(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122627
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、および圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02P 29/66 20160101AFI20240902BHJP
【FI】
H02P29/66
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030285
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 稔
(72)【発明者】
【氏名】河野 高志
(72)【発明者】
【氏名】関本 守満
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA09
5H501BB20
5H501CC01
5H501CC05
5H501DD04
5H501EE08
5H501HA09
5H501HA15
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ16
5H501JJ17
5H501JJ26
5H501KK06
5H501LL05
5H501LL10
5H501LL22
5H501LL39
5H501MM02
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】モータに減磁が発生することを効果的に抑制することができるようにする。
【解決手段】モータ駆動装置は、前記磁石の推定温度(TA)を算出する制御部(68)を備え、前記制御部(68)は、前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たし、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が対応閾値(UA)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たさず、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が固定閾値(UB)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる磁石を有するモータ(32)を駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ(32)に流れる電流を検出するセンサ(64)と、
前記磁石の推定温度(TA)を算出する制御部(68)と
を備え、
前記制御部(68)は、
前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たし、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記磁石の複数の温度と複数の閾値とをそれぞれ対応付けた閾値情報(U)において前記磁石の推定温度(TA)に対応する閾値である対応閾値(UA)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、
前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たさず、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記閾値情報(U)において前記磁石の既定温度(TB)に対応する閾値である固定閾値(UB)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記磁石は、希土類磁石を含み、
前記既定温度(TB)は、前記モータ(32)の温度限度値における最大温度、または前記モータ(32)の使用温度範囲における最大温度以上の値である、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記磁石は、フェライト磁石を含み、
前記既定温度(TB)は、前記モータ(32)の温度限度値における最小温度、または前記モータ(32)の使用温度範囲における最小温度以下の値である、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記所定の運転条件は、前記モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となる条件を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記所定の運転条件は、前記モータ(32)に流れる電流が所定値以上となる条件を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記所定の運転条件は、前記モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となり、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が所定値以上となる条件を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記所定値は、前記モータの温度限度値における減磁電流がとり得る値の範囲内の最低値であり、
前記減磁電流値は、前記磁石の磁力を減少させる前記モータの電流値である、請求項5に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記所定値と比較される前記電流は、ハンチング防止のためにフィルタリングされた電流値である、請求項5に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記フィルタリングでは、想定内の電流変化は通過し、想定外の電流変化は除去するカットオフ周波数に設定されるローパスフィルタが用いられる、請求項8に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記モータ(32)は、圧縮機(30)を駆動させ、
前記制御部(68)は、前記圧縮機(30)の吐出管(22)の温度、または、前記圧縮機(30)の外郭温度に基づいて、前記磁石の推定温度(TA)を算出する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記制御部(68)は、前記モータ(32)への通電を停止することで、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項12】
前記制御部(68)は、前記対応閾値(UA)または前記固定閾値(UB)と比較する前記モータ(32)の電流を示す情報からノイズ信号を除去する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項13】
前記ノイズ信号の除去は、サンプリング間の検出信号の変化量を制限することで行われる、請求項12に記載のモータ駆動装置。
【請求項14】
前記制御部(68)は、前記モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくすることで、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項15】
電流を小さくすることでモータ(32)の回転数を低下させる応答に比べ、前記磁石の推定温度(TA)の算出結果の変化を遅くするようにフィルタを用いる、請求項14に記載のモータ駆動装置。
【請求項16】
前記閾値情報(U)は、第1閾値情報(U1)と、前記第1閾値情報(U1)よりも低い閾値を設定する第2閾値情報(U2)とを含み、
前記閾値には、前記対応閾値(UA1, UA2)と前記固定閾値(UB1,UB2)とが含まれ、
前記制御部(68)は、
前記モータ(32)を流れる電流が、前記第1閾値情報(U1)に基づいて設定した前記閾値(UA1, UB1)を超えると、前記モータ(32)への通電を停止し、
前記モータ(32)を流れる電流が、前記第2閾値情報(U2)に基づいて設定した前記閾値(UA2, UB2)を超えると、前記モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項17】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置と、上記モータ(32)とを備える、圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ駆動装置、および圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のモータ駆動装置は、モータに印加された電圧とモータに流れる電流とに基づき、モータの巻線の抵抗値を求め、巻線の抵抗値と巻線の温度係数とに基づき、回転子の磁石の温度を推定し、減磁電流値と磁石の温度との関係に基づき、過電流保護設定値を、推定した永久磁石の温度における減磁電流値を下回るように設定し、推定した永久磁石の温度の変化に応じて、過電流保護設定値を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータの運転条件によっては磁石の推定温度の精度が低下することで、過電流保護設定値(閾値)に大きな誤差が生じる可能性がある。この場合、過電流保護設定値が実際の値とかけ離れてしまうことで、過電流保護設定値を下回るようにモータに電流を流してもモータに減磁が発生する可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、モータに減磁が発生することを効果的に抑制することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、モータ駆動装置を対象とする。モータ駆動装置は、磁界を発生させる磁石を有するモータ(32)を駆動する。モータ駆動装置は、前記モータ(32)に流れる電流を検出するセンサ(64)と、前記磁石の推定温度(TA)を算出する制御部(68)とを備え、前記制御部(68)は、前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たし、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記磁石の複数の温度と複数の閾値とをそれぞれ対応付けた閾値情報(U)において前記磁石の推定温度(TA)に対応する閾値である対応閾値(UA)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たさず、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記閾値情報(U)において前記磁石の既定温度(TB)に対応する閾値である固定閾値(UB)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする。
【0007】
第1の態様では、モータ(32)に減磁が発生することを効果的に抑制することができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、前記磁石は、希土類磁石を含み、前記既定温度(TB)は、前記モータ(32)の温度限度値における最大温度、または前記モータ(32)の使用温度範囲における最大温度以上の値である。
【0009】
第2の態様では、磁石の推定温度(TA)の誤差が大きくなるような不安定な運転条件(所定の運転条件を満たさない場合)でも、モータ(32)の電流が減磁電流の最低値を超えることを抑制することができる。
【0010】
本開示の第3の態様は、第1の態様において、前記磁石は、フェライト磁石を含み、前記既定温度(TB)は、前記モータ(32)の温度限度値における最小温度、または前記モータ(32)の使用温度範囲における最小温度以下の値である。
【0011】
第3の態様では、磁石の推定温度(TA)の誤差が大きくなるような不安定な運転条件(所定の運転条件を満たさない場合)でも、モータ(32)の電流が減磁電流の最低値を超えることを抑制することができる。
【0012】
本開示の第4の態様は、第1の態様~第3の態様のいずれか1つの態様において、前記所定の運転条件は、前記モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となる条件を含む。
【0013】
第4の態様では、減磁の発生を防止するために設定するモータ(32)の電流の上限として、モータ(32)の回転数が所定の回転数以上のときは対応閾値(UA)を用い、モータ(32)の回転数が所定の回転数よりも小さいときは固定閾値(UB)を用いることできる。
【0014】
本開示の第5の態様は、第1の態様~第3の態様のいずれか1つの態様において、前記所定の運転条件は、前記モータ(32)に流れる電流が所定値以上となる条件を含む。
【0015】
第5の態様では、減磁の発生を防止するために設定するモータ(32)の電流の上限として、モータ(32)に流れる電流が所定値以上となるときは対応閾値(UA)を用い、モータ(32)に流れる電流が所定値よりも小さいときは固定閾値(UB)を用いることできる。
【0016】
本開示の第6の態様は、第1の態様~第3の態様のいずれか1つの態様において、前記所定の運転条件は、前記モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となり、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が所定値以上となる条件を含む。
【0017】
第6の態様では、減磁の発生を防止するために設定するモータ(32)の電流の上限として、モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となり、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値以上となるときは対応閾値(UA)を用い、モータ(32)の回転数が所定の回転数よりも小さく、または、モータ(32)に流れる電流が所定値よりも小さいときは固定閾値(UB)を用いることできる。
【0018】
本開示の第7の態様は、第5の態様または第6の態様において、前記所定値は、前記モータの温度限度値における減磁電流がとり得る値の範囲内の最低値であり、前記減磁電流値は、前記磁石の磁力を減少させる前記モータの電流値である。
【0019】
本開示の第7の態様によると、所定値を温度限度値における減磁電流値がとり得る値の範囲内の最低値とすることができる。
【0020】
本開示の第8の態様は、第5の態様または第6の態様において、前記所定値と比較される前記電流は、ハンチング防止のためにフィルタリングされた電流値である。
【0021】
第8の態様では、ハンチングを抑制してモータ駆動装置を安定的に稼働させることができる。
【0022】
本開示の第9の態様は、第8の態様において、前記フィルタリングでは、想定内の電流変化は通過し、想定外の電流変化は除去するカットオフ周波数に設定されるローパスフィルタが用いられる。
【0023】
第9の態様では、センサ(64)により検出する電流に時間遅れが発生することを抑制できるので、モータ駆動装置の保護動作(対応閾値(UA)または固定閾値(UB)を超えないようにモータ(32)に流れる電流を制御する)を効果的に行うことができる。
【0024】
本開示の第10の態様は、第1の態様~第9の態様のいずれか1つの態様において、前記モータ(32)は、圧縮機(30)を駆動させ、前記制御部(68)は、前記圧縮機(30)の吐出管(22)の温度、または、前記圧縮機(30)の外郭温度に基づいて、前記磁石の推定温度(TA)を算出する。
【0025】
第10の態様では、圧縮機(30)の吐出管(22)の温度、または、圧縮機(30)の外郭温度に基づいて、磁石の推定温度(TA)を算出することができる。
【0026】
本開示の第11の態様は、第1の態様~第10の態様のいずれか1つの態様において、前記制御部(68)は、前記モータ(32)への通電を停止することで、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする。
【0027】
第11の態様では、モータ(32)を停止させることで減磁の発生を抑制できる。
【0028】
本開示の第12の態様は、第1の態様~第11の態様のいずれか1つの態様において、前記制御部(68)は、前記対応閾値(UA)または前記固定閾値(UB)と比較する前記モータ(32)の電流を示す情報からノイズ信号を除去する。
【0029】
第12の態様では、前記対応閾値(UA)または前記固定閾値(UB)と、前記モータ(32)の電流との比較を精度よく行うことができる。
【0030】
本開示の第13の態様は、第12の態様において、前記ノイズ信号の除去は、サンプリング間の検出信号の変化量を制限することで行われる。
【0031】
第13の態様では、モータ(32)の電流の検出遅れを抑制しつつノイズを除去できる。
【0032】
本開示の第14の態様は、第1の態様~第13の態様のいずれか1つの態様において、前記制御部(68)は、前記モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくすることで、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする。
【0033】
第14の態様では、モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくすることで、モータ(32)が回転している状態を維持しつつ、減磁の発生を抑制できる。
【0034】
本開示の第15の態様は、第14の態様において、電流を小さくすることでモータ(32)の回転数を低下させる応答に比べ、前記磁石の推定温度(TA)の算出結果の変化を遅くするようにフィルタを用いる。
【0035】
第15の態様では、モータ(32)の電流が減磁電流の最低値を超えることを効果的に抑制ことができる。
【0036】
本開示の第16の態様は、第1の態様~第15の態様のいずれか1つの態様において、前記閾値情報(U)は、第1閾値情報(U1)と、前記第1閾値情報(U1)よりも低い閾値を設定する第2閾値情報(U2)とを含み、前記閾値には、前記対応閾値(UA1, UA2)と前記固定閾値(UB1,UB2)とが含まれ、前記制御部(68)は、前記モータ(32)を流れる電流が、前記第1閾値情報(U1)に基づいて設定した前記閾値(UA1, UB1)を超えると、前記モータ(32)への通電を停止し、前記モータ(32)を流れる電流が、前記第2閾値情報(U2)に基づいて設定した前記閾値(UA2, UB2)を超えると、前記モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくする。
【0037】
第16の態様では、モータ(32)に電流を流す状態を維持しつつ当該電流を小さくすることでモータ(32)の回転速度を低下させる構成と、モータ(32)に流れる電流を止めることでモータ(32)を停止させる構成とを用いて、モータ(32)の電流が減磁電流を超えることを段階的に抑制することができる。
【0038】
本開示の第17の態様は、圧縮機を対象とする。圧縮機は、第1の態様~第16の態様のいずれか1つの態様に記載のモータ駆動装置と、上記モータ(32)とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、実施形態に係る冷凍装置の概略の構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る圧縮機構の内部を表す横断面図である。
【
図4】
図4は、モータ駆動装置の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、モータの運転条件と閾値との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、対応閾値および固定閾値を示す図である。
【
図8】
図8は、制御部の動作の第1例を示すフロー図である。
【
図9】
図9は、第1対応閾値、第2対応閾値、第1固定閾値および第2固定閾値を示す図である。
【
図10】
図10は、制御部の動作の第2例を示すフロー図である。
【
図11】
図11は、制御部の動作の第2例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
〈第1実施形態〉
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態において、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付し、詳細な説明及びそれに付随する効果等の説明は繰り返さない。
【0041】
〈冷凍装置の全体構成〉
実施形態に係る冷凍装置は、室内の冷房と暖房とを行う空気調和装置(10)である。
図1に示すように、空気調和装置(10)は、冷媒が充填される冷媒回路(11)を備える。冷媒回路(11)では、冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0042】
空気調和装置(10)は、室外ユニット(12)と室内ユニット(13)とを備える。室内ユニット(13)は1台でなく、2台以上であってもよい。
【0043】
冷媒回路(11)には、圧縮機(30)と、室外熱交換器(16)(熱源熱交換器)と、膨張弁(17)と、室内熱交換器(18)(利用熱交換器)と、四方切換弁(19)とが接続される。圧縮機(30)、室外熱交換器(16)、四方切換弁(19)は、室外ユニット(12)に収容される。室内熱交換器(18)及び膨張弁(17)は、室内ユニット(13)に収容される。
【0044】
室外ユニット(12)では、室外熱交換器(16)の近傍に室外ファン(20)が設置される。室外熱交換器(16)では、室外ファン(20)が搬送する室外空気と冷媒とが熱交換する。室内ユニット(13)では、室内熱交換器(18)の近傍に室内ファン(21)が設置される。室内熱交換器(18)では、室内ファン(21)が搬送する室内空気と冷媒とが熱交換する。
【0045】
四方切換弁(19)は、第1~第4までのポート(P1~P4)を有している。第1ポート(P1)は圧縮機(30)の吐出管(22)と繋がり、第2ポート(P2)は圧縮機(30)の吸入管(23)と繋がり、第3ポート(P3)は室外熱交換器(16)のガス端部と繋がり、第4ポート(P4)は室内熱交換器(18)のガス端部と繋がる。四方切換弁(19)は、第1状態(
図1の実線で示す状態)と第2状態(
図1の破線で示す状態)とに切り換わる。第1状態では、第1ポート(P1)と第4ポート(P4)が連通し、第2ポート(P2)と第3ポート(P3)が連通する。従って、四方切換弁(19)が第1状態のときに圧縮機(30)が運転されると、室内熱交換器(18)が凝縮器(放熱器)となり、室外熱交換器(16)が蒸発器となる冷凍サイクル(暖房サイクル)が行われる。第2状態では、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)が連通し、第2ポート(P2)と第4ポート(P4)とが連通する。従って、四方切換弁(19)が第2状態のときに圧縮機(30)が運転されると、室外熱交換器(16)が凝縮器(放熱器)となり、室内熱交換器(18)が蒸発器となる冷凍サイクル(冷房サイクル)が行われる。
【0046】
〈圧縮機の全体構成〉
図2に示すように、圧縮機(30)は、縦長の円筒密閉型の筐体(31)を備えている。筐体(31)の下部には、吸入管(23)が貫通して固定されている。筐体(31)の頂部(上部鏡板)には、吐出管(22)が貫通して固定されている。筐体(31)の底部には、圧縮機(30)の各摺動部を潤滑するための油(冷凍機油)が貯留される。筐体(31)の内部には、圧縮機構(40)から吐出された冷媒(吐出冷媒ないし高圧冷媒)で満たされる内部空間(S)が形成される。つまり、本実施形態の圧縮機(30)は、筐体(31)の内部空間(S)の内圧が高圧冷媒の圧力と実質的に等しい、いわゆる高圧ドーム型に構成されている。
【0047】
筐体(31)の内部空間(S)には、上から下に向かって順に、モータ(32)、駆動軸(35)、及び圧縮機構(40)が設けられる。
【0048】
モータ(32)は、固定子(33)と回転子(34)とを有している。固定子(33)は、筐体(31)の胴部の内周面に固定されている。回転子(34)は、固定子(33)の内部を上下方向に貫通している。回転子(34)には磁石(永久磁石)が設けられる。第1実施形態では、磁石は、希土類磁石を含む。固定子(33)には、そのティース部分(図示省略)にコイル(33a)が巻回されている。回転子(34)の軸心内部には、駆動軸(35)が固定される。モータ(32)が通電されると、回転子(34)とともに駆動軸(35)が回転駆動される。
【0049】
駆動軸(35)は、筐体(31)の胴部の軸心上に位置している。駆動軸(35)は、圧縮機構(40)の各軸受に回転可能に支持されている。駆動軸(35)は、モータ(32)と同軸の主軸(36)と、主軸(36)から偏心したクランク軸(37)とを有している。クランク軸(37)の外径は主軸(36)の外径よりも大きい。駆動軸(35)の下部には、筐体(31)の底部に溜まった冷凍機油を汲み上げる油ポンプ(38)が設けられる。油ポンプ(38)で汲み上げた冷凍機油は、駆動軸(35)の内部の軸流路を通じて、軸受けや圧縮機構(40)の各摺動部へ供給される。
【0050】
圧縮機構(40)は、モータ(32)の下側に配置されている。圧縮機構(40)は、フロントヘッド(41)、シリンダ(42)、リアヘッド(43)、及びピストン(44)を有している。シリンダ(42)は、扁平な筒状に形成される。シリンダ(42)の上端の開口はフロントヘッド(41)に閉塞され、シリンダ(42)の下端の開口はリアヘッド(43)に閉塞される。これにより、シリンダ(42)の内部には、円柱状のシリンダ室(45)が区画される。
【0051】
シリンダ室(45)には、円環状のピストン(44)が収容される。ピストン(44)は、クランク軸(37)に内嵌する。従って、モータ(32)によって駆動軸(35)が回転駆動されると、シリンダ室(45)内をピストン(44)が偏心回転する。
【0052】
シリンダ(42)には、シリンダ室(45)(厳密には低圧室(L))と連通する吸入ポート(46)が径方向に貫通している。吸入ポート(46)には、吸入管(23)が接続される。フロントヘッド(41)には、シリンダ室(厳密には、高圧室(H))と連通する吐出ポート(47)が形成される。吐出ポート(47)には、リード弁等の吐出弁(図示省略)が設けられる。
【0053】
圧縮機構(40)の上部には、フロントヘッド(41)を覆うマフラ(48)が取り付けられる。マフラ(48)の内部には、吐出ポート(47)と連通するマフラ空間(49)が形成される。マフラ空間(49)では、冷媒の吐出脈動に起因する騒音が低減される。
【0054】
〈圧縮機構の内部構造〉
圧縮機構(40)は、ブレード(51)及びブッシュ(52)を有する揺動ピストン型に構成される。
図2及び
図3に示すように、シリンダ(42)には、ブッシュ溝(53)と背圧室(54)とが形成される。ブッシュ溝(53)は、シリンダ室(45)と隣接する位置に形成され、シリンダ室(45)と連通している。ブッシュ溝(53)は、横断面が略円形の円柱状の空間を構成している。背圧室(54)は、シリンダ(42)において、ブッシュ溝(53)よりも径方向外方に位置している。背圧室(54)は、横断面が略円形の円柱状の空間を構成している。
【0055】
背圧室(54)は、シリンダ室(45)側の端部がブッシュ溝(53)と連通している。背圧室(54)は、筐体(31)の内部空間(S)の圧力(即ち、圧縮機構(40)の吐出冷媒の圧力)に相当する高圧圧力の雰囲気となっている。背圧室(54)には、油ポンプ(38)によって汲み上げられた油が供給される。背圧室(54)の油は、ブッシュ溝(53)の内周面とブッシュ(52)との間の摺動部、及びブッシュ(52)とブレード(51)の摺動部の潤滑に利用される。
【0056】
一対のブッシュ(52)は、横断面が略弓形状ないし半円形状に形成されている。一対のブッシュ(52)は、ブッシュ溝(53)の内部に揺動可能に保持される。一対のブッシュ(52)は、ブッシュ溝(53)に対向する円弧部(52a)と、ブレード(51)に対向する平坦部(52b)とを有している。一対のブッシュ(52)は、ブッシュ溝(53)の中心を軸心として円弧部(52a)がブッシュ溝(53)と摺接するように揺動運動を行う。
【0057】
一対のブッシュ(52)は、各平坦部(52b)が互いに対向するようにブッシュ溝(53)に配置される。これにより、一対のブッシュ(52)の各平坦部(52b)の間には、ブレード溝(55)が形成される。ブレード溝(55)は、横断面が略矩形状に形成され、その内部にブレード(51)が径方向に進退可能に保持される。
【0058】
ブレード(51)は、径方向外方に延びる直方体状ないし板状に形成される。ブレード(51)の基端(径方向内方端部)は、ピストン(44)の外周面に一体に連結している。ここで、ピストン(44)とブレード(51)とは同じ部材で一体成型されていてもよいし、別部材を一体的に固定してもよい。ブレード(51)の先端(径方向外方端部)は、背圧室(54)に位置している。ブレード(51)は、シリンダ室(45)を低圧室(L)と高圧室(H)とに仕切っている。低圧室(L)は、
図3におけるブレード(51)の右側の空間であり、吸入ポート(46)と連通している。高圧室(H)は、
図3におけるブレード(51)の左側の空間であり、吐出ポート(47)と連通している。
【0059】
〈モータ駆動装置〉
図4に示すように、圧縮機(30)は、モータ駆動装置(60)を備える。モータ駆動装置(60)には、電力源(70)およびモータ(32)が接続される。電力源(70)は、電池、バッテリなどを含む直流電源でもよく、交流電圧を直流電圧に変換する周知のコンバータを含む交直電力変換器であってもよい。モータ駆動装置(60)は、電力源(70)から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、モータ(32)に供給する。モータ駆動装置(60)は、インバータ回路と、第1センサ(64)と、第2センサ(65)と、第3センサ(66)と、記憶部(67)と、制御部(68)とを備える。
【0060】
インバータ回路は、電力源(70)からの直流電圧が入力され、制御部(68)の動作によりPWM制御を行い、入力された直流電圧を任意電圧、任意周波数の3相交流に変換する。インバータ回路は、複数のスイッチング素子(61a)~(61f)と、ダイオード素子(62a)~(62f)と、ドライブ回路(63)とを備える。スイッチング素子(61a)~(61f)は、例えばIGBTを含む。ダイオード素子(62a)~(62f)は、スイッチング素子(61a)~(61f)がオフしたとき還流電流を流す。インバータ回路は、一つのパッケージ内に組み込まれてパワーモジュールを構成する。なお、ドライブ回路(63)はパワーモジュール内ではなく制御部(68)側に含めた構成でもよい。
【0061】
ドライブ回路(63)は、制御部(68)から送られる制御信号に基づいて動作信号(PWM信号、ゲート信号等)を生成して各スイッチング素子(61a)~(61f)に出力することで、各スイッチング素子(61a)~(61f)にスイッチング動作を行わせる。各スイッチング素子(61a)~(61f)にスイッチング動作によりモータ(32)のコイル(33a)に電圧が印加される。このようにモータ(32)のコイル(33a)の巻線電流を制御することで、回転子(34)に同期した回転磁界を発生し、モータ(32)を駆動制御する。
【0062】
第1センサ(64)は、モータ(32)に流れる電流を検出する。第1センサ(64)は、例えば、電流検出回路を含む。電流検出回路は、例えば、モータ(32)の三相のうち任意の一相に流れる電流(交流)を、DCCT(DC Current Transformer)にて電圧(交流)に変換し、この電圧をオペアンプにより増幅して出力電圧を変換することで、マイコンにより構成された制御部(68)に入力する電圧値(例えば0~5V)の範囲に変換する。そして、当該電圧値は制御部(68)のA/D入力ポートに入力され、制御部(68)は、デジタル値として当該電圧値を読み込む。制御部(68)は、例えば、入力された当該電圧値に所定の定数を掛けて、モータ(32)に流れている電流値に変換する。このようにして検出された電流は交流のため、時間毎に電流値が変動するが、短期的には周期が一定のため、その実効値を算出することで電流(実効値)を得ることができる。
【0063】
第1センサ(64)は、モータ(32)に流れる電流を検出する構成を有していればよく、上記の構成に限定されない。 例えば、第1センサ(64)は、モータ(32)に流れる電流をセンス抵抗で電圧値に変換し、その変換した電圧値をアイソレーションアンプにより絶縁させて、制御部(68)へ送信してもよい。
【0064】
第2センサ(65)は、モータ(32)(回転子(34))の回転数(回転速度)を検出する。第2センサ(65)は、例えば、ホールセンサを含む。ホールセンサは、回転子(34)の磁石の磁束からS極またはN極を検出し制御部(68)に入力する。制御部(68)は、ホールセンサの検知信号から、モータ(32)の回転数を検出する。なお、モータ(32)の回転数は、モータ(32)に流れる電流を検出する電流センサの検出値、またはモータ(32)に印加される電圧を検出する電圧センサの検出値に基づいて、制御部(68)が推定(算出)してもよい。モータ(32)の回転数は、制御部(68)がモータ(32)に指示する回転数であってもよい。
【0065】
第3センサ(66)は、吐出管(22)に設けられ、吐出管(22)の温度を検出する温度センサ(例えば、サーミスタ)である。
【0066】
記憶部(67)は、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)のような主記憶装置(例えば、半導体メモリ)を含み、補助記憶装置(例えば、ハ-ドディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)、SD(Secure Digital)メモリカード、又は、USB(Universal Seral Bus)フラッシメモリ)をさらに含んでもよい。記憶部(67)は、制御部(68)によって実行される種々のコンピュータープログラムを記憶する。
【0067】
制御部(68)は、CPU及びMPUのようなプロセッサーを含む。制御部(68)は、記憶部(67)に記憶されたコンピュータープログラムを実行することにより、モータ駆動装置(60)の各構成要素を制御する。
【0068】
〈圧縮機の運転動作〉
モータ(32)が通電状態となり、駆動軸(35)が回転駆動されると、ピストン(44)がシリンダ室(45)で偏心運動(厳密には、揺動運動)を行う。
【0069】
図3に示すように、圧縮機構(40)では、ピストン(44)の外周面が、シリンダ室(45)の内周面と油膜を介して線接触し、シール部を形成する。ピストン(44)が揺動運動を行うと、ピストン(44)とシリンダ(42)との間のシール部が、シリンダ室(45)の内周面に沿って変位し、低圧室(L)と高圧室(H)の容積が変化する。この際、ブレード(51)は、ピストン(44)の回転角に応じてブレード溝(55)の内部を進退する。同時に、一対のブッシュ(52)は、ブッシュ溝(53)の軸心を中心としてブレード(51)とともに揺動する。なお、ここでいう「回転角」は、ピストン(44)がブッシュ溝(53)に最も近づく位置(いわゆる上死点)を基準0°とし、駆動軸(35)の回転方向(
図3の時計回り方向)に角度を表したものである。
【0070】
ピストン(44)の揺動運動に伴い低圧室(L)の容積が徐々に大きくなると、低圧の冷媒が、吸入管(23)及び吸入ポート(46)を通じて低圧室(L)へ吸入されていく。次いで、この低圧室(L)が吸入ポート(46)から遮断されると、遮断された空間が高圧室(H)を構成する。次いで、この高圧室(H)の容積が徐々に小さくなると、高圧室(H)の内圧が上昇していく。高圧室(H)の内圧が内部空間(S)の圧力より大きくなると、吐出行程が行われる。つまり、吐出行程では、吐出ポート(47)の吐出弁が開放され、高圧室(H)の冷媒が吐出ポート(47)から吐出される。内部空間(S)内における圧縮機構(40)の吐出ポート(47)から吐出された冷媒は、マフラ空間(49)を介して内部空間(S)へ流出する。内部空間(S)において、圧縮機構(40)と吐出管(22)との間には、冷媒が流れる流路が設けられる。当該流路上には、モータ(32)が設けられる。圧縮機構(40)から内部空間(S)へ流出した冷媒は、当該流路を流れることにより、モータ(32)へ到達し、モータ(32)の周囲を流れた後、吐出管(22)へ到達し、吐出管(22)から筐体(31)の外部へ流出する。吐出管(22)から筐体(31)の外部へ流出した流体は、冷媒回路(11)へ送られる。
【0071】
〈減磁が発生することを抑制するための構成〉
減磁は、モータ(32)の磁石の磁力が不可逆に減少することである。モータ(32)に流れる電流が大きすぎると減磁が発生する可能性がある。以下では、減磁が発生することを抑制するための構成について説明する。
【0072】
〈閾値情報の第1例〉
記憶部(67)には、閾値情報(U)(
図7参照)が記憶されている。閾値情報(U)は、磁石の複数の温度と、複数の閾値とをそれぞれ対応付けた情報である。閾値は、モータ(32)に流れる電流の上限を示す。閾値情報(U)については、
図7に示す座標系において縦軸が閾値を示し、横軸はモータ(32)の磁石の温度を示している。
【0073】
図7には減磁電流情報(W)が示される。減磁電流情報(W)は、モータ(32)の使用温度範囲における減磁電流の最低値を示す。減磁電流情報(W)は、磁石の複数の温度と、複数の減磁電流の最低値(モータ(32)の使用温度範囲における減磁電流の最低値)とをそれぞれ対応付けた情報である。減磁電流は、減磁が発生するときにモータ(32)に流れる電流である。減磁電流情報(W)については、
図7に示す座標系において縦軸が減磁電流の最低値を示し、横軸はモータ(32)の磁石の温度を示している。減磁電流の最低値は、モータ(32)の磁石の温度に応じて変化する。磁石の温度が高くなる程、減磁電流の最低値が小さくなる。
【0074】
減磁電流情報(W)については、記憶部(67)に記憶されていてもよく、または、記憶部(67)に記憶されていなくてもよい。
【0075】
電流が同じ大きさの場合、閾値情報(U)は、減磁電流の最低値よりも低い閾値を設定する。
【0076】
〈磁石の推定温度を算出するための構成〉
制御部(68)(
図4参照)は、モータ(32)の磁石の推定温度を算出する。制御部(68)が磁石の推定温度を算出するための構成については特に限定されない。本実施形態では、制御部(68)は、吐出管(22)の温度と、モータ(32)の回転数と、モータ(32)に流れる電流とに基づいて、磁石の推定温度を算出する。例えば、制御部(68)は、推定モデルに、圧縮機(30)に関する物理量を入力データとして入力することで、磁石の推定温度を算出(出力)する。推定モデルの説明は後述する。本実施形態では、圧縮機(30)に関する物理量には、モータ(32)の回転数と、吐出管(22)の温度と、モータ(32)に流れる電流とが含まれる。
【0077】
〈推定モデル〉
記憶部(67)(
図4参照)には、磁石の推定温度を算出するための推定モデルが記憶される。推定モデルは、回帰分析法の一種である重回帰分析法を用いて生成される。推定モデルは、モータ(32)の回転数、吐出管(22)の温度、およびモータ(32)に流れる電流を説明変数とし、磁石の推定温度を目的変数として、説明変数と目的変数とに対する重回帰分析を行うことにより回帰式(重回帰式)として生成される。重回帰分析で用いられるデータ(説明変数およに目的変数)は、例えば、実際の空気調和装置(10)(実機)を用いた試験結果(実機を用いてモータ(32)の回転数、吐出管(22)の温度、およびモータ(32)に流れる電流を変化させた場合に、磁石の温度がどのような値となるかを試験した結果)、またはシミュレーション結果(数値計算によりコンピュータ上で空気調和装置(10)を再現して、モータ(32)の回転数、吐出管(22)の温度、およびモータ(32)に流れる電流に対して磁石の温度がどのような値となるかを計算した結果)等から得られる。
【0078】
推定モデルは、AI(Artificial Intelligence)を用いて生成され、圧縮機(30)に関する物理量(モータ(32)の回転数、吐出管(22)の温度、およびモータ(32)に流れる電流)を説明変数とし、磁石の推定温度を目的変数とし、説明変数と目的変数との既知データ(例えば、上記試験結果、または上記シミュレーション結果から得られたデータ)に基づいて機械学習した学習済みモデルであってもよい。当該AIが推定モデルを生成する手法の一例として、多層の人工ニューラルネットワークによる機械学習手法(ディープラーニング)等が挙げられる。推定モデルは、モータ(32)の回転数と、吐出管(22)の温度と、モータ(32)に流れる電流とを入力データとして、モータ(32)の回転数、吐出管(22)の温度、およびモータ(32)に流れる電流と、磁石の推定温度との対応関係を学習した学習済みモデルである。推定モデルは、入力データであるモータ(32)の回転数、吐出管(22)の温度、およびモータ(32)に流れる電流を入力されると、出力データである磁石の推定温度を出力する。
【0079】
〈推定モデルの特性〉
図5は、モータ(32)の回転数と圧縮機(30)の圧力との関係を示しており、モータ(32)の運転領域を示している。圧縮機(30)の圧力は、言い換えれば、モータ(32)のトルクを示す。
【0080】
本実施形態の推定モデルは、モータ(32)の全運転領域(VA)のうち、運転領域(V)に特化した推定モデルである。運転領域(V)に特化した推定モデルは、推定モデルを作成する際に用いられる説明変数および目的変数が、運転領域(V)での運転時に取得されたもので構成されることを示す。以下、推定モデルについて、運転領域(V)に特化した推定モデルとする理由を説明する。
【0081】
図5に示すように、運転領域(V)では、モータ(32)の回転数が高くなり、かつ、モータ(32)のトルク(負荷)が大きくなることで、モータ(32)に流れる電流が大きくなる。しかしながら、モータ(32)に流れる電流が大きすぎると、減磁が発生する可能性がある。よって、モータ(32)の通電範囲には、減磁電流の最低値を超えないように制限が課せられる。モータ(32)の通電範囲は、モータ(32)に流れる電流の上限である。
【0082】
全運転領域(VA)のうちの運転領域(V)は、他の運転領域に比べてモータ(32)に流れる電流が大きくなるため、モータ(32)に流れる電流が減磁電流の最低値を超えそうになるリスクも大きくなる。
【0083】
また、モータ(32)の性能を効果的に発揮するためには、モータ(32)の通電範囲を可及的に広く確保する方が好ましい。よって、上記のリスクを回避するために、運転領域(V)について、モータ(32)に流れる電流の閾値を過度に小さく設定し、モータ(32)の通電範囲を狭くすることは好ましくない。
【0084】
そこで、本実施形態では、上記の推定モデルを運転領域(V)に特化した推定モデルとすることで、上記のリスクを回避しつつ、モータ(32)の通電範囲を可及的に広く確保する。以下、推定モデルを運転領域(V)に特化した推定モデルとする理由について説明する。
【0085】
推定モデルに基づいて磁石の推定温度が算出されると、
図7に示す減磁電流情報(W)において、磁石の推定温度に対応する閾値を選択し、選択した閾値に基づいてモータ(32)の通電範囲に設定できる。例えば、磁石の推定温度が推定温度(TA)の場合、モータ(32)の通電範囲を閾値(UA)以下の値に設定できる。これにより、磁石の推定温度が推定温度(TA)の場合、モータ(32)に流れる電流が閾値(UA)を超えないように当該電流を制御することで、モータ(32)に流れる電流がモータ(32)の使用温度範囲における減磁電流値の最低値を超えることを抑制でき、減磁が発生することを防ぐことができる。
【0086】
以下では、推定モデルについて、モータ(32)の全運転領域(VA)に対応するように作成されたモデルを全域モデルと記載することがある。
【0087】
例えば、全域モデルに基づいて磁石の推定温度(TA)を算出した場合、
図6に示すように、全運転領域(VA)においてモータ(32)の回転数に対する圧力の変化割合が変則的であることから、全運転領域(VA)において磁石の推定温度(TA)を精度よく算出することは困難であり、運転領域によっては算出した磁石の推定温度(TA)に大きな誤差が生じる可能性がある。
【0088】
推定温度(TA)に大きな誤差がある場合、閾値(UA)についても大きな誤差が生じる。閾値(UA)は、減磁電流情報(W)において推定温度(TA)と対応しており、推定温度(TA)と相関を有するからである。この場合、閾値(UA)を超えないようにモータ(32)に流れる電流を制御しても、閾値(UA)自体に大きな誤差があり、正確な値ではないため、モータ(32)に流れる電流が減磁電流値の最低値を超えてしまい、減磁が発生する可能性がある。特に、上記のように、運転領域(V)は、他の運転領域よりもモータ(32)に流れる電流が大きく、当該電流が減磁電流値の最低値を超えるリスクが大きい。これにより、当該リスクを抑えるためには、閾値(UA)を精度よい値とする必要がある。
【0089】
上記のように、閾値(UA)は推定温度(TA)と相関を有するため、推定温度(TA)を精度よく算出できれば、閾値(UA)を精度よい値とすることができる。
【0090】
そこで、本実施形態では、推定モデルについて、全運転領域(VA)を対象としたモデルとはせずに、運転領域(V)に特化した推定モデルとする。これにより、運転領域(V)については、運転領域(V)に特化した推定モデルに基づいて推定温度(TX)を算出することで、磁石の推定温度(TA)を精度よく算出できる。その結果、閾値(UA)を精度よい値とすることができるので、運転領域(V)において、減磁が発生することを抑制できる。さらに、閾値(UA)が精度よい値となることで、閾値(UA)が不当に小さくなることを抑制できるので、モータ(32)の通電範囲を可及的に広く確保することができる。
【0091】
〈閾値を決定する構成〉
制御部(68)は、閾値情報(U)(
図7参照)に基づいて、モータ(32)に流れる電流の閾値を決定する。本実施形態では、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たすか否かによって、閾値を決定する構成が異なる。所定の運転条件は、モータ(32)の回転数が所定数以上になり、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になる条件である。モータ(32)の運転条件は、モータ(32)の回転数とモータ(32)に流れる電流との関係で規定される。
【0092】
〈所定の運転条件を満たす場合〉
図6に示すように、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たす場合は、モータ(32)の回転数が所定数以上になり、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になる場合である。所定の運転条件を満たす場合は、モータ(32)が運転領域(V)で運転される場合である。
【0093】
図7に示すように、モータ(32)の運転条件が、所定の運転条件を満たす場合、制御部(68)は、上記推定モデルと、圧縮機(30)に関する物理量とに基づいて、磁石の推定温度(TA)を算出し、閾値情報(U)において、算出した磁石の推定温度(TA)に対応する値を、モータ(32)に流れる電流の閾値に決定する。第1実施形態では、圧縮機(30)に関する物理量は、モータ(32)に流れる電流(第1センサ(64)の検出値)と、モータ(32)の回転数(第2センサ(65)の検出値)と、吐出管(22)の温度(第3センサ(66)の検出値)とを含む。
【0094】
図7に示すように、例えば、所定の運転条件を満たす場合において、磁石の推定温度(TA)が算出された場合、制御部(68)は、閾値情報(U)において、推定温度(TA)に対応する閾値(UA)を、モータ(32)に流れる電流の閾値に決定する。以下では、推定温度(TA)に対応する閾値(UA)を対応閾値(UA)と記載することがある。推定温度(TA)は、第1センサ(64)の検出値、第2センサ(65)の検出値、および/または第3センサ(66)の検出値に応じて変化する値である。対応閾値(UA)は、推定温度(TA)に応じて変化する値である。
【0095】
〈対応閾値を採用する理由〉
モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たす場合(
図5の運転領域(V))においては、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になることで大きくなるので、モータ(32)の使用温度範囲における減磁電流値の最低値を超えて減磁が発生するリスクが大きい。この場合、当該リスクを抑えるために、運転領域(V)に特化した推定モデルに基づいて磁石の推定温度(TA)を算出し、閾値情報(U)において、推定温度(TA)に対応する対応閾値(UA)を、モータ(32)に流れる電流の閾値に決定する。運転領域(V)に特化した推定モデルを用いることで、対応閾値(UA)を運転領域(V)に合わせた精度よい値とすることができるので、対応閾値(UA)を超えないようにモータ(32)に流れる電流を制御することで、上記リスクを効果的に抑えることができる。さらに、対応閾値(UA)が精度よい値となることで不当に小さくなることを抑制できるので、モータ(32)の通電範囲を可及的に広く確保することができる。よって、所定の運転条件を満たす場合(
図5の運転領域(V))においては、上記リスクを抑え、さらに、モータ(32)の通電範囲を可及的に広く確保する観点から、モータ(32)に流れる電流の閾値については対応閾値(UA)が採用される。
【0096】
〈所定の運転条件を満たさない場合〉
図6に示すように、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たさない場合は、(i)モータ(32)の回転数が所定数以上になり、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値よりも小さくなる場合、(ii)モータ(32)の回転数が所定数よりも低く、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になる場合、または、(iii)モータ(32)の回転数が所定数よりも低く、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値よりも小さくなる場合である。所定の運転条件を満たさない場合は、モータ(32)が運転領域(V)外で運転される場合である。
【0097】
図6に示すように、モータ(32)の運転条件が、所定の運転条件を満たさない場合、制御部(68)は、閾値情報(U)において、既定温度(TB)に対応する閾値(UB)を、モータ(32)に流れる電流の閾値に決定する。以下では、既定温度(TB)に対応する閾値(UB)を、固定閾値(UB)と記載することがある。既定温度(TB)および固定閾値(UB)は一定の値である。本実施形態では、既定温度(TB)は、例えば、モータ(32)の温度限度値における最大温度である。既定温度(TB)は、モータ(32)の使用温度範囲における最大温度以上の値であってもよい。既定温度(TB)は、モータ(32)の使用温度範囲における最大温度以上、モータ(32)の温度限度値における最大温度以下の値であってもよい。モータ(32)の温度限度値は、モータ(32)を使用することができる温度限度値(モータ(32)の温度の限度値)を示す。モータ(32)の使用温度範囲は、想定された方法でモータ(32)を使用したときにモータ(32)の温度がとり得る値の範囲(モータ(32)の温度の許容値)を示す。モータ(32)の温度限度値について最大温度をα1とし最小温度をα2とし、モータ(32)の使用温度範囲について最大温度をβ1とし最小温度をβ2としたとき、α1はβ1よりも大きくなり、α2はβ2よりも小さくなる(α2<β2<β1<α1)。
【0098】
〈所定値〉
所定値は、モータ(32)に流れる電流が大きくなることで、減磁が発生するリスクが大きくなるような値であり、モータ(32)の特性、仕様、使用態様等を考慮して適宜決定される。所定値は、例えば、モータ(32)の温度限度値における減磁電流がとり得る値の範囲内の最低値であってもよい。所定値は、例えば、モータ(32)の使用温度範囲における減磁電流がとり得る値の範囲内の最低値であってもよい。
【0099】
〈固定閾値を採用する理由〉
モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たす場合(
図5の運転領域(V)以外の領域)において、モータ(32)の通常の運転では、モータ(32)に流れる電流が固定閾値(UB)を超えないような小さい値になる。また、運転領域(V)以外の領域について、固定閾値(UB)で対応できるのに、わざわざ、特化した推定モデルを作成し、上記の運転領域(V)と同じ要領で閾値を決定するのは煩雑である。よって、所定の運転条件を満たさない場合(
図5の運転領域(V)以外の領域)においては、モータ(32)に流れる電流の閾値について、一定の値である固定閾値(UB)が採用される。
【0100】
〈制御部の動作の第1例〉
図8に示すように、ステップS11において、制御部(68)は、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たすか否かを判定する。運転条件が所定の運転条件を満たすと判定された場合(ステップS11で、Yes)、処理がステップS12へ移行する。運転条件が所定の運転条件を満たさないと判定された場合(ステップS11で、No)、処理がステップS15へ移行する。
【0101】
ステップ12において、制御部(68)は、推定モデルと圧縮機(30)に関する物理量とに基づいて、モータ(32)の磁石の推定温度(TA)を算出する。
【0102】
ステップ13において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流が対応閾値(UA)を超えているか否かを判定する。対応閾値(UA)は、閾値情報(U)において推定温度(TA)に対応する閾値である。電流が対応閾値(UA)を超えていると判定されると(ステップS13で、Yes)、処理がステップS14へ移行する。電流が対応閾値(UA)を超えていないと判定されると(ステップS13で、No)、処理がステップS11へ移行する。
【0103】
ステップ14において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流を小さくする。具体的には、ステップ14において、制御部(68)は、モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、モータ(32)に流れる電流が対応閾値(UA)未満となるように、当該電流を小さくする。これにより、モータ(32)の回転速度が低下するが、モータ(32)の回転している状態が維持される。ステップ14が終了すると、処理がステップS11へ移行する。
【0104】
ステップ15において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流が固定閾値(UB)を超えているか否かを判定する。固定閾値(UB)は、閾値情報(U)において既定温度(TB)に対応する閾値である。電流が固定閾値(UB)を超えていると判定されると(ステップS15で、Yes)、処理がステップS16へ移行する。電流が対応閾値(UA)を超えていないと判定されると(ステップS15で、No)、処理がステップS11へ移行する。
【0105】
ステップ16において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流を小さくする。具体的には、ステップ16において、制御部(68)は、モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、モータ(32)に流れる電流が固定閾値(UB)未満となるように、当該電流を小さくする。これにより、モータ(32)の回転速度またはトルクが低下するが、モータ(32)の回転している状態が維持される。ステップ16が終了すると、処理がステップS11へ移行する。
【0106】
〈制御部の動作の第1例の変形例〉
ステップ14、および/または、ステップ16において、制御部(68)は、インバータ回路のスイッチング動作を停止させることで、モータ(32)への通電を停止させてもよい。これにより、モータ(32)の回転が停止し、処理が終了する。
【0107】
〈効果〉
以上のように、制御部(68)は、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たし、かつ、モータ(32)に流れる電流が閾値情報(U)において磁石の推定温度(TA)に対応する閾値である対応閾値(UA)を超えると、モータ(32)に流れる電流を小さくする。制御部(68)は、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たさず、かつ、モータ(32)に流れる電流が閾値情報(U)において磁石の既定温度(TB)に対応する閾値である固定閾値(UB)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする。これにより、モータ(32)の運転条件に合わせてモータ(32)に流れる電流を制限するために採用する閾値を対応閾値(UA)および固定閾値(UB)のうちのいずれかの閾値に切り換えることができる。その結果、磁石の推定温度(TA)に大きな誤差が生じないような運転条件の場合は対応閾値(UA)を採用し、磁石の推定温度(TA)に大きな誤差が生じるような運転条件の場合は固定閾値(UB)を採用するように構成することで、モータ(32)に減磁が発生することを効果的に抑制することができる。
【0108】
〈第2実施形態〉
以下では、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
【0109】
〈閾値情報の第2例〉
図9に示すように、閾値情報(U)は、第1閾値情報(U1)と、第2閾値情報(U2)とを含む。第1閾値情報(U1)は、モータ(32)への通電を停止させるか否かを判定するために用いられる閾値である。第2閾値情報(U2)は、モータ(32)へ流れる電流を小さくするか否かを判定するために用いられる閾値である。
【0110】
電流が同じ大きさの場合、第1閾値情報(U1)は、減磁電流の最低値よりも低い閾値を設定する。電流が同じ大きさの場合、第2閾値情報(U2)は、第1閾値情報(U1)よりも低い閾値を設定する。
【0111】
〈制御部の動作の第2例〉
図10に示すように、ステップS21において、制御部(68)は、モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たすか否かを判定する。運転条件が所定の運転条件を満たすと判定された場合(ステップS21で、Yes)、処理がステップS22へ移行する。運転条件が所定の運転条件を満たさないと判定された場合(ステップS21で、No)、処理がステップS27へ移行する。
【0112】
ステップ22において、制御部(68)は、推定モデルと圧縮機(30)に関する物理量とに基づいて、モータ(32)の磁石の推定温度(TA)を算出する。
【0113】
ステップ23において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流が第1対応閾値(UA1)を超えているか否かを判定する。第1対応閾値(UA1)は、第1閾値情報(U1)において推定温度(TA)に対応する閾値である。第1対応閾値(UA1)は推定温度(TA)に応じて変化する値である。電流が第1対応閾値(UA1)を超えていると判定されると(ステップS23で、Yes)、処理がステップS24へ移行する。電流が第1対応閾値(UA1)を超えていないと判定されると(ステップS23で、No)、処理がステップS25へ移行する。
【0114】
ステップ24において、制御部(68)は、モータ(32)への通電を停止させる。その結果、モータ(32)の回転が停止し、処理が終了する。
【0115】
ステップ25において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流が第2対応閾値(UA2)を超えているか否かを判定する。第2対応閾値(UA2)は、第2閾値情報(U2)において推定温度(TA)に対応する閾値である。第2対応閾値(UA2)は推定温度(TA)に応じて変化する値である。電流が第2対応閾値(UA2)を超えていると判定されると(ステップS25で、Yes)、処理がステップS26へ移行する。電流が第2対応閾値(UA2)を超えていないと判定されると(ステップS25で、No)、処理がステップS21へ移行する。
【0116】
ステップ26において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流を小さくする。具体的には、ステップ26において、制御部(68)は、モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、モータ(32)に流れる電流が第2対応閾値(UA2)未満となるように、当該電流を小さくする。ステップ26が終了すると、処理がステップS21へ移行する。
【0117】
図11に示すように、ステップ27において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流が第1固定閾値(UB1)を超えているか否かを判定する。第1固定閾値(UB1)は、第1閾値情報(U1)において既定温度(TB)に対応する閾値である。第1固定閾値(UB1)は一定の値である。電流が第1固定閾値(UB1)を超えていると判定されると(ステップS27で、Yes)、処理がステップS28へ移行する。電流が第1固定閾値(UB1)を超えていないと判定されると(ステップS27で、No)、処理がステップS29へ移行する。
【0118】
ステップ28において、制御部(68)は、モータ(32)への通電を停止させる。その結果、モータ(32)の回転が停止し、処理が終了する。
【0119】
ステップ29において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流が第2固定閾値(UB2)を超えているか否かを判定する。第2固定閾値(UB2)は、第2閾値情報(U2)において既定温度(TB)に対応する閾値である。第2固定閾値(UB2)は一定の値である。電流が第2固定閾値(UB2)を超えていると判定されると(ステップS29で、Yes)、処理がステップS30へ移行する。電流が第2固定閾値(UB2)を超えていないと判定されると(ステップS29で、No)、処理がステップS21へ移行する。
【0120】
ステップ30において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流を小さくする。具体的には、ステップ30において、制御部(68)は、モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、モータ(32)に流れる電流が第2固定閾値(UB2)未満となるように、当該電流を小さくする。ステップ26が終了すると、処理がステップS21へ移行する。
【0121】
〈効果〉
以上のように、制御部(68)は、モータ(32)を流れる電流が、第1閾値情報(U1)に基づいて設定した閾値(UA1, UB1)を超えると、モータ(32)への通電を停止する。制御部(68)は、モータ(32)を流れる電流が、第2閾値情報(U2)に基づいて設定した閾値(UA2, UB2)を超えると、モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくする。これにより、モータ(32)に電流を流す状態を維持しつつ当該電流を小さくすることでモータ(32)の回転速度を低下させる構成と、モータ(32)に流れる電流を止めることでモータ(32)を停止させる構成とを用いて、モータ(32)の電流が減磁電流を超えることを段階的に抑制することができる。
【0122】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう(例えば、下記(1)~(6))。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0123】
(1)第1実施形態および第2実施形態において、制御部(68)は、推定モデルと、圧縮機(30)に関する物理量とに基づいて、モータ(32)の磁石の推定温度(TA)を算出する。圧縮機(30)に関する物理量は、モータ(32)の回転数と、吐出管(22)の温度と、モータ(32)に流れる電流とを含む。しかし、本発明はこれに限定されない。圧縮機(30)に関する物理量は、少なくとも、モータ(32)の回転数と、吐出管(22)の温度とを含んでいればよい。推定モデルを作成するための説明変数も、少なくとも、モータ(32)の回転数と、吐出管(22)の温度とを含んでいればよい。
【0124】
また、圧縮機(30)に関する物理量および説明変数の各々は、モータ(32)の回転数と、吐出管(22)の温度と、所定物理量とを含んでいてもよい。所定物理量は、モータ(32)に流れる電流と、圧縮機(30)の吸入圧力と、圧縮機(30)の吐出圧力と、圧縮機(30)の吸入圧力および吐出圧力のうちの少なくとも1つの圧力に相関する物理量と、圧縮機(30)の周辺温度と、筐体(31)の内部空間(S)を流れる冷凍機油の量と、当該冷凍機油の量に相関する物理量と、圧縮機(30)の総駆動時間と、吸入管(23)の温度と、吸入管(23)の温度に相関する物理量と、モータ(32)のコイル(33a)の発熱量と、当該コイル(33a)の発熱量に相関する物理量とのうち少なくとも1つの物理量である。
【0125】
圧縮機(30)の吸入圧力は、吸入管(23)から吸入される冷媒の圧力を示す。圧縮機(30)の吐出圧力は、吐出管(22)から吐出される冷媒の圧力を示す。圧縮機(30)の周辺温度は、筐体(31)の温度を示す。圧縮機(30)の周辺温度は、圧縮機(30)の外郭温度の一例である。
【0126】
(2)第1実施形態および第2実施形態において、モータ(32)の磁石は希土類磁石を含む。しかし、本発明はこれに限定されない。モータ(32)の磁石はフェライト磁石を含んでいてもよい。この場合、既定温度(TB)は、モータ(32)の温度限度値における最小温度である。磁石が希土類磁石の場合は既定温度(TB)をモータ(32)の温度限度値における最大温度とし、磁石がフェライト磁石の場合は既定温度(TB)をモータ(32)の温度限度値における最小温度とする理由は、希土類磁石では高温時ほど減磁しやすいのに対し、フェライト磁石では低温時ほど減磁しやすいからである。なお、モータ(32)の磁石がフェライト磁石を含む場合、既定温度(TB)は、モータ(32)の使用温度範囲における最小温度以下の値であってもよい。モータ(32)の磁石がフェライト磁石を含む場合、既定温度(TB)は、モータ(32)の温度限度値における最小温度以上、モータ(32)の使用温度範囲における最小温度以下の値であってもよい。
【0127】
(3)第1実施形態および第2実施形態において、所定の運転条件(
図8のステップS11および
図10のステップS21参照)には、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になる条件が含まれる。所定値と比較される電流(モータ(32)に流れる電流)は、ハンチング防止のためにフィルタリングされた電流値であってもよい。電流をフィルタリングすることでハンチングを防止して、当該電流が所定値以上になるか否かを判定する制御部(68)の動作を安定化することができる。
【0128】
フィルタリングでは、想定内の電流変化は通過し、想定外の電流変化は除去するカットオフ周波数に設定されるローパスフィルタが用いられてもよい。フィルタをかけることで、電流の検出の時間遅れが発生してしまう可能性があり、遅れが大きすぎるとモータ(32)に流れる電流を小さくする保護動作の精度を悪化させてしまう可能性がある。よって、想定範囲内の電流変化が遅れないようにフィルタを設定することで所望の保護動作を実現することができる。
【0129】
(4)
図8に示すステップS13、ステップS15、
図10に示すステップS23,ステップS25、
図11に示すステップS27、およびステップS29において、制御部(68)は、各種閾値(対応閾値(UA)、固定閾値(UB)、第1対応閾値(UA1)、第2対応閾値(UA2)、第1固定閾値(UB1)、および第2固定閾値(UB2)の各々)と、第1センサ(61)により検出されるモータ(32)に流れる電流とを比較する。この場合、制御部(68)は、当該電流を示す情報からノイズ信号を除去する除去処理を行い、除去処理後の電流を示す情報と各種閾値とを比較してもよい。ノイズ信号の除去は、例えば、サンプリング間の検出信号の変化量を制限することで行われる。
【0130】
(5)
図8に示すステップS14、ステップS16、
図10に示すステップS26、および
図11に示すステップS30において、制御部(68)は、モータ(32)に流れる電流を小さくする。この場合、電流を小さくすることでモータ(32)の回転数を低下させる応答に比べ、モータ(32)の磁石の推定温度(TA)の算出結果の変化を遅くするようにフィルタが用いられてもよい。
【0131】
(6)第1実施形態および第2実施形態において、所定の運転条件は、モータ(32)の回転数が所定数以上になり、かつ、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になる条件である。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0132】
所定の運転条件は、モータ(32)の回転数が所定数以上になる条件であってもよい。この場合、磁石の推定温度(TA)を算出するために用いる推定モデルは、モータ(32)の全運転領域(VA)のうちモータ(32)の回転数が所定数以上になる運転領域(第1運転領域)に特化した推定モデルとなり、当該推定モデルを作成する際に用いられる説明変数および目的変数が、当該第1運転領域での運転時に取得されたもので構成される。
【0133】
所定の運転条件は、モータ(32)に流れる電流が所定値以上になる条件であってもよい。この場合、磁石の推定温度(TA)を算出するために用いる推定モデルは、モータ(32)の全運転領域(VA)のうちモータ(32)に流れる電流が所定値以上になる運転領域(第2運転領域)に特化した推定モデルとなり、当該推定モデルを作成する際に用いられる説明変数および目的変数が、当該第2運転領域での運転時に取得されたもので構成される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上説明したように、本開示は、モータ駆動装置、および圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0135】
32 モータ
64 第1センサ(センサ)
68 制御部
TA 推定温度
U 閾値情報
UA 対応閾値
【手続補正書】
【提出日】2024-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる磁石を有するモータ(32)を駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ(32)に流れる電流を検出するセンサ(64)と、
前記磁石の推定温度(TA)を算出する制御部(68)と
を備え、
前記制御部(68)は、
前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たし、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記磁石の複数の温度と複数の閾値とをそれぞれ対応付けた閾値情報(U)において前記磁石の推定温度(TA)に対応する閾値である対応閾値(UA)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、
前記モータ(32)の運転条件が前記所定の運転条件を満たさず、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記閾値情報(U)において前記磁石の既定温度(TB)に対応する閾値である固定閾値(UB)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、
前記所定の運転条件は、前記モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となる条件を含む、モータ駆動装置。
【請求項2】
磁界を発生させる磁石を有するモータ(32)を駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータ(32)に流れる電流を検出するセンサ(64)と、
前記磁石の推定温度(TA)を算出する制御部(68)と
を備え、
前記制御部(68)は、
前記モータ(32)の運転条件が所定の運転条件を満たし、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記磁石の複数の温度と複数の閾値とをそれぞれ対応付けた閾値情報(U)において前記磁石の推定温度(TA)に対応する閾値である対応閾値(UA)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、
前記モータ(32)の運転条件が前記所定の運転条件を満たさず、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が、前記閾値情報(U)において前記磁石の既定温度(TB)に対応する閾値である固定閾値(UB)を超えると、前記モータ(32)に流れる電流を小さくし、
前記所定の運転条件は、前記モータ(32)の回転数が所定の回転数以上となり、かつ、前記モータ(32)に流れる電流が所定値以上となる条件を含む、モータ駆動装置。
【請求項3】
前記磁石は、希土類磁石を含み、
前記既定温度(TB)は、前記モータ(32)の温度限度値における最大温度、または前記モータ(32)の使用温度範囲における最大温度以上の値である、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記磁石は、フェライト磁石を含み、
前記既定温度(TB)は、前記モータ(32)の温度限度値における最小温度、または前記モータ(32)の使用温度範囲における最小温度以下の値である、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記所定値は、前記モータの温度限度値における減磁電流がとり得る値の範囲内の最低値であり、
前記減磁電流は、前記磁石の磁力を減少させる前記モータの電流値である、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記所定値と比較される前記電流は、ハンチング防止のためにフィルタリングされた電流値である、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記フィルタリングでは、想定内の電流変化は通過し、想定外の電流変化は除去するカットオフ周波数に設定されるローパスフィルタが用いられる、請求項6に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記モータ(32)は、圧縮機(30)を駆動させ、
前記制御部(68)は、前記圧縮機(30)の吐出管(22)の温度、または、前記圧縮機(30)の外郭温度に基づいて、前記磁石の推定温度(TA)を算出する、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記制御部(68)は、前記モータ(32)への通電を停止することで、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記制御部(68)は、前記対応閾値(UA)または前記固定閾値(UB)と比較する前記モータ(32)の電流を示す情報からノイズ信号を除去する、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記ノイズ信号の除去は、サンプリング間の検出信号の変化量を制限することで行われる、請求項10に記載のモータ駆動装置。
【請求項12】
前記制御部(68)は、前記モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくすることで、前記モータ(32)に流れる電流を小さくする、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項13】
電流を小さくすることでモータ(32)の回転数を低下させる応答に比べ、前記磁石の推定温度(TA)の算出結果の変化を遅くするようにフィルタを用いる、請求項12に記載のモータ駆動装置。
【請求項14】
前記閾値情報(U)は、第1閾値情報(U1)と、前記第1閾値情報(U1)よりも低い閾値を設定する第2閾値情報(U2)とを含み、
前記閾値には、前記対応閾値(UA1, UA2)と前記固定閾値(UB1,UB2)とが含まれ、
前記制御部(68)は、
前記モータ(32)を流れる電流が、前記第1閾値情報(U1)に基づいて設定した前記閾値(UA1, UB1)を超えると、前記モータ(32)への通電を停止し、
前記モータ(32)を流れる電流が、前記第2閾値情報(U2)に基づいて設定した前記閾値(UA2, UB2)を超えると、前記モータ(32)に通電した状態を維持しつつ、通電する電流を小さくする、請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項15】
請求項1又は請求項2に記載のモータ駆動装置と、上記モータ(32)とを備える、圧縮機。