(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122608
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】共振器フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/208 20060101AFI20240902BHJP
H01P 7/06 20060101ALI20240902BHJP
H01P 7/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01P1/208
H01P7/06
H01P7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030250
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 俊男
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006HC01
5J006HD01
5J006JA01
5J006LA02
5J006LA11
5J006LA22
5J006MA01
5J006MB02
5J006ND05
5J006PA01
(57)【要約】
【課題】実用上好ましいQ値、共振周波数および大きさを有する共振器フィルタを提供する。
【解決手段】共振器フィルタ(100)は、円筒状の空洞共振器(34)と、空洞共振器(34)と同じ中心軸(A)を有して当該中心軸(A)の方向に空洞共振器(34)と一列に並ぶとともに、空洞共振器(34)と電気的に直列に接続されるヘリカル共振器(35)と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の空洞共振器と、
前記空洞共振器と同じ中心軸を有して当該中心軸方向に前記空洞共振器と一列に並ぶとともに、前記空洞共振器と電気的に直列に接続されるヘリカル共振器と、を備える、共振器フィルタ。
【請求項2】
円筒状の空洞共振器、および、前記空洞共振器と同じ中心軸を有して当該中心軸方向に前記空洞共振器と直列に並ぶとともに、前記空洞共振器と電気的に直列に接続されるヘリカル共振器を有し、前記中心軸が平行になるように間隔をおいて配置される一対の複合共振器と、
前記一対の複合共振器の間に配置され、前記一対の複合共振器を結合させる結合孔を有する板部材と、を備え、
前記結合孔は、前記一対の複合共振器の長手方向に伸びるように形成されたスリットである、共振器フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信を行う機器では、信号の通過帯域を制限するためにフィルタが設けられている。例えば、特許文献1および2には、このようなフィルタとして空洞共振器を用いたフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63-97902号公報
【特許文献2】特開平7-131205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空洞共振器は、Q値が高いため、フィルタ特性を向上させるには好適である。しかしながら、一般に、空洞共振器は、周波数が高く、かつ大型であるので、フィルタを搭載する機器の仕様の制約上、空洞共振器をフィルタとして採用することが難しい場合がある。
【0005】
本発明の一態様は、実用上好ましいQ値、共振周波数および大きさを有する共振器フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る共振器フィルタは、円筒状の空洞共振器と、前記空洞共振器と同じ中心軸を有して当該中心軸の方向に前記空洞共振器と一列に並ぶとともに、前記空洞共振器と電気的に直列に接続されるヘリカル共振器と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、実用上好ましいQ値、共振周波数および大きさを有する共振器フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る共振器フィルタの構成を示す斜視図である。
【
図2】上記共振器フィルタの一部が開放された状態の構成を示す斜視図である。
【
図3】上記共振器フィルタの一部を断面で示す斜視図である。
【
図4】比較例の共振器フィルタのシミュレーションによる周波数特性を示すグラフである。
【
図5】実施形態に係る共振器フィルタのシミュレーションによる周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る共振器フィルタ100の構成を示す斜視図である。
図2は、共振器フィルタ100の一部が開放された状態の構成を示す斜視図である。
図3は、共振器フィルタ100の一部を断面で示す斜視図である。
【0011】
〈共振器フィルタの構成〉
図1~
図3に示すように、共振器フィルタ100は、フレーム1と、アクチュエータ2と、フィルタ部3と、周波数調整ユニット4とを備えている。フレーム1は、アクチュエータ2およびフィルタ部3一体に保持する構造体である。周波数調整ユニット4は、フィルタ部3の通過帯域における中心周波数を調整するための構造を有する。アクチュエータ2は、周波数調整ユニット4を駆動する装置である。
【0012】
フレーム1は、ベース11と、支持板12,13と、連結棒14とを有している。
【0013】
ベース11は、アクチュエータ2を載置するための板状の部材である。
【0014】
支持板12,13は、長方形を成す板状の部材であり、それぞれ横長の孔12a,13aを有している。支持板12,13は、ベース11における、アクチュエータ2が周波数調整ユニット4を駆動する方向(
図2に示す複合共振器33の中心軸Aの方向)と直交する方向の側縁に、それぞれの下端部で固定されている。支持板13は、ベース11における、周波数調整ユニット4が配置される側の側縁にベース11から立ち上がるように配置されている。支持板12は、ベース11における、支持板13が配置される側縁と平行な側縁にベース11から立ち上がるように配置されている。
【0015】
連結棒14は、一対設けられており、支持板12,13の上端部の間を連結する部材である。連結棒14は、一定の間隔をおいて平行に配置されている。
【0016】
続いて、フィルタ部3について詳細に説明する。フィルタ部3は、筐体31と、支持部材32と、複合共振器33と、ボルト37と、ナット38と、結合板39(板部材)とを有している。
【0017】
筐体31は、底部31aと、固定側壁31bと、対向側壁31cと、側部側壁31dと、上部31eとを有している。
【0018】
底部31aは、方形を成している。固定側壁31bは、底部31aの1つの側縁に固定されている側壁であり、支持板13にネジ止めによって固定されている。固定側壁31bは、支持板13の孔13aに通じる貫通孔30を有している。貫通孔30は、後述する周波数調整体43の直径よりも大きい直径を有する円形を成している。
【0019】
対向側壁31cは、底部31aの他の1つの側縁に固定されている側壁であり、固定側壁31bと対向する位置に配置されている。側部側壁31dは、一対設けられており、底部31aのさらに他の2つの側縁に固定されている側壁である。
【0020】
上部31eは、底部31aとほぼ同じ大きさの方形を成している。上部31eは、固定側壁31b、対向側壁31cおよび側部側壁31dの上端面に着脱可能に固定されることにより、底部31a、固定側壁31b、対向側壁31cおよび側部側壁31dにより形成される空間を封止する蓋として機能する。
【0021】
支持部材32は、樹脂によって形成された環状の部材であり、一対設けられている。支持部材32は、固定側壁31bの内壁面に配置されており、支持部材32の内側の開口部分が固定側壁31bの貫通孔30と通じる位置に固定されている。
【0022】
複合共振器33は、空洞共振器34と、ヘリカル共振器35と、保持部材36とを有している。
【0023】
空洞共振器34は、円筒状に形成されている共振器であり、
図2に示すように中心軸Aを有している。空洞共振器34は、金属によって形成されている。空洞共振器34の一端は、支持部材32の内壁面に嵌め込まれた状態で固定されることにより、支持部材32に支持されている。
【0024】
ヘリカル共振器35は、螺旋状に形成されたコイルによって形成されている共振器である。ヘリカル共振器35は、高いQ値を有するように、コイルの巻かれる間隔が広く、かつ太いコイルを有することが好ましい。
【0025】
図2に示すように、ヘリカル共振器35は、空洞共振器34と同じ中心軸Aを有して中心軸Aの方向に空洞共振器34と一列に並ぶように配置されている。ヘリカル共振器35は、空洞共振器34と電気的に直列に接続されるように、コイルの一端部が空洞共振器34の他端に接続されている。ヘリカル共振器35は、空洞共振器34と同程度の長さを有している。
【0026】
保持部材36は、円筒状に形成された樹脂製の部材である。保持部材36の一端部は、空洞共振器34の他端に嵌め入れられて、空洞共振器34に固定されている。保持部材36の他端は、ボルト37およびナット38によって筐体31の対向側壁31cに固定されている。
【0027】
ヘリカル共振器35は、保持部材36の外面壁に沿ってコイルが巻かれることにより、形状が保持されている。ヘリカル共振器35の対向側壁31c側の端部は、ボルト37を介してグランドに接続されている。
【0028】
図2に示すように、上記のように構成される複合共振器33は、一対設けられており、それぞれの中心軸Aが平行になるように間隔をおいて配置されている。また、一対の複合共振器33において磁気的に結合するように、ヘリカル共振器35のコイルが互いに逆方向に巻かれている。
【0029】
結合板39は、一対の複合共振器33の間に配置されている部材であり、側部側壁31dとほぼ同じ大きさに形成されている。結合板39は、筐体31内の空間を、一対の複合共振器33のそれぞれが配置される空間に区画するように、中心軸Aの方向に配置されている。
【0030】
結合板39は、結合孔39aを有している。結合孔39aは、結合板39の両面間を貫通するように形成されている。結合孔39aは、一対の複合共振器33のそれぞれが配置される空間を連通させることにより、一対の複合共振器33を磁気的に結合させる。
【0031】
結合孔39aは、一対の複合共振器33のそれぞれの中心軸Aの間に、複合共振器33の長手方向、より詳しくは中心軸Aの方向に伸びるように細長く形成されたスリットである。結合孔39aは、結合板39の対向側壁31c側の端の付近から、空洞共振器34における中心軸A方向のほぼ中央の側方の位置まで形成されている。結合孔39aは、1mmの幅と、75mmの長さとを有している。結合孔39aの形状は、細長い長方形である。
【0032】
続いて、周波数調整ユニット4について説明する。周波数調整ユニット4は、被駆動部41と、移動板42と、周波数調整体43とを有している。
【0033】
被駆動部41は、アクチュエータ2に駆動される部材である。被駆動部41は、アクチュエータ2の後述する駆動軸23と結合されており、駆動軸23と一体に中心軸Aの方向に移動する。移動板42は、被駆動部41が固定されることにより、被駆動部41と一体に移動する。
【0034】
周波数調整体43は、一対設けられている円柱状の部材であり、移動板42における支持板13側の面に固定されている。周波数調整体43は、その中心軸が中心軸Aと一致するように配置されている。周波数調整体43は、支持板13の孔13aおよび固定側壁31bの貫通孔30を通じて空洞共振器34および保持部材36の内部に挿入されるように配置されている。周波数調整体43の移動板42に固定される端部は、グランドに接続されている。
【0035】
周波数調整体43は、所定の範囲で共振器フィルタ100の中心周波数を調整することができるように、空洞共振器34の内部に挿入される部分の長さを有している。周波数調整体43は、周波数調整体43の外周面と空洞共振器34の内周面との間に一定の間隔(例えば1mm~2mm)が形成される直径を有することが好ましい。当該間隔が広すぎると、空洞共振器34と周波数調整体43との間に形成される容量の値が小さくなるので好ましくない。
【0036】
続いて、アクチュエータ2について説明する。アクチュエータ2は、本体部21を有している。
図3に示すように、本体部21は、駆動機構22、駆動軸23などを内蔵している。
【0037】
駆動機構22は、駆動軸23を中心軸Aの方向(
図3の矢印の方向)に移動させる直動機構である。駆動機構22は、例えば、ステッピングモータによって駆動されるボールねじのような機構であるが、その他の機構であってもよい。駆動軸23は、周波数調整体43が所定の範囲で空洞共振器34の内部を進退するように移動する。
【0038】
なお、駆動機構22は、本来、一対の周波数調整体43の間を通る、中心軸Aと平行な直線上に配置されているが、
図3においては、便宜上、一方の周波数調整体43の側に位置するように描かれている。
【0039】
アクチュエータ2の駆動軸23が中心軸Aと平行な方向に移動することにより、周波数調整体43が駆動軸23と同じ方向に移動する。これにより、空洞共振器34の内部に挿入される周波数調整体43の長さが変化する。すると、周波数調整体43の外周面と空洞共振器34の内周面との間でストレーが生じる。この結果、フィルタ部3の中心周波数が変化する。このように、周波数調整体43を移動させることにより、フィルタ部3の中心周波数を調整することができる。
【0040】
〈共振器フィルタによる効果〉
上記のように構成される共振器フィルタ100は、複合共振器33を備えている。複合共振器33は、空洞共振器34およびヘリカル共振器35が中心軸Aの方向に一列に並ぶように接続され、ヘリカル共振器35が空洞共振器34と電気的に直列に接続されている。
【0041】
一般に、空洞共振器のQ値は2000~3000というように高いが、ヘリカル共振器のQ値は500~600というように低い。したがって、ヘリカル共振器のみでフィルタを構成しようとすると、フィルタの仕様によってはQ値が不足する。また、空洞共振器の共振周波数は、ヘリカル共振器の共振周波数よりも高い。したがって、空洞共振器のみでフィルタを構成しようとすると、フィルタの仕様によっては共振周波数が高すぎることがある。また、同じ共振周波数を得ることができる空洞共振器およびヘリカル共振器のサイズを比較すると、空洞共振器の方が大きい。
【0042】
これに対し、複合共振器33は、空洞共振器34とヘリカル共振器35とを組み合わせることにより、実用上問題ないQ値を維持しながら、共振器フィルタ100を構成することができる。また、ヘリカル共振器35の共振周波数は空洞共振器34の共振周波数と比べて低いので、複合共振器33の共振周波数を、仕様に合せて、空洞共振器34の共振周波数よりも低下させることができる。しかも、複合共振器33によって構成されるフィルタは、空洞共振器のみで構成されるフィルタよりも、空洞共振器34が占める割合が少ないので、小さくなる。
【0043】
また、共振器フィルタ100は、フィルタ部3が結合板39を有している。結合板39は、一対の複合共振器33の間に配置され、一対の複合共振器33を結合させる結合孔を有している。結合孔39aは、一対の複合共振器33の長手方向に伸びるように形成されたスリットである。
【0044】
フィルタ部3において結合孔39aがスリットであることにより、後述するように、より挿入損失および減衰量を改善することができる。
【0045】
〈共振器フィルタの特性〉
比較例の共振器フィルタおよび共振器フィルタ100のシミュレーションによる周波数特性について説明する。
図4は、比較例の共振器フィルタのシミュレーションによる周波数特性を示すグラフである。
図5は、実施形態に係る共振器フィルタ100のシミュレーションによる周波数特性を示すグラフである。
【0046】
比較例に係る共振器フィルタは、共振器フィルタ100のフィルタ部3と同じく結合板39を有しているが、結合板39が結合孔39aに代えて楕円形状の結合孔を有している。
【0047】
図4に示すように、比較例の共振器フィルタによるシミュレーションの結果では、中心周波数163.3MHzの中心周波数に対し、5MHz低い158.3MHzにおける減衰量が-26.6dBとなり、5MHz高い168.3MHzにおける減衰量が-24.1dBとなった。
【0048】
これに対し、
図5に示すように、本実施形態の共振器フィルタ100によるシミュレーションの結果では、中心周波数164.3MHzの中心周波数に対し、5MHz低い159.3MHzにおける減衰量が-28.7dBとなり、5MHz高い169.3MHzにおける減衰量が-26.3dBとなった。共振器フィルタ100は、比較例の共振フィルタと比べて、減衰量が約2dB多くなり、改善していることがわかる。これは、一対の複合共振器33間での結合孔39aを介した結合量を十分に大きくすることができることによる。一般に、減衰量の調整は、0.1dB単位というような微小な単位で行われるため、2dBという減衰量の改善は困難である。また、
図5に曲線Lにて示すように、挿入損失についても、-20dB程度という良好な値が得られた。
【0049】
このように、共振器フィルタ100によれば、大幅な周波数特性の改善を図ることができる。それゆえ、共振器フィルタ100をVHF帯のバンドパスフィルタとして好適に利用することができる。
【0050】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。また、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
33 複合共振器
34 空洞共振器
35 ヘリカル共振器
39 結合板(板部材)
39a 結合孔
100 共振器フィルタ
A 中心軸