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特開2024-122596故障検知方法、故障検知システム及びエレクトロスプレーイオン源
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122596
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】故障検知方法、故障検知システム及びエレクトロスプレーイオン源
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20240902BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240902BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240902BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20240902BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240902BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01N21/47 B
G01N30/72 C
G01N27/62 X
G01N27/62 G
H01J49/14 700
H01J49/04 040
G01N30/86 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030220
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 峻
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 益之
【テーマコード(参考)】
2G041
2G059
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041HA01
2G059AA05
2G059EE02
2G059GG01
2G059HH02
2G059KK04
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で液体クロマトグラフィー装置の故障を検知することを課題とする。
【解決手段】イオン源の内部に光を照射する光源と、エレクトロスプレーによって生成される液滴による散乱光の情報である輝度を取得するカメラと、液体クロマトグラフィー装置の流路系のパラメータと、輝度との関係を示す判定基準情報を記憶部に格納している処理装置と、を有し、処理装置が、カメラから、輝度を取得し、取得した輝度と、判定基準情報とを比較する比較ステップと、比較ステップによって、判定基準情報の値に対する、取得した輝度を基に散乱光の変化を検知することにより、液体クロマトグラフィー装置における流路系の故障を判定する判定ステップと、を行うことを特徴とする。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスプレーイオン源の内部に光を照射する光源と、
エレクトロスプレーによって生成される液滴で前記光が散乱した散乱光の情報である散乱光情報を取得する散乱光情報取得装置と、
正常時における液体クロマトグラフィー装置の流路系のパラメータと、前記散乱光情報との関係を示す判定基準情報を記憶部に格納している処理装置と、
を有し、
前記処理装置が、
前記散乱光情報取得装置から、前記散乱光情報を取得する散乱光情報取得ステップと、
取得した前記散乱光情報と、前記判定基準情報とを比較する比較ステップと、
前記比較ステップによって、前記判定基準情報の値に対する、取得した前記散乱光情報を基に前記散乱光の変化を検知することにより、液体クロマトグラフィー装置における流路系の故障を判定する判定ステップと、
を行うことを特徴とする故障検知方法。
【請求項2】
前記処理装置は、
エレクトロスプレーイオン源へ導入される、複数の溶媒の混合比が変化した際における前記散乱光情報を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項3】
前記処理装置は、
前記複数の溶媒の混合比が連続的に変化した際における前記散乱光情報の連続的変化を取得する
ことを特徴とする請求項2に記載の故障検知方法。
【請求項4】
前記処理装置は、
前記エレクトロスプレーイオン源へ導入される溶媒の流量が変化した際における前記散乱光情報を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項5】
前記散乱光情報は、前記散乱光の輝度である
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項6】
前記エレクトロスプレーイオン源を有する液体クロマトグラフィー質量分析装置は、
イオン測定時の分析モードと状態監視時のモニタリングモードの少なくとも2つのモードを切り替え可能であり、
前記モニタリングモードでは、流量及び温度のうち、少なくとも一方を分析モード時よりも下げる
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項7】
エレクトロスプレーによって生成される液滴によって生じる前記散乱光情報のばらつきを前記故障の判定の評価指標とする
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項8】
前記散乱光情報は、前記散乱光の輝度であり、
前記輝度の低下がパルス状に生じている場合、前記処理装置は、前記流路系を流通する溶媒に気泡が混入していると判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の故障検知方法。
【請求項9】
前記散乱光情報は、前記散乱光の輝度であり、
前記輝度の低下がパルス状ではない場合、前記処理装置は、前記流路系を流通する溶媒の送液を行うポンプの故障によって、送液が不安定になっていると判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の故障検知方法。
【請求項10】
前記流路系のパラメータが複数の値で設定され、
前記散乱光情報取得装置は、
前記複数の値のそれぞれの値における散乱光情報を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項11】
前記判定基準情報には、少なくとも、前記流路系に故障が生じていない時における、前記流路系を流通する溶媒の流量と、前記散乱光情報との関係、前記流路系における前記溶媒の混合比と、前記散乱光情報との関係、前記散乱光の情報のばらつきに関する情報が格納されている
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項12】
前記流路系が複数設けられているとともに、それぞれの前記流路系は分離カラムを有しており、
複数の前記流路系のそれぞれに対して、前記パラメータを順に変更し、
前記パラメータが変更された前記流路系から前記エレクトロスプレーイオン源において生成される前記液滴に対して前記光が照射される
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項13】
前記光はシートレーザである
ことを特徴とする請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項14】
エレクトロスプレーイオン源の内部に光を照射する光源と、
エレクトロスプレーによって生成される液滴で前記光が散乱した散乱光の情報である散乱光情報を取得する散乱光情報取得装置と、
正常時における液体クロマトグラフィー装置の流路系のパラメータと、前記散乱光情報との関係を示す判定基準情報を記憶部に格納している処理装置と、
を有し、
前記処理装置は、
前記散乱光情報取得装置から、前記散乱光情報である散乱光情報を取得する散乱光情報取得部と、
取得した前記散乱光情報と、前記判定基準情報とを比較し、前記比較によって、前記判定基準情報の値に対する、取得した前記散乱光情報の変化を検知することにより、液体クロマトグラフィー装置における流路系の故障を判定する判定処理部と、
を有することを特徴とする故障検知システム。
【請求項15】
筐体に、エレクトロスプレーイオン源の内部に光を照射する光源を設置可能な光源設置部と、エレクトロスプレーによって生成される液滴で前記光が散乱した散乱光の情報である散乱光情報を取得する散乱光情報取得装置を設置可能な散乱光情報取得装置設置部と、が設けられている
ことを特徴とするエレクトロスプレーイオン源。
【請求項16】
前記散乱光情報取得装置設置部は、透明な部材で構成されている
ことを特徴とする請求項15に記載のエレクトロスプレーイオン源。
【請求項17】
質量分析計の細孔と対面する箇所に、前記散乱光情報取得装置設置部が設けられている
ことを特徴とする請求項15に記載のエレクトロスプレーイオン源。
【請求項18】
質量分析計の細孔の方向に対し直交する方向に前記散乱光情報取得装置設置部が設けられている
ことを特徴とする請求項15に記載のエレクトロスプレーイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障検知方法、故障検知システム及びエレクトロスプレーイオン源の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌や大気の汚染の測定、食品の農薬検査、血中代謝物による診断、尿中薬物検査、爆発物探知等、質量分析計の応用範囲は多岐にわたる。質量分析計は一般にガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、固相抽出等の前処理部及び分離部と結合されて利用されることが多い。特に、液体クロマトグラフィー装置は頻繁に使われている。このよう液体クロマトグラフィー装置は、一般的に質量分析計のエレクトロスプレーイオン源とともに使用される。質量分析計の測定スループットは高いものの、液体クロマトグラフィーはカラムでの分離に時間がかかる。そのため、液体クロマトグラフィー装置と質量分析計の組み合わせである液体クロマトグラフィー質量分析装置全体としてのスループットを低下させる原因となっている。
【0003】
このようなスループット低下を解決するための一つの解決策として並列化がある。これは、流路系を複数用意し、カラムも複数個を並列化することで液体クロマトグラフィー質量分析装置のスループットを向上させることができる。ただし、液体クロマトグラフィーを並列化するということは、流路、バルブ、ポンプ等送液系を構成する部品数が増大することを意味する。液体クロマトグラフィー装置では有機溶媒と水溶媒の混合や、送液量のコントロール等が行われるが、部品のどこかが故障した場合、送液量や混合比が正確な値からずれてくる。
【0004】
送液系が並列化されることにより、部品が多数存在する場合、それらすべてにセンサを取り付ける等して状況をモニタリングするのは現実的ではない。液体クロマトグラフィー装置の流路系の故障は質量分析計でのイオン源における試料のイオン化に影響する。その結果、質量分析計から出てくるデータが異常値となる。ただし、ユーザ側の観点では、質量分析計のデータが異常値となったとしても、液体クロマトグラフィー質量分析装置全体のどこに異常が発生したのかは分からない。また、流路系に限らず、質量分析計内の電極電位が異常となった場合でも同様にデータが異常値となる。
【0005】
流路系を並列化したとしても、溶媒は最終的にはエレクトロスプレーイオン源へ送液される。このため、流路系の異常はエレクトロスプレーイオン源の状態をモニタリングすることで判断できる可能性がある。エレクトロスプレーイオン源の状態をモニタリングする手法として、例えば、特許文献1には、「エレクトロスプレーノズルから出る流体の動的形状または静的形状をモニターし制御するための光学システムを用いた」エレクトロスプレーをフィードバック制御するための方法と装置が開示されている(要約参照)。
【0006】
また、特許文献2には、「被分析成分を含有する試料液体を、噴霧手段を用いて、イオン源噴霧チャンバ内に噴霧するとともに、被分析成分をイオン化するイオン源の異常を検知するイオン源異常検出装置およびそれを用いた質量分析装置であって、イオン源噴霧チャンバ内に光を照射する照射手段と、イオン源噴霧チャンバ内を撮影する撮影手段と、撮影手段で撮影された噴霧手段の噴霧先端部分を含む撮影画像を記憶する撮影画像記憶手段と、撮影画像における少なくとも一つ以上の判定画素の輝度諧調値について、その設定値を予め設定し記憶する噴霧状態判定条件設定手段と、記憶された撮影画像における判定画素の輝度諧調値と設定値を用いて噴霧状態の異常を検出する噴霧異常検出手段を備えることを特徴とする」イオン源異常検出装置、およびそれを用いた質量分析装置が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004-534354号公報
【特許文献2】特開2021-4814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
流路系を並列化することで、流路系が複雑となった液体クロマトグラフ質量分析装置では、異常が発生したことや、どこで異常が発生したかを検知することが困難である。また、特許文献1や、特許文献2に記載の技術は、エレクトロスプレーイオン源自体の状態が正常であるか、異常であるかをモニタリングする技術であって、流路系の状態まで判断する場合において改良すべき点がある。
【0009】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、簡易な方法で液体クロマトグラフィー装置の故障を検知することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するため、本発明は、エレクトロスプレーイオン源の内部に光を照射する光源と、エレクトロスプレーによって生成される液滴で前記光が散乱した散乱光の情報である散乱光情報を取得する散乱光情報取得装置と、正常時における液体クロマトグラフィー装置の流路系のパラメータと、前記散乱光情報との関係を示す判定基準情報を記憶部に格納している処理装置と、を有し、前記処理装置が、前記散乱光情報取得装置から、前記散乱光情報を取得する散乱光情報取得ステップと、取得した前記散乱光情報と、前記判定基準情報とを比較する比較ステップと、前記比較ステップによって、前記判定基準情報の値に対する、取得した前記散乱光情報を基に前記散乱光の変化を検知することにより、液体クロマトグラフィー装置における流路系の故障を判定する判定ステップと、を行うことを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な方法で液体クロマトグラフィー装置の故障を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エレクトロスプレーイオン源の噴霧状態を測定するための測定系の概略図である。
図2】本実施形態で用いられる異常検知システムの構成を示す図である。
図3】本実施形態に係る処理装置の構成を示す図である。
図4A】520nmのレーザをレンズでシート化して、イオン源に照射し、その散乱光Rを撮影した画像である。
図4B】流量が0.2mL/minの場合における輝度分布を示す図である。
図4C】流量が0.4mL/minの場合における輝度分布を示す図である。
図4D】輝度合計を示す図(その1)である。
図5】流量と輝度の関係を示す模式図である。
図6A】メタノールと水溶媒の混合比を変化させた際のイオン源による散乱光Rの画像を示す図である。
図6B】輝度合計を示す図(その2)である。
図7】水溶媒と有機溶媒の溶媒混合比、すなわち有機溶媒に対する水の割合と輝度との関係性を示す図である。
図8A】水溶媒に対するメタノールの割合を線形に変化させている際における当該割合の時間変化を示す図である。
図8B】水溶媒に対するメタノールの割合を時間変化させた場合における、輝度の時間変化の例を示す図である。
図9】正常時と異常時における輝度の時間変化の模式図である。
図10A】イオン源に気泡が入っていない場合における画像と、イオン源に気泡が入った場合における画像を示す図である。
図10B】輝度合計を示す図(その3)である。
図10C】イオン源に気泡が入っていない状態における輝度変化を示す図である。
図10D】イオン源に気泡が入った場合における輝度変化を示す図である。
図11A】300℃の補助ガスの流量を5、10、15L/minと変化させた時の散乱光Rの画像である。
図11B】輝度合計を示す図(その4)である。
図12】第1実施形態における処理装置による常検知方法の処理手順を示すフローチャートである。
図13A】第2実施形態に係るイオン源の構造を示す図(その1)である。
図13B】第2実施形態に係るイオン源の構造を示す図(その2)である。
図14A】筐体の光源設置部に光源装置が設置され、透明板の正面にカメラが設置された場合を示す図(その1)である。
図14B】筐体の光源設置部に光源装置が設置され、透明板の正面にカメラが設置された場合を示す図(その2)である。
図15A】第2実施形態の変形例を示す図(その1)である。
図15B】第2実施形態の変形例を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について説明する。なお、本実施形態では、本発明の原理に則った具体的な例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。以下の実施形態と既知の技術との組み合わせや置換による変形例も本発明の範囲に含まれる。なお、実施形態を説明するためのすべての図面において、同一機能を有するものは、同一符号を付して、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
[第1実施形態]
まず、図1~10を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
<測定系>
図1はエレクトロスプレーイオン源の噴霧状態を測定するための測定系の概略図である。なお、本実施形態では、エレクトロスプレーイオン源をイオン源3と称する。
イオン源3は、キャピラリ301、ネブライザ管302、補助ガス管303を有する。さらに、イオン源3は、光源311及びレンズ312を有する。
【0015】
キャピラリ301は、液体クロマトグラフィー装置4からイオン源3の内部へ質量分析計5で分析される溶媒を流し、イオン源3の内部へ溶媒を噴霧する。ネブライザ管302は、噴霧された液滴DPをさらに微細化した液滴DPとするためのネブライザガス(破線矢印)をイオン源3の内部へ導入する。補助ガス管303は、液滴DPの気化を促進する高温の補助ガス(一点鎖線矢印)を導入するための管である。
【0016】
キャピラリ301には4kV程度の高電圧が印加されている。これにより、キャピラリ301から噴霧される液滴DPは電荷を与えられる。電荷を有する液滴DPは、噴霧後に分裂しながら、さらに径の小さな液滴DPとなる。最終的にイオン化した液滴DPの分子がイオンとして液滴DPから飛び出す(エレクトロスプレー)。
【0017】
イオンは質量分析計5の細孔503を通過して、質量分析計5の質量分離部(不図示)へと導入される。質量分析計5のイオン源3側にはカウンタプレート501が存在する。そして、カウンタプレート501のカウンタガス用細孔502からイオン源3側に向けてカウンタガスCGが流れている。
【0018】
イオン源3において、液滴DPはすべてが完全には気化せず、大半が液滴DPとして存在する。この液滴DPが、そのまま質量分析計5へと導入されると、質量分析計5の内部が汚染されることになる。このため、カウンタガスCGがイオン源3側に向かって噴射されることで、液滴DPが質量分析計5に侵入することが防止される。
【0019】
光源311は、イオン源3の内部に光を照射する。具体的には、液滴DPの分布可視化のために、本実施形態では、光源311から光であるレーザLAが出力される。出力されたレーザLAはレンズ312によってシート形状となる(シートレーザSL(光))。なお、光源311及びレンズ312をあわせて光源装置310と適宜称する。そして、数mm程度の厚みのシートレーザSLが微細化された液滴DPに照射される。シートレーザSLが液滴DPに照射されることにより、散乱光R(図4A等参照)が生じる。本実施形態では、図1の紙面に対して直交する方向にカメラ2(図2参照)が設置され、カメラ2によって散乱光Rが撮影されることで、散乱光情報である散乱光Rの輝度(正確には輝度の情報)が取得される。なお、以降では、散乱光Rの輝度を単に輝度と記載する。輝度は、エレクトロスプレーによって生成される液滴DPでレーザLA(シートレーザSL)が散乱した散乱光Rの情報である。また、輝度は、カメラ2で撮影された画像の明度として取得される。
【0020】
<故障検知システムZ>
図2は、本実施形態で用いられる故障検知システムZの構成を示す図である。図2において、実線で示される線は溶媒の経路を示し、一点鎖線は電気信号の経路を示す。
【0021】
故障検知システムZでは、液体クロマトグラフィー質量分析装置CHに、輝度を取得するための散乱光情報取得装置であるカメラ2、及び、処理装置1が設けられている。カメラ2及び処理装置1は、常時、液体クロマトグラフィー質量分析装置CHに備えられていてもよい。あるいは、液体クロマトグラフィー質量分析装置CHの検査時にメーカのサービスマンが液体クロマトグラフィー質量分析装置CHに備えてもよい。
【0022】
液体クロマトグラフィー質量分析装置CHは、液体クロマトグラフィー装置4、イオン源3及び質量分析計5を備える。
そして、液体クロマトグラフィー装置4は、溶媒タンク41、ミキサ42、ポンプ43、複数のカラム44、及び、バルブ45を有する。そして、溶媒タンク41、ミキサ42、ポンプ43、複数のカラム44、及び、バルブ45は、溶媒が流通する流路40によって接続されている。溶媒タンク41、ミキサ42、ポンプ43、複数のカラム44、バルブ45、及び、流路40は流路系を構成している。
【0023】
溶媒タンク41には、複数の溶媒が収容されている。これらの溶媒は、ポンプ43によって送液される際に、ミキサ42によって混合された後、それぞれのカラム44に送られる。そして、分離カラムであるカラム44によって、混合された溶媒の成分が分離される。バルブ45は、イオン源3に接続されるカラム44を選択する。バルブ45が切り替えられることで、1つのポンプ43で複数のカラム44に送液可能となる。バルブ45によって選択されたカラム44から送られる溶媒がイオン源3に導入されイオン化されると、イオン化の結果、生じるイオンが質量分析計5に送られる。
【0024】
例えば、溶媒タンク41に水溶媒と有機溶媒が別々の瓶にストックされていてもよい。この場合、ポンプ43が水溶媒と有機溶媒の双方を吸い上げる。そして、ポンプ43によって吸い上げられた水溶媒及び有機溶媒は流路40に設けられているミキサ42によって混合されてからカラム44へと導入される。
【0025】
このように、液体クロマトグラフィー装置4は、イオン源3のキャピラリ301(図1参照)に接続されている。これによって、液体クロマトグラフィー装置4からイオン源3に溶媒が導入される。なお、本実施形態では、液体クロマトグラフィー装置4で混合される溶媒が水溶媒と有機溶媒である場合について説明するが、混合される溶媒は、これらに限らない。また、本実施形態では、複数の溶媒が混合されることを前提としているが、単一の溶媒がカラム44に送られてもよい。この場合、ミキサ42は省略されてもよい。
【0026】
本実施形態では、カメラ2は、イオン源3においてシートレーザSL(図1参照)が溶媒の液滴DP(図1参照)に照射されることによって生じる散乱光R(図4A等参照)を撮影する。撮影された画像は、処理装置1に送られる。処理装置1は、送られた画像を解析することによって、流路系における故障の有無、及び、推測される故障個所を判定する。撮影された画像には散乱光情報である輝度が含まれている。従って、処理装置1は、カメラ2から、撮影された散乱光Rの画像を取得することにより、輝度の情報を取得する。
【0027】
処理装置1は、カメラ2が撮影した画像に基づいて流路系の故障発生を検知するとともに、流路系のパラメータを変更可能である。流路系のパラメータとは、溶媒流量や、溶媒の混合比等である。ただし、流路系のパラメータは、人による手動で変更されてもよい。以降、流路系のパラメータを単にパラメータと称する。また、溶媒流量とは、流路系を流通する溶媒の流量である。また、本実施形態では、混合比とは溶媒の混合比を指すものとする。
【0028】
液体クロマトグラフィー質量分析装置CHにおける分析スループットの律速は、主に液体クロマトグラフィー装置4のカラム44における分離時間で決定される。このため、スループットの向上を図る場合、カラム44を複数設定することにより、溶媒の流れを並列化することが考えられる。また、図2に示すように、液体クロマトグラフィー装置4において、カラム44が複数設置され(複数の分離カラム)、その後段にバルブ45が設置される。バルブ45にはイオン源3が接続される。すなわち、ポンプ43からカラム44までの流路系は並列化され、並列化された流路系はイオン源3で一つに集結される。カラム44に溶媒を流すため、カラム44のそれぞれにポンプ43が接続されており、そのポンプ43の前段には溶媒タンク4118が接続されている。
【0029】
図2に示す例では、ポンプ43がカラム44と1対1対応で設けられているが、ポンプ43はカラム44と必ずしも1対1対応である必要はない。また、例えば、水溶媒と有機溶媒がカラム44に流される場合、溶媒タンク41として水溶媒の溶媒タンク41と、有機溶媒の溶媒タンク41とが設けられる。そして、水溶媒の溶媒タンク41及び有機溶媒の溶媒タンク4118のそれぞれに対してポンプ43が接続されてもよい。つまり、1つのカラム44に対して水溶媒の溶媒タンク41に設けられているポンプ43と、有機溶媒の溶媒タンク41に設けられているポンプ43が2つ接続されてもよい。
【0030】
また、図2に示す例では図示省略されているが、流路系には試料を導入するインジェクションバルブも配置される。このように複数のバルブ45、及び、複数のポンプ43が備えられることで、流路系が複雑になってくる。すると、液体クロマトグラフィー装置4の運用中における故障発生の確率が高まってくる。一方で、流路系を構成する部品が多いため、すべての部品の状態をモニタリングするのは容易ではない。
【0031】
前記したように、カラム44を通過した溶媒は、1つのイオン源3に導入される。したがって、流路系に故障が出た場合も、イオン源3をモニタリングすることで、その故障を検知することができる。
【0032】
流路系のエラーによりイオン量が変動した場合、質量分析計5で検知することも可能である。しかし、イオン量の変動を指標とする場合、質量分析計5の故障がその変動の要因である可能性も高い。したがって、流路系のモニタリングに質量分析計5で検出されるイオン量の変動を利用することは適切ではない。
【0033】
本実施形態では、処理装置1がイオン源3から噴霧される液滴DPの状態をモニタリングすることで流路系の故障が検知される。具体的には、処理装置1は、液滴DPから発せられる散乱光R(図3A等参照)に基づいて流路系の故障を検知する。
【0034】
流路系の故障として、例えば、以下のケース等が考えられる。
(Z1)流路系における溶媒のリークによってイオン源3に辿り着く溶媒流量の低下や気泡の混入。
(Z2)ポンプ43の故障による溶媒流量の増減や安定性の低下。
(Z3)複数種類の溶媒の混合比の故障。
(Z4)ミキサ42の不調による混合不足。
これらの故障はイオン源3における液滴DPの噴霧状態に反映される。
【0035】
本実施形態では、上記した故障を散乱光R(図4A等参照)の観察によって検出する。
【0036】
<処理装置1>
図3は、本実施形態に係る処理装置1の構成を示す図である。適宜、図2を参照する。
処理装置1は、メモリ110、記憶装置120、演算装置101、通信装置102、キーボードや、マウス等の入力装置103、ディスプレイ等の表示装置104を備える。
記憶装置120は、HD(Hard Disk)や、SSD(Solid State Drive)等から構成される。記憶部である記憶装置120には、判定基準情報121が格納されている。判定基準情報121には、正常時における液体クロマトグラフィー装置4の流路系のパラメータと、前記散乱光情報との関係が格納されている。正常時とは、少なくとも液体クロマトグラフィー装置4(流路系)で故障が生じていない時のことである。判定基準情報121と、取得された輝度の情報を比較することで、流路系の故障検知を行うことができる。流路系のパラメータとは、溶媒流量や、溶媒の混合比である。また、通信装置102は、カメラ2との通信を行う。
【0037】
そして、記憶装置120に格納されているプログラムがメモリ110にロードされ、ロードされたプログラムが演算装置101によって実行される。これにより、制御部111、判定処理部112、測定処理部113が具現化する。
制御部111は、液体クロマトグラフィー装置4(流路系)のパラメータ制御を行う。
判定処理部112は、カメラ2から入力された散乱光R(図4A等参照)の画像から流路系の故障判定を行う。
散乱光情報取得部である測定処理部113は、カメラ2が撮影した画像をカメラ2から受け取り、画像から散乱光Rの輝度を測定する。
このように、判定処理部112は、溶媒流量や、溶媒の混合比のようなパラメータと散乱光Rの特性の関係性のトレンドが変化したことを検知して故障を判断する。
【0038】
次に、図4A図11Bを参照して、流路系の故障検出についてケース別に説明する。また、以下の説明において、図1図3を適宜参照する。
【0039】
<溶媒流量の故障判定>
図4Aは、520nmのレーザLAをレンズ312でシート化して、イオン源3に照射し、その散乱光Rを撮影した画像である。また、図4Aではイオン源3へ導入する溶媒流量を0.2mL/minと0.4mL/minと変化させている。図4Aに示す画像P11は溶媒流量が0.2mL/minの場合を示し、画像P12は溶媒流量が0.4mL/minの場合が示される。また、画像P11,P12は、溶媒としてメタノール100%である場合を示している。
【0040】
図4Bは、溶媒流量が0.2mL/min(図4Aの画像P11に相当)の場合における輝度分布を示す図である。図4Cは、溶媒流量が0.4mL/min(図4Aの画像P12に相当)の場合における輝度分布を示す図である。図4B及び図4Cにおいて、横軸は輝度(Intensitiy)、縦軸は頻度(Frequency)を示す。
図4B及び図4Cでは、輝度を「0」~「255」に分割し、そのうち輝度が「2」以上でヒストグラムが描画されている。ほとんどのピクセルでの輝度が「0」か「1」であり、輝度「0」、「1」もヒストグラムに加えると、測定条件の差がグラフ中で見えにくくなるため、輝度「2」以上でヒストグラムが描画されている。
【0041】
そして、図4Dは、輝度合計を示す図である。図4Dにおいて、横軸は溶媒流量(Flow rate:mL/min)、縦軸は輝度(Intensity)を示す。そして、図4Dにおいて、グラフG11は溶媒流量が0.2mL/minの場合における輝度合計を示す。そして、図4Dにおいて、グラフG12は溶媒流量が0.4mL/minの場合における輝度合計を示す図である。
なお、輝度合計とは、図4B及び図4Cの輝度分布を基に以下の式で算出されるものであり、液滴DPに由来する散乱光Rの総輝度である。
【0042】
【数1】

【0043】
当該式において、頻度とは、図4B及び図4Cに示される輝度の頻度である。
図4A及び図4Dから分かるように、導入する溶媒流量が少なくなると、輝度が低下する。逆に考えると、0.4mL/minで溶媒が流れる設定であっても、リーク等でイオン源3へ実質的に導入されている溶媒流量が0.2mL/minであれば、輝度が低下する。つまり、0.4mL/minの溶媒が流れている状態で、輝度が所定値以下となった場合、処理装置1の判定処理部112は、流路系でリークが生じていると判定する。
【0044】
本実施形態では、溶媒流量と輝度の関係性が判定基準情報121(図3参照)として事前に設定されている。判定基準情報121は、試験や、実験等を基に作成されればよい。判定処理部112は、取得した散乱光Rの情報(輝度)と、判定基準情報121に保存されている関係性とのずれが大きくなったことを検知して流路系に故障が発生したと判断する。
【0045】
ただし、輝度の絶対値はイオン源3や、液体クロマトグラフィー装置4の機差や測定環境によって変化する可能性がある。そこで、本実施形態では、流路系の故障を調べる際において、流路系のパラメータを変化させ、その時の輝度の変化のトレンドを調べる。
【0046】
図5は溶媒流量と輝度の関係を示す模式図である。なお、図5の図面中では溶媒流量を流量と記載している。
例えば、正常時において、溶媒流量を増加させると、輝度は、図5の符号PL11に示すように線形に増加していくものとする。そして、リーク等の流路系での故障が発生すると、図5の符号PL12に示すように輝度の絶対値が低下するだけでなく、溶媒流量と輝度の関係性が非線形になるといったトレンドの変化(図5の白抜矢印)が想定される。なお、図5のような結果が検出された場合、考えられる流路系の故障は以下のようになる。ちなみに、判定基準情報121(図3参照)には、符号PL11に示すデータが格納されている。
【0047】
このように判定基準情報121には、流路系に故障が生じていない時における、流路系を流通する溶媒の流量と、輝度との関係が格納されている。このようにすることで、流路系の故障検知を容易に行うことができる。
【0048】
(A1)流路系でリークが生じている。
(A2)ポンプ43に送液異常が発生し、正常に送液されていない。
(A3)溶媒流量センサに故障が発生しており、溶媒流量が正常に測定されていない。
なお、図5に示すような結果が得られた場合、最も生じている可能性が高い故障はA1である。
【0049】
この例に示すように、流路系の故障を正確に検知するためには、流路系のパラメータを変化させる必要がある。つまり、液体クロマトグラフィー質量分析装置CHで物質の成分を分析する分析モードとは別に、流路系に故障がないかを調べるモニタリングモードが設定可能とすることが望ましい。モニタリングモードでは、処理装置1の測定処理部113が、溶媒流量や、溶媒の混合比等といったパラメータを変化させ、その際の散乱光Rの特性を取得する。そして、前記した通り、パラメータと散乱光Rの特性のトレンドから故障の有無を判断する。
【0050】
また、図5に示すように、流路系のパラメータである溶媒流量を複数の値で変更し、変更された複数の値それぞれの値における輝度が取得される。このようにすることで、線形であるか否か等、輝度の変化を詳細に比較することができるため、故障の有無検知の精度を向上させることができる。
【0051】
<混合比の異常(ミキサ42の故障)判定>
図6Aはメタノールと水溶媒の混合比を変化させた際のイオン源3による散乱光Rの画像を示す図である。また、図6Bは、図6Aにおける輝度合計を示す図である。
図6Aに示す画像おいて、画像P21はメタノール(MeOH) 100%の場合、画像P22はメタノール(MeOH) 50%、水溶媒 50%の場合、画像P23は、水溶媒 100%の場合を示す。また、図6Bに示すグラフG21~G23は、画像P21~P23に示す散乱光Rの輝度合計を示す図である。グラフG21は、図6Aに示す画像P21の散乱光Rの輝度合計を示し、グラフG22は、図6Aに示す画像P22の散乱光Rの輝度合計を示す。また、グラフG23は、図6Aに示す画像P23の散乱光Rの輝度合計を示す。なお、グラフG21~G23は、図4Dに示すグラフG11,G12と同様の手法で生成される。また、図6Bに示す図の縦軸は輝度(Intensity)を示し、横軸は混合比(Mixing ratio)を示す。
【0052】
画像P21~P23及びグラフG21~G23で示されるように、水溶媒の混合比が増えるにしたがい輝度が低下している。520nmのレーザLAが照射された場合、液滴DPの粒径が1μm付近以下にならないと散乱光Rが発生せず、回折のみになる。混合溶媒において水溶媒の割合が多い場合、液滴DPの粒径が大きくなり、散乱光Rを出すような微細粒子の数が減少する。そのため、水溶媒の割合が増えてくると、図6A及び図6Bに示すように輝度が低下する。つまり、液体クロマトグラフィー装置4の設定として、メタノール100%で送液することになっていたとしても、ポンプ43の故障等が原因で、水溶媒が混合されてしまう場合がある。このような場合、図6A及び図6Bに示すように、輝度がユーザの想定よりも低下することになる。
【0053】
図7は水溶媒と有機溶媒の混合比(溶媒混合比)、すなわち有機溶媒に対する水の割合と輝度との関係性を示す図である。図7において、縦軸は輝度を示し、横軸は混合比を示す。
図7において、混合比とは水溶媒の混合比を示し、紙面右方向へいくほど水溶媒の割合が増加する。また、図7において符号L101は正常時における混合比の割合と輝度との関係性を示し、符号L102は故障時における混合比と輝度との関係性を示す。図7に示すように、混合溶媒において、水溶媒の割合が増加すると、散乱光Rの輝度が低下している。例えば、ポンプ43の故障によって水溶媒の混合比が液体クロマトグラフィー質量分析装置CHの設定及び実態が変化してくると、混合比と輝度の関係性が図7に示すように変化する。判定処理部112は、図7に示すような混合比と輝度との関係のトレンド変化から故障を流路系の故障を検知する。このように、溶媒流量同様に輝度の絶対値だけでなく、混合比と輝度との関係のトレンドを利用するのが望ましい。ちなみに、符号L101で示すデータが、判定基準情報121に格納されているデータとなる。このように、判定基準情報121には、流路系に故障が生じていない時における流路系における溶媒の混合比と、輝度との関係が格納されている。このようにすることで、流路系の故障検知を容易に行うことができる。
【0054】
なお、図7の符号L102に示すような混合比と輝度の関係性が得られた場合、ミキサ42に故障が生じていると考えられる。
【0055】
液体クロマトグラフィー質量分析装置CHの場合、送液する溶媒の混合比を連続的に変化させるグラジエント分析を行うことが一般的である。例えば、水溶媒 95%メタノール5%の混合比から、メタノール100%まで5分間かけて混合比が連続的に変化される。流路系の故障を検知する場合、すなわちモニタリングモードにおいても溶媒をグラジエントしてもよい。
【0056】
また、図7に示すように、流路系のパラメータである混合比を複数の値で変更し、変更されたそれぞれの値における輝度が取得される。このようにすることで、混合比にともなう輝度の変化を詳細に比較することができるため、故障の有無検知の精度を向上させることができる。
【0057】
図8Aは水溶媒に対するメタノール(MeOH)の割合を線形に変化させている際における当該割合の時間変化を示す図である。また、図8Bは、水溶媒に対するメタノールの割合を図8Aに示すように時間変化させた場合における、輝度の時間変化の例を示す図である。図8Aでは、イオン源3へ導入される、複数の溶媒の混合比が連続的に変化した際における散乱光R(図6A等参照)の連続的変化が取得されることになる。また、図8Bの縦軸は、水溶媒に対するメタノール(MeOH)の割合が100%の時の輝度を100%とした輝度を示している。
図8A及び図8Bに示されるように、水溶媒100%の場合は輝度が低く、メタノールの量が増えるに従い、液滴DPが微細化するため、輝度が高くなる。これは、パラメータの一つである、混合比を時間的に変化させて、その際の輝度の変化を調べていることになる。この場合においても、輝度変化のトレンドを判定基準情報121に格納されている正常時のデータと比較することで故障の有無が判断可能である。このように、混合比を連続的に変化させることで、輝度の連続的な変化の取得が可能となる。図8A及び図8Bでは、図8Aに示すように水溶媒とメタノールの混合比を線形に変化させているが、必ずしも線形である必要はない。例えば、不連続的に水溶媒とエタノールの混合比を変化させるようなステップワイズな混合比変化が行われてもよい。
【0058】
このように、混合比の変化で流路系の故障が検出される場合、判定基準情報121に格納されている正常時と比較できるように、モニタリングモード時に混合比を変化させればよい。
【0059】
(送液の不安定性の検出)
図9は、正常時と故障時における輝度の時間変化の模式図である。
図9において、横軸は時間を示し、縦軸は輝度(%)を示している。図9の輝度は、正常時の輝度の平均値を100%とした場合の輝度の割合を示している。
パラメータが一定である場合、本来であれば輝度も少ないばらつきで、ほぼ一定の値となるはずである(図9の実線L201)。一方で、ポンプ43に故障が生じており、溶媒流量が不安定となっている場合、輝度もばらつくことになる(図9の破線L202)。輝度のばらつきは、散乱光R(図4A等参照)の特性のばらつきに相当する。このような場合、図9の実線L201及び破線L202の比較から明らかなように、正常時(実線L201)と故障時(破線L202)における輝度の平均値は、ほぼ同じである。このような場合に輝度の平均値を指標としていると、ユーザが送液故障に気づかない可能性がある。
【0060】
平均値に対して、輝度のばらつき(実線L201及び破線L202の上下振幅の幅)は、明らかに正常時(実線L201)と故障時(破線L202)で異なっている。そこで、輝度のばらつきも指標として利用することで、こういった送液の不安定性も確認できる。ばらつきは、輝度の標準偏差でもよいし、上下限値の差分値でもよい。
【0061】
同様に、水溶媒と有機溶媒等といった溶媒の混合比の設定を一定としても、送液異常によって不安定になっていた場合、輝度のばらつきを検知することができる。
【0062】
<気泡の混入>
ミキサ42の不調によって溶媒の混合が不十分であったり、溶媒自身の脱気が不十分であったり、リークがあったりすると溶媒に気泡が入ることがある。気泡がそのままイオン源3へと導入されると、気泡が到達した瞬間、イオン源3への溶媒の導入量が実質的に低下する。これにより、輝度が低下する。
【0063】
図10Aは、イオン源3に気泡が入っていない場合における画像P31と、イオン源3に気泡が入った場合における画像P32を示す図である。
【0064】
また、図10Bは、図10Aにおける画像P31,P32に基づいた輝度合計を示す図である。図10Bにおいて、グラフG31は図10Aに示される画像P31における散乱光Rの輝度合計を示し、グラフG32は図10Aに示される画像P32における散乱光Rの輝度合計を示す。なお、図10Bの横軸は、気泡の有無(Without air bubles,With air bubles)を示す条件(Condition)である。図10Bに示すヒストグラムの生成手法は図4Dに示す輝度合計のヒストグラムと同様であるため、説明を省略する。
【0065】
溶媒に気泡が入っていない場合は、図10Aの画像P31のような画像が連続的に取得される。しかし、気泡が入った溶媒がイオン源3に導入されると図10Aの画像P32のように散乱光Rの輝度が低下する(図10BのグラフG31及びグラフG32参照)。気泡の径は一般的に小さいため、気泡の導入による輝度の低下は一瞬である。したがって、散乱光Rは、図10Aの画像P31(図10BのグラフG31)の状態から図10Aの画像P32(図10BのグラフG32)の状態となる。その後、散乱光Rは、図10Aの画像P31(図10BのグラフG31)の画像の状態へ戻る。前記したように、気泡の径は一般的に小さいため、図10Bの状態となっている時間は一瞬である。ただし、多くの気泡が溶媒に含まれている場合、気泡がイオン源3に到達するたびに図10Aの画像P31で示す画像となるため、図10Aの画像P31及び画像P32が何度も交互に現れることになる。
【0066】
図10Cはイオン源3に気泡が入っていない状態における輝度変化を示す図であり、図10Dは、イオン源3に気泡が入った場合における輝度変化を示す図である。なお、図10C及び図10Dの横軸は時間を示し、縦軸は輝度(%)を示す。図10C及び図10Dの輝度は、溶媒に気泡が入っていない場合の輝度の平均値を100%とした場合の輝度の割合を示している。
図10Cに示すように、イオン源3に気泡が入っていない場合、輝度は、ほぼ一定で推移する。図10Cに対して、図10Dに示すように、イオン源3に気泡が入ると、前記したように輝度が低下する(図10Aの画像P32の状態)。ただし、気泡は小さいため、輝度の低下は短時間である。そのため、図10Dに示すように、短時間、輝度の時間変化は短時間、輝度が低下するふるまいとなる。
【0067】
図9に示すような送液異常も、図10A図10Dに示すような気泡の混入も、輝度の時間変化のばらつきが、正常時と比較して大きくなっている。従って、輝度の時間変化のばらつきが、正常時と比較して大きくなっている、換言すれば、輝度の時間変化のばらつきが所定の値以上であれば、送液異常か、気泡混入が生じていると判定できる。このように、図9図11Bでは、エレクトロスプレーによって生成される液滴DPから生じる散乱光R(図10A参照)の特性のばらつき(輝度のばらつき)が故障の判定の評価指標となっている。これにより、ポンプ43の故障や、気泡の混入を判定することができる。
【0068】
また、図10Dに示すように気泡が混入している場合、輝度の低下が瞬間的なパルス状となっているのに対し、送液異常によって送液が不安定となっている場合では図9に示すように、そうなっていない。従って、判定処理部112は輝度の低下が瞬間的なパルス状になっていれば、気泡混入が生じていると判定し、そうなっていなければ、送液異常によって送液が不安定になっていると判定する。瞬間的なパルス状であるか否かは、正常時の輝度変化よりも輝度が下回っている時間が所定の時間より短かいか否かが判定されればよい。正常時の輝度変化よりも輝度が下回っている時間が所定の時間より短かければ、判定処理部112は、輝度の低下が瞬間的なパルス状となっていると判定する。正常時の輝度変化よりも輝度が下回っている時間が所定の時間以上の時間であれば、判定処理部112は、輝度の低下は瞬間的なパルス状ではないと判定する。所定の時間として、生じ得る気泡の大きさから推定される時間に対して、若干長い時間が設定されるとよい。また、比較される正常時の輝度変化は、正常時の輝度変化の平均値でもよいし、下限値でもよい。
【0069】
このように判定処理部112は、輝度の低下がパルス状に生じている場合、流路系を流通する溶媒に気泡が混入していると判定する。このような判定が行われることにより、溶媒に気泡が混入していることを容易に検知することができる。一方、図9に示すように、輝度の低下がパルス状ではない場合、判定処理部112は、流路系を流通する溶媒の送液を行うポンプ43の故障によって、送液が不安定になっていると判定する。このような判定が行われることにより、ポンプ43の故障によって、送液が不安定になっていることを容易に検知することができる。
【0070】
また、図9の実線L201や、図10Cに示す輝度変化のような輝度の時間変化が、流路系に故障が生じていない時における散乱光の情報のばらつきに関する情報として判定基準情報121に格納されている。このようにすることで、気泡混入や、ポンプ43の故障による送液が不安定となっていることを判定処理部112が容易に判定することができる。
【0071】
<モニタリングモード>
図11Aはイオン源3への溶媒流量が0.03mL/minと少ない場合に、300℃の補助ガス流量を5、10、15L/minと変化させた時の散乱光Rの画像である。図11Aの画像P41は補助ガス流量が5L/minの場合であり、画像P42は補助ガス流量が10L/minの場合であり、画像P43は補助ガス流量が15L/minの場合である。なお、図11Aに示す画像P41~P43に対する比較画像は、図4Aに示す画像P11,P12である。なお、図4Aに示す画像P11,P12は補助ガス流量が5L/minである。つまり、図4Aの画像P11は、補助ガス流量が5L/minであり、溶媒流量が0.2mL/minの場合を示す。また、図4Aの画像P12は、補助ガス流量が5L/minであり、溶媒流量が0.4mL/minの場合を示す。これに対し、図11Aの画像P41は、補助ガス流量が5L/minであり、溶媒流量が0.03mL/minの場合を示す。このように、補助ガス流量が同じ5L/minである図4Aの画像P11,P12及び図11Aの画像P41を比較すると、溶媒流量が少ない場合,輝度が小さくなることが分かる。
【0072】
また、図11Bは、図11Aに示す画像P41~P43に基づく輝度合計を示す図である。図11Bに示すグラフG41は図11Aに示す画像P41に基づく輝度合計を示し、グラフG42は図11Aに示す画像P42に基づく輝度合計を示す。そして、グラフG43は図11Aに示す画像P43に基づく輝度合計を示す。図11Bに示すヒストグラムの生成手法は図4Dに示すヒストグラムの生成手法と同様であるため、説明を省略する。ちなみに、図11Bにおけるヒストグラムの横軸は補助ガス流量(Gas flow rate(L/min)を示している。
【0073】
また、図11A及び図11Bで示されるように、補助ガス流量が上がるにつれて、液滴DPの気化が促進されることにより、輝度が小さくなっていく。イオン化効率の観点を考えれば、補助ガス流量を増やして気化を促進することが望ましい。一方で、散乱光Rの画像情報から流路系の故障を検知することが目的の場合、輝度は、ある程度の強度がないと変化が捉えにくい。また、補助ガスの温度が高いと、液滴DPの気化が促進されてしまい、散乱光Rの輝度が低下する。このため、モニタリングモードでは、分析モード時よりも補助ガス流量及び補助ガスの温度のうち、少なくとも一方が下げられる。これによって、液滴DPを気化させ過ぎないようにすることができる。これはイオン源3への溶媒の導入量が少ない場合において、特に重要になってくる。イオン源3への溶媒の導入量が少ないと、液滴DPの量が減り、輝度が低下するためである。このように、本実施形態では、イオン測定時の分析モードと状態監視時のモニタリングモードの少なくとも2つのモードを切り替え可能である。このようにすることで、故障判定の精度を向上させることができる。
【0074】
図2に示す例では、複数の流路系がバルブ45によってコントロールされ、イオン源3に接続されている。つまり、図2に示す例では、流路系が複数設けられているとともに、それぞれの流路系はカラム44を有している。このような場合、バルブ45をコントロールしながらモニタリングする流路系が変更される。そして、複数の前記流路系のそれぞれに対して、パラメータが順に変更され、パラメータが変更された流路系からイオン源3において生成される液滴DPに対してシートレーザSLが照射される。例えば、カラム44が5つ接続されていれば、バルブ45によって、ある1つのカラム44とイオン源3が接続され、その状態で接続されているカラム44のパラメータを変更させながら、測定処理部113が散乱光R(図4A等参照)の画像情報を取得する。そして、判定処理部112による正常・故障の判断が完了すると、制御部111が別のカラム44とイオン源3を接続する。これを5回繰り返すことで、それぞれのカラム44に接続された流路系の状態を確認することができる。なお、カラム44は5つに限らない。
【0075】
本実施形態では、光源311を利用してイオン源3で噴霧される液滴DPによる散乱光Rを発生させ、その散乱光Rの情報を基にパラメータに対するトレンドや時間変化のトレンドが調べられる。このようにすることで、処理装置1は流路系の故障を検知する。光源311は必ずしもシートレーザSLである必要はない。レーザLAを液滴DPの噴霧領域に点照射し、その照射点における散乱光Rの情報が、故障検知のための指標として使用されてもよい。照射点における散乱光Rの情報とは、例えば照射点の輝度である。また、散乱光Rの情報を取得する装置もカメラ2である必要はない。レーザLAによって点照射した場合等はフォトダイオード(不図示)のような光強度を検出するデバイスが散乱光Rの情報を取得する装置として用いられてもよい。また、前記したようにカメラ2が複数設置されることで、複数個所の散乱光Rの情報を取得する場合があるが、このような場合もカメラ2を用いずに、フォトダイオードが複数設定されてもよい。あるいは、カメラ2とフォトダイオードが組み合わされて設置されてもよい。ただし、シートレーザSLを用いた方が広範囲に照射可能である。これにより、輝度の取得範囲を広げることができる。また、カメラ2で撮影が行われることで、広い範囲の散乱光Rの情報を取得することが可能である。また、動画撮影が行われることによって、散乱光R情報の時間的変化の観察が可能となる。動画撮影は、図4図11Dのような判定が行われる際に有用である。ただし、動画撮影でなくても、所定時間毎に静止画が撮影される方法でもよい。
【0076】
また、シートレーザSLは厚みが数mmと薄いため、噴霧部領域に限って散乱光Rを生じさせることができ、データの信号/ノイズ比を高めることができる。
【0077】
<フローチャート>
図12は、第1実施形態における処理装置1による故障検知方法の処理手順を示すフローチャートである。適宜、図2及び図3を参照する。
まず、制御部111は、現在のモードをモニタリングモードに切り替えることで、モニタリングモードを開始する(S101)。図11A図11Bに示すように、モニタリングモードでは、制御部111によって分析モード時よりも補助ガス流量及び補助ガスの温度のうち、少なくとも一方が下げられる。
続いて、制御部111は、混合比及び溶媒流量を固定して流路系に溶媒を送液する(S102)。例えば、水溶媒 100%もしくは有機溶媒 100%で送液が行われる。なお、図12の図面中では、溶媒流量は流量と記載されている。溶媒流量は任意の流量が設定されればよい。
【0078】
そして、カメラ2によって散乱光Rが撮影されると、測定処理部113が輝度の測定を開始する(S103)。なお、ステップS103以降、輝度は連続的に測定されてもよいし、各判定が行われる都度、測定されてもよい。ステップS103は、処理装置1がカメラ2から、散乱光R(図10A参照)の情報である輝度を取得する散乱光情報取得ステップである。また、ステップS103以降、測定処理部113は、輝度の測定を行い続ける。
【0079】
次に、判定処理部112は、一定時間における輝度のばらつきの値が第1閾値より大きいか否かを判定する(S111)。
ステップS111の結果、一定時間における輝度のばらつきの値が第1閾値より大きい場合(S111→Yes)、判定処理部112は、輝度の低下が瞬間的なパルス状であるか否かを判定する(S112)。輝度の低下が瞬間的なパルス状であるか否かの判定は、前記した内容で判定される。
【0080】
ステップS112の結果、輝度の低下が瞬間的なパルス状である場合(S112→Yes)、判定処理部112は流路系において気泡が混入している旨のフラグをたてる(気泡混入:S113)。ステップS111「Yes」→ステップS112「Yes」→ステップS113の処理は図10A図10Dで示す処理である。そして、処理装置1はステップS121へ処理を進める。
【0081】
なお、ステップS112「Yes」と判定されることで、前記したケース(Z1)で示す気泡の混入が判定されている。
【0082】
ステップS112の結果、輝度の低下が瞬間的なパルス状ではない場合(S112→No)、判定処理部112は流路系においてポンプ43の故障により送液異常が発生している旨のフラグをたてると(S114)。ステップS111「Yes」→ステップS112「No」→ステップS114の処理は図9で示す処理である。ステップS114の後、処理装置1は、ステップS121へ処理を進める。
【0083】
なお、ステップS112「No」と判定されることで、前記したケース(Z2)で示すポンプ43の故障による安定性の低下が生じていると判定されている。
【0084】
なお、ステップS112で瞬間的なパルス状と、そうではない場合の両方が検出される場合がある(S112→両方)。つまり、図9の破線L202で示す輝度変化と、図10Dに示す輝度変化が合成された輝度変化が検出される場合がある。このような場合、判定処理部112は、気泡の混入と、送液異常の双方が生じている旨のフラグをたてる(気泡混入+送液異常:S115)。ステップS115の後、処理装置1は、ステップS121へ処理を進める。
【0085】
ステップS111の結果、一定時間における輝度のばらつきの値が第1閾値以下であるより大きい場合(S111→No)、制御部111は溶媒流量を変更する(S121)。溶媒流量は、連続的あるいは離散的に変化させられる。ステップS121において、測定処理部113は、イオン源3へ導入される溶媒流量が変化した際における輝度を取得する。このようにすることで、後記するステップS123の判定を行うことができる。
【0086】
そして、判定処理部112は、判定基準情報121を基に溶媒流量と輝度との関係が正常であるか否かを判定する(S122)。ステップS122で、図5で示す符号PL11のように線形に輝度が増加している場合、判定処理部112はステップS122で正常(「Yes」)と判定する。また、図5で示す符号PL12のように輝度の絶対値が低下し、かつ、溶媒流量と輝度との関係が非線形である場合、判定処理部112はステップS122で故障(「No」)と判定する。具体的には、判定処理部112は、測定した溶媒流量と輝度の関係が、予め測定されている正常時の関係(図5の符号PL11)から、どれだけ離れているかを判定する。測定した溶媒流量と輝度の関係が、予め測定されている正常時の関係から、どれだけ離れているか、は、測定した溶媒流量と輝度の関係と、予め測定されている正常時の関係との二乗和誤差によって判定される。さらに具体的には、判定処理部112は、測定した溶媒流量と輝度の関係が、予め測定されている正常時の関係との二乗和誤差が所定の第3閾値以上であれば、ステップS122で溶媒流量と輝度との関係が故障(「No」)と判定する。ちなみに、図5の符号PL11で示される輝度と溶媒流量との関係は、判定基準情報121として保持されている。
【0087】
ステップS122の結果、溶媒流量と輝度の関係が異常である場合(S122→No)、判定処理部112は、以下の(A1)~(A3)の故障が生じている旨のフラグをたてる(S123)。
(A1)溶媒流量でリークが生じている(リークあり)。
(A2)ポンプ43に送液異常が発生し、正常に送液されていない。
(A3)溶媒流量センサに故障が発生しており、溶媒流量が正常に測定されていない。
【0088】
なお、ステップS122「No」と判定されることで、前記したケース(Z1)のリークによる溶媒流量の低下、及び、(Z2)のポンプ43の故障による溶媒流量の増減(低下)が判定されている。
【0089】
なお、ステップS122~S123の処理は、図4A図5を参照して説明したものであり、上記(A1)~(A3)の事項も図5において説明したものである。ステップS123の後、処理装置1は、ステップS131へ処理を進める。
【0090】
ステップS122の結果、溶媒流量と輝度の関係が正常である場合(S122→Yes)、制御部111は、ミキサ42を制御することで、溶媒の混合比を変更する(S131)。混合比の変更は、予め設定している複数の混合比に従って行われる。混合比は、図8Aに示すように連続的に変更されてもよいし、離散的に行われてもよい。ステップS131において、測定処理部113は、イオン源3へ導入する複数の溶媒の混合比が変化した際における輝度を取得する。このようにすることで、後記するステップS133の判定を行うことができる。
【0091】
そして、判定処理部112は、混合比と、輝度の関係が正常であるか否かを判定する(S132)。例えば、判定処理部112は、予め判定基準情報121として設定されている図7の符号L101の関係と、ステップS131で変更された混合比と輝度の関係との2乗和誤差によってステップS132の判定を行う。当該2乗和誤差が、予め設定されている第4閾値以上であれば、判定処理部112は、ステップS132で故障(「No」)と判定する。
【0092】
ステップS132の結果、故障と判定された場合(S132→No)、判定処理部112がミキサ42の故障が生じている旨のフラグをたてる(ミキサの異常:S133)。なお、ステップS132「No」~S133の処理は、図6A図8Bを参照して説明したものである。ステップS133の後、処理装置1は、ステップS141へ処理を進める。
【0093】
なお、ステップS132「No」と判定されることで、前記したケース(Z3)複数種類の溶媒の混合比の異常や、(Z4)ミキサ42の不調による混合不足が判定されている。
【0094】
ステップS132の結果、正常と判定された場合(S133→Yes)、判定処理部112は、チェックしていない流路系がある否かを判定する(S141)。
ステップS141の結果、チェックしてない流路系がある場合(S141→Yes)、制御部111は、バルブ35を操作することで流路系をチェックしていない流路系に変更する(S142)。その後、処理装置1は、ステップS102へ処理を戻し、変更した流路系についてステップS102以降の処理を行う。
ステップS141の結果、チェックしていない流路系がない場合(S141→Yes)、表示処理部が判定結果(フラグがたっている事象)を表示装置104に表示する(S143)、そして、処理装置1がモニタリングモードを終了する(S144)。
【0095】
なお、ステップS111,S112,S133,S132は、処理装置1が、取得した輝度と、判定基準情報121とを比較する比較ステップである。そして、ステップS113,S114,S123,S133は、処理装置1が、比較ステップによって、判定基準情報121の値に対する、取得した輝度の変化を検知することにより、液体クロマトグラフィー装置4における流路系の故障を判定する判定ステップである。
【0096】
第1実施形態によれば、簡易な方法で液体クロマトグラフィー装置の故障を検知することができる。また、第1実施形態によれば、多数のセンサを必要とせず、液体クロマトグラフィー装置4の流路系の不具合(故障)を検出できる。
【0097】
また、第1実施形態では、エレクトロスプレーによって生成される液滴から生じる散乱光R(図4A等参照)の輝度を、故障の判定の評価指標としている。このようにすることで、簡易な手法で流路系の故障判定のための評価指標を得ることができる。
【0098】
なお、図12のフローチャートに示す処理では、処理装置1の制御部111が溶媒流量や、混合比等のパラメータを変化させているが、前記したように、これらのパラメータを人が手作業で変更させてもよい。
【0099】
散乱光R(図4A等参照)の特性として、輝度以外の情報も利用可能である。例えば、カメラ2によって撮像された画像を2値化した上で、散乱光Rに由来する輝度を有する画素の面積が故障判定に利用されてもよい。また、散乱光Rは観察する位置によっても変化する。そのため、カメラ2が2台以上設置されることで、観察位置ごとに散乱光Rの特性情報を得ることができる。つまり、散乱光Rの角度は、液滴DPの粒径によって変わってくる。カメラ2が2台以上設定され、異なる角度から散乱光Rが撮像されることにより、液滴DPの粒径に関する情報を取得することができる。また、輝度情報を利用する際、一定時間における輝度の平均値が用いられてもよいし、そのばらつきが利用されてもよい。
【0100】
[第2実施形態]
図13図15は、第2実施形態に係るイオン源3の構成を示す図である。適宜、図1を参照する。
第1実施形態では、光源311や、カメラ2はイオン源3に常時設置してあることが前提となっている。そして、光源311や、カメラ2の使用の有無は、液体クロマトグラフィー質量分析装置CHが通常の運用を行う分析モードで動いているか、流路系のモニタリングを実施するモニタリングモードに入っているかで変更している。一方、第2実施形態では、光源311及びカメラ2がイオン源3から着脱可能となっている。これは、光源311や、カメラ2がイオン源3に設置してあることが、以下に記載する理由でイオン化に対して好ましくない可能性があるためである。例えば、補助ガスは高温であるため、光源311が補助ガスの噴霧口近傍に設置されると、光源311は、高温の補助ガスにさらされることとなる。たいていの場合、光源311は高熱に耐えられないため、補助ガスの温度を十分に上げられないことが起こりうる。また、補助ガスの温度が低いと、液滴DPの気化が促進されず、結果としてイオン化効率が低下する。これにともなって液体クロマトグラフィー質量分析装置CHの感度が低下する。
【0101】
また、イオン源3で生成されたイオンはキャピラリ301と質量分析計5との電位差によって移動する。光源311が補助ガスの噴霧口に近いと、噴霧口近傍の電界を最適な状態にできない可能性がある。さらに、光源311を補助ガスの噴霧口の近傍に設置した状態のまま、物質の測定が行われると(分析モードが行われると)、光源311の汚染問題が生じてくる。つまり、補助ガスの噴霧口の近傍に光源311が設置されると、キャピラリ301から噴霧された液滴DPが徐々に光源311の表面に堆積していく可能性がある。例えば、高濃度の試料について測定が行われ、その際、光源311に高濃度試料が堆積したとする。次に、別試料の測定が行われた際に、帯電した液滴DPがその堆積物に衝突すると、そこでイオン化が生じる。これにより、質量分析計5に前の測定の試料由来のイオンが導入される。この結果、後の試料の測定結果に前の試料の測定結果が重複する可能性がある。以上のようなリスクがあるため、分析モード時では、光源311や、カメラ2はイオン源3から取り外されていることが望ましい。
【0102】
図13A及び図13Bは、第2実施形態に係るイオン源3の構造を示す図である。図13Aは、図13Bに示すB-B断面図であり、図13Bは、図13Aに示すA-A断面図である。なお、図13において、図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0103】
イオン源3の筐体321にカメラ2を設置可能な散乱光情報取得装置設置部である透明板332と、光源311を含む光源装置310を設置可能な光源設置部331とが設けられている。
【0104】
イオン源3の筐体321は円柱状の形をしており、その一部に光源装置310を設定可能な場所(光源設置部331)を備えている。また、図13Bに示すように筐体321の少なくとも1面に、透明な部材で構成されている透明板332が設けられており、筐体321の内部を視認可能になっている。補助ガスが高温であることを考慮し、透明板332には耐熱ガラス等が用いられるとよい。また、図13A及び図13Bに示す例では、質量分析計5の細孔503と対面する箇所に、透明板332が設けられている。
【0105】
図14A及び図14Bは、図13A及び図13Bの筐体321の光源設置部331に光源装置310が設置され、透明板332の正面にカメラ2が設置された場合を示す図である。なお、図14A図13Aに対応する図であり、図14B図13Bに対応する図である。また、図1を適宜参照する。
なお、図14A及び図14Bに示す例では、光源311と、レンズ312(図2参照)を一体化したものである光源装置310が設置されている。カメラ2と、質量分析計5の細孔503とを結ぶ線に対して、直交する位置からシートレーザSLが、キャピラリ301から噴霧された液滴DPに照射される。そして、細孔503に正対する位置から散乱光R(図4A等参照)がカメラ2によって撮影される。第1実施形態と同様、制御部111(あるいは人)がパラメータを変化させる。そして、パラメータが変化した際の散乱光Rの状態がカメラ2によって撮影されることで、測定処理部113が散乱光Rの情報を取得する。そして、判定処理部112が、取得した散乱光Rの情報と、判定基準情報121を比較することで、流路系の故障を検知する。なお、カメラ2に記録媒体が搭載されており、この記録媒体に保存されたデータが処理装置1にわたされた後、処理装置1によって解析が行われてもよい。処理装置1による解析とは、図12に示す処理が行われることを指す。もしくは、図2に示すように、カメラ2が処理装置1に接続されており、撮影した画像や、動画が、そのまま処理装置1に送信され、処理装置1が、送信された画像や、動画を解析してもよい。
【0106】
図13A図14Bに示すように、イオン源3の筐体31には、光源設置部331及び透明板332が設けられている。このような構成とすることにより、モニタリングモードでは、光源装置310及びカメラ2を設置し、分析モード時では、光源装置310及びカメラ2を取り去ることができる。この結果、光源311や、カメラ2の汚損を防止することができ、分析モードにおける測定精度が低下することを防ぐことができる。特に、カメラ2が設置される箇所が透明板332で構成されることにより、カメラ2の設置及び撤去が容易となる。
【0107】
(第2実施形態の変形例)
図15A及び図15Bは、第2実施形態の変形例を示す図である。
図15A及び図15Bに示す例では、カメラ2と光源装置310の位置が図14A及び図14Bに示す位置と交換されている。図15Aは、図15Bに示すD-D断面図であり、図15Bは、図15Aに示すC-C断面図である。なお、図15A及び図15Bにおいて、図14A及び図14Bと同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図15A及び図15Bに示す例では、図14A及び図14Bに示す例において、透明板332が設置されている筐体321の面に光源設置部331が設けられている。つまり、質量分析計5の細孔503の方向に対し直交する方向に透明板332が設けられている。そして、光源設置部331に光源装置310が設置されている。また、図15A及び図15Bに示す例では、図14A及び図14Bに示す例において、光源設置部331が設置されている箇所に透明板332が設けられている。そして、透明板332にカメラ2が設置されている。
【0108】
なお、カメラ2及び光源31120が設置される位置は、必ずしも図14A図15Bで示す場所に限らない。キャピラリ3011から噴霧される液滴DPに光(レーザLA)を当て、その散乱光Rを検出できる構成であれば、カメラ2及び光源311が設置される位置は、どのような位置でもよい。また、光源311が筐体321の内部まで挿入される構成でも、筐体321の外から照射される構成でも、どちらでも構わない。ただし、筐体321の外からレーザLA光が照射される場合、光源設置部331は透明な部材で構成される。同様に、カメラ2が筐体321の内部まで挿入される構成でも、透明板332の外から撮影される構成でも、どちらでも構わない。なお、カメラ2が筐体321の内部まで挿入される構成の場合、透明板332の代わりにカメラ2が挿入される孔(不図示)が筐体321に設けられればよい。
【0109】
第2実施形態では、分析モード時は光源311とカメラ2が設置されず、つまり、分析モードでは、光源311が筐体321から取り外され、カメラ2は筐体321の近傍からから取り外される。そして、モニタリングモード時に光源311が筐体321に設置され、カメラ2が筐体321の近傍に設置される。これは液体クロマトグラフィー質量分析装置CHのサービスマンによる運用が想定されている。液体クロマトグラフィー質量分析装置CHのユーザが流路系の故障を疑い、メーカのサービスマンを呼んだ場合、サービスマンは光源装置310とカメラ2と処理装置1を持参する。そして、サービスマンは、ユーザの液体クロマトグラフィー質量分析装置CHに光源装置310とカメラ2を図14A図14B、あるいは、図15A及び図15Bに示す位置に設置する。そして、サービスマンは、自身の手作業又は処理装置1を介してパラメータを変化させ、その際の液滴DPに由来する散乱光Rを分析する。流路系の故障を第1実施形態で示す手法で発見できれば、サービスマンは即座に修理対応することが可能になる。
【0110】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【0111】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0112】
また、前記した各構成、機能、制御部111~測定処理部113、記憶装置120等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図3に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HDに格納すること以外に、メモリ110や、SSD等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0113】
1 処理装置
2 カメラ(散乱光情報取得装置)
3 イオン源(エレクトロスプレーイオン源)
4 液体クロマトグラフィー装置
5 質量分析計
40 流路(流路系)
41 溶媒タンク(流路系)
42 ミキサ(流路系)
43 ポンプ(流路系)
44 カラム(流路系)
45 バルブ(流路系)
104 表示装置
111 制御部
112 判定処理部
113 測定処理部(散乱光情報取得部)
120 記憶装置(記憶部)
121 判定基準情報
301 キャピラリ
302 ネブライザ管
303 補助ガス管
310 光源装置
311 光源
312 レンズ
331 光源設置部
332 透明板
503 細孔
DP 液滴
R 散乱光
SL シートレーザ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B