(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122619
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030275
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長井 渓之介
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG08
5H505HB01
5H505JJ25
5H505LL16
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】電動圧縮機を解析することなく速度偏差を小さくすること。
【解決手段】電動圧縮機は、電動モータと、電動モータに駆動される圧縮部と、インバータと、を備える。インバータは、制御部と、ドライバと、を備える。制御部は、外部から入力される回転子の速度指令値を用いて、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を含む複数の指令値を算出してドライバを駆動する。制御部は、電流指令補正部を備える。電流指令補正部は、速度偏差が予め定められた閾値以上の場合に、速度検出値の波形における隣り合う一対の極大点または隣り合う一対の極小点を用いて波形の周期を算出する。電流指令補正部は、周期から波形における次の極小点を推定する。電流指令補正部は、推定した極小点でq軸電流指令値が大きくなるようにq軸電流指令値を補正する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体回転する回転子、及びコイルが巻回され、前記回転子が内周側に配置された円筒状の固定子を有する電動モータと、
前記電動モータに駆動される圧縮部と、
制御部と、前記制御部によって駆動されるドライバと、前記ドライバによって駆動されるスイッチング素子と、を有し、前記スイッチング素子によって前記電動モータを駆動するインバータと、を備え、
前記制御部は、
外部から入力される前記回転子の速度指令値を用いて、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を含む複数の指令値を算出して前記ドライバを駆動し、
前記制御部は、前記速度指令値と前記圧縮部の動作に応じて周期的に変動する前記回転子の速度検出値との差分である速度偏差に応じて前記q軸電流指令値を補正する電流指令補正部を備え、
前記電流指令補正部は、
前記速度偏差が予め定められた閾値以上の場合に、
前記速度検出値の波形における隣り合う一対の極大点または隣り合う一対の極小点を用いて前記波形の周期を算出し、
前記周期から前記波形における次の極小点を推定し、
推定した前記極小点で前記q軸電流指令値が大きくなるように前記q軸電流指令値を補正する、電動圧縮機。
【請求項2】
前記電動モータの負荷は、前記圧縮部が流体を圧縮する過程で増加し、前記圧縮部が流体を吐出すると減少するように周期的に変動し、
前記波形は、前記負荷が増加すると減少し、前記負荷が減少すると増加するように変動し、
前記電流指令補正部は、推定した前記極小点を含む前記速度検出値が0よりも低いと推定される間の前記q軸電流指令値を補正する、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
動力伝達機構によって前記回転軸とは逆方向に回転する従動軸を有し、
前記圧縮部は、前記回転軸及び前記従動軸にそれぞれ取り付けられ、互いに逆方向へ回転される一対の二葉まゆ形のロータを有し、
前記波形の変動は、正弦波であり、
前記電流指令補正部は、前記正弦波における推定した前記極小点を含む前記速度検出値が0よりも低いと推定される間の前記q軸電流指令値を補正する、請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記電流指令補正部は、前記周期を所定回数算出した後、算出した前記周期同士の差が許容範囲に収まっている場合、前記極小点を推定する、請求項1又は請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記制御部は、前記コイルに発生する誘起電圧によって前記回転子の位置を推定するセンサレス制御によって前記インバータを制御する、請求項1又は請求項2に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の電動圧縮機は、圧縮部と、インバータと、電動モータと、制御部と、を備える。圧縮部は、電動モータによって駆動される。インバータは、電動モータを駆動する。制御部は、インバータを制御する。制御部は、速度指令値と速度検出値との差分である速度偏差が小さくなるように第1電流指令値を決定する。電動モータの負荷が変動する場合、速度検出値が変動するため、速度指令値と速度検出値に乖離が発生する。制御部は、速度検出値に変動次数を乗算することで負荷変動周波数を算出する。制御部は、負荷変動周波数に基づき、負荷の変動による電動モータの速度の変動を抑制するための第2電流指令値を決定する。制御部は、第1電流指令値と第2電流指令値から第3電流指令値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、変動次数を定めておく必要があるため、電動圧縮機の解析が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電動圧縮機は、回転軸と一体回転する回転子、及びコイルが巻回され、前記回転子が内周側に配置された円筒状の固定子を有する電動モータと、前記電動モータに駆動される圧縮部と、制御部と、前記制御部によって駆動されるドライバと、前記ドライバによって駆動されるスイッチング素子と、を有し、前記スイッチング素子によって前記電動モータを駆動するインバータと、を備え、前記制御部は、外部から入力される前記回転子の速度指令値を用いて、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を含む複数の指令値を算出して前記ドライバを駆動し、前記制御部は、前記速度指令値と前記圧縮部の動作に応じて周期的に変動する前記回転子の速度検出値との差分である速度偏差に応じて前記q軸電流指令値を補正する電流指令補正部を備え、前記電流指令補正部は、前記速度偏差が予め定められた閾値以上の場合に、前記速度検出値の波形における隣り合う一対の極大点または隣り合う一対の極小点を用いて前記波形の周期を算出し、前記周期から前記波形における次の極小点を推定し、推定した前記極小点で前記q軸電流指令値が大きくなるように前記q軸電流指令値を補正する。
【0006】
電流指令補正部は、速度偏差が閾値以上の場合にq軸電流指令値を補正する。負荷の変動は周期性を有する。速度検出値は、負荷の変動に連動するため、速度検出値も周期性を有する。速度検出値の波形の周期を算出することで、速度検出値の波形における次の極小点を推定することができる。負荷が大きいほど速度検出値は小さくなるため、速度検出値の波形における極小点は負荷が最大になる時点である。極小点でq軸電流指令値が大きくなるようにq軸電流指令値を補正することによって、負荷が最大になる時点でのトルクを増加させることができる。これにより、負荷の変動による速度偏差を小さくすることができる。速度検出値の波形の周期を算出することによって速度偏差を小さくすることができるため、電動圧縮機を解析することなく速度偏差を小さくすることができる。
【0007】
上記電動圧縮機について、前記電動モータの負荷は、前記圧縮部が流体を圧縮する過程で増加し、前記圧縮部が流体を吐出すると減少するように周期的に変動し、前記波形は、前記負荷が増加すると減少し、前記負荷が減少すると増加するように変動し、前記電流指令補正部は、推定した前記極小点を含む前記速度検出値が0よりも低いと推定される間の前記q軸電流指令値を補正してもよい。
【0008】
上記電動圧縮機について、動力伝達機構によって前記回転軸とは逆方向に回転する従動軸を有し、前記圧縮部は、前記回転軸及び前記従動軸にそれぞれ取り付けられ、互いに逆方向へ回転される一対の二葉まゆ形のロータを有し、前記波形の変動は、正弦波であり、前記電流指令補正部は、前記正弦波における推定した前記極小点を含む前記速度検出値が0よりも低いと推定される間の前記q軸電流指令値を補正してもよい。
【0009】
上記電動圧縮機について、前記電流指令補正部は、前記周期を所定回数算出した後、算出した前記周期同士の差が許容範囲に収まっている場合、前記極小点を推定してもよい。
上記電動圧縮機について、前記制御部は、前記コイルに発生する誘起電圧によって前記回転子の位置を推定するセンサレス制御によって前記インバータを制御してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動圧縮機を解析することなく速度偏差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】
図1の電流指令補正部が行う電流指令補正制御を示すフローチャートである。
【
図5】負荷、q軸電流指令値、及び速度検出値の関係を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
電動圧縮機の一実施形態について説明する。
<電動圧縮機>
図1に示すように、電動圧縮機100は、ハウジング111を備える。ハウジング111は、モータハウジング112を備える。モータハウジング112は、壁部113を備える。壁部113は、板状である。モータハウジング112は、周壁114を備える。周壁114は、筒状である。周壁114は、壁部113の外周部から延びている。
【0013】
ハウジング111は、ギアハウジング121を備える。ギアハウジング121は、壁部122を備える。壁部122は、板状である。ギアハウジング121は、周壁123を備える。周壁123は、筒状である。周壁123は、壁部122の外周部から延びている。ギアハウジング121は、モータハウジング112の周壁114の開口側の端部に連結されている。ギアハウジング121の壁部122は、モータハウジング112の周壁114の開口を閉塞している。
【0014】
ハウジング111は、ロータハウジング131を備える。ロータハウジング131は、壁部132を備える。壁部132は、板状である。ロータハウジング131は、周壁133を備える。周壁133は、筒状である。周壁133は、壁部132の外周部から延びている。ロータハウジング131は、ギアハウジング121の周壁123の開口側の端部に連結されている。ロータハウジング131の壁部132は、ギアハウジング121の周壁123の開口を閉塞している。
【0015】
図2に示すように、周壁133は、吸入口134と、吐出口135と、を備える。吸入口134は、周壁133を貫通している。吐出口135は、周壁133を貫通している。吸入口134及び吐出口135は、ロータハウジング131の内外を繋いでいる。
【0016】
図1に示すように、ハウジング111は、カバー部材141を備える。カバー部材141は、板状である。カバー部材141は、ロータハウジング131の周壁133の開口側の端部に連結されている。カバー部材141は、周壁133を閉塞している。モータハウジング112の周壁114の軸心方向、ギアハウジング121の周壁123の軸心方向、及びロータハウジング131の周壁133の軸心方向はそれぞれ一致している。
【0017】
電動圧縮機100は、回転軸151を備える。電動圧縮機100は、従動軸152を備える。回転軸151は、回転可能な状態でハウジング111に支持されている。従動軸152は、回転可能な状態でハウジング111に支持されている。回転軸151と従動軸152とは互いに平行に配置されている。
【0018】
電動圧縮機100は、動力伝達機構153を備える。動力伝達機構153は、駆動ギア154を備える。駆動ギア154は、回転軸151に固定されている。動力伝達機構153は、従動ギア155を備える。従動ギア155は、従動軸152に固定されている。従動ギア155と駆動ギア154とは互いに噛み合っている。駆動ギア154及び従動ギア155は、ハウジング111内に形成されたギア室S11に収容されている。
【0019】
図1及び
図2に示すように、電動圧縮機100は、圧縮部101を備える。圧縮部101は、流体を圧縮する。流体は、気体であってもよいし、液体であってもよい。圧縮部101は、例えば、水素ガスを含む気体を吸入する。圧縮部101は、吸入した気体を圧縮して吐出する。電動圧縮機100は、例えば、車両に搭載される。電動圧縮機100は、例えば、燃料電池に水素ガスを含む気体を供給する水素ポンプとして用いられる。圧縮部101は、例えば、二葉まゆ形のロータを有するルーツタイプである。圧縮部101は、スクロールタイプ、又はピストンタイプであってもよい。
【0020】
圧縮部101は、駆動ロータ102と、従動ロータ103と、を備える。駆動ロータ102及び従動ロータ103は、ハウジング111内に形成されたロータ室S12に収容されている。駆動ロータ102は、回転軸151に取り付けられている。従動ロータ103は、従動軸152に取り付けられている。駆動ロータ102及び従動ロータ103は、二葉まゆ形である。駆動ロータ102及び従動ロータ103は、回転軸151及び従動軸152にそれぞれ取り付けられ、互いに逆方向へ回転される一対の二葉まゆ形のロータである。駆動ロータ102及び従動ロータ103の回転によって吸入口134からロータ室S12に流体が吸入される。吸入口134からロータ室S12に吸入された流体は、駆動ロータ102及び従動ロータ103の回転によって圧縮されて、吐出口135から吐出される。
【0021】
図3に示すように、電動圧縮機100は、電動機M1を備える。電動機M1は、電動モータ11を備える。
図1に示すように、電動モータ11は、ハウジング111内に形成されたモータ室S13に収容されている。電動モータ11は、回転子12を備える。回転子12は、回転軸151に固定されている。これにより、回転子12は、回転軸151と一体回転する。回転子12が回転すると、従動軸152は、動力伝達機構153によって回転軸151とは逆方向に回転する。電動モータ11は、3相のコイルU,V,Wが巻回された固定子13を備える。固定子13は、モータハウジング112の周壁114の内周面に固定されている。固定子13は、円筒状である。固定子13の内周側に回転子12が配置されている。コイルU,V,Wへの通電によって回転子12は回転する。回転子12の回転によって圧縮部101は駆動する。これにより、圧縮部101は流体を圧縮する。
【0022】
図3に示すように、電動機M1は、インバータ20を備える。インバータ20は、電動モータ11を駆動する。インバータ20は、インバータ回路21を備える。インバータ回路21は、6つのスイッチング素子Q1~Q6と、ダイオードD1~D6と、を備える。スイッチング素子Q1~Q6は、例えば、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。スイッチング素子は、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)であってもよい。この場合、スイッチング素子Q1~Q6とダイオードD1~D6とが一体である。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは互いに直列接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とは互いに直列接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6とは互いに直列接続されている。スイッチング素子Q1~Q6にはそれぞれダイオードD1~D6が並列接続されている。
【0023】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続線は、途中で分岐してコイルUに接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続線は、途中で分岐してコイルVに接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との接続線は、途中で分岐してコイルWに接続されている。
【0024】
インバータ20は、平滑コンデンサCを備える。平滑コンデンサCを介して各スイッチング素子Q1~Q6には、バッテリBAが接続されている。インバータ回路21は、バッテリBAから入力された直流電力を交流電力に変換する。この交流電力が電動モータ11に供給されることで電動モータ11は駆動する。
【0025】
インバータ20は、相電流検出部22を備える。相電流検出部22は、少なくとも2相分の相電流を検出する。本実施形態において、相電流検出部22は、u相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwを検出する。3相のうち2相分の相電流を検出して、残りの1相分の相電流は2相分の相電流から算出するようにしてもよい。u相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwは、電動モータ11の各相に流れる実電流である。
【0026】
インバータ20は、電圧検出部23を備える。電圧検出部23は、バッテリBAからインバータ回路21に入力される入力電圧Viを検出する。
インバータ20は、ドライバ24を備える。ドライバ24は、スイッチング素子Q1~Q6を駆動する。
【0027】
インバータ20は、制御部30を備える。制御部30は、プロセッサと、記憶部と、を備える。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部は、処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御部30は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御部30は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0028】
<制御部>
制御部30は、ドライバ24を駆動する。詳細にいえば、制御部30は、複数の指令値を算出してドライバ24を駆動する。制御部30は、インバータ20を制御する。制御部30は、センサレス制御によってインバータ20を制御する。センサレス制御は、電動モータ11の回転子12の位置を検出するハードウェアの位置センサを用いずにインバータ20を制御する方式である。インバータ20が制御されることで電動モータ11が駆動する。制御部30は、誘起電圧方式による位置推定によって回転子12の位置を推定してもよい。誘起電圧方式は、コイルU,V,Wに発生する誘起電圧によって回転子12の位置を推定する方式である。制御部30は、高調波重畳方式による位置推定によって回転子12の位置を推定してもよい。一例として、誘起電圧方式により位置推定を行う場合について説明する。
【0029】
制御部30は、電流座標変換部31と、位置推定部32と、減算部33と、速度指令制御部34と、電流指令制御部35と、減算部36と、電流指令補正部37と、最終電流指令制御部38と、PWM制御部39と、を備える。
【0030】
電流座標変換部31は、位置推定部32から回転子12の位置を取得する。電流座標変換部31は、相電流Iu,Iv,Iwを、回転子12の位置に基づいてd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。d軸及びq軸は、dq座標系の座標軸である。dq座標系は、電動モータ11の回転子12とともに回転する座標系である。
【0031】
位置推定部32は、電流座標変換部31からd軸電流Id及びq軸電流Iqを取得する。位置推定部32は、最終電流指令制御部38からd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を取得する。位置推定部32は、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、電動モータ11によって定まる定数と、に基づいてコイルU,V,Wに発生する誘起電圧を算出する。そして、位置推定部32は、誘起電圧に基づき位置を推定する。位置推定部32は、誘起電圧に基づいて回転子12の回転速度を推定する。位置推定部32が推定する回転子12の回転速度は、速度検出値ωである。
【0032】
減算部33は、速度指令値ω*と、位置推定部32によって推定された速度検出値ωとの差分である速度偏差Δωを算出する。速度指令値ω*は、回転子12の回転速度の目標値である。速度指令値ω*は、外部から入力される。速度指令値ω*は、例えば、車両の上位制御装置から制御部30に入力される。
【0033】
速度指令制御部34は、速度偏差Δωに基づいて目標電流値であるモータ電流指令値Iαを算出する。例えば、速度指令制御部34は、フィードバック制御を用いることによって速度偏差Δωが0に収束するように、モータ電流指令値Iαを算出する。フィードバック制御は、例えば、比例積分制御である。
【0034】
電流指令制御部35は、モータ電流指令値Iαからd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。d軸電流指令値Id*は、速度偏差Δωが0に収束するように算出されたd軸電流Idの指令値である。q軸電流指令値Iq*は、速度偏差Δωが0に収束するように算出されたq軸電流Iqの指令値である。このように、制御部30は、外部から入力される回転子12の速度指令値ω*を用いて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。制御部30が算出する複数の指令値は、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を含む。
【0035】
減算部36は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差分であるd軸電流偏差ΔIdを算出する。減算部36は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差分であるq軸電流偏差ΔIqを算出する。
【0036】
最終電流指令制御部38は、d軸電流偏差ΔIdに基づいてd軸電圧指令値Vd*を算出する。最終電流指令制御部38は、q軸電流偏差ΔIqに基づいてq軸電圧指令値Vq*を算出する。最終電流指令制御部38は、フィードバック制御を用いることによってd軸電流偏差ΔIdが0に収束するように、d軸電圧指令値Vd*を算出する。最終電流指令制御部38は、フィードバック制御を用いることによってq軸電流偏差ΔIqが0に収束するように、q軸電圧指令値Vq*を算出する。最終電流指令制御部38は、d軸電流偏差ΔIdにゲインを乗算することによって得られた制御値に基づいてd軸電圧指令値Vd*を算出する。最終電流指令制御部38は、q軸電流偏差ΔIqにゲインを乗算することによって得られた制御値に基づいてq軸電圧指令値Vq*を算出する。フィードバック制御としては、例えば、比例積分制御を用いることができる。この場合、ゲインは、比例ゲイン及び積分ゲインを含む。
【0037】
PWM制御部39は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、位置推定部32が推定した回転子12の位置及び入力電圧Viに基づいてu相電圧指令値Vu、v相電圧指令値Vv、及びw相電圧指令値Vwに変換する。
【0038】
インバータ回路21は、電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて制御される。詳細にいえば、PWM制御部39は、電圧指令値Vu,Vv,Vwとキャリア周波数とに基づいて、PWM信号を生成し、PWM信号によってスイッチング素子Q1~Q6を制御する。
【0039】
電流指令補正部37は、q軸電流指令値Iq*を補正する。電流指令補正部37は、以下の電流指令補正制御を行うことによってq軸電流指令値Iq*を補正する。電流指令補正制御とともに本実施形態の作用について説明する。
【0040】
<電流指令補正制御及び本実施形態の作用>
図4に示すように、ステップS1において、電流指令補正部37は、速度偏差Δωが予め定められた閾値以上か否かを判定する。閾値は、速度偏差Δωを許容できる範囲を定めるための値である。閾値は、電動圧縮機100のユーザが任意に設定することができる。ステップS1の判定結果が否定の場合、電流指令補正部37は、電流指令補正制御を終了する。ステップS1の判定結果が肯定の場合、電流指令補正部37は、ステップS2の処理を行う。
【0041】
図4及び
図5に示すように、ステップS2において、電流指令補正部37は、速度検出値ωの波形における極小点P1を認識する。
図5に示すように、速度検出値ωは、時間経過によって変動する。電動モータ11は、圧縮部101を駆動する。このため、圧縮部101が電動モータ11の負荷となって負荷の増減に伴い速度検出値ωは変動する。負荷が大きいほど電動モータ11のトルクを要するため、負荷が大きいほど電動モータ11の速度検出値ωは小さくなる。
【0042】
圧縮部101は、流体の吸入、流体の圧縮、及び流体の吐出を行う。流体を圧縮する過程では、負荷が大きくなっていく。圧縮部101が流体を吐出すると負荷は小さくなる。従って、流体を吸入してから吐出するまでの間に、電動モータ11の負荷は周期的に変化する。例えば、負荷は、正弦波状に変化する。即ち、負荷が正弦波の中心C1よりも大きくなる期間T11と、負荷が正弦波の中心C1よりも小さくなる期間T12とが交互に現れる。電動モータ11の負荷は、圧縮部101が流体を圧縮する過程で増加し、圧縮部101が流体を吐出すると減少するように周期的に変動する。
【0043】
負荷が大きくなるほど速度検出値ωは小さくなるため、速度検出値ωは負荷に連動して周期的に変動する。速度検出値ωは、圧縮部101の動作に応じて周期的に変動する。詳細にいえば、速度検出値ωの波形は、負荷が増加すると減少し、負荷が減少すると増加するように変動する。速度検出値ωの波形の変動は、例えば、正弦波である。速度指令値ω*が一定であれば、負荷が大きくなる期間T11において速度検出値ωは、速度指令値ω*を下回る。負荷が小さくなる期間T12において速度検出値ωは、速度指令値ω*を上回る。
【0044】
電流指令補正部37が位置推定部32から速度検出値ωを取得すると、速度検出値ωは正弦波状に変化している。このため、電流指令補正部37は、速度検出値ωの極小点P1を認識することができる。速度検出値ωの極小点P1は、正弦波状に変化する速度検出値ωが最も低くなる時点である。
【0045】
図4に示すように、次に、ステップS3において、電流指令補正部37は、速度検出値ωの波形における極小点P1間の時間を算出する。速度検出値ωの波形における極小点P1間の時間は、速度検出値ωの波形における隣り合う一対の極小点P1間の時間である。ステップS2の処理で速度検出値ωの波形における極小点P1を認識すると、電流指令補正部37は、速度検出値ωの波形における前回の極小点P1からの経過時間を算出することで速度検出値ωの波形における極小点P1間の時間を算出する。速度検出値ωの波形における極小点P1間の時間は、速度検出値ωの波形の周期T1である。速度検出値ωの波形の周期T1は、圧縮部101が流体を吸入してから吐出するまでの周期と一致する。
【0046】
次に、ステップS4において、電流指令補正部37は、周期T1の算出を所定回数繰り返した後、次の周期点を推定する。電流指令補正部37は、ステップS2とステップS3とを繰り返すことによって、周期T1を算出していく。そして、周期T1を算出した回数が所定回数に達すると、次の周期点を推定する。所定回数は、外乱などによって偶発的に生じた負荷の変動による影響を低減できるように設定される。外乱や速度指令値ω*の変動によって速度検出値ωの変動が一定にならない場合がある。この場合、周期T1を正しく認識できない場合がある。電流指令補正部37は、周期T1を算出した回数が所定回数に達すると、算出された周期T1同士の差を求めてもよい。そして、電流指令補正部37は、周期T1同士の差が許容範囲に収まっていれば電流指令補正制御を継続し、周期T1同士の差が許容範囲に収まっていなければ電流指令補正制御を終了してもよい。
【0047】
電流指令補正部37は、算出した周期T1から速度検出値ωの波形における次の周期点を推定する。速度検出値ωの波形における次の周期点は、速度検出値ωの波形における次の極小点P1である。速度検出値ωの次の周期点は、負荷の次の最上点でもある。負荷の次の最上点は、正弦波状に変化する負荷が最も大きくなる時点である。電流指令補正部37は、直近の極小点P1に周期T1を加算した時点を速度検出値ωの波形における次の周期点であると推定する。
【0048】
次に、ステップS5において、電流指令補正部37は、次の周期点とq軸電流指令値Iq*のピークとが一致するようにq軸電流指令値Iq*を補正する。電流指令補正部37は、速度検出値ωの波形における推定した次の周期点を含む速度検出値ωが0よりも低いと推定される間のq軸電流指令値Iq*を補正する。本実施形態において、
図5に示すように、電流指令補正部37は、周期T1の半分の時間T2分だけq軸電流指令値Iq*が大きくなるようにq軸電流指令値Iq*を補正する。即ち、電流指令補正部37が補正を行わない場合に比べて、q軸電流指令値Iq*は大きくなる。電流指令補正部37は、次の周期点に向けてq軸電流指令値Iq*が徐々に大きくなり、次の周期点でピークに達した後にはq軸電流指令値Iq*が徐々に小さくなるようにq軸電流指令値Iq*を補正する。
【0049】
q軸電流指令値Iq*の補正は、例えば、q軸電流偏差ΔIqに乗算されるゲインを調整することによって行うことができる。例えば、電流指令補正部37は、q軸電流偏差ΔIqに乗算される比例ゲイン及び積分ゲインの少なくとも1つを調整する。
図5に示すように、q軸電流指令値Iq*を補正すると、負荷が大きくなる期間T11にq軸電流指令値Iq*が大きくなる。これにより、負荷が大きくなる期間T11に電動モータ11のトルクが大きくなる。負荷が大きくなることによって速度検出値ωが低くなることが抑制される。
【0050】
次に、ステップS6において、電流指令補正部37は、速度偏差Δωが閾値未満か否かを判定する。ステップS6での閾値は、ステップS1での閾値と同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。ステップS6の判定結果が肯定の場合、電流指令補正部37は、ステップS7の処理を行う。ステップS6の判定結果が否定の場合、電流指令補正部37は、ステップS8の処理を行う。
【0051】
ステップS7において、電流指令補正部37は、q軸電流偏差ΔIqに乗算されるゲインを維持する。
ステップS8において、電流指令補正部37は、q軸電流指令値Iq*を補正する前に比べて速度偏差Δωが大きくなったか否かを判定する。ステップS8の判定結果が肯定の場合、電流指令補正部37は、ステップS9の処理を行う。ステップS8の判定結果が否定の場合、電流指令補正部37は、ステップS10の処理を行う。
【0052】
ステップS9において、電流指令補正部37は、q軸電流偏差ΔIqに乗算されるゲインを小さくする。
ステップS10において、電流指令補正部37は、q軸電流偏差ΔIqに乗算されるゲインを大きくする。
【0053】
[本実施形態の効果]
(1)電流指令補正部37は、速度偏差Δωが閾値以上の場合にq軸電流指令値Iq*を補正する。負荷の変動は周期性を有する。速度検出値ωは、負荷の変動に連動するため、速度検出値ωも周期性を有する。速度検出値ωの波形の周期T1を算出することで、速度検出値ωの波形における次の周期点を推定することができる。速度検出値ωの波形における周期点は負荷が最大になる時点である。速度検出値ωの波形における次の周期点でq軸電流指令値Iq*が大きくなるようにq軸電流指令値Iq*を補正することによって、負荷が最大になる時点でのトルクを増加させることができる。これにより、負荷の変動による速度偏差Δωを小さくすることができる。速度検出値ωの波形の周期T1を算出することによって速度偏差Δωを小さくすることができるため、電動圧縮機100を解析することなく速度偏差Δωを小さくすることができる。
【0054】
(2)電流指令補正部37は、推定した周期点を含む速度検出値ωが0よりも低いと推定される間のq軸電流指令値Iq*を補正する。これにより、負荷が大きくなる期間T11に電動モータ11のトルクを大きくすることができる。従って、電動モータ11のトルクを大きくする必要がある期間だけ、電動モータ11のトルクを大きくすることができる。
【0055】
(3)電流指令補正部37は、周期T1の半分の時間T2だけq軸電流指令値Iq*を補正する。負荷が正弦波状に変動するとした場合、負荷が大きくなる期間T11は周期T1の半分の時間T2である。周期点を中心にして周期T1の半分の時間T2だけq軸電流指令値Iq*を補正することによって、負荷が大きくなる期間T11に電動モータ11のトルクを大きくすることができる。従って、電動モータ11のトルクを大きくする必要がある期間だけ、電動モータ11のトルクを大きくすることができる。
【0056】
(4)電流指令補正部37は、周期T1を所定回数算出した後、算出した周期T1同士の差が許容範囲に収まっている場合、次の周期点を推定する。外乱や速度指令値ω*の変動によって速度検出値ωが一定にならない場合、次の周期点を推定しにくい。算出した周期T1同士の差が許容範囲に収まっている場合に次の周期点を推定することによって、次の周期点の推定を行いやすい。
【0057】
(5)制御部30は、コイルU,V,Wに発生する誘起電圧によって回転子12の位置を推定する。電流指令補正部37が電流指令補正制御を行うことで、速度検出値ωが速度指令値ω*より低くなることを抑制できる。このため、センサレスロジックを維持しやすい。
【0058】
[変更例]
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
○電流指令補正部37は、周期T1を所定回数算出しなくてもよい。この場合、ステップS1の判定結果が肯定になった場合に、周期T1を1回算出すればよい。
○電流指令補正部37は、周期T1の半分の時間T2よりも短い時間、q軸電流指令値Iq*を補正してもよい。この場合であっても、電流指令補正部37は、速度検出値ωの波形における推定した次の周期点を含む速度検出値ωが0よりも低いと推定される間のq軸電流指令値Iq*を補正する。
【0060】
○電流指令補正部37は、速度検出値ωの波形における極大点間の時間を周期T1として算出してもよい。速度検出値ωの極大点は、正弦波状に変化する速度検出値ωが最も大きくなる時刻である。
【0061】
○インバータ20は、回転子12の速度を検出するセンサを備えていてもよい。この場合、速度検出値ωは、センサの検出結果である。
【符号の説明】
【0062】
P1…極小点、Q1~Q6…スイッチング素子、U,V,W…コイル、11…電動モータ、12…回転子、13…固定子、20…インバータ、24…ドライバ、30…制御部、37…電流指令補正部、100…電動圧縮機、101…圧縮部、102…駆動ロータ、103…従動ロータ、151…回転軸、152…従動軸、153…動力伝達機構。