比率(AO(1)/AI(1))」を算出した。結果を表2に示す。
【0136】
また、試料番号1~試料番号8および試料番号11~試料番号22においては、内側誘電体層10、外装領域15およびマージン領域17の全てにおいて第1粒子22および第2粒子24が含まれていることが確認できた。
【0137】
(X線回折)
試料の誘電体組成物についてX線回折測定を行った結果、得られたX線回折パターンにより、全ての試料の第2粒子24がタングステンブロンズ型の結晶構造を有していることが確認できた。
【0138】
(曲げ強度)
20個の試料に対して、測定器(商品名:5543、Instron社製)を用いて積層セラミックコンデンサ試料のX軸方向の中央部での曲げ強度を測定した。測定時に試験片を支える2点間の治具距離は400μmとし、測定速度は0.5mm/minとし、得られた値の平均値を表2に示す。
【0139】
(耐熱衝撃性)
20個の試料に対して、気槽-55℃で30分保持した後、気槽150℃で30分保持する繰り返しを1000サイクル、1500サイクル、2000サイクル実施した。2000サイクル後にクラックが発生しなかった場合はAとした。1500サイクル後までクラックが発生しなかったが、2000サイクル後に1個以上の試料にクラックが発生した場合はBとした。1000サイクル後までクラックが発生しなかったが、1500サイクル後に1個以上の試料にクラックが発生した場合はCとした。試料が実装された基板の状態を樹脂埋めし、研磨し、顕微鏡にて観察することにより、試料のクラックを確認した。結果を表2に示す。
【0140】
(比抵抗値)
試料に対して、基準温度(25℃)において、デジタル抵抗メータ(ADVANTEST社製R8340)を用いて絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗と、有効電極面積と、内側誘電体組成物10の厚みとから、比抵抗値を算出した。結果を表2に示す。
【0141】
(比誘電率)
試料に対し、室温(20℃)において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率を、内側誘電体層10の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。結果を表2に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
表1および表2より、所定の第1粒子および所定の第2粒子を有する場合(試料番号1~試料番号8、試料番号11~試料番号22)は、所定の第1粒子および所定の第2粒子を有していない場合(試料番号9)に比べて曲げ強度が高いと共に、比抵抗値も高いことが確認できた。
【0145】
なお、試料番号9は、第1粒子に対応する粒子にSrOが含まれていないことから、所定の第1粒子を有しておらず、第2粒子に対応する粒子にSrOが含まれていないことから、所定の第2粒子を有していない。
【0146】
表1および表2より、所定の第1粒子および所定の第2粒子を有する場合(試料番号1~試料番号8、試料番号11~試料番号22)は、所定の第1粒子を有していない場合(試料番号10)に比べて曲げ強度が高いと共に、比抵抗値も高いことが確認できた。
【0147】
なお、試料番号10は、第1粒子に対応する粒子にGO2が含まれていないことから、所定の第1粒子を有していない。
【0148】
所定の第1粒子および所定の第2粒子を有する場合(試料番号1~試料番号8、試料番号11~試料番号22)は、ガラス成分であるGO2を含む所定の第1粒子を有することから、母材である第2粒子の結合力を高めることができ、その結果、曲げ強度が向上したと考えられる。
【0149】
所定の第1粒子および所定の第2粒子を有する場合(試料番号1~8、11~22)は、高抵抗のGO2を含むことから、比抵抗値が向上したと考えられる。